説明

放射線画像検出装置およびその駆動制御方法

【課題】放射線の照射開始を誤って検出することを確実に防止する。
【解決手段】第一判定部62は、全てのTFT43をオンにした状態で出力される電気信号Diと第一閾値th1を比較し、電気信号Diが第一閾値th1以上となったときにX線の照射が開始されたと判定する。第二判定部63は、全てのTFT43をオフにした状態で出力される電気信号Diの一階微分値Di’と第二、第三閾値th2、th3を比較する。全判定区間で一階微分値Di’が第二、第三閾値th2、th3で規定する範囲内または範囲外にあった場合は第一判定部62の判定が正しいと判定する。判定区間において範囲内と範囲外を行ったり来たりする場合は第一判定部62の判定が誤っていると判定する。第一判定部62の判定が正しいと判定した場合はTFT43のオフ状態を継続しFPD36に蓄積動作を継続して行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を受けて放射線画像を検出する放射線画像検出装置およびその駆動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線撮影システム、例えばX線撮影システムは、X線を発生するX線発生装置と、X線を受けてX線画像を撮影するX線撮影装置とからなる。X線発生装置は、X線を被検体に向けて照射するX線源、X線源の駆動を制御する線源制御装置、およびX線の照射開始指示を入力するための照射スイッチを有している。X線撮影装置は、被検体を透過したX線を受けてX線画像を検出するX線画像検出装置、およびX線画像検出装置の駆動を制御する撮影制御装置を有している。
【0003】
X線画像検出装置には、X線フイルムやイメージングプレート(IP)に代わり、フラットパネルディテクタ(FPD;flat panel detector)を検出器として用いたものが最近普及している。FPDには、X線の入射量に応じた信号電荷を蓄積する画素がマトリックス状に配列されている。FPDは、画素毎に信号電荷を蓄積することで、被検体の画像情報を表すX線画像を検出し、これをデジタルな画像データとして出力する。
【0004】
FPDを直方体形状の筐体に内蔵した可搬型のX線画像検出装置(以下、電子カセッテという)も実用化されている。電子カセッテは、フイルムカセッテやIPカセッテ用の撮影台に取り付けて使用される他、据え置き型では撮影困難な部位を撮影するためにベッド上に置いたり被検体自身に持たせたりして使用される。また、自宅療養中の高齢者や、事故、災害等による急病人を撮影するため、撮影台の設備がない病院外に持ち出して使用されることもある。
【0005】
従来、照射スイッチの押下によってX線源からX線が照射されるタイミングと、X線画像検出装置が信号電荷の蓄積動作を開始するタイミングとを同期させるため、X線発生装置(線源制御装置)とX線撮影装置(撮影制御装置)とは、照射スイッチが発生する操作信号をX線の照射開始を示す同期信号として遣り取りしていた。しかし、同期信号の遣り取りのためにX線発生装置とX線撮影装置を電気的に接続する必要があり、X線発生装置とX線撮影装置のメーカが異なり各装置同士の接続インターフェース(ケーブルやコネクタの規格、同期信号の形式等)が適合しない場合は、新たにインターフェースを用意しなければならなかった。
【0006】
この問題を解決するため、同期信号の遣り取りをせず(X線発生装置とX線撮影装置を電気的に接続せず)にX線画像検出装置自らがX線の照射開始を検出して、X線発生装置との同期を取る技術が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1は、FPDのバイアス電流(X線が被検体を透過することなく入射する素抜け領域の出力値)を検出し、その微分値と閾値を比較することでX線の照射開始を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2002−543684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に電気部品の出力は、部品自体の内的要因、または周囲環境等の外的要因によるノイズの影響を受ける。多くの電気部品が搭載されたX線画像検出装置も例外ではなく、被検体や放射線技師が意図せずぶつかる等して衝撃が与えられると、その衝撃による振動でノイズが発生する。このノイズがX線の照射開始を検出するための信号に乗ると、実際はX線が照射されていないにも関わらず、X線が照射されたと誤って検出してしまう可能性がある。誤検出した場合はX線画像検出装置に無用な動作を行わせることになるので消費電力が嵩む。そのうえ撮影を行いたくても上記動作が終了するまでは待たなければならないので、撮影チャンスを逃すおそれがある。
【0009】
さらに、X線画像検出装置に接続された撮影制御装置や撮影条件を設定する装置(いわゆるコンソール)が、あたかも撮影が行われたかのような振る舞いをし、その結果撮影条件を設定し直す等の煩わしい操作が必要となり、放射線技師のワークフローに悪影響を及ぼす。また、X線が照射されたと誤って検出した場合にX線画像検出装置が動作して出力された画像が正規の画像の如く扱われ、医師の元に転送されてしまったり患者を取り違えるといった医療ミスに繋がる不都合が生じる危険性もある。
【0010】
特許文献1の方法では、バイアス電流がノイズで変動した場合に誤検出する可能性がある。このためノイズに弱く、X線の照射開始を誤って検出する危険性が大いにある。それにも関わらず特許文献1には、ノイズによる誤検出の対処法は記載されていない。
【0011】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、放射線の照射開始を誤って検出することを確実に防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の放射線画像検出装置は、放射線源から照射された放射線を受けて信号電荷を蓄積する複数の画素が配列され、各画素にスイッチング素子が設けられた放射線画像検出器と、画素で発生する電荷を変換した電気信号と閾値との比較結果に基づき放射線の照射が開始されたか否かを判定する第一判定部と、電気信号が閾値以上となり、前記第一判定部で放射線の照射が開始されたと判定した後の電気信号の時間的変化に基づき、該電気信号が真に放射線の照射によるものか振動によるものかを検証し、前記第一判定部の判定が正しいか否かを判定する第二判定部と、第一、第二判定部の判定結果に応じて前記放射線画像検出器の動作を制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
前記制御手段は、前記第一判定部で放射線の照射が開始されたと判定した後、前記放射線画像検出器の蓄積動作を開始させる。そして、前記第二判定部で前記第一判定部の判定が正しいと判定された場合は前記放射線画像検出器に蓄積動作を継続して行わせる。前記第二判定部で前記第一判定部の判定が誤っていると判定された場合は前記放射線画像検出器の蓄積動作を中断させて前記第一判定部による判定を再開させる。
【0014】
前記制御手段は、前記第一判定部で判定する際には全てのスイッチング素子をオン状態とする。また、前記制御手段は、電気信号が閾値以上となり、前記第一判定部で放射線の照射が開始されたと判定したときに全てのスイッチング素子をオフ状態にする。前記第二判定部は、この状態で画素から漏れるリーク電荷に基づき判定を行う。
【0015】
前記第二判定部は、前記第一判定部で放射線の照射が開始されたと判定した後から所定区間の複数の時点における電気信号と閾値の比較結果に基づき判定を行う。
【0016】
前記第二判定部は微分回路を有し、電気信号の微分値と閾値の比較結果に基づき判定を行う。また、前記第二判定部は、電気信号とその微分値の比と閾値の比較結果に基づき判定を行う。前記微分回路は電気信号を一階微分または二階微分する。
【0017】
前記放射線画像検出器の中央付近に配置される画素を前記第一、第二判定部の判定に用いることが好ましい。また、可搬型の筐体に収容された電子カセッテであることが好ましい。
【0018】
本発明の放射線画像検出装置の駆動制御方法は、画素で発生する電荷を変換した電気信号が閾値以上となり、放射線の照射が開始されたと第一判定部で判定した場合、放射線画像検出器の蓄積動作を開始させるとともに、その後の電気信号の時間的変化に基づき、第二判定部で該電気信号が真に放射線の照射によるものか振動によるものかを検証して第一判定部の判定が正しいか否かを判定し、第二判定部で第一判定部の判定が正しいと判定された場合は放射線画像検出器に蓄積動作を継続して行わせ、第二判定部で第一判定部の判定が誤っていると判定された場合は放射線画像検出器の蓄積動作を中断させて第一判定部による判定を再開させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、放射線の照射開始を誤って検出するおそれのあるノイズが発生した場合、電気信号の時間的変化に基づきこれを真に放射線が照射された場合ではないと判定するので、照射開始を誤って検出することを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】X線撮影システムの構成を示す概略図である。
【図2】FPDの電気的な構成を示す図である。
【図3】リセット動作および読み出し動作時のゲートパルスのオン/オフ状態を示すタイミングチャートである。
【図4】X線の照射開始を検出する照射検出部の概要を示す図である。
【図5】X線が照射された場合の(A)電圧信号Di、(B)一階微分値Di’、および(C)二階微分値Di’’の時間的変化を示すグラフである。
【図6】振動ノイズの場合の(A)電圧信号Di、(B)一階微分値Di’、および(C)二階微分値Di’’の時間的変化を示すグラフである。
【図7】電子カセッテの動作手順を示すタイミングチャートである。
【図8】電子カセッテの動作手順を示すタイミングチャートである。
【図9】電子カセッテの動作手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1において、X線撮影システム10は、X線発生装置11と、X線撮影装置12とからなる。X線発生装置11は、X線源13と、X線源13の駆動を制御する線源制御装置14と、照射スイッチ15とで構成される。X線源13は、X線を放射するX線管13aと、X線管13aが放射するX線の照射野を限定する照射野限定器(コリメータ)13bとを有する。
【0022】
X線管13aは、熱電子を放出するフィラメントからなる陰極と、陰極から放出された熱電子が衝突してX線を放射する陽極(ターゲット)とからなる。ターゲットは円板形状をしており、回転により円周軌道上で焦点が移動して、熱電子が衝突する焦点の発熱が分散する回転陽極である。照射野限定器13bは、X線を遮蔽する複数枚の鉛板を井桁状に配置し、X線を透過させる照射開口が中央に形成されたものであり、鉛板の位置を移動することで照射開口の大きさを変化させて、照射野を限定する。
【0023】
線源制御装置14は、X線源13に対して高電圧を供給する高電圧発生器と、X線源13が照射するX線のエネルギースペクトルを決める管電圧、単位時間当たりの照射量を決める管電流、およびX線の照射時間を制御する制御部とからなる。高電圧発生器は、トランスによって入力電圧を昇圧して高圧の管電圧を発生し、高電圧ケーブル16を通じてX線源13に駆動電力を供給する。本例のX線発生装置11は、X線撮影装置12との通信機能を持たないものであり、管電圧、管電流、照射時間といった撮影条件は、線源制御装置14の操作パネルを通じて放射線技師により手動で設定される。
【0024】
照射スイッチ15は、放射線技師によって操作され、線源制御装置14に信号ケーブル17で接続されている。照射スイッチ15は二段階押しのスイッチであり、一段階押しでX線源13のウォームアップを開始させるためのウォームアップ開始信号を発生し、二段階押しでX線源13に照射を開始させるための照射開始信号を発生する。これらの信号は信号ケーブル17を通じて線源制御装置14に入力される。
【0025】
線源制御装置14は、照射スイッチ15からの制御信号に基づいて、X線源13の動作を制御する。ウォームアップ開始信号を受けた場合、線源制御装置14は、ヒータを作動させてフィラメントの予熱を行わせる他、ターゲットの回転を開始させて目標の回転速度に到達させる。ウォームアップに必要な時間は、約200msec〜1500msec程度である。放射線技師は、照射スイッチ15の一段階押しでウォームアップの開始指示を入力した後、ウォームアップに必要な間をおいて二段階押しして照射開始指示を入力する。
【0026】
照射開始信号を受けた場合、線源制御装置14は、X線源13への電力供給を開始するとともに、タイマを作動させてX線の照射時間の計測を開始する。そして、撮影条件で設定された照射時間が経過すると、X線の照射を停止させる。X線の照射時間は、撮影条件に応じて変化するが、静止画撮影の場合には、X線の最大照射時間が約500msec〜約2s程度の範囲に定められている場合が多く、照射時間はこの最大照射時間を上限として設定される。
【0027】
X線撮影装置12は、電子カセッテ21、撮影台22、撮影制御装置23、およびコンソール24から構成される。電子カセッテ21は、FPD36(図2参照)と、FPD36を収容する可搬型の筐体とからなり、X線源13から照射されて被検体Hを透過したX線を受けてX線画像を出力する。電子カセッテ21は、略矩形状で偏平な形状を有し、平面サイズはフイルムカセッテやIPカセッテと略同様の大きさである。
【0028】
撮影台22は、電子カセッテ21が着脱自在に取り付け可能なスロットを有し、X線が入射する入射面をX線源13と対向する姿勢で電子カセッテ21を保持する。電子カセッテ21は、筐体のサイズがフイルムカセッテやIPカセッテと略同様の大きさであるため、フイルムカセッテやIPカセッテ用の撮影台にも取り付け可能である。なお、撮影台22として、被検体Hを立位姿勢で撮影する立位撮影台を例示しているが、被検体Hを臥位姿勢で撮影する臥位撮影台でもよい。
【0029】
図2において、FPD36は、TFTアクティブマトリクス基板を有し、この基板上にX線の入射量に応じた信号電荷を蓄積する複数の画素37を配列してなる撮像領域38と、画素37を駆動して信号電荷の読み出しを制御するゲートドライバ39と、画素37から読み出された信号電荷をデジタルデータに変換して出力する信号処理回路40と、ゲートドライバ39と信号処理回路40を制御して、FPD36の動作を制御する制御回路41とを備えている。複数の画素37は、所定のピッチで二次元にn行(x方向)×m列(y方向)のマトリクス状に配列されている。
【0030】
FPD36は、X線を可視光に変換するシンチレータ(蛍光体)を有し、シンチレータによって変換された可視光を画素37で光電変換する間接変換型である。シンチレータは、画素37が配列された撮像領域38の全面と対向するように配置されている。なお、X線を直接電荷に変換する変換層(アモルファスセレン等)を用いた直接変換型のFPDを用いてもよい。
【0031】
画素37は、可視光の入射によって電荷(電子−正孔対)を発生する光電変換素子であるフォトダイオード42、フォトダイオード42が発生した電荷を蓄積するキャパシタ(図示せず)、およびスイッチング素子として薄膜トランジスタ(TFT)43を備える。
【0032】
フォトダイオード42は、電荷を発生する半導体層(例えばPIN型)とその上下に上部電極および下部電極を配した構造を有している。フォトダイオード42は、下部電極にTFT43が接続され、上部電極には図示しないバイアス線が接続されており、バイアス線を通じてバイアス電圧が印加される。バイアス電圧の印加により半導体層内に電界が生じ、光電変換により半導体層内で発生した電荷(電子−正孔対)は、一方がプラス、他方がマイナスの極性を持つ上部電極と下部電極に移動し、キャパシタに電荷が蓄積される。
【0033】
TFT43は、ゲート電極が走査線44に、ソース電極が信号線46に、ドレイン電極がフォトダイオード42にそれぞれ接続される。走査線44と信号線46は格子状に配線されており、走査線44は撮像領域38内の画素37の行数分(n行分)、信号線46は画素37の列数分(m列分)それぞれ設けられている。走査線44はゲートドライバ39に接続され、信号線46は信号処理回路40に接続される。
【0034】
ゲートドライバ39は、TFT43を駆動することにより、X線の入射量に応じた信号電荷を画素37に蓄積する蓄積動作と、画素37から信号電荷を読み出す読み出し(本読み)動作と、リセット(空読み)動作と、照射開始検出動作とを行わせる。制御回路41は、通信部52を通じて入力される撮影制御装置23からの制御信号に基づいて、ゲートドライバ39によって実行される上記各動作の開始タイミングを制御する。
【0035】
蓄積動作ではTFT43がオフ状態にされ、その間に画素37に信号電荷が蓄積される。読み出し動作では、図3に示すように、ゲートドライバ39から同じ行のTFT43を一斉に駆動するゲートパルスG1〜Gnを順次発生して、走査線44を一行ずつ順に活性化し、走査線44に接続されたTFT43を一行分ずつオン状態とする。画素37のキャパシタに蓄積された電荷は、TFT43がオン状態になると信号線46に読み出されて、信号処理回路40に入力される。
【0036】
フォトダイオード42の半導体層には、X線の入射の有無に関わらず暗電荷が発生する。この暗電荷はバイアス電圧が印加されているためにキャパシタに蓄積される。画素37において発生する暗電荷は、画像データに対してはノイズ成分となるので、これを除去するためにリセット動作が行われる。リセット動作は、画素37において発生する暗電荷を、信号線46を通じて掃き出す動作である。
【0037】
リセット動作は、例えば、一行ずつ画素37をリセットする順次リセット方式で行われる。順次リセット方式では、信号電荷の読み出し動作と同様、図3に示すように、ゲートドライバ39から走査線44に対してゲートパルスG1〜Gnを順次発生して、画素37のTFT43を一行ずつオン状態にする。TFT43がオン状態になっている間、画素37から暗電荷が信号線46を通じて積分アンプ47に流れる。リセット動作では、読み出し動作と異なり、マルチプレクサ(MUX)48による積分アンプ47に蓄積された電荷の読み出しは行われず、各ゲートパルスG1〜Gnの発生と同期して、制御回路41からリセットパルスRSTが出力され、積分アンプ47がリセットされる。電荷の読み出しが行われない分、リセット動作に掛かる時間は読み出し動作に掛かる時間よりも短くなる。
【0038】
信号処理回路40は、積分アンプ47、MUX48、およびA/D変換器49を備える。積分アンプ47は、各信号線46に対して個別に接続される。積分アンプ47は、オペアンプとオペアンプの入出力端子間に接続されたキャパシタとからなり、信号線46はオペアンプの一方の入力端子に接続される。積分アンプ47のもう一方の入力端子はグランド(GND)に接続される。積分アンプ47は、信号線46から入力される電荷を積算し、電圧信号D1〜Dmに変換して出力する。各列の積分アンプ47の出力端子には、増幅器、サンプルホールド部(ともに図示せず)を介してMUX48が接続される。MUX48の出力側には、A/D変換器49が接続される。
【0039】
MUX48は、パラレルに接続される複数の積分アンプ47から順に一つの積分アンプ47を選択し、選択した積分アンプ47から出力される電圧信号D1〜DmをシリアルにA/D変換器49に入力する。A/D変換器49は、入力された電圧信号D1〜Dmをデジタルデータに変換して、電子カセッテ21の筐体に内蔵されるメモリ51に出力する。
【0040】
MUX48によって積分アンプ47から一行分の電圧信号D1〜Dmが読み出されると、制御回路41は、積分アンプ47に対してリセットパルスRSTを出力し、積分アンプ47のリセットスイッチ47aをオンする。これにより、積分アンプ47に蓄積された一行分の信号電荷がリセットされる。積分アンプ47がリセットされると、ゲートドライバ39から次の行のゲートパルスが出力され、次の行の画素37の信号電荷の読み出しを開始させる。これらの動作を順次繰り返して全行の画素37の信号電荷を読み出す。
【0041】
全行の読み出しが完了すると、一画面分のX線画像を表す画像データがメモリ51に記録される。この画像データは、メモリ51から読み出され、通信部52、通信ケーブル25(図1参照)を通じて撮影制御装置23に出力される。こうして被検体HのX線画像が検出される。
【0042】
照射開始検出動作は、第一判定ステップと第二判定ステップに大別される。第一判定ステップでは、ゲートドライバ39から走査線44に対してゲートパルスG1〜Gnを一斉に発生して全てのTFT43をオン状態とし、その間の電圧信号と閾値の比較結果からX線の照射開始を判定する。第二判定ステップでは、蓄積動作と同じく全てのTFT43をオフ状態にし、このときの電圧信号の微分値と閾値の比較結果から、第一判定ステップの判定が正しかったか否かを検証する。
【0043】
図4において、照射開始検出動作では、照射検出部61にてX線源13からX線が照射されたことを検出する。照射検出部61は、例えば撮像領域38の中央付近の画素37の列に設けられている。撮像領域38の中央付近の画素37を照射検出に用いれば、撮影部位の大きさに応じてX線の照射範囲が撮像領域38より小さく設定された場合でも、撮像領域38の中央付近は照射範囲から外れることはないので、X線の照射範囲の大きさに関わらず照射開始の検出を確実に行うことができる。
【0044】
照射検出部61は、第一判定ステップを担う第一判定部62、および第二判定ステップを担う第二判定部63からなる。各判定部62、63は、第一、第二比較回路64、65と第一、第二判定回路66、67とを有する。第二判定部63にはこれらに加えて微分回路68が設けられている。
【0045】
照射開始検出動作では、MUX48により照射検出部61が接続された列が選択され、その列の積分アンプ47に蓄積された信号電荷に見合った電気信号Diが各判定部62、63に入力される。
【0046】
第一、第二比較回路64、65は二つの入力端子と一つの出力端子を有する。第一比較回路64の一方の入力端子には、積分アンプ47の出力、つまり電圧信号Diが入力され、他方には第一閾値th1(図5(A)および図6(A)参照)が入力される。出力端子は第一判定回路66に繋がれている。第一比較回路64は、電圧信号Diと第一閾値th1とを比較し、電圧信号Diが第一閾値th1を下回っている場合と、第一閾値th1以上となった場合とで異なる電圧値V1a、V1bを出力する。
【0047】
第一判定回路66は、第一比較回路64の出力端子の電圧値を監視して、電圧値がV1aからV1bに変化したとき、つまり電圧信号Diが閾値th1以上となったときに、X線源13からX線の照射が開始されたと判定する。そして、この旨を表す照射開始検出信号を制御回路41に出力する。
【0048】
図5(A)および図6(A)の前半に示すように、X線が照射されていない状態では、画素37には暗電荷のみが発生する。第一比較回路64に入力される電圧信号Diも閾値th1より低い値となる。一方、図5(A)の後半に示すように、X線が照射されると、これに応じた信号電荷が画素37に発生する。信号電荷は暗電荷と比べるとはるかに大きいため、X線が照射された直後に電圧信号Diは閾値th1以上となる。このように時間とともに変化する電圧信号Diは、時間tの関数f(t)として表せる。第一判定部62は、このX線の照射開始前後における電圧信号Diの変化を監視して、X線の照射開始を検出する。
【0049】
第二判定部63の微分回路68は、電圧信号Diを一階微分してDi’(f’(t)、g’(t))とし、これを第二比較回路65の一方の入力端子に入力する。第二比較回路65の他方の入力端子には、第二閾値th2および第三閾値th3(図5(B)および図6(B)参照)が入力される。第二比較回路65は、電圧信号の一階微分値Di’と第二、第三閾値th2、th3とを比較し、一階微分値Di’が第二、第三閾値th2、th3で規定する範囲内にある場合(−th3<Di’<th2)と、範囲外にある場合(Di’≦−th3またはDi’≧th2)とで異なる電圧値V2a、V2bを出力する。
【0050】
第二判定回路67は、第二比較回路65の出力端子の電圧値を所定時間監視(以下、この時間を判定区間という)して、電圧値がV1aまたはV2aの状態が判定区間で続いたとき、つまり判定区間において一階微分値Di’が第二、第三閾値th2、th3で規定する範囲内または範囲外にあったときに、第一判定部62の判定が正しく、真にX線源13からX線の照射が開始されたと判定する。そして、検出確定信号を制御回路41に出力する。
【0051】
一方、第二比較回路65の出力端子の電圧値がV2aとV2bを行ったり来たりするとき、つまり判定区間において一階微分値Di’が第二、第三閾値th2、th3で規定する範囲内と範囲外を交互にとるとき、第二判定部63は、第一判定部62のX線照射開始の判定が誤っていたと判定し、その旨を表す誤検出報知信号を制御回路41に出力する。
【0052】
照射開始検出動作中、放射線技師や被検体Hが撮影台22に意図せずぶつかる等して、電子カセッテ21に衝撃が加わり電子カセッテ21が振動することが有り得る。あるいは、電子カセッテ21を被検体Hが持ったり、被検体Hのうえに電子カセッテ21を載せたりして撮影する場合、被検体Hが乗降する毎に揺れる回診車内で撮影する場合、病院外で発電機を電源として撮影を行う場合等、照射開始検出動作中に電子カセッテ21が振動するシチュエーションは多々考えられる。
【0053】
よく知られているように、電子カセッテ21が振動すると、その振動ノイズが特に信号処理回路40に乗り、ノイズ成分が電圧信号に加算されてしまうということが起きる。電圧信号にノイズ成分が加算されてしまうと、照射開始検出動作中に出力される電圧信号Diも当然その分嵩上げされる。そして、図6(A)に示すように、電圧信号Diが閾値th1以上となり、実際はX線が照射されていないにも関わらずX線の照射が開始されたと第一判定部62で誤検出するおそれがある。
【0054】
図6(A)において、振動ノイズにより発生した電圧信号Diは、X線が照射された場合の電圧信号Diと同様に時間とともに変化するため、時間tの関数g(t)として表せる。但し、この場合は周期が一定で振幅が徐々に減少する正弦波、すなわち減衰振動の波形となる。これを微分回路68で一階微分すると、(B)に示すように位相が90°異なる波形g’(t)が得られる。
【0055】
図5(B)に示すように、X線が照射された場合の関数f(t)の一階微分f’(t)は、X線の照射により急激に立ち上がり、すぐに一定となる。対して図6(B)の振動ノイズによる波形の関数g(t)の一階微分g’(t)は、位相がずれるのみで減衰振動の波形は変わらない。
【0056】
真にX線が照射された場合は、一階微分f’(t)は常時第二、第三閾値th2、th3で規定する範囲内または範囲外をとる(図5(B)は範囲内にある場合を例示)。一方、振動ノイズによる波形の場合は、閾値th2、th3に適切な値を与えれば、判定区間において一階微分g’(t)は第二、第三閾値th2、th3で規定する範囲内と範囲外を行ったり来たりする。この違いが第二比較回路65の出力電圧に現れ、前者の場合は全判定区間で電圧V2aまたはV2bが出力され、後者の場合は判定区間において電圧V2aとV2bを交互に出力する。このように、第一判定部62で照射開始を検出した後の電圧信号Diの時間的変化を第二判定部63でみることで、第一判定部62の判定結果が真のX線の照射開始を検出したものか、振動ノイズによる誤検出かを判別することができる。
【0057】
このため、仮に振動ノイズ成分が加算されて電圧信号Diが閾値th1以上となり、第一判定回路66から照射開始検出信号が出力されても、第二判定部63で誤検出と判定されて第二判定回路67から誤検出報知信号が制御回路41に出力され、先に入力された照射開始検出信号は取り消される。従って、電子カセッテ21はX線の照射開始検出後の蓄積動作に誤って移行しても、直ちに蓄積動作を中断させて引き続き照射開始検出動作を実行する。そして、真にX線の照射が開始されたときのみ検出確定信号が制御回路41に入力され、蓄積動作を継続する。
【0058】
なお、閾値th2、th3は、閾値th1相当の電圧信号になる振動ノイズの一階微分の振幅が丁度超える値である。
【0059】
本例では、電圧信号Diが閾値th1以上となり第一判定部62から照射開始検出信号が出力されたときに、全てのTFT43をオフ状態にする。第一判定部62から照射開始検出信号が出力されるまでは全てのTFT43はオン状態であるため、電圧信号Diは画素37で発生する電荷を変換したものであるが、照射開始検出信号の出力後は全てのTFT43をオフ状態にするため、第二判定部63に入力される電圧信号Diは画素37から信号線46に漏れるリーク電荷を変換したものとなる。
【0060】
全てのTFT43をオフ状態にした場合は、画素37と信号線46を繋ぐ経路が閉じられるため、理想的には画素37に蓄積される電荷は信号線46には流出しないが、TFT43をオフ状態にしても、実際は画素37に蓄積される電荷の少数が信号線46にリークする。リーク電荷の量は、画素39の電荷蓄積量に応じて大きくなるが、X線の照射により画素37に発生する信号電荷と比べればはるかに小さい。しかし、振動ノイズは画素37に蓄積されるのではなく信号処理回路40に乗るため、リーク電荷を変換した電圧信号Diにも比較的大きい値となって現れる。従って、TFT43をオフ状態にしてリーク電荷に基づいて第二判定を行っても、判定の妥当性は確保される。
【0061】
制御回路41は、電子カセッテ21の電源投入後、撮影制御装置23から撮影条件が送信されるまでFPD36にリセット動作を行わせる。そして、撮影制御装置23から撮影条件が送信されたら、FPD36の動作をリセット動作から全てのTFTをオン状態にする照射開始検出動作に移行させる。制御回路41は、照射開始検出動作中に照射検出部61からの照射開始検出信号を受けた場合、FPD36の動作を照射開始検出動作から蓄積動作へ移行させる。
【0062】
制御回路41は、照射検出部61から検出確定信号を受けた場合は、そのまま蓄積動作を継続し、誤検出報知信号を受けた場合は、全行にゲートパルスを入れて全画素37の暗電荷を同時に掃き出す全画素リセットを実行した後、照射開始検出動作を再開させる。
【0063】
制御回路41は、蓄積動作を開始してからの経過時間をタイマにより計時する。そして、経過時間が撮影条件で設定された時間に達したら、FPD36を蓄積動作から読み出し動作に移行させる。
【0064】
撮影制御装置23は、通信ケーブル25による有線方式、あるいは無線方式により電子カセッテ21と通信可能に接続されており、電子カセッテ21を制御する。具体的には、電子カセッテ21に対して撮影条件を送信して、FPD36の信号処理の条件(増幅器のゲイン等)を設定させるとともに、FPD36の前記各動作を間接的に制御し、また、電子カセッテ21からの画像データをコンソール24に送信する。
【0065】
図1において、撮影制御装置23は、装置を統括的に制御するCPU23aと、電子カセッテ21と有線方式または無線方式により通信するとともに、コンソール24と通信ケーブル26を介して通信する通信部23bと、メモリ23cとを有する。通信部23b、メモリ23cはCPU23aに接続されている。メモリ23cには、CPU23aが実行する制御プログラムが格納される他、第一〜第三閾値th1〜th3等の各種情報が格納される。メモリ23cの第一〜第三閾値th1〜th3は、電子カセッテ21の電源投入後に通信ケーブル25を介して電子カセッテ21に送信され、第一、第二比較回路64、65の入力にそれぞれセットされる。
【0066】
コンソール24は、撮影制御装置23に対して撮影条件を送信するとともに、撮影制御装置23から送信されるX線画像のデータに対してオフセット補正やゲイン補正等の各種画像処理を施す。画像処理済みのX線画像はコンソール24のディスプレイに表示される他、そのデータがコンソール24内のハードディスクやメモリ、あるいはコンソール24とネットワーク接続された画像蓄積サーバといったデータストレージデバイスに格納される。
【0067】
コンソール24は、患者の性別、年齢、撮影部位、撮影目的といった情報が含まれる検査オーダの入力を受け付けて、検査オーダをディスプレイに表示する。検査オーダは、HIS(病院情報システム)やRIS(放射線情報システム)といった患者情報や放射線検査に係る検査情報を管理する外部システムから入力されるか、放射線技師により手動入力される。放射線技師は、検査オーダの内容をディスプレイで確認し、その内容に応じた撮影条件をコンソール24の操作画面を通じて入力する。
【0068】
以下、上記構成による作用について、図7、図8のタイミングチャート、および図9のフローチャートを参照して説明する。なお、図7、図8と図9のS10等の表記はそれぞれ対応している。図7は真にX線が照射された場合、図8は振動ノイズが発生した場合をそれぞれ示す。
【0069】
X線撮影システム10で撮影を行う場合には、まず、撮影台22にセットされた電子カセッテ21の高さを調節して、被検体Hの撮影部位と位置を合わせる。また、電子カセッテ21の高さおよび撮影部位の大きさに応じて、X線源13の高さや照射野の大きさを調整する。
【0070】
次いで、図9のステップ10(S10)に示すように、電子カセッテ21の電源を投入する。このとき、電源回路からバイアス電圧がFPD36の画素37に供給され、ゲートドライバ39および信号処理回路40が動作して、制御回路41によりFPD36はリセット動作を開始する(S11)。続いてコンソール24から撮影条件を入力し、撮影制御装置23を介して電子カセッテ21に撮影条件を設定する。また、線源制御装置14にも撮影条件を設定する。撮影制御装置23から撮影条件を受信すると(S12でYES)、制御回路41によりFPD36はリセット動作から照射開始検出動作に移行する(S13)。
【0071】
以上の撮影準備が完了すると、放射線技師によって照射スイッチ15が一段階押しされる。これにより線源制御装置14にウォームアップ開始信号が送信されて、X線源13のウォームアップが開始される。所定時間経過後に照射スイッチ15が二段階押しされて線源制御装置14に照射開始信号が送信され、X線の照射が開始される。
【0072】
照射開始検出動作では全てのTFT43がオン状態とされる。そして、読み出し動作と同様、定期的に積分アンプ47から電圧信号Diが読み出されて積分アンプ47がリセットされる。電圧信号Diは第一判定部62の第一比較回路64に入力されて閾値th1と比較され、以てX線の照射が開始したか否かが検出される。なお、照射開始検出動作を所定時間行ってもX線の照射開始が検出されない場合は、制御回路41によりFPD36はリセット動作に戻される。
【0073】
電圧信号Diが閾値th1以上となり、第一比較回路64の出力がV1bに変化したことが第一判定回路66で検出(X線の照射開始が検出)されると(S14でYES)、第一判定部62から制御回路41に照射開始検出信号が出力される。照射開始検出信号を受けて、制御回路41は、全てのTFT43をオフ状態にして蓄積動作に移行させる(S15、S18)。
【0074】
第二判定部63では、微分回路68により画素37から信号線46に漏れるリーク電荷に基づく電圧信号Diが一階微分される。そして、この電圧信号Diの一階微分値Di’と第二、第三閾値th2、th3が第二比較回路65で比較され、以て第一判定部62の判定が正しかったか否かが検証される。
【0075】
全判定区間で一階微分値Di’が第二、第三閾値th2、th3で規定する範囲内または範囲外にあり、第二比較回路65の出力がV2aまたはV2bである(第一判定部62の判定が正しい)ことが第二判定回路67で検出されると(S16でYES)、第二判定回路67から制御回路41に検出確定信号が出力される(S17)。この場合は全てのTFT43がオフのS15の状態、すなわち蓄積動作がそのまま継続される(S18)。蓄積動作の間、被検体Hを透過したX線がFPD36の撮像領域38に入射し、画素37にはX線の入射量に応じた信号電荷が蓄積される。
【0076】
線源制御装置14は、撮影条件で設定された照射時間が経過するとX線の照射を停止する。また、FPD36も撮影条件で設定された照射時間に相当する所定時間経過後(S19でYES)、蓄積動作を終了して読み出し動作へ移行する(S20)。読み出し動作では、先頭行から順に一行ずつ画素37に蓄積された信号電荷が読み出され、これが一画面分のX線画像データとしてメモリ51に記録される。この画像データは撮影制御装置23を介してコンソール24に送信される。読み出し動作後、FPD36は、次の撮影条件が設定されていない場合は電源投入直後の状態(リセット動作)に戻り、設定されていた場合はS13に戻り照射開始検出動作を再開する。
【0077】
一方、判定区間において一階微分値Di’が第二、第三閾値th2、th3で規定する範囲内と範囲外を行ったり来たりし、第二比較回路65の出力がV2aとV2bを交互にとる(第一判定部62の判定が誤っている)ことが第二判定回路67で検出されると(S16でNO)、第二判定回路67から制御回路41に誤検出報知信号が出力される(S21)。この場合、制御回路41は、FPD36の蓄積動作を中断させて(S21)、FPD36に一回全画素リセット動作を行わせた後(図8、図9では図示省略)、S13の照射開始検出動作を再開させる。なお、一階微分値Di’が第二、第三閾値th2、th3で規定する範囲内と範囲外を交互にとる回数は本例の一回に限らず、照射開始検出動作中に複数回起こり得る。この場合はその都度誤検出報知信号を出力して照射開始検出信号を取り消す。
【0078】
以上説明したように、本発明は、電圧信号Diの時間的変化に基づき、X線の照射開始の判定が電子カセッテ21の振動によるものか否かを検証し、振動によるものと判定した場合はX線の照射開始の判定を取り消すので、X線の照射開始を誤って検出することを確実に防ぐことができる。このため、誤検出により電子カセッテ21に無用な動作を行わせることがなく、無用な動作で撮影チャンスを逃すおそれもなくなり、X線撮影の高効率化、省電力化を達成することができる。
【0079】
また、X線の照射開始検出を第一、第二判定ステップの二段階で行うため、第一判定ステップの判定基準を比較的緩やかにする(第一判定ステップの閾値th1を低い値に抑える)ことができる。こうするとX線の照射開始と略同時に電圧信号Diが閾値th1以上となってFPD36が蓄積動作を開始するので、X線の照射開始検出には寄与するがX線画像に寄与しないX線量を小さくすることができ、無駄な被曝を低減させることができる。
【0080】
全てのTFTをオン状態にして第一判定ステップを行うので、全てのTFTをオフ状態にしてリーク電荷をモニタリングする場合と比べて電圧信号Diが大きくなり、閾値th1との比較といった処理がし易くなる。従ってより正確な判定をすることができる。振動ノイズはリーク電荷を変換した電圧信号Diに比較的大きい値で乗るため、第二判定ステップで全てのTFT43をオフ状態にしてリーク電荷をモニタリングしても、X線が照射された場合との区別は容易である。なお、第一判定ステップでも全てのTFT43をオフ状態にしてリーク電荷をモニタリングしてもよい。
【0081】
第一判定部62から照射開始検出信号が出力されたタイミングで全てのTFTをオフ状態にし(蓄積動作に移行し)、リーク電荷をモニタリングして第二判定ステップを行うので、ゲートパルスを順次入れていって読み出し動作を行い、その出力を元に判定を行う場合と比べて短時間で判定を行うことができる。振動ノイズの中には数msecで減衰してしまうものがあるため、第二判定に時間が掛かると振動ノイズが収まった後に判定することになり兼ねず、X線が照射された場合と区別がつかなくなってしまうが、第二判定を短時間で行うことでX線が照射された場合と振動ノイズの場合をより確実に区別することができる。なお、第一判定を終えてから第二判定を終えるまでの判定区間の時間は、数msecで減衰する振動を検出するため、例えば3msec未満であることが好ましい。
【0082】
また、照射開始検出信号が出力されてから検出確定信号が出力される間に照射されるX線を無駄なくX線画像に活かすことができる。さらに、蓄積動作に移行する前は全てのTFTをオン状態にしているので、X線の照射有無に関わらず発生する暗電荷が自然に掃き出されて暗電荷に起因するノイズが除去される。従ってX線画像の画質を向上させることができる。
【0083】
誤検出と判定した後すぐに照射開始検出動作を再開するので、真にX線が照射されたことを見逃さずに検出することができる。
【0084】
第二判定をさらに確実なものとするため、上記実施形態の一階微分値Di’と閾値th2、th3との比較に加え、電圧信号Diと一階微分値Di’との比Di’/Diと第四閾値th4を比較して、これらの大小関係が時間的に変化する場合に振動ノイズと判定してもよい。この場合は積分アンプ47と微分回路68の出力が入力されて比Di’/Diを算出する除算回路と、除算回路の出力と第四閾値th4を比較する比較回路と、比較回路の出力電圧を監視する判定回路とを設ける。X線量が微小な場合は、一階微分値Di’と閾値の比較だけでは真にX線が照射されたか振動ノイズかの判定が困難になるため、一階微分値Di’と閾値th2、th3の比較結果と併せて比Di’/Diによる判定を行えば、より第二判定の確実性が増す。
【0085】
上記実施形態では、電圧信号Diの一階微分値Di’を用いて判定を行っているが、これに代えて、あるいは加えて、二階微分値Di’’を用いてもよい。図5(C)において、X線が照射された場合の電圧信号Diの二階微分値Di’’(f’’(t))は、いわゆるガウス関数のような振る舞いをする。対して振動ノイズによる波形の場合の二階微分値Di’’(g’’(t))は、図6(C)に示すように、一階微分の場合と同様位相がずれるのみである。
【0086】
一階微分値Di’に代えて二階微分値Di’’を用いる場合、微分回路68は電圧信号Diを二階微分して二階微分値Di’’を出力する。第二比較回路65は、二階微分値Di’’が第五、第六閾値th5、th6で規定する範囲内にある場合(−th6<Di’’<th5)と、範囲外にある場合(Di’’≦−th6またはDi’’≧th5)とで異なる電圧値V3a、V3bを出力する。第二判定回路67は、全判定区間において第二比較回路65からV3aが出力されていた場合は検出確定信号、V3aとV3bが交互に出力されていた場合は誤検出報知信号をそれぞれ制御回路41に出力する。以降の処理は上記実施形態と同じである。なお、閾値th5、th6は、閾値th2、th3と同様、適切な値が与えられる。例えばth6はth5/2である。
【0087】
一階微分値Di’に加えて二階微分値Di’’を用いる場合は、一階微分値Di’と二階微分値Di’’用の判定部をそれぞれ設ける。そして、各判定部から検出確定信号が出力された場合のみ第一判定部62の判定が正しいとし、各判定部のいずれか一方から誤検出報知信号が出力された場合は第一判定部62の判定が誤っているとする。各判定部の両方から誤検出報知信号が出力された場合のみ第一判定部62の判定が誤っているとしてもよい。
【0088】
単調増加する関数f(t)は高次の微分が0に近付くが、正弦波のような関数g(t)は何度微分を繰り返しても位相が変わるだけで振幅は中々小さくならない。このため、二階微分値Di’’を判定に用いれば、X線が照射された場合と振動ノイズの場合とがよりはっきりと区別可能となり、さらに確実に誤検出を防止することができる。但し、あまり高次の微分を行うと判定のタイミングが遅くなり、振動ノイズが収まった後に判定するという事態を招くため、二階微分が適当である。
【0089】
微分回路を用いずに第二判定をすることも可能である。判定区間において一定のサンプリング間隔で電圧信号Diと第七閾値th7を比較し、全点で電圧信号Diが閾値th7以上であった場合は、真にX線が照射されたと判定する。X線が照射された場合の電圧信号Diは単調増加するが、振動ノイズの場合の電圧信号Diは振動中心を行ったり来たりするため全点で第七閾値以上とはならない。これを利用して真にX線が照射された場合と振動ノイズの場合を区別することができる。微分回路を用いなくてもよいため判定時間を短縮化することができ、コストを抑えることができる。
【0090】
撮像領域38の中央付近の画素37の列に照射検出部61を設ける例を説明したが、画素37の複数列に照射検出部61を設けてもよいし、全列に設けてもよい。複数列または全列に設ける場合は、信号処理回路40を構成するASIC単位の隣り合う4〜8列を一組として、各組の電圧信号Diの単純平均、あるいは電圧信号Diの最大値と最小値を除いた平均を判定に用いてもよい。一列で判定するよりも複数列で判定した方が検出精度を上げることができる。
【0091】
上記実施形態では、積分アンプから出力されるアナログ電圧信号と閾値を比較することで照射検出を行っているが、A/D変換後のデジタル化した電圧信号と閾値を比較してもよい。
【0092】
なお、本発明に係るX線撮影システムは、上記実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【0093】
X線撮影システム10は病院の撮影室に据え置かれるタイプに限らず、回診車に搭載されるタイプや、X線源13、線源制御装置14、電子カセッテ21、撮影制御装置23等を事故、災害等の緊急医療対応が必要な現場や在宅診療を受ける患者の自宅に持ち運んでX線撮影を行うことが可能な可搬型のシステムに適用してもよい。特に回診車に搭載されるタイプや可搬型のシステムは、病院の撮影室に据え置かれるタイプに比べて電子カセッテ21が衝撃を受けやすいため、本発明を適用すれば格別の効果を得られる。
【0094】
上記実施形態の順次リセット方式に代えて、配列画素の複数行を一グループとしてグループ内で順次リセットを行い、グループ数分の行の暗電荷を同時に掃き出す並列リセット方式を用いてもよい。並列リセット方式によりリセット動作を高速化することができる。
【0095】
X線源の中には、陽極が回転しない固定陽極型のものや、予熱が不要な冷陰極型の線源等、ウォームアップが不要なものもある。このため、照射スイッチとしては照射開始信号を発生する機能のみを有するものでもよい。また、ウォームアップが必要なX線源の場合でも、照射スイッチから線源制御装置に対して照射開始信号を入力し、線源制御装置が照射開始信号に基づいてウォームアップを開始させ、ウォームアップ終了後、照射を開始させるようにすれば、照射スイッチにウォームアップ開始信号を発生する機能を設ける必要もない。
【0096】
上記実施形態では、電子カセッテと撮影制御装置を別体で構成した例で説明したが、撮影制御装置の機能を電子カセッテの制御回路に内蔵する等、電子カセッテと撮影制御装置を一体化してもよい。また、コンソールで画像処理を行うとしているが、撮影制御装置で行ってもよい。
【0097】
上記実施形態では、可搬型のX線画像検出装置である電子カセッテを例に説明したが、据え置き型のX線画像検出装置に本発明を適用してもよい。
【0098】
本発明は、X線に限らず、γ線等の他の放射線を使用する撮影システムにも適用することができる。
【符号の説明】
【0099】
10 X線撮影システム
11 X線発生装置
12 X線撮影装置
13 X線源
14 線源制御装置
21 電子カセッテ
23 撮影制御装置
23a CPU
24 コンソール
36 FPD
37 画素
40 信号処理回路
41 制御回路
61 照射検出部
62、63 第一、第二判定部
64、65 第一、第二比較回路
66、67 第一、第二判定回路
68 微分回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線源から照射された放射線を受けて信号電荷を蓄積する複数の画素が配列され、各画素にスイッチング素子が設けられた放射線画像検出器と、
画素で発生する電荷を変換した電気信号と閾値との比較結果に基づき放射線の照射が開始されたか否かを判定する第一判定部と、
電気信号が閾値以上となり、前記第一判定部で放射線の照射が開始されたと判定した後の電気信号の時間的変化に基づき、該電気信号が真に放射線の照射によるものか振動によるものかを検証し、前記第一判定部の判定が正しいか否かを判定する第二判定部と、
第一、第二判定部の判定結果に応じて前記放射線画像検出器の動作を制御する制御手段とを備えることを特徴とする放射線画像検出装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記第一判定部で放射線の照射が開始されたと判定した後、前記放射線画像検出器の蓄積動作を開始させ、
前記第二判定部で前記第一判定部の判定が正しいと判定された場合は前記放射線画像検出器に蓄積動作を継続して行わせ、
前記第二判定部で前記第一判定部の判定が誤っていると判定された場合は前記放射線画像検出器の蓄積動作を中断させて前記第一判定部による判定を再開させることを特徴とする請求項1に記載の放射線画像検出装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記第一判定部で判定する際には全てのスイッチング素子をオン状態とすることを特徴とする請求項1または2に記載の放射線画像検出装置。
【請求項4】
前記制御手段は、電気信号が閾値以上となり、前記第一判定部で放射線の照射が開始されたと判定したときに全てのスイッチング素子をオフ状態にし、
前記第二判定部は、この状態で画素から漏れるリーク電荷に基づき判定を行うことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の放射線画像検出装置。
【請求項5】
前記第二判定部は、前記第一判定部で放射線の照射が開始されたと判定した後から所定区間の複数の時点における電気信号と閾値の比較結果に基づき判定を行うことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の放射線画像検出装置。
【請求項6】
前記第二判定部は微分回路を有し、電気信号の微分値と閾値の比較結果に基づき判定を行うことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の放射線画像検出装置。
【請求項7】
前記第二判定部は、電気信号とその微分値の比と閾値の比較結果に基づき判定を行うことを特徴とする請求項6に記載の放射線画像検出装置。
【請求項8】
前記微分回路は電気信号を一階微分または二階微分することを特徴とする請求項6または7に記載の放射線画像検出装置。
【請求項9】
前記放射線画像検出器の中央付近に配置される画素を前記第一、第二判定部の判定に用いることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか一項に記載の放射線画像検出装置。
【請求項10】
可搬型の筐体に収容された電子カセッテであることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか一項に記載の放射線画像検出装置。
【請求項11】
画素で発生する電荷を変換した電気信号が閾値以上となり、放射線の照射が開始されたと第一判定部で判定した場合、放射線画像検出器の蓄積動作を開始させるとともに、その後の電気信号の時間的変化に基づき、第二判定部で該電気信号が真に放射線の照射によるものか振動によるものかを検証して第一判定部の判定が正しいか否かを判定し、
第二判定部で第一判定部の判定が正しいと判定された場合は放射線画像検出器に蓄積動作を継続して行わせ、
第二判定部で第一判定部の判定が誤っていると判定された場合は放射線画像検出器の蓄積動作を中断させて第一判定部による判定を再開させることを特徴とすることを特徴とする放射線画像検出装置の駆動制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−110565(P2012−110565A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263539(P2010−263539)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】