説明

放射線検出装置

【課題】試料透過後の線束を減ずる事無く、放射線検出素子に入力させることでS/Nを改善した放射線検出装置を提供する。
【解決手段】放射線源と、該放射線源からの放射線を被検査物を介して受光する第1放射線検出素子と、該第1放射線検出素子の近傍に配置された前記第1放射線検出素子と同等の第2放射線検出素子を少なくとも一つ設けるとともに、前記第2放射線検出素子を前記放射線から隔離する隔離手段を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばオンライン厚さ計に用いて好適な放射線検出装置に関し、詳しくは断続的若しくは連続的に温度・迷光の補正を行うようにした放射線検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図2(a,b)は本発明が適用される被検査物(試料)の厚さをオンラインで測定する放射線検査装置の概略構成図である。図において、1はO形フレームである。2は被検査物であり、例えは紙やプラスチックフィルム、金属等のシートである。3はO形フレーム1の下側のビームに設けられ,β線やX線を発生する線源部、4はO形フレーム1の上側のビームに設けられ,被検査物を透過した線源部3からの放射線を検出する放射線検出部である。
【0003】
5は上下ヘッド3,4を同期して駆動してO形フレーム1上を往復走行させるモータ、7はモータ5へ駆動電流を供給する駆動回路である。8は検出部4の出力に基づいて被検査物の厚さや塗工量を演算する演算処理部である。
【0004】
上記の構成において,上下ヘッドは装置が稼働しているときは,装置の向かって左側(BK)端部(校正点)に退避している。そして測定が開始されると,まず,上下ヘッドは左側(BK)から右側(FR)へシート2の幅方向に走行し,所定のデータ採取位置(シート2の幅方向に数百ポイント設定してある)にくると,制御部6は検出部4が検出したデータを取り込んで,シート2の厚さを演算する。そして上下ヘッドは左側と右側との間を往復走行し,検出が続けられる。
【0005】
図3はオンライン厚さ計としてラインセンサを用いた線源と試料の関係を模式的に示す概略構成図である。線源3aからの放射線はスリット(図示せず)を介して扇状に出射し、試料2を幅方向に直線的に照射する。試料2を透過した放射線は素子取付板10上に遮光フィルム11で覆われて直線状に配置された放射線検出素子(ラインセンサ)12に入射する。13はラインセンサに近接して配置された温度検出素子である。
【0006】
図2で示すような上下ヘッド3,4がスキャンするオンライン厚さ計では上下ヘッド3,4が試料位置から外れた地点で不連続に照射を一時停止してバックグランド値を求め、その値を用いて測定信号の補償を行っている。
【0007】
また、図3に示すラインセンサ12を用いたものでは、厚さ測定に際し遮光フィルム11で外来光を遮蔽するとともに温度検出素子13を設け、ラインセンサ12の温度による暗電流は、温度検出素子を用いて周囲温度を測定し、温度補償係数を用いて暗電流に相当する値を計算し、これをバックグランド値として差し引いて演算している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平7−15372
【特許文献2】特開2000−180714
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで半導体を用いた放射線検出素子は以下のような問題がある。
1)温度感受性が高く、僅かな温度変化も測定値に影響を与えてしまう。
2)シンチレータを組合わせた場合の光検出素子では、放射線による発光以外の迷光成分も取り込みやすく、測定値に影響を与えてしまう。
【0010】
3)遮光フィルムによって迷光を回避しようとすると、放射線も合わせて減弱されてしまう。そのため、特に低エネルギー帯の放射線成分を用いて薄い素材を測定する際にはS/Nが悪くなってしまう。
【0011】
4)温度検出素子から温度を求め、その温度に対応する放射線検出素子が持つ温度と暗電流の関係から温度補償係数を求め、温度による暗電流のバックグランド値を差し引いて膜厚を演算している。この際、温度検出素子の温度/測定値の関係と放射線検出素子の持つ温度/測定値の関係が同様とは限らないため、温度補償の手順がやや煩雑であり、また放射線検出素子と温度検出素子の種類によって、温度に対する係数が異なるため、補償係数を個別に設定する必要がある。
【0012】
5)放射線検出装置と放射線源を固定して連続測定に用いる場合には、放射線の照射を止める事無く、連続で測定したいと言うニーズが強い。このため、不連続に照射を停止し、バックグランド値を測定する方法は適さない。
6)大線量を用いるという点では、ニーズの少なさから流通量が少ない等の理由から安定な線源を得難く、環境に左右されず長周期でバックグランド値を一定にするためには種々の対策を取る必要があり、これがコスト高の要因となる。
【0013】
7)また、多くの素子を用いて測定を行うという点で、補償ポイントが多くなるにも関わらず、検出素子と補償用温度モニタとの補償係数合わせ込みを個々に行う必要が出てくる。このことは、チューニング作業の工数増加や補償演算用機器数の増加にも繋がり、コスト高になりやすい。
【0014】
8)ラインセンサ等を用いた構造体では、その構造体が背景技術に説明したようなポイントを測定するセンサに比べて大きい。このため、ワークから引き出してバックグランド値を測定する場合に引き出す空間を多く必要としたり、複雑で大掛かりな構造を持つ必要がある等でコスト高になりやすい。
【0015】
従って本発明は、
1)遮光フィルムにより試料透過後の線束を減ずる事無く、放射線検出素子に入力させることでS/Nを改善する。
2)温度モニタ用の素子を用いて温度補償係数を演算する手間を省き、放射線検出器の測定信号と温度成分による暗電流分との差分をとる簡易な演算により温度補償を行えるようにする。
3)電気回路やソフトウェア構造を簡易化することで、低コストで連続的に温度・迷光成分の補正を行えるようにする。
ことを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような課題を達成するために、本発明の請求項1の放射線検出装置は、
放射線源と、該放射線源からの放射線を被検査物を介して受光する第1放射線検出素子と、該第1放射線検出素子の近傍に配置された前記第1放射線検出素子と同等の第2放射線検出素子を少なくとも一つ設けるとともに、前記第2放射線検出素子を前記放射線から隔離する隔離手段を備えたことを特徴とする放射線検出装置。
【0017】
請求項2においては、請求項1記載の放射線検出装置において、
前記第2放射線検出素子と同等の遮光フィルムを貼付した少なくとも一つの第3検出素子を設け、第2放射線検出素子同様放射線から隔離したことを特徴とする。
【0018】
請求項3においては、請求項1記載の放射線検出装置において、
前記第2放射線検出素子は迷光および温度による暗電流のバックグランド値を補償するための素子であることを特徴とする。
【0019】
請求項4においては、請求項1記載の放射線検出装置において、
放射線検出信号を下記の式により演算することを特徴とする。

放射線検出信号=第1放射線検出素子の出力−第2放射線検出素子の出力
【0020】
請求項5においては、請求項2記載の放射線検出装置において、
迷光分のバックグランド信号を下記の式により演算することを特徴とする。

迷光分のバックグランド信号=第2放射線検出素子の出力−第3放射線検出素子の出力
【0021】
請求項6においては、請求項2記載の放射線検出装置において、
第1放射線検出素子としてラインセンサを用いるに際しては、ラインセンサを構成する複数の素子に対して1:1またはn:1またはn:nまたはn:m(n,mは整数)の割合で前記第3放射線検出素子および第2放射線検出素子を配置し、それぞれの割合で配置した前記第3放射線検出素子および第2放射線検出素子からの検出信号を元に放射線検出信号を演算するようにしたことを特徴とする。
【0022】
請求項7においては、請求項6記載の放射線検出装置において、
前記第3放射線検出素子および第2放射線検出素子は、第1放射線測定用の素子を挟んで両側に、または対角に配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば以下のような効果がある。
請求項1〜4によれば、
第1放射線検出素子の近傍に前記第1放射線検出素子と同等の第2放射線検出素子を少なくとも一つ設けるとともに、前記第2放射線検出素子を前記放射線から隔離する隔離手段を備え、
放射線検出信号を第1放射線検出素子の出力から第2放射線検出素子の出力を差し引くことで、迷光分と温度成分によるバックグランド信号を差し引いて求めるようにしたので、従来のような放射線検出素子に遮光フィルムを用いる場合に比較して放射線の減衰が少なくS/Nの高い測定が可能になる。
【0024】
請求項6,7によれば、
ラインセンサを構成する複数の素子に対して1:1またはn:1またはn:nまたはn:m(n,mは整数)の割合で温度検出素子および第2放射線検出素子を配置し、第3放射線検出素子および第2放射線検出素子を、第1放射線測定用の素子を挟んで両側に、または対角に配置しそれぞれの割合で配置した第3放射線検出素子および第2放射線検出素子からの検出信号を元に放射線検出信号を演算するようにしたので、空間分布の改善が可能となり温度と迷光の補償精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態の一例を示す放射線検出装置の概略構成図である。
【図2】従来の放射線検出装置の一例を示す概略構成図である。
【図3】従来の放射線検出装置の他の例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の実施形態の一例を示す放射線検出装置の模式的な概略構成図である。なお、図3に示す従来の概略構成図とは第2放射線検出素子を設けるとともに、第2放射線検出素子を放射線から隔離する隔離手段を設けた点のみが異なっている。
【0027】
図1において、線源3aからの放射線はスリット(図示せず)を介して扇状に出射し、被検査物2を幅方向に直線的に照射する。被検査物2を透過した放射線は素子取付板10上に直線状に配置された第1放射線検出素子(ラインセンサ)12に入射する。13はラインセンサに近接して配置された温度検出のための第3放射線検出素子、14は同じく素子取付板10上に配置された第1放射線検出素子と同等の機能を有する第2放射線検出素子である。
【0028】
15は第2放射線検出素子を放射線から隔離する隔離手段であり、図では素子取付板10上に矩形状の板の一辺が衝立状に固定され、衝立の一方の(向こう)側に第1放射線検出素子12が他方の(手前)側に温度検出素子13と第2放射線検出素子14が配置されている。隔離手段(隔壁)15は第2放射線検出素子14側への放射線の漏れ防止機構として機能する。
【0029】
上述の構成において被検査物2を透過した放射線は第1放射線検出素子12により検出されるが、その検出出力には放射線のほかに検出素子の周囲の迷光や温度による暗電流の影響を含んだ出力となっている。
【0030】
従って本発明では放射線による検出信号から迷光の影響を除去するために、
放射線検出信号=第1放射線検出素子の出力−第2放射線検出素子の出力
として演算する。
【0031】
また、第2放射線検出器14は第1放射線検出素子12を含む測定空間とは熱絶縁をしていないので、迷光分による暗電流値と温度による暗電流値を一緒に取り込んでいる。このため、迷光分による暗電流値のみを得たい場合は、温度成分のみの検出を行う第3放射線検出素子からの出力を元に測定できる。
迷光分による暗電流値=第2放射線検出素子の出力−第3放射線検出素子の出力。
上述したように温度によるバックグランド値は、第3放射線検出素子から得る出力値をそのまま利用して演算により求めることができる。
温度成分による暗電流値=第3放射線検出素子の出力
【0032】
なお、以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。例えば第2放射線検出素子の出力を常に監視し、放射線測定信号に比べてS/Nが悪化した場合には、迷光によるS/N悪化警報を出力し、放射線検出信号のダイナミックレンジを確保できるようにしても良い。
【0033】
また、第2放射線検出素子および温度検出素子は、隔壁の手前側に複数個を配置しても良く、第1放射線検出素子の向こう側に第2の隔壁を設けてその第2の隔壁の外側に第2放射線検出素子を設けて第1放射線検出素子を挟んで対角に配置する等して検出値に関する空間分布の改善を図っても良い。
【0034】
また、放射線測定値の演算には、遮光した素子は必ずしも必要ではなく迷光モニタ用の素子と放射線測定用素子の組合せで迷光と温度の補償を同時に行う構造でも良い。
また、保護等のために遮光フィルムに準ずる構造を持つ場合には、迷光モニタ用の素子は必ずしも必要ではなく、この場合には、測定用素子と温度モニタ用素子に組合わせで温度補償を行う構造でも良い。
【0035】
また、放射線検出信号と暗電流値の演算に際しては、適宜合わせ込みのための係数を与えるようにしてもよい。
従って本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【符号の説明】
【0036】
1 O型フレーム
2 被検査物(試料)
3 線源部(下ヘッド)
4 検出部(上ヘッド)
5 モータ
6 駆動回路
7 カウンタ
8 演算処理部
10 素子取付板
12 第1放射線検出素子
13 温度検出素子
14 第2放射線検出素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線源と、該放射線源からの放射線を被検査物を介して受光する第1放射線検出素子と、該第1放射線検出素子の近傍に配置された前記第1放射線検出素子と同等の第2放射線検出素子を少なくとも一つ設けるとともに、前記第2放射線検出素子を前記放射線から隔離する隔離手段を備えたことを特徴とする放射線検出装置。
【請求項2】
前記第2放射線検出素子と同等の遮光フィルムを貼付した少なくとも一つの第3検出素子を設け、第2放射線検出素子同様放射線から隔離したことを特徴とする請求項1記載の放射線検出装置。
【請求項3】
前記第2放射線検出素子は迷光および温度による暗電流のバックグランド値を補償するための素子であることを特徴とする請求項1記載の放射線検出装置。
【請求項4】
放射線検出信号を下記の式により演算することを特徴とする請求項1記載の放射線検出装置。

放射線検出信号=第1放射線検出素子の出力−第2放射線検出素子の出力
【請求項5】
迷光分のバックグランド信号を下記の式により演算することを特徴とする請求項2記載の放射線検出装置。

迷光分のバックグランド信号=第2放射線検出素子の出力−第3放射線検出素子の出力
【請求項6】
第1放射線検出素子としてラインセンサを用いるに際しては、ラインセンサを構成する複数の素子に対して1:1またはn:1またはn:nまたはn:m(n,mは整数)の割合で前記第3放射線検出素子および第2放射線検出素子を配置し、それぞれの割合で配置した前記第3放射線検出素子および第2放射線検出素子からの検出信号を元に放射線検出信号を演算するようにしたことを特徴とする請求項2記載の放射線検出装置。
【請求項7】
前記第3放射線検出素子および第2放射線検出素子は、第1放射線測定用の素子を挟んで両側に、または対角に配置したことを特徴とする請求項6記載の放射線検出装置。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−128046(P2011−128046A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287408(P2009−287408)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】