説明

末梢系限定的活性を有する薬としての新規なセロトニン再取り込み阻害剤

CNSでの活性を欠いた、末梢系においてセロトニン取り込み阻害活性を発現するように設計された、新規なセロトニン再取り込み阻害化合物及びその製造方法を開示する。更に、このセロトニン再取り込み阻害化合物を含む医薬組成物と、末梢におけるセロトニンレベル、セロトニン活性、及び/又は血小板凝集に関連する病状の治療におけるその使用とを開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規の治療活性化合物、より詳細には、新規のセロトニン再取り込み阻害剤(SRI)、並びに血小板凝集関連の疾患及び障害、及び末梢におけるその他の病状を治療するための治療剤としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓発作としても知られる急性心筋梗塞(AMI又はMI)は、心臓の一部への血液供給が妨げられたときに起こる障害であり、その結果生じる虚血(酸素不足)は、心臓組織にダメージを与え、また心臓組織を壊死の可能性もある。現在、MIは世界中の男性及び女性の第1位の死因であり、全世界の死亡の12.6%(これは癌よりも高い死亡率である)がMIによるものである。世界保健機関の報告によると、MI関連の死亡は平均余命の長い国ではるかに高く、結腸癌や乳がん等の一般的な癌に対するより良い治療が利用可能になるにつれて、MI関連の死亡は増え続けている。主なリスク因子として挙げられるものに、アテローム硬化性冠動脈心疾患及び/又はアンギナ等の血管疾患の既往歴、過去の心臓発作又は脳卒中発作、心拍リズムの異常又は失神の既往、年齢(40歳を超える男性及び50歳を超える女性)、喫煙、過剰なアルコール摂取、特定の違法薬の乱用、高トリグリセリドレベル、高LDL及び低HDL、糖尿病、高血圧、肥満、並びに慢性的に高いレベルの精神的ストレスがある。
【0003】
原発性又は再発性の心筋梗塞のリスクは、徹底的な血圧管理及び生活様式の変化(主に禁煙、定期的な運動、心疾患患者にとって理にかなった食事、及びアルコール摂取制限)によって減少する。冠動脈イベントを経験した患者には、更なる心筋梗塞、うっ血性心不全、脳血管障害(CVA)等の2次的な心血管イベントを予防する目的で、通常いくつかの薬物が長期的に処方される。そのような薬物としては、アスピリン及び/又はクロピドグレル(プラビックス)等の抗血小板薬があり、これらはプラーク破裂及び再発性心筋梗塞のリスクを減少させる。
【0004】
虚血性心疾患若しくは冠動脈疾患(CAD)、脳卒中発作、又は肺塞栓症は全て、血管の傷害とは無関係に無傷(intact)の血管内で血小板が凝集することで開始される小さな血塊の自発的形成現象を伴う疾患である。この小さな血小板凝集塊は血流中を毛血管へと運ばれて、心臓、肺、又は脳の組織の毛細管を閉塞して局所的な虚血を生じさせることがある。このような小さな血塊はまた、糖尿病に一般的な合併症である足の血管の閉塞にも関係する。したがって、虚血を治療することができる薬は、虚血性心疾患(IHD)、心筋梗塞(MI)、脳卒中、肺塞栓症、2型糖尿病に関連する血管異常等の病状を治療するためにも有益に使用することができる。
【0005】
Bayer(ドイツ)により19世紀後期に導入されたアスピリンは、鎮痛・抗炎症薬として市販された最初の合成薬である。20世紀後半、アスピリンの作用は、痛み及び炎症の内因性媒介物質であるプロスタグランジンの合成における重要なステップであるシクロオキシゲナーゼ酵素の活性を阻害することで作用することが示された。プロスタグランジンは炎症に関連する血小板凝集の増加において重要な役割を担っていることから、アスピリンは長期的に投与されると強力な抗血小板剤として作用し得ること、そのためCAD、MI、脳卒中発作、肺塞栓症等の疾患を防御し得ることが認識された。これによって、アスピリンは世界で最も幅広く処方される薬となり、CADの予防的治療で使用されている[非特許文献1及び非特許文献2]。また、アスピリンは2型糖尿病の心血管系合併症に対する予防的治療でも処方される[非特許文献3]。
【0006】
しかし、アスピリンでプロスタグランジン生成を遮断しても、血小板凝集の増加から個体を完全に保護することはできない。これは主に、炎症中の血小板凝集に他の内因性介在物質(例えばトロンビン、アデノシン等)が関係することが分かってきたからである。その上、アスピリンには胃腸管の出血を増大させる傾向があるため、潰瘍、胃炎、潰瘍性大腸炎の患者には禁忌である。したがって、長期的にアスピリンを投与されている個体への追加的療法又はアスピリンが禁忌な個体においてアスピリンの代わりとして、更なる抗血小板薬を開発することには、臨床的妥当性がある。
【0007】
クロピドグレルは、血小板凝集プロセスに関与する重要な因子である血小板細胞膜上のアデノシン二リン酸(ADP)受容体(P2Y12)を不可逆的に阻害する。この受容体を塞ぐと、糖タンパク質Ilb/IIIa経路の活性化が遮断されて血小板凝集が阻害される。クロピドグレルは、ST部分(心電図でQRS群の直後のT波に合流する部分)の上昇を伴わない急性冠不全症候群の場合における症候性アテローム性動脈硬化症患者の血管虚血イベント(NSTEMI)を防止・予防するためにアスピリンと一緒に適応され、また、冠動脈内ステント設置後の血栓塞栓症を予防するために、この場合もまたアスピリンと一緒に適応される。クロピドグレルをアスピリンと一緒に使用することは、抗血小板療法を必要とする潰瘍形成歴のある患者に推奨される。しかし、最近の研究から、アスピリン誘導性の潰瘍をアスピリンとプロトンポンプ阻害剤エソメプラゾールを投与して治癒した患者では、クロピドグレルを投与した患者よりも再発性潰瘍出血の確率が低いことが示された。したがって、抗血栓的な投与量のクロピドグレルの効果は、出血及び血小板凝集の標準測定値に対して限定的である[非特許文献4]。さらに、クロピドグレルには、重度の好中球減少症、血栓性血小板減少性紫斑病、アスピリンの同時投与で悪化する出血、胃腸出血、脳出血、及び勃起不全を含むその他の重大な副作用がある。
【0008】
セロトニン(5−HT)は主要な中枢神経系(CNS)モノアミン系神経伝達物質であり、その合成はCNS中のセロトニン性神経細胞(約10%)及び動物の胃腸管内の腸クロム親和性(EC)細胞(クルチッキー細胞)(約90%)で行われる。セロトニンは多くのキノコ及び植物でも見つかる。セロトニンは、脳の外側で主に血流中の血小板に貯蔵されている。セロトニンは、Rapport、Green、及びPageによって1948年に最初に単離及び命名され、これは血液血清中の血管収縮物質として最初同定されたため、セロトニン(血管緊張に作用する血清剤)という。Rapportとその同僚はまた、セロトニンを化学的に5−ヒドロキシトリプタミン(5−HT)であると同定し、その後、研究によって、それが広範囲の生理学的役割を示すことが見出された。
【0009】
5−HTのほとんどは、胃腸管の腸クロム親和性細胞だけでもっぱら発現するトリプトファンヒドロキシラーゼ−1(TPH1)によって合成される。5−HTは血中に分泌され、5−HTトランスポーター(5−HTT)によって主に血小板中に取り込まれる。血小板は、末梢中で5−HTを最も豊富に貯蔵している。血中では、5−HTは、ほとんどが血小板の密顆粒中に貯蔵され、血漿中にはほとんど存在しない。血液リンパ球(Bリンパ球及びTリンパ球両方)も、機能的な5−HTTを発現し、5−HTを蓄積することができる。しかし、リンパ球が5−HTを貯蔵及び放出能については、今日まで解明されておらず、リンパ球での貯蔵は、血小板の大きな5−HT貯蔵能と比べて少ないようである。
【0010】
CNS活性物質として、セロトニンは、攻撃性、気分、体温、睡眠、嘔吐、性衝動、及び食欲の制御に重要な役割を果たしている。低いセロトニンレベル又は低いバイオアベイラビリティは、攻撃性の増大、癇癪行動(angry behaviors)、臨床的うつ病、強迫性障害(OCD)、片頭痛、過敏性腸症候群(IBS)、耳鳴症、線維筋痛症(FM又はFMS)、双極性障害、不安障害、及び強烈な宗教的体験等の複数の障害に関連している。更に、セロトニン性神経細胞の異常は、乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスクに関連している。5−HTは経口摂取されると、血液脳関門(BBB)を通過することができないため、CNSのセロトニン性経路に進入しない。
【0011】
5−HTは、CNSでの活性に加え、末梢系における複数の活性に関与し、そのような活性としては、心血管系調節効果(血管収縮物質及び血管拡張物質の両方)、強力な血栓形成促進活性、内皮分裂促進作用、及び免疫調節効果が含まれる。
【0012】
末梢5−HTレベルを調節する方法の1つは、アラプロクラート、ダポクセティン、エトペリドン、シタロプラム、エスシタロプラム、フルオキセチン、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、ジメリジン等のセロトニン選択的再取り込み阻害薬(SSRI)の長期的使用である。しかし、上記のセロトニン選択的再取り込み阻害薬は全て、BBBを容易に通過し、そのため、5−HTレベルを調節する末梢での活性に加えてCNSでの活性を有する。実際、SSRIは、臨床的うつ病、強迫性障害、更なる気分障害等のCNSの状態を治療するために日常的に使用され、そのため、抗うつ薬の分類に属することが知られている。
【0013】
セロトニンに関する多くの実験から、末梢系の5−HTトランスポーター(5−HTT)活性をSSRI薬で遮断すると、血小板の5−HT貯蔵能が低下し、それによって血小板の5−HTの生物学的利用能が低下することがわかった。そのため、炎症中の血小板凝集が減少する。
【0014】
末梢での5−HT合成を欠損したトランスジェニックマウスを使用したいくつかの研究から、末梢5−HTレベルの低下が冠動脈疾患(CAD)患者に有益なことがあることが示唆されている。すなわち、血小板の5−HT貯蔵能の低下が、抗血栓性の結果に反映されている。実際、疫学的研究から、長期的にSSRI薬で治療された患者はMI及びCADに苦しむことが少ないことが示されている[非特許文献5〜8]。
【0015】
末梢の5−HT減少の有益な潜在的効果を示すこれらの証拠のうちでも、TPH1欠損により5−HT合成が欠損しているトランスジェニックマウス(tph1−/−)では血栓症のリスクが低下することが観察されている。
【0016】
SSRI薬を長期的に摂取している患者が、血栓症関連の障害、とりわけMI、脳卒中発作、及びCADを発症しにくいことを示すいくつかの臨床研究がある[非特許文献7、8及び9]。無作為研究で、急性冠不全症候群(ACS)後のうつ病患者において、標準的な抗血小板剤であるアスピリン及びクロピドグレルに加えて投与されたセルトラリン(Zoloft及びその他多くの商標名で販売されている)とプラセボとが比較された[非特許文献9]。この研究では、血小板活性化の血漿マーカーをモニターし、その結果、セルトラリンによる治療では、プラセボによる治療と比べて、血小板/内皮バイオマーカーの放出が実質的に減弱されることが示された。
【0017】
更に、原発性心筋梗塞(MI)に対するSSRI治療の効果に焦点を当てた、68病院を含む多施設研究から、その防御効果が示され、現行のSSRIの使用者のMIのオッズ比は、非使用者と比べて、0.35であった[非特許文献7]。
【0018】
今日までで最も大規模な研究は、心筋梗塞(MI)1080症例と対照4256症例を3年間にわたって比較したものである[非特許文献8]。この研究は前の研究と異なり、様々なSSRI(パロキセチン、フルオキセチン、又はセルトラリン)を受けた患者の他に、非SSRI性抗うつ薬及び三環系抗うつ薬を受けた患者を含むものである。この研究では、全体として、SSRIの使用がMIリスクの大幅な低下(オッズ比0.59;3年間の追跡調査期間中で41%のMIリスク低下を意味する)に関連しており、このような低下は非SSRI性抗うつ薬では観察されないことが報告された。現在臨床で使用されている2つの抗血小板剤、アスピリン及びクロピドグレルは、MIリスクをそれぞれ20%及び10%しか低下させないことが報告されている[非特許文献1]。
【0019】
MI、CAD、及び虚血のリスクを低下させる、SSRIに予想される有益な効果は、SSRIが直接血栓形成を減少させる能力に必ずしも限定されるものではない。血小板−内皮粘着後の内皮の有糸分裂誘発の減少、したがって冠動脈における再狭窄の減少は、長期的心不全(CHF)患者において観察される臨床的利益に関する、更なる魅力的な作用機序を反映している可能性がある[非特許文献10]。冠動脈再狭窄は、冠血管内皮の過剰な有糸分裂誘発の結果として起こり、これは粘着血小板及び後者から放出されるセロトニンによる内皮細胞活性化の増大が関係している可能性がある。更に、セロトニンが内皮細胞の分裂を促進することも明らかにされている。
【0020】
長年の間に、SSRI又はその他のセロトニン調節化合物が有し得る有益な効果について、非精神医学的な、更なる臨床的指標の可能性が明らかになってきた。これらには、疾患の進行に血小板活性の上昇が報告及び関連付けされている慢性的障害が含まれる。そのような疾患及び障害としては、SSRI使用者において死亡リスクが50%低下することが注目されている肺高血圧症[非特許文献11]、末梢の5−HTの作用を遮断することで減少することが示されている、生来の冠動脈への待機的冠動脈ステント術後の再狭窄[非特許文献12]、関節リウマチ[非特許文献13]、SSRI薬フルボキサミンがイヌの肝臓でのグルコース取り込みを改善することが示されている糖尿病[非特許文献14]、5−HTTを欠いているマウス(SSRI薬による5−HTTの長期的遮断とよく似た状況;ヒト疾患の多発性硬化症の特徴によく似た中枢神経系自己免疫疾患の、よく確立されたモデル動物)において実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の誘導に対する感受性が低くなることが示されている自己免疫障害(例えば多発性硬化症、乾癬)[非特許文献15]、腎不全[非特許文献16]、及び炎症性腸疾患(IBD)[非特許文献17]が含まれる。
【0021】
最近の刊行物で、ヒト肺動脈高血圧症の治療における5−HTT阻害剤の応用の可能性も示唆されており、平滑筋で5−HTTを過剰発現するトランスジェニックマウスは、肺高血圧症を発症することが示され、このことは、SSRIで5−HTTを遮断することがこの障害に対する防御となり得ることを示している[非特許文献18]。
【0022】
しかし、現在、SSRI薬による長期的治療は、診療所での情動障害(気分障害としても知られる)とりわけうつ病及び強迫症のためのものであり、CAD、MI、脳卒中発作、又は他の虚血性疾患のリスクを有する人々(50歳を超える人口の大きな部分を占める)の長期的治療は認可されていない。これは主に、悪心、嗜眠状態又は傾眠、頭痛、歯ぎしり、極度に鮮明で奇妙な夢、めまい、食欲変化、体重減少/増加、性行動の変化(性欲減退)、パニック発作を起こすこともあるうつ及び不安の感情の増大、振戦、自律神経失調(例えば起立性低血圧)、自殺念慮、離人症(現実感喪失)、感情の平坦化、攻撃性の増大等の、長期的なSSRI治療による重度のCNS関連副作用のためである。ここで列挙した副作用のうちでも、SSRI使用者に最も多く見られるのは、性欲減退、感情の平坦化、及び攻撃性の増大の3つである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Ho, W.K., GJ. Hankey, and J.W. Eikelboom, Prevention of coronary heart disease with aspirin and clopidogrel: efficacy, safety, costs and cost-effectiveness. Expert Opin Pharmacother, 2004. 5(3): p.493-503.
【非特許文献2】Manolis, A.S., et al., Aspirin and clopidogrel: a sweeping combination in cardiology. Curr Med Chem Cardiovasc Hematol Agents, 2005. 3(3): p.203-19.
【非特許文献3】Nobles-James, C, E.A. James, and J.R. Sowers, Prevention of cardiovascular complications of diabetes mellitus by aspirin. Cardiovasc Drug Rev, 2004. 22(3): p.215-26.
【非特許文献4】Schumacher, W.A., et al., Biomarker optimization to track the antithrombotic and hemostatic effects of clopidogrel in rats. J Pharmacol Exp Ther, 2007.
【非特許文献5】McCaffery, J.M., et al., Common genetic vulnerability to depressive symptoms and coronary artery disease: a review and development of candidate genes related to inflammation and serotonin. Psychosom Med, 2006. 68(2): p.187- 200.
【非特許文献6】Paraskevaidis, I, et al., Selective serotonin re-uptake inhibitors for the treatment of depression in coronary artery disease and chronic heart failure: evidence for pleiotropic effects. Cardiovasc Hematol Agents Med Chem, 2006. 4(4): p.361-7.
【非特許文献7】Sauer, W.H., J.A. Berlin, and S.E. Kimmel, Selective serotonin reuptake inhibitors and myocardial infarction. Circulation, 2001. 104(16): p.1894-8.
【非特許文献8】Sauer, W.H., J.A. Berlin, and S.E. Kimmel, Effect of antidepressants and their relative affinity for the serotonin transporter on the risk of myocardial infarction. Circulation, 2003. 108(1): p.32-6.
【非特許文献9】Serebruany, V.L., et al., Platelet/ endothelial biomarkers in depressed patients treated with the selective serotonin reuptake inhibitor sertraline after acute coronary events: the Sertraline AntiDepressant Heart Attack Randomized Trial (SADHART) Platelet Substudy. Circulation, 2003. 108(8): p.939-44.
【非特許文献10】Weyrich, A.S., S.M. Prescott, and G.A. Zimmerman, Platelets, endothelial cells, inflammatory chemokines, and restenosis: complex signaling in the vascular play book. Circulation, 2002. 106(12): p.1433-5.
【非特許文献11】Kawut, S.M., et al., Selective serotonin reuptake inhibitor use and outcomes in pulmonary arterial hypertension. PuIm Pharmacol Ther, 2006. 19(5): p.370-4.
【非特許文献12】Fujita, M., et al., Sarpogrelate treatment reduces restenosis after coronary stenting. Am Heart J, 2003. 145(3): p.El6.
【非特許文献13】Slaughter, J.R., et al., Clinical outcomes following a trial of sertraline in rheumatoid arthritis. Psychosomatics, 2002. 43(1): p.36-41.
【非特許文献14】Moore, M.C., et al., Portal infusion of a selective serotonin reuptake inhibitor enhances hepatic glucose disposal in conscious dogs. Am J Physiol Endocrinol Metab, 2004. 287(6): p.E1057-63.
【非特許文献15】Hofstetter, H.H., et al., Absence of reuptake of serotonin influences susceptibility to clinical autoimmune disease and neuroantigen-specific inter feron-gamma production in mouse EAE. Clin Exp Immunol, 2005. 142(1): p.39-44.
【非特許文献16】Sidel'nikov Iu, N. and G.A. Sivoraksha, [The participation of histamine and serotonin in the genesis of acute kidney failure in patients with hemorrhagic fever with renal syndrome]. Urol Nefrol (Mosk), 1990(4): p.46-8.
【非特許文献17】Mikocka-Walus, A.A., et al., Antidepressants and inflammatory bowel disease: a systematic review. Clin Pract Epidemol Ment Health, 2006. 2(1): p.24.
【非特許文献18】Guignabert, C, et al., Transgenic mice over expressing the 5- hydroxytryptamine transporter gene in smooth muscle develop pulmonary hypertension. Circ Res, 2006. 98(10): p.1323-30.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
したがって、主に末梢でセロトニン再取り込み阻害活性を示し、そのため、CNSに進入して脳における5−HTの貯蔵に影響を与えず、脳で作用しない、様々な末梢系障害の治療に利用することができる新規の化合物の必要性が広く認識されている。
【課題を解決するための手段】
【0025】
セロトニンは血液の血小板に貯蔵されている。また、末梢系で起こる多くのプロセスに関与することも知られており、そのため、セロトニンのレベル及び/又は活性の制御は、療法の重要なステップとなる。そこで、本発明は、末梢セロトニンに関連する疾患及び障害を治療するための新規の化合物、より詳細には新規のセロトニン再取り込み阻害剤及び末梢限定的活性を有する治療剤としてのその使用に関する。
【0026】
したがって、本発明の一態様では、セロトニン再取り込み阻害(SRI)化合物が提供され、このSRI化合物は少なくとも1つの正に荷電した基を含むように修飾されており、この正に荷電した基は、被修飾SRI化合物がセロトニン再取り込み阻害活性を実質的に保持しながら生理的pHでその荷電を保持するように選択される。
【0027】
後述する本発明の好ましい実施形態における別の特徴によれば、正に荷電した基は第四級アンモニウム基である。
【0028】
記載されている好ましい実施形態における別の特徴によれば、第四級アンモニウム基は式:
【0029】
【化1】

(式中、
Zは有機アニオン又は無機アニオンであり、
、R、及びRは、各々独立に、アルキル、アリール、及びシクロアルキルからなる群から選択される。)
で表される。
【0030】
記載されている好ましい実施形態における更に別の特徴によれば、R、R、及びRは、各々独立に、炭素原子数1〜4のアルキルである。
【0031】
記載されている好ましい実施形態における更に別の特徴によれば、アルキルはメチルである。
【0032】
記載されている好ましい実施形態における更に別の特徴によれば、正に荷電した基は第三級スルホニウム基である。
【0033】
記載されている好ましい実施形態における更に別の特徴によれば、第三級スルホニウム基は式:
【0034】
【化2】

(式中、
Zは有機アニオン又は無機アニオンであり、
及びRは、各々独立に、アルキル、アリール、及びシクロアルキルからなる群から選択される。)
で表される。
【0035】
記載されている好ましい実施形態における更に別の特徴によれば、R及びRは、各々独立に、炭素原子数1〜4のアルキルである。
【0036】
記載されている好ましい実施形態における更に別の特徴によれば、アルキルはメチルである。
【0037】
記載されている好ましい実施形態における更に別の特徴によれば、本明細書に示されるSRI化合物は、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)、セロトニン−ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(SNRI)、及びセロトニン−ノルアドレナリン−ドーパミン再取り込み阻害剤(SNDRI)からなる群から選択される化合物に由来する。
【0038】
記載されている好ましい実施形態における更に別の特徴によれば、SSRIは、シタロプラム、アラプロクラート、ダポクセティン、エトペリドン、フルオキセチン、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、ベンラファキシン、及びジメリジンからなる群から選択される。
【0039】
記載されている好ましい実施形態における更に別の特徴によれば、SNRIは、デスベンラファキシン、デュロキセチン、ミルナシプラン、ネファゾドン、及びベンラファキシンからなる群から選択される。
【0040】
記載されている好ましい実施形態における更に別の特徴によれば、SNDRIは、ブラソフェンシン(brasofensine)、テソフェンシン及びノミフェンシンからなる群から選択される。
【0041】
記載されている好ましい実施形態における更に別の特徴によれば、本明細書に示されるSRI化合物は、シタロプラムに由来する。
【0042】
記載されている好ましい実施形態における更に別の特徴によれば、本明細書に示されるSRI化合物は、N−アルキル−シタロプラムである。
【0043】
記載されている好ましい実施形態における更に別の特徴によれば、アルキルはメチルである。
【0044】
記載されている好ましい実施形態における更に別の特徴によれば、本明細書に示されるSRI化合物は、CNS中のセロトニンのレベル及び/又は活性を実質的に調節することができない。
【0045】
記載されている好ましい実施形態における更に別の特徴によれば、本明細書に示されるSRI化合物は、CNS中のセロトニンのレベル及び/又は活性を実質的に低下させることができない。
【0046】
本発明の別の態様では、N−アルキル−シタロプラムが提供される。
【0047】
本発明の別の態様では、N−メチル−シタロプラムが提供される。
【0048】
本発明の別の態様では、請求項1に記載のSRI化合物の製造方法が提供され、この方法は、正に荷電した基が少なくとも1つ作製されるようにSRI化合物を修飾することで行われる。
【0049】
後述する本発明の好ましい実施形態における別の特徴によれば、SRI化合物はアミン基を有する。
【0050】
記載されている好ましい実施形態における更に別の特徴によれば、SRI化合物の修飾は、アミン基をN−アルキル化又はN−アリール化することで行われる。
【0051】
記載されている好ましい実施形態における更に別の特徴によれば、SRIの修飾は、アルキル−スルホナート、アリール−スルホナート、アルキレンイミン、ホスゲン、アルキル−トシラート、アリール−トシラート、アルキル−トリフラート、アリール−トリフラート、アルキル−ハライド、アリール−ハライド、ジアルキル−スルファート、ジアリール−スルファート、アルモキサン、トリアルキルアルミニウム、及びトリス(トリアルキリル)アルミニウムからなる群から選択されるアルキル化剤によって行われる。
【0052】
記載されている好ましい実施形態における更に別の特徴によれば、アルキル化剤はヨウ化メチルである。
【0053】
本発明の別の態様によれば、対象中の中枢セロトニンのレベル及び/又は活性を実質的に維持しながら対象中の末梢セロトニン(5−HT)のレベル及び/又は活性を調節する方法が提供され、この方法は、本明細書に示されるSRI化合物を対象に投与することで行われる。
【0054】
本発明の別の態様によれば、対象中の中枢セロトニンのレベル及び/又は活性を実質的に維持しながら対象中の末梢セロトニン(5−HT)のレベル及び/又は活性を調節することにおける、本明細書に示されるSRI化合物の使用が提供される。
【0055】
記載されている好ましい実施形態における別の特徴によれば、対象中の末梢セロトニン(5−HT)のレベル及び/又は活性を調節する方法は、中枢セロトニンのレベル及び/又は活性を実質的に維持しながら対象中の末梢セロトニン(5−HT)のレベル及び/又は活性を調節することが有益な病状を治療するためのものである。
【0056】
記載されている好ましい実施形態における更に別の特徴によれば、病状は、循環器の疾患又は障害、脳血管の疾患又は障害、虚血性心疾患(IHD)、心筋梗塞(MI)、脳卒中、肺塞栓症、2型糖尿病に関連する血管異常、肺動脈高血圧症、末梢動脈閉塞性疾患、関節リウマチ、自己免疫障害、腎不全、炎症性腸疾患、急性冠不全症候群、及び冠動脈バイパス移植後再狭窄からなる群から選択される。
【0057】
本発明の更に別の態様によれば、血小板凝集及び/又は血小板−内皮細胞相互作用を減少又は予防することが有益な疾患又は障害を治療する方法が提供され、この方法は、それを必要とする対象に、本明細書に示されるSRI化合物を治療有効量投与することで行われる。
【0058】
本発明の更に別の態様によれば、血小板凝集及び/又は血小板−内皮細胞相互作用を減少又は予防することが有益な疾患又は障害の治療における、本明細書に示されるSRI化合物の使用が提供される。
【0059】
本発明の更に別の態様によれば、血小板凝集及び/又は血小板−内皮細胞相互作用を減少又は予防することが有益な疾患又は障害の治療のための医薬の製造における、本明細書に示されるSRI化合物の使用が提供される。
【0060】
本発明の更に別の態様によれば、活性成分として本明細書に示されるSRI化合物及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物が提供される。
【0061】
記載されている好ましい実施形態における別の特徴によれば、CNSセロトニン(5−HT)のレベル及び/又は活性を実質的に維持しながら対象中の末梢セロトニンのレベル及び/又は活性を調節することが有益な本明細書に記載されている病状の治療に使用するための医薬組成物は、包装材に包装されており、包装材中又は包装材上の印刷によって識別される。
【0062】
記載されている好ましい実施形態における別の特徴によれば、血小板凝集及び/又は血小板−内皮細胞相互作用を減少又は予防することが有益な本明細書に記載されている疾患又は障害の治療に使用するための医薬組成物は、包装材に包装されており、包装材中又は包装材上の印刷によって識別される。
【0063】
記載されている好ましい実施形態における別の特徴によれば、SRI化合物は対象のCNS中のセロトニンレベルを実質的に調節することができない。
【0064】
記載されている好ましい実施形態における更に別の特徴によれば、SRI化合物は対象のCNS中のセロトニンのレベル又は活性を実質的に上昇させることができない。
【0065】
記載されている好ましい実施形態における更に別の特徴によれば、SRI化合物は対象のCNS中のセロトニンレベルを実質的に低下させることができない。
【0066】
記載されている好ましい実施形態における更に別の特徴によれば、血小板凝集及び/又は血小板−内皮細胞相互作用の減少又は予防は、CNSセロトニンのレベル及び/又は活性を実質的に維持しながら行われ、それによって、CNS関連作用を避けることができる。
【0067】
記載されている好ましい実施形態における更に別の特徴によれば、本明細書に示される治療方法、医薬組成物、及びSRIの使用はまた、治療に有効な更なる薬剤を治療有効量含む。
【0068】
記載されている好ましい実施形態における更に別の特徴によれば、治療に有効な更なる薬剤は抗血小板剤である。
【0069】
記載されている好ましい実施形態における更に別の特徴によれば、抗血小板剤は、アスピリン、クロピドグレル、アブシキシマブ、アルガトロバン、シロスタゾール、ダナパロイド、ダゾキシベン(dazoxiben)、ジピリダモール、エプチフィバチド、チクロピジン、及びチロフィバンからなる群から選択される。
【0070】
本発明は、末梢系限定的な活性を有する新規のセロトニン再取り込み阻害剤、並びにそれを利用した組成物及び方法を提供することで、現在知られている形態の欠点への取組みに成功し、これらはCNSへの作用が実質的にないため、現在使用されているSRIよりもはるかに優れている。
【0071】
別に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野の熟練者に一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されているのと同様又は同等な方法及び材料を、本発明の実施又は試験に使用することができるが、好適な方法及び材料を以下に記載する。不一致がある場合には、本特許明細書(定義を含む)に従うものとする。また、材料、方法、及び例は、例示のみを目的とするものであり、限定することを意図したものではない。
【0072】
本明細書において、「方法」という用語は、与えられた作業を遂行するための仕方、手段、手法、及び手順を指し、例えば、制限されるものではないが、化学、薬理学、生物学、生化学、及び医学分野の当業者に既知の仕方、手段、手法、及び手順、又はそれらから上記分野の当業者により容易に開発される仕方、手段、手法、及び手順が含まれる。
【0073】
本明細書において、「治療する」という用語は、状態の進行の停止、実質的な阻害、遅延、若しくは回復;状態の臨床的症状若しくは美容上の症状の実質的改善;又は状態の臨床的症状若しくは美容上の症状の出現の実質的予防を含む。
【0074】
本明細書において、「予防」という用語は、第一に、生物が状態を獲得することを防ぐことを指す。
【0075】
「含む」という用語は、最終的な結果に影響しない他のステップ及び成分が加えられてもよいことを意味する。この語は、「からなる」及び「から本質的になる」という用語を包含する。
【0076】
「から本質的になる」という表現は、特許請求されている組成物又は方法の新規な基本的性質を実質的に変更しない限りにおいて、組成物又は方法が更なる成分及び/又はステップを含んでもよいことを意味する。
【0077】
本明細書において、単数形は、文脈から明確に単数であることが特定されない限り、複数の対象物を含む。例えば、「化合物」又は「少なくとも1つの化合物」という用語は、複数の化合物(その混合物も含む)を含むことがある。
【0078】
本開示を通して、本発明の様々な態様が範囲形式で提供されることがある。範囲形式による記載は、単に利便性及び簡潔性のためであることが理解されるべきであり、本発明の範囲を変更不能に限定するものとして解釈されるべきではない。したがって、範囲の記載は、具体的に開示されている可能な全てのサブ範囲及びその範囲内の個々の数値を含むとみなされるべきである。例えば、1〜6といった範囲の記載は、1〜3、1〜4、1〜5、2〜4、2〜6、3〜6等の具体的に開示されているサブ範囲、及びその範囲内の個々の数値、例えば1、2、3、4、5及び6を含むとみなされるべきである、このことは範囲の幅に関係なく適用される。
【0079】
数値範囲が本明細書に指定されている場合は常に、指定範囲内の言及されている数値(分数又は整数)は何であれ含まれることを意味する。第1に指定する数と第2に指定する数「の間の範囲」、及び第1に指定する数「〜」第2に指定する数「の範囲」という表現は、本明細書において相互に交換可能に使用されており、第1及び第2に指定する数、並びにその間の全ての分数値及び整数値が含まれることを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0080】
ここで、添付の図面を参照して、例として、本発明を説明する。図面への具体的参照について、これらの事項は一例であり、本発明の好ましい実施形態を例示的に記載することだけを目的とし、本発明の原理及び概念的側面に関して、最も有用かつ容易に理解される説明であると信じるものを提供するためのものであることを強調する。この点から、本発明の根本的理解に必要な以上に詳しく本発明の構造的詳細を示そうとはしておらず、本記載を図面と共に考慮することで、本発明の様々な形態をどのように実際に実施することができるかが、当業者に明らかになる。
【図1】N−メチル−シタロプラム(NMC;「M−cit」で表す)又はシタロプラム(「cit」で表す)による、ヒト血小板膜セロトニントランスポーター(5−HTT)への[H]シタロプラム(2nM)結合の阻害を、競合阻害剤の濃度の関数として表した比較プロットである。5−HTTへのNMCの結合親和性が、シタロプラムの結合親和性に非常に近いことが示されている(NMC及びシタロプラムのKi値は、それぞれ2.8及び1.8nMである。)。
【図2】被験化合物NMC(「M−cit」で表す)及びシタロプラム(「cit」で表す)の存在による、調製したばかりの無傷(intact)のヒト血小板におけるセロトニン取り込み阻害([H]セロトニン取り込み(50nM)の取り込み阻害率で表される)を、被験化合物の濃度の関数として表した比較プロットである。阻害定数(Ki)は、NMC及びシタロプラムのどちらも3.3nMである。
【図3】N−メチル−シタロプラム(NMC;「M−cit」で表す)又はシタロプラム(「cit」で表す)による、ラット脳膜セロトニントランスポーター(5−HTT)への[H]シタロプラム結合(1nM)の結合阻害を、競合阻害剤の濃度の関数として表した比較プロットである。阻害定数(Ki)値は、NMCでは7.5nM、シタロプラムでは0.4nMである。
【図4】被験化合物NMC及びシタロプラムの存在による、調製したばかりのラット脳シナプトソームにおけるセロトニン取り込みの阻害を、セロトニン取り込み(50nM)の阻害率で示した比較プロットである。阻害定数(Ki)値は、NMCでは30nM、シタロプラムでは4nMである。
【図5】健康なドナーの試料について記録した、血小板凝集の測定値の比較プロットであり、シタロプラム(「チャネル4」、茶色で示すプロット)、N−メチル−シタロプラム(「チャネル3」、青色で示すプロット)、及び対照PBS(「チャネル2」、赤色で示すプロット)による、ヒト血小板凝集の阻害率を示す。
【図6】同じ健康なドナーから採った試料について測定した、図5に示す実験の再現であり、シタロプラム(「チャネル3」、青色で示すプロット)、N−メチル−シタロプラム(「チャネル2」、赤色で示すプロット)、及び対照PBS「チャネル1」、緑色で示すプロット)による、ヒト血小板凝集の阻害率を示す。
【図7】[H]N−メチル−シタロプラム(赤色の丸で示す)又は[H]シタロプラム(黒色の長方形で示す)のいずれかを腹腔内注射してから記載の時間経過した後のマウス大脳皮質試料における、1分当たりの[H]壊変数(DPM)の累積の比較プロットである(値は、各化合物・各時点について3匹のマウスの平均値+/−標準偏差であるが、40分だけは1匹のマウスに各化合物を注射したものである。)。
【発明を実施するための形態】
【0081】
本発明は、末梢系におけるセロトニンレベルの制御が有益な疾患、障害、及び病状の治療に薬として使用することができる、セロトニン再取り込み阻害活性を有する新規の化合物の発明である。より具体的には、本明細書に示される新規のセロトニン再取り込み阻害剤は、CNSのセロトニンレベルには大きく作用せず、主に末梢系でその活性を示すため、例えば、血小板凝集の亢進及び血小板−内皮細胞相互作用の増加が疾患プロセスの一部である慢性疾患、血栓症、及び関連する虚血、虚血性心疾患(IHD)、心筋梗塞(MI)、脳卒中、肺塞栓症、及び2型糖尿病に関連する血管異常のリスク、並びに末梢セロトニンを阻害することが有益なその他の疾患及び障害の治療に有益に使用することができる。
【0082】
前述のように、血液脳関門(BBB)を通過するとき、セロトニン再取り込み阻害剤は、シナプス前細胞へのセロトニンの再取り込みを阻害して、細胞外のセロトニンレベルを上昇させ、それによって、シナプス後受容体への結合に利用可能なセロトニンのレベルを上昇させる。末梢系では、セロトニン再取り込み阻害剤は、セロトニンを貯蔵する血小板中のセロトニンレベルを低下させることが示されている。したがって、現在知られているセロトニン再取り込み阻害剤、特にSSRIは、抗血小板作用を有することが示されている。現在知られているSSRIは、抗うつ剤として開発されたものであり、BBBを通過してCNSに対してその効果を発現する必要がある。しかし、SSRIは、悪心、嗜眠状態又は傾眠、頭痛、歯ぎしり、極度に鮮明で奇妙な夢、めまい、食欲変化、体重の減少/増加、性行動の変化(性欲減退)、うつ及び不安の感情の増大、パニック発作、振戦、自律神経失調(例えば起立性低血圧)、発汗の増加又は減少、静坐不能、離人症(現実感喪失)、感情の平坦化及び攻撃性の増大等の様々なCNS関連副作用を起こすことが知られている。
【0083】
そのため、現在知られているSSRIは、多くの慢性的病状に対する強力な薬候補であり、他の薬に比べて高い活性すら示す証拠が蓄積されてきているものの、重度のCNS関連副作用があるため、治療には処方されない。
【0084】
本発明の検討中、本発明者らはセロトニン再取り込み阻害(SRI)活性を有する化合物を、BBBを通過する能力が低下するように修飾することができるという仮説を立てた。更に、現在知られている選択的セロトニン再取り込み阻害剤及び非選択的セロトニン再取り込み阻害剤(本明細書では、これらをまとめてセロトニン再取り込み阻害剤(SRI)と呼ぶ)を、SRI活性には影響を与えずに1又は複数の荷電基を有するように化学修飾したものは、末梢セロトニンレベルの調節が有益な病状を治療するための薬として使用できるという仮定を立てた。例えば、被修飾SRIが血小板中の末梢5−HTTへの結合能を保っていれば、現在知られているSRIと同様な抗血小板活性を有する可能性があると考えられる。その上、荷電分子はBBBを通過する能力がないことが知られているので、このような被修飾SSRIは、非常に望ましくないCNS関連副作用を示さないと考えられる。
【0085】
この構想は、化合物の全体的な荷電の変化に必ずしも感受性ではない分子的認識因子によって、SRIが5−HTTに結合しているという仮説に基づいている。一方、毛細管壁細胞間にギャップ結合の代わりに密着結合を含む脳毛細管内皮細胞の独特の構造により荷電分子の通過が抑止されるため、荷電分子は血液脳関門(BBB)を通過できないと想定されていた。そのため、荷電基を有するようにSRIを修飾することは、被修飾SRIが5−HTTに結合する親和性に対してはほとんど又は全く影響せずに、脳内でSRI活性を発現する能力には大きな影響を与え得る。
【0086】
本発明を実施化する間に、本発明者らは、そのような修飾について、最も広く処方されているSSRIの1つであるシタロプラムを例示的被験化合物として用いて実証し、第四級アンモニウム基を有するN−メチル−シタロプラム(NMC)を作製した。この第四級アンモニウム基は、プロトン交換の相互作用に参加できないため、広い範囲のpHレベルで正に荷電し、最も重要なことに、この基は生理的pHで正の荷電を保持している。
【0087】
シタロプラム(下記の化学構造の図を参照)は、身体醜形障害及び不安の治療の際、気分障害を伴ううつ病を治療するために一般的に使用される、SSRI抗うつ薬である。シタロプラムのIUPAC名は1−(3−ジメチルアミノ−プロピル)−1−(4−フルオロ−フェニル)−1,3−ジヒドロ−イソベンゾフラン−5−カルボニトリルであり、Celexa(商標)(U.S. Forest Laboratories, Inc.社)、Cipramil(商標)、Citrol(商標)、Sipralexa(商標)、Seropram(商標)(欧州及びオーストラリア)、Zetalo(インド)、Celepram(商標)、Ciazil(商標;オーストラリア)、Zentius(商標)(南アメリカ、Roemmers社)及びCipram(商標;デンマーク、H.Lundbeck A/S社)のブランド名で販売されている。
【0088】
【化3】

【0089】
シタロプラムは、通常、50%のR−(−)−シタロプラムエナンチオマーと50%のS−(+)−シタロプラムエナンチオマーからなるラセミ混合物として販売されている。しかし、S−(+)エナンチオマーのみが所望の抗うつ効果を有することが分かっているため、Lundbeck社は、S−(+)エナンチオマーをエスシタロプラムの一般名で販売している。シタロプラムは臭化水素酸塩として提供されているが、エスシタロプラムはシュウ酸塩として販売されており、どちらの製品も、塩の形態にすることで、そうでなければ親油性であるこれらの化合物を水に溶解できるようにしている。
【0090】
後述の実施例セクションで示すように、NMCを合成し、次のことを示した:(a)親化合物シタロプラムと同様な親和性で血小板セロトニントランスポーター(5−HTT)に結合し、その活性を阻害する、(b)親化合物シタロプラムの約10分の1の親和性で脳セロトニントランスポーターに結合し、その活性を阻害する、(c)BBB通過能が実質的に制限されている。
【0091】
したがって、本発明の一態様によれば、少なくとも1つの正に荷電した基を含むように修飾されているセロトニン再取り込み阻害(SRI)化合物が提供され、この基は、被修飾SRI化合物がSRI活性を実質的に保持しながら生理的pHでその荷電を保持するように選ぶ。ここで、及び本明細書全体を通じて、本明細書に示される少なくとも1つの正に荷電した基を含むように修飾されているSRI化合物は、被修飾SRI又は被修飾SRI化合物と呼び、これらの語は交換可能である。
【0092】
「セロトニン再取り込み阻害化合物」という用語は、本明細書ではSRIと略し、分子トランスポーター5−HTTによるセロトニン再吸収を阻害することで身体のセロトニンレベルを調節する能力を有する化合物を指す。より具体的には、SRIは5−HTTの競合阻害を示す。セロトニン再取り込み阻害剤は、その特異性に基づいてファミリーに分類することができる。すなわち、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)にはアラプロクラート、シタロプラム、エスシタロプラム、エトペリドン、フルオキセチン、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、ジメリジンが含まれ、セロトニン−ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(SNRI)にはデスベンラファキシン、デュロキセチン、ミルナシプラン、ネファゾドン、及びベンラファキシンが含まれ、セロトニン−ノルアドレナリン−ドーパミン再取り込み阻害剤(SNDRI)にはブラソフェンシン、テソフェンシン、ノミフェンシンが含まれる。
【0093】
好ましい実施形態によれば、セロトニン再取り込み阻害(SRI)化合物はセロトニン選択的再取り込み阻害剤(SSRI)である。
【0094】
本明細書において、「正に荷電した基」という表現は、有機分子の一部を形成し、正の静電荷を特徴とする、原子又は原子団を指す。1又は複数の正に荷電した基を含む化合物は、しばしば分子カチオンと呼ばれる分子イオンである。正に荷電した原子団は少なくとも1つの、これらの原子中のプロトン数より少ない電子を有する。正に荷電した基としては、特に限定されないが、例えばアンモニウム基及びスルホニウム基を挙げることができる。
【0095】
生理的pHでその荷電を保持する正に荷電した基は、SRIが活性である身体中の生理環境で通常見られるpH範囲で、プロトン交換相互作用に参加できない基である。通常、生理的pHは約7.4であり;したがって、生理的pHでその荷電を保持する正に荷電した基とは、約5〜8のpH範囲でイオン化したままである正に荷電した化学基を指す。生理的pHとしては極度に低い、GIにおけるpHレベルでさえ、好ましい実施形態に基づく正に荷電した基は正の荷電を保持する。したがって、経口投与用に設計された本発明の被修飾SRI化合物は、GIのpHレベルによる悪影響を受けない。
【0096】
第四級アンモニウム基は、生理的pH範囲を含むあらゆるpHで正に荷電していることが知られている。したがって、本発明の好ましい実施形態による正に荷電した基は、第四級アンモニウム基である。
【0097】
本明細書において「第四級アンモニウム」とは、4個の非水素置換基に結合し、正に荷電している、分子の一部(以下に定義するアミン)を形成する窒素原子を指す。
【0098】
したがって、好ましい実施形態によれば、SRIは、一般式:
【0099】
【化4】

(式中、
Zは有機アニオン又は無機アニオンであり、
、R、及びRは、各々独立に、アルキル、アリール、及びシクロアルキルからなる群から選択される。)
で表される第四級アンモニウム基を有するように修飾される。
【0100】
好ましくは、R、R、及びRはそれぞれ炭素原子数1〜4のアルキルであり、より好ましくは、R、R、及びRはそれぞれメチルであり、それによって正に荷電した基、すなわち第四級アンモニウム基−(NMeを形成する。
【0101】
本明細書において、「アミン」という用語は−NR’R”基(式中、R’及びR”の各々は独立に、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロ脂環式、アリール、又はヘテロアリールである;これらの用語は本明細書で定義されている。)を表す。
【0102】
本明細書において、「アルキル」という用語は、直鎖及び分枝基を含む脂肪族炭化水素を表す。好ましくは、アルキル基は炭素原子」数1〜20であり、より好ましくは炭素原子数1〜10である。本明細書において数値範囲(例えば「1〜10」)が記載される場合はいつでも、その基(この場合はアルキル基)は1個の炭素原子、2個の炭素原子、3個の炭素原子等を含んでもよく、10個まで(10個を含む)の炭素原子を含んでもよいことを意味する。アルキルは置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。置換されている場合、置換基は、例えば、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ハライド、ヒドロキシ、アルコキシ、及びヒドロキシアルキルであってよい(これらの用語は本明細書で以下に定義される。)。本明細書において「アルキル」という用語は、飽和又は不飽和の炭化水素をも包含し、したがって、この用語はアルケニル及びアルキニルを更に包含する。
【0103】
「アルケニル」という用語は、本明細書で定義する不飽和アルキルを表し、少なくとも2個の炭素原子、及び少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する。アルケニルは、前述の1又は複数の置換基で置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。
【0104】
本明細書で定義される「アルキニル」という用語は、少なくとも2個の炭素原子及び少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を有する不飽和アルキルである。アルキニルは、前述の1又は複数の置換基で置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。
【0105】
「アリール」という用語は、完全に共役したパイ電子系を有する、全て炭素原子の単環式又は縮合多環式(すなわち、隣接炭素原子対を共有する環)の基を表す。アリール基は、前述の1又は複数の置換基で置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。
【0106】
「ヘテロアリール」という用語は、環中に1又は複数の原子(例えば窒素、酸素、及び硫黄)を含み、更に、完全に共役したパイ電子系を有する、単環式又は縮合環式(すなわち、隣接原子対を共有する環)の基を表す。ヘテロアリールの例としては、限定されるものではないが、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、ピリジン、ピリミジン、キノリン、イソキノリン、プリン等の基を挙げることができる。ヘテロアリール基は、前述の1又は複数の置換基で置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。代表的な例としては、チアジアゾール、ピリジン、ピロール、オキサゾール、インドール、プリン等を挙げることができる。
【0107】
正に荷電した基は、SRIの一部を形成している存在する基から、SRI上に形成してもよい。すなわち、部分的に荷電した基又は非荷電基を正に荷電した基に変えることで、又はプロトン交換相互作用に参加することができる存在する正に荷電した基を、そのような相互作用に参加できない基に変えることにより不可逆的に正に荷電させるか若しくは永久に正に荷電させることで、SRIを修飾してもよい。
【0108】
あるいは、1又は複数の炭素原子を正に荷電した基で置換することで、例えば水素原子又はその他の任意の置換基を第四級アンモニウム又は第三級スルホニウム基と交換することで、正に荷電した基をSRIに導入してもよい。
【0109】
本実施形態は更に、本明細書に記載の化合物のあらゆるエナンチオマー、プロドラッグ、溶媒和化合物、水和物、及び/又は薬学的に許容される塩を包含する。
【0110】
本明細書において、「エナンチオマー」という用語は、お互いの完全な反転物/反射物(鏡像)によってのみ相手側と重ね合わせることができる、化合物の立体異性体を指す。エナンチオマーはお互いを右手と左手のように呼ぶことから、「対掌性(handedness)」を有すると言われる。エナンチオマーは、環境自体が対掌性を有する環境下(例えば、全ての生体系)に存在するときを除いて、同一の化学的及び物理的特性を有する。
【0111】
「プロドラッグ」という用語は、インビボで活性化合物(活性親薬物)に変換される薬剤を指す。プロドラッグは、通常、親薬物の投与を容易にするために有用である。例えば、親薬物を経口投与しても生物学的に利用できないが、プロドラッグを経口投与すると生物学的に利用可能であることがある。プロドラッグはまた、医薬組成物中で、親薬物と比べて溶解性が高いことがある。プロドラッグはしばしば、インビボで活性化合物を持続放出するためにも使用される。プロドラッグの例として、限定されるものではないが、1又は複数のカルボン酸部分を有しエステル(「プロドラッグ」)として投与される、本発明の化合物を挙げることができる。このようなプロドラッグは、インビボで加水分解されて、遊離の化合物(親薬物)を提供する。選択するエステルがプロドラッグの可溶性特性及び加水分解速度の両方に影響することがある。
【0112】
「溶媒和化合物」という用語は、様々な化学量論(例えばジ−、トリ−、テトラ−、ペンタ−、ヘキサ−等)の複合体を指し、これは溶質(本発明の化合物)及び溶媒により形成され、それによって溶媒が溶質の生物学的活性に影響を与えることはない。好適な溶媒としては、例えばエタノール、酢酸等がある。
【0113】
「水和物」という用語は、上で定義した溶媒和化合物の、溶媒が水であるものを指す。
【0114】
本明細書において、「薬学的に許容される」という用語は、動物への使用、より具体的にはヒトへの使用について、連邦政府若しくは州政府の規制当局により承認されているか又は米国薬局方若しくはその他の一般に認識されている薬局方に記載されていることを意味する。したがって、本明細書において、「生理学的に好適な」及び「薬学的に許容される」という表現は相互に交換可能に使用されており、生物に大きな刺激を与えず、投与される薬剤の生物学的活性及び特性を消失させない、承認されている物質を指す。
【0115】
本実施形態による被修飾SRIは、定義から、荷電している化合物である、すなわちカチオンの形態であるため、「薬学的に許容される塩」という表現は、SRI化合物の荷電している別の種、すなわちSRI化合物の双性イオン種又は多重荷電種、及びその対イオンを指し、通常、投与される化合物の生物学的活性及び特性は消失させずに、親化合物の溶解性特徴を修飾するために、及び/又は生物への何らかの大きな刺激を減少させるために使用される。アニオンの非限定的例としては、塩化物、臭化物、オキザラート、マレアート、メシラート等を挙げることができる。
【0116】
別の好ましい実施形態によれば、SRIは一般式:
【0117】
【化5】

(式中、
Zは有機アニオン又は無機アニオンであり、
及びRは、各々独立に、アルキル、アリール、及びシクロアルキルからなる群から選択される。)
で示されるスルホニウム基を有するように修飾される。
【0118】
好ましくは、R及びRはそれぞれ炭素数1〜4のアルキルであり、より好ましくは、R及びRはそれぞれメチルであり、それによって正に荷電した基、すなわちスルホニウム−(SMeを形成する。
【0119】
本明細書において「スルホニウム」という用語は、−SR’R”(R’及びR”は、各々独立に、アルキル、シクロアルキル、ヘテロ脂環式、アリール、又はヘテロアリールである。)を意味する。
【0120】
本明細書に記載の化合物が由来してもよい例示的SRIとしては、限定されるものではないが、例えばシタロプラム、アラプロクラート、ダポクセティン、エトペリドン、フルオキセチン、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、ベンラファキシン、ジメリジン等のSSRIを挙げることができる。これらの化合物を以下の表1に示す。
【0121】
セロトニンの再取り込みを阻害するその他のSRI、例えばデスベンラファキシン、デュロキセチン、ミルナシプラン、ネファゾドン、ベンラファキシン、ブラソフェンシン、テソフェンシン、ノミフェンシン等のSNRI及びSNDRIを、正に荷電した基を有するように修飾してもよく、また、本明細書に示されるSSRIと同様に使用してもよい。
【0122】
表1に、現在知られているSSRIを、その商標名及び化学構造式と共に示す。
【0123】
【表1】



【0124】
表1から分かるように、これらのSSRIは全て、少なくとも1つのアミン基を含み、これは容易に第四級アンモニウム、すなわち正に荷電した基に変換することができる。更に表1から分かるように、これらのSSRIは全て、正に荷電した基を導入することのできる多くの置換位置を提供する。これらの化学修飾で要求されることの1つはSSRI活性の保持である。
【0125】
例えば、エトペリドンは、ピペラジン窒素原子の1つ又は両方をメチル化することができ、これによりこれらのアミンのそれぞれは第四級アンモニウムになる。フルボキサミンは、脂肪族炭素原子の1つがチオール基で置換されるように修飾することができ、これを更に第三級スルホニウム基へと修飾することができる。
【0126】
前述のように、本発明者らは本発明の実施形態を実証するためのモデルとしてシタロプラムを選択し、以下の実施例セクションで例示するように、N−メチル−シタロプラム(NMC)を調製した。以下の実施例セクションで更に実証されているように、NMCは、CNS活性を欠いた、末梢で作用するSSRI薬の有望な薬候補であることが分かった。
【0127】
以下の実施例セクションで実証されているように、NMCは、シタロプラムと同様な親和性でヒト血小板5−HTTを認識した。このことは、[H]シタロプラムを検出マーカーとして用いたヒト血小板膜の競合的結合実験で示された。NMCはまた、分離したばかりのヒト血小板による[H]5−HTの取り込みを、シタロプラムで得られたのと同一の阻害定数(Ki)値で阻害することが示された。
【0128】
NMCによる、ラット脳5−HTTへの結合及び阻害は、シタロプラムより約1桁低かった。
【0129】
NMCがBBCを通過する程度は、シタロプラムよりもかなり低いようであり、本実験で検出される閾値に近いレベルであった。腹腔内注射後のN−メチル−シタロプラムの脳への浸透は、シタロプラムの約50分の1であると推定される。
【0130】
シタロプラム及びNMCは、ヒト血小板凝集の強い阻害を示した。
【0131】
したがって、これらのデータは、NMCが強力な抗血小板薬であり、第四級窒素化合物(あらゆる生理的pHで正に荷電している)であることがNMCのBBBを通過する能力を実質的に制限していることを実証している。したがって、NMC及びその他の被修飾(例えば第四級アンモニウム)SRI化合物は、現在知られているSRIの望ましくないCNS作用をもたない、強力な抗血小板剤(血小板凝集を減少させる)である。
【0132】
本発明の別の態様によれば、本明細書に示されるSRIの製造方法が提供され、この方法は、SRI活性を実質的に保持しながら生理的pHでその荷電を保持する1又は複数の正に荷電した基を含むように、SRIを修飾することで行われる。
【0133】
方法は、SRI上に存在する化学基(例えばアミン基)をアルキル化又はアリール化することにより行われることが好ましい。あるいは、SRIにアミン基及び/又はスルホニウム基を導入してもよい。
【0134】
元々存在するアミン基をアルキル化又はアリール化する場合、方法は、このアミン基をN−アルキル化又はN−アリール化することで行われる。
【0135】
N−アルキル化及びN−アリール化は、通常、アルキル化剤/アリール化剤を利用して行われる。本明細書において「アルキル化剤/アリール化剤」という表現は、化学試薬を指し、これを使用することで、本明細書で定義されるアルキル又はアリールを反応化合物上の指定した位置に置くことができる。
【0136】
アルキル化剤又はアリール化剤の例として、限定されるものではないが、アルキル−又はアリールスルホナート、アルキレンイミン、ホスゲン、アルキル−又はアリール−トシラート、アルキル−又はアリール−トリフラート、アルキル−又はアリール−ハライド、ジアルキル−又はジアリール−スルファート、アルモキサン、トリアルキルアルミニウム、トリス(トリアルキリル)アルミニウム等を挙げることができる。好ましいアルキル化剤はヨウ化メチルである。
【0137】
アルキル化(メチル化)反応は、何十年も前からアミン及びその他の化学基に一般的に使用及び実施されてきたものであり、水溶性の親化合物中の荷電したアミンを有機溶媒に可溶性の遊離塩基形態に変換する(これは通常、重炭酸ナトリウム等の弱い塩基との二相性反応による)等、その他の準備ステップを含んでもよく、この変換により、遊離塩基形態の親化合物が、荷電を一度失って有機相を通過することが可能になる。
【0138】
本明細書において、「遊離塩基形態」とは、第四級以外のアミン基の、水溶性アンモニウム塩の形態に対して、独立した塩基形態を指す。例えば、R−NHは、R−NH3+の遊離塩基形態である。
【0139】
同様な合成経路に従い、分子の一部を既に形成している1個、2個、又は3個のアミン基をNメチル化することにより、正に荷電した基を有する更なる新規のSRI、例えばN、N、N−トリメチル−アラプロクラート、N−メチル−ダポクセティン、N−メチルピペラジン−エトペリドン、N,N−ジメチル−フルオキセチン、N、N、N−トリメチル−フルボキサミン、N、N−ジメチルピペリジン−パロキセチン、N,N−ジメチル−セルトラリン、及びN−メチル−ベンラファキシンを得ることができる。
【0140】
前述のように、また、以下の実施例セクションで実証しているように、少なくとも1つの正に荷電した基を有するように修飾されたSRIは、末梢セロトニンレベルに関連した病状を治療するために有益に使用することができる、非常に有望な薬候補である。
【0141】
したがって、本発明の別の態様によれば、対象中の中枢セロトニン(5−HT)のレベル及び/又は活性を維持しながら対象中の末梢セロトニンのレベル及び/又は活性を調節する方法が提供され、この方法は、SRI活性を保持しながら生理的pHでその荷電を保持する少なくとも1つの正に荷電した基を有するように修飾されたSRIを、対象に投与することで行われる。
【0142】
したがって、対象中の中枢セロトニン(5−HT)のレベル及び/又は活性を実質的に維持しながら対象中の末梢セロトニンのレベル及び/又は活性を調節することにおける、本明細書で示される被修飾SRIの使用が提供される。
【0143】
本明細書において、「レベル及び/又は活性を調節する」という表現は、対象の特定の意図した身体部位における物質の濃度(レベル)及び/又は活性を間接的に変化(上昇又は低下)させる意図的作用の結果を指す。
【0144】
本明細書において、「レベル及び/又は活性を実質的に維持する」という表現は、前述の定義の反対、すなわち、意図的作用の結果として、対象の特定の意図した身体部位における物質の濃度(レベル)及び/又は活性が変化(上昇又は低下)しないことを指す。
【0145】
本実施形態の文脈において、本明細書に示される被修飾SRIは、CNS中のセロトニンのレベル及び/又は活性には影響を与えず(実質的に維持する)、同時に末梢系のセロトニンのレベル及び/又は活性を調節する能力を有する。
【0146】
好ましい実施形態によれば、この末梢セロトニンのレベル及び/又は活性の調節方法は、この種の調節が有益な特定の病状を治療するために使用することができる。そのような病状としては、限定されるものではないが、例えば循環器の疾患又は障害、脳血管の疾患又は障害、虚血性心疾患(IHD)、心筋梗塞(MI)、脳卒中、肺塞栓症、2型糖尿病に関連する血管異常、肺動脈高血圧症、末梢動脈閉塞性疾患、関節リウマチ、自己免疫障害、腎不全、炎症性腸疾患、急性冠不全症候群、及び冠動脈バイパス移植後再狭窄を挙げることができる。
【0147】
前述のように、末梢セロトニンレベルは主に血小板凝集に関係し、血小板凝集は様々な病状(ほとんどが高致死率)に影響を与える。これらには、循環器の疾患又は障害、IHD、MI、脳卒中発作、肺塞栓症、糖尿病に関連する血管異常、肺高血圧症、及び動脈閉塞性疾患、並びに血塊形成に対する予防的処置及びその他の予防的な塞栓性治療が含まれる。
【0148】
したがって、本発明の更に別の態様によれば、血小板凝集及び/又は血小板−内皮細胞相互作用を減少又は予防することが有益な疾患又は障害の治療方法が提供され、この方法は、それを必要とする対象に、SRI活性を実質的に保持しながら生理的pHで荷電を保持する少なくとも1つの正に荷電した基を含むように修飾されたSRIを投与することで行われる。
【0149】
「治療有効量」又は「薬学的有効量」という用語は、活性成分又は活性成分を含む組成物の、その活性成分の適応の治療効果が得られる投与量を表す。
【0150】
したがって、本明細書に示される被修飾SRIの、血小板凝集及び/又は血小板−内皮細胞相互作用を減少又は予防することが有益な疾患又は障害の治療における使用が提供される。
【0151】
本明細書に示される全ての方法及び使用において、被修飾SRIは、対象のCNSのセロトニンレベルを、CNSセロトニンレベルの上昇であれ低下であれ、実質的に調節することができないため、CNS関連作用が避けられる。
【0152】
本発明のSRIは、例えば血塊形成の予防的処置又は予防的抗塞栓症治療に使用する際、更なる治療薬、好ましくは抗血小板剤及びその他の血小板機能阻害剤と併用することができる。
【0153】
有用な血小板機能阻害剤の例としては、限定されるものではないが、アカデシン、アナグレリド(10mg/日を超える投与量で与える)、アニパミル、アルガトロバン、アスピリン、クロピドグレル、非ステロイド系抗炎症薬、合成化合物FR−122047等のシクロオキシゲナーゼ阻害剤、クロフィブラート、カフェイン、ダナパロイドナトリウム、ダゾキシベン塩酸塩、ジアデノシン5’,5’’’−P1,P4−テトラリン酸(Ap4A)アナログ、ジフィブロチド(difibrotide)、塩酸ジラゼプ、1,2−及び1,3−グリセリルジニトラート、ジピリダモール、ドーパミン及び3−メトキシチラミン、エファガトランスルファート、エノキサパリンナトリウム、グルカゴン、Ro−43−8857及びL−700,462等の糖タンパク質Ilb/IIIaアンタゴニスト、イフェトロバン、イフェトロバンナトリウム、イロプロスト、イソカルバサイクリンメチルエステル、イソソルビド−5−モノニトラート、イタジグレル(itazigrel)、ケタンセリン及びBM−13.177、ラミフィバン、リファリジン(lifarizine)、モルシドミン、ニフェジピン、オキサグレラート(oxagrelate)、PGE、レキシパファント等の血小板活性化因子アンタゴニスト、プロスタサイクリン(PGI)、ピラジン類、ピリジノールカルバメート、ReoPro(すなわちアブシキシマブ)、スルフィンピラゾン、合成化合物BN−50727、BN−52021、CV−4151、E−5510、FK−409、GU−7、KB−2796、KBT−3022、KC−404、KF−4939、OP−41483、TRK−100、TA−3090、TFC−612、及びZK−36374、2,4,5,7−テトラチアオクタン、2,4,5,7−テトラチアオクタン2,2−ジオキシド、2,4,5−トリチアヘキサン、テオフィリンペントキシフィリン、ピコタミド及びスロトロバン等のトロンボキサン阻害剤及びトロンボキサン合成酵素阻害剤、チクロピジン、チロフィバン、トラピジル及びチクロピジン、トリフェナグレル、トリリノレイン、3−置換5,6−ビス(4−メトキシフェニル)−1,2,4−トリアジン、及び糖タンパク質Ilb/IIIaに対する抗体、並びに米国特許第5,440,020号に開示されている抗体、並びにその他のあらゆる抗セロトニン薬を挙げることができる。
【0154】
より好ましくは、抗血小板剤は、アスピリン、クロピドグレル、アブシキシマブ、アルガトロバン、シロスタゾール、ダナパロイド、ダゾキシベン、ジピリダモール、エプチフィバチド、チクロピジン、又はチロフィバンである。
【0155】
血小板凝集に関連する病状を治療するために有益に使用することができるその他の治療剤としては、ヘパリン、ワルファリン、アセノクマロール、フェンプロクーモン、フェニンジオン、ヒルジン等の抗凝固剤及び一酸化窒素(NO)供与剤等を挙げることができる。
【0156】
本明細書に示される被修飾SRIは、それ自体を利用することもできるし、医薬組成物の一部として利用することもできる。したがって、本発明の更に別の態様によれば、活性成分として本明細書に示されるSRI及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物が提供される。
【0157】
本明細書に示される医薬組成物又は医薬は、前述の更なる治療薬を含んでもよい。
【0158】
本明細書において、「医薬組成物」とは、薬学的に許容される好適な担体及び賦形剤等、他の化学成分を含む、本明細書に示されるSRIの調製物を指す。医薬組成物の目的は、生物への化合物の投与を容易にすることである。
【0159】
以後、「薬学的に許容される担体」という用語は、生物に大きな刺激を与えず、投与されるSRIの生物学的活性及び特性を消失させることのない、担体又は希釈剤を指す。担体の例としては、限定されるものではないが、プロピレングリコール、生理食塩水、エマルション、及び有機溶媒と水の混合物、並びに固体状(例えば粉末化した)担体及び気体状担体を挙げることができる。
【0160】
本明細書において、「賦形剤」という用語は、薬の投与を更に容易にするために医薬組成物に添加される不活性物質を指す。賦形剤の例として、限定されるものではないが、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、各種の糖、各種デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油、及びポリエチレングリコールを挙げることができる。
【0161】
薬の製剤及び投与技術は「Remington’s Pharmaceutical Sciences」Mark Publishing Co.,Easton,PAの最新の版に見つけることができ、これを参照により本明細書に援用する。
【0162】
したがって、本発明に基づく使用のための医薬組成物は、SRIを薬学的に使用可能な調製物に加工しやすくする、賦形剤及び補助剤を含む1又は複数の薬学的に許容される担体を用いて、従来の方法で製剤することができる。適切な製剤は、選択する投与経路に依存する。用量は、使用する剤形及び利用する投与経路により変わり得る。正確な製剤、投与経路、及び用量は、患者の状態を考慮して個々の医師が選択することができる(例えば「The Pharmacological Basis of Therapeutics」第1章1頁のFinglら.、1975参照)。
【0163】
医薬組成物は、局所性の治療若しくは投与が好ましいか全身性の治療若しくは投与が好ましいかによって、また、治療する領域によって、1又は複数の経路で投与するために製剤されてもよい。投与は、経口的に又は吸入によって行われてもよいし、あるいは、例えば静脈内点滴、又は腹腔内、皮下、筋肉内、若しくは静脈内への注射により非経口的に行われてもよく、局所的(眼、膣、直腸、鼻腔内を含む)に行われてもよい。
【0164】
局所投与用の製剤としては特に限定されないが、例えばローション剤、軟膏、ゲル、クリーム、坐剤、点滴、液剤、スプレー、及び散剤を挙げることができる。従来の薬学的担体、水性基剤、粉末基剤、油性基剤、増粘剤等が必要であるか又は望ましくてもよい。
【0165】
経口投与用の組成物としては、例えば散剤又は顆粒剤、懸濁液又は水溶液又は非水性媒体、サシェ、丸剤、カプレット、カプセル剤、又は錠剤が含まれる。増粘剤、希釈剤、矯味剤、分散補助剤、乳化剤、又は結合剤が好ましいこともある。
【0166】
非経口投与用の製剤としては特に限定されないが、例えば滅菌溶液があり、これは緩衝剤、希釈剤、及びその他の好適な添加剤を含んでもよい。徐放性組成物も治療に想定される。
【0167】
投与される組成物の量は当然、治療の対象、苦痛の重傷度、投与方法、処方する医師の判断等により変わる。
【0168】
本発明の組成物は、所望であれば、FDA(米国食品医薬品局)に承認されたキット等のパック又はディスペンサー器に提供されてもよく、これは、活性成分を含む剤形を1又は複数単位含んでもよい。パックは、限定されるものではないが、ブリスターパック又は高圧容器(吸入用)等の、例えば金属箔又はプラスチック箔を含んでもよい。パック又はディスペンサー器には、投与のための指示書が添付されてもよい。パック又はディスペンサーはまた、医薬の製造、使用、又は販売を規制する政府機関により規定された形式の、容器に付随する表示を伴ってもよく、この表示はヒト又は動物に投与する組成物の形態が、その機関に承認されていることを反映するものである。そのような表示は、例えば処方薬についての米国食品医薬品局により承認されたラベル、又は承認された製品であることの掲載であってもよい。適合性のある薬学的担体中に製剤される、本発明のSRIを含む組成物はまた、製造され、適当な容器中に置かれ、上に詳述した特定の病状、疾患、又は障害の治療用のラベルを施されてもされてよい。
【0169】
好ましい実施形態によれば、中枢セロトニン(5−HT)のレベル及び/又は活性を実質的に維持しながら対象中の末梢セロトニンのレベル及び/又は活性を調節することが有益な病状(これらについては前述)の治療に使用するための医薬組成物は、包装材中に包装されており、包装材中又は包装材上の印刷によって識別される。
【0170】
別の好ましい実施形態によれば、血小板凝集及び/又は血小板−内皮細胞相互作用を減少又は予防することが有益な疾患又は障害(これらについては前述)の治療に使用するための医薬組成物は、包装材に包装されており、包装材中又は包装材上の印刷によって識別される。
【0171】
したがって、血小板凝集及び/又は血小板−内皮細胞相互作用を減少又は予防することが有益な疾患又は障害を治療するための医薬の製造における、本明細書に示される被修飾SRIの使用が提供される。
【0172】
また、中枢セロトニン(5−HT)のレベル及び/又は活性を実質的に維持しながら対象中の末梢セロトニンのレベル及び/又は活性を調節することが有益な病状を治療するための医薬の製造における、本明細書に示される被修飾SRIの使用が提供される。
【0173】
本発明の更なる目的、利点、及び新規な特徴は、以下の実施例を検討することによって当業者に明らかになるであろう。以下の実験は限定することを意図するものではない。更に、上述した、及び以下の特許請求の範囲で請求されている、本発明の様々な実施形態及び態様のそれぞれの実験的裏付けは、以下の実施例中に見られる。
【実施例】
【0174】
ここで、上記の説明と共に本発明を非限定的に説明する以下の実施例をする。
【0175】
材料及び実験方法
シタロプラムは、Sigma−Aldrich Israel Ltd.社から入手した。 セロトニン(5−HT)は、Sigma−Aldrich Israel Ltd.社から入手した。 [H]セロトニン([H]5−HT)は、Perkin Elmer Life Sciences(Boston、MA、USA)社から入手した。
H]シタロプラムは、Perkin Elmer(MA、USA)社から購入した。
試料のホモジナイズは、Kinematica Polytron(登録商標)ホモジナイザー機(Westbury、NY、USA)を用いて行った。
脳組織試料は、ポッター・エルヴェージェム(PTFE製の内筒及びガラス管の粉砕機)を用いて破砕した。
DPM中で発現しているトリチウム濃度は、packard社のβ放出液体シンチレーション分析機Tri−Carb2100TRを用いて測定した。
【0176】
N−メチル−シタロプラムの調製:
N−メチル−シタロプラム(NMC、1.8グラム)を、親化合物シタロプラムの遊離塩基形態から、ヨウ化メチルによるメチル化によって合成した。ジクロロメタンに溶かしたシタロプラム(1グラム)溶液(20ml)に重炭酸ナトリウム(20ml)の飽和溶液を添加した。この反応混合液を数分混合し、次いで2相に分離させた。有機相を減圧下に濃縮して得られた遊離塩基形態のシタロプラム0.5グラムを、更に精製することなく次のステップに使用した。
【0177】
アセトンに溶かした遊離塩基形態のシタロプラム(1グラム、3.08mmol)の冷却溶液に、ヨウ化メチル(10当量)を加えた。この混合物を一晩加熱環流し、その後、溶媒を減圧留去し、N−メチルシタロプラム(NMC、0.5グラム、1.5mmol、収率50.5)を得た。NMCの純度、及びシタロプラムが存在しないことを、HPLCで確認した。
【0178】
H]N−メチル−シタロプラムの調製:
比活性70Ci/mmolの[H]ヨウ化メチル(C[H]I)を吸引して、遊離塩基形態のシタロプラムを含むトリチウム化産物用容器に移した。数時間インキュベートした後、全ての揮発物質を減圧留去した。粗残渣をHPLCで精製し、99%を超える放射化学的純度の[H]N−メチル−シタロプラムを得た。
【0179】
結合アッセイ用のヒト血小板膜の調製:
午前中(午前8時と10時の間)に、健常ボランティアからヒト血液試料(25ml)を、抗凝固剤として1mMのEDTAを含むプラスチックチューブに採取した。血液細胞から多血小板血漿を低速遠心(350g、10分間)で分離し、50mMトリス/HClバッファーpH7.4(120mM NaCl及び5mM KClを含む)に希釈し、1700gで20分間遠心した。上清を捨て、最終的な膜ペレットを、使用(通常2日以内)まで−70℃で凍結保存した。
【0180】
使用日に、血小板膜ペレットを、pH7.4の50mMトリスHClバッファー(120mM NaCl及び5mM KClを含む)20ml中でBrinkman polytronを用いて破砕し、27,000gで20分間の遠心を2回行った。次いで9mlのバッファーに再懸濁し、最終タンパク質濃度約0.8mg/mlとした。
【0181】
ヒト血小板への[H]シタロプラム結合アッセイ:
5−HTトランスポーター(5−HTT)への[H]シタロプラムの結合を、Plengeら[20]の方法を改変して用いて測定した。標準的結合アッセイには、200μlのホモジネート、100μlの[H]シタロプラム(2nM)、及び50μlのバッファー又は被験薬を含めた。25℃で60分間インキュベートした後、ホモジネートを3mlの氷冷バッファーに希釈し、Whatman GF/Cガラス繊維フィルターで濾過した。フィルターを3mlの氷冷バッファーで3回洗浄し、βカウンターでシンチレーション液中の放射活性を測定した。[H]シタロプラムの全結合(3回の試料)と10nMフルオキセチン存在下での結合(3回の試料)の差として特異的結合を定義する。
【0182】
ラット脳膜への[H]シタロプラム結合アッセイ:
ラット脳皮質を、50倍体積の50mMトリスHClバッファーpH7.4(120mM NaCl及び5mM KClを含む)中でBrinkman polytronを用いて破砕し、30,000gで10分間遠心(3回)した。次いで、同じバッファーに再懸濁し、最終濃度を約21mg/ml(湿重量)とした。[H]シタロプラムの結合は、Plengeら[20]の方法を改変して用いて測定した。標準的な結合アッセイには、100μlのホモジネート、100μlの[H]シタロプラム(1nM)、並びに300μlのバッファー、又は250μlのバッファー及び50μlの被験薬を含めた。25℃で60分間インキュベートした後、ホモジネートを3mlの氷冷バッファーに希釈し、Whatman GF/Cガラス繊維フィルターで濾過した。フィルターを3mlの氷冷バッファーで3回洗浄し、βカウンター中でシンチレーション液中の放射活性を測定した。[H]シタロプラムの全結合(3回の試料)と10nMフルボキサミン存在下での結合(3回の試料)の差として特異的結合を定義する。
【0183】
H]5−HTの取り込みを測定するためのヒト血小板の分離:
午前中(午前8時と10時の間)に、健常ボランティアからヒト血液試料(25ml)を、抗凝固剤として1mMのEDTAを含むプラスチックチューブに採取した。多血小板血漿(PRP)を低速遠心(350g、10分間)で分離した。このPRPを、バッファーA(19mMのリン酸バッファー、0.119mMのNaCl、3.9mMのKCl、0.65mMのMgSO、0.51mMのCaCl、2mg/mlのグルコース、0.2mg/mlのアスコルビン酸、1.6×10−4MのEDTA、及び5.0×10−5Mのパルギリン;pH7.4)に1:1で希釈し、1700gで20分間遠心した。血小板ペレットをバッファーAに穏やかに再懸濁し(1ml当たり10〜10血小板)、[H]5−HT取り込みの測定に使用した。
【0184】
ヒト血小板による[H]5−HT取り込みアッセイ:
以前に記述されているように[21]、[H]5−HT取り込みアッセイを行った。標準的アッセイには、200μlの洗浄血小板、50μlの[H]5−HT、及び50μlのバッファーA又は被験薬を含めた。このチューブを37℃で10分間プレインキュベートし、その時点で[H]5−HTを添加した(50nM)。37℃で2分間インキュベートした後、チューブを氷上で急冷して反応を停止させ、この混合物をガラス繊維フィルター(GF/C)で減圧濾過した。フィルターを氷冷バッファーAで洗浄し、シンチレーション液中の放射活性をβカウンターでカウントした。37℃における全[H]5−HT取り込み(3回の試料)と0℃で測定した取り込み(3回の試料)との差を特異的取り込みと定義する。
【0185】
ラット脳シナプトソームへの[H]5−HT取り込みの測定:
ラット脳皮質試料を、テフロン−ガラス製粉砕機を用いて、10倍体積の0.32Mスクロース中でホモジナイズした。ホモジネート試料を1000gで10分間遠心して得られた、シナプトソームを含む上清(SI)を、[H]5−HT取り込みの測定に使用した。
【0186】
以前に記述されているように[21]、[H]5−HT取り込みアッセイを行った。標準的アッセイには、50μlのシナプトソーム、50μlの[H]5−HT、並びに900μlのバッファーA(19mMのリン酸バッファー、0.119mMのNaCl、3.9mMのKCl、0.65mMのMgSO、0.51mMのCaCl、2mg/mlのグルコース、0.2mg/mlのアスコルビン酸、1.6×10−4MのEDTA、及び5.0×10−5Mのパルギリン;pH7.4)、又は850μlのバッファーA及び50μlの被験薬を含めた。このチューブを37℃で10分間プレインキュベートし、その時点で[H]5−HT(50nM)を添加した。37℃で4分間インキュベートした後、チューブを氷上で急冷して反応を停止させ、この混合物をガラス繊維フィルター(GF/C)で減圧濾過した。フィルターを氷冷バッファーAで洗浄し、βカウンター中でシンチレーション液中の放射活性をカウントした。37℃における全[H]5−HT取り込み(3回の試料)と0℃で測定した取り込み(3回の試料)との差を特異的取り込みと定義する。
【0187】
血小板凝集測定用のヒト血小板試料の調製:
本明細書に示される化合物の重要かつ必須な特徴の1つは、脳に浸透しないためにCNSに作用しない化合物による血小板凝集の阻害に関係している。N−メチル−シタロプラムの強力な抗血小板効果は、インビボでの投与でも得られると予想される。以下に示すのは、セロトニン(5−HT)を用いて凝集を誘導した後の、N−メチル−シタロプラムのヒト血小板凝集阻害剤としての活性を測定しているインビトロアッセイである。
【0188】
新鮮なヒト多血小板血漿(PRP)を以下のように調製した:ヒト血小板を、25〜35歳の薬を何も摂取していない健常ボランティアから10mlの静脈血試料を採取し、2時間以内に、凝集について試験した。Greiner Bio−one社製のVacuette Holdex(カタログ番号450263)及び翼状の血液採取セット(Greiner bio−one社製、#450153)を用いて、静脈血をクエン酸の入ったバキュテナーチューブ(Vacutainer tubes)(BD社製、#9NC、0.105M)に採った。血液を採取してすぐに、このチューブを数回上下を反転して穏やかに混合した。血液採取から45分後に、室温にて110gで10分間、スイングバケット式の遠心機で遠心することで多血小板血漿(PRP)を調製した。得られたPRP試料を新たなチューブに移し、血液を再度1900gで10分間遠心して、乏血小板血漿(PPP)を得た。各PRP試料について、同じドナーの対応するPPP試料を用いて血小板凝集計を較正した。
【0189】
ADP誘導ヒト血小板凝集の測定:
Helena PACKS4血小板凝集計(Helena Laboratories社製、Beaumont、Texas)を用いて、以前に記述されているように[22]、PRP中の血小板凝集を測定した。調製したばかりのヒトPRP198μl及び被験化合物22μlからなる試料を、血小板凝集計中で37℃にて15分間インキュベートした。シタロプラム又はN−メチル−シタロプラムのストック溶液を、カルシウムを含まないリン酸緩衝生理食塩水(PBS;Biological Industries社製、Israel、Cat.02−023−5A)に溶解し、最終指示濃度の10倍の濃度の溶液とした。対照の測定には、PBSを22μl添加した。
【0190】
インキュベートの最後の30秒に、セロトニン11μlを添加し(セロトニン最終濃度50μM;新たに調製したセロトニンのPBS溶液)、30秒後、インキュベートの終わりにアデノシン二リン酸(ADP)25μlを添加した(最終濃度1.25μM;新たに調製したADPのPBS溶液)。血小板凝集計中の血小板凝集の測定は、ADPの添加(この時点を「ゼロ」と呼ぶ)から5分間続けた。
【0191】
インビボにおける、[H]N−メチル−シタロプラムのBBB通過の測定:
これらのインビボ実験は、腹腔内注射後に[H]N−メチル−シタロプラムがマウスの脳に通過しないことを実証するために行われた。
【0192】
H]N−メチル−シタロプラムを、Vitrax(CA、USA)を用い、比放射活性70Ci/mmolで調製し、非標識メチル−シタロプラムと化学的に同一であることをHPLCで示した。比較として、[H]シタロプラムの比放射活性は79Ci/mmolであった。
【0193】
放射活性化合物[H]N−メチル−シタロプラム及び[H]シタロプラムのぞれぞれを、注射する化合物の投与量が体重1グラム当たり1.5μgとなるように、同じ非標識化合物に希釈した(体重範囲:31〜43グラム;注射容量範囲:生理食塩水中、155〜215μl)。[H]標識化合物の放射活性量(投与されたうちの、1分当たりの壊変数;DPM)は、[H]N−メチル−シタロプラムの重量1グラム当たり318,000DPM、又は[H]シタロプラムの重量1グラム当たり174,000DPMであった。このプロトコールにより、投与されたシタロプラム投与量を、ヒトの臨床で推奨される用量の上端である体重1kg当たり1.5mgシタロプラムと同様にすることができる。
【0194】
マウスに20mg/kgのペントバルビタールを腹腔内注射し、10分後に生理食塩水で約2分間灌流した。灌流は、残った血液を脳組織から取り除くために必要であり、ペントバルビタールの使用は動物福祉の点から義務的なものである。放射性化合物を腹腔内注射した時点から5、10、20、又は40分後に生理食塩水/ヘパリン灌流を開始した。灌流の最後に、マウスを断頭し、切開した脳を氷冷生理食塩水で30秒間洗浄した。Atlas of the Mouse Brain [23]に基づいて大脳皮質組織を切開し、すぐに計量した(重量範囲:132〜205mg)。その後、テフロン/ガラス製粉砕機を用いて、10倍体積の蒸留水中でこの組織をホモジナイズした。500μlのホモジネート試料中の、DPMで表した放射活性は、液体シンチレーションカウンター(モデル2100TR、Packard社製、USA)でカウントし、内部標準を用いたDPMで補正した。
【0195】
実験結果
N−メチル−シタロプラムの調製:
ヨウ化メチルを用いてシタロプラムをメチル化することで、N−メチル−シタロプラム(NMC、1.8グラム)を合成した。NMCの純度、及びシタロプラムが存在しないことを、HPLCで確認した。
【0196】
ヒト血小板への[H]シタロプラム結合アッセイ:
ヒト血小板中の5−HTトランスポーター(5−HTT)へのN−メチル−シタロプラム(NMC)の親和性を、前述のように、シタロプラムの親和性と比較した。
【0197】
図1は、NMC又はシタロプラムによる、ヒト血小板膜セロトニントランスポーターへの[H]シタロプラムの結合の阻害を、競合阻害剤濃度の関数として表した比較プロットである。[H]シタロプラムを標識リガンドとして用い、ヒト血小板膜中で行う競合的結合実験によりアッセイを行った。
【0198】
図1から分かるように、シタロプラムがヒト血小板5−HTTを認識するのと同様な親和性で、N−メチル−シタロプラムはヒト血小板5−HTTを認識した(Ki値:NMC及びシタロプラム、それぞれ、2.8及び1.8nM)。
【0199】
図2は、NMC又はシタロプラムの存在による、調製したばかりの無傷(intact)のヒト血小板におけるセロトニン取り込みの阻害を、被験化合物の濃度の関数として[H]セロトニンの取り込みの阻害率で表した、比較プロットである。
【0200】
図2から分かるように、分離したばかりのヒト血小板において、NMCは[H]5−HT取り込みを阻害し、その阻害定数(Ki)値は3.3nMであった。この値は、シタロプラムについて測定された値とほぼ同じであった。
【0201】
ヒト血小板において、[H]シタロプラムの結合に競合し、[H]5−HT取り込みを阻害する、シタロプラムと同様なNMCの能力から明らかなように、NMCは有望な抗血小板剤である。
【0202】
ラット脳における[H]シタロプラム結合及び[H]5−HT取り込みのアッセイ:
図3は、N−メチル−シタロプラム(NMC)又はシタロプラムによる、ラット脳膜セロトニントランスポーター(5−HTT)への[H]シタロプラムの結合の阻害を、競合阻害剤の濃度の関数として表した、比較プロットである。ラット脳膜中における5−HTT結合実験のKi値は、NMCが7.5nM、シタロプラムが0.4nMであった。
【0203】
図4は、被験化合物NMC及びシタロプラムの存在による、調製したばかりのラット脳シナプトソームにおける[H]セロトニン取り込みの阻害を、[H]セロトニン取り込みの阻害率で表した、比較プロットである。ラット脳シナプトソームにおける[H]5−HT取り込み実験のKi値は、NMCが30nM、シタロプラムが4nMでった。
【0204】
図3及び4から分かるように、ヒト血小板においてNMCがSSRI薬シタロプラムと同様な親和性で5−HTTを認識し、[H]5−HT取り込みを阻害することが観察されたこととは対照的に(図1及び2参照)、ラット脳における5−HTTへの結合及び阻害で表されるNMCの活性はシタロプラムよりも1桁低かった。
【0205】
長期的治療の間に少量のNMCがBBBを通過することがあっても、CNSの5−HTTへのその生物学的CNS活性は、シタロプラムとの比較及びヒト血小板5−HTTに対するNMCの作用との比較で約10分の1であり、このことは、ラット脳において[H]シタロプラムへの結合及び[H]5−HTの取り込み阻害に対して競合する親和性がシタロプラムと比べて低下していること(それぞれ、約20分の1及び8分の1)から示される(図3及び4参照)。
【0206】
この差は、脳と血小板の[H]シタロプラム結合のKi値の比を各化合物について検討することで更によりはっきりする。シタロプラムでは、脳/血小板比は0.22であり、NMCでは2.7である(すなわち、脳におけるNMCのKi値は、血小板におけるKi値の2.7倍大きい)。したがって、シタロプラムが血小板の5−HTTよりも脳の5−HTTを好んで(ほぼ5倍)認識するのに対し、NMCでは反対のことが観察され、血小板の5−HTTを好んで認識する。
【0207】
このパターンはまた、[H]5−HT取り込みのKi値でも見られる。脳/血小板のKi比は、シタロプラムでは1.2であり(両方の組織でほぼ同様のKi値)、NMCでは9である(血小板で9倍強力)。
【0208】
今のところ、NMCが脳の5−HTTよりも血小板を「好む」ことの説明はない。注目すべきは、ヒト及びげっ歯類のどちらも単一の5−HTT遺伝子を有し、かつ現在のところ、この遺伝子が組織特異的な選択的スプライシングを受けるという証拠はなく、そのため、5−HTTアミノ酸配列は脳と血小板で全く同じであると考えられている。しかし、血小板の5−HTTと比較して、脳の5−HTTは異なるグリコシル化パターン若しくはその他の異なる翻訳後修飾パターン、及び/又は異なる脳特異的タンパク質のオリゴマー化状態を有している可能性があり、その特性により、NMC等の荷電した化合物は、血小板の5−HTTと比べて脳の5−HTTを認識することがより困難になっているということがあり得る。この推論に従えば、シタロプラム等の疎水性の高い分子にはそのような制限がなく、脳及び血小板の5−HTTをほぼ同様な親和性で認識することができる。
【0209】
ADP誘導ヒト血小板凝集の測定:
セロトニンは、古典的な血小板アゴニストであるADP[24、25]、コラーゲン[26]、又はアドレナリン[27]の血小板凝集作用を増強することが知られており、これらの実験では、血小板凝集を誘導するためにADPを一緒に使用している。これは、被験化合物であるシタロプラム及びN−メチル−シタロプラム(100μM)の両方が、50μMのセロトニン存在下で1.25μMのADPで誘導されたヒト血小板凝集を強く阻害することができることを示すために使用している。
【0210】
多血小板血漿(PRP)試料を、前述のように、被験化合物又はPBS対照と共にプレインキュベートした。図5は、健康なドナーの試料について記録した血小板凝集測定の比較プロットであり、シタロプラム(「チャネル4」、茶色で示すプロット)、N−メチル−シタロプラム(「チャネル3」、青色で示すプロット)、及び対照PBS(「チャネル2」、赤色で示すプロット)による,ヒト血小板凝集の阻害率を示している。
【0211】
図6は、同じ健康なドナーから採取した試料について測定した、図5に示す実験の再現であり、シタロプラム(「チャネル3」、青色で示すプロット)、N−メチル−シタロプラム(「チャネル2」、赤色で示すプロット)、及び対照PBS(「チャネル1」、緑色で示すプロット)による、ヒト血小板凝集の阻害率を示している。
【0212】
図5及び6から分かるように、ADPを添加すると、約20秒以内に血小板凝集が開始する。PRP試料をPBSと15分間プレインキュベートしたもの(対照)では、血小板凝集計による5分間の観察期間中に、血小板凝集は可能な最大の凝集の85.1%又は91.8%の値(それぞれ図5及び6に示す測定値)まで達した。PRP試料をシタロプラム(終濃度100μM)とプレインキュベートしたものでは、凝集は、可能な最大の凝集の23.1%及び28.7%の値(それぞれ図5及び6に示す測定値)にしか達しなかった。PRP試料をN−メチル−シタロプラム(終濃度100μM)とプレインキュベートしたものでは、凝集は、可能な最大の凝集の20.2%及び22.9%の値(それぞれ図5及び6に示す測定値)にしか達しなかった。
【0213】
どちらの被験化合物も、強い血小板凝集阻害を示した。
【0214】
ここで、被験化合物及び対照PBSの両方で、よく似た血小板凝集の初期段階があり、これはADPを添加してから約40秒〜75秒の間に起こった。しかし、PBS対照では、ADPを添加してから約75秒〜300秒の間に血小板凝集の第2段階が生じたのに対し、シタロプラム又はN−メチル−シタロプラムとプレインキュベートしたPRP試料では、この第2段階は全く存在しなかった。
【0215】
具体的には、被験化合物は、血小板凝集の第2(より緩慢な)段階を遮断すると考えられる。更に、これらのデータはインビトロでの阻害を表しているが、これらのデータは、健康なドナーの、分離したばかりのヒト血小板で得られたものであり、ヒトボランティアに被験化合物を与える許可と同等な、可能な最も厳密な実証である。しかし、前述のように、(他のSSRI薬のなかでも)被験化合物の1つであるシタロプラムが、シタロプラムを長期的に摂取している患者の虚血性心疾患及びMIのリスクを実質的に低下させることが示されていることを考慮すると、ここで、N−メチル−シタロプラムが、脳に浸透することなく、そのためSSRI薬に典型的な望ましくないCNS作用を伴わずに、同じ有益な効果をインビボで誘導することができるであろうことが言える。
【0216】
インビボにおける[H]N−メチル−シタロプラムのBBB通過の測定:
N−メチル−シタロプラムが、非荷電の対応物質シタロプラムとは反対に、腹腔内注射後にマウス脳に浸透しないことが、これらの[H]標識試料を用いて示されるように、実験を計画した。[H]N−メチル−シタロプラム又は[H]シタロプラムの注射後の様々な時間において検出された、1分当たりの壊変数(DPM)の値を図7に示す。
【0217】
図7は、[H]N−メチル−シタロプラム(赤色の丸で示す)及び[H]シタロプラム(黒色の長方形で示す)のいずれかを腹腔内注射後、記載されている時間経過した時点における、マウス大脳皮質試料での1分当たりの[H]壊変現象(DPM)の累積の比較プロットである。これらの値は、各化合物につき3匹のマウスの平均値+/−標準偏差(SD)で表し、40分の時点のものは、1匹のマウスの値を表す。N−メチル−シタロプラムを注射されたマウスの測定値のSD値は、小さ過ぎてこのスケールでは示されなかった。
【0218】
図7から分かるように、[H]シタロプラムは、臨床に関連する投与量である体重1kg当たり1.5mgを注射した後すぐ、容易に脳に進入し、40分で大脳皮質ホモジネート試料500μl当たり約3350DPMに達し、これは大脳皮質全体では約13,400DPMに相当する。
【0219】
明確に対照的に、同様な投与量(体重1kg当たり1.5mg)の[H]N−メチル−シタロプラムを投与した後、マウスの脳ホモジネート試料では、非常に低量の放射活性しか検出されず、このことは図7に明確に見ることができる。これらの脳ホモジネート試料の、DPMで表した放射活性レベルは、[H]シタロプラムを注射されたマウスの放射活性レベルの約30分の1であった。これらのDPMカウントは、50DPM(5分)〜110DPM(40分)の範囲であり、バックグラウンド放射活性の約20DPMよりわずかに高いだけであった。
【0220】
注射された[H]N−メチル−シタロプラムの放射活性量が、[H]シタロプラムの放射活性量のほぼ2倍であったことを考慮すると、これらのデータは、[H]N−メチル−シタロプラムの脳への浸透は、[H]シタロプラムの脳への浸透の50分の1にも満たないことを示している。
【0221】
これらの結果は、[H]N−メチル−シタロプラムが、腹腔内注射後に、マウス脳に浸透しないか、又は最小限しか浸透しないことを明確に示している。これらの結果に基づくと、腹腔内注射後のN−メチル−シタロプラムの脳への浸透は、シタロプラムの脳への浸透の約50分の1であると推定される。末梢器官に投与された後の化合物の振舞いは、ヒト又はマウスの脳への浸透に関して同様であることがよく確立されている。したがって、マウスの脳に入らない又は最小限しか入らない化合物は、ヒトの脳への浸透でも同じパターンを示すであろう。
【0222】
上記の結果は、NMCは、BBBの通過及び脳への浸透が不可能であるため、シタロプラムのCNSへの有害な流入がない一方でシタロプラムと同様な効力を有する、有望な抗血小板薬であることを明確に示している。これらの観察結果は、同様な第四級窒素SRI化合物が、窒素原子が第三級であるためにBBBを通貨するその親化合物と同様に、ヒト血小板の5−HTTを認識してその活性を阻害する能力を維持している可能性があることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0223】
したがって、NMC及び同様な第四級SRI化合物は、現在のSRI化合物に伴うことのある感情の平坦化、性欲減退、攻撃性等の、現在市販されているSRI薬の望ましくないCNS作用がない、抗血小板剤(血小板凝集を減少させる)としての臨床的な可能性を有する。
【0224】
明確に説明するために別々の実施形態中で記載した本発明の特定の特徴を組み合わせて1つの実施形態で提供してもよく、逆に、簡潔にするために1つの実施形態中で記載した本発明の様々な特徴を別々に、又は好適なサブコンビネーションとして提供してもよいと理解される。
【0225】
本発明を、その具体的な実施形態と共に説明してきたが、数多くの変更、修正、及び変形が当業者に明らかであることは明白である。したがって、添付の請求項の精神及び広い範囲に入るそのような変更、修正、及び変形が包含される。本明細書中で言及された全ての刊行物、特許、及び特許出願の全体を、個々の刊行物、特許、又は特許出願それぞれが、個別に、参照により本明細書に援用されることを特別に意図したものであるのと同じ程度に、参照により本明細書に援用する。また、本願中のどの参考文献の引用又は特定も、これらの参考文献が本発明の先行技術として利用可能であることを容認するものであると解釈されるべきではない。
【0226】
参照番号で引用した参考文献
(その他の参考文献は本文中に引用されている)
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの正に荷電した基を含むように修飾されているセロトニン再取り込み阻害(SRI)化合物であって、前記少なくとも1つの正に荷電した基が、前記被修飾SRI化合物がSRI活性を実質的に保持しながらその荷電を生理的pHで保持するように選択される、SRI化合物。
【請求項2】
前記正に荷電した基が第四級アンモニウム基である、請求項1に記載のSRI化合物。
【請求項3】
前記第四級アンモニウム基が、式:

(式中、
Zは有機アニオン又は無機アニオンであり、
、R、及びRは、各々独立に、アルキル、アリール、及びシクロアルキルからなる群から選択される。)
で表される、請求項2に記載のSRI化合物。
【請求項4】
、R、及びRが、各々独立に、炭素原子数1〜4のアルキルである、請求項3に記載のSRI化合物。
【請求項5】
前記アルキルがメチルである、請求項4に記載のSRI化合物。
【請求項6】
前記正に荷電した基が第三級スルホニウム基である、請求項1に記載のSRI化合物。
【請求項7】
前記第三級スルホニウム基が、式:

(式中、
Zは有機アニオン又は無機アニオンであり、
及びRは、各々独立に、アルキル、アリール、及びシクロアルキルからなる群から選択される。)
で表される、請求項6に記載のSRI化合物。
【請求項8】
及びRが、各々独立に、炭素原子数1〜4のアルキルである、請求項7に記載のSRI化合物。
【請求項9】
前記アルキルがメチルである、請求項8に記載のSRI化合物。
【請求項10】
選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)、セロトニン−ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(SNRI)、及びセロトニン−ノルアドレナリン−ドーパミン再取り込み阻害剤(SNDRI)からなる群から選択される化合物に由来する、請求項1に記載のSRI化合物。
【請求項11】
前記SSRIが、シタロプラム、アラプロクラート、ダポクセティン、エトペリドン、フルオキセチン、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、ベンラファキシン及びジメリジンからなる群から選択される、請求項10に記載のSRI化合物。
【請求項12】
前記SNRIが、デスベンラファキシン、デュロキセチン、ミルナシプラン、ネファゾドン、及びベンラファキシンからなる群から選択される、請求項10に記載のSRI化合物。
【請求項13】
前記SNDRIが、ブラソフェンシン、テソフェンシン、及びノミフェンシンからなる群から選択される、請求項10に記載のSRI化合物。
【請求項14】
シタロプラムに由来する、請求項11に記載のSRI化合物。
【請求項15】
N−アルキル−シタロプラムである、請求項14に記載のSRI化合物。
【請求項16】
前記アルキルがメチルである、請求項15に記載のSRI化合物。
【請求項17】
CNS中のセロトニンのレベル及び/又は活性を実質的に調節することができない、請求項1〜15のいずれか1項に記載のSRI化合物
【請求項18】
CNS中のセロトニンのレベル及び/又は活性を実質的に低下させることができない、請求項17に記載のSRI化合物。
【請求項19】
N−アルキル−シタロプラム。
【請求項20】
N−メチル−シタロプラム。
【請求項21】
少なくとも1つの正に荷電した基を生成するように前記SRI化合物を修飾することを含む、請求項1に記載のSRI化合物の製造方法。
【請求項22】
前記SRI化合物がアミン基を有する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記修飾が、前記アミン基のN−アルキル化又はN−アリール化を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記修飾が、アルキル−スルホナート、アリール−スルホナート、アルキレンイミン、ホスゲン、アルキル−トシラート、アリール−トシラート、アルキル−トリフラート、アリール−トリフラート、アルキル−ハライド、アリール−ハライド、ジアルキル−スルファート、ジアリール−スルファート、アルモキサン、トリアルキルアルミニウム及びトリス(トリアルキリル)アルミニウムからなる群から選択されるアルキル化剤によりなされる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記アルキル化剤がヨウ化メチルである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
請求項1〜20のいずれか1項に記載のSRI化合物を対象に投与することを含む、前記対象中の中枢セロトニン(5−HT)のレベル及び/又は活性を実質的に維持しながら前記対象中の末梢セロトニンのレベル及び/又は活性を調節する方法。
【請求項27】
中枢セロトニン(5−HT)のレベル及び/又は活性を実質的に維持しながら対象中の末梢セロトニンのレベル及び/又は活性を調節することが有益な病状を治療するための、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
対象中の中枢セロトニン(5−HT)のレベル及び/又は活性を実質的に維持しながら前記対象中の末梢セロトニンのレベル及び/又は活性を調節することにおける、請求項1〜20のいずれか1項に記載のSRI化合物の使用。
【請求項29】
前記調節が、中枢セロトニン(5−HT)のレベル及び/又は活性を実質的に維持しながら対象中の末梢セロトニンのレベル及び/又は活性を調節することが有益な病状を治療するためのものである、請求項28に記載の使用。
【請求項30】
前記病状が、循環器の疾患又は障害、脳血管の疾患又は障害、虚血性心疾患(IHD)、心筋梗塞(MI)、脳卒中、肺塞栓症、2型糖尿病に関連する血管異常、肺動脈高血圧症、末梢動脈閉塞性疾患、関節リウマチ、自己免疫障害、腎不全、炎症性腸疾患、急性冠不全症候群、及び冠動脈バイパス移植後再狭窄からなる群から選択される、請求項27又は29のいずれか1項に記載の方法及び使用。
【請求項31】
それを必要とする対象に、請求項1〜20のいずれか1項に記載のSRI化合物を治療有効量投与することを含む、血小板凝集及び/又は血小板−内皮細胞相互作用を減少又は予防することが有益な疾患又は障害の治療方法。
【請求項32】
対象に、治療に有効な更なる薬剤を治療有効量投与することを更に含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
血小板凝集及び/又は血小板−内皮細胞相互作用を減少又は予防することが有益な疾患又は障害の治療における、請求項1〜20のいずれか1項に記載のSRI化合物の使用。
【請求項34】
前記治療が、対象に、治療に有効な更なる薬剤を治療有効量投与することを更に含む、請求項33に記載の使用。
【請求項35】
血小板凝集及び/又は血小板−内皮細胞相互作用を減少又は予防することが有益な疾患又は障害を治療するための医薬の製造における、請求項1〜20のいずれか1項に記載のSRI化合物の使用。
【請求項36】
前記医薬が、治療に有効な更なる薬剤を更に含む、請求項35に記載の使用。
【請求項37】
活性成分として請求項1〜20のいずれか1項に記載のSRI化合物及び薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項38】
中枢セロトニン(5−HT)のレベル及び/又は活性を実質的に維持しながら対象中の末梢セロトニンのレベル及び/又は活性を調節することが有益な病状の治療に使用するための、包装材に包装され、前記包装材中又は前記包装材上の印刷により識別される、請求項37に記載の組成物。
【請求項39】
前記病状が、循環器の疾患又は障害、脳血管の疾患又は障害、虚血性心疾患(IHD)、心筋梗塞(MI)、脳卒中、肺塞栓症、2型糖尿病に関連する血管異常、肺動脈高血圧症、末梢動脈閉塞性疾患、関節リウマチ、自己免疫障害、腎不全、炎症性腸疾患、急性冠不全症候群、及び冠動脈バイパス移植後再狭窄からなる群から選択される、請求項38に記載の組成物。
【請求項40】
血小板凝集及び/又は血小板−内皮細胞相互作用を減少又は予防することが有益な疾患又は障害の治療に使用するための、包装材に包装され、前記包装材中又は前記包装材上の印刷により識別される、請求項37に記載の組成物。
【請求項41】
前記SRI化合物が、対象のCNS中のセロトニンレベルを実質的に調節することができない、請求項31、33、35、又は40のいずれか1項に記載の方法、使用、及び組成物。
【請求項42】
前記SRI化合物が、対象のCNS中のセロトニンレベルを実質的に上昇させることができない、請求項41に記載の方法、使用、及び組成物。
【請求項43】
前記SRI化合物が、対象のCNS中のセロトニンレベルを実質的に低下させることができない、請求項41に記載の方法、使用、及び組成物。
【請求項44】
前記血小板凝集及び/又は血小板−内皮細胞相互作用の減少又は予防が、中枢セロトニンのレベル及び/又は活性を実質的に維持しながらなされ、それによってCNS関連作用が避けられる、請求項41に記載の方法、使用、及び組成物。
【請求項45】
前記疾患又は障害が、循環器の疾患又は障害、脳血管の疾患又は障害、虚血性心疾患(IHD)、心筋梗塞(MI)、脳卒中、肺塞栓症、2型糖尿病に関連する血管異常、肺動脈高血圧症、末梢動脈閉塞性疾患、急性冠不全症候群、及び冠動脈バイパス移植後からなる群から選択される、請求項31、33、35、又は40のいずれか1項に記載の方法、使用、及び組成物。
【請求項46】
治療に有効な更なる薬剤を更に含む、請求項37に記載の組成物。
【請求項47】
前記治療に有効な更なる薬剤が抗血小板剤である、請求項32、34、36、又は46のいずれか1項に記載の方法、使用、及び組成物。
【請求項48】
前記抗血小板剤が、アスピリン、クロピドグレル、アブシキシマブ、アルガトロバン、シロスタゾール、ダナパロイド、ダゾキシベン、ジピリダモール、エプチフィバチド、チクロピジン、及びチロフィバンからなる群から選択される、請求項47に記載の方法、使用、及び組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−545522(P2009−545522A)
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−516065(P2009−516065)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際出願番号】PCT/IL2007/000756
【国際公開番号】WO2007/148341
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(507253749)ラモット アット テル アビブ ユニバーシティ, リミテッド (5)
【Fターム(参考)】