説明

浮遊する粒子の位置測定法

【課題】粒子像のボケを利用して1台のカメラで粒子の三次元定量的情報を計測するデフォーカス法において、粒子数が多い場合や粒子が合焦点に近いところに位置する場合でも、粒子の識別ができる手法を提供する。
【解決手段】カメラのレンズに装着するマスクの3箇所(正三角形の各頂点)に孔を設け、それぞれの孔に赤、緑、青の色フィルタを取り付けて撮影すると、浮遊粒子が合焦点位置にあるときには粒子像は1点に集中して1つの白色輝点として観察されるが、合焦点位置から外れると赤、緑、青3輝点で形成される三角形が観測される。それぞれの輝点の中心をつないでできる三角形に外接する外周円を想定し、その半径を求め、その三角形の向きを正負で表し、予め作成しておいた較正曲線に当てはめて、粒子の合焦点位置からの光軸方向への位置のずれ量を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
液体等の中で起こっている目に見えない流体運動を観測するために、液体に小粒子を浮遊させ、その粒子の三次元的位置あるいは運動に関する情報を光学的な手段を使用して計測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
浮遊する粒子の三次元定量的情報を計測する手法は、2台のカメラを用いて計測領域をステレオ撮影する三次元粒子画像速度計測法や1台のカメラで粒子像のボケを利用して粒子の三次元定量的情報を計測するデフォーカス法などがある。
【0003】
デフォーカス法の原理は複数の孔を持つマスクをカメラレンズの直前または直後に装着して像面上に得られた粒子の像から粒子の位置に関する情報を得る方法である。
【0004】
粒子がレンズの合焦点位置にあるときはピントが合い、粒子の像は像面上の1点に集約するが、合焦点位置からずれた位置にある場合の像はボケ、マスクに空けた孔の数だけ像面上に輝点が現れる。このとき合焦点位置からの距離に応じてその輝点同士の広がりかたが変化する。合焦点より遠い位置にある輝点の分布は、合焦点より近い位置にある輝点の場合の分布と位置関係が逆転する。デフォーカス法はこの現象を利用して、粒子の合焦点位置からの光軸方向の相対距離を計測する手法である。
【0005】
1台のカメラで粒子の位置に関する情報が得られるのは他の方法に比べて利点であるが、従来のデフォーカス法では、輝点数が見かけ上3倍に増えるため、粒子密度が高くなると、個々の粒子像を分離するのが難しくなり、特に合焦点近くにある粒子は像が重なってしまって、粒子の識別が困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
粒子像のボケを利用して1台のカメラで粒子の三次元定量的情報を計測するデフォーカス法において、粒子数が多い場合や粒子が合焦点に近いところに位置する場合でも、粒子の識別ができる手法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、カメラのレンズに装着するマスクの3箇所(正三角形の各頂点)に孔を設け、それぞれの孔に赤、緑、青の色フィルタを取り付け、撮影するとフィルタなしの場合に比べて、それぞれの粒子に対応する輝点に色が付くため輝点の組の識別を容易にすることができる。
【0008】
赤、緑、青の色フィルタを装着したマスクをレンズに取り付けて撮影すると、浮遊粒子が合焦点位置にあるときには像面上の粒子像は1点に集中して1つの白色輝点として観察されるが、合焦点位置から外れると赤、緑、青3輝点で形成される三角形が観測される。その赤、緑、青3輝点の広がりは像のボケに対応する。それぞれの輝点の中心をつないで、できる三角形に外接する外周円の半径を求め、その三角形の向きを正負で表し、予め作成しておいた較正曲線に当てはめると粒子の合焦点位置からの光軸方向への位置のずれ量を算出することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の色分離フィルタを使用したデフォーカス法によれば粒子密度の高い場合や粒子が合焦点近傍にある場合でも粒子の三次元定量的情報を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
カメラのレンズの直前または直後に3個の孔(アパーチャー)の開いたマスクを装着する。その3個の孔は正三角形の各頂点に対応させてあり、それぞれの孔に赤、緑、青の色フィルタを取り付けておく。
【0011】
そのアパーチャーマスクを装着したカメラで白色に光る粒子を写すと、粒子が合焦点位置にある場合は像面上には白色の1つの輝点になって結像する。
【0012】
これに対し合焦点位置より離れた位置にある粒子は像面上に赤、緑、青の3つの輝点の作る三角形となって現れる。
【0013】
この赤、緑、青の輝点の作る三角形の像面上の広がりは、対象粒子の合焦点位置からの距離と相関関係があり、又粒子が、合焦点に対し光軸方向手前にあるか、奥にあるかにより赤、緑、青の輝点の作る三角形の向きは逆転するので、これら現象を利用して粒子の合焦点からの位置及び距離を計測する事ができる。
【0014】
粒子密度が高い場合は3色の重なった輝点像をそれぞれの色別の輝点像に分けることにより、赤色画面上で数個の輝点をクラスターパターンとして捕らえると、同じパターンが緑色画面上でも青色画面上でも存在するので1粒子に対応する赤、緑、青の点で構成される三角形を容易に抽出できる。
【実施例1】
【0015】
図1はアパーチャーマスクの一例を示しており、それぞれに赤、緑、青のフィルタを付けた直径5mmの孔がマスクの中心より7.5mm離れた位置に、それぞれの孔が正三角形の頂点になるように120°の角度を持って配置してある。
【0016】
異なった位置にある粒子からの光がレンズ1とアパーチャーマスク2を通過して、像面3にどのように結像するかを模式的に図2に示してある。理解しやすくするためにアパーチャーは上下2つのみ開けてある。粒子が合焦点のAの位置にあるとすると、Aにある粒子の像は像面3のA’に1点となって結像する。
【0017】
他方合焦点位置から離れた位置Bにある粒子は像面3にB’,B’の2点となって現れる。Bの位置にあった粒子がレンズ1より遠ざかり焦点Aの位置に達し、さらに焦点Aより外に離れて行くと、B’,B’の距離は近づき、粒子がAの位置に来たときに1点となり、それを過ぎるとB’,B’は上下逆転してまた距離は離れていく。このことから注目している粒子が合焦点位置に対しどの位置にあるかを決定することができる。
【0018】
B1’,B2’の距離はレンズで作る像のボケと考えてよく、本例の最初に取り上げた正三角形の頂点に孔を持つマスクの場合は像面上に現れる粒子の像は赤、緑、青の色の3輝点からなる三角形になる。
【0019】
この広がりを数値的に表す方法は、赤、緑、青それぞれの輝点の中心をつないでできた三角形の外接円を想定して、その半径rをボケ量と定義し、光軸上(Z軸)で粒子を移動させてそのときに変化していく外接円の半径rをZ軸上の距離zに対してプロットしたのが図3である。粒子が合焦点に来たときボケは0になり、その前後でボケの方向は逆転する。この曲線がボケ量から粒子のZ軸上の位置を決める較正曲線となる。
【0020】
実際に水の中に浮遊粒子をいれ、水を動かしたときのある瞬間の粒子像の一部拡大図が例として図4に示してある。点線で囲んだC,D領域がそれぞれの粒子に対応している。
【0021】
時間経過と共にそれぞれの粒子の位置を追跡し、ある面に投影したそれぞれの粒子の動く方向と速度をプロットした例が図5に示してある。もちろん各面への投影図を元に三次元的なデータも得ることができる。
【0022】
複数の粒子群が作る3色の輝点からなる粒子像により、それぞれの粒子の三次元的位置に関する情報が得られたおり、それら輝点1個1個のボケ具合から、浮遊粒子の大きさに関する情報も合わせて得ることもできる。たとえば外接円の半径が同じであって、距離は同等であると判定されても輝点の大きさが異なっていれば、大きく現れた輝点に対応する粒子は大きい粒子であるということになる。
【実施例2】
【0023】
実施例1では白い粒子を白色光で照らし赤、緑、青のフィルタを持ったアパーチャーマスクのカメラを使用した場合を示したが、光源にアルゴンイオンレーザ(青緑色発光)を使用し、アルゴンイオンレーザ照明を行った折、オレンジ色に発光する蛍光粒子を浮遊粒子として使用し、マスクに開けた3箇所の孔それぞれに、オレンジ色、緑色、青色が透過するフィルタを装着し、浮遊粒子を撮影した画像をオレンジ色、緑色、青色、それぞれの画像に分解することで、その折の3色の広がりと色の配列から粒子の三次元的位置に関する情報を得る方法もある。
【0024】
レーザー光を使用することにより、照射時間を正確に制御でき、かつ通常の光よりも強度を増せるので、粒子像の検出精度を向上させることができ、より精度の高い測定が可能になる。また青緑色発光をするレーザーならばアルゴンイオンレーザのみならず、YAGレーザー、銅イオンレーザー等を使用することも可能である。
【産業上の利用の可能性】
【0025】
以上述べたように、本発明の方法を使用すれば局所的な計測が困難であった流体の動力学的なデータを容易に得ることができるので、この分野の研究開発に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】アパーチャーマスクの一例
【図2】レンズ、アパーチャーマスクを通過する光の経路
【図3】光軸上(Z軸上)の粒子の位置zと外接円の半径r(像のボケに対応)の関係
【図4】粒子像の一部拡大図
【図5】粒子の動く方向と速度をプロットしたある平面(x−z面)への投影例
【符号の説明】
【0027】
1 レンズ
2 アパーチャーマスク
3 像面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カメラのレンズの前又は後ろに3個の小さな孔(アパーチャー)の開いたマスクを装着するに当たり3個の孔は正三角形の頂点に対応するようにし、それぞれの孔に赤、緑、青の色フィルタを取り付け、白色照明により白色に光る浮遊粒子の像を該レンズによりカメラの像面上に作らせたとき、その粒子像は浮遊粒子が合焦点位置にあるときは白色の1輝点になり、浮遊粒子が合焦点位置からずれるときは赤、緑、青の3色異なる3輝点の三角形の粒子像となるが、その折の3輝点の広がりと色の配列の向きから浮遊粒子の三次元的位置に関する情報を得ることを特徴とする浮遊粒子位置測定法。
【請求項2】
同1粒子に対応する、像面上にできた赤、緑、青色の3輝点からなる粒子像において、赤、緑、青の輝点の中心をつないでできる三角形に外接する外周円を想定して、その半径を求め、その三角形の向きを正負で表し、予め作成しておいた較正曲線に当てはめ、粒子の合焦点位置からの光軸方向への位置のずれ量を算出することを特徴とする請求項1記載の浮遊粒子位置測定法。
【請求項3】
複数の粒子群を対象とするとき、得られた3色混じった画像をそれぞれ異なった色別の画像に分け、それら色別の画像間の相関関係から、それぞれの浮遊粒子に対応する赤、緑、青の3色からなる三角形の粒子像を見つけ出すことを特徴とする請求項2記載の浮遊粒子位置測定法。
【請求項4】
複数の粒子群が作る3色の輝点からなる粒子像により、それぞれの粒子の三次元的位置に関する情報が得られたおり、それら輝点1個1個のボケ具合から、浮遊粒子の大きさに関する情報も合わせて得ることを特徴とする請求項1記載の浮遊粒子位置測定法。
【請求項5】
マスクに開けた3箇所の孔それぞれに、オレンジ色、緑色、青色を透過させるフィルタを装着し、光源には青緑色発光をするレーザーを使用し、青緑色照明を行った折、オレンジ色に発光する蛍光粒子を浮遊粒子として使用し、撮影した画像をオレンジ色、緑色、青色、それぞれの画像に分解することで、その折の3色の広がりと色の配列から粒子の三次元的位置に関する情報を得ることを特徴とする請求項1記載の浮遊粒子位置測定法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−215120(P2011−215120A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95444(P2010−95444)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(597010972)株式会社ネクスコ・エンジニアリング北海道 (3)
【Fターム(参考)】