説明

水素充填装置及び水素充填方法

【課題】水素タンクへと水素を充填する際に、より正確な充填所要残時間を算出及び表示することができ、作業者の利便性を高めることができる水素充填装置及び水素充填方法を提供する。
【解決手段】水素充填装置10は、水素貯蔵タンク16に貯蔵された水素を、例えば燃料電池車両18に搭載された水素タンク20へと充填するための装置である。この水素充填装置10は、水素タンク20への水素充填が開始された後、該水素充填を所定時間停止し、この停止中に水素タンク20内の温度及び圧力を検出すると共に、該温度及び圧力の検出値に基づき水素タンク20への所定量の水素充填に必要な充填所要残時間を算出し、さらに、算出した充填所要残時間を表示部42に表示可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池等に供給する水素を貯蔵する水素タンクへと水素を充填するための水素充填装置及び水素充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、水素と酸素の電気化学反応により発電する燃料電池において、燃料としての水素(水素ガス)は、水素タンクに所定の高圧で貯蔵され、前記燃料電池の近傍に配置される。この水素タンクへの水素充填は、通常、より高圧で水素を貯蔵している水素貯蔵タンクから行っている。
【0003】
特許文献1には、水素ガス等の高圧ガスを被充填タンクに充填する際、被充填タンクでの温度上昇を抑制しながら充填を実施可能な装置が開示されている。これによれば、被充填タンクでの温度上昇が抑えられ、充填時間を短縮することができる等の利点があるが、作業者が充填作業に要する残時間を把握することが難しい。
【0004】
一方、特許文献2には、水素貯蔵合金容器への水素充填に際し、充填水素流量や圧力等の物理量の変化を所定時間毎に測定し、その測定結果を近似式に対応させ、これにより充填完了の予測時間を算出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−309375号公報
【特許文献2】特開2007−138973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献2に記載の従来技術の場合には、水素充填中の水素流量や圧力等の所定の物理量に基づき充填完了までの予測時間を算出しているため、前記物理量が変動し易く、充填完了までの予測時間の算出精度が低下する可能性がある。さらに、前記物理量の測定時、常に水素充填が継続実施されるため、充填する水素タンク毎に容積が異なる場合には、予測時間の算出精度が一層低下するという問題もある。すなわち、水素充填装置は、充填に要する残時間をより正確に且つ容易に把握でき、その利便性を一層向上させることができる構成が望まれている。
【0007】
本発明は、上記従来の課題を考慮してなされたものであり、水素タンクへと水素を充填する際に、より正確な充填所要残時間を算出及び表示することができ、作業者の利便性を高めることができる水素充填装置及び水素充填方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る水素充填装置は、水素タンクに水素を充填するための水素充填装置であって、前記水素タンクへの水素充填の開始後、該水素充填を所定時間停止して前記水素タンク内の温度及び圧力を検出し、該温度及び圧力の検出値に基づき前記水素タンクへの所定量の水素充填に必要な充填所要残時間を算出し、該充填所要残時間を表示部に表示することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る水素充填方法は、水素タンクに水素を充填するための水素充填方法であって、前記水素タンクへの水素充填の開始後、該水素充填を所定時間停止して前記水素タンク内の温度及び圧力を検出してから水素充填を再開し、該再開後に前記温度及び圧力の検出値に基づき前記水素タンクへの所定量の水素充填に必要な充填所要残時間を算出することを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、水素充填の開始後に該水素充填を一時停止し、そのときに検出した温度及び圧力に基づき水素タンクへの充填所要残時間を算出する。従って、水素タンクへの水素充填に必要な時間を充填停止時の温度及び圧力に応じて算出することができ、より正確な残時間の算出が可能となる。さらに、算出した充填所要残時間を表示部に表示することで、当該充填所要残時間をリアルタイムで可視化することができ、装置の利便性が一層向上する。
【0011】
この場合、前記水素充填は、前記所定時間停止する前の初期充填ステージと、前記所定時間停止して前記温度及び圧力を検出した後に水素充填を再開する通常充填ステージとを有することにより、両ステージ間の充填停止中に容易に水素タンク内の温度や圧力を測定することができる。
【0012】
また、前記水素タンクに充填するための水素を貯蔵する水素貯蔵タンクが所定温度以下となった場合に、該水素貯蔵タンクを加熱する加熱装置を備えると、水素充填時における配管接続部等の温度低下を適切に防止することができ、これにより水素をより高い圧力で水素貯蔵タンクから放出させることができるため、充填時間を短縮することができる。
【0013】
さらに、前記水素タンクへの水素充填の開始前に該水素タンクの充填前圧力を検出しておき、該充填前圧力及び前記検出値に基づき前記水素タンクの水素漏れを検知し、前記表示部に表示すると、水素漏れの検知を迅速に行うことができると共に、作業者に確実に通知することができる。
【0014】
またさらに、前記水素タンクへの水素充填の開始前に該水素タンクの充填前温度及び充填前圧力を検出しておき、該充填前温度及び充填前圧力と前記検出値とに基づき前記水素タンクの容量を算出し、該算出した容量と水素充填流量とに基づき前記充填所要残時間を算出してもよい。そうすると、実際のタンク容量に適した充填所要残時間を精度よく算出することができ、例えば車両毎に容量や残量の異なる水素タンクに対しても、迅速且つ正確に充填所要残時間を算出することができるため、利便性や汎用性が一層向上する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、水素充填の開始後に該水素充填を一時停止し、そのときに検出した温度及び圧力に基づき水素タンクへの充填所要残時間を算出する。従って、水素タンクへの水素充填に必要な時間を充填停止時の温度及び圧力に応じて算出することができ、より正確な残時間の算出が可能となる。さらに、算出した充填所要残時間を表示部に表示することで、当該充填所要残時間をリアルタイムで可視化することができ、装置の利便性が一層向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る水素充填装置を備えた水素充填システムの概略構成図である。
【図2】水素充填装置に備えられる制御装置のブロック説明図である。
【図3】水素充填装置に備えられる表示部に表示される各情報を例示した説明図である。
【図4】水素充填装置による水素充填方法の一例を示すフローチャートである。
【図5】水素充填装置により水素貯蔵タンクから水素タンクへと水素を充填した場合の充填体積と、水素貯蔵タンクの口金部を含む配管接続部の温度の時間変化を例示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の水素充填方法について、この方法を実施する水素充填装置との関係で好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る水素充填装置10を備えた水素充填システム12の概略構成図である。図1中、二重線は水素(水素ガス)が流通する配管を、実線(太)は熱媒体であるクーラントが流通するクーラント配管を、実線(細)は信号線を示している。
【0019】
水素充填システム12は、水素充填ステーション14の水素貯蔵タンク16に貯蔵された高圧の水素(水素ガス)を、水素充填装置10を介して燃料電池車両18に搭載された水素タンク20へと充填するシステムである。水素貯蔵タンク16には、例えば、複数のタンクが連結された水素カードルを用いることができる。
【0020】
図1に示すように、水素充填ステーション14には、水素貯蔵タンク16と、水素貯蔵タンク16に高圧で貯蔵されている水素を燃料電池車両18の水素タンク20に充填する際に作動される水素充填装置10とが設けられている。
【0021】
水素貯蔵タンク16と水素充填装置10とは、口金部16bからの配管22がボルテックスチューブ24の入口部24aに連結されることで互いに接続されている。水素充填装置10では、ボルテックスチューブ24の低温出口部24cが、ディスペンサ26を介してノズル28に連通している。
【0022】
ノズル28は、一端が配管(水素供給チューブ)30によりディスペンサ26に接続されており、他端が充填コネクタ28aにより燃料電池車両18の充填口32に連結自在である。ノズル28先端の充填コネクタ28aが充填口32に連結されると、充填コネクタ28a及び充填口32に配設されたロック機構33がロックされて両者が固定され、これにより、水素充填ステーション14側から燃料電池車両18側への水素充填が可能になる。ロック機構33には、そのロック及びアンロックの状態を検知する接続センサ(接続判断スイッチ)33aが設けられている(図2参照)。
【0023】
ディスペンサ26は、制御装置40の制御下に、燃料電池車両18の水素タンク20に供給する水素の充填開始及び停止や充填流量等を制御する図示しない機器や制御部等を備え、後述する充填所要残時間等の各種情報を表示部42(図3も参照)に表示することもできる。制御装置40はディスペンサ26に内蔵してもよい。また、表示部42はディスペンサ26と別体に設けてもよい。
【0024】
ディスペンサ26には、ノズル28が着脱可能な図示しないノズル保持器が設けられている。ノズル28は、通常時(非充填時)には前記ノズル保持器に保持される一方、充填時には作業者によって前記ノズル保持器から取り外され、燃料電池車両18の充填口32に接続される。
【0025】
さらに、水素充填装置10には、配管22を介して入口部24aから流入する水素を高温ガス(暖気:高温の水素ガス)と低温ガス(冷気:低温の水素ガス)とに分離するボルテックスチューブ24と、ボルテックスチューブ24の高温出口部24bからの配管34が接続される第1熱交換器36と、第1熱交換器36をバイパスするバイパス管38に接続される第2熱交換器39とが設けられている。配管34とバイパス管38との分岐部には、三方弁41が配設されている。また、ボルテックスチューブ24の低温出口部24cに接続される配管43は、第1熱交換器36や第2熱交換器39の出口側の配管34と合流された後、ディスペンサ26へと連結されている。なお、ボルテックスチューブ24は公知のものを採用可能であるため、詳細な説明は省略する。
【0026】
このような水素充填装置10には、熱媒体であるクーラント(例えば、エチレングリコール水溶液や水等)が循環されることで、ボルテックスチューブ24で分離された高温ガスの熱を利用して、水素貯蔵タンク16を加熱する加熱装置(熱媒体回路)44が備えられている。
【0027】
加熱装置44は、クーラントを循環させるための循環ポンプ46と、クーラントと前記高温ガスを熱交換させる第1熱交換器36と、水素貯蔵タンク16に設けられた熱交換部16a及び口金加熱部48とが、クーラント配管により順次接続されて構成されている。
【0028】
本実施形態では、第1熱交換器36の出口側のクーラント配管71が循環ポンプ46の出口側で二方に分岐しており、一方のクーラント配管73には熱交換部16aが連結され、他方のクーラント配管75には口金加熱部48が連結されている。クーラント配管71がクーラント配管73、75に分岐する分岐点には三方弁77が設けられ、制御装置40の制御下に、クーラント配管73、75へのクーラントの流通が適宜切換制御される。勿論、クーラント配管73、75の両方にクーラントを流通させることも可能である。
【0029】
熱交換部16aは、例えば、公知の3層構造からなる水素貯蔵タンク16の中間層を貫通し、当該水素貯蔵タンク16の周囲を周回するように配設される。従って、熱交換部16aでは、第1熱交換器36で前記高温ガスとの熱交換により昇温されたクーラントにより、当該水素貯蔵タンク16が全体的に加熱される。
【0030】
口金加熱部48は、水素貯蔵タンク16の口金部16bをクーラントにより加熱可能に構成されており、例えば口金部16bを囲繞する容器である。従って、口金加熱部48では、第1熱交換器36で昇温されたクーラントにより、当該口金部16b及びその周辺を含めた配管接続部が加熱される。
【0031】
水素充填装置10には、装置各部の温度を測定するための温度センサ56、58、59、60と、これらの測定結果に基づいて、三方弁41、77、循環ポンプ46及びディスペンサ26等の運転を制御する制御装置40が設けられている。温度センサ56は、第1熱交換器36の出口側(2次側)の配管34に設けられている。温度センサ58は、熱交換部16aの出口側のクーラント配管73に設けられている。温度センサ59は、口金加熱部48の出口側のクーラント配管75に設けられている。温度センサ60は、ディスペンサ26の出口側の配管30に設けられている。
【0032】
さらに、ディスペンサ26には、燃料電池車両18に充填される水素の流量及び圧力を測定するための流量センサ62及び圧力センサ64が設けられている。従って、充填コネクタ28aが充填口32に連結されることにより、温度センサ60及び圧力センサ64を介して燃料電池車両18の水素タンク20内の水素の温度及び圧力も検出可能である。勿論、燃料電池車両18側の水素タンク20に設置される図示しない温度センサや圧力センサの情報を、ノズル28や配管30に並設した図示しない信号線によって制御装置40で取得するように構成してもよい。
【0033】
燃料電池車両18は、充填口32から水素タンク20へと連通する配管66と、水素充填装置10から充填口32及び配管66を介して供給される水素が充填・貯蔵される水素タンク(水素貯蔵容器、燃料タンク)20と、車両の駆動源となる燃料電池68とを有している。水素タンク20は、燃料電池68の図示しないアノード電極に水素ガスを供給するためのものである。
【0034】
図2に水素充填装置10に備えられる制御装置40のブロック説明図を示す。制御装置40は、当該水素充填装置10の運転を管理する運転管理部70と、加熱装置44を駆動制御する加熱制御部72と、表示部42を制御する表示制御部74と、外部から水素タンク20の許容圧力(耐圧)等の入力を行う入力部76とを備える。さらに、制御装置40は、接続センサ33aの出力が入力される接続検出部78と、圧力センサ64、温度センサ56、58、59、60及び流量センサ62の検出値(例えば、センサから出力される電圧値等)が入力される検出部80と、検出部80での検出結果を受けて充填継続可否等の所定の判定を行う判定部82と、検出部80での検出値や判定部82での判定結果等に基づき充填所要残時間の算出等の所定の演算を行う演算部84とを備える。
【0035】
運転管理部70は、検出部80、演算部84及び入力部76等からの各種情報に基づき、水素充填装置10の総合的な運転管理や三方弁41の切換制御等を行うと共に、充填制御部86により、ディスペンサ26での水素充填の開始及び停止等の制御も実施する。加熱制御部72は、検出部80や運転管理部70からの各種情報に基づき、水素貯蔵タンク16を所定温度範囲に維持すべく加熱装置44を駆動制御するものであり、例えば、三方弁77によるクーラント配管73、75の切換制御や循環ポンプ46の駆動制御を実施する。検出部80は、圧力センサ64、温度センサ56、58、59、60、流量センサ62での検出値を受けて、各検出値から圧力(MPa)、温度(℃)、流量(m3/sec)等の値を算出し、これを運転管理部70や判定部82等に送信する。判定部82は、検出部80での検出結果や演算部84での演算結果等に基づき、水素充填中の各タイミングで充填可否判断や充填完了判断等の各種判定を行い、その結果を運転管理部70(充填制御部86)や加熱制御部72に送信する。
【0036】
図3に表示部42における表示画面の構成例を示す。表示部42は、例えば液晶ディスプレイによって構成され、表示制御部74の制御下に各種情報を表示可能である。本実施形態では、表示部42には、充填コネクタ28a及び充填口32の接続状態を表示する領域R1と、水素漏れの有無を表示する領域R2と、水素タンク20の許容圧力(MPa)を表示する領域R3と、水素タンク20への充填率(%)を表示する領域R4と、充填所要残時間(分)を表示する領域R5と、現在(充填中)の水素量として水素タンク20への充填容積(Nm3。ノルマル立方メートル)及び充填圧力(MPa)を表示する領域R6とが設けられる。勿論、上記領域を増減させてもよく、各領域の表示単位を変更してもよい。
【0037】
基本的には以上のように構成される水素充填システム12において、次に、水素充填装置10により水素貯蔵タンク16から水素タンク20へと水素を充填する水素充填方法につき、図4のフローチャートを参照しながら説明する。
【0038】
先ず、水素タンク20を搭載する燃料電池車両18を水素充填ステーション14の所定の水素充填位置に停車させ、イグニッションをOFFとして燃料電池68等の運転を停止させる。次に、作業者がノズル28をディスペンサ26から取り外し、充填コネクタ28aを燃料電池車両18の充填口32に接続する。
【0039】
そこで、図4のステップS1では、接続センサ33a(図2参照)の出力が接続検出部78に入力され、該接続検出部78では、ロック機構33がロック状態になったか否か、つまり充填コネクタ28aと充填口32とが確実に接続されたか否かを判定する。
【0040】
この判定結果は、例えば運転管理部70で処理され、充填コネクタ28aと充填口32とが未接続又は接続不良の場合には(ステップS1のNO)、次にステップS2において、表示制御部74の制御下に、表示部42の領域R1に充填口未接続(図3参照)の表示(ランプ)を点灯させる。充填口未接続の表示が点灯中であれば、その点灯状態を維持する。一方、充填コネクタ28aと充填口32とが確実に接続された場合には(ステップS1のYES)、次にステップS3において、表示部42の充填口未接続(領域R1)の表示を消灯する。勿論、表示部42は、充填口未接続の表示に加えて又は代えて、充填口接続完了等の表示を行う構成としてもよい。
【0041】
ステップS4において、作業者は、入力部76を操作して水素タンク20の許容圧力PSup(例えば、35MPa)を設定入力する。この許容圧力PSupは、水素タンク20に水素ガスを充填する際の許容充填圧力(耐圧)を示す。
【0042】
ステップS5では、検出部80により、水素タンク20内の初期圧力(充填前圧力)P0iniと初期温度(充填前温度)T0iniを検出し、水素充填前(初期)の水素タンク20内の残存気体圧力及び温度を測定する。この場合、ディスペンサ26と水素タンク20とは配管30を介して連通していることから、ディスペンサ26に設けた圧力センサ64及び温度センサ60の検出値により、水素タンク20内の水素ガス圧力及び温度を検出することができる。勿論、燃料電池車両18に設置された図示しない温度センサや圧力センサによる水素タンク20の検出値を制御装置40側で取得してもよい。
【0043】
ステップS6では、ステップS4で設定された許容圧力PSupと、ステップS5で検出した初期圧力P0iniとに基づき、水素タンク20への水素充填が可能であるか否か、つまり、P0ini≦PSupであるか否かを判定部82で判定する(水素充填可否判断)。
【0044】
水素タンク20の初期圧力P0iniが許容圧力PSupより大きい場合には(ステップS6のNO)、それ以上の水素充填は不可(不要)であると判断し、次にステップS7において、表示部42の領域R4、R5(図3参照)にそれぞれ水素充填率100(%)、充填所要残時間0(ゼロ)(分)を表示する。一方、初期圧力P0iniが許容圧力PSup以下の場合には(ステップS6のYES)、水素タンク20への水素充填が可能であると判断し、次にステップS8において、充填制御部86の制御下にディスペンサ26を運転制御して初期充填を開始する。
【0045】
初期充填が開始されると(初期充填ステージ)、水素貯蔵タンク16からの水素が先ずボルテックスチューブ24に流入する。ボルテックスチューブ24に流入した水素は高温ガスと低温ガスとに分離され、前記高温ガスは高温出口部24bから配管34へと流通する。一方、前記低温ガスは低温出口部24cから配管43へと流通し、ディスペンサ26からノズル28及び充填口32を介して燃料電池車両18の水素タンク20へと充填される。
【0046】
この場合、当該ステップS8による初期充填は、充填制御部86の制御下に、予め設定された所定時間(例えば、水素タンク20への水素充填直後の数秒間)だけ行われ、該所定時間経過後に充填が停止(一時中止)される(ステップS9)。
【0047】
ステップS9による初期充填の停止中、検出部80により水素タンク20内の圧力P1と温度T1を検出し、初期充填後の水素タンク20内の気体圧力及び温度を測定する(ステップS10)。
【0048】
ステップS11では、ステップS5で検出した初期圧力P0iniと、ステップS10で検出した圧力P1とに基づき、水素漏れの有無を判定するために、前記初期充填により水素タンク20内の圧力が充填前圧力に対して上昇したか否か、つまり、P0ini<P1であるか否かを判定部82で判定する(水素漏れ検知)。
【0049】
水素タンク20の初期充填後の圧力P1が充填前の初期圧力P0ini以下の場合には(ステップS11のNO)、水素タンク20を含む各機器や各配管接続部等から水素漏れを生じている可能性があると判断し、次にステップS12において、表示部42の領域R2に水素漏れ(図3参照)の表示を点灯させる。一方、圧力P1が初期圧力P0iniより大きい場合には(ステップS11のYES)、水素漏れを生じていないと判断し、次にステップS13において、圧力P1を標準温度(例えば、25℃)での圧力P1Modに換算する処理を実施する。この換算処理は、例えば、演算部84で気体の状態方程式(PV=NRT。Nはモル数、Rは気体定数。)等の公知の公式等に基づき実施される。
【0050】
ステップS14では、ステップS4で設定された許容圧力PSupと、ステップS13で算出した圧力P1Modとに基づき、水素タンク20にさらに水素を充填可能であるか否か、つまり、P1Mod<PSupであるか否かを判定部82で判定する(水素充填可否判断)。
【0051】
水素タンク20の圧力P1Modが許容圧力PSup以上の場合には(ステップS14のNO)、それ以上の水素充填は不可(不要)であると判断し、次にステップS7を実行する。一方、圧力P1Modが許容圧力PSup未満である場合には(ステップS14のYES)、水素タンク20へのさらなる水素充填が可能であると判断し、次にステップS15を実行する。
【0052】
ステップS15では、演算部84にて水素タンク20の容量Vtankを算出する。この容量Vtankは、例えば、以下に説明するように算出することができる。
【0053】
先ず、圧力P(atm)、温度T(K)、体積V(l)の気体N(mol)に対しては、次式(1)、(2)が成立する。
【数1】

【0054】
そこで、第1算出ステップとして、ステップS5で検出した水素タンク20の初期圧力P0ini及び初期温度T0iniを上式(1)に代入し、充填前の水素タンク20内の気体(水素ガス)のモル数Nとタンク容量Vとの比V/Nを導出する。
【0055】
第2算出ステップとして、ステップS8の初期充填にて水素タンク20内に流入させた水素の体積viniを上式(1)に代入し、上記第1算出ステップの場合と同様に、該流入させた水素量dN(mol)を式(1)から算出する。この場合、体積viniは、例えば流量センサ62の出力を検出部80で検出し、初期充填に要した時間(ステップS8の初期充填開始からステップS9の初期充填停止までの時間)に基づき算出する。従って、上式(1)のV、P、Tにそれぞれ、体積vini、初期圧力P0ini、初期温度T0iniを代入することにより、体積viniの水素が流入された際の水素量の増加分、つまり、水素量dN(mol)を算出する。
【0056】
第3算出ステップとして、ステップS10で検出した水素充填一時中止中の水素タンク20内の圧力P1と温度T1とに基づき、dP=P1−P0ini、dT=T1−T0iniとして、dP、dT、dN(第2算出ステップにて算出)、V/N(第1算出ステップにて算出)を上式(2)に代入し、これをVについて数値計算して解くことで、水素タンク20の容量Vtankを算出する。
【0057】
図4のフローチャートに戻り、ステップS16では、ステップS9以降停止されていた水素充填を再開する(通常充填ステージ)。この通常充填では、充填制御部86の制御下に、水素貯蔵タンク16からの水素がディスペンサ26からノズル28及び充填口32を介して燃料電池車両18の水素タンク20へと充填される。
【0058】
この際、制御装置40を構成する運転管理部70及び加熱制御部72の制御下に、三方弁41を第1熱交換器36側に切り換えておくことにより、高温出口部24bからの高温ガスが第1熱交換器36に流通する。さらに、加熱装置44の循環ポンプ46を駆動することにより、第1熱交換器36では高温ガスとクーラントが熱交換され、高温ガスがクーラントにより冷却される一方、クーラントが高温ガスにより加熱される。
【0059】
第1熱交換器36で冷却された高温ガスは、配管43を流通する低温ガスに合流した後、ディスペンサ26及びノズル28等を介して水素タンク20へと充填される。一方、第1熱交換器36にて加熱されたクーラントは、加熱制御部72による制御下に、三方弁77が温度センサ58、59等の検出に基づき適宜切換制御されることにより、熱交換部16aや口金加熱部48に循環される。従って、水素充填時に水素貯蔵タンク16及びその口金部16bを適切に加熱することができ、急速に水素ガスが流出されることによる水素貯蔵タンク16及びその口金部16b(配管接続部)の温度低下を適切に防止することができる。
【0060】
当該通常充填時、温度センサ56、58、59での検出温度を監視し、例えば温度センサ56、58、59の1個又は複数の温度が所定値以上となった場合、すなわち、水素貯蔵タンク16の加熱が不要となった場合等には、加熱装置44を停止すると共に、三方弁41をバイパス管38側に切り換え第2熱交換器39で高温ガスを放熱させる。これにより、水素貯蔵タンク16が過剰に加熱されることや高温ガスが冷却不足となることを防止できる。なお、上記ステップS8での初期充填は、例えば数秒程度の短時間のみの充填であり、水素充填に伴う温度変化等は僅かであることから、加熱装置44の駆動を停止させておいてもよく、そうすると不要な電力消費等を抑制することができる。
【0061】
次に、ステップS17において、検出部80により流量センサ62の検出値を取得し、当該通常充填時の単位時間当たりの水素タンク20への水素流入量(水素充填流量)q(l/sec)を検出する。続いて、ステップS18において、演算部84により、前記検出した水素流入量qと、通常充填開始(ステップS16)後の水素タンク20への水素充填時間とに基づき、水素タンク20への水素流入量の積算値vtot(l)を算出する。
【0062】
ステップS19では、ステップS17で検出した水素流入量qと、例えば充填制御部86に予め設定されているか又は演算部84等で算出設定される流量ゼロ判定閾値εとに基づき、水素タンク20への水素流入量が略0(ゼロ)となり、水素タンク20内に許容圧力PSupまで水素が充填されたか否か、つまり、q>εであるか否かを判定部82で判定する(水素充填完了判断)。
【0063】
ここで、流量ゼロ判定閾値εについて説明する。通常、単位時間当たりの気体流入量qは、測定に使用する流量センサの精度に依存しており、厳密な気体流入量のゼロと流量センサにより示される流量ゼロとは必ずしも一致しない。さらに、流量センサにより示される流量ゼロを充填完了判断の閾値に設定した場合には、流量がゼロにならない限り水素充填が完了しなくなるため、充填時間の増加の一因になる。
【0064】
そこで、このような事象を回避するため、本実施形態では流量センサ62の温度ドリフト等を考慮した流量ゼロ判定閾値εとして、例えばステップS15で算出した水素タンク20の容量Vtankの1/70(数%程度)といった当該容量Vtankに対して十分小さい値であり、且つ流量センサ62の最小分解能よりも大きな値を用いるものとする。すなわち、流量ゼロ判定閾値εは、水素タンク20への水素流入量が実質的にゼロであると判断可能な閾値であり、この閾値ε以下の流量では水素充填が実質的に不可能又はほとんど進行しない程度の値として設定される。
【0065】
図5は、水素充填装置10により水素貯蔵タンク16から水素タンク20へと水素を充填した場合の充填体積と、水素貯蔵タンク16の口金部16bを含む配管接続部の温度の時間変化を例示したグラフである。図5に示す実施例では、例えば、水素タンク20の容量を0.18(m3)、これに対する流量ゼロ判定閾値εを0.16(m3)に設定し、加熱装置44による加熱の有無毎に、水素充填体積(m3)と配管接続部温度(℃)の時間変化を図示している。
【0066】
図5に示すように、グラフA、Bに示す加熱ありの場合、及びグラフC、Dに示す加熱なしの場合のいずれについても、水素タンク20の真の容量0.18(m3)に達するまでの時間よりも、流量ゼロ判定閾値εを設定した容量0.16(m3)に達するまでの時間の方が短く、加熱ありの場合には約0.4分短縮でき(2.8分→2.4分)、加熱なしの場合には約4.7分短縮することができた(10分→5.3分)。つまり、流量ゼロ判定閾値εを設定して水素流入量のゼロ判定を実施することにより(ステップS19)、より短時間で水素タンク20を実質的な満充填状態にすることができる。さらに、水素充填時、加熱装置44を適宜駆動制御することにより、図5に示す実施例の場合、加熱なしでは5.3分で充填完了となるのに対し、加熱ありでは2.4分で充填完了となり、充填に要する時間を大幅に短縮することができた。
【0067】
図4のフローチャートに戻り、ステップS19において、水素流入量qが流量ゼロ判定閾値ε未満となった場合には(ステップS19のNO)、それ以上の水素タンク20への水素充填が不可(不要)であり、水素タンク20への水素充填が完了したものと判断し、次にステップS7を実行し、当該水素充填作業を終了する。一方、水素流入量qが流量ゼロ判定閾値εより大きい場合には(ステップS19のYES)、次にステップS20を実行する。
【0068】
ステップS20では、vtot/Vtank×100(%)を演算部84で演算し、その結果を現在の水素充填率(%)として表示部42の領域R4(図3参照)に表示し、さらに、(Vtank−vtot)/q(分)を演算部84で演算し、その結果を充填所要残時間として表示部42の領域R5に表示する。同時に、現在の水素量(充填体積Nm3、充填圧力MPa)を領域R6に表示する。なお、充填体積(Nm3)は、標準温度(例えば25℃)での圧力を示す。
【0069】
ステップS20の後は再びステップS16に戻り、通常充填を継続すると共に、そのときの水素充填率や充填所要残時間等を表示部42に随時表示することにより、作業者に水素充填完了までの各種情報を適切に通知することができる。
【0070】
以上のように、本実施形態に係る水素充填装置10によれば、例えば、燃料電池車両18に搭載された水素タンク20への水素充填の開始後、該水素充填(初期充填)を所定時間停止して水素タンク20内の温度T1及び圧力P1を検出し、該温度及び圧力の検出値に基づき水素タンク20への所定量(タンク容量Vtank)の水素充填に必要な充填所要残時間を演算部84で算出し、該充填所要残時間を表示部42に表示する。すなわち、充填を一時停止し、そのときに検出した温度及び圧力に基づき水素タンク20への充填所要残時間を算出することにより、水素タンク20への所定量の水素充填に必要な時間を充填停止時の温度及び圧力に応じて算出することができ、より正確な残時間を算出することができる。しかもその算出結果を表示部42に表示することで、充填に必要な残時間やそのときの水素充填状態等を表示部42においてリアルタイムで可視化することができ、装置の利便性が一層向上する。
【0071】
この際、水素タンク20への水素充填開始前の初期圧力P0ini及び初期温度T0iniを検出しておき、その検出値と充填一時停止時での検出値とに基づき、水素タンク20の容量Vtankを算出し、このタンク容量と水素流入量q(積算値vtot)とに基づき充填所要残時間を算出することが好ましい。すなわち、充填停止中に検出した温度及び圧力に基づき算出したタンク容量を用いて充填所要残時間を算出する。これにより、実際のタンク容量に適した充填所要残時間をより精度よく算出することができる。さらに、例えば車両毎に容量や残量の異なる水素タンク20に対しても、迅速且つ正確に充填所要残時間を算出することができるため、利便性や汎用性が一層向上する。
【0072】
水素充填装置10では、水素充填を初期充填ステージと通常充填ステージとに分けて実施する。これにより、両ステージ間の充填停止中に水素タンク20内の温度や圧力の測定と共に、水素充填回路のリーク(水素漏れ)チェック等も行うことができ、利便性が一層向上する。しかも各ステージで要求される充填条件等が異なる場合には、その条件に応じて加熱装置44の駆動の有無等を最適に制御することができるため、装置全体としての運転コストを低下し、省エネルギーでの水素充填が可能となる。
【0073】
さらに、水素貯蔵タンク16を加熱する加熱装置44を設けることにより、水素充填時に水素貯蔵タンク16及びその口金部16b(配管接続部)の温度低下を適切に防止して、充填時間を大幅に短縮することが可能となる。加熱装置44を設けると、水素ガスをより高い圧力で水素貯蔵タンク16から放出させることができ、より短時間での充填が可能となるからである。従って、上記した充填残時間表示と合わせて用いることにより、充填時の作業者等の利便性が一層向上する。しかも、口金加熱部48によって水素配管の接続部での凍結や過度の温度低下が緩和されることから、当該接続部に配されたシール部材等を保護することができ、逆に言えばシール部材等の低温に対する材料強度をある程度緩和することができ、一層の低コスト化や製造効率の向上が図られるという利点もある。
【0074】
以上、上記実施形態により本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることは当然可能である。
【0075】
例えば、上記各実施形態では、水素タンクが搭載される車両として燃料電池車両を例示したが、燃料電池車両に限られるものではなく、当然、水素タンクは車載用以外であってもよい。
【0076】
また、ボルテックスチューブは省略可能であり、この場合、加熱装置には電気ヒータ等を用いてもよい。
【符号の説明】
【0077】
10…水素充填装置 12…水素充填システム
16…水素貯蔵タンク 18…燃料電池車両
20…水素タンク 40…制御装置
42…表示部 44…加熱装置
56、58、59、60…温度センサ 62…流量センサ
64…圧力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素タンクに水素を充填するための水素充填装置であって、
前記水素タンクへの水素充填の開始後、該水素充填を所定時間停止して前記水素タンク内の温度及び圧力を検出し、該温度及び圧力の検出値に基づき前記水素タンクへの所定量の水素充填に必要な充填所要残時間を算出し、該充填所要残時間を表示部に表示することを特徴とする水素充填装置。
【請求項2】
請求項1記載の水素充填装置において、
前記水素充填は、前記所定時間停止する前の初期充填ステージと、前記所定時間停止して前記温度及び圧力を検出した後に水素充填を再開する通常充填ステージとを有することを特徴とする水素充填装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の水素充填装置において、
前記水素タンクに充填するための水素を貯蔵する水素貯蔵タンクが所定温度以下となった場合に、該水素貯蔵タンクを加熱する加熱装置を備えたことを特徴とする水素充填装置。
【請求項4】
請求項1又は2記載の水素充填装置において、
前記水素タンクへの水素充填の開始前に該水素タンクの充填前圧力を検出しておき、
該充填前圧力及び前記検出値に基づき前記水素タンクの水素漏れを検知し、前記表示部に表示することを特徴とする水素充填装置。
【請求項5】
請求項1又は2記載の水素充填装置において、
前記水素タンクへの水素充填の開始前に該水素タンクの充填前温度及び充填前圧力を検出しておき、
該充填前温度及び充填前圧力と前記検出値とに基づき前記水素タンクの容量を算出し、該算出した容量と水素充填流量とに基づき前記充填所要残時間を算出することを特徴とする水素充填装置。
【請求項6】
水素タンクに水素を充填するための水素充填方法であって、
前記水素タンクへの水素充填の開始後、該水素充填を所定時間停止して前記水素タンク内の温度及び圧力を検出してから水素充填を再開し、該再開後に前記温度及び圧力の検出値に基づき前記水素タンクへの所定量の水素充填に必要な充填所要残時間を算出することを特徴とする水素充填方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−286015(P2010−286015A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138623(P2009−138623)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】