説明

洗浄酵素及び芳香生成

本発明はアシルトランスフェラーゼ及びアシルトランスフェラーゼに対するアルコール基質を含む組成物を提供する。幾つかの特に好適な態様において、この組成物は芳香性エステルの生成に用いられる。幾つかの他の態様において、この組成物は少なくとも1つのトリグリセリドを含む汚れを洗浄するための洗濯用洗剤に用いられる。幾つかの更なる態様において、この組成物は洗浄性質を有する化合物(例えば、界面活性剤エステル)を生成するために用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アシルトランスフェラーゼとアシルトランスフェラーゼに対するアルコール基質とを含む組成物を提供する。いくつかの特に好適な態様において、この組織は芳香性エステル生成に用いることができる。幾つかの他の態様において、該組成物は、少なくとも1つのトリグリセリドを含む汚れを洗浄するための洗濯用洗剤に用いることができる。いくつかの態様において、この組成物は、洗浄性質を有する化合物を製造するために用いる(例えば、界面活性エステル)。
【背景技術】
【0002】
衣類、特に汚れ(例えば、ミルク、アイスクリーム、又はバター)が付着した衣類は、リパーゼを含む洗濯用洗剤中で洗浄される。赤ちゃんの嘔吐物又は腐敗したバターの様な悪臭が乾燥した布製品からしばしは生じることがある。悪臭は布及び/又は洗濯洗浄水中に存在する、短鎖トリグリセリド(例えば、C4乃至C12トリグリセリド)をリパーゼが加水分解することにより生成されると信じられている。この加水分解反応は好ましくない臭気を有する短鎖脂肪酸(例えばブチル酸)を生成し、この短鎖脂肪酸は揮発性であり、頑固な悪臭を生じる。洗濯時に悪臭を防ぎ、及び/又は好ましくない香りを付与することについて多くの研究がなされているのも関わらず、この問題を解決するための洗浄組成物に対する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0003】
本発明はアシルトランスフェラーゼ及びこのアシルトランスフェラーゼのアルコール基質を含む組成物を提供する。幾つかの好適な態様において、この組成物は芳香性エステルの生成に用いることができる。幾つかの態様において、洗浄組成物は少なくとも1つのトリグリセリドを含む汚れを洗浄するための洗濯に用いることができる。幾つかの更なる態様において、この組成物は洗浄性能を有する化合物(例えば、界面活性エステル)を生成するために用いることができる。
【0004】
本発明は芳香性エステルを製造するための組成物を提供する。この組成物はSGNHアシルトランスフェラーゼ、SGNHアシルトランスフェラーゼに対するアルコール基質、及びアシル供与体を成分として含む。SGNHアシルトランスフェラーゼは、アシル供与体からアルコール基質にアシル基を移動させて、水生環境中で、芳香性ステルを生成する。幾つかの態様において、アルコール基質とアシルトランスフェラーゼとを選択して特定の芳香性エステルを生成する。幾つかの態様において、この組成物は芳香性エステルを更に含む、水溶性組成物である。幾つかの好適な態様において、アシル供与体はC1乃至C10アシル供与体である。幾つかの代替的な態様において、SGNHアシルトランスフェラーゼは固形担体上に担持されている。幾つかの更なる態様において、この組成物は無水組成物である。この芳香性エステルは組成物の再水和により生成される。幾つかの更なる追加的な態様において、この組成物は食品である。更なる態様において、この組成物は少なくとも1つの界面活性剤を含む洗浄用組成物である。幾つかの態様において、この組成物は過酸化水素を含む洗浄組成物である。
【0005】
本発明は少なくとも1つの芳香性エステルを生成するための方法も提供する。この方法はSGNHアシルトランスフェラーゼ、SGNHアシルトランスフェラーゼに対するアルコール基質、及びアシル供与体を組み合わせる工程を含む。このSGNHアシルトランスフェラーゼはアシル供与体からのアシル基をアルコール基質へ転移させて少なくとも1つの芳香性エステルを生成する。幾つかの態様において、アルコール基質とアシル供与体を選択して、特定の芳香性エステルを生成する。幾つかの態様において、アシル供与体はC2乃至C10アシル供与体である。更なる追加的な態様において、この方法は成分を組み合わせた後に、これらを水和する工程を含む。幾つかの代替的な態様において、再水和は撹拌の間に行われる。更なる態様において、SGNHアシルトランスフェラーゼ、アルコール基質、及びアシル供与体は、水性環境中で組み合わせられる、幾つかの代替的な態様において、SGNHアシルトランスフェラーゼは固形担体上に担持されている。
【0006】
本発明は、漂白剤と芳香剤を同時に生成するための方法も提供する。この方法は、SGNHアシルトランスフェラーゼ、SGNHアシルトランスフェラーゼに対するアルコール基質、及びアシル供与体を組み合わせる工程を含む。この方法において、SGNHアシルトランスフェラーゼはアシル供与体からのアシル基をアルコール基質へ転移させて、芳香剤及び漂白剤を生成する。幾つかの態様において、漂白剤は過酸である。幾つかの特に好適な態様において、この過酸は過酢酸である。いくつかの更に好適な態様において、SGNHアシルトランスフェラーゼは、マイコバクテリウム・スメグマチス(M.smegmatis)アシルトランスフェラーゼである。幾つかの追加的な態様において、この芳香剤はエステルである。幾つかの更なる態様において、このエステルは1級アルコールのC2乃至C6エステルである。幾つかの更なる態様において、この漂白剤をシミに適用すると、これを除去することができる。
【0007】
本発明は、アシルトランスフェラーゼ(例えば、SGNHアシルトランスフェラーゼ)及びこのアシルとのアルコール基質を含む洗浄組成物を提供する。
【0008】
これらの態様の幾つかにおいて、アシルトランスフェラーゼ及びアルコール基質はアシル供与体を含む物質が洗浄組成物と接触したときに、検出可能なエステルを生成するのに有効な量で存在する。幾つかの態様において、洗浄組成物は更に、アシル供与体含有物質と、トランスフェラーゼにより触媒されるアルコール基質と、アシル供与体の間の反応の結果生じたエステルとを含む。幾つかの好適な態様において、アシル供与体はC1乃至C10アシル供与体である。
【0009】
幾つかの態様において、この洗浄組成物は、アルコール基質と反応する追加的なアシル供与体(例えば、トリグリセリド、脂肪酸エステル)を含む。幾つかの特徴に好適な態様において、この組成物により生成されたエステルは、芳香性エステル、界面活性エステル、界面活性剤、又は布ケア製品、又はこれらの組み合わせである。
【0010】
幾つかの態様において、アシル供与体を含む物質は、アシル供与体で汚されている。幾つかの好適な態様において、このアシル供与体は、動物性油脂、植物性油脂、乳製品由来の油性基質である。幾つかの更に好適な態様において、アシル供与体及びアルコール基質の組み合わせは、芳香性エステル、界面活性エステル、水溶性エステル、又は布ケア製品、又はこれらの任意の組み合わせを生じる。即ち、本発明は有利な点の組み合わせを提供する。
【0011】
幾つかの態様において、洗浄組成物は、更に少なくとも1つのリパーゼを含む。幾つかの追加的な態様において、この洗浄組成物は更に少なくとも1つの界面活性剤及び/又は少なくとも1つの過酸化物の源を含む。幾つかの態様において、洗浄組成物の界面活性剤又は乳化剤はアルコール基質上で作用してアシル基を転移させる。
【0012】
幾つかの更なる態様において、本発明の洗浄組成物は、ヘミセルラーゼ、ペルオキシダーゼ、プオテアーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ、リパーゼ、フォルフォリザーゼ、エステラーゼ、クチナーゼ、ペクチナーゼ、ペクチン酸リアーゼ、アミラーゼ、マンナーゼ、ケラチナーゼ、リダクターゼ、オキシダーゼ、フェノールオキソダーゼ、リポオキシゲナーゼ、リグニナーゼ、プルラナーゼ、タンナーゼ、ペントサナーゼ、マナラーゼ、ベータグルカナーゼ、アラビノキシラーゼ、ヒアルロニダーゼ、コンドロイチナーゼ、ラッカーゼ、及びアミラーゼ、又はこれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない、少なくとも1つの追加的な酵素を更に含む。幾つかの態様において、プロテアーゼ、リパーゼ、クチナーゼ及び/又はセルラーゼ等の従来利用されている酵素を含む酵素混合物(すなわち、カクテル)が用いられる。
【0013】
幾つかの更なる態様において、洗浄組成物は、本明細書において詳述されているように、界面活性剤、ビルダー、ポリマー、塩、漂白活性剤、溶媒、緩衝剤、又は香料等の少なくとも1つを含む。
【0014】
幾つかの態様において、洗浄組成物は水溶性組成物である。幾つかの好適な態様において、洗浄組成物は少なくとも90%の水を含み、いかなる固形成分も含まない。
【0015】
本発明は本明細書で提供される洗浄組成物を用いる洗浄方法も提供する。この方法はアシルトランスフェラーゼ(例えば、SGNHアシルトランスフェラーゼ)、このアシルトランスフェラーゼに対するアルコール基質、及びアシル供与体含有基質で汚された目的物(例えば、布)を組み合わせる工程を含む。このアシルトランスフェラーゼはアシル供与体からのアシル基をアルコール基質上に転移してエステルを生成する。
【0016】
幾つかの態様において、この目的物はオイル含有基質(例えば、C4乃至C18トリグリセリドを含む基質のような、トリアシルグリセリド含有基質)で汚されたものである。幾つかの好適な態様において、オイル含有基質及びアルコールの組み合わせ、即ちエステルは芳香性エステルである。他の態様において、非芳香性エステルが生成される。更なる態様において、界面活性剤又の布ケア剤、又はこれらのエステルの組み合わせが生成される。
【0017】
幾つかのこれらの態様において、このアシルトランスフェラーゼ酵素を使用すると、リパーゼ酵素との相互作用により、トリアシルグリセリドからアシル鎖の除去速度を速め、及び/又はアシル鎖をアルコール基質に結合させて、トリグリセリドの加水分解により通常生成されている悪臭の量を減らす。従って揮発性脂肪酸よりもエステルが生成される。
【0018】
幾つかの好適な態様において、本発明は芳香性エステルを生成するための組成物を提供する。幾つかの態様において、この組成物はアシルトランスフェラーゼ(例えば、SGNHアシルトランスフェラーゼ)、このアシルトランスフェラーゼに対するアルコール基質、アシル供与体を含む。このアシルトランスフェラーゼは水性環境において、アシル供与体からアルコール基質へとアシル基を転移して芳香性エステルを生成する。幾つかの特に好適な態様において、このアルコール基質及びアシル供与体は特定の芳香性エステルを生成するために用いられる。幾つかの態様において、この組成物は芳香性エステルを更に含む水溶性組成物である。幾つかの他の態様において、この組成物は無水組成物である、芳香性エステルは組成物の後の再水和工程において生成される。
【0019】
幾つかの態様において、アシル供与体はC1乃至C10アシル鎖をアルコール基質に供与する。幾つかの特に好適な態様において、芳香性エステルを生成するための組成物は洗浄組成物である。
【0020】
幾つかの態様において、アシルトランスフェラーゼは固形担体に担持されている。
【0021】
幾つかの更なる態様において、この組成物は食品を含む。幾つかに態様において、この組成物は洗浄組成物である。幾つかの更なる態様において、この組成物は更に少なくとも1つの界面活性剤を含む。
【0022】
本発明は本明細書において提供された組成物を用いて少なくとも1つの芳香性エステルを生成する方法も提供する。通常、これらの方法はアシルトランスフェラーゼ(例えば、SGNHアシルトランスフェラーゼ)、このアシルトランスフェラーゼに対するアルコール基質、アシル供与体を組み合わせる工程を含む。このアシルトランスフェラーゼはアシル基をアシル供与体からアルコール基質に転移して芳香性エステルを生成する。幾つかの好適な態様において、アルコール基質及びアシル基は特定の芳香性エステルを生成する。
【0023】
組成物が再無水物である幾つかの態様において、この方法は更に成分を組み合わせた後で、組成物を再水和する工程を含む。幾つかの態様において、再水和は、水、ミルク、又は唾液を含む任意の好適な水溶性媒体の添加により起こる。従って、幾つかの態様において、再脱水は撹拌の間に生じ、芳香性エステルを放出する。幾つかの他の態様において、アルコール基質及びアシル供与体は水性環境中で組み合わされる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
以下の詳細な説明は添付の図面と一緒に参照したときに、最もよく理解されるであろう。実際の実施では、図面の各種側面は縮尺の通りではない。対照的に、各種側面の範囲は明確化のために広げられたり狭められたりする。
【図1】図1は、トリブチリン及び2つのアシルトランスフェラーゼを用いた、シス−3−ヘキサノール、2−フェニルエタノール、及び2−メチル−1−ブタノールをそれぞれのブチルエステルへの転化を示す。
【図2】図2はトリアセチンでシス−3−ヘキサノールをエステル化するために用いるアシルトランスフェラーゼの遊離形態とゾルゲルカプセル化された形態との、10分、30分、及び120分での比較を示す。
【図3】図3は、洗浄環境中で、トリブチリン及びAcTを用いたテトラエチレングリコールのトランスエステル化を示すLC/MSデータのグラフのパネルである。
【図4】洗浄環境中で、トリブチリン及びAcTを用いた13C−U−グリセロールのトランスエステル化を示すLC/MSデータのグラフのパネルである。
【図5】図5は、リパーゼ及びAcTの存在下で、バター脂及びベンジルアルコールからのベンチルブチレートの生成を示すグラフを提供する。
【図6】図6はバター脂からの芳香性エステルの生成のための例示的な方法を図示したものである。
【図7】図7は黄身/ソルビトールを1)KLM3変異体pLA231及び2)対照でインキュベーションしたときの脂質のTCL解析の結果を提供する。
【図8】図8はKL3、pLA231で処理したサンプル2467−112−1、黄身/ソルビトールのGLCクロマトグラムを提供する。
【図9】図9はサンプル2467−112−2、黄身/ソルビトール対照サンプルのGCLクロマトグラムを提供する。
【図10】図10は、KLM3、pLA231(2467−112−1)で処理した黄身/ソルビトールにおける同定されたピークのGrindstedSMO及びMSスペクトラムから同定されたソルビトールモノオレエートのGLC/MSスペクトルを提供する。
【発明の説明】
【0025】
本発明は、アシルトランスフェラーゼ及びアシルトランスフェラーゼに対するアルコール基質を含む組成物を提供する。幾つかの特定の態様において、この組成物は芳香性エステルの生成に用いられる。幾つかの他の態様において、この組成物は少なくとも1つのトリグリセリドを含む汚れを洗浄するための洗浄組成物中に用いられる。幾つかの更なる態様において、この組成物は洗浄性質を有する組成物(界面活性エステル)を生成するために用いる。
【0026】
特に定義しない限り、本発明の特定の側面の実施は、分子生物学、微生物学、タンパク質精製、タンパク質工学、タンパク質及びDNA配列決定、及び組み換えDNAの分野において通常用いられている、当業者の知識の範囲内である技術を含む。本明細書において言及する(前述及び後述の両方)全ての特許、特許出願、文献、及び刊行物は参照により本明細書に援用される。
【0027】
更に、本明細書における標題は本発明の各種側面又は本発明の態様を限定するために用いるものではない。本発明は明細書全体を通じて理解されるべきである。即ち、以下で定義される用語は明細書全体としてより十分に定義されるものである。しかしながら、本発明の理解を促進するために幾つかの用語を以下で定義する。
【0028】
定義
特に定義しない限り、全ての技術的及び科学的擁護は本発明の属する分野の当業者により通常理解されているのと同じ意味に用いられる。本明細書で説明されている方法と似た又は同じ方法が本明細書で開示されている発明の実施に用いることができるけれども、本明細書において例示的な方法及び物質を開示する。本明細書において、「1つの」、「この」という文言は、特に言及されていない限り、複数を含むものとする。特に定義しない限り、核酸配列は左から右に5’から3’方向に表記し、アミノ酸配列は左から右に向かってアミノ末端からカルボキシ末端に表記する。当業者により用いられる方法論、プロトコル及び試薬は適宜変化するので、本発明を特定の方法論、プロトコル、試薬に限定することを意図しないということは理解されるであろう。
【0029】
本明細書を通じてされている各数値限定の最大値はそれぞれの数値限定のより小さい数値を含み、そのような下位の数値限定は本願明細書に表記されているものとみなされる。本明細書を通じてされている各数値限定の最小値はそれぞれの数値限定のより大きい数値を含み、そのようなより大きい数値限定は本願明細書に表記されているものとみなされる。本明細書を通じて提供される各数値範囲は、その数値範囲に含まれるより狭い数値範囲を含み、そのようなより狭い数値範囲は本願明細書に記載されているものとみなされる。
【0030】
本明細書において、「アシル基」の語は、化学式(RC=O)の有機官能基を意味する。
【0031】
本明細書において、「アシル化」の語は1つの分子(アシル供与体)からアシル基(RCO−)を他の分子(基質)へ転移する化学反応を意味する。この反応は通常アシル基を有する基質の−OH基の水素を置換することにより行われる。
【0032】
本明細書において、「アシル供与体」の語は、アシルトランスフェラーゼ反応におけるアシル基を提供する分子を意味する。
【0033】
本明細書において、「アルコール基質」の語は炭素原子に結合している反応性水酸基(−OH)を含む任意の有機分子を意味する。この語にはポリサッカライド及びタンパク質は含まない。水はアルコール基質ではない。アルコール基質の例としては、脂肪酸アルコール、脂環式又は芳香族アルコール、テルペンアルコール、及びモノメリック、ジメリック、トリメリック、及びテトラメリックポリオールを含む、ポリオールを含むがこれらに限定されない。幾つかの態様において、アルコールは1つ以上の水酸基を含む。アルコール基質は以下で説明するアシルトランスフェラーゼ反応においてアシル基を受けとることができる。幾つかの態様において、アルコールは第一級、第二級、又は第三級アルコールである。
【0034】
本明細書において、「トランスフェラーゼ」の語は、官能化化合物を基質の範囲へ転移することを触媒する酵素である。
【0035】
本明細書において用いる「アシルトランスフェラーゼ」はアシル供与体(例えば、脂質)からアルコール基質へアシル基を転移させることができる、E.C.2.3.1.xとして通常分類される酵素を意味する。
【0036】
本明細書において、「GDSXアシルトランスフェラーゼ」の語は、通常N末端付近にある、GDSX配列モチーフ(XはしばしはLである)を含む特定の活性部位を有するアシルトランスフェラーゼを意味する。GDSX酵素は5つのコンセンサス配列を有する(I−V)。これらの酵素は知られている(例えば、Uptonら、Trends Biochem. Sci.,20:178−179[1995];及びAkohら、Prog. Lipid Res.,43:534−52[2004]参照)。GDSXアシルトランスフェラーゼのサブセットはコンセンサス配列中に保存されたSG及びH残基を含む。このようなGDSXアシルトランスフェラーゼが「SGNHアシルトランスフェラーゼ」である。
【0037】
本明細書において、「SGNHアシルトランスフェラーゼ」はSGNHヒドロラーゼファミリーのアシルトランスフェラーゼを意味し、SGNHヒドロラーゼファミリーのメンバーは三層、アルファー/ベータ/アルファ構造を有するSGNHヒドロラーゼタイプエステラーゼドメインを含んでいる。このβシートは5つの平行ストランドからなる。このドメインを含む酵素はエステラーゼ、リパーゼ、及びアシルトランスフェラーゼとして作用するが、典型的なリパーゼに相同な配列はほとんど有していない。(例えば、Akohら、Prog.Lipid Res.,43:534−552[2004];及びWeiら、Nat. Struct.Biol.,2:218−223[1995]参照)。
【0038】
SGNHヒドロラーゼタイプエステラーゼドメインを含むタンパク質は様々な株に存在し、ストレプトマイセス・スカビエス(Streptomyces scabies)からのエステラーゼ(Sheffieldら、Protein Eng.,14:513−519[2001]);インフルエンザCウイルス、コロナウイルス、及びトロウイルス(toroviruses)からのウイルス性血球凝集素エステラーゼ糖タンパク質表面のエステラーゼ(Molgaardら、Acta Crystallogr.D58:1 11−119[2002]);哺乳類アセチルヒドロラーゼ(Loら、J.Mol.Biol.,330:539−551[2003]);糸状菌ラムノガラクツロナン(rhamnogalacturonan)アセチルエステラーゼ(Molgaardら、Structure 8:373−383[2000]);及び大腸菌(Escherichia coli)由来のマルチファンクショナル酵素チオステラーゼI(Molgaardら、Acta Crystallogr.D60:472−478[2004])を含むがこれらに限定されない。SGNHヒドロラーゼタイプのエステラーゼドメインはその触媒中心を安定にする独特の水素結合ネットワークを含む。幾つかの好適な態様において、これらは保存されたSer/Asp/His触媒トリアドを含む。SGNHアシルトランスフェラーゼはGENEBANK(商標)(参照により本明細書に援用される)の保存ドメインデータベースにおいて、登録番号cd01839.3としても説明されている。SGNHアシルトランスフェラーゼはアシル供与体と接触してアシル−酵素中間体を形成し、アシル基を水以外の受容体に転移させる。
【0039】
本明細書において、「標準的なリパーゼ」の語は、リパーゼ活性を有し、セリン活性部位を含む記号GXSXGモチーフを有する酵素を意味する(例えば、Derewendaら、Biochem Cell Biol.,69:842−51[1991]参照)。幾つかの態様において、この標準的なリパーゼは、トリアシルグリセリドのsn1及びsn3位に特異性を有するトリアシルグリセリドリパーゼである。
【0040】
SGNHアシルトランスフェラーゼ及びGDSLアシルトランスフェラーゼは同じ構造を有しており、両者は標準的なリパーゼとは構造的に異なる。
【0041】
本明細書で用いる「トランスエステル化」の語は、脂質供与体(遊離脂肪酸以外のもの)からアシル受容体(水以外のもの)へアシル基を酵素的触媒により転移する反応を意味する。
【0042】
本明細書において、「アルコール分解」の語は、生成物の1つがアルコールのHと結合して、他の生成物がアルコールのRO基と結合するように、アルコールROHと反応することにより、酸誘導体の共有結合が酵素触媒的に切断されることを意味する。
【0043】
本明細書において、「加水分解」の語は脂質から水分子のOH基にアシル基が酵素触媒的により転移することを意味する。
【0044】
本明細書において、「水溶性組成物」及び「水溶性環境」のように用いられる、「水溶性」の語は少なくとも50%が水である組成物又は環境を意味する。幾つかの態様において、水溶性組成物は少なくとも約50%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、又は少なくとも約97%の水を含む。幾つかの態様において、水溶性組成物の残りの部分は少なくとも1つのアルコールを含む。
【0045】
幾つかの好適な態様において、「水溶性」の語は蒸留水と比較して、少なくとも約0.75、少なくとも約0.8、少なくとも約0.9、又は少なくとも約0.95の水活性(Aw)を有する組成物を意味する。
【0046】
本明細書において、「芳香性エステル」の語は好ましい芳香又は味を有するエステルを意味する。この語は芳香性エステル及び風味豊かなエステルの両方を包含する。そのようなエステルは当業者に知られている。
【0047】
本明細書において、「布ケア剤」の語は、洗浄性能を有し及び/又は布製品に利益を提供する化合物を意味する。そのような化合物は界面活性剤及び乳化剤を含む。幾つかの態様において、布ケア剤は柔軟性、布の感触の改善、毛羽立ちの除去、色維持のような利益を提供する。
【0048】
本明細書において、「界面活性エステル」の語は界面活性剤性質を有するエステルを意味する。界面活性剤は液体の表面張力を低める化合物である。
【0049】
本明細書において、「検出可能な芳香」の語は、ヒトの鼻又は味蕾により環出可能な芳香性エステルの量を意味する。マススペクトルにのみ検出されるだけの量で存在し、ヒトの鼻又は味蕾では検出されない量の芳香性エステルは検出可能ではない。
【0050】
本明細書において、「目的物」の語は、洗浄されるべきアイテムを意味する。本発明は洗浄に適した全ての目的物を包含し、布製品(例えば、衣類)、室内装飾品、カーペット、硬表面(例えば、カウンタートップ、床、等)、又は食器(例えば、皿、コップ、受け皿、ボウル、カトラリー、銀食器、等)を含むがこれらに限定されない。
【0051】
本明細書において、「シミのついた」又は「汚れた」の語は目的物が汚い状態であることを意味する。シミは、汚されるべき目的物をヒトが目で見たときに、視認可能である必要はない。例えば、シミのついた又は汚された目的物は動物(例えば、乳製品)、植物、ヒトの汗、等からの脂肪基質を含んでいる目的物(例えば、布製品)である。
【0052】
本明細書において、「乳製品」の語はミルク(例えば、全乳、低脂肪乳、無脂肪乳、又は高脂肪乳)、又はあらゆるタイプのチーズ(例えば、クリームチーズ、ハードチーズ、ソフトチーズ、等)、バター、ヨーグルト、及びアイスクリームのようなミルクから製造された製品を意味する。即ち、ミルクからの生成物は全てこの定義に含まれるので、本発明を特定の乳製品に限定することは意図しない。
【0053】
本明細書において、「アシル供与体含有目的物」の語はアシル供与体(例えば、トリグリセリド)を含む目的物を意味する。幾つかの態様において、アシル供与体はシミとして存在する。
【0054】
本明細書において、固定化酵素の文脈上用いる「固定化された」の語は、基質(例えば、固体又は準固体担体)に付着していて(例えば、繋がれた)、溶液中で遊離していない酵素を意味する。
【0055】
本明細書において、「溶液中」の語は基質に固定化されていない及び液体組成物に遊離した状態である分子(例えば、酵素)を意味する。
【0056】
本明細書において、「検出可能なエステルを生成するための有効量」の文脈上に用いる「有効量」及び「有効的な量」の語は、用いる条件下で所望の生成物を生成するための成分(例えば、酵素、基質、アシル供与体、又はこれらの任意の組み合わせ)の量を意味する。
【0057】
本明細書において、「過酸化水素の源」の語は、反応生成物として過酸化水素を自然発生的に又は酵素的に生成することができるシステムの成分のほかに過酸化水素も含む。
【0058】
本明細書において、「パーソナルケア組成物」の語はシャンプー、ボディーローション、シャワーゲル、局所的な保湿剤、歯磨き粉、及び/又は局所的なクレンザーを含むがこれらに限定されない、毛髪、皮膚、頭皮、及び/又は歯の洗浄、漂白、及び/又は殺菌に用いる製品を意味する。幾つかの特に好適な態様において、これらの生成物はヒトに用いるが、他の態様においてはヒト以外の動物(例えば、獣医用)用製品に用いられる。
【0059】
本明細書において、「洗浄組成物」及び「洗浄製剤」の語は、布、皿、コンタクトレンズ、他の固形基質、毛髪(シャンプー)、皮膚(石鹸及びクリーム)、歯(マウスウォッシュ、歯磨き粉)等の洗浄されるべきアイテムから好ましくない化合物を除去するのに用いる組成物を意味する。この語は、組成物が、組成物中に存在するアシルトランスフェラーゼ及び他の酵素又は成分と適合している限り、所望の洗浄成分及び/又は製品のタイプ(例えば、液体、ゲル、顆粒、又はスプレー組成物)について選択される任意の物質/組成物を包含する。洗浄組成物物質の特定の選択は実際には洗浄される目的物/表面及び使用している間の洗浄条件下に対する組成物所望の形状を考慮して、容易に決定される。
【0060】
この語は更に、任意の目的物/表面を洗浄、漂白、殺菌及び/又は滅菌するのに適した組成物を意味する。この語は洗浄組成物(例えば、液体及び/又は固体洗濯用洗剤及びおしゃれ着用洗剤;ガラス、木、セラミック、及び/又は金属カウンタートップ、及び窓等の洗浄に用いる硬表面用洗剤;カーペットクリーナー;オーブンクリーナー;布製品フレッシュナー;柔軟剤;及び布用及び洗濯用プレスポッター、並びに食器用洗剤)を含むがこれらに限定されない洗浄組成物を含むことを意図する。
【0061】
即ち、「洗浄組成物」の語は別途定義しない限り、本明細書において、顆粒又は粉末形状の全ての目的用の洗浄剤又は非常に汚れたものの洗浄剤、特に洗剤;液体、月又はペースト形状のすめての目的の洗浄剤、特に非常に汚れたものの洗浄剤(HLD)、液体状のおしゃれ着洗い用洗剤、手洗い用食器用洗剤又は軽く汚れた食器用洗剤、特に高発泡タイプのもの;各種タブレット、顆粒、液体、及び/又はリンスタイプを含む家庭用及び企業用食器洗浄機用洗剤;殺菌ハンドウォッシュタイプ、石鹸、マウスウォッシュ、入れ歯洗浄剤、車又はカーペットシャンプー、バスルーム洗浄剤を含む液体洗浄及び殺菌剤;ヘアシャンプー及びヘアリンス;シャワーゲル及び泡風呂及び金属クリーナー;並びに漂白添加剤及び「シミスティック」「前処理剤」及び/又は「予備洗浄」タイプのような補助的な洗剤を示す。
【0062】
本明細書において、「洗剤組成物」及び「洗剤製剤」の語は固形目的物の洗浄のために洗浄媒体中に用いる目的の混合物を意味する。いくつかの態様において、この語は、布製品及び/又はガーメントの洗浄に用いられる(例えば、洗濯)。いくつかの代替的な態様において、この語は洗浄洗剤、銀食器、カトラリー等の洗浄に用いる、他の洗剤を意味する(例えば、「食器用洗剤」)。本発明を特定の製剤又は組成物に限定することは意図しない。即ち、アシルトランスフェラーゼに加えて、この語は界面活性剤、他のトランスフェラーゼ、加水分解及び酵素、酸化還元酵素、ビルダー、漂白剤、漂白活性剤、青味剤及び蛍光漂白剤、ケーキ抑制剤、マスキング剤、酵素活性剤、抗酸化剤、及び可溶化剤を含む洗剤を包含する。
【0063】
本明細書において、「硬表面洗浄組成物」は床、カウンタートップ、キャビネット、壁、タイル、バス及びキッチンの取り付け家具等の硬表面を洗浄するための洗剤組成物を意味する。そのような組成物は固形、液体、乳状等を含むがこれらに限定されない任意の形態で提供される。
【0064】
本明細書において、「食器洗浄組成物」の語は、ゲル、顆粒、及び液体形態を含むがこれらに限定されない食品組成物及び食品の取り扱いに用いることも目的とする、食器及び他の道具を洗浄するための組成物の全ての形態を意味する。
【0065】
本明細書において、「布洗浄組成物」は、ゲル、顆粒、液体、及びバー形態を含むがこれらに限定されない布製品の洗浄のための洗剤組成物の全ての形態を意味する。
【0066】
本明細書において、「テキスタイル」の語は、ヤーン、織布、ニット、及び不織布に転換するか又はこれらとして用いるのに適した繊維及びフィラメントだけでなく、織り布製品を意味する。この語は合成(例えば、工場で製造された)繊維だけでなく、天然由来繊維も包含する。
【0067】
本明細書において、「テキスタイル材料」の語は、繊維、ヤーン中間体、ヤーン、布繊維、及び布から作られたもの(例えば、ガーメント及び他の製品)についての一般的な用語である。
【0068】
本明細書において、「布製品」の語はあらゆるテキスタイル材料を包含する。従って、この語は、布、ヤーン、繊維、不織布材料、天然材料、合成材料、及び任意のテキスタイル材料のほかにガーメントを包含する。
【0069】
本明細書において、「適した」の語は、通常のアシルトランスフェラーゼを用いる条件の間に効果を失う程度にアシルトランスフェラーゼの酵素活性を洗浄組成物の材料が減らさないことを意味する。特定の洗浄組成物物質は本明細書において例示する。
【0070】
本明細書において、「酵素の有効量」の語は、特定の製品において必要とされている酵素活性を達成するための酵素の量を意味する。そのような有効量は当業者が容易に決定することができ、用いられる酵素及び変異体の種類、洗浄製品、洗浄組成物の特定の組成物、及び液体、ゲル、又は乾燥(例えば、顆粒)組成物が必要とされているかどうか、といった因子に依存している。
【0071】
本明細書において、「非布洗浄組成物」の語は硬表面洗浄組成物、食器洗浄組成物、パーソナルケア洗浄組成物(例えば、口腔洗浄組成物、入れ歯洗浄組成物、パーソナルケア洗浄組成物、等)、及びパルプ及び製紙工業で用いるのに適した組成物を包含する。
【0072】
本明細書において、「酵素的転換」の語は基質又は中間体を酵素と接触させて、基質を中間体へ転換すること又は中間体を最終生成物に転換することを意味する。いくつかの態様において、接触は適切な酵素へ基質又は中間体を直接曝すことにより達成される。幾つかの他の態様において、接触は基質又は中間体を酵素を発現及び/又は分泌する及び/又は所望の基質及び/又は中間体を所望の中間体及び/又は最終生成物に代謝することができる有機体に曝すことを含む。
【0073】
本明細書において、「所望のタンパク質」の語は解析、同定、及び/又は修飾されるタンパク質(例えば、酵素又は所望の酵素)を意味する。所望の組換え体のほかに自然発生体も本発明に用いることができる。
【0074】
本明細書において、「タンパク質」の語はアミノ酸からなる組成物及び/又はタンパク質であると当業者に認識されている組成物を意味する。「タンパク質」、「ペプチド」、及びポリペプチドの語は本明細書において互換的に使用される。ペプチドはタンパク質の一部分である場合、当業者は文脈上この語が用いられていることを理解することができる。
【0075】
本明細書において、機能的に及び/又は構造的に類似しているタンパク質は「関連タンパク質」であると考えられる。幾つかの態様において、これらのタンパク質は有機体(例えば、バクテリアタンパク質及び/又は糸状菌タンパク質)の異なるクラス間の、異なる遺伝子及び/又は種由来である。幾つかの態様において、これらのタンパク質は有機体(例えば、バクテリア酵素及び/又は糸状菌酵素)の異なるクラス間の、異なる遺伝子及び/又は種由来である。追加的な態様において、関連タンパク質は同じ種から提供される。すなわち、本発明を任意の特定の源からの関連タンパク質に限定することは意図しない。更に、「関連タンパク質」の語は3次構造の類似体及び1次配列相同体を含む。更なる態様において、この語は免疫学的に交差反応性であるタンパク質を包含する。
【0076】
本明細書において、「誘導体」の語は、C末及びN末のいずれか又は両方への1つ以上のアミノ酸の付加、アミノ酸配列中の1つ以上の異なる部位における1つ以上のアミノ酸の置換、及び/又はタンパク質のいずれか又は両方の末端、あるいはアミノ酸配列中の1つ以上の部位における1つ以上のアミノ酸の欠失、及び/又はアミノ酸配列中の1つ以上の部位における1つ以上のアミノ酸の挿入により、タンパク質から誘導されるタンパク質を意味する。タンパク質変異体の調製は、天然タンパク質をコードしているDNA配列の修飾、DNA配列を好適な宿主内で軽鎖転換、及び修飾されたDNA配列を発現させて、誘導体タンパク質を形成することにより達成することができる。
【0077】
関連(及び誘導)タンパク質は「変異タンパク質」を含む。幾つかの態様において、変異タンパク質は親タンパク質とは、お互いの幾つかのアミノ酸残基において、親タンパク質とは異なる。異なるアミノ酸残基の数は、1つ以上(例えば、約1、約2、約3、約4、約5、約10、約15、約20、約30、約40、約50、又はそれ以上)のアミノ酸残基である。幾つかの態様において、変異体の間の異なるアミノ酸の数は、約1乃至約10の間である。幾つかの特に好適な態様において、関連タンパク質及び特定の変異タンパク質は少なくとも約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約97%、約98%、又は約99%のアミノ酸同一性を有する。更に、本明細書における関連タンパク質又は変異タンパク質はプロミミネント領域の数が、他の関連タンパク質又は親タンパク質とは異なるタンパク質を意味する。例えば、幾つかの態様において、約1、約2、約3、約4、約5、又は約10の親タンパク質とは異なる対応するプロミネント領域を変異タンパク質は有している。
【0078】
部位飽和変異誘発、スキャニング変異誘発、挿入変異誘発、ランダム変異誘発、部位指定変異誘発、及び誘導進化、並びに他の組換えアプローチを含むがこれらに限定されない、本発明の酵素の変異体の生成に好適ないくつかの方法は当業者に知られている。
【0079】
幾つかの態様において、相同体タンパク質を改変して、所望の活性を有する酵素を生成する。幾つかの態様において、改変されたタンパク質はタンパク質のSGNH−ヒドロラーゼファミリーに含まれる。幾つかの態様において、改変されたタンパク質は以下の保存残基の少なくとも1つの組み合わせを含む:L6、W14、W34,L38、R56、D62、L74、L78、H81、P83、M90、K97、G110、L114、L135、F180、G250。代替的な態様において、これらの改変されたタンパク質はGDSL−GRTT及び/又はARTTモチーフを含む。更なる態様において、この酵素は2量体、8量体、及び4量体を含むがこれらに限定されない多量体である。
【0080】
幾つかの態様において、一次構造の相同体を確立するために、アシルトランスフェラーゼのアミノ酸配列をアシルトランスフェラーゼの一次アミノ酸配列とアシルトランスフェラーゼ中で変化しないと知られている配列のセットと直接比較する。保存残基のアラインメントの後、必要な挿入及び欠失を行い、アラインメントを維持するために(即ち、任意の欠失及び挿入による保存残基の排除を避けるために)、アシルトランスフェラーゼの一次配列中の特定のアミノ酸に等しい残基を決定する。幾つかの態様において、保存残基のアラインメントは100%等しい残基を定義する。しかしながら、約70%よりおおきい又は約50%程度のアラインメントも保存残基の決定に適している。いくつかの態様において、触媒セリン及びヒスチジンの保存が維持されている。
【0081】
幾つかの態様において、保存残基は他のアシルトランスフェラーゼ(例えば、他の微生物のほかに、他のマイコバクテリウム(Mycobacterium)種からのアシルトランスフェラーゼ)においてマイコバクテリウム・スメグマチス(M.smegmatis)アシルトランスフェラーゼの等しいアミノ酸残基に対応すると定義される。
【0082】
本発明の幾つかの態様において、WO05/056782において定義されているマイコバクテリウム・スメグマチス(M.smegmatis)アシルトランスフェラーゼをコードしているDNA配列が修飾される。幾つかの態様において、以下の残基が修飾される:Cys7、Asp10、Ser11、Leu12、Thr13、Trp14、Trp16、Pro24、Thr25、Leu53、Ser54、Ala55、Thr64、Asp65、Arg67、Cys77、Thr91、Asp94、Asp95、Try99、Val125、Pro138、Leu140、Pro146、Pro148、Trp149、Phe150、Ile153、Phe154、Thr159、Thr186、Ile192、Ile194、及びPhe196。しかしながら、本発明は各種修飾及び修飾の組み合わせを包含する。即ち、本発明を特定の修飾及び修飾の組み合わせに限定することは意図しない。
【0083】
いくつかの態様において、等しい残基は三次及び四次元構造がx線結晶解析により決定されているアシルトランスフェラーゼの3次元及び4次元構造のレベルにおいて相同性を決定することにより決定される。この文脈において、「等しい残基」の語はカルボニルヒドロラーゼ及びマイコバクテリウム・スメグマチス(M.smegmatis)アシルトランスフェラーゼの特定のアミノ酸残基の主鎖の2つ以上の原子配列(N上のN、CAのCA、CのC、及びOのO)がアラインメントの後に0.13nm乃至約0.1nmの間にあることを意味する。アラインメントは、ベストモデルがマイコバクテリウム・スメグマチス(M.smegmatis)アシルトランスフェラーゼの意図するアシルトランスフェラーゼの非水素原子の原子配列の最大重複を与えるために、方向付けされ、位置あわせされたときに達成される。当業者に知られているように、ベストモードは最も高い利用可能な実験解析データについて最も低いR値が与えられている結晶解析モデルである。マイコバクテリウム・スメグマチス(M.smegmatis)アシルトランスフェラーゼの特定の残基に機能的及び/又は構造的に相同である等しい残基は、タンパク質構造を改変、修飾、又は調節するように、優先的にコンフォメーションに適合されて、マイコバクテリウム・スメグマチス(M.smegmatis)アシルトランスフェラーゼの特定の残基の定義及び貢献において結合及び/又は触媒作用を変更するアシルトランスフェラーゼのアミノ酸であると定義される。更に、これらは(三次構造がX線結晶解析により得られている場合)この残基の側鎖の少なくとも2つの原子配置がマイコバクテリウム・スメグマチス(M.smegmatis)アシルトランスフェラーゼの対応する側鎖原子の0.13nm以内にあるアシルトランスフェラーゼの残基である。マイコバクテリウム・スメグマチス(M.smegmatis)アシルトランスフェラーゼの二次構造の配置は決定されており、WO05/056782の実施例14で定義されており、三次構想のレベルで等しい残基を決定するために用いられる。
【0084】
野生型及び変異タンパク質の特徴付けは、好適な任意の手段を用いて行うことができ、好ましくは所望の性質を評価することにより行われる。例えば、pH及び/又は温度、並びに洗剤及び/又は酸化安定性本発明の幾つかの態様において決定されている。即ち、これらの性質の1つ以上において様々な程度の安定性(pH、温度、タンパク質分解安定性、洗剤安定性、及び/又は酸化安定性)を有する酵素が用いられることを意図する。
【0085】
本明細書において用いる「〜対応する」の語は、タンパク質又はペプチドの中の列挙された位置における残基又はタンパク質又はペプチドにおける列挙された位置とは異なる、相同な、又は等しい残基を意味する。
【0086】
本明細書において、「対応する領域」の語は、関連又は親タンパク質に沿った位置を意味する。
【0087】
「〜をコードしている核酸分子」、「〜をコードしている核酸配列」、「〜をコードしているDNA配列」、及び「〜をコードしているDNA」の語は、デオキシリボ核酸の鎖に沿ったデオキシヌクレオチドのオーダー又は配列を意味する。これらのデオキシリボヌクレオチドのオーダーは、ポリペプチド(タンパク質)鎖に沿ったアミノ酸配列をコードする。DNA配列は従って、アミノ酸配列コードする。
【0088】
本明細書おいて、「異種配列」の語は、所望のタンパク質と(即ち、所望のオリジナルタンパク質)、同様の機能、三次構造、及び/又は保存残基を提供するタンパク質内の配列を意味する。例えば、アルファヘリックス又はベータシート構造を含むエピトープ領域において、異種配列中の置換アミノ酸は同じ特異的構造を維持している。幾つかの態様において、異種配列を開発して置換アミノ酸が変異酵素中で同様の又は改善された機能を示すようにすることができる。幾つかの好適な態様において、所望のタンパク質中のアミノ酸の三次構造及び/又は保存残基は所望のセグメント又はフラグメント上に又はそれらの近くに位置している。従って、所望のセグメント又はフラグメント、例えば、アルファヘリックス又はベータシート構造のある場所では、置換アミノ酸が特定のその特定の構造を維持している。
【0089】
本明細書において、「相同タンパク質」の語は、所望のタンパク質(例えば、他の源からのアシルトランスフェラーゼ)と似た作用及び/又は構造を有するタンパク質(例えば、アシルトランスフェラーゼ)を意味する。従って、この語は異なる種から得られた同じ又は似た酵素(即ち、構想及び機能の点において)を包含する。幾つかの好ましい態様において、相同体由来の異なるセグメントを有する所望のタンパク質中のセグメント又はフラグメントの置換は変更の阻害が少ないことから、所望のタンパク質に対して、四次的の、三次的及び/又は一次的構造の類似性有する相同体を特定することが好ましい。幾つかの態様において、相同タンパク質は所望のタンパク質と似た免疫反応を誘発する。
【0090】
本明細書において、「相同遺伝子」の語は異なる種由来の遺伝子の少なくとも一部分を意味し、この遺伝子はお互いに対応しており、お互いに同一又は非常に類似している。この語は、種により分離されている遺伝子(即ち、新たな種の開発)(例えば、オーソロガス遺伝子)だけでなく、遺伝子の複製により分離された遺伝子(例えば、パラロガス遺伝子)を含む。これらの遺伝子は「相同タンパク質」をコードしている。
【0091】
本明細書において、「オーソログ」及び「オーソロガス遺伝子」の語は、種形成により共通の遺伝子祖先(即ち、相同遺伝子)から進化した、異なる種の遺伝子を意味する。通常、オーソロガスは進化の過程で同じ機能を維持している。オーソロガスの同定は新たに配列決定されたゲノムにおいて、遺伝子の機能を予測することに用いられる。
【0092】
本明細書において、「パラログ」及び「パラロガス遺伝子」の語はゲノム内の複製に関係する遺伝子を意味する。オーソロガス遺伝子は進化の間に同じ機能を維持しているのに対して、パラロガスは、同じ機能はもとの遺伝子に基づいているものの、新たな機能を獲得している。パラロガス遺伝子の例としては、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、及びトロンビンがあり、これらは全てセリンプロテアーゼであり、同じ種の中で発生する。
【0093】
本明細書において、「野生型」、「天然」、「自然発生」タンパク質の語は自然界に見られるものを意味する。「野生型配列」及び「野生型遺伝子」の語は、本明細書において互換的に使用され、宿主細胞中で発生する天然又は自然的な配列を意味する。この自然発生的なタンパク質をコードしている遺伝子は当該分野において知られている方法により得ることができる。このような方法は、所望のタンパク質の成熟配列をコード領域を有する標識プローブを合成し、タンパク質を発現している有機体からのライブラリーを調製し、及びこのプローブのハイブリダイゼーションにより所望の遺伝子のライブラリーをスクリーニングする工程を含む。
【0094】
配列間の相同性は任意の好適な方法を用いて決定することができる(例えば、Smith及びWaterman、Adv.Appl.Math.,2:482[1981];Needleman及びWunsch,J.MoI.Biol.,48:443[1970];Pearson及びLipman、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:2444[1988];ウィスコンシン遺伝子ソフトウェアパッケージ(The Wisconsin Genetics Software Package)(遺伝子コンピユータグループ、マジソン、ウィンスコンシン)のGAP、BESTFIT、FASTA、及びTFASTAのようなプログラム;並びにDevereuxら、Nucl. Acid Res.,12:387−395[1984]参照)。
【0095】
本明細書において、「核酸配列の同一性パーセント(%)」の語はある配列の核酸配列に同一である候補配列の核酸残基のパーフェンテージを意味する。
【0096】
本明細書において、「ハイブリダイゼーション」の語は、ベースペアリングを通じて、核酸の鎖が相補的な鎖に結合する工程を意味する。
【0097】
本明細書において、「ハイブリダイゼーション条件」の語はハイブリダイゼーション反応が行われる条件を意味する。これらの条件は通常ハイブリダイゼーションを測定する条件のストリンジェンシーの程度により分類される。ストリンジェンシー条件の程度は、例えば、複合体又はプローブが結合する核酸の融点(Tm)に基づいている。例えば、「最大ストリンジェンシーは通常Tm−5℃(プローブのTmの−5℃)で行われ、「高ストリンジェンシー」はTmの約5乃至10℃以下で行われ、「中ストリンジェンシー」はTmの約10乃至20℃以下で行われ、「低ストリンジェンシー」はTmの約20乃至25℃以下で行われる。代替的に、又は追加的に、ハイブリダーゼーション条件はハイブリダーゼーションの塩又はイオン強度条件及び/又は1つ以上の洗浄ストリンジェンシーに基づいている。例えば、6xSSCは非常に低いストリンジェンシー、3xSSCは低乃至中ストリンジェンシー、1xSSCは中ストリンジェンシー、及び0.5xSSCは高ストリンジェンシーである。機能的に、最大ストリンジェンシー条件はハイブリダイゼーションプローブに厳密に同一又は準厳密に同一な核酸配列を同定するために用いられる。一方、高ストリンジェンシー条件はプローブに約80%以上の配列同一性を有する核酸配列を同定するために用いられる。
【0098】
高度な選択性を必要としている場合、幾つかの態様において、相対的ストリンジェンシー条件を用いてハイブリダイズさせることが好ましい(例えば、相対的に低い塩及び/又は高い温度条件が用いられる)。
【0099】
少なくとも2つの核酸又はポリヌクレオチドについて用いる「実質的に類似している」及び「実質的に同一」の語は、通常、ポリヌクレオチド又はポリペプチドを対照となる配列(即ち、野生型)と比較して、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約97%、ときたま、少なくとも約98%及び約99%の配列同一性を有していることを意味する。配列同一性は標準的なパラメーターを用いてBLAST、ALIGN、及びCLUSTAL等の当業者に知られているプログラムを用いて決定することができる(例えば、Altschulら、J.MoI.Biol.215:403−410[1990];Henikoffら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915[1989];Karinら、Proc.Natl.Acad.Sci USA 90:5873[1993];及びHigginsら、gene 73:237−244[1988]参照)。BLSAT解析を行うためのソフトウェアは全米バイオテクノロジー情報センター(the National Center for Biotechnology Information)から入手可能である。FASTAを用いてデータベースを検索してもよい(Pearsonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:2444−2448[1988])。2つのポリペプチドが一旦実質的に同一であるとされると、第一ポリペプチドが第二ポリペプチドに対して免疫学的に交差反応性であることが言える。通常、保存されたアミノ酸置換による異なるポリペプチドは免疫学的に交差反応性である。従って、例えば、2つのポリペプチドが保存された置換によりのみ異なることは、このポリペプチドは第二ポリペプチドに対して実質的に同一であると言える。2つの核酸配列が実質的に同一であるということは、ストリンジェント条件下(例えば、中乃至高ストリンジェンシーにおいて)で、2つの分子がお互いにハイブリダイズすることを意味している。
【0100】
「回収された」、「単離された」、及び「分離された」の語は本明細書において、タンパク質、細胞、核酸、又はアミノ酸が、自然発生的に関係のある少なくとも1つの成分から除去されていることを意味する。特定のケースにおいて、単離されたタンパク質は培地中に分泌されこの培地から回収されたものを意味する。
【0101】
「組換体」の語は宿主細胞中で自然発生しないポリヌクレオチド又はポリペプチドを意味する。組換分子は自然発生的ではない方法でお互いに結合された2つ以上の自然発生配列を含む。組換え細胞は組換ポリペプチド又は組換ポリヌクレオチドを含む。組換方法を用いて生成されたタンパク質はこのタンパク質をもともと生成しない宿主細胞を用いて生成される。
【0102】
「異種の」の語は通常お互いに関連のない要素を意味する。例えば、もし宿主細胞が異種タンパク質を生成するならば、このタンパク質は通常この宿主細胞では生成されない。同様に、異種のコード配列に作動可能に結合しているプロモーターは、野生型宿主細胞において通常作動可能に結合していないコード配列に作動可能に結合しているプロモーターである。ポリヌクレオチド又はタンパク質の発現について用いる、「相同体」の語は発現される宿主細胞中に自然発生的に生成するポリヌクレオチド又はタンパク質を意味する。
【0103】
本明細書において、「宿主細胞」の語は通常、当業者に知られている組み換えDNA技術を用いて構築されたベクターを用いて形質転換又は形質感染することができる真核又は原核宿主を意味する。形質転換された宿主細胞は変異体タンパク質をコードするベクターを複製するか、又は所望の変異タンパク質を発現するかのいずれかを行うことができる。変異タンパク質のプレ又はプレプロ形態をコードしているベクターの場合、そのような変異体が発現されると通常、宿主細胞から宿主細胞の培地に分泌される。
【0104】
幾つかの態様において、本発明は水性環境中で、アシル供与体(例えば、C2乃至C20エステル)からアルコール基質へアシル基を転移することを効果的に触媒する特定のアシルトランスフェラーゼの活性に関する。本明細書で詳細に説明するように、幾つかの態様において、これらの酵素の活性は好ましい芳香又は臭いを有するエステルを生成するのに好適である。幾つかの他の態様において、これらの酵素の活性は好ましくは洗浄製品中の悪臭を減らすことに用いられる。
【0105】
特定の酵素、アルコール基質、又はアシル供与体、に限定することは意図しないけれども、本発明の明細書で説明する方法の態様の理解するための目的で、主題となる方法のいくつかの態様により実施される反応を以下に示す。この反応において「AcT」はアシルトランスフェラーゼを意味する。
【化1】

【0106】
特定の酵素、アルコール基質、又はアシル供与体、に限定することは意図しないけれども、本発明の明細書で説明する方法の態様の理解するための目的で、例えば、アシルトランスフェラーゼ酵素を用いて、ゲラニオール又はシトロネロール等のテルペンアルコールに好適なアシル供与体(例えば、トリブチリン又はトリアセチン等のトリグリセリド)からアシル基を転移して、芳香性エステルを生成する。同様に、他の態様において、このアシルトランスフェラーゼは油汚れの悪臭を減らすために用いられる。幾つかの特に好適な態様において、この油汚れは乳製品の汚れである。これらの悪臭の低減/回避する態様において、AcT酵素はトリグリセリドの加水分解により生成される不快な臭いの揮発性脂肪酸(例えば、酪酸)の量を減らすために用いられる。幾つかの態様において、このアシルトランスフェラーゼ酵素は少なくとも1つのリパーセ酵素と相互作用して、トリグリセリドからのアシル鎖の除去を高める。他の態様において、このアシルトランスフェラーゼはアシル鎖をアルコール基質に結合させて、揮発性脂肪酸よりも、エステル生成物を生成する。幾つかの態様において、このアシルトランスフェラーゼは2つの方法で作用する。幾つかの態様において、トリアシルグリセリドからのアシル鎖がアルコール基質に結合して芳香性エステルを生成する。これらの態様において、不快な臭いのする揮発性脂肪酸よりも芳香性エステルが副生成物として生成される。図6においてこの態様の概要を示す。
【0107】
これらの態様及び任意の他の態様を以下で詳述する。
【0108】
以下の詳細な説明に先立って、アシル供与体からのアシル基をアルコール基質に転移することを促進できる能力を有する各種他の酵素を用いて、以下で説明する方法によりエステルを生成することも意図することを理解いただきたい。そのような酵素は、リパーセ、アシル−CoA依存トランスフェラーゼ、フォスフォリラーゼ、クチナーゼ、GDSXヒドロラーゼ、SGNHヒドロラーゼ、セリンプロテアーゼ、及びエステラーゼ、並びにアシル供与体に接触してアシル−酵素中間体を形成して、アシル基を水以外のアシル受容体に転移することができる任意の酵素を含むがこれらに限定されない。
【0109】
幾つかの態様において、この酵素は野生型酵素であり、他の態様において、この酵素は野生型酵素と比較して、改変された基質特異性又は高められたアシルトランスフェラーゼ活性を有するように修飾された酵素を生じる、修飾されたアミノ酸配列を有している。更なる態様において、追加的な成分を本発明に用いることもできる。
【0110】
アシルトランスフェラーゼ
前述のように、本発明は少なくとも1つのアシルトランスフェラーゼを含むエステルを生成するための組成物及びこの酵素を用いる方法を提供する。本発明の組成物のアシルトランスフェラーゼはアシル供与体からのアシル基をアルコール基質に転移することを触媒する能力を有するいずれの酵素でもよい。前述のように、幾つかの対応の酵素が本発明の方法に用いることができる。幾つかの態様において、用いられる酵素は水よりもアルコール基質に高い特異性を有している。幾つかのこれらの態様において、この酵素は相対的に低いヒドロラーゼ活性を有し(即ち、水の中に存在し得るアシル供与体を加水分解する能力が相対的に乏しい)、且つ相対的に高いアシルトランスフェラーゼ活性を有する(即ち、アルコールが存在する水性環境中で、アシル供与体を加水分解する)。ここにおいて、アルコール分解:加水分解の比は約1.0より高く、少なくとも約1.5、少なくとも2.0である。幾つかの態様において、このアシルトランスフェラーゼは水よりも過酸に特性性が高く、その結果、過酸洗浄剤を生成する(例えば、過加水分解:加水分解の比は約1.0より高く、少なくとも約1.5、又は少なくとも2.0である)。
【0111】
幾つかの態様において、GDSXアシルトランスフェラーゼ、特にSGNHアシルトランスフェラーゼが用いられる。本発明に用いるSGNHアシルトランスフェラーゼの例としては、NCBIのジェンバング(商標)においてYP_890535(GID:11846860;WO05/056782も参照; マイコバクテリウム・スメグマチス(M.smegmatis));NP_436338.1(GID:16263545;シノリゾビウム・メリロティ(Sinorhizobium meliloti));ZP_01549788.1(GID:118592396;スタピアアグリゲート(Stappia aggregate));NP_066659.1(GID:10954724;アグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes));YP_368715.1(GID:78065946;バークホルデリア属(Burkholderia sp.));YP_674187.1(GID:110633979;メソヒゾビウム属(Mesorhizobium sp.));及びNP_532123.1(GID:17935333;アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens))として登録されている野生型SGNHアシルトランスフェラーゼ、これらの野生型オーソログ又はホモログ、及びこれらの野生型酵素に対して少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、又は少なくとも約98%の同一性であるアミノ酸配列を有するそれらの変異体を含む。これらのGENEBANK(商標)登録番号はここに記載の核酸及びタンパク質配列及びそれらの配列の注釈を含め、参照により本明細書に援用する。そのような酵素の更なる例としては、当業者に知られている標準的は配列比較方法(例えば、BLAST等)を用いたNCBIジェンバンク(商標)データベースの配列相同性検索により得られた酵素を含む。幾つかの態様において、このアシルトランスフェラーゼはGENBANK(商標)エントリーYP_890535(GLD:11846860;マイコバクテリウム・スメグマチス(M.semgmatis);WO05/056782参照)で定義されるアミノ酸配列に少なくとも約70%の配列相同性を有する。
【0112】
SGNHアシルトランスフェラーゼ酵素の更なる例を以下に示す。これらは種をGNEBANK(商標)登録番号で定義される。アグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)(Q9KWA6)、アグロバクテリウム・リゾゲネ(A.rhizogenes)(Q9KWB1)、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(A.tumefaciens)(Q8UFG4)、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(A.tumefaciens)(Q8UAC0)、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(A.tumefaciens)(Q9ZI09)、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(A.tumefaciens)(ACA)、プロシェコバクター・デボンティイ(Prosthecobacter dejongeii)(RVM04532)、リゾビウム・ロチィ(Rhizobium loti)(Q98MY5)、リゾビウム・メリロティ(R.meliloti)(Q92XZ1)、リゾビウム・メリロティ(R.meliloti)(Q9EV56)、リゾビウム・リゾジーン(R.rhizogenes)(NF006)、リゾビウム・リゾジーン(R.rhizogenes)(NF00602875)、リゾビウム・ソラナセラム(R.solanacerarum)(Q8XQI0)、シノリゾビウム・メリロティ(Sinorhizobium meliloti)(RSM02162)、シノリゾビウム・メリロティ(S.meliloti)(RSM05666)、メソリゾビウム・ロティ(Mesorhizobium loti)(RMLO00301)、アグロバクテリウム・リゾジーン(A.rhizogenes)(Q9KWA6)、アグロバクテリウム・リゾジーン(A.rhizogenes)(Q9KWB1)、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)(AAD02335)、メソリゾビウム・ロティ(Mesorhizobium loti)(Q98MY5)、メソリゾビウム・ロティ(Mesorhizobium loti)(ZP00 197751)、ラルストニア・ソラナセアラム(Ralstonia solanacearum)(Q8XQI0)、ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)(ZP00 166901)、モラクセラ・ボビス(Moraxella bovis)(AAK53448)、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)(ZP00216984)、クロモバクテリウム・ビオラセウム(Chromobacterium violaceum)(Q7NRP5)、ピレルラ属(Pirellula sp.)(NP_865746)、ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)(AA007232)、サルモネラ・ティフィリウム(Salmonella typhimurium)(AAC38796)、シノリゾビウム・メリロティ(Sinorhizobium meliloti)(SMal993)、シノリゾビウム・メリロティ(Sinorhizobium meliloti)(Q92XZ1)及びシノリゾビウム・メリロティ(Sinorhizobium meliloti)(Q9EV56)。これらのタンパク質のアミノ酸配列、配列アラインメント、及び他の全ての情報はWO05/056782からの全ての目的のために、参照のより本明細書に援用する。
【0113】
そのような酵素の幾つかの例は結晶化され、保持された又は改変された活性を有する各種酵素に提供される多くの例示的なアミノ酸置換がWO05/056782に記載されている。該文献を参照により本明細書に援用する。マイコバクテリウム・スメグマチス(M. smegmatis)ペルヒドロラーゼの加水分解活性、過加水分解活性、過酸分解活性、及び/又は安定性に委ねられている及び/又は幾つかの態様において用いられるアミノ酸置換の数百のリストがWO50/056782の表10−3、10−4、10−5、10−6、10−7、10−8、及び10−9に定義されている。WO05/056782に記載のアミノ酸置換をSGNHアシルトランスフェラーゼファミリーの他のメンバーに適用して、SGNHアシルトランスフェラーゼの構造類似体を得ることができる。WO05/056782に記載のアミノ酸置換及びこれらの置換により生成されたアミノ酸配列を参照により本明細書に援用する。
【0114】
幾つかの態様において、本明細書で用いるアシルトランスフェラーゼはアセチルCoA依存酵素ではない。幾つかの代替的な態様において、本発明に用いるGDSX又はSGNHアシルトランスフェラーゼは野生型アシルトランスフェラーゼ、カンジダ・パラプローシス(Candida parapsilosis)、エロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)又はエロモナス・サルモニシダ(Aeromonas salmonicida)であり、他の態様において、このアシルトランスフェラーゼはこれらに少なくとも約95%の同一なこれらの変異体である。
【0115】
本発明に用いられるアシルトランスフェラーゼは当分野における従来技術を用いて生成、単離される。幾つかの態様において、アシルトランスフェラーゼの生成は組換技術と非天然宿主を用いて行われ、アシルトランスフェラーゼは細胞内で生成されるか、又はアシルトランスフェラーゼが分泌される。幾つかの態様において、シグナル配列が酵素に付加されて、(即ち、グラム陰性有機体において、例えば、E.coli)、ペリプラズマへの、又は(即ち、グラム陽性有機体において、バチルス及びアクチノマイセス等の)細胞外スペースへの、又は真核生物宿主細胞(例えば、トリコデルマ(Trichoderma)アスペルギルス(Aspergillus)、サッカロマイセス(Saccharomyces)、及びピチア(Pichia))の酵素の分泌を促進させる。本発明の発現宿主細胞として他の有機体も用いることができるので、本発明の側面をこれらの特定の宿主細胞に限定することを意図しない。
【0116】
例えば、バチルス細胞は細胞外タンパク質(例えば、プロテアーゼ)を発現するのに適していることが知られている。タンパク質の細胞内発現はそれほど知られていない。バチルススブチリスの細胞内で酵素タンパク質を発現させるには、遺伝子の5’末端のシグナル配列の不存在下において、pVeg、pSPAC、pAprE、又はpAmyEを含むがこれらに限定されないプロモーターを用いることがある。幾つかの態様において、発現は複製プラスミド(高い又は低いコピー数)から達成され、他の態様において、発現は所望の構築体を染色体に取り込ませることにより行われる。取込は任意の遺伝子座で行うことができ、aprE、amyE、又はpps遺伝子座を含むがこれらに限定されない。幾つかの態様において、酵素は取り込まれた構築体の1つ以上のコピーから発現される。代替的な態様において、複数の取り込まれたコピーが複製をすることができる構築体の融合により(例えば、抗生物カセットに結合された及び直接繰返しにより隣接した)又は複数のコピーの結合により得ることができ、その後染色体に取り込まれる。幾つかの態様において、複製プラスミド又は組み込まれた構築体のいずれかを有する酵素の発現は、好適な培地中でのpNB活性を評価してモニターすることによりモニターすることができる。
【0117】
バチルスの場合のように、幾つかの態様において、グラム陽性宿主細胞、ストレプトコッカスでの酵素の発現は複製プラスミドを用いて達成することができ、他の態様において、酵素の発現はベクターをストレプトコッカス染色体に組み込むことにより達成することができる。ストレプトコッカスが認識することができる任意のプロモーターを酵素遺伝子の転写の操作に用いることができる(例えば、グルコースイソメラーゼプロモーター、A4プロモーター)。複製プラスミド、シャトルベクター又はストレプトマイセスみのいずれか、も発現のために本発明に用いることができる(例えば、pSECGT)。
【0118】
他の態様において、酵素は糸状菌宿主細胞(例えば、ピチア属(Pichia sp.)、アスペルギルス属(Aspergillus sp.)又はトリコデルマ属(Trichoderma sp.)宿主細胞)を含むがこれらに限定されない、他の宿主細胞で生成させることができる。
【0119】
幾つかの態様において、酵素は酵素が宿主細胞が培養されている培地から回収することができるように、宿主細胞から分泌される。
【0120】
一旦培地に酵素が分泌されると、酵素は、任意の好適な及び/又は従来の方法(例えば、沈殿法、遠心法、親和法、親和クロマトグラフ法、イオン交換クロマトグラフ法、疎水相互作用クロマトグラフ法、二相分離法、エタノール沈殿法、逆相HPLC、シリカ又はDEAE等のカチオン樹脂上のクロマトグラフ、クロマトフォーカシング、DSD−PAGE、塩化アンモニウム沈殿法、ゲルろ過法(例えば、Sephadex G−75)、ろ過法又は当分野の任意の既知の方法)により回収される。即ち、多くの好適な方法が当業者に知られている。幾つかの態様において、酵素は培養培地の他の成分から精製されずに用いられる。これらの態様において、培地は単に濃縮され、この培地の他の成分からタンパク質を更に精製することなしに用いられる。他の態様において、更なる修飾を加えずに酵素を用いる。
【0121】
アルコール基質
本発明に用いることができるアルコール基質は、ヒドロキシ含有ポリサッカライド及びタンパク質以外の炭素原子に結合する反応性ヒドロキシル基を含む任意の有機分子を含む。幾つかの態様において、このアルコール基質はZ−OHで示すことができ、式中、Zは任意の分岐鎖、直鎖、環状、芳香族又は、直鎖有機官能基、又はこれらの任意の置換体である。幾つかの態様において、Zは置換又は未置換の、2乃至30炭素原子を含むアルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、アルキニイル、アリール、アルキルアリール、アルキルヘテロアリール、又はヘテロアリール基である。幾つかの更なる態様において、Zは脂肪族部分、脂環式又は芳香部分により置換されている脂肪族部分である(例えば、テルペン)。幾つかの他の態様において、アルコール基質はグリコール含有分子(例えば、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリテトラヒドロフラン)のようなポリオールである。好適なアルコール基質は単量体のポリオール(例えば、グリセリン)のほか、2量体、3量体、及び4量体のポリオール、並びにエリスリトール、イソマルチトール、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、及びキシリトール等の糖アルコールを含む。幾つかの態様において、ポリオールは式、(Z−OH)n又はZ−(OH)nで表され、式中、nは少なくとも約1、約2、約3、約4、約5、又は約6(例えば、nは1乃至4)である。幾つかの態様において、このアルコールは界面活性剤又は乳化剤の一部分として存在する(例えば、NEODOL(商標)洗剤等の高度に直鎖な1級アルコール)。
【0122】
幾つかの態様において、以下で説明する芳香性エステル生成に用いるアルコール基質は式、Z−OHで示され、式中、Zは脂環式又は芳香族部分であり、又は例えば、テルペンである。
【0123】
本発明の方法に用いることができるアルコール基質の例としては、エタノール、メタノール、グリセロール、プロパノール、ブタノール、及び以下の表1乃至3で示すアルコール基質があるが、これらに限定されない。
【0124】
アシル供与体
本発明の方法に用いるアシル供与体は転移可能なアシル基を有する任意の有機分子である。幾つかの態様において、典型的なアシル供与体は式、RC(=O)ORを有するエステルであり、式中R及びRは独立して、任意の有機分子であり他の分子でもよい。幾つかの態様において、好適なアシル供与体は単量体であり、他の態様において、二量体、三量体、及びより多量体を含む、ポリオールである。
【0125】
本明細書において、「短鎖アシル供与体」は、式RC(=O)ORで表されるエステルであり、式中、Rは少なくとも1乃至9炭素原子の鎖を含む任意の有機部分であり、Rは任意の有機部分である。短鎖アシルエステルは2乃至10炭素原子(即ち、C2乃至C10炭素鎖)のアシル鎖を含む。長鎖アシルエステルの例としては、C6、C7、C8、C9、C10炭素原子を含む。例示的な長鎖アシルエステルは、アセチルプロピル、ブチル、ペンチル、又はヘキシル基等を含む。
【0126】
「長鎖アシル供与体」は式RC(=O)ORで表されるエステルであり、式中、Rは少なくとも10炭素原子の鎖を含む任意の有機部分であり、Rは任意の有機部分である。例えば、幾つかの態様において、長鎖アシル供与体はC11、C12、C13、C14、C15、C16、C17、C18、C19、C20、C21、又はC22アシル鎖を含む。
【0127】
本発明に用いる例示的なエステルは以下の式で表される:
Ox[(R)m(R)n]p
式中、RはH、あるいは置換又は未置換のアルキル、ヘテロアルキル、アルキルニイル、アリール、アルキルアリール、アルキルへテロアリール、及びヘテロアリールからなる群より選択される。幾つかの態様において、Rは約1乃至約50,000炭素原子、約1乃至約10,000炭素原子、又は約2乃至約100炭素原子を含む。Rは任意に置換されたアルコキシレート部分である(幾つかの態様において、各Rは独立してエトキシレート、プロポキシレート、又はブトキシレート部分である)。Rは、式、RCO−を有するエステル形成部分であり、式中、Rは水素、置換又は未置換アルキル、アルケニル、アルキルニイル、アリール、アルキルアリール、アルキルへテロアリール、及びヘテロアリールであり(幾つかの態様において、Rは、5乃至22又はそれ以上の炭素原子を含む直鎖又は分岐鎖のアルキル、アルキルアリール、アルキルへテロアリール、又はヘテロアリール部分であり、又はRは置換又は未置換のC5乃至C11又はより長いアルキル部分、又はRは置換又は未置換のC11乃至C12又はそれより長いアルキル部分である)。xはRがHである場合は1である。RがH以外の場合、xはRの炭素数以下の整数である。pはx以下の整数である。mは0乃至50、0乃至18、又は0乃至12の整数である。nは少なくとも1である。
【0128】
幾つかの本発明の態様において、エステル部分を含む分子は式、
Ox[(R)m(R)n]p
を含むアルキルエトキシレート又はプロポキシレートである。式中、RはC2乃至C23の置換又は未置換のアルキル又はヘテロアルキル部分であり、各Rは独立して、エトキシレート又はプロポキシレート部分であり、Rは式、RCO−を有するエステル形成部分であり、RはH、置換又は未置換のアルキル、アルケニル、アルキルニイル、アリール、アルキルアリール、アルキルへテロアリール、及びヘテロアリールであり、幾つかの態様において、Rは5乃至22又はこれ以上の炭素原子を含む、置換又は未置換の直鎖又は分岐鎖のアルキル、アルケニル、又はアルキルニイル部分であり、あるいは、5乃至12又はこれ以上の炭素原子を含むヘテロアリール部分、あるいは、置換未置換のC5乃至C10又はこれ以上のアルキル部分、あるいは置換又は未置換のC5乃至C22又はこれ以上のアルキル部分である。xはRの炭素数以下の整数である。pはx以下の整数である。mは1乃至12の整数である。nは少なくとも1である。
【0129】
本発明の幾つかの態様において、エステル部分を含むこの分子は以下の式を有する:
Ox[(R)m(R)n]p
式中、RはH又は1級、2級、3級、又は4級アミン部分を含む部分であり、このR部分は置換又は未置換のアルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、アリール、アルキルアリール、アルキルヘテロアリール、及びヘテロアリール部分から選択される。幾つかの態様において、Rは約1乃至約50,000炭素原子、約1乃至約10,000炭素原子、又は約2乃至約100炭素原子を含む。各Rはアルコキシレート部分(幾つかの態様において、各Rは独立してエトキシレート、プロポキシレート、又はブトキシレート部分である)。Rは式、RCO−で表されるエステル形成部分であり、RはH、置換又は未置換アルキル、アルケニル、アルキルニイル、アリール、アルキルアリール、アルキルへテロアリール、及びヘテロアリールであり、幾つかの態様において、Rは5乃至22炭素原子を含む置換又は未置換の直鎖又は分岐鎖のアルキル、アルケニル、又はアルキルにいる部分、あるいは、9乃至12又はこれ以上の炭素原子を含む置換又は未置換のアリール、アルキルアリール、アルキルへテロアリール、又はヘテロアリール、あるいは置換又は未置換のC5乃至C10又はこれ以上のアルキル部分、あるいは、置換又は未置換のC11乃至C22又はこれ以上のアルキル部分である。xはRがHである場合、1であり、RがH以外の場合はRの炭素数以下の整数である。pはx以下の整数である。mは0乃至12又は1乃至12である。nは少なくとも1である。
【0130】
好適なアシル供与体は、動物由来トリグリセリド、乳製品由来トリグリセリド、植物由来トリグリセリド、及び合成トリグリセリドを含み、トリアセチン、トリブチリン、及び長鎖分子を含むがこれらに限定されない。これらはアセチル基、ブチル基、及び長鎖アシル基をそれぞれ提供する。ジアシルグリセリド、モノアシルグリセリド、フォスフォリピッド、グリコリリピッドも本発明に用いることができる。幾つかの態様において、ジアシル−及びトリアシルグリセリドは同じ脂肪酸鎖を含み、他の態様において、これらは異なる脂肪酸鎖を含む。他の好適なエステルは、p−ニトロフェノールエステルを含む色素形成エステルを含む。追加的なエステルは脂肪族エステル(例えば、エチルブチレート)、イソプレノイドエステル(例えば、シトロネロールアセテート)、及び/又は芳香族エステル(例えば、ベンジルアセテート
を含む。
【0131】
本発明の洗浄製品の態様において、アセチル供与体は目的物の上に存在している(例えば、目的物の上の汚れとして)。幾つかの特定の好適な態様において、このアシル供与体はその場で本発明の組成物により脱アシル化される。
【0132】
幾つかの態様において、本明細書で説明する芳香性エステル精製方法の幾つかはアセチル及びブチル基のような、短鎖(例えば、C2乃至C10)アシル基の転移を必要とする。
【0133】
洗浄組成物
本発明は少なくとも1つのアシルトランスフェラーゼ及びこのアシルトランスフェラーゼに対する少なくとも1つのアルコール基質を含む洗浄組成物も提供する。幾つかの態様において、この洗浄組成物はその場でアシル供与体分子(例えば、トリグリセリド)を含む汚れを洗浄する目的で製剤化される。従って、幾つかの態様において、アシルトランスフェラーゼ及びアルコール基質はアシル供与体含有目的物に洗浄組成物が接触したときに検出可能なエステルを生成するのに効果的な量で組成物に含まれている。幾つかの態様において、洗浄組成物がアシル供与体含有目的物に接触すると、アシル供与体含有目的物を更に含み、この反応により生成されたエステルはアシルトランスフェラーゼによりアルコール基質をアシル供与体の間で触媒作用を受ける。前述のように、幾つかの態様において、このアシルトランスフェラーゼはSGNHアシルトランスフェラーゼである。幾つかの追加的な態様において、洗浄組成物はアルコール基質及びアシルトランスフェラーゼを含み、アシル供与体からのアシル基がアシルトランスフェラーゼによりアルコール基質に転移されて、布ケア剤(例えば、界面活性剤エステル)が生成される。
【0134】
幾つかの態様において、アルコール基質は、洗浄組成物に存在する界面活性剤又は乳化剤としても機能する、二機能性分子である。そのようなアルコール基質の例としては、脂肪アルコール(例えば、C8乃至C18直鎖又は分岐鎖脂肪アルコール)、例えば、セチルアルコール(例えば、ヘキサデカン−1−オール)、脂肪酸由来の脂肪アルコールエトキシレート(例えば、NEODOL(商標)エトキシレート)、及びポリオールエトキシレート(例えば、グリセリンエトキシレート)を含み、これらは通常、洗浄組成物に用いられている。
【0135】
以下で詳述するように、本発明の洗浄組成物は、固形(例えば、固形物質に吸着されている酵素及びアルコール基質を用いる)、液体、及びゲルを含む任意の好適な形態で提供することができる。幾つかの好適な態様において、この組成物は濃縮形態で提供することができる。幾つかの他の態様において、洗浄組成物はスプレー又は洗浄前処理剤として用いられる。洗浄組成物を使用するためには(例えば、洗浄組成物の溶解又は希釈)水を利用する。従って、少なくとも50%の水、及び他のケースでは約50%乃至役99.9%の水が含まれる。幾つかの態様において、目的とする洗浄組成物中のアルコール基質が効果を示すための濃度は、約0.0001%乃至約50%(v/v又はw/v)、約1%以下、約0.1%以下、約0.01%以下、約0.001%以下である。幾つかの態様において、目的とする洗浄組成物中のアシルトランスフェラーゼ酵素が効果を示すための濃度は、約0.01ppm(百万分率、w/v)乃至約1000ppm、約0.01ppm乃至約0.05ppm、約0.05ppm乃至約0.1ppm、約0.1ppm乃至約0.5ppm、約0.5ppm乃至約1ppm、約1ppm乃至約5ppm、約5ppm乃至約10ppm、約10ppm乃至約50ppm、約50ppm乃至約100ppm、約100ppm乃至約500ppm、又は約500ppm乃至約1000ppmである。
【0136】
幾つかの態様において、本発明の洗浄組成物は更に少なくとも1つのリパーゼ(例えば、IUBMB酵素命名法によりEC3.1.1.3で定義される活性を有するトリアシルグリセロールリパーゼ)を含む。幾つかの態様において、このリパーゼは前述のようにリパーゼであると分類されているものである。アシルトランスフェラーゼ及びリパーゼが相互作用して目的物上のアシルグリセリド分子(例えば、トリグリセリド)からアシル鎖を除去する。しかしながら、本発明を特定の作用機作に限定することは意図しない。
【0137】
幾つかの態様において、洗浄組成物は過酸化水素自身又は反応生成物として、過酸化水素生成する過酸化物の源を含む。反応生成物として過酸化水素を生成する好適な過酸化水素の源は、(i)約0.01乃至約50、約0.1乃至約20、又は約1乃至約10重量パーゼントの過酸化塩(per−salt)、有機過酸、過酸化尿素、及びこれらの混合物、(ii)約0.001乃至約50、約0.1乃至約20、又は約1乃至10重量パーセントの炭水化物及び約0.0001乃至約1、約0.01乃至約0.5、約0.01乃至約0.1重量パーセントの炭水化物酸化酵素、及び(iii)これらの混合物から選択される。好適な過酸化塩(per−salt)はアルカリ金属過ホウ酸塩、アルカリ金属カルボン酸塩、アルカリ金属過リン酸塩、アルカリ金属過硫酸塩、及びこれらの混合物を含むがこれらに限定されない。
【0138】
幾つかの態様において、糖は単糖、二糖、三糖、オリゴ糖(例えば、炭水化物(糖質))及びこれらの混合物から選択される。好適な糖質はD−アラビノース、L−アラビノース、D−セロビオース、2−デオキシ−Dガラクトース、2−デオキシ−D−リボース、D−フルクトース、L−フコース、D−ガラクトース、D−グルコース、D−グリセロ−D−グルコ−ヘプトース、D−ラクトース、D−キシロース、L−キシロース、D−マルトース、D−マンノース、メレジトース、L−メリビオース、パラチノース、D−ラフィノース、L−ラムノース、D−リボース、L−ソルボース、スタキロース、スクロース、D−トレハロース、D−キシロース、L−キシロース、及びこれらの混合物を含むがこれらに限定されない。
【0139】
好適な炭化水素酸化酵素はアルドースオキシダーゼ(IUPAC分類EC1.1.3.9)、ガラクトースオキシダーゼ(IUPAC分類EC1.1.3.9)、セロビオースオキシダーゼ(IUPAC分類EC1.1.3.25)、ピラノースオキシダーゼ(IUPAC分類EC1.1.3.10)、ソルビトールオキシダーゼ(IUPACEC1.1.3.11)及び/又はヘキソースオキシダーゼ(IUPAC分類EC1.1.3.10)、グルコースオキシダーゼ(IUAPC分類EC1.1.3.11)、及びこれらの混合物を含むがこれらに限定されない。
【0140】
幾つかの態様において、洗浄組成物により洗浄されるアシル供与体含有目的物は、油性物質(例えばトリアシルグリセリド又はこれと同種のものを含む物質)で汚されている。幾つかの態様において、目的物(例えば、布製品)は乳製品で汚されている。
【0141】
以下で説明する方法の実施に必須ではないが、幾つかの態様において、アルコール基質の選択はアシル供与体と反応して生成する芳香性エステルの生成を選択することになる。芳香性エステルは以下で詳細に説明する。
【0142】
幾つかの態様において、洗浄組成物は布ケア組成物(例えば、洗濯用洗剤)、表面洗浄組成物、又は食器洗浄組成物又は食器洗浄器用洗剤組成物である。例示的な洗浄組成物の製剤化はWO0001826に記載されている。該文献を参照により本明細書に援用する。
【0143】
幾つかの態様において、目的洗浄組成物は少なくとも1つの界面活性剤(例えば、非イオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、又は両性界面活性剤、又はこれらの混合物質)を約1%乃至約80%、約5%乃至約50%(重量により)含む。界面活性剤の例としては、直鎖アルキルベンゼンスルホネート及び直鎖アルキルソディウムスルホネートを含むアルキルベンゼンスルホネート(ABS)、アルキルフェノキシポリエトキシエタノール(例えば、ノニルフェノキシエトキシレート又はノニルフェノール)、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、及びモノエタノールアミンを含むがこれらに限定されない。洗剤、特に洗濯用洗剤に用いる界面活性剤の例としては、米国特許Nos.3,664,691、3,616,678、4,222,905、及び4,239,659を含む。
【0144】
幾つかの態様において、洗剤は固形であり、他の態様において洗剤は液体である。他の態様においてはゲルである。幾つかの好適な態様において、洗剤は緩衝剤(例えば、カルボン酸ナトリウム、又は二カルボン酸ナトリウム)、洗剤ビルダー、漂白剤、漂白活性剤、追加的な酵素、酵素安定剤、泡立て剤、抑制剤、抗曇り剤、抗腐食剤、汚れ懸濁剤、汚れ放出剤、殺菌剤、pH調節剤、非ビルダーアルカリ性ソース、キレート剤、有機又は無機充填剤、溶剤、ヒドロトロープ(hydrotrope)、光学的漂白剤、染料、及び/又は香料を更に含む。
【0145】
幾つかの態様において、目的洗浄組成物は1つ以上の他の酵素(例えば、ペクチンリアーゼ、エンドグルコシダーゼ、ヘミセルラーゼ、ペルオキシダーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ、リパーゼ、フォスフォリラーゼ、エステラーゼ、クチナーゼ、ペクチナーゼ、ペクチン酸リアーゼ、アミラーゼ、マンナーゼ、ケタチナーゼ、リダクターゼ、オキシダーゼ、オキシドリダクターゼ、フェノキシダーゼ、リポキシゲナーゼ、リグニナーゼ、ケラチナーゼ、リダクターゼ、オキシダーゼ、オキシリダクターゼ、フェノキシダーゼ、リポキシゲナーゼ、リグニナーゼ、プルラナーゼ、タンナーゼ、ペンとサナーゼ、マラナーゼ、ベータグルカナーゼ、アラビノシダーゼ、ヒアルロニダーゼ、ラッカーゼ、及びアミラーゼ)又はこれらの混合物を含む。幾つかの態様において、プロテアーゼ、リパーゼ、クチナーゼ、及び/又はセルラーゼ等の従来用いられている酵素を含む酵素の組み合わせ(即ち、カクテル)がアシルトランスフェラーゼと一緒に用いられる。
【0146】
洗剤洗浄組成物に用いられる他の成分の幅広さも本明細書の組成物において提供され、他の活性成分、担体、ヒドロトロープ、加工助剤、ダイ、顔料、液体製剤の溶媒等を含む。追加的にあわ立ちが高いことが望ましい場合には、C10乃至C16アルコアミド(alkoamide)等の泡立て剤が組成物中に通常約1%乃至約10%の割合で取り込まれる。
【0147】
幾つかの態様において、洗浄組成物は水及び担体等の他の溶媒を含む。メタノール、エタノール、プロパノール、及びイソプロパノールに例示される低分子量の1級又は2級アルコールが好ましい。1つの水酸基を有するアルコールが界面活性剤を溶解するのに好ましいが、2乃至6炭素原子を含む及び約2乃至6の水酸基を有するポリオール(例えば、1,3−プロパンジオール、エチレングリコース、グリセリン、及び1,2−プロパンジオール)も用いることができる。幾つかの態様において、この組成物は約5%乃至約905、通常約10%乃至約50%の担体を含む。
【0148】
幾つかの態様において、本明細書で提供される洗浄組成物は水中での洗浄操作に用いるように製剤化され、洗浄水は約6.8乃至約11.0のpHの間である。従って、最終製品は通常この範囲のpHになるように製剤化される。推奨されるレベルの範囲にpHを制御する技術は、緩衝剤、アルカリ、酸等を使用することを含み、当業者に知られている。幾つかの態様において、この洗浄組成物はpH約9.0乃至約11.5、pH約9.0乃至9.5、pH約9.5乃至10.0、pH約10.0乃至約10.5、pH約10.5乃至約11.0、pH約11.0乃至約11.5の範囲の至適pHを有する食器洗浄機用洗剤を含む。幾つかの他の態様において、この洗浄組成物はpH約7.5乃至約8.0、pH約7.5乃至約8.0、又はpH約8.0乃至約8.5の範囲のpHで作用する液体洗濯用洗剤を含む。幾つかの他の態様において、この洗浄組成物はpH約9.0乃至約10.5、pH約9.5乃至約10、pH約10.0乃至約10.5の範囲のpHで作用する固形洗濯用洗剤を含む。
【0149】
過カルボン酸、過ホウ酸等の各種漂白化合物も本発明の組成物中に用いることができ、通常、重量により1%乃至15%含まれている。所望の場合には、そのような組成物はテトラアセチルエチレンジアミン、ノナノイルオキシベンゼンスルホネート等の当業者に知られている漂白剤を含む。通常用いられているレベルは重量により約1%乃至10%である。
【0150】
各種汚れ放出剤、特にアニオンオリゴエステルタイプのもの、各種キレート剤、特にアミノフォスフォネート及びエチレンジアミンジスクシネート、各種クレイ汚れ放出剤、特にエトキシレートテトラエチレンペンタミン、各種分散剤、特にポリアクリレート、及びポリアスパラテート、各種光沢剤、特にアニオン光沢剤、各種泡抑制剤、特にシリコン及び2級アルコール、各種布柔軟剤、特にスメクティッククレイ等の全てが、重量により約1%乃至約35%の範囲のレベルで組成物中に含まれる。標準的な製剤は当業者に知られている。
【0151】
酵素安定剤も本願洗浄組成物に用いることができる。そのような安定剤としては、プロピレングリコール(好ましくは約1%乃至約10%)、ギ酸ナトリウム(好ましくは、約0.1%乃至約1%)、及びギ酸カルシウム(好ましくは、約0.1%乃至約1%)を含むがこれらに限定されない。
【0152】
更なる態様において、本発明の洗浄組成物は少なくとも1つのビルダーを含む。幾つかの好ましい態様において、ビルダーは組成物中に重量により、約5%乃至約50%のレベルで含まれる。通常、ビルダーは1−10ミクロンのゼオライト、シトレート及びオキシジスクシネート等のポリカルボネート、層状シリカ、フォスフェート等を含む。他の従来のビルダーは標準的な製剤に列挙されており、当業者によく知られている。
【0153】
他の任意の成分には、キレート剤、クレイ汚れ除去剤/再付着防止剤、ポリマー性分散剤、漂白剤、光沢剤、泡抑制剤、溶媒、及び審美剤を含む。
【0154】
本発明は、本明細書で提供される洗浄組成物の使用のための方法も提供する。幾つかの態様において、この洗浄方法は、少なくとも1つのアシルトランスフェラーゼ、アシルトランスフェラーゼに対する少なくとも1つのアルコール基質、アシル供与体含有物質で汚されている目的物を組み合わせる工程を含む。ここにおいて、アシルトランスフェラーゼがアシル供与体からアシル基をアルコール基質に転移して、エステルを生成する。幾つかの態様において、このアルコール基質を選択して所望の芳香性エステルを生成する。幾つかの他の態様において、このアシル基は上で列挙した界面活性剤、乳化剤、又は1つ以上の他の成分に転移される。他の態様において、この洗浄組成物は更に、芳香剤を生成する以外の他の洗浄機能を提供しない(即ち、界面活性剤、乳化剤、酸化剤等として提供されない)。そのようなアシル供与体はトリアセチン及びトリブチリンを含むがこれらに限定されない。
【0155】
幾つかの代替的な態様において、本発明の洗浄組成物は洗浄の間に洗浄活性を有する、エステル界面活性剤又はエステル乳化剤等の洗浄性能を有するエステルを生成する肯定を含む。
【0156】
幾つかの態様において、目的物は布製品(衣類、室内装飾用布、カーペット、寝具等を含む)、又は硬表面(キチン表面、バスルームの表面、タイル等を含む)、又は食器である。幾つかの態様において、布製品はトリアシルグリセリド含有物質のような脂肪含有物質で汚されている。幾つかの態様において、油含有基質は即ち、1つのC4乃至C18トリアシルグリセリド(例えば、乳製品)を含む。
【0157】
幾つかの態様において、この洗浄組成物はアセチル組成物を含む洗浄組成物を用いるが、リパーゼ(例えば、リパーゼとして分類されているもの)は含まない。幾つかの代替的な態様において、意図する洗浄方法は意図するアシルトランスフェラーゼ、及びリパーゼ(例えば、Lipolase(商標)、Lipozyme(商標)、Lipomax(商標)、Lipex(商標)、Amano(商標)リパーゼ、東洋醸造(商標)リパーゼ、メイトウ(商標)リパーゼ、又はDiosynth(商標))を含む洗浄組成物を用いる。幾つかの態様において、特定のアシルトランスフェラーゼとリパーゼの組み合わせはリパーゼのみで行った方法よりも、有意に悪臭を減らす。本発明を特定の作用機作に限定することを意図しないけれども、アシルトランスフェラーゼとリパーゼが相互作用して、トリアシルグリセリド(例えば、ブチル酸含有トリアシルグリセリド)からアシル基を除去して悪臭を減らすことが考えられる。
【0158】
それゆえ、幾つかの態様において、洗浄組成物中にアシルトランスフェラーゼを用いると、アシルトランスフェラーゼを含まない同様な洗浄組成物と比較して、約10%より多く、約20%より多く、約30%より多く、約50%より多く、約70%より多く、約80%より多く、脂肪酸由来の悪臭を低減させることができる。幾つかの特に好適な態様において、意図するアシルトランスフェラーゼを洗浄組成物中に用いると悪臭を生成しない。
【0159】
芳香性エステルの生成のための組成物
前述のように、本発明は芳香性エステルを生成するための組成物及び方法を提供する。幾つかの態様において、この組成物は少なくとも1つのアシルトランスフェラーゼ、このアシルトランスフェラーゼに対するアルコール基質、及びアシル供与体を含む。これらの態様の幾つかにおいて、アシルトランスフェラーゼはアシル供与体からのアシル基がアルコール基質に転移することを触媒して、水性環境中で芳香性エステルを生成する。幾つかの態様において、この組成物は実質的に乾燥している(例えば、無水)組成物であり、芳香性エステルは組成物の再水和においてのみ生成される。幾つかの態様において、この組成物は芳香性エステルをさらに含む水溶性組成物である。
【0160】
多くの態様において、組成物のアルコール基質及びアシル供与体を選択して特定の芳香性エステルを生成する。意図する組成物を用いて生成される例示的な芳香性エステルは以下の表1乃至3に例示的に定義されており、これらのエステルの生成のためのアルコール基質とアシル供与体の好適な組み合わせも記載されている。他の芳香性エステルが知られており、そのような芳香性エステルの分子構造も提供されている。従って、アルコール基質と特定のアシルトランスフェラーゼの存在下で組み合わせをして生成するエステルは理解されている。これらの表において、「AcT」はM.smegmatis野生型アシルトランスフェラーゼであり、「KLM3」はWO04/064987に記載のエアロモナス属(Aeromonas sp.)のアシルトランスフェラーゼであり、Lipomax(商標)はシュードモナス・アラリゲネス(Pseudomonas alcaligenes)(ジェネンコー)のリパーゼである。
【表1】

【表2】

【表3】

【0161】
幾つかの態様において、SGNHアシルトランスフェラーゼはカラム又はゲル基質(例えば、固体又は準固体担体)に固定されて、アルコール基質及びアシル供与体を酵素から洗浄して反応を停止させる。
芳香性エステルの生成のための方法
前述の組成物は、通常少なくとも1つのアシルトランスフェラーゼ、アシルトランスフェラーゼに対する少なくとも1つのアルコール基質、及び少なくとも1つのアシル供与体を水性環境中で組み合わせることを含む各種芳香性エステル生成方法に用いることができる。このアシルトランスフェラーゼはアシル供与体からのアシル基をアルコール基質に転移して、芳香性エステルを提供する。幾つかの態様において、この方法はこれらを組み合わせた後に組成物を再水和する工程を含む。幾つかの代替的な態様において、アシルトランスフェラーゼ、アルコール基質、及びアシル供与体は水溶液中で組み合わせられる。前述のように、幾つかの代替的な態様において、アシルトランスフェラーゼはSGNHアシルトランスフェラーゼである。
【0162】
これらの方法は芳香性エステルが好ましい場合の各種プロセスに用いることができる。例えば、幾つかの態様において、この組成物を食品に組み込んで、使用している間の風味又は芳香を改善又は付与することができ、あるいは洗浄方法において、前述のように用いることができる。幾つかの更なる態様において、この組成物はエステル製造方法に用いられる。
【0163】
1つの例において、この芳香性エステル生成組成物はチューインガム又はキャンディーのような食品に乾燥された状態(例えば、基質に吸着させた状態)で取り込まれる。食品を再度水和させると(例えば、撹拌の間又は水又はミルク等の水含有液体の添加による)、アシルトランスフェラーゼの反応が開始され、その場で芳香性エステルが生成する。同様に、幾つかの態様において、この方法は食品、香料、及び/又は洗浄工業に用いる芳香性エステルのバルクを製造するために用いる。
【0164】
幾つかの態様において、アルコール基質はそれ自身が芳香性アルコールである。そのようなものとして、幾つかの態様において、前述の反応の臭いは時間により変化する(例えば、芳香性アルコール基質の臭気からアルコールのエステルの臭気への変化)。
【0165】
幾つかの態様において、芳香性アルコールは長いアシル鎖(例えば、長鎖脂肪酸)を用いて、トランスエステル化されて非芳香性エステルを生成する。これらの態様の幾つかについて、この非芳香性エステルは加水分解されている間に、自然発生的に又はヒドロラーゼの存在下で、芳香性アルコールを再生成する。
【0166】
その場で、界面活性剤エステルを生成する方法
幾つかの態様において、その場で、アシルトランスフェラーゼ、フォスフォリピッド、及びソルビトールを含む粒子を用いて脂肪の修飾を行う。幾つかの態様において、この粒子はナノカプセル化、ミクロカプセル化、タブレット化、ペレット化による、及び/又はBariere Systemに記載のような当業者に知られているWAXエステルにコーティングを用いた形状を含む。
【0167】
幾つかの態様において、更に、コーティングは温度保護技術システム(TPT)により提供される。幾つかの態様において、脂肪基質である、リン脂質、及び受容体分子であるソルビトールは洗浄工程中に非常に低い濃度で存在し、それゆえ環境にやさしい洗剤(グリーンデタージェント)を生成することができる。幾つかの態様において、KLM3酵素と共に基質及び受容体分子を閉鎖系に含むことにより、早い生物転換工程の間に反応物の濃度を十分高くしておくことができる。幾つかの態様において、温度及び水分条件の特定の条件で貯蔵されている間、KLM3はその場での修飾プロセスを触媒し、それゆえlyso−PC及びソルビトール−アシルエステルを生成する。リン脂質(PC)の完全な転換を実現するために、PCとソルビトールの比は、PC:ソルビトールが約1:2;約1:5、約1:10、約1:50又はより好ましくは約1:100になるように最適化される。幾つかの態様において、最良の洗浄組成物を得るために、リン脂質の全てをlyso−リン脂質誘導体及び等量のソルビトール−アシルエステルに転換する。最適なKLM3アシルトランスフェラーゼ変異体を用いた酵素反応はLyo−リン脂質及びソルビトール−アシルエステルを増やすのみであり、有意な量の遊離脂肪酸は存在しない。洗剤に効果を発揮させるために、リン脂質の全てをlyo−リン脂質誘導体に転換する。
【0168】
幾つかの態様において、この生物化学反応は、カプセル化の後に起こり、幾つかの態様において、保存寿命を延ばすことができる。反応が完了したときに、粒子を洗浄粉末に添加する。この粒子は、洗浄工程中に溶解されて、洗剤が放出される。幅広い範囲の脂肪基質(トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、リン脂質、ガラクトリピッド、ビニルエステル、メチルエステル等)を用いることができる。同様に、数多くの受容体分子も用いることができる。これらの受容体は、ソルビトール、キシリトール、グルコース、マルトース、スクロース、ポリール、及び長、中、及び短鎖アルコール、ペクチン、スターチ、ガラクトマンナン、アルギン酸、カラギナン、キトサン、加水分解されたキトサン等のポリサッカライド、及びこれらのポリサッカライドから誘導されたオリゴサッカライドを含む。
【0169】
アシルトランスフェラーゼ酵素、アミノ酸修飾、結晶構造、アッセイ方法、使用方法、配列、相同体、オーソロガス、配列アラインメント、図、表、洗浄組成物等の非限定的な説明を含むWO05/056782の開示を参照により本明細書に援用する。
【実施例】
【0170】
以下の実施例は、本発明の実施及び更に特定の好適な態様と側面を説明する目的で提供され、本発明の範囲を限定するものではない。
【0171】
PCT公開公報WO05/056782はアシルトランスフェラーゼ酵素の同定及び使用に関するものである。アシルトランスフェラーゼの生成方法、アシルトランスフェラーゼの同定方法、アシルトランスフェラーゼの試験方法、アシルトランスフェラーゼのポリヌクレオチド及びポリペプチド配列、アシルトランスフェラーゼの使用方法、アシルトランスフェラーゼを含む組成物を含むがこれらに限定されない、前記文献の実施例1乃至27に開示されている方法を参照により本明細書に援用する。
【0172】
実施例1
シス−3−ヘキサノール、2−フェニルエタノール、及びイソアミルアルコールのアシル化
シス−3−ヘキサノール、2−フェニルエタノール、及びイソアシルアルコールのアシル化をトリブチリン及び可溶性アシルトランスフェラーゼを含む水溶液中で行った。
【0173】
典型的な手順において、200mMリン酸緩衝液、pH7(500μL)中のアルコール(2μL)及びトリブチリン(2μL)をアシルトランスフェラーゼ(M.smegmatis、AcT)(34ppm)又はKLM3’(20ppm)で、45℃において、40分間処理した。ジクロロメタン(500μL)を各バイアルに添加して、ボルテックスで10秒間撹拌し、遠心分離をして、有機相と水相に分離させた。有機相を除去し、GC/MSで解析した。この解析は、30m×0.25mm(0.25umフィルム)HP−5MSカラムを用いたAgilen6890GC/MSで行った。このGC/MS法はヘリウムをキャリアガスとして用い(1cc/分9、注入ポート温度は250℃で、20:1のスプリット比を用いた。オーブン温度プログラムは、60℃で1分間保持、30分で300℃に上昇させ、ランタイムは10分間であった。マス検出器は30乃至400AMUでポート注入後2分で開始した。
【0174】
図1は各実験において、それぞれのアルコールがそれぞれのブチル酸エステルに転換されることを示している。この量はKLM3’と比較して、Actの方が有意に多かった。
【0175】
実施例2
シトロネロールとゲラニオールのアシル化
テルペンアルコールであるシトロネロール(1)とゲラニオール(2)をトリアセチン及びチリブチリンをアシル供与体として用いて、AcT及びKLM3’アシルトランスフェラーゼの基質として評価した。
【化2】

【0176】
50mMリン酸緩衝液、pH7、(500μL)中のテルペンアルコール(2μL)とトリアセチン又はトリブチリン(2μL)のいずれかとAcT(43ppm)又はKLM3’(20ppm)で45℃で40分間処理した。各反応からの試料の一部(500μL)を除去し、メタノール/ジクロロメタンで希釈(1:3、500μL)し、GC/MSで解析してエステル生成を証明した。結果を表4に示す。
【表4】

【0177】
実施例3
布Iに吸着させたアシルトランスフェラーゼを用いた水中でのアルコールのアシル化
アシルトランスフェラーゼ(5mMHEPES緩衝液、pH8、中100ppm)の1mLの試料をニットとコットンの布(10cmx10cm)の正方形の断片の中心に添加し、この布を一晩乾燥させた。
【0178】
ベンジルアルコール(1%v/v)及び50mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH7中にトリアセチン(1%v/v)を含む溶液のアリコート(10mL)をAcTを吸着させた布と、対照として酵素を吸着させていない布に添加した。酢酸ベンジルの特徴的な臭いがAcT酵素を含む布から2分間生成され、対照的に対照からは臭いは生じなかった。
実施例4
布II上に固定されたアシルトランスフェラーゼを用いた水中でのアルコールのアシル化
ニット綿布見本(20x20cm)をプラスチックシート上に置き、AcT(12mg/mLをlml)、ポリチレンイミン(20%w/v溶液を50μL)、及び脱イオン水(1mL)で処理した。この布をプラスチックシートからはずして、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(400mL、pH7)中で緩やかに撹拌しながら、一晩浸した後に、適した条件下で一晩乾燥させた。この綿布見本を蛇口から水を流しながら、その完全にすすいで、そのまま乾燥させた。布に適用する酵素混合物が前述の成分に加えてラテックス懸濁液(1mlのAIRFLEX(商標)423、エアープロダクト、アレンタウン、ペンシルバニア)を含む以外は、前述の方法に従って、第二の綿布見本を調製した。
【0179】
2つの見本を並べて、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(40mL、pH7)中のベンジルアルコール(2%v/v)及びトリアセチン(2% v/v)で処理した。酢酸ベンジルの臭いが両方の布から明らかに生じていたが、対照の布からは生じていなかった。この布をp−ニトロフェニルブチレート(200μL、水中10mM)で処理して、結合しているAcTの加水分解活性を見えるようにした。この場合、AcT/PEIで処理した綿布見本のみが著しい色を呈していた。
【0180】
実施例5
スターチ上に吸着させたトリアセチン/アルコール混合物の再水和による水中でのベンジルアルコールのアシル化
ベンジルアルコール(0.5mL)及びトリアセチン(0.5mL)を10gのマルトデキストリンに添加して、機械的撹拌を行い、ほとんどあるいは無臭の自由流動性粉末を得た。この混合物の1gをペトリ皿に置き、その後AcT(1ppm)の溶液で処理したところ、5分以内に酢酸ベンジルの特徴的に臭いがした。対照は水で処理をしたが、1時間では酢酸ベンジルを生じなかった。
【0181】
実施例6
シリカゾルゲル中に固定されたAcTを用いたトランスエステル化
アシルトランスフェラーゼ(AcT)をシリカゾルゲル中に固定化し、水性環境中で方向性エステルを生成する能力について、可溶形態の酵素と比較した。
【0182】
i)AcTのゾルゲルカプセル化
ケイ酸ナトリウム(27%SiO、14%NaOH、シグマアルドリッチ社、WI)及びケイ酸メチルナトリウム(水中30%、Gelest、NJ)の1:1混合物のアリコート(2.2mL)をリン酸(1.5M、4mL)に撹拌しながら、添加した。アシルトランスフェラーゼの溶液(12mg/mLを1mL)をその後添加して、確実にゲル化するまで、室温で放置した。得られたゲルを50mMリン酸緩衝液、pH7(50mL)で2回洗浄し、密閉容器中で一晩硬化させた。
【0183】
ii)シス−3−ヘキセノールのエステル化
前述の湿ったゾルゲルの一部分(0.66g、1mgのAcTに相当)をシス−3−ヘキサノール(20μL)とトリアセチン(40μL)と一緒に、50mMのリン酸緩衝液、pH7中でインキュベートした。シス−3−ヘキサノールからアセチルエステルへの転換を可溶性AcT(0.5mgのAcT)を含む対照と比較した。10、30、及び20分後に2つの反応系からアリコート(10μL)を取り出し、GC/MSで解析した。結果を図2に示す。
【0184】
固定化酵素はアセチルエステル(保持時間4.5分)を遊離酵素よりも低い速度で形成することが明らかであるが、酵素を固定化しないと、30分及び120分の時の遊離酵素について明らかであるように、芳香性エステルの後の加水分解を阻害した。
【0185】
実施例7
AcTを用いたアルコールと芳香性エステルのトランスエステル化
50mMリン酸カリウム緩衝液、pH1中ベンジルアルコールとシトロネロールアセテート(1%、v/v)の混合物を室温でAcT(10ppm)で処理した。数分の間ベンジルアルコールとシトロネロールの特徴的に臭いが生じていた。これらの化合物の存在は実施例1で説明したGC/MS方で確認した。この実験の結果ははっきりとした臭いを有しない前駆体から2つの芳香が同時に生成する可能性を示している。
【0186】
実施例8
バター脂で汚されている布からの芳香性エステルの生成
溶解したバター(40乃至50mg)を6つのニット綿布見本(各250乃至300mg)に付けて室温で冷却した。この見本の重量を測定し、その後LIPOMAX、又はAcT、又はこの酵素の組み合わせで処理した(表5)。各見本をベンジルアルコール(10μL,0.005% v/v)と酵素を含む20mLの5mMHEPES緩衝液、pH7中に入れた。次いで、室温で20分間撹拌して、見本を取り出し、二人のパネリストにより乾燥前後の臭いを評価した。総重量の損失文を乾燥後に測定した。結果を表6にまとめた。
【表5】

【表6】

【0187】
実施例9
トランスエステル化対加水分解の比率の決定
トリブチリン(10μL)を4%エタノールを含む緩衝液(1mL)に添加して、AcT、又はKLM3’、及び酵素を含まない対照で、40℃で2時間処理した。各サンプルからアリコート(100μL)を除去し、ジクロロメタン(900μL)で希釈し、GC/MS解析を行った。対照は基質へのアシル転移及び加水分解のいずれも示さなかった。AcTで処理したサンプルはトリブチリンを完全に消化してブチル酸とエチルブチレートの比が1:2であった。KLM3’処理サンプルはトリブチリンの部分的な消化しか示さず、ウチル酸とエチルブチレートの比は1:5であった。
【0188】
実施例10
AcTの可溶化及び固定形態の両方を用いて達成される過酸及び芳香物質の同時生成
AcT、トリアセチン、希釈水溶性過酸化水素(50乃至500ppm)及びベンジルアルコール(10乃至50ppm)の組合せは過酢酸と芳香性エステルの両方を生成する。
【0189】
ベンジルアルコール(50μL)、グリセロールトリアセテート(トリアセチン、100μL)、及びダイピナシアノールクロライド(80%アセトン中1mg/mLを50μL)の溶液を30%過酸化水素(100μL)及び75ppmのアセチルトランスフェラーゼ(100μL)で処理した。ベンジルアルコールの特徴的な臭いが1乃至2分以内に生じていた。このダイは10分以内に完全に脱色された。過酸の不快な臭いが芳香性エステルにより同時にマスクされた。
【0190】
この実験はシクロヘキシルメタノール(50μL)を用いて繰り返され、ダイ漂白及び/又は芳香性シクロヘキシルメチルアセテートが形成された。AcTを用いない対照実験では、有意な芳香性エステルの生成及びダイの漂白のいずれも生じなかった。
【0191】
添加の順番を逆にして、1−2mLのベンジルアルコール(50μL)の溶液、グリセロールトリアセテート(トリアセチン、100μL)、及びダイダイピナシアノールクロライド(80%アセトン中1mg/mLを50μL)を布見本に添加して、乾燥させた。続いて、AcT(10ppmを1mL)及び過酸化水素(3%を1mL)添加すると、紫色のダイが無色になり、10分以内の酢酸ベンジルの臭いがした。
【0192】
実施例11
洗剤環境中でのトリブチリンを用いたポリオールのアシル化
1.5g/LAATCC HDLを含む5mMHEPES緩衝液、pH7.8中のトリブチリン(1%、v/v)及びテトラエチレングリコール(1%、v/v)の乳液をボルテックス撹拌を十分に行い調製した。この混合物のアリコート(200μL)を1.8mLの1.5g/LAATCC HDLを含む5mMHEPES緩衝液、pH7.8で10倍希釈して、室温で撹拌しながら、AcT(10ppm)で処理した。小アリコート(50μL)を決められた時間で採取して、20%水溶性アセトニトリルで希釈して、LC/MS解析を行った。
【0193】
LC/MS解析は、陽性電子スプレー(+ve ESI)モードで操作されるQuantum TSQトリプルクアドルポールマススペクトロメーターと連動しているSurveyor HPLSシステム(ThermoFisher、San Jose、CA)で行った。HPLCカラムはAgilent Zorbax SB−Aq C18カラム(100×2.1mm)を用いた。化合物を溶媒A(H2O中25mMギ酸アンモニウム)を用いて開始し、溶媒B(90%メタノール+10%溶媒A)を増やし、10分で溶媒Aに戻る勾配を用いて溶出した。
【0194】
初めは2つの開始物質のみが見られた。テトラエチレングリコールは212のm/zで3.9分で溶出し、トリブチリンは320のm/zで6.9分で溶出した。両方の化合物はそれらのアンモニウム付加イオンの期待されたm/z比を提供した。次いで、AcT酵素を添加すると、282のm/zで5.8分に溶出するピークが観察された。このピークはテトラエチレングリコールのモノブチルエステルに相当する(図3)。一晩撹拌したのち、酪酸の臭いがはっきりと現れた。
【0195】
B)前記の実験はラベルされたグリセロール(13C−Uグリセロール)及びトリブチリンを用いて繰り返した。同位体ラベルされた基質はトリブチリンアシル供与体から誘導されるグリセロール(m/z110)、モノブチリン(m/z180)、及びジブチリン(m/z250)をラベルされたグリセロールアシル受容体(m/z113)のアシル化により形成されたブチル酸エステル(モノ−及びジブチリンについてそれぞれm/z183)から区別することができた。
【0196】
一晩インキュベートした混合物のLC/MS解析(図4)は、ラベされていない類似体に加えてラベルされたモノ及びジブチリンの形成を示している。
【0197】
実施例12
洗濯条件下でのバター脂で汚れをつけた布からの芳香の生成
バター脂で汚された綿布をリパーゼ及び/又はアシルトランスフェラーゼ(AcT)、並びに遊離短鎖脂肪酸(C4乃至C8)の量を減らし、好ましい芳香性の短鎖脂肪酸を生成するための受容体アルコールが存在する、Terg−O−tomete(U.S.Testing Co.Inc.Hobolcen NJ)における洗濯条件したで洗浄した。
【0198】
バター脂で汚した見本(CFT CS−10、Testfabric Inc.West Pttston、PA)(6つの1Lテルグポット(Terg pot))を5mMHEPES緩衝液、pH7.8中、強力液体洗剤(AATCC HDL)環状中(1.5g/L)、硬度6gpgで、リパーゼ無添加、Lipex(Novozyme)(1.2ppm)、又はLipomax(Genencor)(2ppm)のいずれかにアシルトランスフェラーゼ(AcT9を加えたものと加えていないもので処理した。ベンジルアルコール(1g/L)を各ポットに、77Fでの洗浄開始前30分に添加した。
【0199】
15分後と30分後の両方で、各ポットからのアリコート(8mL)を採取し、ヘキサンで抽出した(2mL)。遠心で水溶性乳液からヘキサン相を分離して、1mLをガスクロマトグラフィー(GC9バイアルに添加して。GC/MS解析は、30mx0.25mm(0.25μmフィルム)HP−5MSカラムを用いてAgilent6890GC/MSで行った。このGC/MS方はヘリウムをキャリアガスとして用い(1cc/分)、注入ポートの温度は250℃で20:1のスプリット比である。オーブン温度プログラムは60℃を1分間保持して、20℃/分で240℃まで上昇させ、総稼働時間は10分であった。マス検出キシレンは30−400AMUスキャニングで注入後2分で開始した。
【0200】
GC/MSの結果を図5と以下の表7に示す。対照(ポット1)又は対照+AcT(ポット2)のいずれでもベンジルブチレートが検出されなかった。Lipex及びLipomax単独の両者はいくらかのベンジルブチレートを生成し、Lipexは両方のタイムポイントにおいて、より多く生成した。AcTの添加は、両リパーゼが生成するベンジルブチラートの両を多くしたが、Lipomaxの効果の方がはるかに高く、LipomaxとAcTが相乗効果のあることを示している。
【表7】

【0201】
実施例13
洗濯条件下でのバター脂で汚した布からの悪臭の減少
実施例12で説明した洗浄試験に続いて、綿布見本を一晩乾燥させ、悪臭を主観的に評価し表8にまとめた。
【表8】

【0202】
最も悪い臭いは、Lipexで布見本を処理したポットであった。Lipomaxで処理した布見本は、対照よりは悪いものの、有意に悪臭が減っていた。LipomaxとAcTとで処理した布見本では、Lipomax単独で処理した場合よりも悪臭が有意に減っていた。
【0203】
実施例14
ソルビトール及び黄身からソルビトールモノオレエートを生成するためのKLM3’の使用
脂質アシルトランスフェラーゼKLM3異性体、pLA231を黄身及びはソルビトールを含むシステムで、40℃、4時間インキュベートすることにより試験を行った。
【0204】
反応生成物を有機溶媒で抽出し、単離された脂質をGLC/MSで解析した。結果は、KLM3変異体pLA231がソルビトール及び黄身から、ソルビトールモノオレエートを生成する能力を示している。
【0205】
洗剤製造業界において、別の製剤にソルビトールを使用することが知られている。布製品は脂肪/油及び黄身の汚れをしばしば含むことも知られている。
【0206】
本発明の1つの目的は、洗浄目的のための界面活性剤を生成するために、ソルビトールをと黄身の混合物中でKLM3変異体の影響を調べることである。
【0207】
材料と方法
KLM変異体、pLA231:変異、W122A、A236E、L31F(活性 1.6TIPU/ml)
ソルビトール、70%(ダニスコ)
黄身:Hedgeaard、KD9560 Hadsundの殺菌済黄身
ソルビトールモノオレエートはGrindsted SMOアイテムNo.452454から同定される成分を意味する。
【0208】
HPLC
アプリケーター:GAMAアプリケーターAST4
HPLCプレート:20x10cm(メルク No.1.05641)
使用前に160℃で20乃至30分間、プレートを乾燥させて活性化させておく。
アプリケーション:クロロホルム:メタノール(2:1)に溶解した抽出された脂質の0.8μLをAST4アプリケーターを用いてHPTLCプレートに適用した。
流動緩衝液:4:クロロホルム:メタノール:水(74:26:4)
アプリケーション/溶出時間:16分
現像溶液:16%H3PO4中6%酢酸銅(Cupriacetate)
溶出後、このプレートを160℃で10分間乾燥され、冷却し、現像溶液に浸し、その後、更に、160℃で6分間乾燥させる。このプレートを視覚的に評価し、スキャンした(CamaTLCスキャン)。
【0209】
GLC解析
WCOT溶解シリカカラム、12.5mx0.25mmIDx0.1μフィルム厚、5%フェニル−メチル−シリコン(CP Sil8CB、クロマトパック)を備えた、パーキンエルマーオートシステム9000キャピラリーガスクロマトグラフ
キャリアガス:ヘリウム
インジェクター.PSSIコールドスプリットインジェクター(開始温度50℃、385℃に加熱)、容量 1.0μL
検出器FID:395℃

サンプル調製:サンプルから抽出した脂質を内部標準ヘプタデカン、0.5mg/ml含むヘプタン:ピリジン(2:1)、0.5mL中に溶解した。300μLのサンプル溶液をクリンプバイアルに移し、300μLのMSTFA(N−メチル−N−トリメチルシリル−トリフルオロアセアミド(trifluoraceamid)を添加し、60℃で20分間反応させた。
【0210】
実験
KLM3pLA231は、表9に示すレシピに従い、黄身及びソルビトールの基質で試験された。
【表9】

【0211】
手順
黄身とソルビトールをマグネティックスターラーを用いてドラムグラス(dram glass)中で酵素を添加し、5℃で4時間インキュベートした。
【0212】
7.5mlのクロロホルム:メタノール(2:1)を添加し、混合して反応を停止させた。脂質をRatamix(25rpm)で30分間抽出し、サンプルを700gで10分間遠心分離した。溶媒相の1mlを採取し、TLC及びGLC/MS解析に用いた。
【0213】
結果
サンプル1及び2からの脂質のHPTLC解析を図7に示す。HPTLCクロマトグラムはソルビトールエステルであると思われる極性成分の形成を示している。このサンプルを更にGLC/MSで更に解析した。酵素で処理したサンプル(1)及び対照サンプル(2)のGLCクロマトグラムを図8及び9に示す。図8において印をつけたソルビトールモノオレエートのピークのMSスペクトルを図10に示し、ソルビトールモノオレエートのMSスペクトルと比較した。
【0214】
反応生成物のHPTLC解析は、インキュベーションの間に極性成分が形成されていることを示した。GLC/MS解析はソルビトールモノオレエートが形成されたことを示している。ソルビトールモノオレエートは表面活性性質を有する極性成分であり、水中で界面活性剤活性剤として作用する。
【0215】
本明細書で言及する全ての特許及び刊行物は本発明の属する分野の当業者の技術的水準を示している。全ての特許及び刊行物はここにおいて、あたかも個々の刊行物が具体的μそれぞれに取り込まれるべきだと示されている範囲において、参照により本明細書に援用される。
【0216】
本発明の幾つかの態様を説明することにより、開示された態様の各種変更をすることができ、そのような変更は本発明の範囲内であることを、当業者は理解するだろう。
【0217】
当業者は本明細書に記載されている以外にも、本発明が目的を達成するのに適していることを理解するだろう。本明細書に記載の組成物及び方法は例示的な態様であり、本発明をこれらに限定することを意図しない。本発明の精神及び範囲を逸脱せずに各種置き換え及び変更を行うことができることは当業者が容易に理解し得るだろう。
【0218】
本明細書に例示的に記載されている発明は、本明細書で特定されていない、任意の要素、限定がなくても実施することができる。用いられている用語及び表現は説明のための用語であり、限定を意図するものではない。そのような用語及び表現の使用において、これらに等しい技術的特徴又はその一部分を排除することは意図していない。しかしながら、各種変更は本発明の範囲内にある。従って、本発明は幾つかの態様及び追加的な特徴を参照することにより特定されるけれども、開示されているコンセプトの改変及び変更は当業者が行うことができ、そのような改変及び変更は添付の特許請求の範囲により特定される本発明の範囲に属する。
【0219】
本発明は包括的、概要的に説明されている。一般的な説明の範囲内にあるより狭い範囲の種及び亜種も本発明の一部分を形成する。このことは、除かれる物質が本明細書に記載具体的に記載されているかどうかに関係なく、分類外面から任意の物質を取り除く条件又は不の限定を有する発明の一般的な説明を含む。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】

【図1E】

【図1F】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香性エステルを生成するための組成物であって、前記組成物は、
a)SGNHアシルトランスフェラーゼ、
b)前記SGNHアシルトランスフェラーゼに対するアルコール基質、及び
c)アシル供与体を含み、
前記SGNHアシルトランスフェラーゼは、水性環境において、前記アシル供与体からアシル基をアルコール基質へ転移して、芳香性エステルを生成することを特徴とする、組成物。
【請求項2】
前記組成物が前記芳香性エステルを更に含む水溶性組成物である、請求項1の組成物。
【請求項3】
前記アルコール基質及び前記アシル供与体が特定の芳香性エステルを生成するために選択される、請求項1の組成物。
【請求項4】
前記アシル供与体がC1乃至C10アシル供与体である請求項1の組成物。
【請求項5】
前記SGNHアシルトランスフェラーゼが固形担体に担持されている、請求項1の組成物。
【請求項6】
前記組成物が無水組成物であり前記芳香性エステルが前記組成物を再水和して生成される、請求項1の組成物。
【請求項7】
前記組成物が食品である、請求項1の組成物。
【請求項8】
前記組成物が少なくとも1つの界面活性剤を含む洗浄組成物である、請求項1の組成物。
【請求項9】
前記組成物が過酸化水素の源を含む洗浄組成物である、請求項1の組成物。
【請求項10】
芳香性エステルを生成する方法であって、
a)SGNHアシルトランスフェラーゼ、
b)前記SGNHアシルトランスフェラーゼに対するアルコール基質、及び
c)アシル供与体、を組み合わせる工程を含み、
前記SGNHアシルトランスフェラーゼは、水性環境において、前記アシル供与体からアシル基をアルコール基質へ転移して、芳香性エステルを生成する、ことを特徴とする方法。
【請求項11】
前記アルコール基質及び前記アシル供与体が特定の芳香性エステルを生成するために選択される、請求項10の方法。
【請求項12】
前記アシル供与体がC2乃至C10アシル供与体である、請求項10の方法。
【請求項13】
前記方法が成分を組み合わせたアクリルトランスフェラーゼに再脱水される請求項10の方法。
【請求項14】
前記再水和が撹拌の間に生じる請求項10の方法。
【請求項15】
前記SGNHアシルトランスフェラーゼ、前記アルコール基質、及び前記アシル供与体が水性環境中で組み合わせることを特徴とする、請求項10の方法。
【請求項16】
前記SGNHアシルトランスフェラーゼが固形担体上に担持される、請求項10の方法。
【請求項17】
漂白剤と芳香剤とを同時に生成する方法であって、
a)SGNHアシルトランスフェラーゼ
b)前記SGNHアシルトランスフェラーゼに対するアルコール基質、及び
c)アシル供与体、を組み合わせる工程を含み、
前記SGNHアシルトランスフェラーゼが前記アシル供与体から前記アルコール基質へのアシル基の転移を触媒して、前記芳香剤及び前記漂白剤を生成することを特徴とする、方法。
【請求項18】
前記漂白剤が過酸である、請求項17の方法。
【請求項19】
前記過酸が過酢酸である、請求項17の方法。
【請求項20】
前記SGNHアシルトランスフェラーゼがマイコバクテリウム・スメグマチス(M. smegmatis)アシルトランスフェラーゼである、請求項17の方法。
【請求項21】
前記芳香剤がエステルである、請求項17の方法。
【請求項22】
前記エステルが第一級アルコールのC2乃至C6エステルである、請求項21の方法。
【請求項23】
前記漂白剤をシミに適用するとシミが除去される、請求17の方法。

【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【公表番号】特表2010−518874(P2010−518874A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551731(P2009−551731)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【国際出願番号】PCT/US2008/002681
【国際公開番号】WO2008/106214
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(509240479)ダニスコ・ユーエス・インク (81)
【Fターム(参考)】