説明

機能性樹脂成形体の製造方法

【課題】環境負荷の大きなエッチング液を用いることなく密着性に優れる金属膜が形成されたポリプロピレン系樹脂等の熱可塑性樹脂からなる機能性樹脂成形体を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂からなる多孔質層2を有し、多孔質層のセル20内に機能性材料を分散させた機能性材料分散シート1を作製するシート作製工程と、得られた機能性材料分散シート1を加熱圧縮することにより、セル20の容積を減少させて、多孔質層が薄肉化された圧縮層を有する加工体を作製する加熱圧縮工程とを有する機能性樹脂成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性樹脂成形体の製造方法に関する。特に、本発明は、熱可塑性樹脂からなる多孔質層を備えたシートから金属膜が形成された機能性樹脂成形体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形体への機能性付与の要望は極めて多岐の分野に渡る。例えば、界面活性剤やポリアルキレングリコールなどの濡れ性付与材料による樹脂成形体の親水化、染料による樹脂成形体の染色、金属粒子、金属酸化物、カーボン系材料などによる樹脂成形体の導電性向上や高硬度化、Fe−CoやFe−Niなどの合金粒子やフェライト粒子による電磁波シールド性の向上、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化鉄などの紫外線遮蔽機能を有する金属酸化物による紫外線防止効果の付与、めっき処理により樹脂成形体に金属膜を施すことによる美観向上や部品の軽量化、相溶化材料を用いない異種樹脂材料同士によるアロイ化など、各種の機能性を樹脂成形体に付与することが行なわれている。
【0003】
上記親水性、染色、導電性、電磁波シールド性、紫外線防止などの機能性を付与した樹脂成形体を製造する場合、例えば、これらの機能性を付与するための各種の機能性材料を分散させた溶融樹脂を、射出成形あるいは押出成形する製造方法が採用されている。
【0004】
しかしながら、これらの機能性は樹脂成形体の表面に付与されていればよいのに対し、上記機能性材料が分散された溶融樹脂を成形する製造方法においては、原料である溶融樹脂全体に機能性材料を分散させているため、機能性材料の消費量が多くなるだけでなく、機能性材料の種類によっては樹脂成形体の物性の低下を招く場合がある。特に、金属粒子や金属酸化物などの無機材料は樹脂よりも大きな比重を有するため、成形時に機能性材料が樹脂の内部に埋設されやすく、その結果、樹脂成形体の表面近傍に存在する機能性材料の濃度が低下するという問題がある。
【0005】
樹脂成形体の表面に機能性材料を付与する他の方法として、樹脂成形体の表面に機能性材料を含有する塗料を塗布する塗布法や、樹脂成形体の表面に機能性材料を蒸着する蒸着法なども行なわれている。しかしながら、これらの方法では複雑な形状を有する樹脂成形体の表面に機能性材料を含有する層を均質、且つ密着性よく形成することは困難を伴うとともに、装置が大掛かりとなり、設備費用が嵩むという問題がある。
【0006】
また、美観向上や部品の軽量化などの機能性の付与を目的とする、金属膜を有する樹脂成形体を製造する場合、一般に、無電解めっき法により下地めっき膜を形成して、不導体である樹脂成形体を導電化し、その後、電解めっき法により表面処理が行われている。
【0007】
この無電解めっき法は、清浄処理(脱脂等)、エッチング処理、中和処理、触媒付与処理、触媒活性化処理、及び無電解めっき処理の各処理からなるが、上記触媒付与処理で付与されるめっき触媒を被めっき物である樹脂成形体の表面内部に安定、且つ均一に付着させることが、最終的に得られる金属膜の密着性を確保するために必要となる。そのため、上記エッチング処理においては、六価クロム酸や過マンガン酸などの環境負荷の大きな酸化剤を含有するエッチング液を用いて樹脂成形体の表面を粗化し、樹脂成形体の表面に凹凸を形成している。
【0008】
しかしながら、このようなエッチング液で浸漬される樹脂成形体、すなわち、無電解めっき法を適用可能な樹脂成形体としては、ABS系樹脂を含有する樹脂成形体に限定されている。これは、ABS系樹脂がエッチング液に選択的に浸食されるブタジエンゴム成分を含んでいるのに対して、他の樹脂はこのようなエッチング液に選択的に浸食される成分が少なく、表面に凹凸が形成され難いためである。このため、自動車部品などの分野では、軽量化のために、ポリプロピレン系樹脂などの軽量の樹脂にめっき処理により金属膜を形成した樹脂成形体が望まれているが、上記エッチング処理を有する無電解めっき法では、このような熱可塑性樹脂からなる樹脂成形体に密着性の高い金属膜を形成できていないのが現状である。
【0009】
ABS系樹脂以外のポリプロピレン系樹脂等からなる樹脂成形体に金属膜を形成する他の方法として、炭酸カルシウムなどの抽出材料を樹脂に分散させたペレットを用いて射出成形などにより空孔のない樹脂成形体を作製し、抽出材料を酸やアルカリを含有する抽出液により抽出して、樹脂成形体の表面を粗化し、この粗化した表面を有する樹脂成形体にめっき処理を行う方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【0010】
しかしながら、炭酸カルシウムなどの抽出材料も無機材料であるため、一般に樹脂よりも大きな比重を有することや、樹脂成形体の形状及び樹脂の流動状態に起因して、樹脂成形体の表面近傍における抽出材料の濃度の低下や、抽出材料の凝集による偏りが生じやすく、樹脂成形体の表面が十分に粗化されないという問題がある。それゆえ、抽出後、表面に微細な凹凸が均一に形成され難く、めっき処理を行った際の金属膜の品質の安定性に悪影響を及ぼすという問題がある。さらに、表面粗化のために多量に抽出材料を分散させたペレットを使用した場合、溶融樹脂の流動性が悪化して、射出成形時のモータなどの負荷が大きくなり、成形性が劣化するという問題がある。
【0011】
一方、最近では無電解めっき処理を行わない直接電解めっき法(ダイレクトプレーティング法)も提案されている(例えば、特許文献2)。この直接電解めっき法は、エッチング処理により樹脂成形体の表面を粗化した後、触媒付与処理及び触媒活性化処理において樹脂成形体の表面にパラジウムなどのめっき触媒を高濃度で吸着させることにより樹脂成形体を導電化し、無電解めっき処理を行うことなく、電解めっき処理を行う方法である。このため、工程数を大幅に簡略化でき、また無電解めっき処理で樹脂成形体の表面に発生するブツやざらつきに起因した歩留まりの低下を抑えることができる。
【0012】
しかしながら、上記従来の直接電解めっき法では、樹脂成形体の導電化のために高価なレアメタルであるパラジウムを多量に使用しなければならないという問題がある。また、直接電解めっき法でも、めっき触媒を付与するためにエッチング液を用いて樹脂成形体の表面を粗化する必要があり、環境負荷の問題や、樹脂の種類が制限されるという問題については本質的な解決になっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平5−59587号公報
【0014】
【特許文献2】特開2008−31536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、本発明の第1の目的は、表面近傍に機能性材料が高濃度で分散された機能性樹脂成形体を提供することにある。また、本発明の第2の目的は、金属膜などの形成に好適な微細セルを有する微多孔質層を表面に備えた機能性樹脂成形体を提供することにある。さらに、本発明の第3の目的は、環境負荷の大きなエッチング液を用いることなく密着性に優れる金属膜が形成されたポリプロピレン系樹脂等の熱可塑性樹脂からなる機能性樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、少なくとも一面側に熱可塑性樹脂からなる多孔質層を有し、前記多孔質層のセル内に機能性材料を分散させた機能性材料分散シートを作製するシート作製工程と、
前記機能性材料分散シートを加熱圧縮することにより、前記セルの容積を減少させて、前記多孔質層が薄肉化された圧縮層を有する加工体を作製する加熱圧縮工程とを有する機能性樹脂成形体の製造方法である。
【0017】
機能性材料分散シートの多孔質層は熱可塑性樹脂からなるため、該シートを加熱圧縮することにより、多孔質層が溶融圧縮され、それによってセル容積が減少し、多孔質層が薄肉化された圧縮層を形成することができる。これにより、単位体積当たりの機能性材料の濃度を高くすることができる。その結果、機能性材料を分散させた溶融樹脂を射出成形などにより成形する場合と比べて、表面近傍に高濃度で機能性材料が分散された樹脂成形体を得ることができる。また、多孔質層が溶融圧縮されるため、表面におけるセルの孔径が小さくなり、機能性材料のセルからの脱落を低減できる。さらに、機能性材料として抽出材料を用いた場合、加熱圧縮工程によりセル容積が減少するため、抽出工程を有する製造方法において、抽出液によって抽出材料が抽出されると、抽出材料が存在していた部分が中空の微細セルとなり、機能性材料分散シートの多孔質層が有していたセルよりも小孔径の微細セルを有する微多孔質層を形成することができる。それゆえ、この微多孔質層を有する樹脂成形体にめっき処理を行った場合、金属膜を微細セルの内部から成長させることができ、エッチング処理を行うことなく、高い密着力を有する金属膜を樹脂成形体の表面に均質に形成することができる。
【0018】
なお、本発明における上記機能性材料とは、濡れ性付与材料、染料、導電性材料、電磁波遮蔽材料、紫外線遮蔽材料などのように、それ自体が樹脂成形体に親水性、導電性などの機能性を付与するものだけでなく、めっき触媒などのように、後の処理により金属膜を形成するための核として機能するものであってもよい。さらに、機能性材料は、抽出材料のように、それ自体が機能性を樹脂成形体に付与するものではないが、付与後に、樹脂成形体からそれが除去されることによって、金属膜などの形成に好適な微多孔質層を樹脂成形体に形成する機能を有するものであってもよい。すなわち、本発明における機能性材料は、目的とする樹脂成形体の種類に応じて、得られる樹脂成形体に所定の機能性を付与するための材料を意味し、機能性樹脂成形体は、上記機能性材料によって各種の機能性が付与された樹脂成形体を意味する。
【0019】
上記シート作製工程は、少なくとも一面側に熱可塑性樹脂からなる多孔質層を有する多孔質シートと機能性材料とを接触させる接触処理、または熱可塑性樹脂と機能性材料とを含有する樹脂組成物を押出発泡成形する押出発泡成形処理を含んでもよい。
【0020】
これらの処理によれば、機能性材料を容易に多孔質層のセル内に分散させることができる。特に、接触処理によれば、多孔質層を有する多孔質シートと機能性材料とを接触させるから、多孔質層のセル内のみに機能性材料が分散された機能性材料分散シートを作製することができる。
【0021】
上記加熱圧縮工程は、前記機能性材料分散シートと樹脂シートとをラミネートするラミネート処理、前記機能性材料分散シートと第1の溶融樹脂とをインサート成形するインサート成形処理、前記機能性材料分散シートを真空成形する真空成形処理、及び前記機能性材料分散シートを圧空成形する圧空成形処理からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。これらの処理によれば、得られる加工体の表面平滑性や強度を向上したり、加工体に柔軟性や成形性を付与することができる。
【0022】
上記製造方法は、さらに、前記加工体を成形して、樹脂成形体を作製する成形工程を有してもよく、前記成形工程は、前記加工体と第2の溶融樹脂とをインサート成形するインサート成形処理、前記加工体を真空成形する真空成形処理、及び前記加工体を圧空成形する圧空成形処理からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。上記製造方法によれば、表面近傍に機能性材料が高濃度で分散された樹脂成形体を任意の形状で成形することができる。
【0023】
上記機能性材料としては、抽出材料、濡れ性付与材料、めっき触媒、及び第1の導電性材料からなる群から選ばれる少なくとも1種を使用することができる。これらの機能性材料を使用することにより、得られる樹脂成形体に種々の機能性を付与することができる。
【0024】
上記機能性材料は、抽出材料と、さらに必要により第1の導電性材料及びめっき触媒を含み、
さらに、上記製造方法は、前記樹脂成形体から前記抽出材料を抽出液により抽出して、微細セルを有する微多孔質層を少なくとも一面側に備えた樹脂成形体を作製する抽出工程を有してもよい。
【0025】
機能性材料として、抽出材料を使用し、上記抽出工程を設けることにより、機能性材料分散シートに形成されていた多孔質層のセルの孔径よりも小孔径の微細セルを有する微多孔質層を備えた樹脂成形体を作成することができる。
【0026】
上記製造方法は、さらに、前記微多孔質層を備えた樹脂成形体の微細セル内に第2の導電性材料を分散させる導電性材料分散工程を有してもよい。
【0027】
上記抽出材料は、前記加熱圧縮工程及び成形工程における加熱温度よりも高い溶融温度を有することが好ましい。これらの工程における加熱温度より高い溶融温度を有する抽出材料を用いることにより、加熱時の抽出材料の溶融が抑えられ、熱可塑性樹脂と抽出材料の相溶あるいは相分離を抑えることができる。
【0028】
上記第1の導電性材料は、前記抽出液に難溶性または不溶性であることが好ましい。抽出液に不溶性または難溶性の第1の導電性材料を用いることにより、抽出工程において抽出材料が抽出されても、樹脂成形体に第1の導電性材料を残存させることができる。その結果、高導電性の樹脂成形体を作製することができ、めっき触媒を用いることなく、直接、電解めっき処理を行うことができる。
【0029】
上記製造方法は、さらに、前記微多孔質層を備えた樹脂成形体をめっき処理するめっき工程を有してもよい。上記抽出工程により形成される微多孔質層は、小孔径の微細セルを有するため、環境負荷の大きなエッチング液を用いたエッチング処理を行うことなく、樹脂成形体の表面に金属膜を形成することができる。また、エッチング処理を行う必要がないため、ポリプロピレン系樹脂のようなエッチング液に選択的に浸食される成分が少ない熱可塑性樹脂からなる樹脂成形体に対しても、めっき処理により金属膜を形成することができる。さらに、抽出工程で抽出された抽出材料は、加熱圧縮工程により表面内部に高濃度で分散されているから、微多孔質層は樹脂成形体の表面内部に形成される。従って、この微多孔質層を有する樹脂成形体をめっき処理すれば、金属膜が樹脂成形体の表面内部から成長し、高いアンカリング効果を有する密着性に優れた金属膜を樹脂成形体の表面に均一に形成することができる。またさらに、表面近傍に導電性材料が高濃度で分散された樹脂成形体を作製することができるため、無電解めっき処理を行うことなく、樹脂成形体に直接、電解めっき処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0030】
以上のように、本発明によれば、熱可塑性樹脂からなる多孔質層のセル内に機能性材料が分散された機能性材料分散シートを加熱圧縮することにより、熱可塑性樹脂からなる多孔質層が溶融圧縮されて、多孔質層のセル容積が減少するため、単位体積当たりの機能性材料の濃度を高めることができる。これにより、表面近傍に高濃度で機能性材料が分散された機能性樹脂成形体を得ることができる。また、上記機能性材料として抽出材料を用い、該抽出材料を抽出液で抽出することにより、金属膜などの形成に好適な微細セルを有する微多孔質層を備えた機能性樹脂成形体を提供することができる。さらに、上記微多孔質層を備えた樹脂成形体をめっき処理することにより、環境負荷の大きなエッチング液を用いることなく優れた密着性を有する金属膜が形成されたポリプロピレン系樹脂等の熱可塑性樹脂からなる機能性樹脂成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明の実施例1に係る製造方法の各製造工程を示す要部拡大断面概略図であり、図1(A)はシート作製工程により作製した抽出材料が分散された機能性材料分散シートを、図1(B)は加熱圧縮工程により作製した加工体を、図1(C)は成形工程により成形した樹脂成形体を、図1(D)は抽出工程により作製した微多孔質層を有する樹脂成形体を、図1(E)はめっき工程により作製した金属膜を形成した樹脂成形体を示す。
【図2】本発明の実施例1に係る成形工程における真空圧空成形処理の状態を示す要部拡大断面概略図であり、図2(A)は加工体を金型上に配置させた状態を、図2(B)は加工体を金型で真空圧空成形する状態を、図2(C)は成形された加工体を示す。
【図3】図3は、本発明の実施例1に係る成形工程におけるインサート成形処理の状態を示す要部拡大断面概略図であり、図3(A)は加工体を金型上に配置させた状態を、図3(B)は金型のキャビティ内に溶融樹脂が射出充填された状態を示す。
【図4】図4は、本発明の実施例2に係る製造方法の各製造工程を示す要部拡大断面概略図であり、図4(A)はシート作製工程により作製した抽出材料及び導電性材料が分散された機能性材料分散シートを、図4(B)は加熱圧縮工程により作製した加工体を、図4(C)は成形工程により成形した樹脂成形体を、図4(D)は抽出工程により作製した微多孔質層を有する樹脂成形体を、図4(E)はめっき工程により作製した金属膜を形成した樹脂成形体を示す。
【図5】図5は、本発明の実施例3に係る製造方法の各製造工程を示す要部拡大断面概略図であり、図5(A)はシート作製工程により作製した抽出材料が分散された機能性材料分散シートを、図5(B)は加熱圧縮工程により作製した加工体を、図5(C)は抽出工程により作製した微多孔質層を有する樹脂成形体を、図5(D)はめっき工程により作製した金属膜を形成した樹脂成形体を示す。
【図6】図6は、本発明の実施例4に係る製造方法の各製造工程を示す要部拡大断面概略図であり、図6(A)はシート作製工程により作製した抽出材料が分散された機能性材料分散シートと抽出材料及びめっき触媒が分散された機能性材料分散シートを、図6(B)は加熱圧縮工程により作製した加工体を、図6(C)は成形工程により成形した樹脂成形体を、図6(D)は抽出工程により作製した微多孔質層を有する樹脂成形体を、図6(E)はめっき工程により作製した金属膜を形成した樹脂成形体を示す。
【図7】図7は、本発明の実施例7に係る製造方法の各製造工程を示す要部拡大断面概略図であり、図7(A)はシート作製工程により作製した濡れ性付与材料が分散された機能性材料分散シートを、図7(B)は加熱圧縮工程により作製した加工体を、図7(C)は成形工程により成形した樹脂成形体を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本実施の形態に係る機能性樹脂成形体の製造方法について、各工程に分けて具体的に説明する。
【0033】
(シート作製工程)
本実施の形態の樹脂成形体の製造方法においては、少なくとも一面側に熱可塑性樹脂からなる多孔質層を有し、多孔質層のセル内に機能性材料が分散された機能性材料分散シートを作製するシート作製工程がまず行なわれる。このような熱可塑性樹脂からなる多孔質層のセル内に機能性材料が分散された機能性材料分散シートを作製すれば、後の加熱圧縮工程により、単位体積当たりの機能性材料の濃度を高めることができる。
【0034】
上記のシート作製工程は、少なくとも一面側に熱可塑性樹脂からなる多孔質層を有する多孔質シートと機能性材料とを接触させる接触処理、または熱可塑性樹脂と機能性材料とを含有する樹脂組成物を押出発泡成形する押出発泡成形処理により、多孔質層のセル内に機能性材料が分散された機能性材料分散シートを作製することを含んでもよい。これらの処理によれば、多孔質層のセル内に機能性材料が分散された機能性材料分散シートを容易に作製することができる。特に、押出発泡成形処理では、熱可塑性樹脂と機能性材料とを含有する樹脂組成物をシート状に成形するため、多孔質層のセル以外の部分にも機能性材料が分散されるが、多孔質層を有する多孔質シートと機能性材料とを接触させる接触処理では、多孔質層のセル内のみに機能性材料が分散された機能性材料分散シートを作製することができる。このため、接触処理によれば、機能性材料の使用量を低減することができるだけなく、後の加熱圧縮工程により、表面近傍により高濃度で機能性材料を偏析させることができる。また、多孔質層のみに機能性材料が分散されるため、樹脂成形体の物性の低下が少なく、大きな比重を有する機能性材料を用いても、樹脂成形体の重量の増加も少ない。さらに、接触処理によれば、押出成形装置を使用することなく、溶液処理により機能性材料を多孔質層のセル内に容易に分散させることができる。
【0035】
機能性材料分散シートの多孔質層を構成する熱可塑性樹脂としては、非晶性、結晶性の熱可塑性樹脂を使用できる。このような熱可塑性樹脂としては、具体的には、例えば、ポリプロピレン系樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリメチルメタクリレート系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリエーテルイミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート系樹脂;液晶ポリマー;ABS系樹脂;ポリアミドイミド系樹脂;ポリフタルアミド系樹脂;ポリフェニレンサルファイド系樹脂;ポリ乳酸等の生分解性プラスチックなどが挙げられる。また、これらの樹脂の複合材料を用いてもよい。これらの中でも、低コスト化及び軽量化のために汎用プラスチックであるポリプロピレン系樹脂を少なくとも含有する熱可塑性樹脂が好ましい。特に、ポリプロピレン系樹脂は、一般に、めっき処理が困難な樹脂として知られているが、本実施の形態の樹脂成形体の製造方法によれば、このようなめっき処理が困難な樹脂を有する樹脂成形体であっても、表面をエッチング処理することなく、簡易な方法で優れた密着性を有する金属膜を形成することができる。
【0036】
多孔質層のセルの孔径は、好ましくは10μm〜1mmである。接触処理により機能性材料を分散させる場合、孔径が10μmより小さいと、機能性材料が多孔質層の表面から内部に浸入し難くなり、機能性材料の分散量が減少する。一方、セルの孔径が1mmより大きいと、分散させた機能性材料が多孔質層から脱落しやすくなるだけでなく、機能性材料がセル内で凝集しやすくなる。そのため、得られる樹脂成形体の表面近傍における機能性材料の濃度が不均一となったり、後の加熱圧縮工程や必要に応じて行なわれる成形工程において、機能性材料が装置表面に付着して、多孔質層が破損しやすくなる。また、機能性材料として抽出材料を使用した場合、抽出材料の凝集によって抽出時に大きな孔径のセルが形成されやすくなり、めっき処理に好適な微細セルを有する微多孔質層が得られ難くなる。なお、本実施の形態において、多孔質層のセルの孔径及び後述する抽出工程で形成される微多孔質層の微細セルの孔径は、光学顕微鏡や電子顕微鏡によりシートあるいは樹脂成形体の表面を観察したときに、略球状乃至略楕円体状のセルが20個以上確認できる視野中のセルの孔径を意味する。
【0037】
機能性材料分散シートは、一面側に多孔質層を有していてもよいし、両面側に多孔質層を有していてもよい。また、機能性材料分散シートは多孔質層のみから構成されていてもよい。さらに、一面側に多孔質層を有する機能性材料分散シートの場合、多孔質層の下に、両面側に多孔質層を有する機能性材料分散シートの場合、多孔質層間に無多孔層を有していてもよい。
【0038】
多孔質層は、複数のセルが連通した連続多孔体を有することが好ましく、表面と連通した連続多孔体を有することがより好ましい。接触処理により機能性材料を分散させる場合、このような表面と連通した連続多孔体を有する多孔質層であれば、多孔質層の内部に機能性材料を多く分散させることができる。また、このような複数のセルが連通した連続多孔体であれば、機能性材料として導電性材料を用いた場合、連続多孔体に分散された導電性材料同士が導通しやすくなり、高い導電性を得ることができる。その結果、例えば、後のめっき工程で電解めっき処理を行った場合、金属膜が成長しやすくなるとともに、表面内部から成長した金属膜を形成することができ、高い密着性を有する金属膜を均一に形成することができる。
【0039】
多孔質層の厚みは、目的とする樹脂成形体の種類に応じて適宜選択することができるが、加熱圧縮工程や必要に応じて行なわれる成形工程での処理の容易さを考慮すると、好ましくは0.1〜500μmであり、より好ましくは50〜200μmである。機能性材料分散シートの厚みは、多孔質層や無多孔層の厚みにもよるため、特に限定されるものではないが、上記と同様の理由から、好ましくは0.1〜1mmであり、より好ましくは50〜500μmである。
【0040】
機能性材料としては、既述したように、目的とする樹脂成形体の種類に応じて種々の材料を使用することができる。例えば、親水性の樹脂成形体を作製する場合、界面活性剤やポリアルキレングリコールなどの濡れ性付与材料を用いることができる。高導電性の樹脂成形体を作製する場合、カーボンナノチューブ、フラーレン、カーボンナノホーン、カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイトなどのカーボン系材料;銀、銅、パラジウム、アルミニウム、金などの金属の微粒子、これらの金属を含む錯体、アルコキシドあるいはコロイドなどの金属材料を含む第1の導電性材料を用いることができる。染色された樹脂成形体を作製する場合、従来公知の有機染料や無機染料を用いることができる。
【0041】
めっき処理により金属膜を有する樹脂成形体を作製する場合、めっき触媒を用いることができる。めっき触媒としては、パラジウム、白金、ニッケル、銅、銀などの金属の微粒子、これらの金属を含む錯体、及び金属錯体の酸化物などの変性物が挙げられる。
【0042】
めっき処理に好適な微多孔質層を有する樹脂成形体を作製する場合、後の抽出工程で抽出液により抽出される抽出材料を用いることができる。このような抽出材料としては、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウム、チオ硫酸、ペンタエリスリトールなどの水溶性の粉末;炭酸カルシウムなどの酸やアルカリに可溶な粉末などが挙げられる。抽出材料として硫酸マグネシウムや炭酸カルシウムなどの無機材料を使用する場合、その平均粒径は、好ましくは0.01〜10μmであり、より好ましくは0.01〜0.1μmである。このような小粒径を有する無機材料を使用すれば、後の抽出工程により小さな孔径を有する微細セルを形成することができる。なお、上記抽出材料として無機材料を使用する場合、立体障害により粒子の凝集を抑えることができる公知の有機保護基などで無機材料の表面が修飾されていてもよい。このような有機保護基として、具体的には、例えば、クエン酸、フッ素化合物、シランカップリング剤などが挙げられる。
【0043】
また、抽出材料は、後の加熱圧縮工程及び必要により行なわれる成形工程における加熱温度よりも高い溶融温度を有するものが好ましい。これらの工程における加熱温度以下の溶融温度を有する抽出材料を用いた場合、加熱時に熱可塑性樹脂だけでなく、抽出材料も溶融して、多孔質層を形成する熱可塑性樹脂と抽出材料が相溶あるいは相分離してしまい、微細セルを有する微多孔質層が形成され難くなる。例えば、多孔質層がポリプロピレン樹脂からなる場合、高溶融温度を有するペンタエリスリトール(融点:260℃)、硫酸マグネシウム(融点:1185℃)、硫酸銅(融点:200℃)、炭酸カルシウム(融点:825℃)などを抽出材料として使用することが好ましい。
【0044】
機能性材料は、単独または複数併用してもよい。例えば、接触処理を採用する場合、多孔質シートの多孔質層のセル内への機能性材料の浸入を円滑化するため、界面活性剤と他の機能性材料を併用してもよい。また、めっき処理により金属膜を形成する場合、抽出材料やめっき触媒、さらに必要により界面活性剤や導電性材料を併用してもよい。さらに、接触処理で複数の機能性材料を使用する場合、多孔質シートと複数の機能性材料との接触は、同時または逐次のいずれであってもよい。なお、機能性材料は、多孔質層の全てのセル内に分散されている必要はなく、複数セルの一部に分散されていてもよい。例えば、機能性材料としてめっき触媒を使用する場合、金属膜の形成に必要な深さにめっき触媒が分散されていればよい。また、セルの一部に機能性材料を分散させず、加熱圧縮工程で空隙のセルを残存させれば、例えば、樹脂成形体に外部から応力が加えられても、該セルを緩衝部として機能させることができる。機能性材料の分散量は、機能性材料や目的とする樹脂成形体の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、機能性材料として抽出材料を使用する場合、分散量は、多孔質層に対し、体積比で50〜90体積%程度が好ましい。また、機能性材料としてめっき触媒や導電性材料を使用する場合、分散量は、多孔質層に対し、質量比で0.01〜50質量%程度が好ましい。
【0045】
接触処理により多孔質シートと機能性材料とを接触させる場合、多孔質シートとしては、上記した熱可塑性樹脂からなり、セルの孔径、及び構造を有する多孔質層を備えたシートを好ましく用いることができる。このような多孔質シートは、例えば、特開2009−126881号に開示されている製造方法により製造することができる。具体的には、熱可塑性樹脂組成物とノニオン系界面活性剤とを混合し、該混合物に超臨界流体を含浸させ、圧力を開放し、発泡倍率を10倍以上とすることにより、連続多孔体を有する多孔質シートを得ることができる。なお、最表面近傍に表面と連通した連続多孔体を有する多孔質層を得るために、さらに得られた多孔質シートに切削処理や研削処理を施してもよい。
【0046】
多孔質シートと機能性材料との接触方法としては、機能性材料と溶剤とを混合した分散液を調製し、該分散液に多孔質シートを浸漬する方法を使用することができる。このような方法によれば、多孔質層のセル内に分散される機能性材料と多孔質層を構成する熱可塑性樹脂との親和性が低くても、セル内部に機能性材料が分散して滞留する。そして、機能性材料は多孔質層のセルの孔径以上の大きさに凝集しないため、多孔質層の内部で機能性材料の分散性を確保することができる。
【0047】
分散液を調製するための溶剤としては、水、アルコールなどの多孔質層を構成する熱可塑性樹脂を溶解させないものであれば特に制限されることなく使用することができる。これらの中でも、安全性を考慮すれば、水が好ましい。また、分散液は、機能性材料を多孔質層のセル内に導入できれば、機能性材料を溶剤に懸濁させた懸濁液であってもよいし、機能性材料を溶剤に溶解させた溶液であってもよい。例えば、機能性材料としてめっき触媒などの無機材料を使用する場合、無機材料が懸濁状態で分散された分散液を使用することができる。また、例えば、加熱圧縮工程や必要に応じて行われる成形工程における加熱温度よりも高い溶融温度を有する抽出材料であれば、該抽出材料を溶剤に溶解した分散液を用いてもよい。このような分散液を用いることにより、セル内に抽出材料を円滑に分散させることができる。そして、上記のような高溶融温度を有する抽出材料であれば、接触後、乾燥により、セル内に抽出材料を固体状態で析出させることができるとともに、加熱圧縮工程等で抽出材料が溶融しないため、析出した抽出材料を抽出することにより、微細セルを形成することができる。なお、熱可塑性樹脂からなる多孔質層は疎水性であるため、水系の分散液を使用する場合、予め多孔質シートの表面をUV処理やプラズマ処理しておいてもよい。
【0048】
接触処理で分散液を用いる場合、接触後、溶剤を除去するため、機能性材料分散シートを乾燥処理に付すことが好ましい。乾燥処理の条件は、溶剤の種類に応じて適宜選択することができる。
【0049】
押出発泡成形処理により機能性材料分散シートを作製する場合、公知の押出発泡成形法を使用することができる。例えば、上記の熱可塑性樹脂と機能性材料とを混合した樹脂組成物中に、物理発泡剤である超臨界流体を注入して含浸させ、これをダイから押し出して圧力開放を行なうことにより、小孔径の独立発泡セル内に機能性材料が分散された機能性材料分散シートを作製することができる。超臨界流体としては、二酸化炭素、窒素などを用いることができる。
【0050】
(加熱圧縮工程)
次に、本実施の形態では、上記のようにして作製した機能性材料分散シートを加熱圧縮することにより、多孔質層のセルの容積を減少させて、多孔質層が薄肉化された圧縮層を有する加工体を作製する加熱圧縮工程が行われる。機能性材料分散シートの多孔質層は熱可塑性樹脂からなるため、該シートを加熱圧縮することにより、多孔質層が溶融圧縮され、それによってセル容積が減少し、多孔質層が薄肉化された圧縮層を形成することができる。これにより、樹脂よりも大きな比重を有する機能性材料を少量使用した場合でも、単位体積当たりの機能性材料の濃度を高くすることができる。その結果、例えば、優れた親水性や導電性を有する樹脂成形体を作製することができる。また、多孔質層が溶融圧縮されるため、表面におけるセルの孔径が小さくなり、機能性材料のセルからの脱落を低減できる。さらに、機能性材料として抽出材料を用いた場合、セル容積が減少しているため、後の抽出工程において抽出液によって抽出材料が抽出されると、抽出材料が存在していた部分が中空の微細セルとなり、機能性材料分散シートの多孔質層が有していたセルよりも小孔径の微細セルを有する微多孔質層を形成することができる。それゆえ、めっき処理を行った場合、金属膜がこの微細セルから成長し、高い密着力を有する金属膜を樹脂成形体の表面に均質に形成することができる。
【0051】
加熱圧縮工程においては、加熱される機能性材料分散シートの多孔質層の表面から多孔質層が溶融圧縮されはじめるが、その際、多孔質層の最表面近傍のセルのみの容積を減少させてもよいし、多孔質層の全てのセルの容積を減少させてもよい。ただし、形成する樹脂成形体の最表面近傍における単位体積当たりの機能性材料の濃度を高めるため、多孔質層を溶融圧縮した後の最表面近傍におけるセルの容積ができるだけ少なくなるように機能性材料分散シートを加熱圧縮することが好ましい。特に、機能性材料として抽出材料を使用する場合、抽出材料が分散されている多孔質層の最表面近傍のセルが消失する程度までセル容積を減少させることが好ましい。抽出材料が分散されている最表面近傍のセルが消失する程度まで多孔質層を溶融圧縮すれば、後の抽出工程で抽出材料が抽出されたときに、分散されていた抽出材料の大きさと略同じ孔径を有する微細セルを最表面近傍に備えた樹脂成形体を作製することができる。多孔質層の溶融圧縮の程度は、多孔質層の厚さやセル容積、目的とする機能性材料が分散されている表面からの深さなどにより適宜選択することができるが、加熱圧縮工程後の圧縮層の厚さが、加熱圧縮工程前の多孔質層のそれの好ましくは1/2以下、より好ましくは1/20〜1/3となるように多孔質層を溶融圧縮することが好ましい。
【0052】
加熱圧縮工程は、機能性材料分散シートの多孔質層を溶融圧縮して、多孔質層のセル容積を減少できるものであれば、任意の処理を使用することができる。例えば、加熱圧縮工程は、機能性材料分散シートを加熱したロールやプレス板により圧縮する加熱プレス処理、機能性材料分散シートと樹脂シートとをラミネートするラミネート処理、機能性材料分散シートと第1の溶融樹脂とをインサート成形するインサート成形処理、機能性材料分散シートを真空成形する真空成形処理、及び機能性材料分散シートを圧空成形する圧空成形処理からなる群から選ばれる少なくとも1種の処理により、機能性材料分散シートを加熱圧縮することを含んでもよい。これらの中でも、ラミネート処理、インサート成形処理、真空成形処理、及び圧空成形処理からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。なお、これらの処理においては、表面に各種の機能性を有する樹脂成形体を作製するため、得られる加工体の少なくとも一面側に機能性材料が分散されていた多孔質層が位置するように、機能性材料分散シートが加熱圧縮される。
【0053】
ラミネート処理によれば、機能性材料分散シートを加熱圧縮しながら、機能性材料分散シートを、機能性材料が付与されていない樹脂シートの片面または両面に圧着させることができる。これにより、得られる加工体の表面平滑性や強度を向上したり、加工体に柔軟性や成形性を付与することができる。
【0054】
ラミネート処理で使用される樹脂シートとしては、ラミネート処理により機能性材料分散シートに溶着可能なものであれば特に制限されるものではないが、既述した熱可塑性樹脂からなる樹脂シートが好ましい。また、樹脂シートは、多孔質層を有していてもよいし、無多孔層のみを有していてもよい。樹脂シートを構成する熱可塑性樹脂は、機能性材料分散シートの多孔質層に用いられる熱可塑性樹脂と同種のものであってもよいし、異種のものであってもよい。ただし、同種の熱可塑性樹脂を用いれば、より接着強度を高めることができる。
【0055】
機能性材料分散シートと樹脂シートとをラミネートする方法としては、従来公知のラミネート方法を使用することができる。例えば、機能性材料分散シートと樹脂シートとを重ね合わせた積層体を作製し、この積層体を圧延ロールなどの加圧手段で加熱加圧しながらラミネートする方法が挙げられる。ラミネート時の圧力及び温度は、機能性材料分散シート及び樹脂シートの種類や厚さによって、適宜変更することができる。また、多孔質層のみからなる機能性材料分散シートを用いる場合、無多孔層のみを有する樹脂シートを2枚の機能性材料分散シートでサンドイッチしてラミネートしてもよい。このラミネート処理によれば、両面に圧縮層を有する加工体を作製することができる。さらに、金属膜を形成する場合、より内部から金属膜を成長させるため、第1の多孔質層のみからなり、前記第1の多孔質層の第1のセル内に第1の抽出材料を含む第1の機能性材料が分散された第1の機能性材料分散シートと、第2の多孔質層の第2のセル内に第2の抽出材料及びめっき触媒を含む第2の機能性材料が分散された第2の機能性材料分散シートとを作製し、第2の多孔質層が第1の多孔質層と対向するように、第1の機能性材料分散シートと第2の機能性材料分散シートとを積層した積層体を作製し、この積層体を加熱圧縮することにより、両多孔質層を溶融圧縮して、セルの容積を減少させつつ、両多孔質層が薄肉化された圧縮層を有する加工体を作製してもよい。このラミネート処理によれば、深さ方向で機能性材料の濃度が異なる加工体を得ることができる。それゆえ、樹脂成形体の表面内部のより深い部分にめっき触媒を分散させた層を形成することができ、金属膜を表面の内部深くから成長させることができる。その結果、より高いアンカリング効果を有する金属膜を形成することができる。
【0056】
また、インサート成形処理、真空成形処理、及び圧空成形処理によれば、機能性材料分散シートの加熱圧縮と成形とを同時に行うことができる。特に、インサート成形処理によれば、キャビティ内に射出充填される第1の溶融樹脂の圧力により金型で多孔質層が溶融圧縮されるため、機能性材料分散シートの多孔質層を薄肉化しながら、多孔質層の表面を平滑化できるだけでなく、機能性材料分散シートと第1の溶融樹脂とを強固に一体成形することができ、強度や機能性を向上することができる。
【0057】
インサート成形処理は、例えば、金型のキャビティ内に第1の溶融樹脂を充填する前に、金型上に配置した機能性材料分散シートを加熱、加圧、及び真空吸引からなる群から選ばれる少なくとも1つの方法により金型に密着させてもよい。例えば、金型上に配置した機能性材料分散シートの加熱は、機能性材料分散シートが金型上に配置された状態で機能性材料分散シートに対して熱風を当てることにより行ってもよい。また、金型温度がある程度高いか、加圧力が高ければ、加圧エア、N等の加圧ガスを機能性材料分散シートに吹き付けることで、機能性材料分散シートを金型表面にトレースさせてもよい。さらに、吸引溝を有する金型を用い、機能性材料分散シートが金型上に配置された状態で、短時間、吸引溝から機能性材料分散シートを真空吸引することで、機能性材料分散シートを金型に密着させてもよい。
【0058】
また、薄い機能性材料分散シートは熱で軟化しやすいので、金型上に機能性材料分散シートを配置した後、機能性材料分散シートに熱風を当てることで、ブロー成形のように機能性材料分散シートを金型表面に薄い皮膜として固着させることができる。その結果、機能性材料分散シートが金型に隙間無く密着した状態でキャビティ内へ第1の溶融樹脂を充填できるので、多孔質層の破損を防止しつつ、金型の表面形状を機能性材料分散シートに転写させることできる。しかも、機能性材料分散シートは熱風を用いて金型上で成形されるので、金型上に機能性材料分散シートを配置する前に機能性材料分散シートを成形する必要が無く(すなわち、プリフォームの必要が無く)、さらに、機能性材料分散シートを金型の形状に合わせて精度良く成形できる。なお、機能性材料分散シートの厚さが厚くなると、金型内で機能性材料分散シートに熱風を当てたとしても、複雑な表面形状を有する金型に対して機能性材料分散シートが隙間無く密着し難くなる。従って、厚い機能性材料分散シートを使用する場合には、金型上に機能性材料分散シートを配置する前に機能性材料分散シートを金型の形状に合わせて所望の形状に成形(すなわち、プリフォーム成形)した後、プリフォームされた機能性材料分散シートを射出成形装置の金型上に配置することが好ましい。
【0059】
インサート成形処理において、機能性材料分散シートと一体化させるために用いられる第1の溶融樹脂の樹脂材料は、機能性材料分散シートの多孔質層に用いられる熱可塑性樹脂と同種のものであってもよいし、異種のものであってもよい。ただし、同種の熱可塑性樹脂を用いれば、より接着強度を高めることができる。
【0060】
また、インサート成形処理においては、多孔質層と金型面との間に保護シートを配設してもよい。少なくとも多孔質層の一面側は機能性を発揮させるために露出している必要があることから、金型内で多孔質層を保護できないため、第1の溶融樹脂が充填される際の充填圧力により多孔質層と金型面とが接触し、多孔質層が破損する虞がある。このような保護シートとしては、インサート成形処理において圧力及び温度が付与されても、機能性材料分散シートと溶着し難い樹脂からなる保護シートを用いることができる。
【0061】
インサート成形処理により、機能性材料分散シートと第1の溶融樹脂とを一体化させるにあたっては、従来公知の射出成形装置及び成形法を使用することができる。例えば、上記のようにして機能性材料分散シートを配置した金型のキャビティと連通した可塑化シリンダで樹脂を溶融し、溶融された樹脂をキャビティ内に射出充填することにより、機能性材料分散シートと第1の溶融樹脂とを一体化させることができる。
【0062】
また、インサート成形処理を行う場合、第1の溶融樹脂として二酸化炭素や窒素の超臨界流体を注入して発泡させた発泡溶融樹脂を用いる発泡射出成形法を使用してもよい。発泡溶融樹脂を用いることにより、得られる樹脂成形体に発泡樹脂層を形成することができ、それによって熱ストレスが付加された際に、内部応力を低減することができる。その結果、熱ストレスが開放されて、寸法変化を抑えることができる。また、比較的厚い金属膜(例えば、10μm以上)を形成した樹脂成形体は優れた放熱性能を有するが、該樹脂成形体に発泡樹脂層を設けることにより樹脂成形体の断熱性が向上するため、さらに放熱性能の向上を期待することができる。
【0063】
真空成形処理及び圧空成形処理により、機能性材料分散シートを加熱圧縮するにあたっては、従来公知の成形装置及び成形法を使用することができる。例えば、真空引き用の溝を有する金型上に赤外線を照射して半溶融させた機能性材料分散シートを配置し、真空引き用の溝から真空吸引しながら、反対側から加圧エアを機能性材料分散シートに加えることにより、金型表面の形状に機能性材料分散シートをトレースさせることができる。
【0064】
なお、機能性材料として抽出材料を使用する場合、既述したように上記の処理を含む加熱圧縮工程において機能性材料分散シートに付与される加熱温度よりも高い溶融温度を有する抽出材料を用いることにより、加熱圧縮工程の際に、多孔質層のセル容積のみを減少させ、抽出材料を固体状態のままで保持することができる。それゆえ、抽出材料の溶融による抽出材料と熱可塑性樹脂の相溶または相分離を防止することができる。
【0065】
以上の機能性材料分散シート作製工程、及び加熱圧縮工程により、表面近傍に高濃度で機能性材料を有する樹脂成形体を作製することができる。これにより、例えば、優れた親水性、導電性などの機能性を付与した樹脂成形体を得ることができる。さらに、多孔質層の表面に位置していたセルは加熱圧縮工程によりセルの孔径が減少しているため、機能性材料の脱落も低減することができる。
【0066】
(成形工程)
本実施の形態の機能性樹脂成形体の製造方法においては、さらに、上記加熱圧縮工程で得られた加工体を必要に応じて成形して、樹脂成形体を作製する成形工程をさらに設けてもよい。このような成形工程を設けることにより、任意の形状の樹脂成形体を得ることができる。
【0067】
成形工程は、従来公知の処理を使用することができるが、これらの中でも、上記加熱圧縮工程で用いた、インサート成形処理、真空成形処理、及び圧空成形処理からなる群から選ばれる少なくとも1種の処理が好ましい。特に、インサート成形処理によれば、加熱圧縮工程で得られた加工体と第2の溶融樹脂とを強固に一体成形することができ、樹脂成形体の強度や機能性を向上することができる。この成形工程に用いられる第2の溶融樹脂は、加熱圧縮工程に用いられる第1の溶融樹脂と同種のものであってもよいし、異種のものであってもよい。ただし、同種の熱可塑性樹脂を用いれば、より接着強度を高めることができる。また、第2の溶融樹脂として、既述した発泡溶融樹脂を用いてもよい。
【0068】
成形工程に用いられる成形装置及び成形法は、加熱圧縮工程に用いられるそれらと同様のものを用いることができる。
【0069】
以上の成形工程を行うことにより、少なくとも一面側の表面に機能性材料が高濃度で付与された樹脂成形体を作製することができる。なお、既述した加熱圧縮工程でインサート成形処理などの成形処理を行う場合、成形工程は必ずしも必要とされるものではない。従って、成形工程は、目的とする機能性樹脂成形体の種類に応じて任意に実施することができる。ただし、加熱圧縮工程でインサート成形処理する場合、薄い機能性材料分散シートが金型面に当接するため、多孔質層の破損が生じやすい。これに対して、ラミネート処理を含む加熱圧縮工程を行った後、得られた加工体をインサート成形処理を含む成形工程に供すれば、加工体は厚みの増加により全体としての強度が向上しているだけでなく、加熱圧縮工程で多孔質層が溶融圧縮されて、セル容積が減少した加工体を成形することができるため、金型面と当接する加工体の表面の強度も高くなり、加工体表面の破損を低減できる。さらに、多孔質層の表面に位置していたセルは、加熱圧縮工程によりセルの孔径が減少しているため、成形工程における機能性材料の脱落もより低減することができる。
【0070】
(抽出工程)
本実施の形態の機能性樹脂成形体の製造方法においては、機能性材料として抽出材料を使用する場合、さらに、成形工程で得られた樹脂成形体から抽出材料を抽出液により抽出して、微細セルを有する微多孔質層を少なくとも一面側の表面に備えた樹脂成形体を作製する抽出工程を設けてもよい。このような抽出工程を設けることにより、機能性材料分散シートに形成されていた多孔質層のセルの孔径よりも小孔径の微細セルを有する微多孔質層を備えた樹脂成形体を作成することができる。それゆえ、例えば、金属膜の形成に好適な表面近傍に微多孔質層を備えた樹脂成形体を得ることができる。そして、成形工程後に抽出工程を行えば、成形時に微細セルを有する微多孔質層が樹脂成形体に形成されていないため、熱可塑性樹脂からなる微多孔質層の微細セルが消失することもない。
【0071】
抽出工程は、樹脂成形体と抽出材料が溶解する抽出液とを接触させる処理により行なうことができる。例えば、抽出液中に、成形工程で得られた樹脂成形体を浸漬する処理を使用することができる。抽出液の種類は、抽出材料の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、ペンタエリスリトールなどの水溶性の抽出材料を用いる場合、水系の抽出液を用いることができる。また、炭酸カルシウムなどの無機材料からなる抽出材料を用いる場合、酸またはアルカリを含有する抽出液を用いることができる。さらに、抽出液の樹脂成形体への浸透を円滑にするため、これらの抽出液は界面活性剤を含有してもよい。このような界面活性剤としては、具体的には、例えば、フッ素系の界面活性剤が挙げられる。また、抽出工程において、樹脂成形体を膨潤させ、抽出材料が抽出されやすくなるよう、加熱した抽出液中に樹脂成形体を浸漬してもよい。なお、圧縮層内の抽出材料の全てを抽出する必要はなく、表面から一定の深さまでの抽出材料を抽出してもよい。また、例えば、機能性材料として抽出材料とともに、めっき触媒や第1の導電性材料などを使用する場合、抽出によって形成される微細セルの孔径がこれらの機能性材料の大きさよりも小さくなることがあるが、これらの機能性材料の全体が微細セル内に分散されている必要はなく、少なくともその一部が微細セル内に分散されていてもよいし、1つの機能性材料が複数の微細セルに跨って分散されていてもよい。このような形態で機能性材料が分散されている微多孔質層であれば、後のめっき工程により微細セル内から金属膜を成長させることができる。
【0072】
機能性材料として、抽出材料とともに、第1の導電性材料を用いる場合、該導電性材料は抽出液に不溶性または難溶性のものを用いることが好ましい。例えば、水溶性の抽出材料を使用する場合、既述したカーボン系材料や金属材料が好ましく用いられる。このような第1の導電性材料を用いることにより、抽出工程において抽出材料が抽出されても、樹脂成形体に第1の導電性材料を残存させることができる。その結果、高導電性の樹脂成形体を作製することができ、めっき触媒を用いることなく、直接、電解めっき処理を行うことができる。
【0073】
抽出工程により樹脂成形体に形成される微細セルの孔径は、樹脂成形体に分散されていた抽出材料と略同じ大きさとなるため、機能性材料分散シートに形成されていた多孔質層のセルの孔径よりも小さくすることができる。微細セルの孔径は、抽出材料の種類によるが、例えば、抽出工程後に、金属膜をめっき処理により形成する場合、金属膜の光沢性を確保するためにも、好ましくは0.05〜10μmであり、より好ましくは0.05〜0.1μmである。
【0074】
以上の抽出工程により、少なくとも一面側に微細セルまたは機能性材料(例えば、めっき触媒や第1の導電性材料)が分散された微細セルを有する微多孔質層を備えた樹脂成形体を作製することができる。この微多孔質層は、非常に微細なセルを有するため、金属膜を形成するめっき工程に好適な樹脂成形体として用いることができる。
【0075】
なお、本実施の形態の機能性樹脂成形体の製造方法において、金属膜を形成する場合、次のめっき工程前に、さらに必要に応じて上記の抽出工程で得られた微多孔質層を備えた樹脂成形体の微細セル内に第2の導電性材料を分散させる導電性材料分散工程をさらに設けてもよい。これにより、樹脂成形体に導電性を付与することができる。第2の導電性材料としては、既述した第1の導電性材料と同種のものであってもよいし、異種のものであってもよい。また、第2の導電性材料の分散方法は、上記したシート作製工程における接触処理と同様の方法を使用することができる。
【0076】
(めっき工程)
本実施の形態の機能性樹脂成形体の製造方法は、上記抽出工程により得られた微多孔質層を備えた樹脂成形体をめっき処理するめっき工程を設けてもよい。これにより、環境負荷の大きなエッチング液を用いたエッチング処理を行うことなく、樹脂成形体の表面にめっき処理によって金属膜を形成することができる。また、エッチング処理を行う必要がないため、ポリプロピレン系樹脂のようなエッチング液に選択的に浸食される成分が少ない熱可塑性樹脂からなる樹脂成形体に対しても、めっき処理により金属膜を形成することができる。さらに、抽出工程で抽出された抽出材料は、加熱圧縮工程により表面内部に高濃度で分散されているから、微多孔質層は樹脂成形体の表面内部に形成される。従って、この微多孔質層を有する樹脂成形体をめっき処理すれば、金属膜が樹脂成形体の表面内部から成長し、高いアンカリング効果が得られ、優れた密着性を有する金属膜を樹脂成形体の表面に均一に形成することができる。またさらに、本実施の形態の製造方法によれば、表面近傍に導電性材料が高濃度で分散された樹脂成形体を作製することができるため、無電解めっき処理を行うことなく、樹脂成形体に直接、電解めっき処理を行うことができる。
【0077】
めっき工程は、従来公知の無電解めっき法、電解めっき法をいずれも使用することができる。機能性材料としてめっき触媒が使用されていない場合、無電解めっき処理を行うにあたって、微多孔質層にめっき触媒を分散させる触媒付与処理が行われる。このようなめっき触媒としては、上記しためっき触媒と同様のものを使用することができる。また、めっき触媒として、金属錯体を用いる場合、触媒活性化処理を行ってもよい。さらに、無電解めっき法により金属膜を形成した後、さらに電解めっき法により形成した金属膜を積層してもよい。
【0078】
電解めっき法は、従来公知の処理方法を使用することができる。例えば、電解銅めっき処理を行った後、さらに電解ニッケルめっき処理や電解クロムめっき処理を行うこともできる。
【0079】
以下、本発明について実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0080】
[実施例1]
本実施例では、接触処理によるシート作製工程、ラミネート処理による加熱圧縮工程、真空圧空成形処理とインサート成形処理とによる成形工程、抽出工程、及びめっき工程からなる製造方法を使用し、金属膜を有する樹脂成形体を作製した。図1は、本実施例の各製造工程を示す要部拡大断面概略図であり、図2は、成形工程における真空圧空成形処理の成形状態を示す要部拡大断面概略図であり、図3は、成形工程におけるインサート成形処理の成形状態を示す要部拡大断面概略図である。以下、図面を参照しながら、本実施例の製造方法について説明する。
【0081】
(シート作製工程)
抽出材料としてペンタエリスリトール(融点:260℃)を5質量%の濃度で、界面活性剤としてフッ素系界面活性剤(AGSセイケミカル社製,サーフロンS−243)を0.5質量%の濃度で、水に溶解させた分散液(a)を調製した。この分散液(a)に、複数のセル20が連通した連続多孔体を有し、該連続多孔体が表面と連通した多孔質層2のみからなるポリプロピレン樹脂製の多孔質シート(イノアックコーポレーション製,FOLEC−OP,厚み:200μm,セルの孔径:10〜350μm,溶融温度:約160℃)を、80℃で4時間浸漬させた。浸漬後、分散液(a)から多孔質シートを取り出し、乾燥処理を行った。これにより、抽出材料3aをセル20に分散させた機能性材料分散シート1を得た(図1(A))。なお、乾燥後のシートの重量は、接触処理前の多孔質シートの重量に比べて30質量%増加した。
【0082】
(加熱圧縮工程)
上記のようにして作製した機能性材料分散シート1の多孔質層2の一面側に、ポリプロピレン樹脂からなる無多孔の樹脂シート(厚み:500μm)を重ね合わせた。これを、160℃に加熱した加熱ロール間に供給し、100kg/cmの圧力を加えながら加熱圧縮して、多孔質層2が圧縮された圧縮層2aとラミネート樹脂層4とが積層された厚さ350μmの加工体10を作製した(図1(B))。得られた加工体10の断面を顕微鏡で観察したところ、圧縮層2aの厚さは50μm程度であり、多孔質層2が薄肉化されていた。また、この圧縮層2aにはセル20は殆ど観察されず、ラミネート処理によりセル20の容積が減少したことが確認された。
【0083】
(成形工程)
上記のようにして得られた加工体10を、まず図2に示す真空圧空成形処理により、加工体10を腑形した。具体的には、凹形状のプリフォーム金型201上に、両面から赤外線の照射により加熱して半溶融させた加工体10を配置した(図2(A))。次いで、真空引き用202の溝から真空吸引しながら、プリフォーム金型201の上方から加圧エアを加工体10に加えた(図2(B))。これにより、加工体10を箱形に腑形した(図2(C))。
【0084】
次いで、腑形した加工体10を、圧縮層2a(図示せず)の形成されている面が可動金型301面と対向するように、可動金型301上に配置し、真空引き用の溝303から真空吸引して、加工体10を固定した(図3(A))。その後、可動金型301と固定金型302とを当接させ、金型温度80℃、樹脂温度230℃の条件で、可塑化シリンダ304内で溶融したポリプロピレン樹脂305をスクリュSの前進によりキャビティ310内に射出充填した(図3(B))。これにより、加工体10とポリプロピレン樹脂からなる成形樹脂層5とがインサート成形された樹脂成形体11を作製した(図1(C))。
【0085】
(抽出工程)
界面活性剤としてフッ素系界面活性剤(AGSセイケミカル社製,サーフロンS−243)を0.5質量%の濃度で、水に溶解させた抽出液を調製した。この抽出液に、上記のようにして作製した樹脂成形体11を、80℃で1時間浸漬させた。浸漬後、樹脂成形体11を抽出液から取り出し、乾燥させて、微細セル20aを有する微多孔質層2bを備えた樹脂成形体12を作製した(図1(D))。樹脂成形体12の表面を顕微鏡により観察したところ、0.1〜0.3μmの微細セル20aが形成されていることが確認された。また、樹脂成形体12の断面を顕微鏡により観察したところ、微多孔質層2bの厚さは5〜20μm程度であり、表面と連通した連続多孔体が形成されていることが確認された。従って、比較的大きな孔径のセル20を有する多孔質層2を備えた機能性材料分散シート1を加熱圧縮することにより、多孔質層2が溶融圧縮され、セル20の容積が減少し、単位体積当たりの抽出材料3aの濃度が高くなり、その結果、この樹脂成形体11から抽出工程により抽出材料3aを抽出すれば、表面近傍に小さな孔径の微細セル20aを有する微多孔質層2bを備えた樹脂成形体12を作製することができる。
【0086】
(めっき工程)
上記のようにして作製した微多孔質層2bを有する樹脂成形体12に公知の無電解めっき処理及び電解めっき処理を行って、金属膜6を有する樹脂成形体13を作製した(図1(E))。具体的には、コンディショニング処理、触媒付与処理、触媒活性化処理によりパラジウム触媒を樹脂成形体に付与した後、無電解銅めっき処理を行い、約0.5μmの無電解銅めっき膜を形成した。その後、公知の電解めっき処理を行い、20μmの電解銅めっき膜、10μmの電解ニッケルめっき膜、及び0.5μmの電解クロムめっき膜をさらに形成し、厚い金属装飾膜6を形成した。金属膜6に膨れは観察されず、良好な外観を有する金属膜6が形成された樹脂成形体13を作製できたことが確認された。
【0087】
上記のようにして形成した金属膜6の密着性を、ヒートサイクル試験により評価した。試験は、試験槽中で樹脂成形体13を−40℃で1時間保持した後、80℃で1時間保持するサイクルを3サイクル繰り返した。試験後、目視による外観検査を行ったところ、金属膜6に膨れや剥離は見られず、金属膜6は良好な密着性を有していることが確認された。従って、本実施例によれば、環境負荷の大きなエッチング液を用いたエッチング処理を行うことなく、ポリプロピレン樹脂からなる樹脂成形体に密着性に優れた金属膜を均一に形成できる。
【0088】
[実施例2]
本実施例では、接触処理によるシート作製工程、ラミネート処理による加熱圧縮工程、真空圧空成形処理とインサート成形処理とによる成形工程、抽出工程、及びめっき工程からなる製造方法を使用し、金属膜を有する樹脂成形体を作製した。図4は、本実施例の各製造工程を示す要部拡大断面概略図である。以下、図面を参照しながら、本実施例の製造方法について説明する。
【0089】
(シート作製工程)
実施例1と同様にして分散液(a)を調製した。これとは別に、導電性材料として多層構造のカーボンナノチューブ(昭和電工製,VGCF−H)を0.5質量%の濃度で、エタノール溶液に分散させた分散液(b)を調製した。
【0090】
まず、分散液(b)に、実施例1と同様の多孔質シートを浸漬し、2時間、超音波処理(超音波洗浄器:井内盛栄堂社製,Ultrasonic Cleaner US−150,周波数:50kHz,最大出力:150W)を行った。次に、分散液(b)から多孔質シートを取り出し、実施例1と同様にして、分散液(a)に多孔質シートを浸漬した。浸漬中、多孔質シートから導電性材料の脱落は観察されなかった。浸漬後、分散液(a)から多孔質シートを取り出し、乾燥処理を行った。これにより、抽出材料43aと導電性材料43bとをセル420に分散させた機能性材料分散シート401を得た(図4(A))。得られた機能性材料分散シート401の表面電気抵抗は5kΩ・cm−1程度であった。
【0091】
(加熱圧縮工程)
上記のようにして作製した機能性材料分散シート401を用い、実施例1と同様にしてラミネート処理を行い、多孔質層42が圧縮された圧縮層42aとラミネート樹脂層44とが積層された加工体410を作製した(図4(B))。得られた加工体410の断面を顕微鏡で観察したところ、圧縮層42aの厚さは50μm程度であり、多孔質層42が薄肉化されていた。また、この圧縮層42aにはセル420は殆ど観察されず、ラミネート処理によりセル420の容積が減少したことが確認された。
【0092】
(成形工程)
上記のようにして作製した加工体410を用い、実施例1と同様にして真空圧空成形処理及びインサート成形処理を行い、加工体410と成形樹脂層45とがインサート成形された樹脂成形体411を作製した(図4(C))。
【0093】
(抽出工程)
上記のようにして作製した樹脂成形体411を用い、実施例1と同様にして抽出材料43aを抽出し、微細セル420aを有する微多孔質層42bを備えた樹脂成形体412を作製した(図4(D))。樹脂成形体412の表面を顕微鏡により観察したところ、0.5〜10μmの微細セル420aが形成されていることが確認された。また、樹脂成形体412の断面を顕微鏡により観察したところ、微多孔質層42bの厚さは15〜35μm程度であり、表面から連通した連続多孔体が形成されていることが確認された。さらに、得られた樹脂成形体412の表面電気抵抗は、100Ω・cm−1程度であった。抽出工程により微多孔質層42bには多数の空隙の微細セル420aが形成されているにも拘らず、加熱圧縮工程前の表面電気抵抗に比べ、大幅に導電性が改善されていることが確認された。これは、加熱圧縮工程により多孔質層42が溶融圧縮され、単位体積当たりの導電性材料43bの濃度が向上したためと考えられる。
【0094】
(めっき工程)
上記のようにして作製した樹脂成形体412に公知の電解めっき処理を行って、金属膜46を有する樹脂成形体413を作製した(図4(E))。具体的には、まず、負極を樹脂成形体412に接続し、硫酸銅溶液中、電流密度6A/dmで電解めっき処理を行なって、20μmの電解銅めっき膜を樹脂成形体412上に形成した。次いで、電解銅めっき膜上に、実施例1と同様にして、10μmの電解ニッケルめっき膜、及び0.5μmの電解クロムめっき膜を形成し、厚い金属装飾膜46を形成した。金属膜46に膨れは観察されず、良好な外観を有する金属膜46が形成された樹脂成形体413を作製できたことが確認された。
【0095】
また、上記のようにして形成した金属膜46の密着性を実施例1と同様にして評価したところ、金属膜46に膨れや剥離は見られず、金属膜46は良好な密着性を有していることが確認された。従って、本実施例によれば、環境負荷の大きなエッチング液を用いたエッチング処理やレアメタルであるパラジウムの触媒付与処理を行うことなく、直接、電解めっき処理によりポリプロピレン樹脂からなる樹脂成形体に密着性に優れた金属膜を均一に形成できる。
【0096】
[実施例3]
本実施例では、接触処理によるシート作製工程、ラミネート処理による加熱圧縮工程、真空圧空成形処理による成形工程、抽出工程、及びめっき工程からなる製造方法を使用し、金属膜を有する樹脂成形体を作製した。図5は、本実施例の各製造工程を示す要部拡大断面概略図である。以下、図面を参照しながら、本実施例の製造方法について説明する。
【0097】
(シート作製工程)
実施例1と同様にして、抽出材料53aを多孔質層52のセル520に分散させた機能性材料分散シート501を2枚作製した(図5(A))。
【0098】
(加熱圧縮工程)
上記の2枚の機能性材料分散シート501の間に、ポリプロピレン樹脂からなる無多孔の樹脂シート(厚さ:800μm)をサンドイッチした積層体を作製した。この積層体を、160℃に加熱した加熱ロール間に供給し、100kg/cmの圧力を加えながら加熱圧縮して、多孔質層52が圧縮された圧縮層52a間にラミネート樹脂層54が積層された厚さ500μmの加工体510を作製した(図5(B))。得られた加工体510の断面を顕微鏡で観察したところ、各圧縮層52aの厚さは50μm程度であり、多孔質層52が薄肉化されていた。また、両圧縮層52aにはセル520は殆ど観察されず、ラミネート処理によりセル520の容積が減少したことが確認された。
【0099】
(成形工程)
上記のようにして得られた加工体510を用い、実施例1と同様の真空圧空成形処理のみを行い、図略のシート状の樹脂成形体を作製した。
【0100】
(抽出工程)
上記のようにして得られたシート状の樹脂成形体を用い、実施例1と同様にして抽出材料53aを抽出し、微細セル520aを有する微多孔質層52bを両面に備えたシート状の樹脂成形体511を作製した(図5(C))。
【0101】
(めっき工程)
上記のようにして作製した微多孔質層52bを有する樹脂成形体511に公知の無電解めっき処理を行って、金属膜56を有する樹脂成形体512を作製した(図5(D))。具体的には、コンディショニング処理、触媒付与処理、触媒活性化処理によりパラジウム触媒を樹脂成形体に付与した後、無電解銅めっき処理を行い、約5μmの無電解銅めっき膜をシート全面に形成した。その後、無電解ニッケルめっき処理を行って、保護層として0.1μmの無電解ニッケル膜をさらに形成し、金属膜56を形成した。
【0102】
上記のようにして得られた金属膜56が形成されたシート状の樹脂成形体512は、フレキシビリティを有していることが確認された。また、得られた樹脂成形体512を折り曲げ試験したところ、金属膜56にひび割れや剥離は生じず、金属膜56は良好な密着性を有していることが確認された。従って、本実施例によれば、軽量でありながら、優れた導電性や電磁波シールド性を有する樹脂成形体を作製することができる。また、簡易な真空成形などにより樹脂成形体を作製可能であるため、金属シートでは困難な形状を有する製品を安価に作製することができる。
【0103】
[実施例4]
本実施例では、接触処理によるシート作製工程、ラミネート処理による加熱圧縮工程、真空圧空成形処理とインサート成形処理とによる成形工程、抽出工程、及びめっき工程からなる製造方法を使用し、金属膜を有する樹脂成形体を作製した。図6は、本実施例の各製造工程を示す要部拡大断面概略図である。以下、図面を参照しながら、本実施例の製造方法について説明する。
【0104】
(シート作製工程)
実施例1と同様にして分散液(a)を調製した。これとは別に、めっき触媒としてヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)錯体を1.0質量%の濃度で、エタノール溶液に溶解させた分散液(c)を調製した。
【0105】
まず、実施例1と同様にして、分散液(a)に多孔質シートを浸漬して、抽出材料63aを多孔質層62aのセル620aに分散させた第1の機能性材料分散シート601aを作製した(図6(A))。
【0106】
上記とは別に、実施例1と同様にして、分散液(a)に多孔質シートを浸漬させた。その後、分散液(a)から多孔質シートを取り出し、さらに分散液(c)に多孔質シートを1時間浸漬させた。浸漬後、多孔質シートを分散液(c)から取り出し、乾燥させた。これにより、抽出材料63b及びめっき触媒63cをセル620bに分散させた第2の機能性材料分散シート601bを作製した(図6(A))。
【0107】
(加熱圧縮工程)
上記の第2の機能性材料分散シート601bが、第1の機能性材料分散シート601aと無多孔の樹脂シート(厚さ:800μm)とでサンドイッチされた積層体を作製した。この積層体を、160℃に加熱した加熱ロール間に供給し、100kg/cmの圧力を加えながら加熱圧縮して、多孔質層62aが圧縮された圧縮層62cと、多孔質層62bが圧縮された圧縮層62dと、ラミネート樹脂層64とがこの順で積層された厚さ350μmの加工体610を作製した(図6(B))。得られた加工体610の断面を顕微鏡で観察したところ、各圧縮層62c,62dの厚さは50μm程度であり、多孔質層62a,62bが薄肉化されていた。また、圧縮層62c,62dにはセル620a,620bは殆ど観察されず、ラミネート処理によりセル620a,620bの容積が減少したことが確認された。
【0108】
(成形工程)
上記のようにして作製した加工体610を用い、実施例1と同様にして真空圧空成形処理及びインサート成形処理を行い、加工体610と成形樹脂層65とがインサート成形された樹脂成形体611を作製した(図6(C))。
【0109】
(抽出工程)
上記のようにして作製した樹脂成形体611を用い、実施例1と同様にして抽出材料63a,63bを抽出し、微細セル620cを有する微多孔質層62e,62fを備えた樹脂成形体612を作製した(図6(D))。樹脂成形体612の表面を顕微鏡により観察したところ、0.1〜10μmの微細セル620cが形成されていることが確認された。また、樹脂成形体612の断面を顕微鏡により観察したところ、微多孔質層62e,62fの厚さはいずれも5〜30μm程度であり、表面から連通した連続多孔体が形成されていることが確認された。
【0110】
(めっき工程)
上記のようにして作製した樹脂成形体612を用い、実施例1と同様にして無電解めっき処理及び電解めっき処理を行い、金属膜66を有する樹脂成形体613を作製した(図6(E))。なお、本実施例では、樹脂成形体612にめっき触媒が分散されているため、触媒付与処理は行わなかった。
【0111】
まず、無電解銅めっき処理により、約0.5μmの無電解銅めっき膜を形成した。その後、公知の電解めっき処理を行い、無電解銅めっき膜上に20μmの電解銅めっき膜、10μmの電解ニッケルめっき膜、及び0.5μmの電解クロムめっき膜を形成し、厚い金属装飾膜66を形成した。金属膜66に膨れは観察されず、良好な外観を有する金属膜66が形成された樹脂成形体613を作製できたことが確認された。
【0112】
また、上記のようにして形成した金属膜66の密着性を実施例1と同様にして評価したところ、金属膜66に膨れや剥離は見られず、金属膜66は良好な密着性を有していることが確認された。本実施例によれば、抽出材料のみを分散させた第1の機能性材料分散シートと抽出材料及びめっき触媒を分散させた第2の機能性材料分散シートとを、第1の機能性材料分散シートが表面側に位置するように積層することにより、より樹脂成形体の内部から金属膜を成長させることができる。これにより、環境負荷の大きなエッチング液を用いたエッチング処理を行うことなく、より密着性に優れた金属膜をポリプロピレン系樹脂などのエッチング処理され難い熱可塑性樹脂からなる樹脂成形体の表面に形成することができる。
【0113】
[実施例5]
本実施例では、押出発泡成形処理によるシート作製工程、加熱プレス処理による加熱圧縮工程、真空圧空成形処理とインサート成形処理とによる成形工程、抽出工程、及びめっき工程からなる製造方法を使用し、金属膜を有する樹脂成形体を作製した。なお、本実施例の各工程における機能性材料分散シート、加工体、及び樹脂成形体の断面形状は、実施例1のそれらと同様であるため、図示を省略する。以下、本実施例の製造方法について説明する。
【0114】
(シート作製工程)
抽出材料として炭酸カルシウム(融点:825℃,平均粒径:0.5μm)を20質量%の濃度で分散させたポリプロピレン樹脂のペレット、及び物理発泡剤として窒素の超臨界流体を用いて、公知の押し出し発泡成形法(発泡倍率:10倍)により独立発泡の多孔質層からなり、多孔質層のセル内に抽出材料が分散された厚さ800μmの機能性材料分散シートを作製した。
【0115】
(加熱圧縮工程)
上記で作製した機能性材料分散シートを、160℃に加熱した加熱ロール間に供給し、100kg/cmの圧力を加えながら加熱プレス処理して、厚さ200μmの加工体を作製した。この加工体にはセルは殆ど観察されず、加熱プレス処理によりセルの容積が減少したことが確認された。
【0116】
(成形工程)
上記のようにして作製した加工体を用い、実施例1と同様にして真空圧空成形処理及びインサート成形処理を行い、加工体と成形樹脂層とがインサート成形された樹脂成形体を作製した。
【0117】
(抽出工程)
抽出液として1Nの塩酸溶液を調製した。この抽出液に、上記のようにして作製した樹脂成形体を10分間浸漬させた。浸漬後、樹脂成形体を抽出液から取り出し、乾燥させて、微細セルを有する微多孔質層を備えた樹脂成形体を作製した。
【0118】
(めっき工程)
上記のようにして作製した微多孔質層を備えた樹脂成形体を用い、実施例1と同様にして無電解めっき処理及び電解めっき処理を行った。金属膜に膨れは観察されず、良好な外観を有する金属膜が形成された樹脂成形体を作製できたことが確認された。
【0119】
また、上記のようにして形成した金属膜の密着性を実施例1と同様にして評価したところ、金属膜に膨れや剥離は見られず、金属膜は良好な密着性を有していることが確認された。
【0120】
[実施例6]
本実施例では、接触処理によるシート作製工程、ラミネート処理による加熱圧縮工程、真空圧空成形処理と発泡溶融樹脂を用いたインサート成形処理とによる成形工程、抽出工程、及びめっき工程からなる製造方法を使用し、金属膜を有する樹脂成形体を作製した。なお、本実施例の各工程における機能性材料分散シート、加工体、及び樹脂成形体の断面形状は、実施例1のそれらと同様であるため、図示を省略する。以下、本実施例の製造方法について説明する。
【0121】
(シート作製工程)
実施例1と同様にして、抽出材料を多孔質層のセルに分散させた機能性材料分散シートを作製した。
【0122】
(加熱圧縮工程)
上記のようにして作製した機能性材料分散シートを用い、実施例1と同様にしてラミネート処理を行い、多孔質層が圧縮された圧縮層とラミネート樹脂層とが積層された加工体を作製した。この加工体にはセルは殆ど観察されず、ラミネート処理によりセルの容積が減少したことが確認された。
【0123】
(成形工程)
上記のようにして作製した加工体を用い、実施例1と同様にして真空圧空成形処理を行った。この成形された加工体と、溶融樹脂として溶融させたポリプロピレン樹脂に0.5質量%の窒素の超臨界流体を注入して比重を40%低減させた発泡溶融樹脂とを用い、公知のMucell射出成形法によるインサート成形処理を行って、加工体と発泡樹脂層とがインサート成形された樹脂成形体を作製した。
【0124】
(抽出工程)
上記のようにして作製した樹脂成形体を用い、実施例1と同様にして抽出材料を抽出し、微細セルを有する微多孔質層を備えた樹脂成形体を作製した。
【0125】
(めっき工程)
上記のようにして作製した微多孔質層を備えた樹脂成形体を用い、実施例1と同様にして無電解めっき処理及び電解めっき処理を行った。金属膜に膨れは観察されず、良好な外観を有する金属膜が形成された樹脂成形体を作製できたことが確認された。
【0126】
また、上記のようにして形成した金属膜の密着性を実施例1と同様にして評価したところ、金属膜に膨れや剥離は見られず、金属膜は良好な密着性を有していることが確認された。
【0127】
さらに、ヒートサイクル試験前後の樹脂成形体の寸法変化を測定したところ、寸法変化は0.05%以下であった。一方、実施例1で作製した樹脂成形体の寸法変化は0.3%程度であった。これは、熱ストレスが樹脂成形体に付加された際に、発泡樹脂層により内部応力が低減され、熱ストレスが開放されて、寸法変化が抑えられたためと考えられる。従って、本実施例によれば、熱ストレスに対してより変形の少ない樹脂成形体を製造することができる。
【0128】
[実施例7]
本実施例では、接触処理によるシート作製工程、ラミネート処理による加熱圧縮工程、及び真空圧空成形処理とインサート成形処理とによる成形工程からなる製造方法を使用し、親水性を有する樹脂成形体を作製した。図7は、本実施例の各製造工程を示す要部拡大断面概略図である。以下、図面を参照しながら、本実施例の製造方法について説明する。
【0129】
(シート作製工程)
濡れ性付与材料としてポリエチレングリコール(平均分子量:6,000)を20質量%の濃度で、水に溶解させた分散液(d)を調製した。この分散液(d)に、実施例1と同様にして、多孔質シートを浸漬した。浸漬後、分散液(d)から多孔質シートを取り出し、乾燥処理を行った。これにより、濡れ性付与材料73aをセル720に分散させた機能性材料分散シート701を得た(図7(A))。なお、乾燥後のシートの重量は、接触処理前の多孔質シートの重量に比べて40質量%増加した。
【0130】
(加熱圧縮工程)
上記のようにして作製した機能性材料分散シート701を用い、実施例1と同様にしてラミネート処理を行い、多孔質層72が圧縮された圧縮層72aとラミネート樹脂層74とが積層された厚さ350μmの加工体710を作製した(図7(B))。得られた加工体710の断面を顕微鏡で観察したところ、圧縮層72aの厚さは50μm程度であり、多孔質層72が薄肉化されていた。また、この圧縮層2aにはセル720は殆ど観察されず、ラミネート処理によりセル720の容積が減少したことが確認された。
【0131】
(成形工程)
上記のようにして作製した加工体710を用い、実施例1と同様にして真空圧空成形処理及びインサート成形処理を行い、加工体710と成形樹脂層75とがインサート成形された樹脂成形体711を作製した(図7(C))。
【0132】
得られた樹脂成形体711の濡れ性付与材料を付与した表面に水滴を滴下し、接触角を測定したところ、接触角は5°程度であった。一方、成形工程で積層された多孔質層72と同種のポリプロピレン樹脂のみからなる表面の接触角は、75°程度あった。これにより、親水性を付与した樹脂成形体が得られていることが確認された。
【0133】
以上詳細に本発明の機能性樹脂成形体の製造方法を説明したが、本発明の好ましい態様について説明すれば以下の通りである。
【0134】
(1)親水性、導電性、電磁波シールド性などの機能性を付与した樹脂成形体を作製する場合、
少なくとも一面側に熱可塑性樹脂からなる多孔質層を有し、前記多孔質層のセル内に濡れ性付与材料、導電性材料、電磁波遮蔽材料などの機能性材料を分散させた機能性材料分散シートを作製するシート作製工程と、
前記機能性材料分散シートを加熱圧縮することにより、前記セルの容積を減少させて、前記多孔質層が薄肉化された圧縮層を有する加工体を作製する加熱圧縮工程とを有する機能性樹脂成形体の製造方法を使用することができる。
【0135】
(2)また、金属膜の形成に好適な微多孔質層を有する樹脂成形体を作製する場合、
少なくとも一面側に熱可塑性樹脂からなる多孔質層を有し、前記多孔質層のセル内に抽出材料を含む機能性材料が分散された機能性材料分散シートを作製するシート作製工程と、
前記機能性材料分散シートを加熱圧縮することにより、前記セルの容積を減少させて、前記多孔質層が薄肉化された加工体を作製する加熱圧縮工程と、
前記加工体を成形して、樹脂成形体を作製する成形工程と、
前記樹脂成形体から前記抽出材料を抽出液により抽出して、微細セルを有する微多孔質層を備えた樹脂成形体を作製する抽出工程とを有する機能性樹脂成形体の製造方法を使用することができる。
【0136】
(3)金属膜を有する樹脂成形体を製造する一態様においては、上記(2)の製造方法において、さらに、前記微多孔質層を備えた樹脂成形体をめっき処理するめっき工程を有する機能性樹脂成形体の製造方法を使用することができる。
【0137】
(4)また、無電解めっき処理を有するめっき工程により金属膜を有する樹脂成形体を製造する一態様においては、
少なくとも一面側に熱可塑性樹脂からなる多孔質層を有し、前記多孔質層のセル内に抽出材料及びめっき触媒を含む機能性材料が分散された機能性材料分散シートを作製するシート作製工程と、
前記機能性材料分散シートを加熱圧縮することにより、前記セルの容積を減少させて、前記多孔質層が薄肉化された加工体を作製する加熱圧縮工程と、
前記加工体を成形して、樹脂成形体を作製する成形工程と、
前記樹脂成形体から前記抽出材料を抽出液により抽出して、前記めっき触媒が分散された微細セルを有する微多孔質層を備えた樹脂成形体を作製する抽出工程と、
前記微多孔質層を備えた樹脂成形体を無電解めっき処理するめっき工程とを有する機能性樹脂成形体の製造方法を使用することができる。
【0138】
(5)さらに、無電解めっき処理を有するめっき工程により、より表面内部深くから金属膜を形成した樹脂成形体を製造する他の一態様においては、
第1の熱可塑性樹脂からなる第1の多孔質層のみを有し、前記第1の多孔質層の第1のセル内に第1の抽出材料を含む第1の機能性材料が分散された第1の機能性材料分散シートを作製する第1のシート作製工程と、
少なくとも一面側に第2の熱可塑性樹脂からなる第2の多孔質層を有し、前記第2の多孔質層の第2のセル内に第2の抽出材料及びめっき触媒を含む第2の機能性材料が分散された第2の機能性材料分散シートを作製する第2のシート作製工程と、
前記第2の多孔質層が前記第1の多孔質層と対向するように、前記第1の機能性材料分散シートと前記第2の機能性材料分散シートとを積層した積層体を加熱圧縮することにより、前記第1及び第2のセルの容積を減少させて、前記第1及び第2の多孔質層が薄肉化された加工体を作製する加熱圧縮工程と、
前記加工体を成形して、樹脂成形体を作製する成形工程と、
前記樹脂成形体から前記第1及び第2の抽出材料を抽出液により抽出して、最表面よりも内部に前記めっき触媒が多く分散された微細セルを有する微多孔質層を備えた樹脂成形体を作製する抽出工程と、
前記微多孔質層を備えた樹脂成形体を無電解めっき処理するめっき工程とを有する機能性樹脂成形体の製造方法を使用することができる。
【0139】
(6)上記めっき工程を備えた樹脂成形体の製造方法においては、前記機能性材料は、さらに第1の導電性材料を含んでもよい。
【0140】
(7)また、電解めっき処理を有するめっき工程により属膜を有する樹脂成形体を製造する一態様においては、
少なくとも一面側に熱可塑性樹脂からなる多孔質層を有し、前記多孔質層のセル内に抽出材料及び第1の導電性材料を含む機能性材料が分散された機能性材料分散シートを作製するシート作製工程と、
前記機能性材料分散シートを加熱圧縮することにより、前記セルの容積を減少させて、前記多孔質層が薄肉化された加工体を作製する加熱圧縮工程と、
前記加工体を成形して、樹脂成形体を作製する成形工程と、
前記樹脂成形体から前記抽出材料を抽出液により抽出して、前記第1の導電性材料が分散された微細セルを有する微多孔質層を備えた樹脂成形体を作製する抽出工程と、
前記微多孔質層を備えた樹脂成形体を電解めっき処理するめっき工程とを有する機能性樹脂成形体の製造方法を使用することができる。
【0141】
(8)上記各製造方法におけるシート作製工程は、少なくとも一面側に熱可塑性樹脂からなる多孔質層を有する多孔質シートと機能性材料とを接触させる接触処理、または熱可塑性樹脂と機能性材料とを含有する樹脂組成物を押出発泡成形する押出発泡成形処理を含んでもよい。
【0142】
(9)また、上記各製造方法における加熱圧縮工程は、前記機能性材料分散シートと樹脂シートとをラミネートするラミネート処理、前記機能性材料分散シートと第1の溶融樹脂とをインサート成形するインサート成形処理、前記機能性材料分散シートを真空成形する真空成形処理、及び前記機能性材料分散シートを圧空成形する圧空成形処理からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。
【符号の説明】
【0143】
1,401,501,601a,601b,701 機能性材料分散シート
2,42,52,62a,62b,72 多孔質層
2a,42a,52a,62c,62d,72a 圧縮層
2b,42b,52b,62e,62f 微多孔質層
3a,43a,53a,63a,63b 抽出材料
6,46,56,66 金属膜
10,410,510,610,710 加工体
20,420,520,620a,620b,720 セル
20a,420a,520a,620c 微細セル
43b 第1の導電性材料
63c めっき触媒
73a 濡れ性付与材料
305 溶融ポリプロピレン樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一面側に熱可塑性樹脂からなる多孔質層を有し、前記多孔質層のセル内に機能性材料を分散させた機能性材料分散シートを作製するシート作製工程と、
前記機能性材料分散シートを加熱圧縮することにより、前記セルの容積を減少させて、前記多孔質層が薄肉化された圧縮層を有する加工体を作製する加熱圧縮工程とを有する機能性樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
前記シート作製工程は、少なくとも一面側に熱可塑性樹脂からなる多孔質層を有する多孔質シートと機能性材料とを接触させる接触処理、または熱可塑性樹脂と機能性材料とを含有する樹脂組成物を押出発泡成形する押出発泡成形処理を含む請求項1に記載の機能性樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
前記加熱圧縮工程は、前記機能性材料分散シートと樹脂シートとをラミネートするラミネート処理、前記機能性材料分散シートと第1の溶融樹脂とをインサート成形するインサート成形処理、前記機能性材料分散シートを真空成形する真空成形処理、及び前記機能性材料分散シートを圧空成形する圧空成形処理からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1または2に記載の機能性樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
さらに、前記加工体を成形して、樹脂成形体を作製する成形工程を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の機能性樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
前記成形工程は、前記加工体と第2の溶融樹脂とをインサート成形するインサート成形処理、前記加工体を真空成形する真空成形処理、及び前記加工体を圧空成形する圧空成形処理からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項4に記載の機能性樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
前記機能性材料は、抽出材料、濡れ性付与材料、めっき触媒、及び第1の導電性材料からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の機能性樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
前記機能性材料は、抽出材料を少なくとも含み、
さらに、前記樹脂成形体から前記抽出材料を抽出液により抽出して、微細セルを有する微多孔質層を少なくとも一面側の表面に備えた樹脂成形体を作製する抽出工程を有する請求項4または5に記載の機能性樹脂成形体の製造方法。
【請求項8】
前記機能性材料は、抽出材料及び第1の導電性材料を少なくとも含み、
前記樹脂成形体から前記抽出材料を抽出液により抽出して、前記第1の導電性材料が分散された微細セルを有する微多孔質層を少なくとも一面側の表面に備えた樹脂成形体を作製する抽出工程をさらに有する請求項4または5に記載の機能性樹脂成形体の製造方法。
【請求項9】
前記機能性材料は、さらにめっき触媒を含む請求項7または8に記載の機能性樹脂成形体の製造方法。
【請求項10】
さらに、前記微多孔質層を備えた樹脂成形体の微細セル内に第2の導電性材料を分散させる導電性材料分散工程を有する請求項7〜9のいずれか1項に記載の機能性樹脂成形体の製造方法。
【請求項11】
前記抽出材料は、前記加熱圧縮工程及び成形工程における加熱温度よりも高い溶融温度を有する請求項6〜10のいずれか1項に記載の機能性樹脂成形体の製造方法。
【請求項12】
前記第1の導電性材料は、前記抽出液に難溶性または不溶性である請求項8〜11のいずれか1項に記載の機能性樹脂成形体の製造方法。
【請求項13】
さらに、前記微多孔質層を備えた樹脂成形体をめっき処理するめっき工程を有する請求項7〜12のいずれか1項に記載の機能性樹脂成形体の製造方法。
【請求項14】
前記熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン系樹脂を含む請求項1〜13のいずれか1項に記載の機能性樹脂成形体の製造方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−156808(P2011−156808A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21751(P2010−21751)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】