説明

波長変換素子、波長変換光学系、波長変換方法、光源装置、露光装置、マスク検査装置及び高分子結晶の加工装置

【課題】長時間にわたって使用可能な波長変換素子を提供する。
【解決手段】非線形光学結晶により入射レーザ光の波長変換を行う波長変換素子であって、 前記非線形光学結晶は、前記入射レーザ光の光軸方向に沿って直列に配置された入射側結晶と出射側結晶との2つの部分からなり、前記入射側結晶と前記出射側結晶とは、光軸方向に所定の間隔Lを維持しつつ、相対位置を変化可能に構成され、前記所定の間隔Lは、前記出射側結晶の入射面において、前記入射側結晶を透過した入射レーザ光の位相と前記入射側結晶によって波長変換された光の位相の差が0又はπであるように設定されていることを特徴とする波長変換素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換素子及び光学系、さらにはこれらの波長変換素子及び光学系を有する光源装置、露光装置、マスク検査装置、高分子結晶の加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光は近年において種々の用途に用いられており、例えば、金属の切断や加工を行ったり、半導体製造装置におけるフォトリソグラフィ装置の光源として用いられたり、各種測定装置に用いられたり、外科、眼科、歯科等の手術及び治療装置に用いられたりしている。
【0003】
特に最近において、レーザ光を角膜に照射して角膜表面のアブレーション(PRK)あるいは切開した角膜内部のアブレーション(LASIK)を行い、角膜の曲率及び凹凸を矯正して近視、遠視、乱視の治療を行うことが注目されており、一部実用化されつつある。このような角膜治療装置としては、ArFエキシマレーザ光(波長193nm)を角膜に照射して、角膜表面のアブレーション(削り取り)を行うものが知られている。
【0004】
ところが、ArFエキシマレーザ発振装置は、チャンバー内にアルゴンガス、フッ素ガス、ネオンガス等を封入して構成されるものであり、これらガスを密封する必要がある。さらに、各ガスの充填、回収を行う必要もあり、装置が大型化且つ複雑化しやすいという問題がある。また、ArFエキシマレーザ発振装置は所定のレーザ光発生性能を保持するために、定期的に内部ガスの交換を行ったり、オーバーホールを行ったりする必要があるという問題もある。
【0005】
よって、レーザ光源としてはこのような気体レーザでなく、固体レーザを用いることが好ましい。ところが、固体レーザから放出されるレーザ光の波長は、通常、上記波長に比べて長波長であり、例えば角膜治療装置に使用するには向いていない。そこで、このような固体レーザから放出される長波長の光を、非線形光学素子を用いることにより短波長の紫外光に変換して用いる方法が開発され、例えば特開2001−353176号公報(特許文献1)に記載されている。このような目的に用いられる非線形光学素子としては、LBO素子、SBBO素子等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−353176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特に高周波(短波長)の波長変換に使用され紫外領域の光を受けることが多い波長変換素子は、長時間使用するとダメージを受けて変換効率が低下するという問題点がある。
【0008】
本発明はこのような事象に鑑みてなされたものであり、長時間にわたって使用可能な波長変換素子及び波長変換光学系、それらを使用した光源装置、さらには、この光源装置を利用した露光装置、マスク検査装置、高分子結晶の加工装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を達成するための第1の態様は、非線形光学結晶により入射レーザ光の波長変換を行う波長変換素子であって、前記非線形光学結晶は、前記入射レーザ光の光軸方向に沿って直列に配置された入射側結晶と出射側結晶との2つの部分からなり、前記入射側結晶と前記出射側結晶とは、光軸方向に所定の間隔Lを維持しつつ相対位置を変化可能に構成され、前記所定の間隔Lは、前記出射側結晶の入射面において、前記入射側結晶を透過した入射レーザ光の位相と前記入射側結晶によって波長変換された光の位相の差が0又はπであるように設定されていることを特徴とする波長変換素子である。
【0010】
前記課題を達成するための第2の態様は、第1の入射レーザ光と第2の入射レーザ光との和周波発生により波長変換を行う第1の態様に記載の波長変換素子であって、前記入射側結晶と出射側結晶の間の光路における、前記入射側結晶を透過した第1の入射レーザ光の波数k1と、前記入射側結晶を透過した第2の入射レーザ光の波数k2と、前記入射側結晶によって波長変換された光の波数k3とが、整数をnとして、(1)式又は(2)式を満たすことを特徴とする波長変換素子である。
【0011】
Δk・L=(k3−k1−k2)・L=2πn (1)
Δk・L=(k3−k1−k2)・L=(2n−1)π (2)
前記課題を達成するための第3の態様は、入射レーザ光の第二高調波発生により波長変換を行う第1の態様に記載の波長変換素子であって、前記入射側結晶と出射側結晶の間の光路における、 前記入射側結晶を透過した入射レーザ光の波数k1と、前記入射側結晶によって波長変換された光の波数k3とが、整数をnとして、(3)式又は(4)式を満たすことを特徴とする波長変換素子である。
【0012】
Δk・L=(k3−2k1)・L=2πn (3)
Δk・L=(k3−2k1)・L=(2n−1)π (4)
前記課題を達成するための第4の態様は、第1の入射レーザ光と第2の入射レーザ光との差周波発生により波長変換を行う第1の態様に記載の波長変換素子であって、前記入射側結晶と出射側結晶の間の光路における、前記入射側結晶を透過した第1の入射レーザ光の波数k1と、前記入射側結晶を透過した第2の入射レーザ光の波数k2と、前記入射側結晶によって波長変換された光の波数k3とが、整数をnとして、(5)式又は(6)式を満たすことを特徴とする波長変換素子である。
【0013】
Δk・L=(k3−k1+k2)・L=2πn (5)
Δk・L=(k3−k1+k2)・L=(2n−1)π (6)
前記課題を達成するための第5の態様は、第1〜4の態様のいずれか1つに記載の波長変換素子において、前記出射側結晶の入射面の面積は、前記入射側結晶の出射面の面積よりも大きいことを特徴とする波長変換素子である。
【0014】
前記課題を達成するための第6の態様は、第1〜5の態様のいずれか1つに記載の波長変換素子において、出射側の非線形光学結晶は、光軸と垂直な平面上を移動可能に構成されていることを特徴とする波長変換素子である。
【0015】
前記課題を達成するための第7の態様は、第1〜6の態様のいずれか1つに記載の波長変換素子を含む波長変換光学系である。
【0016】
前記課題を達成するための第8の態様は、前記入射レーザ光を発生するレーザ光源と第7の態様に記載の波長変換光学系とを有する光源装置である。
【0017】
前記課題を達成するための第9の態様は、第8の態様に記載の光源装置と、所定の露光パターンが設けられたフォトマスクを保持するマスク支持部と、露光対象物を保持する対象物保持部と、前記光源装置から出射される紫外光を前記マスク支持部に保持されたフォトマスクに照射させる照明光学系と、前記照明光学系を介して前記フォトマスクに照射されてここを通過した照射光を前記対象物保持部に保持された露光対象物に照射させる投影光学系とを備えて構成されることを特徴とする露光装置である。
【0018】
前記課題を達成するための第10の態様は、第8の態様に記載の光源装置と、所定のパターンが設けられたフォトマスクを保持するマスク支持部と、前記パターンの投影像を検出する検出器と、前記光源装置から出射される紫外光を前記マスク支持部に保持されたフォトマスクに照射させる照明光学系と、前記照明光学系を介して前記フォトマスクに照射されて、通過した照明光を前記検出器に投影させる投影光学系とを有することを特徴とするマスク欠陥検査装置である。
【0019】
前記課題を達成するための第11の態様は、高分子結晶を加工する高分子結晶の加工装置であって、第8の態様に記載の光源装置と、当該光源装置から放出されるレーザ光を、被加工物である高分子結晶に導き、当該高分子結晶の被加工物場所に集光させる光学系と、前記光学系と前記高分子結晶の相対位置を変化させる機構を有することを特徴とする高分子結晶の加工装置である。
【0020】
前記課題を達成するための第12の態様は、前記レーザ光が集光される位置を、前記高分子結晶と同時に観測する観測装置、又は測定する測定装置を有することを特徴とする第11の態様に記載の高分子結晶の加工装置である。
【0021】
前記課題を達成するための第13の態様は、前記観測装置、又は測定装置が可視光を用いた光学的観測装置又は光学的測定装置であり、これら観測装置、測定装置は、前記光学系と機械的に固定された関係にあり、前記観測装置、測定装置の基準点と、前記レーザ光が集光される位置が一致しており、前記観測装置、測定装置の基準点位置を観測又は測定することにより、間接的に、前記レーザ光が集光される位置を観測又は測定する機能を有することを特徴とする第12の態様に記載の高分子結晶の加工装置である。
【0022】
前記課題を達成するための第14の態様は、第1〜6の態様のいずれか1項に記載の波長変換素子によって入射レーザ光の波長を変換する方法であって、前記入射レーザ光を前記波長変換素子へ入射する工程と、出射光の出力を検出する工程と、検出された出射光の出力が所定の値以下になると、前記出射側結晶の未使用部分を使用するように、前記出射側結晶の入射側結晶に対する相対位置を変化させる工程とを有することを特徴とする波長変換方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の波長変換素子は、入射レーザ光に対して直列に配置された入射側結晶と出射側結晶の2つの部分からなり、入射側結晶に対する出射側結晶の相対位置が変化可能に構成されている。このため、出射側結晶が光によるダメージを受けた場合、光軸に対する波長変換素子全体の配置を固定したまま出射側結晶の位置のみを変化させることが可能になり、出射側結晶におけるビームスポットを出射側結晶の未使用部分に移動させることで、出射側結晶のダメージによる波長変換効率の低下や出射光強度の低下を容易に回復させることができる。また、波長変換素子の寿命が従来よりも長くなるといった効果も有する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
波長変換素子によって波長変換された光の強度は、光軸方向の波長変換素子の長さの二乗に比例して増大する。そのため、波長変換後の光によって引き起こされる波長変換素子のダメージは、光の出射側に集中して発生する。本発明者は、この事象に注目し、2つの部分から構成される非線形光学結晶を用い、それぞれを光によるダメージが集中する部分と集中しない部分とに配置し、ダメージが集中する部分に配置した非線形光学結晶がダメージを受けた際に、非線形光学結晶の相対位置を変化させ、未使用部分を使用することによって波長変換素子の長寿命化を実現した。
<第1の実施形態>
以下、本発明の実施の形態の例を、図面を用いて説明する。図1は本発明の第1の実施形態である波長変換素子の概略図である。本実施形態において波長変換素子210を構成する非線形光学結晶は、入射レーザ光21の光軸方向に沿って直列に配置された入射側結晶11と出射側結晶12との2つの部分からなる。出射側結晶12の入射面14の面積は入射側結晶11の出射面13の面積よりも大きくなるように設定されており、出射側結晶12は図示しない移動手段により、入射側結晶11に対して間隔Lを維持したまま相対位置が変化可能に構成されている。
【0025】
前述のとおり波長変換素子のダメージは出射側に集中して発生し易いが、本実施形態の波長変換素子は出射側結晶12の位置を光軸に対して独立に変化させ得るので、出射側結晶12にダメージが生じた際に、波長変換素子全体の配置を光軸に対して固定したまま、ダメージを生じた結晶部位を光路から外し、未使用の結晶部分を光路上に移動させることができる。このため出射側に生じたダメージのために波長変換素子全体を交換する必要が無くなり、従来の波長変換素子と比べてランニングコストを低減することができる。
【0026】
次に、本実施形態における入射側結晶11と出射側結晶12の間隔Lについて説明する。入射レーザ光21が入射側結晶11に入射すると、光22が入射側結晶11から出射する。このとき、光22には、入射レーザ光21のうち入射側結晶11で波長変換されずにそのまま透過した光と、入射側結晶11によって波長変換された光とが含まれている。そして、光22は出射側結晶12に入射し、出射側結晶12から光23が出射する。光23には、入射側結晶11及び出射側結晶12のいずれにおいても波長変換されなかった光と、入射側結晶11で波長変換された光と、出射側結晶12で波長変換された光が含まれている。
【0027】
ここで、出射側結晶12に入射する光22に着目する。非線形光学結晶を利用する波長変換素子では位相整合が行われているのが普通であるから、本実施形態の入射側結晶11においても通常の技術により位相整合が施されているとすれば、少なくとも入射側結晶11の出射面13において、光22に含まれる光の位相は整合されている。しかしながら本実施形態の非線形光学結晶は入射側結晶11と出射側結晶12の二つの部分からなり、かつ両者の相対位置が変化可能に構成されているため、入射側結晶11の出射面13と出射側結晶12の入射面14の間に必然的に空隙を有しており、入射側結晶11から射出した光22は空隙中を進行する。この際、空隙が例えば窒素で満たされている場合には、光22に含まれる波長が異なる複数の光は、それぞれの波長における窒素の屈折率に応じて異なる位相速度で進行するため、再び出射側結晶12に入射するまでの間に位相差を生じることになる。そして出射側結晶12の入射面14において、入射側結晶11を透過した入射レーザ光21の位相と、入射側結晶11によって波長変換された光の位相とが一致していないと、出射側結晶12において通常の技術により位相整合が施されているとしても、出射側結晶11によって波長変換された光の位相と、出射側結晶12によって波長変換された光の位相とに不整合を生じ、波長変換の効率が低下する。よって、波長変換効率の向上のためには、出射側結晶12の入射面14において、入射側結晶11を透過した入射レーザ光21の位相と、入射側結晶11によって波長変換された光の位相とが一致している必要がある。入射側結晶11と出射側結晶12の間において、入射側結晶11を透過した入射レーザ光21の位相と波長変換された光の位相は、ある間隔で周期的に一致している。そこで、本実施形態の波長変換素子において、入射側結晶11と出射側結晶12の間隔Lは、入射側結晶11を透過した入射レーザ光21の位相と、入射側結晶11によって波長変換された光の位相とが一致する位置に出射側結晶12の入射面14が位置するように設定されている。
【0028】
以上の説明は出射側結晶12の有効非線形定数の符号が正である場合について述べたものである。出射側結晶12の有効非線形定数の符号が負である場合は、入射レーザ光21の位相と出射側結晶12によって波長変換された光の位相の差がπとなる。よって、波長変換効率の向上のためには、出射側結晶12の入射面14において、入射側結晶11を透過した入射レーザ光21の位相と、入射側結晶11によって波長変換された光の位相の差をπとすることが好ましい。そこで、出射側結晶12の有効非線形定数の符号が負である場合は、入射側結晶11と出射側結晶12の間隔Lを、入射側結晶11を透過した入射レーザ光21の位相と、入射側結晶11によって波長変換された光の位相の差がπである位置に出射側結晶12の入射面14が位置するように設定すれば良い。
【0029】
図2は、より具体的な本実施形態の構成例を示す概略図である。図2の波長変換素子211は全体がベース部材41上に構成されている。出射側結晶12は、ベース部材41上に取り付けられたステージ31に固定されており、ステージ31を駆動することによってY軸方向に所望の距離だけ自由に移動することができる。また、入射側結晶11は、光軸24の高さを調整するための支持部材42を介してベース部材41に固定されている。
【0030】
本実施形態の入射側結晶11及び出射側結晶12としては、波長変換機能を有する公知の非線形光学結晶を用いることができ、具体的には、KTP結晶、BBO結晶、CBO結晶、KDP結晶、LBO結晶、CLBO結晶、SBBO結晶、KBBF結晶等の非線形光学結晶を用いることができる。これらの非線形光学結晶のうちLBO結晶、CLBO結晶、BBO結晶、KBBF結晶等は波長200nm以下の紫外線発生に用いることができるので特に好ましい。
【0031】
これらの非線形光学結晶は、それぞれの結晶内において、入射光と波長変換後の光の位相が整合するように、位相整合が施されていることが好ましい。位相整合の方法としては、複屈折を利用した方法や擬似位相整合等の方法を特に制限なく用いることができる。入射側結晶11と出射側結晶12とは同じ波長変換特性を備えていても良い。
【0032】
本実施形態の出射側結晶12の入射面14の面積は入射側結晶11の出射面13の面積に比べて大きくなるように設定することが好ましい。これは、間隔Lを維持したまま入射側結晶11と出射側結晶12を相対移動させた際、出射側結晶12の使用可能な面積が大きくなるからである。出射側結晶12が波長変換された光によってダメージを受けた場合は、入射側結晶11と出射側結晶12とを相対移動させて、出射側結晶12への光22の入射位置を変え、出射側結晶12のダメージを受けていない部分を使用することにより、波長変換素子の寿命が長くなるという効果を奏する。波長変換された光のエネルギーは結晶の光軸方向の長さの2乗に比例して増大するので、例えば、入射側結晶11と出射側結晶12の光軸方向の長さの比が1:1である場合、出射面13と出射側結晶12の出射端における波長変換された光のエネルギーの比は1:4となる。結晶のダメージが波長変換された光のエネルギーに比例する場合、出射側結晶12の出射端は入射側結晶11の出射端に対して4倍のダメージを受ける。この際、入射面14の面積を出射面13の面積の4倍にしておけば、出射側結晶12がダメージを受けても、出射側結晶12への光22の入射位置を変えることによって、少なくとも4回波長変換効率を回復させることができ、入射側結晶11と出射側結晶12の寿命は同じになる。したがって入射面14と出射面13の面積比は少なくとも4倍程度あることが好ましい。
【0033】
なお、図2の構成例では、光軸24をX方向とした場合に、ステージ31がY方向に一次元駆動されるものとしたが、これをY方向及びZ方向の二次元駆動されるものとしても良い。この場合は出射側結晶12上のビームスポットを二次元的に移動させることが可能になり、出射側結晶12の使用可能な面積が増大することにより、波長変換素子211の寿命をより延長することが可能である。
【0034】
次に、和周波発生、第二高調波発生及び差周波発生の各場合について、本実施形態の波長変換素子の構成例を説明する。
○和周波発生
和周波発生により波長変換を行う波長変換素子の基本構成は、図1に示したとおりである。和周波発生では、第1の入射レーザ光と、これとは波長の異なる第2の入射レーザ光とを入射側結晶11に入射させる。すると、入射側結晶11を透過した第1の入射レーザ光と、入射側結晶11を透過した第2の入射レーザ光と、入射側結晶11によって波長変換された光とを含んだ光22が入射側結晶11から出射する。そして、入射側結晶11から出射した光22は出射側結晶に入射し、出射側結晶から、第1の入射レーザ光と、第2の入射レーザ光と、波長変換された光とを含んだ光23が出射する。
【0035】
和周波発生においては、入射側結晶11と出射側結晶12との間隔Lと、入射側結晶11を透過した第1の入射レーザ光の波数k1と、入射側結晶11を透過した第2の入射レーザ光の波数k2と、入射側結晶11によって波長変換された光の波数k3とが、整数をnとして、(1)式を満たすように設定することにより、入射側結晶11の出射面13における光22の位相と、出射側結晶12の入射面14における光22の位相とは同じになる。
【0036】
Δk・L=(k3−k1−k2)・L=2πn (1)
このため、入射側結晶11を透過した第1の入射レーザ光の位相と、入射側結晶11を透過した第2の入射レーザ光の位相と、入射側結晶11によって波長変換された光の位相とが入射側結晶11の出射面13において一致していれば、(1)式を満たすように間隔Lを維持する限り、出射側結晶12の入射側結晶11に対する相対位置を変化させても、出射側結晶12の入射面14において、入射側結晶11を透過した第1の入射レーザ光の位相と、入射側結晶11を透過した第2の入射レーザ光の位相と、入射側結晶11によって波長変換された光の位相とが一致する。
【0037】
具体的には、例えば非線形光学結晶にCLBO結晶を用い、基本波である第1の入射レーザ光(波長:1547nm)と、7倍波の第2の入射レーザ光(波長:221nm)から和周波発生により8倍波の光(波長:193nm)を生成する場合は、(1)式より、
【0038】
【数1】

【0039】
となる。
ここで、
1:入射側結晶11を透過した第1の入射レーザ光の波長における窒素の屈折率
ω1:入射側結晶11を透過した第1の入射レーザ光の周波数
λ1:入射側結晶11を透過した第1の入射レーザ光の波長
2:入射側結晶11を透過した第2の入射レーザ光の波長における窒素の屈折率
ω2:入射側結晶11を透過した第2の入射レーザ光の周波数
3:入射側結晶11によって波長変換された光の波長における窒素の屈折率
ω3:入射側結晶11によって波長変換された光の周波数
である。
【0040】
6.1861[rad/cm]・L[cm]の値が2πの整数倍になる距離、すなわち1.02cmの整数倍の距離ごとに、入射側結晶11を透過した第1の入射レーザ光の位相と、入射側結晶11を透過した第2の入射レーザ光の位相と、入射側結晶11によって波長変換された光の位相とが一致する。したがって、入射側結晶11の出射面13において、入射側結晶11を透過した第1の入射レーザ光の位相と、入射側結晶11を透過した第2の入射レーザ光の位相と、入射側結晶11によって波長変換された光の位相とが一致している場合には、入射側結晶11と出射側結晶12との間隔Lを1.02cmの整数倍に設定すれば、出射側結晶12の入射面14において、入射側結晶11を透過した入射レーザ光の位相と、入射側結晶11を透過した第2の入射レーザ光の位相と、入射側結晶11によって波長変換された光の位相とが一致する。
【0041】
また、上記の構成例では入射側結晶11と出射側結晶12の有効非線形定数が同符号である場合について説明したが、入射側結晶11と出射側結晶12の有効非線形定数が異符号である場合は(2)式を満たすように入射側結晶11と出射側結晶12の間隔を設定すればよい。
【0042】
Δk・L=(k3−k1−k2)・L=(2n−1)π (2)
つまり、6.1861[rad/cm]・L[cm]の値がπの奇数倍になる距離、すなわち0.51cmの奇数倍の間隔で入射側結晶11と出射側結晶12を配置すればよい。
【0043】
なお、上記の計算はΔk・Lが厳密に2πn又は(2n−1)πとなる条件を求めたも
のであるが、構成部材の製造精度などによって生じる誤差を考慮すると、現実に本発明の効果を得るためには少なくともΔk・Lを2πn±0.25π又は(2n−1)π±0.
25πの範囲とすることが好ましい。
○第二高調波発生
第二高調波発生により波長変換を行う波長変換素子の基本構成も、図1に示したとおりであり、入射レーザ光が入射側結晶11に入射する。すると、入射側結晶11を透過した入射レーザ光と、入射側結晶11によって波長変換された光とを含んだ光22が入射側結晶11から出射する。そして、入射側結晶11から出射した光22は出射側結晶に入射し、出射側結晶から、入射レーザ光と、波長変換された光とを含んだ光23が出射する。
【0044】
入射側結晶11と出射側結晶12との間隔Lと、入射側結晶11を透過した入射レーザ光の波数k1と、入射側結晶11によって波長変換された光の波数k3とが、整数をnとして、(3)式を満たすように設定することにより、入射側結晶11の出射面13における光22の位相と、出射側結晶12の入射面14における光22の位相とは同じになる。
【0045】
Δk・L=(k3−2k1)・L=2πn (3)
このため入射側結晶11を透過した入射レーザ光の位相と、入射側結晶11によって波長変換された光の位相とが入射側結晶11の出射面13において一致していれば、(3)式を満たすように間隔Lを維持する限り、出射側結晶12の入射側結晶11に対する相対位置を変化させても、出射側結晶12の入射面14において、入射側結晶11を透過したレーザ光の位相と、入射側結晶11によって波長変換された光の位相とが一致する。
【0046】
具体的には、例えば非線形光学結晶にKBBFを用い、波長386nmの入射光から2倍波(波長:193nm)を生成すると、(3)式より、
【0047】
【数2】

【0048】
となる。
ここで、
1:入射側結晶11を透過した入射レーザ光の波長における窒素の屈折率
ω1:入射側結晶11を透過した入射レーザ光の周波数
λ1:入射側結晶11を透過した入射レーザ光の波長
3:入射側結晶11によって波長変換された光の波長における窒素の屈折率
ω3:入射側結晶11によって波長変換された光の周波数
である。
【0049】
13.2793[rad/cm]・L[cm]の値が2πの整数倍になる距離、すなわち0.47cmの整数倍の距離ごとに、入射側結晶11を透過した入射レーザ光の位相と、入射側結晶11によって波長変換された光の位相とが一致する。したがって、入射側結晶11の出射面13において、入射側結晶11を透過した入射レーザ光の位相と、入射側結晶11によって波長変換された光の位相とが一致している場合には、入射側結晶11と出射側結晶12との間隔Lを0.47cmの整数倍に設定すれば、出射側結晶12の入射面14において、入射側結晶11を透過した入射レーザ光の位相と、入射側結晶11によって波長変換された光の位相とが一致する。
【0050】
また、上記の構成例では入射側結晶11と出射側結晶12の有効非線形定数が同符号である場合について説明したが、入射側結晶11と出射側結晶12の有効非線形定数が異符号である場合は(4)式を満たすように入射側結晶11と出射側結晶12の間隔を設定すればよい。
【0051】
Δk・L=(k3−2k1)・L=(2n−1)π (4)
つまり、13.2793[rad/cm]・L[cm]の値がπの奇数倍になる距離、すなわち0.24cmの奇数倍の間隔で入射側結晶11と出射側結晶12を配置すればよい。
【0052】
なお、上記の計算はΔk・Lが厳密に2πn又は(2n−1)πとなる条件を求めたも
のであるが、構成部材の製造精度などによって生じる誤差を考慮すると、現実に本発明の効果を得るためには少なくともΔk・Lを2πn±0.25π又は(2n−1)π±0.
25πの範囲とすることが好ましい。
【0053】
以上説明した本実施形態の波長変換素子によれば、出射側結晶12の入射面14において、入射レーザ光と波長変換された光の位相が一致するように間隔Lが設定されているので、入射側結晶と出射側結晶の2つの部分からなる非線形光学結晶を備えた波長変換素子においても、出射側結晶から出射する波長変換された光の出力を最大とすることが可能になる。また、出射側結晶12が波長変換された光によってダメージを受けた場合は、入射側結晶11と出射側結晶12とを相対移動させて、出射側結晶12への光22の入射位置を変え、出射側結晶12のダメージを受けていない部分を使用することにより、波長変換素子の長寿命化が可能である。
○差周波発生
差周波発生により波長変換を行う波長変換素子の基本構成も、図1に示したとおりであり、入射レーザ光が入射側結晶11に入射する。すると、入射側結晶11を透過した入射レーザ光と、入射側結晶11によって波長変換された光とを含んだ光22が入射側結晶11から出射する。そして、入射側結晶11から出射した光22は出射側結晶に入射し、出射側結晶から、入射レーザ光と、波長変換された光とを含んだ光23が出射する。
【0054】
入射側結晶11と出射側結晶12との間隔Lと、入射側結晶11を透過した入射レーザ光の波数k1と、入射側結晶11によって波長変換された光の波数k3とが、整数をnとして、(5)式を満たすように設定することにより、入射側結晶11の出射面13における光22の位相と、出射側結晶12の入射面14における光22の位相とは同じになる。
【0055】
Δk・L=(k3−k1+k2)・L=2πn (5)
このため入射側結晶11を透過した入射レーザ光の位相と、入射側結晶11によって波長変換された光の位相とが入射側結晶11の出射面13において一致していれば、(5)式を満たすように間隔Lを維持する限り、出射側結晶12の入射側結晶11に対する相対位置を変化させても、出射側結晶12の入射面14において、入射側結晶11を透過したレーザ光の位相と、入射側結晶11によって波長変換された光の位相とが一致する。
【0056】
また、上記の構成例では入射側結晶11と出射側結晶12の有効非線形定数が同符号である場合について説明したが、入射側結晶11と出射側結晶12の有効非線形定数が異符号である場合は(6)式を満たすように入射側結晶11と出射側結晶12の間隔を設定すればよい。
【0057】
Δk・L=(k3−k1+k2)・L=(2n−1)π (6)
この構成は公知の差周波発生により波長変換を行う波長変換素子に用いることができ、出射側結晶12が波長変換された光によってダメージを受けた場合は、入射側結晶11と出射側結晶12とを相対移動させて、出射側結晶12への光22の入射位置を変え、出射側結晶12のダメージを受けていない部分を使用することにより、波長変換素子の長寿命化が可能である。
【0058】
本発明では入射レーザ光の種類を限定するものではなく、上述した条件を満足させている限り、レーザ光の波長やレーザ光源の種類を問わずに用いることができる。
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態は、第1の実施形態の波長変換素子と、出射光の出力を検出する検出装置と、出射側結晶の位置を制御する制御装置を備えた波長変換光学系に関するものである。図3に示す本実施形態の波長変換光学系は第1の実施形態の波長変換素子211と、ハーフミラー32と、検出装置としての光量モニタリング装置33と、制御装置34とを備えている。
【0059】
図3に示す波長変換光学系においては、入射レーザ光21が波長変換素子211によって波長変換される。そして、その出射光は、ハーフミラー32によりその一部が反射され、光量モニタリング装置33に導かれる。光量モニタリング装置33は、出射される光のパワーをモニタリングし、その出力を制御装置34に伝送する。制御装置34は、出射される光のパワーが予め設定された限界値まで下がるとステージ31に指令を出し、出射側結晶12の未使用部分を使用するようにステージ31の移動を制御する。
【0060】
光による波長変換素子のダメージは、光の出射側に集中して発生する。入射側結晶11と出射側結晶12はそれぞれ、光によるダメージが集中しない部分と集中する部分に配置されているので、ある程度の時間が経過すると出射側結晶12はダメージを受けて使用できなくなる。そのため、ステージ31を移動させ、出射側結晶12の未使用部分が使用可能に設定されている。
【0061】
以上説明したように、出射側結晶の未使用部分を使用することで波長変換素子の寿命が長くなる。また、出射側結晶の未使用部分がなくなった場合は、結晶を交換する必要があるが、光によるダメージが集中しない部分に配置された入射側結晶11は交換しなくても良く、ダメージが集中する部分に配置された出射側結晶12のみを交換すれば良いので、従来よりも結晶の交換領域が少ないといった効果もある。
<第3の実施形態>
本発明の第3の実施形態は、第1の実施形態の波長変換素子を含む波長変換光学系である。図4は本実施形態の波長変換光学系の一例を示す概略図である。図4に示した波長変換光学系は波長1547nmのレーザ光の波長変換を行う。図4において、楕円形で示されるのはコリメータレンズや集光レンズであり、その説明を省略する。また、P偏光を矢印で、S偏光を○中に点のある印で示し、基本波をω、n倍波をnωで示す。
【0062】
この実施の形態においては、図示しないDFBレーザから放出される基本波(波長1547nm)を、第1のEDFA増幅器1と第2のEDFA増幅器2で増幅しているが、一つのEDFA増幅器で増幅した光を、偏光ビームスプリッタによりP偏光とS偏光の2つに分けて使用することも可能である。
【0063】
第1の実施形態の波長変換素子は紫外光を発生して損傷を受けやすい波長変換素子に用いることが有効である。そこで図4の例においては、221nmと193nmの波長の光を発生する波長変換素子に第1の実施形態の波長変換素子を用いている。すなわち221nmの波長の光を発生する7倍波形成波長変換素子15と193nmの波長の光を発生する8倍波形成波長変換素子16に第1の実施の形態の波長変換素子を用いている。しかし、第1の実施形態の波長変換素子の使用はこれらに限られず、本実施形態における全ての結晶に使用することが可能である。また、これらの波長変換素子を、第2の実施形態に示した検出装置及び制御装置を備えた波長変換光学系に置き換えてもかまわない。
【0064】
図4(a)に示すように、第1のEDFA増幅器1で増幅されたP偏光の基本波は、第1の2倍波形成波長変換素子(PPLN結晶)3に入射し、第1の2倍波形成波長変換素子3からは、基本波と共にP偏光の2倍波が発生する。この基本波と2倍波を、3倍波形成波長変換素子(LBO結晶)4に入射させる。3倍波形成波長変換素子4からは、基本波と2倍波と共に、S偏光の3倍波が発生する。なお、2倍波形成波長変換素子3としては、PPLN結晶に限らず、BBO結晶、LBO結晶、CBO結晶、CLBO結晶、AANP結晶等を用いることもできる。
【0065】
これらの光を、2波長波長板5を通すことにより、2倍波だけをS偏光に変換する。2波長波長板として、例えば結晶の光学軸と平行にカットした一軸性の結晶の平板からなる波長板が用いられる。一方の波長の光(2倍波)に対しては、偏光を回転させ、他方の波長の光に対しては、偏光が回転しないように、波長板(結晶)の厚さを一方の波長の光に対しては、λ/2の整数倍で、他方の波長の光に対しては、λの整数倍になるようにカットする。そして、共にS偏光となった2倍波と3倍波を、5倍波形成波長変換素子(LBO結晶)6に入射させる。5倍波形成波長変換素子6からは、2倍波と3倍波と共にP偏光の5倍波が発生する。なお、P偏光の基本波はそのまま5倍波形成波長変換素子6を透過する。
【0066】
5倍波形成波長変換素子6から発生する5倍波は、ウォークオフのため、断面が楕円形の形状をしており、そのままでは集光性が悪くて、次の波長変換には使用できない。よって、シリンドリカルレンズ7、8により、この楕円形の断面形状を円形に整形する。なお、5倍波形成波長変換素子6としては、BBO結晶、CBO結晶を用いることもできる。
【0067】
一方、第2のEDFA増幅器2で増幅されたS偏光の基本波は、ミラーMを介して(ミラーMは必ずしも必要ない)第2の2倍波形成波長変換素子(LBO結晶)9に入射し、第2の2倍波形成波長変換素子9からは、基本波と共にP偏光の2倍波が発生する。なお、LBO結晶の代わりにooe変換のPPLN結晶を使用してもよい。この基本波と2倍波を、前述のP偏光の5倍波と、ダイクロイックミラー10により合成する。この例では、ダイクロイックミラー10は、基本波と2倍波を反射し、5倍波を透過できるようなものとなっている。この光の合成には、バルク型光学素子を用いることが可能であり、例えば、色分解・合成ミラー(ダイクロイックミラー)、反射型及び透過型回折光学素子を用いることが可能である。
【0068】
合成されたS偏光の基本波、P偏光の2倍波、P偏光の5倍波は、7倍波形成波長変換素子(CLBO結晶)15に入射し、7倍波形成波長変換素子15からは、これらの光と共に、S偏光の7倍波が発生する。これらの光は、8倍波形成波長変換素子(CLBO結晶)16に入射し、ここでS偏光の基本波とS偏光の7倍波が合成されてP偏光の8倍波が発生する。もし、8倍波のみを8倍波形成光学素子16から放出される他の波長の光から分離したい場合は、ダイクロイックミラーや偏光ビームスプリッタ、プリズムを使用することにより、これらを分離すればよい。
【0069】
また、図4(a)に示す光学系において、耐久性向上の観点からダイクロイックミラー10を図4(b)又は図4(c)に示すようなものに置き換えることが好ましい。図4(a)のダイクロイックミラー10は、5倍波を透過し、基本波及び2倍波を反射するが、図4(b)のダイクロイックプリズム(ダイクロイックミラーのキューブ型)17は、5倍波を反射し、基本波及び2倍波が透過する。また、図4(c)は、5倍波を反射し、基本波及び2倍波を透過するダイクロイックミラー18と、基本波及び2倍波の光路上に分散補償用平行平板19が配置されている。分散補償用平行平板19は、基本波及び2倍波がダイクロイックミラー18を透過することによりそれぞれ生じる光軸シフトを予め補正するためのものである。
【0070】
以上の波長変換光学系の構成例は、本発明の実施形態の一例を示すものであって、本発明の波長変換光学系は上記の構成に限定されるものではない。
【0071】
本実施形態の波長変換光学系は、波長変換素子として第1の実施形態の波長変換素子を用いているので、短波長の光によって波長変換素子の出射側結晶がダメージを受けた場合には、それぞれの出射側結晶の未使用部分を光軸上に再配置することが容易であり、波長変換素子自体を交換することなく変換効率を回復させることができる。また、出射側結晶を電動ステージ等に固定しておけば、出射側結晶の位置変更を外部から容易に行なうことができるので、非線形光学結晶のダメージによる停止時間を短縮することができるという効果を有する。
<第4の実施形態>
本発明の第4の実施形態は、第3の実施形態の波長変換光学系を備えた露光装置である。図5に示す露光装置100において、光源装置20はレーザ光源と第3の実施形態の波長変換光学系とから構成されている。光リソグラフィ工程で使用される露光装置は、原理的には写真製版と同じであり、フォトマスク(レチクル)上に精密に描かれたデバイスパターンを、フォトレジストを塗布した半導体ウエハやガラス基板などの上に光学的に投影して転写する。この露光装置100は、上述した光源装置20と、照明光学系102と、フォトマスク(レチクル)110を支持するマスク支持台103と、投影光学系104と、露光対象物たる半導体ウエハ115を載置保持する載置台105と、載置台105を水平移動させる駆動装置106とを備えて構成される。
【0072】
この露光装置100においては、上述したレーザ装置20から出力されるレーザ光が、複数のレンズから構成される照明光学系102に入力され、ここを通ってマスク支持台103に支持されたフォトマスク110の全面に照射される。このように照射されてフォトマスク110を透過した光は、フォトマスク110に描かれたデバイスパターンの像を有しており、この光が投影光学系104を介して載置台105に載置された半導体、ウエハ115の上に縮小されて結像露光される。
【0073】
本実施形態の露光装置は、第3の実施形態の波長変換光学系を光源装置に用いているので、短波長の光によって波長変換素子の出射側結晶がダメージを受けた場合には、それぞれの出射側結晶の未使用部分を光軸上に再配置することが容易であり、波長変換素子自体を交換することなく露光光の強度を回復させることができる。また、出射側結晶を電動ステージ等に固定しておけば、出射側結晶の位置変更を外部から容易に行なうことができるので、波長変換素子の劣化に起因するダウンタイムが短くなるといった効果がある。
<第5の実施形態>
本発明の第5の実施形態は、第3の実施形態の波長変換光学系を備えたマスク欠陥検査装置である。図6のマスク欠陥検査装置は、フォトマスク上に精密に描かれたデバイスパターンをTDIセンサ(Time Delay and Integration)上に光学的に投影し、センサ画像と所定の参照画像とを比較し、その差からパターンの欠陥を抽出する。マスク欠陥検査装置120は、第4の実施形態と同一の光源装置20と、照明光学系112と、フォトマスク110を支持するマスク支持台113と、マスク支持台を水平移動させる駆動装置116と、投影光学系114と、TDIセンサ125とを備えて構成される。このマスク欠陥検査装置120においては、上述した光源装置20から出力される光源が、複数のレンズから構成される照明光学系112に入力され、ここを通ってマスク支持台113に支持されたフォトマスク110を透過した光は、フォトマスク110に描かれたデバイスパターンの像を有しており、この光が投影光学系114を介してTDIセンサ125の所定の位置に結像される。なお、マスク支持台113の水平移動速度と、TDI125の転送クロックとは同期している。被検物はマスクに限られず、ウエハ、液晶パネル等の検査にも用いられる。
【0074】
本実施形態のマスク欠陥検査装置は、第3の実施形態の波長変換光学系を光源装置に用いているので、短波長の光によって波長変換素子の出射側結晶がダメージを受けた場合には、それぞれの出射側結晶の未使用部分を光軸上に再配置することが容易であり、波長変換素子自体を交換することなく照明光の強度を回復させることができる。また、出射側結晶を電動ステージ等に固定しておけば、出射側結晶の位置変更を外部から容易に行なうことができるので、波長変換素子の劣化に起因するダウンタイムが短くなるといった効果がある。
<第6の実施形態>
本発明の第6の実施形態は、第3の実施形態の波長変換光学系を備えた高分子結晶の加工装置である。
【0075】
図7は第4の実施形態と同一の光源装置20を用いて構成される高分子結晶の加工装置の概要図である。光源装置20から放出された紫外短パルスレーザ光139は、シャッタ132、強度調整素子133、照射位置制御機構134、集光光学系135を介して試料容器136中に入れられた高分子結晶138に集光照射される。試料容器136は、ステージ137に搭載され、光軸方向をz軸として、x−y−z直行座標系でx軸、y軸、z軸の3次元方向の移動が可能とされているとともに、z軸の周りに回転可能となっている。高分子結晶138の表面に集光照射されたレーザ光により、高分子結晶の加工が行われる。
【0076】
ところで、高分子結晶である被加工物を加工する場合、レーザ光が被加工物の何処に照射されているかを確認する必要がある。しかし、レーザ光は、通常可視光でないことが多く、目視することができないので、光学顕微鏡と組み合わせて使用することが好ましい。
【0077】
その例を図8に示す。紫外短パルスレーザシステム141(図7の符号20、132〜134に対応)からのレーザ光を、集光光学系135を介して所定の点に集光する。ステージ137は図7において説明したような機能を有しており、高分子結晶138の入った試料容器136がステージ137上に載置されている。照明光源142からの可視光は、反射光143で反射され、試料容器136をケーラー照明する。高分子結晶138は、光学顕微鏡の対物レンズ144、接眼レンズ145を介して眼146により目視される。
【0078】
光学顕微鏡の光軸位置には、十字状のマークが形成されており、光軸位置が目視できるようになっている。そして、光学顕微鏡の焦点位置(合焦位置、すなわち目視したときピントが合う物面)は固定とされている。集光光学系135により集光されたレーザ光は、光学顕微鏡の光軸位置で、かつ光学顕微鏡の焦点位置に集光されるようになっている。よって、ステージ137上に被加工物を載置し、光学顕微鏡でその像を観察した場合、ピントが合っており、かつ十字マークの中心にある位置に、レーザシステム141からのレーザ光が集光されるようになっている。なお、レーザシステム141、集光光学系135、及び光学顕微鏡部の相対位置関係は固定されており、ステージ137のみがこれらの固定系に対して相対的に移動可能とされている。
【0079】
よって、加工を行いたい場所が光学顕微鏡の光軸位置でかつ合焦位置となるようにステージ137を移動させながら加工を行うことにより、所望の場所の加工、及び所望の形状の加工を行うことができる。もし、自動的に加工を行わせたいのであれば、光学顕微鏡に自動焦点調整装置をつけてステージ137をその指令により駆動すると共に、ステージ137の予め定められた所定部分が光学顕微鏡の光軸になるように、ステージ137を駆動するようにすればよい。または、初めに基準となる位置を合わせた後、サーボ機構によりステージ137を2次元又は3次元に駆動するようにしてもよい。
【0080】
本実施形態の加工装置は、第3の実施形態の波長変換光学系を光源装置に用いているので、短波長の光によって波長変換素子の出射側結晶がダメージを受けた場合には、それぞれの出射側結晶の未使用部分を光軸上に再配置することが容易であり、波長変換素子自体を交換することなく照射光の強度を回復させることができる。また、出射側結晶を電動ステージ等に固定しておけば、出射側結晶の位置変更を外部から容易に行なうことができるので、波長変換素子の劣化に起因するダウンタイムが短くなるといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の実施の形態の例である波長変換素子の概略図である。
【図2】本発明の実施の形態の例である波長変換素子の斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態の例である波長変換素子、制御装置、検出装置からなる波長変換光学系を示す概略図である。
【図4】本発明の実施の形態の例である8倍波発生に用いる波長変換光学系を示す概略図である。
【図5】本発明の実施の形態の例である露光装置の概要を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態の例であるマスク検査装置の概要を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態の例である高分子結晶の加工装置の概要を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態の例である高分子結晶の加工装置を、光学顕微鏡と組み合わせた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
3 2倍波形成波長変換素子
4 3倍波形成波長変換素子
6 5倍波形成波長変換素子
9 2倍波形成波長変換素子
11 入射側結晶
12 出射側結晶
13 入射側結晶の出射面
14 出射側結晶の入射面
15 7倍波形成波長変換素子
16 8倍波形成波長変換素子
20 光源装置
21 入射レーザ光
22 入射側結晶からの出射光
23 出射側結晶からの出射光
31 ステージ
32 ハーフミラー
33 光量モニタリング装置
34 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非線形光学結晶により入射レーザ光の波長変換を行う波長変換素子であって、
前記非線形光学結晶は、前記入射レーザ光の光軸方向に沿って直列に配置された入射側結晶と出射側結晶との2つの部分からなり、
前記入射側結晶と前記出射側結晶とは、光軸方向に所定の間隔Lを維持しつつ、相対位置を変化可能に構成され、
前記所定の間隔Lは、前記出射側結晶の入射面において、前記入射側結晶を透過した入射レーザ光の位相と前記入射側結晶によって波長変換された光の位相の差が0又はπであるように設定されていることを特徴とする波長変換素子。
【請求項2】
第1の入射レーザ光と第2の入射レーザ光との和周波発生により波長変換を行う請求項1に記載の波長変換素子であって、
前記入射側結晶と出射側結晶の間の光路における、前記入射側結晶を透過した第1の入射レーザ光の波数k1と、前記入射側結晶を透過した第2の入射レーザ光の波数k2と、前記入射側結晶によって波長変換された光の波数k3とが、整数をnとして、(1)式又は(2)式を満たすことを特徴とする波長変換素子。
Δk・L=(k3−k1−k2)・L=2πn (1)
Δk・L=(k3−k1−k2)・L=(2n−1)π (2)
【請求項3】
入射レーザ光の第二高調波発生により波長変換を行う請求項1に記載の波長変換素子であって、
前記入射側結晶と出射側結晶の間の光路における、前記入射側結晶を透過した入射レーザ光の波数k1と、前記入射側結晶によって波長変換された光の波数k3とが、整数をnとして、(3)式又は(4)式を満たすことを特徴とする波長変換素子。
Δk・L=(k3−2k1)・L=2πn (3)
Δk・L=(k3−2k1)・L=(2n−1)π (4)
【請求項4】
第1の入射レーザ光と第2の入射レーザ光との差周波発生により波長変換を行う請求項1に記載の波長変換素子であって、
前記入射側結晶と出射側結晶の間の光路における、前記入射側結晶を透過した第1の入射レーザ光の波数k1と、前記入射側結晶を透過した第2の入射レーザ光の波数k2と、前記入射側結晶によって波長変換された光の波数k3とが、整数をnとして、(5)式又は(6)式を満たすことを特徴とする波長変換素子。
Δk・L=(k3−k1+k2)・L=2πn (5)
Δk・L=(k3−k1+k2)・L=(2n−1)π (6)
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の波長変換素子において、前記出射側結晶の入射面の面積は、前記入射側結晶の出射面の面積よりも大きいことを特徴とする波長変換素子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の波長変換素子において、
前記出射側結晶は、光軸と垂直な平面上を移動可能に構成されていることを特徴とする波長変換素子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の波長変換素子を含む波長変換光学系。
【請求項8】
前記入射レーザ光を発生するレーザ光源と請求項7に記載の波長変換光学系とを有する光源装置。
【請求項9】
請求項8に記載の光源装置と、
所定の露光パターンが設けられたフォトマスクを保持するマスク支持部と、
露光対象物を保持する対象物保持部と、
前記レーザ装置から出射される紫外光を前記マスク支持部に保持されたフォトマスクに照射させる照明光学系と、
前記照明光学系を介して前記フォトマスクに照射されてここを通過した照射光を前記対象物保持部に保持された露光対象物に照射させる投影光学系とを備えて構成されることを特徴とする露光装置。
【請求項10】
請求項8に記載の光源装置と、
所定のパターンが設けられたフォトマスクを保持するマスク支持部と、
前記パターンの投影像を検出する検出器と、
前記光源装置から出射される紫外光を前記マスク支持部に保持されたフォトマスクに照射させる照明光学系と、
前記照明光学系を介して前記フォトマスクに照射されて、
通過した照明光を前記検出器に投影させる投影光学系とを有することを特徴とするマスク欠陥検査装置。
【請求項11】
高分子結晶を加工する高分子結晶の加工装置であって、
請求項8に記載の光源装置と、当該光源装置から放出されるレーザ光を、被加工物である高分子結晶に導き、
当該高分子結晶の被加工物場所に集光させる光学系と、
前記光学系と前記高分子結晶の相対位置を変化させる機構を有することを特徴とする高分子結晶の加工装置。
【請求項12】
前記レーザ光が集光される位置を、前記高分子結晶と同時に観測する観測装置、又は測定する測定装置を有することを特徴とする請求項11に記載の高分子結晶の加工装置。
【請求項13】
前記観測装置、又は測定装置が可視光を用いた光学的観測装置又は光学的測定装置であり、これら観測装置、測定装置は、前記光学系と機械的に固定された関係にあり、
前記観測装置、測定装置の基準点と、前記レーザ光が集光される位置が一致しており、
前記観測装置、測定装置の基準点位置を観測又は測定することにより、
間接的に、前記レーザ光が集光される位置を観測又は測定する機能を有することを特徴とする請求項12に記載の高分子結晶の加工装置。
【請求項14】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の波長変換素子によって入射レーザ光の波長を変換する方法であって、
前記入射レーザ光を前記波長変換素子へ入射する工程と、
出射光の出力を検出する工程と、
検出された出射光の出力が所定の値以下になったとき、
前記出射側結晶の未使用部分を使用するように、前記出射側結晶の入射側結晶に対する相対位置を変化させる工程とを有することを特徴とする波長変換方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−99941(P2011−99941A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253600(P2009−253600)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】