説明

樹脂組成物の製造方法及び電線・ケーブル

【課題】主原料である芳香族ポリエステル樹脂を効率的に加熱溶融させ、その樹脂混合物の変色や性能劣化を生じさせることがなく、良好な樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】主原料投入口4とサイドフィード7とを有する押出機1を用い、主原料である樹脂Aと、その樹脂よりも溶融温度の低い第2樹脂成分Bとを、押出機1に投入して混和する樹脂組成物の製造方法において、第2樹脂成分Bを主原料投入口4から投入後、樹脂Aをサイドフィード7から投入して混和する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリエステル樹脂を主材料とする高耐熱耐摩耗性の絶縁樹脂の製造方法及び電線・ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車分野では種々の用途に多くの電装部品が用いられており、電装部品の増加に伴って、電力や制御信号を伝送する車両用電線の需要も増加している。このような車両用電線の材料(被覆材料など)には、高い耐摩耗性や耐熱性が要求される。このような被覆材料として、耐摩耗性、耐熱性に優れた芳香族ポリエステル樹脂を主原料に用いたものがある。
【0003】
図5に、従来の芳香族ポリエステル樹脂Aを主原料とした樹脂組成物の製造方法の一例を示す。
【0004】
芳香族ポリエステル樹脂Aと第2樹脂成分Bとを二軸混練押出機51の主原料投入口52から投入し、並列にかみ合い、嵌め合わせた2本のスクリュー53により溶融状態で混合・混練しながら、材料排出口54まで搬送する。第2樹脂成分Bとしては、ポリエチレン、EGMA(エチレン・グリシジルメタクリレート共重合体)などを投入する。
【0005】
芳香族ポリエステル樹脂Aと第2樹脂成分Bとを効率よく混合するためには、一方の樹脂を溶融状態にしておき、他方の樹脂を投入するほうが望ましい。図6を用いて従来の製造方法の他の例を説明する。
【0006】
芳香族ポリエステル樹脂Aを二軸混練押出機61の主原料投入口62から投入し、バレル63内のヒータにより加熱し、溶融状態とする。溶融された芳香族ポリエステル樹脂Aはスクリュー64により下流側へと搬送される。ポリエチレン・EGMAなどの第2樹脂成分Bが主原料投入口62と材料排出口65の間に設けられたサイドフィード66から投入され、溶融状態の芳香族ポリエステル樹脂Aと混合され、2本のスクリュー64により混練されながら材料排出口65まで搬送される。
【0007】
材料排出口65まで搬送された芳香族ポリエステル樹脂Aを主原料とする樹脂組成物は、図7に示すような装置により電線・ケーブルの絶縁層として形成される。送り出し機72より送り出された、撚り合わされた導体73の外周部に材料排出口65から押出された樹脂組成物を被覆し、冷却水槽74で冷却後、巻き取り機75で巻き取る。
【0008】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【0009】
【特許文献1】特開2004−193117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、第2樹脂成分Bをサイドフィード66から投入する場合は、主原料すなわち芳香族ポリエステル樹脂Aの融点(溶融温度)以上にバレル63の温度が設定されるため、第2樹脂成分Bがその融点より低い100℃前後のポリオレフィン樹脂の場合、その温度差によりサイドフィード66先端の押込部の温度がコントロールできず溶融してしまい、第2樹脂成分Bを均一に定量供給することができない。
【0011】
また、芳香族ポリエステル樹脂Aが加熱される時間も長くなる。芳香族ポリエステル樹脂Aは長時間加熱されると炭化して変色しやすくなるという問題がある。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、主原料である芳香族ポリエステル樹脂を効率的に加熱溶融させ、その樹脂混合物の変色や性能劣化を生じさせることがなく、良好な樹脂組成物の製造方法及び電線・ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、主原料投入口とサイドフィードとを有する押出機を用い、主原料である樹脂と、その樹脂よりも溶融温度の低い第2樹脂成分とを、前記押出機に投入して混和する樹脂組成物の製造方法において、前記第2樹脂成分を主原料投入口から投入後、前記樹脂をサイドフィードから投入して混和する樹脂組成物の製造方法である。
【0014】
請求項2の発明は、前記第2樹脂成分の見掛け比重が、前記樹脂の見掛け比重より軽い請求項1記載の樹脂組成物の製造方法である。
【0015】
請求項3の発明は、前記樹脂の投入量が、前記樹脂の投入量と前記第2樹脂成分の投入量とを合わせた全投入量の50重量%以上である請求項1または2記載の樹脂組成物の製造方法である。
【0016】
請求項4の発明は、前記樹脂は、芳香族ポリエステル樹脂であり、前記第2樹脂成分は、ポリオレフィン樹脂、エチレン系共重合体、スチレン系エラストマー、1、3、5−トリアジン系誘導体のいずれかから3種類以上選択した樹脂成分である請求項1〜3いずれかに記載の樹脂組成物の製造方法である。
【0017】
請求項5の発明は、請求項1〜4いずれかに記載の樹脂組成物の製造方法を用いて作製された樹脂組成物を、導体の絶縁体に用いた電線である。
【0018】
請求項6の発明は、請求項1〜4いずれかに記載の樹脂組成物の製造方法を用いて作製された樹脂組成物を、導体の絶縁体、及び/又はシースに用いたケーブルである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、変色もなく良好な芳香族ポリエステル樹脂を主原料とする樹脂組成物を形成することができ、これにより品質の安定した電線・ケーブルを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
芳香族ポリエステル樹脂は加熱時間が長いと変色する性質を有する。しかし、この変色を抑えるために加熱時間を短くすると、混練時間も短くなるために混練性が悪くなってしまい、従来技術では変色もなく混練性のよい樹脂組成物を得ることは難しかった。
【0021】
そこで、本発明者らは、この問題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、芳香族ポリエステル樹脂の加熱時間を短くでき、せん断発熱を抑えることができ、かつ良好な混練性が得られる樹脂組成物の製造方法を見出し、本発明に至った。
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面にしたがって説明する。
【0023】
まず、本発明の好適な実施形態を示す樹脂組成物の製造方法に用いる樹脂組成物の製造装置を説明する。
【0024】
図1は、本実施形態に係る樹脂組成物の製造装置(押出機)の縦断面図である。
【0025】
図1に示すように、押出機1は、円筒状のバレル(シリンダー)3と、そのバレル3内に設けられ、並列にかみ合い、嵌め合わせた2つのスクリュー2とを主に備える二軸混練押出機である。
【0026】
バレル3には図示しないヒータが設けられ、バレル3の一端部(上流側)の上部(図1では右上)には主原料投入口4(第1フィーダ)が設けられ、他端部(下流側)の端面には樹脂組成物5を排出する排出口6が設けられる。また、主原料投入口4と排出口6との間のバレル3の上部にはサイドフィード7(第2フィーダ)が設けられる。
【0027】
主原料投入口4およびサイドフィード7には、図示しない定量供給装置(ロスインフィーダ)およびホッパが設けられる。また、サイドフィード7と排出口6との間のスクリュー2には、混練部2aが設けられる。
【0028】
主原料投入口4とサイドフィード7との間、およびサイドフィード7と排出口6との間のバレル3の上部には、発生ガスを排出するためのベント口8a、8bがそれぞれ設けられる。
【0029】
本実施形態では、押出機1として、L/D=35〜80の同方向回転型二軸押出機を用いた。
【0030】
次に、本実施形態に係る樹脂組成物5の製造方法を説明する。
【0031】
本実施形態に係る樹脂組成物5の製造方法は、主原料である樹脂Aと、その樹脂Aよりも溶融温度(融点)の低い第2樹脂成分Bとを、押出機1に投入して混和する方法であり、第2樹脂成分Bを主原料投入口4から投入後、樹脂Aをサイドフィード7から投入して混和する方法である。
【0032】
樹脂Aとしては、芳香族ポリエステル樹脂を用いる。芳香族ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートや、ポリエチレンイソフタレート・テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート・テレフタレート、ポリエチレンテレフタレート・ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート・ナフタレートなどの共重合ポリエステルを用いるとよい。望ましくは、初期伸び特性の高いポリブチレンテレフタレートが好ましい。ポリブチレンテレフタレートの融点は約218℃である。
【0033】
第2樹脂成分Bは、ポリオレフィン樹脂、エチレン系共重合体、スチレン系エラストマー、および1、3、5−トリアジン系誘導体のいずれかから3種類以上選択した樹脂混和物である。
【0034】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリイソブチレンなどの単独重合体を用いるとよい。本実施形態では、低密度ポリエチレンを用いた。低密度ポリエチレンの融点は約110℃である。
【0035】
エチレン系共重合体としては、例えば、エチレン・アクリル酸共重合体、アイオノマー、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・アクリル酸ブチル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリルゴム、エチレン・グリシジルメタクリレート共重合体(EGMA)、エチレン・グリシジルメタクリレート・アクリル酸メチル共重合体などを用いるとよい。
【0036】
スチレン系エストラマーとしては、例えば、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン・エチレンプロピレン・スチレンブロック共重合体、あるいはそれらに無水マレイン酸やグリシジルメタクリレートなどの官能基を導入したものを用いるとよい。
【0037】
1、3、5−トリアジン系誘導体としては、例えば、メラミン、シアヌル酸、イソシアヌル酸、メラミンシアヌレート、硫酸メラミンなどを用いるとよい。望ましくは、メラミンシアヌレートを用いるとよい。また、これらは非イオン性活性表面剤や各種カップリング剤により表面処理されていてもよい。
【0038】
また、本実施形態では、第2樹脂成分Bの見掛け比重は、樹脂Aの見掛け比重よりも軽くした。これは、第2樹脂成分Bの見掛け比重が樹脂Aの見掛け比重よりも重いと、混練性が悪くなるためである。
【0039】
ここで、見掛け比重を説明する。見掛け比重には、ゆるみ見掛け比重と固め見掛け比重がある。
【0040】
ゆるみ見掛け比重は、図2(a)に示すように、一定量のカップ21に粉体試料Tを加え、粉体試料Tの表面を擦り切って秤量し、このときの粉体試料Tの重さをカップ21の内容量で除した数値である。
【0041】
一方、固め見掛け比重は、図2(b)に示すように、一定量のカップ21に粉体試料Tを加えた後、その粉体試料Tを上から圧縮したりたたいたりして密にし、その圧縮された粉体試料Tの体積を求め、粉体試料Tの重さを粉体試料の体積で除した数値である。
【0042】
粉体試料Tとしてペレットを用いた場合は、ゆるみ見掛け比重と固め見掛け比重はほぼ同じ値となる。本実施形態では、見掛け比重としてゆるみ見掛け比重を用いたが、樹脂Aおよび第2樹脂成分Bにペレット状のものを用いる場合は、ゆるみ見掛け比重、あるいは固め見掛け比重のどちらを用いてもよい。
【0043】
また、本実施形態では、樹脂Aの投入量は、樹脂Aの投入量と第2樹脂成分Bの投入量とを合わせた全投入量の50重量%以上とした。
【0044】
これは、樹脂Aの投入量が全投入量の50重量%未満であると、樹脂Aとして用いる芳香族ポリエステル樹脂の割合が少なくなり、樹脂組成物5の耐摩耗性が低下するためである。
【0045】
本実施形態では、耐摩耗性のよい芳香族ポリエステル樹脂を100重量部、熱老化特性向上のためにポリオレフィン樹脂を10〜30重量部、難燃性向上のためにメラミンシアヌレートを30重量部混合した。
【0046】
本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法をより詳細に説明する。
【0047】
まず、押出機1の主原料投入口4から第2樹脂成分Bを投入する。投入された第2樹脂成分Bは、バレル3のヒータで加熱されて溶融状態となり、スクリュー2により混合・混練されながら下流方向(図1では左方向)へ搬送される。第2樹脂成分Bの混練中に揮発した成分(発生ガス)は、バレル3の上部に設けられたベント口8aより吸引・排出される。
【0048】
その後、サイドフィード7より主原料である樹脂Aを投入する。これにより、第2樹脂成分Bに樹脂Aが混合され、スクリュー2により混合・混練されながら、排出口6へと搬送される。第2樹脂成分Bと樹脂Aの混練中に揮発した成分(発生ガス)は、バレル3の上部に設けられたベント口8bより吸引・排出される。
【0049】
以上により、本実施形態に係る樹脂組成物5が得られる。
【0050】
ここで、主原料投入口4とサイドフィード7との距離について説明する。
【0051】
サイドフィード7から投入する樹脂Aは芳香族ポリエステル樹脂であるため、樹脂Aの変色防止のため加熱時間を短くする必要がある。具体的には、サイドフィード7から排出口6までのL/Dは15〜30が望ましい。
【0052】
一方、主原料投入口4から投入する第2樹脂成分Bとしてポリオレフィン樹脂およびメラミンシアヌレートを用いる場合、これらが混合されるためにはL/D=20〜50が必要となる。すなわち、サイドフィード7に到達するまでに第2樹脂成分Bの混練分散を完了させるためには、主原料投入口4からサイドフィード7のL/Dは20〜50必要となる。
【0053】
したがって、本実施形態で用いる押出機1(L/D=35〜80)の場合、主原料投入口4からサイドフィード7までの距離(L/D)は、押出機1のL/Dの0.3〜0.8倍、望ましくは0.55〜0.65倍とするとよい。本実施形態では、主原料投入口4からサイドフィード7までの距離(L/D)は、押出機1のL/Dの約0.6倍とした。
【0054】
本実施形態の作用を説明する。
【0055】
本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法では、第2樹脂成分Bを主原料投入口4から投入後、樹脂Aをサイドフィード7から投入して混和するので、芳香族ポリエステル樹脂からなる樹脂Aの加熱時間が短くなり、樹脂Aが炭化することがなく、樹脂組成物5の変色がなくなる。
【0056】
さらに、第2樹脂成分Bを樹脂Aよりも先に投入するため、サイドフィード7よりも上流の主原料投入口4付近のバレル3の温度を樹脂Aの融点以下に設定することができ、第2樹脂成分Bの融点が樹脂Aの融点よりも低い場合でも均一に定量供給することができる。
【0057】
また、芳香族ポリエステル樹脂からなる樹脂Aを主原料投入口4から投入する従来の方法では、樹脂A自身および第2樹脂成分B並びにその双方との溶融せん断発熱などにより、バレル3内でのせん断発熱および発熱履歴が大きくなっていた。
【0058】
本実施形態では、樹脂Aをサイドフィード7から投入するため、樹脂Aを投入する際には第2樹脂成分Bの混練分散が完了しており、樹脂Aの混練分散時のせん断発熱が軽減され、効率的な分散状態が得られる。
【0059】
すなわち、本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法では、主原料となる樹脂Aを主原料投入口4からではなく、サイドフィード7から投入することにより、変色もなく、混練性もよく、品質の安定した良好な樹脂組成物5を得ることができる。
【0060】
また、本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法では、第2樹脂成分Bの見掛け比重を樹脂Aの見掛け比重より軽くしている。
【0061】
一般に、主原料投入口4から投入する原料の重量の割合を多く、サイドフィード7からの投入重量を少なくする必要があるが、本実施形態では主原料である樹脂(A)をサイドフィード7から投入するため、その重量の割合が比較的大きくなる。
【0062】
そこで、本実施形態では、第2樹脂成分Bの見掛け比重を樹脂Aの見掛け比重より軽く(樹脂Aの見掛け比重を重く)することにより、樹脂Aの投入重量の割合を多くしても樹脂Aの体積が少なくなり、第2樹脂成分Bの体積との差が少なくなるようにした。
【0063】
さらに、見掛け比重の軽い第2樹脂成分Bに見掛け比重が大きい樹脂Aを加えるため分散しやすくなり、これにより、サイドフィード7から投入する樹脂Aの重量が比較的大きいにもかかわらず、混練性を高めることができる。
【0064】
また、本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法では、樹脂Aの投入量を、樹脂Aの投入量と第2樹脂成分Bの投入量とを合わせた全投入量の50重量%以上としている。
【0065】
これにより、耐摩耗性の向上に寄与する樹脂A(芳香族ポリエステル樹脂)の割合が少なくなりすぎることがなく、製造する樹脂組成物5の耐摩耗性を向上させることができる。
【0066】
上記実施形態では、押出機1として同方向回転型の二軸混練押出機を用いたが、異方向回転型でもよく、さらには単軸、多軸の押出機などを用いてもよい。
【0067】
次に、本実施形態に係る電線を説明する。
【0068】
本実施形態に係る電線の一例を図3に示す。図3に示すように、本実施形態に係る電線31は、導体32の外周に樹脂組成物5を被覆し、これを絶縁体として用いたものである。
【0069】
本実施形態に係る電線31は、例えば、図4に示す電線の製造装置41により製造される。
【0070】
電線の製造装置41は、図1の押出機1と、導体32を送出する送り出し装置42と、送り出し装置42からの導体32に、押出機1からの樹脂組成物5を被覆して電線31とする被覆形成装置43と、電線31を冷却する冷却水槽44と、電線31を巻き取る巻き取り装置45とを備える。
【0071】
最上流端に設置された送り出し装置42の下流側には、順次、被覆形成装置43、冷却水槽44、巻き取り装置45が設置され、被覆形成装置43には押出機1の排出口6が接続される。
【0072】
送り出し装置42から送出された導体32は、被覆形成装置43に導入され、この被覆形成装置43で押出機1からの樹脂組成物5を被覆されて、電線31となる。本実施形態では、導体32として、複数の銅線が撚り合わされた撚り線を用いた。
【0073】
電線31は、冷却水槽44で冷却された後、巻き取り装置45に巻き取られ、製品である電線31が得られる。
【0074】
本実施形態では、導体32として、複数の銅線が撚り合わされた撚り線を用いたが、単線の銅線を用いてもよい
次に、本実施形態に係るケーブルを説明する。
【0075】
本実施形態に係るケーブルは、樹脂組成物を、導体の絶縁体、及び/又はシースに用いたものである。
【0076】
すなわち、導体の外周に絶縁体として樹脂組成物5を被覆するか、導体の外周に絶縁体を被覆した1本または複数本の絶縁心線のシースとして樹脂組成物5を被覆するか、または導体の外周に被覆する絶縁体とシースとの両方に樹脂組成物5を用いたものである。
【0077】
本実施形態に係るケーブルは、例えば、図4で説明した電線の製造装置41を用いて製造できる。
【実施例】
【0078】
以下、本発明の一実施例について説明する。
【0079】
表1に、樹脂Aとしてポリブチレンテレフタレート100重量部、樹脂Bとして低密度ポリエチレン10重量部、SEBS15重量部、EGMA5重量部、およびメラミンシアヌレート30重量部を用い、二軸混練押出機を用いて混合・混練したときの押出性を示す(実施例)。二軸混練押出機は、スクリュー径40mm、L/D=60のものを用いた。
【0080】
二軸混練押出機の代表例としては、東芝機械社製TEM(登録商標)、神戸製鋼所社製KTX(登録商標)、日本製鋼所社製TEX(登録商標)、ワーナー社製ZSK(登録商標)などが挙げられる。
【0081】
【表1】

【0082】
表1の材料供給性は、ロスインフィーダから供給された材料が主原料投入口4やサイドフィード7で滞留した場合を×、変色は押出物(樹脂組成物5)が白色で○、黄色く変色した場合は×、やや変色が見られた場合は△、押出外観は押出された電線の表面を指でなぞり表面の凹凸状態を確認し、凹凸が確認できた場合は×、メラミンシアヌレートの分散状態は、押出された樹脂組成物5をプレス機によりシート状に薄く延ばして分散状態を調査し、分散不良である場合(まだら模様がある場合)は×とした。
【0083】
表1では、比較例1として、ポリブチレンテレフタレートを主原料投入口4から、低密度ポリエチレン、SEBS15、EGMA5、およびメラミンシアヌレートをサイドフィード7から投入する従来方法で作製した樹脂組成物の押出性も併せて示す。
【0084】
比較例1では、押出外観は粒があり表面に凹凸が見られ(×)、メラミンシアヌレートの分散状態も十分ではなかった(×)。これは、第2樹脂成分Bの混練が十分でないためだと考えられる。また、樹脂組成物も若干黄色い変色(△)が認められた。これは、ポリブチレンテレフタレートに長時間にわたって熱が加えられたためだと考えられる。
【0085】
一方、ポリブチレンテレフタレートをサイドフィード7から、低密度ポリエチレン、SEBS、EGMA、およびメラミンシアヌレートを主原料投入口から投入する、本発明による実施例では、樹脂組成物5の変色も見られず、押出外観も良好であった。また、メラミンシアヌレートの分散性にも問題は生じなかった。
【0086】
一般に、投入する原料は、主原料投入口からの割合が多く、サイドフィード7など第2供給口からの供給は少なくする必要があるが、今回サイドフィード7からの供給量が多いにもかかわらず材料供給性や混練性で問題にならなかったのは、以下に述べる理由が考えられる。
【0087】
サイドフィード7から投入されるポリブチレンテレフタレートの見掛け比重は0.80と重いのに対して、主原料投入口4から投入される低密度ポリエチレンの見掛け比重は0.59、メラミンシアヌレートは0.21と軽い。したがって、供給されるポリブチレンテレフタレート(樹脂A)対第2樹脂成分Bの重量比は5倍であるにもかかわらず、体積比は3.6倍と差が少なくなっている。このことにより、サイドフィード7から投入される原料の重量が比較的多いにもかかわらず混練に問題が生じないと考えられる。なお、上記見掛け比重は、ゆるみ見掛け比重により測定した値である。
【0088】
表2に、ポリブチレンテレフタレートをサイドフィード7から、低密度ポリエチレン、SEBS、EGMA、およびメラミンシアヌレートを主原料投入口4から二軸混練押出機にそれぞれ供給して生成した樹脂組成物5を絶縁体として形成した電線の摩耗性を示す。
【0089】
【表2】

【0090】
表2では、比較例2としてポリブチレンテレフタレート50重量部、低密度ポリエチレン60重量部の樹脂組成物の耐摩耗性も併せて示す。比較例2では、SEBS、EGMA、メラミンシアヌレートは実施例と同一条件とした。
【0091】
耐摩耗試験は、90°の3枚刃を樹脂組成物を絶縁体として形成された電線上に置き、ここに907gの荷重をかけて刃を往復させる。この耐摩耗試験は、刃が絶縁層を削り導体まで達したときの往復回数で評価するものであり、例えば、車両用電線の場合は150回以上必要とされている。
【0092】
実施例では、耐摩耗性は150回以上であるのに対し、比較例2では50回以下と低下する。これはポリブチレンテレフタレートが耐摩耗性の向上に寄与しているためで、少なくとも主原料のポリブチレンテレフタレートは全ポリマー(全投入量)の50重量%以上必要であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本実施形態に係る樹脂組成物の製造装置(押出機)の縦断面図である。
【図2】図2(a)はゆるみ見掛け比重を説明する図であり、図2(b)は固め見掛け比重を説明する図である。
【図3】本実施形態に係る電線の横断面図である。
【図4】本実施形態に係る電線の製造装置の概略図である。
【図5】従来の樹脂組成物の製造方法に用いる押出機の一例の縦断面図である。
【図6】従来の樹脂組成物の製造方法に用いる押出機の一例の縦断面図である。
【図7】従来の電線の製造装置の概略図である。
【符号の説明】
【0094】
1 樹脂組成物の製造装置(押出機)
4 主原料投入口
5 樹脂組成物
7 サイドフィード
A 樹脂
B 第2樹脂成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主原料投入口とサイドフィードとを有する押出機を用い、主原料である樹脂と、その樹脂よりも溶融温度の低い第2樹脂成分とを、前記押出機に投入して混和する樹脂組成物の製造方法において、前記第2樹脂成分を主原料投入口から投入後、前記樹脂をサイドフィードから投入して混和することを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記第2樹脂成分の見掛け比重が、前記樹脂の見掛け比重より軽い請求項1記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂の投入量が、前記樹脂の投入量と前記第2樹脂成分の投入量とを合わせた全投入量の50重量%以上である請求項1または2記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂は、芳香族ポリエステル樹脂であり、前記第2樹脂成分は、ポリオレフィン樹脂、エチレン系共重合体、スチレン系エラストマー、1、3、5−トリアジン系誘導体のいずれかから3種類以上選択した樹脂成分である請求項1〜3いずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の樹脂組成物の製造方法を用いて作製された樹脂組成物を、導体の絶縁体に用いたことを特徴とする電線。
【請求項6】
請求項1〜4いずれかに記載の樹脂組成物の製造方法を用いて作製された樹脂組成物を、導体の絶縁体、及び/又はシースに用いたことを特徴とするケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−73972(P2009−73972A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245384(P2007−245384)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】