説明

水性塗料の塗布方法及び同塗布ノズル

【課題】 本発明は、薄い塗膜厚さをもつ塗布面が得られる水性塗料塗布方法及び水性塗料塗布ノズルを提供することを課題とする。
【解決手段】 水性塗料塗布ノズル10は、ケース体11に、水供給手段から加圧された水の供給を受ける水供給口30と、この水供給口30に連通し水を噴射する水噴射口38と、材料供給手段から塗料の供給を受ける塗料供給口23と、この塗料供給口23に連通し塗料を貯える塗料たまり部12と、この塗料たまり部12に連通し塗料を噴射する塗料噴射口27とを備え、この塗料噴射口27は、細孔24・・・を備えると共に、これらの細孔24・・・の送り方向前後に塗料を押し広げる圧縮空気噴射口33F、33Rを備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料噴射口を備える水性塗料塗布ノズルを利用した水性塗料の塗布方法及び同塗布ノズルの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、顧客に車両を引き渡すまでの間、車両の外板塗装面を保護するため、工場出荷時に車両の外板塗装面を水性塗料で覆うことがある。水性塗料は、周囲の環境から車両の外板塗装面を保護するするものであり、国内向の車両はもとより、海外向の車両などに広く利用されている。
【0003】
外板塗装面を水性塗料で覆う技術のうち、水性塗料塗布ノズルで外板塗装面に液体の水性塗料(以下、単に、塗料とも云う。)を塗布して覆う技術があり、実用に供されている。
しかし、塗布ノズルは、複数の水性塗料吐出口(以下、単に、塗料吐出口と云う。)を備えており、塗料吐出口の内側と外側とで吐出量が不揃いになることがある。吐出量が不揃いになると、塗装むらの原因となり好ましくない。
【0004】
そこで、塗料の吐出量を均一にすることができる塗料供給ノズルが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特許第3498941号公報(図2、図9)
【0005】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図14は従来の技術の基本構成を説明する図であり、塗布ノズル100は、ノズル本体101と、このノズル本体101に着脱自在に取付ける吐出部形成部材102と、からなる。
【0006】
ノズル本体101は、塗料供給口103と、この塗料供給口103に連通させた図示せぬ塗料出口を備え、吐出部形成部材102は、塗料ため溝104と、塗料ため溝104に連通させた吐出口105を備える。そして、塗料出口と塗料ため溝104が連通するように、吐出部形成部材102をボルト106を介してノズル本体101に取付けた。
塗料供給口103から塗料を供給し、塗料出口を通じて塗料ため溝104内に充填して均圧させ、均圧させた塗料を吐出口105から吐出させ、塗料を均一に吐出する。
【0007】
図15は図14の作用を説明する図である。
(a)において、塗布ノズル100から塗料Pを吐出させ、矢印A方向に移動するワークWの表面に供給する。
(b)において、ワークWの表面に供給された塗料Pを、塗布装置に備えるローラ106で所定厚さtに伸ばす。
【0008】
しかし、ローラ106でワーク上の塗料を広げるため、ローラ106と塗布面が接触する。このため、ローラ106の押し付け力のばらつきなどにより塗布面に凹凸が生じ易い。塗布面に凹凸が生じると、車両の塗色など好ましい外観を見せるという水性塗料の機能を十分に発揮することはできない。
【0009】
このように、ローラ106を用いると、塗布面に凹凸が生じ易いという問題がある。
薄い塗膜厚さが得られる水性塗料塗布技術が望まれるところである。
【0010】
なお、水性塗料である塗料をスプレー状にして塗布する方法を試行したが、ワークW以外への飛散量が多いという問題に加え、スプレー状にしてワーク上に塗布した水性塗料の剥離作業は容易でなく、実用的ではなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、薄い塗膜厚さをもつ塗布面が得られる水性塗料塗布方法及び水性塗料塗布ノズルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、ワーク及びこのワークに霧状の水を噴射すると共に水性塗料を塗布する水性塗料塗布ノズルを準備する準備工程と、水性塗料塗布ノズルでワークへ霧状の水を噴射する霧吹き工程と、水性塗料塗布ノズルでワークへ水性塗料を供給する水性塗料供給工程と、ワークに供給した水性塗料に圧縮空気をあて塗布面を平滑化する塗膜平滑化工程と、からなることを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る発明では、霧吹き工程における水は、水性塗料塗布ノズルの送り方向前後に備える水噴射口を、オン・オフ制御することにより、水性塗料塗布ノズルの前に備える水噴射口から噴射させることを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る発明では、塗膜平滑化工程における圧縮空気は、水性塗料塗布ノズルの送り方向前後に備える圧縮空気噴射口を、オン・オフ制御することにより、水性塗料塗布ノズルの後に備える圧縮空気噴射口から噴射させることを特徴とする。
【0015】
請求項4に係る発明では、ケース体に、水供給手段から加圧された水の供給を受ける水供給口と、この水供給口に連通し水を噴射する水噴射口と、塗料供給手段から塗料の供給を受ける塗料供給口と、この塗料供給口に連通し塗料を貯える塗料たまり部と、この塗料たまり部に連通し水性塗料を噴射する塗料噴射口とを備える水性塗料塗布ノズルにおいて、ケース体は、多数の細孔を備え、これらの細孔の送り方向前後にワークに霧状の水を塗布する水噴射口を備えると共にワークに塗布した塗料を押し広げる圧縮空気噴射口を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明では、水性塗料供給工程の前に霧吹き工程を設け、ワークに霧状の水を吹き付けたので、水性塗料供給工程において、ワーク上に吹き付けた霧状の水と塗布した水性塗料とが混合し、水性塗料を塗布面上に拡がり易くすることができる。水性塗料が塗布面上に拡がり易くなるため、塗布面を均一にすることができ、また、より少ない水性塗料で塗膜を形成することができる。
【0017】
加えて、水性塗料供給工程の後に塗布面を平滑化する塗膜平滑化工程を設けたので、塗布面上に均一に拡がった塗膜をさらに押し広げることができる。
塗膜をさらに押し広げることで、薄い塗膜厚さをもつ塗布面を得ることができる。
【0018】
このように、霧吹き工程と、水性塗料の水性塗料供給工程と、塗膜平滑化工程とを順に設けることで、より少ない量の水性塗料で均一且つ薄い塗膜厚さを有する塗布面を得ることができる。
【0019】
請求項2に係る発明では、霧吹き工程における水は、水性塗料塗布ノズルの送り方向前後に備える水噴射口を、オン・オフ制御することにより、水性塗料塗布ノズルの前に備える水噴射口から噴射させるようにしたので、往復塗布する場合において、水性塗料塗布ノズルの向きを変える必要はない。水性塗料塗布ノズルの向きを変える必要はないので、正味の塗布時間が増えると共に、塗布面積をかせぐことができる。
【0020】
請求項3に係る発明では、圧縮空気は、水性塗料塗布ノズルの送り方向前後に備える圧縮空気噴射口を、オン・オフ制御することにより、水性塗料塗布ノズルの後に備える圧縮空気噴射口から噴射させるようにしたので、往復塗布する場合において、水性塗料塗布ノズルの向きを変える必要はない。水性塗料塗布ノズルの向きを変える必要はないので、正味の塗布時間が増えると共に、塗布面積をかせぐことができる。
【0021】
請求項4に係る発明では、ケース体は、多数の細孔を備え、これらの細孔の送り方向前後に前記ワークに霧状の水を塗布する水噴射口を備えるので、水噴射口から霧状の水を噴射し、ワーク上に霧状の水を噴射した後、細孔から細麺状の水性塗料を塗布することで、水性塗料を塗布面上に拡がり易くすることができる。水性塗料が塗布面上に拡がり易くなるため、塗布面を均一にすることができると共により少ない水性塗料で薄い塗膜をもつ塗布面を形成することができる。
【0022】
また、ケース体は、噴射口塗料を押し広げる圧縮空気噴射口を備えるので、細孔から細麺状の水性塗料を塗布した後、圧縮空気噴射口から噴射する圧縮空気によりさらに押し広げるように構成した。塗膜をさらに押し広げることで、薄い塗膜厚さをもつ塗布面を得ることができる。
従って、細孔の送り方向前後に水噴射口と圧縮空気噴射口とを備えることで、より少ない量の水性塗料で均一且つ薄い塗膜をもつ塗布面を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る水性塗料塗布ノズルの側面図であり、水性塗料塗布ノズル10は、ノズル本体を形成するケース体11と、このケース体11の内側に形成する塗料をためる塗料たまり部12と、この塗料たまり部12に塗料を供給するためケース体11の上面13に備える塗料供給管14と、ケース体11の下面15にノズル締結部材16、16を介して取り付けるノズルプレート17と、ケース体11の前後の側面18、19に締結部材21、21を介して取り付ける溝付きプレート22、22と、を主要な構成要素とする。
【0024】
塗料供給管14は図示せぬ塗料供給手段から塗料を受ける塗料供給口23を備え、ノズルプレート17は塗料噴射口27を備える。塗料噴射口27は細穴24・・・である。
25F、25Rはエアブロー用の圧縮空気を供給するため溝付きプレート22、22に取付ける圧縮空気供給口28としてのエルボ継手である。エルボ継手25Fと圧縮空気噴射口33Fとは連通させた。同様に、エルボ継手25Rと圧縮空気噴射口33Rとは連通させる。
【0025】
また、29F、29Rはワークに噴射する水を供給するため溝付きプレート22、22に取付ける水供給口30としてのエルボ継手である。エルボ継手29Fと圧縮空気噴射口33Fとは連通穴39を介して連通させた。同様に、エルボ継手29Rと圧縮空気噴射口33Rとは連通穴39を介して連通させる。
【0026】
図2は図1の2−2線断面図であり、ケース体11の内部に塗料を貯える塗料たまり部12を形成すると共に、ケース体の上面13に塗料たまり部12と連通する開口部26を開け、この開口部26に塗料を供給する塗料供給口23を備える塗料供給管14を取付け、ケース体の下面15に塗料たまり部12と連通するノズルプレート17を取付ける。
ノズルプレート17は、塗料噴射口27を備える。この塗料噴射口27は多数の細孔24・・・(・・・は複数を示す。以下同じ。)から構成する。
【0027】
なお、31はシーリングのためケース体11とノズルプレート17の間に介在させるOリングである。
本実施例において、ケース体11の高さHは30mm、ノズルプレート17の厚さTは1〜3mm、塗料供給管14の外径Dは17mmである。
【0028】
すなわち、水性塗料塗布ノズル10は、ケース体11に、水供給手段から加圧された水の供給を受ける水供給口30と、材料供給手段から塗料の供給を受ける塗料供給口23と、この塗料供給口23に連通する塗料たまり部12と、この塗料たまり部12に連通し塗料を噴射する塗料噴射口27とを備える。
【0029】
図3は図1の3矢視図であり、水性塗料塗布ノズル10の下面図である。
ノズル締結部材16・・・を介してケース体11にノズルプレート17を取付け、このノズルプレート17に塗料を噴射する多数の細孔24・・・を開け、ワーク塗布面に塗布した塗料を押し広げるためケース体11の前後の側面18、19に締結部材21・・・を介して溝付きプレート22、22を、溝付きプレート22、22の溝部32、32がケース体の下面15(図2参照)に開口するように設け、圧縮空気がこれらの溝部32、32とノズルプレート17、17の間に形成する圧縮空気噴射口33F、33Rから、水性塗料塗布ノズル10の送り方向の前後に噴射するように取り付ける。
【0030】
本実施例において、ノズルプレート17に開けた細孔24・・・は、千鳥状に配置したものである。
なお、溝付きプレート22、22の下面22c、22cに、霧状にした水を噴射する水噴射口38F・・・、38R・・・を備える。
【0031】
すなわち、ケース体11は、多数の細孔24・・・を備え、これらの細孔24・・・の送り方向前後に塗料を押し広げる圧縮空気噴射口33F、33Rを備えると共に霧状にした水を噴射する水噴射口38F・・・、38R・・・を備える。
【0032】
本実施例において、ノズルプレート17の長さLは120mm、ノズルプレート17の幅Dは35mmである。
また、細孔数は、塗布幅が90mmの場合、一列配置で且つ6mmピッチで15個、二列千鳥配置且つ6mmピッチで29個、二列千鳥配置で且つ3mmピッチで63個である。同様に、塗布幅が48mmの場合、一列配置で且つ6mmピッチで8個、二列千鳥配置で且つ6mmピッチで15個、二列千鳥配置で且つ3mmピッチで31個とする。
【0033】
図4は本発明に係る水性塗料塗布ノズルの斜視図であり、水性塗料塗布ノズル10は、ケース体11の前後の側面18、19(図1参照)に上下調整可能に締結部材21・・・を介して溝付きプレート22、22を取り付け、これらの溝付きプレート22、22の溝部32、32(図3参照)に圧縮空気を供給するエルボ継手25F、25F、25R、25Rを前後から取付け、これらの溝付きプレート22、22の水噴射口38(図3参照)に圧縮された水を供給するエルボ継手29F、29F、29R、29Rを前後から取付け、ケース体の上面13に塗料供給口23を有する塗料供給管14を上方から取付けてなる。
【0034】
図5は本発明に係る溝付きプレートの斜視図であり、溝付きプレート22は、プレート22の一方の面22aに圧縮空気の通路となる溝部32を有し、この溝部32に圧縮空気を供給する開口35、35を開け、ケース体11に対して溝付きプレート22を上下に調整可能にするために長孔36、36を開けた板状体である。
【0035】
図3に戻って、溝付きプレート22の一方の面22aをケース体11の前後の側面18、19に当て、締結部材21・・・により取付けることにより、ケース体11の前後の側面18、19と溝付きプレート22の間にエアブローを行うための圧縮空気噴射口33F、33Rを形成する。
【0036】
図6は図5の6矢視図であり、溝付きプレート22の一方の面22aに溝部32を形成する。この溝部32は、スリット溝であり、中心線37に向かって徐々にスリット幅が拡大するように形成する。
すなわち、両端部のスリット幅をWt、中心部のスリット幅をWcとすると、Wt<Wcとなる。
【0037】
以上に述べた水性塗料塗布ノズル10の作用を次に述べる。
水性塗料塗布ノズル10は、図表から裏方向へ移動させるものとする。
図7は、ワーク及び水性塗料塗布ノズルを準備する準備工程を説明する図であり、準備工程51において、ワーク塗布面41Sに水性塗料塗布ノズル10を近づけ、所定の位置にセットすることを示す。
【0038】
図8は、水性塗料塗布ノズル10でワーク41へ霧状の水を吹き付ける霧吹き工程を説明する図であり、霧吹き工程52において、ワーク塗布面41Sを対象に、水性塗料塗布ノズル10を図表から裏方向に送ると共に、水供給口30、30に塗料を供給し、水噴射口38・・・(図3参照)から霧状の水40を噴射する。
【0039】
図9は、水性塗料塗布ノズルでワークへ水性塗料を供給する塗料供給工程を説明する図であり、塗料供給工程53において、ワーク塗布面41Sを対象に、水性塗料塗布ノズル10を図表から裏方向に送ると共に、塗料供給口23に塗料を供給し、塗料噴射口となる多数の細孔24・・・から水性塗料50を噴射又は供給する。
【0040】
図10は、ワークに供給した水性塗料に圧縮空気をあて塗布面を平滑化する塗膜平滑化工程を説明する図であり、塗膜平滑化工程54において、水性塗料50を塗布した後のワーク41を対象に、水性塗料塗布ノズル10を図表から裏方向に送り、図表側に備えるエルボ継手25R、25Rに圧縮空気を供給し、エアブロー溝付プレート22とケース体11の間に形成する圧縮空気噴射口33R(図3参照)から所定圧力の圧縮空気をワーク41上に塗布した水性塗料50に噴射して、ワーク塗布面41Sに塗布した水性塗料50を押し広げる。
【0041】
このように、塗料供給工程53の前に霧吹き工程52を設け、ワーク41に霧状の水を吹き付けたので、塗料供給工程53において、ワーク上に吹き付けた霧状の水と塗布した水性塗料とが混合し、水性塗料を塗布面上に拡がり易くすることができる。水性塗料が塗布面上に拡がり易くなるため、塗布面41Sの凹凸を減らす又は均一にすることができ、また、より少ない水性塗料で塗膜を形成することができる。
【0042】
加えて、塗料供給工程53の後に塗布面を平滑化する塗膜平滑化工程54を設けたので、塗布面上に拡がった塗膜をさらに押し広げることができる。
塗膜をさらに押し広げることで、薄い塗膜厚さをもつ塗布面を得ることができる。
【0043】
霧吹き工程52と、塗料供給工程53と、塗膜平滑化工程54とを順に設けることで、より少ない量の水性塗料で均一且つ薄い塗膜厚さを有する塗布面を得ることができ、水性塗料50の材料消費を減らすことができる。本実施例において、塗布直後のウエット時の塗膜厚さは、120μm〜200μmであり、好ましくは160μmである。
【0044】
塗布面41S上に供給した水性塗料50に適度な量の圧縮空気をあてながら、ワーク41の上を移動させることで、所定の塗膜厚さを維持することができる。
【0045】
霧吹き工程52における水40(図8参照)は、水性塗料塗布ノズル10の送り方向前後に備える水噴射口38・・・(図3参照)を、オン・オフ制御することにより、水性塗料塗布ノズル10の前に備える水噴射口38・・・から噴射させるようにしたので、往復塗布する場合において、水性塗料塗布ノズル10の向きを変える必要はない。水性塗料塗布ノズル10の向きを変える必要はないので、正味の塗布時間が増えると共に、塗布面積をかせぐことができる。
【0046】
塗膜平滑化工程54における圧縮空気60は、水性塗料塗布ノズル10の送り方向前後に備える圧縮空気噴射口33、33(図3参照)を、オン・オフ制御することにより、水性塗料塗布ノズル10の後に備える圧縮空気噴射口33から噴射させるようにしたので、往復塗布する場合において、水性塗料塗布ノズル10の向きを変える必要はない。水性塗料塗布ノズル10の向きを変える必要はないので、正味の塗布時間が増えると共に、塗布面積をかせぐことができる。ライン生産における限られたサイクルタイムのなかで塗布作業を完了させることが可能となる。
【0047】
また、ケース体11は、多数の細孔24・・・(図3参照)を備えると共に、これらの細孔24・・・の送り方向前後に塗料を押し広げる圧縮空気噴射口33、33を備えたので、図7〜図10の工程において、水性塗料塗布ノズル10を図表から裏方向に送りながら、水噴射口38・・・から水を噴射させ、細孔24・・・から塗料を噴射させ、圧縮空気噴射口33から圧縮空気を噴射させることにより、1回の送り操作で塗布作業を完了することができ、塗布面へ霧状の水40を吹き付ける霧吹き工程52(図8参照)、水性塗料50を供給する塗料供給工程53(図9参照)、及び水性塗料50を延ばして塗布面を平滑化する塗膜平滑化工程54(図10参照)の各工程を1工程に集約することができ、生産性の向上が図れる。
【0048】
エルボ継手25F、25Rを通じて供給し塗布面を押し広げる圧縮空気60の圧力は、任意の圧力に設定可能である。さらに、ノズル送り方向の切り替えに伴い、図表裏のエルボ継手25F、25Rの圧力を反対に切り替えることは差し支えない。
【0049】
このように、ケース体11は、多数の細孔24・・・(図3参照)を備え、これらの細孔の送り方向前後にワークに霧状の水を塗布する水噴射口38・・・を備えると共に、これらの細孔24・・・の送り方向前後に塗料を押し広げる圧縮空気噴射口33F・・・、33R・・・を備え、多数の細孔24・・・から細麺状の塗料を噴射し、ワーク上に細麺状の水性塗料50を塗布した後、圧縮空気噴射口33F・・・又は33R・・・から噴射する圧縮空気60により押し広げるように構成した。
【0050】
ケース体11は、多数の細孔24・・・を備え、これらの細孔24・・・の送り方向前後にワーク41に霧状の水を塗布する水噴射口38を備えるので、水噴射口38から霧状の水を噴射し、ワーク上に霧状の水を噴射した後、細孔24・・・から細麺状の水性塗料50を塗布することで、水性塗料50を塗布面上に拡がり易くすることができる。水性塗料50が塗布面上に拡がり易くなるため、塗布面を均一にすることができると共により少ない水性塗料で薄い塗膜をもつ塗布面を形成することができる。
【0051】
また、ケース体は、塗料を押し広げる圧縮空気噴射口を備え、細孔から細麺状の水性塗料を塗布した後、圧縮空気噴射口から噴射する圧縮空気によりさらに押し広げるように構成した。塗膜をさらに押し広げることで、塗布面41S上の塗膜55にローラや刷毛などの跡は残らず、薄い塗膜厚さをもつ塗布面を得ることができる。
従って、細孔の送り方向前後に水噴射口38と圧縮空気噴射口33とを備えることで、より少ない量の水性塗料で均一且つ薄い塗膜をもつ塗布面を形成することができる。
【0052】
さらに、霧吹き工程52において、噴射する水の量を変更することで、塗布する水性塗料の粘度を変化させることができる。例えば、ワーク41にローラで塗布する場合など他の塗布方法と本発明の塗布方法とを併用する場合において、ワーク上にあらかじめ塗布された水で塗料の粘度を薄めることができるため、ローラによる塗布など他の塗布方法で用いる塗料の粘度に合わせて、水性塗料塗布ノズル10で塗布する水性塗料の粘度を高めることができる。従って、単一品種の水性塗料を使うことができる。塗布方法の差によって、複数品種の水性塗料を併用する必要はなくなるため、塗装費用の上昇を避けることが可能となる。
【0053】
図11は本発明に係る水性塗料塗布ノズルの作用図及び比較例図である。
(a)において、水噴射口38からワークの緩傾斜面43Kに霧状の水40を噴射し、塗料噴射口27からワークの緩傾斜面43Kに塗料を噴射又は供給し、後側の圧縮空気噴射口33Rから圧縮空気60をワークの緩傾斜面43Kに噴射すると共に、ワークの緩傾斜面43Kから所定長さを離して水性塗料塗布ノズル10を矢印44方向に移動させる。
【0054】
(b)において、水噴射口38からワークの急傾斜面43Lに霧状の水40を噴射し、塗料噴射口27からワークの急傾斜面43Lに塗料を噴射又は供給し、圧縮空気噴射口33Fから圧縮空気60をワークの急傾斜面43Lに噴射すると共に、ワークの急傾斜面43Lから所定長さを離して水性塗料塗布ノズル10を矢印45方向に移動させる。
【0055】
細孔24・・・の仕様は、孔の直径を1mm以下とするが、好ましくは、0.4〜0.6mmとする。また、孔の形状は、円形に限定されず、正方形、矩形又は8角形などでも差し支えなく、塗料の粘度及びチキソトロピー(塗料に剪断応力がかかるときに粘度が変化する性質)により細孔の仕様を選択する。
【0056】
水性塗料塗布ノズル10は、多数の細孔24・・・(図3参照)を備え、これらの細孔24・・・から多数の細麺状の塗料を噴射し圧縮空気で押し広げるので、ワーク41に塗布した塗料が脱落し難くなり、ワークの緩斜面43Kだけでなく、急傾斜面43L及び垂直面の塗布に利用することが可能となる。
【0057】
スリット及び細孔の仕様を適切に設定し、ワーク塗布面と塗料噴射口の距離、水性塗料塗布ノズル10の送り速度を適切に選定することで、塗布面の傾斜の大小に関係なく、塗布が可能となる。
さらに、多関節ロボットと組み合わせることにより、凹凸の少ない好ましい塗布面を、自動塗布により得ることが可能となる。
【0058】
(c)は(b)の比較例を示し、水噴射口38からワークの急傾斜面43Lに霧状の水40を噴射し、1mm超の孔を有する塗料噴射口27Bからワークの急傾斜面43Lに塗料を噴射又は供給し、後側の圧縮空気噴射口33Rから圧縮空気をワークの急傾斜面43Lに噴射すると共に、ワークの急傾斜面43Lから所定長さを離して水性塗料塗布ノズル10を矢印46方向に移動することを示す。
【0059】
1mm超の孔を有する塗料噴射口27Bからワークの急傾斜面43Lに塗料を噴射すると、塗料の重さが重くなるため、ワーク上の塗料が垂れることや、ワークの急斜面43Lから塗料の一部が脱落するという問題がある。
また、塗料の径が大きくなるため、圧縮空気噴射口33Fから噴射する圧縮空気では、十分に押し広げることはできないという問題がある。
【0060】
図12は図6の別実施例図であり、溝付きプレート22Bの一方の面22aに形成し、ケース体の前後側面18、19(図3参照)とにより圧縮空気噴射口33の一部を構成する溝部32B・・・である。溝部32B・・・は複数の三角形からなる。
圧縮空気噴射口33は、スリット状のものと、複数の三角形により形成するものとがあり、塗料の粘度及びチキソトロピーにより決定するものである。
【0061】
図13は図1の別実施例図であり、水性塗料塗布ノズル10は、ケース体11とその内側に形成する塗料をためる塗料たまり部12と、この塗料たまり部12に塗料を供給する塗料供給管14と、ケース体11の下面15に取り付けるノズルプレート17と、ケース体11の前後の側面18、19に取り付ける溝付きプレート22、22と、を主要な構成要素とする。
塗料供給管14は図示せぬ塗料供給手段から塗料を受ける塗料供給口23を備え、ノズルプレート17は塗料噴射口27を備える。塗料噴射口27は細穴24・・・である。
【0062】
図1と異なる点は、ケース体の前側面18と後側面19に取付けるプレート22B、22Bに備える連通穴39、39の上部に圧力空気供給口28、28を連通させ、連通穴39、39の下部に水供給口30を連通させた点である。
【0063】
このような構成において、水供給口30から供給する水の量を所定の量に調整し、圧縮空気供給口28から所定の圧力で圧縮空気を供給すると、連通穴39、39で圧縮空気と水が混合し、圧縮空気水噴射口61、61から水と圧縮空気とを噴射することができる。
【0064】
尚、本発明は、実施の形態では車両の塗膜保護に適用したが、機械装置をはじめとする車両以外に適用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、水性塗料塗布ノズルに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係る水性塗料塗布ノズルの側面図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】図1の3矢視図である。
【図4】本発明に係る水性塗料塗布ノズルの斜視図である。
【図5】本発明に係る溝付きプレートの斜視図である。
【図6】図5の6矢視図である。
【図7】ワーク及び水性塗料塗布ノズルを準備する準備工程を説明する図である。
【図8】水性塗料塗布ノズルでワークへ霧状の水を吹き付ける霧吹き工程を説明する図である。
【図9】水性塗料塗布ノズルからワークへ水性塗料を供給する塗料供給工程を説明する図である。
【図10】ワークに供給した水性塗料に圧縮空気をあて塗布面を平滑化する塗膜平滑化工程を説明する図である。
【図11】本発明に係る水性塗料塗布ノズルの作用図及び比較例図である。
【図12】図6の別実施例図である。
【図13】図1の別実施例図である。
【図14】従来の技術の基本構成を説明する図である。
【図15】図14の作用を説明する図である。
【符号の説明】
【0067】
10…水性塗料塗布ノズル、11…ケース体、12…塗料たまり部、23…塗料供給口、24…細孔、27、27B…塗料噴射口、30…水供給口、33、33F、33R…圧縮空気噴射口、38、38F、38R…水噴射口、40…水、41…ワーク、41S…ワーク塗布面、50…水性塗料、51…準備工程、52…霧吹き工程、53…塗料供給工程、54…塗膜平滑化工程、60…圧縮空気。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワーク及びこのワークに霧状の水を噴射すると共に水性塗料を塗布する水性塗料塗布ノズルを準備する準備工程と、前記水性塗料塗布ノズルで前記ワークへ霧状の水を噴射する霧吹き工程と、前記水性塗料塗布ノズルで前記ワークへ水性塗料を供給する水性塗料供給工程と、前記ワークに供給した前記水性塗料に圧縮空気をあて塗布面を平滑化する塗膜平滑化工程と、からなることを特徴とする水性塗料塗布方法。
【請求項2】
前記霧吹き工程における水は、前記水性塗料塗布ノズルの送り方向前後に備える水噴射口を、オン・オフ制御することにより、前記水性塗料塗布ノズルの前に備える水噴射口から噴射させることを特徴とする請求項1記載の水性塗料塗布方法。
【請求項3】
前記塗膜平滑化工程における圧縮空気は、前記水性塗料塗布ノズルの送り方向前後に備える圧縮空気噴射口を、オン・オフ制御することにより、前記水性塗料塗布ノズルの後に備える圧縮空気噴射口から噴射させることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の水性塗料塗布方法。
【請求項4】
ケース体に、水供給手段から加圧された水の供給を受ける水供給口と、この水供給口に連通し霧状の水を噴射する水噴射口と、塗料供給手段から塗料の供給を受ける塗料供給口と、この塗料供給口に連通し塗料を貯える塗料たまり部と、この塗料たまり部に連通し水性塗料を噴射する塗料噴射口とを備える水性塗料塗布ノズルにおいて、
前記ケース体は、多数の細孔を備え、これらの細孔の送り方向前後にワークに霧状の水を塗布する水噴射口を備えると共に前記ワークに塗布した塗料を押し広げる圧縮空気噴射口を備えることを特徴とする水性塗料塗布ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−83212(P2007−83212A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−278340(P2005−278340)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】