説明

流体圧制御装置

【課題】係合用油室と解放用油室との差圧により係合されるロックアップクラッチの係合ショックを抑制する。
【解決手段】コントロールバルブ70を、空間S内に作動油を閉じ込めることができるよう構成したから、ロックアップクラッチ16をオフからオンするときに係合用油室11aと解放用油室11bとに共にセカンダリ圧を入力する状態で待機させる際に、遠心油圧の作用によりロックアップクラッチ16が解放用油室11b側に押し込まれてセカンダリ圧を超えるフィードバック力がスプール74に作用しても、空間S内に閉じ込めた作動油が抵抗力として作用してロックアップクラッチ16が過度に押し込まれるのを防止すると共に解放用油室11b内の作動油が排出されるのを防止するから、ロックアップクラッチ16の係合ショックを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体圧制御装置に関し、詳しくは、原動機からの動力を流体室内の作動流体を介して伝達し該流体室がロックアップクラッチにより係合用油室と解放用油室とに区画されて、前記解放用油室に流体圧が入力されて前記係合用油室から排出されることで前記ロックアップクラッチをオフし前記解放用油室への流体圧の入力が停止されて前記係合用油室に流体圧が入力されることで前記ロックアップクラッチをオンする流体伝達装置における、前記流体室に対する流体圧の入出力を制御する流体圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の流体圧制御装置としては、車両のエンジンから入力軸に入力された動力を油室内の作動油を介して出力軸に伝達し油室内を入力軸側の係合用油室と出力軸側の解放用油室とに区画して入力軸と出力軸とを直結可能なロックアップクラッチを有するトルクコンバータにおいて、係合用油室と解放用油室への作動油の入力と遮断とを切り替える切替バルブを用いて油圧制御を行なう油圧制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、入出力の回転速度差が所定数以下などの所定条件が成立する場合に係合用油室に作動油を入力すると共に解放用油室への作動油の入力を停止するよう切替バルブを切り替えることにより両油室に差圧を生じさせてロックアップクラッチを係合し、所定条件が不成立の場合に解放用油室に作動油を入力すると共に係合用油室から作動油を出力するよう切替バルブを切り替えることによりロックアップクラッチの係合を解除するものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−169938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年においては、トルクコンバータにおける動力伝達効率の更なる向上の要請に伴って、車両の発進直後など入出力の回転速度差が比較的大きな状況からロックアップクラッチの係合が行なわれるようになっている。そのような状況でスムーズにロックアップクラッチを係合することを目的として、切替バルブに加えて解放用油室の油圧を制御する制御バルブを用いて油圧制御を行なう油圧制御装置が提案されている。そのような装置では、調圧された信号圧を入力してその信号圧が大きくなるほど解放用油室からの作動油を排出すると共に解放用油室に作用する油圧が高くなるほど解放用油室からの作動油の排出を促すフィードバック力として作用するよう制御バルブが構成されている。そして、ロックアップクラッチをオフからオンする際には、係合用油室と解放用油室とに同じ元圧の作動油を供給する状態とし、その状態から解放用油室内の作動油を徐々に排出して両油室の差圧を徐々に大きくすることにより、ロックアップクラッチを係合している。
【0005】
しかしながら、上述したような入出力の回転速度差が比較的大きな状況では、回転速度差に起因して入力軸側の係合用油室内の作動油に生じる遠心油圧が大きくなって、ロックアップクラッチが解放用油室側に押し込まれる場合がある。その場合、解放用油室内の油圧が高くなるため、解放用油室からの作動油の排出を促すフィードバック力が制御バルブに大きく作用することになる。そのため、解放用油室からの作動油の排出が必要以上に促されてロックアップクラッチが係合されるため、係合ショックが生じるおそれがある。
【0006】
本発明の流体圧制御装置は、係合用油室と解放用油室との差圧によりオンされるロックアップクラッチの係合ショックを抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の流体圧制御装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明の流体圧制御装置は、
原動機からの動力を流体室内の作動流体を介して伝達し該流体室がロックアップクラッチにより係合用油室と解放用油室とに区画されて、前記解放用油室に流体圧が入力されて前記係合用油室から排出されることで前記ロックアップクラッチをオフし前記解放用油室への流体圧の入力が停止されて前記係合用油室に流体圧が入力されることで前記ロックアップクラッチをオンする流体伝達装置における、前記流体室に対する流体圧の入出力を制御する流体圧制御装置であって、
調圧を伴って信号圧を出力する信号圧出力バルブと、
流体圧の出力元に繋がる出力元流路と前記解放用油室に繋がる解放油室用流路とドレン流路とに接続され、前記出力元流路と前記解放油室用流路とを連通すると共に前記解放油室用流路と前記ドレン流路との連通を遮断する第1の状態と、前記出力元流路と前記解放油室用流路との連通を遮断すると共に前記解放油室用流路と前記ドレン流路との連通を遮断する第2の状態と、前記出力元流路と前記解放油室用流路との連通を遮断すると共に前記解放油室用流路と前記ドレン流路とを連通する第3の状態とを、前記信号圧出力バルブからの信号圧の作用により切り替えて形成する制御バルブと、
前記ロックアップクラッチをオフする際には前記制御バルブが前記第1の状態を形成するよう前記信号圧出力バルブを制御し、前記ロックアップクラッチをオンする際には前記制御バルブが前記第3の状態を形成するよう前記信号圧出力バルブを制御し、前記ロックアップクラッチをオフからオンに切り替える際には前記制御バルブが前記第2の状態を形成するよう前記信号圧出力バルブを制御することにより前記解放用油室内に作動流体を閉じ込め可能に制御する制御手段と
を備えることを要旨とする。
【0009】
この本発明の流体圧制御装置では、ロックアップクラッチをオフする際には制御バルブが出力元流路と解放油室用流路とを連通すると共に解放油室用流路とドレン流路との連通を遮断する第1の状態を形成するよう信号圧出力バルブを制御し、ロックアップクラッチをオンする際には制御バルブが出力元流路と解放油室用流路との連通を遮断すると共に解放油室用流路とドレン流路とを連通する第3の状態を形成するよう信号圧出力バルブを制御し、ロックアップクラッチをオフからオンに切り替える際には制御バルブが出力元流路と解放油室用流路との連通を遮断すると共に解放油室用流路とドレン流路との連通を遮断する第2の状態を形成するよう信号圧出力バルブを制御することにより解放用油室内に作動流体を閉じ込め可能に制御する。これにより、ロックアップクラッチをオフからオンに切り替える際に解放用油室からの作動油の排出が必要以上に促されてロックアップクラッチがオンされるのを防止することができる。この結果、係合用油室と解放用油室との差圧によりオンされるロックアップクラッチの係合ショックを抑制することができる。
【0010】
こうした本発明の流体圧制御装置において、前記ロックアップクラッチをオフする際には前記出力元と前記係合用油室とを繋ぐ流路を遮断する状態に切り替え、前記ロックアップクラッチをオンする際には前記出力元と前記係合用油室とを繋ぐ流路を連通する状態に切り替える切替バルブを備えるものとすることもできる。
【0011】
また、本発明の流体圧制御装置において、前記制御バルブは、前記各状態を切り替え可能なスプールを有し、初期状態で移動可能範囲のうちの一方の移動端に位置する前記スプールに対して前記信号圧出力バルブからの信号圧に加えて該信号圧が作用する方向と同方向に前記解放用油室内の流体圧をフィードバック力として作用させることにより前記スプールを前記一方の移動端から他方の移動端に向かう方向に移動させ、前記スプールが移動可能範囲のうち前記一方の移動端を含む第1の範囲に位置するときに前記第1の状態を形成し、前記他方の移動端を含む第3の範囲に位置するときに前記第3の状態を形成し、前記第1の範囲と前記第3の範囲との間の第2の範囲に位置するときに前記第2の状態を形成し、前記ロックアップクラッチをオフからオンに切り替える際に前記信号圧出力バルブからの信号圧に加えて前記出力元からの流体圧が前記フィードバック力として作用する場合に前記第2の状態とし該出力元からの流体圧を超える流体圧が前記フィードバック力として作用する場合にも該第2の状態を維持するよう前記第2の範囲が定められてなることを特徴とするものとすることもできる。こうすれば、解放用油室内の流体圧が出力元の流体圧を超えることによりフィードバック力が増加してスプールが移動しても、解放油室用流路とドレン流路との連通を遮断したままとすることができる。したがって、待機中のフィードバック力の増加に伴って解放用油室からの作動油の排出が必要以上に促されることによりロックアップクラッチがオンされるのを防止することができる。
【0012】
さらに、本発明の流体圧制御装置において、前記制御手段は、前記ロックアップクラッチをオフからオンに切り替える際には、前記出力元からの流体圧が前記係合用油室と前記解放用油室とに共に作用する状態で待機してから該解放用油室から流体圧が排出されるよう、前記制御バルブが前記第1の状態から前記第2の状態に切り替わって該第2の状態で待機し該待機後に前記第3の状態に切り替わるよう前記信号圧出力バルブを制御する手段であるものとすることもできる。
【0013】
そして、本発明の流体圧制御装置において、前記制御バルブは、前記出力元流路に接続される入力ポートと前記解放油室用流路に接続される出力ポートと前記ドレン流路に接続されるドレンポートとが軸方向に沿って前記入力ポートから前記出力ポート,前記ドレンポートの順に形成され、第1のランドと第2のランドと両ランド間を連結する縮径部とが前記第1のランドから前記縮径部,前記第2のランドの順に前記スプールに形成され、前記スプールが前記第1の範囲にあるときに前記第2のランドにより前記ドレンポートを閉塞すると共に前記縮径部を介して前記入力ポートと前記出力ポートとを連通し前記第3の範囲にあるときに前記第1のランドにより前記入力ポートを閉塞すると共に前記縮径部を介して前記出力ポートと前記ドレンポートとを連通し前記第2の範囲にあるときに前記第1のランドにより前記入力ポートを閉塞すると共に前記第2のランドにより前記ドレンポートを閉塞するよう前記縮径部の長さが定められてなるものとすることもできる。こうすれば、第2の状態において、第1のランドと第2のランドと縮径部と制御バルブの内壁とにより囲まれると共に出力ポートと解放油室用流路とを介してロックアップクラッチの解放用油室に繋がる空間に作動油を閉じ込めることができる。このため、例えば、係合用油室内の作動流体に解放用油室内の作動流体よりも大きな遠心油圧が作用してロックアップクラッチが解放用油室側に押し込まれることにより、スプールに作用するフィードバック力が増加する場合においても、解放用油室に繋がる空間内に作動油を閉じ込めるため、ロックアップクラッチが過度に押し込まれるのを防止することができる。
【0014】
この態様の本発明の流体圧制御装置において、前記制御バルブは、前記スプールが前記一方の移動端に位置するときに前記第1のランドが前記入力ポートの一部に掛かると共に前記第2のランドが前記出力ポートの一部に掛かる状態となり、該状態で前記入力ポートの開口面積と前記出力ポートの開口面積とが同一となるよう前記縮径部の長さが定められてなるものとすることもできる。こうすれば、作動油を閉じ込めることができるよう構成した場合であっても、出力元流路から入力ポートを介して入力される作動油を出力ポートを介して解放油室用流路にスムーズに出力することができる。これらの態様の本発明の流体圧制御装置において、前記制御バルブは、前記スプールが前記他方の移動端に位置するときに前記第1のランドが前記出力ポートの一部に掛かると共に前記第2のランドが前記ドレンポートの一部に掛かる状態となり、該状態で前記出力ポートの開口面積と前記ドレンポートの開口面積とが同一となるよう前記縮径部の長さが定められてなるものとすることもできる。こうすれば、作動油を閉じ込めることができるよう構成した場合であっても、出力ポートを介して入力した解放油室用流路内の作動油をドレンポートを介してドレン流路にスムーズに排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】油圧制御装置20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】スプール74の移動によるコントロールバルブ70の状態の変化を示す説明図である。
【図3】リニアソレノイドSLUの電流指令と係合用油室11aに作用する油圧PlupONと解放用油室11bに作用する油圧PlupOFFとの時間変化の様子を示す説明図である。
【図4】ロックアップクラッチ16に作用する遠心油圧の影響を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0017】
図1は本発明の一実施例としての油圧制御装置20の構成の概略を示す構成図である。実施例の油圧制御装置20は、エンジン(図示せず)と、自動変速機(図示せず)とを搭載する自動車におけるエンジンのクランクシャフトに出力されたエンジントルクを入力して自動変速機のインプットシャフトに伝達するトルクコンバータ11の油圧を制御するための装置として構成されている。
【0018】
トルクコンバータ11は、コンバータカバー12を介してクランクシャフトに接続されたポンプインペラ13と、インプットシャフトに接続されポンプインペラ13と対向配置されたタービンランナ14と、ポンプインペラ13とタービンランナ14との間に配置され一方向のみの回転を許容するワンウェイクラッチ15aが取り付けられたステータ15と、ポンプインペラ13(コンバータカバー12)とタービンランナ14とを直結するロックアップクラッチ16とを備える。このトルクコンバータ11によるトルクの伝達は、ポンプインペラ13によりエンジントルクを作動油の流れに変換すると共にこの作動油の流れをタービンランナ14により自動変速機のインプットシャフト上のトルクに変換することにより行なう。また、トルクコンバータ11内の油室は、ロックアップクラッチ16により係合用油室11aと解放用油室11bとに区画され、係合用油室11aに作動油を入出力するための係合油室用ポート12aと、解放用油室11bに作動油を入出力するための解放油室用ポート12bとが形成されている。そして、このトルクコンバータ11では、係合用油室11aの油圧と解放用油室11bの油圧との差圧に応じてロックアップクラッチ16が係合(オン)されたり係合解除(オフ)されたりする。その詳細は後述するが、油圧制御装置20により、解放油室用ポート12bを介して解放用油室11bに作動油が入力されると共に係合油室用ポート12aを介して係合用油室11aから作動油が排出されることにより、ロックアップクラッチ16の係合が解除される。また、係合油室用ポート12aを介して係合用油室11aに作動油が入力されると共に解放油室用ポート12bから解放用油室11bへの作動油の入力が停止されることにより、ロックアップクラッチ16が係合される。なお、ロックアップクラッチ16が係合されると、入力側のポンプインペラ13と出力側のタービンランナ14とを直結して、エンジントルクが機械的かつ直接的に自動変速機のインプットシャフトに伝達されることになる。
【0019】
油圧制御装置20は、図1に示すように、エンジンからの動力によりストレーナ52を介して作動油を圧送する機械式オイルポンプ51と、図示しないリニアソレノイドSLTからの信号圧Psltにより駆動して機械式オイルポンプ51から圧送された作動油を調圧してライン圧PLを生成するプライマリレギュレータバルブ53と、図示しないリニアソレノイドSLTからの信号圧Psltにより駆動してライン圧PLの生成に伴ってプライマリレギュレータバルブ53から出力された作動油を調圧してセカンダリ圧Psecを生成するセカンダリレギュレータバルブ54と、セカンダリ圧Psecを係合油室用ポート12aを介して係合用油室11aに入力する油路と解放油室用ポート12bを介して解放用油室11bに入力する油路とを切り替える切替バルブ60と、解放用油室11bの油圧を制御するコントロールバルブ70と、モジュレータ圧Pmodを入力し調圧して切替バルブ60とコントロールバルブ70とを駆動する信号圧を出力するリニアソレノイドSLUと、リニアソレノイドSLUを駆動制御するコントローラ30とを備える。コントローラ30は、図示しないが、CPUを中心としたマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAMなどを備える。なお、ライン圧PLは、自動変速機が備えるクラッチやブレーキなどの摩擦係合要素の係合圧の制御に用いられる。
【0020】
切替バルブ60は、各種ポートが形成されたスリーブ62と、スリーブ62内を軸方向に摺動するスプール64と、スプール64を軸方向に付勢するスプリング66とにより構成されている。スリーブ62には、リニアソレノイドSLUからの信号圧をスプリング66の付勢力と逆方向にスプール64を押圧する信号圧として入力する信号圧用ポート62aと、セカンダリ圧Psecを入力する入力ポート62bと、セカンダリ圧Psecの生成に伴ってセカンダリレギュレータバルブ54から排出される作動油を入力する入力ポート62cと、コントロールバルブ70に連結される連絡油路57から作動油を入力する入力ポート62dと、解放用油室11bの解放油室用ポート12bに接続される出力ポート62eと、係合用油室11aの係合油室用ポート12aに接続される出力ポート62fと、図示しないクーラーを介して自動変速機の潤滑対象LUBEに接続される出力ポート62gと、作動油を排出するドレンポート62hとが形成されている。
【0021】
この切替バルブ60では、リニアソレノイドSLUがオフの場合には、スプリング66の付勢力によりスプール64が図1中左半分の領域に示す位置(以下、オフ位置という)に移動する。このとき、入力ポート62bと出力ポート62eとを連通し、入力ポート62cとドレンポート62hとを連通し、出力ポート62fと出力ポート62gとを連通する。また、入力ポート62bと出力ポート62fとの連通を遮断し、入力ポート62cと出力ポート62gとの連通を遮断し、入力ポート62dと出力ポート62eとの連通を遮断する。このため、セカンダリレギュレータバルブ54からのセカンダリ圧Psecが入力ポート62bと出力ポート62eと解放油室用ポート12bとを介して解放用油室11bに入力され、係合用油室11aの作動油が係合油室用ポート12aと出力ポート62fと出力ポート62gとを介して潤滑対象LUBEに出力され、セカンダリ圧Psecの生成に伴ってセカンダリレギュレータバルブ54から排出された作動油が入力ポート62cとドレンポート62hとを介して排出される。これにより、ロックアップクラッチ16の係合を解除するための油路が形成されることになる。
【0022】
一方、リニアソレノイドSLUがオンの場合には、リニアソレノイドSLUからの信号圧がスプリング66の付勢力に打ち勝ってスプール64が図1中右半分の領域に示す位置(以下、オン位置という)に移動する。このとき、入力ポート62bと出力ポート62fとを連通し、入力ポート62cと出力ポート62gとを連通し、入力ポート62dと出力ポート62eとを連通する。また、入力ポート62bと出力ポート62eとの連通を遮断し、入力ポート62cとドレンポート62hとの連通を遮断し、出力ポート62fと出力ポート62gとの連通を遮断する。このため、セカンダリレギュレータバルブ54からのセカンダリ圧Psecが入力ポート62bと出力ポート62fと係合油室用ポート12aとを介して係合用油室11aに入力され、解放用油室11bが解放油室用ポート12bと出力ポート62eと入力ポート62dとを介して連絡油路57と連通され、セカンダリ圧Psecの生成に伴ってセカンダリレギュレータバルブ54から排出された作動油が入力ポート62cと出力ポート62gとを介して潤滑対象LUBEに出力される。なお、詳細は後述するが、コントロールバルブ70により、連絡油路57に作動油が出力されたり連絡油路57の作動油が排出されたりする。連絡油路57の作動油が排出されるときには、連絡油路57と連通される解放用油室11bの作動油も排出されるから、ロックアップクラッチ16を係合するための油路が形成されることになる。
【0023】
コントロールバルブ70は、各種ポートが形成されたスリーブ72と、スリーブ72内を軸方向に摺動自在に配置されるスプール74と、スプール74を軸方向に付勢するスプリング76とにより構成されている。スプール74は、図1中下側の軸端に形成された小径ランド74aと、小径ランド74aと同径の小径ランド74bと、小径ランド74a,74bよりも外径の大きな大径ランド74cと、小径ランド74aと小径ランド74bとを連結する連結部74dと、小径ランド74bと大径ランド74cとを連結する連結部74eとを有する軸状部材として形成されている。スリーブ72には、リニアソレノイドSLUの信号圧をスプール74の小径ランド74bと大径ランド74cと連結部74eとスリーブ72の内壁とにより形成される空間に入力する信号圧用ポート72aと、オリフィスを介して係合用油室11aに作用する油圧PlupONをスリーブ74を押圧するフィードバック力として入力するフィードバックポート72bと、オリフィスを介して解放用油室11bに作用する油圧PlupOFFをスリーブ74を押圧するフィードバック力として入力するフィードバックポート72cと、セカンダリレギュレータバルブ54から供給油路55に出力されたセカンダリ圧Psecをスプール74の小径ランド74a,74bと連結部74dとスリーブ72の内壁とにより形成される空間Sに入力する入力ポート72dと、入力ポート72dから空間Sに入力されたセカンダリ圧Psecを連絡油路57に出力すると共に連絡油路57を介して切替バルブ60の入力ポート62dに接続される出力ポート72eと、空間S内の作動油をドレン油路57に排出するドレンポート72fと、大径ランド74cとスリーブ72の内壁面との摺動面から漏れ出た作動油を排出するドレンポート72gとが形成されている。
【0024】
このコントロールバルブ70では、信号圧用ポート72aに入力されるリニアソレノイドSLUからの信号圧は、小径ランド74bと大径ランド74cとの径差(受圧面積差)に応じた差圧によってスプリング76の付勢力と逆方向にスプール74に作用する。また、フィードバックポート72bに入力される油圧PlupONによるフィードバック力は、スプリング76の付勢力と同方向にスプール74に作用し、フィードバックポート72cに入力される油圧PlupOFFによるフィードバック力は、スプリング76の付勢力と逆方向にスプール74に作用する。このため、スプール74は、スプリング76の付勢力と、スプリング76の付勢力と同方向にスプール74に作用する油圧PlupONによるフィードバック力と、スプリング76の付勢力と逆方向にスプール74に作用する油圧PlupOFFによるフィードバック力と、スプリング76の付勢力と逆方向にスプール74に作用するリニアソレノイドSLUからの信号圧による力との釣り合い関係によって移動することになる。ここで、図2は、スプール74の移動によるコントロールバルブ70の状態の変化を示す説明図である。図示するように、スプール74の移動により、コントロールバルブ70の状態が図2(a)〜(e)に示すように変化する。以下、これらの各状態について順に説明する。なお、スプール74の軸方向にX座標を定め、小径ランド74aが形成された軸端の端面位置をスプール74の位置として説明する。
【0025】
図2(a)は、リニアソレノイドSLUがオフされてスプール74が初期位置X0(移動端)にある場合のコントロールバルブ70の状態を示し、この状態はスプール74が図1中の左半分の領域に示す位置にある状態と同じである。このとき、入力ポート72dと出力ポート72eとを連通して供給油路55と連絡油路57とを連通し、出力ポート72eとドレンポート72fとの連通を遮断して連絡油路57とドレン油路59との連通を遮断する。このため、セカンダリレギュレータバルブ54から供給油路55に出力されたセカンダリ圧Psecが入力ポート72dと出力ポート72eを介して連絡油路57に供給される。ここで、リニアソレノイドSLUがオフされている場合、切替バルブ60のスプール64はオフ位置にあり連絡油路57に接続される入力ポート62dは遮断されているから、連絡油路57に供給されたセカンダリ圧Psecは連絡油路57内に充填されることになる。ただし、リニアソレノイドSLUがオンされて切替バルブ60のスプール64がオン位置に移動すれば、入力ポート62dと出力ポート62eとの連通を介して解放用油室11bにセカンダリ圧Psecを供給することができる。このため、図2(a)に示す状態を供給可能状態(本発明の第1の状態に相当)という。また、図2(a)に示すように、スプール74が初期位置X0にある場合には、小径ランド74aの一部が入力ポート72dにかかり小径ランド74bの一部が出力ポート72eにかかる状態となっている。この状態で、入力ポート72dの開口面積と出力ポート72eの開口面積とが同一即ち入力ポート72dの開口幅Aと出力ポート72eの開口幅Bとが同一となるよう小径ランド74aと小径ランド74bとを連結する連結部74dの長さL(図2(b)参照)を定めるものとした。これにより、入力ポート72dを介して空間S内に入力された作動油を出力ポート72eからスムーズに出力することができる。
【0026】
図2(b)〜(e)は、リニアソレノイドSLUがオンされた以降のコントロールバルブ70の状態を示す。図2(b)では、スプール74が初期位置X0から位置X1まで移動した状態を示す。このとき、入力ポート72dと出力ポート72eとの連通を遮断して供給油路55と連絡油路57との連通を遮断すると共に出力ポート72eとドレンポート72fとの連通を遮断して連絡油路57とドレン油路59との連通を遮断する。なお、スプール74が初期位置X0から位置X1まで移動するにつれて入力ポート72dは小径ランド74aにより開口が徐々に小さくなるものの、セカンダリ圧Psecは連絡油路57に供給される状態にある。即ち、スプール74が初期位置X0から位置X1まで移動する範囲(本発明の第1の範囲に相当)では、コントロールバルブ70は供給可能状態にある。次に、図2(c)は、スプール74が位置X1から移動量αだけ離れた位置X2に移動した状態を示す。この場合も、入力ポート72dと出力ポート72eとの連通を遮断すると共に出力ポート72eとドレンポート72fとの連通を遮断する。このように、スプール74が位置X1から位置X2まで移動量αの距離を移動する間は、入力ポート72dと出力ポート72eとの連通を遮断すると共に出力ポート72eとドレンポート72fとの連通を遮断するものとなる。これにより、空間S(連絡油路57)内にセカンダリ圧Psecが入力されず空間S(連絡油路57)内の作動油が排出されない状態、即ちセカンダリ圧Psecが解放用油室11bに供給されず解放用油室11bの作動油も排出されない状態となる。このため、スプール74が位置X1から位置X2の範囲(本発明の第2の範囲に相当)にあって図2(b)〜(c)に示す状態を給排停止状態(本発明の第2の状態に相当)という。
【0027】
そして、スプール74が位置X2から移動端である位置X3まで移動すると、図2(d)に示す状態を経て図2(e)に示す状態となる。なお、リニアソレノイドSLUから最大出力の信号圧が出力される場合に位置X3(図2(e))にスプール74が移動し、この状態はスプール74が図1中の右半分の領域に示す位置にある状態と同じである。図2(d),(e)に示す状態は、いずれも入力ポート72dと出力ポート72eとの連通を遮断して供給油路55と連絡油路57との連通を遮断し出力ポート72eとドレンポート72fとを連通して連絡油路57とドレン油路59とを連通する状態であるが、スプール74が位置X2から位置X3まで移動するにつれてドレンポート72fは小径ランド74bにより徐々に開口が大きくなっていく。このため、図2(d)に示す状態では、ドレンポート72fの開口面積に応じて連絡油路57(空間S)内の作動油が排出され、図2(e)に示す状態では、最大開口でドレンポート72fと出力ポート72eとを連通して連絡油路57(空間S)内の作動油が排出されることになる。ここで、リニアソレノイドSLUがオンされている場合、切替バルブ60のスプール64はオン位置にあり連絡油路57は入力ポート62dと出力ポート62eとの連通を介して解放用油室11bと連通されているから、解放用油室11bの作動油が排出されることになる。このため、スプール74が位置X2から位置X3の範囲(本発明の第3の範囲に相当)にあって図2(d)〜(e)に示す状態を排出可能状態(本発明の第3の状態に相当)という。また、図2(e)に示すように、スプール74が位置X3にある場合には、小径ランド74aの一部が出力ポート72eにかかり小径ランド74bの一部がドレンポート72fにかかる状態となっている。この状態で、出力ポート72eの開口面積とドレンポート72fの開口面積とが同一即ち出力ポート72eの開口幅Cとドレンポート72fの開口幅Dとが同一となるよう連結部74dの長さLを定めるものとした。これにより、連絡油路57内の作動油を出力ポート72eとドレンポート72fとを介してスムーズに排出することができる。なお、上述した開口幅A,B,C,Dがすべて同一となるよう連結部74dの長さLを定めるものとしてもよい。
【0028】
こうして構成された油圧制御装置20では、ロックアップオフクラッチ16が係合解除された状態は、リニアソレノイドSLUをオフすることにより形成することができる。この場合、切替バルブ60のスプール64はオフ位置にあり、コントロールバルブ70のスプール74は図2(a)に示す位置にある。これにより、セカンダリ圧Psecが入力ポート62bと出力ポート62eと解放油室用ポート12bとを介して解放用油室11bに入力され、係合用油室11aの作動油が係合油室用ポート12aと出力ポート62fと出力ポート62gとを介して排出(潤滑対象LUBEに出力)される。このため、係合用油室11aの油圧PlupONが解放用油室11bの油圧PlupOFFよりも高くならず、ロックアップクラッチ16は係合解除される。一方、ロックアップクラッチ16が完全に係合された状態は、リニアソレノイドSLUを最大出力でオンすることにより形成することができる。この場合、切替バルブ60のスプール64はオン位置にあり、コントロールバルブ70のスプール74は図2(e)に示す位置にある。これにより、セカンダリ圧Psecが入力ポート62bと出力ポート62fと係合油室用ポート12aとを介して係合用油室11aに入力され、解放用油室11b内の作動油が解放油室用ポート12bと出力ポート62eと入力ポート62dと連絡油路57と出力ポート72eとドレンポート72fとを順に介して排出された以降は解放用油室11bへの作動油の入力が停止される。このため、係合用油室11aの油圧PlupONが解放用油室11bの油圧PlupOFFよりも高くなってロックアップクラッチ16が係合される。
【0029】
いま、ロックアップクラッチ16をオフからオンする場合を考える。本実施例では、ロックアップクラッチ16をオフしている状態即ちセカンダリ圧Psecを解放用油室11bに入力して係合用油室11aから排出している状態から、係合用油室11aと解放用油室11bとに共にセカンダリ圧Psecが入力(作用)する状態で待機させ、その後に徐々に解放用油室11bの作動油を排出することによりロックアップクラッチ16がオンされる。その際のリニアソレノイドSLUの電流指令と係合用油室11aに作用する油圧PlupON(点線)と解放用油室11bに作用する油圧PlupOFF(実線)との時間変化の様子を図3に示す。
【0030】
まず、コントローラ30によりリニアソレノイドSLUをオフからオンにしてファストフィルを行なって(時刻t0)、低圧で待機させる低圧待機状態とする(時刻t1)。このファストフィルにより、リニアソレノイドSLUに繋がる各油路に作動油が充填されることになる。このとき、リニアソレノイドSLUからの信号圧が入力されることで切替バルブ60のスプール64はオフ位置からオン位置に移動する。これにより、入力ポート62bと出力ポート62fとを連通して係合用油室11aにセカンダリ圧Psecが入力されるから、係合用油室11aの油圧PlupONが高くなっていく。また、入力ポート62dと出力ポート62eとを連通して解放用油室11bと連絡油路57とを連通する。コントロールバルブ70は、リニアソレノイドSLUからの信号圧が入力され始めた直後は供給可能状態にあり、セカンダリ圧Psecが解放用油室11bに入力される。上述したように、リニアソレノイドSLUがオフされている間は連絡油路57にセカンダリ圧Psecを充填しているから、解放用油室11bの油圧PlupOFFは低下することなく推移する。そして、係合用油室11aと解放用油室11bとに共にセカンダリ圧Psecが入力されて、フィードバックポート72b,72cに共にセカンダリ圧Psecが作用すると、コントロールバルブ70は、図2(b)に示す供給停止状態となる。なお、低圧待機中(時刻t1〜t2)において油圧PlupOFFが一時的に高くなっているが、この詳細については後述する。
【0031】
時刻t2で低圧待機状態が終了すると、リニアソレノイドSLUからの信号圧が所定のパターンに従って大きくなるよう電流制御が行なわれる。これにより、コントロールバルブ70は図2(c)に示す状態を経て給排停止状態から図2(d)に示す排出可能状態に切り替わり、ドレンポート72fの開口面積に応じて解放用油室11bから作動油が排出される。このため、油圧PlupOFFが低下していき、油圧PlupONとの差圧が徐々に大きくなる。そして、時刻t2から所定時間が経過した時刻t3以降においては、入力側のポンプインペラ13(エンジンのクランクシャフト)の回転速度と出力側のタービンランナ14(自動変速機のインプットシャフト)の回転速度との差分が目標値となるようフィードバック制御を伴って、リニアソレノイドSLUからの信号圧がさらに大きくなるよう制御される。このような制御を行なって、回転速度の差分が所定値に達すると、リニアソレノイドSLUから最大電流が出力されて(時刻t4)、ロックアップクラッチ16が係合される。このように、係合用油室11aと解放用油室11bとに共にセカンダリ圧Psecが入力(作用)する状態で待機させ、待機させた後に解放用油室11bの作動油を徐々に排出していくことで、油圧PlupONと油圧PlupOFFとの差圧を徐々に大きくしていくから、ロックアップクラッチ16をスムーズに係合することができる。
【0032】
次に、低圧待機中に油圧PlupOFFが一時的に高くなっている理由について説明する。ここで、ロックアップクラッチ16は、入力側のポンプインペラ13と出力側のタービンランナ14とを直結することによりトルクの伝達ロスをなくすことを目的としており、従来はポンプインペラ13とタービンランナ14との回転速度差が比較的小さくなってから係合されていた。しかし、近年の動力伝達効率のさらなる向上の要請に伴って、例えば自動車の発進直後など入力側と出力側との回転速度差が比較的大きな場合にまで係合領域が拡大される傾向にある。そのような領域でロックアップクラッチ16をオフからオンする際には、上述した制御が行なわれるが、入力側と出力側との回転速度差が比較的大きいために、入力側であるポンプインペラ13やコンバータカバー12の近傍の作動油には、出力側であるタービンランナ14やロックアップクラッチ16の近傍の作動油よりも大きな遠心力(以下、遠心油圧という)が作用する。ここで、図4は、ロックアップクラッチ16に作用する遠心油圧の影響を説明する説明図である。図示するように、入力側の遠心油圧が大きくなることにより、ロックアップクラッチ16が図4中左方向に押し込まれることになる。この押し込みにより、解放用油室11bの油圧PlupOFFが高まると、油圧PlupOFFをフィードバック力として入力するフィードバックポート72cには、セカンダリ圧Psecを超えるフィードバック力が入力されることになる。低圧待機中に、そのようなフィードバック力がスプール74に作用すると、図2(b)に示す給排停止状態からスプール74が移動して排出可能状態に切り替わるおそれがある。しかし、本実施例では、上述したように、図2(b)に示す給排停止状態から図2(d)に示す排出可能状態に切り替わるまでには移動量αを超えるスプール74の移動を必要とするから、排出可能状態に切り替わらずに給排停止状態を維持することができる。また、給排停止状態を維持することができるために、作動油を空間S内(連絡油路57内を含む)に閉じこめることができる。このため、ロックアップクラッチ16が押し込まれたときには、空間S内に閉じこめられる作動油の油圧が高まり、それが押し込みに対する抵抗力として作用してロックアップクラッチ16が過度に押し込まれるのを防止することができる。低圧待機中に油圧PlupOFFが一時的に高くなっているのは、このような遠心油圧によるロックアップクラッチ16の押し込みの影響によるものである。
【0033】
これに対して、移動量αが確保されずフィードバック力の増加により、コントロールバルブ70が給排停止状態から排出可能状態にすぐに切り替わるものを考えると、本実施例のように空間S内に作動油を閉じ込めることができないから、ロックアップクラッチ16の押し込みに対抗することができない。このため、低圧待機中に遠心油圧が作用してロックアップクラッチ16が押し込まれると、スプール74が移動して排出可能状態となりドレンポート74fが開口されてしまう。これにより、解放用油室11b内の作動油が排出されてロックアップクラッチ16が急激に係合されることになり、係合ショックが生じてしまう。本実施例では、空間S内に作動油を閉じ込めて解放用油室11b内の作動油が排出されるのを防止するから、そのようなロックアップクラッチ16の係合ショックが発生するのを抑制することができる。また、このような遠心油圧の影響を回避するため、低圧待機中に係合用油室11aに入力する油圧と解放用油室11bに入力する油圧とを異なる油圧とすることも考えられるが、セカンダリ圧Psecとは異なる油圧を生成しなければならず、装置構成が複雑なものとなってしまう。本実施例では、もとより同じセカンダリ圧Psecを用いてロックアップクラッチ16を制御しており、スプール74の連結部74dの長さLを空間S内に作動油の閉じ込めが可能となるよう定めたものであるから、装置構成が複雑となることはない。そして、供給可能状態でスプール74が初期位置X0に位置する場合に入力ポート72dと出力ポート72eとの開口面積が同一となると共に排出可能状態でスプール74が位置X3に位置する場合に出力ポート72eとドレンポート72fとの開口面積が同一となるよう連結部74の長さLを定め、空間S内への作動油の流入出がスムーズに行なわれるものとしたから、空間S内に作動油の閉じ込めが可能となるよう連結部74の長さLを定めた場合であっても、油圧の制御性に悪影響を及ぼすことはない。コントロールバルブ70のスプール74の小径ランド74a,74bを連結する連結部74dを、空間S内に作動油を閉じ込めることができると共に空間S内への作動油の流入出がスムーズに行なわれる長さLとしたのは、こうした理由による。
【0034】
以上説明した実施例の流体圧制御装置では、コントロールバルブ70を、スプール74の小径ランド74a,74bと連結部74dとスリーブ72の内壁とにより形成される空間S内への作動油の供給および空間Sからの作動油の排出がなされない給排停止状態と、解放用油室11bから出力されて空間S内に入力された作動油を排出する排出可能状態とをスプール74の移動量αを超える移動をもって切り替えるよう構成したから、トルクコンバータ11のロックアップクラッチ16をオフからオンするときに係合用油室11aと解放用油室11bとに共にセカンダリ圧Psecを入力する状態で待機させる際に、遠心油圧の作用によりロックアップクラッチ16が解放用油室11b側に押し込まれてセカンダリ圧Psecを超えるフィードバック力がスプール74に作用する場合であっても、排出可能状態に切り替わらずに給排停止状態を維持して空間S内に作動油を閉じ込めると共に閉じ込められた作動油がロックアップクラッチ16の押し込みに対する抵抗力として作用してロックアップクラッチ16が過度に押し込まれるのを防止することができる。このため、解放用油室11b内の作動油が排出されてロックアップクラッチ16が係合されるのを防止することができるから、遠心油圧によるロックアップクラッチ16の係合ショックの発生を抑制することができる。
【0035】
実施例では、スプール74が初期位置X0に位置する際の入力ポート72dの開口面積と出力ポート72eの開口面積とが同一即ち入力ポート72dの開口幅Aと出力ポート72eの開口幅Bとが同一となるよう連結部74の長さLを定めるものとしたが、これに限られず、入力ポート72dと出力ポート72eとの開口面積の同一を考慮することなく連結部74の長さLを定めるものとしてもよい。また、スプール74が位置X3に位置する際の出力ポート72eの開口面積とドレンポート72fの開口面積とが同一即ち出力ポート72eの開口幅Cとドレンポート72fの開口幅Dとが同一となるよう連結部74の長さLを定めるものとしたが、これに限られず、出力ポート72eとドレンポート72fとの開口面積の同一を考慮することなく連結部74の長さLを定めるものとしてもよい。
【0036】
実施例では、自動車に搭載されたトルクコンバータ11の油圧を制御するものとしたが、これに限られず、作動流体を介して動力を伝達すると共に流体圧の差圧により係合されるロックアップクラッチを有するトルクコンバータの流体圧を制御するものであればよく、自動車以外の車両や船舶、航空機等の移動体に搭載されたトルクコンバータの流体圧を制御するものとしてもよいし、据え置き型の機器に搭載されたトルクコンバータの流体圧を制御するものとしてもよい。
【0037】
ここで、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、トルクコンバータ11が「流体伝達装置」に相当し、リニアソレノイドSLUが「信号圧出力バルブ」に相当し、コントロールバルブ70が「制御バルブ」に相当し、切替バルブ60が「切替バルブ」に相当し、コントローラ30が「制御手段」に相当する。また、小径ランド74aが「第1のランド」に相当し、小径ランド74bが「第2のランド」に相当し、連結部74dが「縮径部」に相当する。なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0038】
以上、本発明の実施の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、自動車産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0040】
11 トルクコンバータ、11a 係合用油室、11b 解放用油室、12 コンバータカバー、12a 係合油室用ポート、12b 解放油室用ポート、13 ポンプインペラ、14 タービンランナ、15 ステータ、15a ワンウェイクラッチ、16 ロックアップクラッチ、20 油圧制御装置、30 コントローラ、51 機械式オイルポンプ、52 ストレーナ、53 プライマリレギュレータバルブ、54 セカンダリレギュレータバルブ、55 供給油路、57 連絡油路、59 ドレン油路、60 切替バルブ、62 スリーブ、62a 信号圧用ポート、62b,62c,62d 入力ポート、62e,62f,62g 出力ポート、62h ドレンポート、64 スプール、66 スプリング、70 コントロールバルブ、72 スリーブ、72a 信号圧用ポート、72b,72c フィードバックポート、72d 入力ポート、72e 出力ポート、72f,72g ドレンポート、74 スプール、74a,74b 小径ランド、74c 大径ランド、74d,74e 連結部、76 スプリング、SLU リニアソレノイド、S 空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機からの動力を流体室内の作動流体を介して伝達し該流体室がロックアップクラッチにより係合用油室と解放用油室とに区画されて、前記解放用油室に流体圧が入力されて前記係合用油室から排出されることで前記ロックアップクラッチをオフし前記解放用油室への流体圧の入力が停止されて前記係合用油室に流体圧が入力されることで前記ロックアップクラッチをオンする流体伝達装置における、前記流体室に対する流体圧の入出力を制御する流体圧制御装置であって、
調圧を伴って信号圧を出力する信号圧出力バルブと、
流体圧の出力元に繋がる出力元流路と前記解放用油室に繋がる解放油室用流路とドレン流路とに接続され、前記出力元流路と前記解放油室用流路とを連通すると共に前記解放油室用流路と前記ドレン流路との連通を遮断する第1の状態と、前記出力元流路と前記解放油室用流路との連通を遮断すると共に前記解放油室用流路と前記ドレン流路との連通を遮断する第2の状態と、前記出力元流路と前記解放油室用流路との連通を遮断すると共に前記解放油室用流路と前記ドレン流路とを連通する第3の状態とを、前記信号圧出力バルブからの信号圧の作用により切り替えて形成する制御バルブと、
前記ロックアップクラッチをオフする際には前記制御バルブが前記第1の状態を形成するよう前記信号圧出力バルブを制御し、前記ロックアップクラッチをオンする際には前記制御バルブが前記第3の状態を形成するよう前記信号圧出力バルブを制御し、前記ロックアップクラッチをオフからオンに切り替える際には前記制御バルブが前記第2の状態を形成するよう前記信号圧出力バルブを制御することにより前記解放用油室内に作動流体を閉じ込め可能に制御する制御手段と
を備える流体圧制御装置。
【請求項2】
前記ロックアップクラッチをオフする際には前記出力元と前記係合用油室とを繋ぐ流路を遮断する状態に切り替え、前記ロックアップクラッチをオンする際には前記出力元と前記係合用油室とを繋ぐ流路を連通する状態に切り替える切替バルブを備える請求項1記載の流体圧制御装置。
【請求項3】
前記制御バルブは、前記各状態を切り替え可能なスプールを有し、初期状態で移動可能範囲のうちの一方の移動端に位置する前記スプールに対して前記信号圧出力バルブからの信号圧に加えて該信号圧が作用する方向と同方向に前記解放用油室内の流体圧をフィードバック力として作用させることにより前記スプールを前記一方の移動端から他方の移動端に向かう方向に移動させ、前記スプールが移動可能範囲のうち前記一方の移動端を含む第1の範囲に位置するときに前記第1の状態を形成し、前記他方の移動端を含む第3の範囲に位置するときに前記第3の状態を形成し、前記第1の範囲と前記第3の範囲との間の第2の範囲に位置するときに前記第2の状態を形成し、前記ロックアップクラッチをオフからオンに切り替える際に前記信号圧出力バルブからの信号圧に加えて前記出力元からの流体圧が前記フィードバック力として作用する場合に前記第2の状態とし該出力元からの流体圧を超える流体圧が前記フィードバック力として作用する場合にも該第2の状態を維持するよう前記第2の範囲が定められてなることを特徴とする請求項1または2記載の流体圧制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記ロックアップクラッチをオフからオンに切り替える際には、前記出力元からの流体圧が前記係合用油室と前記解放用油室とに共に作用する状態で待機してから該解放用油室から流体圧が排出されるよう、前記制御バルブが前記第1の状態から前記第2の状態に切り替わって該第2の状態で待機し該待機後に前記第3の状態に切り替わるよう前記信号圧出力バルブを制御する手段である請求項3記載の流体圧制御装置。
【請求項5】
前記制御バルブは、前記出力元流路に接続される入力ポートと前記解放油室用流路に接続される出力ポートと前記ドレン流路に接続されるドレンポートとが軸方向に沿って前記入力ポートから前記出力ポート,前記ドレンポートの順に形成され、第1のランドと第2のランドと両ランド間を連結する縮径部とが前記第1のランドから前記縮径部,前記第2のランドの順に前記スプールに形成され、前記スプールが前記第1の範囲にあるときに前記第2のランドにより前記ドレンポートを閉塞すると共に前記縮径部を介して前記入力ポートと前記出力ポートとを連通し前記第3の範囲にあるときに前記第1のランドにより前記入力ポートを閉塞すると共に前記縮径部を介して前記出力ポートと前記ドレンポートとを連通し前記第2の範囲にあるときに前記第1のランドにより前記入力ポートを閉塞すると共に前記第2のランドにより前記ドレンポートを閉塞するよう前記縮径部の長さが定められてなる請求項3または4記載の流体圧制御装置。
【請求項6】
前記制御バルブは、前記スプールが前記一方の移動端に位置するときに前記第1のランドが前記入力ポートの一部に掛かると共に前記第2のランドが前記出力ポートの一部に掛かる状態となり、該状態で前記入力ポートの開口面積と前記出力ポートの開口面積とが同一となるよう前記縮径部の長さが定められてなる請求項5記載の流体圧制御装置。
【請求項7】
前記制御バルブは、前記スプールが前記他方の移動端に位置するときに前記第1のランドが前記出力ポートの一部に掛かると共に前記第2のランドが前記ドレンポートの一部に掛かる状態となり、該状態で前記出力ポートの開口面積と前記ドレンポートの開口面積とが同一となるよう前記縮径部の長さが定められてなる請求項5または6記載の流体圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−72797(P2012−72797A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216537(P2010−216537)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】