説明

有機ELを組み合わせた道路標識

【課題】有機ELを車両誘導標識の光源として利用する上で、有機ELの過度の発光、表面への映り込み、外部からの光の反射が、運転者の目に負担をかけ、視界妨害となる。
【解決手段】有機ELの外側表面に特定の性質を有する散乱保護フィルムを積層することにより、視認性に優れる有機EL付き車両誘導標識を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速道路やサービスエリア、パーキングエリアさらに一般道路等に設置される車両誘導標識に関するものであり、有機エレクトロルミネッセンスデバイスを用いた車両誘導標識に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のLED(発光ダイオード)や有機EL(有機発光ダイオード=OLED)等のエレクトロルミネッセンスの技術発達に伴い、これらの道路交通設備への利用が大きく期待されている。特にLEDは、高効率・高寿命等の特性に優れるため信号機や路肩やトンネル内の警告等など道路標識として普及が加速してきている。
有機ELも、点光源であるLEDに対して薄型の面発光であり、かつLEDと同様に高効率であるとの利点を活かし道路標識としての利用が見込まれている(特許文献1、特許文献2参照)。特にフレキシブル基板上に形成した有機ELは割れることが無く、破片も出ない特性を生かし、道路標識として高い安全性も期待されている。しかしながら、道路標識として実用化する上で具体的な検討が十分になされていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−272937号公報
【特許文献2】特開2004−270443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有機エレクトロルミネッセンスデバイス(以下、有機ELともいう。)を車両誘導標識の光源として利用する場合、有機ELが過度に発光したり(必要以上に高輝度で光ったり)、表面に景色等が映り込んだり、太陽光線や車両前照灯の有機ELからの直接反射光が運転者の視野に入ると、運転者の目に負担をかけるほか、視界妨害となって重大事故を誘発することとなる。
有機ELは、デバイスの構成上、アルミや銀合金等で製膜された反射電極を使用するが、消灯時や外光が強い場合に鏡面状の反射電極面が浮かび上がるため、外部からの光の反射を制御する工夫が必要である。
本発明は、上記内容を課題とするものであり、視認性と安全性に優れる有機EL付き車両誘導標識を提供すること課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を鑑み鋭意研究した結果、有機ELの外側に特定の性質を有する散乱保護フィルムを積層することにより、車両誘導標識表面への景色等の映り込み、太陽光線や車両前照灯の反射を防止することができ、視認性が向上するとの知見を得て、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は以下の通りである。
(1)表示面に有機エレクトロルミネッセンスデバイス及び散乱保護フィルムが積層されている車両誘導標識であって、前記散乱保護フィルムの外側表面の平行光線透過率が40%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下であることを特徴とする、車両誘導標識。
(2)前記散乱保護フィルムの有機EL側表面の全光線透過率(前方散乱率)が60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上であることを特徴とする(1)に
記載の車両誘導標識。
(3)前記散乱保護フィルムの外側表面が、凹凸構造を有しており、前記凹凸構造の高さが0.2〜100μm、周期が20mm以下である、(1)又は(2)に記載の車両誘導標識。
(4)前記散乱保護フィルムがフッ素系炭化水素樹脂からなる、(1)〜(3)に記載の車両誘導標識。
(5)前記有機エレクトロルミネッセンスデバイスがフレキシブル基板上に積層されている、(1)〜(4)に記載の車両誘導標識。
(6)前記有機エレクトロルミネッセンスデバイスが、白色発光型であって、赤色、緑色、及び青色の発光材料が1つの層に分散ドープされている発光層を含むものである、(1)〜(5)に記載の車両誘導標識。
(7)前記有機エレクトロルミネッセンスデバイスが、白色発光型であって、色温度は4000K以下である、(1)〜(6)に記載の車両誘導標識。
(8)輝度が200cd/m2〜3000cd/m2である、(1)〜(7)に記載の車両誘導標識。
(9)制限速度V[km/hr]の道路において、ブロック点灯が一巡するまでに要する時間T[sec]が、V/50≦T≦V/10に設定される、(1)〜(8)に記載の車両誘導標識。
(10)太陽電池及び蓄電装置を備える、(1)〜(9)に記載の車両誘導標識。
(11)太陽電池がフィルム又はシート基板型である、(10)に記載の車両誘導標識。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、外部からの衝撃による破片も出ないため安全性も高く、軽量ゆえに設置及び取り外しなどの工事の負担も軽く、昼夜天候を問われず、視認性に優れる車両誘導標識を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】有機EL及び散乱保護フィルムを積層した車両誘導標識表示面の断面模式図
【図2】一般的な有機電流発光素子の断面模式図
【図3】本発明の車両誘導標識全体構成の模式図を表し、左側は前方からの図、右側は後方からの図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の趣旨を超えない限り、これらの内容に限定されるものではない。
【0010】
本発明は、表示面に有機エレクトロルミネッセンスデバイス及び散乱保護フィルムが積層されている車両誘導標識であって、車両誘導標識表示面(図1中の1)、有機EL(図1中の2)、散乱保護フィルム(図1中の3)が、図1に示される位置関係で積層されるものである。これらの層間或いは外側にその他の層や材料が組み込まれていてもよく、例えば、車両誘導標識表示面と有機ELの間に金属板が組み込まれているものが挙げられる。このような構成を有するものとしては、有機EL及び散乱保護フィルムが予め金属板に固定・一体化されてものを挙げることができ、この場合車両誘導標識表面への設置、取付、配線が容易となるため好ましい。
【0011】
1.有機エレクトロルミネッセンスデバイス
有機エレクトロルミネッセンスデバイス(有機EL)とは、有機発光材料を利用し、有機発光材料層に電流を流すことにより励起子(エキシトン)を生成後、それが安定化する際に光を放出(蛍光・燐光どちらでもよい)する有機電流発光素子を含む発光デバイスをいい、本発明においては特に封止フィルム等により封止された状態のものを意味する。本
発明においては、道路周辺で使用されるため、厚いガラス等の破片が散乱すると危険であり、封止材には薄くてフレキシブルなシート材、フィルム材を使用することを想定している。
【0012】
本発明の車両誘導標識は、有機ELを面状光源として利用することによって、夜間や霧等の見通しの悪い状況下においても容易に視認できることを特徴とする車両誘導標識である。有機ELの光源としての利用方法は特に限定されず、薄型あるいはフレキシブルな面状光源としての特徴を生かして例えば有機ELを車両誘導標識のバックライトとして用い、フィルターを通して文字、記号を浮かび上がらせる表示方法のほか、有機ELで文字、記号、図形を形成して表示機能を発揮するものでもよい。
【0013】
本発明の車両誘導標識の輝度は、200cd/m2以上、3000cd/m2以下が好ましく、300cd/m2以上、2000cd/m2以下がより好ましい。400cd/m2
以上、1000cd/m2以下が特に好ましい。上記範囲であると、光源を直接視認して
も運転者にとって眩しすぎず、かつ夜間等の見通しの悪い状況においても視認できる明るさを得ることができる。また輝度を適度に抑えることで発光標識自体の寿命も長くすることができる。
【0014】
本発明に用いられる有機ELの発光色は、特に限定されず、単色でも複数色でもよく、車両誘導標識の種類によって任意に選択することができる。白色発光のものを用いると、多様な発光表現が可能となり、視認性をさらに高めることができるため好ましい。
【0015】
白色発光とする場合には、色温度は4000K以下が好ましく、3000K以下がより好ましい。2000K以下が特に好ましい。上記範囲であると、運転者の目に負担をかけず、かつ良好な視認性を確保することができる。
【0016】
1−1.有機電流発光素子
本発明に用いられる有機電流発光素子の構成は、特に限定されないが、一般的な構成を、図2を参照して説明する。
図2は有機電流発光素子の構造例を示す断面の模式図であり、図2において、4は基板、5は陽極、6は正孔注入層、7は正孔輸送層、8は発光層、9は正孔阻止層、10は電子輸送層、11は電子注入層、12は陰極を表す。注入層や輸送層等を含まないものであっても、またその他の機能を有する層が含まれていてもよく、さらに各構成層は、単層であっても複数層であってもよい。
【0017】
また、上記構成層の製膜方法も特に限定されず、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式成膜法、又はスピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等の湿式成膜法が挙げられる。
【0018】
<基板>
有機電流発光素子の基板材料は、特に限定はされないが、石英ガラス、無アルカリガラスやソーダ石灰ガラス等のガラス板、アルミやスチール等の金属板・金属箔、ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリメタクリレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルスルフォンなどのプラスチックフィルムやシート等が挙げられる。特に鳥や飛び石、車両等の衝突に対しての安全性(破片が飛び散らない)、軽量で割れにくく車両誘導標識表面への配線・取付が容易である観点から、アルミやスチール等の金属シート、金属箔、プラスチックフィルムやシート、ガラスの場合は薄肉フレキシブル化したものを基板とすることが好ましい。
【0019】
<陽極>
有機電流発光素子の陽極材料は、特に限定されないが、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属及びその合金、インジウム及び/又はスズの亜鉛酸化物等の金属酸化物、ヨウ化銅等のハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等が挙げられる。また、上記基板が導電材料である場合には、基板と陽極は同一であってもよい。
【0020】
<陰極>
有機電流発光素子の陰極材料は、特に限定されないが、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の金属又はそれらの合金が挙げられる。また、有機ELの消灯時に生じる外部からの光の反射をより抑制するために、陰極を粗表面にすることもできる。
【0021】
<発光層>
有機電流発光素子の発光層には、発光材料のほか、正孔輸送の性質を有する化合物(正孔輸送性化合物)、或いは電子輸送の性質を有する化合物(電子輸送性化合物)が含まれることが好ましい。例えば、発光材料をドーパント材料とし、正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物等、又はその混合物をホスト材料するものが挙げられる。
【0022】
発光層の発光材料は特に限定されず、蛍光発光材料でも、燐光発光材料であってもよい。内部量子効率の観点から、燐光発光材料が好ましい。また、蛍光発光材料と燐光発光材料を組合せて使用してもよいが、素子としての発光効率は蛍光発光材料の効率から大きく影響を受けるため、単色を混合して白色等を作る場合には、全てが燐光発光材料であることが好ましい。発光層における発光材料の割合は、特に限定されないが、通常0.05重量%以上、通常35重量%以下である。
【0023】
発光材料の分子量は、特に限定されないが、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。
【0024】
発光層の膜厚は、特に限定されないが、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、最も好ましくは10nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下、最も好ましくは70nm以下の範囲である。
【0025】
白色発光の有機電流発光素子を用いる場合、その構成は特に限定されないが、赤(R)、緑(G)、青(B)等の発光材料を個別の層にドープして積層したRGB積層型や、複数の発光材料を1つの層に共存させるRGBドーパント型、さらに各色を平面のブロック状に配置したRGBブロック画素型が挙げられる。RGB積層型のように、複数の層が形成される場合、各層で屈折率が異なるため光学界面が形成され、さらに各層の厚さが可視光の波長に近いため光が干渉し合い、視認する角度によって色が変化する現象が発生する。複数の発光材料を1つの層に共存させるRGBドーパント分散型の場合は、発光層内で光学界面が形成されず、視認する角度による色の変化が生じにくいため特に好ましい。RGBブロック画素型も視認する角度による色の変化が生じにくいが、製造時にブロックを形成する必要があり、製造プロセスが複雑になりコストがかかる点に課題がある。
【0026】
RGBドーパント分散型の場合の分散方法、層の調製方法は特に限定されず、各発光材料をホスト材料と混合した上で、上述の湿式成膜法に調整する方法が挙げられる。RGBドーパント分散型は、安価で高効率な常圧塗布プロセスに適したプロセスである。また、
各発光材料の分散量又は分散比率も特に限定されず、目的とする発光色に応じて適宜設定することができる。
【0027】
<その他の構成層>
上述の構成層のほか、正孔注入層、正孔阻止層、電子注入層、保護層等の材料、形態、調整方法についても、特に限定されない。またこれ以外の構成を有してもよく、その材料、形態、調整方法も、有機電流発光素子として用いられているものを適宜利用することができる。
【0028】
1−2.封止材
本発明において有機ELとは、上述の有機電流発光素子を封止した状態のものを意味する。
有機電流発光素子を封止する方法は、表示、発光領域を覆うように封止することができれば特に限定されず、電極、基板、封止材等を接着剤で接着する方法、熱可塑性樹脂を用いて、ウェットラミネート法、ドライラミネート法、ホットメルトラミネート法、押出しラミネート法、熱ラミネート法等によって封止する方法が挙げられる。発光材料は、熱処理により劣化する場合があるので、110℃以下の温度で封止できる方法が好ましい。
【0029】
封止材の種類は、特に限定されず、ガラス板、ポリマー板・フィルム等が挙げられる。車両誘導標識には鳥や飛び石、車両等との衝突が起こるため、緩衝機能を発揮し、また破損しても破片が飛び散らないポリマー材料、もしくはポリマー材料で補強した薄肉ガラスシートなどが好ましく、また紫外線、酸素、水分等の有機電流発光素子の劣化源の侵入を抑制する添加剤等がポリマー材料に含有されていることが更に好ましい。
【0030】
また、紫外線や熱による劣化を抑制するために、封止材に紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等を添加してもよい。これらの添加剤の量は特に限定されないが、1000ppm以下が好ましい。上記範囲であれば、紫外線や熱による劣化を抑制できるとともに、樹脂の特性を維持することができる。
【0031】
封止材の膜厚は、通常200μm以上、1mm以下、好ましくは300μm以上、800μm以下、更に好ましくは400μm以上、600μm以下である。上記範囲であれば、紫外線、酸素、水分等の劣化源の侵入を抑制し、素子を保護する緩衝機能を得ることができる。
【0032】
封止材は、380nm以下の光線透過率が15%以下であることが好ましく、8%以下がより好ましい。上記範囲であれば、紫外線による発光材料等の劣化を抑制することができる。
【0033】
2.散乱保護フィルム
本発明は、特定の性質を有する散乱保護フィルムを有機ELの外側に積層することによって、車両誘導標識表面への景色等の映り込み、太陽光線や車両前照灯の反射を防止する効果を発揮する。また、長期間の使用によって生じる有機ELの非発光点、いわゆるダークスポットを目立たなくさせる効果を有し、車両誘導標識の視認性を維持することができる。
【0034】
本発明の散乱保護フィルムは、外側表面の平行光線透過率が特定の範囲内のものであるが、外側表面とは有機ELが存在する側と反対側の面であり(図2において右側表面)、運転者等が視認する側である。また、本発明の散乱保護フィルムは、有機EL側表面の全光線透過率が特定の範囲内のものが好ましく、有機EL側表面とは、有機ELが存在する側である(図2において左側表面)。
【0035】
平行光線透過率及び全光線透過率とは、JIS K 7105「プラスチックの光学的特性試験方法」に準拠して測定された値であり、以下の式の関係にある。
p=Tt−Td
(Tt:全光線透過率(%) Td:拡散透過率(%) Tp:平行光線透過率(%))
t=100−R−A
(Tt:全光線透過率 R:全光線反射率 A:吸収率)
【0036】
散乱保護フィルムの外側表面の平行光線透過率は、40%以下、好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下である。平行光線透過率が高いと、外部から照射された光が正反射される割合が高くなり、景色等の映り込みや運転者の視界妨害を引き起こすこととなる。
【0037】
また、散乱保護フィルムの有機EL側表面の全光線透過率は、60%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。上記範囲であると、有機ELからの光を効率よく利用することができる。
【0038】
散乱保護フィルムの材料は、特に限定されないが、車両誘導標識として利用されるため、太陽光線や雨水に曝され、鳥や飛び石等の衝突が起こり得る過酷な屋外環境に設置されることを考慮し、耐候性・耐衝撃性に優れる樹脂を用いることが好ましい。具体的な例として、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体エチレン・四フッ化エチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体等のフッ素系炭化水素樹脂;ハイドロキノン、レゾルシン、ビスフェノールA等の多価アルコールとビスアルキルカーボネート、ビスアリールカーボネート、ホスゲン等の炭酸エステル類から合成されるポリカーボネートが挙げられる。特にフッ素系炭化水素樹脂が好ましく、ETFEがさらに好ましい。
【0039】
また、耐候性を向上させるために、散乱保護フィルムに紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等を添加してもよい。これらの添加剤の量は特に限定されないが、総添加量で500ppm以上5000ppm以下が好ましい。1000ppm以上3000ppm以下がより好ましい。上記範囲であれば、良好な耐候性向上効果、及び良好な界面接着強度を得ることができる。
【0040】
散乱保護フィルムの膜厚は、特に限定されないが、通常50μm以上、200μm以下、好ましくは100μm以下である。上記範囲であると、コスト、及びラミネート時のシワ等の発生を抑制することができる。
【0041】
散乱保護フィルムの特性は、屈折率でも把握することができ、屈折率は1.6以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.45以下がさらに好ましい。上述の範囲であると、界面での部分反射や全反射を抑制し有機ELからの光をより効率よく利用することができる。
【0042】
散乱保護フィルム材料に、上述の平行光線透過率を低減する特性を付与する方法は、特に限定されないが、使用する樹脂の本来の特性を利用するほか、例えばフィルム表面に凹凸構造を形成する方法や、フィルム樹脂内部にフィラーを分散させる方法が挙げられる。凹凸構造は外側表面・有機EL側表面のどちらに形成されていてもよいが、気泡の抑制や形成し易さから、外側表面に形成することが好ましい。凸凹構造の高さの下限値は通常0.2μm以上、より好ましくは0.4μm以上、特に好ましくは0.6μm以上である。また、上限値は100μm以下が好ましく、60μm以下がより好ましく、40μm以下が特に好ましい。上記範囲内とすることにより、有機ELの発光強度を損なうことなく、外部からの反射光を低減することができる。凸凹構造の周期は、20mm以下が好ましく、15mm以下がより好ましく、12mm以下が特に好ましい。上記を超えると表示の明瞭性を損なうことがある。また、下限値は通常0.005mm以上であり、好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.05mm以上である。下限値を下回ると表面が汚れ易くなる恐れがある。
【0043】
凹凸構造を形成する方法も特に限定されないが、表面凹凸を母型から熱や圧力により転写する方法が挙げられる。
【0044】
散乱保護フィルムの材料にフッ素系炭化水素樹脂を用いる場合、有機EL等(表面の封止材)との密着性を高めるために、散乱保護フィルムの有機EL側表面を表面処理してもよい。表面処理剤・表面処理方法も特に限定されず、公知の方法を適宜利用することができる。
【0045】
3.車両誘導標識全体の構成
本発明の車両誘導標識の全体構成を、図3を参照して説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらに限定されるものではない。図3において、13は車両誘導標識表示面側表面、14〜18は有機ELの設置された表示面、19は太陽電池、20は負荷制御装置や蓄電装置を表す。
【0046】
本発明の車両誘導標識の種類は、特に限定されず、非常電話、インターチェンジ料金所等の案内標識、警戒標識、規制標識、指示標識のいずれにも適用することができる。特に有機ELは、発光色、光量、点滅等の動的表現が可能であるため、指示標識として用いると、優れた視認性を発揮することができる。
【0047】
車両誘導標識表示面に設置される有機EL及び散乱保護フィルムの形状、寸法、数は、特に限定されず、車両誘導標識表示面全体、或いは発光させる部分の形態に合わせたものを設置してもよい。例えば、図3の14〜17のように、有機ELをブロックに分割し、各ブロックを独立点灯できるように設置する方法が挙げられる。これにより、後述するブロック点灯のような動的表現が可能となり、視認性をさらに高めることができる。
【0048】
車両誘導標識の点灯方法は、特に限定されず、車両誘導標識の種類・目的に応じて任意に選択することができる。夜間等の視界が悪い状況下において点灯又は点滅するほか、発光色、輝度等を変化させてもよい。
例えば、上述のように有機ELをブロックに分割し、各ブロックの点灯に時間差を設けて、順次点灯させる方法(以下、ブロック点灯ともいう)が挙げられる。具体的には、図3中の有機EL14〜17を、矢印の方向に順(14→15→16→17)に点灯させる方法が挙げられ、これにより指示方向をより認識し易くなる。
ブロック点灯は、例えば、制限速度V[km/hr]の道路に設置される車両誘導標識において、ブロック点灯が一巡するまでに要する時間をT[sec]とすると、v/50≦T≦v/10に設定することが好ましい。上記範囲であると、制限速度内で走行する車両の運転者が、指示方向をより認識しやすくなる。
【0049】
ブロック点灯の調光方式は、特に限定されず、振幅制御、パルス幅制御のいずれも用いることができる。色温度を保ちながら明るさが変化させることができるため、パルス幅制御が好ましい。
【0050】
また、設置される車両誘導標識の形態も特に限定されず、例えばフレキシブルな有機ELを用いることによって、曲面構造を有する車両誘導標識にも適用することができる。さ
らにフレキシブルであれば、曲げや撓みが生じても割れにくく、補強材が不要となって、軽量、薄型を実現することができる。例えば標識全体の厚さを3mm以内で製作することも可能であり、既存の標識に補強工事なしに施工したり、既存の標識と同様の施工が可能である。
【0051】
本発明の車両誘導標識は、有機ELを含むほか、有機ELを作動させるための制御・電力供給等を行う装置、機器、設備が取り付けられていてもよい。例えば、図3における19の太陽電池、20の負荷制御装置及び蓄電装置と組み合せることによって、独立電源化することができる。外部電源を必要としないため、設置場所を選ばず、災害等により系統電源が停電した場合にも作動させることができる。また、道路の構造上、系統電源との接続が困難な場所や、コストがかかる場所にも簡易的に施工することができる。
【0052】
用いられる太陽電池は、特に限定されないが、有機ELを作動させるための出力を考慮した上で、小型・軽量なものを用いることが好ましく、例えば、フィルム状の太陽電池、又はシート基板型の太陽電池が挙げられる。設備全体の小型化・軽量化が可能となるため、設置や維持管理の手間を軽減することができる。
【0053】
用いられる蓄電装置も、特に限定されないが、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタ等が挙げられる。有機ELを作動させるための出力を考慮した上で、小型・軽量なものを用いることが好ましく、特に電解質にゲル電解質や固体電解質等を用いシート状に仕上げたリチウムポリマー電池を用いることが好ましい。
【0054】
有機EL以外の装置等の種類、形態、設置場所も特に限定されないが、有機ELを作動させること考慮した上で、小型・軽量のものを用いることが好ましい。設備全体の小型・軽量化が可能となるため、設置や維持管理の手間を軽減することができる。
【0055】
発光デバイス、発電デバイス、蓄電デバイスを薄いシート型デバイス(発光デバイス:有機EL、発電デバイス:フィルム状又はシート基板型太陽電池、蓄電デバイス:シート型リチウムポリマー電池)とし、これらをさらにフィルムに内封して、装置全体を一体化してもよい。これによって、曲面にも設置可能な自立電源型の自発光道路標識、安全標識(シートデバイス型サイネージ)を実現することが可能となる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び参考例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
<平行光線透過率測定方法>
散乱保護フィルムの測定面(有機ELと接触する反対側の面)を、光源側に向けて日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計に設置した。測定方法は、JIS K 7105「プラスチックの光学的特性試験方法」に準拠して実施し、平行光線透過率を測定する。
【0058】
<有機EL−散乱保護フィルム複合体の作製>
有機電流発光素子を既存の方法で作製し、500μm厚のEVAフィルムで封止して有機ELを作製した。
散乱保護フィルムを、100μm厚のETFEフィルムに外側表面側にマット処理をして得た。次にこのETFEフィルムの有機EL表面側に表面処理によりアルキル基を導入した。こうして得られた散乱保護フィルムは以下の表1の物性を有すると推測される。上述の有機ELを散乱保護フィルムに、ドライラミネートにて密着させ、有機EL−散乱保護フィルム複合体1を作製した。
【0059】
【表1】

【0060】
<視認性確認試験>
複合体1に配線をつなぎ、1000cd/mで有機ELを発光させた上、外部から有機EL表面で50lx(ルクス)となる白色LED光を照射して、10m離れた位置(正反射角線上)から視認性を確認した。視認性は、有機EL表面に5mmの太さで5cm長さの十字の白色テープを貼り付けて十字を確認できるか否かによって判断した。結果を表1に示す。
【0061】
また、参考例として、散乱保護フィルムが積層されていない有機ELに、同様の白色LED光を照射して、10m離れた位置(参考例1:正反射角線上、参考例2:正反射角外)から視認性を確認した。結果を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
有機EL表面に散乱保護フィルムを積層することによって、正反射を防止し、視認性を著しく高めることができることが明らかである。
【符号の説明】
【0064】
1・・・・・車両誘導標識表示面側表面
2・・・・・有機EL
3・・・・・散乱保護フィルム
4・・・・・基板
5・・・・・陽極
6・・・・・正孔注入層
7・・・・・正孔輸送層
8・・・・・発光層
9・・・・・正孔阻止層
10・・・・電子輸送層
11・・・・電子注入層
12・・・・陰極
13・・・・車両誘導標識表示面側表面
14〜18・有機ELが設置された表示面
19・・・・太陽電池
20・・・・負荷制御装置、蓄電装置等

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示面に有機エレクトロルミネッセンスデバイス及び散乱保護フィルムが積層されている車両誘導標識であって、前記散乱保護フィルムの外側表面の平行光線透過率が40%以下であることを特徴とする、車両誘導標識。
【請求項2】
前記散乱保護フィルムの前記有機エレクトロルミネッセンスデバイス側表面の全光線透過率が60%以上である、請求項1に記載の車両誘導標識。
【請求項3】
前記散乱保護フィルムの外側表面が、凹凸構造を有しており、前記凹凸構造の高さが0.2〜100μm、周期が20mm以下である、請求項1又は2に記載の車両誘導標識。
【請求項4】
前記散乱保護フィルムがフッ素系炭化水素樹脂からなる、請求項1〜3の何れか1項に記載の車両誘導標識。
【請求項5】
前記有機エレクトロルミネッセンスデバイスがフレキシブル基板上に積層されている、請求項1〜4の何れか1項に記載の車両誘導標識。
【請求項6】
前記有機エレクトロルミネッセンスデバイスが、白色発光型であって、赤色、緑色、及び青色の発光材料が1つの層に分散ドープされている発光層を含むものである、請求項1〜5の何れか1項に記載の車両誘導標識。
【請求項7】
前記有機エレクトロルミネッセンスデバイスが、白色発光型であって、色温度は4000K以下である、請求項1〜6の何れか1項に記載の車両誘導標識。
【請求項8】
輝度が200cd/m2〜3000cd/m2である、請求項1〜7の何れか1項に記載の車両誘導標識。
【請求項9】
制限速度V[km/hr]の道路において、ブロック点灯が一巡するまでに要する時間T[sec]が、V/50≦T≦V/10に設定される、請求項1〜8の何れか1項に記載の車両誘導標識。
【請求項10】
太陽電池及び蓄電装置を備える、請求項1〜9の何れか1項に記載の車両誘導標識。
【請求項11】
前記太陽電池がフィルム基板型である、請求項10に記載の車両誘導標識。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−16444(P2013−16444A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150449(P2011−150449)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(391007460)中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋株式会社 (47)
【Fターム(参考)】