説明

止水用液剤の供給方法、供給装置、およびこれを用いた車載用電線の止水処理方法ならびに車載用電線

【課題】必要量の止水用液剤を一度で正確に供給できるようにすることにより、止水処理を迅速化する。
【解決手段】止水用液剤18を、供給口であるノズル56から一定流量で連続的に止水対象箇所に流下させ、この流下操作中に、前記ノズル56から流下する止水用液剤18の存在を検知して、その検知時間に基づいて前記止水用液剤18の流下時間tを計測し、この止水用液剤18の流下時間tがあらかじめ定められた目標流下時間taに達したときに、前記止水用液剤18の流下を停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定量の止水用液剤を止水対象箇所に供給する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば電線や回路部品等の電装品においては、水分が浸入すると短絡が起きるおそれのある箇所等に、樹脂や接着剤等からなる止水剤を充填して止水処理を施すことが行われてきた。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、車両のアースに接続されるアース用電線の一方の端末に止水処理を施す技術が開示されている。具体的に、この特許文献1では、前記アース用電線の一方の端末に、少なくとも供給時に流動性を有する止水剤(止水用液剤)を、例えばディスペンサを用いて少量ずつ複数回に分けて滴下することにより、当該一方の端末に前記止水剤を充填して止水することが行われている。
【特許文献1】特開2004−355851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、止水用液剤を複数回に分けて滴下する前記特許文献1の方法では、滴下のインターバルの分だけ無駄な時間が発生し、必要な止水用液剤の供給量が多いほど、滴下の回数も増えて所要時間が長くなるという問題があった。その一方、前記特許文献1のように、例えば電線の端末等の細かい箇所に止水処理を施す場合には、適量の止水用液剤を正確に止水対象箇所に供給することが求められていた。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、必要量の止水用液剤を一度で正確に供給することができ、もって止水処理の迅速化を図ることのできる止水用液剤の供給方法および供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、所定量の止水用液剤を止水対象箇所に供給するための方法であって、前記止水用液剤を、供給口であるノズルから一定流量で連続的に前記止水対象箇所に流下させる液剤流下操作と、この液剤流下操作中に、前記ノズルから流下する止水用液剤の存在を検知して、その検知時間に基づいて前記止水用液剤の流下時間を計測する流下時間計測操作と、この止水用液剤の流下時間があらかじめ定められた目標流下時間に達したときに、前記止水用液剤の流下を停止させる液剤停止操作とを含むことを特徴とするものである(請求項1)。
【0007】
この止水用液剤の供給方法によれば、止水用液剤を一定流量で連続的に流下させ、この止水用液剤の流下時間があらかじめ定められた目標流下時間に達したときに当該流下を停止させるようにしたため、止水用液剤を複数回に分けて滴下する前記特許文献1の方法と異なり、必要量の止水用液剤を1回の流下操作で迅速に供給することができる。しかも、ノズルから流下する止水用液剤の存在を検知手段によって検知し、その検知時間に基づいて前記流下時間を計測するようにしたため、この流下時間を正確に計測することができ、それによって正確な量の止水用液剤を止水対象箇所に確実に供給することができる。
【0008】
前記液剤流下操作は、半透明または不透明の止水用液剤を流下させる操作であり、前記流下時間計測操作は、発光部と受光部とを有する光学式センサを前記ノズルの下方に設置しておき、この光学式センサの発光部から発信された光が遮断されるのに応じて、前記発光部と受光部との間を流下する前記止水用液剤の存在を検知し、その検知時間に基づいて前記止水用液剤の流下時間を計測する操作であることが好ましい(請求項2)。
【0009】
このように、前記止水用液剤として半透明または不透明の止水用液剤を用いるとともに、この止水用液剤の供給口である前記ノズルの下方に設置された光学式センサによって前記止水用液剤の存在を検知するようにした場合には、この光学式センサの発光部から発信された光が前記止水用液剤によって遮断されるのに応じて、前記ノズルから流下する止水用液剤の存在を確実に検知することができ、その検知時間に基づいて前記止水用液剤の流下時間を正確に計測することができるという利点がある。
【0010】
また、前記止水用液剤の供給方法においては、前記液剤流下操作の前に、前記止水用液剤の流下時間と流下量との関係式をあらかじめ算出しておき、この関係式に基づいて前記目標流下時間を決定することが好ましい(請求項3)。
【0011】
このようにすれば、例えば止水対象箇所の大きさ等に応じて異なる量の止水用液剤を流下させたいときに、その流下量に対応した目標流下時間を前記関係式に基づいて容易に再設定できるという利点がある。
【0012】
またこの場合、前記液剤流出操作の前に、複数の異なる流下時間における流下量をあらかじめ実測しておき、各流下時間とこれに対応して実測された各流下量とに基づいて、前記流下時間と流下量との関係式を算出することが好ましい(請求項4)。
【0013】
このように、流下量の実測値に基づいて前記関係式を算出するようにした場合には、止水用液剤の種類等に応じた正確な関係式を確実に算出できるという利点がある。
【0014】
また、本発明は、導体の外側に被覆材を有して車両に搭載される車載用電線を止水処理するための方法であって、前述したような止水用液剤の供給方法により、前記車載用電線の少なくとも一方の端末に前記止水用液剤を供給する液剤供給工程と、前記車載用電線の内圧と前記端末に供給された止水用液剤の周囲の外圧とに差をもたせ、当該圧力差によって前記止水用液剤を前記被覆材の内側に浸透させる液剤浸透工程とを含むことを特徴とするものである(請求項5)。
【0015】
本発明の車載用電線の止水処理方法によれば、必要量の止水用液剤を一度に流下させることが可能な前記供給方法によって前記車載用電線の端末に止水用液剤を供給するとともに、当該端末に供給された止水用液剤を圧力差によって強制的に車載用電線の被覆材の内側に浸透させるようにしたため、車載用電線の止水処理を迅速かつ確実に行うことができる。
【0016】
なお、本発明の止水処理方法の対象となる車載用電線類の種類や配設個所は特に限定されないが、本発明は、車両に搭載される回路をアースに接続するための電線であってその少なくとも一方の端末にアース用端子(例えば車両のボディ等の特定部位に連結される端子)が装着されるアース用電線のように、その端末が雨水等に晒され易い電線に特に有効である。前記アース用電線の場合、少なくともこのアース用端子が装着される端末に対して前記液剤供給工程および液剤浸透工程を行うようにすればよい。また、前記アース用電線以外では、例えば、電線途中部の被覆材が剥離されたスプライス電線のように被覆材内部への水分の浸入が発生し易い種類のもの、またはコネクタに防水機能が備えられていてもそのコネクタが特に高い防水性が要求される回路に接続されるもの等にも有効である。
【0017】
また、前記車載用電線の止水処理方法においては、前記液剤供給工程の前に、前記車載用電線の端末を取り囲む囲繞壁を形成しておき、この囲繞壁によって前記止水用液剤が周囲に溢れ出すのを防止しながら前記液剤供給工程を行うことが好ましい(請求項6)。
【0018】
このように、車載用電線の端末という比較的狭い領域に必要量の止水用液剤を一度に流下させる前記液剤供給工程の前に、あらかじめ前記端末を取り囲む囲繞壁を形成しておき、この囲繞壁によって前記止水用液剤が周囲に溢れるのを防止しながら前記流下を行うようにした場合には、比較的多量の止水用液剤であっても安定して前記端末に供給できるという利点がある。
【0019】
また、本発明は、導体の外側に被覆材を有して車両に搭載される車載用電線であって、前述したような止水処理方法により被覆材の内側に止水用液剤が充填されていることを特徴とするものである(請求項7)。
【0020】
さらにまた、本発明は、所定量の止水用液剤を止水対象箇所に供給するための装置であって、前記止水用液剤の供給口であるノズルを有し、このノズルから前記止水用液剤を一定流量で連続的に前記止水対象箇所に流下させるディスペンサと、このディスペンサのノズルから流下する前記止水用液剤の存在を検知する液剤検知手段と、この液剤検知手段による前記止水用液剤の検知時間に基づいて前記止水用液剤の流下時間を計測するとともに、この流下時間が、あらかじめ定められた目標流下時間に達したときに、前記ディスペンサによる止水用液剤の流下を停止させるように制御する制御手段とを備えることを特徴とするものである(請求項8)。
【0021】
この止水用液剤の供給装置を用いれば、必要量の止水用液剤を一度で正確に止水対象箇所に供給することができる。
【0022】
前記ディスペンサは、所定方向に移動可能に支持されており、前記検知手段は、前記ノズルと一体に移動するように前記ディスペンサに取り付けられていることが好ましい(請求項9)。
【0023】
この構成によれば、ディスペンサを移動可能に支持したため、例えば複数の止水対象箇所に対し、1台のディスペンサを用いて効率的に止水用液剤の供給を行うことができる。しかも、ディスペンサのノズルと一体に移動するように前記検知手段を取り付けたため、このディスペンサの移動にかかわらず、前記ノズルから流下する止水用液剤を前記検知手段によって確実に検知することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明によれば、必要量の止水用液剤を一度で正確に供給することができるため、止水処理を効果的に迅速化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の好ましい実施の形態を図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態は、車両に搭載された回路をアースに接続するためのアース用電線の止水処理に本発明方法を適用するものであるが、このようなアース用電線に限らず高い防水性が求められる各種の車載用電線類について本発明が適用可能であることは、上述したとおりである。
【0026】
この実施の形態にかかるアース用電線の止水処理方法は、次の各工程を含む。
【0027】
1)端子装着工程
この工程は、図1(a)(b)に示すようなアース用電線10の一方の端末16にアース用端子20を装着(図例では圧着固定)する工程である。
【0028】
図例では、前記アース用電線10として、内部導体12と、その周囲に配される被覆材14とを有し、この被覆材14が電気絶縁材により構成されたものを用いる。そして、このアース用電線10の一方の端末16(以下「処理側端末16」と称する。)の被覆材14を所定長さだけ除去して前記内部導体12を露出させておく。
【0029】
この処理側端末16に対し、図1(a)(b)に示すようなアース用端子20を圧着固定する。図例のアース用端子20は、単一の金属板を曲げ加工することにより形成されたものであり、車両のボディアースに接続されるアース接続部21と、その後方に位置する導体バレル22およびインシュレーションバレル24とを一体に有している。前記アース接続部21には図略のボルトが挿通可能なボルト挿通孔21aが設けられ、当該ボルトによって前記アース接続部21が車両の適当なアース部位(一般にはボディの適所)に締結されることにより、前記アース用電線10の内部導体12が前記アース用端子20を介して車両アースに接続されるようになっている。
【0030】
端子圧着工程を行うには、まず、前記アース用端子20の前記両バレル22,24が開いた状態で、前記のようにアース用電線10の被覆材14が除去された側の端末すなわち処理側端末16をセットする。そして、前記導体バレル22およびインシュレーションバレル24を閉じ方向に曲げ変形させてそれぞれ前記内部導体12および被覆材14に圧着(かしめ)固定する。
【0031】
2)液剤供給工程
この工程は、前記アース用端子20が装着されたアース用電線10の処理側端末16に、図2〜図4に示すような液剤供給装置50を用いて流動性を有する止水用液剤18を供給する工程である。具体的には、アース用端子20の導体バレル22とインシュレーションバレル24との間の箇所に前記止水用液剤18を流下させ、この止水用液剤18を前記箇所に溜めるようにする。これにより、当該止水用液剤18が前記処理側端末16における内部導体12と被覆材14との隙間を外側から塞ぐ状態にすることができる。なお、この液剤供給工程では、必要量の止水用液剤18を一度に処理側端末16に流下させるため(詳細は後述する)、当該流下を、前記処理側端末16を周囲から取り囲む囲繞壁(図示省略)をあらかじめ形成した状態で行うことが好ましい。このようにすれば、前記処理側端末16に溜まった止水用液剤18が周囲に溢れるのを前記囲繞壁によって防止しながら止水用液剤18の流下を行うことができるため、比較的多量の止水用液剤18を流下させる必要がある場合でも、この止水用液剤18を安定して処理側端末16に供給することができる。
【0032】
前記止水用液剤18としては、少なくとも初期状態において流動性を有するものを用いる。この流動性は、前記液剤供給装置50による供給時に止水用液剤18を一定流量で連続的に流下させ得る程度のもので、かつ、後述する液剤浸透程時において、止水用液剤18の周囲のエアの圧力と被覆材14の内側の圧力との圧力差によって当該止水用液剤18を被覆材14内に浸透させ得る程度のものであることが必要である。
【0033】
また、前記止水用液剤18は、前記被覆材14内への浸透後に少なくとも止水用液剤18の形態が安定して維持される程度にその粘度が高まる(すなわち硬化する)ものであることが好ましく、特に、当該硬化後も止水用液剤18にある程度の弾性(柔軟性)が確保されるものであることが好ましい。これにより、配線時に処理側端末16に外力が加わった場合等に止水用液剤18の割れや破損が生ずることが回避される。前記硬化は自然硬化でもよいし、紫外線の照射や加熱によって促進される硬化であってもよい。
【0034】
具体的に、前記止水用液剤18の材質としては、例えば、自然硬化特性あるいは光硬化特性をもったシリコーン樹脂が好適である。このうち自然硬化型のシリコーン樹脂は、一般に、主成分である多官能性シリコーンオリゴマーに、例えば空気中の湿気の存在下で硬化反応を促進させる硬化触媒等が含有されたものである。一方、光硬化型のシリコーン樹脂は、主成分である多官能性シリコーンオリゴマーに、例えばベンゾフェノン系、ベンゾイン系、アセトフェノン系等の化合物からなる光重合開始剤が含有されたものである。この光重合開始剤は、紫外線等の照射を受けると励起状態となり、前記シリコーンオリゴマーを重合させるためのラジカルを生成するように構成されている。
【0035】
さらにまた、前記止水用液剤18としては、少なくとも半透明、好ましくは不透明のものを用いる。これは、前記処理側端末16に供給される止水用液剤18の存在を後述するレーザセンサ60によって検知し得るようにするためである。このため、止水用液剤18の原材料が透明もしくは透明に近い場合には、例えば顔料や染料等の着色材を混入させて止水用液剤18を着色することが好ましい。なお、この着色材としては、前記検知の精度を高める点から、光透過率を効果的に低下させることができる顔料を用いることがより好ましい。ただし顔料を用いる場合は、止水用液剤18の貯蔵時における顔料の沈殿を回避するため、粒径ができるだけ小さいもの(具体的には平均粒径が数十μm以下のもの)を濃度が濃くなり過ぎない程度に用いるとよい。また、止水用液剤18を着色する場合の色については適宜設定可能であるが、より確実に光を遮断できるように黒色系とすることが好ましく、このために用いる顔料の成分は、例えばカーボンブラックが考えられる。一方、前記止水用液剤18の原材料が、後述するレーザセンサ60による検知が充分可能な程度に半透明・不透明である場合には、特に前記着色を行わないことも可能である。
【0036】
前記液剤供給装置50は、図2〜図4に示すように、前記止水用液剤18を一定流量で連続的に流下させるディスペンサ52と、このディスペンサ52に圧縮エアを供給して前記流下を行わせる空圧回路装置70と、前記ディスペンサ52から流下する止水用液剤18の存在を検知するレーザセンサ60と、前記ディスペンサ52による流下操作の制御や前記ディスペンサ52の位置制御を行うコントローラ90とを備えている。前記アース用電線10は、図3に示すように、前記ディスペンサ52の下方に設置された製品台84の上面に図略の治具等によって固定されており、この製品台84上に固定されたアース用電線10の処理側端末16の真上位置に前記ディスペンサ52が移動した状態で前記止水用液剤18が流下されることにより、当該処理側端末16に止水用液剤18が供給されるようになっている。
【0037】
前記ディスペンサ52は、止水用液剤18を貯蔵するシリンジ54と、このシリンジ54内に貯蔵された止水用液剤18の出口として前記シリンジ54の下端部に設けられるノズル56とを備えており、前記空圧回路装置70から供給される圧縮エアが前記シリンジ54内に導入されるのに応じて、このシリンジ54内の止水用液剤18を前記ノズル56を通じて一定流量で連続的に流下(吐出)させるように構成されている。なお、前記シリンジ54は、主に透明な容器から構成されており、内部に貯蔵された前記止水用液剤18の液位を外部から確認できるようになっている。
【0038】
また、前記ディスペンサ52は、支持枠体57によって一体に支持されており、この支持枠体57は、その背後に設置された移動機構58によって水平方向に移動可能に支持されている。この移動機構58は、例えば前記支持枠体57を水平方向にスライド自在に支持するガイドレール等からなるガイド手段と、例えばモータや動力伝達機構等を有して前記ガイド手段に沿って前記支持枠体57を水平方向に駆動する駆動手段等とを備えている(いずれも図示省略)。
【0039】
前記レーザセンサ60は、光学式センサの一種であり、レーザ66を発信する投光部62と、この投光部62から発信されたレーザ66を受光する受光部64とを備えている。そして、前記投光部62から発信されたレーザ66が障害物等によって遮断されずに受光部64に到達すると、外部にON信号を出力し、逆に、前記レーザ66が障害物によって遮断されて受光部64の受光量が所定値以上減少すると、外部にOFF信号を出力するように構成されている。
【0040】
このレーザセンサ60は、前記ディスペンサ52を一体に支持する支持枠体57の下方部に取り付けられており、前記ノズル56の先端部から所定距離下方に離れた位置をレーザ66が通過するように、前記投光部62および受光部64の設置箇所が設定されている。したがって、前記ノズル56から止水用液剤18が流下され始めると、この止水用液剤18によってレーザ66が遮断されてセンサ出力がOFFになる一方、止水用液剤18の流下が停止されると、前記レーザ66を遮るものがなくなってセンサ出力がONになるようになっている。なお、前記ノズル56から所定距離下方に離れた位置にレーザ66の通過位置を設定したのは、当該通過位置をノズル56に近づけ過ぎると、止水用液剤18が流下されていないときでも、液ダレによってノズル56の先端から僅かに突出した止水用液剤18がレーザ66を遮るおそれがあるためである。
【0041】
前記空圧回路装置70は、圧縮エアの供給源であるエアポンプ71と、このエアポンプ71から圧送されるエアの圧力をあらかじめ定められた設定圧力まで減圧するレギュレータ72と、このレギュレータ72と前記ディスペンサ52との間に設置され、ディスペンサ52へのエアの供給と停止とを切り替える電磁弁76と、前記レギュレータ72によって減圧されたエアの圧力を確認するための圧力計74とを備えている。
【0042】
前記電磁弁76には3つのポートが設けられており、これらの各ポートに、前記レギュレータ72から延びる上流配管77と、この上流配管77を通じて圧送されてきた圧縮エアを前記ディスペンサ52へ導入するためのエア導入管79と、前記圧縮エアを大気へ開放するためのエア抜き配管78とがそれぞれ接続されている。そして、電磁弁76は、これらの各ポート間をつなぐ内部のラインを前記コントローラ90からの制御信号に応じて切り替えることにより、前記上流配管77とエア導入管79とを導通させて前記ディスペンサ52への圧縮エアの供給路を形成するエア供給状態(図2の状態)と、前記上流配管77とエア抜き配管78とを導通させて前記ディスペンサ52へのエアの供給を停止させるエア停止状態との間で変位可能に構成されている。
【0043】
前記コントローラ90は、例えばCPU、メモリ、各種インターフェース等からなる制御装置であり、前記空圧回路装置70の電磁弁76に動作指令を与えて前記ディスペンサ52への圧縮エアの供給と停止とを切り替えることにより、前記ディスペンサ52による止水用液剤18の流下操作を制御するとともに、前記移動機構58にディスペンサ52を適宜駆動させる指令を与えることにより、このディスペンサ52の水平位置を制御するように構成されている。また、前記コントローラ90は、前記レーザセンサ60と電気的に接続されたタイマ92を内蔵している。このタイマ92は、前記止水用液剤18の流下が開始されることによって前記レーザセンサ60のセンサ出力がONからOFFに切り替わったときにリセットされるようになっており、このレーザセンサ60のセンサ出力がOFFになっている(止水用液剤18が検知されている)時間、すなわち、止水用液剤18の流下時間が、前記タイマ92のカウント値に基づいて計測されるようになっている。そして、コントローラ90は、この止水用液剤18の流下時間があらかじめ定められた目標流下時間ta(図6)に達したときに、前記電磁弁76を切替操作してディスペンサ52による止水用液剤18の流下を停止させるように構成されている。
【0044】
前記止水用液剤18の目標流下時間taは、あらかじめ算出された止水用液剤18の流下時間と流下量との関係式に基づいて決定されるものであり、この関係式は、複数の異なる流下時間に対応した各流下量の実測値に基づいて算出される。そこで次に、前記流下時間と流下量との関係式を算出する方法について説明する。なお、以下に説明する演算は、前記コントローラ90において実行される。
【0045】
前記ディスペンサ52が止水用液剤18を一定流量で流下させることから、図6に示すように、流下時間tと流下量Qとの関係は下記の一次関数で表すことができる。
Q=a×t+b・・・(式1)
この式1において、aは比例定数、bは切片を表しており、これら比例定数aと切片bとの2つの値が未知である。したがって、少なくとも2つの異なる流下時間において止水用液剤18の流下量を実測すれば、前記比例定数aと切片bとを求めて前記式1を算出することができる。なお、前記式1における流下時間tとしては、レーザ66が止水用液剤18によって遮断されて前記レーザセンサ60のセンサ出力がONからOFFに切り替わった時点からの経過時間を用いるものとする。このため、流下時間t=0における止水用液剤18の流下量(流下量の初期値)はゼロにはならず、この初期値が前記切片bとなる。すなわち、レーザ66の通過位置が前記のようにノズル56の下端部から所定距離離れていることから、レーザ66の遮断が開始された時点(t=0)で既に前記所定距離の分の量だけ止水用液剤18が流下しており、これが前記流下量の初期値、すなわち切片bとなるのである。
【0046】
前記式1における比例定数aと切片bとを求める手順を具体的に説明する。図6に示すように、2つの異なる流下時間t1,t2において流下量を実測し、その実測値をそれぞれQ1,Q2とすると、下記式2,3に基づいて、前記比例定数aと切片bとを算出することができる。
a=(Q2−Q1)/(t2−t1)・・・(式2)
b=Q1−a×t1・・・(式3)
そして、このようにして比例定数aと切片bとを求めることにより、前記流下時間tと流下量Qとの関係を表す前記式1を確定することができる。なお、前記比例定数aと切片bとは、止水用液剤18の粘度等によって異なるため、用いるべき止水用液剤18の種類が複数ある場合には、これら比例定数aと切片bとは、止水用液剤18の種類ごとにそれぞれ求めておく必要がある。なお、前記流下量Q1,Q2の実測は、図3に示すように、電子天秤82上に載置された計量容器80の内部に止水用液剤18を流下させることによって行う。
【0047】
そして、このようにして算出された流下時間tと流下量Qとの関係式(式1)に基づいて、前記目標流下時間taが決定される。すなわち、前記アース用電線10の処理側端末16に流下させるべき止水用液剤18の流下量(つまり止水用液剤18の目標流下量)をQaとすると、この目標流下量Qaを前記式1に代入して逆算することにより、当該目標流下量Qaに対応する流下時間として前記目標流下時間taを決定することができる。
【0048】
図5は、前記ディスペンサ52が、コントローラ90による制御に基づいて止水用液剤18を流下させたり当該流下を停止させたりする様子を示している。図5(a)に示すように、ディスペンサ52が止水用液剤18の流下を開始する前の状態では、レーザセンサ60の投光部62と受光部64との間にレーザ66を遮断するものが存在せず、この時点ではレーザセンサ60のセンサ出力はONになっている。次いで、ディスペンサ52が止水用液剤18の流下を開始すると、図5(b)に示すように、この流下する止水用液剤18によってレーザ66が遮断され、前記レーザセンサ60のセンサ出力がONからOFFに切り替わる。そして、このようにセンサ出力がOFFに切り替わってから前記目標流下時間taが経過すると、前記ディスペンサ52による止水用液剤18の流下操作が停止され、図5(c)に示すように、棒状に連なった一定量の止水用液剤18が流下されることになる。
【0049】
次に、以上のように構成された液剤供給装置50の制御動作について、図7〜図9に示されるフローチャートに基づいて説明する。
【0050】
図7は、前記液剤供給装置50の制御動作にかかるメインフローチャートを示している。この制御動作がスタートすると、まず、液剤供給装置50のコントローラ90が、前記目標流下時間taが既に決定されているか否かを判断する(ステップS1)。
【0051】
前記ステップS1でNOと判断されて目標流下時間taが未だ決定されていないことが確認されると、ステップS3に移行し、コントローラ90は、前記したような手順に沿って目標流下時間taを決定する目標流下時間決定制御を実行する。そして、この目標流下時間決定制御の後に、前記アース用電線10の処理側端末16に止水用液剤18を供給する止水用液剤供給制御を実行する(ステップS5)。一方、前記ステップS1でYESと判定されて目標流下時間taが既に決定されていることが確認された場合には、前記ステップS3をスキップして前記ステップS5に移行し、直ちに前記止水用液剤供給制御を実行する。
【0052】
図8は、図7のステップS3において実行される目標流下時間決定制御の具体的内容を示すサブルーチンである。このサブルーチンがスタートすると、コントローラ90は、まず、前記移動機構58にディスペンサ52を駆動させ、このディスペンサ52を前記電子天秤82上に載置された計量容器80の上方に移動させる制御を実行する(ステップS11)。
【0053】
次いで、コントローラ90は、ディスペンサ52に止水用液剤18をt1秒の間流下させ、このときの止水用液剤18の流下量Q1を計測する制御を実行する(ステップS13)。具体的には、前記空圧回路装置70の電磁弁76を切替操作して圧縮エアをディスペンサ52に導入し、それに応じてディスペンサ52内の止水用液剤18をノズル56を通じて前記計量容器80内に流下させ、その流下時間tがt1秒に達した時点で当該流下を停止させる。この流下によって前記計量容器80内に溜まった止水用液剤18の重量は、電子天秤82によって計量され、この電子天秤82による計測値;流下量Q1が、前記コントローラ90に入力されて記録される。なお、ディスペンサ52の流下操作を時間経過に基づいて制御する制御内容は、後述する止水用液剤供給制御において行われる制御内容と同様である。
【0054】
次いで、コントローラ90は、前記ステップS13と同様の制御により、ディスペンサ52に止水用液剤18をt2秒の間流下させ、このときの止水用液剤18の流下量Q2を計測する制御を実行する(ステップS15)。
【0055】
次いで、コントローラ90は、前記ステップS13,S15で計測したデータに基づいて、流下時間tと流下量Qとの関係式を算出する制御を実行する(ステップS17)。具体的には、前記各流下時間t1,t2と、これに対応した前記流下量の実測値Q1,Q2とを読み出して、これらの値をあらかじめプログラムされた前記式2,3に代入することにより、前記流下時間tと流下量Qとの関係式(式1)における比例定数aと切片bとを求めて当該関係式を確定する。そして、コントローラ90は、このようにして算出された関係式(式1)に基づいて、あらかじめインプットされた目標流下量Qaに対応する目標流下時間taを決定(演算)する制御を実行する(ステップS19)。
【0056】
次に、図7のステップS5において実行される止水用液剤供給制御の具体的内容について、図9に示されるサブルーチンに基づき説明する。このサブルーチンがスタートすると、コントローラ90は、まず、前記移動機構58にディスペンサ52を駆動させ、このディスペンサ52を前記アース用電線10の処理側端末16の上方に移動させる制御を実行する(ステップS21)。
【0057】
次いで、コントローラ90は、前記空圧回路装置70の電磁弁76を切替操作してディスペンサ52に止水用液剤18の流下を開始させる制御(ステップS23)を実行した後、このディスペンサ52に設置された前記レーザセンサ60のセンサ出力がONからOFFに切り替わったかどうかを判断する(ステップS25)。具体的には、レーザセンサ60の投光部62から発信されるレーザ66が、前記ディスペンサ52のノズル56から流下する止水用液剤18によって遮断されるのに応じて、レーザセンサ60からコントローラ90にOFF信号が出力されたときに、前記レーザセンサ60のセンサ出力がONからOFFに切り替わったと判断する。
【0058】
前記ステップS25でYESと判定されて止水用液剤18の流下が確認されると、コントローラ90は、内蔵するタイマ92のカウント値Tmをリセットし(ステップ27)、このタイマのカウント値Tm、すなわち止水用液剤18の流下時間tが、前記目標流下時間taに達するのを待ってから(ステップS29)、前記ディスペンサ52による止水用液剤18の流下操作を停止させる制御を実行する(ステップS31)。なお、以上のような止水用液剤供給制御の制御動作は、止水処理すべきアース用電線10が複数個ある場合には適宜繰り返される。
【0059】
以上説明したような液剤供給工程を行うことにより、アース用電線10の処理側端末16に、必要量の止水用液剤18を一度で正確に供給することができる。すなわち、ディスペンサ52に止水用液剤18を一定流量で連続的に流下させ、この止水用液剤18の流下時間tがあらかじめ定められた目標流下時間taに達したときに当該流下を停止させるようにしたため、止水用液剤18を複数回に分けて滴下する前記特許文献1の方法と異なり、必要量の止水用液剤18(目標流下量Qa)を1回の流下操作で迅速に供給することができる。しかも、前記ディスペンサ52のノズル56から流下する止水用液剤18の存在をレーザセンサ60を用いて検知し、その検知時間に基づいて前記流下時間tを計測するようにしたため、正確な量の止水用液剤18を前記処理側端末16に確実に供給することができる。すなわち、例えば、前記コントローラ90からディスペンサ52に止水用液剤18の流下操作が指示された時点(より具体的には、空圧回路装置70の電磁弁76が切替操作された時点)で止水用液剤18の流下操作が開始されたものとし、この時点からの経過時間をもって前記流下時間tとすることも可能であるが、このようにすると、例えば何らかの原因で前記止水用液剤18の実際の流下操作が通常よりも遅れたような場合に、流下時間tを正確に計測することができず、正確な量の止水用液剤18を供給できなくなってしまう。これに対し、前記方法のように、ノズル56から実際に流下する止水用液剤18の存在を検知しながら流下時間tの計測を行うようにした場合には、流下時間tを正確に計測することができるため、これに応じた正確な量の止水用液剤18を確実に供給することができるのである。
【0060】
また、前記液剤供給工程では、止水用液剤18をアース用電線10の処理側端末16に供給する前に、前記止水用液剤18の流下時間tと流下量Qとの関係式(式1)をあらかじめ算出しておき、この関係式に基づいて前記目標流下時間taを決定するようにしたため、例えばアース用電線10の電線太さが異なる等の理由により目標流下量Qaを変更したいときに、この目標流下量Qaに対応した目標流下時間taを前記関係式に基づいて容易に再設定できるという利点がある。
【0061】
また、前記液剤供給工程では、2つの異なる流下時間t1,t2における流下量をあらかじめ実測しておき、これら各流下時間t1,t2とこれに対応して実測された流下量の実測値Q1,Q2とに基づいて、前記関係式(式1)を算出するようにしたため、止水用液剤18の種類等に応じた正確な関係式を確実に算出することができるという利点がある。
【0062】
また、前記液剤供給工程では、前記ディスペンサ52を移動可能に支持する移動機構58を備えた液剤供給装置50を用いたことにより、ディスペンサ52を移動させながら止水用液剤18の供給を行うことができるため、例えば複数のアース用電線10を製品台84上に並べた状態で、これら複数のアース用電線10の処理側端末16に対し、1台のディスペンサ52を用いて効率的に止水用液剤18の供給を行うことができる。しかも、ディスペンサ52を一体に支持する支持枠体57に前記レーザセンサ60を取り付け、このレーザセンサ60をディスペンサ52と一体に移動させるようにしたため、ディスペンサ52の移動にかかわらず、ノズル56から流下する止水用液剤18を前記レーザセンサ60によって確実に検知することができる。
【0063】
3)液剤浸透工程
この工程は、前記アース用電線10の処理側端末16に供給された止水用液剤18の周囲のエアを加圧して被覆材14の内側の圧力(一般には大気圧)よりも高い圧力にし、その圧力差を利用して当該止水用液剤18を強制的に被覆材14の内側に浸透させる工程である。
【0064】
この液剤浸透工程は、前記アース用電線10の両端末のうち前記アース用端子20が装着された側の端末、すなわち、前記止水用液剤18が供給された処理側端末16を、図10に示すような加圧容器30内に入れて密封し、この加圧容器30内に配管40を通じてコンプレッサ42から圧縮エアを供給することにより、行うことができる。
【0065】
ここで、前記加圧容器30としては、図10に示すように、前記アース用電線10の特定部位に全周にわたって密着するシール材(例えばゴム栓)32を有するものが好適である。さらに、同図に示されるように加圧容器30が前記シール材32も含めて下側のベース部33と上側の蓋部34に分割された構造とし、前記蓋部34がヒンジ部36を支点として開閉方向に回動できるようにすれば、当該加圧容器30内への処理側端末16のセット作業が容易になる。具体的には、前記蓋部34を開いてベース部33内に前記処理側端末16をセットした後、前記蓋部34を閉じてシール材32をアース用電線10の所定部位に全周にわたって密着させることにより、加圧容器30内を密閉することができる。
【0066】
この加圧容器30内に電線端末をセットするタイミングは、前記液剤供給工程の前後を問わない。すなわち、前記液剤供給工程後に当該工程を施した処理側端末16をそのまま前記加圧容器30内にセットするようにしてもよいし、前記処理側端末16を前記加圧容器30内にセットした後、加圧操作を行う前に同容器30内で前記液剤供給工程を行うようにしてもよい。
【0067】
なお、この液剤浸透工程を、前記特許文献1と同様に、アース用電線10の処理側端末16と反対側の端末を減圧容器内に入れて減圧操作することにより行うことも当然に可能である。ただしこのような従来方法よりも、本実施形態による方法の方が、止水用液剤18の推進力となる圧力差の設定範囲がより広くなるという点で有利である。
【0068】
すなわち、前記処理側端末16と反対側の端末を減圧容器内に入れて減圧操作する従来方法では、仮に前記減圧容器内を完全な真空状態にできたとしても、その減圧後の圧力(被覆材14内の圧力)と止水用液剤18の外側の圧力(大気圧)との間に大気圧以上の圧力差を生じさせることはできないのに対し、前記処理側端末16を加圧容器30内に入れて加圧操作する本実施形態の方法では、前記加圧容器30内の圧力(絶対圧)を大気圧の2倍以上の圧力に設定することにより、その容器内圧力と被覆材14の内側の圧力(大気圧)との差を大気圧以上にすることもできるため、より広い範囲の圧力差をつくり出すことができるのである。
【0069】
以上のような液剤浸透工程を行うことにより、前記液剤供給工程で供給した止水用液剤18を被覆材14の内側に強制的に浸透させることができる。また、他方の端末からエアを吸引する従来方法と異なり、電線内での圧力損失が、電線長にかかわらずほとんど発生しないという利点もある。
【0070】
しかも、この液剤浸透工程は、前記液剤供給工程が行われる電線端末と同じ端末、すなわち処理側端末16について行えばよく、他方の電線端末は例えば大気圧下に放置しておけばよいので、作業管理は容易となり、電線長にかかわらず効率のよい止水処理ができる。そして、前記液剤供給工程において必要量の止水用液剤18を一度で供給できるという効果と合わせて、アース用電線10の止水処理を効果的に迅速化することができる。
【0071】
以上、本発明の一実施形態にかかるアース用電線10の止水処理方法について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、例えば、以下のような変更が可能である。
【0072】
前記実施形態では、液剤供給工程を端子圧着工程の後に行ったが、これを端子圧着工程の前に行うことも可能である。特に、アース用電線10の処理側端末16を取り囲む囲繞壁を別途設けた状態で前記液剤供給工程を行うような場合には、端子圧着工程の前、すなわち、止水用液剤18を受け止める前記アース用端子20が存在しない状態でも、止水用液剤18を問題なく前記処理側端末16に供給することができる。
【0073】
また、前記実施形態では、アース用電線10の一方の端末(処理側端末16)にのみ止水用液剤18を充填したが、アース用電線10の両方の端末に止水用液剤18を充填することも可能である。ただし、止水用液剤18の周囲のエアを加圧する前記実施形態の方法に代えて、一方の端末に止水用液剤18を供給して他方の端末を減圧処理する従来と同様の方法を採用した場合には、その処理によって一方の端末に止水用液剤18が充填される結果、同じ方法で他方の端末に止水用液剤18を浸透させることができない(つまり電線内のエアを吸引することができない)。これに対し、前記実施形態の方法では、一方の端末に止水用液剤18を充填した後、同じ要領で他方の端末にも止水用液剤18を充填することが可能であり、これにより、両端末に止水用液剤18が充填されたアース用電線10を得ることが可能である。
【0074】
また、前記実施形態では、ディスペンサ52に、止水用液剤18の流下操作を目標流下時間taの間継続させ、その1回の流下操作によって必要量の止水用液剤18(目標流下量Qa)を供給するようにしたが、本発明は複数回に分けて前記流下を行うことを除外する趣旨ではない。すなわち、止水用液剤18を複数回に分けて流下させるにより止水用液剤18の供給を行うようにしてもよく、その場合には、各流下時間の総和を前記目標流下時間taに一致させればよい。
【0075】
また、前記実施形態では、ディスペンサ52のノズル56から流下する止水用液剤18の存在を検知する検知手段としてレーザセンサ60を用いたが、止水用液剤18の存在を検知できるものであればこれに限るものではなく、例えば赤外線センサ等の他の種類の光学式センサを用いてもよい。
【0076】
また、前記実施形態では、内部導体12の外側が被覆材14で覆われたアース用電線10を止水処理する方法について説明したが、本発明の処理対象となる電線類はこのような被覆電線に限らない。例えば、内部線として単数本または複数本の絶縁電線を有し、その外側が被覆材により覆われる車載用ケーブルであっても、その被覆材と各絶縁電線との隙間を外側から覆うように止水用液剤18を供給してその周囲のエアを加圧することにより、前記と同様にして効果的な止水処理を行うことができる。
【0077】
さらに、前記実施形態の止水処理方法のうち、液剤供給工程のみについて考えると、この工程の中で行われる止水用液剤18の供給方法は、前記アース用電線10のような電線だけでなく、防水性が求められる各種電装品を止水処理する際にも適用することが可能である。例えば、脚状端子が付いた電子部品を1個以上備える電力回路部では、この電力回路部の回路配設面上に止水用液剤18を流下させてこれを硬化させることにより、所定厚さの防水層を形成することが考えられ、この回路配設面上への止水用液剤18の流下時に、前記実施形態の供給方法を好適に適用することができる。
【実施例1】
【0078】
以下の実施例では、前記液剤供給装置50を用いて次のような条件下で止水用液剤の流下を行い、それによって得られた止水用液剤18の流下時間tと流下量Qとの関係式(式1)について説明する。
【0079】
(条件)
・止水用液剤18…湿気硬化型接着剤(粘度0.8 Pa・s)
・ディスペンサ52の吐出圧力…350 kPa
・ノズル56の内径…0.57 mm
以上のような条件下で止水用液剤18の流下を繰り返し行い、異なる2つの流下時間tにおける流下量Qを各5回実測したところ、下記の表1のような結果が得られた。
【0080】
【表1】

【0081】
そして、上記表1のデータに基づき、流下時間tと流下量Qとの関係式(式1)として下式を得ることができた。
Q=56.156×t+9.7644
Q:流下量(mg)
t:流下時間(s)
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】(a)は本発明の実施の形態にかかるアース用電線の一方の端末にアース用端子を圧着固定した構造を示す平面図、(b)はその正面図である。
【図2】前記アース用電線に止水用液剤を供給する液剤供給装置を示す図である。
【図3】同じく液剤供給装置を示す図である。
【図4】前記液剤供給装置の概略ブロック図である。
【図5】前記液剤供給装置の動作を説明するための図である。
【図6】止水用液剤の流下時間と流下量との関係を示すグラフである。
【図7】前記液剤供給装置の制御動作を示すメインフローチャートである。
【図8】図7に示すフローチャートにおける目標流下時間決定制御の内容を示すサブルーチンである。
【図9】図7に示すフローチャートにおける止水用液剤供給制御の内容を示すサブルーチンである。
【図10】前記アース用電線の一方の端末に供給された止水用液剤の周囲のエアを加圧するための装置を示す図である。
【符号の説明】
【0083】
10 アース用電線(車載用電線)
12 導体
14 被覆材
18 止水用液剤
50 液剤供給装置
52 ディスペンサ
56 ノズル
60 レーザセンサ(検知手段)
62 発光部
64 受光部
66 レーザ(光)
90 コントローラ(制御手段)
t 流下時間
ta 目標流下時間
Q 流下量


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定量の止水用液剤を止水対象箇所に供給するための方法であって、
前記止水用液剤を、供給口であるノズルから一定流量で連続的に前記止水対象箇所に流下させる液剤流下操作と、
この液剤流下操作中に、前記ノズルから流下する止水用液剤の存在を検知して、その検知時間に基づいて前記止水用液剤の流下時間を計測する流下時間計測操作と、
この止水用液剤の流下時間があらかじめ定められた目標流下時間に達したときに、前記止水用液剤の流下を停止させる液剤停止操作とを含むことを特徴とする止水用液剤の供給方法。
【請求項2】
請求項1記載の止水用液剤の供給方法において、
前記液剤流下操作は、半透明または不透明の止水用液剤を流下させる操作であり、
前記流下時間計測操作は、発光部と受光部とを有する光学式センサを前記ノズルの下方に設置しておき、この光学式センサの発光部から発信された光が遮断されるのに応じて、前記発光部と受光部との間を流下する前記止水用液剤の存在を検知し、その検知時間に基づいて前記止水用液剤の流下時間を計測する操作であることを特徴とする止水用液剤の供給方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の止水用液剤の供給方法において、
前記液剤流下操作の前に、前記止水用液剤の流下時間と流下量との関係式をあらかじめ算出しておき、この関係式に基づいて前記目標流下時間を決定することを特徴とする止水用液剤の供給方法。
【請求項4】
請求項3記載の止水用液剤の供給方法において、
前記液剤流出操作の前に、複数の異なる流下時間における流下量をあらかじめ実測しておき、各流下時間とこれに対応して実測された各流下量とに基づいて、前記流下時間と流下量との関係式を算出することを特徴とする止水用液剤の供給方法。
【請求項5】
導体の外側に被覆材を有して車両に搭載される車載用電線を止水処理するための方法であって、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の止水用液剤の供給方法により、前記車載用電線の少なくとも一方の端末に前記止水用液剤を供給する液剤供給工程と、
前記車載用電線の内圧と前記端末に供給された止水用液剤の周囲の外圧とに差をもたせ、当該圧力差によって前記止水用液剤を前記被覆材の内側に浸透させる液剤浸透工程とを含むことを特徴とする車載用電線の止水処理方法。
【請求項6】
請求項5記載の車載用電線の止水処理方法において、
前記液剤供給工程の前に、前記車載用電線の端末を取り囲む囲繞壁を形成しておき、この囲繞壁によって前記止水用液剤が周囲に溢れ出すのを防止しながら前記液剤供給工程を行うことを特徴とする止水用液剤の供給方法。
【請求項7】
導体の外側に被覆材を有して車両に搭載される車載用電線であって、
請求項5または6記載の止水処理方法により被覆材の内側に止水用液剤が充填されていることを特徴とする車載用電線。
【請求項8】
所定量の止水用液剤を止水対象箇所に供給するための装置であって、
前記止水用液剤の供給口であるノズルを有し、このノズルから前記止水用液剤を一定流量で連続的に前記止水対象箇所に流下させるディスペンサと、
このディスペンサのノズルから流下する前記止水用液剤の存在を検知する液剤検知手段と、
この液剤検知手段による前記止水用液剤の検知時間に基づいて前記止水用液剤の流下時間を計測するとともに、この流下時間が、あらかじめ定められた目標流下時間に達したときに、前記ディスペンサによる止水用液剤の流下を停止させるように制御する制御手段とを備えることを特徴とする止水用液剤の供給装置。
【請求項9】
請求項8記載の止水用液剤の供給装置において、
前記ディスペンサは、所定方向に移動可能に支持されており、
前記検知手段は、前記ノズルと一体に移動するように前記ディスペンサに取り付けられていることを特徴とする止水用液剤の供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−226999(P2007−226999A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43892(P2006−43892)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】