説明

有機薄膜トランジスタ、有機薄膜トランジスタの製造方法

【課題】性能のバラツキが少なく温度による性能劣化が少ない有機薄膜トランジスタ、有機薄膜トランジスタの製造方法を提供する。
【解決手段】基板の上に、少なくともゲート電極、ゲート絶縁層、ソース電極、ドレイン電極及び有機半導体層を有する有機薄膜トランジスタにおいて、ソース電極またはドレイン電極のうち少なくとも一つの表面は無機導電材料の多孔質膜であり、多孔質膜は有機導電材料または有機半導体材料を含浸していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜トランジスタ、有機薄膜トランジスタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタの半導体層を形成する方法としては、真空蒸着、スパッタリングなどのドライ法が代表的な手法として知られている。これらの成膜方法は、膜厚の制御性に優れているが、製造工程では高温、高真空を必要とするため、工程が複雑であり、また工程管理も難しい。
【0003】
これに対して、溶媒に溶かした有機半導体材料を用い、インクジェット法やスピンコート法などの塗布法により半導体層を形成する方法がある。これらの方法を用いると簡単な工程で製造できるが、現状では有機半導体材料を用いた有機半導体層とソース電極、ドレイン電極との接触抵抗はドライ法と比べて大きい。そのため、塗布法により有機半導体層を形成した有機薄膜トランジスタは導電率が低く十分な性能が得られない場合がある。
【0004】
有機半導体層とソース電極、ドレイン電極との接触抵抗を改善する方法として、有機半導体の仕事関数に近い値の仕事関数を有する金属材料をソース電極、ドレイン電極の材料に用いる方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。一般に、AuやPtなどが有機半導体の仕事関数に近く、これらを用いた有機薄膜トランジスタは良好な特性を示す。
【0005】
しかしながら、一般に材料の仕事関数だけが薄膜トランジスタの特性に影響しているものではなく、同じ材料を用いて薄膜トランジスタを作製してもON電流などの性能にバラツキが発生する。そのため、Auで作成した電極の表面にチオール基で表面処理を行って導電率を高める方法などが提案されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0006】
また、金属材料をソース電極、ドレイン電極の材料に用いた場合、高温で放置すると性能劣化が大きいという信頼性の問題がある。これは有機半導体とソース電極、ドレイン電極を構成する金属材料との熱膨張率の差によるものと考えられる。
【0007】
このような問題を解決するためソース電極、ドレイン電極を熱膨張率が同程度の有機導電材料で形成する方法が提案されている(例えば、非特許文献3参照)。
【非特許文献1】SID 05 DIGEST・23
【非特許文献2】Japanese Journal Applied Physics Vol.43,No.1A/B,2004,pp.L60−L62
【非特許文献3】Ricoh Technical Report No.30 P.51
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1に提案されている方法では、AuやPtなどの高価な材料を電極に用いる必要があるうえ、作製した有機薄膜トランジスタのON電流などの性能バラツキが大きい。
【0009】
また、非特許文献2に提案されている方法では、信頼性は向上するが有機導電材料の導電率は金属材料に比べて低く、形成した電極内の特性バラツキも大きいため十分な性能が得られない。
【0010】
このような課題を解決するため、本発明の発明者はCuやNiなど安価な金属材料を用いて形成した電極の上に、有機半導体材料を用いて形成した電極を積層してソース電極、ドレイン電極を形成する方法を検討した。この方法を用いると、ソース電極、ドレイン電極の導電率が向上するので有機薄膜トランジスタのON電流が多く、またON電流のバラツキも低減できる。しかしながら、金属材料と有機半導体材料の熱膨張率の差によって高温放置後にON電流が大きく低下するという信頼性の問題があることがわかった。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、性能のバラツキが少なく温度による性能劣化が少ない有機薄膜トランジスタ、有機薄膜トランジスタの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
1.
基板の上に、少なくともゲート電極、ゲート絶縁層、ソース電極、ドレイン電極及び有機半導体層を有する有機薄膜トランジスタにおいて、
前記ソース電極または前記ドレイン電極のうち少なくとも一つの表面は無機導電材料の多孔質膜であり、該多孔質膜は有機導電材料または有機半導体材料を含浸していることを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【0013】
2.
基板の最上層に無機導電材料の分散液を印刷する工程と、
前記分散液の溶媒を蒸発させて多孔質膜を形成する工程と、
前記多孔質膜に電極材料の溶液または分散液を印刷して含浸させる工程と、
をこの順に行うことを特徴とする1に記載の有機薄膜トランジスタの製造方法。
【0014】
3.
前記無機導電材料の分散液は、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、コバルトのうち少なくとも一つを溶媒に分散させた分散液であることを特徴とする2に記載の有機薄膜トランジスタの製造方法。
【0015】
4.
前記電極材料は、有機導電材料であることを特徴とする2または3に記載の有機薄膜トランジスタの製造方法。
【0016】
5.
前記電極材料は、有機半導体材料または有機半導体材料の前駆体であることを特徴とする2または3に記載の有機薄膜トランジスタの製造方法。
【0017】
6.
前記電極材料の溶液または分散液を前記多孔質膜に印刷して含浸させる工程の後、
前記多孔質膜に物理的エネルギーを加える工程を行うことを特徴とする2乃至5の何れか1項に記載の有機薄膜トランジスタの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ソース電極、ドレイン電極の少なくとも一方に無機導電材料の多孔質膜を形成し、該多孔質膜に有機導電材料または有機半導体材料を含浸させるので、性能のバラツキが少なく温度による性能劣化が少ない有機薄膜トランジスタ、有機薄膜トランジスタの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、実施形態により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
図1は本発明に係わる有機薄膜トランジスタ(以下有機TFTと記す。)の製造方法の第1の実施形態を説明する説明図である。図1を用いて、基板1上にゲート電極2を設け、更にゲート絶縁層7の上にソース電極8とドレイン電極9を設け有機半導体層10を形成するボトムゲート型の有機TFTを形成する場合の製造方法について順を追って説明する。
【0021】
図1(1−b)〜図1(6−b)は、基板1を上面から見た平面図であり、図1(1−a)〜図1(6−a)は基板1を図1(1−b)〜図1(6−b)の断面A−A’で切断した断面図である。
【0022】
本発明に係る有機TFTの製造方法の一例として、次の工程S1〜S4を説明する。
S1・・・・・ゲート電極2を形成する工程。
S2・・・・・ゲート絶縁層7を形成する工程。
S3・・・・・ソース電極8、ドレイン電極9を形成する工程。
【0023】
S3−1・・・基板の最上層に無機導電材料の分散液を印刷する工程。
【0024】
S3−2・・・分散液の溶媒を蒸発させて多孔質膜を形成する工程。
【0025】
S3−3・・・多孔質膜に電極材料の溶液または分散液を印刷して含浸させる工程。
【0026】
S3−4・・・多孔質膜に物理的エネルギーを加える工程。
S4・・・・・有機半導体層10を形成する工程。
【0027】
以下、各工程について順に説明する。
【0028】
S1・・・・・ゲート電極2を形成する工程。
【0029】
図1(1−a)、図1(1−b)に示すように、基板1上にゲート電極2を形成する。本発明において、基板1は特に材料を限定されない。例えばフレキシブルな樹脂製シートやガラスなどを用いることができる。ゲート電極2には各種金属薄膜を利用できる。例えばAl、Cr、Au、Ag等の低抵抗金属材料やこれら金属の積層構造、また、金属薄膜の耐熱性向上、支持基板への密着性向上、欠陥防止のために他の材料のドーピングしたものを用いることができる。また、ITO、IZO、SnO、ZnOなどの透明電極を用いることもできる。製造方法は、目的の形状にパターンニングすることのできるマスク蒸着法、フォトリソグラフィー法、各種印刷法が利用できる。
【0030】
S2・・・・・ゲート絶縁層7を形成する工程。
【0031】
図1(2−a)、図1(2−b)に示すように、ゲート絶縁層7を形成する。
【0032】
ゲート絶縁層7は、例えば、蒸着、スパッタリング、CVD法、大気圧プラズマ法などのドライプロセスで形成する。ゲート絶縁層7としては、特に材料を限定されず種々の絶縁膜を用いることができる。無機材料では酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン等の無機酸化物、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の無機窒化物が利用できる。有機材料ではポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリレート、光ラジカル重合系、光カチオン重合系の光硬化性樹脂、あるいはアクリロニトリル成分を含有する共重合体、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ノボラック樹脂、およびシアノエチルプルラン等が利用できる。
【0033】
S3・・・・・ソース電極8、ドレイン電極9を形成する工程。
【0034】
図1(3−a)、図1(3−b)に示すように、ソース電極8、ドレイン電極9を形成する。本発明では、ソース電極8、ドレイン電極9のうち少なくとも一つの表面に無機導電材料の多孔質膜を形成し、多孔質膜に有機導電材料または有機半導体材料を含浸させる。
【0035】
以下多孔質膜を形成し、多孔質膜に有機導電材料または有機半導体材料を含浸させたソース電極8、ドレイン電極9を形成する4つの工程S3−1、S3−2、S3−3、S3−4について説明する。
【0036】
S3−1・・・基板の最上層に無機導電材料の分散液を印刷する工程。
【0037】
微小サイズ(数10nm〜数10μm)の無機導電材料を溶媒に分散した分散液をゲート絶縁層7の上にインクジェット法などの印刷法を用いてソース電極8、ドレイン電極9の形状に印刷する。無機導電材料は、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、コバルトのうち少なくとも一種類の金属粒子を含んでいる。溶媒は例えば水である。
【0038】
S3−2・・・分散液の溶媒を蒸発させて多孔質膜を形成する工程。
【0039】
印刷した分散液の溶媒を蒸発させて多孔質膜を形成する工程である。本工程を常温で行うと大きな孔の多孔質膜が形成されるので、80℃〜300℃に加熱して行うことが望ましい。高い温度にするほど多孔質膜の孔は小さくなるが、高温にしすぎると多孔質ではなくなるため実験的に最適な温度を求め設定すると良い。
【0040】
印刷した分散液の溶媒を乾燥させると無機導電材料の多孔質膜が形成される。図1(3−a)、図1(3−b)のソース電極8、ドレイン電極9で示す部分が形成された多孔質膜である。
【0041】
S3−3・・・多孔質膜に電極材料の溶液または分散液を印刷して含浸させる工程。
【0042】
工程S3−2で形成した多孔質膜に、例えばインクジェット法などの印刷法を用いて電極材料の溶液または分散液を印刷し、含浸させる。本実施形態では図1(4−a)、図1(4−b)のようにソース電極8a、ドレイン電極9aの部分に電極材料の溶液または分散液を印刷、含浸させる。本実施形態では、ドレイン電極線9bには電極材料の溶液または分散液を印刷しない例を説明するが、ドレイン電極線9bに電極材料の溶液または分散液を印刷し、含浸させても良い。
【0043】
電極材料には有機導電材料、または有機半導体材料、有機半導体材料の前駆体を用いる。
【0044】
電極材料に用いる有機導電材料は、例えばPEDOT/PSS、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアニリンなどである。有機導電材料は、必ずしも溶媒に溶ける必要がないので、溶液ではなく分散液を用いて印刷を行っても良い。
【0045】
電極材料に用いる有機半導体材料は例えばペンタセン、テトラベンゾポルフィリン、TIPSペンタセン、ポリチオフェン、またはその前駆体などである。有機半導体材料は、溶媒で溶かしたものでないと良好な半導体特性を示さないが、これらの有機半導体材料は溶媒に溶けにくいため、溶媒に溶けやすい有機半導体材料の前駆体を用いることが望ましい。前駆体を用いる場合は、前駆体の溶液を多孔質膜に印刷し、含浸させた後、加熱して有機半導体に変換する。
【0046】
一例として、ペンタセン前駆体の構造式と変換後のペンタセンの構造式を下記に示す。
【0047】
【化1】

【0048】
【化2】

【0049】
また、テトラベンゾポルフィリン前駆体の構造式と変換後のテトラベンゾポルフィリンの構造式を下記に示す。
【0050】
【化3】

【0051】
【化4】

【0052】
S3−4・・・多孔質膜に物理的エネルギーを加える工程。
【0053】
工程S3−3で電極材料を含浸させた多孔質膜、すなわちソース電極8a、ドレイン電極9aの部分に熱、光、電磁波などの物理的エネルギーを加える。物理的エネルギーを加えることにより多孔質膜を構成する材料と含浸させた電極材料との相互作用により導電性が向上する。本工程は必須ではないが、本工程を行うことにより移動度などの性能がより優れた有機TFTを作製することができる。
【0054】
このようにして無機導電材料の多孔質膜に電極材料を含浸させたソース電極8a、ドレイン電極9aを形成することができる。このようにして形成した電極は、導電率が金属材料を用いて形成した場合と同等であり、形成した電極内の特性バラツキも少ない。また、本実施形態のようにソース電極8a、ドレイン電極9aの表面が有機導電材料、または有機半導体材料を含浸させた多孔質膜であると、後の工程で形成する有機半導体層10とソース電極8a、ドレイン電極9aとの接触抵抗を小さくすることができる。このことによりON電流の多い高性能な有機TFTを作製することができる。さらに、無機導電材料の多孔質膜に電極材料を含浸させたソース電極8a、ドレイン電極9aの熱膨張率は、有機半導体層10の熱膨張率と同程度であり、高温放置後の性能劣化も少ない。
【0055】
本実施形態では、無機導電材料の多孔質膜を形成した後、多孔質膜に電極材料を含浸させてソース電極8とドレイン電極9を形成した例を説明したが、例えばソース電極8、ドレイン電極9の何れか一方を金属薄膜で形成しても良い。その場合、金属薄膜で形成した電極と有機半導体層10との接触抵抗は大きいが、多孔質膜に電極材料を含浸させた一方の電極の接触抵抗は小さくすることができる。
【0056】
あるいは、ゲート絶縁膜7の上にソース電極8、ドレイン電極9と配線パターン部を金属薄膜で成膜し、工程S3−1、S3−2によって該金属薄膜の上に無機導電材料の多孔質膜を積層し、工程S3−3によって多孔質膜に電極材料を含浸させても良い。このようにすると有機半導体層10と電極材料を含浸させた多孔質膜との接触抵抗は本実施形態と同様に小さくすることができる。そのうえ、多孔質膜の下層部は金属薄膜で形成されているのでこの部分の導電率を高くすることができる。金属薄膜は例えば金、白金、銀、銅、アルミニウム等をスパッタにより成膜して形成することができる。
【0057】
S4・・・・・有機半導体層10を形成する工程。
【0058】
図1(5−a)、図1(5−b)に示すように、基板1上に形成されたソース電極8a、ドレイン電極9aの間に有機半導体材料溶液42をインクジェット法を用いて滴下する。次に溶媒を蒸発させて図(6−a)、図1(6−b)に示すように、ソース電極8a、ドレイン電極9aと電気的に接合するように有機半導体層10を形成する。
【0059】
有機半導体材料溶液42に用いる有機半導体材料は溶媒に溶解または分散させるものであれば、その材料については問わない。有機高分子材料はもちろんのこと、最近、低分子材料であるペンタセンも、加熱した溶媒に溶かし塗布されているが、それらについても同様であり、有機半導体材料は低分子材料でも高分子材料でも構わない。
【0060】
塗布できる材料の代表例としては、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)などのポリチオフェン類、チオフェンの6量体を基本に側鎖を有するオリゴチオフェンなどの芳香族オリゴマー類、ペンタセンに置換基を持たせ溶解性を高めたペンタセン類、フルオレンとバイチオフェンとの共重合体(F8T2)、ポリチエニレンビニレンまたはフタロシアニンなどのいかなる可溶性の半導体でも使用できる。特にペンタセン類には、6,13−ビストリイソプロピルシリルエチニルペンタセン、6,13−ビストリエチルシリルエチニルペンタセンを含むシリルエチニルペンタセンがある。
【0061】
有機半導体層10の成膜方法はインクジェット法の他にスクリーン印刷法、スピンコート法、マイクロコンタクトプリント法を用いることも可能であり、成膜方法を問わない。
【0062】
ボトムゲート型の有機TFTを作製する工程は以上である。
【0063】
次にトップゲート型の有機TFTを作製する工程について説明する。
【0064】
図2は、本発明に係わる有機TFTの製造方法の第2の実施形態を説明する説明図である。図2を用いて、基板1上にソース電極8とドレイン電極9を設け、有機半導体層10を形成し、更にゲート絶縁層7の上にゲート電極2を設けトップゲート型の有機TFTを形成する場合の製造方法について順を追って説明する。
【0065】
図2(1−b)〜図2(6−b)は、基板1を上面から見た平面図であり、図2(1−a)〜図2(6−a)は基板1を図2(1−b)〜図2(6−b)の断面A−A’で切断した断面図である。
【0066】
トップゲート型の有機TFTと図1で説明したボトムゲート型の有機TFTの製造方法の違いはおもに工程順が異なる点であり、同じ工程には同じ工程番号を付し説明を省略する。
【0067】
本発明に係るトップゲート型の有機TFTの製造方法の一例として、次の工程を説明する。
S3・・・・・ソース電極8、ドレイン電極9を形成する工程。
【0068】
S3−1・・・基板の最上層に無機導電材料の分散液を印刷する工程。
【0069】
S3−2・・・分散液の溶媒を蒸発させて多孔質膜を形成する工程。
【0070】
S3−3・・・多孔質膜に電極材料の溶液または分散液を印刷して含浸させる工程。
【0071】
S3−4・・・多孔質膜に物理的エネルギーを加える工程。
S4・・・・・有機半導体層10を形成する工程。
S2・・・・・ゲート絶縁層7を形成する工程。
S1・・・・・ゲート電極2を形成する工程。
【0072】
以下、各工程について順に説明する。
【0073】
S3・・・・・ソース電極8、ドレイン電極9を形成する工程。
【0074】
図2(1−a)、図2(1−b)に示すように、ソース電極8、ドレイン電極9を形成する。本発明では、ソース電極8、ドレイン電極9のうち少なくとも一つの表面に無機導電材料の多孔質膜を形成し、多孔質膜に有機導電材料または有機半導体材料を含浸させる。多孔質膜を形成し、多孔質膜に有機導電材料または有機半導体材料を含浸させたソース電極8、ドレイン電極9を形成する4つの工程S3−1、S3−2、S3−3、S3−4について以下説明する。なお、基板1は第1の実施形態と同じ材料が利用できる。
【0075】
S3−1・・・基板の最上層に無機導電材料の分散液を印刷する工程。
【0076】
第1の実施形態と同様の方法で無機導電材料を溶媒に分散した分散液を基板の最上層に印刷する。
【0077】
S3−2・・・分散液の溶媒を蒸発させて多孔質膜を形成する工程。
【0078】
第1の実施形態と同様の方法で印刷した分散液の溶媒を蒸発させる。
【0079】
印刷した分散液の溶媒を乾燥させると図2(1−a)、図2(1−b)に示すように無機導電材料の多孔質膜が形成される。
【0080】
S3−3・・・多孔質膜に電極材料の溶液または分散液を印刷して含浸させる工程。
【0081】
工程S3−2で形成した多孔質膜に、例えばインクジェット法などの印刷法を用いて電極材料の溶液または分散液を印刷し、含浸させる。本実施形態では図2(2−a)、図2(2−b)のようにソース電極8a、ドレイン電極9aの部分に電極材料の溶液または分散液を印刷し、含浸させる。本実施形態では、ドレイン電極線9bには電極材料の溶液または分散液を印刷、含浸させていないが、ドレイン電極線9bに電極材料の溶液または分散液を印刷し、含浸させても良い。
【0082】
電極材料には第1の実施形態の工程S3−3で例示した有機導電材料または有機半導体材料、有機半導体材料の前駆体を、本実施形態にも用いることができる。前駆体を用いる場合は、多孔質膜に印刷、含浸させた後、多孔質膜を加熱し有機半導体に変換する。
【0083】
S3−4・・・多孔質膜に物理的エネルギーを加える工程。
【0084】
工程S3−3で有機導電材料または有機半導体材料を含浸させた多孔質膜、すなわちソース電極8a、ドレイン電極9aの部分に熱、光、電磁波などの物理的エネルギーを加える。物理的エネルギーを加えることにより多孔質膜を構成する材料と含浸させた有機導電材料または有機半導体材料との相互作用により導電性が向上する。
【0085】
第1の実施形態と同様に、本工程は必須ではないが、本工程を行うことにより移動度などの性能がより優れた有機TFTを作製することができる。
【0086】
このようにして無機導電材料の多孔質膜に有機導電材料または有機半導体材料を含浸させたソース電極8a、ドレイン電極9aを形成することができる。第1の実施形態と同様に例えばソース電極8、ドレイン電極9の何れかの表面を金属薄膜で形成しても良い。あるいは、ゲート絶縁膜7の上にソース電極8、ドレイン電極9と配線パターン部を金属薄膜を成膜し、工程S3−1、S3−2によって該金属薄膜の上に無機導電材料の多孔質膜を設け、工程S3−3によって多孔質膜に有機導電材料または有機半導体材料を含浸させても同様の効果が得られる。
【0087】
S4・・・・・有機半導体層10を形成する工程。
【0088】
図2(3−a)、図2(3−b)に示すように、基板1上に形成されたソース電極8a、ドレイン電極9aの間に有機半導体材料溶液42をインクジェット法を用いて滴下する。次に溶媒を蒸発させて図2(4−a)、図2(4−b)に示すように、ソース電極8a、ドレイン電極9aと電気的に接合するように有機半導体層10を形成する。
【0089】
S2・・・・・ゲート絶縁層7を形成する工程。
【0090】
図2(5−a)、図2(2−b)に示すように、ゲート絶縁層7を形成する。
【0091】
ゲート絶縁層7の製造方法および材料は第1の実施形態と同様である。
【0092】
S1・・・・・ゲート電極2を形成する工程。
【0093】
図2(6−a)、図2(6−b)に示すように、基板1上にゲート電極2を形成する。
【0094】
ゲート電極2の製造方法および材料は第1の実施形態と同様である。
【0095】
トップゲート型有機TFTを作製する工程は以上である。
【実施例】
【0096】
以下、本発明の効果を確認するために行った実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0097】
実施例1、2では、基板1上に5×5の計25の有機TFTを作製して効果を確認した。
【0098】
[実施例1]
〔有機TFTの作製〕
図1で説明したS1〜S4の工程でボトムゲート型有機TFTを作製したので、各工程の番号を付して順に説明し、共通する点は説明を省略する。
S1・・・・・ゲート電極2を形成する工程。
【0099】
基板1は、150mm×150mmの大きさの住友ベークライト製ポリエーテルスルホン(PES)基板を用いた。この基板1の上にスパッタ法にてCrの薄膜を形成し、フォトリソグラフィー法を用いてパターニングを行ってゲート電極2を形成した。
S2・・・・・ゲート絶縁層7を形成する工程。
【0100】
スピンコート法によりJSR社製のアクリル樹脂PC403をスピンコートし、ゲート絶縁層7を形成した。
S3・・・・・ソース電極8、ドレイン電極9を形成する工程。
【0101】
S3−1・・・基板の最上層に無機導電材料の分散液を印刷する工程。
【0102】
溶媒として用いる水にAgの微小粒子(数10nm)を分散させた分散液を、ゲート絶縁層7の上にインクジェット法を用いてソース電極8、ドレイン電極9の形状に印刷した。
【0103】
S3−2・・・分散液の溶媒を蒸発させて多孔質膜を形成する工程。
【0104】
120℃に基板1全体を加熱し、印刷した分散液の溶媒(水)を蒸発させて多孔質膜からなるソース電極8、ドレイン電極9を形成した。
【0105】
S3−3・・・多孔質膜に電極材料の溶液または分散液を印刷して含浸させる工程。
【0106】
多孔質膜からなるソース電極8a、ドレイン電極9aに、インクジェット法を用いてBaytron社製のPEDOT/PSSの溶液を塗布し、多孔質膜にPEDOT/PSSを含浸させた。
【0107】
S3−4・・・多孔質膜に物理的エネルギーを加える工程。
【0108】
150℃のホットプレートを用いて基板1全体を加熱した。
S4・・・・・有機半導体層10を形成する工程。
【0109】
基板1上に形成されたソース電極8a、ドレイン電極9aの間に有機半導体材料溶液42をインクジェット法を用いて滴下した。有機半導体材料溶液42の有機半導体材料はTIPSペンタセン、溶媒はトルエンである。
【0110】
[比較例1]
比較例1では本発明の効果を確認するため、工程S3において、Agをスピンコート法を用いて成膜し、ソース電極8、ドレイン電極9を形成した。
【0111】
それ以外の工程は実施例1と全く同一の条件で作製したので説明を省略する。
【0112】
[比較例2]
比較例2では本発明の効果を確認するため、工程S3において、PEDOT/PSSをインクジェット法を用いて印刷し、ソース電極8、ドレイン電極9を形成した。
【0113】
それ以外の工程は実施例1と全く同一の条件で作製したので説明を省略する。
【0114】
[比較例3]
比較例3では本発明の効果を確認するため、工程S3において、Agをスピンコート法を用いてソース電極8、ドレイン電極9の形状に成膜した後、Agの薄膜の上にPEDOT/PSSをインクジェット法を用いて印刷し、ソース電極8、ドレイン電極9を形成した。
【0115】
それ以外の工程は実施例1と全く同一の条件で作製したので説明を省略する。
【0116】
〔実験結果1〕
実施例1で作製した有機TFTと、比較例1、2、3で作製した有機TFTについて作製直後と、150℃の雰囲気下で2時間放置後にON電流を測定した。表1に実験結果を示す。実験では実施例1、比較例1、2、3の条件で作製した各25個の有機TFTのON電流の値を測定した。表1ではON電流の測定結果の平均値を求め、実施例1で作製した有機TFTのON電流を1として正規化した値をON電流として表記している。またON電流のバラツキは、実施例1、比較例1、2、3の方法で作製した各25個の有機TFTのON電流の最大値と最小値を求め平均値との差分を平均値で除算してパーセント表示を行った。
【0117】
【表1】

【0118】
作製直後:実施例1で作製した有機TFTは、比較例1、2、3で作製した有機TFTよりON電流が最も多い。また、実施例1で作製した有機TFTのON電流のバラツキは±5%だった。一方、比較例1は±30%、比較例2は±15%、比較例3は±10%と何れも実施例1よりバラツキが多かった。
【0119】
高温放置後:Agの薄膜を用いた比較例1、比較例3はON電流が作製直後より半減した。一方、PEDOT/PSSを用いた実施例1と比較例2は性能に変化が無かった。
【0120】
また、ON電流のバラツキは高温放置後も同様であり、実施例1が最もバラツキが少なかった。
【0121】
このように、実施例1で作製した有機TFTのON電流の値とバラツキは高温放置後も変化が無く比較例1、2、3で作製した有機TFTより優れた性能を示すことがわかった。
【0122】
[実施例2]
〔有機TFTの作製〕
図1で説明したS1〜S4の工程でボトムゲート型有機TFTを作製したので、各工程の番号を付して順に説明し、共通する点は説明を省略する。
S1・・・・・ゲート電極2を形成する工程。
【0123】
基板1は、150mm×150mmの大きさの住友ベークライト製ポリエーテルスルホン(PES)基板を用いた。この基板1の上にスパッタ法にてCrの薄膜を形成し、フォトリソグラフィー法を用いてパターニングを行ってゲート電極2を形成した。
S2・・・・・ゲート絶縁層7を形成する工程。
【0124】
スピンコート法によりJSR社製のアクリル樹脂PC403をスピンコートし、ゲート絶縁層7を形成した。
S3・・・・・ソース電極8、ドレイン電極9を形成する工程。
【0125】
S3−1・・・基板の最上層に無機導電材料の分散液を印刷する工程。
【0126】
溶媒として用いる水にAuの微小粒子を分散させた分散液を、ゲート絶縁層7の上にインクジェット法を用いてソース電極8、ドレイン電極9の形状に印刷した。
【0127】
S3−2・・・分散液の溶媒を蒸発させて多孔質膜を形成する工程。
【0128】
80℃に基板1全体を加熱し、印刷した分散液の溶媒(水)を蒸発させて多孔質膜からなるソース電極8、ドレイン電極9を形成した。
【0129】
S3−3・・・多孔質膜に電極材料の溶液または分散液を印刷して含浸させる工程。
【0130】
多孔質膜からなるソース電極8a、ドレイン電極9aに、インクジェット法を用いてテトラベンゾポルフィリンの前駆体を塗布し、多孔質膜にテトラベンゾポルフィリンの前駆体を含浸させた。
【0131】
S3−4・・・多孔質膜に物理的エネルギーを加える工程。
【0132】
210℃のホットプレートを用いて基板1全体を加熱し前駆体を有機半導体であるテトラベンゾポルフィリンに変換した。
S4・・・・・有機半導体層10を形成する工程。
【0133】
基板1上に形成されたソース電極8a、ドレイン電極9aの間に有機半導体材料溶液42をインクジェット法を用いて滴下した。有機半導体材料溶液42の半導体材料はTIPSペンタセン、溶媒はトルエンである。
【0134】
[比較例4]
比較例4では本発明の効果を確認するため、工程S3において、Auをスピンコート法を用いて成膜し、ソース電極8、ドレイン電極9を形成した。
【0135】
それ以外の工程は実施例1と全く同一の条件で作製したので説明を省略する。
【0136】
〔実験結果2〕
実施例2で作製した有機TFTと、比較例4で作製した有機TFTについて作製直後と、150℃の雰囲気下で2時間放置後にON電流を測定した。表2に実験結果を示す。実験では実施例2、比較例4の条件で作製した各25個の有機TFTのON電流の値を測定した。表2ではON電流の測定結果の平均値を求め、実施例2で作製した有機TFTのON電流を1として正規化した値をON電流として表記している。またON電流のバラツキは、実施例2、比較例4で作製した各25個の有機TFTのON電流の最大値と最小値を求め平均値との差分を平均値で除算してパーセント表示を行った。
【0137】
【表2】

【0138】
作製直後:実施例2で作製した有機TFTと、比較例4で作製した有機TFTのON電流は同じだった。一方、実施例2で作製した有機TFTのON電流のバラツキは±5%だったのに対し、比較例2は±20%であり実施例2よりバラツキが多かった。
【0139】
高温放置後:Auの薄膜を用いた比較例4はON電流が作製直後より半減した。一方、PEDOT/PSSを用いた実施例2は性能に変化が無かった。
【0140】
また、ON電流のバラツキは高温放置後も同様であり、実施例2の方が比較例4よりはるかにバラツキが少なかった。
【0141】
このように、実施例2で作製した有機TFTのON電流の値とそのバラツキは比較例4で作製した有機TFTより優れており、高温放置後も変化が無いことがわかった。
【0142】
以上このように、本発明によれば、ソース電極、ドレイン電極の少なくとも一方に無機導電材料の多孔質膜を形成し、該多孔質膜に有機導電材料または有機半導体材料を含浸させるので、性能のバラツキが少なく温度による性能劣化が少ない有機薄膜トランジスタ、有機薄膜トランジスタの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】本発明に係わる有機薄膜トランジスタの製造方法の第1の実施形態を説明する説明図である。
【図2】本発明に係わる有機薄膜トランジスタの製造方法の第2の実施形態を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0144】
1 基板
2 ゲート電極
7 ゲート絶縁層
8、8a ソース電極
9、9a ドレイン電極
9b ドレイン電極線
10 有機半導体層
42 有機半導体材料溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に、少なくともゲート電極、ゲート絶縁層、ソース電極、ドレイン電極及び有機半導体層を有する有機薄膜トランジスタにおいて、
前記ソース電極または前記ドレイン電極のうち少なくとも一つの表面は無機導電材料の多孔質膜であり、該多孔質膜は有機導電材料または有機半導体材料を含浸していることを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【請求項2】
基板の最上層に無機導電材料の分散液を印刷する工程と、
前記分散液の溶媒を蒸発させて多孔質膜を形成する工程と、
前記多孔質膜に電極材料の溶液または分散液を印刷して含浸させる工程と、
をこの順に行うことを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項3】
前記無機導電材料の分散液は、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、コバルトのうち少なくとも一つを溶媒に分散させた分散液であることを特徴とする請求項2に記載の有機薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項4】
前記電極材料は、有機導電材料であることを特徴とする請求項2または3に記載の有機薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項5】
前記電極材料は、有機半導体材料または有機半導体材料の前駆体であることを特徴とする請求項2または3に記載の有機薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項6】
前記電極材料の溶液または分散液を前記多孔質膜に印刷して含浸させる工程の後、
前記多孔質膜に物理的エネルギーを加える工程を行うことを特徴とする請求項2乃至5の何れか1項に記載の有機薄膜トランジスタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−258252(P2008−258252A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96183(P2007−96183)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】