説明

極微細構造体の乾燥処理装置および乾燥処理方法

【課題】極微細構造体のダメージや破損を防止して、効率よく乾燥処理が行える乾燥処理装置および乾燥処理方法を提供する。
【解決手段】被乾燥物を配置し乾燥を行う処理槽1と、少なくともこの処理槽1に第1の流体と第2の流体を供給する流体源31,32を有し、前記第1の流体は第2の流体と親和性を有しかつ水より表面張力の小さい液体であり第2の流体は超臨界ないし亜臨界状態にすることが可能な流体であり、処理槽1内に第1の流体を導入して被乾燥物2を配置するかあるいは処理槽内に被乾燥物2を配置して第1の流体を導入し、前記第1の流体を排出して処理槽に超臨界ないし亜臨界状態の第2の流体を導入するか液体状態の第2の流体を導入して超臨界ないし亜臨界状態とし、前記第2の流体を液相を介することなく気化して乾燥処理を行う極微細構造体の乾燥処理装置および方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LSI等の半導体素子や微細電子機械システム(MEMS)、微細光学機械システム(MOEMS)、表面微細機械工システム等を洗浄、リンス後の乾燥処理や、カーボンエアロゲル、アルミナエアロゲル、シリカエアロゲルなどのエアロゲル(aerogel)、メソポーラス多孔体、ナノポーラス多孔体、メソポーラス以下の多孔体、およびマトリクス構造体、微小構造物中に残存する有機溶媒などの溶媒を除去する超臨界流体処理装置および超臨界流体処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器における小型化、高集積化の要請は、素子や装置を構成する各部材のさらなる微小化を必要とする。しかし、個々の部材の微小化は、その製造工程において新たな問題を生じている。
【0003】
LSIやMEMS素子を始めとする極小の高集積デバイスを製作するためには、極微細構造が必要となる。この極微細構造は、例えば通常露光、現像、リンス洗浄(以下、単にリンスと言う)および乾燥を経てレジストパターンを形成した後、エッチング、水洗、リンス・乾燥を経て形成される。リンスは通常、イオン除去した水等で行われるが、乾燥時にレジスト薄膜のスティッキング(sticking)やスティクション(stiction)と称するパターン倒れや付着故障の問題が生じる場合がある。パターン倒れを起こすと、集積回路が寸断され、素子として機能しなくなるという致命的な問題を生じる。スティクション(付着故障)とはカンチレバーやダイヤフラムなどの微小な可動部が基板や周囲の構造物に付着して動かなくなる現象である。
【0004】
このような現象が生じるのは、例えば微細電子機械システム(MEMS)において、素子基体上に僅かに離れて形成された2つの凸部や、基体上に僅かなギャップを開けて形成された構造物があるとする。この素子を洗浄液、リンス液に浸漬して洗浄/リンスした後、これを乾燥させる際に2つの凸部の間や構造物とのギャップからも洗浄液、リンス液が蒸発する。このとき、毛細管力(capillary force)が作用して、凸部を互いの方向に方へ引っ張ったり、構造物を基体の方向に引っ張る力が働く。すると、この凸部の一方が他方の凸部を突いたり、構造物が基体を付いて傷を付けたり、凸部や構造物が折れて構造自体が破壊される。また、可動部が張り付くのも同じことである。
【0005】
毛細管力は、パターン間に残った液内圧力と大気圧との差で生じ、洗浄液、リンス液の表面張力に依存する。このため、リンス液の表面張力が大きい程、毛細管力は大きくなりスティッキング、スティクションが生じやすくなる。スティッキング等を防止するために、通常用いる洗浄液、リンス液から表面張力の小さい溶媒に置換してその後乾燥する手法が検討されている。表面張力は、液体と気体の界面で発生するため、液体と気体の界面を生じさせない溶媒として超臨界流体を用いる試みがなされている。一般に使われる超臨界流体としては、臨界圧力、臨界温度が低く安全な二酸化炭素(CO2)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかし、このような二酸化炭素の超臨界流体を用いた洗浄、乾燥装置は、超臨界流体である二酸化炭素が水との親和性が極めて低いため、水を直接二酸化炭素で置換することが困難であった。このため、水でリンスした半導体装置を乾燥させる場合には上記乾燥法を用いることが困難である。一方、界面活性剤等を用いて水と二酸化炭素との親和性を高める試みも種々なされているが、未だ実用に耐えうるような結果は得られていない。
【0007】
特開2007−305933号公報(特許文献2)には、超臨界二酸化炭素を媒体として使用し、表面に硬化層を有するレジストを剥離することが可能な基板の洗浄方法を提供することを目的として、半導体基板上のレジストを剥離する工程において、基板51上のレジスト70に、二酸化炭素エアロゾル71を噴射することにより前記レジスト表面の硬化層70Aに亀裂を発生させた後、同一のチャンバー46内において超臨界二酸化炭素40と添加剤とを供給し、基板上のレジスト70を剥離して基板を洗浄する基板の洗浄方法が開示されている。また、有機溶剤が、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、エチレングリコール、N−メチルピロリドン、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、トリフロロ酢酸から選ばれる少なくとも1種類以上であることも記載されている。
【0008】
しかし、この文献の洗浄方法は、レジストを効果的に剥離することを目的としたもので、微細加工された構造物の破損を解消するものではない。このため、超臨界流体と添加剤とが一体として用いられ、特定の溶媒を超臨界流体で置換する操作は行われない。そして、添加剤が加えられた超臨界流体は溶解槽からそのまま気液分離・回収手段47に排出されて、ここで気化され、添加剤と分離されている。
【0009】
特開2006−066698号公報(特許文献3)には、パターンの変形が抑制された状態で、液処理に引き続いて超臨界処理を行うことによる乾燥処理ができるようにすることを目的として、移送トレー103を副処理槽102より引き上げ、移送トレー103に洗浄水104が収容され、洗浄水104の中に基板111が浸漬された状態とする。次に、移送トレー103中に、イソプロピルアルコールを導入し、移送トレー103中に収容されていた洗浄水104をイソプロピルアルコールに置換し、移送トレー103にイソプロピルアルコール105が収容され、イソプロピルアルコール105の中に基板111が浸漬された状態とする。次に、超臨界処理装置106の反応室内部に、移送トレー103が収容された状態とする構成の乾燥方法が開示されています。さらに、この文献の段落0009には、超臨界流体で満たされた状態から徐々にこの超臨界流体を放出すると、液体と気体との界面が形成されないことから、乾燥対象の超微細パターンに表面張力を作用させずに乾燥させることができる点も記載されている。
【0010】
しかし、上記方法は、常に水が満たされた搬送トレーにイソプロピルアルコールを導入しているが、溶液を導入するための機構が複雑になり、実用的ではない。また、上記方法では、処理槽内において二酸化炭素を導入した際、大量に用いたイソプロピルアルコールが分散し、これを完全に排出されるためには二酸化炭素を多量に流入させなければならない。これは、原料である二酸化炭素を浪費するばかりか、排出される二酸化炭素量が増大し、地球温暖化を防止するために温暖化ガスを規制する規則にも反することになる。また、イソプロピルアルコールや二酸化炭素を排出する時間も掛かり、これも量産工程に向けた課題となっている。
【特許文献1】特開2000−223467号公報
【特許文献2】特開2007−305933号公報
【特許文献3】特開2006−066698号公報
【非特許文献1】表面技術, Vol.56, No.2, p92-97(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、極微細構造体のダメージや破損を防止して、効率よく乾燥処理が行え、さらに多孔体やマトリクス状の構造体等微細構造物内に含有する溶媒も除去可能な乾燥処理装置および乾燥処理方法を提供することである。
【0012】
また、本発明の他の目的は、乾燥に要する時間を極力短縮し、しかも使用する流体の消費を抑えることの可能な乾燥処理装置および乾燥処理方法提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため本発明は以下の構成とした。
(1)被乾燥物を配置し乾燥を行う処理槽と、少なくともこの処理槽に第1の流体と第2の流体を供給する流体源を有し、
前記第1の流体は第2の流体と親和性を有しかつ水より表面張力の小さい液体であり第2の流体は超臨界ないし亜臨界状態にすることが可能な流体であり、
処理槽内に第1の流体を導入して被乾燥物を配置するかあるいは処理槽内に被乾燥物を配置して第1の流体を導入し、
前記第1の流体を排出して処理槽に超臨界ないし亜臨界状態の第2の流体を導入するか液体状態の第2の流体を導入して超臨界ないし亜臨界状態とし、
前記第2の流体を気液界面を介することなく除去して乾燥処理を行う極微細構造体の乾燥処理装置。
(2)被乾燥物を配置し乾燥を行う処理槽と、この処理槽に少なくとも第2の流体を供給する流体源と、他の処理槽に収納されている第1の流体を少なくとも有し、
前記第1の流体は第2の流体と親和性を有しかつ水より表面張力の小さい液体であり第2の流体は超臨界ないし亜臨界状態にすることが可能な流体であり、
前記被洗浄物を第1の流体が収納された第1の流体槽内に浸漬し、
前記被洗浄物を第1の流体槽から取り出して処理槽内に配置し、
超臨界ないし亜臨界状態の第2の流体を導入するか液体状態の第2の流体を導入して超臨界ないし亜臨界状態とし、
前記第2の流体を気液界面を介することなく除去して乾燥処理を行う極微細構造体の乾燥処理装置。
(3)さらに、第1の流体に対して親和性の低い第3の流体を供給する流体源を有し、前記第2の流体を供給後に第3の流体を供給して第1の流体と第2の流体を排出する上記(1)または(2)の極微細構造体の乾燥処理装置。
(4)前記被乾燥物に付着している水と第1の流体とが置換される上記(1)〜(3)の何れかの極微細構造体の乾燥処理装置。
(5)前記第1の流体は、アルコール系溶媒である上記(1)〜(4)のいずれかの極微細構造体の乾燥処理装置。
(6)前記第1の流体は有機溶媒であり、予め被乾燥物に付着または包含されている上記(1)〜(4)の何れかの極微細構造体の乾燥処理装置。
(7)前記第2の流体は、二酸化炭素である上記(1)〜(6)のいずれかの極微細構造体の乾燥処理装置。
(8)前記第3の流体は、窒素または不活性ガスである上記(3)〜(7)のいずれかの極微細構造体の乾燥処理装置。
(9)前記処理槽は、流体流入口と流体流出口が槽内空間を介して対向する位置にある上記(1)〜(8)のいずれかの極微細構造体の乾燥処理装置。
(10)被乾燥物に付着した水を第2の流体と親和性を有しかつ水より表面張力の小さい液体である第1の流体で置換し、
次いで被乾燥物が配置された処理槽内に超臨界ないし亜臨界状態の第2の流体を導入するか液体状態の第2の流体を導入して超臨界ないし亜臨界状態とし、
その後第2の流体を気液界面を介することなく除去して乾燥処理を行う極微細構造体の乾燥処理方法。
(11)さらに、前記第2の流体を供給後に第3の流体を供給して第1の流体と第2の流体を排出する上記(10)の極微細構造体の乾燥処理方法。
(12)前記第1の流体は有機溶媒であり、予め被乾燥物に付着または包含されている上記(10)または(11)の極微細構造体の乾燥処理方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、LSIやMEMS等の半導体、ディスプレーなど超微細構造体の洗浄・リンス後の乾燥処理において、ダメージや破損を防止して、効率よく乾燥処理を行うことが可能となり歩留まりが向上し、生産性が格段に向上する。さらに、微小多孔体、マトリクス構造体、微小構造物などに付着、含有している溶媒を除去することが可能である。
【0015】
また、乾燥に要する時間を極力短縮し、しかも使用する流体の消費を抑えることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の極微細構造体の乾燥処理装置は、被乾燥物を配置し乾燥を行う処理槽と、少なくともこの処理槽に第1の流体と第2の流体を供給する流体源を有し、前記第1の流体は第2の流体と親和性を有しかつ水より表面張力の小さい液体であり第2の流体は超臨界ないし亜臨界状態にすることが可能な流体であり、処理槽内に第1の流体を導入して被乾燥物を配置するかあるいは処理槽内に被乾燥物を配置して第1の流体を導入し、前記第1の流体を排出して処理槽に超臨界ないし亜臨界状態の第2の流体を導入するか液体状態の第2の流体を導入して超臨界ないし亜臨界状態とし、前記第2の流体を液相を介することなく気化して乾燥処理を行うものである。
【0017】
また、前記第1の流体は第1の流体槽に収納し、これに被乾燥物を浸漬した後、前記処理槽内に配置して第2の流体を導入するようにしてもよい。
【0018】
このように、水洗後の被処理物を第2の流体と親和性を有し水より表面張力の小さい第1の流体で置換することで、第2の流体を導入した際に水と置換された第1の流体が第2の流体によく拡散する。そして、第2の流体を超臨界ないし亜臨界状態から液相を経ずに気液界面を生じることなく乾燥させることができ、微細構造のダメージや破損を防止することができる。
【0019】
本発明の被乾燥物とは、極微細構造を有する電子素子やその他の極微細構体である。具体的にはメモリーやCPUあるいはシステム用途のLSI等の半導体素子、微細電子機械システム(MEMS)、微細光学機械システム(MOEMS)、表面微細機械工システムの他、プラズマ、液晶、有機・無機エレクトロルミネッセンス素子などの微細配線、素子構造を有するディスプレーも含まれる。さらに、これらの電子デバイスの他、極微細構造を有する物であれば適用できる。また、極微際構造とは例えばパターン倒れが問題となる線幅100nm以下の配線構造を有する素子である。より詳細には、シリコン構造物の場合、定数k=0.31、ライン間隔:D、アスペクト比:H/W(高さ:H、幅:W)としたときD>k(H/W)2 の式を満たす条件を満たす構造物を有する素子である。また、レジストの場合は、定数k=5〜10である。その他の微細構造も前記寸法に準じたものであれば極微再構造に含まれる。
【0020】
本発明の被乾燥物は、その製造工程における洗浄、リンス工程を経たものであり、いわゆるウエット状態になっている。このため、被乾燥物には前記工程で付着した液体がそのまま表面に存在するか、あるいは液体中に浸漬した状態で提供される。このような液体は、所定の機能を有する溶液であってもよいが、通常リンス工程における水、特に純水(DIW)である。また、リンスや洗浄に必要な成分を含む組成物の水溶液であってもよい。そして、このような付着した液体を除去する工程が本発明の乾燥工程である。
【0021】
本発明装置の処理槽は、上記被乾燥物を、先ず洗浄、リンス等の前処理を行った後の乾燥処理等を行う。その大きさや形状も特に限定されるものではなく、処理対象が収納可能な大きさ、形状にすればよい。例えば300mmシリコンウェーハの量産工程で処理を行う場合、通常1〜25枚、好ましくは3〜25枚程度収容できることが望ましい。この場合、容量は好ましくは0.001〜1m3 より好ましくは0.001〜0.03m3程度である。
【0022】
処理槽の形状としては、特に限定されるのではなく所定の耐圧を有し密閉可能な容器であればよく、耐圧の高い一般的なタンク形状でもよいし、これを変形、加工してより収容効率を向上させた楕円や箱状などでもよい。しかし、超臨界ないし亜臨界状態の流体を扱うことから耐圧性能の面では、円筒状の容器が好ましく、円筒の上部が蓋として取り外し可能な容器が、被乾燥物の出し入れが容易になることから推奨される。
【0023】
また、処理槽には流体を導入する流入口と流体を排出する排出口が設けられている。これら流入/排出口の位置は特に限定されるものではないが、流体の交換や排出を効率よく行わせるためには、流入口と流出口とが槽内空間を介して対向する位置に形成されているとよい。例えば流入口を処理槽上部に、流出口を処理槽下部に設けるとよい。ここで前記の上部、下部とは、処理槽の内部空間の高さの2/3以上、好ましくは1/4以上を上部といい、1/3以下、好ましくは1/4を下部という。また、排出口は底面、より好ましくは中央付近に設けるとよい。あるいは、流入口を一方の側面に設け、流出口をこれと対向するような側面に設けてもよい。つまり、流体が槽内を一定の方向に流れるような配置になればよい。なお、対向するとは完全に向かい合っている必要はなく、上下左右にずれた位置であってもよい。
【0024】
処理槽には導入/流出する流体に圧力を与える吸入/排出装置を設けてもよい。特に、第2の流体を液体相として導入し、処理槽内で超臨界ないし亜臨界状態とする場合には吸入装置(加圧装置)は必須となる。排出装置は無くてもよいが、流体の排出を迅速かつ確実に行わせる場合には必要である。吸入装置は1次側の流体を吸引し、2次側を所定の圧力まで昇圧できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、ガスまたはエアー、あるいは液体用のポンプやコンプレッサーの機能を有するものを製造してもよいし、市販されているものの中から用途に即したものを選択して用いてもよい。なお、流体源自体が必要とする圧力以上の圧力を有するものであれば、前記吸入装置は不要である。
【0025】
処理槽内の流体の圧力および温度は、流体の種類や対象物の種類などにより好適な圧力、温度にすればよい。具体的には第1の流体の場合、通常被乾燥物が浸漬できる程度に存在すればよいので圧力は雰囲気と同じ程度であり、温度は20〜40℃の範囲で使用される。第2の流体の場合、通常温度は20〜50℃、圧力は5〜35MPaの範囲で使用される。第3の流体の場合、通常温度は20〜50℃、圧力は5〜35MPaの範囲で使用される。
【0026】
第1〜第3の流体を供給する流体源は、特に限定されるものではなく、各流体を収納保存可能であって、必要な場合には所定の圧力に耐えられる容器であればよい。通常、第1の流体源は、耐食性を有する液体を収納できる容器が用いられ、第2第3の流体源はガスボンベ等、耐食性、耐圧性を備えた容器が用いられる。これらの容器の材質は、樹脂材料や、ステンレス、鉄、アルミニウムなどの金属材料により形成される。さらにこれらの材料を組み合わせたり、樹脂やガラスなどをコーティングしたりして用いてもよい。
【0027】
処理槽には、流体の供給側および/または排出側にそれぞれ圧力調節器として圧力レギュレターを設けてもよい。この圧力レギュレターは、通常流体の供給側に減圧レギュレター、排出側に背圧レギュレターが用いられる。減圧レギュレターは2次側の圧力を所定の圧力に調節するものであり、背圧レギュレターは1次側の圧力を所定の圧力に調節する。圧力の調節にはレギュレーター内のバネの押圧力とこれに接続されているピストン、ダイヤフラムの受ける圧との均衡作用を利用している。これにより、処理槽内部が所望の圧力に保つことができる。圧力調節範囲は必要とされる処理槽内の圧力に応じて好適な範囲のものを選択すればよい。通常市販の圧力レギュレターでは、0〜35MPa程度である。また、本発明の圧力調節装置は上記圧力レギュレーターに限定されるものではなく、圧力の調節が可能な機器であればいかなる形態の機器を用いてもよい。また、圧力調節器は、通常流路中に配置される。
【0028】
処理槽には、必要に応じて加熱器を設けてもよい。この加熱器は処理槽に直接設けるのではなく、処理槽に流体を供給する流路に設けてもよい。流路に設けることで、流体への熱の伝達が良好になり、温度制御の速度が早く、精度も向上する。用いられる加熱器は特に限定されるものではなく、一般に市販されている加熱器、つまり工業用ヒーターの中から好適なものを選択して用いることができる。具体的には熱源として、セラミックス、電熱線、ラバーヒーター等の中から好適なものを用いればよい。ヒーターの形態としては、例えばシーズヒーター、投入ヒーター、バンドヒーター、ベルトヒーター、リボンヒーター、フラットヒーター等がある。これらの中でも、シーズヒーターは配管で加熱するのに適し、バンドヒーター、ベルトヒーターは処理槽で加熱するのに適している。
【0029】
本発明における第1ないし第3の流体は、それぞれ要求される特性を満たし、上記被乾燥物の乾燥処理等を行うのに適した流体であれば特に限定されるものではない。
【0030】
第1の流体は、下記の第2の流体と親和性があり、水と混和し置換可能であって水より表面張力の小さい液体が好ましい。水と置換することで、水を被乾燥物から取り除き、それ自体も下記第2の流体に拡散して排出可能になる。このような流体としては、例えば直鎖もしくは分岐を有する炭素数1〜6のアルコール系溶媒が好ましく、より具体的にはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールが好ましい。特にメタノールまたはイソプロピルアルコール(IPA)が好ましく、これらは単独でも2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
第2の流体は、第1の流体と親和性があり、超臨界ないし亜臨界状態にすることが可能な液体または気体である。超臨界流体となる材料としては超臨界二酸化炭素(SCCO2)がよく知られている。この二酸化炭素は製造が容易で、毒性がなく環境への影響が少ないことから超臨界流体として優れている。この二酸化炭素に基本性能を損なわない範囲で種々の副成分を混合して用いてもよい。
【0032】
第2の流体による乾燥処理は、超臨界状態(31.1℃、7.4MPa以上)から液相を経ないで、界面を生じることなく気化することで高い効果が得られる。また、いわゆる亜臨界状態であっても超臨界に準じた効果が得られる。
【0033】
第3の流体は、上記第1の流体に対して親和性の低い流体である。このような、親和性の低い流体により第1の流体を処理槽から排出する。また、不活性な流体が好ましく、具体的には窒素の他アルゴンなどの不活性元素のガス・流体(超臨界流体)である。これらは複数種類を組み合わせて用いてもよい。第3の流体は、拡散している第1の流体および第2の流体を効率よく排出することが主な目的であることから、通常気体もしくは超臨界流体で供給される。ここで不活性元素とは、周期表第18族の元素であり、具体的にはヘリウムHe、ネオンNe、アルゴンAr、クリプトンKr、キセノンXe、ラドンRnである。これらの中でも、ヘリウムHe、ネオンNe、アルゴンArが好ましい。これらのなかでも特に窒素ガスが好ましい。
【0034】
上記第1〜第3の流体は、流体源内に収納され、必要に応じて適量が処理槽内に供給される。また、第1の流体は他の槽に収納された状態で使用される場合もある。流体源と処理槽とは好ましくは、流路で接続されている。流体源と処理槽とが直接接続されていると、嵩張るばかりか、両者の圧力や温度管理が困難になる。この流路は液体または気体である流体の流路として通常用いられている流路であれば特に限定されるものではなく、一般的な配管材の中から好適なものを選択して用いればよい。また、特に耐圧力性を考慮すると金属の管が好ましく、さらに耐腐食性が必要な場合にはステンレス鋼などの腐食に強い材質かあるいはフッ素系樹脂などの腐食に強い樹脂をコーティングあるいは不動態化処理したものや、2重構造にしたものを用いるとよい。
【0035】
各流路には必要に応じて流体の供給/停止を行ったり、流量を調節する流量調節弁を設けるとよい。流量調節弁は、流体の流量をゼロから所定の流量にまで無段階的に調節できるものが好ましい。このような流量調節弁は特に限定されるものではなく、一般に流量調節弁として市販されているものの中から好適なものを選択して用いればよい。流量調節弁は手動で動作させるものでもよいが、自動調整を行うような場合には電動の動力源等を用いて遠隔で制御可能なものがよい。
【0036】
次に本発明の第2の態様について説明する。本発明の第2の態様では、被乾燥物として、カーボンエアロゲル、アルミナエアロゲル、シリカエアロゲルなどのエアロゲル(aerogel)、メソポーラス多孔体、ナノポーラス多孔体、メソポーラス以下の多孔体等、およびマトリクス構造体、あるいは半導体、機能性薄膜などを組み合わせた微小構造物、さらには核酸、タンパク質断片、生体に作用する有機構造物などの有機構造体を対象にする。これらのなかでも、特にメソポーラス多孔体、ナノポーラス多孔体、メソポーラス以下の多孔体など微小粒状多孔体、およびマトリクス構造体が適している。
【0037】
本発明の第2の態様では前記被乾燥物中に残存する有機溶媒などの溶媒を除去することを主な目的とている。このような溶媒は、被乾燥物の製造工程や前処理工程で被乾燥物に付着したり、多孔体、マトリクス内部に残存する形で被乾燥物に包含されている。
【0038】
そして、前記有機溶媒などの溶媒が上記第1の流体に相当する。このような溶媒としては、特に有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、具体的には次のようなものが挙げられる。ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、アセトン、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン、ヘキサン、ペンタン、トルエン、ニトロベンゼン、テトラクロロエチレン、ジクロロエチレン、クロロホルム、トリクロロエチレン、トリクロロエタン、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、エチルエーテル、塩化メチレン、キシレン、ピリジン、エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、ベンゼン、クロロベンゼン等。これらは単独でも複数の混合物になっていてもよい。
【0039】
上記の様に、第2の態様では第1の流体に相当する溶媒は既に被乾燥物に付着するか多孔体やマトリクス内部に包含されている。このため、第2の態様では上記第1の流体を処理槽内に導入したり、被乾燥物を浸漬する工程は不要である。その他の工程、処理内容は上記と同様であるが、特に本態様では第3の流体を用いた排出工程が重要である。
【0040】
次に図を参照しつつ本発明の装置について、より具体的に説明する。図1は本発明装置の概略構成を示すブロック図である。
【0041】
図において、本発明装置は流体源となる第1〜第3の流体容器31〜33と処理槽1とを有する。第1〜第3の流体容器31〜33はそれぞれ流路111,121,131を介して、吸入装置であるポンプ21,22,23と接続されている。ポンプ21,22,23は、流体を加圧して処理槽に流入する速度を速めたり、処理槽内の圧力を高めたりする。
【0042】
さらに、ポンプ21,22,23から流路112,122,132を介してフィルター41,42,43と接続され、さらのこのフィルター41,42,43から流路113,123,133を介して流量調整弁V11、V12、V13と接続されている。流量調整弁V11、V12、V13は、供給される流体の流量を調節する。さらに、流量調整弁V11、V12、V13は、流路114,124,134を介してバルブV1,V2,V3と接続されている。バルブV2,V3は、流路101に接続され、流路101の他端は処理槽1に接続されている。この流路101には加熱するためのヒーター4が取り付けられている。前記流路122および流路132から流路101に至る経路を共通にして一方を省略してもよい。
【0043】
一方、バルブV1は流路115を介して後述する処理槽1に接続した流路103と接続されている。前記流路121,131と流路122,132にはそれぞれ、ポンプ22,23の1次側と2次側の圧力を測定する圧力計P21,P31およびP22,P32が設けられている。また、処理槽1にも同様に槽内の圧力を測定する圧力計P10が設けられている。
【0044】
処理槽1内には被乾燥物2が配置されている。処理槽1は流路103を介して背圧レギュレターVC1と接続され、さらに背圧レギュレターVC1は流路104を介してバルブV4と接続されている。前記背圧レギュレーターVC1は主に圧力を制御することで、処理槽1内の圧力を一定に保つことができる。さらに、前記バルブV4は流路105を介して外部出力OUTに接続される。この外部出力OUTは、大気中に媒体を放出したり、図示しないリサイクル経路に流体を送出したり、あるいは一時的に受容器に受け止めて排出したりする。
【0045】
前記媒体容器31は、流路111、流量調整弁V11、流路112、ポンプ21流路113、バルブV3、流路114、流路103を介して処理槽1と接続される。つまり、前記経路から容器31の第1の流体が排出口側から処理槽1に供給できるようになっている。第1の流体を供給するときには排出用のバルブV4は閉じている。また、前記経路は、上記第2の流体、第3の流体の供給経路側に設けてもよいし、これらと経路の一部を共通にしてもよい。
【0046】
本発明において、圧力レギュレーター、流量調節弁、吸入装置、排出装置は、それぞれ単独で手動制御してもよいし、単独あるいは連動する形で電気的に制御してもよい。また、処理槽1および必要な箇所には、図示しない圧力センサー、温度センサーが設けられていて、各部の圧力、温度を監視し、適切な圧力、温度に管理できるようになっている。また、異常な圧力から保護するための安全弁を各バルブやレギュレーターに使用することも推奨される。このため、本発明の好ましい態様では、安全弁、圧力レギュレーター、流量調節弁、吸入装置、排出装置を圧力センサー、温度センサーが接続された制御装置により自動制御し、自動運転が可能な装置にするとよい。このような制御装置としては、一般的なプロセッサを有するPCやシーケンサー等を用いることができる。
【0047】
次に、上記本発明装置の動作について説明する。図2は本発明の方法を示したフローチャートである。
(1)先ず、バルブ4を閉じ、バルブV1を開いてポンプ21を動作させ、所定流量で第1の流体を容器31から処理槽1に供給する。処理槽1内に第1の流体が被乾燥物を浸漬できる量が満たされると、ポンプ21を停止して、バルブV1を閉じる(S1)。
(2)次に、被処理物を処理槽1の第1の流体中に配置し、密閉する(S2)。
(3)次いで、バルブV2を開き、ポンプ22を動作させ、所定流量で第2の流体を第2の流体容器32から処理槽1に供給して処理槽内の圧力を上昇させる(S3)。
(4)引き続き第2の流体を加圧しながら処理槽1に供給し、処理槽1内の圧力、密度、温度条件を速やかに超臨界状態になる設定値まで到達させる(S4)。
(5)処理槽1内の圧力、密度、温度条件が既定値に達するとバルブV4を開いて、処理槽内の圧力を一定条件に保ちながら第1の流体、および第1と第2の流体の混合物を排出する(S5)。
(6)処理槽1内の圧力、密度、温度条件を一定に保ちながら所定時間、第2の流体への置換処理を行う。
(7)次に、バルブV2を閉じ、第2の流体の供給を停止し、背圧レギュレーターVC1を調整しながら処理槽内の温度を低下させることなく第2の流体を排出して、第2の流体が液化しないように排出して減圧する(S6)。これにより、被乾燥物はストレスを受けることなく乾燥する。また、必要によりバルブV2を調節して第2の流体を供給しながら排出作業を行ってもよい。
(8)また、本発明の好ましい態様では、上記(7)第2の流体の供給停止後にバルブV3を開いてポンプ23を動作させ所定流量の第3の流体を流体容器33から処理槽1に供給する(S11)。
(9)処理槽1内では、第1の流体が第3の流体に拡散、溶解する量は極少量のため、第1および2の流体は、第3の流体に押し出されるように速やかに排出される(S12)。これにより、乾燥時間を短縮することができ、処理槽内で第2の流体に残存する第1の流体が拡散することもなく第2に流体の使用量も少なくすることができる。
【0048】
なお、本発明の第2の態様では、上記(1)の工程は不要であり、(2)において単に処理槽内に被乾燥物を配置することになる。
【0049】
なお、上記構成例および動作説明ではポンプ21,22,23を使用しているが、流体源である容器31,32,33の内圧が十分高い場合には、ポンプ21,22,23を省略することができる。
【0050】
次に、本発明の他の態様の装置について説明する。図3は本発明の他の態様の装置の基本構成を示した模式図で、乾燥処理の前工程であるエッチング、洗浄工程を備えている。図3において、装置200は、ローダー210と、前処理工程部220に備えられたエッチング槽221と、リンス槽222と、第1の流体を収納した第1の流体槽223とを備えている。第1の流体槽223は、置換を完全かつ効率よく行わせるために必要により2つ設けてもよい。
【0051】
さらに、装置200上部には移動レール240に備え付けられたロボットアーム241が有り、半導体ウェーハ等の被乾燥物206が収納されたカセット205を、ローダー210からハンドリング機構の間を上下動自在に自由に移動できるようになっている。また、前処理工程部220から離れた位置に乾燥工程用の処理槽201と蓋202が流体供給ユニット203上に配置されている。前記蓋202には、被乾燥物が収納されたカセット205を着脱自在に保持するカセット保持機構202aが設けられている。
【0052】
また、前記前処理工程部220と流体供給ユニット203の間には、台座250上にハンドリング機構251が配置されている。このハンドリング機構251は、回転軸252設けられたアーム253の先端にチャック254を有し、前記カセット205を着脱自在に保持することができる。また、チャック254の下部には支柱255に保持された受け皿256を有し、カセット205から滴下する流体を回収できるようになっている。そして、前記第1の流体槽223からロボットアーム241により引き上げ有られたカセット205を保持して、回動し、処理槽201の蓋202に設けられたカセット保持機構202aにカセットを装着することができるようになっている。
【0053】
このような装置において、先ずローダー210に供給されたカセット205は、ロボットアーム241に保持され、エッチング槽221迄移動して、槽内の処理液に浸漬され、所定の時間処理される。次に、ロボットアーム241によりカセット205は同様にしてエッチング槽221から洗浄槽222に移動して洗浄処理が行われる(S21)。その後、同様にして第1の流体を収納した第1の槽223にカセットを浸漬して、洗浄液と第1の流体とを置換する(S22)。
【0054】
次いで、ハンドリング機構251によりカセット205は蓋202のカセット保持機構202aに装着され、蓋202を閉じることで処理槽内に収納される(S24)。処理槽を密閉した後、上記工程(3)〜(8)と同様にして第2の流体を供給/排出し、さらに第3の流体を供給/排出して乾燥処理を行う。このような装置を用いることで、連続的な処理が可能になり、より効率的な量産が可能になる。
【0055】
なお、上記各装置において、第1の流体の置換や排出は完全に行われなくてもよく、被乾燥物に支障の無い範囲に第1の流体が減少していればよい。このため、第2の流体および第3の流体の供給/排出時間は、対象となる被乾燥物に適した時間に調整すればよい。
【実施例】
【0056】
〔実施例1〕
次に実施例を示し、本発明装置および方法をより具体的に説明する。図1に示す構成の装置において、第1の流体をイソプロピルアルコール(IPA)、第2の流体を二酸化炭素、第3の流体を窒素(N2)として、以下の手順で乾燥処理を行った。
【0057】
先ず、中空状で線幅80nm、長さ5μm、ギャップ1μmのSi微細構造体を形成した6インチウェーハを用意した。このウェーハを搬送用カセットに納め、洗浄、リンスを行った後、イソプロピルアルコール(IPA)に浸漬した。
【0058】
次いで、バルブV4を閉じた状態でバルブV1を開いてポンプ21を動作させ第1の流体としてイソプロピルアルコール(IPA)を、流体源である容器31からカセットが完全に浸漬する量に達するまで処理槽1に供給した。次いで、表面にIPAが付着した状態の被乾燥物を処理槽1内のIPA中に配置した。
【0059】
処理槽を密閉後、バルブV1を開いてポンプ22を動作させ、流体源であるボンベ32から第二の流体である二酸化炭素を供給して、処理槽内の圧力は13MPaにまで上昇した。このときの処理槽内の温度は35℃、流体の密度は0.78g/ccで超臨界状態となった。第2の流体を供給してから超臨界状態になるまでの時間は約3minであった。そして、バルブV4を調整しながら開き、槽内の圧力を一定に保ちつつ槽内の第二酸化炭素を排出した。二酸化炭素を供給しながらこの状態で約6min保持し、おおよそのIPAと二酸化炭素を置換した。
【0060】
次に、ポンプ22を停止し、バルブV2を閉じ、さらにバルブ3を開いてポンプ23を動作させて流体源であるボンベ33から窒素(N2)を供給した。このときの窒素は超臨界流体であった。この状態で10min窒素を供給し、処理槽内の超臨界二酸化炭素(SCCO2 )が略完全に排出された後、ポンプ23を停止しバルブV3を閉じて窒素の供給を停止した。その後、窒素を3minの間排出し続け、槽内の窒素を略完全排出した。最後に、処理槽の蓋を開けカセットを取り出し、ウェーハ表面の状態を確認したところ、パターン倒れは確認できなかった。このことから、本発明の装置、方法を用いることで、超微細加工された半導体ウェーハのパターンを損傷することなく迅速な乾燥処理ができることが分かった。このときの二酸化炭素の消費量は0.7kgであった。
【0061】
〔実施例2〕
実施例1において、第2の流体である二酸化炭素排出時に第3の流体として窒素を供給しない以外は、実施例1と同様にして実験を行った。その結果、二酸化炭素(SCCO2 )の排出を開始してから二酸化炭素中に拡散しているIPAが完全に無くなり全ての二酸化炭素が排出されるまでの時間は80min必要になった。また、実施例1に比べて7倍程度余計に流体源の二酸化炭素を消費することが分かった。この場合も実施例1と同様にウェーハ表面の状態を確認したところ、パターン倒れは確認できなかった。また、被乾燥物の種類により二酸化炭素の置換・排出工程は60〜90minの範囲の時間が必要なことが分かった。このときの二酸化炭素の消費量は約3kgであった。
【0062】
以上の結果から、第3の流体を使用しない場合にも微細構造にダメージを与えることなく乾燥できることが分かった。しかし、処理時間にして4倍程度要し、第2の流体も上記のように多量に消費することが分かった。このため、経済性のみならず環境問題や法規制の観点からも第3の流体を用いることが有利である。なお、上記実施例では発明効果を確認するために比較的小規模の容量での実験を行ったが、実際の量産装置に用いられる大型の処理槽では、本発明の効果がより顕著になるものと期待できる。また、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、上記した発明範囲の種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は極微細構造体、例えばLSI等の半導体素子、微細電子機械システム(MEMS)、微細光学機械システム(MOEMS)、表面微細機械工システム等の半導体素子や、プラズマ、液晶、有機、無機エレクトロルミネッセンス等のディスプレー素子における配線、基板上に形成された素子や微細構造物、あるいは基板上に形成されたアクチュエーターなどの微細可動構造、マイクロモータ等の極微細構造体を洗浄、リンスした後の乾燥処理等を行う工程で特に有用である。また、カーボンエアロゲル、アルミナエアロゲル、シリカエアロゲルなどのエアロゲル(aerogel)、メソポーラス多孔体、ナノポーラス多孔体、メソポーラス以下の多孔体など微小粒状多孔体、およびマトリクス構造体、あるいは半導体、機能性薄膜などを組み合わせた微小構造物、さらには核酸、タンパク質断片、生体に作用する有機構造物などの有機構造体等、これらに付着、包含した溶媒除去にも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の方法の構成を示すフローチャートである。
【図3】本発明の装置の他の構成例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0065】
1 処理槽
2 被乾燥物(カセット)
21,22,23 ポンプ
31 第1の流体源
32 第2の流体源
33 第3の流体源
41,42,43 フィルター
200 装置
201 処理槽
202 蓋
202a カセット保持機構
205 カセット
206 被乾燥物
210 ローダー
220 前処理工程部
241 ロボットアーム
251 ハンドリング機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被乾燥物を配置し乾燥を行う処理槽と、少なくともこの処理槽に第1の流体と第2の流体を供給する流体源を有し、
前記第1の流体は第2の流体と親和性を有しかつ水より表面張力の小さい液体であり第2の流体は超臨界ないし亜臨界状態にすることが可能な流体であり、
処理槽内に第1の流体を導入して被乾燥物を配置するかあるいは処理槽内に被乾燥物を配置して第1の流体を導入し、
前記第1の流体を排出して処理槽に超臨界ないし亜臨界状態の第2の流体を導入するか液体状態の第2の流体を導入して超臨界ないし亜臨界状態とし、
前記第2の流体を気液界面を介することなく除去して乾燥処理を行う極微細構造体の乾燥処理装置。
【請求項2】
被乾燥物を配置し乾燥を行う処理槽と、この処理槽に少なくとも第2の流体を供給する流体源と、他の処理槽に収納されている第1の流体を少なくとも有し、
前記第1の流体は第2の流体と親和性を有しかつ水より表面張力の小さい液体であり第2の流体は超臨界ないし亜臨界状態にすることが可能な流体であり、
前記被洗浄物を第1の流体が収納された第1の流体槽内に浸漬し、
前記被洗浄物を第1の流体槽から取り出して処理槽内に配置し、
超臨界ないし亜臨界状態の第2の流体を導入するか液体状態の第2の流体を導入して超臨界ないし亜臨界状態とし、
前記第2の流体を気液界面を介することなく除去して乾燥処理を行う極微細構造体の乾燥処理装置。
【請求項3】
さらに、第1の流体に対して親和性の低い第3の流体を供給する流体源を有し、前記第2の流体を供給後に第3の流体を供給して第1の流体と第2の流体を排出する請求項1または2の極微細構造体の乾燥処理装置。
【請求項4】
前記被乾燥物に付着している水と第1の流体とが置換される請求項1〜3の何れかの極微細構造体の乾燥処理装置。
【請求項5】
前記第1の流体は、アルコール系溶媒である請求項1〜4のいずれかの極微細構造体の乾燥処理装置。
【請求項6】
前記第1の流体は有機溶媒であり、予め被乾燥物に付着または包含されている請求項1〜4の何れかの極微細構造体の乾燥処理装置。
【請求項7】
前記第2の流体は、二酸化炭素である請求項1〜6のいずれかの極微細構造体の乾燥処理装置。
【請求項8】
前記第3の流体は、窒素または不活性ガスである請求項3〜7のいずれかの極微細構造体の乾燥処理装置。
【請求項9】
前記処理槽は、流体流入口と流体流出口が槽内空間を介して対向する位置にある請求項1〜8のいずれかの極微細構造体の乾燥処理装置。
【請求項10】
被乾燥物に付着した水を第2の流体と親和性を有しかつ水より表面張力の小さい液体である第1の流体で置換し、
次いで被乾燥物が配置された処理槽内に超臨界ないし亜臨界状態の第2の流体を導入するか液体状態の第2の流体を導入して超臨界ないし亜臨界状態とし、
その後第2の流体を気液界面を介することなく除去して乾燥処理を行う極微細構造体の乾燥処理方法。
【請求項11】
さらに、前記第2の流体を供給後に第3の流体を供給して第1の流体と第2の流体を排出する請求項10の極微細構造体の乾燥処理方法。
【請求項12】
前記第1の流体は有機溶媒であり、予め被乾燥物に付着または包含されている請求項10または11の極微細構造体の乾燥処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−94848(P2012−94848A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213812(P2011−213812)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000157887)KISCO株式会社 (30)
【Fターム(参考)】