説明

液圧制御装置

【課題】制御弁の耐久性向上と制御液圧の応答性とを両立させる。
【解決手段】ブレーキ制御装置20は、ホイールシリンダ23における制御液圧を制御するための増圧リニア制御弁66と、ホイールシリンダ23における制御液圧を制御するための減圧リニア制御弁67と、開度を漸減させて増圧リニア制御弁66を閉弁するとともに、増圧リニア制御弁66の閉弁動作の開始から完了までに生じ得る制御液圧の目標液圧からの乖離を軽減するよう減圧リニア制御弁67を開閉するブレーキECU70と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧制御対象の液圧を制御するための液圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、弁座とその弁座に着座・離間可能な弁子とを備えるシーティング弁と、弁子の弁座への当接速度を低減させる当接速度低減手段とが設けられた液圧ブレーキ制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この装置によれば、シーティング弁の閉作動時に弁子が弁座に着座する際の当接速度が低減され、着座時の衝撃や作動音を小さくし得るとされている。また、同様に、ホイールシリンダへの増圧終了時等に電磁弁への供給電流を急激に0にせずに軟着陸制御を行うブレーキ液圧制御装置も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平11−59403号公報
【特許文献2】特開2000−71973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のように閉弁時の弁子の当接速度を低減して衝撃等を緩和することは、制御弁の耐久性を向上させるという観点からは好ましい。しかし、弁子の当接速度を低減させれば、閉弁動作の開始から完了までの間の制御弁における作動液の流通量を増加させることになる。閉弁動作時の作動液の流通量の増加は、制御液圧の応答遅れを生じさせ得る。
【0004】
そこで、本発明は、制御弁の耐久性向上と制御液圧の応答性とを両立させることができる液圧制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の液圧制御装置は、液圧制御対象における制御液圧を制御するための第1の制御弁と、液圧制御対象における制御液圧を制御するための第2の制御弁と、開度を漸減させて第1の制御弁を閉弁するとともに、第1の制御弁の閉弁動作の開始から完了までに生じ得る制御液圧の目標液圧からの乖離を軽減するよう第2の制御弁を開閉する制御部と、を備える。
【0006】
この態様によれば、第1の制御弁は閉弁時に開度が漸減されるので、第1の制御弁の閉弁時の衝撃や作動音を低減させることができる。このため、第1の制御弁の耐久性能を向上させることが可能となる。また、第1の制御弁の閉弁動作の開始から完了までに生じ得る制御液圧の目標液圧からの乖離を軽減するように第2の制御弁が開閉されるので、第1の制御弁の開度を漸減させることによる制御液圧の応答性の低下を抑えることができる。よって、第1の制御弁の耐久性向上と制御液圧の応答性とを両立させることが可能となる。
【0007】
第1及び第2の制御弁の一方は、液圧制御対象への作動液の供給系路上に設けられ、液圧制御対象への作動液の流入を制御することにより液圧制御対象の制御液圧を制御する増圧制御弁であり、第1及び第2の制御弁の他方は、液圧制御対象からの作動液の排出経路上に設けられ、液圧制御対象からの作動液の流出を制御することにより液圧制御対象の制御液圧を制御する減圧制御弁であり、制御部は、増圧制御弁による液圧制御対象への作動液の流入と減圧制御弁による液圧制御対象からの作動液の流出とを均衡させるよう増圧制御弁及び減圧制御弁の開度を制御してもよい。
【0008】
この態様によれば、第1及び第2の制御弁の一方は液圧制御対象への作動液の供給を制御する増圧制御弁とされ、他方は液圧制御対象からの作動液の排出を制御する減圧制御弁とされる。制御部は、増圧制御弁による液圧制御対象への作動液の流入と減圧制御弁による液圧制御対象からの作動液の流出とを均衡させるよう増圧制御弁及び減圧制御弁の開度を制御する。これにより、耐久性向上の観点から仮に例えば増圧制御弁の開度を漸減させたとしても、増圧制御弁による作動液の流入に均衡する作動液の流出が生じるよう減圧制御弁の開度が制御され、液圧制御対象の制御液圧が均一に保持される。よって例えば制御液圧が目標液圧に達したときに制御部がこのような制御を開始すれば、制御液圧を目標液圧に保持することが可能となり、制御液圧の応答遅れを抑制することができる。
【0009】
また、制御部は、第1の制御弁の閉弁動作の開始とともに第2の制御弁を開弁し、第1の制御弁の開度を漸減させるにつれて第2の制御弁の開度も漸減させてもよい。この態様によれば、第1の制御弁の閉弁動作の開始とともに第2の制御弁が開弁され、第1の制御弁の開度の漸減につれて第2の制御弁の開度が漸減される。よって、第1の制御弁のみならず、第2の制御弁の閉弁時の衝撃や作動音も低減させて第1及び第2の制御弁双方の耐久性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、制御弁の耐久性向上と制御液圧の応答性とを両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置20を示す系統図である。同図に示されるブレーキ制御装置20は、車両用の電子制御式ブレーキシステム(ECB)を構成しており、車両に設けられた4つの車輪に付与される制動力を制御する。本実施形態に係るブレーキ制御装置20は、例えば、走行駆動源として電動モータと内燃機関とを備えるハイブリッド車両に搭載される。このようなハイブリッド車両においては、車両の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって車両を制動する回生制動と、ブレーキ制御装置20による液圧制動とのそれぞれを車両の制動に用いることができる。本実施形態における車両は、これらの回生制動と液圧制動とを併用して所望の制動力を発生させるブレーキ回生協調制御を実行することができる。
【0013】
ブレーキ制御装置20は、図1に示されるように、車輪(図示せず)ごとに設けられた制動力付与機構としてのディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLと、マスタシリンダユニット10と、動力液圧源30と、液圧アクチュエータ40とを含む。
【0014】
ディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。マニュアル液圧源としてのマスタシリンダユニット10は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル24の運転者による操作量に応じて加圧されたブレーキフルードをディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出する。動力液圧源30は、動力の供給により加圧された作動流体としてのブレーキフルードを、運転者によるブレーキペダル24の操作から独立してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出することが可能である。液圧アクチュエータ40は、動力液圧源30またはマスタシリンダユニット10から供給されたブレーキフルードの液圧を適宜調整してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに送出する。これにより、液圧制動による各車輪に対する制動力が調整される。
【0015】
ディスクブレーキユニット21FR〜21RL、マスタシリンダユニット10、動力液圧源30、および液圧アクチュエータ40のそれぞれについて以下で更に詳しく説明する。各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ23FR〜23RLを含む。そして、各ホイールシリンダ23FR〜23RLは、それぞれ異なる流体通路を介して液圧アクチュエータ40に接続されている。なお以下では適宜、ホイールシリンダ23FR〜23RLを総称して「ホイールシリンダ23」という。ホイールシリンダ23は、本実施形態における液圧制御対象に相当する。
【0016】
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLにおいては、ホイールシリンダ23に液圧アクチュエータ40からブレーキフルードが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。なお、本実施形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、例えばドラムブレーキ等のホイールシリンダ23を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。
【0017】
マスタシリンダユニット10は、本実施形態では液圧ブースタ付きマスタシリンダであり、液圧ブースタ31、マスタシリンダ32、レギュレータ33、およびリザーバ34を含む。液圧ブースタ31は、ブレーキペダル24に連結されており、ブレーキペダル24に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ32に伝達する。動力液圧源30からレギュレータ33を介して液圧ブースタ31にブレーキフルードが供給されることにより、ペダル踏力は増幅される。そして、マスタシリンダ32は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。
【0018】
マスタシリンダ32とレギュレータ33との上部には、ブレーキフルードを貯留するリザーバ34が配置されている。マスタシリンダ32は、ブレーキペダル24の踏み込みが解除されているときにリザーバ34と連通する。一方、レギュレータ33は、リザーバ34と動力液圧源30のアキュムレータ35との双方と連通しており、リザーバ34を低圧源とすると共に、アキュムレータ35を高圧源とし、マスタシリンダ圧とほぼ等しい液圧を発生する。レギュレータ33における液圧を以下では適宜、「レギュレータ圧」という。
【0019】
動力液圧源30は、アキュムレータ35およびポンプ36を含む。アキュムレータ35は、ポンプ36により昇圧されたブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギ、例えば14〜22MPa程度に変換して蓄えるものである。ポンプ36は、駆動源としてモータ36aを有し、その吸込口がリザーバ34に接続される一方、その吐出口がアキュムレータ35に接続される。また、アキュムレータ35は、マスタシリンダユニット10に設けられたリリーフバルブ35aにも接続されている。アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ35aが開弁し、高圧のブレーキフルードはリザーバ34へと戻される。
【0020】
上述のように、ブレーキ制御装置20は、ホイールシリンダ23に対するブレーキフルードの供給源として、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35を有している。そして、マスタシリンダ32にはマスタ配管37が、レギュレータ33にはレギュレータ配管38が、アキュムレータ35にはアキュムレータ配管39が接続されている。これらのマスタ配管37、レギュレータ配管38およびアキュムレータ配管39は、それぞれ液圧アクチュエータ40に接続される。つまり、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35のそれぞれは、液圧源として液圧アクチュエータ40に並列に接続されている。
【0021】
液圧アクチュエータ40は、複数の流路が形成されるアクチュエータブロックと、複数の電磁制御弁を含む。アクチュエータブロックに形成された流路には、個別流路41、42,43および44と、主流路45とが含まれる。個別流路41〜44は、それぞれ主流路45から分岐されて、対応するディスクブレーキユニット21FR、21FL,21RR,21RLのホイールシリンダ23FR、23FL,23RR,23RLに接続されている。これにより、各ホイールシリンダ23は主流路45と連通可能となる。
【0022】
また、個別流路41,42,43および44の中途には、ABS保持弁51,52,53および54が設けられている。各ABS保持弁51〜54は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされた各ABS保持弁51〜54は、ブレーキフルードを双方向に流通させることができる。つまり、主流路45からホイールシリンダ23へとブレーキフルードを流すことができるとともに、逆にホイールシリンダ23から主流路45へもブレーキフルードを流すことができる。ソレノイドに通電されて各ABS保持弁51〜54が閉弁されると、個別流路41〜44におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0023】
更に、ホイールシリンダ23は、個別流路41〜44にそれぞれ接続された減圧用流路46,47,48および49を介してリザーバ流路55に接続されている。減圧用流路46,47,48および49の中途には、ABS減圧弁56,57,58および59が設けられている。各ABS減圧弁56〜59は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。各ABS減圧弁56〜59が閉状態であるときには、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて各ABS減圧弁56〜59が開弁されると、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通が許容され、ブレーキフルードがホイールシリンダ23から減圧用流路46〜49およびリザーバ流路55を介してリザーバ34へと還流する。なお、リザーバ流路55は、リザーバ配管77を介してマスタシリンダユニット10のリザーバ34に接続されている。
【0024】
主流路45は、中途に分離弁60を有する。この分離弁60により、主流路45は、個別流路41および42と接続される第1流路45aと、個別流路43および44と接続される第2流路45bとに区分けされている。第1流路45aは、個別流路41および42を介して前輪側のホイールシリンダ23FRおよび23FLに接続され、第2流路45bは、個別流路43および44を介して後輪側のホイールシリンダ23RRおよび23RLに接続される。
【0025】
分離弁60は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。分離弁60が閉状態であるときには、主流路45におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて分離弁60が開弁されると、第1流路45aと第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
【0026】
また、液圧アクチュエータ40においては、主流路45に連通するマスタ流路61およびレギュレータ流路62が形成されている。より詳細には、マスタ流路61は、主流路45の第1流路45aに接続されており、レギュレータ流路62は、主流路45の第2流路45bに接続されている。また、マスタ流路61は、マスタシリンダ32と連通するマスタ配管37に接続される。レギュレータ流路62は、レギュレータ33と連通するレギュレータ配管38に接続される。
【0027】
マスタ流路61は、中途にマスタカット弁64を有する。マスタカット弁64は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたマスタカット弁64は、マスタシリンダ32と主流路45の第1流路45aとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてマスタカット弁64が閉弁されると、マスタ流路61におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0028】
また、マスタ流路61には、マスタカット弁64よりも上流側において、シミュレータカット弁68を介してストロークシミュレータ69が接続されている。すなわち、シミュレータカット弁68は、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69とを接続する流路に設けられている。シミュレータカット弁68は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。シミュレータカット弁68が閉状態であるときには、マスタ流路61とストロークシミュレータ69との間のブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されてシミュレータカット弁68が開弁されると、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69との間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
【0029】
ストロークシミュレータ69は、複数のピストンやスプリングを含むものであり、シミュレータカット弁68の開放時に運転者によるブレーキペダル24の踏力に応じた反力を創出する。ストロークシミュレータ69としては、運転者によるブレーキ操作のフィーリングを向上させるために、多段のバネ特性を有するものが採用されると好ましい。
【0030】
レギュレータ流路62は、中途にレギュレータカット弁65を有する。レギュレータカット弁65も、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたレギュレータカット弁65は、レギュレータ33と主流路45の第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてレギュレータカット弁65が閉弁されると、レギュレータ流路62におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0031】
液圧アクチュエータ40には、マスタ流路61およびレギュレータ流路62に加えて、アキュムレータ流路63も形成されている。アキュムレータ流路63の一端は、主流路45の第2流路45bに接続され、他端は、アキュムレータ35と連通するアキュムレータ配管39に接続される。
【0032】
アキュムレータ流路63は、中途に増圧リニア制御弁66を有する。また、アキュムレータ流路63および主流路45の第2流路45bは、減圧リニア制御弁67を介してリザーバ流路55に接続されている。すなわち、増圧リニア制御弁66は、本実施形態における液圧制御対象であるホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられており、減圧リニア制御弁67は、ホイールシリンダ23からのブレーキフルードの排出経路上に設けられている。増圧リニア制御弁66はホイールシリンダ23へのブレーキフルードの流入を制御することによりホイールシリンダ圧を制御し、減圧リニア制御弁67はホイールシリンダ23からのブレーキフルードの流出を制御することによりホイールシリンダ圧を制御する。
【0033】
増圧リニア制御弁66は、各車輪に対応して複数設けられた各ホイールシリンダ23に対して共通の増圧用制御弁として設けられている。また、減圧リニア制御弁67も同様に、各ホイールシリンダ23に対して共通の減圧用制御弁として設けられている。つまり、本実施形態においては、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、動力液圧源30から送出される作動流体を各ホイールシリンダ23へ給排制御する1対の共通の制御弁として設けられている。このように増圧リニア制御弁66等を各ホイールシリンダ23に対して共通化すれば、ホイールシリンダ23ごとにリニア制御弁を設けるのと比べて、コストの観点からは好ましい。
【0034】
図2は、本実施形態に係る増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67の断面を模式的に示す断面図である。常閉型の電磁流量制御弁である増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67は、図2に示されるように、弁座130と、弁子132と、スプリング136と、ソレノイド139と、可動部材134と、固定部材135とを含んで構成される。弁子132は、弁座130に対して接近・離間可能に設けられ、スプリング136は、弁子132を弁座130に接近させ着座させる方向に付勢する。ソレノイド139は、電流が供給されると、可動部材134を固定部材135から離間させる方向、すなわち、弁子132を弁座130から離間させる方向に電磁駆動力を作用させる。ソレノイド139に電流が供給されていない状態においてはスプリング136の付勢力により弁子132が弁座130に着座して電磁弁は閉状態とされている。つまり常態においては弁子132は弁座130に付勢力により当接されている。
【0035】
また、前後の差圧に応じた差圧作用力が弁子132を弁座130から離間させる方向に作用する。増圧リニア制御弁66の出入口間の差圧は、アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力と主流路45におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応し、減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧は、主流路45におけるブレーキフルードの圧力とリザーバ34におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応する。
【0036】
また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力に応じた電磁駆動力をF1とし、スプリングの付勢力をF2とし、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧に応じた差圧作用力をF3とすると、F1+F3=F2という関係が成立する。この力の関係に基づいて弁子132の弁座130に対する相対位置が決まる。したがって、ソレノイド139に電流を供給し電磁駆動力F1を制御することにより弁子132が駆動されて各電磁制御弁の開度が制御され、ホイールシリンダ23に作用する液圧を制御することができる。
【0037】
図1に戻る。ブレーキ制御装置20において、動力液圧源30および液圧アクチュエータ40は、本実施形態における制御部としてのブレーキECU70により制御される。ブレーキECU70は、CPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。そして、ブレーキECU70は、上位のハイブリッドECU(図示せず)などと通信可能であり、ハイブリッドECUからの制御信号や、各種センサからの信号に基づいて動力液圧源30のポンプ36や、液圧アクチュエータ40を構成する電磁制御弁51〜54,56〜59,60,64〜68を制御して、ブレーキ回生協調制御を実行可能である。
【0038】
また、ブレーキECU70には、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73が接続される。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータカット弁65の上流側でレギュレータ流路62内のブレーキフルードの圧力、すなわちレギュレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。アキュムレータ圧センサ72は、増圧リニア制御弁66の上流側でアキュムレータ流路63内のブレーキフルードの圧力、すなわちアキュムレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。制御圧センサ73は、主流路45の第1流路45a内のブレーキフルードの圧力を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。各圧力センサ71〜73の検出値は、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。なお、本実施形態においては、各圧力センサ71〜73は自己診断機能を有しており、センサ内部での異常の有無をセンサごとに検出し、ブレーキECU70に異常の有無を示す信号を送信することができる。
【0039】
分離弁60が開状態とされて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通している場合、制御圧センサ73の出力値は、増圧リニア制御弁66の低圧側の液圧を示すと共に減圧リニア制御弁67の高圧側の液圧を示すので、この出力値を増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の制御に利用することができる。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67が閉鎖されていると共に、マスタカット弁64が開状態とされている場合、制御圧センサ73の出力値は、マスタシリンダ圧を示す。更に、分離弁60が開放されて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通しており、各ABS保持弁51〜54が開放される一方、各ABS減圧弁56〜59が閉鎖されている場合、制御圧センサの73の出力値は、各ホイールシリンダ23に作用する作動流体圧、すなわちホイールシリンダ圧を示す。
【0040】
さらに、ブレーキECU70に接続されるセンサには、ブレーキペダル24に設けられたストロークセンサ25も含まれる。ストロークセンサ25は、ブレーキペダル24の操作量としてのペダルストロークを検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。ストロークセンサ25の出力値も、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。なお、ストロークセンサ25以外のブレーキ操作状態検出手段をストロークセンサ25に加えて、あるいは、ストロークセンサ25に代えて設け、ブレーキECU70に接続してもよい。ブレーキ操作状態検出手段としては、例えば、ブレーキペダル24の操作力を検出するペダル踏力センサや、ブレーキペダル24が踏み込まれたことを検出するブレーキスイッチなどがある。
【0041】
上述のように構成されたブレーキ制御装置20は、ブレーキ回生協調制御を実行することができる。ブレーキ制御装置20は制動要求を受けて制動を開始する。制動要求は、車両に制動力を付与すべきときに生起される。制動要求は例えば、運転者がブレーキペダル24を操作した場合や、走行中に他の車両との距離を自動制御している際に当該他の車両との距離が所定の距離よりも狭まった場合などに生起される。
【0042】
制動要求を受けて、ブレーキECU70は、要求総制動力から回生による制動力を減じることにより、ブレーキ制御装置20により発生させるべき制動力である要求液圧制動力を算出する。ここで、回生による制動力は、ハイブリッドECUからブレーキ制御装置20に供給される。そして、ブレーキECU70は、算出した要求液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ23FR〜23RLの目標液圧を算出する。ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧が目標液圧となるように、フィードバック制御則により増圧リニア制御弁66や減圧リニア制御弁67に対する供給電流の値を決定する。
【0043】
その結果、ブレーキ制御装置20においては、動力液圧源30から増圧リニア制御弁66を介してブレーキフルードが各ホイールシリンダ23に供給されて車輪に制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ23からブレーキフルードが減圧リニア制御弁67を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が調整される。なお、このとき、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65を閉状態とし、レギュレータ33から送出されるブレーキフルードが主流路45へ供給されないようにする。更にブレーキECU70は、マスタカット弁64を閉状態とするとともにシミュレータカット弁68を開状態とする。これは、運転者によるブレーキペダル24の操作に伴ってマスタシリンダ32から送出されるブレーキフルードがストロークシミュレータ69へと供給されるようにするためである。
【0044】
また、ブレーキ制御装置20は、各車輪の路面に対する滑りを抑制するための、いわゆるABS(Anti−lock Brake System)制御、VSC(Vehicle Stability Control)制御、及びTRC(Traction Control)制御を実行することができる。ABS制御は、急ブレーキ時や滑りやすい路面でブレーキをかけたときに起こるタイヤのロックを抑制するための制御である。VSC制御は、車両の旋回時における車輪の横滑りを抑制するための制御である。TRC制御は、車両の発進時や加速時に駆動輪の空転を抑制するための制御である。これらのABS制御等が行われる場合にはブレーキ回生協調制御は実行されずに、要求制動力はブレーキ制御装置20が発生させる液圧制動力でまかなわれる。なお、これらの車輪の滑りを抑制するための制御を総称して、以下では適宜「ABS制御等」と称する。
【0045】
ブレーキECU70は、ABS制御等を実行するために必要な演算等を行う。ブレーキECU70は、車両減速度やスリップ率等に基づいて公知の手法により算出された所定のデューティ比でABS保持弁51〜54、ABS減圧弁56〜59を開閉する。ABS保持弁51〜54を開状態とすることにより、ABS保持弁51〜54の上流に設けられた共通の制御弁である増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67により調圧されたブレーキフルードが各ホイールシリンダ23に供給される。また、ABS減圧弁56〜59を開状態とすることにより、各ホイールシリンダ23のブレーキフルードがリザーバ34へと排出される。これにより、各ホイールシリンダ23にブレーキフルードが給排され、車輪の滑りが抑制されるように各車輪に付与される制動力が制御される。
【0046】
すなわち、ABS保持弁51〜54は、本実施形態における液圧制御対象であるホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられており、ABS減圧弁56〜59は、ホイールシリンダ23からのブレーキフルードの排出経路上に設けられている。ABS制御等の実行中においては、ABS保持弁51〜54はホイールシリンダ23へのブレーキフルードの流入を制御することによりホイールシリンダ圧を制御し、ABS減圧弁56〜59はホイールシリンダ23からのブレーキフルードの流出を制御することによりホイールシリンダ圧を制御する。
【0047】
ところで、液圧制御対象であるホイールシリンダ23における制御液圧が所定の目標液圧に到達すると、増圧リニア制御弁66等の制御弁は閉弁される。そして、ブレーキECU70が目標液圧を変更するまでホイールシリンダ圧は保持される。図3は、制御弁を閉弁する際の従来の典型的な制御の一例を示すための図である。図3には、増圧リニア制御弁66を制御して所定の目標液圧Pまでホイールシリンダ圧を増圧する場合が一例として示されている。図3の上部はホイールシリンダ圧の変動を示し、図3の下部は増圧リニア制御弁66への供給電流を示す。
【0048】
ブレーキ回生協調制御の実行中にホイールシリンダ圧を増圧する際には、例えば図3に示されるように、ブレーキECU70により増圧リニア制御弁66が時刻tに開弁され制御状態となる。迅速に増圧するため増圧リニア制御弁66には例えば最大の制御電流が供給される。その結果、動力液圧源30から増圧リニア制御弁66を介してブレーキフルードがホイールシリンダ23へと流入し、ブレーキECU70により設定されている所定の目標液圧Pに向けてホイールシリンダ圧は増圧される。そして時刻tにホイールシリンダ圧が目標液圧Pに達するとブレーキECU70により増圧リニア制御弁66は閉弁され、ホイールシリンダ圧は目標液圧Pで保持される。
【0049】
このような従来の典型的な制御方法では、制御弁を閉弁する場合に制御弁への供給電流を急激に零まで低下させて速やかに閉弁するようにしていた。この方法は制御液圧の応答性を確保するという観点からは有効である。ところが、制御弁への供給電流を急激に低下させれば、制御弁の弁子に作用していた電磁駆動力が急激に低下することとなってしまう。そうすると、弁子に作用するスプリングによる付勢力により弁子が弁座に向けて付勢されて当接速度が増加することとなる。よって、弁子が弁座に当接するときに衝撃や作動音が発生し、制御弁の耐久性能に影響が生じるおそれがある。
【0050】
一方、上述の典型的な制御方法とは逆に制御弁の閉弁時の衝撃等を緩和すべく、閉弁時に供給電流を漸減させて弁子の弁座への当接速度を低減させるという制御方法も採用される場合がある。このような制御方法を以下では「軟着陸制御」と称する。図4は、軟着陸制御の一例を示すための図である。図4には、増圧リニア制御弁66に対する軟着陸制御が一例として示されている。図4の上部はホイールシリンダ圧の変動を示し、図4の下部は増圧リニア制御弁66への供給電流を示す。
【0051】
図4では、図3と同様に増圧リニア制御弁66が時刻tに開弁されホイールシリンダ圧が目標液圧Pに向けて上昇していく。ところが、目標液圧Pに所定程度近づいたときにブレーキECU70は増圧リニア制御弁66の閉弁動作を開始する(時刻t)。そして増圧リニア制御弁66に供給される制御電流は漸減され、時刻tにおいて供給電流は零となり増圧リニア制御弁66は完全に閉弁される。制御液圧は時刻tには目標液圧Pに達するものとする。
【0052】
このようにすれば、供給電流が緩やかに小さくされて弁子の弁座への当接速度が低減され、閉弁時の衝撃や作動音が緩和される。よって、制御弁の耐久性向上に寄与するという点では好ましい。しかし、時刻tからtにかけて制御弁の閉弁動作が上述の典型的な制御方法よりは緩やかに行われるために、ホイールシリンダ23の制御液圧に応答遅れが生じてしまうおそれがある。これは、閉弁動作の開始から完了までにある程度のブレーキフルードの流通が許容されるからである。
【0053】
そこで、本実施形態においては、2つの制御弁を協調させて制御することにより、制御弁の耐久性向上と制御液圧の応答性とを両立させる。ブレーキECU70は、液圧制御対象の制御液圧が目標液圧に達した場合に、当該一方の制御弁の開度を漸減させて閉弁するとともに、一方の制御弁の閉弁動作の開始から完了までに生じ得る制御液圧の目標液圧からの乖離を軽減するよう他方の制御弁を開閉する。なお、本実施形態では、制御液圧が目標液圧に達するまでの通常の制御状態においては、2つの制御弁のいずれか一方が制御状態とされ他方は閉状態とされ、2つの制御弁は排他的に開閉する。
【0054】
図5は、本実施形態における制御方法を説明するための図である。図5には、増圧リニア制御弁66の閉弁時に増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67の2つの制御弁を協調させて制御する場合が一例として示されている。図5の上部はホイールシリンダ圧の変動を示し、図5の下部は増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67への供給電流を示す。
【0055】
図5では、図3及び図4と同様に増圧リニア制御弁66が時刻tに開弁されホイールシリンダ圧が目標液圧Pに向けて上昇していく。増圧リニア制御弁66による増圧中は、減圧リニア制御弁67は閉状態とされている。次いでブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧が目標液圧Pに達したか否かを判定する。この判定は、例えば制御圧センサ73の測定値に基づいて行われる。そして、例えば時刻tにホイールシリンダ圧が目標液圧Pに達すると、ブレーキECU70は、増圧リニア制御弁66に対して軟着陸制御を開始する。ブレーキECU70は、増圧リニア制御弁66への制御電流の供給を時刻t以降緩やかに弱めていくことにより増圧リニア制御弁66の開度を漸減させ、例えば時刻tに制御電流の供給を停止する。これにより、増圧リニア制御弁66は完全に閉弁される。
【0056】
増圧リニア制御弁66に対して軟着陸制御を行うとともにブレーキECU70は、時刻tから時刻tにかけて減圧リニア制御弁67を開閉する。ここで、ブレーキECU70は、軟着陸制御の間の増圧リニア制御弁66を介するホイールシリンダ23へのブレーキフルードの流入と、減圧リニア制御弁67を介するホイールシリンダ23からのブレーキフルードの流出とを均衡させるように減圧リニア制御弁67の開度を制御する。
【0057】
図6は、本実施形態における増圧リニア制御弁66への制御電流の一例を示す図である。図6において縦軸は増圧リニア制御弁66への供給電流を示し、横軸は時間を示す。図6に示されるように、ブレーキECU70は、時刻tから時刻tにかけて増圧リニア制御弁66への制御電流の供給を階段状に弱くすることにより増圧リニア制御弁66の開度を漸減させて軟着陸制御を行う。ホイールシリンダ圧が目標液圧に達した時刻である時刻tにおける増圧リニア制御弁66への供給電流が例えばIaであったとする。この場合にブレーキECU70は、例えば時刻tから次の制御タイミングとなる時刻t+Δtまでの間は供給電流を例えば1/ka倍とし、Ia/kaの制御電流を増圧リニア制御弁66に供給する。ただし、ここで係数kaは、ka>1を満たすものとする。
【0058】
そして、時刻t+Δtから更に次の制御タイミングとなる時刻t+2Δtまでの間は例えば供給電流を更に1/ka倍とし、Ia/(ka^2)の制御電流を増圧リニア制御弁66に供給する。このようにしてブレーキECU70は、Δtだけ時間が経過するごとに増圧リニア制御弁66への供給電流を1/ka倍とし、徐々に増圧リニア制御弁66への供給電流を小さくする。本実施形態においては例えばkaをka=2と設定することが可能であり、この場合制御タイミングのΔtごとに制御電流は半減することとなる。
【0059】
ブレーキECU70はこのような供給電流の低減をn回実行し、時刻t+nΔtが経過するときに制御電流を零として増圧リニア制御弁66の閉弁を完了する。すなわち時刻t+nΔtは、図5に示される時刻tに相当する。本実施形態においては、制御電流を停止する直前の供給電流を例えばn=8、すなわち増圧リニア制御弁66への供給電流の低減を8回実行するように設定することができる。この繰り返し数nを大きくすれば閉弁時の衝撃を緩和するという観点からは有効であるが、閉弁動作を完了させるまでに必要な時間が長くなってしまう。よって、繰り返し数n及び上述の係数kaは、要求される耐久性能に応じて適宜例えば実験等により適宜設定されることが望ましい。
【0060】
なお、本実施形態においては、増圧リニア制御弁66の軟着陸制御に際して供給電流を階段状に係数kaにより低減させて開度を漸減させるようにしているが、必ずしもこれに限られない。ブレーキECU70は、制御タイミングΔtごとに異なる係数により制御電流を変動させてもよい。あるいは、ブレーキECU70は、制御液圧が目標液圧に達してから階段状ではなく連続的に緩やかに増圧リニア制御弁66に対する制御電流を低減させてもよい。制御電流を瞬時に停止する場合に比較して閉弁時の衝撃を緩和する態様であれば、いかなる態様をも軟着陸制御として採用することが可能である。
【0061】
一方、図7は、本実施形態における減圧リニア制御弁67への制御電流の一例を示す図である。図7において縦軸は減圧リニア制御弁67への供給電流を示し、横軸は時間を示す。図7に示されるように、ブレーキECU70は、増圧リニア制御弁66の軟着陸制御が開始される時刻tに減圧リニア制御弁67に制御電流Irを供給して減圧リニア制御弁67を開弁する。そして、時刻tにかけてブレーキECU70は減圧リニア制御弁67への制御電流の供給を階段状に弱くすることにより減圧リニア制御弁67の開度を漸減させていく。
【0062】
具体的には、時刻tから次の制御タイミングとなる時刻t+Δtまでの間はブレーキECU70は制御電流Irを供給する。ここで制御電流Irは、時刻tから時刻t+Δtまでの間に増圧リニア制御弁66からホイールシリンダ23へと流入するブレーキフルードが減圧リニア制御弁67から排出されてホイールシリンダ圧の目標液圧からの乖離が抑えられるように設定される。
【0063】
そして時刻t+Δtから更に次の制御タイミングとなる時刻t+2Δtまでの間は、ブレーキECU70は例えば供給電流を1/kr倍とし、Ir/krの制御電流を減圧リニア制御弁67に供給する。ただし、ここで係数krは、kr>1を満たすものとする。このときも、係数krは、時刻t+Δtから時刻t+2Δtまでの間に増圧リニア制御弁66からホイールシリンダ23へと流入するブレーキフルードが減圧リニア制御弁67から排出されてホイールシリンダ圧の目標液圧からの乖離が抑えられるように設定される。
【0064】
その後も同様にブレーキECU70は、増圧リニア制御弁66を介したブレーキフルードの流入量と減圧リニア制御弁67を介したブレーキフルードの流出量とが均衡するように、Δtだけ時間が経過するごとに減圧リニア制御弁67への供給電流を小さくしていく。増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67のそれぞれにおける供給電流と作動液流量との関係が同等である場合には、減圧リニア制御弁67の供給電流の変動を増圧リニア制御弁66の軟着陸制御による電流の変動と同様とすれば、増圧リニア制御弁66を介したブレーキフルードの流入量と減圧リニア制御弁67を介したブレーキフルードの流出量とを均衡させることが可能である。そうして、ブレーキECU70は、増圧リニア制御弁66への制御電流の供給が停止される時刻tが経過するときに減圧リニア制御弁67への制御電流を零として減圧リニア制御弁67の閉弁を完了する。その結果、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67の双方が閉弁され、ホイールシリンダ圧が所定の目標液圧で保持される。
【0065】
以上のように、本実施形態によれば、ブレーキECU70は、制御液圧が目標液圧に達したときに増圧リニア制御弁66への制御電流の供給を緩やかに低減させることにより開度を漸減させて閉弁するとともに、閉弁動作の開始から完了までの間に減圧リニア制御弁67を協調させて開閉する。このとき、ブレーキECU70は、増圧リニア制御弁66によるホイールシリンダ23への作動液の流入と減圧リニア制御弁67によるホイールシリンダ23からの作動液の流出とを均衡させるよう減圧リニア制御弁67への供給電流を制御することにより開度を制御する。
【0066】
これにより、増圧リニア制御弁66は、閉弁時に開度が漸減されるので、閉弁時の衝撃や作動音を低減させることができる。このため、増圧リニア制御弁66の耐久性能を向上させることが可能となる。また、増圧リニア制御弁66の閉弁動作の開始から完了までの間に、作動液の流通を均衡させるよう減圧リニア制御弁67が協調して開閉される。よって、増圧リニア制御弁66の閉弁動作の開始から完了までに生じ得る制御液圧の目標液圧からの乖離を抑えることができる。したがって、増圧リニア制御弁66の耐久性向上と増圧時の制御液圧の応答性とを両立させることが可能となる。
【0067】
また、本実施形態においては、第1の制御弁としての増圧リニア制御弁66に対して軟着陸制御が実行され、かつ軟着陸制御実行中の作動液の流入にバランスするように第2の制御弁としての減圧リニア制御弁67が協調して開閉される。このため、減圧リニア制御弁67も増圧リニア制御弁66と同様に開度が漸減されて閉弁される。よって、第2の制御弁の閉弁時の衝撃や作動音が低減されることとなり、第2の制御弁の耐久性向上という観点から見て好ましい。
【0068】
なお、本実施形態では、制御液圧が目標液圧に達した時刻tから制御タイミングΔtごとにブレーキECU70は両方の制御弁への供給電流を同期させて低減しているが、これはあくまでも一例に過ぎない。制御液圧の目標液圧からの乖離を極力抑えるためには本実施形態が有効であろうが、必要に応じて増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67の双方の制御タイミングを異ならせることも可能である。また、制御液圧が目標液圧に達した時刻tから本実施形態の制御方法を必ずしも開始しなくともよく、制御液圧の応答性等を考慮して本処理の開始を適宜前後させてもよい。
【0069】
ところで、液圧制御対象の制御液圧を減圧させて目標液圧に到達させる場合も、上述の説明において増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67とを置き換えれば同様に実現することができる。つまり、制御液圧が目標液圧に達したときに減圧リニア制御弁67に対して軟着陸制御を実行するとともに、減圧リニア制御弁67の閉弁動作の開始から完了までの間の減圧リニア制御弁67からの作動液の流出と増圧リニア制御弁66からの作動液の流出とを均衡させるよう増圧リニア制御弁66を協調させて開閉すればよい。このようにすれば、減圧リニア制御弁67の耐久性向上と減圧時の制御液圧の応答性とを両立させることが可能となる。
【0070】
なお、本実施形態においては増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67に本発明を適用した態様を説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、ABS保持弁51〜54及びABS減圧弁56〜59に対しても同様に適用することができる。また、適用の対象はブレーキ制御装置に限られるものでもなく、他の液圧制御装置にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置を示す系統図である。
【図2】本実施形態に係る増圧リニア制御弁及び減圧リニア制御弁の断面を模式的に示す断面図である。
【図3】制御弁を閉弁する際の従来の典型的な制御の一例を示すための図である。
【図4】軟着陸制御の一例を示すための図である。
【図5】本実施形態における制御方法を説明するための図である。
【図6】本実施形態における増圧リニア制御弁への制御電流の一例を示す図である。
【図7】本実施形態における減圧リニア制御弁への制御電流の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
20 ブレーキ制御装置、 23 ホイールシリンダ、 66 増圧リニア制御弁、 67 減圧リニア制御弁、 70 ブレーキECU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液圧制御対象における制御液圧を制御するための第1の制御弁と、
前記液圧制御対象における制御液圧を制御するための第2の制御弁と、
開度を漸減させて前記第1の制御弁を閉弁するとともに、前記第1の制御弁の閉弁動作の開始から完了までに生じ得る制御液圧の目標液圧からの乖離を軽減するよう前記第2の制御弁を開閉する制御部と、
を備えることを特徴とする液圧制御装置。
【請求項2】
前記第1及び第2の制御弁の一方は、前記液圧制御対象への作動液の供給系路上に設けられ、前記液圧制御対象への作動液の流入を制御することにより前記液圧制御対象の制御液圧を制御する増圧制御弁であり、
前記第1及び第2の制御弁の他方は、前記液圧制御対象からの作動液の排出経路上に設けられ、前記液圧制御対象からの作動液の流出を制御することにより前記液圧制御対象の制御液圧を制御する減圧制御弁であり、
前記制御部は、前記増圧制御弁による前記液圧制御対象への作動液の流入と前記減圧制御弁による前記液圧制御対象からの作動液の流出とを均衡させるよう前記増圧制御弁及び前記減圧制御弁の開度を制御することを特徴とする請求項1に記載の液圧制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1の制御弁の閉弁動作の開始とともに前記第2の制御弁を開弁し、前記第1の制御弁の開度を漸減させるにつれて前記第2の制御弁の開度も漸減させることを特徴とする請求項1または2に記載の液圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−230418(P2007−230418A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55828(P2006−55828)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】