説明

枇杷葉からの高純度コロソリン酸及び高純度ウルソール酸の製造方法

【課題】枇杷葉を原料とし、利用分野の広い高純度コロソリン酸及び高純度ウルソール酸を製造する。
【解決手段】枇杷葉を高濃度低級アルコールで抽出した後濃縮するか水を加えてアルコール濃度を下げ不溶部を回収し、コロソリン酸(Corosolic acid)とウルソール酸(Ursolic acid)を主とする粗抽出物を得る。この粗抽出物を、アルカリを加えた含水アルコールにて溶解し、吸着樹脂で分画し高純度コロソリン酸及び高純度ウルソール酸を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低級アルコールを溶媒として使用し、枇杷葉よりコロソリン酸とウルソール酸を主とする粗抽出物を得る工程、さらに粗抽出物を吸着樹脂により分離精製する工程よりなる、高純度コロソリン酸及び高純度ウルソール酸の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビワ(学名Eriobotrya japonica、英名Japanese loquat、Japanese medlar、Japanese plum、和名 枇杷)は高さ3〜8mほどになる常緑小高木の果樹で、中国や日本に広く分布する。葉は長さ15〜30cm、幅3〜7cmの長楕円形で厚みがあり硬い。光沢のある濃緑色で互生して生える。中国では葉を抗菌、鎮咳、去淡、利尿、暑気当の改善目的で用いられ、煎じた液の湿布を皮膚改善などに用いる。また葉にはウルソール酸、オレアノール酸、コロソリン酸、マスリン酸などのトリテルペン化合物が存在する。一般的にコロソリン酸には以下のような作用があることが知られている。
1)インスリン様活性を有する
2)糖の細胞内への取り込みを助ける
3)血糖値上昇抑制作用を有する
またウルソール酸には以下のような作用があることが知られている。
4)しわの発生を防止する
5)紫外線による繊維束の崩壊を改善する
6)抗腫瘍作用
【0003】
このように、コロソリン酸及びウルソール酸には種々の作用が見出されており、純度の高いコロソリン酸やウルソール酸の製造が求められている。コロソリン酸に関してはバナバ葉を含水エタノールで抽出し、この抽出物を活性炭処理し、更に濃縮して沈殿物を回収する製造方法(例えば特許文献1)、枇杷葉からコロソリン酸を含む抽出物を製造する方法(例えば特許文献2)などが開示されている。ウルソール酸に関しては、ウルソール酸とオレアノール酸誘導体の混合濃縮物を得る方法(例えば特許文献3)などが開示されている。
【特許文献1】特開2005−263650号広報
【特許文献2】US6,908,632
【特許文献3】特開2002−345434号広報
【0004】
しかしながら、枇杷葉から高純度コロソリン酸及び高純度ウルソール酸を効率よく得ること、食品として利用可能な条件での製造方法についてほとんど検討されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
枇杷葉には数種のトリテルペノイド化合物が含まれているが、これらを分離精製し高純度化合物を得ることはその含水アルコールに対する溶解性だけでは困難であった。また、今日分離精製に頻繁に用いる吸着樹脂などを使用することは、これら化合物のエタノールをはじめとする樹脂精製用溶媒対する難溶解性から困難であった。
【0006】
そこで本発明は、枇杷葉を原料とし、高純度コロソリン酸及び高純度ウルソール酸を製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、コロソリン酸含量7〜15重量%及びウルソール酸含量7〜15重量%の粗抽出物を得ること、この粗抽出物を吸着樹脂により分離精製することを鋭意検討した結果、このトリテルペン化合物の持つカルボン酸に着目し、アルカリ性含水アルコールにこれらのトリテルペン化合物が容易に溶解することを発見して、吸着樹脂を用いての分離に成功し、本発明を完成するに至った。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に使われる枇杷の学名はEriobotrya japonicaで、葉を利用する。採取したばかりのものでもよいが、抽出効率の点から乾燥し細かく粉砕したものが好ましい。
【0009】
乾燥した枇杷葉をカッターなどで細かく粉砕し、高濃度低級アルコール溶液を加え抽出する。このとき、アルコールはメタノールあるいはエタノールが好ましい。その濃度は80〜99.5体積%が好ましく、抽出温度は60度以上〜沸点以下が好ましい。また、アルコールの蒸発を防ぐために抽出設備には還流装置や、抽出効率を上げるために攪拌装置などを用いるとよい。更に純度を上げるためには活性炭処理も有効である。
【0010】
次いで得られた粗抽出液を、水を加えるか或いは濃縮してアルコール濃度を下げ、発生する不溶物を回収する。回収方法はろ過或いは遠心分離が好ましく、ろ過性が悪い場合はろ過助剤の使用も可能である。
【0011】
次いで得られた粗抽出物に、含水アルコール溶液とアルカリを加え溶解し、無極性樹脂に掛けて分画しコロソリン酸とウルソール酸の分離精製を行う。このとき、含水アルコールは40〜70体積%のメタノール或いはエタノールが好ましい。またアルカリは水酸化ナトリウム或いは水酸化カリウムが好ましく、無極性樹脂はスチレン−ジビニルベンゼン系あるいはアクリル−ジビニルベンゼン系の合成吸着樹脂、例えばHP20、XAD4あるいはそれに類するものが好ましい。
【0012】
こうして得られたコロソリン酸及びウルソール酸の分離精製物に酸を加え結晶を析出させ回収することで高純度コロソリン酸及び高純度ウルソール酸を得られ、ここにこの発明はその目的を達し終える。
【実施例1】
【0013】
乾燥した枇杷の葉を粉砕して、その1kgに10Lの99.5体積%メタノールを加え加熱還流下で抽出を行い、ろ過して粗抽出液を得る。これを2回繰り返し得られた粗抽出液を合わせ、ここに活性炭を加えクロロフィル類を吸着除去する。次いでこの液を2Lになるまで減圧濃縮し、攪拌しながら1Lの温水を加えた後放置して発生する微黄色の不溶物をろ過して集める。これを乾燥して得られた粗抽出物は38.5gあり、コロソリン酸含量は12.4重量%、ウルソール酸含量は13.3重量%であった。
【実施例2】
【0014】
実施例1で得られた粗抽出物10gに50体積%メタノール100mlと水酸化ナトリウム2gを加え攪拌して溶解し、濾過して不溶物を除去し濾液を得る。不溶物に水15mlを加え攪拌して洗浄し濾過を行い、この洗浄液と濾液を合わせる。200mlのHP20を充填したカラムにこの液を掛け、50体積%メタノールで展開して100mlごとのフラクションを回収する。このフラクション1〜6にはコロソリン酸、ウルソール酸以外の成分が主として流出し、フラクション7〜12にはコロソリン酸が主として流出してくる。次いで99.5体積%メタノールを流してウルソール酸を回収するとともに樹脂の洗浄を行う。
【0015】
こうして得られたフラクション7〜12を塩酸で酸性にし、析出する結晶を乾燥することで含量32重量%の高純度コロソリン酸を2.7g得た。ついで99.5体積%メタノール部分に水を加えた後塩酸で酸性にし、析出する結晶を乾燥することで含量75重量%の高純度ウルソール酸を1.1g得た。
【実施例3】
【0016】
実施例2で得られたフラクション7〜12のうち、フラクション10のみを塩酸で酸性にし、析出する結晶を乾燥することで含量75重量%の高純度コロソリン酸を得た。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明で得られた高純度コロソリン酸及び高純度ウルソール酸は、各化合物の有する既知の作用を発揮させる目的で医薬品、医薬部外品、化粧品などに利用でき、使用する溶媒をエタノールに限定することで食品素材としても利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
枇杷葉を高濃度低級アルコールで抽出し、水を加えるか濃縮してアルコール濃度を下げ、コロソリン酸(Corosolic acid)とウルソール酸(Ursolic acid)を主とする粗抽出物を得ること。
【請求項2】
上記で製造した粗抽出物を、アルカリを加えた含水アルコールにて溶解し、吸着樹脂(無極性)に付加して含水アルコールで展開してコロソリン酸とウルソール酸を分離精製し、1〜95重量%の高純度コロソリン酸及び1〜95重量%の高純度ウルソール酸を得ること。
【請求項3】
請求項2の含水アルコールが40〜70体積%のメタノールまたはエタノールであること、アルカリが水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムであること、及び吸着樹脂がHP20またはXAD4であること。

【公開番号】特開2008−255085(P2008−255085A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−121954(P2007−121954)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(595132360)株式会社常磐植物化学研究所 (10)
【Fターム(参考)】