説明

洗浄性能評価用部材及び洗浄性能評価方法

【課題】穴を有する洗浄対象物を洗浄した場合の洗浄性能を容易に評価することのできる洗浄性能評価用部材及び洗浄性能評価方法を提供する。
【解決手段】模擬的な穴部(50)を形成した洗浄性能評価用部材(10)を洗浄槽(72)内の洗浄液(70)に浸漬し、洗浄槽(72)内の洗浄液(70)に超音波を照射しながら洗浄槽(72)内の減圧及び大気開放を繰り返して洗浄性能評価用部材(10)を洗浄し、この洗浄工程終了後に洗浄性能評価用部材(10)の洗浄性能を液浸透性能又は液交換性能に基づいて評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄性能評価用部材及び洗浄性能評価方法に係り、特に、微細な穴を有する複雑形状の洗浄対象物を減圧及び大気開放を繰り返して超音波洗浄する場合の洗浄性能評価に用いられる洗浄性能評価用部材及びこれを用いた洗浄性能評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽光発電に用いられる太陽電池の原料として、半導体向けに比べ安価で純度が低い多結晶シリコンが用いられているが、純度が低いため原料由来の異物による影響が懸念されている。この対策として、多結晶シリコンを洗浄して表面の異物を剥離することが行われている。
【0003】
従来における多結晶シリコンの洗浄工程では、多結晶シリコンに付着したパーティクルや有機物等の汚染物を高濃度の薬品とともに浸漬槽内で浸漬洗浄していたが、大量に薬品を使用する必要があるなど課題が多かった。
【0004】
このような課題を解決するため、水素やオゾン等の洗浄に寄与するガスを超純水に溶存し、超音波洗浄を行うことで、洗浄時に使用する薬品量を大幅に低減する手法が開発された(例えば、特許文献1参照)。図16はこのような洗浄機の一例を示す概念図である。図16に示すように、洗浄機100は、洗浄槽102と、洗浄槽102の下部に設けられた超音波振動子104と、を備えている。洗浄槽102内には洗浄に寄与するガスが溶存した洗浄液106が入れられており、洗浄液106中には洗浄対象のウエハ108がカセット110に格納された状態で浸漬されている。周波数20kHz以上の超音波を超音波振動子104から洗浄槽102内に照射することで、ウエハ108の表面に付着している異物に加振力を加え、ウエハ108表面から粒子を剥離する。この洗浄方法は、洗浄液106中を超音波が伝播し、ウエハ108表面の異物に加振力を加えるとともにキャビテーションを発生させることで、ウエハ108表面に付着している異物を剥離し、洗浄することができる。
【0005】
しかしながら、このような洗浄方法では次のような問題があった。すなわち、太陽電池向けの多結晶シリコンは、ガス状態のトリクロロシランを還元炉内で気相成長させることで製造される。この際、還元炉内の電極の上部で成長する多結晶シリコンのショルダー部分は、表面に複雑で微細な穴を有するポーラス形状となる。特に、太陽電池向けの多結晶シリコン製造時には、製品価格を抑えるために気相成長速度を速めているので、ショルダー部においてポーラス形状の発生が顕著になっている。このようなポーラス形状の多結晶シリコンを上述した洗浄方法で洗浄すると、微細な穴内部にまで洗浄液が入りにくく、また、穴内部に残存する空気の影響で超音波が伝播しないため、微細な穴内部では洗浄効果が得られなかった。
【0006】
微細な穴内部まで洗浄液を浸透させる方法として、洗浄時に洗浄槽内の減圧及び大気開放(常圧)を繰り返す方法がある(例えば、特許文献2参照)。このような洗浄方法では、洗浄槽内に洗浄対象のワークを洗浄液とともに入れて洗浄槽内を減圧することで、洗浄対象のワークの穴内部の空気を膨張させて排出した後、洗浄槽内を大気開放して空気を圧縮させる。そして、再度減圧することで、再び洗浄対象のワークの穴内部の空気を膨張させて排出するとともに、洗浄液中に空気を溶存させる。この減圧及び大気開放を繰り返すことで、洗浄対象のワークの穴内部の空気は、膨張、収縮、溶存、脱気を繰り返し、やがて洗浄液と完全に交換することができる。このため、微細な穴内部にまで洗浄液が効率よく浸透するとともに、超音波の伝播効率も向上させることができる。
【0007】
図17は、このような減圧及び大気開放を繰り返す洗浄機の構成の一例を示す概念図である。図17に示すように、洗浄機200は、洗浄槽202内に洗浄液204を供給する系として、洗浄液供給ライン206と、洗浄液供給ポンプ208と、洗浄槽202への洗浄液204の供給量を制御する制御バルブ210とを備えている。また、洗浄槽202内の洗浄液204を洗浄槽202外に排出する系として、ドレイン212と、排水ポンプ214と、洗浄槽202内からの洗浄液204の排出量を制御する制御バルブ216とを備えている。また、洗浄槽202内の減圧及び大気開放を行う系として、洗浄槽202内を減圧するための真空ライン218と、真空ポンプ220と、洗浄槽202内の減圧・大気開放を制御する制御バルブ222とを備えている。洗浄槽202の下部には、洗浄水204に20kHz以上の超音波を照射する超音波振動子224が設けられている。洗浄対象のワーク226は、洗浄槽202内の洗浄液204内に浸漬される。洗浄槽202は、減圧時に洗浄槽202内を減圧状態に保つことができるように、密閉構造となっている。
【0008】
この洗浄槽202内を真空ポンプ220により減圧することで、図18に示すように、洗浄対象のワーク226の穴228内部に存在する空気を膨張させて洗浄液204中に排出するとともに、洗浄液204中の空気を脱気する。この際、洗浄液204に超音波を照射することで、洗浄液204中の空気の脱気効果を向上させることができる。その後、減圧されていた洗浄槽202内を大気開放することで、洗浄対象のワーク226の穴228内部に存在していた空気は収縮して、洗浄液204が穴228内部に浸透するとともに脱気された洗浄液204中に空気が溶存する(図19参照)。その後、再び減圧することで、洗浄対象のワーク226の穴228内部の空気を膨張させることで、洗浄対象のワーク226の穴228内部の空気を排出する。この減圧と大気開放を繰り返すことで、洗浄対象のワーク226の穴228内部の空気は洗浄液204と完全に交換され、穴228内部は洗浄液204と超音波の洗浄効果により洗浄される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−10713号公報
【特許文献2】特開平6−296940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような減圧と大気開放を繰り返す洗浄方法では、洗浄対象のワークの微細な穴内部にまで洗浄液を完全に浸透させるとともに、穴内部の空気を穴外部の洗浄液と完全に交換することで、穴内部を効果的に洗浄することが可能となる。このように穴内部を効果的に洗浄して洗浄性能を高めるためには、減圧と大気開放の繰り返しの回数、減圧の時間、大気開放の時間等の洗浄条件を適切に設定する必要がある。
【0011】
適切な洗浄条件を設定するためには、洗浄後のワーク表面の異物量を分析して、洗浄後に異物が残らない適切な洗浄条件を設定する必要があり、適切な洗浄条件を決定するまでに多くの洗浄試験及びワーク表面の異物分析を行う必要があった。また、洗浄対象のワークは微細な穴が形成された複雑な形状を有しているため、ワークの表面に付着している微量の異物を分析するのは非常に困難であった。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、穴を有する洗浄対象物を洗浄した場合の洗浄性能を容易に評価することのできる洗浄性能評価用部材及び洗浄性能評価方法を提供することを目的とする。
また、穴を有する洗浄対象物を洗浄した場合の洗浄性能を正確に評価することのできる洗浄性能評価用部材及び洗浄性能評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係る洗浄性能評価用部材は、穴を有する洗浄対象物の代わりに洗浄槽内の洗浄液に浸漬され、前記洗浄槽内の減圧及び大気開放が繰り返される洗浄工程終了後に洗浄性能が評価される洗浄性能評価用部材であって、側縁を切り欠いた1又は複数のスリットを有するスリット板と、前記スリットを挟むように前記スリット板に結合した押さえ部材とを備え、前記スリットが前記押さえ部材で挟まれた領域に外部と連通する空間が形成されることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、穴を有する洗浄対象物の代わりに、スリット板と押さえ部材とを備えた洗浄性能評価用部材を洗浄槽内の洗浄液に浸漬して洗浄し、洗浄性能評価用部材の洗浄性能を評価することで、実際の洗浄対象物を洗浄して表面の異物分析を行わなくても、洗浄性能を容易に評価することができる。
【0015】
上記構成において、前記スリット板の表面及び前記押さえ部材の表面は、前記洗浄液に対する接触角度が前記洗浄対象物と同等の材質で形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、洗浄性能評価用部材と実際の洗浄対象物との洗浄液に対する接触角度を同等とすることができ、洗浄液に対する接触角度の違いによる撥水性の違いが洗浄性能に及ぼす影響を少なくすることができるため、実際の洗浄対象物の評価を正確に行うことができる。
【0016】
本発明に係る洗浄性能評価方法は、穴を有する洗浄対象物の代わりに、模擬的な穴部を形成した洗浄性能評価用部材を洗浄槽内の洗浄液に浸漬する浸漬工程と、前記洗浄槽内の減圧及び大気開放を繰り返す洗浄工程と、前記洗浄工程終了後に前記洗浄性能評価用部材の洗浄性能を評価する洗浄性能評価工程と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、穴を有する洗浄対象物の代わりに、模擬的な穴部を形成した洗浄性能評価用部材を洗浄し、洗浄工程終了後に洗浄性能評価用部材の洗浄性能を評価することで、実際の洗浄対象物を洗浄して表面の異物分析を行わなくても、洗浄対象物を洗浄した場合の洗浄性能を容易に評価することができる。
【0018】
また、前記洗浄性能評価工程において、前記洗浄工程の前後における前記洗浄性能評価用部材の重量の変化に基づいて前記穴部への前記洗浄液の浸透性能を評価し、該浸透性能を前記洗浄性能の評価指標として用いてもよい。
この構成によれば、前記洗浄工程の前後における前記洗浄性能評価用部材の重量の変化に基づいて、洗浄性能を簡易に評価することができる。
【0019】
また、前記浸漬工程において、前記穴部に評価指標液を封入した前記洗浄性能評価用部材を前記洗浄液に浸漬し、前記洗浄性能評価工程において、前記穴部に封入された前記評価指標液がどの程度前記穴部の外に流出したかを示す液交換性能を評価し、該液交換性能を前記洗浄性能の評価の指標として用いてもよい。
この構成によれば、液交換性能に基づいて簡易に洗浄性能を評価することができる。
【0020】
また、前記評価指標液は光の吸収率が前記洗浄液と異なる液であり、前記液交換性能は前記洗浄工程終了後の前記洗浄液の吸光度に基づいて評価されてもよい。
この構成によれば、洗浄工程終了後の洗浄液の吸光度に基づいて、洗浄性能を簡易に評価することができる。
【0021】
また、前記洗浄性能評価用部材は、側縁を切り欠いた1又は複数のスリットを有するスリット板と、前記スリットを挟むように前記スリット板に結合した押さえ部材とで形成され、前記模擬的な穴部は、前記スリットが前記押さえ部材で挟まれた、外部と連通する空間で形成されるものとしてもよい。
この構成によれば、簡易に洗浄性能評価用部材を作成することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、穴を有する洗浄対象物の代わりに、模擬的な穴部を形成した洗浄性能評価用部材を洗浄し、洗浄工程終了後に洗浄性能評価用部材の洗浄性能を評価することで、実際の洗浄対象物を洗浄して表面の異物分析を行わなくても、洗浄対象物を洗浄した場合の洗浄性能を容易に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る洗浄性能評価用部材の側面図である。
【図2】洗浄性能評価用部材を構成するスリット板の平面図である。
【図3】洗浄性能評価用部材を構成する押さえ部材の平面図である。
【図4】液浸透性能評価の手順を示すフロー図である。
【図5】液浸透性能評価における洗浄前の洗浄性能評価用部材の縦断面図である。
【図6】液浸透性能評価において洗浄性能評価用部材を洗浄液に浸漬した状態を示す説明図である。
【図7】液浸透性能評価における洗浄時の状況を示す説明図である。
【図8】液浸透性能評価における洗浄後の洗浄性能評価用部材の縦断面図である。
【図9】液交換性能評価の手順を示すフロー図である。
【図10】液交換性能評価で予め作成する検量線の一例を示す図である。
【図11】液交換性能評価における洗浄前の洗浄性能評価用部材の縦断面図である。
【図12】液交換性能評価における洗浄時の状況を示す説明図である。
【図13】液交換性能評価における洗浄後の分析方法を示す説明図である。
【図14】変形例に係るスリット板の平面図である。
【図15】変形例に係る洗浄性能評価用部材の側面図である。
【図16】従来における洗浄機の説明図である。
【図17】従来における減圧と大気開放を繰り返す超音波洗浄機の説明図である。
【図18】従来における減圧と大気開放を繰り返す超音波洗浄機の減圧時の状況の説明図である。
【図19】従来における減圧と大気開放を繰り返す超音波洗浄機の大気開放時の状況の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明を実施するための形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る洗浄性能評価用部材10の側面図である。洗浄性能評価用部材10は、実際の洗浄対象物、例えば太陽電池向けの多結晶シリコンを模して形成されたものであり、スリット板20と、スリット板20の両面に連結された2枚の押さえ部材30と、スリット板20と押さえ部材30とを連結する押さえ用ボルト/ナット40を備えている。洗浄性能評価用部材10の側面中央部には、多結晶シリコンの表面に形成される微細な穴を摸した穴部50が形成されている。スリット板20の厚さは、多結晶シリコンの表面に形成される微細な穴の大きさを考慮して、例えば数μm〜数mmとすることができる。穴部50の容積は、後述する液浸透性能と液交換性能の評価を考慮して、実際の洗浄対象物の穴の容積(複数の穴それぞれの容積、又は複数の穴全体の容積)と同じ又は略同じであることが好ましいが、実際の洗浄対象物が手に入らない場合もあり、また、多結晶シリコンにも様々な表面形状、穴形状を有するものが存在するため、必ずしも実際の洗浄対象物の穴の容積と同じである必要はなく、多結晶シリコンの穴の平均的な容積に近くなるように形成すればよい。また、洗浄性能評価用部材10も、実際の洗浄対象物と同じ形状又は同じ大きさを有することが好ましいが、多結晶シリコンは複雑な形状を有しており、また洗浄性能評価用部材10の形状や大きさは後述する液浸透性能と液交換性能の評価に大きな影響を与えないと考えられるため、実際の洗浄対象物と同じ形状又は同じ大きさに限定されることはない。
【0025】
図2はスリット板20の平面図である。スリット板20は平面矩形形状を有しており、側縁を切り欠いたスリット22を有している。このスリット22は、実際の洗浄対象物に倣って、任意の幅、奥行に形成することができる。スリット板20の4つの角部それぞれには、ボルトを挿通するための挿通孔24が設けられている。
【0026】
図3は押さえ部材30の平面図である。押さえ部材30はスリット板20と略同じ大きさの矩形形状の平板であるが、スリットは形成されていない。押さえ部材30の4つの角部には、ボルトを挿通するための挿通孔32が設けられている。
【0027】
このスリット板20の両面を2枚の押さえ部材30で挟み込み、挿通孔24、32に、押さえ用ボルト/ナット40のうちボルトを通しナットで締着することで、図1に示す洗浄性能評価用部材10が組み立てられる。ここで、スリット22が2枚の押さえ部材30で挟まれて形成される、外部に連通する空間が穴部50となる。
【0028】
なお、スリット板20及び押さえ部材30の形状は一例に過ぎず、例えば、スリット22はスリット板20の側辺中央部に限らず角部に形成してもよいし、複数の側辺に形成してもよい。また、スリット板20と押さえ部材30の平面形状は円形や楕円形であってもよい。また、スリット板20と押さえ部材30との結合方法は一例に過ぎず、スリット22が外部と連通する部分を残すように結合できればよい。また、スリット板20と押さえ部材30とは、直接接着剤で接着してもよい。
【0029】
また、スリット板20及び押さえ部材30の材質は、実際の洗浄対象物との撥水性の違いによる洗浄性能の違いが生じないように、実際の洗浄対象物と同じ材質とすることが望ましい。スリット板20及び押さえ部材30に実際の洗浄対象物と同じ材質を用いることができない場合は、スリット板20及び押さえ部材30と、洗浄液との接触角度が、実際の洗浄対象物と洗浄液との接触角度に同等或いは近い角度となるように、スリット板20及び押さえ部材30の材質を選定するのが望ましい。洗浄液に対する接触角度が同等又は近い材質を選定できない場合には、スリット板20及び押さえ部材30の表面を、実際の洗浄対象物と同じ材質、又は洗浄液に対する接触角度が洗浄対象物と同等又は近い材質でコーティングする等により、撥水性の違いによる洗浄性能への影響を低減するのが好ましい。
【0030】
次に、本発明の実施形態に係る洗浄性能評価方法について説明する。
まず、図4〜図8を参照して、洗浄性能の評価指標の1つである液浸透性能の評価方法について説明する。ここで、液浸透性能とは、洗浄性能評価用部材10の穴部50に洗浄液がどの程度浸透したかを表す指標である。
【0031】
まず、洗浄前の洗浄性能評価用部材10の重量を秤量しておく(図4のステップS101)。この洗浄前の洗浄性能評価用部材10の穴部50には、図5に示すように空気60が充填された状態となっている。
【0032】
次に、図6に示すように、洗浄液70の入った洗浄槽72内に洗浄性能評価用部材10を浸漬して(図4のステップS102)、洗浄槽72の下部に設けられた超音波振動子74から洗浄槽72内の洗浄液70に超音波を照射しながら、洗浄槽72内の減圧及び大気開放(常圧)を所定の条件(回数、時間等)で行う。これにより、洗浄性能評価用部材10の穴部50に洗浄液70が浸透し、洗浄性能評価用部材10表面の洗浄が行われる(図4のステップS103、図7参照)。
次に、洗浄性能評価用部材10を洗浄槽72から取り出し、洗浄性能評価用部材10の表面の液滴を除去した後、洗浄性能評価用部材10の重量を秤量する(図4のステップS104)。
【0033】
次に、ステップS101とステップS104で秤量した洗浄前後の洗浄性能評価用部材10の重量と、穴部50の容積と、洗浄液70の比重とに基づいて、以下の算出式で穴部50への液浸透率を算出する(図4のステップS105)。
液浸透率(%)=(洗浄性能評価用部材の洗浄後の重量−洗浄前の重量)×100/(洗浄性能評価用部材の穴部の容積×洗浄液の比重)
【0034】
ステップS103の洗浄工程において、減圧、大気開放の繰り返し回数、減圧時間、大気開放時間等の洗浄条件(運転条件)が適切であれば、穴部50の容積分に相当する洗浄液70の重量だけ洗浄性能評価用部材10の重量が増加して、穴部50への液浸透率は100%となり、重量の増加が最大となる。一方、洗浄条件が適切でなければ、図8に示すように、穴部50に洗浄液70が浸透しきらず、重量増加が不足する。
【0035】
したがって、洗浄条件を変えて図4に示す液浸透性能評価の手順を何度か繰り返す過程において、洗浄前後の洗浄性能評価用部材10の重量が穴部50の容積に相当する洗浄液70の重量だけ増加した時(すなわち、重量増加が最大となった時、液浸透率が100%となった時)の洗浄条件が、穴部50内の空気60と穴部50外の洗浄液70とを完全に交換でき、穴部50に洗浄液70が完全に浸透して、穴部50の表面に付着している異物に作用できる適切な洗浄条件と判定することができる。そして、当該洗浄条件を実際の洗浄対象物の洗浄条件として設定することができる。
【0036】
以上のように、実際の複雑形状の洗浄対象物の洗浄性能を評価する代わりに、洗浄対象物に応じた穴を模した穴部50を有する洗浄性能評価用部材10を、スリット板20及び押さえ部材30で形成し、洗浄性能評価用部材10の洗浄前後の重量の変化量を計測することで、洗浄液の浸透性能を簡易に評価することができ、浸透性能の評価結果に基づいて簡易に洗浄性能を評価することができる。
【0037】
次に、図9〜図13を参照して、洗浄性能の評価指標の1つである液交換性能の評価方法について説明する。ここで、液交換性能とは、穴部50内と穴部50外との間で液がどの程度交換されたかを示す(すなわち、穴部50内の液がどの程度穴部50外に流出したかを示す)指標である。
【0038】
まず、洗浄液に添加した着色液の量と吸光度との関係を示す検量線を作成する(図9のステップS201)。具体的には、洗浄性能評価用部材10の洗浄に使用する洗浄液を予め用意し、その量を正確に定量しておく。次に、その量分の洗浄液を別に用意し、当該洗浄液に、洗浄性能評価用部材10の穴部50の一部の容積に相当する量の着色液を添加して、吸光度を測定する。さらに、同じ量の洗浄液に、穴部50の全容積に相当する量の着色液を添加したものを用意し、当該洗浄液の吸光度を測定する。これらの測定値に基づいて、例えば図10に示すような検量線を作成しておく。
【0039】
なお、ここで用いる着色液は、洗浄液の物性と類似しているものであって、洗浄液とは異なる特定の波長に高い吸光度を有するものであれば特に限定されない。好ましくは、試験後にそのまま廃棄可能な食品添加物に類するものが添加された着色液であるとよい。
【0040】
次に、図11に示すように、洗浄性能評価用部材10の穴部50に、検量線作成時に用いたものと同じ着色液80を封入する(図9のステップS202)。
次に、図12に示すように、洗浄槽72内に検量線作成の際に予め定量しておいた洗浄液70を注入し、その中に穴部50に着色液80が封入された洗浄性能評価用部材10を浸漬する。そして、洗浄槽72の下部に設けられた超音波振動子74から洗浄槽72内の洗浄液70に超音波を照射しながら、洗浄槽72内の減圧及び大気開放を所定の条件(回数、時間等)で行うことで、洗浄性能評価用部材10の洗浄を行う(図9のステップS203)。この洗浄工程中に、洗浄性能評価用部材10の穴部50に封入された着色液80は、洗浄液70に流出していく。
【0041】
洗浄終了後、図13に示すように、洗浄槽72から洗浄性能評価用部材10を取り出し(図9のステップS204)、洗浄液70を均一に撹拌した後(図9のステップS205)、分光光度計等の一般的な機器を用いて洗浄液70の吸光度を測定する(図9のステップS206)。次に、ステップS201で予め作成しておいた検量線から、ステップS206で測定した吸光度に対応する液交換率を算出する(図9のステップS207)。ここで、図10に示す検量線を用いて、吸光度から洗浄液70内に流出した着色液80の量を求めることができる。そして、液交換率は、当該着色液80の量の、穴部50の全容積に相当する着色液80の量に対する割合として求めることができる。
【0042】
ステップS203の洗浄工程において、減圧、大気開放の繰り返し回数、減圧の時間、大気開放の時間等の洗浄条件が適切であれば、穴部50から洗浄液70に着色液80が完全に流出して、穴部50内の着色液80が穴部50外の洗浄液70と完全に交換される。この場合、吸光度は、図10において、液交換が完全に行われた場合に想定される吸光度Aに到達する。一方、洗浄条件が適切でなければ穴部50の着色液80は洗浄液70に流出しきらず、吸光度がAに不足する。
【0043】
したがって、洗浄条件を変えて図9に示す液交換性能評価の手順を繰り返す過程において、吸光度が予め想定していた吸光度Aに到達した時(すなわち液交換率が最大の100%の時)の洗浄条件が、穴部50内の表面の異物に作用した着色液80が外部の洗浄液70と完全に交換され穴部50を適切に洗浄できる洗浄条件と判定することができる。そして、当該洗浄条件を実際の洗浄対象物の洗浄条件として設定することができる。
【0044】
以上のように、液交換性能を評価するために、洗浄性能評価用部材10の穴部50内にトレーサとなる着色液80を評価指標液として封入しておき、洗浄性能評価用部材10の洗浄後に洗浄液70の吸光度を測定することで、洗浄後の穴部50内の液交換性能を評価することができ、当該液交換性能に基づいて簡易に洗浄性能を評価することができる。
【0045】
なお、上述した実施形態においては、液浸透性能を評価指標とした洗浄性能評価方法と、液交換性能を評価指標とした洗浄性能評価方法とを別々に説明した。この液浸透性能の評価結果と液交換性能の評価結果との何れか一方に基づいて洗浄性能を評価し、当該評価した洗浄性能から実際の洗浄対象物の洗浄条件を設定してもよいが、これに限定されることはなく、液浸透性能の評価結果と液交換性能の評価結果との両方に基づいて洗浄性能を評価し、当該評価した洗浄性能から実際の洗浄対象物の洗浄条件を設定してもよい。例えば、液浸透性能と液交換性能それぞれから適切な洗浄条件(減圧及び大気開放の回数及び時間)それぞれを判定した場合、判定したそれぞれの時間の平均値を最適な時間と評価してもよいし、判定したそれぞれの回数のうち大きい方の回数を最適な回数と評価してもよい。
【0046】
また、上述した実施形態では、洗浄性能評価用部材10の穴部50に着色液80を評価指標液として封入するとして説明したが、封入する評価指標液は着色液80に限らず、例えば不飽和の物質を含有した溶液のように、光の吸収率が洗浄液70と異なり、洗浄液70に添加される量に応じて洗浄液70の吸光度が変化する溶液であればよい。
【0047】
また、上述した実施形態では、吸光度に基づいて液交換率を算出するとして説明したが、これに限定されることはなく、例えば、評価指標液としてphが洗浄液70と異なる溶液を用いてもよい。この場合、液交換率は洗浄前後の洗浄液70のphに基づいて算出すればよい。
【0048】
また、評価指標液として、洗浄液70と導電率が異なる液を用いてもよく、この場合は、液交換率は洗浄前後の洗浄液70の導電率に基づいて算出すればよい。
なお、スリット板20に形成するスリット22の数は特に限定されず、図14に示すように複数でもよい。また、洗浄性能評価用部材10を構成するスリット板20の枚数についても特に限定されず、例えば図15に示すように、重ね合わせた複数のスリット板20の間を、押さえ部材30と略同じ形状の仕切り板30aで仕切ることで、穴部50を複数構成し、洗浄性能評価に必要な穴部50の容積を確保してもよい。
【0049】
以上のように、微細な穴を有する複雑形状の洗浄対象物表面の異物を分析して洗浄性能を評価する代わりに、洗浄対象物の表面の穴を模した穴部50を有する洗浄性能評価用部材10を簡易に作成して、この洗浄性能評価用部材10を用いて液浸透性能と液交換性能の一方を、又は両方を総合的に評価することで、複雑形状の洗浄対象物表面の異物を分析する必要がなく、洗浄に最適な減圧・大気開放の洗浄条件の設定を容易に行うことができる。
なお、洗浄対象物は太陽電池向けの多結晶シリコンに限定されることはなく、穴を有するものであればよい。
【符号の説明】
【0050】
10………洗浄性能評価用部材、20………スリット板、22………スリット、24………挿通孔、30………押さえ部材、32………挿通孔、40………押さえ用ボルト/ナット、50………穴部、60………空気、70………洗浄液、72………洗浄槽、74………超音波振動子、80………着色液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穴を有する洗浄対象物の代わりに洗浄槽内の洗浄液に浸漬され、前記洗浄槽内の減圧及び大気開放が繰り返される洗浄工程終了後に洗浄性能が評価される洗浄性能評価用部材であって、
側縁を切り欠いた1又は複数のスリットを有するスリット板と、
前記スリットを挟むように前記スリット板に結合した押さえ部材とを備え、
前記スリットが前記押さえ部材で挟まれた領域に外部と連通する空間が形成されることを特徴とする洗浄性能評価用部材。
【請求項2】
請求項1に記載の洗浄性能評価用部材において、
前記スリット板の表面及び前記押さえ部材の表面は、前記洗浄液に対する接触角度が前記洗浄対象物と同等の材質で形成されていることを特徴とする洗浄性能評価用部材。
【請求項3】
穴を有する洗浄対象物の代わりに、模擬的な穴部を形成した洗浄性能評価用部材を洗浄槽内の洗浄液に浸漬する浸漬工程と、
前記洗浄槽内の減圧及び大気開放を繰り返す洗浄工程と、
前記洗浄工程終了後に前記洗浄性能評価用部材の洗浄性能を評価する洗浄性能評価工程と、
を備えたことを特徴とする洗浄性能評価方法。
【請求項4】
請求項3に記載の洗浄性能評価方法において、
前記洗浄性能評価工程において、前記洗浄工程の前後における前記洗浄性能評価用部材の重量の変化に基づいて前記穴部への前記洗浄液の浸透性能を評価し、該浸透性能を前記洗浄性能の評価の指標として用いることを特徴とする洗浄性能評価方法。
【請求項5】
請求項3又4に記載の洗浄性能評価方法において、
前記浸漬工程において、前記穴部に評価指標液を封入した前記洗浄性能評価用部材を前記洗浄液に浸漬し、
前記洗浄性能評価工程において、前記穴部に封入された前記評価指標液がどの程度前記穴部の外に流出したかを示す液交換性能を評価し、該液交換性能を前記洗浄性能の評価の指標として用いることを特徴とする洗浄性能評価方法。
【請求項6】
請求項5に記載の洗浄性能評価方法において、
前記評価指標液は光の吸収率が前記洗浄液と異なる液であり、前記液交換性能は前記洗浄工程終了後の前記洗浄液の吸光度に基づいて評価されることを特徴とする洗浄性能評価方法。
【請求項7】
請求項3から6の何れか1項の洗浄性能評価方法において、
前記洗浄性能評価用部材は、側縁を切り欠いた1又は複数のスリットを有するスリット板と、前記スリットを挟むように前記スリット板に結合した押さえ部材とで形成され、前記模擬的な穴部は、前記スリットが前記押さえ部材で挟まれた、外部と連通する空間で形成されることを特徴とする洗浄性能評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−255344(P2011−255344A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133871(P2010−133871)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】