説明

材料組成物およびそれを用いた光学素子

【課題】色収差およびその他の収差の低減に効果がある樹脂のみからなる複合光学素子。
【解決手段】重合性化合物として、化学式1で示される重合性化合物(A1)を5から75質量%と、重合性官能基を1以上3個以下有し、その官能基がビニル基、アクリル基もしくはメタクリル基である重合性化合物(A2)を5から85質量%含み、無機酸化物粒子(B)を5から35質量%、重合開始剤(C)を重合性化合物(A1)と(A2)の合計量を100質量部としたとき0.1〜5質量部含む材料組成物を用いた光学素子。


化学式1において、Rは、炭素数が1〜10である、アルキル基、アルケニル基、アリル基、シクロアルキル基、アシル基から選ばれるいずれか一種。Xは、重合性官能基。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子としての実用的な耐性を備えた光学用の材料組成物およびその組成物を用いた光学素子、特に複合型光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カメラ、ビデオカメラあるいはカメラ付携帯電話、テレビ電話あるいはカメラ付ドアホンなどには、撮像モジュールが用いられている。近年、この撮像モジュールに用いられる光学系では、小型、軽量、低コスト化が大きな課題となっているが、特に小型化が求められている。光学系を小型化していくと光学系の色収差が大きな問題となってくる。この問題を解決する為に、接合レンズや回折素子などの複合型光学素子が多用されるようになってきた。
【0003】
従来、複合型光学素子は、用途に応じてガラス−ガラス、ガラス−合成樹脂、合成樹脂−合成樹脂といった様々組み合わせで作られてきた。ガラスは要求される様々な光学特性を実現することが可能であると共に、環境耐性に優れているが、加工性が悪いという問題があった。
一方、合成樹脂は、ガラス材料に比べて安価であると共に加工性に優れているが、ガラス材料に比べて光学特性の要求には充分な対応ができないという問題がある。そのため、性能が重視される高倍率ズームレンズや一眼レフカメラの光学系には、ガラス−ガラス複合型光学素子が使用される。その一方で、合成樹脂−合成樹脂は、価格が重視される携帯モジュールの光学系等で用いられている。なかでも、エネルギー硬化型の樹脂とガラスの複合型光学素子は、樹脂の加工性とガラスの多様性の両方の利点が活かされるため、広く用いられている。
【0004】
また、近年、新たな有機無機複合材料の開発が盛んに行なわれている。新たな有機無機複合材料としては、合成樹脂材料と同様に加工性に優れていながらガラス以上の多様な光学特性を実現できる材料がある。例えば、合成樹脂中に粒子径数nm〜100nmの無機材料粒子を均一に分散させた微粒子分散型の材料が提案されている。この微粒子分散型の材料は、従来材料のガラスや合成樹脂では実現できない異常分散性を有している。そして、この微粒子分散型の材料を用いることで、従来の複合型光学素子よりも高い色収差補正効果を持った複合型光学素子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、エネルギー硬化樹脂−ガラス複合型光学素子も提案されている。ただし、この複合型光学素子では、合成樹脂−ガラス界面若しくはどちらかの層にわれやひびが起こるという問題があった。これは、エネルギー硬化樹脂の成形時の収縮による応力負荷そのものや、応力が加わった状態で温度・湿度変化による膨張が加わることによって生じる。
そこで、樹脂層と同種の材料で重合性の低い緩和層を、エネルギー硬化樹脂とガラス層の間に入れるなど解決策が提案されてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−145277号公報
【特許文献2】特開2006−235007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有機無機複合材料を用いた複合型光学素子では、有機無機複合材料の異常分散性により、従来よりも補正効果の高い複合型光学素子を実現できる。しかし、有機無機複合材料の場合、材料中に数〜100nmの無機酸化物粒子を含んでいるため、通常の樹脂と比べて脆くわれやひびが生じ易くなるおそれがある。それにも拘わらず、これまで適切な解決手法が提案されていなかった。
また、従来の緩和層を入れる手法は、有機無機複合材料の複合型光学素子には適応できなかった。合成樹脂のみで緩和層を形成すると、屈折率差が大きくなることから光学特性に悪影響を与えるおそれがある。また、有機無機複合材料そのもので重合性の低い緩和層を形成すると、粒子の分散性が安定しないことから粒子が凝集し、この凝集した粒子が散乱の原因となるおそれがある。
また、柔軟性を付与するモノマー成分を添加する手法も考えられる。この手法は、有機無機複合材料にも適応はできるが、レンズ形状が崩れてしまうおそれがあるので、光学素子に用いるには好ましい手法ではない。
【0007】
本発明は、色収差補正効果も高く、ひび割れ等が生じることがなく耐性も備えた光学用の材料組成物およびそれを用いた光学素子を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、重合性化合物として、化学式1で示される重合性化合物(A1)を5から75質量%と、重合性官能基を1以上3個以下有しており、その官能基がビニル基、アクリル基もしくはメタクリル基である重合性化合物(A2)を5から85質量%含み、無機酸化物粒子(B)を5から35質量%、重合開始剤(C)を重合性化合物(A1)と(A2)の合計量を100質量部としたときに0.1〜5質量部を含む材料組成物である。
【0009】
【化1】

化学式1において、Rは、炭素数が1〜10である、アルキル基 、アルケニル基、アリル基、シクロアルキル基、アシル基から選ばれるいずれか一種である。また、Xは、重合性官能基である。
【0010】
また、前記化学式1における重合性官能基Xがビニル基、ビニリデン基、ビニレン基、アクリロイル基、メタクリロイル基のいずれかである前記の材料組成物である。
また、前記化学式1におけるRが直鎖構造である前記の材料組成物である。
また、前記化合物(A)がN−(β−アクリロイルオキシエチル)カルバゾール、N−(β−メタクリロイルオキシエチル)カルバゾール、あるいはN−アリルカルバゾールのいずれかである前記の材料組成物である。
また、前記無機酸化物粒子を表面修飾する表面修飾剤を無機酸化物粒子1mol当たり、0.1〜3molを配合した前記の材料組成物である。
また、前記表面修飾剤が重合性官能基を一つも有さない、若しくは一つの重合性官能基を有する材料組成物である。
【0011】
重合性化合物として、化学式1で示される重合性化合物(A1)を5から75質量%と、重合性官能基を1以上3個以下有しており、その官能基がビニル基、アクリル基もしくはメタクリル基である重合性化合物(A2)を5から85質量%含み、無機酸化物粒子(B)を5から35質量%、重合開始剤(C)を重合性化合物(A1)と(A2)の合計量を100質量部としたときに0.1〜5質量部を含む材料組成物を硬化したものである光学素子である。
【0012】
【化2】

化学式1において、Rは、炭素数が1〜10であるアルキル基 、アルケニル基、アリル基、シクロアルキル基、アシル基から選ばれるいずれか一種である。また、Xは、重合性官能基である。
【0013】
また、材料組成物を硬化して積層した複合型光学素子である前記の光学素子である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、色収差補正効果も高く、ひび割れ等が生じることがなく耐性も備えた光学用の材料組成物およびそれを用いた光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の材料組成物を重合させた硬化物のみから構成される光学素子を成形に用いる成形装置の一例を示す図である。
【図2】複合型光学素子の一例を示す図である。
【図3】複合型光学素子の製造装置の一例を示す図である。
【図4】本発明の光学用組成物の展延状態を示す図である。
【図5】異常分散性ΔθgFを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、上記課題を解決するために、重合性化合物として、特定の重合性カルバゾール化合物と、ビニル基等の重合性官能基を有する重合性化合物、無機酸化物粒子、および重合開始剤の所定の量を配合することによって、材料組成物(有機無機複合材料)の硬化させた時の応力を低減することが可能であることを見いだしたものである。
すなわち、本実施形態の材料組成物は、重合性化合物として、化学式1で示されるカルバゾール骨格を有する重合性化合物(A1)を5から75質量%と、重合性官能基を1以上3個以下有しており、その官能基がビニル基、アクリル基、またはメタクリル基である重合性化合物(A2)を5から85質量%含み、無機酸化物粒子(B)を5から35質量%、重合開始剤(C)を重合性化合物(A1)と(A2)の合計量を100質量部としたときに0.1〜5質量部を含む材料組成物である。
【0017】
【化3】

化学式1において、Rは、炭素数が1〜10であるアルキル基 、アルケニル基、アリル基、シクロアルキル基、アシル基から選ばれるいずれか一種である。また、Xは、重合性官能基である。
【0018】
本発明の化学式1で示されるカルバゾール骨格を有する重合性化合物(A1)には、化学式1においてカルバゾール骨格内のNに直接、重合性官能基(ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基など)が結合しているような化合物は含まれない。
【0019】
また、本実施形態の材料組成物では、化学式1における重合性官能基Xがビニル基、ビニリデン基、ビニレン基、アクリロイル基、メタクリロイル基のいずれかである。
これらの重合性官能基は、硬化性に優れ、穏和な条件での硬化が可能であるので、硬化時の応力の発生を低減する(応力負荷を抑える)ことが可能である。
また、本実施形態の材料組成物では、化学式1におけるRが直鎖構造であることが好ましい。化学式1におけるRが直鎖構造であると、枝分かれ構造と比べ、硬化時の収縮を抑えることができるので好ましい。
また、具体的には、重合性化合物(A1)には、N−(β−アクリロイルオキシエチル)カルバゾール、N−(β−メタクリロイルオキシエチル)カルバゾール、N−アリルカルバゾールを挙げることができる。これらの化合物は、硬化時の収縮が小さく、硬化生成物は、高屈折率・高分散・高異常分散であるという特徴を有している。
【0020】
また、本実施形態の材料組成物において、重合性カルバゾール骨格を有する重合性化合物(A1)とビニル基等の重合性官能基を有する重合性化合物(A2)、無機酸化物粒子(B)は、本実施形態の材料組成物によって得られる材料組成物を構成するための必須の構成成分である。また、重合開始剤(C)は、紫外線照射、加熱などのエネルギー付与により重合反応を開始する成分であって、材料組成物から硬化物を得るための必須成分である。
重合性化合物(A1)と、重合性化合物(A2)は、有機無機複合材料のマトリックスとなる成分である。この2つの成分が紫外線や加熱などのエネルギー付与により硬化反応する。なお、この硬化反応は重合開始剤によって始まる。これにより、本実施形態の材料組成物から硬化物が得られる。なお、硬化反応では、硬化時の応力を低減する必要がある。それは、硬化時の応力が、硬化物(レンズ)のわれやひびの原因となっているからである。その為に、本実施形態の材料組成物では、この2つの成分に硬化収縮の小さいものを用いている。
【0021】
また、材料組成物の異常分散性は、無機酸化物粒子(B)によって発現されるものではあるが、重合性化合物である(A1)と(A2)の種類および配合比を選択することによって、更に優れた光学特性を実現することができる。また、(A1)と(A2)の種類および配合比を選択することで、材料組成物の熱的、機械的、化学的特性などを制御することができる。
【0022】
重合性化合物のうち、化学式1で示される重合性化合物(A1)は、重合性カルバゾール骨格を有する重合性化合物である。この重合性化合物(A1)は、構造中にカルバゾール骨格を有することで、その硬化物が、高屈折率、高分散、高異常分散の光学特性を有する。すなわち、化学式1で示される重合性化合物(A1)は、硬化物を複合型光学素子に用いた時に、優れた色収差補正効果を発揮するという効果を奏する。
また、重合性化合物(A1)は、化学式1で示される様に、重合性官能基Xが1個のみである。このような重合性化合物(A1)では、Rで示すアルキル基等の部分で分子の大きさを調節することによって、硬化時の収縮を低減させることができる。
なお、Rの部分を構成する炭素数は、1以上10以下であることが望ましい。
炭素が含まれていない場合には、分子全体に対する重合性官能基の占める割合が大きくなるために、硬化時の収縮が大きくなる。一方、Rの部分を構成する炭素数が10を超えると、分子全体が大きくなるため、配合する重合性加工物(A2)成分との相溶性が得られなくなるか、硬化物が柔らかくなる。このように、Rの部分を構成する炭素数が10を超えると、光学素子としての性能を保てなくなるので好ましくない。
【0023】
また、重合性化合物(A1)の配合量(含有量)は、5〜75質量%であることが好ましい。配合量が5質量%未満では、所望の光学特性を得ることができない。一方、配合量が75質量%を超えると着色によって透明性が低下するか、機械的特性の低下が起こるので好ましくない。
【0024】
また、重合性化合物(A2)は、重合性官能基を有している。そして、その官能基がビニル基、ビニリデン基、ビニレン基、アクリロイル基、メタクリロイル基である場合には、この重合性化合物(A2)を用いることで、熱的、機械的、あるいは化学的特性に優れた材料組成物を得ることができる。
なお、光学素子には、光学的な特性以外に実用に耐え得る熱的、機械的、化学的特性が求められる。そこで、重合性化合物(A2)を配合することによって、これらの特性を満足する硬化物、すなわち光学素子を得ることが可能となる。
【0025】
また、重合性化合物(A2)において、重合性官能基数を1個以上、3個以下とすることが好ましい。このようにすると、硬化時における収縮の低減が可能である。また、重合性官能基を有する物質(上記の重合性化合物(A2))を本実施形態の材料組成物に配合すると、硬化反応によって硬化物を形成する際に、ブリードアウトが生じることがない。ブリードアウトとは、光学素子の使用時の温度湿度変化により成分が流出するという現象のことである。なお、重合性化合物(A2)が4個以上の重合性官能基数を有している場合には、硬化収縮量が大きくなるので好ましくない。より好ましくは、重合性官能基数は1個または2個である。
重合性化合物(A2)の配合量は、5〜85質量%であることが好ましい。配合量が5質量%未満では、材料組成物を硬化させたとき、光学素子としての熱的、機械的、化学的特性に優れた硬化物を得ることができない。一方、配合量が85質量%を超えると、同様に、優れた光学特性を持つ硬化物を得ることができなくなるので好ましくない。
【0026】
重合性化合物(A2)は、具体的には、アクリレート若しくはメタクリレート系モノマーであるメタクリレート、アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ノニルフェニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ジメチルロールトリシクロデカンジメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、トリメチルプロパントリ(メタ)アクリレート、ノニルフェニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルイソシナネート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、1−アクリロキシ−4−メトキシナフタレン、1,4−ジアクリロキシナフタレン、ビス(2−メタクリロイルチオエチル)スルフィド、アダマンタンおよびその誘導体等、あるいはオレフィン系モノマー、ジエン系モノマー、ハロゲン化オレフィン系モノマー、スチレン系モノマー、ビニル化合物系モノマー、含硫黄化合物モノマー、環状モノマー等を挙げることができる。
ここで、(メタ)アクリレートは、アクリレート、メタクリレートの少なくともいずれか一方を含有するものを意味する。
【0027】
また、重合性官能基を有さないカルバゾール化合物は、本実施形態の材料組成物には含まれない。重合性官能基を有さないカルバゾール化合物は、硬化物中で他の成分と重合物を形成する結合を持たないため、温度湿度変化によりブリードアウトする可能性がある。本実施形態の材料組成物においては、ブリードアウトが生じることはないので、光学面の汚れが生じにくい光学素子を提供することが可能となる。
【0028】
また、本実施形態の材料組成物において、無機酸化物粒子(B)は、材料組成物の異常分散性を実現するための成分である。よって、その酸化物の種類、および配合量を変えることにより、材料組成物及びその硬化物において光学特性を変化させることができる。その配合量は、材料組成物の全量に対して5質量%以上35質量%以下であることが好ましい。
無機酸化物粒子の配合量が5質量%未満の添加では、従来から知られている材料に比べて優れた光学特性を得ることができなくなる。また、配合量が35質量%を超えて添加すると、材料組成物から得られる硬化物が脆くなるので、光学素子として用いることが難しくなる。
【0029】
また、無機酸化物粒子(B)の粒子径は、硬化物の透明性を保つためには100nm以下が好ましい。より好ましくは20nm以下、更に好ましくは9nm以下である。
無機酸化物粒子(B)として用いる酸化物としては、酸化ケイ素、酸化アルミナ、酸化チタン(IV)、酸化亜鉛、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化バリウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化ビスマス、酸化ランタン、酸化ガリウムなどが挙げられる。酸化チタン(IV)、酸化ニオブ、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化タングステン等は、硬化物を高屈折率、高分散、高異常分散にするのに適しており、複合型光学素子として用いると良好な色収差効果を得ることができる。これらのなかでも酸化チタン(IV)が好ましい。
【0030】
また、重合性化合物(A1)、重合性化合物(A2)、および無機酸化物粒子(B)に加えて、表面修飾剤(D)を配合することが出来る。表面修飾剤(D)は、無機酸化物粒子表面に付着、もしくは結合する官能基、および有機材料と反応するビニル基などの官能基をあわせもつ化合物であり、重合性化合物(A1)、および(A2)に対する無機酸化物粒子の分散性を向上させる働きを持つものを言う。
表面修飾剤(D)としては、具体的には、金属アルコキシド、キレート化合物、水酸基、またはカルボニル基など、粒子表面と親和性の良い官能基を有した有機化合物が挙げられる。
表面修飾剤(D)は、無機酸化物粒子表面と親和性の良い部位、または化学的に結合する部位とマトリックスとなる重合性化合物と親和性の高い官能基、または重合可能な官能基を有している。化学的な結合としは、共有結合、配位結合、水素結合、イオン結合などが挙げられる。
表面修飾剤(D)は、重合性官能基を有さないか、一つの重合性官能基を有しているものが好ましい。重合性官能基を二個以上有していると硬化収縮が大きくなり、光学素子のわれやひびの問題が生じる。
【0031】
金属アルコキシドを有する表面修飾剤(D)としては、下記の化学式2で示される化合物、及び、その加水分解物が挙げられる。
1a2bM(OR3c 化学式2
ここで、R1およびR2は同一あるいは異なる有機基で、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アリル基、ハロゲン化アリル基、シクロアルキル基、アシル基あるいはビニル基含有有機基、アクリロイル基含有有機基、メタクリロイル基含有有機基である。
また、R3は炭素数1から6のアルキル基またはアリル基、MはSi、Al、Ti、Zn、Y、Zr、Nb、Sn、Sb、Ba、Ta、W、Bi、La、Gaからなる群から選ばれる少なくても1種の金属元素であり、金属元素の価数をmとしたときcは1 ないしm−1、aおよびbは 式 a+b = m−c から求める正の整数である。
【0032】
表面修飾剤(D)が金属アルコキシドを有する場合には、(OR3)の部分が無機酸化物粒子と加水分解・重縮合反応をして、共有結合によって粒子表面を修飾する。そのため、安定した修飾状態が得られ、耐環境性に優れた材料組成物を得ることができる。更に、R1またはR2に部分に重合性官能基を有していると、マトリックスの重合性有機化合物とも共有結合を有する。そのため、硬化物における耐環境性をより向上させることが可能になる。また、金属種Mを選択することによって屈折率を制御することが可能となる。表面修飾剤は、酸化物粒子と有機重合性化合物の間に位置する。そこで、散乱を抑えるために、表面修飾剤は、その屈折率が両者の中間の屈折率となるような金属種を選択すると良い。
【0033】
使用することが可能な金属アルコキシドとしては、具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリブトキシシラン、ビニルエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリス(ビニルジメチルシロキシ)シラン、チタンメタクリレートトリイソプロポキシドなどあるいはそれらの加水分解物などを挙げることができる。
また、キレート化合物、水酸基若しくはカルボニル基など粒子表面の水酸基と親和性の良い官能基を有した有機化合物は、配位結合、水素結合により粒子表面を修飾している。これらは、金属アルコキシドに比べて環境安定性は劣る。しかしながら、これらを用いる場合は加水分解・重縮合反応工程がないため、反応の制御や工程制御が容易となる。
上述した種類の異なる表面修飾剤は、単独で用いても良いし、合わせて用いても良い。
【0034】
また、表面修飾剤の配合量は、無機酸化物粒子(B)1mol当たり、0.1〜3molであることが好ましい。配合量が0.1mol未満では、粒子全表面に対して表面修飾剤が覆っている部分が少なくなるので、粒子が凝集してしまう。この場合、凝集した粒子によって光の散乱が起こってしまう。また、配合量が3molを超える場合には、重合性化合物(A1)および(A2)、無機酸化物粒子(B)成分により得られる特性が変化する。この場合、材料組成物から得た硬化物において、優れた光学特性を得ることができなくなる。
【0035】
また、重合開始剤(C)の配合量は、重合性化合物(A1)と(A2)合計量に対して0.1質量%以上、5質量%以下が好ましい。配合量が0.1質量%未満では、十分な硬化性を有する材料組成物が得られない。すなわち、その硬化物は、光学素子として使えないような硬化度の低い柔らかい硬化物になってしまう。一方、配合量が5質量%を超えると、材料組成物から得た硬化物において透明性が低下するという問題や、太陽光による黄変が大きくなるという問題がある。
【0036】
また、光重合開始剤としては、例えば、4−ジメチルアミノ安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸エステル、アルコキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、ベンゾフェノンおよびベンゾフェノン誘導体、ベンゾイル安息香酸アルキル、ビス(4−ジアルキルアミノフェニル)ケトン、ベンジルおよびベンジル誘導体、ベンゾインおよびベンゾイン誘導体、ベンゾインアルキルエーテル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、チオキサントンおよびチオキサントン誘導体、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等が挙げられる。
これらの光重合開始剤は、1種のみで用いても、2種以上を配合しても良い。また、これらの光重合開始剤の中でも、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、フェニルビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−ホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド系化合物を用いると、十分な硬化性および硬化物の透明性が得られるので特に好ましい。
【0037】
熱重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス―2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスカルボアミド、イソプロピルヒドロペルオキシド、第3ブチルヒドロペルオキシド、クミルヒドロペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ビスヘキサンなどが挙げられる。
【0038】
本発明の重合性組成物には、上記の成分の他に、更に紫外線吸収剤を添加して耐久性を向上させても良い。
具体例としては、フェニルサリシレート、p−ターシャリーブチルフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレートなどサリチル酸エステル系のもの、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−アセトキシエトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシ−5,5’−ジスルホベンゾフェノン・2ナトリウム塩等のベンゾフェノン系のもの、2(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジターシャリーブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2(2’−ヒドロキシ−3’−ターシャリーブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジターシャリーブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジターシャリーアミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2(2’−ヒドロキシ−5’−ターシャリーブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2(2’−ヒドロキシ−5’−ターシャリーオクチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系のもの、2’,4’−ジターシャリーブチルフェニル−3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート系のもの、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート等シアノアクリレート系のもの、p−アミノ安息香酸ブチル等のアミノ安息香酸系などを挙げることができる。これらの中から一種ないし複数選択し混合しても用いることができる。
更に、本発明の重合性組成物には、上記の成分の他に、さらにヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系、リン酸エステル系、あるいは硫黄系などの酸化防止剤を添加して耐久性を向上させても良い。
【0039】
以下に図面を参照して本発明の光学素子、および複合型光学素子について説明する。
図1は、本発明の光学素子を成形する成形装置の一例を示す図である。
なお、本発明の光学素子は、上述のように、本発明の光学用組成物を重合させた硬化物のみから構成される素子である。
光学素子成形装置1は、筒状の金属製胴型2、所望の光学面3aを有する金属製の上型3、所望の光学面4aを有する紫外線を透過するガラスからなる下型4、上型3を上下に駆動するための駆動ロッド5、下型4から硬化した光学素子を離型するための離型筒6を備えている。筒状の金属製胴型2には、光学用組成物を注入するための注入口7と、過剰の光学組成物を排出するための排出口8が設けられている。駆動ロッド4は図示しない駆動源によって、金属製胴型2内で上型3を上下に摺動する。また離型リング6は金属製胴型2の内周面に接して上下に摺動する。上型3および下型4の各光学面と、金属製胴型2の内周面とで光学素子成形用の成形室9が形成されている。
【0040】
光学素子の成形は以下の手順で行う。金属製の上型3とガラス製の下型4を、光学面3a、4aが対向するように金属製胴型2内に載置する。この時、上型3を、駆動ロッド5によって第一段階の所定高さに保持する。この第一段階の所定高さは、上型3が排出口8より上部に位置する高さである。上型3をこの高さに保持することによって、成形室9を形成する。
【0041】
次に光重合開始剤を含有させた本発明の組成物を、注入口7より注入して成形室9内に充填する。この時、成形室9内を負圧にしておくと、組成物の注入時における気泡の巻き込みや、成形室内の空気残りを防ぐことができる。排出口8から組成物があふれ出てきた時点で成形室9内が充填されたものと判断して、組成物の注入を停止する。
【0042】
注入口7を塞ぎ、上型3を下方に押圧して第二段階の高さにする。このとき、さらに過剰の組成物が排出口8から流出する。次に下型4の下方より、紫外線を照射し組成物を硬化させる。なお、紫外線照射装置は離型リング6の下方に配置されているが、図示を省略している。組成物の硬化にともなう収縮にあわせて、上型3を下方に徐々に移動させる。収縮に連動させて上型3を下降させることで、硬化後の光学素子の内部応力を低減できる。
【0043】
組成物が十分に硬化した後、駆動ロッド5を上昇させて上型3を離型させる。次に離型リング6を上に移動させて、下型4から硬化物を離型させる。このようにして組成物からなる硬化物を、所望の形状を有する光学素子として取り出すことができる。
なお、図1において、光学面3a、4aがいずれも球面であれば球面レンズが、光学面3a、4aのいずれかあるいは両方が非球面であれば非球面レンズが、光学面3a、4aのいずれかあるいは両方が回折面であれば回折レンズがそれぞれ、光学素子として製造できる。
また、本発明の複合型光学素子は、上記の光学用組成物を光学基材の表面に載置した状態で硬化させて、光学基材と当該組成物の硬化物とを積層させることによって製造することができる。
この複合型光学素子は、光学基材と組成物の硬化物の界面が、球面、非球面、自由曲面あるいは回折面である複合型光学素子となる。複合型光学素子に用いる光学基材としては、所望の形状に加工するときに欠け、表面変色、失透やあるいは濁り等の問題が起きない通常の光学用ガラス、光学用樹脂あるいは透明セラミックスを用いることができる。
【0044】
光学用ガラスとしては、石英、BK7(SCHOOT)、BACD11(HOYA)、BAL42、LAH53(オハラ社)等を挙げることができる。光学用樹脂としては非晶質ポリオレフィンであるゼオネックス(日本ゼオン)、ARTON(JSR)、アペル(三井化学)等、アクリル樹脂であるアクリペット(三菱レイヨン)、デルペット(旭化成)等を挙げることができる。
【0045】
光学基材の表面に本発明の材料組成物を載置し、所望の形になるようにその上面に型を接触させる。この際に用いる型は、金属製でもガラス製でも良いが、光学基材の反対面から紫外線を照射して当該組成物を硬化させる場合は、ガラス製の型を用いる。また、金属製の型を用いた場合は、光学基材の側から紫外線を照射して組成物を硬化させる。
このような方法により、例えば、図2のような複合型光学素子を製造することができる。 図2で示す複合型光学素子10は、光学基材11の表面に組成物の硬化物13が一体に形成されている。
【0046】
以下、複合型光学素子の製造方法について説明する。
図3は、複合型光学素子の製造装置の一例を説明する図であり、光軸から左側は断面を示す。
複合型光学素子の製造装置20は、支持枠(図示しない)、支持台21、受け部22および保持筒23を備えている。支持台21は、支持枠により支持されている。受け部22は筒状の形状であって、支持台21に取り付けられている。受け部22には、軸受24が設けられている。
保持筒23は、この軸受24を介して受け部22に取り付けられており、保持筒23は、この軸受24の作用によって受け部22に対して回転自在になっている。また、保持筒23には、その内周上部に、光学基材11の外縁部を受ける環状の係合縁25が設けられている。また、保持筒23の下部には、プーリ26が−体に形成されている。
【0047】
一方、支持台21の下側には、モータ27が固定されている。モータ27の駆動軸28には、プーリ29が取り付けられている。そして、プーリ29とプーリ26の間にベルト30が巻き掛けられている。これらにより、保持筒23を回転する回転機構を構成している。
なお、軸受24は、それぞれ押さえリング31、32によって固定されている。すなわち、押さえリング31は受け部22のねじ部22aに、また押さえリング32は、保持筒23のねじ部23aにそれぞれ螺合している。これにより、受け部22と保持筒23の間に、軸受24を固定することができる。
【0048】
また、前記支持台21の上方には、支持手段35が設けられている。支持手段35は、上部金型3を上下動して、上部金型3を所望の位置に支持する支持手段35の支持柱36は支持台21の上面に固定されており、支持柱36にはシリンダ37が設けられている。
そして、シリンダ37にはシリンダロッド38が取り付けられている。さらに、シリンダロッド38の先端には、上部金型3が取り付けられている。
また、保持筒23の係合縁25に光学基材11を載置した状態で、光学基材11の光軸39と上部金型3の軸が一致するように、上部金型3が支持されている。
【0049】
以上に説明した複合型光学素子の製造装置を使用した複合型光学素子の製造方法を説明する。
所望の光学特性を有するレンズからなる光学基材11を、保持筒23の係合縁25によって位置決めされるように載置する。なお、光学基材11の表面11aの組成物形成面には、組成物とガラス製の光学基材との密着性を向上させるためのカップリング処理を施しても良い。次いで、光学基材11の表面11aに、組成物12を吐出手段(図示しない)
によって所要量吐出する。
【0050】
次に、シリンダ35を作動させて、上型3を下降させて、上型3の光学面3aを、光学
基材11の表面11aに吐出された光学用組成物12に当接させる。さらに下降を続けることで、組成物12は所定の形状に展延される。
所定の形状まで展延する前に、上型3の下降を停止させる。この状態で、モータ27を作動させて保持筒23を回転させることによって、光学基材11を少なくとも1回転させる。
【0051】
図4は、組成物12の展延状態を示す図である。
光学基材11の表面11aに載せられた組成物12に、光学基材11の光軸39と上型3の軸が一致するように上型3を押し当てて、光学基材11側を少なくとも1回転させる。このようにすることで、組成物12は光学基材11の表面11aと上型3との間の空間を均一に延びて組成物層が形成される。
その後、再びシリンダ37を作動させて、再び上型3を下降させる。そして、組成物12の層が所望の厚みと直径に達したところで(所定の形状となったところで)、上型3の下降を停止し、光学基材11の下側から紫外線照射装置(図示しない)にて紫外線を照射する。
【0052】
その結果、上型3と光学基材11の間にある組成物が硬化し、組成物の硬化物13を光学基材11の表面11aに−体に形成することができる。このとき、組成物の硬化物13の表面には、上型3の光学面3aが転写された光学面が形成される。そして、組成物の硬化物13の表面から上型3の光学面3aから硬化物を離型することにより、所望の形状を有する複合型光学素子を得ることができる。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を示して本発明を説明する。
実施例1
(材料組成物の調製)
重合性化合物(A1)として重合性カルバゾール化合物であるN−(β−メタクリロイルオキシエチル)カルバゾールを、重合性化合物(A2)としてエチレンオキサイド2モル付加ビスフェノールAジメタクリレート(共栄社化学製BP−2EM)を、無機酸化物粒子(B)成分として酸化チタン(IV)粒子のテトラヒドロフラン分散体(酸化チタン(IV)濃度5質量%、粒子径10nm)を、重合開始剤(C)としてビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイドを用いた例を示す。
【0054】
材料組成物中の重合性化合物(A1)と(A2)の合計と無機酸化物粒子(B)成分合計に対して酸化チタン(IV)粒子が占める割合を20質量%になるように、酸化チタン(IV)粒子分散液を20gと重合性化合物合計4g(N−(β−メタクリロイルオキシエチル)カルバゾール:エチレンオキサイド2モル付加ビスフェノールAジメタクリレート=5:4(質量比))を混合攪拌した後、テトラヒドロフランを60℃での蒸発操作で取り除いた。次いで、重合開始剤(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド0.02gを50℃に加温しながら混合して光学用の材料組成物1−20を得た。
同様にして酸化チタン(IV)の割合が5、および35質量%となるように混合して、光学用の材料組成物1−5、1−35を得た。
【0055】
(硬化物の作製)
得られた光学用の材料組成物1−20、1−5および1−35を50℃に保持した状態で超音波を照射し、次いで直径20mmで厚さ1mmの大きさに成形し、波長405nmの紫外線を照度100mW/cm2の強度で100秒間照射し、さらに80℃で1時間加熱し、硬化物を作製した。得られた硬化物について、屈折率、透過率を測定し、アッベ数νd、部分分散比θgFを以下の方法により求めた。その結果を表2に示す。
【0056】
(1)屈折率の測定
上記1mm厚の硬化物のd線、C線、F線、g線における屈折率を精密屈折率計KPR−200(島津デバイス製造製)を用いて測定した。測定環境は20℃60%RHであった。
(2)アッベ数νdの算出
測定して得られたd線、C線、F線、g線に対する屈折率をそれぞれ、nd、nC、nF、ngとするとき、アッベ数νdは以下の式2から計算した。
νd=(nd−1)/(nF−nC)……式2
(3)部分分散比θgFの算出
測定して得られたd線、C線、F線、g線に対する屈折率をそれぞれ、nd、nC、nF、ngとするとき、部分分散比θgFは以下の式3から計算した。
θgF=(ng−nF)/(nF−nC)……式3
【0057】
(4)異常分散性ΔθgFの算出
上記式2および式3により、それぞれの硬化物のアッベ数νd、部分分散比θgFをもとめ、横軸にアッベ数νd、縦軸に部分分散比θgFをとり、異常分散性を示さない正常な光学ガラスのうちF7(νd=60.5、θgF=0.547)およびK2(νd=36.3、θgF=0.583)を基準分散ガラスとして選び、これら2種類の光学ガラスの座標(νd、θgF)を直線で結び、この直線と比較する硬化物のθgFおよびνdを示す座標との縦座標の差(ΔθgF)を異常分散性とした。
すなわち、基準分散ガラス2種を結ぶ直線の関係は、アッベ数νd0と部分分散比θgF0とすると式4で示される。式2から求めた硬化物のアッベ数をνd、式3から求めた硬化物の部分分散比をθgFとすると、異常分散性ΔθgFは式5から計算した。
θgF0=−0.0149×νd0+0.637……式4
ΔθgF=θgF−θgF0
=θgF−(−0.0149×νd+0.637)……式5
【0058】
(5)透明性の評価
上記1mm厚の硬化物の300nm〜800nmの透過率を分光光度計(日立ハイテクノロジーズ製 U−4100)を用いて測定した。500nmにおける透過率が70%以上であれば「良好」、それ未満の場合は「不良」とした。
【0059】
(複合型光学素子の作製)
組成物とBK7(SCH00T製)ガラスからなる基材を図3に示した成形装置を用いて、図2に示すような形状の複合型光学素子を作製した。いずれの場合でも波長405nmの紫外線を照度100mW/cm2 の強度で100秒間照射し、硬化を行った。このとき、60℃の加温を行った。硬化後、80℃で1時間加熱して、図2に示す形状の複合型光学素子を作製した。
なお、図2において、基材のガラスレンズは曲率半径R1=16mm、曲率半径R2=16mm、L1=20mm、L3=5mmである。この基材上に曲率半径R3=26mm、口径L2=16mmとなるように複合型光学素子を作製した。作製した複合型光学素子について、加工性を以下の方法で評価し、その結果を表2に示す。
【0060】
(6)耐性の評価
作製した複合型光学素子に、1周期の時間が3時間で、その間の温度変化が−40℃から+80℃となる温度サイクルを10周期分加えた。温度サイクルは図6に示すように、1周期における温度と時間は、+20℃で30分、−40℃で60分、+20℃で30分、+80℃で60分と変化する。温度サイクル後の組成物の硬化物にわれ、ひびや変形が起きていなければ「良好」、われ、ひびや変形が起きていれば「不良」とした。
【0061】
実施例2
(組成物の調製)
重合性化合物(A1)として重合性カルバゾール化合物であるN−(β−アクリロイルオキシエチル)カルバゾールを、重合性化合物(A2)としてジメチロールトリシクロデカンジアクリレートとジフェン酸ジアリル、無機酸化物粒子(B)として酸化チタン(IV)粒子水分散体(多木化学製タイノックM6 酸化チタン濃度6%、粒子径10nm)、表面修飾剤(D)としてメタクリロキシメチルトリエトキシシラン、重合開始剤(C)としてビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイドを用いた例を示す。
【0062】
酸化チタン(IV)粒子水分散体50gに3−メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン2.8g、30%塩酸0.68gを混合して室温にて24時間撹拌した後、水、メタノールおよび副生成物を50℃での蒸発操作で取り除き表面修飾した酸化チタン粒子を得た。
光学用の材料組成物中の重合性化合物(A1)、(A2)、無機酸化物粒子(B)の合計に対して酸化チタン(IV)が占める割合が20質量%になるように、この表面修飾した酸化チタン(IV)粒子1.76gと重合性化合物合計4g(N−(β−アクリロイルオキシエチル)カルバゾール:ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート:ジフェン酸ジアリル = 6:1:1(質量比))と重合開始剤(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド0.04gを60℃に加温しながら混合して、光学用の材料組成物2−20を得た。
同様にして酸化チタン(V)の配合量が5質量%、35質量%となるように混合して、光学用の材料組成物2−5、2−35を得た。
(硬化物の作製)
得られた光学用の材料組成物2−20、2−5および2−35を50℃に保持した状態で超音波を照射し、直径20mmで厚さ1mmの大きさに成形し、波長405nmの紫外線を照度100mW/cm2 で100秒間照射し、さらに80℃で1時間加熱し、硬化物を作製した。得られた硬化物について、屈折率、透過率を測定し、アッベ数νd、部分分散比θgFを実施例1と同様の方法により求めた。その結果を表2に示す。
【0063】
実施例3
(組成物の調製)
重合性化合物(A1)として、重合性カルバゾール化合物であるN−アリルカルバゾールを用い、重合性化合物(A2)としてジメチロールトリシクロデカンジアクリレートと9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、無機粒子(B)として酸化ニオブ(V)粒子水分散体(多木化学 バイラールX−10 酸化ニオブ(V)濃度10質量%、粒子径15nm)、表面修飾剤(D)として2−アセトアセトキシエチルメタクリレ−ト、重合開始剤(C)としてビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイドを用いた例を示す。
【0064】
酸化ニオブ(V)粒子水分散体20gに2−アセトアセトキシエチルメタクリレ−ト1.52g、溶媒メチルエチルケトン80gを混合して室温にて30分間撹拌した後、表面修飾した酸化ニオブ(V)粒子が1.76gとなる様にこの溶液をはかりとる。ここに、重合性化合物(A1)、(A2)と、無機酸化物粒子(B)の合計に対して酸化ニオブが占める割合が20質量%になるように重合性化合物を合計4g(N−アリルカルバゾール:ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート:9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン = 3:3:2(質量比))と重合開始剤(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド0.2gを加えて攪拌した。次に、水、メチルエチルケトンなどを50℃での蒸発操作で取り除き、光学用の材料組成物3−20を得た。
同様にして酸化ニオブの配合量が5質量%、35質量%となるように混合して、光学用の材料組成物3−5、3−35を得た。
【0065】
(硬化物の作製)
実施例1と同様にして、硬化物を得て、屈折率、透過率を測定し、アッベ数νd、部分分散比θgFを求めた。その結果を表2に示す。
また、実施例1と同様にして、複合型光学素子を得て、耐性を評価した。
【0066】
実施例4
(組成物の調製)
重合性化合物(A1)として、重合性カルバゾール化合物であるN−(p−ビニルベンジル)カルバゾールを、重合性化合物(A2)として9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレンとアダマンチルメタクリレート、無機粒子(B)成分として酸化亜鉛粒子水分散体(亜鉛濃度15%)、表面修飾剤(D)としてフェニルトリエトキシシラン、重合開始剤(C)としてビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイドを用いた例を示す。
【0067】
酸化亜鉛粒子水分散体20g にフェニルトリエトキシシラン3.65g、30%塩酸1.11gを混合して25℃にて24時間撹拌した後、水、メタノールおよび副生成物を50℃での蒸発操作で取り除き表面修飾した酸化亜鉛粒子を得た。
光学材料中の重合性化合物(A1)、(A2)と、無機酸化物粒子(B)の合計に対して酸化亜鉛粒子(B)が占める割合を20質量%になるように、この表面修飾した酸化亜鉛粒子1.94gと重合性化合物合計4g(N−(p−ビニルベンジル)カルバゾール:9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン:アダマンチルメタクリレート = 2:3:12(質量比))と重合開始剤(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド0.12gを80℃に加温しながら混合して光学用の材料組成物4−20を得た。
同様にして酸化亜鉛の割合が5質量%、35質量%となるように混合した、光学用の材料組成物4−5、4−35を得た。
【0068】
(硬化物の作製)
硬化時の加温温度を80℃にする以外は実施例1と同様にして、硬化物を得て、屈折率、透過率を測定し、アッベ数νd、部分分散比θgFを求めた。その結果を表2に示す。
また、硬化時の加温温度を80℃にする以外は実施例1と同様にして、複合型光学素子を得て、耐性を評価した。
【0069】
実施例5
(組成物の調製)
重合性化合物(A1)として、重合性カルバゾール化合物であるN−(β−メタクリロイルオキシエチル)カルバゾールを、重合性化合物(A2)としてメタクリル酸メチルとジフェン酸ジアリル、無機粒子(B)として酸化チタン(IV)粒子メタノール分散体(酸化チタン(IV)濃度20%、粒子径15nm)、表面修飾剤(D)としてチタンジオクチロキシビス(オクチレングリコレート)、重合開始剤(C)としてビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドを用いた例を示す。
【0070】
酸化チタン(IV)粒子メタノール分散体15gにチタンジオクチロキシビス(オクチレングリコレート)4.48g、溶媒プロパノール20g、2mol/l塩酸0.2gを混合して室温にて20時間撹拌した後、メタノール、プロパノールなどを50〜100℃での蒸発操作で取り除き、表面修飾した酸化チタン粒子を得た。
【0071】
材料組成物中の重合性成分(A1)、(A2)と酸化物粒子(B)の合計に対して酸化チタン(IV)が占める割合が20質量%になるように表面修飾酸化チタン1.93gと重合性化合物合計4g(N−(β−メタクリロイルオキシエチル)カルバゾール:メタクリル酸メチル:ジフェン酸ジアリル = 1:4:2 (質量比))と重合開始剤(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド0.08gと紫外線吸収剤を60℃に加温しながら混合して、光学用の材料組成物5−20を得た。
同様にして酸化チタン(IV)の配合割合が5質量%、および35質量%となるように混合した、光学用の材料組成物5−25、5−35を得た。
実施例1と同様にして、硬化物を得て、屈折率、透過率を測定し、アッベ数νd、部分分散比θgFを求めた。その結果を表2に示す。
また、実施例1と同様にして、複合型光学素子を得て、耐性を評価した。
【0072】
実施例6
重合性化合物(A1)として、重合性カルバゾール化合物であるN−(β−アクリロイルオキシエチル)カルバゾールを、重合性化合物(A2)としてアダマンチルメタクリレートとジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、無機酸化物粒子(B)として酸化チタン(IV)粒子メタノール分散体(酸化チタン(IV)濃度30質量%、粒子径20nm)、表面修飾剤(D)としてメタクリル酸、重合開始剤(C)としてビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホフィンオキサイドを用いた例を示す。
【0073】
酸化チタン(IV)粒子メタノール分散体10gにメタクリル酸9.70gを混合して25℃にて1時間撹拌した後、メタノールなどを50℃での蒸発操作で取り除き、表面修飾した酸化チタン(IV)粒子を得た。
【0074】
材料組成物中の重合性成分(A1)、(A2)と、無機酸化物粒子(B)の合計に対して酸化チタンが占める割合が20質量%になるように表面修飾酸化チタン(IV)4.23gと重合性化合物合計4g(N−(β−アクリロイルオキシエチル)カルバゾール:アダマンチルメタクリレート:ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート= 20:35:40(質量比))と重合開始剤(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド0.08gを60℃に加温しながら混合して光学用の材料組成物6−20を得た。
【0075】
同様にして酸化チタン(IV)の割合が5質量、35質量%となるように混合した、光学用の材料組成物6−5、6−35を得た。て本実施例の材料組成物を得た。
実施例1と同様にして、硬化物を得て、屈折率、透過率を測定し、アッベ数νd、部分分散比θgFを求めた。その結果を表2に示す。
また、実施例1と同様にして、複合型光学素子を得て、耐性を評価した。
【0076】
比較例1
重合性成分(A1)をN−ビニルカルバゾール、重合性成分(A2)をペンタエリスリトールテトラアクリレートに変えた点を除き実施例1と同様にして、材料組成物を調製して、硬化物を作製した後に、実施例1と同様にして特性を測定した。その結果を表2に示す。
また、実施例1と同様にして、複合型光学素子を得て、耐性を評価したところ、われを生じた。
【0077】
比較例2
無機酸化物粒子(B)を40質量%添加する以外の点は、実施例3と同様にして、硬化物を得て透過率を測定した。その結果を表1に示す。また、実施例3と同様にして複合型光学素子を得て、耐性を評価したところ、われを生じた。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のように、重合性化合物として特定の化学構造を有するカルバゾール化合物(A1)を5から75質量%と、重合性官能基を1以上3個以下有しており、その官能基がビニル、アクリルもしくはメタクリル基である重合性化合物(A2)を5から85質量%を含み、無機酸化物粒子(B)を5から35質量%、重合開始剤(C)を重合性化合物(A1)と(A2)の合計量を100質量部としたときに0.1〜5質量部を含む材料組成物の硬化物によって、異常分散性を有し、透明性、加工性、耐性に優れた光学素子を得ることができる。
【符号の説明】
【0081】
1…複合光学素子成形装置、2…金属製胴型、3A…上型、3B…下型、3A1…光学面、3B1…光学面、4…加熱手段、5…駆動棒、6…離型筒、7…注入口、8…排出口、9…成形室、10…複合光学素子、11…光学素子、11A…表面、12…材料組成物、13…硬化物、21…支持台、23…保持筒、25…係合縁、27…モータ、35…支持手段、36…支持柱、37…シリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性化合物として、化学式1で示される重合性化合物(A1)を5から75質量%と、重合性官能基を1以上3個以下有しており、その官能基がビニル基、アクリル基もしくはメタクリル基である重合性化合物(A2)を5から85質量%を含み、無機酸化物粒子(B)を5から35質量%、重合開始剤(C)を重合性化合物(A1)と(A2)の合計量を100質量部としたときに0.1〜5質量部を含むことを特徴とする材料組成物。
【化1】

化学式1において、Rは、炭素数が1〜10である、アルキル基 、アルケニル基、アリル基、シクロアルキル基、アシル基から選ばれるいずれか一種である。また、Xは、重合性官能基である。
【請求項2】
前記化学式1における重合性官能基Xがビニル基、ビニリデン基、ビニレン基、アクリロイル基、メタクリロイル基のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の材料組成物。
【請求項3】
前記化学式1におけるRが直鎖構造であることを特徴とする請求項1または2記載の材料組成物。
【請求項4】
前記化合物(A)がN−(β−アクリロイルオキシエチル)カルバゾール、N−(β−メタクリロイルオキシエチル)カルバゾール、あるいはN−アリルカルバゾールのいずれかであることを特徴とする請求項2記載の材料組成物。
【請求項5】
前記無機酸化物粒子を表面修飾する表面修飾剤(D)を無機酸化物粒子1mol当たり、0.1〜3molを配合したことを特徴とする請求項1記載の材料組成物。
【請求項6】
前記表面修飾剤が重合性官能基を一つも有さない、若しくは一つの重合性官能基を有する事を特徴とする請求項5記載の重合性化合物。
【請求項7】
重合性化合物として、化学式1で示される重合性化合物(A1)を5から75質量%と、重合性官能基を1以上3個以下有しており、その官能基がビニル基、アクリル基もしくはメタクリル基である重合性化合物(A2)を5から85質量%を含み、無機酸化物粒子(B)を5から35質量%、重合開始剤(C)を重合性化合物(A1)と(A2)の合計量を100質量部としたときに0.1〜5質量部を含む材料組成物を硬化したものであることを特徴とする光学素子。
【化2】

化学式1において、Rは、炭素数が1〜10であるアルキル基 、アルケニル基、アリル基、シクロアルキル基、アシル基から選ばれるいずれか一種である。また、Xは、重合性官能基である。
【請求項8】
材料組成物を硬化して積層した複合型光学素子であることを特徴とする請求項7記載の光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−53518(P2011−53518A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203449(P2009−203449)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】