説明

液晶表示装置及びその製造方法並びに液晶プロジェクション装置

【課題】ギャップ制御性や配向安定性維持等の特性を損なうことなく、耐湿性が高く、焼き付き発生による表示劣化を抑制することが可能な液晶表示装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】一対の基板間11、12に挟持された液晶層17の外周に第1のシール部材15を配置し、第1のシール部材15の外周に一対の基板11、12に接して配置された第2のシール部材16を配置する。そして、第2のシール部材16は紫外線照射によって無機膜となるアルキルシロキサン化合物を原材料とする。また、アルキルシロキサン化合物は、ジアルキルシロキサン化合物又はジメチルシロキサン化合物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置及びその製造方法並びにその液晶表示装置を用いた液晶プロジェクション装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示パネルにおいてLCOS(Liquid Crystal on Silicon)と称される反射型液晶表示パネルを用いた投射型画像表示装置が普及している。この投射型画像表示装置は透過型液晶表示パネルを使用する投射型画像表示装置よりも滑らで高精細、且つ、色再現性の良い画像を表示できる。
【0003】
LCOSタイプの反射型液晶表示パネル等の液晶表示パネルは、パネル周辺部に形成された周辺シール及び封口シールで液晶部材を保持する構造が一般的である。また、周辺シール及び封口シールとしては樹脂シール接着剤が一般的である。
【0004】
この樹脂シール接着剤には液晶部材が液晶表示パネルから漏れ出させないという本来要求される特性の他に、多くの特性が要求される。即ち、対向する基板間のギャップ制御に影響しないこと、高温高湿環境下での液晶パネルの電気光学特性を維持すること、液晶配向を安定させること等である。しかしながら、液晶表示パネルの製造段階で使用される一般的な樹脂シール接着剤では、高温高湿環境下で水分浸入を防ぎきれていないのが実状である。そのため液晶パネルは高温高湿環境下での電気光学特性を維持に関して課題を有している。
【0005】
特にLCOSタイプの反射型液晶表示パネルでは対向する電極がITOの透明電極とメタルの画素電極であるため、2つの電極材料の仕事関数は同一ではない。このような電極構成を非対称な電極構成と呼ぶ。非対称電極構成の場合、液晶部材に微量の水分が混入すると液晶部材中に内包する正イオンと負イオンのバランスが崩れやすくなることは従来から知られている。
【0006】
液晶部材中のイオンバランスが崩れると画像焼き付きの原因となる。そのため、LCOSタイプの反射型液晶表示パネルでは、水分の侵入を防ぐことは画像焼き付きを未然に防止する上でも重要な課題となっている。
【0007】
液晶表示パネルへの水分浸入という課題を解消するため多くの手法が提案されている。例えば、特開昭60−026321号公報には液晶表示パネルの外周部に樹脂構造体を形成する手法が提案されている(特許文献1)。
【0008】
具体的には、シール部を二重構造とし、液晶層と接する第1のシールには透水性の低い樹脂(例;エポキシ系接着剤等)を用い、外側の第2のシールには可撓性を有する基板との密着性が強い樹脂(例;シリコン系接着剤等)を用いることが記載されている。或いは、液晶層と接する第1のシールには液晶と反応しにくい樹脂(例;シリコン系接着剤等)を用い、外側の第2のシールには透水性の低い樹脂(例;エポキシ系接着剤等)を用いることが記載されている。
【0009】
特開昭62−58221号公報には高温高湿環境下における表示素子の耐湿性を飛躍的に向上させる目的で有機金属化合物を原料とした金属酸化物を水分浸入路上に堆積させる技術が提案されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開昭60−026321号公報
【特許文献2】特開昭62−58221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の手法を用いた場合、樹脂構造体の透水性では充分な耐湿性が得られないため、高温高湿環境下においては延命的な効果にはなるが本質的解決には至らない。樹脂構造体により十分な耐湿性を得ようとすると、液晶表示パネル外周部に形成する樹脂構造部位は厚く嵩張ったものとなるため、液晶表示パネル自身が大きな構造体となる。特に、小型化が求められる投射型画像表示装置の場合には著しく不利な構成となる。
【0011】
また、特許文献2のように水分遮断性の高い耐湿性膜として機能する酸化シリコンや窒化シリコンの緻密な薄膜を利用し、耐湿性を飛躍的に向上させようとする試みもある。しかし、液晶表示パネルに堆積させた有機金属化合物から有機官能基を脱離させて無機物に転換させる過程で、周辺シール及び封口シールに用いる樹脂シール接着剤のガラス移転温度よりも高い温度がかかる。
【0012】
その際、高い温度により樹脂シール接着剤が溶融し、寸法が変化するため、所望のセルギャップを得られないばかりか、液晶部材のシール効果が十分に得られない。また、樹脂自身が熱分解により不純物を形成し、表示焼き付きによる表示劣化を引き起こす恐れが大きくなる。
【0013】
投射型画像表示装置、特に、反射型液晶表示パネルを使用する投射型画像表示装置では、液晶表示パネルのセルギャップムラは拡大投影系により強調されて良好な表示品位が得られない。また、液晶表示パネルに長時間に渡って強い光が照射される投射型画像表示装置では、イオン不純物を原因とする表示焼き付きによる表示品位劣化は直視型の液晶表示装置よりも重大な課題となる。
【0014】
本発明の目的は、ギャップ制御性や配向安定性維持等の特性を損なうことなく、耐湿性が高く、焼き付き発生による表示劣化を抑制することが可能な液晶表示装置及びその製造方法を提供することにある。また、良好な表示品位と高信頼性を実現可能な液晶プロジェクション装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の液晶表示装置は、一対の基板間に挟持された液晶層の外周に配置された第1のシール部材と、前記第1のシール部材の外周に前記一対の基板に接して配置された第2のシール部材とを有する液晶表示装置であって、前記第2のシール部材は紫外線照射によって無機膜となるアルキルシロキサン化合物を原材料とすることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の液晶表示装置の製造方法は、一対の基板間と前記一対の基板を接着する第1のシール部材によって形成された空間に液晶を注入して第1の構造物を準備する第1の工程と、前記第1のシール部材の外周に前記一対の基板に接して準備されたアルキルシロキサン化合物に紫外線照射処理を行って無機膜を有する第2の構造物を準備する第2の工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ギャップ制御性や配向安定性維持等の樹脂シール接着剤に要求される特性を損なうことなく、耐湿性が高く、しかも焼き付き発生による表示劣化を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、発明を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明に係るLCOSタイプの反射型液晶表示装置を示す模式断面図、図2はその模式平面図である。
【0019】
図中、11は透明電極を有するガラス基板等からなる透光性基板、12はスイッチ素子と反射電極を有する画素が2次元アレイ状に設けられた有効画素領域を有する単結晶半導体基板(単結晶シリコン基板等)である。有効画素領域は第1のシール部材15の内側に設けられている。透光性基板11と単結晶半導体基板12は一対の基板であり、この一対の基板間に液晶層17が挟持されている。
【0020】
13は透明電極、18は画素反射電極、14a,14bは配向膜(配向制御層)である。透光性基板11と単結晶半導体基板12からなる一対の基板には対向する表面にそれぞれ配向膜が形成されている。配向膜14a,14bは酸化ケイ素等の無機材料を斜方から蒸着して形成された斜方蒸着膜等である。
【0021】
15は第1のシール部材である樹脂シール層(周辺シール)、16は第1のシール部材15の外周に設けられた第2のシール部材であるアルキルシロキサン化合物を原材料とする無機膜である。第1のシール部材15は図1に示すように一対の基板間に挟持された液晶層17の外周に配置されている。
【0022】
第2のシール部材16は第1のシール部材15の外周に配置されている。第2のシール部材16は、紫外線照射によって無機膜となるアルキルシロキサン化合物を原材料とするものである。
【0023】
この無機膜は透光性基板11及び単結晶半導体基板12の少なくとも一方の基板と、若しくは一対の基板11、12の対向する表面に設けられた配向膜14a,14bの少なくとも一方と接して配置する。(透光性基板11及び配向膜14aの少なくとも一方と、単結晶半導体基板12及び配向膜14bの少なくとも一方と接して配置する)。好ましくは配向膜14a,14bと接して配置するのが良い。
【0024】
なお、図2に示す19は封止部材である。封止部材19は液晶層17を注入するために第1のシール部材15に開口された注入領域を封止するための部材である。20はダミー電極を示す。
【0025】
アルキルシロキサン化合物にはジアルキルシロキサン化合物、ジメチルシロキサン化合物等のシリコーン物質が挙げられる。即ち、第1のシール部材15のガラス転移点以下の温度でアルキルシロキサン構造を有するものである(例えば、ジメチルシリコーンオイル、ジメチルシリコーンガス等)。アルキルシロキサン化合物は上述のように紫外線照射により酸化ケイ素になるものである。
【0026】
ここで、配向膜として酸化ケイ素を用いた場合には、第2のシール部材16と同じ材料であるため、密着力が向上し、耐湿性を更に向上することが可能となる。特に、斜方蒸着膜は針状の酸化ケイ素間を埋めるように形成されるため、格別に密着力が向上し、耐湿性が更に向上するため望ましい。なお、その場合においては、一対の基板11、12のうち少なくとも一方の基板の配向膜は無機膜16と接して設け、配向膜と無機膜は同じ材料とするのが良い。
【0027】
透光性基板11には液晶用ガラス基板や石英基板等の可視光線を透過する基板が用いられる。透光性基板11の単結晶半導体基板12に対向する面には、SnOやITO(インジウム・チン・オキサイド)等の透明導電材からなる透明電極13が形成されている。
【0028】
透光性基板11に形成する透明電極13は酸化シリコン薄膜や酸化アルミニウム薄膜等との組み合わせで液晶部材との界面に対して反射防止構成になっていても良い。また、透光性基板11の透明電極13と反対側の平面に無機誘電体多層膜等による反射防止膜を形成しても良い。
【0029】
単結晶半導体基板12には画素反射電極(光反射特性を有する画素電極)18が形成されている。画素反射電極18の反射面にはアルミニウムや銀及びその合金等により構成されている。反射面にはアルミニウムを使用するが、反射層に使用する材料は特に限定されるものではない。また、透光性基板11、単結晶半導体基板12はともに厚さは特に規定されるものではない。
【0030】
透光性基板11、単結晶半導体基板12と液晶部材17との界面には上述のように配向膜14a,14bがそれぞれ形成されている。配向膜14a,14bには、酸化ケイ素等の無機誘電体の斜方蒸着膜やラビング処理の施されたポリイミド膜が好ましく用いられる。配向膜は特に規定されるものではない。本実施形態においては、配向膜14a,14bによって付与された配向性(配向方向)は透光性基板11と単結晶半導体基板12で反平行状態になるように設定されている。
【0031】
透光性基板11と単結晶半導体基板12との間の距離(セルギャップ)dは、n形ネマチック液晶の屈折率異方性Δnと両基板間の距離dの積、Δn・dの値により最適化される。そして、第1のシール部材である樹脂シール層15により距離dが所望の値となるように貼り合わせて液晶を挟持して液晶セルが構成されている。一対の基板11、12間の距離dは1.5〜5.0μm程度が好ましく、本実施形態及び後述する比較例では3.0μmに設定されている。
【0032】
所望のセルギャップを得るために、シールに用いる樹脂接着剤にスペーサー材を混合し、平坦度の高い基板を貼り合わせて所望のセルギャップを持つセルを形成する。本実施形態では、0.7mm厚さのITO付き液晶用ガラス(1737:コーニング製)、スペーサー径3.0μmのスペーサー材(SW−3.0:触媒化成工業製)、紫外線−熱併用接着剤(WR−798:協立化学産業製)を用いて反射型セルを作製する。作製した反射型セルのセルギャップは均一でムラの少ないものとなる。その後、セルに液晶を注入した後に、図2に示すように注入口を紫外線硬化型の樹脂シール接着剤で封止し、LCOS型の反射型液晶表示パネルとする。
【0033】
液晶層17に用いる液晶材料としては、一般に用いられているn形ネマチック液晶が好ましく用いられる。本実施形態ではMLC−6608(メルク製)を用い、上記セルに減圧下で注入して反射型液晶セルとする。また、封口用の紫外線接着剤には3026B(スリーボンド製)を用い、注入された液晶部材を完全封止してLCOS型の反射型液晶表示パネルとする。
【0034】
無機膜16の原材料には、上述のようにジメチルシリコーンオイル等が好ましく用いられる。周辺シール部や封口部の樹脂シール接着剤の外周部分に薄く塗布した後に紫外線照射によって無機膜化する。この際、ジメチルシリコーンオイルに照射する紫外線はジメチルシリコーンオイルの分子量若しくは粘度により変わる。
【0035】
また、紫外線による液晶材料へのダメージを抑えるために、表示エリア部分には紫外線遮光マスクを行うことが更に好ましい。また、周辺シールや封口シールに用いる樹脂シール接着剤のガラス点移転以下の温度であれば、反射型液晶表示パネルを加熱しながらジメチルシリコーンオイルに紫外線を照射することもできる。反射型液晶表示パネルの温度を高くすることでジメチルシリコーンオイルに照射する紫外線のエネルギー量を低くすることもできる。
【0036】
上述の反射型セルに使用する基板や液晶部材、樹脂シール接着剤等の構造材料は、同様の機能を発現するものであるならば、特に本願明細書に記載する材料に制限されるものではない。
【0037】
また、封口部を紫外線硬化型接着剤でUV照射処理を行い封止した後に、パネル全体を液晶の相転位点未満の温度で熱処理する。この熱処理により、液晶、シール材の内部及び表面、封口材の内部及び表面に含まれる或いは吸着している水分を除去する効果があるため、水分の混入による初期状態での不良の頻度を低減できる。
【0038】
次に、本発明の液晶表示装置の具体的な製造方法を説明する。本発明に係る液晶表示装置の製造工程は、以下のように第1の工程、第2の工程からなる。また、第3の工程、第4の工程を行っても良い。
【0039】
(1)透明電極13と反射電極14を対向させて光透過性基板11と単結晶半導体基板12をスペーサーを含有する第1のシール部材15で接着する。
【0040】
(2)第1のシール部材15に設けられた注入領域から一対の基板11、12と第1のシール部材15によって形成された空間に液晶を注入し、液晶層17を形成する。
【0041】
(3)液晶の注入後、注入領域を封止部材19で封止し、一対の基板間に液晶が挟持された第1の構造物(液晶セル)を準備する。(1)〜(3)が第1の工程である。
【0042】
(4)封止部材19による封止後、第1のシール部材15及び封止部材19の外周にその外周表面に接して、アルキルシロキサン化合物を塗布法等で塗布して準備する。或いは、光透過性基板11及び配向膜14aの少なくとも一方と、単結晶半導体基板12及び配向膜14bの少なくとも一方とに接して、アルキルシロキサン化合物を塗布法等で塗布して準備する。
【0043】
(5)アルキルシロキサン化合物を紫外線照射処理して無機膜である酸化ケイ素の膜からなる第2のシール部材16を形成し、第2の構造物(液晶パネル)を準備する。(4)、(5)が第2の工程である。
【0044】
また、第1の工程と第2の工程との間に第1の構造物を液晶の液晶状態から液体状態への相転移温度未満の温度で熱処理する第3の工程を行っても良い。更に、第2の工程の後に第2の構造物を液晶の液晶状態から液体状態への相転移温度未満の温度で熱処理する第4の工程を更に行っても良い。
【0045】
このように第1の工程、第2の工程或いは第3の工程、第4の工程を行うことにより、耐湿性が高く、焼き付き発生による表示劣化を抑制することが可能な液晶表示装置を作製することが可能となる。
【0046】
次に、本発明の液晶表示装置を用いた液晶プロジェクション装置(投射型画像表示装置)について説明する。図3は本発明の液晶プロジェクション装置の一実施形態を模式的に示す図である。
【0047】
本発明の液晶プロジェクション装置は本発明の液晶表示装置を複数有する。まず、本発明の液晶プロジェクション装置は反射型液晶表示パネルに光を照射する光源と、複数個の反射型液晶表示パネルからの光を重ねて表示するための手段とを備えた投写型ディスプレイである。
【0048】
図中、21はスクリーンに投影する投影レンズ、22a〜22cは本発明の液晶表示パネル(反射型液晶表示装置)、23a〜23cは、例えば、S偏光を透過し、P偏光を反射する偏光ビームスプリッターである。24は光源からの光を集光するインテグレーター、25は楕円リフレクター、26はメタルハライド、UHP等のアークランプ、27a,27bは高反射ミラーである。更に、28はG/R光反射ダイクロイックミラー、29はG光反射ダイクロイックミラー、30はダイクロイックミラーにより分離された全色光を再び合成する色合成プリズムである。
【0049】
次に、液晶プロジェクション装置の表示機構を光束の進行過程に従って説明する。先ず、光源のランプ26からの出射光束は白色光であり、楕円リフレクター25によりその前方のインテグレーター24の入り口に集光され、光束の空間的強度分布が均一化される。そして、インテグレーター24を出射した光束は高反射ミラー27aにより直角に反射され、G/R光反射ダイクロイックミラー28に至る。
【0050】
G/R光反射ダイクロイックミラー28ではG/R光が反射され、G光反射ダイクロイックミラー29に向かう。G光反射ダイクロイックミラー29ではG光が反射され、偏光ビームスプリッター23bを通じて偏光化された後、反射型液晶表示パネル22bを照明する。また、R光はG光反射ダイクロイックミラー29を通過し、偏光ビームスプリッター23cに向かい、偏光ビームスプリッター23cを通じて偏光化された後、反射型液晶表示パネル22cを照明する。一方、B光はG/R光反射ダイクロイックミラー28を通過し、高反射ミラー27bにより直角に反射され、偏光ビームスプリッター23aを通じて偏光化された後、反射型液晶表示パネル22aを照明する。
【0051】
そして、反射型液晶表示パネル22a〜22cにて各R、G、B光はそれぞれ反射及び偏光変調され、偏光ビームスプリッター23a〜23cを通過する。偏光ビームスプリッター23a〜23cを通過した光束は合成プリズム30で再び画像光となり、投影レンズ21を通じて不図示のスクリーンに拡大投影される。
【0052】
反射型液晶表示パネルの耐湿性は、高温高湿環境試験を経た反射型液晶表示パネルの含水量の定量、及び表示焼き付き試験を行うことで評価する。高温高湿試験は、反射型液晶表示パネルを温度60℃、湿度90%RHの環境下で300時間暴露させて行う。反射型液晶表示パネルの含水量は、粉砕した反射型液晶表示パネルを加熱し内包水分を気化させ、カールフィッシャー電量滴定測定装置により含水率を測定することにより得られる。反射型液晶表示パネルの表示焼き付き評価は、表示エリア内に所定の固定パターンを一定時間表示させたのちに、全画面均一な表示を行った時に固定パターンの残像の有無を目視により評価する。
【実施例】
【0053】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0054】
(実施例1)
実施例1では、上述のような本発明の製造方法の第1の工程と第2の工程を行うことによって液晶表示パネル(液晶表示装置)を作製した。まず、第1の工程を行い、上述の第1の構造物(液晶セル)を準備した。第1の工程では、上述のように一対の基板11、12間と第1のシール部材15によって形成された空間に液晶を注入して液晶層17を形成する工程等を行う。
【0055】
次に、第2の工程を行い、上述のような第2の構造物(液晶表示パネル)を準備した。具体的には、無機膜16の原材料であるジメチルシリコーンオイルに、TSF−458−100(東芝GEシリコーン製)を用いた。そのジメチルシリコーンオイルを周辺シールや封口シールの樹脂シール接着剤の外周部分に薄く塗布した。その後、常温環境で5000mJ/cmの紫外線照射によって無機薄膜を形成し、第2の構造物(液晶表示パネル)を準備した。また、紫外線による液晶材料へのダメージを抑えるために、表示エリア部分には紫外線遮光マスクを行った。
【0056】
(実施例2)
実施例2では同様に第1の工程と第2の工程を行うことによって液晶表示装置を作製した。まず、第1の工程では同様に一対の基板間と第1のシール部材との空間に液晶を注入して第1の構造物を準備した。第2の工程では無機膜16の原材料であるジメチルシリコーンオイルにKF96−100cs(信越化学工業)を用い、周辺シール部や封口部の樹脂シール接着剤の外周部分に薄く塗布した。
【0057】
その後、常温環境で5000mJ/cmの紫外線を照射して無機薄膜を形成し、第2の構造物を準備した。また、紫外線による液晶材料へのダメージを抑えるために、表示エリア部分には紫外線遮光マスクを行った。
【0058】
(実施例3)
実施例3では、第1の工程と第2の工程の間に上述のような第1の構造物を液晶の液晶状態から液体状態への相転移温度未満の温度で熱処理する第3の工程を行った。本実施例では80℃で熱処理を240時間行った。
【0059】
この熱処理により、耐湿性の高い第2のシール部材16を設ける前に液晶層17内や配向膜14a、14bの表面、第1のシール部材15の水分や不純物が加熱処理される。この加熱処理によって液晶セル内を水分や不純物が低減された状態となる。その後、耐湿性の高い第2のシール部材16で封止することによって液晶セル内の水分や不純物が低減された状態に維持することが可能となる。それ以外は、上述の第1の工程、第2の工程を行うことによって液晶表示パネルを作製した。
【0060】
実施例1、2及び3により作製した反射型液晶表示パネルを高温高湿環境試験にかけた後に液晶プロジェクション装置により投影して歩留まり評価を行った。実施例3の反射型液晶表示パネルを用いた液晶プロジェクション装置は、実施例1、2の反射型液晶表示パネルを用いた液晶プロジェクション装置よりも歩留まり評価が向上した。
【0061】
実施例3は液晶工程が清浄性・安定性が低い場合に特に有効である。処理時間は液晶工程の清浄性・安定性の程度に依存するため、比較的短時間でも歩留まりが向上し、それ以上の処理時間を必要としない場合もある。
【0062】
また、液晶工程が清浄性・安定性が低い場合には、作製直後の反射型液晶表示パネルでも投影画像に面内ムラが生じる場合がある。しかし、本実施例の熱処理によって面内ムラも同時に解消することができる。
【0063】
(実施例4)
実施例4では、実施例3に加えて上述の第2の工程の後に第2の構造物を液晶の液晶状態から液体状態への相転移温度未満の温度で熱処理する第4の工程を行った。本実施例では80℃で熱処理を240時間行った。それ以外は、実施例3で説明した工程を行うことによって液晶表示パネルを作製した。
【0064】
実施例1、2及び4により作製した反射型液晶表示パネルを高温高湿環境試験にかけた後に液晶プロジェクション装置により投影して歩留まり評価を行った。実施例4の反射型液晶表示パネルを用いた液晶プロジェクション装置は、実施例1、2の反射型液晶表示パネルを用いた液晶プロジェクション装置よりも歩留まり評価が向上した。
【0065】
実施例4は液晶工程が清浄性・安定性が低い場合に特に有効である。処理時間は液晶工程の清浄性・安定性の程度に依存するため、比較的短時間でも歩留まりが向上し、それ以上の処理時間を必要としない場合もある。
【0066】
また、液晶工程が清浄性・安定性が低い場合には、作製直後の反射型液晶表示パネルでも投影画像に面内ムラが生じる場合がある。しかし、本実施例の熱処理によって面内ムラも同時に解消することができる。
【0067】
なお、本実施例では、実施例3に加えて実施例4を行うと説明したが、実施例3で説明した第3の工程を行わず、第4の工程だけを行っても液晶工程が清浄性・安定性が低い場合には充分効果が得られる。
【0068】
(比較例1)
比較例1では、TSF−458−100(東芝GEシリコーン製)を液晶パネルの周辺シール部や封口部の樹脂シール接着剤の外周部分に薄く塗布するだけの反射型液晶表示パネルを作製した。
【0069】
(比較例2)
比較例2では周辺シール部及び封口シール部外周に何も処理を行わない反射型液晶表示パネルを作製した。
【0070】
(比較例3)
比較例3では、エアロゾル化した無機物を液晶パネルの周辺シール部や封口部の樹脂シール接着剤の外周部分に堆積させた反射型液晶表示パネルを作製した。エアロゾル化した無機物を液晶パネルの周辺シール部や封口部の樹脂シール接着剤の外周部分に堆積安定化させる工程で250℃による焼結を行った。
【0071】
これら実施例1〜実施例4、比較例1〜比較例3により作製した反射型液晶表示パネルを高温高湿環境試験にかけた後に、反射型液晶表示パネルの含水量の測定を行った。また、実施例1〜実施例4、比較例1〜比較例3により作製した反射型液晶表示パネルを高温高湿環境試験にかけた後に、液晶プロジェクション装置により投影し、表示焼き付き評価を行った。
【0072】
高温高湿環境試験を経た実施例1〜実施例4の反射型液晶表示パネルの含水率より得られた含水量は、比較例1〜比較例3の反射型液晶表示パネルの含水量よりも少なく、反射型液晶表示パネルの水分に対する遮蔽性が向上した。また、実施例1〜実施例4の反射型液晶表示パネルを用いた液晶プロジェクション装置により投影を行ったところ、比較例1〜比較例3の反射型液晶表示パネルを用いた液晶プロジェクション装置よりも表示焼き付きが少なく良質な投射画像が得られた。
【0073】
なお、比較例3により作製した反射型液晶表示パネルは250℃による焼結の工程後にセルギャップ及びギャップ均一性が劣化するため、表示ムラが発生しやすい。また、比較例3の反射型液晶表示パネルは不純物イオンが増加するため、表示焼き付きが短時間で発生しやすくなる。そのため、比較例3の反射型液晶表示パネルを用いた場合には、良質な液晶プロジェクション装置を得ることはできない。
【0074】
以上のように本発明は水分浸入を抑制する事が可能なLCOS型の反射型液晶表示装置を作製することができる。そのため、液晶表示パネルに混入する水分を原因とする液晶プロジェクション装置の表示特性劣化を抑制することが可能となる。
【0075】
また、上述のような無機膜16等による水分浸入抑制手法は常温にて液晶表示パネルに付与することができる。そのため、樹脂構造材料を劣化させることなく水分浸入抑制手段を液晶表示パネルに付与することができる。特に、画像表示装置が投射型の場合、樹脂構造材料からの不純物が表示焼き付きの主原因になることから、このような構成において特にその効果が高い。
【0076】
また、本発明の水分浸入抑制手法は簡便な方法で液晶表示パネルに付与することができる。そのため、従来からの液晶表示パネル製造プロセスを活用することができ、その生産性への影響は少ない。
【0077】
また、液晶工程の最中に取り込まれる水分を水分浸入抑制手段を付与する前に除去しておくことで、更に効果が顕著となる。更に、本発明の水分浸入抑制手法は、外観的構造上、液晶表示パネルに何ら変化を与えるものではない。そのため、水分浸入抑制手段を付与することで液晶表示パネルの寸法に変化はほとんど生じない。特に、画像表示装置が投射型の場合、レイアウトスペースの上で有利な構成となる。本発明はこのような構成において特にその効果が高い。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明に係る反射型液晶表示装置の一実施形態を示す断面模式図である。
【図2】図1の平面模式図である。
【図3】本発明に係る液晶プロジェクション装置の一実施形態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0079】
11 透光性基板
12 単結晶半導体基板
13 透明電極
14a、14b 配向膜
15 第1のシール部材(樹脂シール層)
16 第2のシール部材(無機膜;周辺シール)
17 液晶層
18 画素反射電極
19 封止部材(封口シール)
20 ダミー電極
21 投影レンズ
22a、22b、22c 反射型液晶表示パネル
23a、23b,23c 偏光ビームスプリッター
24 インテグレーター
25 楕円リフレクター
26 アークランプ
27a、27b 高反射ミラー
28 G/R光反射ダイクロイックミラー
29 G光反射ダイクロイックミラー
30 合成プリズム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の基板間に挟持された液晶層の外周に配置された第1のシール部材と、前記第1のシール部材の外周に前記一対の基板に接して配置された第2のシール部材とを有する液晶表示装置であって、
前記第2のシール部材は、紫外線照射によって無機膜となるアルキルシロキサン化合物を原材料とすることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
前記アルキルシロキサン化合物は、前記第1のシール部材のガラス転移点以下の温度でアルキルシロキサン構造を有することを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記アルキルシロキサン化合物は、ジアルキルシロキサン化合物若しくはジメチルシロキサン化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記アルキルシロキサン化合物は、ジメチルシリコーンであることを特徴とする請求項3に記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記一対の基板のうち一方の基板は、前記第1のシール部材の内側にスイッチ素子と反射電極を有する画素が2次元アレイ状に設けられた有効画素領域を有する単結晶半導体基板であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
【請求項6】
前記一対の基板は、対向する表面にそれぞれ配向膜を有し、前記一対の基板のうち少なくとも一方の基板の配向膜は前記無機膜と接して設けられ、前記配向膜と前記無機膜とが同じ材料であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
【請求項7】
前記無機膜は、酸化ケイ素であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の液晶表示装置を有する液晶プロジェクション装置。
【請求項9】
一対の基板間と前記一対の基板を接着する第1のシール部材によって形成された空間に液晶を注入して第1の構造物を準備する第1の工程と、
前記第1のシール部材の外周に前記一対の基板に接して準備されたアルキルシロキサン化合物に紫外線照射を行って無機膜を有する第2の構造物を準備する第2の工程とを含むことを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項10】
前記第1の工程と前記第2の工程との間に前記第1の構造物を前記液晶の液晶状態から液体状態への相転移温度未満の温度で熱処理する第3の工程を含むことを特徴とする請求項9に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項11】
前記第2の工程の後に前記第2の構造物を前記液晶の液晶状態から液体状態への相転移温度未満の温度で熱処理する第4の工程を含むことを特徴とする請求項9に記載の液晶表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−145403(P2009−145403A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319706(P2007−319706)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】