説明

方向性電磁鋼板の酸化物被膜密着強度評価方法およびその評価装置

【課題】方向性電磁鋼板について、地鉄と酸化物被膜の密着強度の大きさを、非接触かつ非破壊で、簡易的に、しかも短時間で連続的にオンライン評価する方法を提供する。
【解決手段】地鉄表面に酸化物被膜と、該酸化物被膜の表面に絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板の酸化物被膜密着強度を評価する方法であって、前記方向性電磁鋼板の幅方向に亘る領域を照明する工程と、前記方向性電磁鋼板の照明された領域を含む範囲を撮像して撮像画像を得る工程と、前記撮像画像中、画像処理により前記方向性電磁鋼板の照明された領域の輝度値Lを得る工程と、方向性電磁鋼板の輝度値Lと曲げ剥離径Dとの関係式に基づき、前記輝度値Lから曲げ剥離径算出値Dを算出する工程とを有する方法で、方向性電磁鋼板の酸化物被膜密着強度を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地鉄表面に酸化物被膜と、その酸化物被膜の外側表面に絶縁被膜とが形成された方向性電磁鋼板において、地鉄と酸化物被膜の密着強度を評価する方法およびその評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、地鉄表面に、例えばフォルステライト(MgSiO)やスピネル(MgAl)のような酸化物被膜と絶縁被膜とを形成して、所望の磁気特性と外部との電気的な絶縁性を付与することが一般的である。
【0003】
方向性電磁鋼板の製造において、地鉄と酸化物被膜との密着強度の評価は、最終製品の抜き取り検査で行うことが多い。そのため、製造ラインで方向性電磁鋼板を抜き取る作業や、測定用の試料の調整が必要となる。また、抜き取り作業や試料調整に時間を要し、作業コストの負荷が大きい。
【0004】
また、抜き取り検査は、方向性電磁鋼板のコイルの先端部と尾端部でしか実施することができないため、コイル全長に亘って酸化物被膜の密着強度を評価することは不可能であり、しばしば密着性不良(密着強度不足)のトラブルが発生する。
【0005】
そして、方向性電磁鋼板を用いた巻きトランスを作製する際に、酸化物被膜の剥離が発生すると、絶縁不良によって方向性電磁鋼板同士が導通し、焼付き等の重大なトラブルを引き起こすため、特に問題となる。
【0006】
方向性電磁鋼板の酸化物被膜の密着強度を評価する代表的な方法としては、曲げ剥離径を測定する方法がある。この評価方法は、方向性電磁鋼板から採取した小片を、直径の異なる複数の丸棒の表面に巻きつけて、酸化物被膜に欠陥、剥離が発生する丸棒径の限界値を求めて評価する方法である。
【0007】
そして、曲げ剥離径が小さいほど優れた密着性を有すると判定し、例えば、曲げ剥離径が50mm以下であるとき、密着強度が十分大きい(密着性良好)と評価する。
【0008】
その他、酸化物被膜の密着強度を評価する代表的な方法として、特許文献1、2には、絶縁被膜を除いた方向性電磁鋼板において、酸化物被膜表面から行うグロー放電発光分析(GDS分析)によって得られるSiのピーク強度とAlのピーク強度との比率、または、Alのピーク強度とFeのピーク強度との比率が、曲げ剥離径が20mm以下である率と相関関係を有し、その相関関係から酸化物被膜の密着強度を評価する技術が記載されている。
【0009】
また、特許文献3には、最終仕上げ焼鈍後の方向性電磁鋼板の表面で蛍光X線カウント分析を行い、MgOを主体とする仕上げ焼鈍分離剤を塗布した鋼板と塗布しない鋼板とで、Mgの強度比を求め、これらのMg強度比と酸化物被膜の密着性とが相関関係を有することを利用して、酸化物被膜の密着強度を評価する技術が記載されている。
【0010】
しかしながら、特許文献1〜3に記載された従来の酸化物被膜密着強度評価の方法は、方向性電磁鋼板の製造時にオフラインでサンプルを調整しなければならないという問題があった。また、調整したサンプルの組成分析に多大の時間を要するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−61356号公報
【特許文献2】特開2000−204450号公報
【特許文献3】特開2007−100165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来技術における問題に鑑み、方向性電磁鋼板について、地鉄と酸化物被膜の密着強度の大きさを、非接触かつ非破壊で、簡易的に、しかも短時間で連続的にオンライン評価する方法およびその評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意研究を重ねた結果、酸化物被膜と絶縁被膜とを有する方向性電磁鋼板の表面を均一に照明したとき、方向性電磁鋼板の表面の明るさ、すなわち輝度値と、酸化物被膜密着強度の指標となる曲げ剥離径とに相関関係があることを見出し、この相関関係から、地鉄と酸化被膜の密着強度の大きさを、非接触かつ非破壊で、簡易的に、しかも短時間で連続的にオンライン評価できることを知見した。
【0014】
本発明は、上記の知見に基づきなされたもので、その要旨は次の通りである。
【0015】
(1)地鉄表面に酸化物被膜と、該酸化物被膜の表面に絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板の酸化物被膜密着強度を評価する方法であって、
前記方向性電磁鋼板の幅方向に亘る領域を照明する工程と、
前記方向性電磁鋼板の照明された領域を含む範囲を撮像して撮像画像を得る工程と、
前記撮像画像中、画像処理により前記方向性電磁鋼板の照明された領域の輝度値Lを得る工程と、
方向性電磁鋼板の輝度値Lと曲げ剥離径Dとの関係式に基づき、前記輝度値Lから曲げ剥離径算出値Dを算出する工程と
を有し、
該曲げ剥離径算出値Dを測定して被膜付着強度を評価することを特徴とする方向性電磁鋼板の酸化物被膜密着強度評価方法。
【0016】
(2)上記(1)に記載の方向性電磁鋼板の被膜密着強度の評価方法であって、前記方向性電磁鋼板の幅方向に亘る領域、および、該領域と並列に配地された複数の参照鋼板からなる領域を照明する工程と、前記照明された領域を含む範囲を撮像して撮像画像を得る工程と、前記撮像画像について、前記方向性電磁鋼板および複数の参照鋼板それぞれの照明された領域に対応する画素領域の輝度値を求める工程と、前記複数の参照鋼板それぞれの輝度値Lと該複数の参照鋼板それぞれについて予め設定した曲げ剥離径Dとに基づき前記関係式を構成し、前記画素領域の輝度値を用いて前記方向性電磁鋼板の曲げ剥離径Dを演算する工程とを有し、該曲げ剥離径Dを測定して被膜付着強度を評価することを特徴とする方向性電磁鋼板の被膜密着強度の評価方法。
【0017】
(3)前記酸化物被膜はフォルステライトを含む酸化物被膜であることを特徴とする(1)に記載の方向性電磁鋼板の酸化物被膜密着強度評価方法。
【0018】
(4)前記方向性電磁鋼板が、通板中であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の方向性電磁鋼板の酸化物被膜密着強度評価方法。
【0019】
(5)地鉄表面に酸化物被膜と、該酸化物被膜の表面に絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板の酸化物被膜密着強度を評価する装置であって、前記方向性電磁鋼板の幅方向に亘る領域を照明する線状照明器と、前記方向性電磁鋼板の照明された領域を含む範囲を撮像して撮像画像を得る撮像装置と、前記撮像画像中、画像処理により前記方向性電磁鋼板の照明された領域の輝度値Lを求める輝度値演算部と、方向性電磁鋼板の輝度値Lと曲げ剥離径Dとの関係式に基づき、前記輝度値Lから曲げ剥離径算出値Dを算出する曲げ剥離径算出部とを有し、該曲げ剥離径算出値Dを測定して被膜付着強度を評価することを特徴とする方向性電磁鋼板の酸化物被膜密着強度評価装置。
【0020】
(6)上記(5)に記載の方向性電磁鋼板の被膜密着強度の評価装置であって、前記方向性電磁鋼板の幅方向に亘る領域、および、該領域と並列に配地された複数の参照鋼板からなる領域を照明する線状照明器と、前記照明された領域を含む範囲を撮像して撮像画像を得る撮像装置と、前記撮像画像について、前記方向性電磁鋼板および複数の参照鋼板それぞれの照明された領域に対応する画素領域の輝度値を求める輝度値演算部と、前記複数の参照鋼板それぞれの輝度値Lと該複数の参照鋼板それぞれについて予め設定した曲げ剥離径Dとに基づき前記関係式を構成し、前記画素領域の輝度値を用いて前記方向性電磁鋼板の曲げ剥離径Dを演算する曲げ剥離径算出部とを有し、
該曲げ剥離径Dを測定して被膜付着強度を評価することを特徴とする方向性電磁鋼板の被膜密着強度の評価装置。
【0021】
(7)前記方向性電磁鋼板が、通板中であることを特徴とする(5)または(6)に記載の方向性電磁鋼板の酸化物被膜密着強度評価装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、方向性電磁鋼板の輝度値Lと曲げ剥離径Dとの関係式に基づき、酸化物被膜密着強度を評価したい方向性電磁鋼板の輝度値Lから、方向性電磁鋼板の酸化物被膜密着強度の指標となる曲げ剥離径算出値Dを算出することから、方向性電磁鋼板の酸化物被膜密着強度を、非接触かつ非破壊で、簡易的に、しかも短時間で、コイル全長、全幅に亘り、連続的にオンライン評価することが可能となる。
【0023】
また、本発明によれば、酸化物被膜密着強度を評価したい方向性電磁鋼板の幅方向外側に、参照鋼板を並列に配置して、方向性電磁鋼板の輝度値Lと曲げ剥離径Dとの関係式を、参照鋼板の輝度値と曲げ剥離径により構成することで、方向性電磁鋼板の酸化物被膜密着強度を、より正確に、非接触かつ非破壊で、簡易的に、しかも短時間で、コイル全長、全幅に亘り、連続的にオンライン評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】一般的な方向性電磁鋼板の断面構造を示した模式図である。
【図2】方向性電磁鋼板の仕上げ焼鈍後の製造設備に設置された、本発明の酸化物被膜密着強度評価装置の実施形態の一例を示す概略構成図である。
【図3】本発明の酸化物被膜密着強度評価装置を、方向性電磁鋼板の通板方向の側方から見た配置図である。
【図4】本発明の酸化物被膜密着強度評価装置を、方向性電磁鋼板の通板方向から見た配置図である。
【図5】酸化物被膜密着強度を評価する方向性電磁鋼板と、参照鋼板a、b、c、dとを含む範囲を撮像した撮像画像の一例を示す模式図である。
【図6】参照鋼板cとdについて、輝度値L、Lと、曲げ剥離径実測値D、Dとの関係を、照明の強さが異なる2条件において示すグラフである。
【図7】曲げ剥離径算出値Dと曲げ剥離実測値Dとの関係を示すグラフである。
【図8】線状照明器の照明強度を強くした場合における曲げ剥離径算出値Dと、曲げ剥離径実測値Dとの関係を示すグラフである。
【図9】照明が不均一な場合における曲げ剥離径算出値D(シェーディング補正前)、D’(シェーディング補正後)と、曲げ剥離径実測値Dとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
方向性電磁鋼板は、所定の成分組成に調整したスラブを熱間圧延した後、焼鈍、冷間圧延し、ついで、再結晶焼鈍、脱炭焼鈍および最終仕上げ焼鈍を順に施して製造される。
【0026】
冷間圧延後の焼鈍では、最終仕上げ焼鈍時に鋼板が最も高温となり、その際においてもコイルの焼き付きを防止するため、方向性電磁鋼板は、マグネシアを主体とする焼鈍分離剤を鋼板表面に塗布して製造されることが一般的である。
【0027】
そして、このマグネシアを主体とする焼鈍分離剤は、最終仕上げ焼鈍前に行う脱炭焼鈍時に、鋼板表面に生成するシリカを主体とする酸化層と反応して、鋼板表面にフォルステライトからなる酸化物被膜を生成させる。
【0028】
なお、焼鈍分離剤の成分組成によって、鋼板表面に生成される酸化物被膜の成分組成および種類が異なる。方向性電磁鋼板の酸化物被膜としてはフォルステライト(MgSiO)の他、スピネル(MgAl)やコ−ジェライト(MgAlSi16)等が知られている。
【0029】
本発明は、酸化物被膜が上記のいずれの成分組成および種類のいずれであっても適合するが、以下に説明する実施形態では、方向性電磁鋼板として最も一般的な、フォルステライト(MgSiO)を主体とする酸化物被膜を有する方向性電磁鋼板の場合について述べる。
【0030】
図1は、一般的な方向性電磁鋼板の断面構造を示した模式図である。図1中、符号1は方向性電磁鋼板を示す。
【0031】
方向性電磁鋼板1は、Siを含有する地鉄4と、地鉄4の表面上に形成されたフォルステライト(MgSiO)を主体とする酸化物被膜3と、酸化物被膜3の表面上に形成された絶縁被膜2とを有する。
【0032】
方向性電磁鋼板1の酸化物被膜3と絶縁被膜2のうち、被膜の剥離が発生する箇所は、主に地鉄4と酸化物被膜3の界面であることが、経験的に分かっている。したがって、方向性電磁鋼板1の被膜の密着強度は、地鉄4と酸化物被膜3との密着強度で主として決まる。なお、以下の説明で、「酸化物被膜密着強度」または「密着強度」という場合には、地鉄4と酸化物被膜3との密着強度を意味するものとする。
【0033】
本発明の実施の形態においては、、主としてフォルステライトからなる酸化物被膜3および絶縁被膜2を有する方向性電磁鋼板の試験材を準備し、酸化物被膜密着強度を評価した実験結果を説明する。絶縁被膜2は有機系の樹脂からなり、すべての試験材において同一の材質とした。絶縁被膜2および酸化物被膜3の厚さはそれぞれ数μmで、試験材全体の板厚、すなわち、図1中、地鉄4、絶縁被膜3および酸化物被膜2それぞれの厚さの合計が、0.23、0.27および0.30mmの3種類の試験材を準備した。
【0034】
本発明者らは、方向性電磁鋼板1の地鉄4と酸化物被膜3との密着強度の大きさの定量的な評価を実現するため、酸化物被膜3と絶縁被膜2とを有する方向性電磁鋼板1の表面を均一に照明したときの、方向性電磁鋼板1の表面の明るさ(明度)を含む色調に着目し、その色調と密着強度との相関を調査することにより新たな知見を得た。
【0035】
そして、非接触かつ非破壊で、簡易的に、しかも短時間で酸化物被膜密着強度を連続的にオンライン評価する方法に想到し、本発明を完成させた。
【0036】
以下、図面を参照しながら、本発明の方向性電磁鋼板の酸化物被膜密着強度評価方法およびその評価装置について説明する。
本発明者らは、従来からの密着強度評価方法である、曲げ剥離径を求める試験を多数の試験材について実施した。その結果、試験材の密着強度と鋼板色調(鋼板明度)との間に、定量的な相関関係を詳細に調査した。
【0037】
密着強度評価方法の検討に際して、曲げ剥離径の測定(実測)には、それぞれの直径が10、20、・・・、80mmの表面が滑らかなアルミ製丸棒を用いた。密着強度評価の検討に用いる方向性電磁鋼板1をコイルから切り出して、大きさ30mm(通板方向)×100mm(幅方向)の短冊形の試験材を準備した。当該試験材の長手方向をアルミ製丸棒の外周方向に半周(180度)巻きつけた後、酸化物被膜3における剥離および損傷の発生の有無を目視で調べた。
【0038】
鋼板が暗く見えるほど、曲げ剥離径が小さく、密着強度が大きいのに対し、鋼板が明るく見えるほど、曲げ剥離径は大きく、密着強度が小さいことが判明した。すなわち、鋼板色調のうち、特に明度(明るさ)と曲げ剥離径との間により大きな相関があることを見出した。以下では、鋼板の明るさ(明度)の測定値を利用する形態について記す。
【0039】
この理由は、図1に示す方向性電磁鋼板における被膜構造のうち、地鉄4とマグネシウムを主成分とする酸化物被膜3の界面構造に起因しているものと考えられる。
【0040】
鋼鈑明度は、絶縁被膜2側から入射した光線の界面での反射成分の大きさに依存する。鋼板が明るく見えるのは、反射成分が大きい、すなわち平坦な界面構造を有しているためであり、その平坦さ故、密着強度は高くないと推察される。一方、鋼板が暗く見えるのは、反射成分が小さいためで、界面に多数の凹凸が存在し面粗度が大きく(粗く)、酸化物被膜3に対してくさび(アンカー)効果を発揮する構造を有しているためであり、このくさび構造が、密着強度を高める理由であると推察される。
【0041】
次に、鋼板明度すなわち方向性電磁鋼板表面の明るさを定量化し、明るさと密着強度の指標となる曲げ剥離径との相関関係により、密着強度を非接触で連続評価する方法および装置について説明する。
【0042】
図2は、方向性電磁鋼板の仕上げ焼鈍後の製造設備に設置された、酸化物被膜密着強度評価装置の実施形態の一例を示す概略構成図である。図2中、符号100は酸化物被膜密着強度評価装置を示す。
【0043】
酸化物被膜密着強度評価装置100は、方向性電磁鋼板1の表面を幅方向(通板方向に対して垂直な方向)に亘って均一に照明する線状照明器5、方向性電磁鋼板1の表面上で線状照明器5によって照明された領域を含む範囲(撮像エリア)を撮像する撮像カメラ6、および、撮像カメラ6で撮像して得られた画像を画像処理し、撮像エリアの撮像画像について所定の領域の輝度値を、方向性電磁鋼板1の表面の明るさの定量的指標として算出し、その輝度値から密着強度の指標となる曲げ剥離径を算出する制御・データ処理装置7を有する。制御・データ処理装置7は、例えばパーソナルコンピュータで構成することができる。
【0044】
線状照明器5は、ライトガイドで導光し、線状の照明光として用いることができればいずれも使用することができ、例えば、キセノンランプを光源として用いてもよい。撮像カメラ6としては、例えばモノクロまたはカラーのCCDカメラを使用することができる。
【0045】
方向性電磁鋼板1の製造ラインには、通板される鋼板の通板速度を検出するためのPLG(回転計:Pulse Generator)9が配設され、PLG9が検出した通板速度は、通板速度信号として制御・データ処理装置7中の鋼板位置演算部15に入力される。
【0046】
制御・データ処理装置7中の撮像カメラ制御部11は、予め設定したレート(回/m)で方向性電磁鋼板1を撮像するように撮像カメラ6を制御する。なお、撮像カメラ制御部11は、独立した専用機で構成しても良い。
【0047】
制御・データ処理装置7中のシェーディング補正部12は、必要に応じてオペレータの操作入力によりONとなり、後で詳細に説明するような撮像画像における方向性電磁鋼板1の幅方向の輝度値の変動を補正する処理をする。
【0048】
制御・データ処理装置7中の輝度値演算部13は、撮像カメラ6で取り込んだ撮像画像のうち、方向性電磁鋼板1の線状照明器5で照明された領域について画像処理し、輝度値Lの分布を求める。
【0049】
制御・データ処理装置7中の曲げ剥離径算出部14は、予め求めた、方向性電磁鋼板の設定した測定領域の輝度値Lと曲げ剥離径Dとの関係式に基づき、輝度値演算部13で求めた輝度値Lから、当該測定領域の曲げ剥離径算出値Dを算出する。
【0050】
方向性電磁鋼板の輝度値Lと曲げ剥離径Dとの関係式を得るには、方向性電磁鋼板を破壊して曲げ剥離径Dを実測しなければならないため、本実施形態の酸化物被膜密着強度評価装置100においては、密着強度を評価する方向性電磁鋼板1とは別の方向性電磁鋼板を準備し、オペレータ等が予め関係式を求めて設定しておくか、または関係式の形式のみを設定しておき、後で説明する参照鋼板の測定値を用いてオンライン測定時に当該形式に代入して関係式を構成する。
【0051】
別に準備する方向性電磁鋼板は、輝度値Lを求める方向性電磁鋼板1の製造条件範囲内で製造されたものであれば良い。
【0052】
別の方向性電磁鋼板で関係式を求める際には、曲げ剥離径Dを実測する前に、予め標準方向性電磁鋼板の鋼板明度、すなわち、輝度値Lを求めておくものとする。なお、曲げ剥離径Dの実測位置と、輝度値Lの測定位置は同一とする。また、同一の測定位置でないときには、例えば同一ロットで、同等の付着強度を有する鋼板部位で代替してもよい。
【0053】
鋼板位置演算部15は、鋼板速度を測定するPLG9から入力される、PLG9を通過する方向性電磁鋼板1の通板長に比例した数のパルス信号に基づき、撮像カメラ6の視野領域に存在する方向性電磁鋼板1の、先端等の基準位置からの距離などの位置情報を算出する。なお、この位置情報は、方向性電磁鋼板1の先端からの距離に限られるものではなく、方向性電磁鋼板1のコイルの任意の位置からとすることができる。
【0054】
鋼板位置演算部15で算出された位置情報のうち、一つは撮像カメラ制御部11に入力される。そして、撮像カメラ制御部11が、この位置情報に同期して、方向性電磁鋼板1について予め設定した間隔ΔLで撮像するように、撮像カメラ6を制御する。
【0055】
また、鋼板位置演算部15は、各撮像画像の撮像された時刻における位置情報および当該撮像画像に対応する鋼板部位の幅方向位置を、当該撮像画像における輝度値Lとともに、曲げ剥離径算出値Dと関連づけ、測定結果保持部17および測定結果表示制御部16に出力する。なお、表示装置8は、例えば液晶ディスプレーで構成することができる。
【0056】
評価結果保持部17は、鋼板位置演算部15から出力された輝度値Lおよび曲げ剥離算出値Dを記録媒体に記録する。記録媒体としては、HDDなどが使用できる。
【0057】
入出力部18は、酸化物被膜密着強度評価装置100のオペレータが、データを入出力するインターフェースであり、キーボード等の入力装置やプリンタ等の出力装置と接続される。また、入出力部18はLANを備え、LAN等のネットワークにも接続できるようにすると良い。
【0058】
次に、酸化物被膜密着強度評価装置100における、方向性電磁鋼板1、線状照明器5、撮像カメラ6の位置関係について説明する。図3は、方向性電磁鋼板1の通板方向の側方(図2の左側)から見た酸化物被膜密着強度評価装置100の撮像部の配置を示す図である。
【0059】
なお、以下の説明を簡単にするために、方向性電磁鋼板1の通板面を水平、すなわち、撮像面の垂直方向が通板方向と垂直であるものとするが、これに限られるものではない。
【0060】
また、本実施形態では、撮像カメラ6の撮像角度(撮像カメラ6の視野の中心方向と方向性電磁鋼板1に垂直な方向とがなす角度)を20度とする。撮像角度は、方向性電磁鋼板1の表面で、線状照明器5からの正反射光成分が少なく、かつ、方向性電磁鋼板1の長手方向の撮像領域が必要以上に広くなることにより、撮像画像の解像度が低下しなければ、どのような角度でも良く、20度に限定する必要はない。また、方向性電磁鋼板1の撮像領域の照度は、線状照明器5の幅や配置を調節して、方向性電磁鋼板1の幅方向に対しできるだけ均一になるようにすることが好ましい。
【0061】
撮像カメラ6により得られた方向性電磁鋼板1の幅方向に亘る領域の撮像画像中、線状照明器5で照明された領域は、輝度値演算部13で、画像処理により、例えば8ビットの階調表現を用いるときには撮像画像の画素ごとに0から255段階の輝度値Lの分布として出力される。
【0062】
線状照明器5の照明の強さ(光量)は、撮像画像の輝度値Lが飽和せず、かつ、付着強度の変動を検出するのに暗くなりすぎないように調整する。撮像カメラ6の絞りを調整しても良い。
【0063】
輝度値演算部13で輝度値Lを出力するに先立ち、撮像カメラ6により得られた撮像画像は、制御・データ処理部7のシェーディング補正部12に入力され、シェーディング補正されることが好ましい。
【0064】
方向性電磁鋼板1の撮像範囲の照明が均一であっても、方向性電磁鋼板1の幅が大きい場合には、撮像画像は中心部が明るく、周辺部は暗くなり、撮像画像の明るさは不均一となることがある。
【0065】
これは、撮像範囲の各部分から撮像カメラ6に入射する光量が変化するためである。不均一となった撮像画像は、シェーディング補正や色調が均一な切板鋼板を利用するシェーディング補正によって補正されることが好ましい。ただし、付着強度の変動によらない撮像画像中の輝度変化が大きくないときには、オペレータ等の判断によりシェーディング補正の処理を省略するように切り替える。
【0066】
撮像画像から表面欠陥を検出する装置では、例えば特開2003−17149号公報に記載されたシェーディング補正が実施されることが多い。本発明の酸化物被膜密着強度評価装置100においても、撮像画像について、方向性電磁鋼板1の幅方向について輝度値Lをシェーディング補正部12でシェーディング補正する。具体的には、鋼板等の帯状試験材における撮像画像のシェーディング補正法を利用することができる。
【0067】
利用できるシェーディング補正法の一例を次に説明する。線状照明器5と撮像カメラ6により、方向性電磁鋼板1を通板させて、例えば1mおきに1000枚の撮像画像を得る。得られた撮像画像それぞれについて、例えば線状照明された領域の垂直方向の中心を通る水平線にそって、同じ画素位置の輝度値の平均値(平均画素輝度値Lpq:p、qは画素位置)を求めて平均輝度画像を取得する。次に、平均画素輝度値Lpqのうちの最大値Lmaxを、各平均画素輝度値Lpqで割ってシェーディング補正係数Spqを求める。方向性電磁鋼板1の撮像画像のシェーディング補正は、当該撮像画像の各画素(p、q)の輝度値Lpqにシェーディング補正係数Spqを乗算することにより得られる。
【0068】
なお、方向性電磁鋼板1の幅が、線状照明器5の幅と比べて相対的に小さい場合には、撮像画像内において、方向性電磁鋼板1の輝度値Lの変化が幅方向で小さいため、シェーディング補正を省略しても良い。方向性電磁鋼板1と撮像カメラ6の間隔と比べて、方向性電磁鋼板1の幅が相対的に小さい場合も同様である。
【0069】
以下の実施の形態の説明において、単に「撮像画像」と記した場合、特に断りがない限り、撮像画像の中心部と周辺部で、明るさの不均一が発生していない撮像画像を意味するものとし、シェーディング補正の有無を問わないものとする。
【0070】
次に、撮像カメラ6の配置位置について説明する。上記したように、図3は方向性電磁鋼板1の通板方向の側方から見た酸化物被膜密着強度評価装置100の撮像部の配置を示す図である。また図4は、撮像部を、方向性電磁鋼板1の通板方向を含む面内で、撮像レンズの視野中心方向(光軸)と直交する方向から見た配置図である。
【0071】
図4に示したように、方向性電磁鋼板1から焦点位置までの距離をA、焦点位置からイメージセンサ素子までの距離をB、方向性電磁鋼板1の幅方向の撮像範囲長CFとしたとき、これらA、BおよびCFは、下記(1)式および(2)式の関係にある。
【0072】
なお、下記(1)式は、レンズの公式から求められる関係である。また、下記(1)式中のfは撮像カメラ6のレンズの焦点距離であり、下記(2)式中のLimは撮像カメラ6のイメージセンサ素子の受光領域全体の幅である。
【0073】
1/A + 1/B = 1/f ・・・(1)
CF = A/B × Lim ・・・(2)
【0074】
ここで、例えば、Lim=28.672mm、B=28.392mm、f=28mmとすると、上記(1)式からA=2028mmとなり、上記(2)式からCF=2048mmとなる。
【0075】
これらに基づき、方向性電磁鋼板1、線状照明器5、撮像カメラ6それぞれの配置に関して、撮像カメラ6のレンズ中心がカメラ先端から28mmにあるので、図3に示した具体的な数値の位置関係が導き出される。
【0076】
次に、上記のような位置関係で配置された撮像カメラ6によって得られた撮像画像から、方向性電磁鋼板1の測定領域の輝度値Lを得る処理と、その輝度値Lとから、当該方向性電磁鋼板1の測定領域の曲げ剥離径算出値Dを算出する処理について、その一例を説明する。
【0077】
<第1の実施の態様>
まず、参照鋼板を用いて、オンラインで測定するときにリアルタイムに校正する方法について説明する。図2に示したように、複数の小片の参照鋼板a、b、c、dを、方向性電磁鋼板1と表面を平行にして、製造ラインにおいて通板される方向性電磁鋼板1の幅方向外側に並列に配置する。
【0078】
参照鋼板a、b、c、dは、予め曲げ剥離径D(i=a、b、c、d)を予め実測した校正用の方向性電磁鋼板と同等の仕様、性状、付着強度を有するものである。参照鋼板aとbは同一の曲げ剥離径(D=D)であり、例えば同一製造ロットの方向性電磁鋼板の隣接する部位から採取したものが好ましい。参照鋼板a、b、c、dは、酸化物被膜密着強度評価装置100を構成する部品が経時変化した場合や、線状照明器5に傾きが生じた場合に、方向性電磁鋼板1を照明する光の強さが不均一となったときに、オンライン測定に際してリアルタイムに測定条件の変動に対応して曲げ剥離径を算出することが可能になる。。
【0079】
参照鋼板cとdはできるだけその曲げ剥離径D、Dが異なるものを配置することが好ましい。また、参照鋼板c、dは、通板される方向性電磁鋼板1の測定領域の輝度値Lから、当該測定領域の曲げ剥離径算出値Dを算出するために用いる、
【0080】
図5は、酸化物被膜密着強度を評価する方向性電磁鋼板1と、参照鋼板a、b、c、dとを含む撮像エリアである範囲を撮像した撮像画像の一例を示す模式図である。
図5に示すように、線状照明器5で照明された撮像エリアの撮像画像において、方向性電磁鋼板1の表面のうち、図5中、範囲20a〜20jで示した10箇所の輝度測定領域に関し、各輝度測定領域内における各画素の輝度値を平均した値(平均輝度値)を、各輝度測定領域それぞれの輝度値Lとして得る画像処理の方法について以下に説明する。なお、範囲20a〜20jそれぞれは、本実施の形態では通板方向50mm×幅方向100mmとするが、その範囲の数および大きさは・形状は測定時に適宜設定すればよい。また、各画素の輝度値のS/Nが比較的良好なときには、上記各範囲における平均値の代わりに代表値を用いても良い。
【0081】
ここでは、輝度測定領域20a〜20jのうち、輝度測定領域20aについての輝度値Lである輝度値L20aを求める画像処理について説明するが、輝度測定領域20b〜20jについての輝度値L20b〜L20jを求める場合も同様に画像処理されるものとする。
【0082】
参照鋼板i(i=a、b、c、d)の輝度値Li(i=a、b、c、d)は、本実施の形態では参照鋼板iのうち、25mm×幅方向100mmの範囲内の各画素の輝度値の平均値とするが、当該範囲の形状および大きさが、参照鋼板の性状や製造ラインの配置により測定時に適宜設定すればよい。また、各画素の輝度値のS/Nが良好なときには、上記各範囲における平均値の代わりに、代表値を用いても良い。
【0083】
また、参照鋼板iの曲げ剥離径実測値D(i=a、b、c、d)それぞれの大小関係は、D<D=D<Dである。なお、曲げ剥離径実測値Dは、参照鋼板iの隣接する部位から切り出した試験片で、曲げ剥離径を予め実測した値を用いる。
【0084】
参照鋼板の輝度値Lおよび曲げ剥離径実測値Dは、制御・データ処理装置7の曲げ剥離径算出部部14に保持される。
【0085】
制御・データ処理装置7は、方向性電磁鋼板1の撮像画像について、(手順1)、(手順2)により輝度値L20aから、輝度測定領域20aにおける曲げ剥離径D20aを算出する。
【0086】
(手順1)
撮像カメラ6で得られた撮像画像は、必要ならばシェーディング補正部12で予めシェーディング処理される。得られたシェーディング補正画像について、照明の均一さのチェックをするために参照鋼板a,bそれぞれの輝度値LとLを比較する。なお、以下の実施の形態の説明では、シェーディング補正しないときの撮像画像についてもシェーディング補正画像と記す。 輝度値LとLとが同一であれば、照明は均一であると判断する。輝度値LとLとが異なる場合は、照明が不均一であるか、線状照明器5を含む照明系または撮像カメラ6を含む撮像系に異常があると判断する。このように、参照鋼板a,bそれぞれの輝度値LとLとを比較することによって、照明系および撮像系の異常を検知することができる。
【0087】
この際、照明光量が方向性電磁鋼板1の表面上において線形に変化するときには、この変化を方向性電磁鋼板1の輝度値Lの測定位置に応じてシェーディング補正の一つとして、次のようにして補正してもよい。
【0088】
方向性電磁鋼板1の幅方向をx軸方向としたとき、参照鋼板aの中心の位置をX=0、参照鋼板bの中心の位置をX=X、参照鋼板aの中心と参照鋼板bの中心の間のある位置xでの輝度測定領域の、測定輝度値をLとすると、補正後の測定輝度値L’を、下記(3)式に基づき求める。
’=L + 1/2×(L−L)×(1−2x/X) ・・・(3)
【0089】
方向性電磁鋼板1の幅方向について均一な照明下(すなわちLa=Lb)で得られた範囲20a内の撮像データ、あるいは、(手順1)の方法で補正された輝度測定領域20a内の撮像データは、輝度値演算部13と、曲げ剥離径算出部14で(手順2)の方法で処理される。
【0090】
(手順2)
上述したように、方向性電磁鋼板の輝度値Lと曲げ剥離径Dとは、ほぼ線形の関係を有する。本実施形態の方向性電磁鋼板密着強度評価装置100の曲げ剥離径算出部14では、方向性電磁鋼板の輝度値Lと曲げ剥離径Dとの線形関係を示す関係式を、、参照鋼板c、dの輝度値L、L、並びに、予め参照鋼板を用いた実験により設定された曲げ剥離径実測値D、Dを用いて求める。
【0091】
図6は、参照鋼板cとdについて、輝度値L、Lと、曲げ剥離径実測値D、Dとの関係を示すグラフの一例である。図6中、符号50は照明強度が標準的な場合、符号51は照明強度が強い場合を示す。図6において、照明強度が標準的である符号50の場合に比べて、照明強度が強い符号51の場合は、相関を示す直線が右側にシフトする。
【0092】
図6中の符号50および符号51で示した直線それぞれの場合について、いずれも場合も輝度値Lと曲げ剥離径実測値Dは、次の(4)に示す関係式で表すことができる。
D=D+(D−D)/(L−L)×(L−L) ・・・(4)
【0093】
輝度部演算部13で求められた輝度測定領域の輝度値L20aおよび参照鋼板c、dそれぞれの輝度値L、Lが曲げ剥離径算出部14に入力され、曲げ剥離径算出部14で、上記(d)式のLに代入して、曲げ剥離径算出値D20aを算出する。
【0094】
<第2の実施の態様>
以上では、方向性電磁鋼板の製造ラインで、測定するべき方向性電磁鋼板の両側に複数の参照鋼板を配設して、当該参照鋼板の輝度値の測定値と、予め測定しておいた当該参照鋼板の曲げ剥離径に基づいて(4)式で示した関係式をリアルタイムに構成しながら、方向性電磁鋼板の測定部位の輝度値を用いて当該測定部位の曲げ剥離径を算出して推定する方法である。
一方、例えば参照鋼板を用いずに、方向性電磁鋼板の曲げ剥離径をその輝度値から算出することも可能である。すなわち、予め上記のc、dの当たる参照鋼板それぞれについて、輝度値L、Lおよび曲げ剥離径D,Dを測定しておく。その際に参照鋼板を製造ラインでの線状照明器による照明下において輝度値を測定するのが好ましい。これらの予め求めた測定値を用いて(4)式を構成して、曲げ剥離径算出部14に設定しておく。
また、参照鋼板の輝度値を測定したときと、実際の方向性電磁鋼板のオンライン測定時とで照明の明るさが異なるときには、(4)式を当該差異に基づき補正して用いればよい。
【0095】
これまでに述べたように、本発明により、方向性電磁鋼板のコイルの全長にわたって曲げ剥離径を算出することができ、酸化物被膜密着強度の評価を容易に行うことができることを確認することができた。
【0096】
<制御・データ処理装置の実装>
以上で説明したように、制御・データ処理装置7は、例えばキーボードやマウス等の入出力機器、撮像カメラと制御するためのボード、HDD等の記憶装置、および製造ラインを統括する上位コンピュータとネットワーク(LAN)を介して接続するインターフェースを有するパーソナルコンピュータで構成することができる。なお、撮像カメラ制御は独立して専用器で構成してもよい。また、表示装置8は例えば液晶ディスプレーで構成することができる。そして、上記した各制御、および各演算、処理を実行するためのコンピュータソフトウエアを作成して当該パーソナルコンピュータにロードする。また、制御・データ処理装置7は、上記の各機器の機能を有する部品を組み込んだ、MPUを有する専用器で構成してもよい。
【実施例】
【0097】
次に、本発明を実施例でさらに説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性および効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0098】
(実施例1)
図2に示した酸化物被膜密着強度評価装置100を用いて、均一照明下で撮像された方向性電磁鋼板1の表面の撮像画像を画像処理して求めた輝度値Lから酸化物被膜3の密着強度を評価した。
【0099】
撮像カメラ6としては、2048×1536画素のカラーCCDカメラを使用した。線状照明器5としては、2m長さの蛍光灯を使用した。照明の強さは、管電流で調整した。
【0100】
参照鋼板a、b、c、dの間隔は1mとし、予め実測した参照鋼板a、b、c、dの曲げ剥離径はD=D=40mm、D=20mm、D=60mmであった。なお、曲げ剥離径D、D、D、Dは、方向性電磁鋼板のコイルから参照鋼板a、b、c、dを採取した部位の近隣から切り出した試験片で実測した。
【0101】
酸化物被膜密着強度を評価する方向性電磁鋼板1としては、板厚が0.23mm、板幅が800mmのコイルを準備した。なお、板厚は、地鉄4、酸化物被膜3、絶縁被膜2それぞれの厚さの合計である。また、コイルの全長は1300mとし、方向性電磁鋼板1の移動速度(ライン速度)は100mpmとした。
【0102】
方向性電磁鋼板1の輝度値は、参照鋼板a、cの中心から方向性電磁鋼板1の幅方向へ向かって300mmの位置で、方向性電磁鋼板1の通板中に測定し、方向性電磁鋼板1の通板方向50mm×幅方向100mmの領域内における各画素の輝度値の平均値(平均輝度値)を輝度値Lとした。なお、輝度値Lは、1分おき、すなわち100m毎に、合計で14回測定した。
【0103】
本実施例それぞれでは、照明を板幅方向に均一にしたのでシェーディング補正は、必要に応じて板幅方向に線形に輝度値を補正する補正を行った。参照鋼板a〜dのシェーディング補正後の輝度値をL’〜L’、方向性電磁鋼板1の補正後の輝度値をL’とした。なお、シェーディング補正前の輝度値L〜L、Lから求めた曲げ剥離径を、それぞれ、D〜D、Dとし、シェーディング補正後の輝度値から求めた曲げ剥離径を、それぞれ、D’〜D’、D’とした。
【0104】
その結果を表1に示す。なお、表1中、測定No.は、平均輝度値の測定開始からの測定回数を示す。測定No.0は測定開始時を示し、測定No.1は測定開始から1分後、以後、測定No.2〜13は、それぞれ、測定開始から2〜13分後を示す。
【0105】
【表1】

【0106】
表1から明らかなように、参照鋼板aとbの輝度値L、Lが等しいことから、線状照明器5として2mの長さの蛍光灯を使用した場合には、輝度値Lの測定中、方向性電磁鋼板1の表面は均一に照明されていることが確認できた。
【0107】
また、照明が均一であることから、参照鋼板a〜dの輝度値L〜Lおよび方向性電磁鋼板1の輝度値Lは、シェーディング補正の前後で変化しないことも併せて確認できた。
【0108】
曲げ剥離径算出値Dは、曲げ剥離径算出部13で、参照鋼板c、dのシェーディング補正前輝度値L、Lと曲げ剥離径D、Dから求めた上記(d)式に、シェーディング補正前の輝度値Lを代入して算出された結果である。また、曲げ剥離径算出値D’は、曲げ剥離径算出部13で、参照鋼板c、dのシェーディング補正後輝度値L’、L’と曲げ剥離径D、Dから求めた上記(d)式に、シェーディング補正後の輝度値L’を代入して算出された結果である。
【0109】
また、後述する実施例2、3の実験終了後、コイルから輝度値Lを測定した部位を切出し、曲げ剥離試験により曲げ剥離径を実測し、曲げ剥離径実測値Dとした。
【0110】
図7は、曲げ剥離径算出値Dと曲げ剥離実測値Dとの関係を示すグラフである。図7から明らかなように、曲げ剥離径算出値Dは、概ね曲げ剥離径実測値Dと一致しており、本発明の方法および装置で、方向性電磁鋼鈑の酸化物被膜密着強度が評価できることを確認できた。
【0111】
(実施例2)
線状照明器5の照明強度を強くしたこと以外は、実施例1と同様の条件で、曲げ剥離径算出値D、D’を求めた。
結果を表2に示す。
【0112】
【表2】

【0113】
表2から明らかなように、実施例2における参照鋼板a〜dの輝度値L〜Lおよび方向性電磁鋼板1の輝度値Lは、実施例1の場合と比べて大きくなっている。
【0114】
図8は、線状照明器5の照明強度を強くした場合における曲げ剥離径算出値Dと、曲げ剥離径実測値Dとの関係を示すグラフである。
【0115】
図8から明らかなように、曲げ剥離径算出値Dと曲げ剥離径実測値Dとの関係は、実施例1の場合と比べて、実施例2の場合の方が、より整合性が高いことが確認できた。
【0116】
これは、線状照明器5の照明強度を強くすることにより、参照鋼板c、dの輝度値L、Lの差が大きくなることで、方向性電磁鋼板1の輝度値Lのばらつき誤差が小さくなったためである。
【0117】
(実施例3)
線状照明器5を傾けたこと以外は、実施例2と同様の条件で、曲げ剥離径算出値D、D’を求めた。
【0118】
結果を表3に示す。
【0119】
【表3】

【0120】
表3から明らかなように、参照鋼板a、bの輝度値L、Lが異なっていることから、線状照明器5を傾けたことにより、方向性電磁鋼板1の表面の照明は不均一であることが確認できた。
【0121】
また、シェーディング補正後の参照鋼板a、bの輝度値L、Lが等しいことから、シェーディング補正の効果を併せて確認できた。
【0122】
図9は、照明が不均一な場合における曲げ剥離径算出値D、D’と、曲げ剥離径実測値Dとの関係を示すグラフである。図9中、符号53はシェーディング補正後、符号54はシェーディング補正前を示す。
【0123】
図9から明らかなように、照明が不均一な場合であっても、シェーディング補正を実施することにより、曲げ剥離径算出値D’と曲げ剥離径実測値Dとが概ね一致することを確認できた。
【0124】
なお、上述したところは、本発明の実施形態を例示したものにすぎず、本発明は、特許請求の範囲の記載範囲内において種々変更を加えることができる。例えば、制御・データ処理装置7は、上記のパーソナルコンピュータに代えて、上述した各機能を有する部品を組み込んだ、MPUで構成される専用機としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0125】
前述したように、本発明によれば、予め求めた、方向性電磁鋼板の輝度値Lと曲げ剥離径Dとの関係式に基づき、酸化物被膜密着強度を評価したい方向性電磁鋼板の輝度値Lから、方向性電磁鋼板の酸化物被膜密着強度の指標とする曲げ剥離径算出値Dを算出することから、方向性電磁鋼板の酸化物被膜密着強度を、非接触かつ非破壊で、簡易的に、しかも短時間で、コイル全長、全幅に亘り、連続的にオンライン評価することが可能となる。本発明は、工業上、利用価値の高いものである。
【0126】
また、本発明によれば、酸化物被膜密着強度を評価したい方向性電磁鋼板の幅方向外側に、参照鋼板を並列に配置して、予め求めた、方向性電磁鋼板の輝度値Lと曲げ剥離径Dとの関係式を、参照鋼板の輝度値と曲げ剥離径で校正することで、方向性電磁鋼板の酸化物被膜密着強度を、より正確に、非接触かつ非破壊で、簡易的に、しかも短時間で、コイル全長、全幅に亘り、連続的にオンライン評価することが可能となり、工業上、顕著な効果を奏する。
【符号の説明】
【0127】
100 酸化物被膜密着強度評価装置
1 方向性電磁鋼板
2 絶縁被膜
3 酸化物被膜
4 地鉄
5 線状照明器
6 撮像カメラ(撮像装置)
7 制御・データ処理装置
8 表示装置
9 PLG
11 撮像カメラ制御部
12 シェーディング補正部
13 輝度値演算部
14 曲げ剥離径算出部
15 鋼板位置演算部
16 評価結果表示制御部
17 評価結果保持部
18 入出力部
50 照明強度が標準的である場合
51 照明強度が強い場合
53 シェーディング補正後
54 シェーディング補正前
a、b、c、d 参照鋼板
im 撮像カメラ6のイメージセンサ素子の受光領域全体の幅
A 方向性電磁鋼板1からの焦点位置までの距離
B 焦点位置からイメージセンサ素子までの距離
CF 方向性電磁鋼板1の幅方向の撮像範囲長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地鉄表面に酸化物被膜と、該酸化物被膜の表面に絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板の酸化物被膜密着強度を評価する方法であって、
前記方向性電磁鋼板の幅方向に亘る領域を照明する工程と、
前記方向性電磁鋼板の照明された領域を含む範囲を撮像して撮像画像を得る工程と、
前記撮像画像中、画像処理により前記方向性電磁鋼板の照明された領域の輝度値Lを得る工程と、
方向性電磁鋼板の輝度値Lと曲げ剥離径Dとの関係式に基づき、前記輝度値Lから曲げ剥離径算出値Dを算出する工程と
を有し、
該曲げ剥離径算出値Dを測定して被膜付着強度を評価することを特徴とする方向性電磁鋼板の酸化物被膜密着強度評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方向性電磁鋼板の被膜密着強度の評価方法であって、
前記方向性電磁鋼板の幅方向に亘る領域、および、該領域と並列に配地された複数の参照鋼板からなる領域を照明する工程と、
前記照明された領域を含む範囲を撮像して撮像画像を得る工程と、
前記撮像画像について、前記方向性電磁鋼板および複数の参照鋼板それぞれの照明された領域に対応する画素領域の輝度値を求める工程と、
前記複数の参照鋼板それぞれの輝度値Lと該複数の参照鋼板それぞれについて予め設定した曲げ剥離径Dとに基づき前記関係式を構成し、前記画素領域の輝度値を用いて前記方向性電磁鋼板の曲げ剥離径Dを演算する工程とを有し、
該曲げ剥離径Dを測定して被膜付着強度を評価することを特徴とする方向性電磁鋼板の被膜密着強度の評価方法。
【請求項3】
前記酸化物被膜はフォルステライトを含む酸化物被膜であることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の酸化物被膜密着強度評価方法。
【請求項4】
前記方向性電磁鋼板が、通板中であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の酸化物被膜密着強度評価方法。
【請求項5】
地鉄表面に酸化物被膜と、該酸化物被膜の表面に絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板の酸化物被膜密着強度を評価する装置であって、
前記方向性電磁鋼板の幅方向に亘る領域を照明する線状照明器と、
前記方向性電磁鋼板の照明された領域を含む範囲を撮像して撮像画像を得る撮像装置と、
前記撮像画像中、画像処理により前記方向性電磁鋼板の照明された領域の輝度値Lを求める輝度値演算部と、
方向性電磁鋼板の輝度値Lと曲げ剥離径Dとの関係式に基づき、前記輝度値Lから曲げ剥離径算出値Dを算出する曲げ剥離径算出部と
を有し、
該曲げ剥離径算出値Dを測定して被膜付着強度を評価することを特徴とする方向性電磁鋼板の酸化物被膜密着強度評価装置。
【請求項6】
請求項5に記載の方向性電磁鋼板の被膜密着強度の評価装置であって、
前記方向性電磁鋼板の幅方向に亘る領域、および、該領域と並列に配地された複数の参照鋼板からなる領域を照明する線状照明器と、
前記照明された領域を含む範囲を撮像して撮像画像を得る撮像装置と、
前記撮像画像について、前記方向性電磁鋼板および複数の参照鋼板それぞれの照明された領域に対応する画素領域の輝度値を求める輝度値演算部と、
前記複数の参照鋼板それぞれの輝度値Lと該複数の参照鋼板それぞれについて予め設定した曲げ剥離径Dとに基づき前記関係式を構成し、前記画素領域の輝度値を用いて前記方向性電磁鋼板の曲げ剥離径Dを演算する曲げ剥離径算出部とを有し、
該曲げ剥離径Dを測定して被膜付着強度を評価することを特徴とする方向性電磁鋼板の被膜密着強度の評価装置。
【請求項7】
前記方向性電磁鋼板が、通板中であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の方向性電磁鋼板の酸化物被膜密着強度評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−158328(P2011−158328A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19268(P2010−19268)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】