説明

歩行者保護装置

【課題】跳ね上げ機構作動後にも、運転者の視界を確保することができ、かつ、跳ね上げられたフードパネルにより、歩行者を円滑に保護可能な歩行者保護装置を提供すること。
【解決手段】エンジンルーム6の上方を覆うように配設される板金製のフードパネル8と、フードパネル8の歩行者との干渉時に下方へ凹むように塑性変形させて歩行者の運動エネルギーを吸収可能とするように、車両の歩行者との接触検知時にフードパネル8を上方に移動させて支持する跳ね上げ機構20と、を備える構成の歩行者保護装置。跳ね上げ機構20が、作動時に、フードパネル8における後端8a側と、前後方向の中央8b付近と、の部位に、押上部21を設けて、フードパネル8を上方に跳ね上げ可能に構成される。跳ね上げ機構20は、作動後に、運転者の視界を確保可能なように、後端8a側の押上部21の押上量を設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のフードパネルに跳ね上げ機構を配設させ、作動時に上方に跳ね上げたフードパネルにより、歩行者を保護可能な歩行者保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上記構成の歩行者保護装置では、フードパネルの下部側に配設された跳ね上げ機構によりフードパネルの後端側を上方に移動させ、エンジンルーム内に配設されるエンジン等の部材とフードパネルとの離隔距離を大きくして、歩行者が車両と干渉してフードパネルと干渉した際に、フードパネルを下方へ凹むように塑性変形させることにより、歩行者のエンジン等の部材との干渉を防止して、歩行者の運動エネルギーを吸収する構成であった(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−315266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来の歩行者保護装置では、フードパネルの後端側のみを、上方に跳ね上げる構成であることから、フードパネルにおける後端から離れた前後方向の中間部位付近に位置するエンジン等の硬質部材と干渉することなく、フードパネルの塑性変形量を確保するためには、後端側部位を上方に大きく跳ね上げる必要があり、跳ね上げ機構の作動後、跳ね上げられたフードパネルの後端側部位により、運転者の視界を確保できない虞れが生じていた。
【0004】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、跳ね上げ機構作動後にも、運転者の視界を確保することができ、かつ、跳ね上げられたフードパネルにより、歩行者を円滑に保護可能な歩行者保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る歩行者保護装置は、車体前端側に配置されるエンジンルームの上方を覆うように配設される板金製のフードパネルと、
フードパネルの歩行者との干渉時に下方へ凹むように塑性変形させて歩行者の運動エネルギーを吸収可能とするように、車両の歩行者との接触検知時にフードパネルを上方に移動させて支持する跳ね上げ機構と、
を備える構成の歩行者保護装置であって、
跳ね上げ機構が、作動時に、フードパネルにおける後端側と、前後方向の中央付近と、の部位に、押上部を設けて、フードパネルを上方に跳ね上げ可能に構成されるとともに、
作動後に、運転者の視界を確保可能なように、後端側の押上部の押上量を設定されていることを特徴とする。
【0006】
本発明の歩行者保護装置では、跳ね上げ機構の作動後にも、運転者の視界を確保可能とするように、フードパネル後端側に配設される押上部の押上量が設定されていることから、作動後に、運転者の視界を充分に確保できる。また、本発明の歩行者保護装置では、跳ね上げ機構が、フードパネルにおける前後方向の中央付近の部位を押上可能な押上部を備えていることから、フードパネルの後端付近のみならず、前後方向の中央付近の部位も、上方に跳ね上げられることとなり、フードパネルを、前後方向の広い領域にわたって、上方に移動させることが可能となる。そのため、車両と干渉した歩行者が、仮に、フードパネルにおける前後方向の中間の部位と干渉することとなっても、この中間部位を塑性変形させることにより、歩行者の運動エネルギーを吸収することができる。そのため、エンジンルーム内に配設されるエンジン等の硬質部材と歩行者が干渉することを抑えることができて、フードパネルにより、歩行者を円滑に保護することができる。
【0007】
従って、本発明の歩行者保護装置では、跳ね上げ機構作動後にも、運転者の視界を確保することができ、かつ、跳ね上げられたフードパネルにより、歩行者を円滑に保護することができる。
【0008】
また、上記構成の歩行者保護装置において、跳ね上げ機構を、後端側の押上部と中央付近の押上部との押上量を略同一とするように、構成すれば、後端側の押上部と中央側の押上部とを、同一の機構を利用して押し上げることができて、好ましい。
【0009】
さらに、上記構成の歩行者保護装置において、跳ね上げ機構を、作動時に、中央付近の押上部を後端側の押上部より押上量を大きくするように、構成すれば、中央側部位を高く跳ね上げることにより、変形量を確保できて、歩行者を一層的確に保護することができ、かつ、後端側部位が高く跳ね上がることを抑えられることから、運転者の視界も、良好に確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本明細書では、前後及び上下の方向は、車両の前後・上下方向に沿う方向を基準とし、左右の方向は、車両の前方側から後方側を見た際の左右の方向に沿う方向を基準とする。
【0011】
第1実施形態の歩行者保護装置S1は、図1・2に示すように、車両Vのフードパネル8と、フードパネル8の下部側に配設される跳ね上げ機構20と、から構成されている。車両Vには、図1・2に示すごとく、フロントバンパ3に、歩行者との衝突を検知可能なセンサ4が配設されており、センサ4が歩行者との衝突を検知した際に、図示しない作動回路が、跳ね上げ機構20を作動可能に、構成されている。
【0012】
フードパネル8は、車両Vにおけるエンジンルーム6の上方を覆うように配設されて、左右方向の両縁側における後端8a近傍となる位置において、ヒンジ12を使用して、車両Vのボディ1に対して、前開きで開閉可能に連結されている。フードパネル8は、実施形態の場合、共に板金製とされるアウタパネル9とインナパネル10とから構成されている。実施形態の場合、フードパネル8は、アルミニウム製(アルミニウム合金製)とされている。
【0013】
各ヒンジ12は、図3・4に示すように、フードパネル後端8aにおけるインナパネル9の下面側の部位に配設される軸支部13と、ボディ1側に配設されるボディ側部材15と、軸支部13とボディ側部材15とを回動可能に連結する棒状のピン14と、から構成されている。軸支部13は、略円板状とされて、インナパネル9の下面側部位から、下方に突出するように形成され、中央付近に、ピン14を挿通させる挿通孔13aを備えている。
【0014】
ボディ側部材15は、棒状の本体部16と、本体部16をスライド可能に本体部16に外装されるとともに下端側をボディ1側に固定されている外筒部17と、を備えて構成されている。本体部16の上端側には、ピン14を挿通させる挿通孔16bを有した略円板状の頭部16aが、配設されている。そして、本体部16は、車両搭載時においては、頭部16a付近となる部位を、外筒部17の上端付近に保持されて上方への移動を規制され、跳ね上げ機構20作動時に、後述する押上部21Bがフードパネル8の後端側部位8aを上方に押し上げた際に、外筒部17との連結状態が解除されて、外筒部17に対して上方にスライド可能に、構成されている。
【0015】
跳ね上げ機構20は、図2に示すように、フードパネル8の左右両縁8c・8d側に、前後方向に略沿って、配設されている。実施形態の場合、跳ね上げ機構20は、図6に示すように、フードパネル8の左側・右側縁部8c・8dの下部側となるボディ1側のフロントフェンダーパネル2とフードパネル8とで囲まれた隙間の部位SPに、配設されている。
【0016】
各跳ね上げ機構20は、実施形態の場合、フードパネル8の後端8a側と前後方向の中央付近との部位8bとに配設される前後2つの押上部21(21A・21B)と、各押上部21を作動させる駆動機構26と、から構成されている。
【0017】
各押上部21は、実施形態の場合、略逆L字形の板状のリンクとされて、前後方向に略沿って配設されるもので、中央付近を、軸方向を左右方向に沿わせたピン23を使用して、ボディ1側のフロントフェンダーパネル2に対して前後方向に沿って回動可能に連結されている。そして、各押上部21は、上端21a側をフードパネル8の下面側近傍に位置させるように、配設されるもので、上端21a側を後方に位置させ、下端21b側を前方に位置させるように、傾斜して配設されている。また、各押上部21は、下端21b付近を、駆動機構26の後述する牽引材27に連結されている。
【0018】
駆動機構26は、前後方向に略沿って配設される牽引材27と、フードパネル後端8a近傍であって後側に配設される押上部21Bより後方側に配設されるアクチュエータ28と、から構成されている。アクチュエータ28は、フロントバンパ3に配設されるセンサ4が歩行者との衝突を検知した際に、図示しない作動回路からの作動信号を入力させて、牽引材27を後方に牽引するように作動する構成とされている。実施形態の場合、アクチュエータ28は、所定の駆動モータを駆動させて牽引材27を巻き取り可能な巻き取り手段を備える構成とされている。牽引材27は、実施形態の場合、ワイヤから構成されて、各押上部21の下端21b付近に、それぞれ、取付部材24を使用して連結されるもので、アクチュエータ28の作動時に、後方に牽引されて、各押上部21の下端21b付近を後方へ移動可能に、構成されている。
【0019】
なお、実施形態の車両Vでは、フードパネル8の前端側部位8eは、エンジンルーム6の点検等のためにフードパネル8を開き可能とするように、所定の係止部材で解除可能にボディ1側に係止されており、跳ね上げ時には、ボディ1側に係止されている構成である。そして、各押上部21は、駆動機構26の作動時に、図5に示すごとく、上端21a(後述するストッパピン22)を、回動中心であるピン23の直上に位置させるように、ピン23を回動中心として回転し、回転移動する上端21a側の部位が、上方に変位しつつ、フードパネル8における後端側部位8aと中央側部位8bとの下面側を押し上げるような態様となって、フードパネル8の後端側部位8aと中央側部位8bとを、前方側の押上部21Aより前側に位置する部位を塑性変形させつつ、この押上部21Aより後方の部位を上方に移動させるように、跳ね上げることとなる。
【0020】
実施形態の歩行者保護装置S1では、前後に配設される押上部21A・21Bは、同一形状の板状のリンクとされて、同一回転半径としていることから、フードパネル8の跳ね上げ量も同一に設定されることとなる。押上部21A・21Bによるフードパネル8の跳ね上げ量L1(図5参照)は、跳ね上げ後に運転者の視界を充分確保できて、かつ、フードパネル8が歩行者と干渉した際に、塑性変形して、歩行者の運動エネルギーを吸収可能とするように、設定されている。すなわち、フードパネル8の跳ね上げ量L1は、跳ね上げられたフードパネル8が、歩行者と干渉して塑性変形した際に、フードパネル8の下部側に配設されるエンジンE等の硬質部材に底着きするのを防止可能な寸法に、設定されている。通常の車両では、フードパネル8を閉じた状態でのフードパネル8とエンジンEとの間の距離は、30〜50mm程度に設定されており、歩行者干渉時に発生する衝突エネルギーを吸収可能なフードパネル8の塑性変形量を確保するためには、フードパネル8とエンジンEとの間の距離を、80mm以上に設定することが好ましい。実施形態の場合、フードパネル8の跳ね上げ量L1は、50mm程度に設定されている。
【0021】
また、各押上部21の上端21a側には、駆動機構26作動後に、上端21aを上方に移動させた押上部21が、さらに上端21aを前方に向けるように回転するのを防ぐストッパピン22が、配設されており、フードパネル8には、このストッパピン22を係止可能な係止部11が、配設されている。ストッパピン22は、各押上部21からフードパネル8内側に向かって突出するように形成されており、左右方向に略沿って配設される首部22aと、首部22aの先端側に配設される頭部22bと、を備える構成である。係止部11は、前後方向の断面を略逆U字形状とされるもので、前端側を閉塞されるとともに左右方向に貫通して配設される溝部11aを備える構成とされている。そして、係止部11は、溝部11aの部位にストッパピン22の首部22aを挿通可能とするように、構成されている。ストッパピン22の頭部22bは、係止部11からフードパネル8内側に突出するように、配設されている。
【0022】
この係止部11は、下端側における後縁側の部位を切り欠いて構成され、駆動機構26の作動前において、溝部11aにストッパピン22の首部22aを挿通させないように、構成されている。すなわち、駆動機構26の作動前においては、ストッパピン22は係止部11に対して係止されておらず、エンジンルーム6内の点検時等において、フードパネル8の開閉作業に何ら支障を与えないように、構成されている。そして、駆動機構26が作動して、各押上部21の下端側部位21bが、牽引材27により牽引されて後方に移動すると、ストッパピン22の首部22aが、溝部11a内に侵入して、各押上部21が、フードパネル8を押し上げるような移動を完了させると、係止部11の前端側部位11bと当接するような態様となる。そして、ストッパピン22の首部22aが、係止部11の前端側部位11bにより、さらに前方移動することを抑えられることから、押え部21が、上端21aを前方に向けるようにさらに回転することを防止することができる。その結果、跳ね上げられたフードパネル8に歩行者が干渉することとなっても、フードパネル8が下方移動することを抑えて、歩行者干渉時の運動エネルギーを確実に吸収するように、歩行者と干渉する左右方向の中央付近の部位を塑性変形させることができ、フードパネル8により、歩行者を的確に保護することができる。なお、押上部21の上端21aの後方回転は、牽引材27が牽引されていることから、防止される。
【0023】
実施形態の歩行者保護装置S1では、フロントバンパ3に配設されるセンサ4が歩行者との衝突を検知した際に、各アクチュエータ28に、図示しない作動回路からの作動信号が入力されて、牽引材27が後方に牽引され、押上部21A・21Bが、ピン23を中心として回転移動し、上方に変位した上端21a側の部位により、フードパネル8の左右両縁側における後端側の部位8aと、前後方向の中央付近の部位8bと、が、上方に押し上げられるようにして、跳ね上げられることとなる。
【0024】
そして、実施形態の歩行者保護装置S1では、跳ね上げ機構20の作動後にも、運転者の視界を確保可能とするように、フードパネル後端8a側に配設される押上部21Bの押上量が設定されていることから、作動後に、運転者の視界を充分に確保できる。また、実施形態の歩行者保護装置S1では、跳ね上げ機構20が、フードパネル8における前後方向の中央付近の部位8bを押上可能な押上部21Aを備えていることから、フードパネル8の後端8a付近のみならず、前後方向の中央付近の部位8bも、上方に跳ね上げられることとなり、フードパネル8を、前後方向の広い領域にわたって、上方に移動させることが可能となる。そのため、車両と干渉した歩行者が、仮に、フードパネル8における前後方向の中間の部位と干渉することとなっても、この中間部位、特に、左右方向の中央付近のエリアを大きく下方へ凹ませるように塑性変形させて、歩行者の運動エネルギーを吸収することができる。そのため、エンジンルーム6内に配設されるエンジンE等の硬質部材と歩行者が干渉することを抑えることができて、歩行者を円滑に保護することができる。
【0025】
従って、実施形態の歩行者保護装置S1では、跳ね上げ機構20作動後にも、運転者の視界を確保することができ、かつ、跳ね上げられたフードパネル8により、歩行者を円滑に保護することができる。
【0026】
また、実施形態の歩行者保護装置S1では、跳ね上げ機構20として、同一の板状のリンクから構成される押上部21A・21Bを、使用している。すなわち、実施形態の歩行者保護装置S1では、リンクを使用して、2つの押上部21A・21Bを作動させる構成であることから、押上部を別々の機構を利用して作動させる場合と比較して、機構を簡略化できて、好ましい。なお、実施形態の歩行者保護装置S1では、フードパネル8の左右両縁側に配設される跳ね上げ機構20を、それぞれ別のアクチュエータ28を使用して作動させる構成であるが、図7に示すごとく、左右両縁側に配設される跳ね上げ機構20・20を、ワイヤからなる牽引材27を巻き掛けた複数のプーリー29を利用して、車両の左右方向の中央付近に配設される1つのアクチュエータ28Aを使用して作動させる構成としてもよい。
【0027】
次に、第2実施形態の歩行者保護装置S2について、説明する。第2実施形態の歩行者保護装置S2では、フードパネル8を跳ね上げる跳ね上げ機構31は、図8・9に示すように、フードパネル8とフロントウィンドシールドWとの間のカウル34の部位に配設されて展開膨張時にフードパネル後端8aを上方に押し上げ可能な押上部としてのエアバッグ43を備えたエアバッグ装置32と、フードパネル8における前後方向の中央付近の部位8bに配設される押上部としての押上機構46と、から構成されている。
【0028】
カウル34は、ボディ1側の部材である板金製のカウルパネル35と、カウルパネル35の上方に配設される合成樹脂製のカウルルーバ36と、から構成されるもので、エアバッグ装置32は、カウルルーバ36の下部側に配設されている。エアバッグ装置32は、図9に示すように、エアバッグ43、エアバッグ43に膨張用ガスを供給するインフレーター41、折り畳まれたエアバッグ43とインフレーター41とを収納するケース38、及び、折り畳まれたエアバッグ43を覆うエアバッグカバー40を、備える構成である。
【0029】
ケース38は、板金製とされ、上方側を開口させた略箱形状とされて、ブラケット39を利用してカウルパネル35に固定されている。そして、実施形態のエアバッグ装置32では、ケース38の開口38aを覆うエアバッグカバー40は、カウルルーバ36と一体的に構成されて、エアバッグの展開膨張時に開き可能な扉部40aを備える構成とされている。
【0030】
エアバッグ43は、インフレーター41から吐出される膨張用ガスを内部に流入させて展開膨張するもので、実施形態の場合、ポリエステルやポリアミド糸等を使用した織布から形成された袋状とされている。実施形態の場合、エアバッグ43は、膨張完了時の形状を、図8に示すごとく、正面側から見て、左右方向に幅広とした略U字形状とされるもので、左右方向に沿って配設される横膨張部43aと、横膨張部43aの左右両端からフロントピラーFPの下部前面側を覆うように後方側に延びる縦膨張部43b・43bと、を備えている。横膨張部43aは、エアバッグ43の膨張完了時において、カウル34の上方を、左右方向の略全域にわたって覆う構成とされており、また、展開膨張時に、フードパネル後端8aを左右方向の略全域にわたって上方に押し上げることとなる。エアバッグ43の横膨張部43aによるフードパネル後端8aの押上量(跳ね上げ量)L2(図9参照)は、フードパネル8の跳ね上げ後に運転者の視界を充分確保できて、かつ、フードパネル8が歩行者と干渉した際に、塑性変形して歩行者がフードパネル8の下方に位置するエンジンE等の部材と干渉するのを防止可能とするように、設定されている。実施形態の場合、フードパネル8の後端側部位8aは、展開膨張するエアバッグ43の横膨張部43aにより、50〜150mm程度跳ね上げられることとなる。実施形態の歩行者保護装置S2では、膨張を完了させたエアバッグ43の横膨張部43aが、カウル34の上方を覆うように配設されるが、勿論、この横膨張部43aが配設されていても、運転者の視界は充分確保可能な構成とされている。
【0031】
また、フードパネル8の後端8a側に配設されるヒンジ12には、図4の括弧内に示すように、本体部16の周面から突出するように配設されるストッパ16cと、外筒部17に上下方向に略沿って配設される長穴状の係止穴部17aと、が、形成されている。係止穴部17aは、ストッパ16cを挿通可能に構成されている。このストッパ16cは、フードパネル後端8aがエアバッグ43の膨張に伴って上方に押し上げられ、本体部16が上方へ移動した際に、係止穴部17aの上端側周縁に係止されて本体部16及びフードパネル8が大きく上方に押し上げられるのを防止するために、配設されている。具体的には、ストッパ16c及び係止穴部17aは、フードパネル8の後端8aが、膨張するエアバッグ43の横膨張部43aにより、運転者の視界を妨げる高さまで押し上げられるのを防止するために配設されるもので、係止穴部17aは、上下方向の長さ寸法を、フードパネル後端8aの跳ね上げ量L2を確保可能な寸法に設定されている。
【0032】
なお、エアバッグ43の膨張に伴って押し上げられたフードパネル8の後端側部位8aは、下部側をエアバッグ43の横膨張部43aにより保持されることとなり、跳ね上げられたフードパネル後端8a近傍と、歩行者が干渉することとなっても、フードパネル8が下方移動することを抑えて、歩行者干渉時の運動エネルギーを確実に吸収するように塑性変形させることができ、フードパネル8により、歩行者を的確に保護することができる。
【0033】
エアバッグ43に膨張用ガスを供給するインフレーター41は、フロントバンパ3に配設されるセンサ4が歩行者との衝突を検知した際に、図示しない作動回路からの作動信号を入力させて、膨張用ガスを吐出可能に構成されている。また、インフレーター41は、実施形態の場合、ブラケット42を利用して、エアバッグ43とともに、ケース38に固定されている(図10参照)。
【0034】
フードパネル8における前後方向の中央付近の部位8bに配設される押上機構は、図9に示すように、フードパネル8の左右両縁側の部位8c・8dに、配設されるもので、前述の歩行者保護装置S1における跳ね上げ機構20と同様に、図11に示すごとく、フードパネル8の左側・右側縁部8c・8dの下部側となるボディ1側のフロントフェンダーパネル2とフードパネル8とで囲まれた隙間の部位SPに、配設されている。
【0035】
押上機構46は、多段式のピストンを備える構成とされ、アクチュエータとしての油圧シリンダ47と、シリンダ47により押上可能とされるロッド48と、から構成されている。ロッド48の上端には、略円板状の本体部48aが配設され、駆動時に、本体部48aにより、フードパネルの中央部位8bを上方に押し上げ可能な構成とされている。また、押上機構46は、図8に示すように、中央部位8bを、後端側部位8aよりも上方に位置させるように、エアバッグ装置32のエアバッグ43の跳ね上げ量L2よりも押上量(跳ね上げ量)L3(図11参照)を大きくして、構成されている。実施形態の場合、中央部位8bは、押上機構46により、20〜80mm程度跳ね上げられることとなる。また、押上機構46を駆動させる図示しない駆動手段は、フロントバンパ3に配設されるセンサ4が歩行者との衝突を検知した際に、図示しない作動回路からの作動信号を入力させて、作動するように、構成されている。また、実施形態の押上機構46は、作動後に、突出したロッド48の位置を保持する図示しないストッパを、備える構成とされている。すなわち、上方に突出したロッド48の下方への移動が、ストッパにより防止されることから、跳ね上げられたフードパネル中央部位8bの付近に歩行者が干渉することとなっても、フードパネル8が下方移動することを抑えて、歩行者干渉時の運動エネルギーを確実に吸収するように塑性変形させることができ、フードパネル8により、歩行者を的確に保護することができる。
【0036】
実施形態の歩行者保護装置S2では、フロントバンパ3に配設されるセンサ4が歩行者との衝突を検知した際に、インフレーター41に図示しない作動回路からの作動信号が入力されて、インフレーター41から膨張用ガスが吐出されて、エアバッグ43が、図8・9の二点鎖線に示すように展開膨張して、膨張した横膨張部43aにより、フードパネル8の後端8aが押し上げられることとなり、同時に、押上機構46を駆動させるシリンダ46にも作動機構が入力されて、ロッド48が上方に突出し、本体部48aにより、フードパネル8の中央付近の部位8bが上方に押し上げられ、フードパネル8の左右両縁側における後端側の部位8aと、前後方向の中央付近の部位8bと、が、上方に押し上げられるようにして、跳ね上げられることとなる。
【0037】
そして、実施形態の歩行者保護装置S2においても、跳ね上げ機構31の作動後にも、運転者の視界を確保可能とするように、フードパネル後端8a側に配設される押上部(エアバッグ装置32)によるフードパネル後端8aの押上量が設定されていることから、作動後に、運転者の視界を充分に確保できる。また、実施形態の歩行者保護装置S2においても、跳ね上げ機構31が、フードパネル8における前後方向の中央付近の部位8bを押上可能な押上部としての押上機構46を備えていることから、フードパネル8の後端a付近のみならず、前後方向の中央付近の部位8bも、上方に跳ね上げられることとなり、フードパネル8を、前後方向の広い領域にわたって、上方に移動させることが可能となる。そのため、車両と干渉した歩行者が、仮に、フードパネル8における前後方向の中間の部位と干渉することとなっても、この中間部位、特に、左右方向の中央付近のエリアを大きく下方へ凹ませるように塑性変形させて、歩行者の運動エネルギーを吸収することができる。そのため、エンジンルーム6内に配設されるエンジンE等の硬質部材と歩行者が干渉することを抑えることができて、歩行者を円滑に保護することができる。
【0038】
従って、実施形態の歩行者保護装置S2においても、跳ね上げ機構31作動後にも、運転者の視界を確保することができ、かつ、跳ね上げられたフードパネル8により、歩行者を円滑に保護することができる。
【0039】
また、実施形態の歩行者保護装置S2では、フードパネル8の後端8a側に配設される押上部として、エアバッグ装置32のエアバッグ43を使用しており、膨張を完了させたエアバッグ43が、カウル43の上方とフロントピラーFPの下部前面とを覆うように、配設されることから、歩行者がカウル43の部位に配設されるワイパや、フロントピラーFPと干渉することも防止することができる。なお、実施形態では、エアバッグ装置32は、カウル43の部位に配設されているが、エアバッグ装置の配置位置はこれに限られるものではなく、例えば、フードパネルの後端側に、エアバッグ装置を配設させる構成として、膨張するエアバッグによりフードパネルの後端を押上可能とする構成としてもよい。
【0040】
また、実施形態の歩行者保護装置S2では、跳ね上げ機構31の作動時に、押上機構46を、エアバッグ装置32より、フードパネル8の押上量を大きくするように、構成していることから、フードパネル8の中央側部位8bを、後端側部位8aより高く跳ね上げることができる(図8の二点鎖線参照)。そのため、歩行者を一層的確に保護することができ、かつ、後端側部位8aが高く跳ね上がることを抑えられることから、運転者の視界も、良好に確保することができる。
【0041】
なお、第1実施形態の歩行者保護装置S1では、跳ね上げ機構20をフードパネル8の左右両縁8c・8d側の2箇所に配設させている構成であるが、跳ね上げ機構を、フードパネルの左右方向の中央付近の1箇所のみに配設させる構成としてもよい。勿論、第2実施形態の歩行者保護装置S2の構成において、フードパネル8の左右両縁8c・8d側の2箇所に配設させる押上機構46を、フードパネルの左右方向の中央付近の一箇所のみに配設させる構成としてもよい。しかし、フードパネル8を広い範囲で確実に上方に押し上げ、かつ、跳ね上げ機構20を構成する押上部材21や押上機構46の本体部48aが歩行者と不用意に干渉することを抑える見地からは、フードパネル8を左右両縁8c・8d側の部位で、上方に押し上げる構成とすることが好ましい。
【0042】
なお、アクチュエータとして、実施形態では、駆動モータやシリンダが使用されているが、使用可能なアクチュエータはこれに限られるものではなく、勿論、アクチュエータとして、ソレノイドや機械式のばねを使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施形態である歩行者保護装置を搭載させた車両の側面図である。
【図2】同実施形態の歩行者保護装置を搭載させた車両の平面図である。
【図3】同実施形態の歩行者保護装置におけるフードパネルとボディ側の連結状態を示す概略図である。
【図4】同実施形態の歩行者保護装置におけるフードパネルとボディ側の連結状態を示す概略断面図であり、図3のIV−IV部位に対応する。
【図5】同実施形態の歩行者保護装置における跳ね上げ機構を示す概略断面図である。
【図6】同実施形態の歩行者保護装置における跳ね上げ機構を示す概略断面図であり、図2のVI−VI部位に対応する。
【図7】同実施形態の変形例である歩行者保護装置を搭載させた車両の平面図である。
【図8】本発明の第2実施形態である歩行者保護装置を搭載させた車両の側面図である。
【図9】同実施形態の歩行者保護装置を搭載させた車両の平面図である。
【図10】同実施形態の歩行者保護装置に使用されるエアバッグ装置を示す概略断面図であり、図9のX−X部位に対応する。
【図11】同実施形態の歩行者保護装置に使用される押上部材を示す概略断面図であり、図9のXI−XI部位に対応する。
【符号の説明】
【0044】
1…ボディ、
6…エンジンルーム、
8…フードパネル、
8a…後端、
8b…中央部位、
20・31…跳ね上げ機構、
21…押上部、
26…駆動機構、
32…エアバッグ装置、
43…エアバッグ(押上部)、
46…押上機構(押上部)、
E…エンジン、
V…車両、
S1・S2…歩行者保護装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前端側に配置されるエンジンルームの上方を覆うように配設される板金製のフードパネルと、
該フードパネルの歩行者との干渉時に下方へ凹むように塑性変形させて歩行者の運動エネルギーを吸収可能とするように、車両の歩行者との接触検知時に前記フードパネルを上方に移動させて支持する跳ね上げ機構と、
を備える構成の歩行者保護装置であって、
前記跳ね上げ機構が、作動時に、前記フードパネルにおける後端側と、前後方向の中央付近と、の部位に、押上部を設けて、前記フードパネルを上方に跳ね上げ可能に構成されるとともに、
作動後に、運転者の視界を確保可能なように、後端側の押上部の押上量を設定されていることを特徴とする歩行者保護装置。
【請求項2】
前記跳ね上げ機構が、後端側の前記押上部と、中央付近の前記押上部と、の押上量を、略同一とするように、構成されていることを特徴とする請求項1に記載の歩行者保護装置。
【請求項3】
前記跳ね上げ機構が、作動時に、中央付近の前記押上部を、後端側の前記押上部より、押上量を大きくするように、構成されていることを特徴とする請求項1に記載の歩行者保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−8229(P2007−8229A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−188775(P2005−188775)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】