説明

液体噴射装置及び液体残量演算方法

【課題】液体収容部を加圧して液体を加圧供給している状態を維持したままでも、消費量又は残量の演算機能に補正を加えることができる液体噴射装置及び液体残量演算方法を提供する。
【解決手段】加圧ポンプを駆動してインクカートリッジ内の圧力室に空気を送り込んでインクパックを加圧する(S20)。この加圧過程で空気圧Paが所定圧力P2に達すると(S30)、さらに所定量の空気を送り込んだ後(S40,S50)、加圧ポンプの駆動を停止させる(S60)。その後、記録ヘッドで印刷・フラッシング・クリーニングで消費されるインク消費量ΔRxを計数し(S80,S90)、インクの消費によって空気圧Paが所定圧力P2まで降下すると(S100)、所定圧力P2まで降下するまでの間に演算(計数)されたインク消費量ΔRxと、前記所定量とを比較して、インク消費量ΔRxの演算に用いる係数を補正する(S130)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドで液体が噴射等されて液体供給源である液体収容部で消費された液体の消費量又は残量を求める機能を備えた液体噴射装置及び液体残量演算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体をターゲットに対して噴射させる液体噴射装置として、インクジェット式記録装置(以下、プリンタという)が広く知られている。このプリンタの中には、インクカートリッジをキャリッジに搭載せず、装置本体側に配置する構成(いわゆるオフキャリッジ型)を採用するものがある。このプリンタに備えられるインク供給システムは、インクを補給する時期を検出すると、加圧ポンプの駆動によりインクカートリッジ内に空気を送出して、空気の加圧によりインクを補給するようになっている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
また、これらのプリンタには、インクカートリッジがインクエンドなったか否かを判定するため、インクカートリッジ毎のインク消費量を演算するインク消費量演算手段が備えられていた。インク消費量演算手段は、印刷データに基づく記録ヘッドからのインク滴の吐出数、およびフラッシング動作による記録ヘッドからのインク滴の吐出数をカウントアップして、これに係数を乗じてインク消費量に換算する。また、充填動作やクリーニング動作による記録ヘッドからのインク吸引量をインク消費量として積算する。そして、インク消費量演算手段がインク色毎に演算したインク消費量を初期インク量から減算することで、インクカートリッジ毎のインク残量を算出している。
【0004】
ところで、インク消費量演算手段では、記録装置(プリンタ)の個体差によりインク滴のドット重量がばらつき(例えば±10%程度)をもつことから、インクエンドを検出しないままインク切れになって発生する空打ちを防止するため、インク滴のドット重量がばらつき範囲内で最大側に偏った場合を想定して係数は大きめの値に初期設定されている。このため、ドット重量がばらつきの最小の方向にずれた場合には、全容量の20%のインクが残った状態でインクエンドとなってしまう。
【0005】
そこで、特許文献2には、上記係数を適正な値に補正することにより、インク消費量演算手段の演算機能に補正を加える構成が開示されている。すなわち、インクカートリッジ内の圧力室(空気室)に、その室圧が大気圧から所定圧力に到達するまで加圧ポンプで空気を送り込み、このとき計測された空気圧の圧力変化と加圧ポンプの駆動時間から定まる空気送込量との各値を用いて、そのときの圧力室の容積に対応するインク使用量を演算する。そして、このインク使用量とインク消費量とが一致するように、インク消費量演算手段の演算機能に補正を加える構成になっていた。
【特許文献1】特開2002−273906号公報
【特許文献2】特開2005−271303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に開示された構成では、インクカートリッジ内の圧力室を大気圧の状態から空気を供給して加圧する方法を採るので、補正処理を行える時期が、加圧停止可能な時期、あるいは加圧停止時に限定され、補正処理の機会が少ないという問題があった。例えば、インク加圧供給状態を維持する必要がある印刷中や待機中(待機モード)においては、補正処理を行うことができなかった。そして、省電力モード(スリープモード)などの加圧停止可能な時期に補正処理を行う必要があった。
【0007】
また、補正処理を行う際は、インクカートリッジ内の圧力室を一旦大気に開放し、圧力室の圧力を大気圧から上昇させるので、この空気送込動作を含めた補正処理に比較的長い時間を要するという問題もあった。例えば空気送込動作等に時間を要すると、その後、印刷データを受信した後に印刷を速やかに開始できない待ちが発生したり、印刷の開始を優先させた場合は補正処理が中断されるなどの問題が発生する。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、液体収容部を加圧して液体を加圧供給している状態を維持したままでも、消費量又は残量の演算機能に補正を加えることができる液体噴射装置及び液体残量演算方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、液体を噴射する液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置であって、液体を収容する液体収容部が密閉状態に収容された液体収容体と、前記液体収容部が液体の導出分だけ体積を減少させることにより容積を増やす前記液体収容体内の室への流体の供給を行うポンプと、前記液体噴射ヘッドで液体が消費されたことによる前記液体収容部の液体の消費量を演算する演算手段と、前記室の圧力を検出する圧力検出手段と、前記ポンプを駆動させて前記室に流体を供給し、前記圧力検出手段が所定圧力を検出した後、所定量の流体をさらに送り込んでから前記ポンプによる前記室への流体の供給を停止させる制御手段と、前記液体噴射ヘッドで液体が消費されて前記室の圧力が前記所定圧力まで降下する間に、前記演算手段により演算された液体の消費量と、前記所定圧力を検出した後にさらに送り込まれた流体量との各値を用いて、前記演算手段の演算機能に補正を加える補正手段とを備えたことを要旨とする。なお、流体とは、気体などの圧縮性流体を指す。
【0010】
これによれば、演算手段は、液体噴射ヘッドで消費されたことによる液体収容部の液体の消費量を演算する。制御手段は、ポンプを駆動させて室に流体を供給し、室の圧力を検出する圧力検出手段が所定圧力を検出した後、所定量の流体をさらに送り込んでポンプによる室への流体の供給を停止させる。補正手段は、液体噴射ヘッドにおける液体の消費により所定圧力まで圧力が降下する間に、演算手段により演算された液体の消費量と、所定圧力を検出した後に送り込まれた流体量(所定量)との各値を用いて、演算手段の演算機能に補正を加える。演算手段の演算機能に補正が加えられるので、演算手段により演算される液体収容部の消費量の精度を高くすることができる。また、液体を加圧供給しているときに、演算手段の演算機能に補正を加えることが可能になる。
【0011】
また、本発明の液体噴射装置では、前記液体収容体は、異なる種類の液体をそれぞれ収容する複数の前記液体収容部が個々に密閉状態に収容する状態で一以上設けられ、
前記補正手段は、前記液体噴射ヘッドにおける液体の消費により前記所定圧力まで圧力が降下する間に、前記演算手段により演算された液体の消費量の総和と、前記所定圧力を検出した後にさらに送り込まれた流体量との各値を用いて、前記演算手段の演算機能に補正を加えることが好ましい。
【0012】
これによれば、液体収容部が複数設けられた場合でも、補正手段は、前記液体噴射ヘッドにおける液体の消費により前記所定圧力まで圧力が降下する間に、前記演算手段により演算された液体の消費量の総和と、前記所定圧力を検出した後に送り込まれた前記所定量の流体量とを用いて、前記演算手段の演算機能に補正を加える。演算手段の演算機能には、複数の液体収容部に共通の補正(一律補正)が加えられる。この演算機能の補正により、演算手段により求められる液体収容部毎の消費量の精度を上げることができる。この結果、例えば液体収容部の液体を使い切ったと判定される液体エンド時の残量を少なくすることができる。
【0013】
前記補正手段は、前記演算手段による液体収容部毎の前記消費量と、前記所定量とを対応させて、異なるタイミングで複数回取得したデータに基づいて、前記演算手段における演算機能に液体種毎個別に補正を加えることが好ましい。
【0014】
これによれば、補正手段は、前記演算手段による液体収容部毎の前記消費量と、前記所定量とを対応させて、異なるタイミングで複数回取得したデータに基づいて、前記演算手段における演算機能に液体種毎個別に補正を加える。よって、演算手段により演算される液体収容部の消費量の精度を上げることができる。例えば液体収容部毎に求められる液体残量の精度が向上する。
【0015】
また、本発明の液体噴射装置では、前記制御手段は、前記圧力検出手段が前記所定圧力を検出した後、さらに所定時間又は所定回転数だけ前記ポンプを駆動させた後に該ポンプの駆動を停止させることが好ましい。
【0016】
これによれば、前記制御手段は、圧力検出手段が前記所定圧力を検出した後、所定時間又は所定回転数だけポンプを駆動させることにより、室に所定量の流体をさらに送り込む。よって、所定量の流体を送り込んだことを時間又は回転数で管理するので、流量計などの特別な計測装置を設けなくて済む。
【0017】
さらに本発明の液体噴射装置では、前記加圧ポンプにより室圧が所定圧力に到達するまで前記室に流体を送り込むことによって前記液体収容部を加圧し、前記液体収容部から液体を前記液体噴射ヘッド側へ供給することが好ましい。
【0018】
これによれば、室に流体を送り込んで液体収容部を加圧して前記液体噴射ヘッドへ液体を供給するために設けられた加圧ポンプ及び圧力検出手段を、演算手段の演算機能に補正を加えるために行われる室への流体の供給にも流用される。このため、補正専用にポンプと圧力検出手段を設ける必要がなくなる。
【0019】
また、本発明の液体噴射装置では、前記制御手段は、前記液体収容部から液体を前記液体噴射ヘッド側へ加圧供給するために前記ポンプにより前記室に流体を送り込んで前記液体収容部を加圧する過程で、前記圧力検出手段が所定圧力を検出した後、所定量の流体をさらに送り込んでから前記ポンプによる前記室への流体の供給を停止させることが好ましい。
【0020】
これによれば、液体収容部から液体を前記液体噴射ヘッド側へ加圧供給するために前記ポンプにより前記室に流体を送り込んで前記液体収容部を加圧する過程で、圧力検出手段が所定圧力を検出した後、所定量の流体をさらに送り込んでから前記ポンプによる前記室への流体の供給を停止させる。この加圧により液体収容部から液体が液体噴射ヘッド側へ加圧供給される。そして、この液体加圧供給のための加圧後に液体が消費されて所定圧力まで降下したときに、補正手段により演算手段の演算機能に補正が加えられる。液体加圧供給のための加圧過程で演算機能の補正のための加圧が行われるので、補正のための加圧が液体供給にも利用されるので無駄がない。
【0021】
また、本発明の液体噴射装置では、前記演算手段は、液体噴射指示データに基づく前記液体噴射ヘッドからの液滴の吐出数及びフラッシング動作による前記液体噴射ヘッドからの液滴の吐出数に、それぞれ係数を乗じて液体の消費量を演算することが好ましい。
【0022】
これによれば、液体噴射ヘッドから吐出される液滴の吐出数から液体の消費量を演算することができる。よって、演算手段により、消費量を求めたり、又は液体収容部の初期液体量から該消費量を差し引いて残量を求めたりすることができる。
【0023】
また、本発明の液体噴射装置では、前記補正手段は、前記係数を補正することが好ましい。
これによれば、補正手段が係数を補正することにより、演算手段により求められる液体の消費量の精度を上げることができる。
【0024】
また、本発明の液体噴射装置では、前記液体噴射ヘッドは、液滴重量の異なる複数種の液滴を吐出可能であり、前記係数は複数の液滴重量に対応して複数管理されていることが好ましい。
【0025】
これによれば、液体噴射ヘッドから吐出される液滴の液滴重量(つまり液滴サイズ)が異なっても、その液滴重量に対応して管理された係数が選択されて消費量が求められる。このため、演算手段により求められる消費量の精度を上げることができる。
【0026】
また、本発明の液体噴射装置では、前記演算手段は、前記液体噴射ヘッドから液体を吸引排出させるクリーニングの動作毎に該クリーニングに対応する所定の消費量を計数して前記消費量を求めるように構成されていることが好ましい。
【0027】
これによれば、液体噴射ヘッドから液体を吸引排出させるクリーニングが行われたときには、そのクリーニングに対応する所定の消費量が計数されて消費量が求められる。よって、演算手段により求められる消費量の精度を上げることができる。
【0028】
また、本発明の液体噴射装置では、前記演算手段における演算機能は、前記液体噴射ヘッドから吐出される液滴のドット重量がばらつき範囲内の大きい側に偏っている場合を想定して前記消費量が算出されるように設定されており、前記演算手段により求められた消費量よりも、前記所定量の方が多い場合は、前記補正手段は補正を行わないことが好ましい。
【0029】
これによれば、演算手段によりドット重量がばらつき範囲内の大きい側に偏っている場合を想定して設定された演算機能に基づき消費量を演算する。この演算手段の演算結果から定まる消費量よりも、所定量の方が多い場合、補正手段による補正は行われない。つまり、それまでの演算機能に基づき演算された演算手段による消費量が採用される。よって、例えば設定よりも早く液体切れと判定されることを回避でき、しかも設定より実際の消費が少なめの場合に液体収容部の液体切れ判定時期を遅らせて液体収容部の液体をより多く使用できる。
【0030】
また、本発明の液体噴射装置では、前記制御手段は、前記液体収容部が満タン状態にあって前記室の総容積が既知であるときに前記ポンプを駆動させて該室に流体を供給するように構成され、該供給の際にポンプ駆動時間又はポンプ駆動回転数と、該室の圧力変化とを取得して両値の対応関係から、前記ポンプにより単位時間当たり又は単位回転当たりに供給される流量を算出して前記補正手段における演算機能に設定する設定手段をさらに備えたことが好ましい。
【0031】
これによれば、設定手段によりポンプの個体差等によりばらつくポンプ能力を適正に設定できるので、演算手段による消費量を精度よく求めることができる。
また、上記の液体噴射装置の発明は、液体噴射装置の液体残量演算方法として実現することも可能である。すなわち、液体収容体に密閉状態に収容されるとともに液体噴射ヘッドに供給される液体を収容する液体収容部の液体残量を演算する液体噴射装置の液体残量演算方法であって、前記液体収容部が液体の導出分だけ体積を減少させることにより容積を増やす前記液体収容体内の室への流体の供給を行うポンプと、前記室の圧力を検出する圧力検出手段とを用い、演算手段が前記液体噴射ヘッドで液体が消費されたことによる前記液体収容部の液体の消費量を演算する演算ステップと、前記ポンプを駆動させて前記室に流体を供給し、前記圧力検出手段が所定圧力を検出した後、所定量の流体をさらに送り込んでから前記ポンプによる前記室への流体の供給を停止させる制御ステップと、前記液体噴射ヘッドにおける液体の消費により前記所定圧力まで圧力が降下する間に、前記演算手段により演算された液体の消費量と、前記所定圧力を検出した後に送り込まれた流体量との各値を用いて、前記演算手段の演算機能に補正を加える補正ステップとを備え、前記演算手段が補正後の演算機能に従って前記液体収容部の残量を求めることを要旨とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
(第1実施形態)
以下、本発明をインクジェット式プリンタに具体化した第1実施形態を図1〜図7に従って説明する。図1は、本実施形態におけるインクジェット式プリンタの平面図である。図1に示すように、液体噴射装置としてのインクジェット式プリンタ(以下、単に「プリンタ11」という)は、上方(図面の紙面手前方向)側が開口する略矩形箱状をなす本体ケース12を備えている。本体ケース12内の底部寄り位置には、その長手方向に沿ってプラテン13が架設されている。プラテン13上には、図示しない紙送り機構によりターゲットとしての記録用紙(図示略)が副走査方向(図1における上下方向)に給送されるようになっている。また、本体ケース12内には、プラテン13の長手方向と平行に棒状のガイド軸14が架設されている。
【0033】
このガイド軸14には、キャリッジ15がガイド軸14の軸線方向に沿って往復移動可能に支持されている。キャリッジ15は、一対のプーリ16a間に張設された無端状のタイミングベルト16に固定されている。本体ケース12の背面右端寄り位置にはキャリッジモータ17が配設され、このキャリッジモータ17は一方のプーリ16aを回転駆動させる。キャリッジモータ17が正逆転駆動されると、タイミングベルト16が正逆回転し、キャリッジ15はガイド軸14に沿って主走査方向(図1における左右方向)に往復移動するように構成されている。
【0034】
キャリッジ15のプラテン13に対向する面には、液体噴射ヘッドとしての記録ヘッド18が設けられている。また、キャリッジ15上には、記録ヘッド18に供給される液体としてのインクの圧力調整を行うバルブユニット19がインク色と同数の複数個(本実施形態では4個)設けられている。そして、記録ヘッド18からプラテン13上に給送された記録用紙(図示略)にインク滴が噴射されることで印刷が行われるようになっている。
【0035】
本体ケース12の一端部(図1では右端部)には、カートリッジホルダ21が設けられている。カートリッジホルダ21には、複数個(本実施形態では4個)の液体収容体としてのインクカートリッジC1〜C4が着脱可能に装填されている。この装填状態にある各インクカートリッジCは、インク供給路22a〜22d(液体供給路)を通じて対応する各バルブユニット19にインクを供給可能に接続されている。インク供給路22a〜22d上には、各インクカートリッジC1〜C4から供給されるインクのインク圧を検出する液圧センサ23が設けられている。液圧センサ23は、インク供給路22a〜22d上のインクの圧力(インク圧)、すなわちバルブユニット19に供給されるインク圧を検出し、そのインク圧に応じた検出信号を出力する。
【0036】
カートリッジホルダ21の上側には、加圧ユニット26が搭載されている。この加圧ユニット26は、空気供給路27(流体供給路)を通じて流体としての空気をインクカートリッジC1〜C4内に圧送する装置であって、ポンプとしての加圧ポンプ28、圧力検出手段としての空気圧センサ29及び空気供給バルブ30(大気開放弁)を備えている。加圧ユニット26は、加圧ポンプ28が圧送した空気を、空気供給路27を通じて各インクカートリッジC1〜C4内に供給して、各インクカートリッジC1〜C4内のインクを空気圧で加圧することにより、各インクカートリッジC1〜C4からインクを空気圧に応じたインク圧で供給する加圧式のインク供給システムを構成する。なお、インク供給システムは、カートリッジホルダ21、インクカートリッジC1〜C4及び加圧ユニット26により構成される。
【0037】
空気圧センサ29は、加圧ポンプ28と空気供給バルブ30の間を接続する一本の空気供給路27a内の空気圧を検出することにより、インクカートリッジC内の空気圧を検出する。空気圧センサ29はインクカートリッジC1〜C4内の空気圧が所定圧力以上のときにオンし、所定圧力未満のときにオフするように設定されている。
【0038】
空気供給バルブ30は、加圧ポンプ28と空気供給路27とを連通する内部流路を内蔵し、その内部流路を大気に開放する開弁状態と、大気に対して遮断する閉弁状態とに切り換え可能な大気開閉弁からなる。空気供給バルブ30が閉弁された状態で加圧ポンプ28が駆動されると、各インクカートリッジC1〜C4内に空気が供給されてその内部が加圧される。このとき各インクカートリッジC1〜C4にそれぞれ連通する各空気供給路27が、空気供給バルブ30の内部を通じて該空気供給バルブ30の開閉状態に拘わらず常に連通する状態にあるので、各インクカートリッジC1〜C4内の空気圧は常に等しくなる。一方、この加圧状態で空気供給バルブ30が開弁されると、インクカートリッジC1〜C4内が大気に開放されて内部の空気圧が共に大気圧(初期圧力P1=101.3kPa)になる。
【0039】
本実施形態では、空気圧センサ29及び空気供給バルブ30は、4個全てのインクカートリッジC1〜C4に対して共通に1個ずつ設けられている。もちろん、空気圧センサ29及び空気供給バルブ30は、二以上のインクカートリッジCに共有されていれば足り、例えばインクカートリッジ2個につき空気圧センサ29及び空気供給バルブ30が1個ずつ共有された構成も採用できる。また、空気圧センサ29と空気供給バルブ30のうち一方がインクカートリッジ2個に1個が共有された構成で計2個備えられ、他方が4個全てのインクカートリッジに共有された構成でもよい。なお、本実施形態において、インクカートリッジC1〜C4を互いに区別しない場合は、単にインクカートリッジCとして説明する。同様に、各インク供給路22a〜22dも、特に区別しない場合には、単にインク供給路22として説明する。
【0040】
また、本体ケース12内においてキャリッジ15の非印刷時の待機位置であるホームポジションに対応する位置には、クリーニング機構32が備えられている。このクリーニング機構32は、キャップユニット33とワイパ34とを有している。キャップユニット33は、箱状のキャップ33aと、キャップ33aを昇降させる図示しない昇降機構とを備えている。キャリッジ15がホームポジションに到達すると、キャップ33aが昇降機構により上昇して記録ヘッド18のノズル開口面を封止する。クリーニング機構32は、電動モータを駆動源とする吸引ポンプ(いずれも図示略)を有し、この吸引ポンプはキャップ33aが記録ヘッド18を封止した状態で駆動される。吸引ポンプからの吸引力(負圧)がキャップ33a内に及ぶことにより、記録ヘッド18のノズル18a(図2参照)からインクを吸引するクリーニング(吸引クリーニング)が行われる。このクリーニングによって、記録ヘッド18のノズル18a内の増粘インクや記録ヘッド18内のインク中の気泡および異物(紙粉等)などがインクと共に吸引除去され、印刷不良が防止される。クリーニングの後、キャリッジ15がホームポジションから離れる過程で、ワイパ34が記録ヘッド18のノズル開口面を払拭することによりノズル18a内のメニスカスが整えられるようになっている。
【0041】
次に、プリンタ11に備えられる加圧式のインク供給システムについて、図2に従って説明する。図2は、インク供給システムの模式図である。なお、図2は便宜上、一つのインクカートリッジCについてのインク加圧供給系のみ示している。
【0042】
図2に示すように、各インクカートリッジCは、密閉状態に形成された四角箱状のケース35と、ケース35内に収容された液体収容部としてのインクパック36とを備えている。インクパック36は、可撓性を有するとともにガス透過性の低いフィルムにより袋状に形成されており、インクカートリッジC毎に異なるインク色(液体種)のインクが封入されている。
【0043】
ケース35とインクパック36との間の空間(隙間)は、空気室としての圧力室37となっている。インクカートリッジCがカートリッジホルダ21(図1参照)に装填された状態では、各インクパック36が各インク供給路22にインクを導出可能な状態に接続されるとともに、圧力室37が空気供給路27と接続されるように構成されている。なお、図2では、カートリッジホルダ21が省略されているが、カートリッジホルダ21を介した接続構造については後述する。
【0044】
また、図2に示すように、ケース35の外側面には、記憶素子38及び端子39が配設されている。端子39は、インクカートリッジCをカートリッジホルダ21に装着した際に、プリンタ11の本体側の不図示の端子と電気的に接続されるように構成されている。また、記憶素子38には、インクの種類、製造番号、未使用(新品)状態での初期インク量Vo、圧力室37の初期容積Ao等、インクカートリッジCに関する情報が格納されている。
【0045】
加圧ポンプ28の吐出口に接続された1本の空気供給路27a上には、圧力調整弁40、空気圧センサ29及び空気供給バルブ30が直列に設けられている。圧力調整弁40は、加圧ポンプ28によって加圧された空気圧が、何らかの障害により最大規定圧を超えた時に圧力を開放して、各インクカートリッジCに加わる空気圧を最大規定圧以下に維持する機能を有している。また、圧力室37に一旦供給された空気は、圧力調整弁40の存在により空気供給バルブ30が閉弁されている限り漏出することはない。空気供給バルブ30は、インク供給時は常に閉弁状態(大気遮断状態)にあり、インク加圧供給を停止する特定の時期にのみ開弁される。特定の時期とは、プリンタ11の電源投入時、電源遮断時、及び印刷が行われないまま一定時間待機した後に移行する省電力モード(スリープモード)時が挙げられる。
【0046】
また、図2に示すように、各インクパック36と各バルブユニット19とを接続する各インク供給路22の途中には、インク供給バルブ41及び液圧センサ23がそれぞれ設けられている。インク供給バルブ41は、インク供給時は常に開弁状態にあり、インク供給を停止する特定の時期にのみ閉弁される。また、液圧センサ23は、バルブユニット19に供給されるインクの液圧Piが所定の下限圧力Pimin(例えば大気圧+3kPa)未満になったことを検出する。液圧センサ23からの信号によって液圧Piが下限圧力Pimin未満になったことが検出された場合は、加圧ポンプ28が駆動されるようになっている。
【0047】
そして、加圧ポンプ28が駆動され、ケース35内の圧力室37に空気が供給されてインクパック36が大気圧より高圧の空気圧で加圧されることによって、インクパック36からインクが押し出され、インク供給路22を通じてバルブユニット19側へ加圧インクが供給されるようになっている。空気圧センサ29が、各インクカートリッジCの圧力室37の空気圧Paが所定圧力P2(例えば、1.1気圧(1.1×101.3kPa))に達した(Pa≧P2)ことを検出した場合は、加圧ポンプ28の駆動が停止されるようになっている。
【0048】
空気供給バルブ30は4本の空気供給路27に対して共通に1個設けられているだけなので、空気供給バルブ30の閉弁状態の下で加圧ポンプ28から圧送された加圧空気は、4本の空気供給路27に分配されて全てのインクカートリッジCの各圧力室37に供給される。そして、加圧ポンプ28の駆動が停止された後も、圧力室37の空気圧は維持され、インクパック36がインクの消費により体積を減少させた分だけ圧力室37の容積が増大することで、圧力室37の空気圧はインクの消費と共に徐々に減圧する。そして、圧力室37の空気圧が減圧するに連れて、インク供給路25へ供給される加圧インクのインク圧も徐々に減圧する。この減圧過程において4つの圧力室37は、対応するインクパック36におけるインク消費量の多少に拘わらず、同じ値の空気圧を保ったまま減圧する。また、特定の時期に、空気供給バルブ30が開弁された場合は、全てのインクカートリッジCの各圧力室37が共通に大気圧となる。
【0049】
バルブユニット19には、記録ヘッド18へのインク供給圧を調整するダイヤフラム式の圧力調整弁42が内蔵されている。圧力調整弁42は、バルブユニット19内に区画形成された2つのインク室42a,42bと、両インク室42a,42bを連通孔で連通する状態に隔てる隔壁42fと、連通孔を閉塞する方向へバネ42dにより付勢された弁体42eと、一方のインク室42bの内外の圧力差により撓み変形するとともに内側へ撓んだ図2に示す状態でバネ42dの付勢力に抗して弁体42eを開弁方向へ押圧するダイヤフラム42cとを有している。
【0050】
記録ヘッド18でインクが消費されてインク室42bのインク圧が所定値(下限圧)未満に減圧すると、その減圧により内側へ撓んだダイヤフラム42cがバネ42dの付勢力に抗して弁体42eを押し、圧力調整弁42は開弁する。この開弁によりインク室42aからインクが供給されたインク室42bのインク圧が所定値(上限圧)まで上昇すると、このインク圧の上昇に連れて減少したダイヤフラム42cの内側への押圧力にバネ42dの付勢力が勝って弁体42eが隔壁42fの連通孔を閉塞し、圧力調整弁42は閉弁する。
【0051】
こうして記録ヘッド18で所定量のインクが消費される度にその消費による減圧によって圧力調整弁42が開弁して記録ヘッド18にインクが補充されることで、記録ヘッド18へのインク供給圧が略一定圧に保たれる。本実施形態では、インク補給時期を検出するためのインク消費量検出手段が不要であることから、サブタンクは廃止されているが、圧力調整弁42のインク室42aに連通するインク貯留目的のみのサブタンクをバルブユニット19内に設ける構成としてもよい。
【0052】
記録ヘッド18には、各バルブユニット19と連通するインク色毎の各ノズル18aがノズル開口面18b(ノズル形成面)に開口する状態に形成されている。各ノズル18aは図2の紙面と直交する方向にインク色毎に多数個並んで配置されており、ノズル開口面18bにはインク色と同数の4列のノズル列が形成されている。吸引クリーニングの際は、ノズル開口面18bにキャップ33aが密接することでノズル18aが封止される。
【0053】
図3は、カートリッジホルダに装填されたインクカートリッジCの内部を説明する側断面図である。インクカートリッジCのインク供給路22及び空気供給路27との接続は、図3に示すようにカートリッジホルダ21を介して行われる。詳しくは、カートリッジホルダ21に突設された供給針21aが、インクパック36のインク供給部36aに差し込まれたときに該インク供給部36aに内蔵された弁体(いずれも図示略)が開弁方向へ押し込まれることにより、インクパック36の内部がインク供給路22と連通する状態になる。また、インクカートリッジCに設けられた空気導入部36bが、カートリッジホルダ21に設けられた空気供給部21bに差し込まれたときに該空気供給部21bに内蔵された弁体(いずれも図示略)が開弁方向へ押し込まれることにより、圧力室37が空気供給路27と連通された状態になる。このため、仮にインクカートリッジCが装填されていない未装填の空気供給部21bが存在しても、その未装填の空気供給部21bが閉弁されているので、装填されているインクカートリッジCへの加圧空気の供給が可能になっている。
【0054】
図3に示すように、インクパック36がインク満タン(インクフル)の状態にあるときは、圧力室37の容積は最小になっている。そして、この最小の容積を、以下、圧力室37の初期容積Aoとする。インクパック36からインクがインク供給路22側へ導出されるに従い、ケース35内におけるインクパック36の占有体積は、図3中に実線で示す初期状態から徐々に小さくなる。その一方で、インクパック36が図3における実線で示された初期形状から二点鎖線で示される使用途中の形状へ変化し、インクパック36の体積が減少した分だけ、圧力室37の容積が増大する。しかしながら、空気圧Paが所定圧力P2に到達した後、所定量の空気がさらに送り込まれる追い加圧により昇圧した圧力室37の空気圧Paが、所定圧力P2まで降下するまでに必要なインクパック36の体積の減少分(すなわちインク消費量)は、その時々の圧力室37の容積に関係なく、常に追い加圧で供給された空気供給量(所定量)に等しい。
【0055】
次に、プリンタ11の電気的構成を説明する。図5は、プリンタ11の電気的構成を示すブロック図である。プリンタ11はコントローラを備え、そのコントローラはマイクロコンピュータ50を有している。マイクロコンピュータ50には出力系としてヘッド駆動回路51、加圧ポンプ駆動回路52、クリーニング機構駆動回路53、第1のバルブ駆動回路54、第2のバルブ駆動回路55及び表示駆動回路56が接続されている。また、入力系として、空気圧センサ29及び液圧センサ23が接続されている。
【0056】
マイクロコンピュータ50は、ハードウェアとしては、基板上にCPU、ASIC、ROM、RAM及び不揮発性メモリ、各種カウンタ等が実装された構成となっている。そして、マイクロコンピュータ50は、機能構成としては、印刷制御手段60、演算手段61、消費量カウンタ62、累積消費量カウンタ63、残量カウンタ64、計時カウンタ65、係数設定手段66及び供給率設定手段67を構築している。本実施形態では、例えば印刷制御手段60はASIC及びCPUにより構成され、演算手段61はCPUにより構成されている。消費量カウンタ62、残量カウンタ64及び計時カウンタ65はカウンタ回路により構成してもよいし、CPUがプログラムを実行することにより実現されるソフトカウンタを採用することもできる。また、係数設定手段66及び供給率設定手段67は、RAM又は不揮発性メモリ等のメモリに、係数と空気供給率の各データの記憶用に確保された所定記憶領域により実現される。
【0057】
印刷制御手段60は、プリンタ11に接続された図示しないホストコンピュータ、又はプリンタ11に備えられた外部記憶媒体読取装置(図示せず)から送信された印刷データ(液体噴射指示データ)に基づいて、ビットマップデータを生成する。また、印刷制御手段60は、生成したビットマップデータに基づいてヘッド駆動回路51に信号を送信し、図示しない液体噴射アクチュエータ(例えば圧電振動素子)を駆動させて記録ヘッド18からインク滴を吐出させる。また、印刷制御手段60は、フラッシング用のプログラムに従って、ヘッド駆動回路51に印刷とは関係のないフラッシングのための駆動信号を送信する。ヘッド駆動回路51は、この駆動信号を受信すると、記録ヘッド18に全ノズル18aからインクを吐出させる、いわゆるフラッシングを行わせる。印刷時には印刷画像の配色等に応じて高い頻度で使用されるノズル18aと不使用ノズル18aとが存在する場合があり、不使用ノズル18a内のインクは吐出されないため増粘しやすいが、フラッシングが行われることにより、不使用ノズル18a内の増粘したインクが除去される。
【0058】
加圧ポンプ駆動回路52は、印刷制御手段60からの信号を受けて、加圧ポンプ28の駆動源である加圧ポンプモータ68を駆動する。加圧ポンプモータ68の駆動により加圧ポンプ28が駆動すると、加圧ポンプ28から空気供給路27を通じてインクカートリッジCの圧力室37に空気が供給される。
【0059】
クリーニング機構駆動回路53は、印刷制御手段60がクリーニング操作手段(図示せず)からの操作指令信号と、クリーニングタイマ(図示せず)からの経過時間信号とのうちいずれか一方を受け付けたときや、印刷制御手段60が未使用インクカートリッジを検出したときに、印刷制御手段60から指令信号を入力する。クリーニング機構駆動回路53は、指令信号を受けると、キャリッジ15をホームポジションに配置するとともに、クリーニング機構32の前記吸引ポンプの駆動源である電動モータを駆動させ、吸引ポンプを作動させる。なお、クリーニングタイマは、前回のクリーニング時からの経過時間を計時しており、印刷制御手段60はプリンタ11の電源投入時にクリーニングタイマから取得した経過時間に応じたランク(強度)のクリーニングを指令する。
【0060】
第1のバルブ駆動回路54は、印刷制御手段60から信号を受けて、空気供給バルブ30を開弁又は閉弁させる。空気供給バルブ30は、インク供給が必要な印刷中及待機モード中は基本的に常時閉弁され、異常発生時あるいは省電力モード(スリープモード)時に一時的に開弁されて圧力室37内を大気開放させる。また、第2のバルブ駆動回路55は、印刷制御手段60から信号を受けて、各インク供給バルブ41を開弁又は閉弁させる。インク供給バルブ41は、インク供給が必要な印刷中及待機モード中は基本的に常時開弁され、異常発生時あるいは省電力モード(スリープモード)時に一時的に閉弁される。
【0061】
印刷制御手段60は、加圧ポンプ28の駆動停止状態で各インク供給路22の途中に配設されたいずれかの液圧センサ23が予め設定された下限圧力Pimin未満の液圧Piを検出した場合には、プログラムに従って加圧ポンプ駆動回路52に駆動信号を送信し、加圧ポンプ28の駆動を開始させる。
【0062】
本実施形態では、インク供給システムがインク加圧供給を行う際に、加圧ポンプ28で空気を送り込んで圧力室37の空気圧が所定圧力まで上昇した後、さらに所定量の空気を送り込む追い加圧を実施する。すなわち、加圧ポンプ28の駆動により各圧力室37の空気圧Paが上昇して、空気圧Paが所定圧力P2(>P1(大気圧))に達した(Pa≧P2)ことを空気圧センサ29が検出すると、この検出時点から計時カウンタ65に計時を開始させ、加圧ポンプ28の駆動はそのまま継続させる。その後、計時カウンタ65が所定時間Tを計時し終わると、印刷制御手段60は加圧ポンプ駆動回路52に駆動停止信号を送信し、加圧ポンプ28(加圧ポンプモータ68)を駆動停止させる。
【0063】
演算手段61は、ビットマップデータ等に基づいてインクカートリッジC(インクパック36)毎のインク消費量を算出するドット演算処理と、前記追い加圧後に所定圧力P2に降下するまでに消費されたインク消費量と、追い加圧で供給された所定量(空気供給量)との比較により、インク消費量の演算に用いられる演算式中の係数に補正を加える補正処理とを行う。追い加圧を伴うインク供給制御と補正処理は、後述するプログラムに従って行われる。なお、ドット演算処理を行う演算手段61により演算手段が構成される。また、補正処理を行う演算手段61により補正手段が構成される。
【0064】
ドット演算処理を行う際には、演算手段61は、印刷制御手段60からビットマップデータに基づいたインク滴吐出数に関するデータを受信する。また、演算手段61は、印刷制御手段60から、フラッシングの際のインク滴吐出数に関するデータを受信する。さらに、演算手段61は、クリーニング機構駆動回路53から、クリーニングの際に記録ヘッド18から吸引排出される、クリーニングのランクに応じたインク排出量に関するデータを受信する。
【0065】
演算手段61は、印刷制御手段60からインク滴吐出数に関するデータを受信すると、係数設定手段66から係数dを読み出す。この係数dは、インク滴吐出数Jに乗算することによりインク消費量(=d・J)を算出できる係数値であり、インク滴のドット重量(又は体積)に応じた値に設定されている。本実施形態では、記録ヘッド18のノズルから吐出されるインク滴の大きさ(ドットサイズ)には大中小の3種類があり、ドットサイズに応じた3種類の係数dが設定されている。ビットマップデータでは1画素当たりのドットサイズを大中小で区別できるので、大中小のドットサイズ別にインク滴吐出数Jを割り出し、各インク滴吐出数Jにそのドットサイズに応じた係数dを乗算したものを加算することにより、インク消費量は算出される。なお、係数dは、大中小のドットサイズの平均サイズに応じた値とし、大中小のドットサイズ(インク滴サイズ)に共通の値として設定されてもよい。
【0066】
インク滴のドット重量は所定範囲(±10%程度)でばらつくので、インクエンドが検出されないままインク切れになって発生する空打ちを防止するため、係数dは、ドット重量のばらつき範囲内の略最大値に応じた値に初期設定されている。このため、ドット重量がばらつき範囲の最小側に偏った場合は、インク容量の20%が残った状態でインクエンドと判定されることになる。このようなインクの無駄を解消するため、略最大値に初期設定された係数dを、装置の個体差から決まる装置個々のドット重量に適した値に近づけるように小さく補正する余地があれば、係数dを小さく補正することにより、適正なインクエンド残量でインクエンド判定が行われるようにしている。なお、インクエンドの設定残量は、印刷途中でインクエンドになってもその印刷の最終頁まで印刷できるように設定されている。
【0067】
演算手段61は、読み出した係数dを、印刷制御手段60から受信したインク滴吐出数Jに乗算し、印刷又はフラッシングの度ごとに、消費されたインク消費量(=d・J)を算出する。また、演算手段61が、クリーニング機構駆動回路53から、クリーニングの際のインク排出量に関するデータを受信した際には、そのデータから特定されるインク排出量をクリーニング時のインク消費量Rclとして取得する。
【0068】
さらに、演算手段61は、演算等により取得したインク消費量を、累積消費量カウンタ63に送信する。この累積消費量カウンタ63は、インクカートリッジC1〜C4内のインクの消費量(以下、累積消費量Rとする)に関するデータをそれぞれ格納している。詳述すると、累積消費量カウンタ63は、先に格納されている累積消費量Rに、受信したインク消費量(d・J、又はRcl)を加算して新たな累積消費量R(R=R+d・J、又はR=R+Rcl)を記憶することにより、その時々の各インクカートリッジC1〜C4内のインク消費量を記憶する。なお、プリンタ11が初めてインクカートリッジCを検出した最初に実施される初期充填動作や、インクカートリッジ交換時の交換クリーニングの際も、演算手段61は、クリーニング機構駆動回路53からインク排出量に関するデータを同様に受信するので、これらのインク排出量も累積消費量Rとして計数される。
【0069】
残量カウンタ64は、ドット演算処理によって算出されたインクカートリッジC1〜C4毎のインク消費量から求まるインク残量をそれぞれ格納する。演算手段61は、初期インク量Voから、累積消費量カウンタ63に格納された累積消費量Rを減算し、新たなインク残量Z(=Vo−R)を算出して残量カウンタ64に格納する。但し、残量カウンタ64に格納されたインク残量Zは、補正処理で求められたインク使用量から決まるインク残量に更新される場合がある。
【0070】
印刷制御手段60は、インク残量Zが所定値以下に達したインク色があると、そのインク色のインクカートリッジCがインクエンドに達したと判定し、表示駆動回路56を介して表示部69にインク色を特定してインクエンドの旨を表示する。
【0071】
計時カウンタ65は、加圧ポンプ28が駆動されたときに、空気圧センサ29により空気圧Paが所定圧力P2に達したことが検知された時点からの経過時間を計時する。この計時カウンタ64は所定時間Tを計時すると、加圧ポンプ28(加圧ポンプモータ68)の駆動が停止されるようになっている。また、供給率設定手段67は、加圧ポンプ28のポンプ能力を表す、単位時間当たりの空気供給量で示される空気供給率Qを格納している。
【0072】
次に、本実施形態の処理手順について図6及び図7を用いて説明する。図6は補正処理について説明する主にインクカートリッジC1〜C4の模式図である。図7は、インク供給制御処理と補正処理を示すフローチャートである。
【0073】
まず、加圧ポンプ28の単位時間当たりの空気供給量である空気供給率Qを算出する処理手順を、図5及び図6(a)を用いて説明する。
インクカートリッジCがカートリッジホルダ21に装填された状態では、その端子39がプリンタ11の本体側の端子と電気的に接続されることにより、印刷制御手段60に信号が送信される。はじめてプリンタ11が使用されるときは、インクカートリッジC1〜C4の各記憶素子38から読み出したインク消費量のデータが全て「0」であるなど初期状態である旨の情報が取得されることから、印刷制御手段60は、インクカートリッジC1〜C4の全てがインク満タン状態の新品である初期状態と判定する。この初期状態では、印刷制御手段60はプログラムに従って、加圧ポンプ28が1秒当たりに供給できる空気量で示される空気供給率Q(ml/s)(ポンプ能力)を求める処理を行う。
【0074】
このときはプリンタ11の電源投入直後の初期設定後であって、空気供給バルブ30は開弁状態、インク供給バルブ41は閉弁状態となっている。印刷制御手段60は、カートリッジ検出手段57から初期状態である旨の信号を受信すると、第1のバルブ駆動回路54に信号を送信し、空気供給バルブ30を閉弁させて、インクカートリッジC1〜C4の各圧力室37を大気と遮断する。さらに、印刷制御手段60は、加圧ポンプ駆動回路52に信号を送信して、加圧ポンプ28を駆動させる。また、印刷制御手段60から計時カウンタ64に計時を開始させるための信号が送信され、計時カウンタ64が加圧ポンプ28の駆動時間Tの計時を開始する。
【0075】
加圧ポンプ28の駆動により、インクカートリッジCの圧力室37に空気が供給される。このとき、図6(a)に示すように、ケース35内のインクパック36はインクが満タン状態にあって、圧力室37の初期容積Aoは、全てのインクカートリッジC1〜C4において一定(例えば、5ml)になっている。つまり、全ての圧力室37の初期総容積Aalloは、インクカートリッジの装填個数をN個とすると、Aallo=N・Aoで表される。
【0076】
印刷制御手段60は、空気圧センサ29により空気圧Paが所定圧力P2(例えば、1.1気圧)に達したことが検出されると、加圧ポンプ駆動回路52に信号を送信し、加圧ポンプ28(加圧ポンプモータ68)の駆動を停止させる。加圧ポンプ28の駆動が停止すると、計時カウンタ64は駆動時間Tの計時動作を終了する。
【0077】
演算手段61は、計時カウンタ61の計数値(駆動時間T)及び圧力室37の初期容積Aoに基づいて、加圧ポンプ28の空気供給率Q(ポンプ能力)を算出する。具体的には、演算手段61は、記憶素子38に格納された初期容積Aoとインクカートリッジ個数Nとから決まる初期総容積Aallo(=N・Ao)と、駆動時間Tと、初期圧力P1から所定圧力P2まで昇圧した圧力差ΔP(=P2−P1)とを用いて、空気供給率Qを、式 Q=Aallo・ΔP/T により算出する。例えば、圧力室37の初期容積Aoが5ml、初期圧力P1(1気圧)から所定圧力P2(1.1気圧)に達するまでの加圧ポンプ28の駆動時間Tが0.4秒とすると、空気供給率Qは、次式により、5ml/sと算出される。
Q=N・Ao・(P2−P1)/T=4・5・(1.1−1.0)/0.4=5ml/s
この演算は、装填された全てのインクカートリッジCが、初期容積Aoが既知の新品(未使用)である初期状態のときに行われ、演算手段61は求めた空気供給率Qの演算値を供給率設定手段67に格納する。なお、供給率設定手段67には、空気供給率Qの初期値(設計値)が予め格納されている。空気供給率Qの演算値が予め定められた規定範囲内にあれば、空気供給率Qがその演算値に更新され、演算値が規定範囲から外れた場合は、測定エラーとみなして空気供給率Qの更新は行われない。
【0078】
次に、ドット演算処理によりインク消費量を求める処理について説明する。まず、印刷、フラッシング又はクリーニングによって記録ヘッド18からインクが吐出(排出)されると、インク消費量(=d・J又はRcl)が消費量カウンタ62に加算される。具体的には、印刷又はフラッシングが行われると、演算手段61がドット演算処理を行う。すなわち、印刷制御手段60が記録ヘッド18のノズル18aからのインク滴吐出数Jを演算手段61に送信する。演算手段61は、係数設定手段66に格納された係数dをインク滴吐出数Jに乗算して、印刷又はフラッシングの際のインク消費量(=d・J)を算出する。さらに、演算手段61は、算出したインク消費量を累積消費量カウンタ63に送信する。また、クリーニングが行われると、クリーニング機構駆動回路53が、クリーニングの際に記録ヘッド18から排出されたインク消費量を、累積消費量カウンタ63に送信する。累積消費量カウンタ63は、インク消費量を受信すると、既に格納していた累積消費量Rに加算し、新たに累積消費量R(=R+d・J)を算出する。こうして、クリーニング、印刷、フラッシングが行われる度にインク消費量が演算され、累積消費量カウンタ63に格納された累積消費量Rが逐次更新される。なお、このインクパック36毎の累積消費量Rのことを、インク消費量Rと呼ぶこともある。
【0079】
次に図7に示すフローチャートに従ってインク供給制御処理及び補正処理について説明する。この処理において係数dの補正が行われ、係数dを用いて算出される累積消費量R(以下、インク消費量Rと称す)の精度が向上する。
【0080】
この処理では、所定圧力P2に達した後に加圧ポンプ28の駆動を所定時間だけ継続させることにより、所定量の空気をさらに供給する追い加圧を行い、追い加圧時の圧力から所定圧力P2に降下するまでのインク消費量と所定量とを比較して係数dの補正を行う。このため、空気圧センサ29は、所定圧力P2を検知できるものあればよく、所定圧力P2以上でオンし所定圧力P2未満でオフする圧力スイッチを使用できる。また、所定圧力P2から追い加圧の圧力Psまでの圧力範囲を使って補正処理を行う構成であることから、印刷時、フラッシング時、クリーニング時においても補正処理を行うことができる。
【0081】
まずステップS10では、液圧Piが下限圧力Pimin未満になった(Pi<Piminが成立)か否かを判断する。Pi<Piminが成立すればステップS20に進む。一方、Pi<Piminが不成立であれば、当該ルーチンを終了する。
【0082】
ステップS20では、加圧ポンプ28を駆動する。すなわち、印刷制御手段60が加圧ポンプ駆動回路52に駆動信号を送出して加圧ポンプモータ68を駆動させることにより、加圧ポンプ28を駆動する。
【0083】
ステップS30では、空気圧Paが所定圧力P2に達した(Pa≧P2が成立)か否かを判断する。Pa≧P2が成立すればステップS40に進む。一方、Pa≧P2が不成立であればステップS20に戻り、Pa≧P2が成立するまで、加圧ポンプ28の駆動(S13)を継続する。
【0084】
ステップS40では、駆動時間Tを計時する。すなわち、印刷制御手段60は、計時カウンタ64に駆動時間Tの計時を行わせる。
ステップS50では、駆動時間Tが所定時間Bに達した(T≧B)か否かを判断する。T≧Bが成立すればステップS60に進む。一方、T≧Bが不成立であればステップS40に戻り、T≧Bが成立するまで、駆動時間Tの計時(S40)の処理を継続する。
【0085】
ステップS60では、加圧ポンプ28の駆動を停止させる。
ここまでのステップS10〜S60の処理によって、全圧力室37が初期圧力P1(大気圧)にある状態から、加圧ポンプ28が駆動されて空気圧センサ29の空気圧Paが所定圧力P2に到達するまで加圧ポンプ28の駆動が継続される。空気圧センサ29により、圧力室37の空気圧が所定圧力P2(1.1気圧)に達したことが検出されると、計時カウンタ64が計時を開始する。そして、空気圧Paが所定圧力P2に達してから、さらに所定量の空気が送り込まれる追い加圧が行われる。そして、計時カウンタ64が所定時間Tを計時し終わると、加圧ポンプ28の駆動が停止する。
【0086】
ステップS70では、消費量カウンタ62をリセットする。このリセットにより消費量カウンタ62には追い加圧後に消費されたインク消費量が累積されることになる。
ステップS80では、印刷・フラッシング・クリーニングのうちいずれかが発生したか否かを判断する。つまり、インク消費原因の発生の有無を判断する。この判断は、印刷制御手段60が印刷データを受信したとき、フラッシング時期に達した旨の信号を受け付けたとき、クリーニング操作手段やクリーニングタイマから信号を受け付けたときなどに、演算手段61が印刷制御手段60からインク滴吐出数Jやインク排出量に関するデータを受信したか否かに基づき行われる。
【0087】
ステップS90では、インク消費量ΔRxの演算及び計数を行う。例えば印刷時は、印刷制御手段60からビットマップデータに基づいたインク滴吐出数に関するデータを受信し、フラッシング時は、印刷制御手段60からフラッシングの際のインク滴吐出数に関するデータを受信する。印刷又はフラッシング時は、演算手段61は、係数設定手段66から係数dを読み出し、この係数dを、インク滴吐出数Jに乗算することによりインク消費量(=d・J)を算出する。また、クリーニング時は、クリーニング機構駆動回路53から、クリーニングの際に記録ヘッド18から吸引排出される、クリーニングのランクに応じたインク排出量に関するデータを受信する。演算手段61は、クリーニング機構駆動回路53から、インク排出量に関するデータから特定されるインク排出量をクリーニング時のインク消費量Rclとして取得する。そして、取得したインク消費量(=d・J又はRcl)を消費量カウンタ62に計数する。消費量カウンタ62には、追い加圧後に消費されたインク消費量ΔRx(=ΔRx+d・J又は=ΔRx+Rcl)が累積される。なお、インク消費量ΔRxは、インク色xに関するインク消費量を指す。
【0088】
ステップS100では、空気圧Paが所定圧力P2未満に降下した(Pa<P2が成立)か否かを判断する。Pa<P2が成立すればステップS110に進む。一方、Pa<P2が不成立であればステップS80に戻り、Pa<P2が成立するまで、インク消費量ΔRを消費量カウンタ62に累積する(S80,S90)。
【0089】
以降のステップS110〜S130の処理は、補正処理を示す。
ステップS110では、インク総使用量ΔVallの演算を行う。ここで、インク総使用量ΔVallとは、追い加圧後に空気圧Paが所定圧力P2に降下するまでの間に消費された各インク色xのインク使用量ΔVxの総和をいう。インク総使用量ΔVallは追い加圧で供給された空気供給量Vaに等しい。よって、空気供給量Vaを算出する計算式を用いて、インク総使用量ΔVallとする。
【0090】
ここで、図6(b),(c)を用いて、インク総使用量ΔVallの算出方法について説明する。図6(b)は追い加圧の状態を示す。追い加圧で全ての圧力室37に送り込んだ空気供給量Vaは、追い加圧された所定時間T、空気供給率Qを用いて、式 Va=T・Q により計算される。
【0091】
図6(c)は、追い加圧後にインクが消費されて空気圧Paが所定圧力P2まで降下した時点のインク残量を示す。同図(c)において破線が追い加圧時のインク量、実線が追い加圧後に所定圧力P2まで降下した時点のインク量を示す。この間に使用されたインク使用量ΔVk,ΔVc,ΔVm,ΔVyの総和が、追い加圧で供給された空気供給量Vaに等しいことになる。つまり、インク総使用量ΔVallと空気供給量Vaは等しい。
【0092】
よって、インク総使用量ΔVallを算出する演算手段61は、計時カウンタ57に格納された所定時間T、供給率設定手段67に格納された空気供給率Qを用いて、インク総使用量ΔVallを、式 ΔVal=T・Q により算出する。例えば図6(b)に示すインク残量の状態で追い加圧したとき、所定時間Tが2秒、空気供給率Qが5ml/sとすると、追い加圧による空気供給量Va、すなわちインク総使用量ΔVallは、式 ΔVall=T・Q により、10mlと算出される。
【0093】
図7に戻って、ステップS120では、インク総使用量ΔVallがインク総消費量ΔRallより小さいか否かを判断する。ΔVall<ΔRallが成立した場合はステップS130に進み、ΔVall<ΔRallが不成立である場合はステップS140に進む。
【0094】
ここで、ドット演算処理に用いられる係数dは、プリンタ11の個体差によるインク滴のドット重量のばらつき範囲(例えば±10%)内で略最大値(+10%)に偏った場合を想定して初期設定されている。このため、大抵の場合、ドット演算処理から得られるインク総消費量ΔRallよりも、実際のインク使用量に相当するインク総使用量ΔVallの方が少ないことが予測される。ΔVall<ΔRallが成立した場合は、係数dを用いたドット演算処理で得られたインク消費量ΔRが実際よりも過大な値として演算されたことになるので、空気量演算処理から取得されるインク総使用量ΔVallを用いて係数dを小さく補正し、インク消費量Rの精度を上げるようにしている。一方、その予測に反してΔVall<ΔRallが不成立の場合は、空気供給システム等にリーク等の異常が発生し、空気量演算処理が適正に行われていない可能性がある。このため、ΔVall<ΔRallが不成立の場合は、演算手段61は、それまでの係数dを用いて算出されたインク消費量ΔRを採用する。
【0095】
ステップS130では、インク使用量ΔVallとインク消費量ΔRallとを用いて係数dを補正する。この係数dの補正は、インクがn色である場合に、次式により算出する。
d=d×ΔVall/(ΔR1+ΔR2+…+ΔRn)=d×ΔVall/ΔRall
このように補正処理によりインク総使用量Vallが求められる度に、その時のn色のインク消費量R1,…,Rnを用いて、インク消費量Rの演算に用いられる係数dの補正が行われる。但し、インク滴のドット重量のばらつきは、実際にはインク色毎に異なり、例えばブラックが+10%、シアンが5%、マゼンタが0%、イエロが−10%というように異なる。この処理における係数dの補正は、インク色毎の個々のばらつきは考慮されていない全インク色共通の一律補正になる。そのために、係数dをインクカートリッジC1〜C4毎(インク色毎)に個々に補正する係数補正処理を採用することが好ましい。このインク色毎に係数dを補正する係数補正処理は、第2実施形態で説明する。こうして補正された係数dは、係数設定手段66に格納されて更新される。補正後の係数dは前回までの係数dよりも小さく補正される。なお、ステップS110〜S130の処理を実行する演算手段61(CPU)により、補正手段が構成される。
【0096】
ステップS140では、インク残量Zxを取得する。演算手段61は、まずインク消費量ΔRk,ΔRc,ΔRm,ΔRyを、累積消費量カウンタ63に計数し、追い加圧時点の累積消費量Rk,Rc,Rm,Ryを、所定圧力P2に降下した時点における累積消費量Rk,Rc,Rm,Ryに更新する。そして、係数dが補正された場合は、空気量演算処理で得られたインク総使用量ΔVallを、インク色毎のインク消費量ΔRxのインク総消費量ΔRallに占める比率ΔRx/ΔRallをそれぞれ乗じて、式 Vx=Vall×ΔRx/ΔRall によりインク使用量Vxを求める。すなわち、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロの各インク使用量ΔVxは、それぞれ、Vk=Vall・ΔRk/ΔRall、Vc=Vall・ΔRc/ΔRall、Vm=Vall・ΔRm/ΔRall、Vy=Vall・ΔRy/ΔRall により算出される。そして、インクパック36の初期インク量Voからインク使用量Vxを差し引いて、インク残量Zx(=Vo−Vx)を算出する。これは、ドット演算処理で得られたインク消費量Rxが、空気量演算処理から得られたインク使用量Vxより大きな値をとるときは、インク消費量Rxに替えてインク使用量Vxが採用され、インク使用量Vxに基づくインク残量Zxが求められることを意味する。
【0097】
一方、係数dが補正されなかった場合、すなわちステップS120からステップS140へ移行した場合は、インクパック36の初期インク量Voから、累積消費量カウンタ63に更新された累積消費量Rxを差し引いて、インク残量Zx(=Vo−Rx)を算出する。これはドット演算処理で得られたインク消費量Rxに基づくインク残量Zxが採用されることを意味する。つまり、このステップS140の処理では、空気量演算処理から特定されるインク使用量Vxと、ドット演算処理で得られたインク消費量Rxとの大小関係が、Vx>Rxの場合はインク消費量Rxを採用してインク残量Zxを取得し、Vx≦Rxの場合はインク使用量Vxを採用してインク残量Zxを取得する。インク残量Zxは残量カウンタ64に格納される。なお、採用された各インク色のインク残量Zxは、インクカートリッジCの記憶素子38に記憶される。
【0098】
インク消費量Rの更新によりインク残量Zxが更新される度に、あるいは定期的に残量カウンタ59の値を読み出して、インク残量Zxが所定値以下であるか否かの判断が行われる。この判断は、インクカートリッジC1〜C4毎のインク残量Zxに対して個別に行われる。インク残量Zxが所定値以下であるインクカートリッジCが一つでも存在すれば、インクエンドと判定し、印刷制御手段60は、表示駆動回路56に駆動信号を送信して、インクエンドと判定したインク色がインクエンドである旨を表示部69に表示する。なお、表示部69としては、LED等の表示灯や表示パネル等が挙げられる。また、プリンタ11がホストコンピュータに接続されている場合は、ホストコンピュータにその旨を送信してモニタにインクエンドの旨を表示させる。
【0099】
図4は、本実施形態の空気送込動作及び補正処理が行われる際の時間に対する空気圧Paの変化の様子を示したグラフを示す。横軸が時間tであり、左側の縦軸が空気圧Pa、右側の縦軸が液圧Pi(インク圧)である。プリンタ11の電源投入後は、空気供給バルブ30が開弁状態にあるため、インクカートリッジC内は大気圧(P1)にある。その後、加圧ポンプ28が駆動されると、各圧力室37に空気が送り込まれることで空気圧Paが上昇し、空気圧Paが所定圧力P2に達すると、計時カウンタ65の計時が開始される。この計時カウンタ65により所定圧力P2に達した後の追い加圧の時間が計時され、例えば駆動時間Tが所定時間B(秒)を経過すると、加圧ポンプ28の駆動が停止される。その後、インク消費によって、空気圧Paは徐々に低下する。そして、所定圧力P2まで降下した時点で、補正処理が行われ、係数dが補正される。その後、インクがさらに消費されると、やがて液圧センサ23が下限圧力Piminを検出し、下限圧力Piminが検出されると、再び加圧ポンプ28が駆動される。そして、空気圧Paが所定圧力P2に達すると、所定時間Tの追い加圧がなされ、その後のインク消費により所定圧力P2まで降下した時点で再び係数dが補正される。
【0100】
こうして印刷中において、インク供給のために加圧される度にその後の空気圧降下途中のある時点になる度に係数dが繰り返し補正される。このため、係数dの補正の機会が著しく増え、インク消費量R及びインク残量Zの精度が増すことになり、インクエンドの設定残量近くまでインクを使用することができる。なお、追い加圧後の空気圧Paは、インクパック36におけるインク消費が進むに連れて圧力室37の容積が徐々に増えるため、徐々に低くなる。
【0101】
以上詳述したように、第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)所定圧力P2に到達してからさらに加圧ポンプ28を所定時間Tだけ駆動して所定量Dの空気を余分に供給する追い加圧を行い、追い加圧後に空気圧Paが所定圧力P2まで降下するまでの間に消費されたインク消費量Rと所定量Dとを比較することによって、係数dを補正する方法を採用した。よって、補正処理前の空気送込動作を、インク加圧状態を維持したまま行うことができる。従って、印刷中や待機中の期間においても、空気送込動作及び補正処理を行って係数dを補正できるので、補正の機会を増やすことができる。よって、補正の機会が増えるので、それだけインク消費量Rの精度を向上させることができる。そして、インクエンド時は、インクエンドの設定残量近くでインクエンドと判定されるので、インクエンド時のインク残量を従来構成に比べ少なくすることができる。
【0102】
(2)補正するに当たって、ΔVx<ΔRxが成立するか否かを判断し、ΔVx<ΔRxが成立したときのみ係数dを補正した。よって、空気送込動作がリーク等によりエラーしたときには、そのとき求められた空気量演算処理による補正が行われない。つまり、インク消費量演算で得られたインク消費量Rよりも空気量演算処理で得られたインク使用量Vの方が多い(ΔRx<ΔVx)場合は、インク使用量ΔVxを採用しない。よって、測定エラー等の誤ったインク使用量ΔVxを採用したことに起因する係数dの誤補正を防止できる。
【0103】
(3)空気送込動作による空気供給量が所定時間Tによって決まり常に一定なので、インクカートリッジの使用開始からインクエンドに至るまで、補正のばらつきが生じにくい。例えば特許文献2の方法では、所定圧力に達するまで空気供給を行うので、圧力室の容積が小さいときに空気供給量が少なく、圧力室の容積が大きくなると空気供給量が多くなる。この場合、インクカートリッジの使用初期に補正のばらつきが発生しやすく、使用終期に体積効果により補正のばらつきが小さくなるものの大量の空気供給により空気送込動作の所要時間が長くなり過ぎる傾向がある。これに対し、本実施形態によれば、圧力室37の容積が小さいときにその容積の割りに空気供給量が多く補正のばらつきが比較的小さく抑えられ、圧力室37の容積が大きくなるとその容積の割りに空気供給量が少なく抑えられて空気送込動作の所要時間が長くなり過ぎることが回避される。よって、精度及び動作の点で効率のよい補正を実施できる。
【0104】
(4)インク供給システムを構成する加圧ポンプ28、空気圧センサ29、空気供給バルブ30、空気供給路27などを流用して空気送込動作を行うので、空気送込動作専用の装置を別途設ける必要がなく、プリンタ11の構成を簡単かつ小型にすることができる。
【0105】
(5)所定圧力P2に達した後の追い加圧は、計時カウンタ64の計時時間で管理するので、所定圧力P2を検知できれば足りる。よって、空気圧センサ29として、圧力を連続的に検出できる高価な圧力センサを必ずしも使用する必要はなく、所定圧力を境にオン/オフが切り換わる比較的構成が簡単で安価な圧力スイッチの採用も可能である。
【0106】
(6)空気送込動作を大気圧の状態から開始する特許文献2に記載の技術では、空気送込動作を実施できる時期が、加圧停止可能な時期である省電力モード等に限られたため、空気送込動作による加圧をインク供給に利用できる頻度が極めて低かった。これに対し、本実施形態では、空気送込動作を印刷中や待機中に行ってその加圧をインク供給に利用できる頻度が極めて高いので、無駄がなく効率的である。
【0107】
(7)追い加圧時の空気供給量を、計時カウンタ65が計時した加圧ポンプ28の駆動時間Tから求める構成を採用するので、空気量演算処理の演算に使う計測値を簡単に取得できる。例えば空気供給量の取得に流量計などを用いることも可能ではあるが、この構成に比べマイクロコンピュータが内蔵する計時カウンタを利用できるので、余分な計測装置を設ける必要がない。
【0108】
(8)全色が新品のインクカートリッジである初期状態のときに、空気送込動作を行って空気供給率Qを算出し、加圧ポンプ28の個体差によるポンプ能力のばらつきに応じて空気供給率Qを補正するので、係数補正の精度を向上させることができる。
【0109】
(第2実施形態)
次に第2実施形態を説明する。前記第1実施形態では、係数dを各インク色供給に一律補正したが、この実施形態は、インク色毎に個別に係数dを補正する係数補正処理を採用している。以下、図7に示したフローチャートを用いつつ処理の異なる部分を説明する。図7におけるステップS10〜S110及びS140の処理は同じである。補正に係るステップS120及びS130の処理に他の処理が加わる。
【0110】
図7の処理において、インク総使用量ΔVallとインク消費量(ΔRk,ΔRc,ΔRm,ΔRy)の演算値を複数回分(インク色の数と同数回分(4回分))取得するようにし、これらのデータを用いてインク色毎の係数dk,dc,dm,dyを補正する。これらの関係は次式で与えられる。
ΔRk(j)・dk+ΔRc(j)・dc+ΔRm(j)・dm+ΔRy(j)・dy=ΔVall(j) …(1)
ここで、式(1)における記号中の(j)は、j回目のデータであることを示す。なお、データが複数回(4回)分に満たない場合は、図7におけるステップS120,S130の処理を実行して係数dを一律補正し、複数回分のデータが蓄積された以後においては、以下の処理を実行して係数dをインク色毎に個別に補正する。
【0111】
例えばインク消費量Rk,Rc,Rm,Ryのうち少なくとも1つが他の回と異なる値となるタイミングで4回分のデータが取得されると、インク消費量Rk,Rc,Rm,Ryのうち少なくとも1つの値の異なる上記(1)式が4つ得られる。これらの4つの式を用いてインク色毎の4つの係数dk,dc,dm,dyを演算する。
【0112】
処理手順としては、図7において、S120とS130の間に次の処理が入る。すなわち、ステップS120でΔVall<ΔRallが成立した場合は、次のステップS121として、インク総使用量ΔVallとインク消費量(ΔRk,ΔRc,ΔRm,ΔRy)の演算値が4回分記憶されているか否かを判断する。4回分記憶されていれば、次のステップS122として、上記(1)の関係式に4回分のデータをそれぞれ適用して得られる4つの式を用い、これらの式中の変数である4つの係数dk,dc,dm,dyを演算する。この場合、式中における定数ΔVallの値は、計測値から導かれるもので誤差を含むので、係数dk,dc,dm,dyは、コンピュータを使用した公知の反復解法を用いて近似解として算出する。そして、算出した係数dk,dc,dm,dyに補正した後は、ステップS140に進む。
【0113】
一方、4回分のデータが蓄積されていない場合は、ステップS130に進んで、全インク色に共通に用いられる係数dの一律補正を行う。なお、本実施形態では、ステップS121,S122の各処理を実行する演算手段61(CPU)により、補正手段が構成される。
【0114】
なお、演算手段61は、空気量演算処理を行う度に、その回のインク総使用量ΔVallとインク消費量(ΔRk,ΔRc,ΔRm,ΔRy)の演算値を、不揮発性メモリの所定記憶領域に順番が分かるように記憶する。そして、データが4回分を超える場合は一番旧い回のデータを消去し、直近4回分のデータだけを記憶する。また、ステップS120で、ΔVall<ΔRallが不成立で空気送込動作にエラーの虞がある場合は、その回のデータは保存しない。また、一律補正の係数dが設定された状態から、初めて複数回分のデータが蓄積され(S121)、初めてステップS122に移行した場合は、インク色毎の係数dxが大きく補正されることもありうる。
【0115】
この実施形態によれば、空気圧センサ29及び空気供給バルブ30が複数のインクカートリッジC1〜C4で共有されて1個ずつ設けられた簡単な構成でありながら、インク色個別に係数dxを補正することができる。すなわち、最初は、空気演算処理で得られたインク総使用量Vallと、ドット演算処理で得られたインク総消費量Rallとを用いて、係数dを、式 d=d・ΔVall/ΔRall により一律補正するものの、複数回分のデータが蓄積された以後は、インク色毎に係数dxを補正するので、インク色毎のインク消費量Rxの精度を一層上げることができる。よって、インクエンド時のインク残量Zxの精度を向上できるので、インクカートリッジC1〜C4をインクエンド表示されるまで使用した際に、ドット重量がばらつき範囲の小さい側に偏っているインク色でも、そのインク色に対応するインクカートリッジCをインクエンドの設定残量近くまで使い切ることができる。
【0116】
なお、前記各実施形態に限定されず、以下の形態も採用できる。
(変形例1)前記各実施形態では、インク滴吐出数Jに乗算する係数dを補正したが、これに限定されない。前記各実施形態では、クリーニングのインク排出量のばらつき分は、インク滴吐出数Jに乗算する係数dの補正に組み込まれる構成であったが、係数dを補正するときの補正係数Vall/Rallを、クリーニングによるインク排出量にも乗算して補正を加える構成を採用できる。ドット重量のばらつきに比べ、クリーニングによる吸引インク重量のばらつきは小さいので無視してもよいが、吸引ポンプモータ等の個体差のばらつきにより、吸引インク重量のばらつき範囲が比較的大きい場合に有効である。
【0117】
また、吸引インク重量のばらつきが小さくクリーニングによるインク消費量Rclの信頼性が比較的高ければ、インク総使用量Vallからクリーニング総消費量Rallclを差し引いて、吐出によるインク総使用量Vallinjのみを求め、このVallinjの値を用いて係数dを補正する構成を採用できる。この場合、吐出によるインク消費量Rinjとクリーニングによるインク消費量Rclとをインク色毎に個別にカウンタに格納する。そして、式 d=d・(ΔV−Rcl)/Rinj により、カートリッジ交換されたインク色の係数dを補正する。この方法であれば、係数dを一層適正に補正でき、インク残量Zの精度を一層上げることができる。
【0118】
(変形例2)前記実施形態では、空気供給率Qを大気圧から所定圧力P2まで加圧する際に取得した計測値に基づいて算出したが、これに限定されず、例えば以下のような算出方法を採用できる。空気圧センサ29としては圧力を連続的に検出できるものを使用する。空気供給率Qの算出は、所定圧力P2からP2+ΔPまで上昇させたときに加圧ポンプ28の駆動時間Tを計時したときのデータを用いて行う。空気供給率Qは、駆動時間T、所定圧力ΔPを用いて、式 Q=Aallo・ΔP/T により算出する。ここで、Aalloは、初期状態における圧力室総容積である。本例では、追い加圧の圧力範囲で計測されたデータに基づき空気供給率Qを算出する。例えば圧力室37が高圧になるに連れて空気供給率Qが低下するポンプ特性をもつ加圧ポンプ28を使用しても、実際に使用される圧力範囲での空気供給率Qを採用できる。よって、空気供給率Qを用いて算出されるインク総使用量ΔVall等のデータの精度が高まり、補正の精度も向上する。
【0119】
(変形例3)前記実施形態では、追い加圧をするときの時間を一定時間としたが、追い加圧時間は変化させてもよい。例えばインクの消費が進むに連れて増大する圧力室の容積に応じて連続的又は段階的に長くする構成を採用してもよい。
【0120】
(変形例4)前記各実施形態では、インクカートリッジごと交換する方式であったが、これに限定されない。例えばケース内のインクパックのみを交換してケースは繰り返し使用できる方式でも構わない。この方式であっても、インクパックの交換前後の空気送り込み量から交換前のインクパックのインク使用量を算出して、係数補正を行うことはできる。
【0121】
(変形例5)前記実施形態では、インクパックが一つひとつ別々のケースに収容されたインクカートリッジであったが、これに限定されない。例えば1つのケース内に複数のインクパックが収容されたインクカートリッジでも構わない。この場合、ケース内に複数のインクパックがそれぞれ個別に密閉された区画室に収容された構成であれば、空気送込量からインクパック毎のインク使用量を算出できるので、同様に第1の演算手段の演算機能にインク色個別の補正を加えることはができる。
【0122】
(変形例6)前記各実施形態では、インクの加圧供給のための加圧の度にその後の空気圧が所定圧力P2まで降下する度に補正処理を毎回行ったが、これに限定されない。1回おき、2回以上の複数回おきに補正処理をおこなってもよい。
【0123】
(変形例7)圧力検出手段は空気圧センサ29に限定されない。例えばインク供給バルブ41の上流側(インクカートリッジ側)のインク供給路22上に設けた液圧センサ23の検出インク圧から、圧力室37の空気圧を間接的に検出しても構わない。さらに圧力検出手段は、圧力センサにも限定されない。例えば加圧ポンプ28を駆動する加圧ポンプモータ68(電動モータ)の負荷を検出して間接的に圧力室の圧力を検出する負荷検出器を採用することもできる。要するに圧力室が所定圧力に到達したことを検知できればよい。
【0124】
(変形例8)前記実施形態では、計時カウンタ65により計時された駆動時間Tを用いて空気供給量を計測する構成としたが、計時カウンタ65による計時を廃止した構成も可能である。例えば印刷制御手段60は加圧ポンプモータ68を所定回転数だけ駆動させる制御を行う。そして、所定回転数の回転で送り込まれる予め既知の空気送込量のデータを、メモリから読み出して用いる構成としてもよい。
【0125】
(変形例9)前記各実施形態では、インク加圧供給システムを有するプリンタ11に適用し、インク供給システムを構成する加圧ポンプ28、空気供給路27、空気圧センサ29及び空気供給バルブ30等を流用して、空気量演算処理で必要なデータを取得する空気送込処理を行ったが、流用ではなく、空気送込処理専用の装置として設けることもできる。
【0126】
(変形例10)前記各実施形態では、プリンタ11は4個のインクカートリッジCを装填する構成であったが、インクカートリッジ装填数は2個以上の範囲で適宜変更できる。例えば6色、7色、8色以上のインク色で印刷できるプリンタにも適用できる。
【0127】
(変形例11)前記実施形態では、室としての圧力室に供給する流体(圧縮性流体)を空気としたが、空気に限定されない。例えば窒素、酸素、二酸化炭素、アルゴンなど他の気体を用いても構わない。特に液体噴射装置で他の用途で使用される気体であると好ましく、例えば産業用の液体噴射装置において、噴射された液滴の酸化防止など特定の目的で供給される気体を用いてもよい。
【0128】
(変形例12)特許文献2に記載の構成のように、複数のインクカートリッジ毎に個別に空気供給バルブ及び圧力検出手段を備えた構成において適用してもよい。空気送込動作を大気開放することなく印刷中に行えるので、補正の機会を増やすことができる。また、第2実施形態を採用した場合は、インク色毎の係数dxを補正するために、空気送込動作をインクカートリッジ毎に個別に行う必要がない。
【0129】
(変形例13)空気供給率を、駆動時間Tと圧力変化ΔP(=P2−P1)との対応関係を基に算出したが、他の方法で算出してもよい。例えば駆動時間ではなくポンプ又は加圧ポンプモータの単位回転数当たりに供給(又は吸引)される流体量で示される供給率(ml/回転)として算出することもできる。この構成によっても、ポンプの個体差等によりばらつくポンプ能力を適正な値に設定できるので、補正の精度を向上できる。
【0130】
(変形例14)前記実施形態では、液圧センサ23の検出圧が下限圧力未満になったことをトリガとして、加圧ポンプ28の駆動を開始させたが、加圧ポンプ28の駆動を開始するトリガはこれに限定されない。例えば空気圧センサ29の検出圧が所定値Pamin(<P2)未満になったことをトリガとしてもよい。さらに、前回の加圧ポンプ駆動停止時から演算手段61により演算されたインク消費量が所定値以上になったことをトリガとしてもよい。また、これらのうち2つ又は3つが共に成立したことをトリガとすることもできる。
【0131】
(変形例15)前記実施形態では、液体噴射装置をインクジェット式プリンタに具体化したが、その他の液体噴射装置にも適用できる。インク以外の他の液体(機能材料の粒子が分散されている液状体を含む)を噴射する液体噴射装置に具体化することもできる。例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材などの材料が分散または溶解された液状体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置であってもよい。そして、これらのうちいずれか一種の液体噴射装置に本発明を適用することができる。
【0132】
以下、前記実施形態および各変形例から把握される技術的思想を記載する。
(1)前記室に前記所定量の流体を送り込んだことを計測する計測手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【0133】
(2)前記計測手段は、前記ポンプの駆動時間を計時する計時手段であることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載の液体噴射装置。これによれば、所定圧力を検出した後、ポンプの駆動時間を計時することにより、さらに所定量の流体を送り込むことができる。
【0134】
(3)前記圧力検出手段は、前記複数の室に共有されていることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載の液体噴射装置。これによれば、圧力検出手段は複数の室の圧力を共通に検出する一つ備えられるので、液体噴射装置の構成が簡単になる。
【0135】
(4)前記演算手段における演算機能は、前記液体噴射ヘッドから吐出される液滴のドット重量がばらつき範囲内の大きい側に偏っている場合を想定して前記消費量が算出されるように設定されており、前記演算手段により求められた消費量の総和よりも、前記所定量の方が多い場合は、前記補正手段は補正を行わないことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【0136】
(5)前記複数の液体収容部がそれぞれ個別に筐体内に収容された複数の液体収容体を備えていることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載の液体噴射装置。これによれば、一つの液体収容部の液体を使い切った場合にそれを収容する液体収容体を交換することで、その液体収容部のみを交換できるので、経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】第1実施形態のプリンタの平面図。
【図2】インク供給システムを説明する模式断面図。
【図3】インクカートリッジを示す模式側断面図。
【図4】空気圧及び液圧の時間経過による変化の様子を示すグラフ。
【図5】プリンタの電気的構成を示すブロック図。
【図6】(a)〜(c)空気供給率、空気量演算処理及び補正処理を説明する説明図。
【図7】インク供給制御処理及び補正処理を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0138】
11…液体噴射装置としてのプリンタ、18…液体噴射ヘッドとしての記録ヘッド、18a…ノズル、23…液圧センサ、25…インク供給路、27,27a…空気供給路(流体流路)、28…ポンプとしての加圧ポンプ、29…圧力検出手段(計測手段)としての空気圧センサ、30…空気供給バルブ(流体供給弁)、35…ケース、37…室としての圧力室(空気室)、36…液体収容部としてのインクパック、38…記憶素子、39…端子、41…液体供給弁としてのインク供給バルブ、50…マイクロコンピュータ、60…制御手段としての印刷制御手段、61…演算手段及び補正手段としての演算手段、63…累積消費量カウンタ、64…残量カウンタ、65…計時カウンタ(計測手段、計時手段)、66…係数設定手段、67…供給率設定手段、69…表示部、C,C1〜C4…液体収容体としてのインクカートリッジ、d,dx…係数、P2…所定圧力、ΔP…圧力差(圧力変化)、T…駆動時間(所定時間)、Aall…圧力室総容積、ΔVall…インク総使用量、ΔRall…インク総消費量、Q…空気供給率(ポンプ能力)、Zx…インク残量、Vx…インク使用量、Rx…インク消費量(累積消費量)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射する液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置であって、
液体を収容する液体収容部が密閉状態に収容された液体収容体と、
前記液体収容部が液体の導出分だけ体積を減少させることにより容積を増やす前記液体収容体内の室への流体の供給を行うポンプと、
前記液体噴射ヘッドで液体が消費されたことによる前記液体収容部の液体の消費量を演算する演算手段と、
前記室の圧力を検出する圧力検出手段と、
前記ポンプを駆動させて前記室に流体を供給し、前記圧力検出手段が所定圧力を検出した後、所定量の流体をさらに送り込んでから前記ポンプによる前記室への流体の供給を停止させる制御手段と、
前記液体噴射ヘッドで液体が消費されて前記室の圧力が前記所定圧力まで降下する間に、前記演算手段により演算された液体の消費量と、前記所定圧力を検出した後にさらに送り込まれた流体量との各値を用いて、前記演算手段の演算機能に補正を加える補正手段と
を備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記液体収容体は、異なる種類の液体をそれぞれ収容する複数の前記液体収容部が個々に密閉状態に収容する状態で一以上設けられ、
前記補正手段は、前記液体噴射ヘッドにおける液体の消費により前記所定圧力まで圧力が降下する間に、前記演算手段により演算された液体の消費量の総和と、前記所定圧力を検出した後にさらに送り込まれた流体量との各値を用いて、前記演算手段の演算機能に補正を加えることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記液体収容体は、異なる種類の液体をそれぞれ収容する複数の前記液体収容部が個々に密閉状態に収容する状態で一以上設けられ、
前記補正手段は、前記演算手段による液体収容部毎の前記消費量と、前記所定量とを対応させて異なるタイミングで複数回取得したデータに基づいて、前記演算手段における演算機能に液体種毎個別に補正を加えることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記圧力検出手段が前記所定圧力を検出した後、さらに所定時間又は所定回転数だけ前記ポンプを駆動させた後に該ポンプの駆動を停止させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記ポンプにより前記室に流体を送り込むことによって前記液体収容部を加圧し、前記液体収容部から液体を前記液体噴射ヘッド側へ供給することを特徴とする請求項1乃至4
のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記液体収容部から液体を前記液体噴射ヘッド側へ加圧供給するために前記ポンプにより前記室に流体を送り込んで前記液体収容部を加圧する過程で、前記圧力検出手段が所定圧力を検出した後、所定量の流体をさらに送り込んでから前記ポンプによる前記室への流体の供給を停止させることを特徴とする請求項5に記載の液体噴射装置。
【請求項7】
前記演算手段は、液体噴射指示データに基づく前記液体噴射ヘッドからの液滴の吐出数及びフラッシング動作による前記液体噴射ヘッドからの液滴の吐出数に、それぞれ係数を乗じて液体の消費量を演算することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項8】
前記補正手段は、前記係数を補正することを特徴とする請求項7に記載の液体噴射装置。
【請求項9】
前記液体噴射ヘッドは、液滴重量の異なる複数種の液滴を吐出可能であり、前記係数は複数の液滴重量に対応して複数管理されていることを特徴とする請求項7又は8に記載の液体噴射装置。
【請求項10】
前記演算手段は、前記液体噴射ヘッドから液体を吸引排出させるクリーニングの動作毎に該クリーニングに対応する所定の消費量を計数して前記消費量を求めるように構成されていることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項11】
前記演算手段における演算機能は、前記液体噴射ヘッドから吐出される液滴のドット重量がばらつき範囲内の大きい側に偏っている場合を想定して前記消費量が算出されるように設定されており、前記演算手段により求められた消費量よりも、前記所定量の方が多い場合は、前記補正手段は補正を行わないことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項12】
前記制御手段は、前記液体収容部が満タン状態にあって前記室の総容積が既知であるときに前記ポンプを駆動させて該室に流体を供給するように構成され、該供給の際にポンプ駆動時間又はポンプ駆動回転数と、該室の圧力変化とを取得して両値の対応関係から、前記ポンプにより単位時間当たり又は単位回転当たりに供給される流量を算出して前記補正手段における演算機能に設定する設定手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項13】
液体収容体に密閉状態に収容されるとともに液体噴射ヘッドに供給される液体を収容する液体収容部の液体残量を演算する液体噴射装置の液体残量演算方法であって、
前記液体収容部が液体の導出分だけ体積を減少させることにより容積を増やす前記液体収容体内の室への流体の供給を行うポンプと、前記室の圧力を検出する圧力検出手段とを用い、
演算手段が前記液体噴射ヘッドで液体が消費されたことによる前記液体収容部の液体の消費量を演算する演算ステップと、
前記ポンプを駆動させて前記室に流体を供給し、前記圧力検出手段が所定圧力を検出した後、所定量の流体をさらに送り込んでから前記ポンプによる前記室への流体の供給を停止させる制御ステップと、
前記液体噴射ヘッドにおける液体の消費により前記所定圧力まで圧力が降下する間に、前記演算手段により演算された液体の消費量と、前記所定圧力を検出した後に送り込まれた流体量との各値を用いて、前記演算手段の演算機能に補正を加える補正ステップとを備え、
前記演算手段が補正後の演算機能に従って前記液体収容部の残量を求めることを特徴とする液体噴射装置の液体残量演算方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−18611(P2008−18611A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−192028(P2006−192028)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】