説明

樹脂シートの製造方法及び樹脂シート

【課題】基材に樹脂組成物を塗工し、乾燥させることによって、電子・電気材料分野等において好適に用いられる厚膜の樹脂シートを作製するに際し、厚膜でも反りやワレのない平板な樹脂シートを簡便に作製することができる樹脂シートの製造方法を提供する。
【解決手段】重合体、フィラー及び溶媒を必須成分として含み、粘度が100mPa・s以上である樹脂組成物から厚みが0.4mm以上である樹脂シートを製造する方法であって、該樹脂シートの製造方法は、樹脂組成物を多孔質の基材上に塗布する工程及び該樹脂組成物を乾燥させる工程を含む樹脂シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂シートの製造方法及び樹脂シートに関する。より詳しくは、工業的な製造設備によって生産される厚膜の樹脂シートの製造に好適に用いられる樹脂シートの製造方法及び電子材料等に好適に用いられる厚膜の樹脂シートに関する。特に好ましくは、固定砥粒方式の研磨シートに用いられる厚膜の樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂シートは、樹脂組成物を数ミクロンからミリ単位の厚みでシートやフィルム、膜状にしたものであり、多くの産業分野において多様な形態で用いられている。特に、電子・電気材料分野等においては、フィラーを含む樹脂シートに対するニーズが大きく、機能性フィラー等を充填して機能性付与した基板やシート等を効率よく簡便に供給することが求められている。例えば、近年、集積回路の微細パターンをウエハ上に精度よく形成するためには、ウエハを全体平坦化させることが必要であり、CMP法が不可欠な技術となっている。現在、研磨液(スラリー)を流しながら研磨パットを用いて研磨し平坦化する技術が実現されており、ポリウレタンの発泡体等が主に使用されている。しかし、スラリーを供給しつつ研磨を行うことから、パターン依存性がでやすい。パターン依存性とは、研磨前に存在する半導体ウエハの凸凹パターンにより研磨後にもその凸凹に起因した緩やかな凸凹が形成され、完全な平坦度が得られにくいことである。
一方で、固定砥粒を用いた研磨シートの研究がなされている。固定砥粒方式の研磨では研磨材が従来の化学機械研磨と異なり硬質であるため、凸凹の凸部を優先的に研磨し、凹部は研磨されにくいため、平坦性が得やすいという利点がある。また、固定砥粒を用いた研磨では、シートから生じる砥粒を用いて研磨していくため、砥粒の利用効率が高い。砥粒を大量に含む研磨液を使用しないことから、環境問題への負荷が低減するという利点もある。更には、研磨後のポリッシング対象物の金属汚染を少なくするために、固定砥粒に金属又は金属化合物を含まない材料を用いることが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、シート中における研磨粒子の凝集等の問題によるスクラッチや、ウエハ等の処理枚数を増やすためには厚膜のシートを作製する必要性があった。
【0003】
このような厚膜の樹脂シートは、工業的には押し出し成形で製造することが一般的である。押し出し成形においては、通常では樹脂を高温で溶融しながら押し出し、シート状に成型することになる。樹脂が溶剤を含む場合等には、溶剤を脱揮しながら樹脂組成物を押し出し成型し、急冷してシートを作製することになる。しかしながら、何れにしても押し出し成型法によって厚膜の樹脂シートを作製する場合、材料によっては樹脂等の分解温度や溶融粘度の問題から押し出し成形できない材料もある。したがって、厚膜の樹脂シートの製造において、種々の機能を発揮できる製品を工業的に優れた品質で供給するためには、押し出し成型法によっては限界があり、他の製法が求められるところであった。
【0004】
ところで、従来においては、製品としての厚膜の樹脂シートを作製し、そのまま使用する訳ではないが、セラミックシートを作製する方法の途中工程において、前躯体としてグリーンシートを作製することが開示されている。これは、セラミック粉末、バインダー樹脂、溶剤等を含む組成物を基材上にキャスト法等によって塗布していわゆるグリーンシートを作製し、乾燥、焼成する工程を含むものである。この工程においては、押し出し成型法によらずに、セラミックシート作製の前工程において厚膜のシートを作製することになる。
【0005】
例えば、セラミック粉末及び特定された特性を持つバインダーをセラミック前躯体組成物とし、これをドクターブレード法によってPETフィルム上にキャスティングし、乾燥して厚さ180μmや380μmのグリーンシートを作製したことが開示されている(例えば、特許文献2等参照。)。グリーンシートの厚みは0.01〜1mm程度が適当であるとされている。実施例においては、バインダーとしてガラス転移温度が−9℃から21℃のものが用いられている。また、セラミック粉末、可塑剤、溶剤等とともにセラミックグリーンシートに使用した際に、欠陥の少ないグリーンシートを得ることができるグリーンシート用バインダーが開示されている(例えば、特許文献3、4等参照。)。これらの技術においては、セラミックシートの前躯体となるグリーンシートの成形性を向上し、それによって優れた品質のセラミックシートを作製することを目的の1つとしている。グリーンシートにおいては、基本的に(1)バインダーとして用いるポリマーのガラス転移温度(Tg)を低くし、(2)更に、可塑剤を用いることでポリマーを流れやすくする、等によって成形性等を向上することができる。セラミックシートの作製における前躯体を調製する技術分野に関しては、グリーンシート中に含有する有機成分を焼成により揮散させ、セラミックだけによる膜を形成させるため、バインダーのTgによる硬さへの影響や、添加剤による影響は無視できるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−138247号公報(第1−2頁)
【特許文献2】特開2000−233975号公報(第1−2、7−9頁)
【特許文献3】特開2007−91526号公報(第1−2、11頁)
【特許文献4】特開2007−277442号公報(第1−2、4−6頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
厚膜の樹脂シートを製造する方法においては、樹脂組成物にフィラーを分散させる場合、分散媒を用いて塗料を調製する方が扱いやすく、押し出し成型法によるよりもそのまま塗工してシート化することが求められるところである。
しかしながら、ポリマー溶液、フィラー含有塗料等の樹脂組成物を用いて、基材上に塗工したり型枠に流し込んだりしたりした後、溶媒や分散媒を揮散、除去して厚膜の樹脂シートを作製することは容易ではなく、工業的な製造において大きな課題があった。すなわち、厚膜の樹脂シートの場合、樹脂組成物を基材上に塗工後、乾燥を行う際、基材側とは反対のシートの上面のみから溶剤の揮散、除去が行われ、片面だけに表面収縮が起こってシートが反ってしまい、平板化が難しい。乾燥温度等の乾燥速度を調整することが考えられるが、条件設定が非常に難しい上に、シートの反りを解消することはできない。一方で、反りを抑制するために、密着性のある基材上に樹脂組成物を塗工し、基材に保持させて厚膜のシートを作製することが考えられる。しかしこの場合、シートの厚みが増せば増すほど表面収縮の影響を受けてワレが生じることとなる。また、残留溶媒のある状態で基材から樹脂シートを剥離し、両面から乾燥する方法も考えられるが、剥離前の乾燥の歪みが残り、通常ではシートが反ってしまうこととなる。
【0008】
そのような中で、キャスト法により厚膜の樹脂シートを作製する例として、作製する厚膜の樹脂シートを製品としてそのまま使用する訳ではないが、上述したように、セラミックシートを作製する前工程においてグリーンシートを作製するという技術がある。この技術においては、グリーンシートに含有される有機成分を焼成により揮散させ、セラミックだけによる膜を形成する技術であることから、最終製品であるセラミックシートには含まれないこととなるバインダーや添加剤を工夫することによってグリーンシートの成型性を向上することができる。しかしながら、厚膜の樹脂シートがそのまま製品となる場合は、添加剤やバインダーによって樹脂シートの特性が大きく影響を受けることから、特にプロセス温度との関係から耐熱性等が問われることの多い電子・電気材料分野等において用いられる厚膜の樹脂シートの製法にグリーンシート作製の技術をそのまま転用することはできない。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、基材に樹脂組成物を塗工し、乾燥させることによって、電子・電気材料分野等において好適に用いられる厚膜の樹脂シートを作製するに際し、厚膜でも反りやワレのない平板な樹脂シートを簡便に作製することができる樹脂シートの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、厚膜の樹脂シートの製造方法について種々検討したところ、樹脂及び溶剤を必須とする樹脂組成物を基材に塗工する工程を含む厚膜の樹脂シートの製造方法によって反りやワレのない平板な樹脂シートを作製できれば好ましいことに着目した。上述のように押し出し成型法によっては、分解温度や溶融粘度の点から使用する材料が制限されてしまい、また、溶剤を含む樹脂組成物を用いる方が、フィラー等の良好な分散状態をつくり易いことから、樹脂組成物を基材に塗工し、乾燥することによって樹脂シートを作製することを検討した。電子・電気材料分野等においては、機能性フィラー等を充填して機能性付与した基板やシート等を効率よく簡便に供給することが求められるところである。
そうしたところ、乾燥工程において、乾燥途中の樹脂シートの基材側とは反対の上面のみから溶媒が揮発することによって上面に表面張力が生じ、これに起因して反りやワレが起こることが判った。そして、重合体、フィラー及び溶媒を必須成分として含むことによってフィラーを樹脂組成物に分散させ、これによる機能を充分に発揮できるようにするとともに、粘度がある程度高く設定され、厚みが厚膜といえる程度に設定された樹脂組成物を用い、これを多孔質な基材上に塗工するという製法を見いだした。これによって、上記のように基材の片面だけに表面収縮が起こってしまうことが充分に抑制されることになる。
すなわち、多孔質な基材からも溶剤の揮散、除去が行われる結果、樹脂シートの両面から溶剤の揮散、除去が行われることによって、膜厚が厚い場合でも樹脂シートの反りやワレが抑制され、充分に平板化された樹脂シートが得られることになる。なお、このような基材上に塗工した場合であっても、本発明においては、樹脂組成物の粘度がある程度高く特定されていることや、重合体、フィラー及び溶媒の配合割合を適宜調整し、多孔質な基材を適宜選択することによって、樹脂成分が基材中に染み込んでしまい樹脂シートの形成を阻害してしまうといった不具合を抑制することができる。
このようなことから、重合体、フィラー及び溶媒を必須成分として含み、粘度がある程度高く設定された樹脂組成物から厚膜に設定された樹脂シートを製造するに際し、グリーンシートに対する技術を適用しなくとも多孔質な基材上に塗工する方法を採ればシートの反りやワレを効果的に防止することができることを見いだしたものである。そして、樹脂シートを製品として得る技術分野においては際立って優れた効果を奏することを見いだし、上記課題をみごとに解決できることに想到し、本発明に到達したものである。また、得られた樹脂シートは、溶媒含有の塗料状態で分散性を確保することから膜の均一性を発現しやすく、シート厚みを確保できることから、固定砥粒方式の研磨シートとして利用できる。
【0011】
すなわち本発明は、重合体、フィラー及び溶媒を必須成分として含み、粘度が100mPa・s以上である樹脂組成物から厚みが0.4mm以上である樹脂シートを製造する方法であって、上記樹脂シートの製造方法は、樹脂組成物を多孔質の基材上に塗布する工程及び該樹脂組成物を乾燥させる工程を含む樹脂シートの製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0012】
本発明の樹脂シートの製造方法は、樹脂組成物を多孔質の基材上に塗布して塗膜を形成する塗布工程及び該樹脂組成物の塗膜から溶媒を揮散するために乾燥させる乾燥工程を必須とする。通常では、塗布工程に引き続き乾燥工程が行われ、樹脂シートが製造されることになるが、塗布工程及び乾燥工程の回数等は特に限定されるものではなく、それぞれ1回であってもよく、2回以上あってもよい。このような塗布工程と乾燥工程を必須とする限り、樹脂シートを調製、加工等するためのその他の工程を含んでいてもよい。
【0013】
上記塗布工程において、基材に樹脂組成物を塗布する方法としては、例えば、ドクターブレード、キャスト等による塗布方法や、型枠を設けて基材と型枠に囲まれた空間に樹脂組成物を流し込む方法等を用いることができる。これらの塗布方法は、樹脂組成物の粘度特性や塗工性、樹脂シートの厚み、樹脂シートを用いる用途等によって適宜選択すればよく、樹脂シートやフィルム作製の技術分野において通常用いられる塗布・塗工方法を採用することができる。
【0014】
上記乾燥工程において、基材に塗布された樹脂組成物中の溶媒を揮散させる際には、シートの上面からも多孔質な基材からも溶剤の揮散、除去が行われるとともに、表面収縮が充分に防止されるようにすることが好ましい。すなわち、膜厚が厚い場合でも樹脂シートの反りやワレが抑制され、充分に平板化された樹脂シートが得られるようにするためには、多孔質な基材を用いることに加えて、樹脂組成物の配合、特性や樹脂シートの厚み等を考慮して乾燥条件も適宜調整することが好ましい。通常では、室温(約25℃)や加熱乾燥条件で乾燥することになるが、好ましい実施形態としては、乾燥初期工程においては20〜60℃のようなマイルドな条件下で乾燥を行い、次いで加熱乾燥工程を行って溶剤の除去を充分に行うことが挙げられる。より好ましい形態としては、室温乾燥に続く加熱乾燥工程において、第1加熱乾燥工程として、比較的低温で長時間加熱乾燥し、次いで第2乾燥工程として、比較的高温で短時間加熱乾燥することが挙げられる。
なお、加熱乾燥する際の昇温速度においても、樹脂シートに不具合が生じないように適宜調整することが好ましい。昇温速度が早すぎると、急激な溶剤の揮散による不具合が生じるおそれがあり、遅すぎると、樹脂シート作製効率が低下することになる。
【0015】
本発明における樹脂組成物は、粘度が100mPa・s以上である。粘度が100mPa・s未満である場合には、液状である樹脂組成物を多孔質の基材に塗布した際に、樹脂組成物が基材を通り抜けたり、又は、基材に染み込みすぎたりして、溶媒を揮散させて乾燥する工程が完了するまで樹脂組成物が基材上に保持されないおそれがある。それによって、基材上に厚膜であり、充分に平板化された樹脂シートを形成することが困難となる。
上記粘度は、300mPa・s以上であることが好ましく、800mPa・s以上であることが更に好ましい。一方で、粘度が高すぎると樹脂組成物の調製や塗布が困難となることから、20000mPa・s以下であることが好ましく、10000mPa・s以下であることが更に好ましい。
上記樹脂組成物の粘度は、B型粘度計によって測定することができる。
【0016】
本発明の樹脂シートの製造方法は、樹脂組成物から厚みが0.4mm以上である樹脂シートを製造する方法である。樹脂組成物を基材に塗布した後、乾燥させて樹脂シートを製造する場合、ある程度の膜厚があると乾燥時に反りやワレが生じやすくなる。すなわち、多孔質な基材を用いることによる効果が、厚みが0.4mm以上である樹脂シートを製造する場合に顕著となる。樹脂シートの厚みは、それが用いられる用途、要求される機能等によって適宜設定すればよく、樹脂シートの厚みに応じて、樹脂組成物の配合等が調整されることになる。
特に本発明の技術分野における工業的用途を考慮すると、研磨シートの研磨領域となる樹脂シート部分の厚みは、0.5〜3.0mmであることが好ましい。より好ましくは、0.7〜2.0mmである。
【0017】
本発明の樹脂シートの製造方法は、重合体を溶媒に溶解させて調製した樹脂組成物を用いることが好ましい。このような形態である場合、フィラーを樹脂やモノマーに直接練りこむよりも、組成物中のフィラーをより分散させた状態にすることが容易であり、塗工膜中のフィラーの均一性を保ちやすい。
また、融点よりも分解温度の方が低いために融点を有しない重合体を必須として調製した樹脂組成物を用いるものであることが好適である。重合体及び溶剤を必須成分とする樹脂組成物を基材上に塗布する工程を含んで樹脂シートを製造することから、融点を有しない重合体を必須として調製した樹脂組成物を用いることができる。これに対して、厚膜の樹脂シートの製造方法として一般的である押し出し成形においては、重合体を高温で溶融しながら押し出して、シート状に成形するため、融点を有しない重合体を用いる場合には、押し出し成形を行うことができない。
本発明においては、融点を有しない重合体を必須としても融点を有する樹脂組成物を必須としてもよいが、融点を有しない重合体を必須とし、この重合体を溶媒に溶解させて調製した樹脂組成物を用いるという形態が、樹脂組成物を基材上に塗布する工程を含む樹脂シートの製法にとって好適である。
【0018】
本発明の多孔質の基材は、重合体、フィラー及び溶剤を含む樹脂組成物が塗布された際に、樹脂組成物中の溶剤が基材側から揮散、除去できるものであればよく、通常では、基材の樹脂組成物が塗布される側とその反対側とが繋がる微細な孔(溶剤が揮散することができる微細な孔)が多数空いているものを用いることになる。樹脂組成物中の樹脂や溶剤の種類、量による特性、乾燥工程の条件等によって、最適な多孔質の基材を適宜選択すればよいが、本発明においては、多孔質の基材の材質は、濾紙、濾布、不織布及び重合体の発泡体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらはいずれも、いわゆる多孔質であるとされるものであり、これらのいずれかを使用することによって、基材上に塗布された樹脂組成物膜の基材側の面からも多孔質の基材を通して溶媒の揮散が充分に行なわれ、樹脂シートの反りやワレを防止する効果が発揮されることになる。
【0019】
上記多孔質の基材の厚みとしては、100〜3000μmであることが好ましい。多孔質の基材の厚みが100μm未満であると、基材強度等が劣り、反り等が起こる可能性があり、3000μmを超えると、基材が厚くなり過ぎて基材方向からの溶媒の揮散が起こりにくくなり、割れる場合がある。より好ましくは、500〜2000μmである。
【0020】
本発明の樹脂シートの製造方法において用いられる樹脂組成物は、重合体、フィラー及び溶媒を必須成分として含むものである。これらはそれぞれ1種含むものであってもよく、2種以上含むものであってもよい。本発明における樹脂組成物は、粘度や特性を調整するために、また種々の特性、機能を持たせるためにこれら以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、分散剤、湿潤剤、粘度調整剤、レベリング剤等が挙げられる。
【0021】
上記樹脂組成物の必須成分である重合体は、樹脂組成物の膜を多孔質の基材上に形成する工程により、樹脂組成物が膜を形成することができるものであれば、特に限定されない。フィラーを分散可能な樹脂としては、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエーテル系樹脂、フッ素ポリマー等がある。特には、溶剤可溶のものが好ましく、熱可塑性のものが好ましい。より好ましくは、分子量が30000以上で、かつTgが50℃以上のポリマーであり、更には、Tgが65℃以上であることが好ましい。研磨シートとして用いる場合に、摩擦で熱がかかるが、その際に軟化しないTgが必要な為である。更には、上記フィラーを分散可能な樹脂は、フッ素含有重合体であることが好ましい。フッ素含有重合体とは、フッ素原子を必須とする重合体である。
【0022】
更に上記重合体は、フッ素含有芳香族系重合体であることが好ましい。フッ素含有芳香族系重合体とは、芳香環を有する重合体であって、フッ素原子を必須とする重合体である。
本発明の樹脂シートの製造方法において用いられる重合体としては、芳香環を有しフッ素原子を必須とするポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルアミド、及び、ポリエーテルエステルからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、フッ素含有ポリアリールエーテル系、及び、フッ素含有ポリアリールスルフィド系のものが更に好ましい。
【0023】
上記フッ素含有ポリアリールエーテル系重合体は、フッ素原子を必須とし、芳香環及びエーテル結合を有する重合体であり、上記フッ素含有ポリアリールスルフィド系重合体は、フッ素原子を必須とし、芳香環及びチオール結合を有する重合体であって、共にその結合順序やフッ素原子の結合している位置には特に制限はないが、繰り返し単位における芳香環の少なくとも1つにフッ素原子を有する重合体であることが好ましい。
なお、重合体として上記フッ素含有芳香族系重合体を用いる場合、フィラーとの相互作用は大きくない。そのため、フィラーを多く含む樹脂組成物を作成しても粘度が高くならず、分散性と塗工性を兼ね備えたものが作製できる。
【0024】
上記のものの中でも、本発明のフッ素含有芳香族系重合体は、下記式(1);
【0025】
【化1】

【0026】
(式中、Zは、同一若しくは異なって、2価の有機基又は直接結合を表す。mは、同一又は異なって、芳香環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。Rは、同一又は異なって、2価の有機基である。Yは、同一若しくは異なって、酸素原子又は硫黄原子を表す。)で表される構造の繰り返し単位を有する重合体である、及び/又は、下記式(2);
【0027】
【化2】

【0028】
(式中、Rは、同一又は異なって、2価の有機基である。Rは、同一若しくは異なって、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシル基、炭素原子数1〜12のアルキルアミノ基、炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、炭素原子数6〜20のアリールアミノ基、又は、炭素原子数6〜20のアリールチオ基を表し、これらは置換基を有していてもよい。)で表される構造の繰り返し単位を有する重合体であることがより好ましい。
これらの繰り返し単位は、同一であっても異なっていてもよく、異なる繰り返し単位により構成される場合には、ブロック状、ランダム状等のいずれの形態であってもよい。フッ素含有ポリアリールエーテル系重合体がフッ素含有ポリアリールエーテルケトン構造を含む繰り返し単位、フッ素含有ポリアリールスルフィド構造を含む繰り返し単位の両方を有するものである場合、両者の構成比率は特に制限されない。
【0029】
上記一般式(1)中、Zは、2価の有機基又はベンゼン環が直接結合していることを表す。2価の有機基として、C、S、N及び/又はO原子を含むことが好ましい。より好ましくはカルボニル基、スルフィド基、スルホン基、複素環を含有する2価の有機基であり、更に好ましくは下記式(3−1)〜(3−10)である。これらの中で(3−5)〜(3〜7)が特に好ましい。
【0030】
【化3】

【0031】
Xは、2価の有機基であるが、例えば下記式(4−1)〜(4−19)であることが好ましい。
【0032】
【化4】

【0033】
上記式(4−1)〜(4−19)中、Y、Y、Y及びYにおける置換基として、例えば、水素、置換基を有してもよいアルキル基、アルコキシル基が好適である。より好適なものとしては、炭素原子数1〜30であって、置換基を有してもよいアルキル基、アルコキシル基である。
【0034】
上記Xとしてより好ましくは、下記(5−1)〜(5−20)であり、更に好ましくは下記(5−6)、(5−7)、(5−15)、(5−20)である。
【0035】
【化5】

【0036】
上記式(1)中、Rは、上記Xと同様である。なお、Rが上記Xと同様であるとは、Rと上記Xとが同じ基であることが好ましいことを意味するのではない。Rと上記Xとは、同一又は異なっていてもよい。
【0037】
本発明に用いられる重合体の重量平均分子量は、樹脂組成物の粘度や塗布性等を考慮して適宜設定すればよいが、例えば、30000以上であることが好ましい。重合体の重量平均分子量が30000未満である場合、フィラーを多く含む場合のバインダーとしての機能低下が懸念される。より好ましくは、60000以上であり、更に好ましくは90000以上である。また、500000以下であることが好ましい。500000を超える場合、樹脂粘度自体が高くなりフィラーの分散性が低下し、塗工性も低下する。より好ましくは400000以下である。特に好ましくは、300000以下である。
上記重量平均分子量は、ポリスチレン換算によるゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC装置、展開溶媒;テトラヒドロフラン)によって以下の装置及び測定条件で測定することができる。
高速GPC装置:HLC−8220GPC(東ソー(株)製)を用いて測定した。
展開溶媒:THF
カラム:TSK−gel GMHXL ×2本
溶離液流量:1ml/min
カラム温度:40℃
【0038】
上記樹脂組成物に含まれる重合体の含有量としては、樹脂組成物固形分100質量%に対して5〜67質量%であることが好ましい。より好ましくは、8〜33質量%である。重合体の含有量が5質量%未満の場合、他方の樹脂組成物成分の影響を大きく受けることから、塗料粘度への影響やバインダー性能の低下等の可能性がある。
【0039】
上記フッ素含有芳香族系重合体の含有量は、樹脂組成物中に含まれる重合体全体の固形分100質量%に対して、50〜100質量%であることが好ましい。より好ましくは、80〜100質量%である。フッ素含有芳香族系重合体の含有量が50質量%未満の場合、他方の重合体の影響を大きく受けることから、塗料粘度への影響やバインダー性能の低下等の可能性がある。
【0040】
上記樹脂組成物の必須成分であるフィラーは、樹脂シートに用いられるものであれば特に限定されない。例えば、研磨するための研磨粒子として用いられるシリカ、セリア、アルミナ、酸化チタン、ジルコニア粒子等が挙げられ、1種又は2種以上を用いてもよい。フィラーを必須成分とすることによって、基材上で樹脂組成物が乾燥する時に表面の収縮性が抑制され、多孔質の基材を用いることと相まって本発明の効果をより充分に発揮することとなる。
上記フィラーの含有量としては、樹脂組成物中の重合体固形分100質量%に対して、フィラーの比重にもよるが、50〜2000質量%であることが好ましい。より好ましくは、200〜1200質量%である。フィラー含有量が2000質量%よりも多いと、フィラー量が多くバインダーとしての機能を発揮できなくなったり、粘度上昇により塗布性に影響を与える可能性がある。一方、50質量%よりも少ない場合、フィラーによる性能、例えば研磨性能を発揮することができなくなる。また、フィラーの一次粒子径は0.01〜3μmが好ましい。0.01μmより細かい場合、研磨粒子の含有量が大きくなればなるほど塗料化が困難になる。また、3μmより大きい場合、研磨する際の面粗さが粗くなり、充分な平坦性を得られない場合がある。
【0041】
上記樹脂組成物の必須成分である溶媒としては、重合体の種類、樹脂組成物の粘度、塗布性等を考慮して適宜選択すればよいが、本発明の効果である、塗布された樹脂組成物の膜の表面収縮をより充分に低減するという観点から、乾燥速度が比較的遅いものを必須とすることが好ましい。溶媒の乾燥速度が速過ぎると、乾燥した樹脂シートの反りが生じやすくなる。ただ、工業的に乾燥速度が遅過ぎても製造効率が低下してしまうため、樹脂シートの反りの生じやすさと製造効率とを勘案してバランスさせることが好ましい。例えば、乾燥速度が遅い溶剤と速い溶剤とを混合し、両者をバランスさせてもよい。
上記の観点から、主溶媒として蒸発指数100以下の溶媒を用いることが好ましい。主溶媒とは、溶媒成分全体の50質量%以上を占める溶媒のことをいう。蒸発指数100以下の溶媒としては、酢酸ブチル、キシレン、プロピレングリコールモノエチルアセテート(PGMAc)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、シクロヘキサノン、N−メチルピロリドン(NMP)等が挙げられる。
なお、蒸発指数とは、酢酸ブチルの蒸発速度を100としたときの、 酢酸ブチルに対する有機溶剤の蒸発速度の比であり、有機溶剤の蒸発性を示すために用いられる指標である。
【0042】
上記樹脂組成物において溶媒の含有量は、重合体の溶解度にも影響するので任意に設定される。好ましくは、樹脂組成物中の重合体固形分100質量%に対して、300〜2000質量%であることが好ましい。溶媒量が300質量%より少ない場合、フィラーを充分に分散できない可能性があり、塗布性や膜の均一性に問題が生じるおそれがある。また、2000質量%より多い場合、塗料中の溶剤量が多く、溶媒を揮散させる時に塗料組成物の収縮が大きくワレを生じる恐れがある。より好ましくは400〜1500質量%である。
【0043】
本発明の樹脂シートの製造方法において製造される樹脂シートのシート面積は、100mm角以上であることが好ましい。より好ましくは、150mm角以上である。更に好ましくは、200mm角以上である。通常、樹脂組成物の膜を基材上に形成する工程を含む製造方法によりシート面積の大きな厚膜(0.4mm以上)の樹脂シートを工業的に製造することは困難である。本発明の樹脂シートの製造方法においては、上記のように多孔質の基材を用いることによってシート面積が大きく、かつ、厚膜の樹脂シートであっても反りやワレを抑制して製造することができる。したがって、本発明の製造方法は、このような樹脂シートの形態に好適に適用することができ、ここに本発明の技術的意義があると言える。
【0044】
上記本発明の樹脂シートの製造方法によって製造される樹脂シートもまた、本発明の1つである。このような樹脂シートは、多孔質の基材を含まない樹脂シートそのものであってもよく、多孔質の基材を含み、樹脂シートと多孔質の基材とによって構成される複層シートであってもよい。すなわち、本発明の樹脂シートの製造方法においては、樹脂組成物を多孔質の基材上に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、塗布工程に引き続きおこなわれる乾燥工程とによって樹脂シートが製造されるが、製造後樹脂シートに付いている多孔質の基材はその後外されてもよく、また、そのまま保持されていてもよい。このように樹脂シートを多孔質の基材から外して製品とする場合、多孔質の基材に保持したまま製品として、出荷、流通させる場合がある。更に、上記樹脂シートに他のシート部材を付けて製品としてもよい。
本発明においては、上記のように多孔質の基材を含む複層シートを提供することが可能であり、このような複層シートはこれまでにはない樹脂シートの形態のものである。
【0045】
本発明はまた、重合体、フィラー及び溶媒を必須成分として含み、粘度が100mPa・s以上である樹脂組成物から形成される樹脂シートと多孔質の基材とを含んで構成され、該樹脂シートの厚みが0.4mm以上である多孔質基材付き樹脂シートでもある。
上記多孔質基材付き樹脂シートは、上述したように多孔質の基材を含む複層シートであり、本発明の樹脂シートの製造方法の好ましい実施形態の1つである。このような形態においては、製造工程において多孔質の基材を外す工程を省いて製造できるという利点があり、また、多孔質の基材が有する機能を複層シートにおいて利用することが可能となる。
なお、上記多孔質基材付き樹脂シートは、本発明の樹脂シートの製造方法により製造されるものであることが好ましい。
【0046】
また、本発明の樹脂シートの製造方法によって得られた平板な樹脂シートは、耐熱性と0.4mm以上の厚さをもつ平板なシートであることから、研磨シートとしても有用である。すなわち、本発明の樹脂シート又は多孔質基材付き樹脂シートは、固定砥粒方式の研磨シートとして用いることが好ましい。固定砥粒方式の場合、研磨パットから研磨粒子が均一に剥落してくることが望ましい。研磨パットの研磨領域にフィラーが均一に分散されている場合に、最もその特徴を発揮することができ、逆に凝集粒子の剥落はスクラッチになりやすい。
硬化系樹脂の場合、多くフィラーを含有したものを硬化させるため架橋密度にムラが出やすい。したがって、ミクロ的にはシート中の粒子間強度が異なる。そのため、一部粒子間強度の強いものは二次粒子、三次粒子のような凝集粒子となりスクラッチの原因になりやすい。
一方、熱可塑系樹脂の場合、成形時に重合体の変化は起こらないため、均一な塗料ができれば粒子間強度のムラは少なく、均一な剥落が起こりやすく、固定砥粒方式の研磨パットとしての優位性を有している。
溶剤系の熱可塑樹脂は、従来法では厚膜シートを作製することが困難であったが、本発明の製造方法により得られる樹脂シートは平板であり、固定砥粒方式の研磨シートとして用いることができる。
【0047】
また、上記固定砥粒方式の研磨シートを作製するために、(A)下記一般式(1);
【0048】
【化6】

【0049】
(式中、Zは、同一若しくは異なって、2価の有機基又は直接結合を表す。mは、同一又は異なって、芳香環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。Rは、同一又は異なって、2価の有機基である。Yは、同一若しくは異なって、酸素原子又は硫黄原子を表す。)で表される構造の繰り返し単位を有する重合体及び/又は下記一般式(2);
【0050】
【化7】

【0051】
(式中、Rは、同一又は異なって、2価の有機基である。Rは、同一若しくは異なって、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシル基、炭素原子数1〜12のアルキルアミノ基、炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、炭素原子数6〜20のアリールアミノ基、又は、炭素原子数6〜20のアリールチオ基を表し、これらは置換基を有していてもよい。)で表される構造の繰り返し単位を有する重合体と、(B)シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化チタン及び/又はセリア粒子からなる群より選択される少なくとも1種のフィラー粒子と、(C)溶媒とを必須成分として含むことを特徴とする固定砥粒方式の研磨シート用樹脂組成物もまた、本発明の一つである。
上記(A)の重合体を含むフッ素含有芳香族系重合体は、フィラーとの相互作用が大きくなく、それはフィラー含有量からみると粘度が比較的低いことから示される。
研磨シート中の研磨粒子の量が少ない場合には、砥粒濃度が充分でなく研磨スラリーと併用することが必要となる。固定砥粒方式の研磨パットでは、フィラー含有量が高い方が好ましく、フッ素含有芳香族系重合体を用いた樹脂シートは高濃度化しやすいため適している。
【発明の効果】
【0052】
本発明の樹脂シートの製造方法は、上述の構成よりなり、特定の粘度を有する樹脂組成物と多孔質の基材を用いることで、溶媒を揮散する乾燥工程において基材上の樹脂塗膜の両面から乾燥させることが可能となり、膜厚が厚い場合であっても、シートの反りやワレを防止して平板な樹脂シートを製造することができる製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0054】
下記実施例及び比較例では、下記の装置を用いて測定を行った。
<測定装置>
(1)粘度測定
B型粘度計((株)東京計器製)を用いて、25±1℃の30rpmの粘度を測定した。
(2)シート膜厚
ノギスを用いて膜厚を計測した。基材付きの場合は基材付きのまま測定し、基材シートの膜厚を引いて求めた。
(3)分子量測定
ポリスチレン換算によるゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC装置、展開溶媒;テトラヒドロフラン)によって以下の装置及び測定条件で測定した。
高速GPC装置 HLC−8220GPC(東ソー(株)製)
展開溶媒 THF
カラム TSK−gel GMHXL ×2本
溶離液流量 1ml/min
カラム温度 40℃
【0055】
実施例1
サンプルA 10部を溶媒(MEK 20部、PGMAc 50部)に溶解してポリマー溶液を作製し、BYK−W9010 0.8部、ナノテックSiO−SP(シーアイ化成(株)製 一次粒子径:約30nm)40部を加えて、ガラスビーズ(φ1mm)を入れて、ペイントシェーカーで1.5時間混合した。その後、ガラスビーズを濾過して、SiO含有塗料を作製した。
金属網の上に載せたPF100の上に厚み2mmの型枠(100×100mm)を設けて、作製した塗料を流し込み、室温1時間乾燥後、40℃で10分間、昇温速度0.33℃/分で4時間、120℃まで昇温し、120℃で30分、更に0.25℃/分で2時間、150℃まで昇温して乾燥し、厚さ0.9mmの平板を得た。
なお、サンプルAは、下記式(6);
【0056】
【化8】

【0057】
で表される構造の繰り返し単位を有する重合体であり、その重量平均分子量は116000であった。
【0058】
実施例2
実施例1の溶媒PGMAcをDMAcに変更した以外は同じ塗料を用いて行った。
乾燥条件を表1に記載の条件に変更した以外は実施例1と同様にシート化を行い、0.8mmの平板を得た。
【0059】
実施例3
実施例2と同じ塗料を用いて行った。
型枠の厚みを1mmに、乾燥条件を表1に記載の条件にそれぞれ変更した以外は実施例1と同様にシート化を行い、0.4mmの平板を得た。
【0060】
実施例4
サンプルA 10部を溶媒(MEK 16部、DMAc 40部)に溶解してポリマー溶液を作製し、BYK−W9010 0.02部、ナノテックSiO−SP(シーアイ化成(株)製 一次粒子径:約30nm)10部を加えて、実施例1と同様に塗料化を行った。
乾燥条件を表1に記載の条件に変更した以外は実施例1と同様にシート化を行い、0.5mmの平板を得た。
【0061】
実施例5
サンプルA 10部を溶媒(MEK 5部、DMAc 37.5部)に溶解してポリマー溶液を作製し、BYK−W9010 1.2部、セリア粒子(バイコウスキー社製 一次粒子径:0.2μm)80部を加えて、泡とり錬太郎((株)シンキー製)を用いて塗料化を行った。
型枠の厚みを1mmに、乾燥条件を表1に記載の条件にそれぞれ変更した以外は実施例1と同様にシート化を行い、0.7mmの平板を得た。
【0062】
実施例6
実施例5のポリマーサンプルAをサンプルBに変更した以外は同じ塗料を用いて行った。
実施例5と同様にシート化を行い、0.7mmの平板を得た。
なお、サンプルBは、下記式(7);
【0063】
【化9】

【0064】
で表される構造の繰り返し単位を有する重合体であり、その重量平均分子量は89000であった。
【0065】
実施例7
サンプルA 15部を溶媒(MEK 30部、DMAc 75部)に溶解してポリマー溶液を作製し、BYK−W9010 1.2部、ナノテックSiO−SP(シーアイ化成(株)製 一次粒子径:約30nm)60部を加えて、実施例1と同様に塗料化を行った。
(210×210mm)のサイズの型枠を用いた以外は、実施例5と同様にシート化を行い、0.5mmの平板を得た。
【0066】
実施例8
サンプルA 15部を溶媒(MEK 7.5部、DMAc 56.25部)に溶解してポリマー溶液を作製し、BYK−W9010 1.8部、セリア粒子(バイコウスキー社製 一次粒子径:0.2μm)120部を加えて、実施例5と同様に塗料化を行った。
実施例7と同様にシート化を行い、0.7mmの平板を得た。
【0067】
実施例9
実施例5と同じ塗料を用いて行った。
金属網の上に載せた濾布TR9B(中尾フィルター工業(株)製 布厚:0.6mm)の上に厚み1mmの型枠(100×100mm)を設けて、作製した塗料を流し込み、表2に記載の条件でシート化を行い、0.7mmの平板を得た。
【0068】
実施例10
サンプルC(アクリル樹脂 MMA/CHMA/2EHA/MAA=60/36/2.5/1.5のランダム共重合体 重量平均分子量:300000)10部を溶媒(酢酸エチル 10.5部/トルエン 12.8部/DMAc 16.7部)に溶解してポリマー溶液を作製し、BYK−W9010 1.2部、セリア粒子(バイコウスキー社製 一次粒子径:0.2μm)80部を加えて、泡とり錬太郎((株)シンキー製)を用いて塗料化を行った。
型枠の厚みを1mmに、乾燥条件を表2に記載の条件にそれぞれ変更した以外は実施例1と同様にシート化を行い、0.8mmの平板を得た。
なお、MMAはメタクリル酸メチルを、CHMAはメタクリル酸シクロヘキシルを、2EHAはアクリル酸2−エチルヘキシルを、MAAはメタクリル酸を、それぞれ表している。
【0069】
比較例1
実施例1の塗料を、PET上に設けた厚み2mmの型枠(100×100mm)の中に流し込み、表3に記載の条件でシート化を行ったが、シートがPETから剥離して反ってしまい平板を得ることができなかった。
【0070】
比較例2
実施例1の塗料を、易接着PET上に設けた厚み2mmの型枠の中に流し込み、表3に記載の条件でシート化を行ったが、シートにワレが生じて平板を得ることができなかった。
【0071】
比較例3
実施例1の塗料を、PET上に設けた厚み2mmの型枠の中に流し込み、表3に記載の条件でシート化を行ったが、シートが反ってしまい平板を得ることができなかった。
【0072】
比較例4
溶媒を実施例2のMEK 20部とDMAc 50部の混合溶媒からMEK 28部とDMAc 70部の混合溶媒に変更した以外は同様に塗料化を行い、PET上に設けた厚み2mmの型枠の中に流し込み、表3に記載の条件でシート化を行ったが、シートがPETから剥離して反ってしまい平板を得ることができなかった。また、シートの表層の面に荒れが見られた。
【0073】
比較例5
溶媒を実施例2のMEK 20部とDMAc 50部の混合溶媒からMEK 6部とDMAc 30部の混合溶媒に変更した以外は同様にして塗料化を行ったが、粘度が高く濾過が困難であったので断念した。
これらの結果を下記表1〜3に示す。シートの外観は目視で反り、ワレの有無を確認し、反り、ワレのいずれも確認されないものを「○」、いずれかが確認されたものを「×」とした。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
【表3】

【0077】
上記表1〜3において、配合量は全て重量部で表されている。
また、上記表1〜3に記載されている略語は、下記のものを表す。
MEK:メチルエチルケトン
PGMAc:プロピレングリコールモノエチルアセテート
DMAc:ジメチルアセトアミド
【0078】
表1〜3の結果より、基材にPET等高分子フィルムを用いた時には、樹脂組成物を塗布した後の乾燥工程において、シートが反ったり、シートにワレが生じたりしたのに対し、濾紙PF100、濾布TR9Bを用いた時には、厚膜の樹脂シートを作製することができた。これにより、樹脂組成物を基材上に塗布して樹脂シートを製造する際に、多孔質の基材を用いることで、基材に塗布した樹脂組成物から溶媒を揮散する乾燥工程において樹脂組成物の両面から乾燥させることが可能となり、厚膜であっても反りやワレのない樹脂シートを作製することができることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体、フィラー及び溶媒を必須成分として含み、粘度が100mPa・s以上である樹脂組成物から厚みが0.4mm以上である樹脂シートを製造する方法であって、
該樹脂シートの製造方法は、樹脂組成物を多孔質の基材上に塗布する工程及び該樹脂組成物を乾燥させる工程を含む
ことを特徴とする樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
前記製造方法は、重合体を溶媒に溶解させて調製した樹脂組成物を用いることを特徴とする請求項1に記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項3】
前記製造方法は、融点を有しない重合体を必須として調製した樹脂組成物を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
前記多孔質の基材の材質は、濾紙、濾布、不織布及び重合体の発泡体からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項5】
前記重合体は、フッ素含有芳香族系重合体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項6】
前記フッ素含有芳香族系重合体は、下記一般式(1);
【化1】

(式中、Zは、同一若しくは異なって、2価の有機基又は直接結合を表す。mは、同一又は異なって、芳香環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。Rは、同一又は異なって、2価の有機基である。Yは、同一若しくは異なって、酸素原子又は硫黄原子を表す。)で表される構造の繰り返し単位を有する重合体である、及び/又は、下記一般式(2);
【化2】

(式中、Rは、同一又は異なって、2価の有機基である。Rは、同一若しくは異なって、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシル基、炭素原子数1〜12のアルキルアミノ基、炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、炭素原子数6〜20のアリールアミノ基、又は、炭素原子数6〜20のアリールチオ基を表し、これらは置換基を有していてもよい。)で表される構造の繰り返し単位を有する重合体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項7】
前記製造方法は、樹脂シートと多孔質の基材とを含んで構成される多孔質基材付き樹脂シートを製造することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂シートの製造方法によって製造されることを特徴とする樹脂シート。
【請求項9】
重合体、フィラー及び溶媒を必須成分として含み、粘度が100mPa・s以上である樹脂組成物から形成される樹脂シートと多孔質の基材とを含んで構成され、
該樹脂シートの厚みが0.4mm以上であることを特徴とする多孔質基材付き樹脂シート。
【請求項10】
固定砥粒方式の研磨シートとして用いることを特徴とする請求項8に記載の樹脂シート。
【請求項11】
固定砥粒方式の研磨シートとして用いることを特徴とする請求項9に記載の多孔質基材付き樹脂シート。
【請求項12】
請求項10に記載の樹脂シート又は請求項11に記載の多孔質基材付き樹脂シートを形成するための樹脂組成物であって、(A)下記一般式(1);
【化3】

(式中、Zは、同一若しくは異なって、2価の有機基又は直接結合を表す。mは、同一又は異なって、芳香環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。Rは、同一又は異なって、2価の有機基である。Yは、同一若しくは異なって、酸素原子又は硫黄原子を表す。)で表される構造の繰り返し単位を有する重合体及び/又は下記一般式(2);
【化4】

(式中、Rは、同一又は異なって、2価の有機基である。Rは、同一若しくは異なって、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシル基、炭素原子数1〜12のアルキルアミノ基、炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、炭素原子数6〜20のアリールアミノ基、又は、炭素原子数6〜20のアリールチオ基を表し、これらは置換基を有していてもよい。)で表される構造の繰り返し単位を有する重合体と、(B)シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化チタン及びセリア粒子からなる群より選択される少なくとも1種のフィラー粒子と、(C)溶媒とを必須成分として含むことを特徴とする固定砥粒方式の研磨シート用樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−84117(P2010−84117A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9299(P2009−9299)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】