説明

放射性廃棄物検査方法及び放射性廃棄物検査装置

【課題】放射性廃棄物中に含まれる放射性核種の特定、その位置及び充填量(充填状態)を単一の検査装置を用い、単一のプロセスで行う。
【解決手段】被検体18が内包する放射線源18Aが発生する放射線18Bによって標準試料12の第1の透過画像を得、次に、X線源11から照射されるX線19によって、標準試料12の第2の透過画像を得る。第1の透過画像及び第2の透過画像の大きさに関する相対比と、X線源11、放射線源18A、標準試料12及び受像器13の相対的位置関係に基づく幾何学的関係とから、放射線源18Aの位置を特定する。放射線源18Aによる標準試料12の第1の吸収特性に対し、X線19の強度を変化させることによって、標準試料12の、第1の吸収特性と合致する第2の吸収特性を得、この際のX線19の強度に基づいて、放射線源18Aの種類を同定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性廃棄物、放射性同位元素を含む放射性廃棄物の検査に有用な検査方法及び検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、原子力プラントや核燃料サイクル施設等において取り扱われる放射性廃棄物、放射性廃棄物容器を検査する手法として、X線ラジオグラフィ或いはX線CT法などがある。X線ラジオグラフィは、X線が物質を透過する際にその構成物質の種類や形状によって吸収や散乱が異なる事を利用し、これを映像として記録する手法である。X線ラジオグラフィでは被測定物質の破損状態、変化、充填状況等を把握することができる。但し、この手法で得られた輝度情報はX線照射軸方向の積算となり、照射軸方向の位置情報は失われてしまう。
【0003】
これに対し、X線CT装置は、被測定物質を回転させ、角度の異なる複数枚のX線透過画像データを再構成することにより三次元の情報を得るものである。この方法は、被測定物質に対してあらゆる角度においてX線を透過させなければならず、線形加速器などの大掛かりなX線発生装置を必要とする。
【0004】
かかる点に鑑み、X線管の管電圧をパラメータとして予め既知の材質のX線透過輝度階調値またはその関数を求めておき、被測定物質から得られたX線透過輝度階調値またはその関数と比較して被測定物質を特定する方法が提案されている(特許文献1)。この手法を用いれば、被測定物質として廃棄物容器の内部を可視化することが可能になるが、放射性核種の特定を含めた分析までは実現できない。
【0005】
また、コリメータを通してガンマ線を検出する検出器をスライドさせ、単位時間あるいは単位位置毎に計測したガンマ線エネルギーと強度の空間分布を画像化することによって、放射線源を内包する被測定物質の線源核種の位置や識別を行う方法が提案されている(特許文献2)。しかしながら、この方法では、コリメータを用いていることに起因して、前記被測定部室中における前記放射線源の位置及び充填状態等を知ることはできない。
【0006】
さらに、放射性廃棄物が詰められたドラム缶の周囲にコリメータと放射線センサとを配置し、ドラム缶を動かすことで前記放射線センサの応答に従って放射線エネルギーと強度の空間分布を得る方法が提案されている(特許文献3)。しかしながら、この方法でも、上記同様に、放射性核種の特定、放射線源の位置及び充填状態等を知ることはできない。
【0007】
放射性物質を含む廃棄物処理においては、前記廃棄物中の放射性核種を特定するとともに、その位置及び充填量(充填状態)を迅速かつ的確に知ることが重要になる。しかしながら、上述のように、従来の方法では、こうした放射性核種の特定に関する情報とその位置、充填状態に関する情報を同時に知ることはできず、このため、複数の検査装置を用い、別々のプロセスにて検査する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3193665号
【特許文献2】特開2007−93471号
【特許文献3】特開平5−180942号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を鑑みなされたものであり、X線又はγ線を用いて、被測定物質である放射性廃棄物において、前記放射性廃棄物中に含まれる放射性核種の特定、その位置及び充填量(充填状態)を単一の検査装置を用い、単一のプロセスで行うことができる新規な放射性廃棄物の検査方法及び検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成すべく、本発明の一態様は、被検体と受像器との間に第1の標準試料を配置し、前記被検体が内包する放射線源が発生する放射線によって前記第1の標準試料の第1の透過画像を前記受像器によって得るステップと、前記被検体と相対向するようにして、かつ前記被検体に対して前記受像器の反対側にX線源又はγ線源を配置し、前記X線源又はγ線源から照射されるX線又はγ線によって、前記第1の標準試料の第2の透過画像を前記受像器によって得るステップと、前記第1の透過画像及び前記第2の透過画像の大きさに関する相対比から、前記被検体に内包する前記放射線源の前記第1の標準試料からの距離を同定するとともに、前記X線源又はγ線源、前記放射線源、前記第1の標準試料及び前記受像器の相対的位置関係に基づく幾何学的関係から、前記X線源又はγ線源の、前記受像器方向へ向かう軸から前記被検体に内包する前記放射線源のずれを同定し、前記X線源又はγ線源、前記放射線源、前記第1の標準試料及び前記受像器を含む測定系における前記放射線源の位置を特定するステップと、前記被検体が内包する前記放射線源による前記第1の標準試料の第1の吸収特性に対し、前記X線又はγ線の強度を変化させることによって、前記第1の標準試料の、前記第1の吸収特性と合致する第2の吸収特性を得、この際の前記X線又はγ線の強度に基づいて、前記放射線源の種類を同定するステップと、を具えることを特徴とする、放射性廃棄物検査方法に関する。
【0011】
また、本発明の他の態様は、X線又はγ線を生成及び照射させるためのX線源又はγ線源と、前記X線源又はγ線源の、前記X線又はγ線の照射方向前方に配置された標準試料と、被検体に内包された放射線源に起因した第1の透過画像及び前記X線又はγ線に起因した第2の透過画像を形成するための受像器と、前記第1の透過画像及び前記第2の透過画像の大きさに関する相対比から、前記被検体に内包する前記放射線源の前記標準試料からの距離を同定するとともに、前記X線源又はγ線源、前記放射線源、前記標準試料及び前記受像器の相対的位置関係に基づく幾何学的関係から、前記X線源又はγ線源の、前記受像器方向へ向かう軸から前記被検体に内包する前記放射線源のずれを同定し、前記X線源又はγ線源、前記放射線源、前記標準試料及び前記受像器を含む測定系における前記放射線源の位置を特定するとともに、前記被検体が内包する前記放射線源による前記標準試料の第1の吸収特性に対し、前記X線又はγ線の強度を変化させることによって、前記標準試料の、前記第1の吸収特性と合致する第2の吸収特性を得、この際の前記X線又はγ線の前記強度に基づいて、前記放射線源の種類を同定する演算処理装置と、を具えることを特徴とする、放射性廃棄物検査装置に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、X線又はγ線を用いて、被測定物質である放射性廃棄物において、前記放射性廃棄物中に含まれる放射性核種の特定、その位置及び充填量(充填状態)を単一の検査装置を用い、単一のプロセスで行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態における放射性廃棄物検査装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】図1に示す検査装置を用いた場合の放射性廃棄物の検査方法における一工程を示す図である。
【図3】図1に示す検査装置を用いた場合の放射性廃棄物の検査方法における一工程を示す図である。
【図4】図2及び図3に基づく検査方法に基づいて得た放射線源及びX線又はγ線による標準試料の透過画像を示す図である。
【図5】図2及び図3に基づく検査方法に基づいて得た放射線源及びX線又はγ線による標準試料の透過画像を示す図である。
【図6】図2及び図3に基づく検査方法に基づいて得た放射線源及びX線又はγ線による標準試料の透過画像を示す図である。
【図7】第1の実施形態の検査装置を用いた放射性廃棄物検査方法における放射線源の位置を特定するための計算手法を説明するための図である。
【図8】第1の実施形態の検査装置を用いた放射性廃棄物検査方法における放射線源の位置を特定するための計算手法を説明するための図である。
【図9】第1の実施形態の検査方法における放射線源の種類を特定するための説明図である。
【図10】第1の実施形態の検査方法における放射線源の種類を特定するための説明図である。
【図11】本発明の第2の実施形態における放射性廃棄物検査装置の主要部を示す概略構成図である。
【図12】第2の実施形態における検査装置を用いて得た透過画像の状態を示す図である。
【図13】本発明の第3の実施形態における放射性廃棄物検査方法を説明するための図である。
【図14】第3の実施形態における放射性廃棄物検査方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図を参照して説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態における放射性廃棄物検査装置の一例を示す概略構成図であり、図2及び図3は、図1に示す検査装置を用いた場合の放射性廃棄物の検査方法におけるそれぞれ一工程を示す図である。また、図4〜図6は、図2及び図3に基づく検査方法に基づいて得た放射線源及びX線又はγ線による標準試料の透過画像を示す図であり、図7及び図8は、本実施形態の検査方法における放射線源の位置を特定するための計算手法を説明するための図である。さらに、図9及び図10は、本実施形態の検査方法における前記放射線源の種類を特定するための説明図である。
【0016】
図1に示す放射性廃棄物検査装置10は、X線19を照射するX線源11と、X線源11の、X線19の照射方向前方に配置された標準試料12と、標準試料12に対して同じくX線19の照射方向前方に配置された受光センサ13と、受光センサ13の信号を画像に変換する信号処理装置14と、得られた画像から必要な情報を取り出し演算処理を行う画像演算処理装置15と、演算処理された画像を表示する表示装置16から構成されている。また、信号処理装置14、画像演算処理装置15及び表示装置16は、支持台17上に配置されている。
【0017】
また、X線源11と標準試料12との間には、特定すべき放射線廃棄物(放射線源)18Aを内包した被検体18が配置されている。
【0018】
なお、本実施形態においては、受光センサ13、信号処理装置14、画像演算処理装置15及び表示装置16が本発明の受像器を構成する。
【0019】
さらに、本実施形態では、以下に説明する放射性廃棄物検査方法において、放射線源18Aから発せられるγ線によって得られる第1の透過画像と、X線源11から照射されるX線19によって得られる第2の透過画像とが互いに重畳するように、X線源11、被検体18、標準試料12及び受光センサ13を、X線19の照射方向において、略一直線状となるように配列する。
【0020】
X線源11から放射されるX線19は被検体18と標準試料12を透過することで減衰し、その強度は受光センサ13にて測定される。受光センサ13は放射線に有感なシンチレータとカメラとを組み合わせたものか、あるいはX線イメージインテンシファイアのようなエリアセンサとする。受光センサ13は、被検体18を透過したX線を受光して、その出力信号を信号処理装置14に伝送する。出力信号は信号処理装置14により画像に変換され、画像演算処理装置15に送られる。画像演算処理装置15は得られた画像から特定の領域の輝度値を抽出し、演算処理を行い、得られた透過画像を表示装置16に表示する。
【0021】
なお、X線源11の代わりにγ線源を用い、X線19の代わりにγ線を用いることもできる。この場合においても、以下に説明する被検体18中の放射線源18Aの位置の特定及び種類を特定することができる。また、標準試料12は例えばステップゲージ等から構成することができる。
【0022】
次に、図2〜図8に基づいて、被検体18中の放射線源18Aの位置を特定する方法について説明する。
【0023】
最初に、図2に示すように、被検体18が内包する放射線源18Aが発生する放射線18B(例えば、γ線)によって、図4に示すような標準試料12の第1の透過画像を得る。この第1の透過画像は、上述したように、受光センサ13で透過X線を測定した後、信号処理装置14及び画像演算処理装置15を通じて表示装置16に表示される。
【0024】
次いで、図3に示すように、X線源11からX線19を照射して、図5に示すような第2の透過画像を得る。なお、この第2の透過画像についても、上述したように、受光センサ13で透過X線を測定した後、信号処理装置14及び画像演算処理装置15を通じて表示装置16に表示される。
【0025】
この際、上述したように、X線源11、被検体18、標準試料12及び受光センサ13を、X線19の照射方向において略一直線状となるように配列しているので、図5に示す第2の透過画像は、図6に示すようなX線19のみによる標準試料12の透過画像に加え、図4に示す放射線源18Aから照射されたγ線18Bによる標準試料12の透過画像が重畳されたような構成となる。
【0026】
なお、本実施形態では、図5に示す第2の透過画像において、図6から明らかなように、X線19による透過画像はYxで示され、図4から明らかなように、γ線18Bによる透過画像はY’で示されて、第2の透過画像においては、放射線源18Aからのγ線18Bによる透過画像の方が、X線19による透過画像よりも大きくなっている。
【0027】
図7及び図8は、図5に示す第2の透過画像における放射線源18Aのγ線18Bによる透過画像Y’及びX線源11からのX線19による透過画像Yxと、X線源11、放射線源18A及び標準試料12との位置関係を示すものである。
【0028】
図7は、上述した位置関係を図1に示す検査装置の側方から見た図であり、図8は、上述した位置関係を図1に示す検査装置の上方から見た図である。
【0029】
図7に示すように、放射線源18Aのγ線18Bによる透過画像Y’に関しては、その大きさY’を一辺とし、その上端及び下端を放射線源18Aと結ぶことにより、三角形T1が形成され、標準試料12の大きさ(高さ)を一辺とし、その上端及び下端を放射線源18Aと結ぶことにより、三角形T2が形成される。
【0030】
三角形T1及びT2は相似の関係にあるので、(X’+B):Y’=X’:Aの関係が成立し、この式を変形することによって、
【数1】

なる関係式を得ることができる。ここで、Aは、標準試料12の大きさ(高さ)であり、Bは、標準試料12及び透過画像Y’間の距離である。
【0031】
また、X線19による透過画像にYxについても、同様に2つの相似の関係にある三角形T3及びT4が形成されるので、(1)同様の関係式を得ることができ、Y’及びYxの比を採ることにより、
【数2】

なる関係式を得ることができる。
【0032】
(2)式において、図5に示す透過画像からY’とYxとの比を求め、(2)に既知の値であるXx(X線源11と標準試料12との距離)、A及びBを入力すれば放射性源18Aと標準試料12との距離X’を求めることができる。
【0033】
また、図8を参照すると、標準試料12を挟んで相対向するように、X線源11の軸線Lを含むような、2つの相似関係にある三角形T5及びT6が形成される。この場合、X’:d=B:Dの関係があるので、
【数3】

なる関係式を得ることができる。X’は既知であり、Dの値は図5に示す第2の透過画像から求めることができるので、これらの値を(3)式に代入することによって、放射線源18AのX線源11の軸線Lからのずれ量を求めることができる。
【0034】
以上より、放射線源18Aの、標準物質12からの距離X’及び軸線Lからのずれdを求めることができるので、X線源11及び被検体18の位置を予め固定しておけば、図1に示す検査装置(測定系)での放射線源18Aの位置を特定することができる。
【0035】
次に、図9及び図10を参照して、放射線源18Aの種類を特定する方法について説明する。
【0036】
X線の物質中の透過は、物質に入射する前の強度をI0とし、透過後の強度をIとすると、
【数4】

で表される。
【0037】
ここで、μ(cm2/g)はX線のエネルギーに依存した質量エネルギー吸収係数、ρ(g/cm3)は透過した物質の密度、t(cm)はX線が透過する厚さを示している。γ線の場合にはエネルギーが単色で表される事が多いために、質量エネルギー吸収係数μは全減衰係数として比較的計算により与えられることができる。但し、X線の場合には用いるX線管のエネルギー特性が単色ではなくかなりブロードなエネルギー分解能の悪い広がったスペクトル(低いエネルギーから高いエネルギーまで広がった)を持つために簡単に計算で与えられず、実効的なエネルギーとして実験などにより求められる。同じ厚さtの物質を測定する場合を想定すると、透過強度は、物質の密度と質量エネルギー吸収係数に依存する。
【0038】
質量エネルギー吸収係数μは照射するX線のエネルギーに依存して変化する。例えば、アルミニウム(Al)であればX線エネルギー100keVに対する質量エネルギー吸収係数はμAl=0.171 (cm2/g)であり、X線エネルギー200keVに対する質量エネルギー吸収係数はμAl=0.122 (cm2/g)と小さくなるため、(4)式より、X線のエネルギーが高い方が透過しやすくなる。このX線エネルギーと質量エネルギー吸収係数との関係は材質によって異なる。
【0039】
上述のような事実に鑑み、標準試料12に照射するX線19のエネルギーを変化させて照射した場合の、標準試料12の厚さとX線19の透過率との関係を示したのが図9及び図10である。図9は、標準試料12を単一の標準試料Feとした場合の上記関係を示すグラフであり、図10は、標準試料12として上記標準試料Feに加えて、追加の標準試料Alを用いた場合の上記関係を示すグラフである。
【0040】
図9においては、標準試料(Fe)12に対して、300keV、600keV、1.25MeVのエネルギーのX線を照射した場合の透過率において、厚みゼロにおける透過率で規格化して得た減衰カーブを示している。一方、図9に示すプロットは、放射線源18Aから発せられる放射線18Bの、標準試料(Fe)12の透過率に対する実測値である。
【0041】
図9から明らかなように、放射線源18Aによる透過率の実測プロットは、1.25MeVのエネルギーを照射した場合の減衰カーブに極めて近い事から、放射性物質11は1.25MeV相当のγ線を放出する放射性元素と予想される。このエネルギー領域の放射線を放出する元素としてはCo60などがあり、廃棄物情報(主な材質種類やどこから発生した廃棄物なのか等)と照らし合わせて評価する。
【0042】
図10は、標準試料(Fe)12に対して、300keV、600keVのエネルギーのX線を照射した場合の透過率において、厚みゼロにおける透過率で規格化して得た減衰カーブに加えて、追加の標準試料(Al)に対して同じく300keV、600keVのエネルギーのX線を照射した場合の透過率において、厚みゼロにおける透過率で規格化して得た減衰カーブを付加したグラフである。
【0043】
図10から明らかなように、この場合は、標準試料12及び追加の標準試料に対して、放射線源18Aによる透過率の実測プロットは、それぞれ600keV のエネルギーを照射した場合の減衰カーブに極めて近い事から、放射性源18Aは600keV 相当のγ線を放出する放射性元素と予想される。このエネルギー領域の放射線を放出する元素としては例えばCs137(662keV)などがあり、廃棄物情報(主な材質種類やどこから発生した廃棄物なのか等)と照らし合わせて評価する。
【0044】
なお、図10に示すように、複数の標準試料を用いることによって、放射線源18Aの収納状態などによって得られる透過画像が不鮮明になり、厚みと透過率との関係が精度よく読み取れない場合に、その評価精度を向上させることができる。
【0045】
以上のように、放射線源18Aが発する放射線(γ線)による透過率の実測値と、標準試料による減衰カーブとを比較し、実測値と合致するような減衰カーブを得ることによって、特別なセンサを用いることなく、放射線源18Aの種類を同定することができる。換言すれば、放射線源18Aによる標準試料12の第1の吸収特性に対し、X線19の強度を変化させることによって、標準試料12の、第1の吸収特性と合致する第2の吸収特性を得、この際のX線19の強度に基づいて、放射線源18Aの種類を同定することができる。
【0046】
(第2の実施形態)
図11は、本発明の第2の実施形態における放射性廃棄物検査装置の主要部を示す概略構成図である。なお、上述の第1の実施形態と同一の構成には同一符号を付し、説明を省略する。
【0047】
図11に示す放射性廃棄物検査装置20は、被検体18が図示しない回転体の上に載せられ、回転体の軸方向に自由に回転できるように構成されている点で上述した第1の実施形態における放射性廃棄物検査装置10と異なり、その他の構成要素については同一である。
【0048】
本実施形態では、図11に示すように、被検体12が2つの放射線源18A及び18Cを含むような場合において、上記回転台を回転させることによって、それぞれの放射線源18A及び18Cから発せられるγ線が標準試料12に向けて照射され、受光センサ13等によって、例えば図12に示すような、透過画像Y’及びY”を得ることができる。したがって、各透過画像Y’及びY”に対して、第1の実施形態と同一の操作を施すことにより、放射線源18A及び18Cの位置及び種類の特定を行うことができる。
【0049】
但し、被検体12に内包される放射線源18Aが単一である場合においても、このような単一の放射線源18Aに対して複数の透過画像を得ることができるようになるので、各透過画像に対して上述のような操作を施すことにより、位置の特定及び種類の特定の操作が複数回実施されることになる。したがって、それらの特定精度を向上させることができる。
【0050】
なお、本実施形態では、上記回転台を設けることによって、複数の透過画像、例えばY’及びY”を得るようにしているが、このような回転台を設けることなく、X線源11を移動させることによっても、同様に複数の透過画像を得ることができる。但し、X線源11を移動させることは一般に困難であるので、本実施形態に示すように、上記回転台を設けることにより、上述した複数の透過画像、例えばY’及びY”を簡易に得ることができる。
【0051】
(第3の実施形態)
図13〜14は、本発明の第3の実施形態における放射性廃棄物検査方法を説明するための図である。なお、本実施形態における検査装置の基本的な構成は、以下に示すような第2の標準試料を追加で用いる点で相違し、その他の点については同一である。
【0052】
最初に、図13に基づいて、本実施形態の基本的な考え方を説明する。図13(a)及び(b)はX線管電圧100kV及び150kVで撮影した場合のX線吸収特性を、例えばAlとFeを例にとって測定した結果を示している。X線の管電圧が異なるという事は、照射するX線のエネルギーが実効的に異なるということである。従って先に述べた通り、管電圧が異なれば質量エネルギー吸収係数も変化するため、材質の厚みに対するX線吸収特性が異なってくる。
【0053】
ここで図13(a)における100kVのデータが150kVのデータと同じになるように輝度を調整する関数を実験的に求める。求められた関数を100kVのデータに作用させると当然Alは図13(c)のように同じ傾きになる。一方、図13(d)は、Feに対して上記の関数を作用させたものである。Feはエネルギーに対する質量エネルギー吸収係数の変化量がAlと異なるため、図13(d)のように、同じ関数をFeの100kVのデータに作用させても150kVのデータと同じにならない。したがって、両者の差分を取った時、図13(e)に示すように、Alの場合はいずれの吸収長でもゼロとなるが、Feではゼロにならない。この処理を画像に適用すれば、Al部分だけを消去した画像が得られる。
【0054】
なお、図13(e)にFeの他にSUS,Cuの評価結果を示してある。図13(e)に示すとおり、FeとSUSとはほぼ同じ成分であることから同じ傾向を示し、CuはFeとも異なる傾向を示す。
【0055】
以上の原理を画像処理に適用し、材質識別に応用する手順を、図14を用いて説明する。本実施形態では、例えば図14(a)に示すように、被検体18に材質の異なる内容物18A及び18Cが内包されており、併せて材質が既知の第2の標準試料22を被検体18に近接して配置する。なお、第2の標準試料22は、例えば厚さが上方22a側から下方22e側に向けて徐々に大きくなるようなステップゲージとする。
【0056】
なお、本実施形態においては、被検体18中に内包される内容物の一方が放射線源でない場合をも考慮し、上述のように内容物として一般化した表現を用いているが、本発明の趣旨から上記内容物の少なくとも1つは放射線源であることが必要である。
【0057】
一方、図14(a)に示す対象物を、エネルギーを変えて撮影した画像を図14(b)に示す。内容物18A及び18Cは吸収係数の変化量が異なるので輝度に違いが生じる。但し、これだけでは内容物18A及び18Cの材質が互いに異なることは推定できるが、何であるかは判定できない。
【0058】
そこで、同じ画面上で撮影した既知の材質でできた標準試料22の画像部分を用いて、図13に関連して説明した手順により標準試料22と同じ材質を消去する事を考える。
【0059】
最初に、図14(a)における標準試料20と、図14(b)における標準試料20との輝度が一致するような関数を、図14(b)に示す画像に作用させ、図14(c)に示すような画像を作成する。次いで、図14(a)の画像と図14(c)の画像との差分をとることにより、図14(d)に示すように、内容物18Aの画像及び標準試料22の画像が除去され、内容物18Cのみが残存するような画像を得る。
【0060】
したがって、上記第1の実施形態において、被検体18内に内包された放射線源18Aが例えばCo60及びCs137と推定されている場合に、標準試料22としてこれら物質から構成されるものを用いれば、上述した図14(d)の画像が示すように、内容物18A及び標準試料22の画像が消去されていることから、内容物18Aは標準試料22と同じ材料から構成されていることが分かる。
【0061】
換言すれば、上記第1の実施形態で、被検体18中に内包されている放射線源18Aとして推定されている物質からなる標準試料22を用い、上述した画像の輝度補正及び差分の技術を用いて、標準試料22の画像と同様に放射線源18Aの画像とが消去されることが確認されれば、放射線源18Aが標準試料22と同じ物質からなることが確認され、上記第1の実施形態での推定が正しかったことが確認できる。
【0062】
すなわち、本実施形態の方法を用いることにより、被検体18中に内包されている放射線源18Aの種類の同定をより高精度に行うことができる。
【0063】
また、本実施形態によれば、図14に示すように被検体18の画像を得ているので、かかる画像から上述した放射線源18Aの位置及び種類の特定のみならず、放射線源18Aの充填状態をも特定することができる。
【0064】
(第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態は、上記第3の実施形態の変形例に相当するものである。本実施形態では、図14に示すような画像を、カラー発光するシンチレータ及びカラーカメラの機能を具えた、例えばカラーイメージインテンシファイアで撮影し、赤、緑、青の三成分で、内容物18A等を色付けする。例えば、内容物(放射線源)18Aを緑成分とし、内容物18Cを赤色成分とすると、図14に示す画像は緑色及び赤色で表示されることになる。
【0065】
また、上述のように、画像に対して輝度補正を行い、さらに差分を採ることによって、例えば、図14(d)に示す画像から放射線源18Aを除去するようにすれば、前記画像から緑成分が消失し、赤色成分のみが残るようになる。したがって、本実施形態のような色付けを行うことによって、例えば放射線源18Aの除去を明確に認識することが可能になる。結果として、被検体18中に内包されている放射線源18Aの種類の同定を簡易かつより高精度に行うことができる。
【0066】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能である。例えば、第1ないし第3の実施形態の内、複数の形態を組み合わせて適用することもできる。
【符号の説明】
【0067】
10、20…放射性廃棄物検査装置、11…X線源、12…標準試料、13…受光センサ、14…信号処理装置、15…画像演算処理装置、16…表示装置、17…支持台、18…被検体、18A、18C…放射線源(内容物)、18B…放射線、19…X線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体と受像器との間に第1の標準試料を配置し、前記被検体が内包する放射線源が発生する放射線によって前記第1の標準試料の第1の透過画像を前記受像器によって得るステップと、
前記被検体と相対向するようにして、かつ前記被検体に対して前記受像器の反対側にX線源又はγ線源を配置し、前記X線源又はγ線源から照射されるX線又はγ線によって、前記第1の標準試料の第2の透過画像を前記受像器によって得るステップと、
前記第1の透過画像及び前記第2の透過画像の大きさに関する相対比から、前記被検体に内包する前記放射線源の前記第1の標準試料からの距離を同定するとともに、前記X線源又はγ線源、前記放射線源、前記第1の標準試料及び前記受像器の相対的位置関係に基づく幾何学的関係から、前記X線源又はγ線源の、前記受像器方向へ向かう軸から前記被検体に内包する前記放射線源のずれを同定し、前記X線源又はγ線源、前記放射線源、前記第1の標準試料及び前記受像器を含む測定系における前記放射線源の位置を特定するステップと、
前記被検体が内包する前記放射線源による前記第1の標準試料の第1の吸収特性に対し、前記X線又はγ線の強度を変化させることによって、前記第1の標準試料の、前記第1の吸収特性と合致する第2の吸収特性を得、この際の前記X線又はγ線の強度に基づいて、前記放射線源の種類を同定するステップと、
を具えることを特徴とする、放射性廃棄物検査方法。
【請求項2】
前記第1の標準試料は、少なくとも2種類以上の異なる材質を含むことを特徴とする、請求項1に記載の放射性廃棄物検査方法。
【請求項3】
少なくとも2以上の前記第1の透過画像を得ることを特徴とする、請求項1又は2に記載の放射性廃棄物検査方法。
【請求項4】
前記被検体を回転させるための回転機構によって前記被検体を回転させ、前記少なくとも2以上の前記第1の透過画像を得ることを特徴とする、請求項3に記載の放射性廃棄物検査方法。
【請求項5】
前記X線又はγ線の強度を変化させることによって、第2の標準試料及び前記被検体が内包する前記放射線源の透過強度の異なる第3の透過画像及び第4の透過画像を得、前記第3の透過画像及び前記第4の透過画像における前記第2の標準試料の輝度が一致するような関数を求めるとともに、この関数を前記第3の透過画像又は前記第4の透過画像に対して演算して第5の透過画像を得るステップと、
前記第5の透過画像と、前記第3の透過画像又は前記第4の透過画像との差分を採って第6の透過画像を得るステップとを具え、
前記放射線源が前記第2の標準試料と同一の特性を有する物質であるか否かを判別することを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の放射性廃棄物検査方法。
【請求項6】
前記放射線源を、カラー発光するシンチレータとカラーカメラとを用い、色付けして表示することを特徴とする、請求項5に記載の放射性廃棄物検査方法。
【請求項7】
X線又はγ線を生成及び照射させるためのX線源又はγ線源と、
前記X線源又はγ線源の、前記X線又はγ線の照射方向前方に配置された標準試料と、
被検体に内包された放射線源に起因した第1の透過画像及び前記X線又はγ線に起因した第2の透過画像を形成するための受像器と、
前記第1の透過画像及び前記第2の透過画像の大きさに関する相対比から、前記被検体に内包する前記放射線源の前記標準試料からの距離を同定するとともに、前記X線源又はγ線源、前記放射線源、前記標準試料及び前記受像器の相対的位置関係に基づく幾何学的関係から、前記X線源又はγ線源の、前記受像器方向へ向かう軸から前記被検体に内包する前記放射線源のずれを同定し、前記X線源又はγ線源、前記放射線源、前記標準試料及び前記受像器を含む測定系における前記放射線源の位置を特定するとともに、前記被検体が内包する前記放射線源による前記標準試料の第1の吸収特性に対し、前記X線又はγ線の強度を変化させることによって、前記標準試料の、前記第1の吸収特性と合致する第2の吸収特性を得、この際の前記X線又はγ線の前記強度に基づいて、前記放射線源の種類を同定する演算処理装置と、
を具えることを特徴とする、放射性廃棄物検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−203863(P2010−203863A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48449(P2009−48449)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】