説明

波長選択型赤外線センサ

【課題】 単一枚の半導体基板の表裏両面の有効活用により、製作コストの著しい低減化並びに薄型化、小型化を達成しつつ、検出性能の向上を実現することができるようにする。
【解決手段】 シリコン基板2の表裏面のうち一方の面に異種金属の接合によるサーモパイル7などを用いた赤外線センサ部3がダイヤフラム11上に支持させて形成されているとともに、他方の面に光学干渉多層からなる受光波長選択用光学フィルタ4が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば人体や配電盤、空調機器など各種物体の表面温度分布、あるいは、赤外線を用いて大気中などの種々のガス濃度を測定する場合等に使用される波長選択型赤外線センサに関する。詳しくは、光源からの赤外線を波長選択的に透過させる光学干渉多層膜からなる受光波長選択用光学フィルタと、このフィルタを透過した赤外線の入射に伴う温度変化に応じて熱起電力、電荷、抵抗変化等の物理量を出力するサーモパイル、パイロ、サーミスタなどからなる赤外線センサ部とを備えている波長選択型赤外線センサに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の波長選択型赤外線センサとしては、シリコン等の半導体基板に半導体プロセスによりサーモパイル、薄膜パイロ等を形成してなる赤外線センサ部とは別個に、この赤外線センサ部の感度の波長依存性をなくするために光学干渉多層膜からなる受光波長選択用光学フィルタを作製し、この光学フィルタを赤外線センサ部の入射側に配置し、これら個別部品である赤外線センサ部と光学フィルタとをパッケージして一体化したものが汎用されている。
【0003】
しかし、このような汎用式波長選択型赤外線センサは、部品点数が多いだけでなく、別々に製作された個別部品をパッケージする際、赤外線センサ部と光学フィルタとの光軸を一致させるためなどの精密なアライメントが必要であり、製作面からのコストの上昇は避けられない。また、微小なセンサであればあるほど精密アライメントによっても光軸にずれを生じるなど高精度な位置合わせが非常に困難であり、その位置合わせ精度のばらつきによって入射光のケラレや迷光の発生など受光エネルギの利用効率が低下して所定の検出性能が得られない。さらに、センサ全体の厚みが大きくて体積的に大型化しやすく、そのために、例えば複数の赤外線センサ部と光学フィルタをアレイ状に並列形成してなる微細構造のアレイセンサ等への応用が困難である等の難点を有している。
【0004】
このような汎用式波長選択型赤外線センサの有する難点を解消するものとして、従来、半導体基板の一方の面上に赤外線検出部を形成し、この赤外線検出部の入射側に、基板としての封止層及び絶縁層を介して波長選択フィルタを積層状態に形成することにより、赤外線検出部と波長選択フィルタとを半導体基板の一方の面側に一体形成してなる赤外線センサ(以下、第一の赤外線センサという)、あるいは、第一半導体基板の一方の面上に赤外線検出部を形成する一方、第二半導体基板の一方の面上に波長選択フィルタを形成し、第一半導体基板と第二半導体基板とを積層状態で接合してなる赤外線センサ(以下、第二の赤外線センサという)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2001−228022公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に示されている従来の積層式波長選択型赤外線センサは、第一及び第二の赤外線センサのいずれも赤外線検出部と波長選択フィルタとを一連の製造プロセスにより一体に形成することが可能で、別々に製作した個別部品をパッケージして一体化する既述した汎用式波長選択型赤外線センサに比べて、部品点数の削減及び高い位置合わせの確保に伴うアライメントの不要化によって製作コストの低減が図れるとともに、センサ全体を薄くして小型化が図れるものの、赤外線検出部と波長選択フィルタとを半導体基板の一方の面上に段積み状態で順次形成しなければならないので、高度な製作技術を駆使する必要があり、その面で十分なコストダウンを実現することができないという問題がある。
【0007】
加えて、第一の赤外線センサの場合は、ベースとなる半導体基板は一枚であっても、赤外線検出部と波長選択フィルタとの積層境界部に基板としての封止層及び絶縁層を形成する必要があり、また、第二の赤外線センサの場合は、第一半導体基板と第二半導体基板という二枚の基板を用いる必要があるために、センサ全体の薄型化、小型化には自ずと限界がある。それゆえに、複数の赤外線検出部と波長選択フィルタを並列形成してなる微細構造のアレイセンサ等への応用展開も実現しにくいという問題があった。
【0008】
本発明は上記のような実情に鑑みてなされたもので、その目的は、単一枚の半導体基板の表裏両面を有効に活用することにより、製作コストの著しい低減化並びに薄型化、小型化を達成しつつ、検出性能の向上を実現することができる波長選択型赤外線センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る波長選択型赤外線センサは、単一枚の半導体基板の表裏面のうち一方の面に赤外線センサ部が形成されているとともに、他方の面に光学干渉多層膜からなる受光波長選択用光学フィルタが形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
上記のような特徴構成を有する本発明の波長選択型赤外線センサによれば、赤外線センサ部と受光波長選択用光学フィルタが単一枚の半導体基板の表裏面に形成され一体化されているので、別々に製作した個別部品(赤外線センサ部と光学フィルタ)をパッケージして一体化する汎用式波長選択型赤外線センサに比べてはもとより、従来の積層式波長選択型赤外線センサに比べても部品点数を削減可能であるとともに、精密なアライメントも、段積みという高度な製造技術も不要であるために、製作コストを大幅に低減することができる。また、単一枚の半導体基板の表裏両面を利用することにより、基板の代替となる封止層及び絶縁層の形成も第一,第二という二枚の基板の使用も不要で、センサ全体の厚みの小さい薄型化及び小型化を達成することができる。しかも、赤外線センサ部と光学フィルタとの間隙を単一枚の半導体基板の厚さという極めて小さいものとできるので、受光赤外線の利用効率を高めることができるとともに、迷光の影響もほとんど生じることがなくなり、所定の検出性能の向上を図ることができる。さらに、薄型かつ小型であるために、複数の赤外線センサ部と受光波長選択用光学フィルタを並列形成してなる微細構造のアレイセンサ等への応用展開も容易に実現することができるという効果を奏する。
【0011】
特に、請求項2に記載のように、前記赤外線センサ部を、半導体基板の前記一方の面からのエッチングにより形成した空洞部を覆うように成膜されたダイヤフラム上に形成することが望ましい。この場合は、ダイヤフラムによって、受光波長選択用光学フィルタを形成する光学干渉多層膜が吸収する熱が赤外線センサ部に伝達されず、また、赤外線センサ部で受けた赤外線の熱が半導体基板の熱伝導により拡散されないような断熱性を持たせることができ、これによって、小型センサでありながらも感度の非常に高い赤外線センサを得ることができる。
【0012】
また、本発明に係る波長選択型赤外線センサにおいて、請求項3に記載のように、前記赤外線センサ部の少なくとも表面側を赤外線吸収膜により被覆することが望ましい。この場合は、光学フィルタを透過して赤外線センサ部に入射した赤外線を吸収して熱を逃散させることなく、センサ部に閉じ込めることができ、これによって、センサ感度の一層の向上を図ることができる。
【0013】
なお、赤外線吸収膜は、赤外線センサ部の表面だけに限らず、この赤外線センサ部を形成する半導体基板の面あるいは前記ダイヤフラム上に設けてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は本発明に係る波長選択型赤外線センサの一実施例であるサーモパイル式波長選択型赤外線センサ1の縦断面図である。このサーモパイル式波長選択型赤外線センサ1は、半導体基板の一例として、比抵抗が数Ω以上のシリコン基板2を用い、このシリコン基板2の表裏面のうち一方の面に赤外線センサ部3が形成されているとともに、他方の面に受光波長選択用光学フィルタ4が形成されて構成されている。
【0015】
前記赤外線センサ部3は、シリコン基板2の一方の面にフォトリソグラフィ手法を用いてSiO2 膜等の絶縁膜5を形成し、この絶縁膜5上にポリシリコン6Aとアルミ6Bなど異種金属を接合してなり、赤外線の入射に伴う温度変化に応じたペルチェ効果により発生する熱起電力を電極6C,6Cを通して出力するように構成されたサーモパイル7が形成され、さらに、このサーモパイル7の電極6C,6Cを除く表面全体を熱絶縁層8で被覆して薄膜状に形成されている。
【0016】
また、赤外線センサ部3の下地となる前記シリコン基板2部分には、基板2表面に予め設けているエッチングホール9からエッチング液を注入して異方性エッチングを行って空洞部10が形成されており、この空洞部10を覆うようにシリコン基板2上に、例えば図2に示すような形状で成膜されたSiO2 薄膜やSiN薄膜等のダイヤフラム11上に前記赤外線センサ部3を形成することにより、受光波長選択用光学フィルタ4を形成する光学干渉多層膜が吸収する熱が赤外線センサ部3に極力伝達されず、また、この赤外線センサ部3で受けた赤外線の熱がシリコン基板2の熱伝導により極力拡散されないような断熱性を付与している。
【0017】
一方、シリコン基板2の他方の面に形成される受光波長選択用光学フィルタ4は、例えばGe層4a及びZnSあるいはSiO層4bをそれぞれ交互に複数層ずつ積層することにより、特定の波長帯域の光学透過特性を有する光学干渉多層膜から構成されている。
【0018】
さらに、前記赤外線センサ部3における熱絶縁層8の表面には、例えば金ブラックなどの赤外線吸収膜12が被覆形成されている。
【0019】
上記のように構成されたサーモパイル式波長選択型赤外線センサ1によれば、光学干渉多層膜からなる光学フィルタ4に入射された赤外線のうち特定波長帯域の赤外線はシリコン基板2を透過して空洞部10に到達後、ダイヤフラム11を透過して赤外線センサ部3に入射される。このような赤外線の入射に伴う温度変化に応じたゼーベック効果によりサーモパイル7が熱起電力を発生し、その熱起電力は電極6C,6Cを通して出力されて所定の検出性能を発揮する。
【0020】
ここで、本発明の一実施例に係るサーモパイル式波長選択型赤外線センサ1は、赤外線センサ部3と受光波長選択用光学フィルタ4が単一枚のシリコン基板2の表裏面に形成され一体化されているので、個別部品(赤外線センサ部と光学フィルタ)をパッケージして一体化する汎用式波長選択型赤外線センサ並びに従来の積層式波長選択型赤外線センサに比べて、部品点数を削減可能であるとともに、精密なアライメントも、段積みという高度な製造技術も不要であるために、製作コストの大幅な低減を図ることが可能であるのみならず、単一枚のシリコン基板2の表裏両面を利用することにより、基板の代替となる封止層及び絶縁層の形成や二枚の基板の使用が不要で、センサ1全体を非常に薄くして体積的にも小型化を図ることが可能で、複数の赤外線センサ部3と受光波長選択用光学フィルタ4を直線状に並列形成してなる微細構造のアレイセンサ等への応用展開も容易に実現することができる。
【0021】
その上、赤外線センサ部3と光学フィルタ4との間隙が極めて小さいものとなるので、受光赤外線の利用効率が向上するとともに、迷光の影響もほとんど生じることがなく、また、ダイヤフラム11を用いて赤外線センサ部3をシリコン基板2に対して浮かせた構造としているので、光学フィルタ4を構成する光学干渉多層膜の吸収する熱が赤外線センサ部3に伝達されたり、赤外線センサ部3で受けた赤外線の熱がシリコン基板2の熱伝導により拡散されたりすることを十分に抑制する断熱性を有しているので、高い検出性能及び検出感度を得ることができる。
【0022】
なお、上記実施例では、赤外線の入射に伴う温度変化に応じて熱起電力を発生し出力するサーモパイル式波長選択型赤外線センサに適用したが、焦電効果によって電荷を出力するパイロ式波長選択型赤外線センサ、あるいは、温度変化に応じて電気抵抗を変化するサーミスタボロメータ式波長選択型赤外線センサに適用してもよいこともちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る波長選択型赤外線センサの一実施例であるサーモパイル式波長選択型赤外線センサの縦断面図である。
【図2】同上赤外線センサにおけるダイヤフラム形状の一例を示す要部の平面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 サーモパイル式波長選択型赤外線センサ
2 シリコン基板(半導体基板)
3 赤外線センサ部
4 受光波長選択用光学フィルタ
10 空洞部
11 ダイヤフラム
12 赤外線吸収膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一枚の半導体基板の表裏面のうち一方の面に赤外線センサ部が形成されているとともに、他方の面に光学干渉多層膜からなる受光波長選択用光学フィルタが形成されていることを特徴とする波長選択型赤外線センサ。
【請求項2】
前記赤外線センサ部が、半導体基板の前記一方の面からのエッチングにより形成した空洞部を覆うように成膜されたダイヤフラム上に形成されている請求項1に記載の波長選択型赤外線センサ。
【請求項3】
前記赤外線センサ部の少なくとも表面側は、赤外線吸収膜により被覆されている請求項1または2に記載の波長選択型赤外線センサ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−58203(P2006−58203A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−241995(P2004−241995)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】