説明

有機薄膜の製造方法

【課題】速やかに成膜でき、不純物が少なく、緻密な有機薄膜を安定に複数回連続して形成可能な有機薄膜製造方法の提供。
【解決手段】少なくとも1以上の加水分解性基を有する式「RMXm−n」(式中、Rは置換基を有してもよい炭化水素基又はハロゲン化炭化水素基、或いは連結基を含む炭化水素基又はハロゲン化炭化水素基を表し、MはSi、Ge、Sn、Ti及びZrからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属原子を表し、Xは水酸基又は加水分解性基を表し、nは1〜(m−1)の整数を表し、mはMの原子価を表す)で表される金属系界面活性剤、該活性剤と相互作用し得る有機酸又は酸触媒、及び炭化水素系溶媒又はフッ化炭素系溶媒を含む有機溶媒溶液に、基板を接触させる工程(A)を含み、有機溶媒溶液中の水分量を50ppm〜有機溶媒への飽和水分量にする又は保持する有機薄膜製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に金属−酸素結合等を介して形成される有機薄膜の製造方法に関
し、この方法に用いられる有機薄膜製造溶液、及び得られてくる有機薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
基材表面を改質するためのコーティング膜の形成方法として、耐剥離性に優れ、かつ透明性が高く、基板表面の光沢や基板の透明性を損なわない化学吸着膜の製造方法が幾つか知られている。(特開平4−132637号公報、特開平4−221630号公報、特開平4−367721号公報を参照)
活性水素を含む基板の表面に化学吸着膜を形成する方法として、少なくともアルコキシシラン系界面活性剤と、活性水素を含まない非水系溶媒と、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステル及びチタン酸エステルキレート類から選ばれる少なくとも一つのシラノール縮合触媒を含む混合溶液を、前記基板表面に接触させて、前記基板表面にシロキサン結合を介して共有結合した化学吸着膜を形成する化学吸着膜の製造方法が知られている。(特開平8−337654号公報を参照)
基板の表面に結晶性を有する化学吸着膜を形成する方法として、精製水を滴下したシリコンウェハー表面にシラン系界面活性剤の有機溶媒溶液を展開して結晶性単分子膜を形成する方法が知られている。(Bull.Chem.Soc.Jpn.,74,1397−1401(2001)を参照)
撥水性被膜の形成方法としては、酸触媒のもとに加水分解させたフルオロアルキル基含有シラン化合物の加水分解物の単量体または重合体を用いて、単分子層からなる撥水性被膜を、シラノール基を経由して基板表面に固定する方法が知られている。(特開平11−228942号公報、特開平11−322368号公報を参照)
活性水素を含む基材の表面に単分子膜を形成する方法として、乾燥雰囲気中で非水系の有機溶媒とシラン系界面活性剤を用いて調製した化学吸着液を基材表面に塗布し、前記有機溶媒を蒸発濃縮させつつ前記吸着液中の界面活性剤分子と基板表面とを化学反応させ前記界面活性剤分子を基板表面に一端で結合固定し、前記有機溶媒を蒸発させた後有機溶媒を用い基板表面に残った未反応の界面活性剤を洗浄除去する工程とを含むことを特徴とする化学吸着単分子膜の製造方法が知られている。(特開平11−147074号公報を参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、いずれの方法も、成膜に時間がかかる問題、膜中にシラノール縮合触媒が残存しその触媒が化学吸着を阻害し緻密な単分子膜を製造できないという問題、酸性物質が発生するため基材が限定される問題、非水系で成膜を行わなければいけない問題等があった。特に、電気デバイス等の設計における微細なパターニングにおいては、不純物がなるべく少ない緻密な単分子膜の安定な供給が要求されている。また、上記した公知の方法を用いたとしても、非結晶性の基板上に結晶性化学吸着膜を形成した例は今まで知られていない。
【0004】
本発明は、かかる従来技術の実情に鑑みてなされたものであって、速やかに成膜でき、しかも不純物が少なく、緻密な有機薄膜を安定に複数回、連続して形成可能な有機薄膜製造方法提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、少なくとも1以上の加水分解性基を有する金属系界面活性剤、及び該金属系界面活性剤と相互作用し得る触媒を含む有機溶媒溶液中の水分量は所定範囲にするもしくは保持する、又は少なくとも1以上の水酸基を有する金属系界面活性剤を含む有機溶媒溶液中の水分量を所定量範囲内にする又は保持して、基板を接触させることにより、均質な有機薄膜を同一溶液を用いて2回以上繰り返し、安定にしかも速やかに形成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、(1)基板表面に有機薄膜を形成する有機薄膜製造方法であって、少なくとも1以上の加水分解性基を有する式(I)
MXm−n ・・・(I)
(式中、Rは、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよいハロゲン化炭化水素基、連結基を含む炭化水素基、又は連結基を含むハロゲン化炭化水素基を表し、Mは、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子、チタン原子、及びジルコニウム原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属原子を表し、Xは、水酸基又は加水分解性基を表し、nは、1〜(m−1)のいずれかの整数を表し、mはMの原子価を表し、nが2以上の場合、Rは、同一または相異なっていてもよく、(m−n)が2以上の場合、Xは同一であっても、相異なっていてもよい。但し、(m−n)個のXのうち、少なくとも一個のXは、加水分解性基である。)で表される金属系界面活性剤、該金属系界面活性剤と相互作用し得る、有機酸又は酸触媒である触媒、及び炭化水素系溶媒又はフッ化炭素系溶媒である有機溶媒を含む有機溶媒溶液に、前記基板を接触させる工程(A)を含み、前記有機溶媒溶液中の水分量を、50ppmから有機溶媒への飽和水分量の範囲内にするまたは保持することを特徴とする有機薄膜製造方法に関し、
(2)前記有機溶媒溶液が、該金属系界面活性剤と相互作用し得る触媒を、前記金属系界面活性剤1モルに対して、0.001〜1モル、または酸化物換算モル数で0.001〜1モル用いて調整したものであることを特徴とする(1)に記載の有機薄膜製造方法に関する。
(3)基板表面に有機薄膜を形成する有機薄膜製造方法であって、少なくとも1以上の加水分解性基を有する式(I)
MXm−n ・・・(I)
(式中、Rは、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよいハロゲン化炭化水素基、連結基を含む炭化水素基、又は連結基を含むハロゲン化炭化水素基を表し、Mは、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子、チタン原子、及びジルコニウム原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属原子を表し、Xは、水酸基又は加水分解性基を表し、nは、1〜(m−1)のいずれかの整数を表し、mはMの原子価を表し、nが2以上の場合、Rは、同一または相異なっていてもよく、(m−n)が2以上の場合、Xは同一であっても、相異なっていてもよい。但し、(m−n)個のXのうち、少なくとも一個のXは、加水分解性基である。)で表される金属系界面活性剤、該金属系界面活性剤と相互作用し得る、有機酸又は酸触媒である触媒、及び炭化水素系溶媒又はフッ化炭素系溶媒である有機溶媒を含む有機溶媒溶液に、前記基板を接触させる工程(A)を含み、前記有機溶媒溶液中の水分量を、50ppmから有機溶媒への飽和水分量の範囲内に保持し、同一溶液を用いて、前記工程(A)を2回以上繰り返すことを特徴とする有機薄膜製造方法に関し、
(4)前記工程(A)を2回以上繰り返すことが、同一溶液を用いて、2以上の基板に対して前記工程(A)を行なうものであることを特徴とする(3)に記載の有機薄膜製造方法、
(5)前記工程(A)の後、前記基板を洗浄する工程(B)を有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の有機薄膜製造方法、
(6)前記工程(A)の後、前記基板を加熱する工程(C)を有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の有機薄膜製造方法、
(7)前記工程(A)の後、前記工程(C)の前に、前記基板を洗浄する工程(B)をさらに有することを特徴とする(6)に記載の有機薄膜製造方法、
(8)前記有機溶媒溶液に接触して水層を設けることにより、前記有機溶媒溶液の水分量を所定量範囲にする又は保持することを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の有機薄膜製造方法、
(9)前記有機溶媒溶液中に、保水性物質を水分を含ませた状態で共存させておくことにより、前記有機溶媒溶液の水分量を所定量範囲にする又は保持することを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の有機薄膜製造方法、
(10)前記保水性物質が、ガラス繊維フィルターであることを特徴とする(9)に記載の有機薄膜製造方法、
(11)前記有機溶媒溶液中に、水分を含む気体を吹き込むことにより、前記有機溶媒溶液中の水分量を所定量範囲にする又は保持することを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載の有機薄膜製造方法、
(12)前記有機溶媒溶液中の水分量を50〜1000ppmの範囲にする又は保持することを特徴とする(1)〜(11)のいずれかに記載の有機薄膜製造方法、
(13)前記所定量範囲の水分量が、前記有機溶媒溶液の一部を採取した該溶液をカールフィッシャー法で測定した値であることを特徴とする(1)〜(12)のいずれかに記載の有機薄膜製造方法、
(14)有機酸として、pKa値が1〜6の範囲であるものを用いることを特徴とする(1)〜(13)のいずれかに記載の有機薄膜製造方法、
(15)少なくとも1以上の加水分解性基を有する式(I)で表される金属系界面活性剤が、式(II)
C−(CR−R−MYm−r−1 ・・・(II)
(式中、Mは、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子、チタン原子、及びジルコニウム原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属原子を表し、Xは、水酸基又は加水分解性基を表し、R及びRは、それぞれ独立して水素原子又はフッ素原子を表し、Rは、アルキレン基、ビニレン基、エチニレン基、アリーレン基、又はケイ素原子及び/若しくは酸素原子を含む2価の連結基を表し、Yは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、含フッ素アルキル基、又は含フッ素アルコキシ基を表し、pは0又は自然数を表し、qは0又は1を表し、rは0〜(m−2)の整数を表し、rが2以上の場合、Yは、同一または相異なっていてもよく、(m−r−1)が2以上の場合、Xは、同一または相異なっていてもよい。但し、(m−n−1)個のXのうち、少なくとも一個のXは、加水分解性基である。)で表される化合物であることを特徴とする(1)〜(14)のいずれかに記載の有機薄膜製造方法、
(16)前記Xの加水分解性基が、ハロゲン原子、C1〜C6アルコキシ基、又はアシルオキシ基であることが特徴とする(1)〜(15)のいずれかに記載の有機薄膜製造方法、
(17)基板表面に有機薄膜を形成する有機薄膜製造方法であって、少なくとも1以上の水酸基を有する式(III)
MXm−n−1(OH) ・・・(III)
(式中、Rは、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよいハロゲン化炭化水素基、連結基を含む炭化水素基、又は連結基を含むハロゲン化炭化水素基を表し、Mは、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子、チタン原子及びジルコニウム原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属原子を表し、Xは、水酸基又は加水分解性基を表し、nは、1〜(m−1)のいずれかの整数を表し、mはMの原子価を表し、nが2以上の場合、Rは、同一または相異なっていてもよく、(m−n−1)が2以上の場合、Xは同一であっても、相異なっていてもよい。)で表される金属系界面活性剤、該金属系界面活性剤と相互作用し得る、有機酸又は酸触媒である触媒、及び炭化水素系溶媒又はフッ化炭素系溶媒である有機溶媒を含む有機溶媒溶液に基板を接触させる工程を含み、前記有機溶媒溶液中の水分量を、50ppmから有機溶媒への飽和水分量の範囲内にするまたは保持することを特徴とする有機薄膜製造方法、
(18)前記有機溶媒溶液中の水分量を50〜1000ppmの範囲にする又は保持することを特徴とする(17)に記載の有機薄膜製造方法、
(19)前記有機溶媒溶液に基板を接触させる工程が、湿度を40%RH以上に保持した空間内において、前記有機溶媒溶液に基板を接触させる工程であることを特徴とする(1)〜(18)のいずれかに記載の有機薄膜製造方法、
(20)前記有機溶媒溶液に基板を接触させる工程が、湿度を60%RH以上に保持した空間内において、前記有機溶媒溶液に基板を接触させる工程であることを特徴とする(1)〜(18)のいずれかに記載の有機薄膜製造方法、
(21)有機薄膜が、結晶性有機薄膜であることを特徴とする(1)〜(20)のいずれかに記載の有機薄膜製造方法、
(22)有機薄膜が、単分子膜であることを特徴とする(1)〜(21)のいずれかに記載の有機薄膜製造方法、
(23)前記基板として、表面に活性水素を含む基板を用いることを特徴とする(1)〜(22)のいずれかに記載の有機薄膜製造方法、
(24)前記基板として、ガラス、シリコンウェハー、セラミックス、金属、及びプラスチックから選ばれる少なくとも一つから構成されていることを特徴とする(1)〜(23)のいずれかに記載の有機薄膜製造方法、
(25)有機薄膜が、化学吸着膜であることを特徴とする(1)〜(24)のいずれかに記載の有機薄膜製造方法、
(26)有機薄膜が、自己集合膜であることを特徴とする(1)〜(25)のいずれかに記載の有機薄膜製造方法に関する。
また、上記した有機溶媒溶液中において、少なくとも1以上の加水分解性基を有する金属系界面活性剤または少なくとも1以上の水酸基を有する金属系界面活性剤が、集合体を形成している新しい知見(請求項27)を見出したことにより、
(28)基板表面に自己集合膜を形成する自己集合膜形成溶液であって、自己集合膜を形成する分子が、溶液中において集合体を形成していることを特徴とする自己集合膜形成溶液なる発明を完成させた。
(29)前記自己集合膜を形成する分子が、少なくとも1以上の水酸基又は加水分解性基を有する金属系界面活性剤またはその誘導体であることを特徴とする(28)に記載の自己集合膜形成溶液に関し、
(30)前記該集合体が、少なくとも1以上の水酸基又は加水分解性基を有する金属系界面活性剤を、該金属系界面活性剤と相互作用し得る触媒及び水により処理して得られたものであることを特徴とする(28)または(29)に記載の自己集合膜形成溶液、
(31)前記少なくとも1以上の水酸基又は加水分解性基を有する金属系界面活性剤が、式(IV)
11n1m1−n1 ・・・(IV)
(式中、R11は、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよいハロゲン化炭化水素基、連結基を含む炭化水素基、又は連結基を含むハロゲン化炭化水素基を表し、Mは、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子、チタン原子、及びジルコニウム原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属原子を表し、Xは、水酸基又は加水分解性基を表し、n1は、1〜(m1−1)のいずれかの整数を表し、m1はMの原子価を表し、n1が2以上の場合、R11は、同一または相異なっていてもよく、(m1−n1)が2以上の場合、Xは同一であっても、相異なっていてもよい。)で表される化合物であることを特徴とする(28)〜(30)のいずれかに記載の自己集合膜形成溶液、
(32)前記少なくとも1以上の水酸基又は加水分解性基を有する金属系界面活性剤が、式(V)
21C−(CR31p1−R41q1−Mr2m2−r2−1 ・・・(V)
(式中、Mは、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子、チタン原子、及びジルコニウム原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属原子を表し、Xは、水酸基又は加水分解性基を表し、R21及びR31は、それぞれ独立して水素原子又はフッ素原子を表し、R41は、アルキレン基、ビニレン基、エチニレン基、アリーレン基、又はケイ素原子及び/若しくは酸素原子を含む2価の連結基を表し、Yは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、含フッ素アルキル基、又は含フッ素アルコキシ基を表し、p1は0又は自然数を表し、q1は0又は1を表し、r2は0〜(m2−2)の整数を表し、r2が2以上の場合、Yは、同一または相異なっていてもよく、(m2−r2−1)が2以上の場合、Xは、同一または相異なっていてもよい。)で表される化合物であることを特徴とする(28)〜(30)のいずれかに記載の自己集合膜形成溶液、
(33)前記加水分解性基が、ハロゲン原子、C1〜C6アルコキシ基、またはアシルオキシ基であることが特徴とする(28)〜(32)のいずれかに記載の自己集合膜形成溶液、
(34)前記集合体の平均粒径が、10〜1000nmの範囲であることを特徴とする(28)〜(33)のいずれかに記載の自己集合膜形成溶液、
(35)前記集合体のゼーター電位値が、同一溶媒中で、前記基板のゼーター電位値以上であることを特徴とする(28)〜(34)のいずれかに記載の自己集合膜形成溶液に関する。
また、有機薄膜製造方法に用いられた基板が結晶性を有さないにもかかわらず、有機薄膜が結晶性を有する新しい知見(請求項36)を見出し、
(37)基板上に形成されてなる化学吸着膜であって、前記基板が結晶性を有さず、かつ、化学吸着膜が結晶性を有することを特徴とする化学吸着膜なる発明を完成させた。すなわち、
(38)少なくとも1以上の水酸基又は加水分解性基を有する金属系界面活性剤を用いて形成された化学吸着膜であることを特徴とする(37)に記載の化学吸着膜に関し、
(39)化学吸着膜が、単分子膜であることを特徴とする(37)または(38)に記載の化学吸着膜、
(40)化学吸着膜が、自己集合膜であることを特徴とする(37)〜(39)のいずれかに記載の化学吸着膜に関する。
また、有機薄膜製造方法において基板に前記有機溶媒溶液を接触させる工程が、前記基板に、ディップ法、スピンコート法、ロールコート法、メイヤバー法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、刷毛塗り法及びスプレー法からなる群から選ばれる少なくとも1種の方法により、基板上に前記有機溶媒溶液を塗布する工程であっても、単分子膜を製造できる新しい知見(請求項41)を見出し、
(42)水酸基、炭化水素オキシ基、またはアシルオキシ基を有する金属系界面活性剤を含む有機溶媒溶液を、ディップ法、スピンコート法、ロールコート法、メイヤバー法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、刷毛塗り法及びスプレー法からなる群から選ばれる少なくとも1種の方法により基板上に塗布する工程を有することを特徴とする単分子膜製造方法、及び
(43)水酸基、炭化水素オキシ基またはアシルオキシ基を有する金属系界面活性剤を含む有機溶媒溶液を滴下し、滴下された溶液に上部より圧力をかけ基板上に拡散させることを特徴とする単分子膜製造方法を完成させた。すなわち、
(44)滴下された溶液に上部より圧力をかける方法が、基材表面にフィルム、シートまたは平板を重ねて圧延する方法であることを特徴とする(43)に記載の単分子膜製造方法に関し、
(45)塗布する工程の後、前記基板を洗浄する工程を設けることを特徴とする(42)〜(44)のいずれかに記載の単分子膜製造方法、
(46)塗布する工程の後、前記基板を加熱する工程を設けることを特徴とする(42)〜(45)のいずれかに記載の単分子膜製造方法、
(47)前記金属系界面活性剤を含む有機溶媒溶液が、さらに金属系界面活性剤と相互作用し得る触媒を含む有機溶媒溶液であることを特徴とする(42)〜(46)のいずれかに記載の単分子膜製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の有機薄膜製造方法を用いると、不純物の少ない緻密な自己集合単分子膜を製造することができる。また、非結晶性の基板上においても、結晶性の高い、密着性に優れた、単分子で均質な化学吸着膜を成膜することができる。また、緻密な有機薄膜を速やかに形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
1)有機薄膜製造方法
本発明の有機薄膜製造方法は、(a)少なくとも1以上の加水分解性基を有する金属系界面活性剤、及び該金属系界面活性剤と相互作用し得る触媒を含む有機溶媒溶液(以下、「溶液(a)」ということがある。)、又は(b)少なくとも1以上の水酸基を有する金属系界面活性剤を含む有機溶媒溶液(以下、「溶液(b)」ということがある。)に、基板を接触させる工程を含み、前記有機溶媒溶液中の水分量を所定量範囲内にするまたは保持することを特徴とする。
【0009】
本発明に用いられる溶液(a)中の、少なくとも1以上の加水分解性基を有する金属系界面活性剤としては、少なくとも1以上の加水分解可能な官能基と疎水性基とを同一分子内に有するものであれば、特に制限されないが、基板表面上の活性水素と反応して結合を形成することができる加水分解性基を有するものが好ましい。尚、活性水素と反応して結合を形成することができる他の官能基として、水酸基を例示することができ、水酸基を含んでいてもよい。そのような金属系界面活性剤として、具体的には、前記式(I)で表される化合物を好ましく例示することができる。
【0010】
前記式(I)中、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよいハロゲン化炭化水素基、連結基を含む炭化水素基又は連結基を含むハロゲン化炭化水素基を表す。
【0011】
前記置換基を有していてもよい炭化水素基の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−デシル基等の炭素数1〜30のアルキル基;ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基等の炭素数2〜30のアルケニル基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;等が挙げられる。
前記置換基を有していてもよいハロゲン化炭化水素基のハロゲン化炭化水素基としては、炭素数1〜30のハロゲン化アルキル基、炭素数2〜30のハロゲン化アルケニル基、ハロゲン化アリール基等が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられ、フッ素原子が好ましい。具体的には、上記例示した炭化水素基中の水素原子の1個以上がフッ素原子、塩素原子又は臭素原子等のハロゲン原子に置換された基が挙げられる。
【0012】
これらの中でも、前記ハロゲン化炭化水素基としては、炭素数1〜30のアルキル基中の水素原子の2個以上がハロゲン原子に置換された基が好ましく、炭素数1〜30のアルキル基中の水素原子の2個以上がフッ素原子に置換されたフッ素化アルキル基がより好ましい。また、フッ素化アルキル基が分岐構造を有する場合には、分岐部分は炭素数1〜4、好ましくは炭素数1〜2の短鎖であるのが好ましい。
【0013】
フッ素化アルキル基としては、末端炭素原子にフッ素原子が1個以上結合した基が好ましく、末端炭素原子にフッ素原子が3個結合したCF3基部分を有する基がより好ましく、末端が、フッ素原子が置換しない炭化水素基で内部の炭素鎖にフッ素原子が置換した炭素鎖であっても構わない。末端部分に、アルキル基の全ての水素原子がフッ素原子に置換されたペルフルオロアルキル部分を有し、かつ後述する金属原子Mとの間に、−(CH−(式中、hは1〜6の整数を表し、好ましくは2〜4の整数である。)で表されるアルキレン基を有する基が特に好ましい。
【0014】
フッ素化アルキル基中のフッ素原子数は、[(フッ素化アルキル基中のフッ素原子数)/(フッ素化アルキル基に対応する同一炭素数のアルキル基中に存在する水素原子数)×100]%で表現したときに、60%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましい。
【0015】
前記置換基を有していてもよい炭化水素基又は置換基を有していてもよいハロゲン化炭化水素基の置換基としては、カルボキシル基;アミド基;イミド基;エステル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;または水酸基等が挙げられる。これらの置換基の数は0〜3であるのが好ましい。
【0016】
連結基を含む炭化水素基の炭化水素基としては、具体的には、前記置換基を有していてもよい炭化水素基の炭化水素基として挙げたものと同様のものが挙げられる。
また、連結基を含むハロゲン化炭化水素基のハロゲン化炭化水素基としては、具体的には、前記置換基を有していてもよいハロゲン化炭化水素基のハロゲン化炭化水素基として挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0017】
前記連結基は、炭化水素基若しくはハロゲン化炭化水素基の炭素−炭素結合間、又は炭化水素基の炭素と後述する金属原子Mとの間に存在するのが好ましい。
連結基の具体例としては、−O−、−S−、−SO−、−CO−、−C(=O)O−又は−C(=O)NR51−(式中、R51は、水素原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等のアルキル基;を表す。)等が挙げられる。
これらの中でも、Rとしては、撥水性、耐久性の観点から、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のフッ素化アルキル基、又は連結基を含むフッ素化アルキル基であるのが好ましい。
【0018】
のより好ましい具体例としては、CH−、CHCH−、(CHCH−、(CHC−、CH(CH−、CH(CH−、CH(CH−、CH(CH−、CH(CH−、CH(CH−、CH(CH−、CH(CH−、CH(CH10−、CH(CH11−、CH(CH12−、CH(CH13−、CH(CH14−、CH(CH15−、CH(CH16−、CH(CH17−、CH(CH18−、CH(CH19−、CH(CH20−、CH(CH21−、CH(CH22−、CH(CH23−、CH(CH24−、CH(CH25−、CF−、CFCF−、(CFCF−、(CFC−、CF(CH−、CF(CF(CH−、CF(CF(CH−、CF(CF(CH−、CF(CF(CH−、CF(CF(CH−、CF(CF(CH−、CF(CFO(CF(CH−、CF(CFO(CF(CH−、CF(CFO(CF(CH−、CF(CFCONH(CH−、CF(CFCONH(CH−、CF(CFO[CF(CF)CF(CF)O]CF(CF)CONH(CH−、CH(CF(CH−、CH(CF(CH−、CH(CF(CH−、CH(CF10(CH−、CH(CF11(CH−、CH(CF12(CH−、CH(CF(CH−、CH(CF(CH−、CH(CF11(CH−、CHCH(CF(CH−、CHCH(CF(CH−、CHCH(CF10(CH−、CH(CFO(CF(CH−、CH(CF(CHO(CH−、CH(CF(CHO(CH−、CH(CF(CHO(CH−、CHCH(CF(CHO(CH−、CH(CFCONH(CH−、CH
(CFCONH(CH−、CH(CFO[CF(CF)CF(CF)O]CF(CF)CONH(CH−、等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
Mは、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子、チタン原子、及びジルコニウム原子からなる群から選ばれる1種の原子を表す。これらの中でも、原料の入手容易性、反応等の観点からケイ素原子が特に好ましい。
【0020】
Xは、水酸基又は加水分解性基を表し、加水分解性基としては、水と反応して分解する基であれば特に制約されない。具体的には、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルコキシ基;置換基を有していてもよい炭化水素オキシ基;置換基を有していてもよいアシルオキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;イソシアネート基;シアノ基;アミノ基;またはアミド基等を例示することができる。
特に、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルコキシ基、脂環式、芳香族、アルケニルオキシ基、アラルキルオキシ基等の炭化水素オキシ基、アセトキシ基等のアシルオキシ基が好ましい。
【0021】
炭素数1〜6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0022】
アシルオキシ基としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、プロパノイルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、n−ブチルカルボニルオキシ基、プロパノイルオキシ基、脂環式炭化水素オキシ基;シクロプロピルオキシ基、シクロプロピルメチルオキシ、シクロヘキシル基、ノルボニルオキシ基等、アルケニルオキシ基;アリルオキシ基等、アルキニルオキシ基;プロパルギルオキシ基等、アラルキルオキシ基;プロパルギルオキシ基等、アラルキルオキシ基;ビニルオキシ基、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基等、芳香族炭化水素オキシ基;フェノキシ基、ナフチルオキシ基等、ベンゾイルオキシ基等等が挙げられる。
【0023】
これらの置換基としては、カルボキシル基、アミド基、イミド基、エステル基、水酸基等が挙げられる。これらの中でも、Xとしては、水酸基、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルコキシ基、アシルオキシ基、又はイソシアネート基が好ましく、炭素数1〜4のアルコキシ基又はアシルオキシ基がより好ましい。
【0024】
mは、金属原子Mの原子価を表す。
nは、1〜(m−1)のいずれかの整数を表す。高密度の有機薄膜を製造する上では、nは1であるのが好ましい。
nが2以上のとき、Rは同一であっても相異なっていてもよい。
また、(m−n)が2以上のとき、Xは同一であっても相異なっていてもよいが、(m−n)個のXのうち、少なくとも一個のXは加水分解性基である。
【0025】
式(I)で表される化合物中、好ましい態様の一つとして、式(II)で表される化合物を例示することができる。
式(II)中、Rは、アルキレン基、ビニレン基、エチニレン基、アリレーン基、または、ケイ素原子及び/または酸素原子を含む2価官能基を表す。具体的には、下記式に示す官能基を例示することができる。
【0026】
【化1】

【0027】
上記式中、a及びbは1以上の任意の自然数を表す。
Yは、水素原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基等のアルコキシ基;アルキル基の一部又はすべての水素原子がフッ素原子に置換された含フッ素アルキル基;又はアルコキシ基の一部若しくはすべての水素原子がフッ素原子に置換された含フッ素アルコキシ基;等を表す。
rは、0または1〜(m−2)の整数を表すが、高密度の吸着膜を製造するためには、rが0の場合が好ましい。rが2以上の場合に、Yは、それぞれ同一または相異なっていてもよく、(m−r−1)が2以上の場合に、Xは、それぞれ同一または相異なっていてもよい。但し、(m−r−1)個のXのうち、少なくとも一個のXは加水分解性基である。
【0028】
式(I)で表される化合物としては、式(II)で表される化合物以外に
(1)CH−(CH−MYm−r−1
(2)CH−(CH−O−(CH−MYm−r−1
(3)CH−(CH−Si(CH−(CH−MYm−r−1
(4)CFCOO−(CH−MYm−r−1
等を好ましい態様の一つとして例示することができる。
【0029】
式中、g、s、t、u、v、及びwは、任意の整数を表すが、特に好ましい範囲として、gは1〜25、sは0〜12、tは1〜20、uは0〜12、vは1〜20、wは1〜25を例示することができる。
M、Y、X、r及びmは、式(II)における意味と同じ意味を表す。
【0030】
式(I)で表される化合物の具体例としては、下記に示すものが挙げられる。
なお、以下においては、金属原子Mがケイ素原子である化合物を代表例として示しているが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、加水分解性基についても、例示した官能基に限定されず他の加水分解性基が結合したものであってもよい。
【0031】
CHCHO(CH15Si(OCH
CFCHO(CH15Si(OCH
CH(CHSi(CH(CH15Si(OCH
CH(CHSi(CH(CHSi(OCH
CHCOO(CH15Si(OCH
CF(CF(CHSi(OCH
CF(CF−(CH=CH)−Si(OCH
CHCHO(CH15Si(OC
CH(CHSi(CH(CH15Si(OC
CH(CHSi(CH(CHSi(OC
CF(CHSi(CH(CHSi(OC
CHCOO(CH15Si(OC
CFCOO(CH15Si(OC
CFCOO(CH15Si(OCH
CF(CF(CHSi(OC
CF(CF(CHSi(OC
CF(CF(CHSi(OC
CF(CF(CH=CH)Si(OC
CF(CF(CHSi(OCH
CF(CF(CHSi(OCH
CF(CF(CHSi(CH)(OC
CF(CF(CHSi(CH)(OCH
CF(CF(CHSi(CH(OC
CF(CF(CHSi(CH(OCH
CF(CHSi(OCH
CF(CF(CHSi(OCH
CF(CF(CHSi(OCH
CF(CF(CHSi(OCH
CF(CF(CHSi(OCH
CF(CF(CHSi(OCH
CF(CF(CHSi(OCH
CF(CFO(CF(CHSi(OCH
CF(CFO(CF(CHSi(OCH
CF(CF(CHO(CHSi(OCH
CF(CFCONH(CHSi(OCH
CF(CFCONH(CHSi(OCH
CF(CFO[CF(CF)CF(CF)O]CF(CF)−CONH(CHSi(OCH
CF(CF(CHSi(CH)(OCH
CF(CF(CHSi(CH)(OCH
CF(CHSi(CH)(OCH
CF(CF(CHSi(CH)(OCH
CF(CF(CHSi(CH)(OCH
CF(CF(CHSi(CH)(OCH
CF(CF(CF(CHSi(CH)(OCH
CF(CF(CF(CHSi(CH)(OCH
CF(CF(CHO(CHSi(CH)(OCH
CF(CFCONH(CHSi(CH)(OCH
CF(CFCONH(CHSi(CH)(OCH
CF(CFO[CF(CF)CF(CF)O]CF(CF)−CONH(CHSi(CH)(OCH
CH(CHSi(OCH
CH(CF(CHSi(OCH
CH(CF(CHSi(CH)(OCH
CH(CF(CHSi(OCH
CH(CF(CHSi(NCO)
CH(CF(CHSi(OCH
CH(CF(CHSi(NCO)
CH(CF(CHSi(OCH
CH(CF(CHSi(NCO)
CHCH(CF(CHSi(OCH
CHCH(CF(CHSi(NCO)
CHCH(CF(CHSi(OCH
CHCH(CF(CHSi(NCO)
CHCH(CF10(CHSi(OCH
CH(CFO(CF(CHSi(OCH
CH(CF(CHO(CHSi(OCH
CH(CF(CHO(CHSi(OCH
CH(CF(CHO(CHSi(OCH
CHCH(CF(CHO(CHSi(OCH
CH(CFCONH(CHSi(OCH
CH(CFCONH(CHSi(OCH
CH(CFO[CF(CF)CF(CF)O]CF(CF)−CONH(CHSi(OCH
【0032】
これらの化合物は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
溶液(a)に含まれる、前記金属系界面活性剤と相互作用し得る触媒としては、金属系界面活性剤の金属部分または加水分解性基部分等と、配位結合や水素結合等を介して相互作用をすることにより、加水分解性基または水酸基を活性化させ、縮合を促進させる作用を有する触媒であれば、特に制限されない。なかでも、金属酸化物;金属水酸化物;金属アルコキシド類;キレート化又は配位化された金属化合物;金属アルコキシド類部分加水分解生成物;金属アルコキシド類を2倍当量以上の水で処理して得られた加水分解生成物;有機酸;シラノール縮合触媒、及び酸触媒から群から選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましく、金属アルコキシド類、金属アルコキシド類部分加水分解生成物がより好ましい。
【0034】
金属酸化物;金属水酸化物;金属アルコキシド類;キレート化又は配位化された金属化合物;金属アルコキシド類部分加水分解生成物;金属アルコキシド類を2倍当量以上の水で処理して得られた加水分解生成物、及びシラノール縮合触媒の金属としては特に制限されないが、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、ケイ素、ゲルマニウム、インジウム、スズ、タンタル、亜鉛、タングステン及び鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましく、チタン、ジルコニウム、アルミニウム又はケイ素であるのがより好ましく、チタンが特に好ましい。
【0035】
金属酸化物は、ゾル、ゲル、固体状等の何れの状態のものも使用することができる。ゲル、ゾルの製造方法は、特に限定されず、例えばシリカゾルを例にとると、珪酸ナトリウム溶液を陽イオン交換する方法、シリコンアルコキシドを加水分解する方法等を例示することができる。特に、有機溶媒中に安定に分散しているゾルが好ましく、さらに、ゾルの粒子径が10〜100nmの範囲、さらに好ましくは、10〜20nmの範囲であるものが好ましい。ゾルの形状は特に限定されず、球状、細長い形状等、いずれのものも用いることができる。
【0036】
具体的には、メタノールシリカゾル、IPA−ST、IPA−ST−UP、IPA−ST−ZL、NPC−ST−30、DMAC−ST、MEK−ST、MIBK−ST、XBA−ST、PMA−ST(以上、いずれも日産化学工業(株)社製オルガノシリカゾルの商品名を表す。)等を例示することができる。
【0037】
用いる金属酸化物の量は、形成される化学吸着膜に影響がでない量であれば特に制限されないが、特に、金属系界面活性剤に対して触媒量用いるのが好ましく、さらに、金属系界面活性剤1モル対して酸化物換算モル数で、0.001〜1モル、さらに0.001〜0.2モルの範囲で用いるのが好ましい。これらの金属酸化物は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
金属水酸化物としては、金属の水酸化物であれば、どのような製造方法で得られたものであってもよい。金属水酸化物の製造方法としては、後述の金属アルコキシド類を加水分解する方法、金属塩を金属水酸化物と反応させる方法等が挙げられる。また、金属水酸化物として市販されているものを、所望により精製して使用することもできる。
【0039】
金属アルコキシド類のアルコキシ基の炭素数は特に限定されないが、含有酸化物濃度、有機物の脱離の容易さ、入手の容易さ等から、炭素数1〜4がより好ましい。本発明に用いる金属アルコキシド類の具体例としては、Si(OCH、Si(OC、Si(OC−i)、Si(OC−t)等のケイ素アルコキシド;Ti(OCH、Ti(OC、Ti(OC−i)、Ti(OC等のチタンアルコキシド;Ti[OSi(CH、Ti[OSi(C等のテトラキストリアルキルシロキシチタン;Zr(OCH、Zr(OC、Zr(OC、Zr(OC等のジルコニウムアルコキシド;Al(OCH、Al(OC、Al(OC−i)、Al(OC等のアルミニウムアルコキシド;Ge(OC等のゲルマニウムアルコキシド;In(OCH、In(OC、In(OC−i)、In(OC等のインジウムアルコキシド;Sn(OCH、Sn(OC、Sn(OC−i)、Sn(OC等のスズアルコキシド;Ta(OCH、Ta(OC、Ta(OC−i)、Ta(OC−H等のタンタルアルコキシド;W(OCH、W(OC、W(OC−i)、W(OC等のタングステンアルコキシド;Zn(OC等の亜鉛アルコキシド;Pb(OC等の鉛アルコキシド;等が挙げられる。これらの金属アルコキシド類は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
また本発明においては、金属アルコキシド類として、2種以上の金属アルコキシド類の反応により得られる複合アルコキシド、1種もしくは2種以上の金属アルコキシド類と、1種もしくは2種以上の金属塩との反応により得られる複合アルコキシド、及びこれらの組み合わせを用いることもできる。
2種以上の金属アルコキシド類の反応により得られる複合アルコキシドとしては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアルコキシドと、遷移金属のアルコキシドとの反応により得られる複合アルコキシドや、第3B族元素の組合せにより錯塩の形で得られる複合アルコキシド等を例示することができる。
【0041】
その具体例としては、BaTi(OR)、SrTi(OR)、BaZr(OR)、SrZr(OR)、LiNb(OR)、LiTa(OR)、及び、これらの組合せ、LiVO(OR)、MgAl(OR)、(RO)SiOAl(OR’)、(RO)SiOTi(OR’)、(RO)SiOZr(OR’)、(RO)SiOB(OR’)、(RO)SiONb(OR’)、(RO)SiOTa(OR’)等のケイ素アルコキシドと、前記金属アルコキシド類との反応物及びその縮重合物等が挙げられる。ここで、R及びR’はアルキル基等を表す。
【0042】
1種もしくは2種以上の金属アルコキシド類と1種もしくは2種以上の金属塩との反応により得られる複合アルコキシドとしては、金属塩と金属アルコキシド類との反応により得られる化合物を例示することができる。
【0043】
金属塩としては、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、シュウ酸塩等を、金属アルコキシド類としては、上述した金属アルコキシド類と同様のものをそれぞれ例示することができる。
【0044】
用いる金属アルコキシド類の量は、形成される化学吸着膜に影響がでない量であれば特に制限されないが、特に、金属系界面活性剤に対して触媒量用いるのが好ましく、さらに、金属系界面活性剤1モル対して、0.001〜1モル、さらに0.001〜0.2モルの範囲で、または酸化物換算モル数で0.001〜1モル、さらに0.001〜0.2モルの範囲で用いるのが好ましい。これらの金属アルコキシド類は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
金属アルコキシド類部分加水分解生成物は、金属アルコキシド類を完全に加水分解する前に得られるものであって、例えば、金属酸化物ゾルの前駆体、またはオリゴマーの状態で存在するもの等を例示することができる。
【0046】
具体的には、有機溶媒中、酸、塩基、及び/または分散安定化剤の非存在下、凝集せずに安定に分散している性質を有する分散質を好ましく例示することができる。この場合、分散質とは、分散系中に分散している微細粒子のことをいい、具体的には、コロイド粒子等を例示することができる。ここで凝集せずに安定に分散している状態とは、有機溶媒中、酸、塩基及び/又は分散安定化剤の非存在下、加水分解生成物の分散質が、凝結して不均質に分離していない状態を表し、好ましくは透明で均質な状態を表す。また透明とは、可視光における透過率が高い状態をいい、具体的には、分散質の濃度を酸化物換算で0.5重量%とし、石英セルの光路長を1cmとし、対照試料を有機溶媒とし、光の波長を550nmとする条件で測定した分光透過率で表して、好ましくは80〜100%の透過率を表す状態をいう。加水分解生成物の分散質の粒子径は特に限定されないが、可視光における高い透過率を得るためには、通常1〜100nm、好ましくは1〜50nm、より好ましくは1〜10nmの範囲である。また、酸、塩基、分散安定化剤については、後述する。
【0047】
金属アルコキシド類の部分加水分解生成物の製造方法としては、有機溶媒中、酸、塩基、及び/または分散安定化剤の非存在下、上記例示した金属アルコキシド類に対し0.5〜2.0倍モル未満の水を用い、−100℃から有機溶媒還流温度範囲で加水分解する方法を好ましく例示することができる。
【0048】
具体的には、
(1)有機溶媒中、酸、塩基、及び/または分散安定化剤の非存在下、金属アルコキシド類に対し0.5〜1.0倍モル未満の水を添加する方法、
(2)有機溶媒中、酸、塩基、及び/または分散安定化剤の非存在下、加水分解が開始する温度以下、または0℃以下、好ましくは−50〜−100℃の範囲で、金属アルコキシド類に対し1.0〜2.0倍モル未満の水を添加する方法、
(3)有機溶媒中、酸、塩基、及び/または分散安定化剤の非存在下、水の添加速度を制御する、添加する水の濃度を水溶性溶媒等を用いて薄める等の方法により加水分解速度を制御しながら、金属アルコキシド類に対し0.5〜2.0倍モル未満の水を室温で添加する方法、等を例示することができる。
【0049】
上記(1)の方法においては、任意の温度で所定量の水で処理を行った後、加水分解を開始する温度以下、または−20℃以下の温度条件下で、水をさらに追加して反応を行うことができる。
【0050】
金属アルコキシド類と水との反応は、有機溶媒を用いずに直接金属アルコキシド類と水を混合することにより行うこともできるが、有機溶媒中で行うのが好ましい。具体的には、金属アルコキシド類の有機溶媒溶液に有機溶媒で希釈した水を添加する方法;水が懸濁または溶解した有機溶媒中に、金属アルコキシド類、またはその有機溶媒溶液を添加する
方法;のいずれの方法でも行うことができるが、前者の水を後から添加する方法が好ましい。
【0051】
用いる水は、中性であれば特に制限されないが純水または蒸留水を用いるのが好ましく、その量は、上記規定した範囲であれば特に制限されず、目的とする性質を有する分散質によって任意に選択することができる。
有機溶媒中の金属アルコキシド類の濃度は、急激な発熱を抑制し、撹拌が可能な流動性を有する範囲であれば特に限定されないが、通常、5〜30重量%の範囲である。
【0052】
上記(1)の方法における金属アルコキシド類と水との反応温度は特に制限されず、通常、−100〜+100℃の範囲、好ましくは、−20℃から用いる有機溶媒または加水分解によって脱離してくるアルコールの沸点の範囲である。
【0053】
上記(2)の方法における水の添加温度は、金属アルコキシド類の安定性に依存するものであり、加水分解開始温度以下、または0℃以下の温度であれば特に限定されないが、金属アルコキシド類の種類によっては、金属アルコキシド類への水の添加を−50℃〜−100℃の温度範囲で行うことが好ましい。また、低温で水を添加し、一定時間熟成した後、室温から用いた溶媒の還流温度で加水分解し、さらに脱水縮合反応を行うこともできる。
【0054】
上記(3)の方法における金属アルコキシド類と水との反応は、特殊な冷却装置を用いなくても冷却可能な温度範囲、例えば、0℃から室温の範囲で、水の添加速度を制御する等の温度以外の方法により加水分解速度を制御することにより行うことができる。一定時間熟成した後、室温から用いる溶媒の還流温度で加水分解し、さらに脱水縮合反応を行うこともできる。
【0055】
用いる有機溶媒としては、その有機溶媒中で、金属アルコキシド類の加水分解生成物が、分散質となって分散できるものであるのが好ましく、金属系界面活性剤を水で処理する反応を低温で行うことができることから、水の溶解度が大きく、低温で凝固しない溶媒がより好ましい。
【0056】
用いる有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;メチルポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタンシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等のシリコーン(特開平9−208438号公報等)等;が挙げられる。
これらの溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0057】
混合溶媒として用いる場合には、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒と、メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノール等の低級アルコール溶媒系の組み合わせが好ましい。この場合の低級アルコール系溶媒としては、イソプロパノール、t−ブタノール等の2級以上のアルコール系溶媒を用いるのがより好ましい。混合溶媒の混合比は特に制限されないが、炭化水素系溶媒と低級アルコール系溶媒を、体積比で、99/1〜50/50の範囲で用いるのが好ましい。
【0058】
また、金属アルコキシド類の水による加水分解反応においては、酸、塩基又は分散安定化剤を添加してもよい。酸及び塩基は、凝結してできた沈殿を再び分散させる解膠剤として、また、金属アルコキシド類を加水分解、脱水縮合させてコロイド粒子等の分散質を製造するための触媒として、及び生成した分散質の分散剤として機能するものであれば特に制限されない。
【0059】
この場合の酸または塩基は、凝結してできた沈殿を再び分散させる解膠剤として、また、前述したように、金属アルコキシド類等を加水分解、脱水縮合させてコロイド粒子等の分散質を製造するための触媒として、及び生成した分散質の分散剤として機能するものであれば特に制限されない。
【0060】
用いる酸としては、塩酸、硝酸、ホウ酸、ホウフッ化水素酸等の鉱酸、酢酸、ギ酸、シュウ酸、炭酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機酸等;ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルホスホニウムヘキサフルオロホスフェート等の光照射によって酸を発生する光酸発生剤;が挙げられる。
用いる塩基としては、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、アンモニア、ジメチルホルムアミド、ホスフィン等が挙げられる。
【0061】
分散安定化剤は、分散質を分散媒中に安定に分散させる効力を有する剤であり、解膠剤、保護コロイド、界面活性剤等の凝結防止剤等が挙げられる。具体的には、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸等の多価カルボン酸;ヒドロキシカルボン酸;ピロ燐酸、トリポリ燐酸等の燐酸;アセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸n−プロピル、アセト酢酸イソプロピル、アセト酢酸n−ブチル、アセト酢酸sec−ブチル、アセト酢酸t−ブチル、2,4−ヘキサン−ジオン、2,4−ヘプタン−ジオン、3,5−ヘプタン−ジオン、2,4−オクタン−ジオン、2,4−ノナン−ジオン、5−メチル−ヘキサンジオン等の金属原子に対して強いキレート能力を有する多座配位子化合物;スルパース3000、9000、17000、20000、24000(以上、ゼネカ社製)、Disperbyk−161、−162、−163、−164(以上、ビックケミー社製)等の脂肪族アミン系、ハイドロステアリン酸系、ポリエステルアミン;ジメチルポリシロキサン・メチル(ポリシロキシアルキレン)シロキサン共重合体、トリメチルシロキシケイ酸、カルボキシ変性シリコーンオイル、アミン変性シリコーン等(特開平9−208438号公報、特開平2000−53421号公報等)のシリコーン化合物;等が例示される。
【0062】
用いる金属アルコキシド類部分加水分解生成物の量は、形成される有機薄膜に影響がでない量であれば特に制限されないが、特に、金属系界面活性剤に対して触媒量用いるのが好ましく、さらに、金属系界面活性剤1モル対して酸化物換算モル数で、0.001〜1モル、さらに、0.001〜0.2モルの範囲で用いるのが好ましい。これらの金属アルコキシド類部分加水分解物は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
本発明に用いられる金属アルコキシド加水分解生成物は、金属アルコキシド類の2倍当量以上の水で加水分解することによって得られる生成物である。
該加水分解生成物は、金属アルコキシド類を該金属アルコキシド類の2倍当量以上の水で加水分解することによって得られたものであっても、金属アルコキシド類を該金属アルコキシド類の2倍当量未満の水で部分加水分解することによって、金属アルコキシド類の部分加水分解生成物を得た後、この部分加水分解生成物を、さらに所定量の水(先の部分加水分解に使用した水の量との合計で金属アルコキシド類の2倍当量以上となる量の水)で加水分解することによって得られたものであってもよい。
【0064】
金属アルコキシド類と水との反応は、有機溶媒を用いずに直接金属アルコキシド類と水を混合することにより得ることもできるが、本発明においては、有機溶媒中で金属アルコキシド類と水とを反応させるのが好ましい。
用いる水は、中性であれば特に制限されないが、不純物が少なく、緻密な有機薄膜を得る観点から、純水、蒸留水又はイオン交換水を用いるのが好ましい。
水の使用量は、前記金属アルコキシド類に対し2倍当量以上、好ましくは2.0〜8倍当量の範囲、より好ましくは3〜5倍当量の範囲である。
【0065】
有機溶媒中で金属アルコキシド類と水とを反応させる方法としては、
(1)金属アルコキシド類の有機溶媒溶液に、水又は有機溶媒で希釈した水を添加する方法、
(2)水が懸濁または溶解した有機溶媒中に、金属アルコキシド類、または金属アルコキシド類の有機溶媒溶液を添加する方法、等を例示することができる。この場合、金属アルコキシド類の有機溶媒中の濃度は、急激な発熱を抑制し、撹拌が可能な流動性を有する範囲であれば特に限定されないが、5〜30重量%の範囲が好ましい。
【0066】
用いる有機溶媒としては、その有機溶媒中で、金属アルコキシド類の加水分解生成物が、分散質となって分散できるものであるのが好ましく、具体例としては、前記金属アルコキシド類部分加水分解生成物と同様の有機溶媒が好ましい。
また、該加水分解生成物は、有機溶媒以外の水、酸、塩基又は分散安定化剤等についても前記部分加水分解生成物において用いられたものが同様に使用でき制限されない。
【0067】
金属アルコキシド類の加水分解反応温度は、用いる金属アルコキシド類の反応性や安定性等によるが、通常−100℃から有機溶媒還流温度範囲、好ましくは、−100℃〜−20℃である。低温で水を添加し、一定時間熟成した後、反応液の温度を室温から用いた溶媒の還流温度まで昇温して、加水分解、脱水縮合反応をさらに行うこともできる。
【0068】
キレート化又は配位化された金属化合物は、金属化合物の溶液に、該金属化合物の金属と錯体を形成し得るキレート化剤又は配位化合物を添加することで、調製することができる。キレート化剤又は配位化合物としては、金属水酸化物、金属アルコキシド類、又は金属アルコキシド類を水で処理して得られた加水分解生成物の金属にキレート化又は配位して、錯体を形成し得るものであれば特に限定されない。
【0069】
キレート化剤又は配位化合物の具体例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪族カルボン酸類;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、アレイン酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸類;安息香酸、トルイル酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸類;クロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等のハロゲノカルボン酸類;アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、ヘキサフルオロアセチルアセトン等のβ−ジケトン類;アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等のβ−ケトエステル類;テトラヒドロフラン、フラン、フランカルボン酸、チオフェン、チオフェンカルボン酸、ピリジン、ニコチン酸、イソニコチン酸等の複素環化合物類;等が挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0070】
キレート化剤又は配位化合物の添加量は、金属水酸化物、金属アルコキシド類、又は金属アルコキシド類を水で処理して得られた加水分解生成物の金属1モルに対して、0.1〜10倍モル、好ましくは0.3〜2倍モル、より好ましくは0.5〜1.2倍モルである。
【0071】
キレート化剤又は配位化合物を添加した後は、全容を十分に撹拌することで、金属錯体の溶液を得ることができる。撹拌温度は、通常0℃から用いる溶媒の沸点までの温度範囲である。撹拌時間は、通常数分から数時間である。キレート化又は配位化された金属化合物は、単離したものを使用することもできるし、前記金属化合物の溶液にキレート化剤又は配位化合物を添加して得られたキレート化又は配位化された金属化合物の溶液として使用することもできる。また、調製したキレート化又は配位化された金属化合物の溶液は保存しておくことができる。
【0072】
シラノール縮合触媒としては、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステル及びチタン酸エステルキレート等を例示することができる。具体的には、酢酸第一スズ、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクテート、ジブチルスズジアセテート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジオクテート、ジオクチルスズジアセテート、ジオクタン酸第一スズ、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、2−エチルヘキセン酸鉄、ジオクチルスズビスオクチリチオグリコール酸エステル塩、ジオクチルスズマレイン酸エステル塩、ジブチルスズマレイン酸塩ポリマー、ジメチルスズメルカプトプロピオン酸塩ポリマー、ジブチルスズビスアセチルアセテート、ジオクチルスズビスアセチルラウレート、チタンテトラエトキサイド、チタンテトラブトキサイド、チタンテトライソプロポキサイド、チタンビス(アセチルアセトニル)ジプロポキサイド等を例示することができる。
【0073】
本発明に用いられる有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪族モノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸;アクリル酸、プロピオール酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、オレイン酸等の不飽和脂肪族モノカルボン酸;フマル酸、マレイン酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸;安息香酸、4−クロロ安息香酸、ナフタレンカルボン酸等の芳香族カルボン酸;モノクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等のハロゲン原子で置換された脂肪族カルボン酸;グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸等のヒドロキシカルボン酸;フェニル酢酸、3−フェニルプロピオン酸等の芳香族基で置換された脂肪族カルボン酸;ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等のスルホン酸;等が挙げられる。
これら有機酸の中でも、金属系界面活性剤の加水分解性基を活性化する力に優れ、取り扱いが容易であることから、pKa値(酸解離定数の逆数の対数値)が1〜6の有機酸が好ましく、pKa値が2〜5の有機酸がより好ましい。
【0074】
酸解離定数Kaは、ガラス電極、金属電極、金属アマルガム電極、酸化還元電極、イオン選択性電極等のさまざまな電極を用いる、ポテンショメトリーにより精度よく測定することができる。本発明において、酸解離定数Kaは、水溶液中(水に溶解しないものは、水と適当な有機溶媒との混合溶媒、又は適当な有機溶媒中)のpH値を測定することにより求めることができる。pKa値は、測定条件により、±0.3程度相違する場合がある。なお、種々の有機酸の酸解離定数Ka又はpKa値は、A.E.Martell,R.M.Smith,CriticalStabilityConstants,Vol.1,2,3,5,PlenumPress(1974,1975,1977,1982)等に記載されている。
【0075】
酸触媒としては、塩酸、硝酸、ホウ酸、ホウフッ化水素酸等の鉱酸、酢酸、ギ酸、シュウ酸、炭酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機酸等を例示することができ、さらには、光照射によって酸を発生する光酸発生剤、具体的には、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルホスホニウムヘキサフルオロホスフェート等を例示することができる。
【0076】
前記溶液(b)中の、少なくとも1以上の水酸基を有する金属系界面活性剤としては、少なくとも水酸基と疎水性基とを同一分子内に有するものであれば、特に制限されない。具体的には、前記式(III)で表される化合物を好ましく例示することができる。
式(III)中、R、M、X、n及びmは、前記と同様の意味を表す。(m−n−1)が2以上のとき、Xは同一であっても、相異なっていてもよい。
また、前記溶液(b)は、少なくとも1以上の水酸基を有する金属系界面活性剤のほかに、該金属系界面活性剤と相互作用し得る触媒を含有していてもよい。かかる触媒としては、前記溶液(a)で用いるのと同様の触媒が挙げられる。
【0077】
前記式(III)で表される化合物としては、下記に示す化合物等を例示することができる。尚、金属原子Mとしてケイ素原子を用いた化合物を代表として例示している。
CHCHO(CH15Si(OCH)(OH)
CFCHO(CH15Si(OCH(OH)
CH(CHSi(CH(CH15Si(OCH)(OH)
CH(CHSi(CH(CHSi(OCH)(OH)
CHCOO(CH15Si(OCH)(OH)
CF(CF(CHSi(OCH)(OH)
CF(CF(CH=CH)Si(OCH)(OH)
CHCHO(CH15Si(OC)(OH)
CH(CHSi(CH(CH15Si(OC)(OH)
CH(CHSi(CH(CHSi(OC)(OH)
CF(CHSi(CH(CHSi(OC)(OH)
CHCOO(CH15Si(OC)(OH)
CFCOO(CH15Si(OC)(OH)
CFCOO(CH15Si(OCH)(OH)
CF(CF(CHSi(OC)(OH)
CF(CF(CHSi(OC)(OH)
CF(CF(CHSi(OC)(OH)
CF(CF(CH=CH)Si(OC)(OH)
CF(CF(CHSi(OCH)(OH)
CF(CF(CHSi(OCH)(OH)
CF(CF(CHSi(CH)(OH)
CF(CF(CHSi(CH)(OH)
CHCHO(CH15Si(OCH(OH)
CFCHO(CH15Si(OCH(OH)
CH(CHSi(CH(CH15Si(OCH(OH)
CH(CHSi(CH(CHSi(OCH(OH)
CHCOO(CH15Si(OCH(OH)
CF(CF(CHSi(OCH(OH)
CHCHO(CH15Si(OC(OH)
CF(CF(CH=CH)Si(OCH(OH)
CH(CHSi(CH(CH15Si(OC(OH)
CH(CHSi(CH(CHSi(OC(OH)
CF(CHSi(CH(CHSi(OC(OH)
CHCOO(CH15Si(OC(OH)
CFCOO(CH15Si(OC(OH)
CFCOO(CH15Si(OCH(OH)
CF(CF(CHSi(OC(OH)
CF(CF(CHSi(OC(OH)
CF(CF(CHSi(OC(OH)
CF(CF(CH=CH)Si(OC(OH)
CF(CF(CHSi(OCH(OH)
CF(CF(CHSi(OCH(OH)
CF(CF(CHSi(CH)(OC)(OH)
CF(CF(CHSi(CH)(OCH)(OH)
CF(CHSi(OCH)(OH)
CF(CF(CHSi(OCH)(OH)
CF(CF(CHSi(OCH)(OH)
CF(CF(CHSi(OCH)(OH)
CF(CF(CHSi(OCH)(OH)
CF(CF(CHSi(OCH)(OH)
CF(CF(CHSi(OCH)(OH)
CF(CFO(CF(CHSi(OCH)(OH)
CF(CFO(CF(CHSi(OCH)(OH)
CF(CF(CHO(CHSi(OCH)(OH)
CF(CFCONH(CHSi(OCH)(OH)
CF(CFCONH(CHSi(OCH)(OH)
CF(CFO[CF(CF)CF(CF)O]CF(CF)CONH(CHSi(OCH)(OH)
CF(CHSi(OCH(OH)
CF(CF(CHSi(OCH(OH)
CF(CF(CHSi(OCH(OH)
CF(CF(CHSi(OCH(OH)
CF(CF(CHSi(OCH(OH)
CF(CF(CHSi(OCH(OH)
CF(CF(CHSi(OCH(OH)
CF(CFO(CF(CHSi(OCH(OH)
CF(CFO(CF(CHSi(OCH(OH)
CF(CF(CHO(CHSi(OCH(OH)
CF(CFCONH(CHSi(OCH(OH)
CF(CFCONH(CHSi(OCH(OH)
CF(CFO[CF(CF)CF(CF)O]CF(CF)CONH(CHSi(OCH(OH)
CH(CHSi(OCH)(OH)
CH(CF(CHSi(OCH)(OH)
CH(CF(CHSi(NCO)(OH)
CH(CF(CHSi(OCH)(OH)
CH(CF(CHSi(NCO)(OH)
CH(CF(CHSi(OCH)(OH)
CH(CF(CHSi(NCO)(OH)
CHCH(CF(CHSi(OCH)(OH)
CHCH(CF(CHSi(OCH)(OH)
CHCH(CF(CHSi(NCO)(OH)
CHCH(CF(CHSi(OCH)(OH)
CHCH(CF(CHSi(NCO)(OH)
CHCH(CF10(CHSi(OCH)(OH)
CH(CFO(CF(CHSi(OCH)(OH)
CH(CF(CHO(CHSi(OCH)(OH)
CH(CF(CHO(CHSi(OCH)(OH)
CH(CF(CHO(CHSi(OCH)(OH)
CHCH(CF(CHO(CHSi(OCH)(OH)
CH(CFCONH(CHSi(OCH)(OH)
CH(CFCONH(CHSi(OCH)(OH)
CH(CFO[CF(CF)CF(CF)O]CF(CF)CONH(CHSi(OCH)(OH)
CF(CF(CHSi(CH)(OCH)(OH)
CF(CF(CHSi(CH)(OCH)(OH)
CF(CHSi(CH)(OCH)(OH)
CF(CF(CHSi(CH)(OCH)(OH)
CF(CF(CHSi(CH)(OCH)(OH)
CF(CF(CHSi(CH)(OCH)(OH)
CF(CF(CF(CHSi(CH)(OCH)(OH)
CF(CF(CF(CHSi(CH)(OCH)(OH)
CF(CF(CHO(CHSi(CH)(OCH)(OH)
CF(CFCONH(CHSi(CH)(OCH)(OH)
CF(CFCONH(CHSi(CH)(OCH)(OH)
CF(CFO[CF(CF)CF(CF)O]CF(CF)CONH(CHSi(CH)(OCH)(OH)CH(CHSi(OCH(OH)
CH(CF(CHSi(OCH(OH)
CH(CF(CHSi(CH)(OCH)(OH)
CH(CF(CHSi(OCH(OH)
CH(CF(CHSi(NCO)(OH)
CH(CF(CHSi(OCH(OH)
CH(CF(CHSi(NCO)(OH)
CH(CF(CHSi(OCH(OH)
CH(CF(CHSi(NCO)(OH)
CHCH(CF(CHSi(OCH(OH)
CHCH(CF(CHSi(NCO)(OH)
CHCH(CF(CHSi(OCH(OH)
CHCH(CF(CHSi(NCO)(OH)
CHCH(CF10(CHSi(OCH(OH)
CH(CFO(CF(CHSi(OCH(OH)
CH(CF(CHO(CHSi(OCH(OH)
CH(CF(CHO(CHSi(OCH(OH)
CH(CF(CHO(CHSi(OCH(OH)
CHCH(CF(CHO(CHSi(OCH(OH)
CH(CFCONH(CHSi(OCH(OH)
CH(CFCONH(CHSi(OCH(OH)
CH(CFO[CF(CF)CF(CF)O]CF(CF)CONH(CHSi(OCH(OH)
CHCHO(CH15Si(OH)
CFCHO(CH15Si(OH)
CH(CHSi(CH(CH15Si(OH)
CH(CHSi(CH(CHSi(OH)
CHCOO(CH15Si(OH)
CF(CF(CHSi(OH)
CF(CF(CH=CH)Si(OH)
CHCHO(CH15Si(OH)
CH(CHSi(CH(CH15Si(OH)
CH(CHSi(CH(CHSi(OH)
CF(CHSi(CH(CHSi(OH)
CHCOO(CH15Si(OH)
CFCOO(CH15Si(OH)
CF(CF(CHSi(OH)
CF(CF(CHSi(OH)
CF(CF(CHSi(OH)
CF(CF(CH=CH)Si(OH)
CF(CF(CHSi(OH)
CF(CF(CHSi(OH)
CF(CF(CHSi(CH(OH)
CF(CHSi(OH)
CF(CF(CHSi(OH)
CF(CF(CHSi(OH)
CF(CF(CHSi(OH)
CF(CF(CHSi(OH)
CF(CF(CHSi(OH)
CF(CF(CHSi(OH)
CF(CFO(CF(CHSi(OH)
CF(CFO(CF(CHSi(OH)
CF(CF(CHO(CHSi(OH)
CF(CFCONH(CHSi(OH)
CF(CFCONH(CHSi(OH)
CF(CFO[CF(CF)CF(CF)O]CF(CF)CONH(CHSi(OH)
CH(CHSi(OH)
CH(CF(CHSi(OH)
CH(CF(CHSi(OH)
CH(CF(CHSi(OH)
CH(CF(CHSi(OH)
CHCH(CF(CHSi(OH)
CHCH(CF(CHSi(OH)
CHCH(CF10(CHSi(OH)
CH(CF40(CF(CHSi(OH)
CH(CF(CHO(CHSi(OH)
CH(CF(CHO(CHSi(OH)
CH(CF(CHO(CHSi(OH)
CHCH(CF(CHO(CHSi(OH)
CH(CFCONH(CHSi(OH)
CH(CFCONH(CHSi(OH)
CH(CFO[CF(CF)CF(CF)O]CF(CF)CONH(CHSi(OH)
CF(CF(CHSi(CH)(OH)
CF(CF(CHSi(CH)(OH)
CF(CHSi(CH)(OH)
CF(CF(CHSi(CH)(OH)
CF(CF(CHSi(CH)(OH)
CF(CF(CHSi(CH)(OH)
CF(CF(CF(CHSi(CH)(OH)
CF(CF(CF(CHSi(CH)(OH)
CF(CF(CHO(CHSi(CH)(OH)
CF(CFCONH(CHSi(CH)(OH)
CF(CFCONH(CHSi(CH)(OH)
CF(CFO[CF(CF)CF(CF)O]CF(CF)CONH(CHSi(CH)(OH)
CH(CF(CHSi(CH)(OH)
これらの化合物は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0078】
溶液(a)及び溶液(b)に用いる有機溶媒としては、炭化水素系溶媒、フッ化炭素系溶媒、及びシリコーン系溶媒が好ましく、炭化水素系溶媒がより好ましい。なかでも、沸点が100〜250℃のものが特に好ましい。
具体的には、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、石油ナフサ、ソルベントナフサ、石油エーテル、石油ベンジン、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、デカリン、工業ガソリン、灯油、リグロイン等の炭化水素系溶媒;CBrClCF、CClFCFCCl、CClFCFCHFCl、CFCFCHCl、CFCBrFCBrF、CClFCClFCFCCl、Cl(CFCFCl)Cl、Cl(CFCFCl)CFCCl、Cl(CFCFCl)Cl等フロン系溶媒、フロリナート(3M社製品)、アフルード(旭ガラス社製品)等のフッ化炭素系溶媒;ジメチルシリコーン、フェニルシリコーン、アルキル変性シリコーンポリエーテルシリコーン等のシリコーン系溶媒;が挙げられる。これらの溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0079】
有機溶媒溶液中の金属系界面活性剤の含有量は、特に制限はないが、溶液(a)、溶液
(b)のいずれの場合においても、緻密な単分子膜を製造するためには、0.1〜30重量%の範囲が好ましい。
また、溶液(a)を用いる場合において、金属系界面活性剤と相互作用し得る触媒の使用量は、形成する単分子の有機薄膜の物性に影響を与えない量であれば特に制限されないが、金属系界面活性剤1モルに対して酸化物換算モル数で、通常0.001〜1モル、好ましくは0.001〜0.2モルである。
【0080】
本発明の有機薄膜製造方法は、前記溶液(a)又は溶液(b)(以下、これらをまとめて「有機溶媒溶液」ともいう。)に基板を接触させる工程を含み、該溶液中の水分量を所定範囲内にするまたは保持することを特徴とする。有機溶媒溶液中の水分量を一定範囲内に制御することにより、あらゆる材質の基板に対応して、緻密な有機薄膜を速やかに形成することができる。
【0081】
有機溶媒溶液中における水分量は、用いる基板、金属系界面活性剤、触媒、有機溶媒等の種類により決定される。具体的には、基板表面への化学吸着が阻害される、緻密な単分子膜が製造できない、用いる金属系界面活性剤の損失量が大きい、触媒が失活する、等の問題が起きない量以下で、かつ、膜の形成を促進活性化させるのに十分な量以上である。
膜の形成を促進活性化させるのに十分な量とは、例えば、ディップ法により該溶液を基板に接触させる場合、接触時間10分以内、好ましくは5分以内で、緻密で均質な有機薄膜を1度にしかも基板全面に形成させることができる程度をいう。具体的には、50ppm以上が好ましく、50ppmから有機溶媒への飽和水分量の範囲、より具体的には、50〜1000ppmの範囲がより好ましく、200〜800ppmの範囲が特に好ましい。水分量が50ppm以上であると、迅速に有機薄膜の形成を行うことができ、また、水分量が1000ppm以下であれば、金属系界面活性剤等が失活するという問題がない。
【0082】
なお、ここで示す水分量は、有機溶媒溶液の一部を採取してカールフィッシャー法で測定した値を示し、その方法原理を用いた装置で測定した値であれば、測定装置については特に限定されない。なお、有機溶媒溶液が均一である場合には、均一な溶液を一部採取して測定し、有機溶媒層と水分層が2層となっている場合には、有機溶媒層より一部採取して測定し、有機溶媒中に水分層が分散し分離不可能な状態な場合には、その分散液をそのまま採取して測定した値を示す。
【0083】
金属系界面活性剤、金属酸化物等金属系界面活性剤と相互作用し得る触媒、及び水を含む有機溶媒溶液の調整方法としては、特に限定されないが、具体的には、
(1)金属系界面活性剤、及び金属系界面活性剤と相互作用し得る触媒を含む有機溶媒溶液に水を添加する方法、
(2)金属系界面活性剤と水の有機溶媒溶液に、金属系界面活性剤と相互作用し得る触媒を添加する方法、等を例示することができる。
また、急激な反応を抑えるためには、(1)の方法において添加する水、(2)の方法において添加する触媒は、有機溶媒等で希釈して用いるのが好ましい。
【0084】
金属系界面活性剤と相互作用し得る触媒の量は、該触媒が、金属酸化物、金属水酸化物、金属アルコキシド類、キレート化又は配位化された金属化合物、金属アルコキシド類部分加水分解生成物、金属アルコキシド類を、該金属アルコキシド類の2倍当量以上の水で処理して得られた加水分解生成物である場合、形成する単分子の有機薄膜の物性に影響を与えない量であれば特に制限されないが、金属系界面活性剤1モルに対して通常0.001〜1モル、好ましくは0.001〜0.2モルまたは酸化物換算モル数で、通常0.001〜1モル、好ましくは0.001〜0.2モルの範囲であるのが好ましい。
【0085】
また、前記金属系界面活性剤と相互作用し得る触媒が、有機酸である場合、金属系界面活性剤1モルに対して、通常0.001〜100モル、好ましくは0.001〜10モルである。このような範囲で金属系界面活性剤と相互作用し得る触媒を使用することで、不純物のない緻密な単分子膜である有機薄膜を迅速に形成することができる。
【0086】
前記金属系界面活性剤、有機溶媒、金属系界面活性剤と相互作用し得る触媒、及び水の混合物を撹拌することで、本発明の有機薄膜製造用溶液を得ることができる。撹拌温度は、通常−100℃〜+100℃、好ましくは−20℃〜+50℃である。撹拌時間は、通常、数分から数時間である。また、この場合においては、均一な有機薄膜製造用溶液を得るために、超音波処理を施すことも好ましい。
調製した有機薄膜製造用溶液中に、金属酸化物等を含む析出物が生じる場合があるが、これらの析出物等の不純物は、不純物のない緻密な単分子の有機薄膜を得るためには、ここで除去しておくのが好ましい。析出物は、濾過、デカント等の操作で簡便に除去することができる。
【0087】
本発明においては、該基板を接触させる工程において、前記有機溶媒溶液中の水分量を所定量範囲内に保持し、同一溶液を用いて該工程を2回以上繰り返すのが好ましい。
所定量範囲とは、上記した水分量の所定範囲と同じ意味を表し、水分量をそのような範囲に保持することにより、液を交換することなく接触させる工程を複数回繰り返し行なっても、緻密で均質な有機薄膜を形成することができる。同一溶液を用いて、2以上の基板に対して1回の接触工程操作で、接触した全面に緻密で均質な有機薄膜を、短時間の接触時間で形成することができる。
この場合、同一溶液とは、1回の接触工程操作を行った後その溶液の全部または一部を廃棄して新たな溶液に交換する場合を除く意味であり、後述するように、何らかの方法で水分量を所定量範囲内に保持した溶液は、同一溶液として含むものとする。
【0088】
水分量を所定量範囲内にする、又は保持する方法として、具体的には、
(1)有機溶媒溶液に接触して水層を設ける方法、
(2)有機溶媒溶液中に、保水性物質を水を含ませた状態で共存させる方法、
(3)有機溶媒溶液を、水分を含む気体に接触させる方法、
(4)適宜水を添加する方法、等を例示することができる。
これらの方法は単独で用いても、2以上を組み合わせて用いてもよい。
用いる水は中性であれば特に制限されないが、純水または蒸留水を用いるのが好ましい。また、用いる有機溶媒は、無水のものでも、あらかじめ一定量の水分含むものでも構わない。
【0089】
上記(1)の方法においては、炭化水素系溶媒等の、水層と分離する有機溶媒を用いた場合には、有機溶媒層と分離した形で水層を共存させてもよいし、有機溶媒溶液を水層中に循環または通過させ分離した有機溶媒層を用いてもよい。
低級アルコール等の、水層と分離しない水の溶解度の大きい有機溶媒を用いた場合には、有機溶媒は浸透しないが水は浸透する膜等を介在させて有機溶媒溶液と水層を接触させる方法等を例示することができる。
【0090】
上記(2)の方法において、保水性物質としては、有機溶媒溶液中において水を分離せずに有機溶媒溶液中に浮遊しない物質が好ましい。
具体的には、吸水性高分子等の有機系保水材;ゼオライト、珪酸白土、バーミキュライト、多孔質セラミック等の無機系保水材;界面活性剤等の、溶液中に水を核とするミセル分子を形成することのできる化合物;等が挙げられ、なかでも、ゴミ等の混入が避けられる等の理由から、ガラス繊維フィルターが特に好ましい。
また、保水性物質として、溶液中に水を核とするミセル分子を形成することのできる化合物、具体的には、界面活性剤等を例示することができ、水分を含ませた状態で溶液中に共存させるのが好ましい。
また、有機溶媒への水の溶解度をあげるために親水性の溶媒を用いる方法も考えられる。この場合の親水性溶媒も便宜上保水することのできる物質として含むこととする。
【0091】
保水性物質に含ませる水分量は特に制限されないが、有機溶媒溶液中で水が保水性物質と分離して遊離していない状態になるまでの水分量が好ましい。また、水分を適時添加して保水できる物質に含ませることもできる。また、保水性物質を、溶液と外気の界面または、外気から連続して溶液内に設けることにより、外気の湿気等を吸湿することにより、水分を溶液に補給することもできる。
【0092】
また、上記(3)の方法において、用いる気体は、溶液中の各成分に影響を及ぼさないものであれば特に制限されず、具体的には、空気、窒素ガス、アルゴンガス等を例示することができる。
水分を含む気体を得る方法としては、気体に水分を含ませる方法;気体を加湿する方法;等が挙げられる。
気体に水分を含ませる方法として、ガスを水中に潜らせる、ガスを水または温水表面に接触させる等の水とガスを接触させる方法;水蒸気を含むガスをそのまま用いる方法;等を例示することができる。
気体を加湿する方法として、蒸気加湿法、水噴霧加湿法、または気化加熱法等を例示することができる。
水分を含む気体と有機溶媒溶液とを接触させる方法としては、水分を含む気体を有機溶媒溶液中に吹き込む、または有機溶媒溶液表面に吹き付ける方法;有機溶媒溶液を、水分を含む気体雰囲気下に、必要に応じて撹拌しながら放置する方法;有機溶媒溶液を、加湿された雰囲気下に、必要に応じて撹拌しながら放置する方法;等を例示することができる。
水分を含む気体を吹き込む方法においては、必要に応じて吹き込み装置、清浄装置、ろ過装置等を付設するのが好ましい。
【0093】
また、上記(4)の方法において、具体的には、有機溶媒溶液中の水分量の減少を観測し、減少量に応じて水、又は相溶性を有する有機溶媒もしくは同一の有機溶媒で希釈した水を適宜追加する方法;一定量の水を含有する同一組成の有機溶媒溶液を供給する方法;等を例示することができる。
【0094】
本発明の有機薄膜製造方法に用いる基板としては、特に制約はないが、有機溶媒溶液中の有機薄膜を形成する分子と相互作用し得る官能基を表面に有する基板が好ましく、特に活性水素を表面に有する基板が好ましい。活性水素を表面に有する基板を用いると、基板表面の活性水素と、有機溶媒溶液中の分子が、化学的な相互作用により基板表面に容易に化学吸着膜を形成することができる。
【0095】
活性水素とは、プロトンとして解離しやすいものをいい、活性水素を含む官能基としては、水酸基(−OH)、カルボキシル基(−COOH)、ホルミル基(−CHO)、イミノ基(=NH)、アミノ基(−NH)、チオール基(−SH)等が挙げられ、なかでも、水酸基が好ましい。
基板表面に水酸基を有する基板として、具体的には、アルミニウム、銅、ステンレス等の金属;ガラス;シリコンウェハー;セラミックス;プラスチック;紙;天然繊維又は合成繊維;皮革;その他親水性の物質;等からなる基板が挙げられる。なかでも、金属、ガラス、シリコンウェハー、セラミックス、及びプラスチックからなる基板が好ましい。
プラスチックや合成繊維のように表面に水酸基を持たない材質からなる基板には、予め基板表面を酸素を含むプラズマ雰囲気中で(例えば100Wで20分)処理したり、コロナ処理して親水性基を導入することができる。ポリアミド樹脂又はポリウレタン樹脂等からなる基板は、表面にイミノ基が存在しており、このイミノ基の活性水素と金属系界面活性剤のアルコキシシリル基等とが脱アルコール反応し、シロキサン結合(−SiO−)を形成するのでとくに表面処理を必要としない。
また、表面に活性水素を持たない基板を用いる場合、この基板の表面に、予めSiCl、SiHCl、SiHCl、Cl−(SiClO)b−SiCl(式中、bは自然数)から選ばれる少なくとも一つの化合物を接触させた後、脱塩化水素反応させることにより、表面に活性水素を有するシリカ下地層を形成しておくこともできる。
【0096】
有機溶媒溶液を基板に接触させる方法としては、特に制限されず、公知の方法を用いることができる。具体的には、ディップ法、スピンコート法、スプレー法、ローラコート法、メイヤバー法、スクリーン印刷法、刷毛塗り法等が挙げられ、なかでも、ディップ法が好ましい。
有機溶媒溶液を基板に接触させる工程は、1度に長い時間行っても、短時間の塗布を数回に分けて行ってもよい。膜形成を促進するために超音波を用いることもできる。
接触させる温度は、該溶液が安定性を保てる範囲であれば特に制限されないが、通常、室温から溶液の調製に用いた溶媒の還流温度までの範囲である。接触に好適な温度とするには、該溶液を加熱するか、基板そのものを加熱すればよい。
【0097】
有機溶媒溶液に基板を接触させる工程は、有機溶媒溶液中に基板を浸漬(ディップ)させる工程であるのが好ましい。有機溶媒溶液中の水分量を保持しながら、基板を浸漬させる方法としては、具体的には、
(a)水分調整槽と基板浸漬槽を設け、水分調整槽で水分調整した液を基板浸漬槽に循環させる方法、
(b)基板浸漬槽を複数設け、一つの基板浸漬槽で基板を浸漬している間に他の浸漬槽において水分調整を行う方法、
(c)上述した水分量を所定範囲内に保持する手段を基板浸漬槽に直接設け、適宜、水分を補給する方法、等が挙げられる。
【0098】
有機溶媒溶液に基板を接触させる工程の後には、膜表面に付着した余分な試剤や不純物を除去するために、基板表面を洗浄する工程(B)を設けることもできる。洗浄工程を設けることにより、膜厚を制御することができる。
洗浄方法としては、表面の付着物を除去できる方法であれば特に制限されず、具体的には、金属系界面活性剤を溶解し得る溶媒中に基体を浸漬させる方法;真空中、又は常圧下で大気中に放置して蒸発させる方法;乾燥窒素ガス等の不活性ガスをブローして吹き飛ばす方法;等を例示することができる。
【0099】
また、有機溶媒溶液に基板を接触させる工程の後には、基板表面上に形成された膜を安定化させるために、基板を加熱する工程(C)を設けることもできる。基板を加熱する工程(C)は、上記洗浄工程(B)の後に設けるのが好ましい。加熱する温度は、基板、膜の安定性によって適宜選択することができる。
【0100】
本発明においては、有機溶媒溶液に基板を接触させる工程を、湿度を40%RH以上に保持した空間内において実施するのが好ましく、湿度を60%RH以上に保持した空間内において実施するのがより好ましい。このような空間内においては、有機溶媒溶液中の水分量がより好ましく保持され、連続的に基板を接触させても再現性良く緻密な単分子膜を形成することができる。
【0101】
本発明の有機薄膜製造方法は、単分子膜の製造にも2層以上の多層膜の製造にも用いることができ、特に単分子膜の製造に好適に用いることができる。また、物理的な吸着により表面に膜を形成させる方法としても用いることができる。
【0102】
本発明の有機薄膜製造方法に用いるれる溶液の保存方法は、(α)少なくとも1以上の加水分解性基を有する金属系界面活性剤と、該金属系界面活性剤と相互作用し得る触媒、又は(β)少なくとも1以上の水酸基を有する金属系界面活性剤を含む有機溶媒溶液を水で処理することにより、該有機溶媒溶液中の水分量を所定量範囲内とし、前記有機溶媒溶液中の水分量を所定量範囲内に保持するとともに、容器内に密閉する方法等を例示することができる。有機溶媒溶液中の水分量を所定量範囲内とし、前記有機溶媒溶液中の水分量を所定量範囲内に保持する方法としては、前述した方法と同様の方法が挙げられる。
容器内に密閉することにより、有機溶媒とともに水分が大気中に揮散して水分量が減少するのを防ぐことができる。本発明の有機薄膜製造用溶液は、その水分量が有機薄膜の形成能に影響するため、保存中においても溶液中の水分量を所定範囲内に保持するのが好ましい。
【0103】
上記有機薄膜製造方法を用いることにより、単分子膜、自己集合膜、化学吸着膜、及びそれらの性質をあわせ持つ有機薄膜を得ることができる。
【0104】
2)自己集合膜形成用溶液
本発明の自己集合膜形成用溶液は、自己集合膜を形成する分子が、溶液中において集合体を形成していることを特徴とする。
水分量が所定範囲内である有機溶媒溶液(以下、「有機薄膜製造用溶液」という。)中において、有機薄膜を形成する分子が集合体を形成している場合には、得られる有機薄膜は自己集合膜となる(この場合の有機薄膜製造用溶液を、自己集合膜形成用溶液という。)。
【0105】
前記式(IV)中、X1が、水酸基又は加水分解性基を表す以外は、R11、M、n1、及びm1は、前記式(I)中のR、M、n、mと全て同様の意味を表す。
また、前記式(V)中、Xが、水酸基又は加水分解性基を表す以外は、R21、R31、R41、M、Y、p1、q1、m2、及びr2は、前記式(II)中のR、R、R、M、Y、p、q、m、及びrと全て同様の意味を表す。
前記式(IV)または、前記式(V)で表される化合物として、具体的には、前記式(I)または、前記式(II)で表される化合物が例示される。
X1、X2は、必ずしも加水分解性基を有していなくてもよく、具体的には、前記式(III)で表される化合物等の水酸基含有化合物も列記することができる。
【0106】
本発明において、自己集合膜とは、外部からの強制力なしに秩序だった構造を形成してなる膜を意味する。金属系界面活性剤の分子は、自己集合膜形成用溶液中で、溶媒により溶媒和されて単独に存在するのではなく、幾つかが集まって集合体を形成している。
金属系界面活性剤として、少なくとも1以上の加水分解性基を有する金属系界面活性剤を用いた場合には、集合体は、該金属系界面活性剤を、該金属系界面活性剤と相互作用し
得る触媒及び水により処理して得られたものであり、金属系界面活性剤として、少なくとも1以上の水酸基を有する金属系界面活性剤を用いた場合には、集合体は、該金属系界面活性剤を水により処理して得られたものである。
【0107】
集合体の形態は、分子が、疎水性部分同士、または親水性部分同士で分子間力、配位結合、または水素結合等により集合した形態;膜を形成する分子が、共有結合により結合して集合した形態;水等の他の媒体が、核もしくは仲介として、ミセル等を形成した形態;またはこれらが組み合わさった形態;等である。
集合体の形状は特に限定されず、球状、鎖状、帯状等いずれの形状であってもよい。集合体の平均粒径は、特に限定されないが、10〜1000nmの範囲が好ましい。
【0108】
また、集合体のゼーター電位(界面動電電位)の値は、同一溶媒中における基板のゼーター電位の値よりも大きいことが好ましい。集合体のゼーター電位がプラスで、基板のゼーター電位がマイナスであるのが特に好ましい。このようなゼーター電位値を有する集合体を形成する自己集合膜形成用溶液を用いると、結晶性を有した緻密な単分子膜を製造することができる。
【0109】
3)化学吸着膜
本発明の化学吸着膜は、基板上に形成されてなる化学吸着膜であって、前記基板が結晶性を有さず、かつ、化学吸着膜が結晶性を有することを特徴とする。すなわち、基板が結晶性であるかないかにかかわらず結晶性を有する。この場合、結晶性とは、多結晶であっても、単結晶であっても構わない。
【0110】
4)単分子膜製造方法
本発明の単分子膜製造方法は、金属系界面活性剤を含む溶液をディップ法、スピンコート法、ロールコート法、メイヤバー法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、刷毛塗り法及びスプレー法からなる群から選ばれる少なくとも1種の方法により基材表面上に塗布する工程を有することを特徴とし、その工程において、該基板上に、炭化水素オキシ基またはアシルオキシ基を加水分解性基とする金属系界面活性剤を含む溶液を滴下し、滴下された溶液に上部より圧力をかけ基板上に拡散させることを特徴とする。滴下する量、及び場所等には特に制限がなく、単分子膜を形成させる場所、面積に応じて適宜選択することができる。
滴下された溶液に上部より圧力をかける方法は、滴下した液が基板上に拡散するように液上部より圧力をかける方法であれば特に制限されず、具体的には、基材表面にフィルム、シートまたは平板を重ねてさらにその上からローラー等で圧延する方法等を例示することができる。
前記金属系界面活性剤を含む溶液は、前記金属界面活性剤の加水分解性基を活性化させる触媒をさらに含む有機溶媒溶液であるのが好ましい。
【実施例】
【0111】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(1)触媒の調製−1
チタンテトライソプロポキシド(A−1:純度99%、酸化チタン換算濃度28.2重量%、日本曹達(株)製)12.4gを4つ口フラスコ中で、トルエン45.0gに溶解し、窒素ガス置換した後に、エタノール/液体窒素バス中で−80℃に冷却した。別に、イオン交換水1.26g(HO/Ti=1.6(モル比))をイソプロパノール11.3gに混合後、−80〜−70℃に冷却した状態で、上記4つ口フラスコ中へ攪拌しながら滴下した。滴下中は、フラスコ内の液温を−80〜−70℃に維持した。滴下終了後、30分間冷却しながら攪拌後、室温まで攪拌しながら昇温して、無色透明な酸化チタン換算濃度5重量%の部分加水分解溶液(C−1)を得た。
【0112】
(2)触媒の調製−2
窒素ガス置換した4つ口フラスコ中で、チタンテトライソプロポキシド(A−1:純度99%、酸化チタン換算濃度28.2重量%、日本曹達(株)製)530gをトルエン1960gに溶解し、エタノール/ドライアイスバスで−15℃に冷却した。別に、イオン交換水30.4g(モル比(HO/Ti)=0.9)をイソプロパノール274gに混合し、上記4つ口フラスコ中へ攪拌しながら90分間で滴下した。滴下中は、フラスコ内の液温を−15〜−10℃に維持した。滴下終了後、−10℃で30分間、室温まで昇温後1時間攪拌を続け、無色透明の液体を得た。この溶液をエタノール/ドライアイスバスで−80℃に冷却し、イオン交換水20.3g(HO/Ti=0.6(モル比))とイソプロパノール183gの混合溶液を90分間で滴下しながら攪拌した。滴下終了後、3時間かけて室温に戻し、この溶液を90〜100℃で2時間還流し、酸化チタン換算濃度で5重量%の無色透明な部分加水分解溶液(C−2)を得た。この溶液は、平均粒径が5.6nmでシャープな単分散性のゾルであった。
【0113】
(3)触媒の調製−3
チタンテトライソプロポキシド(A−1:純度99.9%、酸化チタン換算濃度28重量%、日本曹達(株)製)17.79g(62.6mmol)と脱水トルエン65.31gを液温18℃、窒素ガス雰囲気下に、フラスコ中で混合攪拌し溶解した。そこへ水1.69g(93.9mmol、HO/Ti=1.5(モル比))、脱水イソプロパノール30.42g、脱水トルエン30.42gの混合物(水の濃度は、イソプロパノールとトルエンの混合溶媒に対する水の飽和溶解度の22%に相当する)を液温18〜20℃で撹拌しながら2時間で滴下したところ、淡い黄色透明の溶液が得られた。さらに液温18℃で1.5時間攪拌すると少し黄色が強くなり、その後、2.5時間還流すると無色の透明液となった。溶液の酸化物濃度は3.4重量%であった。この溶液にトルエンを加え、酸化物濃度1.0重量%になるように希釈し、触媒(C−3)を得た。
【0114】
(4)触媒の調製−4
イソプロパノール(IPA)に分散したシリカゾル(IPA−ST−S、25重量%、日産化学工業(株)製)を脱水トルエンに分散し、シリカ換算濃度1重量%の分散液(C−4)を得た。
【0115】
(5)触媒の調製−5
チタンテトライソプロポキシド(A−1:純度99%、酸化チタン換算濃度28.2重量%、日本曹達(株)製)12.4gを4つ口フラスコ中で、トルエン45.0gに溶解し、窒素ガス置換した後に、エタノール/ドライアイスバス中で−20℃に冷却した。別に、イオン交換水1.26g(HO/Ti=1.6(モル比))をイソプロパノール1.3gに混合後、−20℃に冷却した状態で、上記4つ口フラスコ中へ攪拌しながら滴下した。滴下中は、フラスコ内の液温を−20℃に維持した。滴下終了後、30分間冷却しながら攪拌後、室温まで攪拌しながら昇温して、無色透明な酸化チタン換算濃度5重量%の部分加水分解溶液(C−5)を得た。
【0116】
(6)触媒の調製−6
テトラキス(トリメチルシロキシ)チタニウム(Gelest社製)を脱水トルエンに溶解して、濃度1重量%の触媒液(C−6)を得た。
【0117】
(7)触媒の調製−7
イオン交換水を−40℃で滴下するほかは、触媒の調製−1と同様にして、部分加水分解溶液(C−7)を得た。
【0118】
(8)金属系界面活性剤−1
有機薄膜製造用溶液の調製用の金属界面活性剤として、下記のM−1を用いた。
M−1:n−オクタデシルトリメトキシシラン(ODS):Gelest社製
【0119】
(9)金属系界面活性剤−2
有機薄膜製造用溶液の調製用の金属界面活性剤として、下記の方法によりM−2:n−オクタデシルトリヒドロキシシラン(ODHS)を得た。
窒素ガス置換した4つ口フラスコ中で、脱水エタノール82g、0.1N−塩酸0.6g、水9gを仕込み、0℃に冷却した。次に上記4つ口フラスコ中へ攪拌しながらオクタデシルトリエトキシシラン7.8gを滴下した。滴下後、反応液を室温で3時間保持した。反応液をろ過後、室温にて2時間真空乾燥し、白色粉末(M−2)を4.4g(収率:72%)得た。
【0120】
(10)有機薄膜製造用溶液の調製方法−1
脱水トルエンにイオン交換水を加え、強く攪拌して、第1表に示す含水トルエンを調製した。この含水トルエンに金属系界面活性剤M−1を最終濃度が0.5重量%になるように加え、室温で30分間攪拌した。次に、この溶液に触媒C−1〜C−4を、第1表に示す所定量滴下し、滴下終了後、室温で3時間攪拌して、溶液(SA−1〜SA−10)を得た。
【0121】
(11)有機薄膜製造用溶液の調製方法−2
水分量350ppmの含水トルエンに金属系界面活性剤M−1を最終濃度が0.5重量%になるように加え、室温で30分間攪拌した。この溶液に触媒C−1〜C−4を所定量滴下し、滴下終了後、室温で3時間攪拌した。これらの溶液100gを瓶に移し、十分に水を含んだ直径3cmのガラス繊維濾紙(GA−100、東洋濾紙(株)製)を瓶の底に沈ませて蓋をした。室温で2時間静置して溶液(SA−11〜SA−14)を得た。
【0122】
(12)有機薄膜製造用溶液の調製方法−3
水分量350ppmの含水トルエンに、金属系界面活性剤M−1を最終濃度が0.5重量%になるように加え、室温で30分間攪拌した。この溶液に触媒C−1〜C−7を所定量滴下し、滴下終了後、室温で3時間攪拌した。これらの溶液100gを瓶に移し、18L/分の送風器と木下式ガラスボールフィルターをバブリング用いて、25℃で、飽和水蒸気をバブリングさせて、水分量調整した溶液(SA−15〜SA−18、SA−22〜SA−25)を得た。
【0123】
(13)有機薄膜製造用溶液の調製方法−4
脱水トルエンにイオン交換水を加え、強く攪拌して、水分量を100ppmにした含水トルエンを調製した。この溶液に金属系界面活性剤M−1を最終濃度が0.5重量%になるように加え、室温で30分間攪拌した。この溶液に触媒C−3を第1表に示す所定量滴下し、滴下終了後、室温で3時間攪拌した。これらの溶液100gを瓶に移し、10gのイオン交換水を加え、蓋をして25℃で乳化しないように軽く5分間攪拌し、水を飽和させた溶液(SA−19、SA−20)を得た。水は、攪拌後、下層に分離していた。
【0124】
(14)有機薄膜製造用溶液の調製方法−5
有機薄膜製造用溶液の調製方法−3(触媒C−3使用)の方法に準じ、水分量が不明のトルエンを用い、バブリング時間を調整し、水分量が250ppmの溶液(SA−21を得た。
【0125】
(15)有機薄膜製造用溶液の調製方法−6
水分量400ppmのテトラヒドロフラン(THF)に、金属系界面活性剤M−2を最終濃度が0.5重量%になるように加え、室温で3時間撹拌した。この溶液100gを瓶に移し、十分に水を含んだ直径3cmのガラス繊維濾紙(GA−100、東洋濾紙(株)製)を瓶の底に沈ませて蓋をした。室温で2時間静置して溶液(SA−26)を得た。
【0126】
(16)有機薄膜製造用溶液の調製方法−7
比較例用の有機薄膜製造用溶液(R−1〜R−6)を以下のように調製した。
R−1:イオン交換水を加えない以外は有機薄膜製造用溶液の調製方法−1と同様に調製した。
R−2〜R−4:脱水トルエンにイオン交換水を加え、強く攪拌して、水分量が100、210、94ppmであるトルエンを調製した。この溶液に金属系界面活性剤M−1を最終濃度が0.5重量%になるように加え、室温で30分間攪拌した。次に、この溶液に触媒C−2を所定量滴下し、滴下終了後、室温で3時間攪拌して調製した。
R−5:触媒を加えない以外は有機薄膜製造用溶液の調製方法−1と同様に調製した。
R−6:脱水トルエンに金属系界面活性剤M−1を溶解し、室温で30分間攪拌後、触媒C−5を滴下し、室温で3時間攪拌して調製した。
【0127】
(17)有機薄膜製造用溶液の評価
各溶媒または溶液中の水分量、平均粒径、ゼーター電位を下記の方法で測定した。結果を第1表にまとめて示す。
第1表中、処理前の水分量は、SA−1〜SA−10、R−1〜R−6においてはトルエン中の水分量を、SA−11〜SA−14においてはガラス繊維濾紙を入れる前の溶液の水分量を、SA−15〜SA−18、SA−22〜SA−25においてはバブリングする前の溶液の水分量を、SA−19、SA−20においては水を加える前の溶液の水分量を表す。
【0128】
<水分量>
電量滴定法カールフィッシャー水分計(CA−07、(株)ダイアインスツルメンツ製)により測定した。
<平均粒径>
動的光散乱法粒子径測定装置(HPPS、Malvern社製)により測定した。
<ゼーター電位>
レーザーゼーター電位計(ELS−8000、大塚電子(株)製)により測定した。
【0129】
【表1】

【0130】
第1表から、SA−1〜SA−10においては、トルエン中の水分量は、有機薄膜製造用溶液を調製した時点で、当初の半分位に減少することがわかった。その原因は、今のところ不明ではあるが、容器の壁への付着、大気への揮散等が考えられる。
SA−11〜SA−21から、後から水を添加する方法、水を含ませたガラス繊維濾紙を溶液中に共存させる方法、水蒸気を吹き込む方法により、水分量を増やすことができることがわかった。このことは、何らかの原因で水分量が減った有機薄膜製造用溶液であっても、水分を保持できる手段を施すことにより、所定量以上の水分量を確保することができ、保存後溶液を使用する場合に、新たに溶液中の水分量を調整することなく有機薄膜製造用溶液として用いることができることがわかった。
第1表のSA−23〜SA−25の結果より、調製された溶液は外観的には透明であるが、粒子を形成していることがわかった。また、この粒子は、水分および触媒を添加すことにより形成されていることがわかった。このことより、金属系界面活性剤M−1が、水、及び触媒との何らかの相互作用により集合体を形成したものと推定された。
調製された溶液は、正のゼーター電位を示した。同一溶液において、基板となるソーダライムガラス、無機アルカリガラス、シリコンウェハーのゼーター電位を測定したところ、それぞれ−42mV、−69mV、−35mVであり、溶液のゼーター電位の値より小さかった。水および触媒を添加しない場合の溶液のゼーター電位値は、0mVであった。
【0131】
(18)有機薄膜の形成−1
超音波洗浄およびオゾン洗浄したソーダライムガラス基板(SLG)、無アルカリガラス基板(旭硝子(株)製;AN100)、シリコンウェハー(Si)、およびステンレス基板(SUS316、SUS304)を、上記の溶液(SA−1〜SA−26、R−1〜R−6)中に、第2表に示す所定時間浸漬後引き上げ、トルエンで超音波洗浄した後に、60℃で10分間乾燥し、M−1の有機薄膜(SAM−1〜SAM−31、RL−1〜RL−6)およびM−2の有機薄膜(SAM−32)の形成を行った。
【0132】
(19)有機薄膜の評価
得られた有機薄膜の、接触角測定、膜の密着性評価、膜厚測定、XPS分析、SPM分析、膜の結晶性測定を下記の方法で行った。接触角、膜の密着性、膜厚の測定結果を第2表にまとめて示す。
【0133】
<接触角>
各試料の表面にマイクロシリンジから水、トルエンまたはテトラデカンを5μlを滴下した後、60秒後に、接触角測定器(エルマ(株)製;360S型)を用いて測定した。
<膜の密着性>
有機薄膜を水中で1時間超音波洗浄し、再度接触角を測定し、超音波洗浄前の値と比較し、同様の値を示したものを○、値が低下したものを×と評価した。
<膜厚>
得られた有機薄膜の膜厚を多入射角分光エリプソメーター(ウーラム社製)で測定した。
<X線光電子分光分析>
膜中の元素の分析は、X線光電子分光装置(XPS装置:Quntum2000、アルバックファイ(株)製)を用いた。
<SPM分析>
得られた有機薄膜の形成過程および膜の欠陥の有無を走査プローブ顕微鏡(SPM:SPA400、セイコーインスツルメンツ(株)製)で測定した。
<膜の結晶性>
得られた有機薄膜の結晶性を薄膜X線回折装置(ATX−G、RIGAKU社製)で測定した。
【0134】
【表2】

【0135】
第2表より、水分量が50ppm以下では、長時間でも十分な接触角を示す有機薄膜は得られなかった。このことから、緻密な単分子膜を得るには、(i)所定量以上の水分量が必要であり、(ii)所定量以下の水分量である場合には、水を保持する手段により水分を補給し、所定量以上の水分量に保持された溶液とする必要があることがわかった。
次に、SAM−1〜SAM−24の膜をXPSで分析したところ、基板以外の元素である炭素の強いピークが観測された。同時に基板の成分元素も確認されていること、及び装置の測定原理から、膜厚は、10ナノメーター以下であることが示唆され、また、炭素面内分布も均一であった。比較例RL−1〜RL−4の炭素含有量は、実施例の1/3程度以下であった。
また、SAM−25〜31の膜厚を測定したところ、金属系界面活性剤M−1の理論的分子長(約2.3nm)にほぼ等しく、SAM−25〜31は単分子膜であることがわかった。
比較例R−5及びR−6においては、膜厚測定が不能であり、単分子膜が得られていないことがわかった。以上のことより、有機薄膜製造用溶液中には、有機薄膜を形成する分子の集合体である粒子が生成していること、その粒子のゼーター電位値が、有機薄膜を形成する基板のゼーター電位値よりも大きいことが、良好な有機薄膜を高速で生成させる上で重要であることが示唆された。
また、金属系界面活性剤M−2を用いても、良好な有機薄膜SAM−32を形成することができた。水酸基を有する金属系界面活性剤のシラノールの関与した有機薄膜の形成が示唆される。
【0136】
SAM−25〜SAM−27のX線回折図を図1に示す。図1より、得られた有機薄膜は、面間隔は約4.1Åの良好な結晶性を示すことがわかった。以上のことより、膜を構成している分子は規則的に高密度充填しており、ガラス基板等の非結晶性基板上においても非常に高速に結晶性単分子膜を形成できることがわかった。
また、SAM−27およびSAM−31の膜形成の過程について、浸漬時間を分割して、各時間における基板表面のSPMにより、膜形成過程の経時変化を測定した。SPMチャート図をそれぞれ図2及び図3に示した。図2においては、浸漬時間が、(a)1秒以
下、(b)15秒、(c)30秒、(d)1分におけるSPMチャート図であり、図3においては、浸漬時間が、(a)1秒以下、(b)15秒、(c)1分、(d)5分におけるSPMチャート図である。
図2及び3より、経時変化に伴い、基板上に有機薄膜が、徐々に成膜されることがわかった。また、図2(a)、図3(a)等から、膜は、単分子で成長するのではなく、集合
体を一つに単位として成長することが示唆された。
図2(a)、及び図3(a)より、その集合体の粒径を測定したところ、図2では、およそ50nmであり、図3では、およそ200nmであった。この集合体の大きさは、有機薄膜製造用溶液中の粒子の大きさ(SAM−27:42nm、SAM−31:150nm)から計算される粒子の表面積と良好な相関が見られた。
以上のことより、有機薄膜製造用溶液中の、自己集合膜を形成する分子の集合体は、高速に緻密に成長する有機薄膜の成長単位となっていることが示唆された。
【0137】
(20)有機薄膜の形成−2
温度25℃、湿度35%の条件下、SA−21溶液100g中に、オゾン洗浄した2cm×5cm角の無アルカリガラス基板を一度に10枚投入し、5分間浸漬後、引き上げ、トルエンで超音波洗浄後、10分間乾燥し、有機薄膜を得た。この作業を20回繰り返し、溶液の中の水分量と得られた化学吸着膜の特性を評価した。また、使用した溶液に、再度、飽和水蒸気をバブリングすることにより、水分量を250ppmに調整して、同様の操作で有機薄膜を得た。その結果をまとめて第3表に示す。
【0138】
【表3】

【0139】
第3表より、基板を浸漬する回数が増えるごとに、溶液中の水分量は減少し、得られた機薄膜の接触角は低下することがわかった。このことから、水分量が減少すると、水分量が多い場合と同じ浸漬時間では、緻密な単分子膜が形成されないことが示唆された。
【0140】
(21)有機薄膜の形成−3
(有機薄膜製造用溶液の調製)
4つ口フラスコに、チタンテトライソプロポキシド(商品名:A−1:純度99%、酸化チタン換算濃度28.2重量%、日本曹達(株)製)9.0gをトルエン91.0gに溶解し、窒素ガス置換した後に、変性アルコール/ドライアイスバス中で−60℃に冷却した。別に、イオン交換水2.0g(HO/Ti=3.5(モル比))をイソプロパノール98.0gに混合後、−60〜−50℃に冷却した状態で、上記4つ口フラスコ中へ攪拌しながら滴下した。滴下中は、フラスコ内の液温を−60〜−50℃に維持した。滴下終了後、冷却しながら5分間攪拌後、−40℃で1時間攪拌し、その後室温に昇温したところ、コロイド溶液を得た。
次いで含水トルエン(水分:460ppm)98gに、室温で金属系界面活性剤M−10.65gと、上記製造のコロイド溶液1.0gを加え、超音波浴に浸けて30分間かけて溶解して有機薄膜製造用溶液(SA−101)を得た。
また、上記製造のコロイド溶液をにかえてチタン酸(水酸化チタン、三津和化学薬品(株)製)20mgを加える以外は同様にして、超音波浴に浸けて1時間かけて懸濁液を得た。その後、濾過して不溶解分を除き、有機薄膜製造用溶液(SA−102)を得た。
4つ口フラスコに、飽和水トルエン(水分:460ppm)99gを加え、室温で10%チタンテトライソプロポキシドのトルエン溶液0.45g(HO/Ti=16(モル比))を攪拌しながら滴下して、コロイド溶液を得た。
次にこのたコロイド溶液に、金属系界面活性剤M−10.65gを室温で加え、超音波浴に浸けて30分間かけて溶解し、有機薄膜製造用溶液(SA−103)を得た。
【0141】
(有機薄膜の形成、有機薄膜の評価)
スライドガラスを3枚用意し、ここで調整した有機薄膜製造用溶液(SA−101〜SA−103)中にそれぞれ5分間浸漬した。ガラス板を取り出し、表面をトルエン洗浄した後、60℃で10分間乾燥して、表面にODSの有機薄膜(SAM−101〜SAM−103)が形成されたガラス板を得た。得られた3枚の有機薄膜ガラス板を用いて以下の評価試験<接触角測定>を行った。
ここで得られた3枚の有機薄膜付ガラス板の表面に、マイクロシリンジを使用して水及びテトラデカン5μlをそれぞれ滴下した後、60秒放置した。次いで、接触角測定器(エルマ(株)社製;360S型)を用いて、水及びテトラデカンの滴下面の接触角を測定した。その結果を第4表に示す。第4表中、接触角の単位は°である。
【0142】
【表4】

【0143】
第4表より、スライドガラスを有機薄膜製造用溶液に10分間浸漬することにより、撥水性及び撥油性に優れる有機薄膜を速やかに形成することができた。
【0144】
(22)有機薄膜の形成−4
含水トルエン(水分:460ppm)99gに、金属系界面活性剤M−1;0.65gと3.5重量%チタンテトライソプロポキシドのトルエン溶液1.3gを加えて溶解させ、一日熟成させた。この溶液に蒸留水2.0gを加えて一日放置して有機薄膜製造用溶液(C−4)を調製した。次いで、得られた有機薄膜製造用溶液(SA−104)中にスライドガラスを5分間浸漬した後、スライドガラスを取り出し、表面をトルエン洗浄した後、60℃で10分間乾燥して、表面にODSの有機薄膜(SAM−104)が形成されスライドガラスを得た。
得られた有機薄膜付スライドガラスの表面に、マイクロシリンジを使用して水及びテトラデカン5μlをそれぞれ滴下した後、60秒放置した。次いで、接触角測定器(エルマ(株)社製、360S型)を用いて、水及びテトラデカンの滴下面の接触角を測定した。その結果、水の接触角は106.3°、テトラデカンの接触角は35.8°であった。
【0145】
(23)有機薄膜の形成−5
含水トルエン(水分:460ppm)99gに、金属系界面活性剤M−1;0.65gと、オレイン酸チタン(三津和化学薬品(株)製)0.3gを加えて溶解させ、一日熟成させた。この溶液に蒸留水2.0gを加えて一日放置して有機薄膜製造用溶液(SA−105)を調製した。次いで、得られた有機薄膜製造用溶液(SA−105)中にスライドガラスを5分間浸漬した後、スライドガラスを取り出し、表面をトルエン洗浄した後、60℃で10分間乾燥して、表面にODSの有機薄膜(SAM−105)が形成されたスライドガラスを得た。
得られた有機薄膜付スライドガラスの表面に、マイクロシリンジを使用して水及びテトラデカン5μlをそれぞれ滴下した後、60秒放置した。次いで、接触角測定器(エルマ(株)社製、360S型)を用いて、水及びテトラデカンの滴下面の接触角を測定した。その結果、水の接触角は103.5°、テトラデカンの接触角は32.2°であった。
【0146】
(24)有機薄膜の形成−6
(チタン錯体溶液の調製)
脱水トルエン中に、3.5重量%チタンテトライソプロポキシドのトルエン溶液1g、及び第5表に示す配位化合物を添加して、チタン錯体の溶液(T−1〜T−5)を得た。用いた脱水トルエンの使用量、配位化合物の種類及び使用量を第5表に示す。
【0147】
【表5】

【0148】
(有機薄膜の形成、有機薄膜の評価)
飽和水トルエン(水分:460ppm)99gに、金属系界面活性剤M−1;0.65g、チタン錯体の溶液(T−1〜T−5)1.3g、及び蒸留水2.0gを加えて一日放置して有機薄膜製造用溶液(SA−106〜SA−110)を調製した。次いで、得られた有機薄膜製造用溶液(SA−106〜SA−110)中にスライドガラスを5分間浸漬した後、スライドガラスを取り出し、表面をトルエン洗浄した後、60℃で10分間乾燥して、表面にODSの有機薄膜(SAM−106〜SAM−110)が形成されたスライドガラスを得た。
得られた有機薄膜付スライドガラスの表面に、マイクロシリンジを使用して水及びテトラデカン5μlをそれぞれ滴下した後、60秒放置した。次いで、接触角測定器(エルマ(株)社製、360S型)を用いて、水及びテトラデカンの滴下面の接触角を測定した。測定結果を第6表に示す。第6表中、接触角の単位は°である。
【0149】
【表6】

【0150】
第6表より、スライドガラスをSA−106〜SA−110の有機薄膜製造用溶液に10分間浸漬することにより、撥水性及び撥油性に優れる有機薄膜を速やかに形成することができた。
【0151】
(25)有機薄膜の形成−7
(チタン錯体溶液の調製)
アルコキシチタンの加水分解物(A−10:日本曹達(株)製)0.51gを脱水トルエン19.2gに入れ、配位化合物としてアセチルアセトン0.25g、アセト酢酸エチル)0.33gをそれぞれ添加して、チタン錯体の溶液(T−6、T−7)を得た。
【0152】
(有機薄膜の形成、有機薄膜の評価)
含水トルエン(水分:460ppm)99gに、金属系界面活性剤M−1;0.65g、上記で得たチタン錯体の溶液(T−6、7)1.3g、及び蒸留水2.0gを加え、一日放置して有機薄膜製造用溶液(C−11、C−12)を調製した。次いで、得られた有機薄膜製造用溶液(SA−111、SA−112)中にスライドガラスを5分間浸漬した後、スライドガラスを取り出し、表面をトルエン洗浄した後、60℃で10分間乾燥して、表面にODSの有機薄膜(SAM−111、SAM−112)が形成されたスライドガラスを得た。
得られた有機薄膜付スライドガラスの表面に、マイクロシリンジを使用して水及びテトラデカン5μlをそれぞれ滴下した後、60秒放置した。次いで、接触角測定器(エルマ(株)社製、360S型)を用いて、水及びテトラデカンの滴下面の接触角を測定した。測定結果を第7表に示す。第7表中、接触角の単位は°である。
【0153】
【表7】

【0154】
第7表より、スライドガラスを実SA−111、112の有機薄膜製造用溶液に10分間浸漬することにより、撥水性及び撥油性に優れる有機薄膜を速やかに形成することができた。
【0155】
(26)有機薄膜の形成−8
(有機薄膜製造用溶液の調製)
水分量350ppmの含水トルエンに、金属系界面活性剤M−1をODSの最終濃度が0.5重量%となる量添加して、室温で30分間撹拌した。この溶液に、テトラキス(トリメチルシロキシ)チタン(アズマックス社製)の脱水トルエン1重量%溶液(T−8)を、ODSのモル数:(T−8)中の酸化チタン換算モル数が98:2となる量添加し、室温で3時間撹拌した。得られた反応液100gを内容量1000mlの瓶に移送し、18リットル/分の送風器と木下式ガラスボールフェルターを用いて、25℃で飽和水蒸気をバブリングさせて、水分量が510ppmとなるように調整した有機薄膜製造用溶液(SA−113)を得た。
【0156】
(有機薄膜の形成、有機薄膜の評価)
超音波洗浄及びオゾン洗浄した無アルカリガラス基板(商品番号:AN100、旭硝子(株)製)、及びシリコンウェーハ(Si)を、上記で得た有機薄膜製造用溶液中に、第5表に示す時間浸漬した後、引き上げた。基板表面をトルエンで超音波洗浄した後、60℃で10分間乾燥することにより、表面に有機薄膜が形成された基板(SAM−113(AN100)、SAM−114(Si))を得た。
次いで、上記で得た各基板(AN100、Si)表面の有機薄膜に、マイクロシリンジを用いて水、トルエンをそれぞれ5μl滴下した後、接触角測定器(エルマ(株)社製、360S型)を用いて有機薄膜表面の接触角を測定した。測定結果を第8表に示す。
【0157】
【表8】

【0158】
さらに、各基板(AN100、Si)表面に形成された有機薄膜を水中で超音波洗浄を1時間行い、再度接触角を測定した。いずれの基板(AN100、Si)も、超音波洗浄前後において接触角の低下は見られず、いずれの基板の場合も、表面に密着性に優れた有機薄膜が形成されていることがわかった。
【0159】
(27)有機薄膜の形成−9
(有機薄膜製造用溶液の調製)
水分量350ppmの含水トルエンに、金属系界面活性剤M−1をODSの最終濃度が0.5重量%となる量添加して、室温で30分間撹拌した。この溶液に、安息香酸の脱水トルエン1重量%溶液(T−9)を、ODSのモル数:(T−9)中の安息香酸のモル数が10:1となる量添加し、室温で撹拌して得られた反応液100gを内容量1000mlの瓶に移送し、18リットル/分の送風器と木下式ガラスボールフェルターを用いて、25℃で飽和水蒸気をバブリングさせて、水分量が452ppmとなるように調整した有機薄膜製造用溶液(SA−114)を得た。
安息香酸に代えて、カプリン酸の脱水トルエン1重量%溶液(T−10)、または酢酸の脱水トルエン1重量%溶液(T−11)を用いる以外は、前記と同様にして水分量がそれぞれ317ppm、434ppmとなるように調整した有機薄膜製造用溶液(SA−115,SA−116)を得た。
【0160】
(有機薄膜の形成、有機薄膜の評価)
上記で得た有機薄膜製造用溶液(SA−114〜116)中に、超音波洗浄及びオゾン洗浄したソーダライムガラス板(S−1126、松浪ガラス工業(株)製)を、30分間浸漬した後、引き上げた。基板表面をトルエンで超音波洗浄した後、60℃で10分間乾燥することにより、表面に有機薄膜が形成された基板を得た。
得られた基板表面に、マイクロシリンジを使用して水及びテトラデカン5μlをそれぞれ滴下した後、60秒放置した。次いで、接触角測定器(エルマ(株)社製、360S型)を用いて、水及びテトラデカンの滴下面の接触角を測定した。測定結果を第9表に示す。なお、第9表中、pKaは、用いた有機酸の水溶液の酸解離定数を測定して求めた値である。第9表中、接触角の単位は°である。
【0161】
【表9】

【0162】
第9表より、pKaが1〜6、好ましくは2〜5の有機酸を用いた場合においても、超音波洗浄前後において接触角の低下は見られず、いずれの基板の場合も、表面に密着性に優れた有機薄膜が形成されていることがわかった。
【0163】
(28)有機薄膜の形成−10
温度25℃で、湿度30%RH及び80%RHのクリーンルーム内で、それぞれ、SA−2溶液(水分量:480ppm)100g中に、オゾン洗浄した2cm×5cm角の無アルカリガラス基板を10分間隔で連続して7回投入した。各回3分間浸漬後、引き上げてトルエンで超音波洗浄し、60℃で10分間乾燥し、有機薄膜を形成した。結果をまとめて第10表に示す。
【0164】
【表10】

【0165】
第10表より、湿度80%RH環境下では、短時間の浸漬で100°以上の高い接触角を有する薄膜が再現性良く得られることがわかった。一方、湿度30%RH環境下では、浸漬回数の増加に伴い接触角の低下がみられた。このことから、低湿度環境下では、浸漬工程において有機薄膜製造用溶液の水分量が低下し緻密な単分子膜が形成されないことがわかった。
【0166】
(29)単分子膜の形成
(単分子膜製造用溶液の調製)
下記の触媒溶液、金属系界面活性剤を用いて単分子膜製造用溶液を調整した。
(2)触媒の調製−2において調製した触媒溶液(C−2)
(8)金属系界面活性剤において記載のn−オクタデシルトリメトキシシラン(ODS:Gelest社製、金属系界面活性剤M−1と表記)
(10)有機薄膜製造用溶液の調製方法−2と同様にして、水分量350ppmのトルエンに金属系界面活性剤M−1を最終濃度が0.5重量%になるように加え、室温で30分間攪拌した。次に、この溶液に触媒C−2を表11に示す所定量滴下し、滴下終了後、室温で3時間攪拌した。これらの溶液100gを瓶に移し、十分に水をしみ込ませた直径3cmのガラス繊維濾紙(東洋濾紙GA−100)を瓶の底に沈ませて蓋をした。室温で2時間静置し、単分子膜製造用溶液(SA−201)を得た。水分量は550ppmであった。結果を第11表にまとめて示す。第11表中、処理前の水分量は、単分子膜製造用溶液の水分調整前の水分量を表す。
尚、水分量は、電量滴定法カールフィッシャー水分計((株)ダイアインスツルメンツ社製CA−07)により測定した。
【0167】
【表11】

【0168】
(単分子膜製造方法−1)
超音波洗浄およびオゾン洗浄したソーダライムガラス基板(SLG)、無アルカリガラス基板(旭硝子製AN100)およびシリコンウェーハー(Si)上に、低圧スプレーガンにより、単分子膜製造用溶液(SA−201)を基板全面が濡れるまで吹きつけた後、10秒後、再度全面にSA−201溶液を吹きつけた。一度目に吹きつけた瞬間には、基板全面でSA−1溶液は良好な濡れ性を示していた。二度目の吹きつけをすると、基板表面はSA−201溶液を弾くようになった。この弾きを確認した後、トルエン溶媒だけを同スプレーガンにより吹きつけ、表面の洗浄を行った。その後、60℃で10分間乾燥し、単分子膜(SAM−201〜203)を得た。
【0169】
(単分子膜の製造方法−2)
(26)単分子膜の形成−1にて調整した単分子膜製造用溶液(SA−201)を、超音波洗浄およびオゾン洗浄したソーダライムガラス基板(SLG)、無アルカリガラス基板(旭硝子製AN100)およびシリコンウェーハー(Si)上に、滴下した後、ポリエステル製フィルムを被せ、ゴムローラーでフィルム上を擦り、基板とフィルムの間で、単分子膜製造用溶液(SA−201)を均一に薄く展開した。この状態で、所定時間静置した後、フィルムを剥がし、基板をトルエン中で超音波洗浄した後、60℃で10分間乾燥し、単分子膜(SAM−204〜206)を得た。
【0170】
(単分子膜の評価)
前記の(19)有機薄膜の評価で示した評価方法で測定(接触角測定、膜の密着性、XPS分析)した単分子膜の評価結果をまとめて表12に示す。
【0171】
【表12】

【0172】
表12より、製造方法−1及び製造方法−2方法において、短時間に撥水性・撥油性・密着性の良好な単分子膜が得られることがわかった。従来、アルコキシ基等の加水分解性基を有する金属系界面活性剤は、ディップ法のみでしか、単分子膜を製造することができないと考えられており、本発明の方法を用いることにより、少量の溶液で大型基板への単分子膜の製造ができるようになった。尚、単分子膜であることは、XPS分析を行うことによりわかった。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明の有機薄膜製造方法を用いると、不純物の少ない緻密な自己集合単分子膜を製造することができる。また、非結晶性の基板上においても、結晶性の高い、密着性に優れた、単分子で均質な化学吸着膜を成膜することができる。
本発明の化学吸着膜は、電気デバイス用等の設計パターンの形成用に用いられ、また、エレクトロニクス製品、特に電化製品、自動車、産業機器、鏡、眼鏡レンズ等の耐熱性、耐候性、耐摩耗性超薄膜コーティングを必要とする機器に極めて容易に適用でき、産業上の利用価値は高いといえる。
【図面の簡単な説明】
【0174】
【図1】図1は、有機薄膜SAM−25〜SAM−27の薄膜X線結晶回折図を示す。
【図2】図2は、SAM−27を形成する過程において、浸漬時間(a)1秒以下、(b)15秒、(c)30秒、(d)1分として得られた有機薄膜のSPMチャートを示す。
【図3】図3は、SAM−31を形成する過程において、浸漬時間(a)1秒以下、(b)15秒、(c)1分、(d)5分として得られた有機薄膜のSPMチャートを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面に有機薄膜を形成する有機薄膜製造方法であって、少なくとも1以上の加水分解性基を有する式(I)
MXm−n ・・・(I)
(式中、Rは、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよいハロゲン化炭化水素基、連結基を含む炭化水素基、又は連結基を含むハロゲン化炭化水素基を表し、Mは、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子、チタン原子、及びジルコニウム原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属原子を表し、Xは、水酸基又は加水分解性基を表し、nは、1〜(m−1)のいずれかの整数を表し、mはMの原子価を表し、nが2以上の場合、Rは、同一または相異なっていてもよく、(m−n)が2以上の場合、Xは同一であっても、相異なっていてもよい。但し、(m−n)個のXのうち、少なくとも一個のXは、加水分解性基である。)で表される金属系界面活性剤、該金属系界面活性剤と相互作用し得る、有機酸又は酸触媒である触媒、及び炭化水素系溶媒又はフッ化炭素系溶媒である有機溶媒を含む有機溶媒溶液に、前記基板を接触させる工程(A)を含み、前記有機溶媒溶液中の水分量を、50ppmから有機溶媒への飽和水分量の範囲内にするまたは保持することを特徴とする有機薄膜製造方法。
【請求項2】
前記有機溶媒溶液が、該金属系界面活性剤と相互作用し得る触媒を、前記金属系界面活性剤1モルに対して、0.001〜1モル、または酸化物換算モル数で0.001〜1モル用いて調整したものであることを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜製造方法。
【請求項3】
基板表面に有機薄膜を形成する有機薄膜製造方法であって、少なくとも1以上の加水分解性基を有する式(I)
MXm−n ・・・(I)
(式中、Rは、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよいハロゲン化炭化水素基、連結基を含む炭化水素基、又は連結基を含むハロゲン化炭化水素基を表し、Mは、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子、チタン原子、及びジルコニウム原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属原子を表し、Xは、水酸基又は加水分解性基を表し、nは、1〜(m−1)のいずれかの整数を表し、mはMの原子価を表し、nが2以上の場合、Rは、同一または相異なっていてもよく、(m−n)が2以上の場合、Xは同一であっても、相異なっていてもよい。但し、(m−n)個のXのうち、少なくとも一個のXは、加水分解性基である。)で表される金属系界面活性剤、該金属系界面活性剤と相互作用し得る、有機酸又は酸触媒である触媒、及び炭化水素系溶媒又はフッ化炭素系溶媒である有機溶媒を含む有機溶媒溶液に、前記基板を接触させる工程(A)を含み、前記有機溶媒溶液中の水分量を、50ppmから有機溶媒への飽和水分量の範囲内に保持し、同一溶液を用いて、前記工程(A)を2回以上繰り返すことを特徴とする有機薄膜製造方法。
【請求項4】
前記工程(A)を2回以上繰り返すことが、同一溶液を用いて、2以上の基板に対して前記工程(A)を行なうものであることを特徴とする請求項3に記載の有機薄膜製造方法。
【請求項5】
前記工程(A)の後、前記基板を洗浄する工程(B)を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機薄膜製造方法。
【請求項6】
前記工程(A)の後、前記基板を加熱する工程(C)を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の有機薄膜製造方法。
【請求項7】
前記工程(A)の後、前記工程(C)の前に、前記基板を洗浄する工程(B)をさらに有することを特徴とする請求項6に記載の有機薄膜製造方法。
【請求項8】
前記有機溶媒溶液に接触して水層を設けることにより、前記有機溶媒溶液の水分量を所定量範囲にする又は保持することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の有機薄膜製造方法。
【請求項9】
前記有機溶媒溶液中に、保水性物質を水分を含ませた状態で共存させておくことにより、前記有機溶媒溶液の水分量を所定量範囲にする又は保持することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の有機薄膜製造方法。
【請求項10】
前記保水性物質が、ガラス繊維フィルターであることを特徴とする請求項9に記載の有機薄膜製造方法。
【請求項11】
前記有機溶媒溶液中に、水分を含む気体を吹き込むことにより、前記有機溶媒溶液中の水分量を所定量範囲にする又は保持することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の有機薄膜製造方法。
【請求項12】
前記有機溶媒溶液中の水分量を50〜1000ppmの範囲にする又は保持することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の有機薄膜製造方法。
【請求項13】
前記所定量範囲の水分量が、前記有機溶媒溶液の一部を採取した該溶液をカールフィッシャー法で測定した値であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の有機薄膜製造方法。
【請求項14】
有機酸として、pKa値が1〜6の範囲であるものを用いることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の有機薄膜製造方法。
【請求項15】
少なくとも1以上の加水分解性基を有する式(I)で表される金属系界面活性剤が、式(II)
C−(CR−R−MYm−r−1 ・・・(II)
(式中、Mは、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子、チタン原子、及びジルコニウム原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属原子を表し、Xは、水酸基又は加水分解性基を表し、R及びRは、それぞれ独立して水素原子又はフッ素原子を表し、Rは、アルキレン基、ビニレン基、エチニレン基、アリーレン基、又はケイ素原子及び/若しくは酸素原子を含む2価の連結基を表し、Yは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、含フッ素アルキル基、又は含フッ素アルコキシ基を表し、pは0又は自然数を表し、qは0又は1を表し、rは0〜(m−2)の整数を表し、rが2以上の場合、Yは、同一または相異なっていてもよく、(m−r−1)が2以上の場合、Xは、同一または相異なっていてもよい。但し、(m−n−1)個のXのうち、少なくとも一個のXは、加水分解性基である。)で表される化合物であることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の有機薄膜製造方法。
【請求項16】
前記Xの加水分解性基が、ハロゲン原子、C1〜C6アルコキシ基、又はアシルオキシ基であることが特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の有機薄膜製造方法。
【請求項17】
基板表面に有機薄膜を形成する有機薄膜製造方法であって、少なくとも1以上の水酸基を有する式(III)
MXm−n−1(OH) ・・・(III)
(式中、Rは、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよいハロゲン化炭化水素基、連結基を含む炭化水素基、又は連結基を含むハロゲン化炭化水素基を表し、Mは、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子、チタン原子及びジルコニウム原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属原子を表し、Xは、水酸基又は加水分解性基を表し、nは、1〜(m−1)のいずれかの整数を表し、mはMの原子価を表し、nが2以上の場合、Rは、同一または相異なっていてもよく、(m−n−1)が2以上の場合、Xは同一であっても、相異なっていてもよい。)で表される金属系界面活性剤、該金属系界面活性剤と相互作用し得る、有機酸又は酸触媒である触媒、及び炭化水素系溶媒又はフッ化炭素系溶媒である有機溶媒を含む有機溶媒溶液に基板を接触させる工程を含み、前記有機溶媒溶液中の水分量を、50ppmから有機溶媒への飽和水分量の範囲内にするまたは保持することを特徴とする有機薄膜製造方法。
【請求項18】
前記有機溶媒溶液中の水分量を50〜1000ppmの範囲にする又は保持することを特徴とする請求項17に記載の有機薄膜製造方法。
【請求項19】
前記有機溶媒溶液に基板を接触させる工程が、湿度を40%RH以上に保持した空間内において、前記有機溶媒溶液に基板を接触させる工程であることを特徴とする請求項1〜18のいずれかに記載の有機薄膜製造方法。
【請求項20】
前記有機溶媒溶液に基板を接触させる工程が、湿度を60%RH以上に保持した空間内において、前記有機溶媒溶液に基板を接触させる工程であることを特徴とする請求項1〜18のいずれかに記載の有機薄膜製造方法。
【請求項21】
有機薄膜が、結晶性有機薄膜であることを特徴とする請求項1〜20のいずれかに記載の有機薄膜製造方法。
【請求項22】
有機薄膜が、単分子膜であることを特徴とする請求項1〜21のいずれかに記載の有機薄膜製造方法。
【請求項23】
前記基板として、表面に活性水素を含む基板を用いることを特徴とする請求項1〜22のいずれかに記載の有機薄膜製造方法。
【請求項24】
前記基板として、ガラス、シリコンウェハー、セラミックス、金属、及びプラスチックから選ばれる少なくとも一つから構成されていることを特徴とする請求項1〜23のいずれかに記載の有機薄膜製造方法。
【請求項25】
有機薄膜が、化学吸着膜であることを特徴とする請求項1〜24のいずれかに記載の有機薄膜製造方法。
【請求項26】
有機薄膜が、自己集合膜であることを特徴とする請求項1〜25のいずれかに記載の有機薄膜製造方法。
【請求項27】
該有機溶媒溶液中において、少なくとも1以上の加水分解性基を有する金属系界面活性剤または少なくとも1以上の水酸基を有する金属系界面活性剤が、集合体を形成していることを特徴とする請求項1〜26のいずれかに記載の有機薄膜製造方法。
【請求項28】
基板表面に自己集合膜を形成する自己集合膜形成溶液であって、自己集合膜を形成する分子が、溶液中において集合体を形成していることを特徴とする自己集合膜形成溶液。
【請求項29】
前記自己集合膜を形成する分子が、少なくとも1以上の水酸基又は加水分解性基を有する金属系界面活性剤またはその誘導体であることを特徴とする請求項28に記載の自己集合膜形成溶液。
【請求項30】
前記該集合体が、少なくとも1以上の水酸基又は加水分解性基を有する金属系界面活性剤を、該金属系界面活性剤と相互作用し得る触媒及び水により処理して得られたものであることを特徴とする請求項28または29に記載の自己集合膜形成溶液。
【請求項31】
前記少なくとも1以上の水酸基又は加水分解性基を有する金属系界面活性剤が、式(IV)
11n1m1−n1 ・・・(IV)
(式中、R11は、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよいハロゲン化炭化水素基、連結基を含む炭化水素基、又は連結基を含むハロゲン化炭化水素基を表し、Mは、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子、チタン原子、及びジルコニウム原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属原子を表し、Xは、水酸基又は加水分解性基を表し、n1は、1〜(m1−1)のいずれかの整数を表し、m1はMの原子価を表し、n1が2以上の場合、R11は、同一または相異なっていてもよく、(m1−n1)が2以上の場合、Xは同一であっても、相異なっていてもよい。)で表される化合物であることを特徴とする請求項28〜30のいずれかに記載の自己集合膜形成溶液。
【請求項32】
前記少なくとも1以上の水酸基又は加水分解性基を有する金属系界面活性剤が、式(V)
21C−(CR31p1−R41q1−Mr2m2−r2−1 ・・・(V)
(式中、Mは、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子、チタン原子、及びジルコニウム原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属原子を表し、Xは、水酸基又は加水分解性基を表し、R21及びR31は、それぞれ独立して水素原子又はフッ素原子を表し、R41は、アルキレン基、ビニレン基、エチニレン基、アリーレン基、又はケイ素原子及び/若しくは酸素原子を含む2価の連結基を表し、Yは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、含フッ素アルキル基、又は含フッ素アルコキシ基を表し、p1は0又は自然数を表し、q1は0又は1を表し、r2は0〜(m2−2)の整数を表し、r2が2以上の場合、Yは、同一または相異なっていてもよく、(m2−r2−1)が2以上の場合、Xは、同一または相異なっていてもよい。)で表される化合物であることを特徴とする請求項28〜30のいずれかに記載の自己集合膜形成溶液。
【請求項33】
前記加水分解性基が、ハロゲン原子、C1〜C6アルコキシ基、またはアシルオキシ基であることが特徴とする請求項28〜32のいずれかに記載の自己集合膜形成溶液。
【請求項34】
前記集合体の平均粒径が、10〜1000nmの範囲であることを特徴とする請求項28〜33のいずれかに記載の自己集合膜形成溶液。
【請求項35】
前記集合体のゼーター電位値が、同一溶媒中で、前記基板のゼーター電位値以上であることを特徴とする請求項28〜34のいずれかに記載の自己集合膜形成溶液。
【請求項36】
前記基板が結晶性を有さず、かつ有機薄膜が結晶性を有することを特徴とする請求項1〜26のいずれかに記載の有機薄膜製造方法。
【請求項37】
基板上に形成されてなる化学吸着膜であって、前記基板が結晶性を有さず、かつ、化学吸着膜が結晶性を有することを特徴とする化学吸着膜。
【請求項38】
少なくとも1以上の水酸基又は加水分解性基を有する金属系界面活性剤を用いて形成された化学吸着膜であることを特徴とする請求項37に記載の化学吸着膜。
【請求項39】
化学吸着膜が、単分子膜であることを特徴とする請求項37または38に記載の化学吸着膜。
【請求項40】
化学吸着膜が、自己集合膜であることを特徴とする請求項37〜39のいずれかに記載の化学吸着膜。
【請求項41】
前記基板に前記有機溶媒溶液を接触させる工程が、前記基板に、ディップ法、スピンコート法、ロールコート法、メイヤバー法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、刷毛塗り法及びスプレー法からなる群から選ばれる少なくとも1種の方法により、基板上に前記有機溶媒溶液を塗布する工程であることを特徴とする請求項1〜26のいずれかに記載の有機薄膜製造方法。
【請求項42】
水酸基、炭化水素オキシ基、またはアシルオキシ基を有する金属系界面活性剤を含む有機溶媒溶液を、ディップ法、スピンコート法、ロールコート法、メイヤバー法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、刷毛塗り法及びスプレー法からなる群から選ばれる少なくとも1種の方法により基板上に塗布する工程を有することを特徴とする単分子膜製造方法。
【請求項43】
水酸基、炭化水素オキシ基またはアシルオキシ基を有する金属系界面活性剤を含む有機溶媒溶液を滴下し、滴下された溶液に上部より圧力をかけ基板上に拡散させることを特徴とする単分子膜製造方法。
【請求項44】
滴下された溶液に上部より圧力をかける方法が、基材表面にフィルム、シートまたは平板を重ねて圧延する方法であることを特徴とする請求項43に記載の単分子膜製造方法。
【請求項45】
塗布する工程の後、前記基板を洗浄する工程を設けることを特徴とする請求項42〜44のいずれかに記載の単分子膜製造方法。
【請求項46】
塗布する工程の後、前記基板を加熱する工程を設けることを特徴とする請求項42〜45のいずれかに記載の単分子膜製造方法。
【請求項47】
前記金属系界面活性剤を含む有機溶媒溶液が、さらに金属系界面活性剤と相互作用し得る触媒を含む有機溶媒溶液であることを特徴とする請求項42〜46のいずれかに記載の単分子膜製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−90288(P2009−90288A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292410(P2008−292410)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【分割の表示】特願2005−505415(P2005−505415)の分割
【原出願日】平成16年4月14日(2004.4.14)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】