説明

気相成長装置

【課題】サセプタなどを大型化することなく、一度に気相成長できる半導体薄膜の面積を多くできる自公転型の気相成長装置を提供する。
【解決手段】円盤状のサセプタ12に形成された円形開口内に設けられた軸受部材13と、軸受部材に回転可能に載置された均熱板14と、均熱板上に載置された外歯車部材15と、該外歯車部材に噛合する内歯車を備えたリング状の固定内歯車部材17と、外歯車部材に保持された基板18をサセプタの裏面側から加熱する加熱手段19と、基板表面に平行な方向に原料ガスを導くフローチャンネル20とを備えた自公転機構を有する横形気相成長装置において、軸受部材の外径又は外歯車部材の歯車基準円直径を基板の外径より小さい寸法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相成長装置に関し、詳しくは、基板を自公転させながら基板面に薄膜、特に窒化物系化合物半導体薄膜を気相成長させる自公転型の気相成長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一度に多数枚の基板に気相成長できる気相成長装置として、公転サセプタの外周部周方向に複数の自転サセプタ及び均熱板を配置し、該自転サセプタ及び均熱板の外周部に軸受と外歯車とを設け、反応容器内面に設けた内歯車と前記外歯車とを噛み合わせることによって成膜中の基板を自公転させる自公転型気相成長装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−266121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1に記載された自公転型気相成長装置では、軸受が基板外周より外側に配置されているので、自転サセプタの最小外径は、基板外径に更に軸受の寸法を加えた寸法になるため、公転サセプタの外周部に配置する自転サセプタの数が制限されてしまい、多数枚の基板を処理するためには大径の公転サセプタを用いなければならず、フローチャンネルやチャンバーの大型化も招くことになり、原料ガスの使用量も増大するという問題がある。
【0005】
そこで本発明は、サセプタなどを大型化することなく、一度に気相成長できる半導体薄膜の面積を大きくできる自公転型の気相成長装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の気相成長装置における第1の構成は、チャンバー内に回転可能に設けられた円盤状のサセプタと、該サセプタの外周部周方向に形成された複数の円形開口内にそれぞれ設けられたリング状の軸受部材と、各軸受部材上にそれぞれ回転可能に載置された円盤状の均熱板と、各均熱板上にそれぞれ載置された外歯車部材と、該外歯車部材に噛合する内歯車を備えたリング状の固定内歯車部材と、前記外歯車部材の表面に保持された基板を前記サセプタの裏面側から加熱する加熱手段と、前記基板の表面に平行な方向に原料ガスを導くフローチャンネルとを備えた自公転機構を有する横形気相成長装置において、前記軸受部材の外径を前記基板の外径より小さい寸法としたことを特徴としている。
【0007】
また、本発明の気相成長装置における第2の構成は、チャンバー内に回転可能に設けられた円盤状のサセプタと、該サセプタの外周部周方向に設けられた複数の円形開口内にそれぞれ設けられたリング状の軸受部材と、各軸受部材上にそれぞれ回転可能に載置された円盤状の均熱板と、各均熱板上にそれぞれ載置された外歯車部材と、該外歯車部材に噛合する内歯車を備えたリング状の固定内歯車部材と、前記外歯車部材の表面に保持された基板を前記サセプタの裏面側から加熱する加熱手段と、前記基板の表面に平行な方向に原料ガスを導くフローチャンネルとを備えた自公転機構を有する横形気相成長装置において、前記外歯車部材の歯車基準円直径を前記基板の外径より小さい寸法としたことを特徴としている。
【0008】
さらに、本発明の気相成長装置は、前記第1の構成及び前記第2の構成において、前記均熱板と外歯車部材との間に、均熱空間部が設けられていることを特徴とし、また、前記基板の表面に窒化物系化合物半導体薄膜を成長させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の気相成長装置によれば、軸受部材の外径又は外歯車部材の歯車基準円直径を基板の外径より小さい寸法としたことにより、サセプタなどを大型化することなく、一度に処理できる基板の枚数を多くすることができ、一度に気相成長させることができる半導体薄膜の面積を大幅に増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の気相成長装置の一形態例を示す断面正面図である。
【図2】同じく要部の断面正面図である。
【図3】同じく各部材を分離して示す断面正面図である。
【図4】一度に気相成長できる基板の枚数を比較した説明図である。
【図5】外歯車部材の上面温度を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本形態例に示す気相成長装置は、チャンバー11内に円盤状のサセプタ12を回転可能に設けるとともに、該サセプタ12の外周部周方向に形成された複数の円形開口12a内にそれぞれ設けられたリング状の軸受部材13と、各軸受部材13上にそれぞれ回転可能に載置された円盤状の均熱板14と、各均熱板14上にそれぞれ載置された外歯車部材(自転サセプタ)15と、該外歯車部材15に噛合する内歯車16を備えたリング状の固定内歯車部材17と、前記外歯車部材15の表面に保持された基板18を前記サセプタ12の裏面側から加熱する加熱手段(ヒーター)19と、前記基板18の表面に平行な方向に原料ガスを導くフローチャンネル20とを備えている。
【0012】
前記サセプタ12の中央には、該サセプタ12の下方に向かって延設され、チャンバー11の底板11aを貫通する中空軸部材21が設けられており、該中空軸部材21の内部が原料ガス通路として用いられ、中空軸部材21の下部には、該中空軸部材21を介してサセプタ12を回転させる駆動手段(図示せず)が設けられている。さらに、中空軸部材21の上端部には、前記フローチャンネル20内に原料ガスを導入するガス導入部22が設けられており、フローチャンネル20の外周には、複数のガス排出部23が設けられている。
【0013】
前記軸受部材13は、外周部に立ち上がり部13aを有する断面L字状に形成されており、下面外周には、前記円形開口12aの開口縁に設けられた上向きの係止段部12bに対応した下向きの係止段部13bが設けられている。立ち上がり部13aの内周側上面には、複数の転動部材(ボール)13cを保持する周溝13dが設けられている。
【0014】
また、均熱板14は、下面外周部周方向に、前記軸受部材13を収容するリング状の収容溝14aを有するとともに、外周部には、前記外歯車部材15を載置するための上向きの係止段部14bを有している。さらに、上面外周部には小突片14cがリング状に設けられており、該小突片14cの内周側には、小突片14cに囲まれた円形の凹状部14dが形成されている。
【0015】
外歯車部材15は、下面外周部にリング状の外歯車部15aを設けたもので、外歯車部15aの内径及び高さ(厚さ)は、均熱板14の係止段部14bに対応した寸法に形成されている。また、外歯車部材15の上面には、前記基板18を保持する凹部15bが設けられている。
【0016】
軸受部材13、均熱板14及び外歯車部材15を組み付けて外歯車部材15に基板18を保持した状態で、軸受部材13の下面及び均熱板14の下面とサセプタ12の下面とが面一になり、外歯車部材15の外周部上面及び基板18の上面とサセプタ12の上面とが面一になるように形成されている。
【0017】
そして、本形態例では、軸受部材13の外径A及び外歯車部材15における外歯車部15aの歯車基準円直径Bを基板18の外径Cより小さい寸法に設定している。すなわち、基板18を保持する外歯車部材15の下面外周部で、かつ、歯先円が外歯車部材15の外周縁の内周側に位置するようにして外歯車部15aを設けることにより、外歯車部材15は、外歯車部材15の表面側に設けられている基板保持部15bの外周部分が外歯車部材15における最大外径としている。
【0018】
このように、基板保持部15bの外周部分を外歯車部材15における最大外径とすることにより、例えば、図4(a)、図4(b)に比較して示すように、同一径のサセプタ51を使用した場合、図4(b)に示すように、外歯車52が最外周に位置する従来の構造では、基板53を6枚しか同時処理できないのに対し、図4(a)に示すように、基板保持部54が最外周に位置し、外歯車55が内周に位置する前述の構造を採用することにより、同じ基板52を7枚同時に処理することが可能となり、一度に成膜できる半導体薄膜の面積を大幅に増大させることができる。
【0019】
また、本形態例に示すように、均熱板14の上面外周部に小突片14cを設け、該小突片14cの内周側に凹状部14dを形成することにより、均熱板14の上面と外歯車部材15の下面との間に、外歯車部材15の温度、すなわち、外歯車部材15の上面に保持される基板18の表面温度の均一化を図るための均熱空間部24を形成することができる。
【0020】
このような均熱空間部24を形成することにより、外歯車部材15、均熱板14及び軸受部材13の形状、構造、材質などが異なっていても、下方の加熱手段19からこれらを介して基板18に伝達される熱量の均一化を図ることができ、基板18の表面の温度分布を小さくすることができ、基板18の表面に形成される半導体薄膜の均一化を図ることができる。
【0021】
例えば、窒化物系化合物半導体薄膜の場合、特に青色LEDの材料となるInGaN薄膜の成長においては、結晶成長する際の組成安定条件範囲が極めて狭く、最も成長温度に敏感な発光層であるとされるため、基板18の表面の温度分布を小さくすること、すなわち、均一な基板温度でInGaN薄膜を成長させることが望ましい。
【0022】
また、各部材を製作して組み付けた状態で温度分布を測定し、小突片14cに対する凹状部14dの深さや、凹状部14dの表面状態を調節することにより、均熱空間部24の最適化を図ることができ、1枚の基板の温度だけでなく、同時に処理する複数枚の基板間における温度差も解消することができる。
【0023】
これにより、軸受部材13の外径A及び外歯車部材15における外歯車部15aの歯車基準円直径Bを基板18の外径Cより小さい寸法に設定しても、均一な半導体薄膜を効率よく安定して得ることができる。特に、基板18の加熱温度が高く、基板表面の温度差によって形成した半導体薄膜の性能にばらつきが生じやすい窒化物系化合物半導体薄膜を気相成長させる場合は、前記均熱空間部24を形成することにより、均一で高品質の窒化物系化合物半導体薄膜を得ることができる。
【0024】
図5は、基板18の中心に相当する外歯車部材15の上面(基板18に接する面)の温度分布を測定した結果の一例を示すものである。前記均熱空間部24を設けていない場合の温度分布は線Mに示すように、5.3℃の温度差が発生していたが、均熱空間部24を設けた場合の温度分布は線Nに示すように、温度差は1.3℃であり、均熱空間部24によって温度差を小さくできることがわかる。
【0025】
また、各サセプタ位置において、基板18の中心から±30mm離れた2点に相当する外歯車部材15の上面の温度もそれぞれ測定した結果、基板18の中心に相当する外歯車部材15の上面の温度と基板18の中心から±30mm離れた2点に相当する外歯車部材15の上面の温度との温度差は最大で2℃程度であり、基板毎の温度均一性も保たれていた。
【符号の説明】
【0026】
11…チャンバー、11a…底板、12…サセプタ、12a…円形開口、12b…係止段部、13…軸受部材、13a…立ち上がり部、13b…係止段部、13c…転動部材、13d…周溝、14…均熱板、14a…収容溝、14b…係止段部、14c…小突片、14d…凹状部、15…外歯車部材、15a…外歯車部、15b…凹部、16…内歯車、17…固定内歯車部材、18…基板、19…加熱手段、20…フローチャンネル、21…中空軸部材、22…ガス導入部、23…ガス排出部、24…均熱空間部、51…サセプタ、52…外歯車、53…基板、54…基板保持部、55…外歯車、A…軸受部材13の外径、B…外歯車部15aの歯車基準円直径、C…基板18の外径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバー内に回転可能に設けられた円盤状のサセプタと、該サセプタの外周部周方向に形成された複数の円形開口内にそれぞれ設けられたリング状の軸受部材と、各軸受部材上にそれぞれ回転可能に載置された円盤状の均熱板と、各均熱板上にそれぞれ載置された外歯車部材と、該外歯車部材に噛合する内歯車を備えたリング状の固定内歯車部材と、前記外歯車部材の表面に保持された基板を前記サセプタの裏面側から加熱する加熱手段と、前記基板の表面に平行な方向に原料ガスを導くフローチャンネルとを備えた自公転機構を有する横形気相成長装置において、前記軸受部材の外径を前記基板の外径より小さい寸法としたことを特徴とする気相成長装置。
【請求項2】
チャンバー内に回転可能に設けられた円盤状のサセプタと、該サセプタの外周部周方向に設けられた複数の円形開口内にそれぞれ設けられたリング状の軸受部材と、各軸受部材上にそれぞれ回転可能に載置された円盤状の均熱板と、各均熱板上にそれぞれ載置された外歯車部材と、該外歯車部材に噛合する内歯車を備えたリング状の固定内歯車部材と、前記外歯車部材の表面に保持された基板を前記サセプタの裏面側から加熱する加熱手段と、前記基板の表面に平行な方向に原料ガスを導くフローチャンネルとを備えた自公転機構を有する横形気相成長装置において、前記外歯車部材の歯車基準円直径を前記基板の外径より小さい寸法としたことを特徴とする気相成長装置。
【請求項3】
前記均熱板と外歯車部材との間に、均熱空間部が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の気相成長装置。
【請求項4】
前記基板の表面に窒化物系化合物半導体薄膜を成長させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の気相成長装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−272708(P2010−272708A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123662(P2009−123662)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【出願人】(509054005)大陽日酸イー・エム・シー株式会社 (13)
【Fターム(参考)】