説明

検査装置及び検査方法

【課題】探索画像中にテンプレートと類似したパターンが存在する場合でも正確なマッチング位置を出力する検査装置及び方法を提供する。
【解決手段】画像探索部にテンプレート選択画像におけるテンプレートの相対位置と探索画像における現在探索中の場所の相対位置を比較してその位置ずれ量を出力する相対位置比較部を有し、マッチング位置決定部において探索画像類似度分布情報のみならず、前記位置ずれ量をも考慮しマッチング位置を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置及び検査方法に関し、例えば、半導体検査装置などにおいてテンプレート・マッチングを用いた検査に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、対象画像の中から、与えられた特定の形状(テンプレート)を探索する技術はテンプレート・マッチングとして広く用いられていた。(Azriel Rosenfeld、Avinash C. Kak著Digital Picture Processing 8.3節参照。)
また、特許文献1に開示されているように、テンプレートと探索画像のx−投影、y−投影それぞれの類似度を統合してマッチング位置を高速に求めるといった、テンプレート・マッチングの高速化に関する試みがある。さらに、特許文献2に開示されているように、探索画像におけるテンプレートとの類似度を局所的な類似度の分散を考慮してノイズの多い画像でも高精度に見積もるというテンプレート・マッチングの高精度化に関する試みもなされている。
【0003】
走査式電子顕微鏡を用いた半導体ウェーハ上のパターンの計測においても、計測位置を求めるためにテンプレート・マッチングが行われている。計測位置の大まかな位置合わせはウェーハを載せたステージの移動によって行われるが、ステージの位置決め精度では電子顕微鏡の高い倍率で撮影された画像上で大きなズレが生じる。このズレを補正して正確な位置での計測を行うためにテンプレート・マッチングが行われる。具体的には計測位置に近いユニークなパターンをテンプレートとして登録して、テンプレートから見た計測位置の相対座標を記憶しておく。そして、撮影した画像から計測位置を求める時は、撮影した画像においてテンプレート・マッチングを行ってマッチング位置を求め、そこから記憶しておいた相対座標分移動したところが計測位置となる。
【0004】
図1は、走査式電子顕微鏡におけるテンプレート・マッチングを説明したものである。まず、対象物(a)の計測位置を撮影してその中に含まれるユニークなパターンをテンプレートとして登録する。このとき撮影された画像(b)をテンプレート選択画像といい、テンプレート選択画像から選ばれたユニークなパターン(c)をテンプレートという。次に、別の対象物(a’)((a’)は(a)と同じウェーハ上の同一パターンを持った別の場所、例えば同じウェーハ上に繰り返し形成されているダイの同一部分であってもよいし、異なるウェーハ上の同一パターンを持った場所でもよい。)を撮影した時に、撮影画像の中からテンプレートとマッチするパターンを探す。この撮影画像(b’)を探索画像という。テンプレート選択画像(b)と探索画像(b’)の間には、ステージの位置決め誤差分のズレがある。このズレをテンプレート・マッチングで補正する。テンプレート・マッチングの結果、テンプレートとの類似度が高い箇所がマッチング位置の候補となるが、これらの候補の中から最もマッチング位置に相応しい箇所が最終的なマッチング位置となる。例えば特許文献2に記載の方法を用いる場合には、テンプレートを細分して計算する局所的な類似度の分散を、各候補において求めて、この分散を考慮して最終的なマッチング位置を決定することになる。
【0005】
図2は、上述した走査式電子顕微鏡におけるテンプレート・マッチングの流れを図示したものである。撮影されたテンプレート選択画像はテンプレートの登録を行うテンプレート登録部に入力され、手動或いは自動で選択されたユニークなパターンがテンプレート切出し部においてテンプレートとして切り出され保存される。撮影された探索画像はテンプレートとのマッチング位置を探索する画像探索部に入力され、探索画像類似度算出部においてテンプレートと照合される。探索画像類似度算出部からは探索画像中でテンプレートとの類似度がどのように分布しているかを表す探索画像類似度分布情報が出力される。マッチング位置決定部は探索画像類似度分布情報を基にマッチング位置を決定する。
【0006】
この時、単に類似度が最大の点をマッチング位置とすることもできるし、特許文献2に記載の方法を使うこともできる。この場合、探索画像類似度分布情報は細分化されたテンプレートによる局所的類似度に関する情報を含むことになる。また、特許文献1のように、テンプレートと探索画像のx−投影、y−投影それぞれの類似度の分布を探索画像類似度分布情報として持つようにすれば高速にマッチング位置を決定することができる。
【0007】
このように、従来のテンプレート・マッチング手法は探索画像におけるテンプレートとの類似度を局所的な類似度の分散を考慮してノイズの多い画像でも高精度に見積もるなどの工夫はされている。
【0008】
【特許文献1】特開2003−85565号公報
【特許文献2】特開昭61−98483号公報
【非特許文献1】“1190944025838_0.pdf”、長嶋聖、青木孝文、常田るり子、信学技報、SIP2005-42, pp. 19--24, June 2005.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の方法を用いたとしても、周期的なパターンで構成されている画像に対してはテンプレートと一致するパターンが複数存在するためマッチング位置が安定しない。
【0010】
図3及び図4は共に、半導体のウェーハ上に形成された連続したコンタクトホール、即ちホールアレイの画像を示している。共にテンプレート選択画像において計測対象としたいホールの周辺をテンプレートとして、探索画像で計測対象としたいホールを特定しようとしている。図3では、計測対象としたいホールの周辺が画像全体の中でユニークであるため、従来の方法でも計測対象としたいホールを特定することが出来る。また、図4では、ホールが規則的に繰り返しており、周期性を持っているためテンプレートと一致するパターンはユニークではなく複数存在する。このような場合は従来の方法では計測対象としたいホールを特定することは出来ない。このようなケースでは何処のホールを計測しても構わないという場合もあるが、テンプレート選択画像と探索画像の視野のずれが微小である場合にはテンプレート選択画像で指定したホールと同じ位置にあるホールを探索画像において特定して計測したいという要求もある。このような要求に応えようとする場合、従来の方法でもテンプレート選択画像と探索画像の視野のずれが微小であるという条件を与えられれば探索範囲を限定することで同じ位置にあるホールを特定することが可能な場合もある。ところが、オペレータの手間の増大や、間違ってこの条件を設定してしまった場合の観測失敗のリスクから、テンプレート選択画像と探索画像の視野のずれが微小であるかどうかという条件を使用することが許されない場合がある。
【0011】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、探索画像が周期的なパターンで構成される場合であっても、的確なマッチング位置を出力する検査装置及び方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明では、テンプレート選択画像におけるテンプレートの相対位置と探索画像における現在探索中の場所の相対位置を比較してその位置ずれ量を出力し、探索画像類似度分布情報のみならず、位置ずれ量をも考慮してマッチング位置を決定する。
【0013】
即ち、本発明による検査装置は、探索画像を取得し、その探索画像に対してテンプレート・マッチングを施す検査装置であって、テンプレート選択画像におけるテンプレートの相対位置を記憶する記憶部と、テンプレート・マッチングの際に探索画像におけるテンプレートとの類似度の分布を計算する類似度分布計算部と、記憶部からテンプレートの相対位置を取得し、探索画像における探索位置の相対位置とテンプレート選択画像におけるテンプレートの相対位置のずれである位置ずれ量を計算する位置ずれ量計算部(相対位置比較部)と、探索画像における前記テンプレートとの類似度の分布と前記位置ずれ量とに基づいてマッチング位置を決定するマッチング位置決定部と、を備えている。
【0014】
また、マッチング位置決定部は、探索画像の周期性の度合いに応じて、位置ずれ量をマッチング位置の決定に反映させる割合を変化させるようにする。
【0015】
記憶部は、さらに、テンプレート選択画像におけるテンプレートとの類似度の分布を記憶している。この場合、マッチング位置決定部は、テンプレート・マッチングの際に探索画像におけるテンプレートとの類似度の分布とテンプレート選択画像におけるテンプレートとの類似度の分布の類似性を考慮して、マッチング位置を決定するようにしてもよい。
【0016】
なお、位置ずれ量計算部は、正規化相関マップの面積に対する正規化相関マップ間類似度算出領域の面積の割合を1.0から引いた値を位置ずれ量としてもよい。また、x方向の位置ずれ量とy方向の位置ずれ量の和や、x方向の位置ずれ量とy方向の位置ずれ量のうち大きい方を位置ずれ量としてもよい。
【0017】
本発明による検査装置は、さらに、位置ずれ量が最終的なマッチング位置の決定に与える影響の割合を設定するためのユーザインタフェースを備え、ユーザが割合を適宜設定できるようにしている。
【0018】
また、本発明は、上記検査装置に対応する検査方法も提供する。
さらなる本発明の特徴は、以下本発明を実施するための最良の形態および添付図面によって明らかになるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、探索画像が周期的なパターンで構成される場合であっても、特にテンプレート選択画像と探索画像の視野のずれが微小であるという条件を指定せずに的確なマッチング位置を出力することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、本実施形態は本発明を実現するための一例に過ぎず、本発明を限定するものではないことに注意すべきである。
【0021】
<検査装置の構成>
図5は、本発明の一実施形態に係る検査装置の概略構成を示すブロック図である。図5において、カメラや電子顕微鏡などで撮影された画像、或いはそれを一旦保存しておいた画像がテンプレート選択画像としてテンプレート登録部51に入力される。テンプレート切出し部511は、テンプレート登録部51に入力されたテンプレート選択画像からテンプレートを切り出す。なお、テンプレートは、探索画像に対してテンプレート・マッチングを行うまでテンプレート登録部51に記憶されている。
【0022】
カメラや電子顕微鏡などで撮影された画像、或いはそれを一旦保存しておいた画像が探索画像として画像探索部52に入力されると、探索画像類似度算出部521は、探索画像におけるテンプレートとの類似度分布を探索画像類似度分布情報として出力する。相対位置比較部522は、テンプレート選択画像におけるテンプレートの相対位置と探索画像における探索点(テンプレートと類似度を求める領域)の相対位置を比較してその位置ずれ量を出力する。そして、マッチング位置決定部523は、探索画像類似度分布情報と位置ずれ量を基にマッチング位置を決定する。
【0023】
図6は、本発明の他の実施形態に係る検査装置の概略構成を示すブロック図である。図6において、図5と同様、カメラや電子顕微鏡などで撮影された画像、或いはそれを一旦保存しておいた画像がテンプレート選択画像としてテンプレート登録部61に入力される。テンプレート切出し部611は、テンプレート登録部61に入力されたテンプレート選択画像からテンプレートを切り出す。周辺類似度算出部612は、テンプレート選択画像におけるテンプレートとの類似度の分布を周辺類似度分布情報として出力する。なお、 テンプレートや周辺類似度分布情報は探索画像に対してテンプレート・マッチングを行うまでテンプレート登録部に記憶されている。
【0024】
カメラや電子顕微鏡などで撮影された画像、或いはそれを一旦保存しておいた画像が探索画像として画像探索部62に入力されると、探索画像類似度算出部621は、探索画像におけるテンプレートとの類似度分布を探索画像類似度分布情報として出力する。類似度分布間類似度算出部624は、周辺類似度分布情報と探索画像類似度分布情報の類似度を類似度分布間類似度として出力する。相対位置比較部622は、テンプレート選択画像におけるテンプレートの相対位置と探索画像における探索点(テンプレートと類似度を求める領域)の相対位置を比較してその位置ずれ量を出力する。マッチング位置決定部623は、探索画像類似度分布情報と類似度分布間類似度からマッチング位置を決定する。
【0025】
<検査装置(図3及び6)の具体的処理>
図7は、テンプレート選択画像、及び探索画像として入力される走査式電子顕微鏡画像を表している。走査式電子顕微鏡画像は非常にノイズが多く、そのままではパターンがノイズに埋もれてしまってパターンの判読が難しい。そのため何度か同じ画像を取り直して、それらを積算する。パターンの情報は取り直しても変化しないが、ノイズは取り直すたびにランダムに変化するため、積算することによってノイズが減少してパターンがはっきり現れるようになる。
【0026】
次に、図8を参照して、テンプレート・マッチングについて説明する。図8Aは探索画像を示し、図8Bはテンプレート(参照画像)を示している。ここで、テンプレート・マッチングとは探索画像中でテンプレートと同じ部分を検出する処理である。例えば、探索画像にテンプレートをずらしながら重ね合わせて正規化相関を計算して、最も高い相関値が得られた場所をテンプレートと同じパターンを持った場所と判断する、といった処理が挙げられる。
【0027】
CD−SEMは、走査式電子顕微鏡を用いて、半導体ウェーハ上の特定箇所を測長する検査装置である。そして、CD−SEMにおいては、測長すべきウェーハ上の箇所を特定するために、最初のウェーハの測長を行う際に、測長箇所の付近でユニークなパターンを持つ部分をテンプレートとして登録しておき、次回からは同じ場所の測長ではテンプレート・マッチングで得られた座標を基に測長箇所を特定するということが行われる。
【0028】
図8の例の場合には、探索画像は、aの位置(図8C)でテンプレートと同じパターンを持っている。また、同じパターンではないが次に相関値が高くなるところはのb、c、d、eの4箇所(図8D)である。更に、その次に相関値が高くなるのはf、g(図8E)である。それ以外の場所では相関は殆どなく、相関値は0に近い値となる。図8Fは正規化相関マップといって座標ごとの相関値を画素値とする画像である。aにおいて値a’を取りこれは1に近い値となる。b、c、d、e、f、gでも値b’、c’、d’、e’、f’、g’を取るが、これはa’に比べたら低い値となる。正規化相関マップは類似度分布情報の一つの具体例である。なお、テンプレート・マッチングを行う際は、前処理としてノイズ除去、エッジ強調などのフィルタを入力画像に施してから正規化相関を計算するのが望ましい。
【0029】
図9は、正規化相関マップ領域の大きさ(例)を示している。正規化相関マップの各点における値を、その点をテンプレートの左上端にあわせた時のテンプレートとの相関値として定義した時、正規化相関マップの右下端はテンプレートを探索画像の右下一杯に重ねた時のテンプレートの左上端と一致する。従って、正規化相関マップ領域の大きさは、探索画像の縦横の長さそれぞれからテンプレートの縦横の長さそれぞれを引いたものとなっている。
【0030】
図10は、正規化相関マップ(図8F)からマッチング位置を決定する一例を挙げている。横軸はx−y座標、縦軸は相関値を表している。最も相関値が大きいところがテンプレートと最もよくマッチングした位置である。相関値の最大値v1が所定の閾値th1よりも小さくなっている場合は、テンプレートと一致する箇所はなかったと考えるのが妥当である。また、2番目に大きい相関値v2とv1の差v1−v2が所定の閾値th2よりも小さくなっている場合は、相関値の大小ではなく類似度分布間類似度(正規化相関マップ同士の類似度)の大小でマッチング位置を決定するなどの方法が挙げられる。若しくは、相関値と類似度分布間類似度にそれぞれ所定の重み付けを行い、和をとったものにおける大小でマッチング位置を決定する方法も考えられる。さらに位置ずれ量も考慮して、位置ずれ量が少ないほどマッチング位置として相応しいと考え、マッチング位置を決定する方法も考えられる。
【0031】
図11は、類似度分布として正規化相関マップを用いた時の類似度分布間類似度、即ち正規化相関マップ間類似度を算出するために使用できる領域の大きさを説明した図である。図9でも示したように、テンプレート選択画像及び探索画像それぞれの正規化相関マップ領域は、それぞれの画像領域からテンプレートの大きさを除いた図11A及びBの網掛け部分である。テンプレート位置がテンプレート選択画像の正規化相関マップ領域の左端からlt、右端からrt、上からut、下からdt(図11C参照)、探索画像の正規化相関マップ領域の左端からls、右端からrs、上からus、下からds(図11D参照)とすると、正規化相関マップ間類似度の算出領域は横がmin(lt,ls)+min(rt,rs)、縦がmin(ut,us)+min(dt,ds)の領域(図11E参照)となり、テンプレート位置とマッチング候補位置がずれているほどこの領域は狭くなる。正規化相関マップ間類似度の算出領域があまり小さくなると正規化相関マップ間類似度の意味合いがなくなってくるので、このような時は撮影倍率を下げて広い領域で撮りなおすといった工夫が必要となる。
【0032】
或いは、正規化相関マップ間類似度の算出領域面積の正規化相関マップ面積に対する割合を1.0から引いた量を位置ずれ量と定義して、位置ずれ量が大きい場合は正規化相関マップ間類似度があまり意味を持たなくなることから、位置ずれ量が大きいほど正規化相関マップ間類似度のマッチング位置決定に与える影響を小さくすることも考えられる。
【0033】
続いて、図12乃至16を参照して、ホールが規則的に繰り返しており、周期性を持っているためテンプレートと一致するパターンがユニークではなく複数存在するような場合に、テンプレート選択画像で指定したホールと同じ位置にあるホールを探索画像において特定して計測する方法について説明する。
【0034】
図12乃至16は、テンプレート・マッチングを撮影倍率を変えて2段階で行い計測すべきホールを特定する例を示している。2段階のテンプレート・マッチングを行う場合、最初の低倍率画像でのテンプレート・マッチングをアドレッシング、後の高倍率画像でのテンプレート・マッチングをアラインメントと呼ぶことにする。
【0035】
図12は、アドレッシングの様子を示している。アドレッシングでは低倍率で撮影を行った広い視野の画像を用いる。広い視野の画像では、その中からユニークなパターンを抽出するのが容易である。アドレッシングにおけるテンプレート選択画像から、アドレッシングに使用するユニークなテンプレートを選び、探索画像においてこのテンプレートと一致するパターンを探索する。低倍率であるため、ステージ移動の誤差が相対的に小さく見えるため、テンプレートの選択位置から比較的近いところに探索画像のマッチング位置が存在する。
【0036】
図13は、アラインメントにおいて取得する画像の撮影位置を求めている様子を表している。アドレッシングのテンプレート選択画像におけるアラインメント画像の撮影位置は予め決まっているので、アドレッシングのテンプレート選択位置からアラインメント画像の撮影位置へのオフセットも予め求めることが出来る。アドレッシングにおける探索画像のマッチング位置からこのオフセット分移動した位置が探索画像におけるアラインメント画像の撮影位置となる。
【0037】
図14は、アドレッシングの結果求まった位置において取得したアラインメント用の高倍率画像を表している。アラインメント用の高倍率画像はアドレッシング用の低倍率画像を撮影からステージを移動することなく、電子ビームのシフトによって撮影されるため、テンプレート選択画像と探索画像の間での視野のずれは小さなものになる。具体的には、このずれはアドレッシングの誤差と電子ビームのシフトの誤差によって生じる。このずれを再度アラインメントにおいて補正して計測対象としたいホールを位置合わせしてからホールの径などを計測する。
【0038】
アドレッシングにおけるテンプレートはユニークなものが選択できるが、アラインメントでは計測対象のホールが周期的に並んだホールの1つである場合などユニークなテンプレートを選択することが不可能となる。図15は、このようにアラインメントにおいてユニークなテンプレートを選択できない場合を示している。テンプレートがユニークでない場合探索画像におけるマッチング位置はテンプレートと同一の或いは非常に類似したパターンのうち何処をとるかが安定しておらず、微妙なパターンの歪みやノイズがマッチング結果を左右することになる。図15では計測対象としたいホールの周囲がテンプレートに設定されている。マッチング位置も計測対象としたいホールの周囲となって欲しいところであるが、パターンが周期的でありテンプレートがユニークでないため計測対象としたいホールとは別のホールの周囲がマッチング位置となってしまっている。
【0039】
この結果、図16に示すように、計測対象としたいホールと計測対象として実際に選択されたホールが異なってしまっている。
【0040】
図17は、類似度分布情報を利用したテンプレート・マッチングの一例を示している。図17において(a)(a’)(b)(b’)は、図1と同じ対象物と探索画像を示しているが、図17では候補1と候補2のどちらをマッチング位置とするかを決める時に、もし候補1と候補2の類似度が非常に近い値を示したり、或いは逆転していたとしても、周辺類似度分布情報(d)、及び探索画像類似度分布情報(d’)を利用して候補2をマッチング位置とすることができるようになっている。即ち、テンプレート選択画像におけるテンプレート位置を原点とした周辺類似度分布情報を候補2の位置を原点とした探索画像類似度分布情報と重ね合わせると、二つの類似度分布情報がとても類似していることが分かる。つまり、共に原点周りが最も明るくて右、下、右下にそれよりかなり暗い箇所が存在している。そして、候補1を原点とする探索画像類似度分布情報は原点の下に最も明るい部分があり、類似度が低いことが分かる。
【0041】
類似度分布情報間の類似度を求める際に、テンプレート選択画像のテンプレート位置における正規化相関値は常に1となるため、この位置の値は除外して類似度を求める必要がある。これはテンプレート選択画像がテンプレート位置においてテンプレートと完全に(ノイズまでも)一致するために生じる弊害である。或いはこの弊害を回避するためにテンプレート選択画像を同じ条件で2回撮影して、一方のテンプレート選択画像からテンプレートを切り出し、周辺類似度分布情報は他方のテンプレート選択画像との間で求めるようにしてもよい。
【0042】
また、正規化相関マップは狭い範囲で高い値をとる傾向があるので、パターンの歪みや画像の回転(電子顕微鏡ではローレンツ力の影響で画像が僅かに回転することがある)などを考慮すると、正規化相関マップをそのまま使用するより、正規化相関マップにガウスフィルタや最大値フィルタを施して、明るい部分を太らせた後、正規化相関マップ間の類似度を求めたほうがよい。また、高速化のために正規化相関マップの解像度を落として正規化相関マップ間の類似度を求めるのも有効な手段である。
【0043】
更に、類似度分布情報は画像としてではなく、類似度が高い箇所の座標情報と類似度をリストにしたもので表現されていてもよい。
【0044】
なお、ここでは画像中のパターンに周期性は無いが、周期性がある場合には位置ずれ量が小さい候補をマッチング位置として選択するような処理が有効である。
【0045】
図18及び19は、図11に示した正規化相関マップ間の類似度算出領域の面積比(正規化相関マップの面積に対する)を1.0から引いた量を位置ずれ量としたときの総合指標値の構成例を示している。ここで、総合指標値とは類似度や類似度分布間の類似度、及び位置ずれ量から構成され、最終的なマッチング位置の決定の際に比較される指標値のことである。以下の説明において下記記号を用いることにする。
N : 正規化相関値(類似度)
R : 類似度分布間類似度(図17では(d)と(d’)の類似度)
A : 重なり部分の面積比:(1.0−位置ずれ量)
ここで、Nの重要度 = 候補中最大のN(N’と表記) ‥‥ (1)
を導入する。Nの重要度はノイズやパターンの歪みが大きい程低下する量となる。
【0046】
次に、Rの重要度を導入する。Rの重要度としては、
Rの重要度 = 候補中最大のR(R’と表記) ‥‥ (2)
Rの重要度 = 候補中最大の(R×重なり部分の面積比A):(RA’と表記)
‥‥ (3)
Rの重要度 = 候補中最大の(R×A)を取るR:(Rと表記) ‥‥ (4)
等が考えられる。Rの重要度はパターンの不形成や視野が異なると低下する。
【0047】
図18は、N及びRの重要度を考慮した指標値の構成について示している。上位3候補に対してそれぞれのRとNをRの重要度とNの重要度で重み付けした平均値として重要度を考慮した指標値を求めている。このとき、Nの重要度やRの重要度は画像毎に固定であり、候補間で共通である。また、各候補のNやRの値に一定の値を底上げ、底下げしても候補間の得点差は普遍である。
【0048】
さらに、Rの信頼度 = 重なり部分の面積比(A) ‥‥ (5)
を導入する。Rの信頼度は候補毎に異なり、Rの信頼度が低いほどRの大小が最終的な総合指標値に及ぼす影響は小さくすべきである。ここで、Rの大小の影響を小さくするということは、Rの値を小さくするということではなく、Rの値をRの標準値に近づけるということである。
【0049】
図19は、N、Rの重要度及びRの信頼度を考慮した指標値の構成について示している。N、Rの重要度及びRの信頼度を考慮した指標値は、夫々のRからRの標準値分底下げしたものについてN及びRの重要度を考慮した指標値を計算したものである。前述のように底下げ分は影響ないので、実質的にはRの信頼度に応じてRの標準値に近づけているのと同じである。
【0050】
ここで、Rの標準値とは、Rとして大きくも小さくも無い値、ニュートラルな代表値を意味している。具体的には、
Rの標準値 = 候補中最大の(R×A)を取るR(Rと表記 ) ‥‥ (6)
Rの標準値 = R×α ‥‥ (7)
などが考えられる。αは例えば0.9などの1.0より小さい実数である。
【0051】
Rの標準値を小さく取る程、Rの最終的な指標値とA(Rの信頼度)との相関が強くなる。即ち、テンプレート選択画像におけるテンプレート相対位置と探索画像における候補の相対位置が近い候補ほど順位が高くなる傾向がある。また、この傾向はこの傾向はRの絶対値が大きい周期画像で特に顕著となる。即ち、同じαに対しては画像の周期性が高いほどこの傾向が強く、画像の周期性に応じて位置ずれ量をマッチング位置の決定に反映させる割合が変化する。
【0052】
式(7)においてαを小さく取れば取るほど、位置ずれ量の小さい候補の順位が高くなる。つまり、αによって最終的なマッチング位置の位置ずれ量を小さくする効果をコントロールすることが出来る。このαは固定値でもよいが、ユーザインタフェースを通してオペレータが設定(可変の値に)するようにしても良い。
【0053】
位置ずれ量としては、上記のように、正規化相関マップ間の類似度算出領域の面積比(正規化相関マップの面積に対する)を1.0から引いた量とする以外にも、x方向の位置ずれ量(x方向の相対位置の差の絶対値)とy方向の位置ずれ量の和を使う、或いはx方向の位置ずれ量とy方向の位置ずれ量のうち大きい方を使うなど、位置ずれが大きい程大きな値を取る指標であれば良く、計算が軽くて済む指標を用いることもできる。
今までは類似度分布情報として正規化相関マップを用いた場合について説明してきた。正規化相関は以下のように計算される。
【0054】
×Nのサイズの画像f(n,n)とg(n,n)に対して、
【0055】
【数1】

と置いたとき、正規化相関は、次のように算出される。
【0056】
【数2】

【0057】
なお、ここで、N×Nはテンプレートのサイズである。fとgはテンプレートと対象領域である。
【0058】
類似度分布情報としては正規化相関マップ以外のものを使うことも出来る。例えば位相限定相関関数を使うことが出来る。位相限定相関関数について以下説明する。
【0059】
×Nのサイズの画像f(n,n)とg(n,n)(但し、−N/2≦n≦N/2−1、−N/2≦n≦N/2−1)に対して、その離散フーリエ変換をF(k,k)、G(k,k)とすると、
【0060】
【数3】

【0061】
また、相互スペクトルは次のようになる。
【0062】
【数4】

【0063】
さらに、相互位相スペクトルは次のようになる。
【0064】
【数5】

【0065】
また、相互位相スペクトルの逆離散フーリエ変換は位相限定相関関数であり、次のように書ける。
【0066】
【数6】

【0067】
fとgは同じサイズでなければいけないので、テンプレートは探索画像と同じ大きさに0拡張する。
【0068】
<その他>
(1)位置ずれ量を、正規化相関マップ間の類似度算出領域の面積比(正規化相関マップの面積に対する面積比)を1.0から引いた量とする場合、位置ずれ量は0.0から1.0までの値に正規化される。このように、0.0から1.0までの値に正規化された位置ずれ量(1.0−A)を用いて、上述のRを含まない総合指標値を、次のように定義することもできる。
N+kA
【0069】
ここで、kは位置ずれ量を総合指標値にどれ位反映させるかを表す定数であり、固定値としても良いし、外部からユーザ等が指定できるようにしても良い。この総合指標値は、位置ずれ量が少ないほど、またNが高い程高くなる。同程度のNを持つ2つの位置においては位置ずれ量が少ない方がマッチング位置となる。このようにRを含まない総合指標値を採用した場合のシステムは図1のようになる。
【0070】
(2)テンプレート選択画像と探索画像の間に回転や拡縮が生じている場合には、回転や拡縮がどの程度かを推定する方法もある。詳細は非特許文献1に示されているが、ここでは図20に概要を示す。
【0071】
テンプレート選択画像、及び探索画像の振幅スペクトルを計算する。振幅スペクトルは原画像の平行移動に関して不変なので、回転と拡縮のみを反映したものとなる。これにlog−polar変換(極座標変換の後、動径方向に対数を施したもの)を施すと、回転はx−軸、拡縮はy−軸方向の平行移動量として検出される。
【0072】
このようにして回転や拡縮がどの程度かを推定しておき、それに応じてテンプレートや周辺類似度分布情報に回転や拡縮を施しておくことで、より確実なテンプレート・マッチングが期待できる。その際、テンプレートのオフセットには注意を払う必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】従来技術の概念を示す図である。
【図2】従来技術による検査装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】周期性の無いホールアレイの画像例を示す図である。
【図4】周期性のあるホールアレイの画像例を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態による検査装置の概略構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の他の実施形態による検査装置の概略構成を示すブロック図である。
【図7】積算回数に対する走査式電子顕微鏡からの入力画像の例を示す図である。
【図8】テンプレート・マッチング概念を示す図である。
【図9】正規化相関マップ領域を説明するための図である。
【図10】マッチング位置決定の方法を示す図である。
【図11】正規化相関マップ間類似度算出領域を説明するための図である。
【図12】アドレッシングにおけるマッチングを説明するための図である。
【図13】アドレッシングにおける計測対象部分特定を説明するための図である。
【図14】計測対象部分の高倍率撮影を説明するための図である。
【図15】アラインメントにおけるマッチングを説明するための図である。
【図16】アラインメントにおけるマッチングの失敗例を示す図である。
【図17】類似度分布情報を利用したテンプレート・マッチングの一例を示す図である。
【図18】NとRの重要度を考慮した指標値を説明するための図である。
【図19】NとRの重要度、及びRの信頼度を考慮した指標値を説明するための図である。
【図20】画像間の回転、拡縮の検出方法の概念を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
51、61・・・テンプレート登録部
52、62・・・画像探索部
511、611・・・テンプレート切出し部
521、621・・・探索画像類似度算出部
522、622・・・相対位置比較部
523、623・・・マッチング位置決定部
624・・・類似度分布間類似度算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
探索画像を取得し、その探索画像に対してテンプレート・マッチングを施す検査装置であって、
テンプレート選択画像におけるテンプレートの相対位置を記憶する記憶部と、
テンプレート・マッチングの際に探索画像におけるテンプレートとの類似度の分布を計算する類似度分布計算部と、
前記記憶部から前記テンプレートの相対位置を取得し、前記探索画像における探索位置の相対位置と前記テンプレート選択画像におけるテンプレートの相対位置のずれである位置ずれ量を計算する位置ずれ量計算部と、
前記探索画像における前記テンプレートとの類似度の分布と前記位置ずれ量とに基づいてマッチング位置を決定するマッチング位置決定部と、
を備えることを特徴とする検査装置。
【請求項2】
前記マッチング位置決定部は、前記探索画像の周期性の度合いに応じて、前記位置ずれ量を前記マッチング位置の決定に反映させる割合を変化させることを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記記憶部は、さらに、前記テンプレート選択画像におけるテンプレートとの類似度の分布を記憶しており、
前記マッチング位置決定部は、前記テンプレート・マッチングの際に前記探索画像におけるテンプレートとの類似度の分布と前記テンプレート選択画像におけるテンプレートとの類似度の分布の類似性を考慮して、前記マッチング位置を決定することを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項4】
前記位置ずれ量計算部は、正規化相関マップの面積に対する正規化相関マップ間類似度算出領域の面積の割合を1.0から引いた値を前記位置ずれ量とすることを特徴とする請求項3に記載の検査装置。
【請求項5】
前記位置ずれ量計算部は、x方向の位置ずれ量とy方向の位置ずれ量の和を前記位置ずれ量とすることを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項6】
前記位置ずれ量計算部は、x方向の位置ずれ量とy方向の位置ずれ量のうち大きい方を前記位置ずれ量とすることを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項7】
さらに、前記位置ずれ量が最終的なマッチング位置の決定に与える影響の割合を設定するためのユーザインタフェースを備えることを特徴とする請求項4に記載の検査装置。
【請求項8】
検査装置において、探索画像を取得し、その探索画像に対してテンプレート・マッチングを施す検査方法であって、
テンプレート選択画像におけるテンプレートの相対位置を記憶する記憶部と、
類似度分布計算部が、テンプレート・マッチングの際に探索画像におけるテンプレートとの類似度の分布を計算する工程と、
位置ずれ計算部が、テンプレート選択画像におけるテンプレートの相対位置を記憶する記憶部から前記テンプレートの相対位置を取得し、前記探索画像における探索位置の相対位置と前記テンプレート選択画像におけるテンプレートの相対位置のずれである位置ずれ量を計算する工程と、
マッチング位置決定部が、前記探索画像における前記テンプレートとの類似度の分布と前記位置ずれ量とに基づいてマッチング位置を決定する工程と、
を備えることを特徴とする検査方法。
【請求項9】
前記マッチング位置決定部は、前記探索画像の周期性の度合いに応じて、前記位置ずれ量を前記マッチング位置の決定に反映させる割合を変化させることを特徴とする請求項8に記載の検査方法。
【請求項10】
前記記憶部は、さらに、前記テンプレート選択画像におけるテンプレートとの類似度の分布を記憶しており、
前記マッチング位置決定部は、前記テンプレート・マッチングの際に前記探索画像におけるテンプレートとの類似度の分布と前記テンプレート選択画像におけるテンプレートとの類似度の分布の類似性を考慮して、前記マッチング位置を決定することを特徴とする請求項8に記載の検査方法。
【請求項11】
前記位置ずれ量計算部は、正規化相関マップの面積に対する正規化相関マップ間類似度算出領域の面積の割合を1.0から引いた値を前記位置ずれ量とすることを特徴とする請求項10に記載の検査方法。
【請求項12】
前記位置ずれ量計算部は、x方向の位置ずれ量とy方向の位置ずれ量の和を前記位置ずれ量とすることを特徴とする請求項8に記載の検査方法。
【請求項13】
前記位置ずれ量計算部は、x方向の位置ずれ量とy方向の位置ずれ量のうち大きい方を前記位置ずれ量とすることを特徴とする請求項8に記載の検査方法。
【請求項14】
さらに、ユーザインタフェースを介して、前記位置ずれ量が最終的なマッチング位置の決定に与える影響の割合を設定する工程を備えることを特徴とする請求項11に記載の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−86920(P2009−86920A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254610(P2007−254610)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】