説明

有機半導体装置の製造方法

【課題】塗布開始場所以外の場所からの結晶成長を防止し、配向度の高い有機半導体薄膜を形成できるようにする。
【解決手段】有機半導体材料を含むインク11の塗布開始場所からインク11を乾燥させ、インク11中の有機半導体材料を結晶化させて有機半導体薄膜15を形成する。このとき、ノズル部2として、基板12の表面と対向する先端面2fを構成するオーバハング部を有したノズル胴体部2aと、ノズル胴体部2aの先端面2fから基板12側に突出すると共に一方向を長手方向として延設された吐出口2gを有する溶液吐出部2cとを備えたものを用いる。そして、溶液吐出部2cの下端を基板12から離間させた状態でインク11を吐出し、吐出されたインク11にて溶液吐出部2cと基板12の間に液溜まりを形成しつつ、ノズル部2を吐出口2gの長手方向に対する垂直方向に移動させることによりインク11をライン状に塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体薄膜を備えた有機半導体装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1において、基板表面に結晶性有機半導体薄膜を形成するための半導体溶液を塗布したのち、それを乾燥させることで有機半導体薄膜を製造する有機半導体薄膜の製造方法が提案されている。この製造方法では、ノズル(コーターヘッド)から半導体溶液を吐出しつつノズルと基板とを相対的に移動させることで半導体溶液を所望場所に塗布したのち、溶液塗布のエッジ部より溶液を乾燥させることにより、有機半導体薄膜を固液界面(固体と液体の境界)の移動と共に成長させることで、有機半導体材料の結晶を析出させる。そして、析出させた有機半導体材料の結晶によって有機半導体薄膜が製造されるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2007−119703号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図26に、上記特許文献1に示す従来のノズルで形成した有機半導体薄膜を示す。特許文献1に示した有機半導体薄膜の製造方法において、ノズル移動速度などの形成条件の最適化により、単一の結晶領域の大きさは大きくなる。
【0005】
しかしながら、有機半導体薄膜は、結晶の方向によって、キャリア移動度が異なることが報告されており(R. L. Head rick et. al., Applied Physics Letter 92, 063302 (2008))、より高いキャリア移動度を得ようとすれば、それぞれの結晶領域の結晶の配向方向を揃えることが重要となる。これに対して、特許文献1には、特許文献1の有機半導体薄膜の製造方法によれば、結晶の配向について有機半導体薄膜の成長方向と略平行となると記載されているが、結晶の配向方向を制御して製造するために十分ではなかった。すなわち、塗布開始場所でもノズル移動後の場所でも、同様に結晶化され、単一の結晶領域の大きさはある程度の大きさになるが、配向方向は成長方向(ノズル移動方向)とあまり一致しない。このため、高いキャリア移動度を得ることができない。
【0006】
例えば、結晶の配向方向を定量的に評価する方法として、微小入射角X線回折(以下、GIXD法という)がある。他にも、有機半導体薄膜の結晶の配向方向を評価する方法として、偏光顕微鏡があるが、偏光顕微鏡による評価は定量的ではないため、GIXD法を用いるのが好ましい。図27は、GIXD法による結晶の配向方向の評価を行うときの概要を示した図であり、図27(a)は断面図、図27(b)は俯瞰図である。この図に示すように、微小な入射角(例えば0.18°)としてX線を入射し、入射X線と反射X線との関係に基づいて、配向度を求めることができる。基板J1上に形成された有機半導体薄膜J2の表面と入射X線と成す角度がθχであるとすると、入射X線の方向と反射X線の方向とが成す角度は2θχとなる。実際には散乱により入射X線に対する角度2θχの方向以外にも散乱X線(散乱ベクトル(0k0)などとして表せる)が出ており、アジマス角(φ)を変えることにより、有機半導体薄膜J2の配向度を求めることができる(例えば、Y. Natsume et. al., Organic Electronics 10, 107(2009))。
【0007】
図28は、GIXD法によりアジマス角(φ)依存性測定により得られた回折ピークを示している。ピーク角度は結晶領域の方向を表し、ピークの積分強度は、結晶領域の面積を表している。図28では、配向度が次式を満たすものとして独自に定義してある。この定義によれば、有機半導体薄膜の結晶が同一方向に揃う程度を定量的に評価できると言える。
【0008】
(数1)
配向度=最大ピークの積分強度/全ピークの積分強度
また、従来の有機半導体薄膜の製造方法により製造した有機半導体薄膜のX線回折データを確認したところ配向度は3%となった(後述する図14(d)参照)。これは塗布開始場所以外の場所から、塗布開始場所から発生する結晶領域とは結晶の配向方向が異なる結晶領域が成長し、塗布開始場所から成長する結晶領域の成長を阻害するためである。従来のノズルを使用する限り、溶液からの結晶成長メカニズムより回避は困難である。
【0009】
すなわち、溶液から結晶成長をさせるためには、溶液を過飽和とする必要がある。過飽和となった溶液から核が生成し、さらに、過飽和を保持することで、核を基点に結晶が成長する。大きな結晶を得るためには、少量の核を発生させ、その核を基点に結晶を成長させることが重要である。
【0010】
溶液の液溜まりからの結晶成長において、溶液の液溜まりは、その端部での溶媒の揮発速度が大きい。そして、溶媒の揮発により、液溜まりの端部が過飽和となるため、この部分で核が発生し、その核を基点に結晶が成長する。したがって、大きな結晶を成長させるためには、液溜まり端部の過飽和状態をうまく制御し、塗布開始場所でのみ核を発生させ、その核を基点に結晶を大きく成長させる必要がある。
【0011】
ところが、上記した特許文献1に示す有機半導体薄膜の製造方法では、塗布した半導体溶液の乾燥制御が困難であり、塗布開始場所以外にも核が発生し、各核を基点として結晶が成長させられることになるため、結晶を十分に大きく成長させることができなかった。
【0012】
本発明は、塗布開始場所以外の場所からの結晶成長を防止し、配向度の高い(結晶の配向方向が揃った)有機半導体薄膜を形成できる有機半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。また、有機半導体薄膜を備えた有機半導体装置においてキャリア移動度を高くすることを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、有機半導体薄膜(15)を形成する工程として、有機半導体薄膜(15)を構成する有機半導体材料を含む溶液(11)を吐出するノズル(2)を用いて、溶液(11)を吐出させながらノズル(2)を所定方向に移動させることで溶液(11)をライン状に塗布し、溶液(11)の塗布開始場所から溶液(11)を乾燥させ、該溶液(11)中の有機半導体材料を結晶化させることで有機半導体薄膜(15)を形成する工程を行う。そして、ノズル(2)として、基板(12)の表面と対向する先端面(2f)を構成するオーバハング部を有したノズル胴体部(2a)と、ノズル胴体部(2a)の先端面(2f)から基板(12)側に突出すると共に一方向を長手方向として延設された吐出口(2g)を有する溶液吐出部(2c)とを備えたものを用い、溶液吐出部(2c)の下端を基板(12)から離間させた状態で溶液(11)を吐出し、吐出された溶液(11)にて溶液吐出部(2c)と基板(12)の間に液溜まりを形成しつつ、ノズル(2)を吐出口(2g)の長手方向に対する垂直方向に移動させることにより溶液(11)をライン状に塗布し、溶液(11)の塗布開始場所から溶液(11)を乾燥させ、該溶液(11)中の有機半導体材料の結晶を成長させることを特徴としている。
【0014】
このような製造方法によれば、従来のノズルを使用した製造方法では得られない高い配向度の有機半導体薄膜(15)を容易に形成できる。すなわち、ノズル胴体部(2a)の先端面(2f)と基板(12)とで挟まれた空間に液溜まりを形成しているため、液溜りから蒸発した溶媒蒸気で、液溜近傍が溶媒雰囲気となる。その結果、溶液(11)の蒸発が抑制され、溶液(11)の端部が過飽和になり難くなる。この状態でノズル(2)をノズル移動方向に移動すると、ノズル移動方向の後方の端部が前方に引かれ、膜厚が薄くなり、溶液(11)の蒸発が促進することで、この場所が過飽和状態となり、核発生が起こる。これにより、溶液(11)の塗布開始場所から溶液(11)を乾燥させられ、溶液(11)中の有機半導体材料の結晶を成長させることが可能となる。したがって、塗布開始場所以外の場所からの結晶成長を防止し、配向度の高い有機半導体薄膜(15)を形成できる有機半導体装置の製造方法とすることが可能となる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、有機半導体薄膜(15)を形成する工程では、液溜まりの上端が溶液吐出部(2c)の下端からノズル胴体部(2a)の先端面(2f)の間に位置するようにして溶液(11)の基板(12)への塗布を行うことを特徴としている。
【0016】
このように、液溜まりの上端が溶液吐出部(2c)の下端からノズル胴体部(2a)の先端面(2f)の間に位置するようにして溶液(11)の基板(12)への塗布を行うと、確実に溶液(11)の塗布開始場所以外の場所からの結晶成長を抑制でき、より高い配向度の有機半導体薄膜(15)を得ることが可能となる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、有機半導体薄膜(15)を形成する工程では、溶液吐出部(2c)における液溜まりの形状をカメラ(8)にてモニタし、モニタ結果に基づいて溶液吐出部(2c)における溶液(11)の吐出量を制御することで、液溜まりの上端が溶液吐出部(2c)の下端からノズル胴体部(2a)の先端面(2f)の間に位置するようにして溶液(11)の基板(12)への塗布を行うことを特徴としている。
【0018】
このように、液溜りの形状をカメラ(8)にてモニタし、モニタ結果に基づいて、溶液(11)の吐出量を制御することで、請求項2に記載のメニスカス形状を確実に保持できる。これにより、塗布開始場所以外の場所からの結晶成長をより確実に防止でき、高い配向度の有機半導体薄膜(15)が得られる。
【0019】
請求項4に記載の発明は、有機半導体薄膜(15)を形成する工程では、溶液吐出部(2c)の先端と基板(12)との間の距離を計測しつつ、これらの間の距離を所定の距離に制御することを特徴としている。
【0020】
溶液吐出部(2c)の先端と基板(12)との間の距離を変更すると、有機半導体薄膜(15)の配向度が変化することが確認された。これは、溶液吐出部(2c)の先端と基板(12)との間の距離を変更すると、それに応じてメニスカス形状が変わり、このメニスカス形状の変化に起因して溶液(11)の端部の乾燥状態が変化するために有機半導体薄膜(15)の配向度が変化するからであると考えられる。したがって、溶液吐出部(2c)の先端と基板(12)との間の距離を計測しつつ、これらの間の距離を所定の距離、例えば100μm以下に制御することで、より高い配向度の有機半導体薄膜(15)を得ることが可能となる。
【0021】
請求項5に記載の発明は、有機半導体薄膜(15)を形成する工程では、オーバハング部が構成するノズル胴体部(2a)の先端面(2f)の外周において、先端面(2f)と基板(12)との間のギャップが1.5mm以下となるようにして溶液(11)の基板(12)への塗布を行うことを特徴としている。
【0022】
先端面(2f)と基板(12)との間のギャップと有機半導体薄膜(15)の配向度との関係について調べたところ、ギャップの変化に応じて有機半導体薄膜(15)の配向度が変化することが確認された。具体的には、ギャップが大きくなると、有機半導体薄膜(15)の配向度が低下することが判った。これは、ギャップが小さい時には液溜りから蒸発した溶媒蒸気で液溜近傍が溶媒雰囲気となり、溶液(11)の蒸発が抑制されるために溶液(11)の端部が過飽和になり難くなるが、ギャップが大きくなると液溜近傍があまり溶媒雰囲気にならず、溶液(11)の乾燥が抑制され難くなるためと推測される。
【0023】
したがって、先端面(2f)と基板(12)との間のギャップが1.5mm以下となるようにして溶液(11)の基板(12)への塗布を行うことで、より高い配向度の有機半導体薄膜(15)を得ることが可能となる。
【0024】
請求項6に記載の発明は、有機半導体薄膜(15)を形成する工程では、ノズル(2)の移動速度を30μm/sec以下とすることを特徴としている。また、請求項7に記載の発明は、有機半導体薄膜(15)を形成する工程では、ノズル(2)の移動速度を10μm/sec以下とすることを特徴としている。
【0025】
有機半導体薄膜(15)の配向度はノズル移動速度に応じても変化することが確認された。具体的には、ノズル移動速度を30μm/sec以下とすることで、有機半導体薄膜の配向度が急激に向上する。特に、ノズル移動速度を10μm/sec以下とすると、有機半導体薄膜(15)の配向度がほぼ100%となる。これは、塗布開始場所以外の場所からの結晶成長を防止した上で、塗布開始場所で形成した単一の結晶領域をノズル移動方向にゆっくりと成長させることで、ノズル移動方向に配向しやすい結晶領域が選択的に成長し、配向度が向上したためと推定される。このように、ノズル移動速度を30μm/sec以下とすることで、より有機半導体薄膜(15)を高い配向度とすることが可能となり、ノズル移動速度を10μm/sec以下とすることで、有機半導体薄膜(15)の配向度をほぼ100%にすることが可能となる。
【0026】
請求項8に記載の発明は、有機半導体薄膜(15)を形成する工程では、溶液吐出部(2c)の先端と基板(12)との間の距離を100μm以下とすることを特徴としている。
【0027】
このように、溶液吐出部(2c)の先端と基板(12)との間の距離を近づけ、100μm以下となるようにすることで溶液(11)のメニスカス形状が安定する。これにより、より高い配向度の有機半導体薄膜(15)を得ることができる。
【0028】
請求項9に記載の発明は、基板(12)として、表面が撥インク性を示す撥インク性基板を用い、当該撥インク性の表面に親インク性領域をパターン状に形成することにより、表面に撥インク性領域と親インク性領域とがパターン状に形成されたものを用いることを特徴としている。
【0029】
このように、溶液(11)を塗布したい領域のみが親インク性領域(12b)となるようにすることで、塗布したい場所にのみ、溶液(11)が塗布されるようにできる。そして、溶液(11)を塗布したい複数の場所を親インク性領域(12b)とすれば、高い配向度の有機半導体薄膜(15)を一回で形成することが可能となり、生産性を向上することも可能となる。
【0030】
請求項10に記載の発明では、ノズル(2)として、ノズル胴体部(2a)に、溶液吐出部(2c)を挟んだ両側であって先端面(2f)から突出させられると共に溶液(11)をライン状に塗布するときのノズル移動方向において該溶液吐出部(2c)より後方に延びる庇部(2h)が備えられたものを用い、該庇部(2h)によってノズル(2)の先端面(2f)と基板(12)との間に閉空間(20)を構成し、液溜まりから蒸発した溶媒蒸気を閉空間(20)内に留まらせつつ溶液(11)を塗布することを特徴としている。 このように、ノズル移動方向の後方に延びる庇部(2h)を備えるようにすることで、この庇部(2h)によって液溜りから蒸発した溶媒蒸気が閉空間(20)内に留まり、閉空間(20)内の溶媒蒸気が高濃度雰囲気となる。このため、高濃度雰囲気によって溶液(11)の乾燥が抑制され、より確実に、ライン状に塗布された溶液(11)のうち高濃度雰囲気から外れた端部のみから乾燥させることが可能となる。これにより、より塗布開始場所でのみ核を発生させられ、さらに結晶を大きく成長させることが可能となる。
【0031】
また、ノズル(2)からの溶液(11)の塗布をパルス状の付勢力によって行う場合には、溶液(11)が波打った形状になり得るが、塗布したのちノズル(2)が或る程度の距離移動するまで乾燥が防止されることで、波打った形状が平坦化してから乾燥が始まるようにすることもできる。
【0032】
請求項11に記載の発明では、ノズル(2)として、庇部(2h)が溶液吐出部(2c)よりもノズル移動方向の前方にも形成されているものを用いることを特徴としている。
【0033】
このように、庇部(2h)を溶液吐出部(2c)よりもノズル移動方向の前方にも形成することで、より溶媒蒸気が閉空間(20)に留まり易くなる。したがって、より閉空間(20)内の溶媒蒸気を高濃度雰囲気にすることが可能となる。
【0034】
請求項12に記載の発明では、ノズル(2)として、溶液吐出部(2c)からノズル移動方向の後方に所定距離離間した位置に、先端面(2f)と基板(12)との間の距離を広げることで溶媒蒸気を上方へ逃がす蒸気排出部(2i、2j)が備えられたものを用いることを特徴としている。
【0035】
このように、ノズル(2)に蒸気排出部(2i、2j)を形成することで、その位置で溶媒蒸気を上方へ逃がすことが可能となり、逃がした位置から溶液(11)の乾燥を促すことができる。
【0036】
例えば、請求項13に記載したように、蒸気排出部を先端面(2f)に対して形成された開口部(2i)で構成することができる。この場合、請求項14に記載したように、ライン状に塗布される溶液(11)の幅方向における開口部(2i)の寸法が溶液(11)の幅以上とされ、かつ、該寸法がノズル移動方向の後方に向かうに従って大きくされるようにすると好ましい。
【0037】
このように、開口部(2i)の寸法をノズル移動方向の後方において大きくしていくことで、塗布後に溶液(11)が広がっても、それに対応して溶媒蒸気を逃すエリアを広げることが可能となる。
【0038】
また、請求項15に記載したように、蒸気排出部をノズル移動方向の後方に向かって先端面(2f)を徐々に基板(12)から離れるように傾斜させた傾斜面(2j)によって構成することもできる。
【0039】
請求項16に記載の発明では、基板(12)を加熱しながらノズル(2)からの溶液(11)の塗布を行うことを特徴としている。また、請求項17に記載の発明では、ノズル(2)を加熱しながらノズル(2)からの溶液(11)の塗布を行うことを特徴としている。
【0040】
このように、基板(12)やノズル(2)を加熱しておくことで、基板(12)やノズル(2)の温度が溶液(11)の温度よりも相対的に低かったとしても結露が発生することを抑制できる。
【0041】
請求項18に記載の発明は、有機半導体薄膜(15)は、ライン状に形成されていると共に、少なくともラインの一方の端部から内側に向かって、該有機半導体薄膜(15)の配向度が高くなるように有機半導体が結晶化されており、且つ該有機半導体薄膜(15)の配向度が25%以上であることを特徴としている。
【0042】
配向度15%程度までは、キャリア移動度の増加はないが、配向度が25%を超えると急激にキャリア移動度が上がる。これは、配向度が低い領域は、単一の結晶領域が小さく、配向度以外の要因が支配的になるが、配向度25%以上では配向度向上の効果が現れるためと考えられる。したがって、有機半導体薄膜(15)の配向度が25%以上となる部分を用いて、実質的に有機半導体装置として機能する部分を構成することで、キャリア移動度の大きい有機半導体装置とすることが可能となる。
【0043】
請求項19に記載の発明は、基板(12)と、基板(12)の表面上に形成された電極(13)と、該電極(13)の上に形成された絶縁膜(14)とを有し、且つ少なくとも有機半導体薄膜(15)の一部は、絶縁膜(14)上に形成されていることを特徴としている。
【0044】
このような構造の場合、電極(13)の段差が生じる。このため、上記した請求項1ないし17に記載の製造方法と従来の製造方法とで、有機半導体薄膜(15)を形成したときの配向度に差が生じる。このため、このように段差が生じる構造の有機半導体装置であっても、上記した請求項1ないし17に記載の製造方法によって製造することで、高い配向度のものとすることが可能となる。
【0045】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる有機半導体薄膜を備えた有機半導体装置の製造装置の模式図である。
【図2】ノズル部2の詳細構造を示したものであり、(a)はノズル部2の正面図、(b)はノズル部2の左側面図、(c)はノズル部2の底面図である。
【図3】第1実施形態の製造方法によって製造される有機半導体装置の断面図である。
【図4】図3に示す有機半導体装置の製造工程中の断面図である。
【図5】有機半導体薄膜15を成膜する工程の様子を示した図である。
【図6】第1実施形態にかかる有機半導体装置の製造方法によって得られた有機半導体薄膜15を示した図である。
【図7】インク塗布時におけるノズル胴体部2aや溶液吐出部2cの位置と溶媒雰囲気での有機溶媒濃度の関係を示した図である。
【図8】実験で用いた各メニスカスを示した図である。
【図9】図8(a)〜(c)のメニスカス形状で形成した有機半導体薄膜15の配向度を示した図表である。
【図10】溶液吐出部2cの高さを変えることで溶液吐出部2cの先端と基板12との間の距離dを変えたときのメニスカス形状を示した図である。
【図11】図10に示す各場合の有機半導体薄膜15の配向度を示した図表である。
【図12】先端面2fと基板12との間のギャップと有機半導体薄膜15の配向度との関係を示した図表である。
【図13】ノズル移動速度と配向度の関係を示す図である。
【図14】ノズル移動速度を変えて回折角度φ(°)とX線回折のピーク強度比との関係を示す図である。
【図15】第1実施形態の製造方法により製造された有機半導体薄膜15の偏光顕微鏡画像図である。
【図16】配向度に対するキャリア移動度の比を示した図である。
【図17】第1実施形態の製造方法と従来の製造方法それぞれで有機半導体薄膜15を形成したときの様子を示した有機半導体装置の上面図である。
【図18】第1実施形態にかかる有機半導体薄膜を備えた有機半導体装置の製造方法で用いられる基板12の上面図である。
【図19】図18に示した基板12を用いてインク11を塗布している様子を示した図であり、(a)が上面図、(b)が側面図である。
【図20】本発明の第3実施形態にかかる有機半導体装置の製造装置に備えられるノズル部2を示した図である。
【図21】第3実施形態の他の形態にかかる有機半導体装置の製造装置に備えられるノズル部2の底面図である。
【図22】本発明の第4実施形態にかかる有機半導体装置の製造装置に備えられるノズル部2を示した図である。
【図23】本発明の第5実施形態にかかる有機半導体装置の製造装置に備えられるノズル部2を示した図である。
【図24】本発明の第6実施形態にかかる有機半導体装置の製造装置に備えられるノズル部2を示した図である。
【図25】(a)〜(c)は、他の実施形態で説明する有機薄膜トランジスタの断面図である。
【図26】従来のノズルで形成した有機半導体薄膜の図である。
【図27】GIXD法による結晶の配向方向の評価を行うときの概要を示した図である。
【図28】GIXD法によりアジマス角(φ)依存性測定により得られた回折ピークを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0048】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態にかかる有機半導体薄膜を備えた有機半導体装置の製造装置の模式図である。この図を参照して、本実施形態にかかる有機半導体薄膜を備えた有機半導体装置の製造方法について説明する。
【0049】
図1に示すように、有機半導体装置の製造装置1は、ノズル部2、基板保持台3、インク送出部4、ノズル移動レール部5、ノズル移動用モータ部6、ギャップ検出部7、メニスカス観察カメラ8および制御部9を有した構成とされている。
【0050】
ノズル部2は、有機半導体薄膜10を形成するための有機半導体材料を含む溶液(以下、インクという)11を吐出することで基板12の表面にインク11を塗布する。インク11には、どのような種類のものを用いても構わないが、例えば有機半導体材料がインク11における0.05重量濃度%から1重量濃度%を占めるように調整されたものを用いている。図2は、ノズル部2の詳細構造を示したものであり、図2(a)はノズル部2の正面図、図2(b)はノズル部2の左側面図、図2(c)はノズル部2の底面図である。図2(a)は、図1においてノズル部2を紙面左側から見た図に相当し、図2(b)は、図1においてノズル部2を紙面裏面側から見た図に相当し、図2(c)は、図1においてノズル部2を紙面下方から見た図に相当する。
【0051】
図1および図2に示すように、ノズル部2は、ノズル胴体部2a、溶液貯留部2b、溶液吐出部2cおよび溶液供給口2dを有した構成とされている。
【0052】
ノズル胴体部2aは、内部に溶液貯留部2bを備えていると共に、溶液貯留部2bに対して連通させられた溶液吐出部2cおよび溶液供給口2dを備えている。ノズル胴体部2aは、例えば長方体の金属ブロックによって構成されており、有機半導体薄膜10が形成される基板12の表面と対向する一面を先端面2fとしたオーバハング部を有している。そして、オーバハング部における先端面2fから基板12側に突出させられるように溶液吐出部2cが形成されており、先端面2fが溶液吐出部2cの周囲を囲むように配置された状態になっている。
【0053】
溶液貯留部2bは、インク送出部4より送出されるインク11を貯留し、溶液吐出部2cに備えられた後述する吐出口2gに対してインク11を供給する役割を果たしている。図2に示されるように、溶液貯留部2bは、ノズル胴体部2aを構成する金属ブロックの側面の一面から穴空け加工を行って横穴を形成すると共に、横穴および吐出口2gと連通するように上面から穴空け加工を行って縦穴を形成したのち、縦穴の入口を塞ぐことで溶液貯留部2bを形成している。
【0054】
溶液吐出部2cは、先端面2fに対して所定高さ垂直方向に突出させられており、図1の紙面垂直方向を長手方向として、側面がテーパ状とされた四角錐台形状とされている。この溶液吐出部2cには、四角錐台形状における底面と上面とを貫通するように形成された吐出口2gが備えられ、当該溶液吐出部2cの長手方向と同方向を長手方向として延設されている。この吐出口2gが溶液貯留部2bと連通させられることで、吐出口2gからインク11を吐出できるようになっている。吐出口2gの位置は、ノズル胴体部2aにおける先端面2fのいずれの位置であっても良いが、吐出口2gよりもノズル移動方向後方において先端面2fが所定長さ残り、先端面2fと基板12との対向範囲が広く取れるようにしてある。
【0055】
溶液供給口2dは、インク送出部4から溶液貯留部2bへのインク11の送出を行うための供給口となる部分であり、例えば、図2に示されるように溶液貯留部2bを形成するための横穴の入口が溶液供給口2dとされる。この溶液供給口2dに対してインク送出部4に接続されたインク供給パイプ4aが連結され、インク送出部4からインク11が供給できるようになっている。このような構造により、ノズル部2が構成されている。
【0056】
基板保持台3は、基板12を搭載して保持するための台である。ノズル部2の溶液吐出部2cの先端位置、つまり基板保持台3の表面から溶液吐出部2cの先端部までの高さは調整可能とされており、この高さを調整することによって基板12の表面から溶液吐出部2cの先端部までの高さが調整可能とされている。
【0057】
インク送出部4は、インク11を貯留すると共に、インク供給パイプ4aを通じて貯留しているインク11をノズル部2に対して送出するためのものである。インク送出部4内の圧力は制御部9によって制御可能とされており、制御部9によってインク送出部4内に一定圧力が印加されることでノズル部2からのインク吐出が行われ、インク送出部4内への圧力印加が停止されることでノズル部2からのインク吐出が停止される。
【0058】
ノズル移動レール部5は、基板保持台3の表面と平行方向に伸ばされたレール部5aと、ノズル部2が保持されるノズル保持部5bとを有し、ノズル保持部5bがレール部5aに沿って移動することで、ノズル部2をレール部5aに沿って図中に示したノズル移動方向に同じ高さで移動させる。
【0059】
ノズル移動用モータ部6は、ノズル保持部5bをレール部5aに沿って移動させる駆動源となるものであり、制御部9によって制御される。例えば、ノズル移動用モータ部6はレール部5aを回転させるモータにて構成され、レール部5aにネジ溝(雄ネジ)を形成すると共にノズル保持部5bにそれと対応するネジ溝(雌ネジ)を形成し、モータ回転に伴ってレール部5aに沿ってノズル保持部5bが移動する構造とされる。このノズル移動用モータ部6におけるモータ回転数を制御することにより、ノズル移動速度を制御することが可能になっている。
【0060】
ギャップ検出部7は、ノズル部2と基板12の表面との間の間隔(ギャップ)を検出する。溶液吐出部2cの先端面2fからの高さが決まっていることから、ノズル部2と基板12の表面との間の間隔を検出することにより、溶液吐出部2cの先端と基板12の表面との間の間隔を検出することができる。このギャップ検出部7の検出信号は、制御部9に入力されており、制御部9がノズル部2の高さ調整を行うことにより、ノズル部2と基板12の表面との間の間隔が所定距離となるように調整される。なお、ノズル部2の高さ調整の具体的構造については図示していないが、例えばノズル移動レール部5の両端の支持柱を高さ調整が行える構造とすることなどによって実現可能である。
【0061】
メニスカス観察カメラ8は、ノズル部2から吐出されたインク11のメニスカス(吐出されたインク11によって形作られた曲面形状)を撮影し、インク11のメニスカスの画像を制御部9に伝える。
【0062】
制御部9は、ノズル部2の移動の制御、インク送出部4の内部圧力の制御、ノズル部2と基板12の表面との間の間隔の制御を行うことにより、ノズル部2によるインク11の吐出を制御し、基板12の所望場所に対してインク11を塗布する。すなわち、制御部9は、ギャップ検出部7の検出信号およびメニスカス観察カメラ8の画像に基づいてインク11のメニスカスが所望形状となるようにノズル部2と基板12の表面との間の間隔やインク送出部4の内部圧力を制御している。そして、制御部9は、インク11のメニスカスが所望形状となるようにしつつ、ノズル移動用モータ部6を駆動することで、ノズル部2を移動させ、基板12の所望場所にインク11が塗布されるようにしている。
【0063】
以上のような構造により、有機半導体装置の製造装置が構成されている。続いて、本実施形態にかかる有機半導体薄膜を備えた有機半導体装置の製造方法について説明する。図1に示した有機半導体装置の製造装置は、有機半導体装置の製造工程のうちの有機半導体薄膜の形成工程に用いられる。以下、図3に本実施形態の製造方法によって製造される有機半導体装置の断面図を示すと共に、図4に図3に示す有機半導体装置の製造工程中の断面図を示し、これらの図を参照して説明する。
【0064】
図3に示す有機半導体装置は、有機薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)であり、基板12の上にゲート電極13、ゲート絶縁膜14、有機半導体薄膜15、ソース電極16およびドレイン電極17、保護膜18を順に形成した構造とされている。
【0065】
基板12の上において、ゲート電極13は所望パターン、例えば一方向を長手方向とするライン状に形成されており、このゲート電極13を覆うようにゲート絶縁膜14および有機半導体薄膜15が形成されている。ソース電極16およびドレイン電極17は、有機半導体薄膜15の上において離間配置されており、それぞれゲート電極13の両端位置に形成されている。保護膜18は、ソース電極16やドレイン電極17を含む基板表面全面を覆うように形成されている。このような構造により、有機半導体装置が構成されている。
【0066】
このような有機半導体装置は、まず、図4(a)に示すように、基板12を用意したのち、この基板12の表面にゲート電極13の形成材料を配置すると共に、その形成材料をパターニングすることでゲート電極13を形成する工程を行う。基板12としては、ガラス基板やフィルム(エチレンナフタレート(PEN)もしくはポリイミド(PI))などを用いることができる。また、ゲート電極13の形成材料としては、モリブデン(Mo)などを用いることができ、蒸着などによって基板12の表面に配置することができる。
【0067】
次に、図4(b)に示すように、ゲート電極13の表面を覆うようにゲート絶縁膜14を成膜する工程を行う。例えば、ゲート絶縁膜14としては、アルミナなどを用いており、スピンコートや蒸着などによって形成できる。そして、必要に応じて、ウェットエッチングなどにより、ゲート絶縁膜14を所望形状にパターニングしている。
【0068】
その後、図4(c)に示すように、ゲート絶縁膜14の表面を覆うように有機半導体薄膜15を形成する工程を行う。この有機半導体薄膜15の形成工程において、図1に示した有機半導体装置の製造装置を用いる。また、有機半導体薄膜15については、ペンタセン系やチオフェン系材料などを用いており、上記したノズル部2を用いたダイコート法によって成膜している。
【0069】
図5は、この有機半導体薄膜15を成膜する工程の様子を示した図であり、図5(a)はノズル部2の先端部の部分拡大図、図5(b)は基板表面から見た有機半導体薄膜15の塗布の様子を示した図である。
【0070】
図1に示した有機半導体装置の製造装置を用い、制御部9がノズル移動用モータ部6を駆動することでノズル部2を基板12における溶液塗布の開始位置まで移動させると共にノズル部2の高さ調整を行うことでノズル部2と基板12の表面との間の間隔が所定の距離となるように調整する。例えば、オーバハング部が構成するノズル胴体部2aの先端面2fの外周において、先端面2fと基板12との間のギャップが1.5mm以下となり、溶液吐出部2cの先端と基板12との間の距離が100μm以下となるようにしている。
【0071】
そして、制御部9がインク送出部4内の圧力を制御することで、インク送出部4からノズル部2に対してインク11を送出し、ノズル部2の溶液吐出部2cの吐出口2gからインク11を吐出させる。また、図示しないヒータなどの加熱機構を用いて、ノズル部2や基板12の温度を室温からインク11を構成する有機溶媒の沸点よりも20℃程度低い温度まで加熱する。このように、ノズル部2や基板12を加熱しておくことで、ノズル部2や基板12の温度が相対的に有機溶媒に対して温度が低かったとしても結露が発生することを抑制できる。その後、ノズル移動用モータ部6を駆動してノズル部2をノズル移動方向に移動させ、有機半導体薄膜15を所望パターンに塗布する。
【0072】
このとき、ノズル部2における溶液吐出部2cの下端を基板12から離間させた状態でインク11を吐出し、吐出されたインク11にて溶液吐出部2cと基板12の間に液溜まりを形成しつつ、ノズル部2をノズル移動方向に移動させることでインク11をライン状に塗布する。具体的には、溶液吐出部2cや吐出口2gの長手方向に対する垂直方向に、移動速度を30μm/sec以下、より好ましくは10μm/sec以下としてノズル部2を移動させることにより、インク11をライン状に塗布する。そして、インク11の塗布開始場所からインク11を乾燥させ、インク11中の有機半導体材料の結晶を成長させる。
【0073】
また、インク11の塗布の際には、溶液吐出部2cから吐出されることで形成されるインク11の液溜まりの上端が溶液吐出部2cの下端からノズル胴体部2aの先端面2fの間に位置するようなメニスカスにして、基板12へのインク11の塗布を行うようにしている。すなわち、溶液吐出部2cにおける液溜まりの形状をメニスカス観察カメラ8にてモニタし、モニタ結果に基づいて溶液吐出部2cにおけるインク11の吐出量を制御することで、液溜まりの上端が溶液吐出部2cの下端からノズル胴体部2aの先端面の間に位置するようにして基板12へのインク11の塗布を行っている。
【0074】
このようにして、ゲート絶縁膜14の表面の所望位置にインク11が塗布され、その塗布開始場所からインク11が乾燥していき、インク11に含まれる有機半導体材料の結晶が成長していくことで、有機半導体薄膜15が形成される。
【0075】
その後、図4(d)に示すように、有機半導体薄膜15の表面に電極材料を成膜したのち、パターニングしてソース電極16およびドレイン電極17を形成する。例えば、電極材料としてはモリブデン(Mo)と金(Au)の合金もしくは金などを用いることができ、蒸着等によって成膜したのちウェットエッチングによってパターニングを行うことができる。また、マスク蒸着によって所望場所に電極材料を配置してソース電極16およびドレイン電極17を形成することもできる。
【0076】
そして、図4(e)に示すように、保護膜18を成膜する。例えば、保護膜18としては、アルミナもしくはパリレンなどを用いることができ、蒸着もしくはスピンコートなどによって成膜することができる。このような製造方法により、図3に示した有機半導体装置を製造することができる。
【0077】
以上説明した、本実施形態にかかる有機半導体装置の製造方法によれば、次のような効果を得ることができる。
【0078】
(1)上記製造方法では、有機半導体薄膜15を構成する有機半導体材料を含むインク11を吐出するノズル部2を用いて、インク11を吐出させながらノズル部2を所定方向に移動させることでインク11をライン状に塗布している。そして、インク11の塗布開始場所からインク11を乾燥させ、インク11中の有機半導体材料を結晶化させることで有機半導体薄膜15を形成している。
【0079】
このとき、ノズル部2として、基板12の表面と対向する先端面2fを構成するオーバハング部を有したノズル胴体部2aと、ノズル胴体部2aの先端面2fから基板12側に突出すると共に一方向を長手方向として延設された吐出口2gを有する溶液吐出部2cとを備えたものを用いている。そして、溶液吐出部2cの下端を基板12から離間させた状態でインク11を吐出し、吐出されたインク11にて溶液吐出部2cと基板12の間に液溜まりを形成しつつ、ノズル部2を吐出口2gの長手方向に対する垂直方向に移動させることによりインク11をライン状に塗布している。これにより、インク11の塗布開始場所からインク11を乾燥させられ、インク11中の有機半導体材料の結晶を成長させることが可能となる。
【0080】
図6は、このような製造方法によって得られた有機半導体薄膜15を示した図である。この図に示すように、塗布開始場所では、単一の結晶領域は小さく、単一の結晶領域の結晶の方向がランダムとなる。これは従来のノズルを用いて有機半導体薄膜を形成した場合と同じである。しかしながら、ノズル部2の移動に伴って、単一の結晶領域が増大し、領域のほぼ全域が結晶方向の揃った単一の結晶領域となっていることが確認できる。
【0081】
ノズル移動後の有機半導体薄膜15のX線回折データを求めたところ、配向度が55%となった。したがって、本実施形態にかかる有機半導体装置の製造方法によれば、従来のノズルを使用した製造方法では得られない高い配向度の有機半導体薄膜15を容易に形成できる。
【0082】
このような効果が得られる理由は、以下のメカニズムによる。すなわち、ノズル胴体部2aの先端面2fと基板12とで挟まれた空間に液溜まりを形成しているため、液溜りから蒸発した溶媒蒸気で、液溜近傍が高濃度な溶媒雰囲気となる。その結果、インク11の蒸発が抑制され、インク11の端部が過飽和になり難くなる。この状態でノズル部2をノズル移動方向に移動すると、ノズル移動方向の後方の端部が前方に引かれ、膜厚が薄くなり、インク11の蒸発が促進することで、この場所が、過飽和状態となり、核発生が起こる。
【0083】
図7は、インク塗布時におけるノズル胴体部2aや溶液吐出部2cの位置と溶媒雰囲気での有機溶媒濃度の関係を示した図である。この図からも分かるように、ノズル胴体部2aの先端面2fとインク11とが対向している部分が高濃度領域となっている。このため、この高濃度領域ではインク11の端部が過飽和になり難くなる。そして、ノズル胴体部2aのうちノズル移動方向末端部近辺まで高濃度領域となり、そこから徐々に有機溶媒濃度が低下していく。ここでインク11の蒸発が促進されて核発生が起こるようにできる。このとき高濃度領域となる範囲はある程度長さがある方が好ましいため、溶液吐出部2cからノズル移動方向後方において先端面2fが所定長さ残され、先端面2fと基板12との対向範囲が広く取れるようにしてある。
【0084】
従来のノズルでも、装置雰囲気全体を溶媒雰囲気にすれば達成できる可能性があるが、製造装置が大がかりとなり、引いては半導体装置の製造コストが増加するため、本実施形態にかかる有機半導体装置の製造方法とすることで、製造コストの増加を抑制することも可能となる。
【0085】
(2)本実施形態にかかる有機半導体装置の製造方法では、有機半導体薄膜15を形成する工程において、液溜まりの上端が溶液吐出部2cの下端からノズル胴体部2aの先端面2fの間に位置するようにしてインク11の基板12への塗布を行うようにしている。これにより、より確実にインク11の塗布開始場所以外の場所からの結晶成長を抑制でき、高い配向度の有機半導体薄膜15が得られるようにすることが可能となる。
【0086】
ノズル部2と基板12とに接するインク11のメニスカスの形状を変更して結晶成長の様子について調べたところ、本実施形態の製造方法で用いているメニスカス形状とすることで、他のメニスカス形状とする場合と比較して、より上記効果が得られることが確認された。
【0087】
図8は、実験で用いた各メニスカスを示した図であり、図8(a)は、ノズル部2で形成される一般的なメニスカス形状であり、図8(b)は、本実施形態の製造方法で用いているメニスカス形状であり、図8(c)は、ノズル胴体部2aにおける先端面2fに液溜まりの上部が接した状態のメニスカス形状である。また、図9は、図8(a)〜(c)のメニスカス形状で形成した有機半導体薄膜15の配向度を示した図表である。なお、各実験では、溶液吐出部2cの先端部と基板12との距離を100μm、先端面2fと基板12との距離を1.1mm、ノズル移動速度を20μm/secとしている。
【0088】
実験において、図8(a)のメニスカスによって有機半導体薄膜15を形成した場合、塗布開始場所以外の場所からの結晶成長が発生し、有機半導体薄膜15の配向度が低下した。また、図8(c)のメニスカスによって有機半導体薄膜15を形成しようとした場合、インク11が先端面を伝わり、液溜りの大きさが制御できなくなって、有機半導体薄膜15の製造には適用できなかった。
【0089】
これに対して、図8(b)のメニスカスのように、液溜まりの上端が溶液吐出部2cの下端からノズル胴体部2aの先端面2fの間に位置するようにしてインク11の基板12への塗布を行うと、確実にインク11の塗布開始場所以外の場所からの結晶成長を抑制でき、高い配向度の有機半導体薄膜15が得られた。これは、液溜りの表面積が大きくなることで、ノズル胴体部2aの先端面2fと基板12とで挟まれた空間に、溶媒雰囲気が安定して形成できるためであると推定される。
【0090】
このように、本実施形態にかかる有機半導体装置の製造方法によれば、より確実にインク11の塗布開始場所以外の場所からの結晶成長を抑制でき、高い配向度の有機半導体薄膜15が得られるようにすることが可能となる。
【0091】
(3)本実施形態にかかる有機半導体装置の製造方法では、有機半導体薄膜15を形成する工程において、溶液吐出部2cにおける液溜まりの形状をメニスカス観察カメラ8にてモニタし、該モニタ結果に基づいて溶液吐出部2cにおけるインク11の吐出量を制御している。これにより、液溜まりの上端が溶液吐出部2cの下端からノズル胴体部2aの先端面2fの間に位置するようにして基板12へのインク11の塗布を行っている。
【0092】
このように、液溜りの形状をメニスカス観察カメラ8にてモニタし、モニタ結果に基づいて、インク11の吐出量を制御することで、上記した図8(b)のメニスカス形状を確実に保持できる。これにより、塗布開始場所以外の場所からの結晶成長をより確実に防止でき、高い配向度の有機半導体薄膜15が得られる。
【0093】
(4)本実施形態にかかる有機半導体装置の製造方法では、有機半導体薄膜15を形成する工程において、溶液吐出部2cの先端と基板12との間の距離を計測しつつ、これらの間の距離を所定の距離に制御するようにしている。
【0094】
溶液吐出部2cの先端と基板12との間の距離は、液溜まりのメニスカス形状を決定する要素となる。このため、溶液吐出部2cの先端と基板12との間の距離を制御して、上記した図8(b)のメニスカス形状となるようにすれば、高い配向度の有機半導体薄膜15を得ることが可能になる。溶液吐出部2cの先端と基板12との間の距離とメニスカス形状との関係を実験により調べたところ、次のようになった。
【0095】
図10は、溶液吐出部2cの高さを変えることで溶液吐出部2cの先端と基板12との間の距離dを変えたときのメニスカス形状を示した図である。また、図11は、図10に示す各場合の有機半導体薄膜15の配向度を示した図表である。なお、各実験では、先端面2fと基板12との距離を1.1μm、ノズル移動速度を20μm/secとしている。
【0096】
図10に示すように、溶液吐出部2cの先端と基板12との間の距離dを50μm、100μm、200μm、300μmと変更すると、それに応じてメニスカス形状が変わる。そして、各場合において液溜まりの上部がノズル胴体部2aにおける先端面2fと溶液吐出部2cの間に位置するようなメニスカス形状となるようにすると、メニスカスの高さが変ってくる。このメニスカス形状の変化に起因してインク11の端部の乾燥状態が変化するために、図11に示すように有機半導体薄膜15の配向度が変化していると推定される。
【0097】
したがって、溶液吐出部2cの先端と基板12との間の距離を計測しつつ、これらの間の距離dを所定の距離、例えば100μm以下に制御することで、より高い配向度の有機半導体薄膜15を得ることが可能となる。
【0098】
(5)本実施形態にかかる有機半導体装置の製造方法では、有機半導体薄膜15を形成する工程の際に、オーバハング部が構成するノズル胴体部2aの先端面2fの外周において、先端面2fと基板12との間のギャップが1.5mm以下となるようにしてインク11の基板12への塗布を行っている。
【0099】
先端面2fと基板12との間のギャップと有機半導体薄膜15の配向度との関係についても調べたところ、ギャップの変化に応じて有機半導体薄膜15の配向度が変化することが確認された。図12は、この関係を示した図表である。この図に示されるように、ギャップが大きくなると、有機半導体薄膜15の配向度が低下することが判った。これは、ギャップが小さい時には液溜りから蒸発した溶媒蒸気で液溜近傍が溶媒雰囲気となり、インク11の蒸発が抑制されるためにインク11の端部が過飽和になり難くなるが、ギャップが大きくなると液溜近傍があまり溶媒雰囲気にならず、インク11の乾燥が抑制され難くなるためと推測される。
【0100】
したがって、先端面2fと基板12との間のギャップが1.5mm以下となるようにしてインク11の基板12への塗布を行うことで、より高い配向度の有機半導体薄膜15を得ることが可能となる。
【0101】
(6)本実施形態にかかる有機半導体装置の製造方法では、有機半導体薄膜15を形成する工程において、ノズル移動速度を30μm/sec以下、好ましくは10μm/sec以下となるようにしている。このように、ノズル移動速度を制御することにより、より有機半導体薄膜15を高い配向度とすることが可能となる。
【0102】
図13は、ノズル移動速度と配向度の関係を調べた結果を示した図である。このときの各実験では、溶液吐出部2cの先端部と基板12との距離を100μm、先端面2fと基板12との距離を1.1mmとしている。また、図14は、ノズル移動速度を変えて回折角度φ(°)とX線回折のピーク強度比との関係を調べた結果を示した図である。参考として、図14中に従来ノズルを用いた場合についても記載してある。なお、このときの各実験では、溶液吐出部2cの先端部と基板12との距離を100μm、先端面2fと基板12との距離を1.1mmとしている(従来ノズルの場合にはノズル先端から基板までの距離を100μmとしている)。
【0103】
図13に示す結果より、ノズル移動速度を30μm/sec以下とすることで、有機半導体薄膜の配向度が急激に向上することが分かる。これは、塗布開始場所以外の場所からの結晶成長を防止した上で、塗布開始場所で形成した単一の結晶領域をノズル移動方向にゆっくりと成長させることで、ノズル移動方向に配向しやすい結晶領域が選択的に成長し、配向度が向上したためと推定される。したがって、ノズル移動速度を30μm/sec以下とすることで、有機半導体薄膜15をより高い配向度とすることが可能となる。また、図13および図14に示された結果より、ノズル移動速度を30μm/sec以下とすることで、配向度がほぼ100%になることが判る。したがって、ノズル移動速度を10μm/sec以下とすることで、有機半導体薄膜15を更に高い配向度とすることが可能となる。
【0104】
(7)本実施形態にかかる有機半導体装置の製造方法では、有機半導体薄膜15を形成する工程において、溶液吐出部2cの先端と基板12との間の距離が100μm以下となるようにしている。このように、溶液吐出部2cの先端と基板12との間の距離が100μm以下にすると、高い配向度を得ることができる(図11参照)。これは、溶液吐出部2cの先端と基板12との間の距離を近づけることでインク11のメニスカス形状が安定し、インク11の端部の乾燥状態が安定するためと想定される。したがって、溶液吐出部2cの先端と基板12との間の距離が100μm以下となるようにすることで、より高い配向度の有機半導体薄膜15を安定して得ることが可能となる。
【0105】
(8)また、本実施形態にかかる有機半導体装置の製造方法により製造される有機半導体装置では、有機半導体薄膜15がライン状に形成されるが、少なくともラインの一方の端部から内側に向かって、有機半導体薄膜15の配向度が高くなるように有機半導体が結晶化されることになる。このような有機半導体薄膜15のうち、実質的に有機半導体装置(有機薄膜トランジスタ)として用いられる部分において、有機半導体薄膜15の配向度が25%以上となるようにすると好ましい。
【0106】
図15に、本実施形態の製造方法により製造された有機半導体薄膜15の偏光顕微鏡画像図である。ライン状に形成された有機半導体薄膜15の少なくとも一方の端部から内側に向かって配向度が高くなっていることが分かる。上記製造方法より有機半導体薄膜15を形成した場合、塗布開始場所は核発生直後のため、多数の結晶方向の異なる結晶領域が混在し、配向度が低下する。また、塗布終了場所では、塗布後塗布ノズルを基板から離したときの残る溶液が、乾燥により過飽和となり、核が発生する。このため、有機半導体薄膜15の両端から内側に向かって配向度が高くなる。
【0107】
図16は、配向度に対するキャリア移動度の比を示した図である。配向度15%程度までは、キャリア移動度の増加はないが、配向度が25%を超えると急激にキャリア移動度が上がっている。これは、配向度が低い領域は、単一の結晶領域が小さく、配向度以外の要因が支配的となると推定され、配向度25%以上で配向度向上の効果が現れるためと考えられる。したがって、有機半導体薄膜15の配向度が25%以上となる部分を用いて、実質的に有機半導体装置として機能する部分を構成することで、キャリア移動度の大きい有機半導体装置とすることが可能となる。
【0108】
(9)本実施形態の有機半導体装置では、基板12の表面上にゲート電極13が形成されていると共に、ゲート電極13の上にゲート絶縁膜14が形成され、少なくとも有機半導体薄膜15の一部がゲート絶縁膜14上に形成された構造となっている。このような構造の場合、ゲート電極13の段差があるため、本実施形態の製造方法と従来の製造方法とで、有機半導体薄膜15を形成したときの配向度に差が生じる。
【0109】
図17は、本実施形態の製造方法と従来の製造方法それぞれで有機半導体薄膜15を形成したときの様子を示した有機半導体装置の上面図である。この図に示すように、従来の製造方法の場合、ゲート電極13の段差を基点として結晶が成長してしまい、配向度が低下してしまう。これに対して、本実施形態の製造方法の場合、ゲート電極13の段差を基点とした結晶の成長がない。これは、先端面2fと基板12との間の溶媒雰囲気により、過飽和度が抑制され、核が発生し難い状態となっているために、段差、異物などを基点とする核発生および結晶成長が防止されるためであると考えられる。
【0110】
したがって、本実施形態のような製造方法は、ゲート電極13のように段差が生じる電極の上に、ゲート絶縁膜14のような絶縁膜が形成され、さらにその上に有機半導体薄膜15が形成されるような構造に適用されても、配向度の低下を防止することが可能となる。
【0111】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、第1実施形態に対して基板12の構成を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0112】
図18は、本実施形態にかかる有機半導体薄膜を備えた有機半導体装置の製造方法で用いられる基板12の上面図である。また、図19は、図18に示した基板12を用いてインク11を塗布している様子を示した図であり、図19(a)が上面図、図19(b)が側面図である。
【0113】
図18に示すように、基板12のうちインク11が塗布される表面に、撥インク性領域12aと親インク性領域12bとを設けている。このように、基板12の表面に撥インク性領域12aと親インク性領域12bとを設けると、撥インク性領域12aではインク11が弾かれて塗布されず、親インク性領域12bにインク11が塗布されるようにできる。
【0114】
したがって、インク11を塗布したい領域のみが親インク性領域12bとなるようにすることで、塗布したい場所にのみ、インク11が塗布されるようにできる。例えば、基板12として、表面が撥インク性を示す撥インク性基板を用い、当該撥インク性の表面に親インク性領域12bをパターン状に形成することにより、表面に撥インク性領域12aと親インク性領域12bとがパターン状に形成されたものを用いることができる。そして、図18に示したように、インク11を塗布したい複数の場所を親インク性領域12bとすれば、高い配向度の有機半導体薄膜15を一回で形成することが可能となり、生産性を向上することが可能となる。
【0115】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態では、第1実施形態に対してノズル部2の構成を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0116】
図20は、本実施形態にかかる有機半導体装置の製造装置に備えられるノズル部2を示した図であり、図20(a)はノズル部2を下方から見た斜視図、図20(b)はノズル部2の底面図、図20(c)はノズル部2の断面図である。
【0117】
この図に示すように、本実施形態では、ノズル部2におけるノズル胴体部2aの先端面2fの周囲を囲むように、先端面2fから垂直方向に所定高さ突き出した庇部2hを形成している。この庇部2hは、少なくとも溶液吐出部2cを挟んだ両側であってノズル移動方向において溶液吐出部2cより後方に延びるように形成されていれば良いが、本実施形態では、溶液吐出部2cよりもノズル移動方向の前方を含め、先端面2fの外縁全域に形成されるようにしている。
【0118】
このように、先端面2fに庇部2hを備えることにより、先端面2fと基板12との間に閉空間20を構成することができる。このため、インク塗布時に、この庇部2hによって液溜りから蒸発した溶媒蒸気が閉空間20内に留まり、閉空間20内の溶媒蒸気が高濃度雰囲気となる。このため、高濃度雰囲気によってインク11の乾燥が抑制され、より確実に、ライン状に塗布されたインク11のうち高濃度雰囲気から外れた端部のみから乾燥させることが可能となる。これにより、より塗布開始場所でのみ核を発生させられ、さらに結晶を大きく成長させることが可能となる。
【0119】
また、ノズル部2からのインク11の塗布は例えばパルス状の付勢力によって行われるが、このよう形態にてインク11の塗布を行う場合には、インク11が波打った形状になり得る。しかしながら、本実施形態のようにすれば、インク11を塗布したのちノズル部2が或る程度の距離移動するまで乾燥が防止されることで、波打った形状が平坦化してから乾燥が始まるようにすることもできる。
【0120】
さらに、本実施形態では、溶液吐出部2cよりもノズル移動方向の前方にも庇部2hを形成している。このように、庇部2hを溶液吐出部2cよりもノズル移動方向の前方にも形成することで、より溶媒蒸気が閉空間20に留まり易くなる。したがって、より閉空間20内の溶媒蒸気を高濃度雰囲気にすることが可能となる。
【0121】
なお、庇部2hを設けることで、閉空間20を構成し、その内部を溶媒蒸気の高濃度領域にできるが、閉空間20の容積が狭いほど、より高濃度領域の濃度を高められる。このため、庇部2hのうちノズル移動方向の前方に位置している部分が後方に位置している部分よりも溶液吐出部2cまでの距離が短くなるようにし、閉空間20の容積がノズル移動方向の前方において小さく、後方において大きくなるようにすると好ましい。
【0122】
また、本実施形態では、先端面2fの外縁全域を囲むように庇部2hを形成しているが、上記したように少なくとも溶液吐出部2cを挟んだ両側であってノズル移動方向において溶液吐出部2cより後方に延びるように庇部2hが形成されていれば良い。このため、例えば図21(a)、(b)に示したノズル部2の他の形態を表した底面図のように、単に溶液吐出部2cを挟んだ両側にのみ庇部2hを形成しても良いし、溶液吐出部2cの位置から後方のみを囲むような形態であっても良い。
【0123】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態も、第1実施形態に対してノズル部2の構成を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0124】
図22は、本実施形態にかかる有機半導体装置の製造装置に備えられるノズル部2を示した図であり、図22(a)はノズル部2の底面図、図22(b)はノズル部2の断面図である。
【0125】
この図に示すように、本実施形態では、ノズル部2におけるノズル胴体部2aの先端面2fに蒸気排出部を構成する開口部2iを備えている。このような開口部2iを備えることによって先端面2fと基板12との間の距離を広げることで、溶液吐出部2cから離れた位置から溶媒蒸気を上方へ逃がせるようにしている。これにより、溶液吐出部2cから離れた位置から有機溶媒濃度が低下し始めるようにできる。
【0126】
また、有機溶媒濃度が高濃度領域から徐々に低下していることが好ましいことから、本実施形態では開口部2iの開口率(開口幅)がノズル移動方向後方に向かうに従って徐々に大きくなるようにしている。開口部2iの開口幅は、溶液吐出部2cの吐出口2gの幅、つまりライン状に塗布されるインク11の幅と同じ幅あれば良いため、吐出口2gの幅と同じ幅から徐々に開口部2iの開口幅が広がるようにしてある。ただし、塗布後にインク11が濡れ広がる場合もあることから、その濡れ広がりを加味して、開口部2iのうち最も溶液吐出部2c側の開口幅が吐出口2gの幅よりも大きくなるようにすることもできる。
【0127】
このように、ノズル部2に開口部2iからなる蒸気排出部を形成することで、その位置で溶媒蒸気を上方へ逃がすことが可能となり、逃がした位置からインク11の乾燥を促すことができる。
【0128】
また、ライン状に塗布されるインク11の幅方向における開口部2iの寸法がインク11の幅以上とされ、かつ、該寸法がノズル移動方向の後方に向かうに従って大きくされている。このように、開口部2iの寸法をノズル移動方向の後方において大きくしていくことで、塗布後にインク11が濡れ広がっても、それに対応して溶媒蒸気を逃すエリアを広げることが可能となる。
【0129】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態について説明する。本実施形態も、第1実施形態に対してノズル部2の構成を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0130】
図23は、本実施形態にかかる有機半導体装置の製造装置に備えられるノズル部2を示した図であり、図23(a)はノズル部2の底面図、図23(b)はノズル部2の断面図である。
【0131】
この図に示すように、本実施形態では、ノズル部2におけるノズル胴体部2aの先端面2fに開口部2iを複数設けてある。そして、各開口部2iの開口幅がノズル移動方向後方に向かうに従って徐々に大きくなるようにしている。このように、開口部2iを複数設けた構成としても、第4実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0132】
(第6実施形態)
本発明の第6実施形態について説明する。本実施形態も、第1実施形態に対してノズル部2の構成を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0133】
図24は、本実施形態にかかる有機半導体装置の製造装置に備えられるノズル部2を示した図であり、図24(a)はノズル部2の底面図、図24(b)はノズル部2の断面図である。
【0134】
この図に示すように、本実施形態では、ノズル部2におけるノズル胴体部2aの先端面2fを、ノズル移動方向後方において基板12から離れるように傾斜させた傾斜面2jとしており、この傾斜面2jによって蒸気排出部を構成している。このように、傾斜面2jを備えることによっても、その位置で溶媒蒸気を上方へ逃がすことが可能となり、逃がした位置からインク11の乾燥を促すことができる。
【0135】
(他の実施形態)
上記各実施形態では、図3に示す構造の有機薄膜トランジスタを有する有機半導体装置を例に挙げた。この有機薄膜トランジスタは、ゲート電極13が底部にあり、ソース電極16とドレイン電極17のコンタクトを上方から取るボトムゲートトップコンタクト構造となっている。しかしながら、これは有機薄膜トランジスタの一例を示したのであり、勿論、他の構造の有機薄膜トランジスタに本発明を適用しても良い。図25(a)〜(c)は、他の構造の有機薄膜トランジスタの断面図である。
【0136】
図25(a)に示す有機薄膜トランジスタは、不純物をドープしたシリコン基板などによってゲート電極13を構成し、その上にゲート絶縁膜14を介して有機半導体薄膜15を形成し、有機半導体薄膜15の両側にソース電極16とドレイン電極17を形成した構造としている。この有機薄膜トランジスタは、上記図3で示したものと同様、ゲート電極13が底部にあり、ソース電極16とドレイン電極17のコンタクトを上方から取るボトムゲートトップコンタクト構造とされる。
【0137】
図25(b)に示す有機薄膜トランジスタは、ガラスやフィルムもしくはシリコン基板などからなる基板12の上に第1の絶縁膜19を介して互いに離間するソース電極16とドレイン電極17を形成し、さらにこれらの間を連結するように有機半導体薄膜15を形成したのち、有機半導体薄膜15の上にゲート絶縁膜14を介してゲート電極13を形成している。この有機薄膜トランジスタは、ゲート電極13が上部にあり、ソース電極16とドレイン電極17のコンタクトを下方から取るトップゲートボトムコンタクト構造とされる。
【0138】
図25(c)に示す有機薄膜トランジスタは、シリコン基板などに対してゲート電極13を作り込み、その上にゲート絶縁膜14を介して互いに離間するソース電極16とドレイン電極17を形成し、さらにこれらの間を連結するように有機半導体薄膜15を形成している。この有機薄膜トランジスタは、ゲート電極13が底部にあり、ソース電極16とドレイン電極17のコンタクトを下方から取るボトムゲートボトムコンタクト構造とされる。
【0139】
このように、様々な形態の有機薄膜トランジスタがあるが、これらいずれの形態についても、本発明を適用することができる。勿論、有機薄膜半導体が備えられる有機半導体装置であれば、有機薄膜トランジスタ以外のものについても、本発明を適用することができる。
【0140】
なお、上記各実施形態では、ノズル部2自体を所定方向に移動させることによって有機半導体薄膜10が形成される基板12に対してノズル部2が移動させられるようにしたが、ノズル部2が基板12に対して相対的に移動させられれば良い。例えば、ノズル部2を固定し、基板12側をノズル部2に対して移動させることで、ノズル部2が基板12に対して移動させられるような形態であっても良い。
【符号の説明】
【0141】
1 製造装置
2 ノズル部
2a ノズル胴体部
2c 溶液吐出部
2f 先端面
2g 吐出口
4 インク送出部
5 ノズル移動レール部
6 ノズル移動用モータ部
7 ギャップ検出部
8 メニスカス観察カメラ
9 制御部
10 有機半導体薄膜
11 インク
12 基板
12a 撥インク性領域
12b 親インク性領域
13 ゲート電極
14 ゲート絶縁膜
15 有機半導体薄膜
16 ソース電極
17 ドレイン電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(12)を用意し、該基板(12)の表面上に少なくとも有機半導体薄膜(15)を形成する工程を有する有機半導体装置の製造方法であって、
前記有機半導体薄膜(15)を形成する工程として、前記有機半導体薄膜(15)を構成する有機半導体材料を含む溶液(11)を吐出するノズル(2)を用いて、前記溶液(11)を吐出させながら前記ノズル(2)を所定方向に移動させることで前記溶液(11)をライン状に塗布し、前記溶液(11)の塗布開始場所から前記溶液(11)を乾燥させ、該溶液(11)中の前記有機半導体材料を結晶化させることで前記有機半導体薄膜(15)を形成する工程を行い、
前記ノズル(2)として、前記基板(12)の表面と対向する先端面(2f)を構成するオーバハング部を有したノズル胴体部(2a)と、前記ノズル胴体部(2a)の前記先端面(2f)から前記基板(12)側に突出すると共に一方向を長手方向として延設された吐出口(2g)を有する溶液吐出部(2c)とを備えたものを用い、
前記溶液吐出部(2c)の下端を前記基板(12)から離間させた状態で前記溶液(11)を吐出し、吐出された前記溶液(11)にて前記溶液吐出部(2c)と前記基板(12)の間に液溜まりを形成しつつ、前記ノズル(2)を前記吐出口(2g)の長手方向に対する垂直方向に移動させることにより前記溶液(11)をライン状に塗布し、前記溶液(11)の塗布開始場所から前記溶液(11)を乾燥させ、該溶液(11)中の前記有機半導体材料の結晶を成長させることを特徴とする有機半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記有機半導体薄膜(15)を形成する工程では、前記液溜まりの上端が前記溶液吐出部(2c)の下端からノズル胴体部(2a)の先端面(2f)の間に位置するようにして前記溶液(11)の前記基板(12)への塗布を行うことを特徴とする請求項1に記載の有機半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記有機半導体薄膜(15)を形成する工程では、前記溶液吐出部(2c)における前記液溜まりの形状をカメラ(8)にてモニタし、該モニタ結果に基づいて前記溶液吐出部(2c)における前記溶液(11)の吐出量を制御することで、前記液溜まりの上端が前記溶液吐出部(2c)の下端から前記ノズル胴体部(2a)の先端面(2f)の間に位置するようにして前記溶液(11)の前記基板(12)への塗布を行うことを特徴とする請求項2に記載の有機半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記有機半導体薄膜(15)を形成する工程では、前記溶液吐出部(2c)の先端と前記基板(12)との間の距離を計測しつつ、これらの間の距離を所定の距離に制御することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の有機半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記有機半導体薄膜(15)を形成する工程では、前記オーバハング部が構成する前記ノズル胴体部(2a)の先端面(2f)の外周において、前記先端面(2f)と前記基板(12)との間のギャップが1.5mm以下となるようにして前記溶液(11)の前記基板(12)への塗布を行うことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の有機半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記有機半導体薄膜(15)を形成する工程では、前記ノズル(2)の移動速度を30μm/sec以下とすることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の有機半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記有機半導体薄膜(15)を形成する工程では、前記ノズル(2)の移動速度を10μm/sec以下とすることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の有機半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記有機半導体薄膜(15)を形成する工程では、前記溶液吐出部(2c)の先端と前記基板(12)との間の距離を100μm以下とすることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の有機半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記基板(12)として、表面が撥インク性を示す撥インク性基板を用い、当該撥インク性の表面に親インク性領域をパターン状に形成することにより、表面に撥インク性領域と親インク性領域とがパターン状に形成されたものを用いることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載の有機半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記ノズル(2)として、前記ノズル胴体部(2a)に、前記溶液吐出部(2c)を挟んだ両側であって前記先端面(2f)から突出させられると共に前記溶液(11)をライン状に塗布するときのノズル移動方向において該溶液吐出部(2c)より後方に延びる庇部(2h)が備えられたものを用い、該庇部(2h)によって前記ノズル(2)の前記先端面(2f)と前記基板(12)との間に閉空間(20)を構成し、前記液溜まりから蒸発した溶媒蒸気を前記閉空間(20)内に留まらせつつ前記溶液(11)を塗布することを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1つに記載の有機半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記ノズル(2)として、前記庇部(2h)が前記溶液吐出部(2c)よりも前記ノズル移動方向の前方にも形成されているものを用いることを特徴とする請求項10に記載の有機半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記ノズル(2)として、前記溶液吐出部(2c)から前記ノズル移動方向の後方に所定距離離間した位置に、前記先端面(2f)と前記基板(12)との間の距離を広げることで前記溶媒蒸気を上方へ逃がす蒸気排出部(2i、2j)が備えられたものを用いることを特徴とする請求項10または11に記載の有機半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記蒸気排出部は、前記先端面(2f)に対して形成された開口部(2i)であることを特徴とする請求項12に記載の有機半導体装置の製造方法。
【請求項14】
ライン状に塗布される前記溶液(11)の幅方向における前記開口部(2i)の寸法が前記溶液(11)の幅以上とされ、かつ、該寸法が前記ノズル移動方向の後方に向かうに従って大きくされていることを特徴とする請求項13に記載の有機半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記蒸気排出部は、前記ノズル移動方向の後方に向かって前記先端面(2f)を徐々に前記基板(12)から離れるように傾斜させた傾斜面(2j)であることを特徴とする請求項12に記載の有機半導体装置の製造方法。
【請求項16】
前記基板(12)を加熱しながら前記ノズル(2)からの前記溶液(11)の塗布を行うことを特徴とする請求項1ないし15のいずれか1つに記載の有機半導体装置の製造方法。
【請求項17】
前記ノズル(2)を加熱しながら前記ノズル(2)からの前記溶液(11)の塗布を行うことを特徴とする請求項1ないし16のいずれか1つに記載の有機半導体装置の製造方法。
【請求項18】
基板(12)と、
前記基板(12)の表面上に形成した有機半導体薄膜(15)と、を有する有機半導体装置であって、
前記有機半導体薄膜(15)は、ライン状に形成されていると共に、少なくともラインの一方の端部から内側に向かって、該有機半導体薄膜(15)の配向度が高くなるように有機半導体が結晶化されており、且つ該有機半導体薄膜(15)の配向度が25%以上であることを特徴とする有機半導体装置。
【請求項19】
基板(12)と、前記基板(12)の表面上に形成された電極(13)と、該電極(13)の上に形成された絶縁膜(14)とを有し、且つ少なくとも有機半導体薄膜(15)の一部は、前記絶縁膜(14)上に形成されていることを特徴とする請求項18に記載の有機半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図27】
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【図28】
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【図6】
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【図15】
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【図26】
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【公開番号】特開2013−77799(P2013−77799A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−124954(P2012−124954)
【出願日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】