説明

放射線検出器の製造方法および放射線検出器

【課題】ギャップを減らすことができる放射線検出器の製造方法および放射線検出器を提供することを目的とする。
【解決手段】複数の蒸着源(例えば4つのソース)を用いて蒸着を行う際に、蒸着面の形状を決定するマスクの開口部を移動、もしくは拡大あるいは縮小させて蒸着を行うことにより、各蒸着源で蒸着形成される層(膜)の重ね合わせで生じる端部が傾斜部となり、端部の角度が鈍るのでギャップを減らすことができる。バイアス電圧を印加する共通電極3を蒸着するのに適用する場合には、各蒸着源で蒸着形成される共通電極3の重ね合わせで生じる端部が傾斜部3Aとなり、端部の角度が鈍るのでバイアス電圧に対する耐久性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、医療分野,工業分野,さらには、原子力分野などに用いられる放射線検出器の製造方法および放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の放射線(例えばX線)検出器には、放射線(例えばX線)の入射により光を一旦生成して、その光から電荷を生成することで、放射線から電荷に間接的に変換して放射線を検出する「間接変換型」の検出器と、放射線の入射により電荷を生成することで、放射線から電荷に直接的に変換して放射線を検出する「直接変換型」の検出器とがある。なお、放射線感応型の半導体が電荷を生成する。
【0003】
直接変換型の放射線検出器は、バイアス電圧を印加する共通電極を備えており、バイアス電圧を印加した状態で、放射線の入射に伴って放射線感応型の半導体が電荷を生成することで放射線を検出する。共通電極や半導体を形成するには蒸着法が用いられ、特に真空蒸着法が用いられる(例えば、特許文献1参照)。真空蒸着法は、広い面積の膜を形成するのに大変有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−101193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような蒸着を行おうとすると、図8に示すように、ソース(蒸着源)Sの直下では膜厚hは厚いが、ソースSから離れる程、膜厚hが薄くなるという問題がある。そこで、膜厚を平均化する意図で複数のソース(蒸着源)を用いる。しかし、複数のソースを用いると、図9に示すように、蒸着面の形状を決定するマスクMによって、各ソースSによって生成される膜が重なり合う部分にはギャップGが生じる。特に、共通電極を複数のソースを用いて蒸着形成する場合には、共通電極に数kV以上の高電圧のバイアス電圧を印加すると、当該ギャップから放電が生じやすく、耐久性の低下を招く。
【0006】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、ギャップを減らすことができる放射線検出器の製造方法および放射線検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、この発明に係る放射線検出器の製造方法は、放射線を検出する放射線検出器を製造する方法であって、複数の蒸着源を用いて蒸着を行い、蒸着面の形状を決定するマスクの開口部を移動、もしくは拡大あるいは縮小させて蒸着を行うことを特徴とするものである。
【0008】
[作用・効果]この発明に係る放射線検出器の製造方法によれば、複数の蒸着源を用いて蒸着を行う際に、蒸着面の形状を決定するマスクの開口部を移動、もしくは拡大あるいは縮小させて蒸着を行うことにより、各蒸着源で蒸着形成される層(膜)の重ね合わせで生じる端部が傾斜部となり、端部の角度が鈍るのでギャップを減らすことができる。
【0009】
上述した発明に係る放射線検出器の製造方法の一例は、バイアス電圧を印加する共通電極を蒸着することである。すなわち、共通電極に適用することで、各蒸着源で蒸着形成される共通電極の重ね合わせで生じる端部が傾斜部となり、端部の角度が鈍るのでバイアス電圧に対する耐久性が向上する。
【0010】
さらに、製造方法で用いられる放射線検出器の一例は、放射線を電荷に変換する放射線感応型の変換層を備えることで、放射線を電荷に直接的に変換して検出する直接変換型の検出器である。直接変換型の検出器の場合には、通常では、バイアス電圧を印加する共通電極を備えた構造であるので、共通電極に適用することでバイアス電圧に対する耐久性が向上する。
【0011】
また、この発明に係る放射線検出器は、これらの放射線検出器の製造方法で製造される放射線検出器において、端部に傾斜部を有した層を備えることを特徴とするものである。
【0012】
[作用・効果]この発明に係る放射線検出器によれば、上述の製造方法で製造された放射線検出器では、各蒸着源で蒸着形成される層(膜)の重ね合わせで生じる端部が傾斜部となり、端部に傾斜部を有した層を備えることになる。
【0013】
上述した発明に係る放射線検出器の製造方法と同様に、上述した発明に係る放射線検出器においても、バイアス電圧を印加する共通電極を備え、その共通電極は、端部に傾斜部を有する。すなわち、共通電極に適用することで、各蒸着源で蒸着形成される共通電極の重ね合わせで生じる端部が傾斜部となり、共通電極は端部に傾斜部を有することになる。
【0014】
また、上述した発明に係る放射線検出器の製造方法と同様に、上述した発明に係る放射線検出器の一例は、放射線を電荷に変換する放射線感応型の変換層を備えることで、放射線を電荷に直接的に変換して検出する直接変換型の検出器である。上述したように直接変換型の検出器の場合には、通常では、バイアス電圧を印加する共通電極を備えた構造であるので、共通電極に適用することでバイアス電圧に対する耐久性が向上する。
【発明の効果】
【0015】
この発明に係る放射線検出器の製造方法および放射線検出器によれば、複数の蒸着源を用いて蒸着を行う際に、蒸着面の形状を決定するマスクの開口部を移動、もしくは拡大あるいは縮小させて蒸着を行うことにより、各蒸着源で蒸着形成される層(膜)の重ね合わせで生じる端部が傾斜部となり、端部の角度が鈍るのでギャップを減らすことができる。その製造方法で製造された放射線検出器では、各蒸着源で蒸着形成される層(膜)の重ね合わせで生じる端部が傾斜部となり、端部に傾斜部を有した層を備えることになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)は、実施例に係る直接変換型のフラットパネル型X線検出器(FPD)の概略断面図、(b)は端部の拡大図、(c)は端部のさらなる拡大図である。
【図2】フラットパネル型X線検出器(FPD)のアクティブマトリックス基板の等価回路を示すブロック図である。
【図3】フラットパネル型X線検出器(FPD)のアクティブマトリックス基板の概略断面図である。
【図4】(a)〜(c)は、キャリア選択性の高抵抗半導体層である中間層の組み合わせをそれぞれ示した概略断面図である。
【図5】従来のマスクを移動・拡大・縮小させずに固定したときの蒸着のシミュレーション結果である。
【図6】蒸着過程中に一定速度でマスクの開口部を拡大させたときの蒸着のシミュレーション結果である。
【図7】(a)は、マスクおよびソース(蒸着源)の配置関係を示した平面図、(b)は、マスク、蒸着面およびソース(蒸着源)の位置関係を示した側面図である。
【図8】ソース(蒸着源)を1つのみ配置したときの膜の積層の概略図である。
【図9】ソース(蒸着源)を複数配置したときのギャップ形成の概略図である。
【実施例】
【0017】
以下、図面を参照してこの発明の実施例を説明する。
図1は、実施例に係る直接変換型のフラットパネル型X線検出器(以下、適宜「FPD」と略記する)の概略断面図であり、図2は、フラットパネル型X線検出器(FPD)のアクティブマトリックス基板の等価回路を示すブロック図であり、図3は、フラットパネル型X線検出器(FPD)のアクティブマトリックス基板の概略断面図である。本実施例では、放射線検出器として直接変換型のフラットパネル型X線検出器(FPD)を例に採って説明する。
【0018】
本実施例に係るFPDは、図1に示すように、アクティブマトリックス基板1と、放射線(本実施例ではX線)の入射により電荷を生成する放射線感応型の半導体2と、バイアス電圧印加用の共通電極3とを備えている。アクティブマトリックス基板1は、図2、図3に示すように、放射線の入射面側に複数の収集電極11を形成し、各収集電極11で収集される電荷の蓄積・読み出し用電気回路12を配設して構成されている。各収集電極11については放射線検出有効エリアSA内で2次元状マトリックス配列で設定している。放射線感応型の半導体2は、この発明における放射線感応型の変換層に相当し、バイアス電圧印加用の共通電極3は、この発明における共通電極に相当する。また、本願明細書では、放射線検出有効エリアSA外を端部とする。
【0019】
図1に示すように、このアクティブマトリックス基板1の収集電極の入射面側に半導体2を積層し、その半導体2の入射側に共通電極3を面状に形成して積層している。そして、共通電極3の入射面にバイアス電圧給電用のリード線4を接続している。銅線等のリード線4を導電ペースト(例えば銀ペースト)を介して共通電極3に接続する。
【0020】
図2、図3に示すようにアクティブマトリクス基板1は、上述したように収集電極11を形成し、蓄積・読み出し用電気回路12を配設している。蓄積・読み出し用電気回路12は、コンデンサ12Aやスイッチング素子としてのTFT(薄膜電界効果トランジスタ)12Bおよびゲート線12a,データ線12bなどからなり、各収集電極11毎に1個のコンデンサ12Aおよび1個のTFT12Bが対応付けて接続されている。
【0021】
また、アクティブマトリックス基板1の蓄積・読み出し用電気回路12の周囲にはゲートドライバ13と電荷電圧変換型増幅器14とマルチプレクサ15とA/D変換器16とを配設して接続している。これらのゲートドライバ13、電荷電圧変換型増幅器14、マルチプレクサ15およびA/D変換器16は、アクティブマトリックス基板1とは別基板で接続されている。なお、ゲートドライバ13、電荷電圧変換型増幅器14、マルチプレクサ15およびA/D変換器16の一部または全部を、アクティブマトリックス基板1に内蔵してもよい。
【0022】
FPDによってX線を検出する際には、バイアス供給電源(図示省略)からバイアス電圧を、バイアス電圧給電用のリード線4を介してバイアス電圧印加用の共通電極3に印加する。バイアス電圧を印加した状態で、放射線(本実施例ではX線)の入射に伴って放射線感応型の半導体2で電荷を生成する。この生成された電荷を収集電極11で一旦収集する。蓄積・読み出し用電気回路12によって、収集された電荷を各収集電極11毎の放射線検出信号(本実施例ではX線検出信号)として取り出す。
【0023】
具体的には、収集電極11で収集された電荷がコンデンサ12Aに一旦蓄積される。そして、ゲートドライバ13からゲート線12aを介して読み出し信号を各TFT12Bのゲートに順に与える。読み出し信号を与えることで、読み出し信号が与えられたTFT12BがOFFからONに移行する。その移行したTFT12Bのソースに接続されたデータ線12bがマルチプレクサ15によって順に切り換え接続されるのにしたがって、コンデンサ12Aに蓄積された電荷を、TFT12Bからデータ線12bを介して読み出す。読み出された電荷を電荷電圧変換型増幅器14で増幅して、マルチプレクサ15によって各収集電極11毎の放射線検出信号(本実施例ではX線検出信号)としてA/D変換器16に送り出してアナログ値からディジタル値に変換する。
【0024】
例えば、FPDをX線透視撮影装置に備えた場合には、X線検出信号を後段の画像処理回路に送り込んで、画像処理を行って2次元X線透視画像等を出力する。2次元状マトリックス配列の各収集電極11は、放射線画像(ここでは2次元X線透視画像)の各画素に対応する電極(画素電極)にそれぞれ対応している。放射線検出信号(本実施例ではX線検出信号)を取り出すことで、放射線検出有効エリアSAに投影される放射線の2次元強度分布に応じた放射線画像(ここでは2次元X線透視画像)を作成することができる。つまり、本実施例に係るFPDは、放射線検出有効エリアSAに投影される放射線(本実施例ではX線)の2次元強度分布を検出することができる2次元アレイタイプの放射線検出器である。
【0025】
次に、FPDの各部構成についてより具体的に説明する。共通電極3は、放射線検出有効エリアSA外の端部に傾斜部3Aを有している。傾斜部3Aについては、図1(b)の端部の拡大図に示すように、傾斜部3Aの角度をθとする。傾斜部3Aの角度θは0.001°〜0.0001°までの範囲が好ましい。また、傾斜部3Aは、図1(c)の端部のさらなる拡大図に示すような階段状に形成された構造も含まれる。階段状に形成された構造の場合には、最上段から最下段に直線(図1(c)の点線を参照)を引いたときの角度を、角度θとする。
【0026】
アクティブマトリックス基板1には、例えばガラス基板が用いられる。アクティブマトリックス基板1のガラス基板は、例えば0.5mm〜1.5mm程度である。半導体2の厚さは、通常、0.5mm〜1.5mm前後の厚膜であり、面積は、例えば縦20cm〜50cm×横20cm〜50cm程度のものである。
【0027】
放射線感応型の半導体2は、高純度アモルファスセレン(a−Se),Na等のアルカリ金属やCl等のハロゲンもしくはAsやTeをドープしたセレンおよびセレン化合物のアモルファス半導体,CdTe,CdZnTe,PbI2 ,HgI2 ,TlBr等の非セレン系多結晶半導体のうちのいずれかであるのが好ましい。アモルファスセレン,アルカリ金属やハロゲンもしくはAsやTeをドープしたセレンおよびセレン化合物のアモルファス半導体,非セレン系多結晶半導体は、大面積化適性および厚膜化適性に優れる。特に、10Ω以上、好ましくは1011Ω以上の比抵抗を有するa−Seを半導体2に用いると大面積化適性および厚膜化適性が顕著に優れている。
【0028】
また、半導体2としては、上述した感応型の半導体2の他に、その入射面(図1では上面)または入射側と逆側の面(図1では下面)もしくは両面に形成されたキャリア選択性の高抵抗半導体層である中間層との組み合わせも含む。図4(a)に示すように、半導体2と第1共通電極3aとの間に中間層2aを形成するとともに、半導体2と収集電極11(図3を参照)との間に中間層2bを形成してもよいし、図4(b)に示すように、半導体2と共通電極3との間のみに中間層2aを形成してもよいし、図4(c)に示すように、半導体2と収集電極11(図3を参照)との間のみに中間層2bを形成してもよい。
【0029】
このように、キャリア選択性の中間層2a,2bを設けることにより暗電流を低減させることができる。ここで言うキャリア選択性とは半導体中の電荷移動媒体(キャリア)である電子と正孔とで、電荷移動作用への寄与率が著しく異なる性質を指す。
【0030】
半導体2とキャリア選択性の中間層2a,2bとの組み合わせ方としては、次のような態様が挙げられる。共通電極3に正のバイアス電圧を印加する場合には、中間層2aに電子の寄与率が大きい材料を使用する。これにより共通電極3からの正孔の注入が阻止され、暗電流を低減させることができる。中間層2bには正孔の寄与率が大きい材料を使用する。これにより収集電極11からの電子の注入が阻止され、暗電流を低減させることができる。
【0031】
逆に、共通電極3に負のバイアス電圧を印加する場合には、中間層2aに正孔の寄与率が大きい材料を使用する。これにより共通電極3からの電子の注入が阻止され、暗電流を低減させることができる。中間層2bには電子の寄与率が大きい材料を使用する。これにより収集電極11からの正孔の注入が阻止され、暗電流を低減させることができる。
【0032】
キャリア選択性の中間層2a,2bの厚さは、通常、0.1μm〜10μmの範囲が好ましい。中間層2a,2bの厚さが0.1μm未満では暗電流を十分に抑制できない傾向が現れ、逆に、厚さが10μmを越えると放射線検出の妨げとなる傾向(例えば感度が低下する傾向)が現れる。
【0033】
また、キャリア選択性の中間層2a,2bに用いられる半導体としては、Sb23 ,ZnTe,CeO2 ,CdS,ZnSe,ZnS等の多結晶半導体、Na等のアルカリ金属やCl等のハロゲンもしくはAsやTeをドープしたセレンおよびセレン化合物のアモルファス半導体が大面積化適性に優れるものとして挙げられる。これらの半導体は厚みが薄くて傷が付き易いのであるが、リード線4を共通電極3に接続する際に加わる衝撃を台座5が和らげて傷が付くのを防止することができるので、キャリア選択性の中間層2a,2bは大面積化適性に優れる。
【0034】
中間層2a,2bに用いられる半導体のうち、電子の寄与が大きいものとして、n型半導体であるCeO2 ,CdS,CdSe,ZnSe,ZnSのような多結晶半導体や、アルカリ金属やAsやTeをドープして正孔の寄与率を低下させたアモルファスSe等のアモルファス体が挙げられる。
【0035】
また、正孔の寄与が大きいものとして、p型半導体であるZnTeのような多結晶半導体や、ハロゲンをドープして電子の寄与率を低下させたアモルファスSe等のアモルファス体が挙げられる。
【0036】
さらに、Sb2 3 ,CdTe,CdZnTe,PbI2 ,HgI2 ,TlBrや、ノンドープのアモルファスSeまたはSe化合物の場合、電子の寄与が大きいものと正孔の寄与が大きいもとの両方がある。これらの場合、製膜条件の調節で電子の寄与が大きいものでも、正孔の寄与が大きいものでも、選択形成することができる。
【0037】
共通電極3については、例えば金(Au)やアルミニウム(Al)などで形成するのが好ましい。本実施例では、共通電極3を金で形成するために、金で蒸着を行う。
【0038】
次に、蒸着のシミュレーションについて、図5および図6を参照して説明する。図5は、従来のマスクを移動・拡大・縮小させずに固定したときの蒸着のシミュレーション結果であり、図6は、蒸着過程中に一定速度でマスクの開口部を拡大させたときの蒸着のシミュレーション結果である。
【0039】
図5では、ソース(蒸着源)によって生成される膜が重なり合う部分ではギャップが生じているのに対して、図6では、マスクの開口部を一定速度で拡大させることにより階段状となって角度が鈍ることが確認されている。
【0040】
続いて、蒸着に用いられるマスク等の幾何学的な位置関係について、図7を参照して説明する。図7(a)は、マスクおよびソース(蒸着源)の配置関係を示した平面図であり、図7(b)は、マスク、蒸着面およびソース(蒸着源)の位置関係を示した側面図である。
【0041】
図7(a)に示すように、マスクMの開口部Maの長さをL(図7では正方形)とし、マスクMの開口部Maの中心線AxとソースSとの距離をLとし、隣り合うソースS間の距離をLとする。また、図7(b)に示すように、ソースSから蒸着面Pまでの距離をDとし、マスクMの厚みをDとし、マスクMと蒸着面Pとの距離をDとする。また、ソースSとして金(Au)を用いたAuボートを採用し、図7(a)に示すようにAuボートの長辺をLとし、Auボートの短辺をLとする。なお、図7(a)ではソースSとして4つのAuボートを図示しているが、ソースSの個数については複数であれば特に限定されない。
【0042】
17インチのFPDを製造する場合には、例えばL=500mm,L=300mm,L=600mm,L=30mm,L=5mmである。また、D=500mm,D=2mm,D=3mmである。なお、L,L,L,L,LおよびD,D,Dは、上述のサイズに限定されない。また、開口部Maの形状は正方形に限定されず、長方形や真円や楕円などであってもよい。
【0043】
図7に示した幾何学的な位置関係を保った状態で、蒸着面の形状を決定するマスクMの開口部Maを移動、もしくは拡大あるいは縮小させて蒸着を行うことで、図1あるいは図4に示すような傾斜部3Aを形成する。
【0044】
上述の構成を有した本実施例に係るフラットパネル型X線検出器(FPD)の製造方法によれば、複数の蒸着源(図7で4つのソースS)を用いて蒸着を行う際に、蒸着面の形状を決定するマスクMの開口部Ma(図7(a)を参照)を移動、もしくは拡大あるいは縮小させて蒸着を行うことにより、各蒸着源で蒸着形成される層(膜)の重ね合わせで生じる端部が傾斜部(図1あるいは図4の傾斜部3Aを参照)となり、端部の角度が鈍るのでギャップを減らすことができる。
【0045】
本実施例の製造方法では、バイアス電圧を印加する共通電極3を蒸着するのに適用している。本実施例では、共通電極3に適用することで、各蒸着源で蒸着形成される共通電極3の重ね合わせで生じる端部が傾斜部3Aとなり、端部の角度が鈍るのでバイアス電圧に対する耐久性が向上する。
【0046】
本実施例の製造方法で用いられるFPDは、放射線(本実施例ではX線)を電荷に変換する放射線感応型の変換層である放射線感応型の半導体2を備えることで、放射線を電荷に直接的に変換して検出する直接変換型の検出器である。直接変換型の検出器の場合には、通常では、本実施例のようにバイアス電圧を印加する共通電極3を備えた構造であるので、本実施例のように共通電極3に適用することでバイアス電圧に対する耐久性が向上する。
【0047】
本実施例に係るフラットパネル型X線検出器(FPD)によれば、上述の製造方法で製造された放射線検出器では、各蒸着源で蒸着形成される層(膜)の重ね合わせで生じる端部が傾斜部となり、端部に傾斜部を有した層を備えることになる。
【0048】
この発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0049】
(1)上述した実施例では、フラットパネル型X線検出器に代表される放射線検出器は、2次元アレイタイプであったが、この発明の放射線検出器は、収集電極が1次元状マトリックス配列で形成されている1次元アレイタイプでもよいし、放射線検出信号取り出し用の電極が1個だけの非アレイタイプでもよい。
【0050】
(2)上述した実施例では、放射線検出器としてX線検出器を例に採って説明したが、X線以外の放射線(例えばガンマ線)を検出する放射線検出器(例えばガンマ線検出器)にも適用できる。
【0051】
(3)上述した実施例では、直接変換型のフラットパネル型X線検出器(FPD)であったが、放射線(例えばX線)の入射により光を一旦生成して、その光から電荷を生成することで、放射線から電荷に間接的に変換して放射線を検出する間接変換型の検出器にも適用できる。間接変換型のX線検出器としては、X線を光に変換するシンチレータを備えたX線検出器がある。
【0052】
(4)上述した実施例では、共通電極3を蒸着するのに適用したが、共通電極3以外の層(膜)でもよい。例えば、半導体2のように全面にわたって形成する場合には、この発明は有用である。半導体2に適用する場合には、共通電極3を蒸着するのに適用した場合と同様に、各蒸着源(例えばアモルファスセレン)で蒸着形成される半導体2の重ね合わせで生じる端部が傾斜部となる。
【符号の説明】
【0053】
2 … (放射線感応型の)半導体
3 … (電圧印加用の)共通電極
3A … 傾斜部
M … マスク
Ma … 開口部
S … ソース(蒸着源)
P … 蒸着面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を検出する放射線検出器を製造する方法であって、
複数の蒸着源を用いて蒸着を行い、
蒸着面の形状を決定するマスクの開口部を移動、もしくは拡大あるいは縮小させて蒸着を行うことを特徴とする放射線検出器の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線検出器の製造方法において、
バイアス電圧を印加する共通電極を蒸着することを特徴とする放射線検出器の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の放射線検出器の製造方法において、
前記放射線検出器は、放射線を電荷に変換する放射線感応型の変換層を備えることで、放射線を電荷に直接的に変換して検出する直接変換型の検出器であることを特徴とする放射線検出器の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の放射線検出器の製造方法で製造される放射線検出器において、
端部に傾斜部を有した層を備えることを特徴とする放射線検出器。
【請求項5】
請求項4に記載の放射線検出器において、
バイアス電圧を印加する共通電極を備え、
その共通電極は、端部に傾斜部を有していることを特徴とする放射線検出器。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の放射線検出器において、
前記放射線検出器は、放射線を電荷に変換する放射線感応型の変換層を備えることで、放射線を電荷に直接的に変換して検出する直接変換型の検出器であることを特徴とする放射線検出器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−63166(P2012−63166A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205814(P2010−205814)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】