説明

樹脂付着装置

【課題】フィラメントワインディング成形における樹脂付着装置において、繊維割れにより繊維束に的中させることができなかった樹脂を、繊維束に付着させる。
【解決手段】複数の樹脂噴射用ノズル29a・29bを有する液滴噴射装置11と、ノズル29a・29bと所定の対向間隔を置いて繊維束100を走行させる走行装置10と、を具備し、走行する繊維束100の表面に向けて液滴噴射装置11によって樹脂8(主剤12及び硬化剤15)を噴射することで、繊維束100に樹脂8を付着させるフィラメントワインディング成形における樹脂付着装置5であって、繊維束100を挟んでノズル29a及びノズル29bと対向する位置に繊維束100の裏面と近接するように配置される樹脂受け部40a・40bを具備した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維束の表面に向けて樹脂を噴射することで、繊維束に樹脂を付着させるフィラメントワインディング成形における樹脂付着装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
FRP(FIBER REINFORCED PLASTICS)は、カーボン繊維等の補強繊維に液状の熱硬化性樹脂を含浸させた後、樹脂を硬化させることによって製造される素材として良く知られている。FRPは、従来からパイプや棒材等として広く利用されている。
【0003】
FRPの成形法としては、フィラメントワインディング成形が知られている。フィラメントワインディング成形は、パイプ状や円筒状の成形体を作製するのに適している。フィラメントワインディング成形は、液状の熱硬化性樹脂を含浸したカーボンロービング等の補強材に張力を加えた状態で、当該補強材を型(マンドレル)に弛みのない状態で巻き付けてから樹脂を硬化させる方法である。
【0004】
フィラメントワインディング成形において、繊維束に樹脂を付着(含浸)させる装置として、樹脂付着装置が知られている。例えば、特許文献1は、ローラ方式の樹脂付着装置を開示している。ローラ方式とは、樹脂槽に下部が浸ったローラの上部に繊維束を走行させ、繊維束に樹脂を付着させる方式の樹脂付着装置である。
【0005】
樹脂付着装置は、フィラメントワインディング成形における生産性の向上の観点から、高速処理が求められる。しかし、ローラ方式において、処理速度を上げると樹脂の付着ムラが生じるおそれがあるため、処理速度に限界がある。
【0006】
そこで、発明者らは、ローラ方式に替わる樹脂付着装置として、液滴噴射方式の樹脂付着装置を開発した。液滴噴射方式の樹脂付着装置とは、多数の樹脂の噴射用ノズルを有する液滴噴射装置と、ノズルと所定の対向間隔を置いて繊維束を走行させる走行装置とを備え、走行装置の繊維束の表面に向けて液滴噴射装置によって樹脂を噴射する樹脂付着装置である。
【特許文献1】特開2007−185827号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、フィラメントワインディング成形に用いられるカーボン繊維又はガラス繊維は、数μmのフィラメントが数千から数万本に束ねられた繊維束状態である。このような繊維束は、液滴噴射装置において、「繊維割れ」を生じた状態で走行する場合がある。ここで、「繊維割れ」とは、繊維束の走行方向に沿って隙間が生じる状態をいう。繊維束が液滴の噴射目標位置において、繊維割れを生じた状態で走行すると、液滴が繊維束に的中せずに繊維束を通過してしまう。そのため、所定の量の液滴が繊維束に付着せずに、液滴の付着量が不足することによる不良品が生じる。
そこで本発明が解決しようとする課題は、フィラメントワインディング成形における樹脂付着装置において、繊維割れにより繊維束に的中させることができなかった樹脂を繊維束に付着させ、不良品の発生を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、複数の樹脂噴射用ノズルを有する液滴噴射装置と、前記ノズルと所定の対向間隔を置いて繊維束を走行させる走行装置と、を具備し、走行する繊維束の表面に向けて前記液滴噴射装置によって樹脂を噴射することで、前記繊維束に樹脂を付着させるフィラメントワインディング成形における樹脂付着装置であって、前記繊維束を挟んで前記樹脂噴射用ノズルと対向する位置に前記繊維束の裏面に近接する樹脂受け部を具備するものである。
【0010】
請求項2においては、前記樹脂受け部は、前記繊維束の側部と対向する側板を具備するものである。
【0011】
請求項3においては、前記樹脂受け部は、前記繊維束の裏面と対向する面に、前記繊維束の幅方向に亘る少なくとも一本の溝を具備するものである。
【0012】
請求項4においては、前記溝のうち少なくとも一本は前記繊維束の走行方向に対して傾斜しているものである。
【0013】
請求項5においては、複数の樹脂噴射用ノズルを有する液滴噴射装置と、前記ノズルと所定の対向間隔を置いて繊維束を走行させる走行装置と、を具備し、走行する繊維束の表面に向けて前記液滴噴射装置によって樹脂を噴射することで、前記繊維束に樹脂を付着させるフィラメントワインディング成形における樹脂付着装置であって、前記液滴噴射装置によって噴射される樹脂を帯電させる帯電装置を具備し、前記繊維束をアースさせた状態で走行させるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0015】
請求項1の如く構成したので、繊維割れが生じた部分を通過し樹脂受け部に付着した樹脂を当該樹脂受け部で流動させ、当該樹脂受け部に近接しながら走行する繊維束に付着させることが可能となる。これにより、繊維束に付着する樹脂の量が不足することによる不良品の発生を防止することが可能となる。
【0016】
請求項2の如く構成したので、樹脂受け部を流動する樹脂が走行する繊維束の幅方向へと流出するのを防止することが可能となる。これにより、所定の量の樹脂を逃すことなく繊維束に付着させることが可能となる。したがって、繊維束に付着する樹脂の量が不足することによる不良品の発生を防止することが可能となる。
【0017】
請求項3の如く構成したので、樹脂受け部に付着した樹脂を溝に沿って繊維束の幅方向に流動させることが可能となる。これにより、繊維束に付着し易い位置まで樹脂を流動させることが可能となる。したがって、繊維束に付着する樹脂の量が不足することによる不良品の発生を防止することが可能となる。
【0018】
請求項4の如く構成したので、樹脂受け部に付着した樹脂を溝に沿って繊維束の幅方向に流動させることが可能となる。また、繊維束の走行により前記樹脂の流動を促すことが可能となる。これにより、繊維束に付着し易い位置まで樹脂を流動させることが可能となる。したがって、繊維束に付着する樹脂の量が不足することによる不良品の発生を防止することが可能となる。
【0019】
請求項5の如く構成したので、帯電した樹脂を静電引力により確実にアースされた繊維束に付着させることが可能となる。これにより、繊維束に付着する樹脂の量が不足することによる不良品の発生を防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、本発明に係る実施の形態を説明する。
なお、以下において、図3から図6における矢印F方向を前方向、図3及び図4における矢印U方向を上方向、図4から図6における矢印L方向を左方向と定義し、当該定義に基づいて説明を行う。
【0021】
図1に、本発明に係る実施形態である樹脂付着装置5を、マンドレル7に対して繊維束を巻き付けるフィラメントワインディング成形装置1に適用した実施形態を示す。
【0022】
図1に示すように、このフィラメントワインディング成形装置1には、ボビン2からのカーボン繊維の束(以下、単に「繊維束」と記す)100の解舒を担う解舒装置3、繊維束100に所定のテンションを付与するテンション装置4、繊維束100に対して樹脂8を付着する樹脂付着装置5、繊維束100をトラバースさせるトラバース装置6等が具備される。樹脂付着装置5により樹脂8が付着された繊維束100はトラバース装置6によりトラバースされながら、マンドレル7に巻き付けられる。
繊維束100は上下にフラット面を有するテープ状を呈している。図2および図3に示すごとく、樹脂付着装置5により繊維束100の表面(上面)に樹脂8が付着される。
【0023】
図1から図4に示すように、樹脂付着装置5には、主として走行装置10、液滴噴射装置11、樹脂受け部40a・40b等が具備される。
【0024】
走行装置10は、繊維束100を走行させるものである。走行装置10には、主としてローラ10a・10bが具備される。ローラ10a・10bは液滴噴射装置11を挟むようにそれぞれ配置される。ローラ10a・10bは図示せぬ回動軸により回動可能に支持されている。繊維束100はマンドレル7が回転することにより走行する。走行する繊維束100は、ローラ10a・10bを介することにより、後述する第一ヘッド20及び第二ヘッド21にそれぞれ具備されるノズル29a・29bと所定の対向間隔を置いて走行する。
ただし、ローラ10a・10bを駆動手段(モータ等)により回転駆動させ、ローラ10a・10bが回転することにより繊維束100を走行させる構成とすることも可能である。
【0025】
液滴噴射装置11は、液滴噴射方式により走行する繊維束100の表面に向けて樹脂8を噴射するものである。図2に示すように、液滴噴射装置11には、主として第一経路14、第二経路17、第一ヘッド20、第二ヘッド21、等が具備される。
【0026】
第一経路14は、主剤12が充填された主剤タンク13から第一ヘッド20へと主剤12を供給するものである。第一経路14は、主剤タンク13から伸びる送給流路22と、送給流路22から分岐されて第一ヘッド20に至る分岐流路23とで構成される。
第二経路17は、硬化剤15が充填された硬化剤タンク16から第二ヘッド21へと硬化剤15を供給するものである。第二経路17は、硬化剤タンク16から伸びる送給流路24と、送給流路24から分岐されて第二ヘッド21に至る分岐流路25とで構成される。
これら流路(送給流路22、分岐流路23、送給流路24及び分岐流路25)は、金属又は樹脂製の管や、ホース等からなる。なお、これら第一経路14および第二経路17には、流量をコントロールするための電磁弁やポンプなどを設けることができる。
【0027】
第一ヘッド20は、走行する繊維束100に主剤12を噴射し付着させるものである。図3および図4に示すように、第一ヘッド20は走行する繊維束100の上方で、繊維束100と所定の対向間隔を置いて配置される。第一ヘッド20には、分岐流路23から送り込まれた主剤12を受ける一つの接続室26と、接続室26に連設されて主剤12が溜められる一つの貯留室27と、貯留室27から分岐された圧力室28とが具備される。
【0028】
圧力室28には、主剤12の噴出し口となる複数個のノズル29a・29a・・・が左右方向に等間隔に開設される。第一ヘッド20は、電圧により伸縮するピエゾ素子30を圧力室28に対する圧力発生源とするものである。圧力室28の隔壁(上壁)には、ピエゾ素子30により振動される振動板31が設置される。ピエゾ素子30の伸縮を受けて、図3に二点鎖線で示すごとく振動板31が下方に膨らむ凸状に姿勢変位されると、圧力室28内の体積が減少する。これにより第一ヘッド20の下面に開口するノズル29a・29a・・・から、ピコリットルオーダーの所定量の液滴からなる主剤12が繊維束100の上面に向けて噴射される。この状態から図3に実線で示すごとく振動板31がフラットに戻されると、圧力室28内の体積が増加する。これにより貯留室27から圧力室28へ主剤12が供給される。
なお、本実施形態においてノズル29a・29a・・・は左右方向に並んで配置される構成としたが、ノズル29a・29a・・・の配置パターンはこれに限るものではない。
【0029】
接続室26には、主剤12を加熱して、これを所定温度に維持するための熱線(恒温手段)33と、接続室26内の温度を検知するための温度センサ(不図示)とが配される。温度センサによる検出結果を予め設定されているしきい値と比較し、この比較結果に基づいて熱線33をオン・オフ制御することで、主剤12の温度が所定温度に保たれる。
【0030】
第二ヘッド21は、走行する繊維束100に硬化剤15を噴射し付着させるものである。第二ヘッド21の構成も第一ヘッド20と略同一の構成であり、図3において、同一の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。なお、ノズル29bは、硬化剤吐出用のノズルである。
【0031】
以下では本発明に係る樹脂受け部の第一の実施形態である樹脂受け部40a・40bの構成について説明する。なお、樹脂受け部40aと樹脂受け部40bとは略同一の構成である。よって、以下では樹脂受け部40aの構成についてのみ説明する。なお、樹脂受け部40bの構成については、図4において樹脂受け部40aと略同一の構成の部材には同じ部材番号を付し、説明を省略する。
【0032】
図4及び図5に示すように、樹脂受け部40aは、底板41と一対の側板42a・42bとで構成される。樹脂受け部40aはポリアセタール、アクリル等の樹脂や、セラミック等の原料から形成することが可能であるが、特に限定するものではない。
【0033】
底板41は矩形状の部材である。側板42a・42bは互いに略同一形状の部材である。側板42a・42bは、底板41の上面の左端及び右端に上方に向かってそれぞれ突設される。また、側板42a・42bは、走行する繊維束100の幅と略同一の間隔を置いて、互いに平行になるよう配置される。つまり、樹脂受け部40aの前後方向に垂直な断面は略U字形状となる。
【0034】
底板41の上面には複数の溝41a・41a・・・が設けられている。溝41aは平面視で略長方形状であり、その長手方向は側板42a・42b間に亘るように設けられている。溝41a・41a・・・は前後方向に一定間隔ごとに設けられている。
【0035】
なお、本実施形態において溝41aは複数設けられているものとしたが、側板42a・42b間に亘る溝が一つ設けられる構成としてもよい。
【0036】
以下では図2及び図4を用いて、樹脂受け部40a・40bが配置される位置について説明する。
樹脂受け部40aは、繊維束100を挟んで液滴噴射装置11と対向する位置に配置される。さらに詳細には、樹脂受け部40aは繊維束100を挟んで液滴噴射装置11の第一ヘッド20と対向する位置に配置される。
樹脂受け部40aは、側板42a・42bが走行する繊維束100と平行となり、側板42a・42b間を繊維束100が走行するように配置される。
樹脂受け部40aは、底板41の上面が繊維束100の裏面と対向するように配置される。また、樹脂受け部40aは、底板41の上面が走行する繊維束100と「近接」するように配置される。ここで「近接」とは、後述するように底板41の上面を流動する樹脂8が繊維束100に付着することが可能な程度に、底板41と繊維束100とが十分接近した状態、又は接した状態である。
【0037】
樹脂受け部40bは、繊維束100を挟んで液滴噴射装置11と対向する位置に配置される。さらに詳細には、樹脂受け部40aは繊維束100を挟んで液滴噴射装置11の第二ヘッド21と対向する位置に配置される。
樹脂受け部40bは、側板42a・42bが走行する繊維束100と平行となり、側板42a・42b間を繊維束100が走行するように配置される。
樹脂受け部40bは、底板41の上面が繊維束100の裏面と対向するように配置される。また、樹脂受け部40bは、底板41の上面が走行する繊維束100と「近接」するように配置される。
【0038】
以下では図4を用いて、繊維割れを生じている繊維束100に対してノズル29aから主剤12が噴射された場合に、主剤12が繊維束100に付着する様子について説明する。
【0039】
通常、繊維束100は一対の側板42a・42bの間隔と略同一の幅に均一に分散された状態で走行される。しかし、繊維割れが生じた場合、図4に示すように繊維束100の幅内に繊維が存在しない部分(以下、単に「繊維割れ部」と記す)Sが発生する。
【0040】
繊維割れ部Sが発生している際に、繊維束100に対してノズル29a・29a・・・から主剤12が噴射されると、走行する繊維束100に的中した主剤12は当該繊維束100に付着する。しかし、繊維割れ部Sに向けてノズル29aから噴射された主剤12は、繊維束100に的中することなく繊維割れ部Sを通過する。しかし、樹脂受け部40aがあるので、当該主剤12は、樹脂受け部40aに付着する。
底板41に付着した主剤12は底板41の上面に広がるように流動する。前述の如く、底板41と繊維束100は「近接」するよう構成されている。これにより、底板41の上面を流動する主剤12を走行する繊維束100に触れさせ、当該主剤12を当該繊維束100に付着させることが可能となる。
【0041】
また、繊維束100に付着することなく底板41の上面から溝41a・41a・・・に流入した主剤12、及び直接溝41a・41a・・・に的中した主剤12は、溝に沿って左右方向に流動する。つまり溝41a・41a・・・を設けることで、主剤12を確実に左右方向へ流動させることが可能となる。これにより、繊維割れ部Sを通過して樹脂受け部40aに付着した主剤12を、繊維割れ部S以外を走行する繊維束100に触れさせ、付着させることが可能となる。
【0042】
繊維割れを生じている繊維束100に対して硬化剤15が噴射された場合についても、上述した主剤12が噴射された場合と略同様に、硬化剤15を繊維束100に付着させることが可能である。すなわち、繊維割れ部Sを通過して樹脂受け部40bの底板41に付着した硬化剤15に、底板41の上面及び当該底板41に設けられた溝41a・41a・・・を流動させることができる。これにより、流動する硬化剤15を走行する繊維束100に触れさせ、当該繊維束100に付着させることが可能となる。
【0043】
なお、側板42a・42b間の間隔は、上述の如く繊維束100の幅と略同一の間隔に限定するものではない。また、側板42a・42bの配置は、上述の如く互いに平行になるような配置に限定するものではない。つまり、側板42a・42bは、樹脂受け部40a・40bを流動する樹脂8が左右方向へ流出するのを防止することができる構成であればよい。
【0044】
以上の如く、本実施形態の樹脂付着装置5は、
複数の樹脂噴射用ノズル29a・29bを有する液滴噴射装置11と、
ノズル29a・29bと所定の対向間隔を置いて繊維束100を走行させる走行装置10と、
を具備し、
走行する繊維束100の表面に向けて液滴噴射装置11によって樹脂8(主剤12及び硬化剤15)を噴射することで、繊維束100に樹脂8を付着させるフィラメントワインディング成形における樹脂付着装置5であって、
繊維束100を挟んでノズル29a及びノズル29bと対向する位置に繊維束100の裏面と近接するように配置される樹脂受け部40a及び樹脂受け部40bを具備するものである。
このように構成することにより、繊維割れ部Sを通過し樹脂受け部40a・40bに的中した樹脂8を樹脂受け部40a・40bの表面で流動させ、当該表面に近接しながら走行する繊維束100に付着させることが可能となる。これにより、繊維束100に付着する樹脂8の量が不足することによる不良品の発生を防止することが可能となる。
【0045】
また、本実施形態の樹脂付着装置5の樹脂受け部40a・40bは、
繊維束100の側部と対向する側板42a・42bを具備するものである。
このように構成することにより、樹脂受け部40a・40bの表面を流動する樹脂8が走行する繊維束100の幅方向へと流出するのを防止することが可能となる。これにより、所定の量の樹脂8を逃すことなく繊維束100に付着させることが可能となる。また、繊維束100に付着する樹脂8の量が不足することによる不良品の発生を防止することが可能となる。
【0046】
また、本実施形態の樹脂付着装置5の樹脂受け部40a・40bは、
繊維束100の裏面と対向する面に、繊維束100の幅方向に亘る少なくとも一本の溝41aを具備するものである。
このように構成することにより、樹脂受け部40a・40bに的中した樹脂8を溝41aに沿って繊維束100の幅方向に流動させることが可能となる。これにより、繊維束100に付着し易い位置まで樹脂8を流動させることが可能となる。また、繊維束100に付着する樹脂8の量が不足することによる不良品の発生を防止することが可能となる。
【0047】
なお、樹脂受け部40a・40bの内部に熱線等の加熱手段及び温度センサ等を設けることにより、樹脂受け部40a・40bの温度を調節することも可能である。このように構成することで、樹脂受け部40a・40bに的中した樹脂8の温度を調節することができる。これにより、樹脂8の粘度を流動させるために適した値に保つことが可能となる。
【0048】
また、本実施形態における樹脂受け部40aと樹脂受け部40bとを、繊維束100の走行方向に一体的に構成することも可能である。しかしその場合、主剤12及び硬化剤15が一体的に構成された樹脂受け部40a・40b上で混合され硬化するおそれがある。そのため樹脂受け部40a・40bは、本実施形態の如く、噴射する材料の種類ごとに別個に設けることが望ましい。
【0049】
なお、樹脂受け部40a・40bを配置する方向は本実施形態に限定されるものではない。つまり、樹脂受け部40a・40bの配置の方向は液滴噴射装置11の配置の方向等に応じて変更することが可能であり、本実施形態の如く水平面に配置するものに限定されない。
【0050】
以下では図6を用いて、本発明に係る樹脂受け部の第二の実施形態である樹脂受け部50の構造について説明する。
【0051】
樹脂受け部50は、底板51と一対の側板52a・52bとで構成される。底板51及び側板52a・52bの構成及び樹脂付着装置5における配置は、樹脂受け部40a・40bの底板41及び側板42a・42bと略同一である。
樹脂受け部50が樹脂受け部40a・40bと異なる点は、溝41aとは異なるパターンの溝51a・51b・51c・51d・51eを底板51に設けることである。
【0052】
底板51の上面には、複数の溝51a・51b・51c・51d・51eが設けられる。
溝51aは、側板52a・52b間に亘り、その左右両端部から中央部にかけて前方に傾斜するように形成される。
溝51cは、溝51aの前方に配され、側板52a・52b間に亘り、その中央部から左右両端部にかけて前方に傾斜するように形成される。
溝51bは、溝51aの中央部と溝51cの中央部とを連通するように形成される。
溝51eは、溝51cの前方に配され、側板52a・52b間に亘り、その左右両端部から中央部にかけて前方に傾斜するように形成される。
溝51d・51dは、溝51cの左右両端部と溝51eの左右両端部とをそれぞれ連通するように形成される。
【0053】
次に、上記の如く構成された樹脂受け部50に樹脂8が的中した場合の、樹脂8の流動の態様について説明する。
底板51と近接する繊維束100が後方から前方へ走行することにより、繊維束100に接する樹脂8は後方から前方へ流動するように促される。これにより、底板51の上面の樹脂8全体には後方から前方へ向かう流れが生じる。この流れに伴って、溝51a内の樹脂8は溝51a内を左右両端部から中央部へ向かって流動する。溝51aの中央部に達した樹脂8は、溝51bを前方へ流動し、溝51cの中央部内へと流入する。溝51cの中央部へ流入した樹脂8は、溝51c内を中央部から左右両端部へ向かって流動する。溝51cの左右両端部に達した樹脂8は、溝51d・51dを前方へ流動し、溝51eの左右両端部へと流入する。溝51eの左右両端部へ流入した樹脂8は、溝51e内を左右両端部から中央部へ向かって流動する。
【0054】
以上の如く、本実施形態の樹脂付着装置5の樹脂受け部50は、
溝51a・51b・51c・51d・51eのうち少なくとも一本は繊維束100の走行方向に対して傾斜しているものである。
このように構成することにより、樹脂受け部40a・40bに的中した樹脂8を溝41aに沿って繊維束100の幅方向に流動させることが可能となる。また、繊維束100の走行により樹脂8の流動を促すことが可能となる。これにより、繊維束100に付着し易い位置まで樹脂8を流動させることが可能となる。また、繊維束100に付着する樹脂8の量が不足することによる不良品の発生を防止することが可能となる。
【0055】
上記の如く、底板51に設けられる溝51a・51c・51eに前後方向の傾斜を設けることによって、樹脂8の左右方向への流動を促すことが可能となる。また、溝51a・51c・51eを溝51b・51dにより連通することで、樹脂8が流動可能な距離を増加させることが可能となる。これにより、樹脂8が走行する繊維束100に付着する可能性を高めることが可能となる。ひいては樹脂8の付着量が不足することによる不良品の発生を防止することが可能となる。
【0056】
なお、前述した樹脂付着装置5において、走行装置10を繊維束100の走行方向上流側から下流側にかけて下方に傾斜させる構成とすることも可能である。これに伴い、樹脂受け部50も同様に傾斜した状態で配置される。このように構成することによって、樹脂受け部50上を流動する樹脂8の前方への流動を重力によって促進させることが可能となる。これにより、樹脂8の左右方向への流動も促進させることができ、樹脂8が走行する繊維束100に付着する可能性を高めることが可能となる。ひいては樹脂8の付着量が不足することによる不良品の発生を防止することが可能となる。
【0057】
本発明に係る樹脂受け部は上述した樹脂受け部40a・40bや樹脂受け部50の如く構成したものに限らない。例えば、本発明に係る樹脂受け部の繊維束と対向する面(樹脂が流動する面)にブラスト加工やローレット加工等を施す構成としてもよい。
前記樹脂受け部の繊維束と対向する面にブラスト加工やローレット加工等が施されることにより、当該面に多数の微小な凹凸を設けられる。これにより、走行する繊維束が前記樹脂受け部に付着して走行に対する抵抗となることを防止することが可能となる。また、前記凹凸は微小であるので、樹脂8の流動を妨げない。
【0058】
また、本発明に係る樹脂付着装置の他の実施形態として、電位差を利用して樹脂8を繊維束100に付着させるように構成することもできる。
具体的には、図7に示すように、本発明に係る帯電装置である高圧静電発生器60を第一ヘッド20のノズル29aの噴射方向に配置する。高圧静電発生器60は上下に貫通する孔60aを有するリング状に形成されている。高圧静電発生器60は、孔60aの内部の空気をイオン化させる。第一ヘッド20のノズル29aより噴射される主剤12の液滴は、孔60aの内部を通過することにより、負の静電気を帯電する。
一方、ローラ10a・10bをアースすることにより、繊維束100をアースさせた状態で走行させる。
上記の如く構成することにより、負の静電気を帯びた主剤12の液滴を静電引力により確実にアースされた繊維束100に付着させることが可能となる。
なお、上記の構成と同様に、第二ヘッド21のノズル29bの噴射方向に高圧静電発生器60を配置することで、硬化剤15を繊維束100に付着させることが可能となる。これにより、繊維束100に繊維割れが生じた場合においても、樹脂8の付着量が不足することによる不良品の発生を防止することが可能となる。
【0059】
以上の如く、本実施形態の樹脂付着装置5は、
複数の樹脂噴射用ノズル29a・29bを有する液滴噴射装置11と、
ノズル29a・29bと所定の対向間隔を置いて繊維束100を走行させる走行装置10と、
を具備し、
走行する繊維束100の表面に向けて液滴噴射装置11によって樹脂8(主剤12及び硬化剤15)を噴射することで、繊維束100に樹脂8を付着させるフィラメントワインディング成形における樹脂付着装置5であって、
液滴噴射装置11によって噴射される樹脂8を帯電させる帯電装置である高圧静電発生器60を具備し、
繊維束100をアースさせた状態で走行させるものである。
このように構成することにより、負の静電気を帯びた樹脂8の液滴を静電引力により確実にアースされた繊維束100に付着させることが可能となる。これにより、繊維束100に繊維割れが生じた場合においても、樹脂8の付着量が不足することによる不良品の発生を防止することが可能となる。
【0060】
なお、本発明は上記の如き構成に限らず、本発明に係る帯電装置を用いて、噴射される前に予め樹脂8を帯電させておく構成とすることもできる。
また、上記の如き電位差を利用して樹脂8を繊維束100に付着させる構成において、繊維束100をアースする代わりに本発明における樹脂受け部をアースする構成とすることもできる。このように構成することにより、静電引力により液滴を前記樹脂受け部に向かって確実に引き寄せることが可能となる。これによって、液滴が、走行する繊維束100の幅方向に逸れて樹脂8の付着量が不足することを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施形態に係るフィラメントワインディング成形における各装置を示す斜視図。
【図2】同じく樹脂付着装置を示す側面図。
【図3】同じく液滴噴射装置を示す側面図。
【図4】同じく樹脂付着装置において樹脂の噴射の様子を示す斜視図。
【図5】同じく樹脂受け部の第一形態を示す図。(a)平面図、(b)(a)におけるA−A断面を示す断面図、(c)正面図。
【図6】同じく樹脂受け部の第二形態を示す図。(a)平面図、(b)(a)におけるB−B断面を示す断面図、(c)正面図。
【図7】同じく樹脂付着装置の他の実施形態を示す側面図。
【符号の説明】
【0062】
5 樹脂付着装置
10 走行装置
11 液滴噴射装置
40a 樹脂受け部
40b 樹脂受け部
41 底板
42a 側板
42b 側板
60 高圧静電発生器(帯電装置)
100 繊維束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の樹脂噴射用ノズルを有する液滴噴射装置と、
前記ノズルと所定の対向間隔を置いて繊維束を走行させる走行装置と、
を具備し、
走行する繊維束の表面に向けて前記液滴噴射装置によって樹脂を噴射することで、前記繊維束に樹脂を付着させるフィラメントワインディング成形における樹脂付着装置であって、
前記繊維束を挟んで前記樹脂噴射用ノズルと対向する位置に前記繊維束の裏面に近接する樹脂受け部を具備する樹脂付着装置。
【請求項2】
前記樹脂受け部は、
前記繊維束の側部と対向する側板を具備する請求項1に記載の樹脂付着装置。
【請求項3】
前記樹脂受け部は、
前記繊維束の裏面と対向する面に、前記繊維束の幅方向に亘る少なくとも一本の溝を具備する請求項1又は請求項2に記載の樹脂付着装置。
【請求項4】
前記溝のうち少なくとも一本は前記繊維束の走行方向に対して傾斜している請求項3に記載の樹脂付着装置。
【請求項5】
複数の樹脂噴射用ノズルを有する液滴噴射装置と、
前記ノズルと所定の対向間隔を置いて繊維束を走行させる走行装置と、
を具備し、
走行する繊維束の表面に向けて前記液滴噴射装置によって樹脂を噴射することで、前記繊維束に樹脂を付着させるフィラメントワインディング成形における樹脂付着装置であって、
前記液滴噴射装置によって噴射される樹脂を帯電させる帯電装置を具備し、
前記繊維束をアースさせた状態で走行させる樹脂付着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−126052(P2009−126052A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303334(P2007−303334)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】