説明

旅客機の窓用の耐久性のある透明コーティング

二重コーティングスキームおよび関連付けられる形成方法であって、航空機の窓の適用例において用いられるアクリル基板の耐久性を改善するために組合せて用いられるシロキサン系軟質コーティングとプラズマ系SiOxy硬質コーティングとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
この発明は、延伸されたアクリル製の窓用の保護コーティングに関し、より詳細には、光学的品質を維持しかつ使用中の窓のひび割れを低減する保護コーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
旅客機の窓は、軽量であり、可撓性があり、成形性があるという理由から、典型的には延伸されたアクリル(すなわち、アクリル基板)で作られる。しかしながら、アクリルは粒子(たとえば、砂)および水によって引き起こされる浸食ならびにひび割れを受けやすい。その上、航空機の窓は、飛行中、航空機の内側と外側との間の圧力の差によって引き起こされる差圧に晒される。この差圧によって、窓は屈曲し、したがって大半のコーティングに亀裂が入る可能性があり、化学薬品がアクリル基板を腐食させ、場合によってはコーティングをアクリル基板から剥離させる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
窓は、航空機のメンテナンスにおいて用いられる洗浄剤および他の化学薬品などのさまざまな化学薬品にも晒され得る。
【0004】
現在、アクリル製の航空機の窓および他のタイプの航空機の窓は、ゾルゲル系ポリシロキサンコーティングによって保護されている。ゾルゲルコーティングは、処理されて好適なコーティングを形成する溶媒、オルガノシラン、アルコキシドおよび触媒の均質な混合物である。
【0005】
ゾルゲルコーティングは、高い透過率を与えるが、摩耗およびUVによって引き起こされる劣化に対しての耐久性は限られている。ゾルゲルコーティングが示す耐久性は、現場の結果から判断されるように、中程度に過ぎない。これは図1において明らかであり、図1では、約4年間稼動していた航空路からはずした窓100の主要な部分に硬質コーティングは存在していない。広範囲に亘る掻き傷およびひび割れ102も見ることができる。
【0006】
したがって、窓の寿命を延ばすであろう、耐久性が改善した透明硬質コーティングが必要である。コーティングを改善することによって、航空機のメンテナンスにおいて一般的に直面する化学薬品に対する回復力も改善し、耐候性特徴も改善する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概要
この発明は、二重コーティングスキームを提供する。この発明の一局面において、コーティングスキームは、航空機の窓の耐久性を改善するために組合せて用いられるシロキサン系軟質コーティングとプラズマ系SiOxy硬質コーティングとを含む。
【0008】
現在用いられているシロキサン(1,2)系コーティングに関連する耐久性の問題を回避するために、この発明は、可撓性、航空機のメンテナンスにおいて用いられる化学薬品に対する不活性、ならびにひび割れに対する極度の耐久性および耐性を示す二重コーティングを提供する。
【0009】
この発明の一局面において、接着性のポリシロキサンコーティングと、シリコンを含むプラズマCVD系コーティングとを含む二重コーティングを提供する。接着性のポリシロ
キサンコーティングは、延伸されたアクリル基板の表面に塗布される。プラズマCVD系コーティングは、ポリシロキサンでコーティングされた、延伸されたアクリル基板上に堆積される。
【0010】
この発明の別の局面において、基板上に二重コーティングを形成する方法を提供する。この方法は、基板の表面上に接着性のポリシロキサンコーティングを堆積させることと、接着性のポリシロキサンコーティング上にプラズマCVD系コーティングを堆積させることとを含む。
【0011】
この発明の二重コーティングは、耐候性、化学薬品暴露に対する耐性、耐摩耗性、および屈曲によって引き起こされる延伸されたアクリルのひび割れに対する耐性を改善する。二重コーティングの耐摩耗性は、テーバ摩耗試験(Taber Wear testing)(ASTM D
1044−99)によって測定されて、現在使用されているシロキサンコーティングよりも1桁以上優れていることが明らかになった。二重コーティングは、屈曲によって引き起こされるアクリル基板のひび割れも改善する。
【0012】
二重コーティングを有するアクリル基板の光学的特性(太陽スペクトルの可視域における光透過率、透明度およびヘーズ)は、単一のポリシロキサンコーティングを有する窓の光学的特性とほぼ同じであることが明らかになった。
【0013】
この発明のさらなる利点、目的および特徴は、以下の詳細な説明に部分的に記載される。前述の一般的な説明も以下の詳細な説明も単にこの発明の例示であり、記載されているとおりにこの発明の本質および特徴を理解するための概要または枠組を提供するように意図されることを理解すべきである。
【0014】
添付の図面は、この発明をさらに理解できるようにし、この発明の種々の実施例を示し、説明と共にこの発明の原理および動作を説明する役割を果たすために含まれる。図中、同じ構成要素は同じ参照数字を有する。示す実施例は、この発明を例示するように意図されており、この発明を限定するように意図されるものではない。図面は以下の図を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
発明の詳細な説明
図2に示すように、この発明の二重コーティング200は、アクリル基板206などの基板206の上に堆積された第1のコーティング202と第2のコーティング204との組合せを含む。一実施例において、アクリル基板206は一般的な旅客機の窓100であってもよい。
【0016】
一実施例において、第2のコーティング204は、プラズマ系化学気相成長(Chemical
Vapor Deposition)(CVD)コーティングプロセスを用いて、アクリル基板206の上に堆積される。プラズマCVDコーティングは比較的「硬質の」コーティングであり、ゾルゲルコーティングなどの湿式化学法によって生成される他のコーティングよりも耐摩耗性、化学的不活性などが優れている。シリコン系透明コーティングのプラズマCVD中に生じるイオン衝撃効果は、コーティングの硬度および耐久性を改善することが明らかになった。堆積中のイオン衝撃は、堆積種の表面移動度を高める傾向があり、したがって、ヘーズおよび透明度の観点からコーティングの光学的品質を改善する傾向がある。
【0017】
この発明に従って、硬質コーティング204は、たとえばSiOxy系層またはダイアモネクス・インコーポレイテッド(Diamonex Inc.)から入手可能なダイヤモンドシールド(Diamondshield)層などのシリコン系層を含んでいてもよい。
【0018】
プラズマCVD系のまたは硬質のコーティング204では硬度および耐久性が増大し、光学的特徴が改善したが、第1のコーティング202は、単独ではアクリル基板206に対して低い接着性を示すプラズマCVD系硬質コーティング204に対して、改善された接着性および可撓性特徴を提供するために設けられる。
【0019】
この発明に従って、第1のコーティングまたは「軟質」コーティング202は、接着性のポリシロキサン系層を含んでいてもよい。軟質コーティング202は、結合層をもたらすため、硬質コーティング204を堆積させる前に形成される。組合せられて、硬質コーティング204と組合せられた軟質コーティング202は、この発明に従う二重コーティング200を形成する。
【0020】
軟質コーティング202は、硬質コーティング204に上記の利点を提供するのにそれほど厚いものである必要はない。一実施例において、軟質コーティング202の厚さは約100から200オングストロームの間であってもよく、これはアクリル基板206に対する硬質コーティング204の接着性を保証するのに十分である。一例では、約4ミクロンの厚い軟質コーティング202を有する延伸されたアクリル基板206が摩耗試験において十分に機能することが試験から明らかになった。
【0021】
再び図2を参照して、例示的な一実施例において、延伸されたアクリル基板206がまず処理され、軟質コーティング202でコーティングされる。この実施例では、軟質コーティング202は4ミクロンの厚さのポリシロキサン系の接着性の透明コーティングを含む。
【0022】
次に、イオンアシストプラズマプロセスを用いて、シリコン系透明硬質コーティング204、たとえばダイヤモンドシールドが、軟質のコーティングされたアクリル基板206上に堆積される。堆積プロセスは、ヘキサメチルジシロキサンおよび酸素などの前駆体を含むシリコンの使用を含む。周知のプラズマCVD原理に従って硬質透明コーティングを製造するために、気体流量、堆積圧力、プラズマ出力などのプラズマCVD条件は最適化され得る。
【0023】
一実施例において、アクリル基板206は、真空チャンバに装填して硬質コーティング204を塗布する前に、まず、炭化水素および他の望ましくない材料などの汚染物質を取除くために化学的に洗浄され得る。洗浄プロセスは、たとえば溶媒または水性洗浄剤における超音波洗浄を用いて達成されてもよい。所望の真空条件が得られると、基板206は不活性イオンおよびまたは酸素イオンを用いてスパッタ洗浄され得る。洗浄ステップが完了すると、硬質コートの塗布を開始することができる。
【0024】
一実施例において、たとえば窓の適用例において、硬質コーティング204の厚さは4から5ミクロンの間であってもよい。
【0025】
コーティングの性能評価:
この発明を限定するように意図するのではなく、アクリル基板を用いる適用例において、現在使用されているポリシロキサンコーティングに対する二重コーティング200の性能の改善を実証するために、以下の比較を行なう。
【0026】
比較を行なうために、延伸されたアクリル基板の第1のグループ(グループI)をポリシロキサンコーティングでコーティングして、約4ミクロンの厚さにする。延伸されたアクリル基板の第2のグループ(グループII)をまずポリシロキサンコーティングでコーティングして4ミクロンの厚さにし、続いてプラズマ系硬質コーティングでコーティングして約5ミクロンの厚さにして、この発明の二重にコーティングされたアクリル基板を形
成する。
【0027】
摩耗試験:
コーティングされた基板(グループIおよびグループII)は、「透明プラスチックの、表面摩滅に対する耐性についての標準的な試験法(Standard Test Method for Resistance of Transparent Plastics to Surface Abrasion)」であるASTM D−1044−99に記載される手順に従って、摩耗について試験される。この試験は、500gmの予め定められた負荷が各々にかけられる2つのCS−10F車輪を用いることからなっている。この車輪は、回転したときにコーティングされたアクリル基板の表面を摩滅させるように作られている。摩滅の激しさを測定するための基準としてヘーズの増加を用いる。この試験は、摩滅の結果としてヘーズが5%増加するまで行なわれる。試験の結果を図3に示す。図3のグラフに示すように、二重コーティングは、ポリシロキサンコーティングと比較すると1桁以上の耐摩耗性の改善を示す。
【0028】
屈曲試験:
修正されたASTM D−790試験プロトコルが、コーティングされた構成要素の屈曲試験を行なう際に用いられる。図4に示すように、コーティングを有する、寸法が1″X12″X0.5″のサンプル(グループIおよびII)を3点曲げ試験にかける。硬質コーティングを有する側はこの図では下向きに向いている。ファイバグラスフィルタおよびテフロン(登録商標)テープを用いて、水中で75重量%の硫酸の薄膜をコーティングに塗布する。図5に示すように、試験対象を周期的な負荷/温度プロファイルにかける。3600PSIの極限荷重がこれらの試験において用いられる。これらの試験は、コーティングに亀裂が入るかまたは表面がひび割れを示す(どちらが最初に生じても)まで続けられる。ポリシロキサンでコーティングされた基板(グループI)は50サイクルで機能しなくなったが、この発明の二重にコーティングされた基板(グループII)には500サイクル後であっても亀裂またはひび割れが見られないことが結果から明らかである。
【0029】
化学薬品暴露試験:
この発明に従う二重コーティングを有する延伸されたアクリル基板は、航空機のメンテナンスを行なう際に通常用いられる化学薬品に晒される。サンプルは、24時間に亘って各化学薬品に晒され(例外:MEKへの暴露は4時間であった)、次いで接着性(修正されたASTM D 3330−BSS7225)およびASTM D−1044−99によって試験されたときの摩耗に起因するヘーズの%変化について試験される。この結果を、ポリシロキサンでコーティングされた基板(グループI)および二重にコーティングされた基板(グループII)について、図6、図7および図8に示す。二重コーティングを有するサンプルは、化学薬品暴露の結果としての(接着指数が示すような)接着性の劣化または摩耗によって引き起されるヘーズの変化を示さない。
【0030】
UV/湿気暴露:
コーティングされた(グループIおよびグループII)基板は、SAE J1960に従って合計露光が300KJ/m2で紫外線(ピーク波長が340nmであるUV−Aランプ)/湿気に晒される。露光は、40分間の点灯、前部スプレーでの20分間の点灯、前部および後部スプレーでの60分間の点灯および60分間の消灯からなっている。グループIおよびIIからの別の1組のサンプルはまず(上記の化学薬品試験によって)種々の化学薬品に晒され、次いでUV/湿気試験プロトコルにかける。これら両方の試験において、二重コーティングを有するサンプルは、UV/湿気暴露の結果としての劣化を見せず、単一のポリシロキサンコーティングしか持たないサンプルよりも優れて機能した。
【0031】
したがって、この発明の範囲は、本来単なる例示であるため、本明細書に示しかつ記載する特定の実施例に限定されるべきではなく、以下に添付する特許請求の範囲およびその
機能的な等価物のものに十分に見合っているべきである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】使用される窓の一例である。
【図2】この発明の実施例に従う二重コーティングでコーティングされたアクリル基板の略図である。
【図3】ポリシロキサンおよびこの発明の二重コーティングを有する延伸されたアクリルについてのテーバ摩耗試験結果を示すグラフである。
【図4】3点屈曲試験の簡略図である。
【図5】この発明の実施例に従うコーティングされたアクリル製切取試片についての負荷/温度屈曲試験サイクルの簡略図である。
【図6】この発明の実施例に従ってポリシロキサンおよび二重にコーティングされた延伸されたアクリルを24時間にわたって(図に示す)種々の化学薬品に晒した結果としての乾式接着指数の変化を示すグラフである。
【図7】この発明の実施例に従ってポリシロキサンおよび二重にコーティングされた延伸されたアクリルを24時間にわたって(図に示す)種々の化学薬品に晒した結果としての湿式接着指数の変化を示すグラフである。
【図8】この発明の実施例に従うポリシロキサンおよび二重の層でコーティングされた延伸されたアクリルについての、化学薬品暴露後のテーバ摩耗試験結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重コーティングであって、
基板と、
軟質コーティングと、
硬質コーティングとを備え、
前記軟質コーティングは前記基板の表面に塗布され、前記硬質コーティングは前記軟質コーティングに塗布される、二重コーティング。
【請求項2】
前記基板はアクリル基板を備える、請求項1に記載の二重コーティング。
【請求項3】
前記アクリル基板は延伸されたアクリル基板を備える、請求項2に記載の二重コーティング。
【請求項4】
前記軟質コーティングは接着性のポリシロキサンコーティングを備える、請求項1に記載の二重コーティング。
【請求項5】
前記軟質コーティングは、約4から5ミクロンの間の厚さを備える、請求項1に記載の二重コーティング。
【請求項6】
前記硬質コーティングは、シリコンを含むプラズマCVD系コーティングを備える、請求項1に記載の二重コーティング。
【請求項7】
前記硬質コーティングは、約4から5ミクロンの間の厚さを備える、請求項1に記載の二重コーティング。
【請求項8】
前記硬質コーティングは、ダイヤモンドシールドコーティングを備える、請求項1に記載の二重コーティング。
【請求項9】
二重コーティングであって、
延伸されたアクリル基板と、
接着性のポリシロキサンコーティングと、
シリコンを含むプラズマCVD系コーティングとを備え、
前記接着性のポリシロキサンコーティングは前記延伸されたアクリル基板の表面に塗布され、前記シリコンを含むプラズマCVD系コーティングは、前記ポリシロキサンでコーティングされた、延伸されたアクリル基板上に堆積される、二重コーティング。
【請求項10】
前記接着性のポリシロキサンコーティングは、約4から5ミクロンの間の厚さを備える、請求項9に記載の二重コーティング。
【請求項11】
前記シリコンを含むプラズマCVD系コーティングは、約4から5ミクロンの間の厚さを備える、請求項9に記載の二重コーティング。
【請求項12】
前記シリコンを含むプラズマCVD系コーティングは、ダイヤモンドシールドコーティングを備える、請求項9に記載の二重コーティング。
【請求項13】
基板上に二重コーティングを形成する方法であって、
基板の表面上に接着性のポリシロキサンコーティングを堆積させることと、
前記接着性のポリシロキサンコーティング上にプラズマCVD系コーティングを堆積させることとを備える、方法。
【請求項14】
前記基板は延伸されたアクリル基板を備える、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記接着性のポリシロキサンコーティングは、約4から5ミクロンの間の厚さを備える、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記プラズマCVD系コーティングは、SiOxyのプラズマCVD系コーティングを備える、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記プラズマCVD系コーティングは、約4から5ミクロンの間の厚さを備える、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記ポリシロキサンでコーティングされた接着性の基板を洗浄して、汚染物質を取除くことをさらに備える、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記洗浄は、溶媒または水性洗浄剤における超音波洗浄を備える、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記洗浄は、不活性イオンおよび/または酸素イオンを用いた真空環境でのスパッタ洗浄を備える、請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−519117(P2009−519117A)
【公表日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−543457(P2008−543457)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際出願番号】PCT/US2006/045840
【国際公開番号】WO2007/064792
【国際公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(500520743)ザ・ボーイング・カンパニー (773)
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
【Fターム(参考)】