説明

液化燃料エンジンにおける燃料圧力制御法

【課題】燃料ポンプ駆動モータの無駄な高回転によるモータにおける負荷の増加により生じる燃費の悪化、温度の上昇を防止して耐久性を向上させる液化燃料エンジンにおける燃料圧力制御法を提供する。
【解決手段】燃料タンク2に貯留した液化ガス燃料を燃料ポンプ3で加圧して燃料供給管路9A,9Bを介してインジェクタ8に送りエンジン1に供給する液化燃料エンジンにおける可変燃料噴射圧力制御方法であって、燃料供給装置に付設した各種センサによる実測値である複数のデータから得られる燃料供給装置の有する物理的関係を表す数式モデルを用いて実際に測定できない運転状態についてのシステムパラメータを推定し、その数式モデルをベースにシミュレーションを行い、最適な制御パラメータを用いて燃料供給装置に備えた電子制御ユニット10において求まるエンジン1の要求する燃料噴射量に応じて必要とする燃料噴射圧力を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LPGやDMEのようにガソリンに比べて気化しやすい液体燃料を液体のまま燃料タンクからインジェクタに圧送しエンジンに噴射、供給する液化燃料エンジンにおける可変目標燃料噴射圧力制御法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LPGやDMEのようにガソリンよりも気化しやすい液体燃料をインジェクタで計量噴射して液体のままエンジンに供給する燃料噴射制御方式のエンジンシステムは周知であり、自動車などに搭載されているが、近頃、高トルクや高出力の要請とともに、環境への対応や低燃費、低排気ガス、省エネルギーなどの要請が強い。特に、燃料噴射制御は、エンジン制御性能および排気に大きな影響を与えることから、省エネルギー化、高速化、高精度化、高信頼性が強く望まれている。
【0003】
ところで、従来、燃料噴射制御方式のエンジンシステムでは、あらゆる運転条件にも対応可能とするために燃料噴射圧力を燃料噴射量の多少に拘わらず常に一定の高い圧力で制御が行われている。そのため、インジェクタからの噴射量がきわめて多いエンジン高負荷状態では燃料ポンプ駆動モータの回転数が高くなり、モータの負荷が増加し、モータに大電流が流れる結果、燃費が悪くなってしまう。また、燃料ポンプ駆動モータに長時間にわたって大電流が流れるのでモータやモータドライバの温度が上昇して耐久性が悪くなるという問題がある。
【0004】
そこで、図2に示すように、燃料タンク2に貯留された液化ガス燃料をDCモータ等で駆動される電動式燃料ポンプ3で常に一定量の燃料を燃料供給管路9に圧送し、リリーフバルブ40で燃料供給管路内の圧力を一定に調整した上で燃料供給管路9を経由しインジェクタ8からエンジン要求流量の燃料を供給して、余剰の燃料はプレッシャーレギュレータ41を経由して燃料戻し管路9Cで燃料タンク2に戻すリターン式の燃料供給システムが知られている。
【0005】
このような従来の燃料供給システムでは、あらゆるエンジンの運転条件にも対応可能とするために電動式燃料ポンプ3の吐出流量をインジェクタ8から噴射される最大燃料量以上に設定している。しかし、例えばアイドリング中や燃料カット時などインジェクタ8の燃料噴射量が極めて少ない状況下においては、送出燃料がプレッシャーレギュレータ41から燃料タンク2に戻るため、電動式燃料ポンプ3に与えられたエネルギー(電力量)が無駄に消費されることになる。また、エンジン1の近傍を通って高温となった余剰燃料が大量に燃料タンク2に戻されるとタンク内燃料温度を上昇させてしまい、燃料蒸気が生じてポンプ吐出量を不安定にし、排気に悪影響を与える、という不都合を生じる。
【0006】
そこで、特開平7−54725号公報、特開2001−234829号公報、特開2003−232234号公報などに記載されているように、電動式燃料ポンプの吐出量を通常運転用とハイゾーン用の二段階に切換える二段階切換式とすることにより電力消費量と燃料タンクに戻る余剰燃料を減少させる方法が考えられる。しかしながら、このように粗い燃料ポンプ制御ではエンジンの運転状態により細かく或いは大幅に変化するエンジンの運転状態に適した燃料要求流量に的確に対応することができないため、余剰燃料を充分に減少させることができないとともに無駄となる消費電力の低減も充分とは言えない。また、前記リターン式や二段階切換式の場合には制御装置ならびに制御方法が複雑となり製造が容易でなく価格が高くなるばかりか保守や修理の面でも不利である。
【特許文献1】特開平7−54725号公報
【特許文献2】特開2001−234829号公報
【特許文献3】特開2003−232234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであり、燃料タンクから延出された燃料供給管路先端側のエンジンに付設したインジェクタと、前記燃料供給管路に配設された燃料ポンプと、前記燃料ポンプ駆動モータ及び前記インジェクタを駆動制御する電子制御ユニットとを備え、全ての運転状況に対応する燃料噴射量に応じて必要な燃料噴射圧力を制御することにより従来の無駄な高い圧力での制御における問題点である燃料ポンプ駆動モータの無駄な高回転によるモータにおける負荷の増加により生じる燃費の悪化、モータやモータドライバにおける温度の上昇を防止して耐久性を向上させる液化燃料エンジンにおける燃料圧力制御法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、燃料タンクから延出された先端側にインジェクタを有する燃料供給管路と、前記燃料供給管路に配設された燃料ポンプと、前記インジェクタおよび燃料ポンプを駆動制御する電子制御ユニットとを有する燃料供給装置を備え、前記燃料タンクに貯留した液化ガス燃料を前記燃料ポンプで加圧して前記燃料供給管路を介して前記インジェクタに送りエンジンに供給する液化燃料エンジンにおける燃料噴射圧力制御方法であって、前記燃料供給装置に付設した各種センサによる実測値である複数のデータから得られる前記燃料供給装置の有する物理的関係を表す数式モデルを作成し、この作成した数式モデルを用いて実際に測定できない運転状態についてのシステムパラメータを推定し、その数式モデルをベースにシミュレーションを行い、最適な制御パラメータを決定し、この決定した制御パラメータを用いて前記燃料供給装置に備えた前記電子制御ユニットにおいて求まるエンジンの要求する燃料噴射量に応じて必要とする燃料噴射圧力を決定する可変目標燃料噴射圧力制御法を導入することとした。
【0009】
LPG液体噴射システムにおいては、全ての運転条件において燃料噴射圧力がその目標圧力となるように燃料噴射圧力を制御することを可能にすることにより、噴射量がきわめて少ない場合には燃料が気化し易いので燃料噴射圧力を高く設定し、燃料噴射量が多い場合には燃料が気化し難いので燃料噴射圧力を高く設定する必要がないという理論通りの制御を可能にすることにより燃料ポンプを駆動するポンプ駆動電動モータの消費電力を抑えてポンプ駆動モータおよびモータドライバの耐久性を向上させる。
【0010】
また、燃料噴射圧力に応じて燃料噴射時間を補正することにより、燃料噴射圧力が変化し、インジェクタなどの作動特性の影響で排気が悪くなるおそれを解消する。
【0011】
尚、本発明における目標燃料噴射圧力を求めるための数式モデルはエンジン回転数と基本燃料噴射時間により決定される次の関係式(1)が含まれている。
【数1】

【0012】
また、本発明において、目標燃料噴射圧力に応じて自動的に燃料噴射時間の補正を行う際に次の関係式を用いる。

【数2】

【発明の効果】
【0013】
本発明によると、リターン式や複数の燃料系統を備えるような複雑な構成を必要とすることがなく、製造価格や維持費も廉価であり、特に、全ての運転状況において燃料噴射量に応じて必要な燃料噴射圧力を制御することにより燃料ポンプ駆動モータの無駄な高回転によるモータにおける負荷の増加により生じる燃費の悪化、モータやモータドライバにおける温度の上昇を防止して耐久性を向上させるとともに、良好な排気を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明である 燃料噴射圧力制御法を実施するための液化燃料エンジンの配置図を示すものであり、燃料タンク2から延出された燃料送出管路9Aの出口寄りには電動モータ3aにより駆動する燃料ポンプ3が配設され、燃料ポンプ3から燃料圧力センサ11を介して延設された燃料供給管路9Bの先端側がエンジン1の吸気管路4に配設したインジェクタ8に接続されており、インジェクタ8の下流側に燃料戻し管路を有していないリターンレス式の燃料供給システムを構成している。
【0016】
また、燃料ポンプ3を駆動するポンプ駆動電動モータ、インジェクタ8、点火栓7はそれぞれ電子制御ユニット(ECU)10に電気的に接続されており、エンジン1の運転状態に応じてそれぞれ駆動制御される。さらに、燃料ポンプ3の下流側である燃料供給管路9Bにおけるインジェクタ8の手前には燃料圧力を検出する燃料圧力センサ11が、エンジン1にはエンジン回転数を検出するクランク角センサ13それぞれが配置されており、それぞれから出力される検出信号が電子制御ユニット10に送られ、電子制御ユニット10では、エンジンの要求する燃料噴射量に応じて必要とする燃料噴射圧力を決定して前記電動モータ3a、インジェクタ8、点火栓7などを制御する。
【0017】
尚、図面中、符号12は吸気管路4に配置された吸気圧力センサ、符号14は、吸気管路4に配置された開閉弁、符号16は排気管路15に配置された酸素ガスセンサである。
【0018】
そして、本実施の形態により、燃料噴射圧力制御を行うには、まず、本実施の形態であるエンジン1を始動して、前記吸気管路4に配置された吸気圧力センサ12からの吸気管路4内の吸入空気圧力、クランク角センサ13からのエンジン回転数、基本燃料噴射時間などの運転状態について複数データから得られる燃料供給装置の有する物理的関係を表す数式モデルを作成する。
【0019】
次の関係式(1)は前記物理的関係を表す数式モデルを示すものである。
【0020】
【数1】

【0021】
次に、前記数式モデルを示す式(1)を用いて電子制御ユニット10において実際に測定できない運転状態についてのシステムパラメータを推定し、その数式モデルをベースにシミュレーションを行い、最適な制御パラメータを決定し、この決定した制御パラメータを用いて前記燃料供給装置に備えた前記電子制御ユニットにおいてエンジン回転数と基本燃料噴射時間で求まるエンジンの要求する燃料噴射量に応じて必要とする燃料噴射圧力を決定し、全ての運転条件において燃料噴射圧力がその目標圧力となるように燃料ポンプ3のポンプ吐出圧力をリアルタイムに制御する。
【0022】
具体的には、本実施の形態では、電子制御ユニット10は、実際の燃料噴射圧力になると考えられるインジェクタ8直前に配置した燃料圧力センサ11の検出信号をフィードバックし、前記目標燃料噴射圧力に応じて自動的に燃料噴射時間の補正を行う際に次の関係式(2),(3)を用いて電子制御ユニット10のマイクロコンピュータによって燃料噴射量補正時間と最終燃料噴射時間の計算を行い、実際の噴射圧力がその目標噴射圧力と一致するように燃料噴射時間補正制御を行うことにより燃料噴射圧力の変化によって生じる排気状態が悪化するのを防ぐことができる。
【0023】
【数2】

【0024】
以上のように、本実施の形態によれば、制御目的である目標燃料噴射圧力が燃料温度や燃料噴射流量などによって変化する非線形である燃料供給システムにおいては従来のリターン式機械的制御の適用が困難であったところ、前記燃料供給装置に付設した各種センサによる実測値である複数のデータから得られる前記燃料供給装置の有する物理的関係を表す数式モデルを作成し、この作成した数式モデルを用いて実際に測定できない運転状態についてのシステムパラメータを推定し、その数式モデルをベースにシミュレーションを行い、最適な制御パラメータを決定し、この決定した制御パラメータを用いて前記燃料供給装置に備えた前記電子制御ユニットにおいて求まるエンジンの要求する燃料噴射量に応じて必要とする燃料噴射圧力を決定する可変目標燃料噴射圧力制御法を導入することにより、従来方式のように常に燃料圧力を高圧にしておく必要がなくなり、燃料ポンプの劣化を防ぐことができ、排気も良好になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態を実施するための液化燃料エンジンを示す配置図。
【図2】従来例を示す配置図。
【符号の説明】
【0026】
1 エンジン、2 燃料タンク、3 燃料ポンプ、3a 電動モータ、4、吸気管路、7 点火栓、8 インジェクタ、9A 燃料送出管、9B 燃料供給管路、10 電子制御ユニット(ECU)、11 燃料圧力センサ、12 吸気圧力センサ、13 クランク角センサ、14 開閉弁、15 排気管路、16 酸素ガスセンサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化燃料エンジンにおいて燃料タンクから延出された先端側にインジェクタを有する燃料供給管路と、前記燃料供給管路に配設された燃料ポンプと、前記インジェクタおよび燃料ポンプを駆動制御する電子制御ユニットとを有する燃料供給装置を備え、前記燃料タンクに貯留した液化ガス燃料を前記燃料ポンプで加圧して前記燃料供給管路を介して前記インジェクタに送りエンジンに供給する液化燃料エンジンにおける燃料噴射圧力制御法であって、前記燃料供給装置に付設した各種センサによる実測値であるエンジン回転数と基本燃料噴射時間のデータから得られる前記燃料供給装置の有する物理的関係を表す数式モデルを作成し、この作成した数式モデルを用いて実際に測定できない運転状態についてのシステムパラメータを推定し、その数式モデルをベースにシミュレーションを行い、最適な制御パラメータを決定し、この決定した制御パラメータを用いて前記燃料供給装置に備えた前記電子制御ユニットにおいて求まるエンジンの要求する燃料噴射量に応じて必要とする燃料噴射圧力を決定する可変目標燃料噴射圧力制御法。
【請求項2】
前記数式モデルのデータであるエンジン回転数と基本燃料噴射時間とを用いることを特徴とする請求項1記載の液化燃料エンジンにおける燃料噴射圧力制御法。
【請求項3】
前記数式モデルには次の関係式(1)が含まれていることを特徴とする請求項1または2に記載した液化燃料エンジンにおける可変目標燃料噴射圧力制御法。
【数1】

【請求項4】
前記燃料供給装置の燃料圧力センサからの燃料圧力信号をフィードバックし、前記エンジン回転数と基本燃料噴射時間に応じて計算された目標燃料噴射圧力と実測した燃料圧力信号との偏差を前記電子制御ユニットにおいて計算し、実際の燃料噴射圧力がその目標燃料噴射圧力と一致するように燃料噴射圧力制御を行うと同時に、目標燃料噴射圧力に応じて自動的に燃料噴射時間の補正を行うことを特徴とする請求項1,2または3に記載の液化燃料エンジンにおける燃料噴射圧力制御法。
【請求項5】
前記目標燃料噴射圧力に応じて自動的に燃料噴射時間の補正を行う際、次の関係式(2),(3)を用いることを特徴とする請求項4に記載の液化燃料エンジンにおける燃料噴射圧力制御法。
【数2】


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−228461(P2009−228461A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71702(P2008−71702)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000153122)株式会社ニッキ (296)
【Fターム(参考)】