説明

水素の製造方法、改質ガソリンの製造方法及び芳香族炭化水素の製造方法

【課題】LCA−CO削減に十分有効な水素の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、第1の原料油又はその第1の原料油に由来する第2の原料油を、水素を含む雰囲気中、水素化分解触媒との接触により水素化分解して第1のナフサを得る水素化分解工程と、第1のナフサ又はその第1のナフサに由来する第2のナフサを接触改質して水素を得る接触改質工程とを有する水素の製造方法であって、第1の原料油は、沸点230℃以上の留分を含む動植物油に由来する油脂成分を含有するものであり、水素化分解触媒は、周期律表第6A族及び第8族に属する金属からなる群より選ばれる1種以上の金属と、酸性質を有する無機酸化物とを含有するものであり、第1のナフサは、沸点100〜120℃の留分を含むものである水素の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素の製造方法、改質ガソリンの製造方法及び芳香族炭化水素の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素は、燃焼によって水のみを生成するため、極めてクリーンな燃料と言われている。水素の製造方法としては、水の電気分解、炭化水素の改質や部分酸化などが挙げられるが、最も広く行われている水素の製造方法は、石油精製における炭化水素の水蒸気改質や接触改質である。これらのうち、炭化水素の接触改質は、ナフサなどの軽質炭化水素を原料とし、触媒を用いて、主として改質ガソリンと呼ばれる高オクタン価ガソリン基材とともに、水素を製造するプロセスである(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
ところで、地球温暖化防止対策として、特に輸送用燃料に関するCO排出量削減が大きな課題となっている。このCO排出量削減という課題において、バイオマスと呼ばれる資源が注目されている。特に植物由来のバイオマスは、植物の成長過程で光合成によりCOを吸収しているため、ライフサイクルの観点から、大気中のCO増大には繋がらない「カーボンニュートラル」という性質を有する。すなわち、このようなバイオマス燃料を燃焼することによって排出されるCOは、植物によって固定化されたCOと等価であることから、CO排出量にカウントされないこととなる。このため、バイオマスは今後のCO削減に向けて大きなポテンシャルを持つことが期待されている。例えば、ガソリンや灯軽油などの燃料油に対してバイオマスを利用できれば、極めて重要な意味を持つものとなる。特に、ガソリンに対してバイオマスを利用することは、ガソリン由来のCO排出量の削減に繋がり、ガソリンの普及率の高さを考慮すると、そのことは地球温暖化防止に対して大きな効果を持つと期待できる。
【0004】
更に、エネルギー効率の高い燃料電池にとって、水素は必要不可欠な燃料であり、今後ますます水素の需要が増加することが予想される。しかしながら、ライフサイクルの観点からのCO削減、すなわちLCA−CO削減を考慮した水素製造については、技術的に確立されているとは言い難い状況にある。
【非特許文献1】(社)石油学会、「石油精製プロセス」、講談社、1999年3月20日発行、101〜119ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、LCA−CO削減に十分有効な水素の製造方法を提供することを目的とする。また、そのような水素の製造方法に伴い、LCA−CO削減に十分有効な改質ガソリンの製造方法及び芳香族炭化水素の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、バイオマスとしてトリグリセリド構造を有する油脂類を用いれば、特殊な運転条件や過大な設備投資を要することなく水素や改質ガソリン、芳香族炭化水素を製造可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、第1の原料油又はその第1の原料油に由来する第2の原料油を、水素を含む雰囲気中、水素化分解触媒との接触により水素化分解して第1のナフサを得る水素化分解工程と、第1のナフサ又はその第1のナフサに由来する第2のナフサを接触改質して水素を得る接触改質工程とを有する水素の製造方法であって、第1の原料油は、沸点230℃以上の留分を含む動植物油に由来する油脂成分を含有するものであり、水素化分解触媒は、周期律表第6A族及び第8族に属する金属からなる群より選ばれる1種以上の金属と、酸性質を有する無機酸化物とを含有するものであり、第1のナフサは、沸点100〜120℃の留分を含むものである水素の製造方法を提供する。
【0008】
この水素の製造方法によると、第1の原料油中に含まれるバイオマスである油脂成分から水素を製造することができるため、LCA−CO削減に十分に有効な手段たり得る。また、この水素の製造方法によると、水素以外にLPG、ガソリン、灯油及び軽油を得ることができ、特にガソリン、灯油及び軽油などの液留分を効率良くかつ確実に製造することが可能となる。
【0009】
また、本発明の水素の製造方法は、上記接触改質工程よりも前に、第1のナフサを含有するナフサ留分を、水素を含む雰囲気中、第2の水素化触媒と接触させることにより、ナフサ留分よりも硫黄分及び酸素分を低減せしめた前記第2のナフサを得る水素化処理工程を更に有し、第2の水素化触媒は、周期律表第6A族及び第8族に属する金属からなる群より選ばれる1種以上の金属を含有するものであり、第2のナフサは、硫黄分1.0質量ppm以下、かつ酸素分10質量ppm以下のものであると好ましい。
【0010】
本発明の水素の製造方法は、上記水素化分解工程よりも前に、第1の原料油を、水素を含む雰囲気中、第1の水素化触媒と接触させて第2の原料油を得る水素化前処理工程を更に有し、第1の水素化触媒は、周期律表第6A族及び第8族に属する金属からなる群より選ばれる1種以上の金属を含有するものであると好ましい。
【0011】
本発明の水素の製造方法は、上記水素化分解工程において水素化分解する条件が、水素圧力6〜20MPa、LHSV0.2〜1.5h−1、及び水素/油比200〜2000NL/Lであると好ましい。
【0012】
また、本発明は、上述の接触改質工程において改質ガソリンを得る改質ガソリンの製造方法を提供する。これにより得られた改質ガソリンは、バイオマスである油脂成分を原料として用いているため、燃料として使用してCOが発生しても、ライフサイクルの観点からCOの発生を十分に抑制したものとなる。また、得られた改質ガソリンは、その品質においても、通常の石油原料から製造されたものと遜色ないものである。
【0013】
本発明は、上述の接触改質工程において炭素数6〜8の芳香族炭化水素を得る芳香族炭化水素の製造方法を提供する。この製造方法によると、バイオマスである油脂成分を原料として用いているため、COの排出を十分に抑制して上記芳香族炭化水素を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、LCA−CO削減に十分有効な水素の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明の好適な実施形態に係る水素の製造方法は、第1の原料油を、水素を含む雰囲気中、第1の水素化触媒と接触させて第2の原料油を得る水素化前処理工程と、第2の原料油を、水素を含む雰囲気中、水素化分解触媒との接触により水素化分解して第1のナフサを得る水素化分解工程と、第1のナフサを含有するナフサ留分を、水素を含む雰囲気中、第2の水素化触媒と接触させることにより、ナフサ留分よりも硫黄分及び酸素分を低減せしめた第2のナフサを得る水素化処理工程と、第2のナフサを接触改質して水素を得る接触改質工程とを有する水素の製造方法である。
【0017】
本実施形態では、沸点230℃以上の留分を含む動植物油に由来する油脂成分を含有しているものを第1の原料油として用いる。動植物油としては、例えば、牛脂、菜種油、大豆油、パーム油などが挙げられる。本実施形態において、沸点230℃以上の留分を含むものであれば、いかなる油脂成分を用いてもよく、複数の油脂成分を混合して用いてもよく、これらの油脂を使用した後の廃液であってもよい。LCA−CO削減を更に進める観点から、植物油に由来する油脂成分が好ましく、脂肪酸アルキル鎖の炭素数及びその反応性の見地から、菜種油、大豆油及び/又はパーム油に由来する油脂成分がより好ましい。なお、本明細書における「油脂成分」とは、天然もしくは人工的に生産、製造される動植物油脂および動植物油脂成分および/またはこれらの油脂を由来して生産、製造される油脂成分およびこれらの油脂製品の性能を維持、向上させる目的で添加される成分を示している。
【0018】
これらの油脂成分は、一般的には脂肪酸トリグリセリドの構造を有しているが、そのほか脂肪酸や、脂肪酸メチルエステルなどのエステル体に加工している油脂成分を含んでいてもよい。植物油に由来する油脂成分から脂肪酸や脂肪酸エステルを製造する際にはCOが発生するため、LCA−CO削減をより進める観点からは、植物油に由来する油脂成分としてトリグリセリド構造を有する成分が主体であることが望ましい。具体的には、第1の原料油における酸素分のうち80mol%以上がトリグリセリド構造に由来することが好ましく、トリグリセリド構造に由来する酸素分が85mol%以上であることがより好ましく、90mol%以上であることが更に好ましい。
【0019】
油脂成分は、沸点230℃以上の留分を含有していればよいが、沸点250℃以上の留分を含有していることが好ましく、沸点300℃以上の留分を含有していることがより好ましく、沸点360℃以上の留分を含有していることが更に好ましい。油脂成分が沸点230℃以上の留分を含有していないと、本実施形態の水素の製造方法において水素以外のLPG等のガス留分の生成が増加するため、ナフサ留分及びそれより重質の留分(以下、「液留分」という。)の収率が減少する傾向にある。なお、後に詳述するが、動植物油に由来する油脂成分は、水素化分解の処理をする前に、水素化による前処理を施されてもよい。
【0020】
第1の原料油中の酸素分は0.1〜13質量%の範囲であることが好ましく、0.2〜12質量%の範囲であるとより好ましく、0.5〜11質量%であることが更に好ましい。酸素分が0.1質量%を下回る場合、第1の原料油に含まれる油脂成分量が少なくなり、LCA−CO削減の効果が低下する傾向にある。酸素分が13質量%より多い場合には、副生する水の処理に要する設備が必要となる観点、並びに、水と触媒担体との相互作用による触媒強度の低下を招く観点から好ましくない。なお、本明細書において、第1の原料油等における酸素分は、一般的な元素分析装置を用いて、公知の方法で測定することができる。例えば、測定すべき試料に含まれる酸素分を白金炭素上でCOに転換し、あるいは更にCOに転換した後に、熱伝導度検出器を用いて測定することもできる。
【0021】
第1の原料油としては、動植物油に由来する油脂成分に石油系の炭化水素留分を混合させたものであってもよい。この炭化水素留分としては、一般的な石油精製処理で得られる留分を用いることができ、例えば、常圧蒸留装置や減圧蒸留装置から得られる所定の沸点範囲に相当する留分や、水素化脱硫装置、水素化分解装置、残油直接脱硫装置、流動接触分解装置などから得られる、所定の沸点範囲に相当する留分を単独で混合していてもよく、複数の装置からの所定の沸点範囲に相当する留分を混合していてもよい。該石油系の炭化水素留分は、沸点340℃以上の留分を含んでいることが好ましく、沸点700℃以上の留分を含んでいないことがより好ましい。この石油系の炭化水素留分が沸点340℃以上の留分を含んでいない場合、水素化分解工程における過度の分解によって、液留分の収率が低下する傾向にある。また、この石油系の炭化水素留分が沸点700℃以上の重質な留分を含む場合、その留分によって触媒上での炭素質形成が促進されて触媒の活性点を被覆するため、触媒活性が低下する傾向にある。なお、本明細書において「沸点」、「沸点範囲」及び各「留出点」は、JIS−K2254の「蒸留試験方法」又はASTM−D86に規定される方法に準拠して測定される値である。
【0022】
第1の原料油に石油系の炭化水素留分を混合させる場合、その炭化水素留分の混合比率は、第1の原料油全体の容量に対して10〜99容量%が好ましく、30〜99容量%がより好ましく、60〜98容量%が更に好ましい。石油系の炭化水素留分の混合比率が上記下限値に満たない場合には、副生する水の処理に要する設備が必要となる傾向にあり、上記上限値を超える場合にはLCA−CO削減効果が低下する傾向にある。
【0023】
本実施形態では、まず水素化前処理工程において、上記第1の原料油を、水素を含む雰囲気、好適には加圧雰囲気中、第1の水素化触媒と接触させて第2の原料油を得る。この水素化前処理工程を経ることにより、第2の原料油における酸素分を第1の原料油におけるものよりも減少させることができる。
【0024】
水素化前処理工程で用いる第1の水素化触媒及び後述する水素化分解触媒は、水素化分解工程における水素化分解活性をより十分にするように、その容量をそれぞれ任意に設定することができる。これらの触媒の総量に対する第1の水素化触媒の容量比率は10〜90容量%が好ましく、25〜75容量%がより好ましい。この容量比率が上記下限値に満たない場合には、第1の原料油を第1の水素化触媒によって処理して得られる第2の原料油中の酸素分が低下し難くなる傾向にあり、上記上限値を超える場合には、水素化分解工程における水素化分解反応が進行し難くなる傾向にある。
【0025】
水素化前処理工程を経て得られる第2の原料油中に含まれる酸素分は、第1の原料油に含まれる酸素分に対して40質量%以下まで減少していることが好ましく、30質量%以下まで減少していることがより好ましい。第2の原料油が水素化分解触媒と接触する際に、第2の原料油に含まれる酸素が触媒活性点を被毒するため、その酸素分が、第1の原料油に含まれる酸素分に対して40質量%を超える場合には、水素化分解活性が低下する傾向にある。
【0026】
第1の水素化触媒及び水素化分解触媒以外に、必要に応じて、第1の原料油に随伴して流入するスケール分をトラップしたり、あるいは、触媒床の区切り部分で第1の水素化触媒及び水素化分解触媒を支持したりする目的で、ガード触媒、脱金属触媒及び不活性充填物を、単独又は組み合わせて用いることができる。また、水素化分解工程を経て得られる分解生成物を水素化安定化する目的で、水素化分解触媒の後段に水素化活性を有する触媒を更に用いてもよい。
【0027】
水素化前処理工程及び水素化分解工程における反応温度は、目的とする第1の原料油中重質留分の分解率を得るために、又は所定の留分を目的とする収率で得るために任意に設定することができる。さらには、水素化前処理工程を経て得られる第2の原料油に含まれる酸素分を、上記上限値以下に抑えるために、水素化前処理工程における反応温度と水素化分解工程における反応温度をそれぞれ任意に設定することができる。第1の水素化触媒及び水素化分解触媒を一つの反応器に充填する場合、その反応器全体の平均温度としては、十分に反応を進行させ、所定の収率の水素、所定の性状のガソリン、灯油、軽油を製造するために、一般的には330〜480℃、好ましくは350〜450℃、更に好ましくは360〜430℃の範囲に設定する。平均温度が上記下限値に満たない場合には、反応が十分に進行しなくなる傾向にあり、上記上限値を超える編合には、過度に水素化分解が進行し、液留分の収率が低下する傾向にある。
【0028】
第1の水素化触媒における活性金属は、周期律表第6A族及び第8族に属する金属からなる群より選ばれる1種以上の金属を含有し、好ましくは、第6A族及び第8族に属する金属からなる群より選ばれる2種以上の金属を含有している。この活性金属としては、例えば、Co−Mo、Ni−Mo、Ni−Co−Mo、Ni−Wが挙げられ、水素化前処理に際しては、これらの金属を硫化物の状態に転換して使用する。
【0029】
第1の水素化触媒における担体は、好適には多孔性である無機酸化物が用いられる。具体的には、例えば、アルミナを含む多孔性の無機酸化物が挙げられ、アルミナ以外の担体の構成成分としては、シリカ、チタニア、ジルコニア、ボリアなどが挙げられる。担体としては、好ましくは、アルミナと、上記その他の構成成分からなる群より選ばれる1種以上とを含む複合酸化物である。また、担体におけるこの他の成分として、リンを含んでいてもよい。
【0030】
アルミナ以外の担体を構成する成分の合計の含有量は、担体の全体量に対して1〜20質量%であることが好ましく、2〜15質量%であることがより好ましい。この含有量が1質量%未満である場合、触媒表面積が低下して、活性が低くなる傾向にあり、含有量が20質量%を超える場合、担体における酸性質濃度が上昇し、コーク生成による活性低下を招きやすくなる傾向にある。リンを担体の構成成分として含む場合、その含有量は、酸化物(P)換算で1〜8質量%であることが好ましく、2〜5質量%であることがより好ましい。
【0031】
アルミナ以外の担体の構成成分である、シリカ、チタニア、ジルコニア、ボリア等の前駆体となる原料は特に限定されず、一般的なケイ素、チタン、ジルコニウム、ボロンを含む溶液を用いることができる。例えば、ケイ素についてはケイ酸、水ガラス、シリカゾルなど、チタンについては硫酸チタン、四塩化チタンや各種アルコキサイド塩など、ジルコニウムについては硫酸ジルコニウム、各種アルコキサイド塩など、ボロンについてはホウ酸などを用いることができる。リンの原料としては、リン酸あるいはリン酸のアルカリ金属塩などを用いることができる。
【0032】
これらアルミナ以外の担体の構成成分の原料は、第1の水素化触媒を調製する際に、担体の焼成よりも前のいずれかの段階において添加することが好ましい。例えば、予めアルミニウム水溶液に、上記構成成分の原料を添加して、これらの構成成分を含む水酸化アルミニウムゲルを得てもよく、先に調合した水酸化アルミニウムゲルに上記構成成分の原料を添加してもよく、あるいは、市販のアルミナ中間体やベーマイトパウダーに水又は酸性水溶液を添加して混練する際に添加してもよい。これらのなかでは、水酸化アルミニウムゲルを調合する段階で上記構成成分の原料を共存させるような方法がより好ましい。これらアルミナ以外の担体の構成成分の効果発現機構は現在のところ詳細には解明できていない。本発明者らは、上記構成成分がアルミニウムと複合的な酸化物状態を形成していると推測している。これにより、担体表面積が増加したり、担体が活性金属と何らかの相互作用を起こしたりして、触媒活性に影響を及ぼしていることが考えられる。
【0033】
第1の水素化触媒における活性金属の含有量は、活性金属としてW及び/又はMoを用いる場合、W及びMoの合計の担持量として、酸化物(WO、MoO)換算で触媒質量に対して12〜35質量%であると好ましく、15〜30質量%であるとより好ましい。この担持量が上記下限値に満たない場合、触媒の活性点数の減少により触媒活性が低下する傾向にあり、上記上限値を上回る場合、活性金属が効果的に分散しないため、触媒活性の低下を招く傾向にある。
【0034】
活性金属としてCo及び/又はNiを用いる場合、Co及びNiの合計の担持量として、酸化物(CoO、NiO)換算で触媒質量に対して1.5〜18質量%であると好ましく、2〜15質量%であるとより好ましい。この担持量が1.5質量%未満の場合、助触媒効果が得られ難くなって、活性が低下する傾向にあり、18質量%よりも多い場合には、活性金属が効果的に分散せず、触媒活性の低下を招く傾向にある。
【0035】
本実施形態では、水素化分解工程において、水素化前処理工程を経て得られた第2の原料油を、水素を含む雰囲気、好適には加圧雰囲気中、水素化分解触媒との接触により水素化分解して、第1のナフサを得る。
【0036】
水素化分解工程において水素化分解する条件は、水素圧力6〜20MPa、液空間速度(LHSV)0.2〜1.5h−1、水素/油化200〜2000NL/Lであると好ましく、水素圧力8〜17MPa、LHSV0.2〜1.1h−1、水素/油比300〜1800NL/Lであるとより好ましく、水素圧力10〜16MPa、LHSV0.3〜0.9h−1、水素/油化350〜1600NL/Lであると更に好ましい。なお、水素化前処理工程を経る場合は、水素化前処理工程及び水素化分解工程における条件が、水素圧力6〜20MPa、液空間速度(LHSV)0.2〜1.5h−1、水素/油化200〜2000NL/Lであると好ましく、水素圧力8〜17MPa、LHSV0.2〜1.1h−1、水素/油比300〜1800NL/Lであるとより好ましく、水素圧力10〜16MPa、LHSV0.3〜0.9h−1、水素/油化350〜1600NL/Lであると更に好ましい。
【0037】
ここで「LHSV(liquid hourlyspacevelocity;液空間速度)」とは、触媒が充填されている触媒層の容量当たりの、標準状態(25℃、101.325kPa)における原料油の体積流量のことをいい、単位「h−1」は時間(hour)の逆数を示す。また、水素/油比に通常用いられる単位である「NL/L」中、水素容量の単位である「NL」は、正規状態(0℃、101325Pa)における水素容量(L)を示す。さらに、反応温度は、触媒層の平均温度を示す。
【0038】
これらの条件は、いずれも水素化分解反応の活性を左右する因子である。例えば水素圧力及び水素/油比が上記下限値に満たない場合には、反応性の低下や急速な活性低下を招く傾向にあり、水素圧力及び水素/油化が上記上限値を超える場合には、圧縮機等の過大な設備投資を要する傾向にある。LHSVは低いほど反応に有利な傾向にあるが、上記下限値未満の場合は、極めて大きな反応塔容積が必要となり、設備投資が過大となる傾向にあり、上記上限を超えている場合は、反応が進行し難くなる傾向にある。
【0039】
第1の水素化触媒及び/又は水素化分解触媒を充填する反応器の形式は、固定床方式であってもよい。すなわち、水素は第1の原料油又は第2の原料油に対して、向流又は並流のいずれの形式をとることもでき、また、複数の反応塔を有し向流、並流を組み合わせた形式のものでもよい。一般的な形式としてはダウンフローであり、気液双並流形式を採用することができる。また、反応器は単独で用いても又は複数を組み合わせて用いてもよく、1つの反応器内部を複数の触媒床に区分した構造を採用してもよい。
【0040】
本実施形態において、反応器内で第2の原料油を水素化分解して得られる生成油は、必要に応じて、更に気液分離工程、精留工程等を経て所定の留分に分画される。このとき、反応に伴い水分が生成したり、第1の原料油に硫黄分が含まれている場合には硫化水素が発生したりする場合があるが、そのような場合に対応するために、複数の反応器の間や生成油が流通する経路の途中に、気液分離設備やその他の副生ガス除去装置を設置してもよい。上記生成油がこのように分画されて、第1のナフサが得られてもよい。
【0041】
本実施形態で水素化前処理や水素化分解に用いられる水素ガスは、加熱炉を通過前又は通過後の第1の原料油に随伴して最初の反応器の入口から導入される。ただし、水素ガスは、これに加えて、反応器内の温度を制御するとともに、できるだけ反応器内全体に亘って水素圧力を維持する目的で触媒床の間や複数の反応器の問から導入されてもよい。このようにして系内に導入される水素ガスをクエンチ水素と呼称する。このとき、原料油に随伴して導入される水素及びクエンチ水素の総容量に対するクエンチ水素の比率は、好ましくは10〜60容量部以上、より好ましくは15〜50容量部以上である。クエンチ水素の比率が上記下限値より低い場合には、後段の反応部位における反応が進行し難くなる傾向にあり、上記上限値を超える場合には、反応器入口付近での反応が進行し難くなる傾向にある。
【0042】
水素化分解触媒は、周期律表第6A族及び第8族に属する金属からなる群より選ばれる1種以上の金属を含有し、好ましくは第6A族及び第8族からなる群より選ばれる2種以上の金属を含有している。その具体例としては、例えばCo−Mo、Ni−Mo、Ni−Co−Mo、Ni−Wが挙げられる。これらのなかでは、Ni−Mo、Ni−Co−Mo又はNi−Wが好ましい。水素化分解に際しては、第1の水素化触媒と同様に、これらの金属を硫化物の状態に転換して使用する。
【0043】
水素化分解触媒は酸性質を有する無機酸化物を含有し、その無機酸化物を担体として用いると好ましい。無機酸化物としては、シリカ、アルミナ、ポリア、ジルコニア、マグネシア及びゼオライトからなる群より選ばれる2種以上を含有する複合酸化物が好ましい。そのような複合酸化物としては、例えば、シリカ−アルミナ、チタニア−アルミナ、ポリア−アルミナ、ジルコニア−アルミナ、チタニア−ジルコニア−アルミナ、シリカ−ポリア−アルミナ、シリカ−ジルコニア−アルミナ、シリカ−チタニア−アルミナ及びシリカ−チタニア−ジルコニア−アルミナからなる群より選ばれる1種以上が好ましく、シリカ−アルミナ、ボリア−アルミナ、ジルコニア−アルミナ、チタニア−ジルコニア−アルミナ、シリカ−ポリア−アルミナ、シリカ−ジルコニア−アルミナ及びシリカ−チタニア−アルミナからなる群より選ばれる1種以上がより好ましく、シリカ−アルミナ及び/又はシリカ−ジルコニア−アルミナが更に好ましい。これらの複合酸化物は、ゼオライトを更に含有すると特に好ましい。担体にアルミナが含まれる場合、アルミナと他の成分との比率は担体に対して任意の割合を取り得るが、アルミナの含有量が担体質量に対して96質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。アルミナの含有量が担体質量に対して96質量%を超える場合には、酸性質の量が減少し、所定の水素化分解活性を発揮することが困難になる傾向にある。
【0044】
水素化分解触媒にゼオライトを含む場合、ゼオライトの結晶骨格を構成する成分としては、シリカの他、アルミナ、チタニア、ポリア、ガリウムなどが挙げられる。これらのうち、シリカ及びアルミナを含むゼオライト、すなわちアルミノシリケートが好ましい。ゼオライトの結晶構造には多くの種類が知られており、例えばフォージャサイト型、ベータ型、モルデナイト型、ペンタシル型などが挙げられる。本実施形態においては、より十分な水素化分解活性を発揮するという見地から、フォージャサイト型、ベータ型及び/又はペンタシル型が好ましく、フォージャサイト型及び/又はベータ型がより好ましい。
【0045】
これらのゼオライトは、その合成開始時の原材料の量論比に応じてアルミナ含有量を調整したもの、あるいは、所定の水熱処理及び/又は酸処理を施したものを用いることができる。これらのうち、水熱処理及び/酸処理により超安定化した超安定化Y型のゼオライトが特に好ましい。この超安定化Y型のゼオライトはゼオライトが本来的に有する細孔径20Å以下のミクロ細孔と呼ばれる微細細孔構造に加え、20〜100Åの細孔径を有する細孔が新たに形成されている。これにより、油脂成分の酸素分を転換するために良好な反応場を提供しているものと推察される。20〜100Åの細孔径を有する細孔の容積(細孔容積)は、0.03mL/g以上であると好ましく、0.04mL/g以上であるとより好ましい。なお、ここでいう細孔容積は、一般的には水銀圧入法によって求めることができる。
【0046】
ゼオライトを合成する際の水熱処理条件としては公知の条件を用いることができる。
【0047】
超安定化Y型のゼオライトの物性としては、シリカ/アルミナのモル比率として10〜120が好ましく、15〜70がより好ましく、20〜50が更に好ましい。シリカ/アルミナのモル比率が120よりも高い場合は、酸性質の量が低く、水素化分解活性が低下する傾向にある。また、シリカ/アルミナのモル比率が10よりも低い場合は、酸性質が強くなりすぎて、コーク生成反応を促進することにより急激な活性低下を招く傾向にある。
【0048】
担体におけるゼオライトの含有量は担体質量に対して2〜80質量%が好ましく、4〜75質量%がより好ましい。ゼオライトの含有量が上記下限値に満たない場合には、水素化分解活性を発揮し難くなる傾向があり、ゼオライトの含有量が上記上限値を超える場合には酸性質が強すぎて、コーク生成反応を促進する傾向がある。
【0049】
第1の水素化触媒及び水素化分解触媒のいずれの触媒においても、活性金属を触媒に含有させる方法は特に限定されず、通常の脱硫触媒を製造する際に適用される公知の方法を用いることができる。例えば、活性金属の塩を含む溶液を触媒担体に含浸する方法が好ましく採用される。また平衡吸着法、Pore−filling法、Incipient−wetness法なども好ましく採用される。例えば、Pore−filling法は、担体の細孔容積を予め測定しておき、これと同じ容積の金属塩溶液を含浸する方法である。この場合の含浸方法は特に限定されるものではなく、金属担持量や触媒担体の物性に応じて適当な方法で含浸することができる。
【0050】
水素化分解工程を経て得られる第1のナフサは、沸点100〜120℃の留分を含有している。このような第1のナフサを単独で又は他のナフサと混合して後述する水素化処理工程における原料油であるナフサ留分としてもよい。他のナフサとしては、例えば、直留ナフサのほか、接触分解装置から得られる分解ナフサ、水素化脱硫で生成するナフサ、コンデンセート、芳香族の溶剤抽出装置からのラフィネートなどが挙げられる。
【0051】
本実施形態においては、水素化処理工程において、水素化分解工程を経て得られた第1のナフサを含有するナフサ留分を、水素を含む雰囲気、好適には加圧雰囲気中、第2の水素化触媒と接触させることにより、ナフサ留分よりも硫黄分及び酸素分を低減せしめた第2のナフサを得る。こうすることで、後述する接触改質工程の原料油(第2のナフサ)中の硫黄分及び酸素分を所定濃度以下にすることができる。水素化処理工程で用いる第2の水素化触媒は、周期律表第6A族及び第8族に属する金属からなる群より選ばれる1種以上の金属を含有すると好ましい。これにより第2のナフサ中の硫黄分、酸素分をより低減することができる。
【0052】
第2の水素化触媒としては、一般的な水素化触媒を用いることができる。第2の水素化触媒の活性金属としては、例えば、Co−Mo、Ni−Mo、Ni−Co−Moが挙げられ、水素化処理工程においては、これらの金属を硫化物の状態に転換して使用する。これらの活性金属を第2の水素化触媒に含有させる方法は特に限定されず、通常の脱硫触媒を製造する際に適用される公知の方法を用いることができる。例えば、活性金属の塩を含む溶液を触媒担体に含浸する方法が好ましく採用される。また平衡吸着法、Pore−filling法、Incipient−wetness法なども好ましく採用される。例えば、Pore−filling法は、担体の細孔容積を予め測定しておき、これと同じ容積の金属塩溶液を含浸する方法である。この場合の含浸方法は特に限定されるものではなく、金属担持量や触媒担体の物性に応じて適当な方法で含浸することができる。
【0053】
第2の水素化触媒の担体は、一般的にはアルミナを主成分とした無機多孔質担体を用いることができる。担体の調製法は特に限定されず、一般的なアルミナ含有担体の調製方法を採用することができる。
【0054】
本実施形態では、接触改質工程において、水素化処理工程を経て得られた第2のナフサを接触改質して、水素を得る。この接触改質工程では、石油精製で用いられる一般的な接触改質装置及びその条件を採用することができる。
【0055】
接触改質工程で用いられる触媒は、一般的な接触改質用の触媒を用いることができ、例えば、アルミナ担体にPt及び/又は周期律表第7A族に属する元素、あるいはPt及び/又は周期律表第4B族に属する元素を担持したものが用いられる。かかる触媒は、活性金属であるPt粒子が触媒上で凝集することを防ぐといわれている。Ptと上記元素との組合せとしては、Pt−Re、Pt−Sn、Pt−Geが好ましい。
【0056】
さらには、予め触媒上に塩素分を担持したり、運転中、接触改質用の原料油(第2ナフサ)に塩素化合物を添加したりすることによって、触媒に塩素分を供給してPt粒子の分散状態を維持する操作が行われてもよい。
【0057】
使用した触媒は、付着したコーク質を燃焼除去することにより再生して再利用することができる。触媒の再生方法は特に限定されず、石油精製工程における一般的な接触改質装置で行われている再生方法を採用することができる。具体的には、定期的に運転を停止し、反応器にその触媒を充填した状態で、酸素を含むガスを反応器に導入しコーク質の燃焼除去を行って再生する固定床式再生、ある反応器だけを切り離して同様に再生し、順次再生を行うサイクリック式再生、移動床式反応形態をとり、触媒を連続的に反応器から抜き出し、再生器にて同様に再生した後に反応器に戻す連続式再生などが挙げられる。接触改質工程において改質ガソリン収率や芳香族収率を向上させるためには、より低圧、高温条件が好ましく、触媒の使用条件が過酷になることに対応できるよう、連続式再生が好ましく採用される。
【0058】
接触改質工程で用いられる触媒は、その原料油(第2のナフサ)中の硫黄化合物によって被毒されやすい傾向がある。したがって、好ましくは第2のナフサ中の硫黄分を1質量ppm以下、より好ましくは0.5質量ppm以下にする。なお、本明細書における「硫黄分」はJIS−K2541「硫黄分試験方法」に記載の方法によって測定される。
【0059】
また、原料油(第2のナフサ)中の酸素分が多くなると、触媒に含まれる塩素分と反応し、触媒上から酸素分が流出することによってPt粒子が凝集しやすくなるため、触媒活性が低下する傾向がある。したがって、第2のナフサ中の酸素分は好ましくは10質量ppm以下、より好ましくは5質量ppm以下に調整される。なお、第2のナフサ中の微量酸素分は、例えば、測定すべき試料に含まれる酸素分を白金炭素上でCOに転換し、あるいは更にCOに転換した後に、熱伝導度検出器を用いる方法、13C−NMR(核磁気共鳴)法、あるいは原子発光検出器付ガスクロマトグラフを用いる方法によって測定される。
【0060】
接触改質工程では、鎖状飽和炭化水素(パラフィン)及び環状飽和炭化水素(ナフテン)から、脱水素反応、異性化脱水素反応又は環化脱水素反応によって、芳香族炭化水素を生成する。この際、脱水素反応は吸熱反応であるため、接触改質プロセスにおいて、反応器を複数有し、反応器の間に加熱炉を設置することによって熱を補給するフローを採用してもよい。
【0061】
接触改質工程での反応形態は特に限定されないが、反応器内の圧力損失を抑えるために、ラジアルフローと呼ばれる、原料が反応器外周部から触媒層を通過し、反応器中央のセンターパイプに抜けるような構造が好ましく採用される。
【0062】
接触改質工程における反応条件として、例えば、圧力4MPa以下、反応温度400〜600℃、リサイクルされる水素と炭化水素との比率0.1〜10mol/molが採用される。圧力が4MPaよりも高い場合、環化脱水素反応には不利となり、生成油のオクタン化低下や芳香族収率の低下を招く傾向にある。反応温度が400℃よりも低い場合、反応が進行し難くなるために、生成油のオクタン価低下や芳香族収率の低下を招く傾向にあり、反応温度が600℃よりも高い場合、分解反応が促進され改質ガソリンの収率低下や、コーク生成促進による触媒寿命の低下を招く傾向にある。リサイクルする水素と炭化水素との比率が0.1mol/molよりも低い場合、コーク生成が促進される傾向にあり、10mol/molよりも高い場合には、リサイクルするための運転コストやエネルギー消費が増加する傾向にある。
【0063】
接触改質工程の後、生成油から水素、軽質炭化水素、ガソリン留分を分離する工程、塩素分を除去する工程などを備えてもよく、これらの工程における装置構成は特に限定されない。
【0064】
接触改質工程で得られる水素を軽質ガスやその他の無機ガスから分離回収する方法として、一般的に石油精製で用いられている回収プロセスを採用することができる。具体的には、ゼオライトやシリカゲルなどの吸着剤を用いた圧力差吸着プロセス(PSAプロセス)や、高分子や無機材料による膜を利用した膜分離プロセスを採用することができる。PSAプロセスは幅広い不純物に対応でき、高純度で水素が回収できる一方、膜分離プロセスは比較的装置が安価で、エネルギー消費が低いといった特徴があり、接触改質工程を経て得られるガス成分の組成やその他の条件に応じて任意に選択することができる。
【0065】
このようにして、本実施形態によって製造される水素は、大気中のCOを固定化したものを原料として製造されており、これは各工程におけるCO排出量の低減と等価と考えられる。よって、この水素は環境低負荷型の水素と言える。
【0066】
本実施形態において、接触改質工程を経て得られる改質ガソリンは、ガソリン基材として好適に用いることができる。改質ガソリンは芳香族に富み、リサーチオクタン価(RON)が高いことが特長として挙げられ、レギュラーガソリン及びハイオクガソリンの混合用基材として用いられている。
【0067】
また、本実施形態の接触改質工程を経て得られる改質ガソリンには、化学品原料として重要なベンゼン、トルエン及びキシレンが多く含まれており、改質ガソリンはこれらの芳香族炭化水素の原料として好適に用いられる。改質ガソリンに含まれているこれらの炭素数6〜8の芳香族炭化水素は、精留装置において、これらの芳香族を含む任意の留分に分画された後、芳香族の溶剤抽出プロセス、水素化脱アルキルプロセス、芳香族アルキル基の不均化プロセス、トランスアルキル化プロセス、異性化プロセス、吸着分離プロセス、結晶化分離プロセスなどのプロセスを適宜用いて、各芳香族化合物の純度を高めた上で、石油化学プラントの原料として供給することができる。このように本実施形態によって製造される芳香族炭化水素や該化合物を原料とした各種石油化学製品は、大気中のCOを固定化したものを原料として製造されていることになる。
【0068】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述のものに限定されない。例えば、本発明の別の実施形態において、水素化前処理工程を省略してもよく、その場合は、第1の原料油が水素化分解工程における原料油となる。更に別の実施形態において、水素化処理工程を省略してもよく、その場合は、接触改質工程において第1のナフサを単独で又は上述の他のナフサと混合したナフサ留分を接触改質する。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0070】
(実施例1)
濃度5質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液1kgに水ガラス3号を加えて70℃に保温した容器に入れた。濃度2.5%の硫酸アルミニウム水溶液1kgを70℃に保温した別の容器に入れ、上述のアルミン酸ナトリウム水溶液及び水ガラスの混合物に15分かけて滴下した。水ガラスの量は所定のシリカ含有量となるよう調整した。混合溶液のpHが6.9〜7.5になる時点を滴下の終点とし、得られたスラリー状生成物をフィルターに通して濾取し、ケーキ状のスラリーを得た。
【0071】
次に、ケーキ状のスラリーを還流冷却器を取り付けた容器に移し、蒸留水300mLと27%アンモニア水溶液3gを加え、70℃で24時間加熱撹拌した。該スラリーを混練装置に入れ、80℃以上に加熱し水分を除去ながら混練し、粘土状の混練物を得た。得られた混練物を押出し成形機によって直径1.5mmのシリンダー形状に押し出し、110℃で1時間乾燥した後、550℃で焼成して、成形担体を得た。
【0072】
得られた成形担体300gを取り、蒸留水150mLに三酸化モリブデン、硝酸ニッケル6水和物及びリン酸(濃度85%)を加え、溶解するまでリンゴ酸を加えて調製した含浸溶液を、その成形担体にスプレーしながら含浸した。三酸化モリブデン、硫酸ニッケル6水和物及びリン酸の使用量は、所定の担持量となるよう調整した。
【0073】
含浸して得られた試料を110℃で1時間乾燥した後、550℃で大気中で焼成し、第1の水素化触媒Aを得た。調製した第1の水素化触媒Aの物性を表1に示す。
【0074】
【表1】



【0075】
次に、シリカ/アルミナのモル比が5であるY型ゼオライトを公知の超安定化処理方法により安定化した後、1N硝酸水溶液により酸処理を施し、単位格子長が24.33Å、シリカ/アルミナのモル比が30、水銀圧入法によって測定される細孔径30〜100Åの細孔の容積がゼオライト質量に対して0.055mL/gである、プロトン型の超安定化Y型ゼオライトを得た。
【0076】
得られた超安定化Y型ゼオライト550gを硝酸アンモニウム水溶液(濃度2N)3Lに加え、室温で撹拌してアンモニウム型に変換せしめた。
【0077】
次いで、濃度5質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液1kgと水ガラス3号とを混合し、上記の第1の水素化触媒の担体と同様の方法で調製した粘土状の混練物を、押出し成形機によって直径1.5mmのシリンダー形状に押し出し、110℃で1時間乾燥した後、550℃で焼成し、ゼオライトを55質量%含む成形担体を得た。得られたゼオライト含有成形担体300gを取り、蒸留水150mLにパラタングステン酸アンモニウム及び硝酸ニッケル6水和物を溶解した含浸溶液をスプレーしながらその成形担体に含浸し、水素化分解触媒Bを得た。パラタングステン酸アンモニウム及び硝酸ニッケル6水和物の使用量は、所定の担持量となるよう調整した。調製した水素化分解触媒Bの物性を表1に示す。
【0078】
(実施例2)
第1の水素化触媒A(70mL)を充填した第1反応管(内径20mm)と、水素化分解触媒B(30mL)を充填した第2反応管(内径20mm)とを、この順で直列に固定床流通式反応装置に取り付けた後、ジメチルジサルファイドを加えた直留軽油(硫黄分3質量%)を用いて、触媒A及びBの触媒層平均温度300℃、水素分圧6MPa、LHSV1h−1、水素/油比200NL/Lの条件下で、4時間触媒の予備硫化を行った。予備硫化終了後、パーム油(15℃密度:0.916g/mL、酸素分:11.4質量%、10%留出点:588℃)及び中東系の減圧軽油留分(15℃密度:0.919g/mL、硫黄分:2.41質量%、窒素分:610質量ppm、10%留出点:344℃)を20:80の容量比で混合した第1の原料油を、触媒A及びBにおける反応温度400℃、水素圧力10.5MPa、LHSV0.7h−1の条件で通油して、水素化前処理及び水素化分解を行った。得られた生成油から、JIS−K2601「原油試験方法」のうち参考に記載される「理論段数15段の精留塔を使用した蒸留試験方法」に準拠した装置により、沸点範囲80〜145℃の留分(第1のナフサ)を分取した。得られた第1のナフサの性状は、パラフィン:98容量%、ナフテン:2容量%、アロマ:0容量%、硫黄分:1質量ppm未満、酸素分:45質量ppmであった。
【0079】
(実施例3)
酸化物換算で触媒質量に対し3質量%のニッケルと酸化物換算で触媒質量に対して18質量%のモリブデンをアルミナ担体に担持した市販触媒(比表面積:180m/g)を70mL充填した反応管(内径20mm)を固定床流通式反応装置に取り付けた後、ジメチルジサルファイドを加えた直留軽油(硫黄分3質量%)を用いて、触媒層平均温度300℃、水素分圧3MPa、LHSV1h−1、水素/油比200NL/Lの条件下で、4時間触媒の予備硫化を行った。予備硫化後、直留ナフサ(初留点:90℃、終点:155℃、パラフィン:65容量%、ナフテン:25容量%、アロマ:10容量%、硫黄分:330質量ppm)と実施例2で得られた第1のナフサとを70:30の比率で混合したナフサ留分を、反応温度310℃、圧力2.5MPa、LHSV5h−1、水素/油比40NL/Lの条件で通油して第2の水素化処理を行った。生成油(第2のナフサ)の硫黄分は0.2質量ppm、酸素分は5質量ppm以下であった。
【0080】
(実施例4)
球状のγ−アルミナ500gに蒸留水500mLを加え、更に0.012mol/Lの濃度の塩化白金酸水溶液500mLと、0.020mol/Lの塩化第二スズに0.1N塩酸溶液を加え500mLとした水溶液とを加え、エバポレーターで水を蒸発させた。その後、得られた試料を120℃で10時間乾燥し、更に400℃で1時間焼成して接触改質用の触媒を得た。得られた触媒の窒素吸着法による比表面積は195m/gであった。
【0081】
(実施例5)
実施例4で得られた接触改質用の触媒(30mL)を充填した反応管(内径20mm)を固定床流通式反応装置に取り付けた後、反応前処理として水素分圧2MPa、530℃の条件で還元前処理を実施した。その後、実施例3で得られた第2のナフサを、水分量を調整しながら通油して反応温度530℃で接触改質した。生成物の性状を表2に示す。なお、表2中、水素生成量は第1の原料油1Lに対するNLで表される。また、ベンゼン、トルエン、キシレンの収率はJIS−K2536−2「石油製品−成分試験方法(ガスクロマトグラフによる全成分の求め方)」に記載された方法によって測定された数値から算出した。更に、ここでいうリサーチオクタン価とは、JIS−K2280「オクタン価及びセタン価試験方法」により測定されるリサーチ法オクタン価を意味する。
【0082】
【表2】



【0083】
(比較例1)
第1のナフサを用いずに直留ナフサのみを通油して第2の水素化処理を行った以外は実施例3と同様にして、生成油を得た。得られた生成油の硫黄分は0.2質量ppm、酸素分は0.1質量ppmであった。
【0084】
(比較例2)
実施例4で得られた接触改質用の触媒(30mL)を充填した反応管(内径20mm)を固定床流通式反応装置に取り付けた後、反応前処理として水素分圧2MPa、530℃の条件で還元前処理を実施した。その後、比較例1で得られた生成油を、水分量を調整しながら通油して反応温度505℃で接触改質した。生成物の性状を表2に示す。
【0085】
このように、動植物油に由来する油脂成分を含有する第1の原料油を、水素化分解工程及び接触改質工程にかける際に、その運転条件を調整することにより、得られる生成物中の改質ガソリン収率を、動植物油に由来する油脂成分を含有しない原料油を用いた場合とほぼ同等に維持すると同時に、水素生成量を増加せしめることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の原料油又はその第1の原料油に由来する第2の原料油を、水素を含む雰囲気中、水素化分解触媒との接触により水素化分解して第1のナフサを得る水素化分解工程と、
前記第1のナフサ又はその第1のナフサに由来する第2のナフサを接触改質して水素を得る接触改質工程と、を有する水素の製造方法であって、
前記第1の原料油は、沸点230℃以上の留分を含む動植物油に由来する油脂成分を含有するものであり、
前記水素化分解触媒は、周期律表第6A族及び第8族に属する金属からなる群より選ばれる1種以上の金属と、酸性質を有する無機酸化物と、を含有するものであり、
前記第1のナフサは、沸点100〜120℃の留分を含むものである、
水素の製造方法。
【請求項2】
前記接触改質工程よりも前に、前記第1のナフサを含有するナフサ留分を、水素を含む雰囲気中、第2の水素化触媒と接触させることにより、前記ナフサ留分よりも硫黄分及び酸素分を低減せしめた前記第2のナフサを得る水素化処理工程、を更に有し、
前記第2の水素化触媒は、周期律表第6A族及び第8族に属する金属からなる群より選ばれる1種以上の金属を含有するものであり、
前記第2のナフサは、硫黄分1.0質量ppm以下、かつ酸素分10質量ppm以下のものである、
請求項1記載の水素の製造方法。
【請求項3】
前記水素化分解工程よりも前に、前記第1の原料油を、水素を含む雰囲気中、第1の水素化触媒と接触させて第2の原料油を得る水素化前処理工程、を更に有し、
前記第1の水素化触媒は、周期律表第6A族及び第8族に属する金属からなる群より選ばれる1種以上の金属を含有するものである、
請求項1又は2に記載の水素の製造方法。
【請求項4】
前記水素化分解工程において水素化分解する条件が、水素圧力6〜20MPa、LHSV0.2〜1.5h−1、及び水素/油比200〜2000NL/Lである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の水素の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の接触改質工程において改質ガソリンを得る改質ガソリンの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の接触改質工程において炭素数6〜8の芳香族炭化水素を得る芳香族炭化水素の製造方法。

【公開番号】特開2007−153931(P2007−153931A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−347196(P2005−347196)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】