説明

機能素子およびその製造方法、流体吐出ヘッド、並びに印刷装置

【課題】開口を封止して中空構造部分を形成する場合であっても、当該開口の確実な封止を可能とし、その中空構造部分による機能実現の確実化を図ることのできる機能素子を提供する。
【解決手段】開口4を封止することで形成される中空構造部分2を有した機能素子1において、前記開口4を物理蒸着によって成膜される封止膜6で封止する。そして、前記封止膜6は、前記物理蒸着の際の成膜温度または成膜後のアニール温度が、当該封止膜6の成膜材料のリフロー温度以上に昇温することにより形成する。これにより、前記封止膜6の成膜材料が溶融して表面張力による流動を起こすようにして、前記開口4内への封止膜6の成膜材料の充填を容易にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空構造部分を有した機能素子およびその製造方法、並びに、その機能素子を用いて構成されたインクジェットヘッドを含む流体吐出ヘッドおよびインクジェットプリンタ装置を含む印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄膜形成技術により形成される、中空構造部分を有した機能素子が利用されつつある。「薄膜形成技術」とは、例えば半導体製造プロセスにてシリコン半導体基板に微細加工を施す際に用いられるもののように、蒸着、スパッタ、エッチング等を行って薄膜を形成するための技術をいう。また、「中空構造部分を有した機能素子」とは、中空構造部分の内部素子またはその構造部分の内面若しくは表面が、入力信号に対して何らかの応答を示すように構成された素子のことをいい、中空構造部分に何らかの気体、液体または固体が注入されている場合も含む。中空構造部分は、完全に密閉されている場合と、一部開放されている場合とがある。このような機能素子の一例としては、いわゆるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)が知られている。
【0003】
ところで、上述した機能素子において、その中空構造部分は、一般に、犠牲層を除去した後に当該除去に利用した開口を封止することで形成される。詳しくは、例えばダイアフラム型半導体装置を例に挙げると、以下のような手順で形成することが知られている(例えば、特許文献1参照)。すなわち、シリコン基板の表面に第1耐エッチング層を積層し、その第1耐エッチング層の表面の所定領域に犠牲層となるエッチング層を積層する。そして、そのエッチング層の表面に微少な開口を多数もつ第2耐エッチング層を積層した後、第2耐エッチング層の開口群からエッチング層をエッチングする。この結果、第1耐エッチング層と第2耐エッチング層の間に空間が形成されることになる。その空間形成後は、第2耐エッチング層の表面に封止膜を積層して、第2耐エッチング層の微少な開口群を封止する。以上の手順を経て、第2耐エッチング層と封止膜によってダイアフラムが形成され、そのダイアフラムの内側に中空構造部分となる密封空間が形成されたダイアフラム構造が実現されるのである。
【0004】
【特許文献1】特開2002−343979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来における機能素子では、中空構造部分を形成すべく開口を封止する際に、当該中空構造部分となる犠牲層の膜厚(ギャップ高さ)、封止すべき開口の大きさ(径)または深さ等の条件によっては、その開口内に封止膜の成膜材料が十分に充填されずに、ボイド(気泡)が発生してしまうおそれがある。このようなボイドの発生は、開口の封止を不完全なものとし、中空構造部分の密封を困難にしてしまい、機能素子の機能低下にも繋がってしまうものであるため、回避すべきである。この点については、封止に用いた金属膜を高温・高圧下で流動させボイドをなくすことも考えられるが、その圧力が中空構造部分に悪影響を及ぼすことも懸念される。さらに、特許文献1では、多孔質ポリシリコン材料をシリコン窒化膜で封止する技術が開示されているが、このような化学蒸着(Chemical Vapor Deposition;以下「CVD」と略す)による封止では、空洞内に成膜されること、ポリシリコンを犠牲層に選べない等の難点がある。これらのことから、中空構造部分を有した機能素子については、制約条件が少なく、犠牲層の膜厚等の影響を受けずに、しかも簡素な工程にて、開口確実に封止することが望まれている。
【0006】
そこで、本発明は、犠牲層を除去した後に開口を封止して中空構造部分を形成する場合であっても、当該開口の確実な封止を可能とし、その中空構造部分による機能実現の確実化を図ることのできる機能素子およびその製造方法、インクジェットヘッドを含む流体吐出ヘッド、並びにインクジェットプリンタ装置含む印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために案出された機能素子で、開口が物理蒸着によって成膜された封止膜に封止されて中空構造部分が形成されるとともに、前記封止膜は、前記物理蒸着の際の成膜温度または成膜後のアニール温度を当該封止膜の成膜材料のリフロー温度以上に昇温することにより形成されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、上記目的を達成するために案出された機能素子の製造方法で、開口を形成する工程と、前記開口を封止する封止膜を物理蒸着によって成膜する工程と、前記物理蒸着の際の成膜温度または成膜後のアニール温度を、前記封止膜の成膜材料のリフロー温度以上に昇温する工程とにより中空構造部分を形成することを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上記目的を達成するために案出された流体吐出ヘッドで、開口が物理蒸着によって成膜された封止膜で封止されて中空構造部分が形成されるとともに、前記封止膜は、前記物理蒸着の際の成膜温度または成膜後のアニール温度を当該封止膜の成膜材料のリフロー温度以上に昇温することにより形成されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記目的を達成するために案出された印刷装置で、開口が物理蒸着によって成膜された封止膜に封止されて中空構造部分が形成されるとともに、前記封止膜は、前記物理蒸着の際の成膜温度または成膜後のアニール温度を当該封止膜の成膜材料のリフロー温度以上に昇温することにより形成されていることを特徴とする。
【0011】
上記構成の機能素子、上記手順の機能素子の製造方法、上記構成の流体吐出ヘッド、および上記構成の印刷装置によれば、封止膜が当該封止膜の成膜材料のリフロー温度以上の成膜温度または成膜後のアニール温度で形成される。ここで、「リフロー温度」とは、封止膜の成膜材料が溶融する温度のことをいい、例えば成膜材料がアルミ(Al)であれば350℃程度がこれに相当する。このようなリフロー温度以上の温度にて封止膜の成膜または成膜後のアニールを行うと、その封止膜の成膜材料は、溶融して表面張力による流動を起こす。したがって、封止膜の成膜により開口を封止する場合に、当該開口内、もしくは開口上に成膜時に形成されるボイド内への封止膜の成膜材料の充填が容易になることから、開口を封止する際のボイド発生を回避し得るようになり、開口の確実な封止が可能となるのである。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、開口を封止して中空構造部分を形成する場合であっても、ボイド発生を回避して開口の確実な封止が可能となるので、その中空構造部分による機能実現の確実化が図れるようになる。このことは、機能素子の性能(機能)向上や信頼性向上等の実現に繋がると言える。また、例えば気密を必要とするインクジェットヘッドのようなデバイスにおいては、その封止(パッケージ)コストが製品価格の半分以上を占めることも多いことから、本発明のような中空構造部分の封止(ウエハレベルパッケージング)技術のニーズは高く、これを実現できる本発明の技術的価値は高いと言える。しかも、ウエハレベルパッケージングを実現することで、素子の小型化(高集積化)も容易に実現可能となることが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に基づき本発明に係る機能素子およびその製造方法、流体吐出ヘッド、並びに印刷装置について説明する。
【0014】
〔機能素子の説明〕
先ず、機能素子の概略構成について説明する。機能素子は、既に説明したように、中空構造部分を有した素子の全てを含むが、その一例として図1に示すようなものがある。図1は、本発明に係る機能素子の概略構成の一例を示す説明図である。
【0015】
図例のように、ここで説明する機能素子1は、中空構造部分2を有している。そして、この中空構造部分2内に振動子3が形成されており、図示せぬ電極に電圧を印加して当該振動子3を振動させたり、あるいは図示せぬ電極との静電容量の変化により当該振動子3の振動を電気信号に変換させたりし得るようになっている。なお、振動子3は、必ずしも形成されている必要はなく、例えば中空構造部分2を覆う層が振動板として機能するものであってもよい。
【0016】
中空構造部分2は、複数基板の貼り合わせ、基板のエッチングもしくはいわゆる犠牲層エッチングによって形成されたものである。ここでは、犠牲層エッチングの場合を説明する。すなわち、中空構造部分2が形成される箇所に犠牲層となるエッチング層を積層し、さらにそのエッチング層の表面に開口4を持つ耐エッチング層5を積層し、その開口4からエッチング層をエッチングして除去した後に、当該除去に利用した開口4を封止することで形成されたものである。
【0017】
開口4は、その形成箇所に封止膜6が成膜されることによって封止されている。この封止膜6の成膜は、物理蒸着(Physical Vapor Deposition;以下「PVD」と略す)によって行うことが考えられる。PVDとしては、例えば真空蒸着やスパッタリング等が知られているが、特に金属スパッタリングによって行うことが望ましい。封止プロセスの際に中空構造部分2への成膜があると、機能素子1のデバイス特性が変化してしまうおそれがあるが、金属スパッタリングであればこの問題が軽微となるからである。また、PVDであれば、成膜材料の直進性が高いため、封止膜6による開口4の封止を行う上で好適だからである。
【0018】
また、開口4を封止する封止膜6の上には、外気や流体等の侵入を防止し、封止膜の劣化を防止するためのカバー層7が積層されている。このカバー層7は、CVDによって成膜することが考えられる。なお、カバー層7は、少なくとも1層のCVD膜からなるものであればよく、複数層のCVD膜が積層されてなるものであってもよい。
【0019】
ところで、開口4の封止は、単に金属スパッタリングにより行おうとすると、詳細を後述するように、シャドウイング効果によりボイドが生じてしまい、中空構造部分2と外部とを通じさせるエアパスが残ってしまう可能性がある。このことから、ここで説明する機能素子1では、封止膜6をPVDする際の成膜温度または成膜後のアニール温度が、その封止膜6の成膜材料のリフロー温度以上で形成されている。さらには、その封止膜6が開口4を封止することで形成される中空構造部分2に対して、当該封止のためのPVDに先立って、そのPVDの際の成膜温度または成膜後のアニール温度以上の温度での前加熱処理が施されている。なお、これらの温度および加熱処理については、その詳細を後述する。
【0020】
〔機能素子の製造方法の説明〕
次に、以上のような構成の機能素子1の製造方法について説明する。特に、ここでは、主に、開口4の封止および当該封止ためのPVDの際の成膜温度や加熱処理等について説明する。図2および図4は本発明に係る機能素子の製造方法の概要を示す説明図であり、図3はその比較対象となる従来例の概要を示す説明図である。
【0021】
上述した構成の機能素子1を製造する場合においても、開口4の形成および当該開口4を利用した犠牲層エッチングまでは、従来と同様の手順で行えばよい。そして、犠牲層エッチングにより犠牲層を除去した後は、その犠牲層エッチングに利用した開口を封止すべく、封止膜6の成膜を行う。
【0022】
このときに封止すべき開口4は、例えば図2に示すように、その側断面形状が、中空構造部分2に向かって狭くなるテーパ状に形成されたものであってもよい。テーパ状に形成する場合、そのテーパ状傾斜面は、鉛直方向との角度(傾斜角度)が30°以上であることが望ましい。このようなテーパ状傾斜面は、以下に述べるようにして形成すればよい。例えば、開口形成位置がパターニングされたレジスト膜を形成した後、そのレジスト膜を後退させながら等方エッチングを行い、さらにその後に反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching;以下「RIE」と略す)を行うことで、テーパ状傾斜面を形成することが考えられる。この場合に、テーパ状傾斜面の傾斜角度および深さは、等方エッチングまたはRIEの際における処理パラメータ(処理時間や処理条件等)を適宜調整することで、所望の角度および深さにコントロールすることが可能である。また、その他にも、ハーフトーンマスクや三次元リソグラフィ等によってレジスト膜の開口壁を予めテーパ形状にしておき、そのレジスト膜とのエッチング速度比を適宜設定することにより、テーパ状傾斜面を形成することが考えられる。さらに、等方エッチングを行わず、RIEだけで開口する場合であっても、副生成物を側壁に成膜しながらエッチングを進めることで、テーパ状傾斜面を形成することも可能である。
【0023】
ところで、一般に、開口4を単に金属スパッタリングにより封止しようとすると、図3(a)に示すように、シャドウイング効果によりエアパス(空気の通り道)8が残ってしまい、当該封止が不完全なものとなってしまう可能性がある。また、図3(b)に示すように、ボイド9が発生してしまい、これにより封止が不完全なものとなる可能性もある。
【0024】
このことから、開口4を封止するための封止膜6は、以下に述べるような手順で成膜する。ここでは、Alを使った金属スパッタリングにより開口4を封止して中空構造部分2を形成する場合を例に挙げる。
【0025】
開口4を封止する場合には、先ず、封止膜6を形成するためのAlスパッタリングに先立ち、そのAlスパッタリングを行う際の成膜温度またはそのAlスパッタリング後におけるアニール温度以上の温度で、犠牲層が除去された後の空間を加熱する前加熱処理を行う。なお、成膜温度およびアニール温度については、その詳細を後述する。このような前加熱処理を行うことで、犠牲層が除去された後の空間内に存在する水分や不純物等、すなわちボイド発生の要因となり得るものが、当該空間内から開口4を経て外部へ除去されることになる。
【0026】
そして、前加熱処理を施した後は、開口4が形成された耐エッチング層5の上に、Alの拡散防止のために窒化チタン(TiN)膜を例えば20nm厚程度でスパッタリングし、さらにAlの密着層としてのチタン(Ti)膜を例えば5nm厚程度でスパッタリングする。その後に、通常のAlスパッタリングで用いられる温度(以下、この温度を「低温」という)にてAl膜を例えば500nm厚程度でスパッタリングし、次いで当該Al膜のリフロー温度以上の温度にてAl膜を例えば500nm厚程度でスパッタリングする。このような手順を経て、500nm厚+500nm厚のAl膜が封止膜6となって開口4を封止するのである。
【0027】
つまり、開口4の封止にあたっては、封止膜6が、その成膜材料であるAlのリフロー温度以上の成膜温度で形成される。ここで、「リフロー温度」とは、封止膜の成膜材料が溶融する温度のことをいい、例えば成膜材料がAlであれば350℃程度がこれに相当する。
【0028】
封止膜6となるAl膜は、必ずしも低温とリフロー温度以上の温度との二回に分けて成膜する必要はない。ここで低温を省いてリフロー温度以上の温度だけで封止膜6のスパッタリングを行うと、その封止膜6の成膜材料であるAlは、溶融して表面張力による流動を起こす。そして、図4(a)〜(e)に順に示すように、その表面張力により、封止膜6の上面が平坦化するとともに、底面が中空構造部分2を挟んで対向する耐エッチング層5の上面(ギャップ下地膜)から離れてブリッジすることになる。したがって、封止膜6の成膜により開口4を封止する場合であっても、単なるAlスパッタリングにより封止する場合とは異なり、当該開口6内への封止膜6の成膜材料の充填が容易となり、表面が略平坦で、かつ、ボイドの無い封止膜6を形成でき、開口4の確実な封止が可能となるのである。しかも、Al膜の表面張力により封止膜6の底面がブリッジするので、ギャップ下地膜に封止膜6が接触することなく開口4を封止することも可能となる。
また、これに先立ち、低温にて500nm程度のスパッタを行えば、Al膜の底面には表面張力が働かず、ブリッジしないでギャップ下地膜との接触を確保することが可能となる。さらには、低温にて1μm厚程度のAl膜をスパッタリングし、その成膜後にアニール処理を行うようにしてもよく、その場合であってもアニール温度が封止膜6の成膜材料であるAlのリフロー温度以上であれば、そのAlが溶融して表面張力による流動を起こすため、図4(a)〜(e)に示すように底面がブリッジして開口4を封止することが可能である。
【0029】
なお、開口4の封止にあたっては、必ずしもTiN膜またはTi膜を形成する必要はない。すなわち、TiN膜とTi膜のいずれか一方または両方が無くても、開口4を封止することは可能である。
【0030】
また、開口4を封止する際には、その開口4の側断面形状が、中空構造部分2に向かって狭くなるテーパ状に形成されていれば、より一層その封止が容易かつ確実なものとなる。開口4の側断面形状がテーパ状に形成されていれば、そのテーパ状傾斜面に開口形成時の残渣物があっても、開口の側壁部分が垂直面である場合に比べて、その残渣物を容易に除去することができるからであり、また封止膜6の成膜材料を堆積させるのも容易となるからである。つまり、テーパ状傾斜面の存在によって、開口4を封止する際のボイド発生を回避し得るようになり、より一層開口4の確実な封止が可能となるのである。
【0031】
このようにして封止される開口4は、封止可能な大きさ(例えば直径)が0.5〜4μm程度であるが、1.2μm程度までであれば封止膜6の底面がブリッジして、その封止膜6の底面がギャップ下地膜に接触しなくなる。ブリッジを引き起こすのは、リフローした封止膜6の成膜材料であるAlの表面張力Fである。ただし、その表面張力Fは開口4の直径Dの周長πDに比例し、また開口4内にリフローしたAlの質量WはW=ρπD2t/2(ρはAlの比重、tは開口4深さ)である。したがって、F>Wの場合にブリッジとなると考えられる。図5は、ブリッジ発生の有無の概念を示す説明図である。なお、ブリッジ発生の有無は、具体的には、表面張力Fと質量Wとの関係のみならず、密着層の有無、犠牲層下地膜との密着力、テーパ状傾斜面の角度等の影響を受けるが、開口4の確実な封止という点については影響を与えないため、ここではその説明を省略する。
【0032】
ところで、封止膜6は、開口封止に伴ってその膜厚が厚くならざるを得ないため、図1に示すように、開口封止箇所以外の部分をパターニングにより除去するようにしても構わない。ただし、その場合には、封止膜6の除去によって下地層との界面が露出し、外気がその界面を伝って中空構造部分2のギャップ内に浸入してしまうことも考えられる。このことから、封止膜6をパターニングにより除去する場合には、可能な限り薄い膜(例えば、封止膜6の形成に先立ち耐エッチング層上に成膜された絶縁膜)を露出する全面に残すか、または封止膜6のエッチング除去後にカバー層7を成膜してオーバーコートすることが望ましい。前者(膜を残す場合)は、封止した膜に厚みの差があっても全面を覆っているため界面は生じないが、残す膜が絶縁膜であることが好ましい。一方、後者(オーバーコートする場合)は、パターニングにより開口近傍のみ封止膜6を残し、それ以外の場所では封止膜6が除去されて界面が生じるため、これを別途カバー層7で覆うというものである。このときのカバー層7は、少なくとも1層のCVD膜からなるものであるが、100nm厚以上の絶縁膜であることが好ましい。
【0033】
以上のように、本実施形態で説明した手順で開口4の封止を行えば、その開口4を封止する封止膜6が、その封止膜6の成膜材料のリフロー温度以上の成膜温度または成膜後のアニール温度で形成されるので、その封止膜6の成膜材料は、溶融して表面張力による流動を起こす。したがって、封止膜6の成膜により開口4を封止する場合であっても、当該開口4内への封止膜6の成膜材料の充填が容易になり、開口4を封止する際のボイド発生を回避し得るようになるのである。つまり、犠牲層を除去した後に開口4を封止して中空構造部分2を形成する場合であっても、犠牲層の膜厚や成膜材料等についての特別な制約を受けることもなく、当該開口4の確実な封止が可能となるので、その中空構造部分2による機能実現の確実化が図れるようになる。
【0034】
しかも、本実施形態で説明したように、封止膜6を形成するためのAlスパッタリングに先立ち、そのAlスパッタリングを行う際の成膜温度またはそのAlスパッタリング後におけるアニール温度以上の温度で、犠牲層が除去された後の空間を加熱する前加熱処理を行えば、ボイド発生の要因となり得る水分や不純物等が、犠牲層が除去された後の空間内から除去されることになるので、より一層ボイド発生を回避して開口4を確実に封止することが可能となる。このことは、単に開口を封止するのではなく、気密空間である中空構造部分2を形成するための封止を行う場合において、その封止の確実性を確保する上で非常に好適なものとなる。半導体製造プロセスにおけるビアのリフローアルミでの埋め込みでも同様に前加熱は必要であるが、中空構造の封止では中空内部の表面積がビアに比べて極端に多いため、温度と時間の管理は重要であり、単に静電チャック前の基板温度安定化時間(一般には30秒)よりも長い時間を要す。
【0035】
さらに、本実施形態で説明したように、封止膜6に少なくとも1層のCVD膜であるカバー層7を積層すれば、開口封止箇所以外の部分をパターニングにより除去する場合であっても、封止膜6の除去によって下地層との界面が露出し外気がその界面を伝って中空構造部分2のギャップ内に浸入してしまう、といったことが生じるのを確実に防止できる。その上、これをCVD膜の成膜によって実現し得るので、プロセスの汎用性を十分に確保でき、またそのプロセスに特別の困難性を要することもない。また、アルミの結晶粒界からの浸入防止、アルミによる封止の欠陥の補完、アルミの腐食の防止が期待できる。
【0036】
これらのことから、本実施形態で説明した手順により製造された機能素子1は、ボイドができずに開口4の確実な封止が可能となるので、中空構造部分2内の気密性が大幅に向上し、中空構造部分2を有するデバイスとしての長期信頼性も大幅に向上することになる。例えば、真空封止済みの振動子等を実現することも可能となり、その場合には空気抵抗によるダンピングを防止して高いQ値を確保できるようになる。また、一般に犠牲層を抜くための開口4は狭ピッチで多数必要であるのに対し、中空構造部分2の内圧やガス種等のコントロールは一つの小さな孔でも可能であるため、例えば封止により気密空間を形成した後に改めて一つまたは少数の孔を形成し、当該孔から中空構造部分2内の環境を制御して再度封止を行う、といったことも可能である。
【0037】
また、本実施形態で説明した手順により製造された機能素子1では、ウエハレベルでのプロセスにおいての気密封止が可能であり、これに伴ってデバイスのコストダウンも可能となる。例えば、気密封止を実現するために金属、セラミック、ガラス、樹脂等によるパッケージまたは貼り合せを用いる場合には、二種以上の材料を溶接、ハンダ付け、陽極接合する等の工程が必要であり、額縁状の接合しろが必要でチップ面積が大型化する。そのことがコストアップや歩留まり低下等の要因となり得るが、上述したようにウエハレベルでのプロセスにおいての気密封止を行えば、材料や工程の簡素化が可能なため、大幅なコストダウンも実現可能となる。
【0038】
また、本実施形態で説明した手順により製造された機能素子1では、封止膜6の成膜材料が溶融して表面張力による流動を起こすため、封止後に当該封止膜6の表面が平坦になる(例えば図4(e)参照)。そのため、封止膜6による封止検査が非常に容易化する。従来のように単にAlスパッタリングを行うだけでは、封止後の表面がすり鉢状になってしまうため、孔底の観察が容易でなく不良発生箇所の確認が困難であったが、封止後の表面が平坦化され、ボイドもなければ、目視確認が可能となるからである。これにより、本実施形態における機能素子1では、市場不良を減らし、解析を容易とすることが実現可能となる。
【0039】
また、本実施形態で説明した手順により製造された機能素子1では、封止膜6の成膜材料が溶融して表面張力による流動を起こすため、封止膜6の底面がブリッジを引き起こしギャップ下地膜に接触しなくなる(例えば図4(e)参照)。このことは、ギャップ下地膜へのコンタクト有無をプロセスにより使い分けることが可能であることを意味する。すなわち、低温スパッタプロセスを高温スパッタプロセス前に入れるか否かというプロセスの差異により、ギャップ下地膜へのコンタクト有無を使い分けることが可能となり、プロセスの汎用性を高く確保することができる。さらに、開口4の直下にデバイスを配置せざるを得ない場合、かつ、極力デバイスには封止膜6を残したくない場合に有効であり、コンタクトをとれば電気的な引き出しにも使用可能である。また、低温スパッタの膜厚が高温膜に対して薄い場合、スパッタ温度が十分に高い場合でも低温スパッタ膜が溶けて高温のみと同様の現象は発生する。
【0040】
これらのことから、本実施形態で説明した機能素子1は、静電MEMS方式のインクジェット方式の印刷装置における流体吐出ヘッドに適用して非常に好適なものとなる。これは、気密封止技術が確立されることで、いわゆるサーフェスMEMS技術方式での構造が可能となり、高密度化が達成されるとともに、中空構造部分2内にインクを浸入させないことも可能となるからである。このことは、同様にサーフェスMEMSプロセスによるマイクロポンプの実用化も可能であることを意味する。これにより、CPU(Central Processing Unit)等の高発熱LSI(Large Scale Integration)向けの超小型冷却システムが可能となり、空冷するための配置の余裕が不要になるため、コンピュータ装置の小型化が実現可能になるとともに、空冷用のファンが不要となるため静かになる。また、近年微細化が進むLSIにおいては、Low-K(低誘電率)材料が求められており、究極的には真空中を三次元配線するのが効果的である。これに対して、本実施形態で説明した機能素子1は、層間膜を除去し中空構造部分2内に配線またはゲート材料のみが残された中空構造体の封止にも適していることから、LSI配線の高密度化、小型化、高速化、低消費電力化等を実現する上でも非常に好適なものとなる。
【0041】
〔流体吐出ヘッドおよび印刷装置の説明〕
次に、以上のような機能素子1を用いて構成された流体吐出ヘッドおよび印刷装置について説明する。
【0042】
先ず、印刷装置について説明する。印刷装置としては、その一例として、インクジェットプリンタ装置が知られている。図6は、インクジェットプリンタ装置の概要を示す説明図である。インクジェットプリンタ装置は、インクを細かい粒状にして用紙に吐出することで、写真画質の印刷物を高速で印刷出力するものである。このようなインクジェットプリンタ装置には、大別すると、シリアルヘッド方式のものと、ラインヘッド方式のものとがある。
【0043】
シリアルヘッド方式のものでは、図6(a)に示すように、印刷対象物である用紙21をその主走査方向に送るローラ22と、その用紙21の副走査方向に移動可能なキャリッジ23に搭載されたインクジェットヘッド24とを備えている。そして、用紙21およびキャリッジ23を移動させつつ、インクジェットヘッド24が用紙21にインクを吐出することで、印刷出力を行うようになっている。一方、シリアルヘッド方式のものでは、図6(b)に示すように、用紙21をその主走査方向に送るローラ22と、その用紙21の副走査方向に沿ってインクの吐出口がライン状に配されたインクジェットヘッド25とを備えている。そして、用紙21を移動させつつ、インクジェットヘッド25の各吐出口から用紙21にインクを吐出することで、印刷出力を行うようになっている。
【0044】
ただし、いずれの方式であっても、インクジェットプリンタ装置に対しては、さらに高い画質を高速に印刷するというニーズに対応するため、消費電力を増加させず、吐出性能を落とさずに、さらに画素数の高密度化を実現することが求められている。このような要求に応えるべく、インクジェットプリンタ装置の中には、静電MEMS方式によるインクジェットヘッド24,25を用いて構成されたものがある。静電MEMS方式によるものでは、インクジェットヘッド24,25が、上述したような機能素子を用いて構成されており、その機能素子における振動を圧力印加手段として利用することで、用紙21へのインクの吐出を行うようになっている。なお、インクジェットプリンタ装置におけるインクジェットヘッド24,25以外の構成要素については、公知技術により実現すればよいため、ここではその説明を省略する。
【0045】
続いて、インクジェットプリンタ装置に用いられるインクジェットヘッド、すなわち上述した機能素子を用いて構成される流体吐出ヘッドの一例であるインクジェットヘッドについて説明する。ただし、ここでは、シリアルヘッド方式とラインヘッド方式との別に関係なく、上述した機能素子を用いて構成された、インクジェットヘッドの要部についてのみ説明する。図7〜9は本発明に係るインクジェットヘッドの要部構成の一例を示す模式図であり、図7はその斜視図、図8はその平面図、図9はその側断面図である。
【0046】
図7に示すように、ここで説明するインクジェットヘッドは、微小流体駆動部30と、流体供給部40とを備えている。微小流体駆動部30は、静電気力により駆動(振動)される複数の振動板31を高密度に並列配置してなるものである。一方、流体供給部40は、各振動板31上に対応する位置に配され、流体であるインク41が溜められる圧力室(いわゆるキャビティ)42と、その圧力室42を形成するための外壁となる隔壁構体43と、圧力室42内のインク41を外部に吐出するための吐出部(いわゆるノズル)44と、を備えてなるものである。
【0047】
また、微小流体駆動部30は、図8および図9に示すように、基板32上に、導電性物質薄膜からなる共通の基板側電極33が形成され、その基板側電極33の表面に絶縁膜が形成され、この基板側電極33に対向するように中空構造の空間(以下「中空構造部分」という)34を挟んで各々独立に駆動される複数の振動板側電極35および振動板31が一体かつ並列に配置され、さらに各振動板31を両持ち梁で支持するように支柱36が基板32上に形成されて、構成されたものである。
【0048】
このうち、基板32は、例えばシリコン基板32a上にシリコン酸化膜等による絶縁膜32bを形成したものを用いることが考えられるが、その他にも、ガリウム砒素(GaAs)等の半導体基板上に絶縁膜を形成したものや、石英基板を含むガラス基板のように絶縁性を有したものを用いるようにしてもよい。
【0049】
基板側電極33は、例えば不純物をドーピングした多結晶シリコン膜で形成することが考えられるが、金属膜(例えばPt、Ti、Al、Au、Cr、Ni、Cu等の蒸着膜)やITO(Indium Tin Oxide)膜等で形成されたものであってもよい。また、振動板側電極35についても同様に、不純物ドープの多結晶シリコン膜、金属膜、ITO膜等で形成すればよい。
【0050】
振動板31は、絶縁膜で形成されたものであるが、特に高い反発力が得られるシリコン窒化膜(SiN膜)で形成するのが好ましい。ただし、振動板31は、SiN膜の上面および下面にシリコン酸化膜が形成されて、実質的にこれらの各膜の積層によって構成される。また、振動板31は、例えば短冊状に形成され、その両側に長手方向に沿って夫々所定間隔(支柱間ピッチ)を置いて形成された複数の支柱36によって支持されている。この所定間隔は2μm以上、10μm以下が好ましく、5μm程度が最適である。そして、並列配置されたうちの隣り合う振動板31は、支柱36を介して連続して形成され、かつ、支柱36も振動板31と同じ材料で一体に形成されている。したがって、振動板31と基板側電極33間の空間を構成する中空構造部分35は、並列する複数の振動板31の間で連通していることになり、また密閉空間になるように形成されたものとなる。
【0051】
また、各振動板31の支柱36の近傍、具体的には例えば一つの振動板31の長手方向に沿う各支柱36間には、中空構造部分35を形成するための犠牲層エッチングを行う際に利用する開口37が形成される。この開口37は、犠牲層エッチングの後には、封止膜38によって閉塞される。開口37の大きさは、小さいほど閉塞し易いことから、□2μm以下とすることが考えられるが、犠牲層エッチングがドライエッチングの場合であれば、□0.5μmでも十分である。
【0052】
なお、振動板31には、絶縁膜を介して振動板側電極35が接合されており、しかもその振動板31の折曲された下面凹部内に挿入されるように振動板側電極35が配設されているものとする。また、振動板31の下方には、当該振動板31が薄く形成された場合の反発力を高めるべく、支柱(いわゆるアンカー)36と合わせて、その中央部直下近傍に補助支柱(いわゆるポスト)39を形成してもよい(例えば、図7参照)。
【0053】
このような微小流体駆動部30に対し、振動板31の支柱36に対応する位置に隔壁構体43における隔壁43aが形成されるように流体供給部40が配設されて、インクジェットヘッドが構成されているのである。なお、微小流体駆動部30上に配設された流体供給部40の圧力室42には、その圧力室42内へのインク41の供給を行うために、図示せぬ流体供給路が連通しているものとする。
【0054】
ここで、以上のような構成のインクジェットヘッドにおける処理動作を説明する。インクジェットヘッドでは、微小流体駆動部30における基板側電極33と振動板側電極35との間に所要の電圧を印加すると、図10(a)に示すように、各電極間に静電引力が発生して、振動板側電極35と一体な振動板31が基板側電極33の側に撓む。逆に、基板側電極33と振動板側電極35との間への電圧印加を開放すると、図10(b)に示すように、振動板31が静電引力から開放され、自身の復元力により減衰振動する。この振動板31の上下振動に伴う流体供給部40における圧力室42の容積変動で、インクジェットヘッドでは、圧力室42内のインク41がノズル44から外部に吐出され、また圧力室42内へ流体供給路を通じてインク41が供給されるのである。
【0055】
このとき、振動板31が基板側電極33の側に撓むと、中空構造部分35が閉空間であるため、その中空構造部分35内の空気は圧縮されて、振動板31の撓みを阻害しようとする。ところが、振動板31が支柱36、補助支柱39等による支持構造であれば、隣接する振動板31の下の中空構造部分35内に圧縮された空気を逃がすことができ、結果として十分に振動板31を撓ませることが可能となる。
【0056】
次に、以上のような構成のインクジェットヘッドの製造方法について説明する。図11〜13は、インクジェットヘッドの製造方法の概要を示す説明図である。
【0057】
インクジェットヘッドの製造、特にその微小流体駆動部30および流体供給部40の製造にあたっては、先ず、図11(a)に示すように、基板51を用意する。基板51は、既に説明したように、例えばシリコン基板51a上にシリコン酸化膜等による絶縁膜51bを形成したものを用いればよい。
【0058】
そして、図11(b)に示すように、その基板51上に、基板側電極33となる例えば不純物ドープのポリシリコン膜52を選択的に形成し、さらにその表面に絶縁膜53を形成する。この絶縁膜53は、基板側電極33の保護膜であり、後述する犠牲層エッチングに際して耐性のある膜により形成する。具体的には、例えば犠牲層エッチングがSF6、CF4、XeF2等のエッチングガスを用いるときはシリコン酸化膜により形成し、またフッ酸によるエッチングガスを用いるときはシリコン窒化膜により形成すればよい。
【0059】
その後は、図11(c)に示すように、静電MEMS素子による微小流体駆動部30を形成すべき領域に、支柱36、補助支柱39等による支持箇所を除いて、選択的に犠牲層54を形成する。犠牲層54の膜種は、エッチャントにより決まる。なお、支柱36等の間隔は、既に説明したように、例えば2μm以上で10μm以下が好ましく、5μm程度が最適である。
【0060】
そして、図11(d)〜(f)に示すように、犠牲層54の上に、選択的に、絶縁膜である例えばシリコン酸化膜55、振動板側電極35となる例えば膜厚300nm程度のポリシリコン膜56、絶縁膜である膜厚70nm程度のシリコン酸化膜57、引張り応力を有する例えば減圧CVD(成膜温度は700℃〜900℃)による膜厚300nm程度のシリコン窒化膜58、および、絶縁保護膜となる例えばCVDによる膜厚70nm程度のシリコン酸化膜59を、順次形成して積層する。なお、シリコン酸化膜59は省略することも可能である。また、ポリシリコン膜56は、成膜後に所定不純物をイオン注入しアニールすることで、その抵抗値を下げ、その後にパターニングすることも考えられる。また、ポリシリコン膜56に代えて、リンドープド・アモルファスシリコンを用いてもよく、その後、シリコン窒化膜58、シリコン酸化膜59を形成することも考えられる。
【0061】
このようにして各膜55〜59を積層した積層膜は、その後、図12(a)〜(b)に示すように、流体供給路の側壁に対応する部分が露出(開口)するよう選択的にパターニングされて、開口61が形成される。この開口61は、犠牲層エッチングにより犠牲層54を選択的に除去するためのものである。開口61の形成にあたっては、その側断面形状を、中空構造部分2に向かって狭くなるテーパ状に形成してもよい。テーパ状傾斜面を形成する場合には、先ず、図12(a)のように、等方エッチングを行う。このときに、開口61の口元の角度が決まるので、等方エッチングは、浅めに行うものとする。そして、図12(b)に示すように、CF4、C48等のガスを用いたRIEにより、開口61の掘り下げを行う。これにより、開口61は、略45°のテーパ状傾斜面を有することになる。その後は、さらに開口61の掘り下げを行い、その開口61の封止が可能であり、かつ、犠牲層エッチングの妨げにならないギャップ高さである100nm程度の膜厚の犠牲層54を残すまで、その犠牲層54に対するオーバーエッチングを行う。
【0062】
このようにして開口61を形成したら、次いで、図12(c)に示すように、その開口61の側壁保護層としてのシリコン酸化膜62を、100nm程度の膜厚でCVDにより成膜する。そして、図12(d)に示すように、開口61をパターニングする際に用いた露光用マスクを再度利用し、または当該露光用マスクとは別の露光用マスクを利用して、テーパ状傾斜面を有してすり鉢状に形成された開口61の穴底に、φ0.5μm程度の孔63をパターニングして形成する。なお、この孔63は、φ10μm程度でも埋めることは可能であるが、支柱36等の間隔を考慮するとφ0.5μm程度であることが望ましい。
【0063】
なお、図12(a)〜(d)に示した各工程では、開口61の形成と合わせて、外部との接続用の電極とのコンタクトホールの形成も同時に行うことも考えられる。そして、この外部との接続用の電極を形成するために、メタルスパッタとパターニングが行われる。このときメタルスパッタは、Alが最適である。
【0064】
その後は、図12(e)に示すように、開口61およびその開口61に形成された孔63を利用した犠牲層エッチングを行って、犠牲層54を選択的に除去する。犠牲層54がポリシリコン膜からなる場合には、エッチャントにXeF2、SF6、CF4等のガスを用いればよい。また、絶縁膜53、55がシリコン窒化膜からなり、犠牲層54がシリコン酸化膜からなる場合には、エッチャントにフッ酸溶液を用いればよい。このような犠牲層54の除去により、基板側電極33と、中空構造部分35と、振動板側電極35と、振動板31とを備えてなる静電MEMS構造の微小流体駆動部30が形成されるのである。
【0065】
ただし、犠牲層エッチングを行っただけでは、開口61および孔63は、封止されていない。そのため、犠牲層エッチングを行った後は、図13(a)に示すように、まだ開いたままである開口61および孔63を封止する。この封止は、金属スパッタリングによって行うが、特にAlスパッタリングが適している。なお、このときの成膜厚さは、1μm以下で十分である。
【0066】
ここで、開口61および孔63の封止について詳しく説明する。開口61および孔63を封止する場合には、先ず、Alスパッタリングに先立ち、そのAlスパッタリングを行う際の成膜温度またはそのAlスパッタリング後におけるアニール温度以上の温度で、犠牲層54が除去された後の空間を加熱する前加熱処理を行う。このような前加熱処理により、犠牲層54が除去された後の中空構造部分35内から、ボイド発生の要因となり得る水分や不純物等が除去されることになる。
【0067】
そして、前加熱処理を施した後は、シリコン酸化膜62の上面に、必要に応じてAlの拡散防止のためのTiN膜およびAlの密着層としてのTi膜の成膜を経て、Alスパッタリングを行ってAl膜を成膜する。このとき、Alスパッタリングは、成膜材料であるAlのリフロー温度以上の成膜温度で行う。例えば、低温にてAl膜を例えば500nm厚程度でスパッタリングし、次いでリフロー温度以上の温度にてAl膜を例えば500nm厚程度でスパッタリングする。また、必ずしも二回に分けて成膜する必要はなく、例えばリフロー温度以上の温度にて1μm厚程度のAl膜をスパッタリングしてもよい。さらには、低温にて1μm厚程度のAl膜をスパッタリングし、その成膜後にAlのリフロー温度以上でアニール処理を行うようにしてもよい。
【0068】
このようなリフロー温度以上の温度にてAl膜の成膜または当該成膜後のアニール処理を行うと、そのAl膜の成膜材料であるAlは、溶融して表面張力による流動を起こす。したがって、開口61および孔63を封止する場合であっても、単なるAlスパッタリングにより封止する場合とは異なり、Alの充填が容易となり、ボイドの無いAl膜を形成できるので、開口61および孔63の確実な封止が可能となるのである。
【0069】
このようにして、Alスパッタリングを行って開口61および孔63を封止した後は、そのAlスパッタリングによる成膜結果であるAl膜に対するパターニングを行って、そのAl膜を開口61の部分にのみ残し除去する。これにより、開口61の部分には、封止膜64が形成されることになる。
【0070】
その後は、封止膜64と微小流体駆動部30の最表層のシリコン酸化膜との界面からの外気や流体等の浸入を防止するために、図13(b)に示すように、カバー層となるプラズマシリコン窒化膜65をCVDにより例えば30nm以上の膜厚で積層する。なお、カバー層は、プラズマ酸化膜であってもよい。
【0071】
このようにして微小流体駆動部30を構成したら、その後は、図13(c)に示すように、流体供給部40を構成する隔壁43aとなる厚膜ネガレジスト66を50μm以上の高さに形成し、さらに図13(d)に示すように、その上にノズル67aを有したノズルシート67を接着する。これにより、微小流体駆動部30上に流体供給部40が形成されることになり、その結果、微小流体駆動部30と流体供給部40とを備えてなるインクジェットヘッドが構成されることになる。なお、隔壁43aは、例えばガラスをエッチングまたはサンドブラストにてパターンニングして接着することによって形成してもよい。また、隔壁43aとノズルシート67とを、例えば樹脂により一体成型で形成することも可能である。
【0072】
以上のように構成されたインクジェットヘッドおよびそのインクジェットヘッドを用いたインクジェットプリンタ装置によれば、中空構造部分35を有した機能素子、すなわち振動板31を静電引力で振動させる機能素子を利用しているため、微小流体であるインク41を精度良く制御して吐出することが可能になる。さらには、上述したような薄膜形成技術により形成されるため、インク41に対する駆動力を確保しつつ、高密度化への対応も非常に容易となる。したがって、消費電力を増加させず、吐出性能を落とさずに、画素数の高密度化を実現することが可能となるので、高い画質を高速に印刷するというニーズに十分に対応し得るものとになる。
【0073】
しかも、上述したインクジェットヘッドおよびインクジェットプリンタ装置では、封止膜64が、Alのリフロー温度以上の成膜温度でAlスパッタリングされ、またはAlのリフロー温度以上のアニール温度でアニール処理されたものであるため、ボイド発生を回避して確実に開口37,61を封止することが可能となる。さらに、そのAlスパッタリングに先立って前加熱処理が施されているため、開口37,61の封止の確実化を図る上でより一層好適なものとなる。これらのことは、微小流体であるインク41を取り扱うインクジェットヘッドに適用する場合においても、特に中空構造部分35内のように、インク41が侵入すべきでない箇所への当該インク41の侵入を確実に防止できるようになるため、非常に有効なものとなる。
【0074】
なお、本実施形態では、流体吐出ヘッドの代表的なものとしてインクジェットヘッドを例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。流体吐出ヘッドとしては、インクジェットヘッドの他に、例えば有機EL等の高分子または低分子有機材料塗布装置、プリント基板配線印刷装置、ハンダバンプ印刷装置、三次元モデリング装置、μTAS(Micro Total Analysis Systems)として薬液その他の液体をpl(ピコリットル)以下の微小単位にて精度良くコントロールして供給する供給ヘッド、さらには気体を微小量精度良くコントロールして供給する供給ヘッド等が挙げられるが、これらにも全く同様に本発明を適用することが可能である。
このことは、印刷装置についても同様である。すなわち、本発明に係る印刷装置は、流体吐出ヘッドを用いたものであれば、インクジェットプリンタ装置に限定されるものではない。
さらに、流体吐出ヘッドを構成する機能素子についても同様であり、中空構造部分を有したものであれば、本発明を適用することが可能である。このような機能素子としては、例えばインクジェットヘッドを始めとする流体吐出装置、マイクロポンプ、気体や液体の冷媒を吐出しLSIなどのホットスポットならびにチップ全体冷却する冷却・熱拡散装置、μTAS(Micro Total Analysis Systems)、DNAチップ、その他、周波数フィルタ、各種センサや光スイッチ、リレーを始めとするスイッチ等として用いられ得るMEMSが挙げられる。また、これら以外にも、中空構造部分を有したものであれば、半導体素子、共振器、振動子、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)、SAW(弾性表面波)フィルタ、加速度センサ、ジャイロセンサ、液晶素子、有機電界発光素子、抵抗素子、リレー素子、LED(Light Emitting Diode)、レーザ素子、FED(Field Emission Display)等の光源素子、スピーカ素子、ダイアフラム型センサ(例えば、マイク、圧力センサ)、流路、管、撮像素子等等があり、これらのいずれについても本発明を容易に適用することが可能であり、その場合には小型化、低コスト化、高性能化等に貢献することになる。また、これらの機能素子については、中空構造部分が完全に密閉されているものと一部開放されているものとがあるが、いずれのものであっても、本発明を適用することが可能である。
【0075】
また、本実施形態では、中空構造部分34が犠牲層エッチングにより形成される場合を例に挙げて説明したが、中空構造部分34は、必ずしも犠牲層エッチングにより形成されるものに限定されるものではない。つまり、ここでは、振動板31を動作させるための中空構造部分34を形成すべく開口37,61を封止する場合を例に挙げて説明したが、その他にも、例えばインク41の流体供給路を形成する場合に適用することも考えられる。例えば図14(a)に示すように、基板または基板上に積層された層をエッチングして流体供給路71を形成した後に、その流体供給路71を封止膜72で封止する場合においても、上述した中空構造部分35の場合と同様に、封止膜72の成膜材料のリフロー温度以上で成膜すれば、確実な封止が可能となるので、インク41の洩れ等を防止して、流体供給部40へのインク41の供給の確実化が図れるようになる。なお、このように構成された場合には、薄い流体供給路71の形成に好適である。また、例えば図14(b)に示すように、基板または基板上に積層された層を当該基板裏面からエッチングして流体供給路71を形成した後に、その流体供給路71を封止膜72で封止する場合についても、全く同様である。このように構成では、封止膜72が損傷して流体供給路71が開口するといったトラブルを未然に防げるようになる。また、例えば図14(c)に示すように、封止膜72の形成後に、その成膜材料のリフロー温度以上の温度でアニール処理することで、その成膜材料をリフローさせて流体供給路71をカバーすることも考えられる。
【0076】
このように、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に係る機能素子の概略構成の一例を示す説明図である。
【図2】本発明に係る機能素子の製造方法の概要を示す説明図(その1)である。
【図3】本発明に係る機能素子との比較対象となる従来例の概要を示す説明図である。
【図4】本発明に係る機能素子の製造方法の概要を示す説明図(その2)である。
【図5】ブリッジ発生の有無の概念を示す説明図である。
【図6】インクジェットプリンタ装置の概要を示す説明図である。
【図7】本発明に係るインクジェットヘッドの要部構成の一例を模式的に示す斜視図である。
【図8】本発明に係るインクジェットヘッドの要部構成の一例を模式的に示す平面図である。
【図9】本発明に係るインクジェットヘッドの要部構成の一例を模式的に示す側断面図である。
【図10】本発明に係るインクジェットヘッドにおける処理動作の概要を模式的に示す説明図である。
【図11】本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法の概要を示す説明図(その1)である。
【図12】本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法の概要を示す説明図(その2)である。
【図13】本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法の概要を示す説明図(その3)である。
【図14】本発明に係る機能素子の概略構成の他の例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0078】
1…機能素子、2…中空構造部分、3…振動子、4…開口、5…耐エッチング層、6…封止膜、7…カバー層、8…オーバーエッチング部、21…用紙、22…ローラ、23…キャリッジ、24,25…インクジェットヘッド、30…微小流体駆動部、31…振動板、32…基板、33基板側電極、34…中空構造部分、35…振動板側電極、36…支柱、37…開口、38…封止膜、39…補助支柱(ポスト)、40…流体供給部、41…インク、42…圧力室(キャビティ)、43…隔壁構体、43a…隔壁、44…吐出部(ノズル)、51…基板、52…ポリシリコン膜、53…絶縁膜、54…犠牲層、55…シリコン酸化膜、56…ポリシリコン膜、57…シリコン酸化膜、58…シリコン窒化膜、59…シリコン酸化膜、61…開口、62…シリコン酸化膜、63…孔、64…封止膜、65…プラズマシリコン窒化膜、66…厚膜ネガレジスト、67…ノズルシート、67a…ノズル、71…流体供給路、72…封止膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口が物理蒸着によって成膜された封止膜に封止されて中空構造部分が形成されるとともに、
前記封止膜は、前記物理蒸着の際の成膜温度または成膜後のアニール温度を当該封止膜の成膜材料のリフロー温度以上に昇温することにより形成されている
ことを特徴とする機能素子。
【請求項2】
前記中空構造部分は、前記物理蒸着に先立ち前記成膜温度または前記アニール温度以上の温度で、前記中空構造部分の内面の脱ガスが可能な時間の前加熱処理が施されたものである
ことを特徴とする請求項1記載の機能素子。
【請求項3】
前記封止膜に少なくとも1層の膜が積層されてなる
ことを特徴とする請求項2記載の機能素子。
【請求項4】
前記物理蒸着は、金属スパッタリングである
ことを特徴とする請求項1記載の機能素子。
【請求項5】
開口を形成する工程と、
前記開口を封止する封止膜を物理蒸着によって成膜する工程と、
前記物理蒸着の際の成膜温度または成膜後のアニール温度を、前記封止膜の成膜材料のリフロー温度以上に昇温する工程と
により中空構造部分を形成することを特徴とする機能素子の製造方法。
【請求項6】
前記物理蒸着に先立ち前記中空構造部分に対して前記成膜温度または前記アニール温度以上の温度で前記中空構造部分の内面の脱ガスが可能な時間の前加熱処理を施す工程
を含むことを特徴とする請求項5記載の機能素子の製造方法。
【請求項7】
前記封止膜に少なくとも1層の膜を積層する工程
を含むことを特徴とする請求項6記載の機能素子の製造方法。
【請求項8】
前記物理蒸着は、金属スパッタリングである
ことを特徴とする請求項5記載の機能素子の製造方法。
【請求項9】
開口が物理蒸着によって成膜された封止膜で封止されて中空構造部分が形成されるとともに、
前記封止膜は、前記物理蒸着の際の成膜温度または成膜後のアニール温度を当該封止膜の成膜材料のリフロー温度以上に昇温することにより形成されている
ことを特徴とする流体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記中空構造部分は、前記物理蒸着に先立ち前記成膜温度または前記アニール温度以上の温度で、前記中空構造部分の内面の脱ガスが可能な時間の前加熱処理が施されたものである
ことを特徴とする請求項9記載の流体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記封止膜に少なくとも1層の膜が積層されてなる
ことを特徴とする請求項10記載の流体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記物理蒸着は、金属スパッタリングである
ことを特徴とする請求項9記載の流体吐出ヘッド。
【請求項13】
開口が物理蒸着によって成膜された封止膜に封止されて中空構造部分が形成されるとともに、
前記封止膜は、前記物理蒸着の際の成膜温度または成膜後のアニール温度を当該封止膜の成膜材料のリフロー温度以上に昇温することにより形成されている
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項14】
前記中空構造部分は、前記物理蒸着に先立ち前記成膜温度または前記アニール温度以上の温度で、前記中空構造部分の内面の脱ガスが可能な時間の前加熱処理が施されたものである
ことを特徴とする請求項13記載の印刷装置。
【請求項15】
前記封止膜に少なくとも1層の膜が積層されてなる
ことを特徴とする請求項14記載の印刷装置。
【請求項16】
前記物理蒸着は、金属スパッタリングである
ことを特徴とする請求項13記載の印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−21332(P2006−21332A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−198989(P2004−198989)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】