説明

有機被膜の除去方法

【課題】有機被膜の剥離性が低下することを抑止して、効率的に基体上の有機被膜を除去する方法を提供する。
【解決手段】基体に付着した有機被膜を、有機溶剤からなり、かつ、オゾン処理による再生処理を施した剥離液と接触させて除去するに際して、該剥離液中のカルボン酸成分及びそのエステル成分の合計を30質量%以下に維持しつつ有機被膜を剥離液と接触させる。
剥離液として、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等の炭酸アルキレンを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体表面上の有機被膜の除去方法に関するものであり、さらに詳細には液晶や半導体、光材料等の微細加工の工程で用いられるレジスト樹脂を効率的に剥離する除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶や半導体・光素子の電極や配線及び導波路などの微細加工として、材料表面にフォトレジストと呼ばれる感光性の樹脂皮膜を形成し、パターンを露光して感光部分あるいは未感光部分のいずれかを選択的に除去した後、露出した材料表面をエッチングすることによって材料に微細化工を施すフォトリソグラフィーと呼ばれる方法は、いまや電子・光関連の製造技術としてなくてはならないだけでなく、ナノマシンやマイクロリアクターと呼ばれるような微細加工応用技術としても、広く産業一般に用いられるようとしている。
【0003】
フォトリソグラフィーを用いる際には、エッチング工程後に不要になった樹脂皮膜を除去する剥離工程が多くの場合に必要不可欠となる。フォトレジストの剥離剤としては、苛性ソーダや苛性カリ等の無機強アルカリ水溶液、硫酸および過酸化水素の混合物、IPA(イソプロピルアルコール)やNMP(N−メチルピロリドン)等の有機溶剤、モノエタノールアミンやTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドライド)等の有機塩基物質、等が用いられてきた。
【0004】
しかしながらいずれの方法でも剥離剤自体の危険性や有害性が無視できないばかりでなく、大量に発生する使用済み剥離剤にはフォトレジスト樹脂が大量に混入している為、剥離剤の再利用が難しく環境問題の点からも好ましくないという問題があった。
【0005】
これらの問題点に対し、フォトレジストの混入した剥離液の再生方法としてオゾン処理による方法が提案されている。例えば電子工業用基板の付着物の除去に用いる酢酸およびまたはプロピオン酸からなる洗浄液にオゾンを作用させることにより洗浄液中の有機物のみを選択的に分解することで洗浄液を再生する方法が開示されている(特許文献1)。また炭酸エチレン及びまたは炭酸プロピレンよりなる剥離剤をオゾン処理し剥離剤中の有機皮膜構成物質を分解することにより剥離剤を再生再利用する方法が開示されている(特許文献2)。
【0006】
【特許文献1】特開2001−345304
【特許文献2】特開2003−330206
【0007】
このようなオゾン処理による再生処理法は、剥離液成分がオゾン処理に対する耐性がある場合において、レジスト成分を始めとする溶解樹脂成分だけを選択的に分解除去出来る為に再生液が循環再利用できるという点で非常に優れた処理法である。しかしながらオゾン処理による再生剥離液のレジスト剥離性は、場合によりオゾン処理前よりも低下することがあった。このことは、厳密な品質管理が要求される微細加工製造ラインにおける剥離プロセスを工程管理する上での難点となり、オゾン処理法の最大のメリットである循環再利用を行う上で支障となっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、電子材料の微細加工に用いられるフォトレジストのような基体上の樹脂分に対し、これを除去する際に使用した剥離液の再生処理としてオゾン処理を適用すると、場合によりレジストの剥離性がオゾン処理前よりも低下することがあるため、剥離液の再生循環再利用プロセスとしての剥離工程を管理する上で障害となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは既に、オゾン処理による剥離剤の再生試験と再生液の分析を行ない、オゾン処理においてすべての樹脂成分が水と炭酸ガスにまで完全酸化されるのではなく一部はカルボン酸及びそのエステルとなって液中に残ることを見出しており、その結果も踏まえて前記課題を解決する為に更に鋭意検討した結果、剥離速度の低下に影響する原因がこのカルボン酸およびそのエステルの含有量であり、剥離速度を工程管理する上で重要なのはこのカルボン酸およびそのエステルの合計含有量であることを見出し本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、基体に付着した有機被膜を、有機溶剤からなり、かつ、オゾン処理による再生処理を施した剥離液と接触させて除去するに際して、該剥離液中のカルボン酸成分及びそのエステル成分の合計を30質量%以下に維持しつつ有機被膜を剥離液と接触させることを特徴とする有機被膜の除去方法である。
【0011】
本発明の第2発明は、剥離液が炭酸アルキレンを主成分とすることを特徴とする請求項1に記載の有機被膜の除去方法である。
【0012】
さらに本発明の第3発明は、剥離液が炭酸エチレン、炭酸プロピレン、または炭酸エチレンと炭酸プロピレンの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の有機被膜の除去方法である。
【0013】
本発明において対象となる基体は、液晶や半導体・光阻止等の電極、IC回路等がフォトリソグラフィー等によって形成されるものであり、具体的には、ガラス板上に金属薄膜の設けられた基体等が挙げられる。レジスト用樹脂は、その金属薄膜上に設けられる。
【発明の効果】
【0014】
オゾン処理による再生処理を施した剥離液を用いて樹脂分の付着した基体における樹脂分の除去を行うに当り、該剥離中のカルボン酸成分及びそのエステル成分の合計量を一定水準以下に規定することにより、厳密な品質管理が要求される微細加工製造ラインにおける剥離プロセスの工程管理が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の剥離液としては特に限定されるものではないが、好ましい剥離液が具備すべき特性としては、レジスト等の樹脂をよく溶解または膨潤し、金属への腐食作用がなく、それ自体はオゾン処理に対して耐性があり分解され難い一方で、溶解したレジスト等の樹脂は効率的にオゾン分解されるということが挙げられる。炭酸アルキレンはこれらの要求特性のほぼ全てを満足しており、好ましく用いることが出来る。
【0016】
炭酸アルキレンとは、アルキレンカーボネートとも呼ばれ、具体的には炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ペンテン、炭酸ヘキセンなどが挙げられるが、中でも炭素数5以下のものは樹脂の溶解性が高く、オゾンによって分解され難いために優れており、さらには炭酸エチレンおよび炭酸プロピレンの2種は樹脂分の溶解性とオゾン耐性が高く、工業的に安価に得られることから特に好ましいものである。これらの炭酸アルキレンはそのうち1種を単独で用いても、複数を混合しても用いることが出来る。
【0017】
剥離液を用いた剥離の方法としては従来公知の方法のいずれでもよく、浸漬法、シャワー法、蒸気洗浄法などの方法で剥離を行ないたい面に作用させることが出来る。この時に超音波や振動を与えて剥離力を高める場合もある。純粋な炭酸エチレンは融点が36℃と高いため、剥離液が炭酸エチレンを高濃度に含む場合は雰囲気温度を剥離液の融点以上に高くする必要がある。温度は高いほど剥離液の粘度が下がり、細かい隙間にも進入しやすくなる為好ましいが、あまり高くしすぎると蒸発量が多くなって液量の減少や引火等の問題を起こす。以上より好ましい温度範囲は融点以上で引火点以下である。
【0018】
本発明の剥離液で除去できる基体に付着した樹脂の種類は、レジスト樹脂としてはポジ型でもネガ型でも何れでもよく、永久レジストと呼ばれるフォトリソグラフィーをしない保護レジストや保護膜にも応用出来る。また、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などの多くの汎用樹脂にも使用できる。樹脂の種類によって剥離液への溶解速度や溶解量は異なり、溶解速度の低い樹脂では溶解よりも膨潤によって剥離が起こる場合もある。
【0019】
剥離されたレジストを含んだ剥離液にオゾンを作用させることによって樹脂分を分解させる方法としては、オゾン発生器によって発生させたオゾンを剥離液と接触させる方法が一般的である。接触方法にはバブリング、シャワー、隔膜透過方式などがあるがいずれも好ましく用いることが出来る。剥離液へのオゾンの溶解度は温度と反比例するのでオゾンの溶解度を上げるためには温度は低い方がよいが、あまり低すぎると剥離液が固化したり、剥離速度が低下するなどの弊害があるため、好ましい温度範囲は室温から100℃までの間である。
【0020】
樹脂分のオゾン分解物は、従来炭酸ガスと水であると考えられていたが、本発明者等は既に、ギ酸、酢酸等の1価カルボン酸及、グリコール酸、シュウ酸などの2価カルボン酸が生成していることを見出している。そしてこれらのカルボン酸類は、やはり樹脂分のオゾン分解過程で生成したと思われるアルコール類とのエステル化反応により一部がエステルとして存在していることも見出した。これらのカルボン酸及びエステル類はオゾン分解に対して耐性があるため、オゾンによって炭酸ガスと水にまで完全に酸化することは難しい。
【0021】
そしてオゾン処理後に剥離液中に生じるこのカルボン酸類とそのエステル類は樹脂分の剥離速度に影響を与える為、オゾン処理後の剥離液中のカルボン酸とそのエステルの合計量が30質量%以下になるよう管理する必要がある。剥離液中のカルボン酸およびエステルの合計量が30質量%を越えると、基体上の樹脂分に対する溶解速度が低下するので好ましくない。更に酸による基体金属の腐食という懸念もあるため酸濃度の増加は好ましくない。
【0022】
剥離液中のカルボン酸およびそのエステルの含有量を管理する為にはその含有量を定量する必要がある。この定量方法は特に限定されるものではなく、一般的な方法を用いて行うことが出来る。例えば、ガスクロによる方法、イオンクロマトによる方法、GC−MSによる方法等である。
【0023】
オゾン発生器には無声放電、電解方式など各種の方式があるがいずれの方法でも好ましく用いることが出来る。剥離液に溶解させるオゾンの量に限定はなく、当該温度における飽和濃度に近ところまで溶解させることが好ましいが、最低限10wtppb以上、好ましくは1wtppm以上溶存しているときに速やかに樹脂成分を分解することが出来る。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明する。
[実施例1]
200mm×200mmサイズの液晶用ガラス基板の表面にフェノールノボラック系レジスト(東京応化製TFR−B)をスピンコーターで塗布し、110℃で90秒プリベークしたもの400枚を、70℃に保持して溶解させた炭酸エチレン4リットルに30秒浸漬した後、40℃の超純水でリンスしてレジスト剥離を行った。剥離は1枚目から400枚目まで良好に行うことができ、剥離後の炭酸エチレンは溶解したレジストにより濃い赤に着色したが、剥離したガラス基板を水洗浄後に乾燥し顕微鏡観察してもレジストの剥離残渣は認められなかった。なおレジスト膜厚は表面粗さ計で測定し3.7μmであった。
【0025】
剥離に使用した炭酸エチレンを40℃に保温し、無声放電型オゾナイザー(小野田セメント工業製オゾンレックスOR−3Z)により、オゾン濃度200mg/Lの酸素ガスを3L/minで10分間バブリングした。バブリング後の炭酸エチレンは無色透明になっていた。この液をイオンクロマトグラフ法にて分析したところ、ギ酸9.2%を始めとしてカルボン酸が合計で14.5%検出された。また。GC−MS法によってギ酸エステルを始めとするカルボン酸エステルが13.8%検出された。以上より剥離液中のカルボン酸とカルボン酸エステルの合計量は28.3%であった。
【0026】
上記のオゾン処理後の当該剥離液4Lを70℃に保ち、再びレジスト付きの200mm×200mmサイズの液晶用ガラス基板400枚を順次30秒間浸漬してレジスト剥離を行ったが、オゾン処理前と同様に良好に剥離することができ、剥離後の炭酸エチレンは溶解したレジストにより濃い赤に着色したが、顕微鏡観察によっても剥離残渣は認められなかった。
【0027】
[比較例1]
実施例1と同様にレジスト剥離処理及びオゾン処理を実施した後に、剥離液中にギ酸を添加してカルボン酸及びカルボン酸エステルの量を定量したところ、カルボン酸が16.4%、カルボン酸エステルが16.6%検出され、合計量として33.0%であった。
【0028】
このオゾン処理後の当該剥離液4Lを70℃に保ち、再びレジスト付きの200mm×200mmサイズの液晶用ガラス基板400枚を順次30秒間浸漬してレジスト剥離を行ったが、オゾン処理前に比較して剥離に要する時間が長くなり、300枚目以降の処理において30秒の浸漬では剥離しきれない状態が顕著に現れた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、液晶や半導体、光材料等の微細加工の工程で用いられるレジスト樹脂を効率的に剥離する方法として有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体に付着した有機被膜を、有機溶剤からなり、かつ、オゾン処理による再生処理を施した剥離液と接触させて除去するに際して、該剥離液中のカルボン酸成分及びそのエステル成分の合計を30質量%以下に維持しつつ有機被膜を剥離液と接触させることを特徴とする有機被膜の除去方法。
【請求項2】
剥離液が炭酸アルキレンを主成分とすることを特徴とする請求項1に記載の有機被膜の除去方法。
【請求項3】
剥離液が炭酸エチレン、炭酸プロピレン、または炭酸エチレンと炭酸プロピレンの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の有機被膜の除去方法。

【公開番号】特開2008−71772(P2008−71772A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42775(P2005−42775)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】