説明

正極材料および電池、ならびに正極材料の製造方法

【課題】 充放電効率を向上せることができる正極材料、およびそれを用いた電池、ならびに正極材料の製造方法を提供する。
【解決手段】 正極31と負極32とがセパレータ33を介して巻回された巻回電極体30を備える。正極31は、リチウム複合化合物粒子と、バレルスパッタ法により形成され、このリチウム複合化合物粒子を被覆する被覆層とを有する正極材料を含んでいる。これにより、正極31の安定性が改善され、特に、完全充電時の開回路電圧を高く設定した場合に高い効果が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に被覆層を有する正極材料、およびそれを用いた電池、ならびに正極材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ビデオカメラ、ノートパソコンなどの携帯情報電子機器の普及に伴い、機器の高性能化、小型化、軽量化が急速に発展している。これらの機器に使用される電源には、使い捨ての一次電池や繰り返して使用出来る二次電池が用いられているが、経済性、高性能、小型軽量などの総合的なバランスの良さから、二次電池、特にリチウムイオン二次電池の需要が伸びている。また、これらの携帯情報電子機器では更なる高性能化および小型化が進められており、リチウムイオン二次電池に関しても高出力化あるいは高容量化が要求されている。
【0003】
従来のリチウムイオン二次電池は、正極にコバルト酸リチウム、負極に炭素材料を用い、作動電圧は4.2Vから2.5Vの範囲内である。このように最大4.2Vで作動するリチウムイオン二次電池では、正極に用いられるコバルト酸リチウムなどの正極活物質は、その理論容量に対して6割程度の容量を活用しているに過ぎない。このため、更に充電圧を上げることにより、残存容量を活用することが原理的には可能であり、実際に充電時の電圧を4.25V以上にすることにより高エネルギー密度化を図れることが知られている(例えば、特許文献1参照)。ところが、充電電圧を高くすると正極近傍における酸化雰囲気が強くなり、電解質および正極活物質が劣化しやすくなるという問題があった。
【0004】
なお、従来より、正極活物質の特性を改善する目的で、コバルト酸リチウム粒子などの表面をアルミニウム化合物で被覆する方法(例えば、特許文献2,3参照)、チタン化合物で被覆する方法(例えば、特許文献4〜6参照)、ホウ素,酸化ジルコニウムあるいは酸化サマリウムで被覆する方法(例えば、特許文献7参照)などが知られている。また、被膜の形成方法としては、スパッタリング法なども提案されている(例えば、特許文献8,9参照)。
【特許文献1】国際公開第WO03/0197131号パンフレット
【特許文献2】特開平8−102332号公報
【特許文献3】特開平9−171813号公報
【特許文献4】特開2000−200605号公報
【特許文献5】特開2002−63901号公報
【特許文献6】特開2002−151078号公報
【特許文献7】特許第3044812号公報
【特許文献8】特開平8−236114号公報
【特許文献9】特開平8−279357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、通常のスパッタリング法においては、スパッタする基材を静置して行うので、コバルト酸リチウム粒子などは積み重なっており、その一部が露出しているに過ぎず、粒子全体に均一な被膜を形成することが難しかった。その結果、4.2Vの充電電圧では一定の効果が得られても、充電電圧を4.2Vよりも高くした場合には、十分な特性を得ることができないという問題があった。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、充電電圧を高くしても優れた特性を得ることができる正極材料、および電池、ならびに正極材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による正極材料は、リチウム複合化合物粒子と、このリチウム複合化合物粒子を被覆する被覆層とを有し、被覆層は、バレルスパッタ法により形成されたものである。
【0008】
本発明による正極材料の製造方法は、リチウム複合化合物粒子に、バレルスパッタ法により被覆層を形成するものである。
【0009】
本発明による電池は、正極および負極と共に電解質を備えたものであって、正極は、リチウム複合化合物粒子と、このリチウム複合化合物粒子を被覆する被覆層とを有する正極材料を含有し、被覆層は、バレルスパッタ法により形成されたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明による正極材料は、バレルスパッタ法により形成された被覆層を有するようにしたので、均一な被覆層を形成することができ、化学的安定性を向上させることができる。よって、この正極材料を用いた本発明の電池によれば、充放電効率を向上させることができる。特に、一対の正極および負極当たりの完全充電状態における開回路電圧を4.25V以上6.00V以下の範囲内とした場合にも、優れた効果を得ることができるので、容量を高くすることもできる。
【0011】
本発明による正極材料の製造方法によれば、リチウム複合化合物粒子に、バレルスパッタ法により被覆層を形成するようにしたので、本発明の正極材料を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
本発明の一実施の形態に係る正極材料は、リチウム複合化合物粒子と、このリチウム複合化合物粒子を被覆する被覆層とを有するものである。
【0014】
リチウム複合化合物粒子としては、例えば、リチウム酸化物,リチウムリン酸化物、リチウム硫化物、あるいはリチウムを含む層間化合物などのリチウム含有化合物が適当であり、これらの2種以上を混合して用いてもよい。エネルギー密度を高くするには、リチウムと遷移金属元素と酸素(O)とを含むリチウム含有化合物が好ましく、中でも、遷移金属元素として、コバルト(Co),ニッケル(Ni),マンガン(Mn)および鉄(Fe)からなる群のうちの少なくとも1種を含むものであればより好ましい。このようなリチウム含有化合物としては、例えば、化1,化2あるいは化3に示した層状岩塩型のリチウム複合酸化物、化4に示したスピネル型のリチウム複合酸化物、または化5に示したオリビン型のリチウム複合リン酸塩などが挙げられ、具体的には、LiNi0. 50 Co0. 20 Mn0. 30 2 、LiNi0. 33 Co0. 33 Mn0. 33 2 、Lia CoO2 (a≒1)、Lib NiO2 (b≒1)、Lic 1 Nic 2 Co1-c22 (c1≒1,0<c2<1)、Lid Mn2 4 (d≒1)あるいはLie FePO4 (e≒1)などがある。
【0015】
(化1)
Lir Co(1-s) M3s (2-t) u
(式中、M3は、ニッケル(Ni),マンガン(Mn),マグネシウム(Mg),アルミニウム(Al),ホウ素(B),チタン(Ti),バナジウム(V),クロム(Cr),鉄(Fe),銅(Cu),亜鉛(Zn),モリブデン(Mo),スズ(Sn),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr)およびタングステン(W)からなる群のうちの少なくとも1種を表す。r,s,tおよびuは、0.8≦r≦1.2、0≦s<0.5、−0.1≦t≦0.2、0≦u≦0.1の範囲内の値である。)
【0016】
(化2)
Lim Ni(1-n) M2n (2-p) q
(式中、M2は、コバルト(Co),マンガン(Mn),マグネシウム(Mg),アルミニウム(Al),ホウ素(B),チタン(Ti),バナジウム(V),クロム(Cr),鉄(Fe),銅(Cu),亜鉛(Zn),モリブデン(Mo),スズ(Sn),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr)およびタングステン(W)からなる群のうちの少なくとも1種を表す。m,n,pおよびqは、0.8≦m≦1.2、0. 005≦n≦0. 5、−0. 1≦p≦0. 2、0≦q≦0. 1の範囲内の値である。)
【0017】
(化3)
Lif Mn(1-g-h) Nig M1h (2-j) k
(式中、M1は、コバルト(Co),マグネシウム(Mg),アルミニウム(Al),ホウ素(B),チタン(Ti),バナジウム(V),クロム(Cr),鉄(Fe),銅(Cu),亜鉛(Zn),ジルコニウム(Zr),モリブデン(Mo),スズ(Sn),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr)およびタングステン(W)からなる群のうちの少なくとも1種を表す。f,g,h,jおよびkは、0.8≦f≦1.2、0<g<0. 5、0≦h≦0. 5、g+h<1、−0. 1≦j≦0. 2、0≦k≦0.1の範囲内の値である。)
【0018】
(化4)
Liv Mn2-w M4w x y
(式中、M4は、コバルト(Co),ニッケル(Ni),マグネシウム(Mg),アルミニウム(Al),ホウ素(B),チタン(Ti),バナジウム(V),クロム(Cr),鉄(Fe),銅(Cu),亜鉛(Zn),モリブデン(Mo),スズ(Sn),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr)およびタングステン(W)からなる群のうちの少なくとも1種を表す。v,w,xおよびyは、0.9≦v≦1.1、0≦w≦0.6、3.7≦x≦4.1、0≦y≦0.1の範囲内の値である。)
【0019】
(化5)
Liz M5PO4
(式中、M5は、コバルト(Co),マンガン(Mn),鉄(Fe),ニッケル(Ni),マグネシウム(Mg),アルミニウム(Al),ホウ素(B),チタン(Ti),バナジウム(V),ニオブ(Nb),銅(Cu),亜鉛(Zn),モリブデン(Mo),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr),タングステン(W)およびジルコニウム(Zr)からなる群のうちの少なくとも1種を表す。zは、0.9≦z≦1.1の範囲内の値である。)
【0020】
中でも、化1に示したリチウム複合化合物粒子は、電位が高く、例えば、電池電圧を高くすることができるので好ましい。また、化2に示したリチウム化合物は、安定性が高く、特に、電池電圧を高く設定した電池に用いた場合に、高い効果が得られるので好ましい。
【0021】
また、このリチウム複合化合物粒子の平均粒子径は、0.1μm以上50μm以下の範囲内であることが好ましく、1μm以上20μm以下の範囲内であればより好ましい。平均粒子径が小さいと流動性が低くなると共に、取扱時に発塵し易くなるからであり、大きいと、例えば、正極を作製する際に、厚みを均一化し難くなるからである。また、BET法による比表面積は、0.05m2 /g以上10.0m2 /g以下の範囲内であることが好ましく、0.1m2 /g以上5.0m2 /g以下の範囲内であればより好ましい。比表面積が小さいと、例えば、電解液との接触面積が低くなるので、充放電に伴うリチウム複合化合物粒子と電解液との間のリチウムイオンの移動度が低下してしまうからである。また、比表面積が大きいと、例えば、電解液との接触面積が大きくなるので、電解液が分解され易くなるからである。
【0022】
このリチウム複合化合物粒子は、例えば、リチウム化合物と金属化合物とを混合したのち加熱することにより、あるいは溶液中で、リチウム化合物と金属化合物とを反応させる湿式法により製造することができる。
【0023】
被覆層は、例えば、無機化合物により形成されている。無機化合物としては、例えば、マグネシウム(Mg),アルミニウム(Al),コバルト(Co),ケイ素(Si),チタン(Ti),バナジウム(V),スズ(Sn),サマリウム(Sm),ジルコニウム(Zr),ホウ素(B)およびリン(P)からなる群のうちの少なくとも1種を構成元素として含む酸化物が挙げられ、中でも、マグネシウム(Mg),アルミニウム(Al),チタン(Ti),サマリウム(Sm),ジルコニウム(Zr)およびホウ素(B)からなる群のうちの少なくとも1種を構成元素として含む酸化物が好ましい。化学的安定をより向上させることができるからである。
【0024】
この被覆層は、バレルスパッタ法により形成されたものである。これにより、均一な被覆層が形成され、化学的安定性が更に向上するようになっている。具体的には、次のようにして形成される。
【0025】
図1は、バレルスパッタ法に用いる装置10の一例を表した図である。まず、例えば、チャンバー11の内部に備えられた円筒状のバレル12に、リチウム複合化合物粒子を配置する。続いて、ターゲット13をスパッタし、リチウム複合化合物粒子に被覆層を形成する。その際、チャンバー11の内部を真空または減圧雰囲気下とし、バレル12をローラ14を介して回転させることにより、リチウム複合化合物粒子が流動拡散され、被覆層が均一化される。また、ターゲットとして、例えば被覆層を構成する元素の単体、またはそれらを主成分とする合金あるいは混合物を用いると共に、スパッタリングガスとして酸素を含有するガスを用いることにより、スパッタされたターゲットの粒子と酸素とが反応し、酸化物を含む被覆層を形成することができる。
【0026】
なお、バレルスパッタ法による処理前のリチウム複合化合物粒子、あるいはバレルスパッタ法による処理後に被覆層が形成されたリチウム複合化合物粒子については、必要に応じて加熱処理を行なってもよい。特に、被覆層が形成されたのちに加熱処理を行うことにより、リチウム複合化合物粒子と被覆層との間の結合を強固にすることができ、安定性を高くすることができるので好ましい。加熱処理は、例えば、空気中において、500℃以上1200℃以上で行なうとよい。
【0027】
被覆層の厚みは、5nm以上100nm以下の範囲内であることが好ましく、10nm以上80nm以下の範囲内であればより好ましい。厚みが小さすぎると、被覆層を形成する効果が十分ではなく、厚みが大きすぎると、粗大粒子の発生により均一化しにくくなると共に、被覆層がリチウム複合化合物粒子から剥離してしまう場合があるからである。
【0028】
なお、被覆層の厚みは数1に示した式で表される。
(数1)
T=[X/100MS]×10-9
(Tは被覆層の厚み(nm)、Xは被覆率(質量%)、Mは被覆層の密度(g/m3 )、Sはリチウム複合化合物粒子のBET法による比表面積(m2 /g)を表す。なお、リチウム複合化合物粒子の一粒ずつに被覆層が均一に形成されていると仮定する。)
【0029】
この正極材料の平均粒子径は、0.1μm以上50μm以下の範囲内であることが好ましく、1μm以上20μm以下の範囲内であればより好ましい。平均粒子径が小さいと、例えば電池に用いた場合に、充電容量が低下してしまうと共に、電解液との反応性が高くなってしまい、大きいと、例えば均一な厚みの電極を形成すること難しいからである。また、BET法による比表面積は、0.01 m2 /g以上10.0m2 /g以下の範囲内であることが好ましく、0.1m2 /g以上5.0m2 /g以下の範囲内であればより好ましい。比表面積が小さいと、工業的に生産することが困難であり、大きいと例えば電池に用いた場合に電解液との反応性が高くなってしまうからである。
【0030】
この正極材料は、例えば、次のようにして二次電池に用いられる。
【0031】
(第1の二次電池)
図2は本実施の形態に係る正極材料を用いた第1の二次電池の断面構造を表すものである。この二次電池は、電極反応物質としてリチウム(Li)を用い、負極の容量が、リチウム(Li)の吸蔵および放出による容量成分により表されるいわゆるリチウムイオン二次電池である。この二次電池は、いわゆる円筒型といわれるものであり、ほぼ中空円柱状の電池缶21の内部に、一対の帯状の正極31と帯状の負極32とがセパレータ33を介して巻回された巻回電極体30を有している。電池缶21の内部には、液状の電解質である電解液が注入されており、セパレータ33に含浸されている。電池缶21は、例えばニッケル(Ni)のめっきがされた鉄(Fe)により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶21の内部には、また、巻回電極体30を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板22,23がそれぞれ配置されている。
【0032】
電池缶21の開放端部には、電池蓋24と、この電池蓋24の内側に設けられた安全弁機構25および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)26とが、ガスケット27を介してかしめられることにより取り付けられており、電池缶21の内部は密閉されている。電池蓋24は、例えば、電池缶21と同様の材料により構成されている。安全弁機構25は、熱感抵抗素子26を介して電池蓋24と電気的に接続されており、内部短絡あるいは外部からの加熱などにより電池の内圧が一定以上となった場合にディスク板25Aが反転して電池蓋24と巻回電極体30との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子26は、温度が上昇すると抵抗値の増大により電流を制限し、大電流による異常な発熱を防止するものである。ガスケット27は、例えば、絶縁材料により構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
【0033】
巻回電極体30は、例えば、センターピン34を中心に巻回されている。巻回電極体30の正極31にはアルミニウム(Al)などよりなる正極リード35が接続されており、負極32にはニッケル(Ni)などよりなる負極リード36が接続されている。正極リード35は安全弁機構25に溶接されることにより電池蓋24と電気的に接続されており、負極リード36は電池缶21に溶接され電気的に接続されている。
【0034】
図3は図2に示した巻回電極体30の一部を拡大して表すものである。正極31は、例えば、対向する一対の面を有する正極集電体31Aの両面に正極活物質層31Bが設けられた構造を有している。なお、図示はしないが、正極集電体31Aの片面のみに正極活物質層31Bを設けるようにしてもよい。正極集電体31Aは、例えば、アルミニウム箔,ニッケル箔あるいはステンレス箔などの金属箔により構成されている。正極活物質層31Bは、例えば、本実施の形態に係る正極材料と、必要に応じて黒鉛などの導電剤およびポリフッ化ビニリデンなどの結着剤を含んで構成されている。また、更に他の1種または2種以上の正極材料を含有していてもよい。
【0035】
負極32は、例えば、対向する一対の面を有する負極集電体32Aの両面に負極活物質層32Bが設けられた構造を有している。なお、図示はしないが、負極集電体32Aの片面のみに負極活物質層32Bを設けるようにしてもよい。負極集電体32Aは、例えば、良好な電気化学的安定性、電気伝導性および機械的強度を有する銅箔,ニッケル箔あるいはステンレス箔などの金属箔により構成されている。
【0036】
負極活物質層32Bは、負極活物質として、リチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種または2種以上を含んで構成されており、必要に応じて正極活物質層31Bと同様の結着剤を含んで構成されている。
【0037】
なお、この二次電池では、リチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電容量が、正極31の充電容量よりも大きくなっており、充電の途中において負極32にリチウム金属が析出しないようになっている。
【0038】
リチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、難黒鉛化性炭素,易黒鉛化性炭素,黒鉛,熱分解炭素類,コークス類,ガラス状炭素類,有機高分子化合物焼成体,炭素繊維あるいは活性炭などの炭素材料が挙げられる。このうち、コークス類には、ピッチコークス,ニードルコークスあるいは石油コークスなどがある。有機高分子化合物焼成体というのは、フェノール樹脂やフラン樹脂等の高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいい、一部には難黒鉛化性炭素または易黒鉛化性炭素に分類されるものもある。これら炭素材料は、充放電時に生じる結晶構造の変化が非常に少なく、高い充放電容量を得ることができると共に、良好なサイクル特性を得ることができるので好ましい。特に黒鉛は、電気化学当量が大きく、高いエネルギー密度を得ることができ好ましい。また、難黒鉛化性炭素は、優れたサイクル特性が得られるので好ましい。更にまた、充放電電位が低いもの、具体的には充放電電位がリチウム金属に近いものが、電池の高エネルギー密度化を容易に実現することができるので好ましい。
【0039】
リチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、また、リチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能であり、金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として含む材料も挙げられる。このような材料を用いれば、高いエネルギー密度を得ることができるからである。特に、炭素材料と共に用いるようにすれば、高エネルギー密度を得ることができると共に、優れたサイクル特性を得ることができるのでより好ましい。この負極材料は金属元素あるいは半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、またこれらの1種または2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。なお、本発明において、合金には2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含める。また、非金属元素を含んでいてもよい。その組織には固溶体,共晶(共融混合物),金属間化合物あるいはそれらのうちの2種以上が共存するものがある。
【0040】
この負極材料を構成する金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、マグネシウム(Mg),ホウ素(B),アルミニウム(Al),ガリウム(Ga),インジウム(In),ケイ素(Si),ゲルマニウム(Ge),スズ,鉛(Pb),ビスマス(Bi),カドミウム(Cd),銀(Ag),亜鉛,ハフニウム(Hf),ジルコニウム(Zr),イットリウム(Y),パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)が挙げられる。これらは結晶質のものでもアモルファスのものでもよい。
【0041】
中でも、この負極材料としては、短周期型周期表における4B族の金属元素あるいは半金属元素を構成元素として含むものが好ましく、特に好ましいのはケイ素(Si)およびスズ(Sn)の少なくとも一方を構成元素として含むものである。ケイ素(Si)およびスズ(Sn)は、リチウム(Li)を吸蔵および放出する能力が大きく、高いエネルギー密度を得ることができるからである。
【0042】
リチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、更に、他の金属化合物あるいは高分子材料が挙げられる。他の金属化合物としては、酸化鉄,酸化ルテニウム,酸化モリブデン,酸化タングステン,酸化チタンあるいは酸化スズなどの酸化物、硫化ニッケルあるいは硫化モリブデンなどの硫化物、または窒化リチウムなどの窒化物が挙げられ、高分子材料としてはポリアセチレンあるいはポリピロールなどが挙げられる。
【0043】
セパレータ33は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン,ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂製の多孔質膜、またはセラミック製の多孔質膜により構成されており、これら2種以上の多孔質膜を積層した構造とされていてもよい。中でも、ポリオレフィン製の多孔質膜はショート防止効果に優れ、かつシャットダウン効果による電池の安全性向上を図ることができるので好ましい。
【0044】
電解液は、例えば有機溶媒などの非水溶媒と、この非水溶媒に溶解された電解質塩とを含んでいる。非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、プロピオニトリル、アニソール、酢酸エステル、酪酸エステル、あるいはプロピオン酸エステルが挙げられる。非水溶媒は、1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。
【0045】
電解質塩としては、例えばリチウム塩が挙げられ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。リチウム塩としては、LiPF6 ,LiBF4 ,LiAsF6 ,LiClO4 ,LiB(C6 5 4 ,LiCH3 SO3 ,LiCF3 SO3 ,LiN(SO2 CF3 2 ,LiC(SO2 CF3 3 ,LiAlCl4 ,LiSiF6 ,LiCl, ジフルオロ[オキソラト−O,O’]ホウ酸リチウム,リチウムビスオキサレートボレート,あるいはLiBrなどが挙げられる。
【0046】
なお、この二次電池の完全充電時における開回路電圧(すなわち電池電圧)は4.20Vでもよいが、4.20Vよりも高く4.25V以上6.00V以下の範囲内になるように設計されていることが好ましい。電池電圧を高くすることによりエネルギー密度を大きくすることができると共に、本実施の形態によれば、正極材料の化学的安定性が向上されているので、電池電圧を高くしても優れた充放電効率を得ることができるからである。その場合、電池電圧を4.20Vとする場合よりも、同じ正極材料でも単位質量当たりのリチウムの放出量が多くなるので、それに応じて正極材料と負極活物質との量が調整される。
【0047】
この二次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0048】
まず、例えば、正極集電体31Aに正極活物質層31Bを形成し正極31を作製する。正極活物質層31Bは、例えば、正極材料と、導電剤と、結着剤とを混合して正極合剤を調製したのち、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとし、この正極合剤スラリーを正極集電体31Aに塗布し溶剤を乾燥させ、ロールプレス機などにより圧縮成型することにより形成する。
【0049】
また、例えば、負極集電体32Aに負極活物質層32Bを形成し負極32を作製する。負極活物質層32Bは、例えば、気相法、液相法、焼成法、または塗布のいずれにより形成してもよく、それらの2以上を組み合わせてもよい。なお、気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法を用いることができ、具体的には、真空蒸着法,スパッタ法,イオンプレーティング法,レーザーアブレーション法,熱CVD(Chemical Vapor Deposition ;化学気相成長)法あるいはプラズマCVD法等が利用可能である。液相法としては電解鍍金あるいは無電解鍍金等の公知の手法が利用可能である。焼成法に関しても公知の手法が利用可能であり、例えば、雰囲気焼成法,反応焼成法あるいはホットプレス焼成法が利用可能である。塗布の場合には、正極31と同様にして形成することができる。
【0050】
続いて、正極集電体31Aに正極リード35を溶接などにより取り付けると共に、負極集電体32Aに負極リード36を溶接などにより取り付ける。そののち、正極31と負極32とをセパレータ33を介して巻回し、正極リード35の先端部を安全弁機構25に溶接すると共に、負極リード36の先端部を電池缶21に溶接して、巻回した正極31および負極32を一対の絶縁板22,23で挟み電池缶21の内部に収納する。正極31および負極32を電池缶21の内部に収納したのち、電解液を電池缶21の内部に注入し、セパレータ33に含浸させる。そののち、電池缶21の開口端部に電池蓋24,安全弁機構25および熱感抵抗素子26をガスケット27を介してかしめることにより固定する。これにより、図2,3に示した二次電池が形成される。
【0051】
この二次電池では、充電を行うと、正極活物質層31Bからリチウムイオンが放出され、電解液を介して、負極活物質層32Bに含まれるリチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能な負極材料に吸蔵される。次いで、放電を行うと、負極活物質層32B中のリチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能な負極材料に吸蔵されたリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極活物質層31Bに吸蔵される。本実施の形態では、上述した正極材料を用いているので、正極31の化学的安定性が高くなっており、完全充電時における開回路電圧を高くしても、充放電効率が改善される。
【0052】
(第2の二次電池)
図4は本実施の形態に係る正極材料を用いた第2の二次電池の構成を表すものである。この二次電池は、正極リード41および負極リード42が取り付けられた巻回電極体40をフィルム状の外装部材50の内部に収容したものであり、小型化,軽量化および薄型化が可能となっている。
【0053】
正極リード41および負極リード42は、それぞれ、外装部材50の内部から外部に向かい例えば同一方向に導出されている。正極リード41および負極リード42は、例えば、アルミニウム(Al),銅(Cu),ニッケル(Ni)あるいはステンレスなどの金属材料によりそれぞれ構成されており、それぞれ薄板状または網目状とされている。
【0054】
外装部材50は、例えば、ナイロンフィルム,アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムをこの順に貼り合わせた矩形状のアルミラミネートフィルムにより構成されている。外装部材50は、例えば、ポリエチレンフィルム側と巻回電極体40とが対向するように配設されており、各外縁部が融着あるいは接着剤により互いに密着されている。外装部材50と正極リード41および負極リード42との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム51が挿入されている。密着フィルム51は、正極リード41および負極リード42に対して密着性を有する材料、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂により構成されている。
【0055】
なお、外装部材50は、上述したアルミラミネートフィルムに代えて、他の構造を有するラミネートフィルム,ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムにより構成するようにしてもよい。
【0056】
図5は図4に示した巻回電極体40のI−I線に沿った断面構造を表すものである。巻回電極体40は、正極43と負極44とをセパレータ45および電解質層46を介して積層し、巻回したものであり、最外周部は保護テープ47により保護されている。
【0057】
正極43は、正極集電体43Aの両面に正極活物質層43Bが設けられた構造を有しており、負極44は、負極集電体44Aの両面に負極活物質層44Bが設けられた構造を有している。正極集電体43A,正極活物質層43B,負極集電体44A,負極活物質層44Bおよびセパレータ45の構成は、それぞれ上述した正極集電体31A,正極活物質層31B,負極集電体32A,負極活物質層32Bおよびセパレータ33と同様である。
【0058】
電解質層46は、電解液と、この電解液を保持する保持体となる高分子化合物とを含み、いわゆるゲル状となっている。ゲル状の電解質層46は高いイオン伝導率を得ることができると共に、漏液を防止することができるので好ましい。電解液の構成は、第1の二次電池と同様である。高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル,ポリフッ化ビニリデン,フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体,ポリテトラフルオロエチレン,ポリヘキサフルオロプロピレン,ポリエチレンオキサイド,ポリプロピレンオキサイド,ポリフォスファゼン,ポリシロキサン,ポリ酢酸ビニル,ポリビニルアルコール,ポリメタクリル酸メチル,ポリアクリル酸,ポリメタクリル酸,スチレン−ブタジエンゴム,ニトリル−ブタジエンゴム,ポリスチレンあるいはポリカーボネートが挙げられる。特に電気化学的な安定性の点からはポリアクリロニトリル,ポリフッ化ビニリデン,ポリヘキサフルオロプロピレンあるいはポリエチレンオキサイドが好ましい。
【0059】
この二次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0060】
まず、正極43および負極44を第1の二次電池と同様にして作製したのち、正極43および負極44のそれぞれに、電解液と、高分子化合物と、混合溶剤とを含む前駆溶液を塗布し、混合溶剤を揮発させて電解質層46を形成する。そののち、正極集電体43Aに正極リード41を取り付けると共に、負極集電体44Aに負極リード42を取り付ける。次いで、電解質層46が形成された正極43と負極44とをセパレータ45を介して積層し積層体としたのち、この積層体をその長手方向に巻回して、最外周部に保護テープ47を接着して巻回電極体40を形成する。最後に、例えば、外装部材50の間に巻回電極体40を挟み込み、外装部材50の外縁部同士を熱融着などにより密着させて封入する。その際、正極リード41および負極リード42と外装部材50との間には密着フィルム51を挿入する。これにより、図4,5に示した二次電池が完成する。
【0061】
また、この二次電池は、次のようにして作製してもよい。まず、上述したようにして正極43および負極44を作製し、正極43および負極44に正極リード41および負極リード42を取り付けたのち、正極43と負極44とをセパレータ45を介して積層して巻回し、最外周部に保護テープ47を接着して、巻回電極体40の前駆体である巻回体を形成する。次いで、この巻回体を外装部材50に挟み、一辺を除く外周縁部を熱融着して袋状とし、外装部材50の内部に収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を外装部材50の内部に注入し、外装部材50の開口部を密封する。そののち、熱を加えてモノマーを重合させて高分子化合物とすることによりゲル状の電解質層46を形成し、図4,5に示した二次電池を組み立てる。
【0062】
この二次電池は、第1の二次電池と同様に作用する。
【0063】
このように本実施の形態によれば、リチウム複合化合物粒子にバレルスパッタ法により被覆層を形成するようにしたので、均一な被覆層を形成することができ、充放電効率を向上させることができる。特に、完全充電状態における開回路電圧を4.25V以上6.00V以下の範囲内とした場合にも、優れた効果を得ることができるので、容量を高くすることもできる。
【実施例】
【0064】
更に、本発明の具体的な実施例について、詳細に説明する
【0065】
(実施例1−1〜1−10)
正極材料を作製した。まず、リチウム複合化合物粒子として平均粒子径が10μmであるLiCoO2 に、バレルスパッタ法により被覆層を形成した。被覆層は、実施例1−1〜1−4,1−7,1−8ではZrO2 とし、実施例1−5,1−9ではAl2 3 とし、実施例1−6,1−10ではTiO2 とし、厚みを10μm〜80μmとした。また、バレルスパッタ法の際には、バレル周速を0.10m/分とし、出力を1kwとし、酸素ガスの分圧を80Pa%(80atm%)とした。そののち、被覆層が形成されたLiCoO2 を600℃で3時間加熱することにより、正極材料を作製した。
【0066】
次いで、作製したこれらの正極材料を用いて図6に示したコイン型の二次電池を作製し、特性を評価した。この二次電池は、正極61と、負極62とを電解液を含浸させたセパレータ63を介して積層し、外装缶64と外装カップ65との間に挟み、ガスケット66を介してかしめたものである。正極64は、作製した正極材料96質量部と、導電剤であるケッチェンブラック1.5質量部と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン2.5質量部とを、溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させて、アルミニウム箔よりなる正極集電体61Aに塗布・乾燥させ、ロールプレス機で圧縮成型して正極活物質層61Bを形成したのち、直径15mmの円板状に打ち抜くことにより作製した。
【0067】
また、負極62は、負極材料として人造黒鉛粉末95質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン5質量部とを溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させて、銅箔よりなる負極集電体62Aに塗布・乾燥させ、ロールプレス機で圧縮成型して負極活物質層62Bを形成したのち、直径16mmの円板状に打ち抜くことにより作製した。その際、正極材料の量と負極材料の量とを調整し、完全充電時における開回路電圧(すなわち、電池電圧)が実施例1−1〜1−6では4.40Vとなるように、また、実施例1−7〜1−10では4.20Vとなるように設計した。
【0068】
セパレータ63にはポリプロピレンを用い、電解液には、炭酸プロピレンと、炭酸エチレンと、炭酸エチルメチルと、炭酸ジメチルと、炭酸ビニレンとを、炭酸プロピレン:炭酸エチレン:炭酸エチルメチル:炭酸ジメチル:炭酸ビニレン=12:15:5:67:1の質量比で混合した溶媒に、電解質塩としてLiPF6 を1.5mol/kgとなるように溶解させたものを用いた。
【0069】
実施例1−1〜1−10に対する比較例1−1,1−4として、被覆層を形成しなかったことを除き、他は実施例1−1〜1−10と同様にして二次電池を作製した。その際、比較例1−1,1−4では、完全充電時における開回路電圧が、それぞれ4.40V,4.20Vとなるように設計した。
【0070】
また、比較例1−2,1−3,1−5,1−6として、バレルを回転させなかったことを除き、すなわち、静置型スパッタ法により被覆層を形成したことを除き、他は実施例1−1〜1−10と同様にして正極材料および二次電池を作製した。その際、被覆層はZrO2 により形成し、厚みは10nmまたは20nmとした。また、完全充電時における開回路電圧が、比較例1−2,1−3では4.40Vとなるように、比較例1−5,1−6では4.20Vになるように設計した。
【0071】
作製した二次電池をそれぞれ5個ずつ用意し、23℃で充放電を繰り返し、初回放電容量およびサイクル特性を調べた。充電は、2mAの定電流で電池電圧が4.40Vまたは4.20Vに達するまで定電流充電を行ったのち、定電圧で電流が0.02mAに達するまで定電圧充電を行い、2mAの定電流で電池電圧が3.0Vに達するまで定電流放電を行った。初回放電容量は、1サイクル目の放電容量とした。また、サイクル特性は、2サイクル目の放電容量に対する60サイクル目の放電容量の維持率、すなわち、(60サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100%から求めた。表1に初回放電容量の平均値,放電容量維持率の平均値および容量維持率のバラツキ、すなわち(容量維持率の最大値−容量維持率の最小値)を示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1から分かるように、充電上限電圧を4.40Vとし、バレルスパッタ法により被覆層を形成した実施例1−1〜1−6によれば、被覆層を形成していない比較例1−1、あるいは静置型スパッタ法により被覆層を形成した比較例1−2,1−3よりも放電容量維持率が向上したと共に、そのバラツキが小さかった。また、充電上限電圧を4.20Vとし、バレルスパッタ法により被覆層を形成したた実施例1−7〜1−10では、被覆層を形成していない比較例1−4、あるいは静置型スパッタ法により被覆層を形成した比較例1−5,1−6と同等の放電容量維持率が得られた。
【0074】
すなわち、リチウム複合化合物粒子にバレルスパッタ法により均一な被覆層を形成した正極材料を用いるようにすれば、サイクル特性を向上させることができ、特に、完全充電時における開回路電圧を4.20V超とした場合に、高い効果を得ることができることが分かった。
【0075】
(実施例2−1〜2−4)
リチウム複合化合物粒子として、平均粒子径が9.6μmであるLiNi0.50Co0.20Mn0.302 を用いたことを除き、他は実施例1−1〜1−10と同様にして正極材料および二次電池を作製した。その際、被覆層は実施例2−1,2−3ではZrO2 とし、実施例2−2,2−4ではAl2 3 とし、厚みはそれぞれ20nmとした。また、正極材料の量と負極材料の量とを調整し、完全充電時における開回路電圧が実施例2−1,2−2では4.50Vとなるように、実施例2−3,2−4では4.20Vとなるように設計した。
【0076】
実施例2−1〜2−4に対する比較例2−1,2−3として、被覆層を形成しなかったことを除き、他は実施例2−1〜2−4と同様にして二次電池を作製した。その際、比較例2−1,2−3では、完全充電時における開回路電圧が、それぞれ4.50V,4.20Vとなるように設計した。
【0077】
また、比較例2−2として、バレルを回転させなかったことを除き、すなわち、静置型スパッタ法により被覆層を形成したことを除き、他は実施例2−1〜2−4と同様にして正極材料および二次電池を作製した。その際、被覆層はZrO2 により形成し、厚みは20nmとした。また、完全充電時における開回路電圧が、4.50Vとなるように設計した。
【0078】
作製した二次電池をそれぞれ5個ずつ用意し、実施例1−1〜1−10と同様にして初回放電容量およびサイクル特性を調べた。その際、充電は、実施例2−1,2−2および比較例2−1,2−2では、2mAの定電流で電池電圧が4.50Vに達するまで定電流充電を行ったのち、4.50Vの定電圧で電流が0.02mAに達するまで定電圧充電を行った。また、実施例2−3,2−4および比較例2−3では、2mAの定電流で電池電圧が4.20Vに達するまで定電流充電を行ったのち、4.20Vの定電圧で電流が0.02mAに達するまで定電圧充電を行った。これらの結果を表2に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
表2から分かるように、実施例1−1〜1−10と同様に、充電上限電圧を4.50Vとし、バレルスパッタ法により被覆層を形成した実施例2−1,2−2によれば、被覆層を形成していない比較例2−1、あるいは静置型スパッタ法により被覆層を形成した比較例2−2よりも放電容量維持率が向上したと共に、そのバラツキが小さかった。また、充電上限電圧を4.20Vとし、バレルスパッタ法により被覆層を形成した実施例2−3,2−4では、被覆層を形成していない比較例2−3と同等の放電容量維持率が得られた。
【0081】
すなわち、他のリチウム複合化合物粒子を用いた場合にも、バレルスパッタ法により均一な被覆層を形成するようにすれば、サイクル特性を向上させることができ、特に、完全充電時における開回路電圧を4.20V超とした場合に、高い効果を得ることができることが分かった。
【0082】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態または実施例では、液状の電解質である電解液、または電解液を高分子化合物に保持させたゲル状の電解質を用いる場合について説明したが、他の電解質を用いるようにしてもよい。他の電解質としては、例えば、イオン伝導性を有する高分子化合物に電解質塩を分散させた高分子電解質、イオン伝導性セラミックス,イオン伝導性ガラスあるいはイオン性結晶などよりなる無機固体電解質、溶融塩電解質、またはこれらを混合したものが挙げられる。
【0083】
また、上記実施の形態および実施例では、負極の容量が、リチウム(Li)の吸蔵および放出による容量成分により表されるいわゆるリチウムイオン二次電池について説明したが、本発明は、負極活物質にリチウム金属を用い、負極の容量が、リチウム(Li)の析出および溶解による容量成分により表されるいわゆるリチウム金属二次電池、または、リチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電容量を正極の充電容量よりも小さくすることにより、負極の容量がリチウム(Li)の吸蔵および放出による容量成分と、リチウム(Li)の析出および溶解による容量成分とを含み、かつその和により表されるようにした二次電池についても同様に適用することができる。
【0084】
更に、上記実施の形態および実施例では巻回構造を有する二次電池およびコイン型の二次電池ついて説明したが、本発明は、正極および負極を折り畳んだりあるいは複数積み重ねた他の構造を有する二次電池についても同様に適用することができる。加えて、いわゆるボタン型あるいは角型などの他の形状を有する二次電池についても適用することができる。また、二次電池に限らず、一次電池についても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】バレルスパッタ法に用いる装置の一例を表す概略図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る正極材料を用いた第1の二次電池の構成を表す断面図である。
【図3】図2に示した二次電池における巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る正極材料を用いた第2の二次電池の構成を表す分解斜視図である。
【図5】図4で示した巻回電極体のI−I線に沿った断面図である。
【図6】実施例において作製した二次電池の構成を表す断面図である。
【符号の説明】
【0086】
10…装置、11…チャンバー、12…バレル、13…ターゲット、14…ローラ、21…電池缶、22,23…絶縁板、24…電池蓋、25…安全弁機構,25A…ディスク板、26…熱感抵抗素子、27,66…ガスケット、30,40…巻回電極体、31,43,61…正極、31A,43A,61A…正極集電体、31B,43B,61B…正極活物質層、32,44,52…負極、32A,44A,52A…負極集電体、32B,44B,52B…負極活物質層、33,45,63…セパレータ、34…センターピン、35,41…正極リード、36,42…負極リード、46…電解質層、47…保護テープ、50…外装部材、51…密着フィルム、64…外装缶、65…外装カップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム複合化合物粒子と、このリチウム複合化合物粒子を被覆する被覆層とを有し、
前記被覆層は、バレルスパッタ法により形成された
ことを特徴とする正極材料。
【請求項2】
前記リチウム複合化合物粒子は、化1に示した化合物を含むことを特徴とする請求項1記載の正極材料。
(化1)
Lir Co(1-s) M3s (2-t) u
(式中、M3は、ニッケル(Ni),マンガン(Mn),マグネシウム(Mg),アルミニウム(Al),ホウ素(B),チタン(Ti),バナジウム(V),クロム(Cr),鉄(Fe),銅(Cu),亜鉛(Zn),モリブデン(Mo),スズ(Sn),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr)およびタングステン(W)からなる群のうちの少なくとも1種を表す。r,s,tおよびuは、0.8≦r≦1.2、0≦s<0.5、−0.1≦t≦0.2、0≦u≦0.1の範囲内の値である。)
【請求項3】
前記リチウム複合化合物粒子は、化2に示した化合物を含むことを特徴とする請求項1記載の正極材料。
(化2)
Lim Ni(1-n) M2n (2-p) q
(式中、M2は、コバルト(Co),マンガン(Mn),マグネシウム(Mg),アルミニウム(Al),ホウ素(B),チタン(Ti),バナジウム(V),クロム(Cr),鉄(Fe),銅(Cu),亜鉛(Zn),モリブデン(Mo),スズ(Sn),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr)およびタングステン(W)からなる群のうちの少なくとも1種を表す。m,n,pおよびqは、0.8≦m≦1.2、0. 005≦n≦0. 5、−0. 1≦p≦0. 2、0≦q≦0. 1の範囲内の値である。)
【請求項4】
前記被覆層の厚みは、10nm以上80nm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1記載の正極材料。
【請求項5】
前記被覆層は、構成元素として、マグネシウム(Mg),アルミニウム(Al),チタン(Ti),サマリウム(Sm),ジルコニウム(Zr)およびホウ素(B)からなる群のうちの少なくとも1種を含む酸化物よりなることを特徴とする請求項1記載の正極材料。
【請求項6】
リチウム複合化合物粒子に、バレルスパッタ法により被覆層を形成することを特徴とする正極材料の製造方法。
【請求項7】
化1に示した化合物を含むリチウム複合化合物粒子を用いることを特徴とする請求項6記載の正極材料の製造方法。
(化1)
Lir Co(1-s) M3s (2-t) u
(式中、M3は、ニッケル(Ni),マンガン(Mn),マグネシウム(Mg),アルミニウム(Al),ホウ素(B),チタン(Ti),バナジウム(V),クロム(Cr),鉄(Fe),銅(Cu),亜鉛(Zn),モリブデン(Mo),スズ(Sn),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr)およびタングステン(W)からなる群のうちの少なくとも1種を表す。r,s,tおよびuは、0.8≦r≦1.2、0≦s<0.5、−0.1≦t≦0.2、0≦u≦0.1の範囲内の値である。)
【請求項8】
化2に示した化合物を含むリチウム複合化合物粒子を用いることを特徴とする請求項6記載の正極材料の製造方法。
(化2)
Lim Ni(1-n) M2n (2-p) q
(式中、M2は、コバルト(Co),マンガン(Mn),マグネシウム(Mg),アルミニウム(Al),ホウ素(B),チタン(Ti),バナジウム(V),クロム(Cr),鉄(Fe),銅(Cu),亜鉛(Zn),モリブデン(Mo),スズ(Sn),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr)およびタングステン(W)からなる群のうちの少なくとも1種を表す。m,n,pおよびqは、0.8≦m≦1.2、0. 005≦n≦0. 5、−0. 1≦p≦0. 2、0≦q≦0. 1の範囲内の値である。)
【請求項9】
前記被覆層を、マグネシウム(Mg),アルミニウム(Al),チタン(Ti),サマリウム(Sm),ジルコニウム(Zr)およびホウ素(B)からなる群のうちの少なくとも1種を構成元素として含む酸化物により形成することを特徴とする請求項6記載の正極材料の製造方法。
【請求項10】
正極および負極と共に電解質を備えた電池であって、
前記正極は、リチウム複合化合物粒子と、このリチウム複合化合物粒子を被覆する被覆層とを有する正極材料を含有し、
前記被覆層は、バレルスパッタ法により形成された
ことを特徴とする電池。
【請求項11】
前記リチウム複合化合物粒子は、化1に示した化合物を含むことを特徴とする請求項10記載の電池。
(化1)
Lir Co(1-s) M3s (2-t) u
(式中、M3は、ニッケル(Ni),マンガン(Mn),マグネシウム(Mg),アルミニウム(Al),ホウ素(B),チタン(Ti),バナジウム(V),クロム(Cr),鉄(Fe),銅(Cu),亜鉛(Zn),モリブデン(Mo),スズ(Sn),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr)およびタングステン(W)からなる群のうちの少なくとも1種を表す。r,s,tおよびuは、0.8≦r≦1.2、0≦s<0.5、−0.1≦t≦0.2、0≦u≦0.1の範囲内の値である。)
【請求項12】
前記リチウム複合化合物粒子は、化2に示した化合物を含むことを特徴とする請求項10記載の電池。
(化2)
Lim Ni(1-n) M2n (2-p) q
(式中、M2は、コバルト(Co),マンガン(Mn),マグネシウム(Mg),アルミニウム(Al),ホウ素(B),チタン(Ti),バナジウム(V),クロム(Cr),鉄(Fe),銅(Cu),亜鉛(Zn),モリブデン(Mo),スズ(Sn),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr)およびタングステン(W)からなる群のうちの少なくとも1種を表す。m,n,pおよびqは、0.8≦m≦1.2、0. 005≦n≦0. 5、−0. 1≦p≦0. 2、0≦q≦0. 1の範囲内の値である。)
【請求項13】
前記被覆層の厚みは、10nm以上80nm以下の範囲内であることを特徴とする請求項10記載の電池。
【請求項14】
前記被覆層は、構成元素として、マグネシウム(Mg),アルミニウム(Al),チタン(Ti),サマリウム(Sm),ジルコニウム(Zr)およびホウ素(B)からなる群のうちの少なくとも1種を含む酸化物よりなることを特徴とする請求項10記載の電池。
【請求項15】
一対の正極および負極当たりの完全充電状態における開回路電圧が4.25V以上6.00V以下の範囲内であることを特徴とする請求項10記載の電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−5073(P2007−5073A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−182025(P2005−182025)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】