説明

断熱構造体

【課題】エンジンの冷却損失の低減等に利用することができる断熱構造体を提供する。
【解決手段】金属製母材11の表面に多数の中空粒子14が密に充填された状態に設けられてなる中空粒子層12が設けられ、該中空粒子層12が皮膜13で覆われている構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン等に適用する断熱構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン部品のような高温ガスに晒される金属製品の場合、高温ガスからの熱伝達を抑制するために、その金属製母材の表面に断熱層を形成することが行なわれている。例えば、特許文献1には、エンジン部品の燃焼室に臨む面に中空のセラミックビーズを含有する断熱膜を形成することが記載されている。特許文献2には、シリカ質中空球状体の表面にアルミナ微粒子を被覆し、得られた被覆物を加圧成形し、得られた成形体を焼結して断熱材に用いることが記載されている。特許文献3には、エンジンのシリンダヘッドにおける燃焼室に臨む面に凹凸を形成し、その凹部にジルコニア系の低熱伝導材を充填してシリンダヘッドの耐熱性を高めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−243352号公報
【特許文献2】特開平05−58760号公報
【特許文献3】特開2005−146925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車の燃費を高めるために、車体の軽量化、エンジンの熱効率の改善、機械抵抗の低減、電気負荷の低減、排気エネルギーの回収・利用等が図られている。このうち、エンジンの熱効率に関しては、理論的には、幾何学的圧縮比を高めるほど、また、作動ガスの空気過剰率を大きくする(比熱比を高める)ほど、その熱効率が高くなることが知られている。しかし、実際には、圧縮比を大にするほど、また、空気過剰率を大にするほど、冷却損失(外部に熱として奪われるエネルギー)が大きくなるため、圧縮比や空気過剰率の増大による熱効率の改善は頭打ちになる。
【0005】
すなわち、冷却損失は、作動ガスからエンジン燃焼室壁への熱伝達率、その伝熱面積、並びにガス温と壁温との温度差に依存する。そのうち、熱伝達率はガス圧及び温度の関数である。従って、圧縮比及び空気過剰率の増大によりガス圧及び温度が高くなると、熱伝達率が高くなり、冷却損失が大きくなる。また、壁温とガス温との温度差も大きくなるから、そのことによっても、冷却損失が大きくなる。このため、例えば圧縮比20以上の超高圧縮比にすることは、高膨張比にもなり、排気損失の低減に有効であるにも拘わらず、上記冷却損失のために実現できていないのが現状である。
【0006】
一方、圧縮比を大きく高めるのではなく、排気エネルギーを回収することによってエンジンの効率化(燃費改善)を図ることも考えられる。しかし、この場合も、冷却損失が大きいときには、それだけ排気エネルギーが小さくなるから、圧縮比を高める場合と同じく、冷却損失の低減が重要になる。
【0007】
そこで、本発明は、上記エンジンの冷却損失の低減等に利用することができる断熱構造体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、中空粒子を利用した断熱構造とした。すなわち、ここに提示する断熱構造体は、金属製母材の表面に多数の中空粒子が密に充填された状態に設けられてなる(換言すれば、多数の中空粒子が敷き詰められてなる)中空粒子層が設けられ、該中空粒子層が皮膜で覆われていることを特徴とする。
【0009】
上記断熱構造体によれば、多数の中空粒子が密に充填された状態になっている中空粒子層によって高い空気断熱効果が得られる。また、空気により単位体積あたりの熱容量(容積比熱)が小さくなるので、断熱構造体表面温度が燃焼室ガス温に応答性良く追従することになり、冷却損失が改善する。そして、中空粒子層を覆う皮膜が、外力等による中空粒子の損壊を防止するとともに、中空粒子の脱離ないし剥離を防止するから、耐久性が得られる。
【0010】
好ましいのは、上記中空粒子層の相隣る中空粒子同士が互いに接合されていることである。これにより、中空粒子層のバルクとしての強度が高くなり、耐久性確保に有利になる。
【0011】
好ましいのは、上記中空粒子層の中空粒子同士の隙間に微細中実粒子が介在していることである。これにより、中空粒子層のバルクとしての強度が高くなり、耐久性確保に有利になる。
【0012】
好ましいのは、上記中空粒子層が上記金属製母材にろう付けされていることである。これにより、中空粒子層の金属製母材に対する結合力が高くなり、中空粒子層の剥離防止、耐久性の確保に有利になる。
【0013】
好ましいのは、上記金属製母材側から該金属製母材を形成する金属が上記中空粒子層の中空粒子同士の隙間に含浸固化し、該含浸固化部を介して上記金属製母材と中空粒子層とが一体になっていることである。これにより、中空粒子層の金属製母材に対する結合力が高くなり、すなわち、中空粒子層の剥離が防止され、耐久性の確保に有利になる。
【0014】
好ましいのは、上記皮膜の熱伝導率が上記中空粒子層の熱伝導率よりも高いことである。すなわち、上記中空粒子層の厚みが全体にわたって均一にならず、局部的に厚い部分や薄い部分を生じた場合、断熱性の違いによって皮膜温度に局部的なばらつきを生ずるおそれがある。例えば、上記皮膜がエンジンの燃焼室壁面を形成しているケースでは、皮膜温度が局部的に高くなった部分は異常燃焼の着火源となるおそれがある。そこで、上記皮膜の熱伝導率を高くすることにより、皮膜の広がり方向の熱拡散を良くし、皮膜温度が局部的に高くならないようにするというものである。このように皮膜温度の局部的なばらつきが問題になる場合は、皮膜の熱伝導率を中空粒子層の熱伝導率の10倍以上にすること、さらには100倍以上にすることが好ましい。断熱構造体表面温度を燃焼室ガス温に応答性良く追従させるためには、皮膜の熱容量が中空粒子層の熱容量よりも大きくならないようにすることが好ましく、そのため、皮膜の厚さは中空粒子層の厚さの1/2以下にすることが好ましい。
【0015】
一方、当該断熱構造体の断熱性をできるだけ高める観点からは、上記皮膜の熱伝導率が上記金属製母材の熱伝導率よりも低いことが好ましい。また、皮膜の容積比熱が金属製母材の容積比熱よりも小さいことが好ましい。
【0016】
好ましい実施形態では、上記断熱構造体はエンジン部品を構成し、該エンジン部品のエンジン燃焼室に臨む面、吸気ポート内壁面又は排気ポート内壁面が上記中空粒子層及び皮膜よりなる断熱層で形成される。
【0017】
エンジン部品のエンジン燃焼室に臨む面が上記中空粒子層及び皮膜よりなる断熱層で形成されている場合は、エンジンの冷却損失の低減に有利になる。
【0018】
シリンダヘッドの吸気ポート内壁面が上記中空粒子層及び皮膜よりなる断熱層で形成されている場合は、吸気が筒内に吸入されるまでにシリンダヘッドによって加熱されることを抑制することができる。すなわち、筒内への吸気の充填効率を高くする上で有利になる。或いは、幾何学的圧縮比が高い(例えばε=20〜50程度)エンジンにおいて、圧縮前の筒内ガス温度を低くすることができ、異常燃焼(早期着火)の防止に有利になり、また、燃焼温度が異常に高温になること(そのことによって冷却損失が大きくなること、NOxが発生し易くなること)を防止する上で有利になる。
【0019】
シリンダヘッドの排気ポート内壁面が上記中空粒子層及び皮膜よりなる断熱層で形成されている場合は、燃焼排ガスを温度が高い状態で排出することができ、排気エネルギーの回収に有利になる。
【0020】
上記エンジン部品としては、ピストン、シリンダヘッド、シリンダブロック、シリンダライナ、吸気バルブ又は排気バルブがあげられる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明に係る断熱構造体によれば、金属製母材の表面に多数の中空粒子が密に充填された状態に設けられてなる中空粒子層が設けられ、該中空粒子層が皮膜で覆われているから、中空粒子層によって高い空気断熱効果が得られるとともに、容積比熱が小さくなるので、断熱構造体表面温度が燃焼室ガス温に応答性良く追従することになり、冷却損失が改善し、しかも、中空粒子層を覆う皮膜が、外力等による中空粒子の損壊を防止するとともに、中空粒子の脱離ないし剥離を防止するから、耐久性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジン構造を示す断面図である。
【図2】仕様が相異なるエンジンの幾何学的圧縮比と図示熱効率との関係を示すグラフ図である。
【図3】仕様が相異なるエンジンの空気過剰率λと図示熱効率との関係を示すグラフ図である。
【図4】本発明の実施形態に係るアルミ合金製ピストンの断熱構造を示す断面図である。
【図5】同ピストンの断熱層の拡大断面図である。
【図6】同断熱層の中空粒子層に用いる中空粒子成形体の一部を示す断面図である。
【図7】別の実施形態に係る中空粒子成形体の一部を示す断面図である。
【図8】別の実施形態に係るピストンの断熱層の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0024】
この実施形態は、図1に示すエンジンのピストン1に本発明に係る断熱構造を採用したものである。
【0025】
<エンジンの特徴>
図1において、2はシリンダブロック、3はシリンダヘッド、4はシリンダヘッド3の吸気ポート5を開閉する吸気バルブ、6は排気ポート7を開閉する排気バルブ、8は燃料噴射弁である。エンジンの燃焼室は、ピストン1の頂面、シリンダブロック2、シリンダヘッド3、吸排気バルブ4,6の傘部前面(燃焼室に臨む面)で形成される。ピストン1の頂面には、キャビティ9が形成されている。なお、点火プラグの図示は省略している。
【0026】
このエンジンは、幾何学的圧縮比ε=20〜50とされ、少なくとも部分負荷域での空気過剰率λ=2.5〜6.0で運転されるリーンバーンエンジンである。このため、先に説明したように、エンジンの冷却損失を大幅に低減させなければ、すなわち、エンジンの断熱性を高くしなければ、その圧縮比ε及び空気過剰率λに見合う所期の熱効率を得ることができない。この点をモデル計算による図示熱効率に基いて説明する。すなわち、圧縮比εを増大させていったとき、燃焼室を断熱構造にするか否かで、また、空気過剰率λの大小で、図示熱効率がどのように影響されるかをモデル計算した。
【0027】
図2はその結果を示す。同図において、「断熱なし」は、燃焼室に断熱構造を採用していない従来のエンジンを意味し、「断熱あり」は、「断熱なし」の従来のエンジンよりも燃焼室の断熱率を50%高めたエンジンを意味する。「200kPa」及び「500kPa」はエンジン負荷の大きさを表す。
【0028】
まず、「断熱なし 200kPa λ=1」の場合、圧縮比εの増大に伴って図示熱効率が増大しているが、圧縮比ε=50を越えても図示熱効率は大きく改善せず、圧縮比ε=50での理論効率は80%程度であるから、当該エンジンの図示熱効率はかなり低い。この差の大部分は冷却損失及び排気損失である。
【0029】
「断熱なし 200kPa λ=2」の場合、空気過剰率の増加により比熱比が小さくなるため、図示熱効率が高くなっているが、それでも、理論効率からみれば低い。「断熱なし 200kPa λ=4」及び「断熱なし 200kPa λ=6」をみると、圧縮比εが15又は25を越えると、該圧縮比εが大きくなるほど図示熱効率が低下している。これは、空気過剰率λが大きい(混合気の空気密度が高い)ことから、高圧縮比になると燃焼時のガス圧が非常に高くなり、ガス圧及び温度の関数である熱伝達率が高くなって冷却損失が大きくなるためである。すなわち、空気過剰率λの増大(比熱比の増大)による熱効率の上昇を上回って冷却損失が大きくなるためである。
【0030】
これに対して、「断熱あり 200kPa λ=2.5」では、圧縮比εの増大に伴って図示熱効率が増大している。空気過剰率λを高めた「断熱あり 200kPa λ=6」では、圧縮比εが40を越えると、図示熱効率が若干下がり気味になるものの、図示熱効率は圧縮比ε=20〜50において非常に高い値になっている。エンジン負荷を高めた「断熱あり 500kPa λ=2.5」でも、図示熱効率は圧縮比ε=20〜50において高い値になっている。
【0031】
図3は空気過剰率λと図示熱効率との関係をみたグラフである。「断熱なし 200kPa ε=15」では、空気過剰率λ=4.5付近で図示熱効率がピークになり、それよりも空気過剰率λが増大するほど図示熱効率が低下している。これに対して、「断熱あり 200kPa ε=40」では、空気過剰率λ=6.0付近で図示熱効率がピークになっている。圧縮比εが高いことと、断熱による冷却損失抑制の効果である。
【0032】
上記リーンバーンエンジンの場合、少なくとも部分負荷域では空気過剰率λ=2.5以上で運転するから、NOx発生の抑制に有利になる。圧縮比εが高くなると、燃焼温度が高くなるが、空気過剰率λをエンジン負荷が高くなるほど大きくなるように制御することにより、燃焼最高温度が1800Kを越えないようにしてNOx発生を抑制することができる。
【0033】
また、図示は省略するが、上記エンジンの吸気系には吸気を冷却するインタークーラーが設けられている。これにより、圧縮開始時の筒内ガス温度が低くなり、燃焼時のガス圧及び温度の上昇が抑えられ、冷却損失の低減(図示熱効率の改善)に有利になる。
【0034】
<断熱構造>
そこで、以下では、上記超高圧縮比ε=20〜50及び高空気過剰率λ=2.5〜6.0で運転されるエンジンにおける、図示熱効率を高める上で必要となる冷却損失低減のための断熱構造について説明する。
【0035】
図4はピストン1の断熱構造を示す。すなわち、ピストン1は、エンジンの燃焼室を形成する頂面に断熱層を備えている。その断熱層は、ピストン母材11の頂面全体にわたって形成された中空粒子層12と、該中空粒子層12を覆う皮膜13とからなる。図5に示すように、中空粒子層12は、ピストン母材11の頂面に多数の中空粒子14が密に充填された状態に設けられてなり(多数の中空粒子14が一層以上敷き詰められてなり)、ピストン母材11にろう材15で接合されている(ろう付け)。また、図6に示すように、相隣る中空粒子14同士は互いの接点16において接合されている。
【0036】
ピストン母材11は、例えば鋳物用アルミ合金AC8A(熱伝導率;141.7W/(m・K),容積比熱;2300kJ/(m・K))で成形することができ、或いは他のアルミ合金を採用することができる。或いは鋳鉄製ピストンとすることもできる。
【0037】
中空粒子14としては、アルミナバブル、フライアッシュバルーン、シラスバルーン、シリカバルーン、エアロゲルバルーン等のセラミック系中空粒子、その他の無機系中空粒子採用することができる。各々の材質及び粒径は表1のとおりである。
【0038】
【表1】

【0039】
例えば、フライアッシュの化学組成は、SiO;40.1〜74.4%、Al;15.7〜35.2%、Fe;1.4〜17.5%、MgO;0.2〜7.4%、CaO;0.3〜10.1%(以上は質量%)である。シラスバルーンの化学組成は、SiO;75〜77%、Al;12〜14%、Fe;1〜2%、NaO;3〜4%、KO;2〜4%、IgLoss;2〜5%(以上は質量%)である。
【0040】
上記例示した中空粒子の場合、中空粒子層12の熱伝導率は0.03〜0.3W/(m・K)程度であり、その容積比熱は200〜1900kJ/(m・K)程度になる。
【0041】
皮膜13に関しては、中空粒子層12よりも熱伝導率が高い皮膜とする場合、その皮膜材料としては金属、例えばアルミ合金、Ni、Ni−Cr合金等を採用すればよい。熱伝導率は、鋳物用アルミ合金AC8Aが141.7W/(m・K)、Ni−20Cr合金が12.6W/(m・K)、Niが97W/(m・K)であり、容積比熱は、鋳物用アルミ合金AC8Aが2300kJ/(m・K)、Ni−20Cr合金が3660kJ/(m・K)、Niが3980kJ/(m・K)となる。
【0042】
断熱性を高めるべくピストン母材1よりも熱伝導率が低い皮膜とする場合、皮膜材料としては、ZrO等の金属酸化物を採用すればよい。例えば、Y安定化ZrO(YSZ)を皮膜材料とした場合、皮膜13の熱伝導率は1.44W/(m・K)、その容積比熱は2760kJ/(kg・K)となる。この場合、皮膜13はプラズマ溶射によって多孔質とすることができ、例えば、気孔率10%では熱伝導率が0.87W/(m・K)、気孔率25%では熱伝導率が0.77W/(m・K)になる。
【0043】
中空粒子層12の厚さは例えば10〜1000μm程度とし、皮膜13の厚さは例えば1〜500μm程度にすればよい。
【0044】
相隣る中空粒子14の接点の接合にはパルス通電焼結法(放電プラズマ焼結法)を採用することができる。この方法によれば、加圧しながらパルス状電圧及び電流を印加するので、中空粒子14間の空隙で放電を生じさせることができ、局所的加熱によって中空粒子14の損壊を招くことなく、該粒子同士を接合することができる。
【0045】
上記例示する中空粒子14の主成分はAl及び/又はSiOであるから、パルス通電焼結は、圧力1〜300MPa、温度700〜1700℃、時間1〜60分、電流50〜10000A、電圧4〜20V、周波数5〜30000Hzの条件で実施すればよい。例えば、アルミナバブル(粒径100〜500μm)であれば、圧力30〜100MPa、電流50〜4000A、電圧4〜10V、周波数10〜10000Hz、温度900〜1200℃、時間1〜20分の条件とすればよく、フライアッシュバルーンであれば、圧力50MPa、電流80〜150A、電圧5V、周波数10Hz、温度700〜1100℃、時間20分以下の条件とすればよい。
【0046】
上記断熱構造を有するピストン1は次の方法で得ることができる。すなわち、ピストン母材11の頂面にろう材を載せ、その上に上記パルス通電焼結法で得たシート状の中空粒子成形体を載せる。そして、加熱よってろう材を溶融させ、加圧冷却して、中空粒子成形体を中空粒子層12としてピストン母材11の頂面に固定する。ろう材としては、例えば、日本アルミット社製AM−350(アルミニウム用ハンダ(Zn−5Al),ろう付け温度350〜400℃)を採用することができる。次いで、中空粒子層12の表面に皮膜材をプラズマ溶射することにより(皮膜材としてNiを採用する場合には無電解めっきでもよい)皮膜13を形成する。
【0047】
上記ピストンの断熱構造によれば、中空粒子層12は、多数の中空粒子14が密に充填された状態になっているから、高い空気断熱効果が得られる。燃料の燃焼によって発生するエネルギーが熱としてピストン1を介して外部に奪われる量が少なくなる(冷却損失が小さくなる。)。
【0048】
中空粒子層12は、相隣る中空粒子14同士が互いに接合されているから、バルクとしての強度が高くなる。皮膜13は、中空粒子層12への燃料の染み込みやカーボンの侵入を防ぐとともに、外力等による中空粒子14の損壊、或いは中空粒子14の脱離ないし剥離を防止する。図5に示すように、中空粒子層12の表面に微小凹凸が形成されている(表層部の相隣る中空粒子14間が凹部になっている)から、皮膜材がその凹部に入り、中空粒子層12と皮膜13との密着力が強くなる。また、中空粒子層12がピストン母材11にろう付けされているから、中空粒子層12の剥離が防止される。
【0049】
また、皮膜材として、アルミ合金、Ni、Ni−Cr合金等を採用し、皮膜13の熱伝導率を中空粒子層12の熱伝導率よりも高くしたケースでは、皮膜13の広がり方向の熱拡散が良好になる。従って、ピストン頂面に局部的に温度が高くなる部分(異常燃焼の着火源となる部分)を生ずることが避けられる。
【0050】
皮膜材として、例えば、プラズマ溶射で生成したY安定化ZrOのような熱伝導率が低く、容積比熱も小さいものを採用したケースでは、断熱性の確保に有利になる。特に、皮膜13の容積比熱が小さいときは、ピストン1の頂部の表面温度自体は燃料の燃焼による燃焼室温度の上昇に伴って速やかに上昇する。よって、燃焼室のガス温とピストン頂部の表面温度との差が大きくならず、冷却損失が少なくなる。
【0051】
上記実施形態では、中空粒子14を焼結して中空粒子成形体を得たが、個々の中空粒子14の表面に薄いバインダ膜を設けておいて加熱加圧成形することにより、バインダによって中空粒子14同士が接合された中空粒子成形体を得るようにしてもよい。この場合、バインダとしては耐熱性を確保する観点から、シリコン系やグラファイト系のものが好ましい。
【0052】
上記実施形態の中空粒子層12では中空粒子14同士が接合されているが、図7に示すように、密充填状態の中空粒子14同士の隙間に微細中実粒子17を介在させるようにしてもよい。これにより、中空粒子層12のバルクとしての強度が高くなり、耐久性確保に有利になる。この場合、上記実施形態のように互いに接合された中空粒子14同士の隙間に微細中実粒子17を介在させるようにすることがさらに好ましい。
【0053】
微細中実粒子17としては、熱伝導率がピストン母材11よりも低いジルコニア、シリカ、アルミナ、窒化ケイ素等の金属酸化物或いは非酸化物セラミックスの粒子が好ましい。例えば、微細中実粒子のゾルを調製し、このゾルを中空粒子層12に含浸させた後、水分を蒸発させることによって、その微細中実粒子を中空粒子14同士の隙間に介在させることができる。
【0054】
上記実施形態では、中空粒子成形体をピストン母材11にろう付けしたが、鋳ぐるみによって中空粒子成形体をピストン母材11に複合一体化することができる。すなわち、ピストン成形用の金型に中空粒子成形体を入れた状態でアルミ合金溶湯を加圧注入するというものである。アルミ合金溶湯は中空粒子成形体の中空粒子同士の隙間に含浸して固化することになる。よって、図8に示すように、ピストン母材11と中空粒子層12とは、中空粒子同士の隙間に含浸したアルミ合金固化部を介して一体に結合された状態になる。かかる複合体構造によれば、中空粒子層12のピストン母材11に対する結合力が高くなり、中空粒子層12の剥離防止、耐久性の確保に有利になる。
【符号の説明】
【0055】
1 ピストン(断熱構造体の一例)
2 シリンダブロック
3 シリンダヘッド
4 吸気バルブ
5 吸気ポート
6 排気バルブ
7 排気ポート
8 燃料噴射弁
9 キャビティ
11 ピストン母材(金属製母材の一例)
12 中空粒子層
13 皮膜
14 中空粒子
15 ろう材
17 微細中実粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製母材の表面に多数の中空粒子が密に充填された状態に設けられてなる中空粒子層が設けられ、該中空粒子層が皮膜で覆われていることを特徴とする断熱構造体。
【請求項2】
請求項1において、
上記中空粒子層の相隣る中空粒子同士が互いに接合されていることを特徴とする断熱構造体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記中空粒子層の中空粒子同士の隙間に微細中実粒子が介在していることを特徴とする断熱構造体。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
上記中空粒子層が上記金属製母材にろう付けされていることを特徴とする断熱構造体。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
上記金属製母材側から該金属製母材を形成する金属が上記中空粒子層の中空粒子同士の隙間に含浸固化し、該含浸固化部を介して上記金属製母材と中空粒子層とが一体になっていることを特徴とする断熱構造体。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一において、
上記皮膜は、上記中空粒子層よりも熱伝導率が高いことを特徴とする断熱構造体。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5のいずれか一において、
上記皮膜は、上記金属製母材よりも熱伝導率が低いことを特徴とする断熱構造体。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一において、
上記金属製母材は、エンジン部品を構成し、該エンジン部品のエンジン燃焼室に臨む面、吸気ポート内壁面又は排気ポート内壁面に上記中空粒子層及び皮膜が形成されていることを特徴とする断熱構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−72746(P2012−72746A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220097(P2010−220097)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】