説明

浴槽

【課題】マイクロビーズを均一に分散させて安定した保温効果を発揮でき、あるいはマイクロビーズを必要に応じて偏在させることにより、局部的に他と異なる熱特性を発揮できるようにした浴槽を提供する。
【解決手段】浴槽が繊維強化プラスチックで形成される浴槽本体1と、浴槽本体1の内面全体を覆う内層体2とで構成されている。浴槽本体1は、熱硬化性樹脂からなる母材3と、母材3に混入されるマイクロビーズ4と、繊維質強化材5などを構成材にして、これらの構成材を塗装ガンで内層体2に吹き付けて形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチック材(以下、FRPという)で成形された浴槽に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なこの種の浴槽は、内層体(ゲルコート層)と、内層体の外面全体を覆うFRP製の浴槽本体とで構成されている(特許文献1)。内層体は、不飽和ポリエステルやアクリルなどで成形される。着色されたアクリル層の外面に透明なアクリル層を積層して内層体を形成することもある。
【0003】
本発明では、浴槽の保温性を向上するために、浴槽を構成する樹脂中にマイクロビーズを混入しているが、これ自体は本出願人の提案にかかる特許文献2に公知である。そこでは、雄型の表面に内層体(ゲルコート層)を形成したのち、内面にガラスマットが貼り付けてある雌型を雄型に接合し、両型の間に溶融プラスチックを注入して浴槽を成形する。得られた浴槽は、内層体と、中層体と、FRP製の外層体との三者で構成されている。マイクロビーズは、注型法によって形成される中層体に混入されている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−105219号公報(段落番号0026、図1)
【特許文献2】特開2002−205342号公報(段落番号0016、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2の浴槽においては、マイクロビーズを混入する分だけ中層体の熱伝導率を小さくして浴槽の保温特性を向上できる。しかし、従来の2層構造の浴槽に比べて、中層体を設ける分だけ浴槽の製造コストが高く付く。マイクロビーズが混入された中層体は注型法によって形成するので、溶融プラスチックを成形型内に注入した後は、マイクロビーズの分散状態を確認することも制御することもできず、マイクロビーズの成形型内における分散状態は、注型前の分散状態に依存するしかない。そのため、マイクロビーズが型内で均一に分散しているかどうかは判らない。逆にマイクロビーズを意図的に偏在させることもできない。
【0006】
本発明の目的は、マイクロビーズを均一に分散させて安定した保温効果を発揮でき、あるいはマイクロビーズを必要に応じて偏在させることにより、局部的に他と異なる熱特性を発揮できるようにした浴槽を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、繊維強化プラスチックで形成される浴槽本体1と、浴槽本体1の内面全体を覆う内層体2とを含む浴槽であって、浴槽本体1が、熱硬化性樹脂からなる母材3と、マイクロビーズ4、および繊維質強化材5とを含んで構成されており、浴槽本体1が、塗装ガンによる吹き付け法で形成されている。
【0008】
また本発明は、繊維強化プラスチックで形成される浴槽本体1と、浴槽本体1の内面全体を覆う内層体2とを含む浴槽であって、浴槽本体1が、熱硬化性樹脂からなる母材3と、母材3に混入されるマイクロビーズ4と、内層体2の外面に配置される繊維質強化材5とを含んで構成されており、浴槽本体1が、ローラによるハンドレイアップ法で形成されている。
【0009】
母材3に対するマイクロビーズ4の混合比率は、5〜20重量%とし、母材3に対する繊維質強化材5の混合比率は、20〜40重量%とする。
【0010】
母材3に対するマイクロビーズ4の混合比率が5重量%未満であると、良好な保温特性が得られなくなる。母材3に対するマイクロビーズ4の混合比率が20重量%を越えると、母材3とマイクロビーズ4との混合物の粘度が増加し、母材3とマイクロビーズ4と繊維質強化材5との三者を、互いに絡みあった状態で均等に分散させることができなくなる。母材3に対する繊維質強化材5の混合比率が20重量%未満であると、母材3の樹脂量が多過ぎて生産時に樹脂ダレが発生したり、浴槽の強度が低くなる。母材3に対する繊維質強化材5の混合比率が40重量%を越えると、繊維質強化材5に対し母材3とマイクロビーズ4が十分に含浸せず、母材3とマイクロビーズ4と繊維質強化材5との三者を、互いに絡みあった状態で均等に分散させることができなくなる。こうした理由から、マイクロビーズ4の母材3に対する混合比率は5〜20重量%とし、繊維質強化材5の母材3に対する混合比率は20〜40重量%とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、浴槽本体1と、内層体2とを含むFRP製浴槽において、熱硬化性樹脂からなる母材3と、マイクロビーズ4と、繊維質強化材5などを構成材にして、これらを例えば塗装ガンで内層体2に吹き付けて浴槽本体1を形成する。このように、母材3とマイクロビーズ4と繊維質強化材5の三者を内層体2に吹き付けて浴槽本体1を形成すると、内層体2の表面において母材3と、マイクロビーズ4と、繊維質強化材5との三者を、互いに絡み合った状態で均等に分散させることができ、しかも繊維質強化材5によってマイクロビーズ4の移動が規制されるので、浴槽本体1の内部にマイクロビーズ4を均一に分散させて、安定した保温効果を発揮できる浴槽が得られる。必要に応じて、例えば特定部分の肉厚が大きくなるように吹き付け量を増加して、マイクロビーズ4が他より多く含まれる部分を形成することができるので、局部的に他と異なる熱特性を発揮できる浴槽を形成することもできる。
【0012】
ローラによるハンドレイアップ法で浴槽本体1を形成する場合には、母材3が例えば繊維質強化材5に染み込むとき、マイクロビーズ4も繊維質強化材5に染み込むので、浴槽本体1の内部においては、母材3と、マイクロビーズ4とが、繊維質強化材5の繊維の隙間に捕捉された状態で均等に分散する。したがって上記と同様に浴槽本体1の内部にマイクロビーズ4を均一に分散させて、安定した保温効果を発揮できる浴槽が得られる。必要に応じて、マイクロビーズ4が他より多く含まれる部分を形成することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1および図2は本発明に係る浴槽の実施例を示す。図1において浴槽は、繊維強化プラスチック製の浴槽本体1と、浴槽本体1の内面全体を覆う内層体(ゲルコート層)2とで構成されている。
【0014】
浴槽本体1は、不飽和ポリエステル(熱硬化性樹脂)からなる母材3に、マイクロビーズ4およびガラス繊維(繊維質強化材)5などを混合して、図2に示すように塗装ガンによる吹き付け法で形成する。
【0015】
具体的には、母型8の外面に透明アクリル樹脂と、着色されたアクリル樹脂とを、塗装ガンで順に吹き付けて第1内層体2aと第2内層体2bとからなる内層体2を形成する。次に、硬化した内層体2の外表面に、FRPを塗装ガンで吹き付けて浴槽本体1を形成する。塗装ガンには、マイクロビーズ4が混入された母材3と、重合促進剤(硬化剤)などが供給され、両者の噴出流によって、短く切断されたガラス繊維5が同時に吹き付けられる。そのため、内層体2の表面においては、母材3および重合促進剤と、マイクロビーズ4と、ガラス繊維5との三者が絡み合った状態で均等に分散する。
【0016】
内層体2の表面に付着したマイクロビーズ4は、母材3が硬化するまでの間流動し得るが、ガラス繊維5によって移動が規制される。したがって、マイクロビーズ4は吹き付けられた位置から大きく流動することはなく、均等に分散させることができる。もちろん、必要があれば、特定部分の肉厚が大きくなるように吹き付け量を増加して、マイクロビーズ4が他より多く含まれる部分を形成することができる。例えば、風呂釜との連通管を接続する部分を厚肉にしてマイクロビーズ4を偏在させ、風呂釜の側から浴槽の側へ高温の熱が伝わるのを阻止することができる。
【0017】
母材3に混入するマイクロビーズ4は、セラミック、ガラス、熱可塑性プラスチック材などを素材にして形成することができ、その平均的な直径寸法は50〜150μmとすることが好ましい。また、マイクロビーズ4の母材3に対する混合比率は5〜20重量%とする。
【0018】
マイクロビーズ4は、平均的な直径寸法が50μm未満であると、熱伝導率を下げる効果が小さくなり、平均的な直径寸法が150μmを越えると、浴槽強度が低くなり、母材3とマイクロビーズ4とガラス繊維5との三者を互いに絡みあった状態で均等に分散させることができなくなるからである。
【0019】
また、マイクロビーズ4の母材3に対する混合比率が5重量%未満であると、良好な保温特性が得られないなり、その混合比率が20重量%を越えると、母材3とマイクロビーズ4とガラス繊維5との三者を、互いに絡みあった状態で均等に分散さることができなくなるからである。
【0020】
母材3に対するガラス繊維5の混合比率は20〜40重量%とする。母材3に対するガラス繊維5の混合比率が20重量%未満であると、母材3の樹脂量が多過ぎて生産時に樹脂ダレが発生したり、浴槽の強度が低くなる。母材3に対するガラス繊維5の混合比率が40重量%を越えると、ガラス繊維5に対し母材3とマイクロビーズ4が十分に含浸せず、母材3とマイクロビーズ4とガラス繊維5との三者を、互いに絡みあった状態で均等に分散できなくなるからである。
【0021】
FRPの吹き付けが終了したら、浴槽本体1を母型8ごと加熱炉内に移し、炉内の雰囲気温度を50〜100℃に維持して浴槽本体1の硬化を促進する。得られた浴槽の内層体2の平均的な全厚寸法は2mm、浴槽本体1の平均的な全厚寸法は5mmであった。この後、浴槽本体1の表面に突出するガラス繊維5などを除去して平滑化し、仕上げ塗装を施して浴槽を完成した。
【0022】
よって得た浴槽の熱伝導率を計測した。比較のために、母材3にマイクロビーズ4を含まないFRPを用いて、上記と同様にして浴槽本体を形成し、その熱伝導率を同様にして計測した。両者の内層体2の熱伝導率は同じで0.279W/mKであった。比較例の浴槽本体の熱伝導率が0.194W/mKであったのに対し、上記の実施例の浴槽本体の熱伝導率は0.130W/mKであった。つまり、従来の浴槽に比べて熱伝導率を30%強小さくでき、その分だけ浴槽の保温効果を向上することができた。
【0023】
マイクロビーズ4は、ガラス繊維5と同様に塗装ガンからの噴出流を利用して吹き付けることができる。その場合には、必ずしも母材3中にマイクロビーズ4を混入しておく必要はない。また、マイクロビーズ4の送給量を大小に加減できるようにしておけば、必要な部分により多くのマイクロビーズ4を吹き付けることができる。
【0024】
浴槽本体は、塗装ガンによる吹き付け法で形成する以外に、ローラによるハンドレイアップ法で形成してもよい。その場合には、母型8の外面にプラスチック材を塗装ガンで吹き付けて内層体2を形成する。次に、硬化した内層体2の表面全体に、一定の大きさに切断したガラス繊維マット(繊維質強化材)5を貼り付けたうえで、その表面にFRPをローラで塗布し脱泡する。この作業を数回繰り返して浴槽本体1を形成することができる。
【0025】
FRPの母材3にはマイクロビーズ4が混入されているので、母材3がガラス繊維マット5に染み込むとき、マイクロビーズ4もガラス繊維マット5に染み込む。そのため、浴槽本体1の内部においては、母材3およびマイクロビーズ4とが、ガラス繊維マット5の繊維の隙間に捕捉された状態で均等に分散する。浴槽本体1を形成し終わったら、浴槽本体1を母型8ごと加熱炉内に移して硬化させる。最後に浴槽本体1の表面の凹凸を均して平滑化し、仕上げ塗装を施して浴槽を完成する。
【0026】
繊維質強化材としては、1〜5mmの厚みがあり、シート全面に一群の穴が通設してあるコアマットや、3次元構造複合マットなどを使用することができる。この種の強化材を使用すると、浴槽本体1の厚みを充分に大きくでき、重量が嵩むのを防止しながら、FRP浴槽の重厚感を向上できる。
【0027】
内層体2は、真空成形法や加圧成形法で形成してもよく、その場合には母型8を省略することができる。必要に応じて、浴槽本体1の外面全体を外層体で覆って、浴槽の表面全体を平滑化することができる。その場合の外層体は、例えば溶融プラスチックを塗装ガンで吹き付けて形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】浴槽の断面図である。
【図2】浴槽の製造法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1 浴槽本体
2 内層体
3 母材
4 マイクロビーズ
5 ガラス繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化プラスチックで形成される浴槽本体(1)と、浴槽本体(1)の内面全体を覆う内層体(2)とを含む浴槽であって、
浴槽本体(1)が、熱硬化性樹脂からなる母材(3)と、マイクロビーズ(4)と、繊維質強化材(5)とを含んで構成されており、
浴槽本体(1)が、塗装ガンによる吹き付け法で形成されていることを特徴とする浴槽。
【請求項2】
繊維強化プラスチックで形成される浴槽本体(1)と、浴槽本体(1)の内面全体を覆う内層体(2)とを含む浴槽であって、
浴槽本体(1)が、熱硬化性樹脂からなる母材(3)と、母材(3)に混入されるマイクロビーズ(4)と、内層体(2)の外面に配置される繊維質強化材(5)とを含んで構成されており、
浴槽本体(1)が、ローラによるハンドレイアップ法で形成されていることを特徴とする浴槽。
【請求項3】
母材(3)に対するマイクロビーズ(4)の混合比率が、5〜20重量%であり、
母材(3)に対する繊維質強化材(5)の混合比率が、20〜40重量%である請求項1または2記載の浴槽。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−111305(P2007−111305A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306885(P2005−306885)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(000156086)株式会社和光製作所 (10)
【Fターム(参考)】