説明

機能薄膜付きガラス板の製造方法及び製造装置

【課題】効率的な乾燥工程を実現できる機能薄膜付きガラス板の製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、ガラス板の表面に液状の機能コーティング剤を塗布し、ガラス板の表面に液膜を形成する塗布工程と、前記液膜が形成されたガラス板を加熱し、前記液膜を焼成する加熱工程とを含む、機能薄膜付きガラス板の製造方法であって、前記塗布工程と前記加熱工程の間に、塗布された前記液状の機能コーティング剤を乾燥させる乾燥工程を有し、該乾燥工程は、真空乾燥工程と、該真空乾燥工程に後続する送風乾燥工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板の表面に液状の機能コーティング剤を効率的に形成する機能薄膜付きガラス板の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、自動車用ガラスの分野において、断熱機能等を備えた機能薄膜付きガラス板が用いられつつある。ガラス板にこの種の機能薄膜を形成する方法として、薄膜形成用液体をスプレーする方法、ディップコート法、スピンコート法、あるいはロールコート法等がある。しかし、これらの方法は、建造物用の装飾窓ガラス、自動車のウィンドガラス等の大型のガラス板表面に薄膜を形成する際は、薄膜を形成する薬液の量は少量であるのに対して、機構上、多量の薬液を必要とし薬液代がかかる。
【0003】
更に、真空蒸着法、エレクトロンビーム法、CVD法(化学的気相蒸着法)、プラズマCVD法、プラズマジェット溶射法、スパッタリング法等は真空中でガラス板表面に均一な膜厚の薄膜を付けることが可能であり、例えば、液晶ディスプレイ製造時にはスパッタリング法を用いて、Cr遮光膜、ITO導電膜等の金属薄膜がガラス基板表面に形成される。しかし、これら方法は建造物用の装飾窓ガラス、または自動車のウィンドガラス等の大型のガラス板表面に薄膜を形成する場合は、真空中で成膜しなければならず、真空装置からなる成膜装置が大がかりとなり高価である。
【0004】
大型のガラス板表面に薄膜を形成するのに多量の薬液を必要とせずに、高価な真空成膜装置を用いない方法としてスクリーン印刷法がある。スクリーン印刷には粘度の高い薬液が必要であり、薬液の粘度を高くするためには、通常、高分子量の有機物を使用するが、高分子量の有機物を多く使用すると、ガラス板表面に生成した薄膜は耐薬品性、耐摩耗性が劣化する等の影響がでる。
【0005】
更に、大型のガラス板表面に生産性よく、即ち、高速で薄膜を形成し、薄膜の膜厚を高精度で再現性よく制御できる方法にフレキソ印刷法がある。しかし、フレキソ印刷法では、版で直接接触させるため、ムラが出やすい。
【0006】
そこで、この種の機能薄膜を形成する方法として、
従来から、液晶ディスプレイのカラーフィルタの製造工程において、ガラス基板の表面上に塗布液を塗布して塗布膜を形成する塗布方法として、スリット状の吐出口を備えた塗布液吐出用ダイヘッドを、吐出口から塗布液をカーテン状に吐出した状態で、ガラス基板の表面上を前記吐出口のスリット方向に直交する方向に前記ガラス基板に対して相対的に移動させて、ガラス基板の全面に塗布液を塗布するスリットコート法が知られている(例えば、特許文献1参照)。これは、スリットコート法が、比較的大きなガラス板に対しても均質な薄膜を形成できるという利点があり、また、コーティング剤を周囲に飛散させてしまうというスピンコート法における問題点が解消されるという利点もあるからである。
【0007】
また、2層コーティングを行う塗布方法として、2層目のコーティング剤を塗布するのに先立って、1層目のコーティング剤を加熱及び冷却する塗布方法が知られている(例えば、特許文献2,3参照)。
【特許文献1】特開2002−153795号公報
【特許文献2】特開平9−176527号公報
【特許文献3】特開平8−41441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、スリットコート法では、スリットを介してコーティング剤を吐出させながら塗工を行う方法であるが故に、スリットにコーティング剤が容易に固着して塗工の妨げとならないように、コーティング剤として、乾燥し難い材料を用いなければならないという制約がある。このため、スリットコート法を採用すると、塗布工程に後続する真空乾燥工程において乾燥時間を長くする必要が生じ、或いは、真空乾燥工程に後続して別の加熱及び冷却工程が必要となり、タクトタイムの悪化や設備コストの増大を招くという問題が生ずる。一方、真空乾燥工程における乾燥時間が不十分であると、次工程でガラス板を加熱した際に膜質にむらが生じるという問題が生じ、或いは、2層コーティングを行う場合には、不十分な乾燥により除去しきれずに残存するコーティング剤の溶剤が、次工程で塗布される別のコーティング剤と反応してしまうという問題が生ずる。
【0009】
そこで、本発明は、スリットコート法を用いる構成に対しても適用可能な、効率的な乾燥工程を実現できる機能薄膜付きガラス板の製造方法及び製造装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を解決するため、第1の発明は、ガラス板の表面に液状の機能コーティング剤を塗布し、ガラス板の表面に液膜を形成する塗布工程と、前記液膜が形成されたガラス板を加熱し、前記液膜を焼成する加熱工程とを含む、機能薄膜付きガラス板の製造方法であって、
前記塗布工程と前記加熱工程の間に、塗布された前記液状の機能コーティング剤を乾燥させる乾燥工程を有し、
該乾燥工程は、真空乾燥工程と、該真空乾燥工程に後続する送風乾燥工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
第2の発明は、第1の発明に係る機能薄膜付きガラス板の製造方法において、前記送風乾燥工程において、前記真空乾燥工程を経たガラス板が、複数枚同時に送風乾燥されることを特徴とする。
【0012】
第3の発明は、第1又は2の発明に係る機能薄膜付きガラス板の製造方法において、前記機能コーティング剤として、以下の条件を満たす乾燥し難い材料が用いられることを特徴とする。
[条件]温度21度、湿度30%の雰囲気下で、ガラス板上に0.05g滴下して固着するまでの時間が7分以上であること。
【0013】
第4の発明は、第1〜3のいずれかの発明に係る機能薄膜付きガラス板の製造方法において、前記塗布工程は、ガラス板の表面上にスリットから機能コーティング剤を吐出させながらガラス板に対してスリットの位置を移動させるスリットコート法により実施されることを特徴とする。
【0014】
第5の発明は、第4の発明に係る機能薄膜付きガラス板の製造方法において、前記機能コーティング剤として、0.1〜10センチポイズの粘性を持つ材料が用いられることを特徴とする。
【0015】
第6の発明は、第1〜5のいずれかの発明に係る機能薄膜付きガラス板の製造方法において、前記乾燥工程と、前記加熱工程の間に、第2の機能コーティング剤を塗布する第2塗布工程と、前記塗布された第2の機能コーティング剤を乾燥させる第2乾燥工程とを有することを特徴とする。
【0016】
第7の発明は、第1〜6のいずれかの発明に係る機能薄膜付きガラス板の製造方法において、前記送風乾燥工程は、風速0.1−1.0mm/秒の微風により行うことを特徴とする。
【0017】
第8の発明は、ガラス板の表面に機能性のある機能コーティング剤を塗布し、ガラス板の表面に液膜を形成する塗布装置と、
前記塗布装置により塗布された液状の機能コーティング剤を乾燥させる乾燥装置と、
前記乾燥装置により機能コーティング剤が乾燥されたガラス板を加熱し、前記液膜を焼成する加熱装置と、を備え、
該乾燥装置は、真空乾燥装置と、真空乾燥装置により真空乾燥された機能コーティング剤を送風乾燥する送風乾燥装置と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
第1の発明によれば、真空乾燥とそれに後続する送風乾燥を行うことで、塗布工程でガラス板の表面上に塗布された機能コーティング剤を効率的に乾燥させることができる。
【0019】
第2の発明によれば、真空乾燥されたガラス板を複数枚同時に送風乾燥することで、送風乾燥工程の追加によるタクトタイムの悪化を防止できる。
【0020】
第3の発明によれば、第1の発明等による効率的な送風乾燥工程を導入することで、乾燥し難い材料を機能コーティング剤として用いることができる。
【0021】
第4の発明によれば、第1の発明等による効率的な送風乾燥工程を導入することで、スリットコート法による塗工を行うことができる。
【0022】
第5の発明によれば、スリットコート法による塗工に好適な粘性の材料を用いることで、ガラス板の表面上に均質な液膜を容易に生成することができる。
【0023】
第6の発明によれば、第1の発明等による効率的な送風乾燥工程を導入することで、十分な乾燥を実現することができるので、2層コーティングを行う場合であっても、第1のコーティング剤と第2のコーティング剤との反応を防止することができる。
【0024】
第7の発明によれば、適切な送風条件で送風乾燥工程を実施することができ、効率的な乾燥と、強風による膜質の悪化の防止との両立を図ることができる。
【0025】
第8の発明によれば、第1の発明同様、真空乾燥とそれに後続する送風乾燥を行うことで、塗布工程でガラス板の表面上に塗布された機能コーティング剤を効率的に乾燥させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【0027】
先ず、図1及び図2を参照して、本発明に係る機能薄膜付きガラス板の製造方法に関連する主要な製造工程(及びそれに用いる装置)について説明する。
【0028】
図1は、本発明に係る機能薄膜付きガラス板の製造ライン上に設置される各装置を、製造工程の流れに沿って示す図である。図2は、図1の製造工程により形成されるガラス板に薄膜の構成を示す図である。尚、以下では、自動車用ガラスの製造工程を例に説明し、ガラス板に形成される機能薄膜は、断熱機能を有する薄膜であるとする。即ち、以下では、熱線を吸収する機能薄膜を備える自動車用ガラスの製造工程を例に説明する。
【0029】
図1に示す製造ラインには、平らな所定サイズ(例えば1000mm×1200mm)のガラス板が搬送され、ローダー100により持ち上げられ、ヘッドコーター200の所定位置へと搬送される。ヘッドコーター200、500の詳細な構成については後述する。尚、ローダー100(ヘッドコーター200)から後述する加熱装置700までの工程は、ガラス板の表面上に形成される各液膜に粉塵等が混入するのを防止すべく、クリーンルーム内で実行される。
【0030】
ヘッドコーター200は、ガラス板の表面上に、後述するスリットコート法により、第1層目の被膜F1(図2参照)を形成するための液膜を形成する。この液膜は、後述する後工程で焼成され、断熱機能をガラス板に付与する第1層被膜となる。第1層被膜は、赤外線遮蔽性を発現する透明導電性酸化物微粒子を用いて形成されてよい。透明導電性酸化物微粒子は、酸化インジュウム、酸化錫、および酸化亜鉛からなる群より選ばれる1種類以上からなる微粒子が好ましい。赤外線遮蔽性の観点からは、酸化錫が酸化インジュウムに混合された材料(以下ITOと呼ぶ)からなる微粒子が好ましい。ITOの酸化錫と酸化インジュウム混合の比率はインジュウム原子数に対する錫原子数(Sn/In)で表すとき、Sn/In=2〜20であることが必要で、特にSn/In=3〜10が好ましい。
【0031】
ここで用いられる好適なITO微粒子は、xy色度座標におけるc光源、2°視野での粉体色がx値0.3以上、y値0.33以上である。このようなITO微粒子は、そのものでは赤外線遮蔽性は有していないが、後工程の焼成工程において膜中で還元が起こり、キャリアが発生して赤外線遮蔽性を有する膜となるものである。このようなITO微粒子は、共沈法などで得られた前駆体粉末を大気中もしくは窒素などの通常の不活性ガス中での焼成のみで作成可能である。
【0032】
ITO微粒子は、透明性という観点からは平均一次粒子径として100nm以下であることが必要である。特に好ましくは、粉末X線回折分析から算出される結晶子径が15〜50nmであるITO微粒子を用いると良い。結晶子径がこれより小さくなると膜中での還元が起こった後でも高い赤外線遮蔽性を発現することができず、またこれ以上の結晶子径を有する微粒子では透明性が低下する恐れがあるからである。
【0033】
焼成後の被膜内のITO微粒子の凝集状態は、組成物中での凝集状態を反映するため、被膜の透明性や電波透過性を維持するためには、ITO微粒子は組成物中で高度に分散されている必要がある。分散状態としては、数平均の凝集粒子径として、500nm以下、さらには200nm以下、更には100nm以下であることが好ましい。分散媒としては、水、アルコールなどの極性溶媒や、トルエン、キシレンといった非極性溶媒など、種々の溶媒が適宜利用できる。分散させるための方法としては、公知の方法を利用でき、超音波照射、ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ペイントシェーカーなどのメディアミルや、ジェットミルやナノマイザーなどの高圧衝撃ミルなどを利用できる。
【0034】
前記記載のようにITO微粒子が溶媒に分散された分散液に、加熱によりシロキサン結合を有する酸化ケイ素マトリックスとなりうる成分(以降、シロキサンマトリックス材料)を添加して塗布用組成物(第1層被膜用の液状コーティング剤)とすることができる。シロキサンマトリックス材料とは、加熱によってシロキサン結合(Si−O−Si)が形成されて3次元ネットワーク化し、硬質、透明な酸化ケイ素マトリックスとなりうる化合物であり、具体的にはゾルゲル法で利用されるアルコキシシラン類やアルコキシシラン類の加水分解、アルコキシシラン類の縮合物、水ガラスなどが挙げられる。中でも、アルコキシシラン類が好ましく用いられる。アルコキシシラン類としては、一般式(CHSi(OR)4−a(Rはメチル基またはエチル基であり、aは整数)で表されるアルコキシシランが挙げられ、具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランを示し、これらの混合物、前記混合物の加水分解物、もしくは前記混合物の重縮合物からなる群から選ばれる1種類以上のものが好ましい。
【0035】
第1層被膜に有効な赤外線遮蔽性を具備させるためにはある程度の厚さを必要とするため、厚さと被膜の硬さのバランスを考慮すると、前記混合物、前記加水分解、もしくは前記重縮合物からなる群から選ばれる1種類以上のもの平均組成式が(CHSi(OR)4−m(m=0.2〜0.95)で表されるものが更に好ましい。ここで、mは、Si原子に隣接するCH基とSi原子の存在比を示し、mが0.2未満では被膜を厚膜化する際に膜にクラックが入りやすくなり、0.95超になると十分な硬度を持った被膜ができにくくなるだけでなく、CH基が後述する熱処理時に抜けにくくなって被膜が着色するおそれがある。また、Ti、Sn、Zr、Al、B、P、Nb、Taなど、ガラス形成もしくは修飾成分となりうる他の元素やその化合物を含んでいてもよい。
【0036】
本組成物中のITO微粒子とシロキサンマトリックス材料の存在比は、酸化物換算の質量比で[ITO微粒子]/[酸化ケイ素]=1/2以上である。好ましくは1/1以上である。これは、ITO微粒子がシロキサンマトリックス材料に対して質量比で1/2未満では赤外線遮蔽性が不足するためである。
【0037】
真空乾燥機300は、真空乾燥を行うチャンバを備え、チャンバ内には、上述の如くヘッドコーター200により液膜が塗布されたガラス板が一枚ずつ収容される。ガラス板がチャンバ内に収容されると、チャンバ内が減圧され、ヘッドコーター200により塗布された液膜に含まれる溶剤が除去される。これにより、1層目のコーティング剤がガラス板の表面上に層状に固着される。この真空乾燥工程は、ガラス板一枚に対して、例えばー1.33×10[Pa]の減圧条件下で所定の真空乾燥時間かけて行われる。この所定の真空乾燥時間は、タクトタイムに応じて決定される。従って、真空乾燥時間は、タクトタイムの短縮化の観点からは短い方が望ましい。本例では、10分とする。
【0038】
送風乾燥装置400は、真空乾燥機300による真空乾燥工程を経たガラス板に対して、微風を供給することで送風乾燥を行う。送風乾燥装置400の詳細な構成については後述する。
【0039】
この送風乾燥工程は、好ましくは、先入れ先出し(FIFO)方式のバッチ処理が用いられる。例えば、送風乾燥装置400は、10分毎に真空乾燥機300から順次供給されるガラス板を複数枚貯留して同時に送風乾燥を行い、ガラス板一枚に対して例えば20分送風乾燥を行った後に、後工程へと払い出すものであってよい。この場合、真空乾燥時間10分+送風乾燥時間20分=総乾燥時間30分となり、ガラス板一枚に対して、液膜に含まれる溶剤を完全に除去するのに十分な乾燥処理を実現することができる。また、この場合も、送風乾燥処理は先入れ先出し方式のバッチ処理により、送風乾燥装置400から10分毎に、20分の送風乾燥処理を経たガラス板を後工程に払い出すことができるので、送風乾燥工程の追加によりタクトタイムの短縮化の妨げとなることも無い。
【0040】
ヘッドコーター500は、上述の送風乾燥処理を経たガラス板の表面上に、後述するスリットコート法により、第2層目の被膜F2(図2参照)を形成するための液膜を形成する。この液膜は、後述する後工程で焼成され、ガラス板ないし第1層被膜に耐磨耗性を付与する上層被膜F2となる。上層被膜は、上述の如く送風乾燥処理を経たガラス板の下層被膜上に、上層被膜用の液状コーティング剤として、例えばポリシラザン化合物を含む組成物を塗布することで形成される。
【0041】
上層被膜は、後の熱処理時に下層の透明導電性酸化物微粒子中に酸素が供給されて透明導電性酸化物微粒子が酸化されるのを防ぐ、酸素バリヤ膜としての働きを有する。ポリシラザンとは、Si−NR−Si(Rは水素もしくは炭化水素基)シラザン結合を有する樹脂化合物の総称であり、加熱あるいは水分との反応によってSi−NH結合が分解してSi−O−Siネットワークを形成する材料である。
【0042】
上記一般式のR=Hであるペルヒドロポリシラザンは、硬質の上層被膜を作成することができる。このポリシラザンから形成される上層被膜は、比較的酸素バリヤ性が高く、本工程で用いられる酸素バリヤ層用材料として非常に好適である。上層被膜形成用の組成物中には、硬化触媒、溶媒、活性剤が添加され、上層被膜形成用の組成物中におけるポリシラザン化合物の量は、組成物全体に対し質量比で20%以下が望ましい。また、他の金属源など被膜形成に必要ない不純物も少量含まれていてもよい。
【0043】
上層被膜の膜厚は、熱処理した後の膜厚として0.02〜0.2μmであることが非常に重要である。下被膜の膜中成分によって最適な膜厚は変動するものの、0.02μm未満の膜厚では酸素バリヤ性が不足して熱処理中に下被膜中のITOが酸化されてしまい、赤外線遮蔽性は維持できなくなるおそれがあるし、0.2μm超に膜厚を厚くすると、熱処理時に下層被膜から発生する分解成分、たとえばアルコキシシラン化合物から発生する有機成分などが抜けにくくなるため被膜が着色したり、クラックが発生したりする。
【0044】
真空乾燥機600は、真空乾燥を行うチャンバを備え、チャンバ内には、上述の如くヘッドコーター500により液膜が塗布されたガラス板が一枚ずつ収容される。ガラス板がチャンバ内に収容されると、チャンバ内が減圧され、ヘッドコーター500により塗布された液膜に含まれる溶剤が除去される。これにより、2層目のコーティング剤が、1層目のコーティング剤により形成される層の上に層状に固着される。同様に、この真空乾燥工程における真空乾燥時間は、製造工程全体の流れに応じて決定される。
【0045】
加熱装置700は、例えばIRヒーターからなり、真空乾燥機600による真空乾燥工程を経たガラス板に対して加熱乾燥を行う。これにより、ヘッドコーター500により塗布された液膜に含まれる溶剤が完全に除去される。尚、この加熱装置700による加熱乾燥処理を経たガラス板は、完全に乾燥されているが故に、液膜に粉塵等が付着され難い状態となるので、クリーンルーム外への搬出が可能となる。
【0046】
仮焼成炉800は、上述の如くガラス板の表面上に形成された2層の液膜を仮焼成する。これにより、断熱機能薄膜付きガラス板の素板が出来上がる。尚、断熱機能薄膜付きガラス板の素板は、その後、切断・面取り工程、加熱・曲げ成形工程等を経て、所望の構成(形状等)の断熱機能薄膜付きガラス板の完成品へと加工される。尚、この曲げ成形前の加熱工程により、上述の如く仮焼成された2層の液膜が完全に焼成されることになる。断熱機能薄膜付きガラス板の素板は、例えば合わせガラスに加工されて、自動車のフロントウインドシールドとして用いられてもよいし、強化ガラスに加工されて、自動車のサイドガラスやリアガラスとして用いられてもよい。
【0047】
次に、図3〜図6を参照して、上述のヘッドコーター200、500の一実施例について説明する。尚、ヘッドコーター200、500の構成は、実質的に同一であってよいので、ヘッドコーター200の構成を代表して説明する。
【0048】
図3は、ヘッドコーター200の概略構成を示す断面図であり、図4は、図3のヘッドコーター200の上面図であり、図5は、ヘッドコーター200のダイヘッド220の下面(スリット230)を示す斜視図であり、図6は、ヘッドコーター200により実現されるスリットコート法による塗布態様を模式的に示す図である。
【0049】
ヘッドコーター200は、ガラス板Gに液状コーティング剤を吐出するためのダイヘッド220を備えている。ダイヘッド220は、例えばガラス板Gの短辺に応じた長さの略直方体形状を有している。ガラス板Gは、ダイヘッド220の長手方向(図3及び図4のY方向)が短辺方向に対応するように、ダイヘッド220の下方の台上に配置される。ダイヘッド220の下面には、図5に示すように長手方向に沿ったスリット230が形成されている。スリット230の幅(X方向の幅)は、例えば40ミクロン程度に形成されている。スリット230の長手方向(Y方向)の長さは、例えばガラス板Gの短辺よりやや短く形成されている。ダイヘッド220の側面には、液状コーティング剤の供給源(図示せず)に連通する供給管240が接続されている。ダイヘッド220は、供給管240を介して液状コーティング剤が導入され、液状コーティング剤がスリット230からカーテン状に吐出されるように構成されている。ダイヘッド220は、例えばアクチュエータ等により、昇降可能に構成されており、また、例えば電気モータ等により、レール250に沿ってX軸方向(スリット230の長手方向に直交する方向)に移動可能に構成されている。
【0050】
ダイヘッド220は、動作時、図6に示すように、スリット230から液状コーティング剤をカーテン状に吐出した状態で、ガラス板Gの長辺方向(図3及び図4のX方向)に移動していく。このようにして、ガラス板Gの表面の略全面に、液状コーティング剤が均一な所定の膜厚で塗布される。尚、上述のようなヘッドコーター200の動作は、図示しない制御装置により制御される。
【0051】
このようなスリットコート法によれば、大きなガラス板Gに対しても均質な薄膜を比較的容易に形成でき、また、例えばスピンコート法のように、コーティング剤を周囲に飛散させて無駄にしてしまうことも無く、メインテナンスが容易となる。
【0052】
ここで、上述のようなスリットコート法に用いる液状コーティング剤としては、膜厚スリット230からのカーテン状の吐出態様(ひいては均一な膜厚による塗布態様)を実現できる適切な範囲の粘性を有することが望ましい。このため、液状コーティング剤は、好ましくは、0.1〜10センチポイズの粘性を持つ材料、より好ましくは、0.8〜7.0センチポイズの粘性を持つ材料が用いられる。
【0053】
また、上述のようなスリットコート法に用いる液状コーティング剤は、幅の小さいスリット230(例えば40ミクロン程度の幅)に液状コーティング剤が容易に固着して詰まることがないように、乾燥し難い性質を有することが望ましい。このため、液状コーティング剤は、好ましくは、以下の条件を満たす乾燥し難い材料が用いられる。
[条件]温度21度、湿度30%の雰囲気下で、ガラス板上に0.05g滴下して固着するまでの時間が7分以上であること。
【0054】
尚、上述した第1層被膜用の液状コーティング剤は、この条件を満たすことが本願の発明者により確認されており、スリットコート法に用いる液状コーティング剤として好適な乾燥し難い性質を有している。
【0055】
一方、上述した上層被膜用の液状コーティング剤は、この条件を満たすことが本願の発明者により確認されているものの、第1層被膜用の液状コーティング剤よりも固着性が高い故に、スリットの詰まりを誘起しやすい。このため、ヘッドコーター500においては、スリットの先端に例えば5分毎に1回、溶剤を噴霧してスリットの先端での上層被膜用の液状コーティング剤の固着を防止してもよい。
【0056】
ところで、このような乾燥し難い液状コーティング剤(特に第1層被膜用の液状コーティング剤)を用いると、上記の「発明が解決しようとする課題」の欄で摘示したように、塗布工程に後続する真空乾燥工程において乾燥時間を長くする必要が生じ、或いは、真空乾燥工程に後続して別の加熱及び冷却工程が必要となり、タクトタイムの悪化や設備コストの増大という問題が生ずる。一方、真空乾燥工程における乾燥時間が不十分であると、除去しきれずに残存する1層目のコーティング剤の溶剤が、次工程で塗布される2層目のコーティング剤と反応してしまうという問題が生ずる。
【0057】
これに対して、本実施例によれば、上述の如く、真空乾燥工程に後続して送風乾燥工程を行うので、真空乾燥工程を単に長くするだけの構成に比べて、タクトタイムの悪化を防止することができ、また、2層目のコーティング剤を塗布する前に別の加熱及び冷却工程を導入する構成(例えば、特開平9−176527号公報、特開平8−41441号公報参照)に比べて、加熱及び冷却装置を導入する大型の設備投資や、ガラス板Gの加熱及び冷却に必要な長い待ち時間を省くことができる。即ち、本実施例によれば、スリットコート法に用いる乾燥し難い液状コーティング剤を塗布した場合であっても、真空乾燥工程に後続して送風乾燥工程を行うことで、タクトタイムの悪化や設備コストの増大を招くことなく、必要な乾燥を効率的に実現することができる。従って、本実施例によれば、上述の如く2層目のコーティング剤として、反応性の高い材料を用いた場合であっても、1層目のコーティング剤に残存する溶剤との反応を確実に防止できる十分な乾燥を、効率的に実現することができる。
【0058】
次に、図7及び図8を参照して、かかる有用な送風乾燥処理を実現するのに好適な送風乾燥装置400の一実施例について説明する。図7は、送風乾燥装置400の主要構成を示す正面図であり、図8は、複数のガラス板Gが収容された状態の送風乾燥室410を示す斜視図である。
【0059】
送風乾燥装置400は、図7に示すように、複数(図示の例では7枚)のガラス板Gを収容する乾燥室410と、送風機420とを備える。乾燥室410は、図8にも示すように、ボックス形状のシェルボックス412の内部に形成され、シェルボックス412は、一の側面(図7の正面)が、ガラス板Gの搬入/搬出作業のために開口されている。乾燥室410内には、この開口を介して、例えばロボットアームにより、真空乾燥機300による真空乾燥工程を経たガラス板Gが順次搬入されてくる。所定の送風乾燥時間を経て送風乾燥処理を終えたガラス板Gは、乾燥室410内から同開口を介してロボットアームにより、次工程(上述の例では、ヘッドコーター500による2層目の塗布工程)へと搬出されていく。
【0060】
シェルボックス412は、複数のガラス板Gが互いに所定の間隔を置いて積層されるように、ガラス板Gの縁部を支持する支持部414を所定間隔毎に有する。この所定間隔は、ロボットアームによるガラス板Gの搬入/搬出作業の作業性の観点や、複数のガラス板G間の適切な空気流れを確保する観点から、決定されてよい。
【0061】
シェルボックス412は、送風機420から供給される微風を効率的に取り込めるように、送風機420に隣接して配置される。送風機420に対向するシェルボックス412の一組の側面412a,412bは、通風性を有する部材から形成される。例えば、図7に示すように、送風機420に対向する側面412aには、送風機420から供給される微風を乾燥室410内に導入するため、空気フィルタ機能を備えた通風部430が設けられる。空気フィルタは、HEPAフィルタが微粒子を高性能で除去できるので好ましい。側面412aに対向する他方の側面412bには、図示しないが、乾燥室410内に導入された微風を排出するため、同様の通風部(但し、空気フィルタ機能は無くてもよい。)が設けられる。これにより、図7に示すように、送風機420から供給される微風は、通風部430を介して乾燥室410内に導入され、積層された複数のガラス板G間の空間を通って、反対側の通風部を介して乾燥室410外へと流れていく。この微風の流れにより、真空乾燥により除去しきれずにコーティング剤に残存する溶剤が、完全に蒸発して乾燥室410外へと排出される。
【0062】
尚、本発明は、シェルボックス412の側面側から通風を行う上記の構成に限定されることは無く、この構成に代えて又は加えて、搬入/搬出のための開口に対向する面に空気フィルタ機能を備えた通風部を設けてもよい。その場合、送風機420から供給される微風は、当該通風部を介して乾燥室410内に導入され、反対側の開口より乾燥室410外へと流れていく。
【0063】
送風機420は、微風を供給できる手段であれば如何なる構成であっても良く、例えばファンのような通常的な送風機であってよい。送風機420は、好ましくは、乾燥室410内で風速0.1−1.0mm/秒の微風を生成し、更に好ましくは、乾燥室410内で風速0.2−0.6mm/秒の微風を生成する。これにより、効率的な乾燥と、強い風による液膜のむらの発生の防止との両立を図ることができる。
【0064】
尚、一枚のガラス板に対して必要な送風乾燥時間は、真空乾燥により除去しきれずにコーティング剤に残存する溶剤が完全に除去されるのに十分な時間に設定されるが、この送風乾燥時間は、乾燥室410内での風速や、真空乾燥機300による真空乾燥時間に依存するので、試験等に適合されてよい。
【0065】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0066】
例えば、上述した実施例では、2層コーティングにより形成される機能薄膜付きガラス板の製造方法に関するものであったが、本発明は、1層コーティングにより機能薄膜を形成する場合に対しても適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上のとおり本発明は、自動車用窓ガラスの製造に限らず、その他の車両、航空機、船舶又は建築物等の窓ガラスの製造にも適用できる。また、本発明による送風乾燥工程は、乾燥し難い無機材料のコーティング剤を用いた塗布工程後の乾燥工程に好適であるが、液晶表示ディスプレイやプラズマディスプレイ製造用のガラス基板、半導体集積回路製造用のシリコンウエファー、光学フィルタ製造用のプラスチック基板などの基板の表面に、例えばフォトレジスト膜、絶縁膜または導電膜などの塗布膜を形成すべく各種の塗布液を塗布する塗布工程後の乾燥工程にも適用可能である。また、本発明による送風乾燥工程は、上述の如くスリットコート法による塗布工程後の乾燥工程に対して好適であるが、スピンコート法による塗布工程後の乾燥工程に用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明による機能薄膜付きガラス板の製造方法に係るガラス板製造工程の流れを示す図である。
【図2】図1の製造工程により形成されるガラス板に薄膜の構成を示す図である。
【図3】ヘッドコーター200の概略構成を示す断面図である。
【図4】ヘッドコーター200の上面図である。
【図5】ヘッドコーター200のダイヘッド220の下面を示す斜視図である。
【図6】ヘッドコーター200により実現されるスリットコート法による塗布態様を模式的に示す図である。
【図7】送風乾燥装置400の主要構成を示す正面図である。
【図8】複数のガラス板Gが収容された状態の送風乾燥室410を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0069】
200 ヘッドコーター
220 ダイヘッド
230 スリット
300 真空乾燥機
400 送風乾燥装置
410 送風乾燥室
420 送風機
500 ヘッドコーター
600 真空乾燥機
700 加熱装置
800 仮焼成炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板の表面に液状の機能コーティング剤を塗布し、ガラス板の表面に液膜を形成する塗布工程と、前記液膜が形成されたガラス板を加熱し、前記液膜を焼成する加熱工程とを含む、機能薄膜付きガラス板の製造方法であって、
前記塗布工程と前記加熱工程の間に、塗布された前記液状の機能コーティング剤を乾燥させる乾燥工程を有し、
該乾燥工程は、真空乾燥工程と、該真空乾燥工程に後続する送風乾燥工程と、を含むことを特徴とする機能薄膜付きガラス板の製造方法。
【請求項2】
前記送風乾燥工程において、前記真空乾燥工程を経たガラス板が、複数枚同時に送風乾燥される、請求項1に記載の機能薄膜付きガラス板の製造方法。
【請求項3】
前記機能コーティング剤として、以下の条件を満たす乾燥し難い材料が用いられる、請求項1又は2に記載の機能薄膜付きガラス板の製造方法。
[条件]温度21度、湿度30%の雰囲気下で、ガラス板上に0.05g滴下して固着するまでの時間が7分以上であること。
【請求項4】
前記塗布工程は、ガラス板の表面上にスリットから機能コーティング剤を吐出させながらガラス板に対してスリットの位置を移動させるスリットコート法により実施される、請求項1〜3のいずれかに記載の機能薄膜付きガラス板の製造方法。
【請求項5】
前記機能コーティング剤として、0.1〜10センチポイズの粘性を持つ材料が用いられる、請求項4に記載の機能薄膜付きガラス板の製造方法。
【請求項6】
前記乾燥工程と、前記加熱工程の間に、第2の機能コーティング剤を塗布する第2塗布工程と、前記塗布された第2の機能コーティング剤を乾燥させる第2乾燥工程とを有する、請求項1〜5のいずれかに記載の機能薄膜付きガラス板の製造方法。
【請求項7】
前記送風乾燥工程は、風速0.1−1.0mm/秒の微風により行う、請求項1〜6のいずれかに記載の機能薄膜付きガラス板の製造方法。
【請求項8】
ガラス板の表面に機能性のある機能コーティング剤を塗布し、ガラス板の表面に液膜を形成する塗布装置と、
前記塗布装置により塗布された液状の機能コーティング剤を乾燥させる乾燥装置と、
前記乾燥装置により機能コーティング剤が乾燥されたガラス板を加熱し、前記液膜を焼成する加熱装置と、を備え、
該乾燥装置は、真空乾燥装置と、真空乾燥装置により真空乾燥された機能コーティング剤を送風乾燥する送風乾燥装置と、を含むことを特徴とする機能薄膜付きガラス板の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−246295(P2007−246295A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−68098(P2006−68098)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【出願人】(391032358)平田機工株式会社 (107)
【Fターム(参考)】