説明

有機性廃液処理装置

【課題】余剰汚泥処理手段からの固液混合物を固液分離処理する固液分離手段における難溶性化合物の析出が防止される有機性廃液処理装置を提供する。
【解決手段】沈殿槽2で沈降した汚泥のうち余剰汚泥は、配管4を介して消化槽5へ導入され、消化される。消化汚泥は、固液分離槽6へ移送され、該固液分離槽6内に浸漬配置された固液分離膜12により固液分離される。固液分離槽6には、pHを2〜6好ましくは3〜5程度に調整するための酸添加手段20が設けられている。膜12を透過した水は、配管13を介して晶析塔14へ導入されリンの晶析処理される。固液分離槽6内の汚泥は、オゾン処理されて可溶化された後、消化槽5へ返送される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃液を生物処理する際に発生した余剰汚泥を減量するとともに効率よくリンを回収することが可能な有機性廃液処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機性廃液を生物処理した際に発生した余剰汚泥をオゾン処理して可溶化することにより、汚泥量を減少させることは公知である(例えば特開平6−206088号、特開平8−299995号、特開平11−10191号、特開平11−57773号)。
【0003】
また、特開平9−108699号には、有機性汚泥を消化槽で消化処理するとともに消化槽内の汚泥の一部をオゾン等で可溶化して再び消化槽に返送して汚泥減量をはかるとともに、消化槽から排出される消化液を固液分離し、分離液を生物的に硝化処理した後に脱リン処理することが記載されている。
【特許文献1】特開平6−206088号
【特許文献2】特開平8−299995号
【特許文献3】特開平9−108699号
【特許文献4】特開平11−10191号
【特許文献5】特開平11−57773号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特開平9−108699号のように、汚泥を消化処理した後、消化液の一部を固液分離処理し、液分を脱リン処理することにより、汚泥の減量と処理水質の向上(特にリン濃度の低減)を図ることができる。
【0005】
しかしながら、このような処理装置にあっては、汚泥の減量にともなって汚泥中のリンが溶出し、その結果、消化槽内にのリン濃度が上昇し、消化槽でリンがリン酸塩等として析出し易い。また、無機塩類の濃度が高い場合には、この消化槽でリン酸塩以外の難溶性の塩(例えば、炭酸カルシウム等のカルシウム塩や、マグネシウム塩、鉄塩など)も析出し易い。
【0006】
本発明は、有機性廃液の生物処理装置と、該生物処理装置から排出される余剰汚泥の少なくとも一部を生物的に消化処理するとともに消化汚泥を可溶化する余剰汚泥処理手段と、該余剰汚泥処理手段の液分を分離する固液分離手段と、該固液分離手段からの分離水を脱リンする脱リン手段とを有する有機性廃液処理装置において、かかる余剰汚泥処理手段における難溶性化合物の析出が防止される有機性廃液処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の有機性廃液処理装置は、有機性廃液の生物処理装置と、該生物処理装置から排出される余剰汚泥の少なくとも一部を生物的に消化処理するとともに消化汚泥を可溶化する余剰汚泥処理手段と、該余剰汚泥処理手段の液分を分離する固液分離手段と、該固液分離手段からの分離水を脱リンする脱リン手段とを有する有機性廃液処理装置において、該固液分離手段で固液分離される固液混合物のpHを酸性に調整するためのpH調整手段を備えたことを特徴とするものである。
【0008】
請求項2の有機性廃液処理装置は、請求項1において、前記余剰汚泥処理手段からの固液混合物の固液分離手段は固液分離膜を有することを特徴とするものである。
【0009】
請求項3の有機性廃液処理装置は、請求項2において、前記余剰汚泥処理手段は、余剰汚泥の消化を行う消化槽を備えており、前記固液分離手段は、該消化槽からの消化液を受け入れる固液分離槽と、該固液分離槽内に浸漬配置された前記固液分離膜とを有することを特徴とするものである。
【0010】
請求項4の有機性廃液処理装置は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記余剰汚泥処理手段は、該固液分離槽から汚泥を抜き出し、可溶化処理した後前記消化槽に返送する手段を有することを特徴とするものである。
【0011】
請求項5の有機性廃液処理装置は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記余剰汚泥処理手段は、前記余剰汚泥の少なくとも一部を消化する消化手段と、該消化手段で消化された消化汚泥の少なくとも一部を可溶化する可溶化手段と、該可溶化手段によって可溶化された可溶化汚泥を該消化手段に循環させる循環手段とを備えてなることを特徴とするものである。
【0012】
請求項6の有機性廃液処理装置は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記余剰汚泥処理手段は、前記余剰汚泥の少なくとも一部を可溶化する可溶化手段と、該可溶化手段からの可溶化汚泥を消化処理する消化手段と、該消化手段からの消化汚泥を該可溶化手段に循環させる循環手段とを備えてなることを特徴とするものである。
【0013】
請求項7の有機性廃液処理装置は、請求項1ないし6のいずれか1項において、前記脱リン手段は晶析脱リン手段であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の有機性廃液処理装置によると、余剰汚泥処理手段からの固液混合物を固液分離する固液分離手段においてpHが酸性とされるため、リン酸塩その他の難溶性化合物を溶解させた状態で分離液が分離され、余剰汚泥処理手段におけるリン酸塩その他の難溶性化合物の蓄積が防止される。また、固液分離手段において固液混合物を酸性とすることにより、リンの溶解を促進し、固液分離手段で分離される液中のリン濃度を高くし、脱リン手段でのリン回収量を多くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。図1は実施の形態に係る有機性廃液処理装置の系統図、図2は生物処理槽の一例を示す詳細図である。
【0016】
有機性廃液(原水)は生物処理槽1に導入され、BOD成分が好気的又は嫌気・好気的に処理される。なお、この生物処理槽1は、脱窒処理も行われるよう構成されてもよい。この生物処理された水は、沈殿槽2に導入され、固液分離処理される。上澄水は処理水として系外に取り出される。
【0017】
沈降した汚泥は、沈殿槽2の底部から取り出され、その一部は返送汚泥として汚泥返送配管3を介して前記生物処理槽1返送へされる。残部の余剰汚泥は、配管4を介して消化槽5へ導入される。
【0018】
この消化槽5には散気管5aが設けられ、空気曝気されることにより汚泥が消化される。
【0019】
この消化槽5のpHは5.5〜8特に6〜7程度が好適である。従って、この消化槽5にはNaOH等のアルカリ添加手段5bによってアルカリを添加し、pHを調整するのが好適である。
【0020】
消化槽5内の消化汚泥は、固液分離槽6へ移送され、該固液分離槽6内に浸漬配置された固液分離膜12により固液分離される。
【0021】
この固液分離槽6には、pHを2〜6好ましくは3〜5程度に調整するための酸添加手段20が設けられている。この酸添加手段としては、酸溶液のタンクと薬注ポンプが好適であり、固液分離槽6内のpHを検出しながら薬注ポンプが制御される。酸としては、鉱酸が使用でき、特に硫酸が好適である。
【0022】
固液分離されなかった固形分に富む液は、固液分離槽6から配管7、ポンプ8、配管9、オゾン反応塔10、配管11よりなる循環ラインを循環し、この途中の配管9においてオゾン(又はオゾン含有気体)が添加され、消化汚泥が可溶化される。
【0023】
上記固液分離槽6に設けられた膜12としては、例えば不織布、織布、ネットあるいはUF(限外濾過)膜、MF(精密濾過)膜などを用いることができる。
【0024】
膜12を透過した水は、配管13を介して晶析塔14へ導入されリンの晶析処理が行われ、晶析したリン化合物は晶析塔14の底部の抜出管15を介して系外に取り出される。脱リン処理された水は、前記生物処理槽1に返送される。
【0025】
この実施の形態にあっては、固液分離槽6に酸を添加してpHを2〜6としているので、難溶性リン化合物が酸によって溶解し、膜12を透過して晶析塔14へ送られるので、晶析塔14でのリン回収量が増大する。さらに、酸添加によって難溶性無機塩類も溶解して膜12を透過する。この結果、消化槽5のリン濃度や無機塩類濃度も低下するようになり、消化槽5における難溶性塩類の蓄積も防止される。
【0026】
上記実施の形態では、固液分離槽6から配管7へ取り出した汚泥に対しオゾンを添加して汚泥を可溶化しているが、この取り出した汚泥のpHは2〜6程度の酸性であるため、汚泥がオゾンにより効率よく可溶化される。なお、オゾンによる可溶化処理に最適のpHは約3であるので、固液分離槽6からの取出し汚泥のpHが約3となるように酸を添加手段20から添加するようにしてもよい。
【0027】
上記の晶析塔14としてはリン酸カルシウム反応塔が好適である。
【0028】
リン酸カルシウム反応塔では、リン酸カルシウムが析出するpH条件、好ましくはpH7.5〜10、より好ましくはpH8.5〜9.5となるように、NaOH等のアルカリが注入されると共に、リン酸カルシウムの析出にカルシウムが不足する場合には、CaCl,Ca(OH)等のカルシウム化合物が添加され、液中のリンとの反応でリン酸カルシウムが生成、析出し、これにより、液中のリンが除去される。特に、消化槽5で溶出するリンは、生物処理を受けることによりリン酸カルシウムの生成に有利な正リン酸の形態となっており、リン酸カルシウム反応塔でのリン酸カルシウム生成反応効率が高く、このため、効率的なリンの除去を行うことができる。
【0029】
リン酸カルシウム反応塔の流出液のリン濃度は、リン酸カルシウム反応塔への流入水のリン濃度や晶析塔の運転条件によって異なるが、本実施の態様ではリン濃度10〜100mg/L程度であり、生物処理槽1に返送して処理することが好ましい。なお、脱リン処理水の一部を消化槽5へ返送してもよい。
【0030】
上記リン酸カルシウム反応塔の滞留時間は、通常の場合10〜120分程度であり、これにより粒径0.5〜2mm程度のリン酸カルシウム粒子を回収することができる。リン酸カルシウム反応塔は固定床、流動床のいずれでもよいが、流動床を好適に用いることができる。
【0031】
上記生物処理槽1は、嫌気、好気のいずれでもよく、例えば曝気式の好気槽のみで構成されてもよく、嫌気・好気方式のものであってもよい。
【0032】
なお、上記実施の形態では、沈殿槽2からの余剰汚泥は、配管4を介して消化槽5へ導入されるが、図2に示すようにオゾン反応塔10を経由してもよい。また、上記実施の形態では、固液分離槽6から消化汚泥を引抜いてオゾン反応塔10で可溶化された後、再び消化槽5へ戻されているが、図3に示すように固液分離槽6と消化槽5で消化汚泥を循環させるとともに、消化槽5とオゾン反応塔10とでも消化汚泥を循環させるようにしてもよい。
【0033】
なお、上記実施の形態では消化槽5は曝気式のものであるが、嫌気式、嫌気・好気式、等であってもよい。
【0034】
また、可溶化手段は、オゾン酸化方式以外の酸アルカリ方式、ミル方式、熱処理方式などでもよい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0036】
実施例1
図1に示す有機性廃液処理装置において、生物処理槽1としてオキシデーションディッチ法を用い、また晶析塔14としてリン酸カルシウム反応塔を用いて、下水の処理を行った。
【0037】
各部の仕様及び運転条件は、下記の通りとした。
原水量:2000m/日
生物処理槽1の容量:2000m
MLSS濃度:3000mg/L
消化槽への汚泥流入量:40m/日
消化槽の容量:400m
消化槽のpH:6.5
固液分離槽のpH:3
配管7の流量:1.5m/Hr
オゾン注入率:0.025g−O/g−VSS
膜透過水量:40m/日
リン酸カルシウム反応塔の容量:3m
リン酸カルシウム反応塔の流入水量:40m/日
リン酸カルシウム反応塔の滞留時間(HRT):33分
リン酸カルシウム反応塔のpH:9.3
リン酸カルシウム反応塔へのCaCl添加量:1400mg/L
リン酸カルシウム反応塔の上昇LV:1400m/Hr
【0038】
リン酸カルシウム反応塔の流入水と流出水のリン濃度と、リン回収量を表1に示した。
【0039】
比較例1
実施例1において、酸添加手段20及びアルカリ添加手段5bを停止したこと以外は、同様にして処理を行った。結果を表1に示した。
【0040】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施の形態に係る有機性廃液処理装置の系統図である。
【図2】別の実施の形態に係る有機性廃液処理装置の系統図である。
【図3】さらに別の実施の形態に係る有機性廃液処理装置の系統図である。
【符号の説明】
【0042】
1 生物処理槽
2 沈殿槽
5 消化槽
5b アルカリ添加手段
6 固液分離槽
12 分離膜
14 晶析塔
20 酸添加手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃液の生物処理装置と、該生物処理装置から排出される余剰汚泥の少なくとも一部を生物的に消化処理するとともに消化汚泥を可溶化する余剰汚泥処理手段と、該余剰汚泥処理手段の液分を分離する固液分離手段と、該固液分離手段からの分離水を脱リンする脱リン手段とを有する有機性廃液処理装置において、
該固液分離手段で固液分離される固液混合物のpHを酸性に調整するためのpH調整手段を備えたことを特徴とする有機性廃液処理装置。
【請求項2】
請求項1において、前記余剰汚泥処理手段からの固液混合物の固液分離手段は固液分離膜を有することを特徴とする有機性廃液処理装置。
【請求項3】
請求項2において、前記余剰汚泥処理手段は、余剰汚泥の消化を行う消化槽を備えており、
前記固液分離手段は、該消化槽からの消化液を受け入れる固液分離槽と、
該固液分離槽内に浸漬配置された前記固液分離膜とを有することを特徴とする有機性廃液処理装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記余剰汚泥処理手段は、該固液分離槽から汚泥を抜き出し、可溶化処理した後前記消化槽に返送する手段を有することを特徴とする有機性廃液処理装置。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記余剰汚泥処理手段は、前記余剰汚泥の少なくとも一部を消化する消化手段と、該消化手段で消化された消化汚泥の少なくとも一部を可溶化する可溶化手段と、該可溶化手段によって可溶化された可溶化汚泥を該消化手段に循環させる循環手段とを備えてなることを特徴とする有機性廃液処理装置。
【請求項6】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記余剰汚泥処理手段は、前記余剰汚泥の少なくとも一部を可溶化する可溶化手段と、該可溶化手段からの可溶化汚泥を消化処理する消化手段と、該消化手段からの消化汚泥を該可溶化手段に循環させる循環手段とを備えてなることを特徴とする有機性廃液処理装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記脱リン手段は晶析脱リン手段であることを特徴とする有機性廃液処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−50386(P2007−50386A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238970(P2005−238970)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(000230571)日本下水道事業団 (46)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】