説明

木質感を有する多層押出成形体

【課題】優れた木質感とともに耐候性に優れた合成樹脂系多層押出成形体の提供。
【解決手段】耐候性に優れた着色樹脂をベース樹脂とする表層材2と基材1とを含んでなる多層押出成形体の表層材表面がサンディング処理されたことにより、微細な凹凸が形成され表面艶消し状態とされた木質感を有する多層押出成形体。ベース樹脂としては、好ましくはポリメチルメタクリレート樹脂、アクリロニトリル/アクリルゴム/スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル/エチレンプロピレンゴム/スチレン共重合樹脂、およびポリメチルメタクリレート樹脂/スチレン共重合樹脂からなる群から選ばれた樹脂である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質感と耐候性に優れた表面層を有する多層押出成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
単調で人工的な合成樹脂製品から自然志向への流れの中で、建材分野においても木調への志向は一層進みつつある。木調への技術として、当初は合成樹脂製品の表面への木目印刷や更に低発泡技術が用いられてきた。近年、このような木調に加えて環境意識の高まりと一層の木質感を得るために樹脂に木材を混入して成形を行う木粉混入押出製品が市場に出始めている。木材を樹脂に混入することにより、より進んだ木調の風合いが得られるだけでなく、成形品の強度や熱膨張率等の物理的特性および鋸引き性、釘打性等の加工性も向上している。しかしその反面、木材の混入によって、紫外線や水分に曝された場合に材料の変退色が顕著になる傾向がある。また、木質を混入しないABS樹脂やPS樹脂等をベースとした合成樹脂製品、例えば建材であっても、これらの樹脂の不充分な耐候性のため変色が発生する。
また、木粉混入合成樹脂成形体にサンディング処理を施し、その上に印刷を施したり(例えば、特許文献1、特許文献2参照)、塗装を施す技術も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開昭61−108502号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開昭61−100408号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2001−353707号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記のような木粉を混入した、または耐候性の不充分な合成樹脂を用いた木調風合いを有する押出成形品において、耐候性を向上させることを意図したものであり、それによって優れた木質感を付与するとともに耐候性に優れた合成樹脂系成形品、特に押出成形品を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、耐候性に優れた着色樹脂をベース樹脂とする表層材と基材とを含んでなる多層押出成形体の表層材表面がサンディング処理されたことにより、微細な凹凸が形成され表面艶消し状態とされた木質感を有する多層押出成形体に関する。
本発明は、着色剤を含有し且つそのMFR値が表層材ベース樹脂のMFR値よりも低い種剤樹脂をベース樹脂と混合してなる表層用樹脂を押出成形することにより表層材中に上記種剤樹脂による模様が形成された上記の多層押出成形体に関する。
【発明の効果】
【0005】
耐候性樹脂層を表層材とし、その表面をサンディング処理、または更に木目印刷とクリア塗装を施した本発明の多層押出成形体は、従来にない木質感を発現し、且つ耐候性にも優れる。多層成形の基材として木粉を含有したものまたは発泡体としたものは、上記特性に加えて、さらに軽量性と加工性にも優れるため、建材、特に屋外で使用される外壁材等としても有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は、合成樹脂層または木粉混入合成樹脂層を基材層とし、耐候性の優秀な樹脂材料を表層とする多層成形を行い、その表面をサンディングして木質感を発現するとともに耐候性を改良するものである。以下、本発明を更に詳しく説明する。
本発明の木質感を有する多層押出成形体は、基材層と表層材を同時押出成形により製造することができる。表層材料には木材と同系色に調色した耐候性に優れた合成樹脂を使用する。耐候性に優れた樹脂としては、例えばPMMA樹脂、AAS樹脂、AES樹脂およびMS樹脂等が例示できる。
【0007】
木目模様を出して木質感を一層効果的に発現するために、表層用のベース合成樹脂に着色した種剤樹脂を混合して押出成形を行うことができる。種剤樹脂はベース樹脂よりもMFR値が低い樹脂を用いることが好ましい。種剤樹脂はベース樹脂よりも流動性が低いため押出成形の混練工程ではベース樹脂と均一に混合しないため、このような種剤樹脂を混合することにより成形体中に不規則な且つ境界のはっきりしない筋模様を形成して木目調に似た外観を与えることができる。
種剤として用いる樹脂の種類は、ベース樹脂と同じまたはベース樹脂と相溶性のある樹脂が好ましい。相溶性のある樹脂とは、例えばベース樹脂がPMMAの場合にはABS、AAS、AES等がこれに相当する。
種剤樹脂の着色剤としては、耐候性に優れる一般の無機顔料を使用する。
ベース樹脂に対する種剤樹脂の混合割合は、ベース樹脂に対して好ましくは0.2〜10重量%、より好ましくは0.5〜5重量%である。
【0008】
また、表層材にはフィラーが含有されてもよい。フィラーを含有することにより表層材を不透明にすることができ、より木質感を発現しやすくなる。この目的で混合するフィラーとしては、通常、合成樹脂のフィラーとして使用されているものが使用でき、例えば、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、シリカ、ガラスビーズ、ワラストナイト等が例示できる。フィラーの混合量は、押出成形性を損なわない範囲であれば特に制限されない。
【0009】
多層押出成形体を構成する基材は、成形体の形状を保持し、且つ成形体の物性を決定するものである。基材は木粉を混合した合成樹脂、低発泡合成樹脂、低発泡合成樹脂中に木粉を混合したもの、無垢の合成樹脂を用いることができる。鋸引き性や釘打性等の加工性の点、および軽量性の点で、前3者が特に好ましい。また基材は、平板、異型断面、中空部を有する形状のいずれであってもよい。
木粉を含有する基材層は、基材を構成する熱可塑性合成樹脂に対して木粉が10〜85重量%、好ましくは40〜65重量%含有されているものが好ましい。
基材に使用する樹脂は、押出成形が可能な樹脂であれば限定はされず、例えば、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル/スチレン共重合樹脂(AS樹脂)、ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、ハイインパクトポリスチレン樹脂(HIPS樹脂)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC樹脂)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)、アクリロニトリル/エチレンプロピレンゴム/スチレン共重合樹脂(AES樹脂)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)等を例示することができる。特に好ましい樹脂はABS樹脂、PS樹脂、PVC樹脂である。
【0010】
表層材表面に施すサンディング処理は、ベルトサンダーやドラムサンダー等の研磨装置を用いて行うことができる。サンディング処理は、処理されるべき成形体を一定速度で搬送しながら、成形体の搬送方向と反対方向に回転する研磨材を成形体の表層材表面に当接して行う。サンディングは押出成形に続いて同じライン上で成形体が固化したのちに行うこともできるし、押出成形し、一定長さで裁断していったん成形体として蓄積した後、別のラインで行ってもよい。
サンディング処理によって、ランダムで1方向のスジが表層材表面に形成され、木調が発現する。表層材にフィラーが少量添加されていると、サンディングによりこのフィラーが表面に出てきて木質感が強調される。また、回転する研磨材を少し揺動させると研磨痕が不規則になり、より自然な仕上がりとなる。
【0011】
研磨材は、粗さが#20〜#400が好ましく、#40〜#320が特に好ましい。
研磨材の回転速度は、表面速度として2〜30m/sec、特に2〜15m/secが好ましい。また成形体搬送速度は0.5〜20m/min、特に2〜10m/minが好ましい。
【0012】
サンディング処理を施した多層押出成形体はそれ自体ですでに十分な木質感と優れた耐候性を持っているが、サンディングされた表層材の上から更に木目印刷を施してもよい。木目印刷は、例えば木目の年輪模様に相当する柄部分を印刷するようなものであり、得られた製品は、サンディングによる模様と印刷模様が合わさることにより、より好ましい木質感を表現する。印刷工程は、例えば、木目柄が刻まれたローラーに塗料を付着させ、木目柄の塗料を一旦転写ローラーに付着させてから成形体表層材に転写する方法が好ましいが、これに限定されるものではない。印刷された木目柄を物理的な力による剥離や紫外線から保護するために、クリアまたは艶消しクリア塗料を上塗りすることが好ましい。
【0013】
こうして得られた本発明の木質感を有する多層押出成形体は、表面に微細な凹凸が形成されているため、光が乱反射して光沢が失われ、表面は艶消し状態となる。さらに一定方向にランダムに細かい筋状の溝が刻まれていると、木材の繊維質のような外観と触感が発現する。このような表面の非光沢性、外観および触感が木質感のポイントとなる。
加えて、表層材へのフィラーの添加および/または木質感を付与した加工面への木目印刷によって木質感はより深みのあるものとなる。
【0014】
[実施例]
以下、実施例によって本発明をより詳細に且つ具体的に説明する。
実施例 1
(1)基材および表層材用樹脂組成物の調製
基材用樹脂組成物−木粉55重量%含有ABS樹脂(非発泡)
次の各成分(木粉、ABS樹脂、添加剤)
木粉(平均粒径200μm) 55重量%
ABS樹脂粉末 34重量%
AS樹脂粉末 5重量%
ステアリン酸マグネシウム 4重量%
ポリエチレンワックス 2重量%
をヘンシェルミキサーに投入し、通常の粉末混合用の羽根を用いて、羽根回転数1770rpmで3分間混合した。得られた粉末混合物を、下記の二軸混練押出機を用い、下記の押出条件のもとでゲル化混練を行い、3mmφストランドとして押し出したものをホットカッターでペレットに造粒した。
二軸混練押出機 :日本製鋼所社製 タイプ「TEX30」、
30mmφスクリュー
シリンダー温度 :180℃
スクリュー回転数:60rpm(同方向)
スクリュー構造 :フルフライトとニーディングの組合せ
シリンダーバレル:ベント孔を2ヵ所設けてあり、シリンダーの加熱と、
スクリューの混練により、木粉に含有する水分を除去する。
表層材用樹脂組成物−着色PMMA樹脂
PMMA樹脂100重量部に、ベンガラ2重量部、チタンエロー0.8重量部、およびカーボンブラック0.2重量部を混合して、木材と同じ色調に着色し、上記基材樹脂組成物と同様にしてペレットとした。
【0015】
(2)多層成形体の押出成形
上記の表層材および基材用組成物のペレットを用いて、下記の条件で2層異型押出成形を行った:
基材用押出成形機:スクリュー径50mmφ、L/D=28
表層材用押出機 :スクリュー径40mmφ、L/D=20
シリンダー温度 :平均170℃、ダイス190℃
スクリュー回転数:10rpm
成形体形状 :図1に記載。
幅160mm×高さ30mm(肉厚10mm)。
【0016】
(3)成形体表面のサンディング処理
ベルトサンダーを用いて押出成形体(平板)の表層にサンディング処理を行った。上記押出成形機から出てきた成形体を所定の長さで裁断し、冷却したものを、搬送ベルトに載せて、成形体の長手方向に搬送しながら、成形体の進行方向と反対方向に回転しているベルトサンダーの研磨ベルトで成形体表層表面にサンディングを行った。サンディング条件は次の通りである:
研磨ベルト粒度:#100
研磨ベルト回転表面速度:5m/sec
押出成形体搬送速度:10m/min
サンディング処理を終えた成形体は目視にて木質感を評価し、耐候性はサンシャインウエザオメーターを2000時間試験後の外観および色差(ΔE)をもって評価した。
【0017】
実施例 2
実施例1で製造した木質感を有する2層成形体の、サンディング処理表面に、木目の年輪部分のみを描くように茶褐色の耐候性塗料を用いて印刷を行った。年輪部分の間の部分は塗料を載せていないため、サンディングした面がそのまま表面に現れた。最後に表層材全面に無色の耐候性クリア塗料を上塗りした。
得られた成形体は実施例1と同様に評価した。
【0018】
実施例 3
基材および表層材用樹脂組成物の配合を次のようにした以外は、実施例1と同様にしてサンディング処理を施した木質感を有する多層押出成形体を製造した。
基材用樹脂組成物−木粉55重量%含有ABS樹脂(発泡体)
木粉(平均粒径200μm) 55重量%
ABS樹脂粉末 32重量%
AS樹脂粉末 6重量%
ステアリン酸マグネシウム 3重量%
ポリエチレンワックス 1重量%
発泡剤(重曹) 3重量%
表層材用樹脂組成物−着色AAS樹脂(タルク5重量%含有)
AAS樹脂100重量部に、ベンガラ2重量部、チタンエロー0.8重量部、およびカーボンブラック0.2重量部を混合し、木材と同じ色調に着色した。またサンディングした際の木質感を高めるためにタルクを全組成物中5重量%となるように添加した。
【0019】
実施例 4
(1)基材および表層材用樹脂組成物の調製
基材用樹脂組成物−ABS樹脂(発泡体)
次の樹脂成分からなる組成物を実施例1と同様にしてペレットとした。
ABS樹脂粉末 80重量%
AS樹脂粉末 6重量%
ステアリン酸マグネシウム 3重量%
ポリエチレンワックス 1重量%
タルク 7重量%
発泡剤(重曹) 3重量%
表層材用樹脂組成物(着色PMMAに種剤を混合)
実施例1と同様にして調製した着色PMMA樹脂組成物(ベース樹脂:MFR=15g/10min)および次の種剤をペレットとして調製した。
種剤は、MFRが0.8のPMMA樹脂100重量部にベンガラ1重量部、カーボンブラック1重量部を混合してペレットとした。
ベース樹脂と種剤のそれぞれのペレットを混合して表層材用樹脂組成物とした。
【0020】
(2)多層成形体の押出成形
表層材として上記のように、ベース樹脂100重量部と種剤3重量部とのペレット混合物を表層材用押出成形機のホッパーに投入し、基材用樹脂組成物とともに同時2層成形体を押出成形した。
(3)成形体表面のサンディング処理および木目印刷
得られた押出成形体の表層に実施例1と同様にサンディング処理を施し、更に実施例2と同様に木目印刷した。
【0021】
比較例 1
ABS樹脂に対して実施例1で用いた木粉55重量%を混合した非発泡の単層押出成形体を成形し、この表面を実施例1と同じ方法および条件でサンディング処理した。
得られた成形体は、サンディング加工によって木質感は表現されているが、耐候性に劣る木粉がそのまま表面に露出しているため、耐候性試験の結果は好ましくなかった。
【0022】
比較例 2
実施例1で成形した2層押出成形品をサンディングも木目印刷も施すことなくそのまま耐候性試験にかけた。
耐候性試験の結果は、この成形品が表面を耐候性に優れたPMMA樹脂で被覆しているため良好であったが、表面外観は光沢があり、木質感には程遠く、プラスチック様であった。
【0023】
〔押出成形品の評価〕
実施例および比較例で製造した成形体について、木質感および耐候性を評価し、結果を表1に記載した。
耐候性は次の条件で促進試験を行い、外観変化と試験前後の色差によって評価した。
木質感および外観は目視による感覚評価によった。
耐候性試験条件
装置:サンシャインウエザオメーター(スガ試験機社製)
試験条件:ブラックパネル温度 63℃、降水あり
促進試験期間:2000時間
色差測定
色差計:CM3600D(ミノルタ社製)
色差ΔEが5以内を耐候性良好と評価した。
【0024】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の表層材と基材とからなる異形押出成形体の一例を示す断面図。
【符号の説明】
【0026】
1:基材、
2:表層材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐候性に優れた着色樹脂をベース樹脂とする表層材と基材とを含んでなる多層押出成形体の表層材表面がサンディング処理されたことにより、微細な凹凸が形成され表面艶消し状態とされた木質感を有する多層押出成形体。
【請求項2】
表層材と基材とを含んでなる多層押出成形体であって、
前記表層材のベース樹脂は、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA樹脂)、アクリロニトリル/アクリルゴム/スチレン共重合樹脂(AAS樹脂)、アクリロニトリル/エチレンプロピレンゴム/スチレン共重合樹脂(AES樹脂)およびメチルメタクリレート/スチレン共重合樹脂(MS樹脂)からなる群から選ばれる樹脂を着色してなり、
前記表層材表面は、サンディング処理により微細な凹凸が形成され表面艶消し状態とされた木質感を有する多層押出成形体。
【請求項3】
着色剤を含有し且つそのMFR値が表層材ベース樹脂のMFR値よりも低い種剤樹脂をベース樹脂と混合してなる表層用樹脂を押出成形することにより表層材中に上記種剤樹脂による模様が形成された請求項1または2に記載の多層押出成形体。
【請求項4】
表層材が更にフィラーを含有する請求項1〜3いずれかに記載の多層押出成形体。
【請求項5】
表層材表面がサンディング処理を施されたのち木目印刷され、更にクリア塗装されている請求項1〜のいずれかに記載の多層押出成形体。
【請求項6】
基材層が熱可塑性樹脂の低発泡押出成形性体である請求項1〜5のいずれかに記載の多層押出成形体。
【請求項7】
基材層が木粉を5〜85重量%含有する木粉含有熱可塑性樹脂成形体またはその低発泡成形体である請求項1〜5のいずれかに記載の多層押出成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2009−6716(P2009−6716A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−184594(P2008−184594)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【分割の表示】特願2002−259978(P2002−259978)の分割
【原出願日】平成14年9月5日(2002.9.5)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】