説明

注型成形方法

【課題】成形時における金型内の樹脂の収縮量に応じて樹脂を追加注入する際に、金型の注入口が詰まることなく注入可能であり、成形品の表面側の形状を安定させ、且つかすれ不良なく、金型内に樹脂を充填可能であり、また、脱型時に樹脂が未硬化になりにくく、未硬化の樹脂が注入口や成形品に付着することをより確実に回避可能である注型成形方法の提供。
【解決手段】金型内部にある樹脂注入口近傍であって、周囲より容積の大きな空間に樹脂を充填する工程と、金型を形成する部位に温度差を設ける工程と、追加樹脂の注入中に金型の前記空間近傍を冷却する工程と、追加樹脂の注入後に金型の前記空間近傍を加熱する工程を含むことを特徴とする注型成形方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注型成形時の生産効率を向上させる注型成形の方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
注型成形では、流動性の熱硬化性樹脂を金型に流し込んで加熱する際に、樹脂が硬化すると共に収縮し、成形品の表面が金型から剥離してしまうという問題があった。そこで、上記の問題を解決するための手段として、樹脂の収縮量に応じて金型を移動させる方法や、金型に樹脂を追加充填する方法等が用いられていた。そして、そのような方法の一例が特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1に開示されている発明は、金型に複数の領域を設け、領域毎に温度を設定したり、各領域に加熱順序を設定することで、成形材料の体積減少位置へ金型の圧力を伝わり易くする。そして、特許文献1の段落「0010」には、「低加圧で注型浴槽の成形品を得ることができ、しかも、その成形品の表面状態は従来の高い加圧力で得られた成形品同様、光沢及び平滑性に優れたものとなる」と記載されている。つまり、成形品の品質を維持したまま、樹脂の体積減少に伴う金型の追従移動を容易にするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−277553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示されている発明では、領域毎に加熱順や温度差を設けるので、他の領域より相対的に温度の低い領域が発生してしまう。そのため、樹脂の硬化が遅れる部分が発生して成形に時間がかかり、成形に時間をかけない場合、樹脂が流動し続ける注入口部分や成形品(樹脂が硬化した部分)等に未硬化の樹脂が付着するという問題があった。
【0006】
なお、樹脂を追加充填する方法でもこの問題は発生してしまう。具体的に説明すると、樹脂が完全に硬化してしまうと、樹脂を追加充填する際に注入口に樹脂が詰まり、樹脂を金型に円滑に注入できなくなる。また、脱型時に完全に硬化しないと、未硬化の樹脂が注入口や成形品に付着して脱型不良が発生してしまう。そのため、金型の注入口付近の温度を低く設定する必要があるため、金型の部分間に温度差が生じてしまい、樹脂の追加充填後の加熱時間が長くかかるという問題が発生する。
【0007】
そこで本発明は、注型成形の熱硬化性樹脂の収縮時に、樹脂の追加注入が容易であり、且つ脱型時において熱硬化性樹脂の未硬化状態を解消し、成形時間を短くすることができる注型成形技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための請求項1の発明は、金型内部の空間に熱硬化性樹脂を注入後加熱し、熱硬化性樹脂の硬化時の収縮量に応じて熱硬化性樹脂を金型内部に追加注入する注型成形方法において、金型内部にある樹脂注入口近傍であって、周囲より容積の大きな空間に樹脂を充填する工程と、金型を形成する部位に温度差を設ける工程と、追加樹脂の注入中に金型の前記空間近傍を冷却する工程と、追加樹脂の注入後に金型の前記空間近傍を加熱する工程を含むことを特徴とする注型成形方法である。
【0009】
本発明の注型成形方法では、注入口付近の周囲より容積の大きな空間に樹脂を充填するので、樹脂を金型全体に円滑に広げることができる。具体的に説明すると、金型に注入された樹脂は、まず、注入口近傍の容積の大きな空間に充填される。そして、樹脂はこの空間に溜まった後に金型内に広がっていく。そのことにより、樹脂が広がっていく際に十分な樹脂の量を確保できるため、成形品に気泡が残留する、所謂かすれ不良が発生しにくくなる。
【0010】
さらに、金型に温度が低く設定された部位と温度が高く設定された部位を設けるため、金型内部に充填された樹脂は、接触する金型の部位によって硬化速度に差が生じる。そのことにより、樹脂を追加注入する際に、金型内の樹脂が流れる場所を制御することができる。
【0011】
例えば、金型の成形品の表面を形成する部位(表面側)の温度を、金型の成形品の裏面を形成する部位(裏面側)の温度に比べて高く設定する。すると、金型の裏面側に接する樹脂は表面側に接する樹脂に比べて硬化が遅れるため、樹脂が流れ易い状態となる。そのため、追加注入された樹脂は金型の裏面側を流れて金型内に充填される。即ち、金型の表面側を追加注入した樹脂が流れないように設定できるため、成形品の表面形状を安定させることができる。
【0012】
また、金型の注入口近傍の温度を低く設定すると、追加樹脂の注入時等に、樹脂が硬化しないので、注入口における硬化した樹脂の詰まりの発生が抑制され、追加樹脂の注入を円滑に行うことができる。
【0013】
さらに、本発明の注型成形方法では、追加樹脂の注入中に金型の前記空間近傍を冷却する工程を有するので、上記した注入口における硬化した樹脂の詰まりをより顕著に抑制することができる。そして、追加樹脂の注入後に金型の前記空間近傍を加熱する工程を含むため、追加樹脂の注入中に金型の前記空間近傍を冷却したり、金型の加熱の温度を低く設定した場合でも、脱型時までにより確実に樹脂が硬化する。また、追加樹脂の注入後に金型を加熱しない場合と比べて、樹脂の硬化が速いため、成形に必要な時間が短縮され、効率のよい成形を実施することができる。
【0014】
請求項2の発明は、押圧部材により成形品を押圧して脱型する場合において、押圧部材を加熱する工程と、加熱された押圧部材で成形品を押圧する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の注型成形方法である。
【0015】
本発明の注型成形方法では、脱型時に成形品を押圧する部材を加熱することにより、脱型時の成形品の熱硬化を促進することができる。そのため、脱型時に樹脂が未硬化になりにくいため、未硬化の樹脂が注入口や成形品に付着することをより確実に回避できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、注型成形の熱硬化性樹脂の収縮時に、樹脂の追加注入が容易であり、且つ脱型時における熱硬化性樹脂の未硬化状態を解消し、成形時間を短くすることができる注型成形技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の注型成形方法で使用する注型成形装置の説明図である。
【図2】図1の注型成形装置に熱硬化性樹脂を充填した状態の説明図である。
【図3】図2の注型成形装置のタブ部近傍の拡大図であり、ヒーターによる熱硬化性樹脂の加熱が開始された状態の説明図である。
【図4】図2の注型成形装置のタブ部近傍の拡大図であり、熱硬化性樹脂が追加注入された状態の説明図である。
【図5】図2の注型成形装置のタブ部近傍の拡大図であり、注入ノズルの開口が閉塞し、タブ部への集中加熱が行われた状態の説明図である。
【図6】脱型時の押圧ピンの動作を示す説明図であり、(a)は押圧ピンが初期配置位置にある状態を示し、(b)は押圧ピンがキャビティ内に突出した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら説明する。図1は本発明の実施例に使用される注型成形装置1を示す。注型成形装置1は、金型2、加熱冷却機3、押圧ピン4、注入ノズル5を有している。注入ノズル5は図示しない注入タンクとホースを介して繋がっており、金型2と接続されている。
【0019】
したがって、注型成形装置1は、注入タンク内の熱硬化性樹脂13を、注入ノズル5を介して金型2内のキャビティ12に供給することができる。そして、キャビティ12内に充填した熱硬化性樹脂13(図2)をヒーター11によって加熱することで、成形が行われる。なお、その際、ヒーター11や加熱冷却機3、及び加熱装置6によって金型2の温度調整を行うことにより、成形の効率を上げる。以下詳細に説明する。
【0020】
金型2は、図1及び図2に示す様に、上型61と下型62を有し、上型61と下型62の間にキャビティ12が形成される。また、金型2は注入口63を有しており、注入口63には注入ノズル5の先端部分が挿入可能で、キャビティ12に連通している。
【0021】
キャビティ12は、金型2内に形成される空間であり、成形品を賦形するものである。詳細には、上型61側が成形品の表面側の形状を賦形するものであり、下型62は成形品の裏面側の形状を賦形するものである。また、注入口63近傍に、周囲より広い(容積の大きい)空間であるタブ部12aを有している。
【0022】
加えて、金型2のキャビティ12の周辺には、ヒーター11が複数設けられている。各ヒーター11はそれぞれ個別に温度設定が可能である。
【0023】
加熱冷却機3は、図1,2に示されるように、キャビティ12のタブ部12a近傍に配されており、タブ部12aの裏面(下型62側の面であり、注入口63と対向する面)を集中して加熱または冷却可能となっている。
【0024】
そして、加熱冷却機3は温水や冷水のような熱媒200や冷媒100を循環させる流路を有し、それぞれの流路は加熱回路及び冷却回路(図示せず)に接続されている。これらの回路は、流路内に循環させる媒体をタイマー等で切り替えることが可能である。
【0025】
押圧ピン4は、図1,2における下側(金型2の下型62側)に配されており、駆動源(図示せず)と連結している。それにより、押圧ピン4はキャビティ12内に出没可能な状態で金型2に取り付けられている。
【0026】
さらに、図1,2に示されるように、押圧ピン4は内部に加熱装置6を有しており、加熱装置6は押圧ピン4を昇温可能に取り付けられている。
【0027】
注入ノズル5は、図1,2に示されるように後端側(図1,2における右側)に流入口5cを有している。流入口5cにはホース(図示せず)が接続されており、ホースは注入タンク(図示せず)と連通されている。したがって、注入タンクの熱硬化性樹脂13を加圧することにより、流入口5cより注入ノズル5の内部に熱硬化性樹脂13が流入する。また、注入ノズル5は先端側(図1,2における左側)に開口5dを有しており、開口5dはキャビティ12に連通している。そのため、注入ノズル5内の熱硬化性樹脂13は金型2のキャビティ12に流入可能になっている。
【0028】
加えて、注入ノズル5はバルブピン5eを有している。バルブピン5eは図示しない駆動源に連結されており、進退駆動することにより開口5dを開閉する。したがって、開口5dがバルブピン5eにより閉じられている場合、キャビティ12内への熱硬化性樹脂13の流入が止まり、開口5dが開かれている場合、熱硬化性樹脂13がキャビティ12に流入する。
【0029】
また、注入ノズル5は温度調節装置5a,5bを有している。温度調節装置5aは注入ノズル5の温度を調節可能に配されており、温度調節装置5bはバルブピン5eの温度を調節可能に配されている。
【0030】
続いて、この注型成形装置1を用いて本発明の注型成形方法を実施する場合について説明する。
【0031】
初めに注入ノズル5のバルブピン5eを後退させておき、開口5dを開放しておく(図1)。
【0032】
この状態で注入タンク内の熱硬化性樹脂13にエア圧をかけると、ホース及び注入ノズル5を介して金型2内のキャビティ12に熱硬化性樹脂13が流入する。この時、熱硬化性樹脂13はタブ部12aに充填された後、キャビティ12内に広がっていき、キャビティ12を充填する。
【0033】
また、この間キャビティ12内の空気は金型2に設けられた空気抜き孔(図示せず)から外部に放出される。したがって、キャビティ12内に熱硬化性樹脂13を十分に充填することができる。
【0034】
キャビティ12内に熱硬化性樹脂13が十分に充填されたら、ヒーター11により金型2を加熱することで、キャビティ12に充填された熱硬化性樹脂13を硬化する(図2)。このとき、温度調節装置5a,5bにより注入ノズル5を冷却することで、注入ノズル5内の熱硬化性樹脂13の硬化を防ぐ。また、開口5dは開放したままにしておき、熱硬化性樹脂13を金型2内に流入可能にしておく。そして、熱硬化性樹脂13の硬化収縮により、キャビティ12内の熱硬化性樹脂の体積が減少する間、樹脂を加圧注入し続ける。
【0035】
この時、上型61側のヒーター11の温度を、下型62側のヒーター11の温度より高く設定する。即ち、金型2の表面側(成形品の表面側となる熱硬化性樹脂13と接触する金型2の一部分であり、図1,2における上型61側)が金型2の裏面側(成形品の裏面側となる熱硬化性樹脂13と接触する金型2の一部分であり、図1,2における下型62側)に比べ高温になる。そのことにより、キャビティ12内に追加注入された熱硬化性樹脂13は、裏面側を通ってキャビティ12内に充填される。
【0036】
なお、加熱冷却機3と押圧ピン4の加熱装置6は運転を休止した状態であり、この状態を休止運転状態とする(図3)。
【0037】
一定時間経過すると、加熱冷却機3の流路に冷媒100を流し、キャビティ12のタブ部12aを冷却する(図4)。そのことにより、タブ部12aの熱硬化性樹脂13が完全に硬化しないので、熱硬化性樹脂13の追加注入を円滑に行うことができる。なお、このとき加熱装置6は運転を休止させたままであり、この状態を冷却運転状態とする。
【0038】
加熱冷却機3によるタブ部12aの冷却が開始されてから一定時間経過すると、図5に示すようにバルブピン5eを前進駆動させ、開口5dを閉塞し、熱硬化性樹脂13の金型2への追加注入を停止する。そして、ヒーター11により金型2内の熱硬化性樹脂13を加熱する。
【0039】
このとき、加熱冷却機3の流路に熱媒200を流すと共に、加熱装置6を稼働する。そのことにより、タブ部12aに配された熱硬化性樹脂13の硬化が促進され、脱型時までに熱硬化性樹脂13がより確実に硬化する。なお、この状態を加熱運転状態とする。
【0040】
そして、成形が終了すると、図6に示すように上型61が移動し、押圧ピン4がキャビティ12内に突出することにより、脱型が行われる。
【0041】
本発明の注型成形方法では、キャビティ12内の注入ノズル5の開口5d近傍にタブ部12aを設けており、タブ部12aに充填された熱硬化性樹脂13を冷却する工程を有している。そのため、注入ノズル5から熱硬化性樹脂13が追加注入される間、開口5d近傍の熱硬化性樹脂13の硬化が抑制され、硬化した熱硬化性樹脂13による開口5dの詰まりが発生しにくい。
【0042】
また、金型2の表面側は裏面側より温度が高いため、キャビティ12に充填された熱硬化性樹脂13は表面側より硬化する。そのため、追加注入された熱硬化性樹脂13は裏面側を流れてキャビティ12内を広がり、金型2内を充填する。そのことにより、成形品の意匠面が安定する。
【0043】
なお、上記した実施例では、金型2の表面側に注入ノズル5を接続し、熱硬化性樹脂13を金型2内に注入しているが、熱硬化性樹脂13は金型2の裏面側から注入してもよい。
【0044】
本発明の注型成形方法では、従来の方法に比べて、連続注入成形等を効率良く実施可能である。なお、ここで連続注入成形とは注入ノズル5を金型2より脱着せず、連続して熱硬化性樹脂13を金型2内に注入し成形を行うことである。
【0045】
具体的に説明すると、追加注入した熱硬化性樹脂13の熱硬化が加熱冷却機3や押圧ピン4によって加熱されることで促進される。そのため、熱硬化性樹脂13が硬化するまでの時間が短縮されるので、成形開始から脱型までの時間が短くなる。加えて、熱硬化を促進された熱硬化性樹脂13が、脱型時においてより確実に硬化するため、未硬化な熱硬化性樹脂13の金型2等への付着を抑制できる。そのため、一回の成形ごとに金型2等に時間のかかる清掃を行う必要がない。上記のことより、本発明の注型成形方法は、連続注入成形時等に効率良がよい。
【0046】
また本発明の注型成形方法は、浴槽、シンク、洗面ボウル等の大型成形品の成形においても好適に実施できる。即ち、従来の方法では時間のかかる大型成形品の成形が、上記の理由により、一回の成形をより短時間で行えるためである。
【0047】
上記した休止運転状態、冷却運転状態、加熱運転状態の成形時間全体に対する割合は任意であるが、1対3対1に設定することが望ましい。具体的に説明すると、休止運転状態が長すぎると、追加注入時に熱硬化性樹脂13が必要以上に硬化してしまい、追加注入した熱硬化性樹脂13が裏面側を流動しにくくなってしまう。また、冷却運転状態の時間が長すぎると、熱硬化性樹脂13が完全に硬化しないことにより硬化不良が発生してしまうためである。
【符号の説明】
【0048】
1 注型成形装置
2 金型
3 加熱冷却機
4 押圧ピン
5 注入ノズル
13 熱硬化性樹脂
63 注入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型内部の空間に熱硬化性樹脂を注入後加熱し、熱硬化性樹脂の硬化時の収縮量に応じて熱硬化性樹脂を金型内部に追加注入する注型成形方法において、
金型内部にある樹脂注入口近傍であって、周囲より容積の大きな空間に樹脂を充填する工程と、金型を形成する部位に温度差を設ける工程と、追加樹脂の注入中に金型の前記空間近傍を冷却する工程と、追加樹脂の注入後に金型の前記空間近傍を加熱する工程を含むことを特徴とする注型成形方法。
【請求項2】
押圧部材により成形品を押圧して脱型する場合において、押圧部材を加熱する工程と、加熱された押圧部材で成形品を押圧する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の注型成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−5643(P2011−5643A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148271(P2009−148271)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】