説明

液晶表示装置

【課題】 簡素な素子及び駆動回路構成で、全画素をスプレイ配向からベンド配向へ転移させることができる構造を有する液晶表示装置を提供することにある。
【解決手段】 電源投入後、表示動作へ至る前に第1の状態から第1の状態とは異なる第2の状態へと転移される液晶表示装置においては、画素電極の周囲或いは内部には、転移駆動期間に他の部分よりも先に前記第二の状態へと転移させるための転移核形成部が設けられ、画素電極の転移核形成部は、先端に向けて厚みが減少する逆テーパーに形成されるエッジを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複屈折を利用した表示モードの液晶表示装置に係り、特に、液晶材料にベンド配向を形成させる表示モードの液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
OCB(optically compensated bend)モードの液晶表示装置では、液晶材料にベンド配向を形成させ、各配向膜近傍で液晶分子のチルト角を変化させることにより液晶層のリタデーションを変化させている。OCBモードは、優れた応答速度及び視野角特性を実現し得る表示モードの1つであり、近年、注目を集めている。
【0003】
OCBモードでは、上記のように、ベンド配向されることが必須とされている。しかしながら、以下に説明するように、ベンド配向を安定に得ることは難しいとされている。
【0004】
電源投入前の初期状態において、液晶材料は、スプレイ配向を形成している。これは、本来、スプレイ配向が、ベンド配向と比較してより安定なためである。そこで、表示装置を起動する際、スプレイ配向からベンド配向へと転移させるための処理が必要とされる。この転移発現には、ベンド配向とスプレイ配向との状態エネルギー差以上のエネルギーを与える必要があり、通常は、液晶セルへの電圧印加により静電エネルギーの形で与えているが、エネルギー差に相当する電圧印加では、転移進行が遅いため、実際には、非常に高い電圧印加が必要とされる。また、この転移過程は、基板表面の形状或いは電場分布の影響を受け易いため、液晶層中に未転移領域が残ることがある。
【0005】
特許文献1には、この問題を解決するために、隣接する画素の周囲に入れ子形状の屈曲パターン(以下、転移核形成部と呼ぶ)を設け、電極間に電位差を与えると同時に対向電極間にも電位差を与えて、液晶セルの厚み方向並びに面内方向に強い液晶配列の歪みを発生させ、スプレイ配向からベンド配向へと高速に転移させる技術が記載されている。また、特許文献1には、転移核形成部を、画素電極及びこの画素電極に近接する隣接画素電極にスイッチング素子を介して接続される近接電極で構成され、画素電極間に画像信号振幅相当の電位差を与えると同時に対向電極間にも電位差を与える液晶表示装置が開示されている。この液晶表示装置においては、液晶セルの厚み方向並びに面内方向に強い液晶配列歪みが発生され、画素電極と周囲配線との間の容量カップリングによって電位変動を抑制しながら、スプレイ配向からベンド配向へと高速に転移させている。この特許文献1に開示された技術では、転移核形成部は、周辺配線電極の直上に位置するよう設けられ、開口率及びコントラストを高く維持することができる。
【特許文献1】特開2003−280036号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された液晶表示装置において、高速な転移を実現するためには、対向電極、個々の画素電極、更には、近接電極へ、各々異なる電位を所定のタイミングで設定する必要があり、複雑な駆動制御回路が必要とされる。近接電極を用いる画素構成にあっては、一画素につき二個のスイッチング素子が必要で、素子構造及び駆動回路の構成がさらに複雑化する問題がある。また、隣接画素間又は画素と近接電極との間に与え得る電位差は、画像信号の振幅相当(通常10Vか、それ以下)とされる。このような電位差が与えられる場合には、液晶セルの面内方向の電場強度が不足し、転移動作が不安定になることがある。
【0007】
この発明の目的は、簡潔な素子及び駆動回路構成で、全画素をスプレイ配向からベンド配向へ転移させることができ、しかも開口率及びコントラストの高い液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明によれば、
第1絶縁基板、前記第1絶縁基板上に配置される第1電極、及び前記第1絶縁基板と前記第1電極との間に前記第1電極に対して絶縁下地層を介して配置される第2電極を含む第1基板と、
第2絶縁基板、前記第2絶縁基板上に配置される第3電極を含む第2基板と、
前記第1電極と前記第3電極との間に挟持され、前記第1電極、前記第2電極及び前記第3電極に初期化電圧を印加することで第1状態から第2状態に相転移される液晶層と、
を具備する液晶表示装置において、
前記第1電極は、前記初期化電圧の印加に基づき前記液晶層に転移核を形成する転移核形成部を備えると共に、前記第3電極に対向される面が平坦に形成され、
前記転移核形成部は、先端に向かうに従い厚みが減少される略逆テーパーに形成されるエッジを有することを特徴とする液晶表示装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
この発明の液晶表示装置においては、簡素な素子及び駆動回路構成とすることができ、全画素をスプレイ配向からベンド配向に容易に転移させることができ、しかも、開口率及びコントラストの高くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、この発明の実施の態様に係る液晶表示装置ついて、詳細に説明する。尚、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
【0011】
図1は、この発明の液晶表示装置を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示すII-II線に沿った断面図である。図3は、図1に示すIII-III線に沿った断面図である。尚、図1においては、後述するカラーフィルタを省略して描かれている点に注意されたい。
【0012】
この液晶表示装置は、OCBモードのアクティブマトリクス型液晶表示装置であって、液晶表示パネル1及び液晶表示パネル1に向き合うように配置されたバックライト(図示せず)を備えている。また、この液晶表示装置は、この液晶表示パネル1を駆動する走査線ドライバ(図示せず)及び信号線ドライバ(図示せず)を備えている。
【0013】
液晶表示パネル1は、図2及び図3に示すように、アレイ基板である背面基板10及びこの背面基板10に対向される対向基板としての前面基板20を備えている。背面基板10及び前面基板20の間には、枠状の接着剤層(図示せず)が介在され、背面基板10及び前面基板20の間に間隙が設けられている。背面基板10及び前面基板20間の間隙であって、接着剤層に囲まれた間隙には、液晶材料が充填され、この液晶材料で液晶層30が形成されている。背面基板10及び前面基板20の外表面上には、図2及び図3に示すように夫々光学補償フィルム40及び偏光板50が順次積層配置されている。
【0014】
背面基板10は、例えば、ガラス基板等の透明基板100で構成されている。透明基板100上には、例えば、SiNx層及び/又はSiO2層などのアンダーコート層101が形成されている。アンダーコート層101上には、チャネル及びソース・ドレインが形成されたポリシリコン層等の半導体層102が配置されている。半導体層102及びアンダーコート層101は、ゲート絶縁膜103で被覆されている。ゲート絶縁膜103は、例えば、TEOS(tetraethoxyorthosilane)を用いて形成することができる。
【0015】
ゲート絶縁膜103上には、図1及び図3に示す走査線104、図1及び図2に示すゲート電極105、図1及び図3に示す参照配線106が並設配置されている。
【0016】
走査線104は、それぞれ第1方向に延在されると共に、この第1方向と交差する第2方向に沿って配列されている。図1では、走査線104は、夫々横又は行方向に相当するX方向に延在すると共に縦又は列方向に相当するY方向に配列されている。走査線104の材料としては、金属材料を使用することができる。例えば、走査線104の材料としては、MoWを使用することができる。この走査線104は、走査線ドライバ(図示せず)に接続され、走査線ドライバから供給される走査信号で駆動される。
【0017】
ゲート電極105は、図1に示すように、走査線104の一部がY方向に沿って延出された突出片として形成されている。このゲート電極105は、図2に示すように、ゲート絶縁膜103を介して半導体層102内に形成されるチャネルに対向されている。ゲート電極105、ゲート絶縁膜103及び半導体層102は、走査線104と後述する信号線108との交差部近傍に配置されたスイッチング素子110として、薄膜トランジスタを構成している。
【0018】
尚、ここでは、スイッチング素子110として薄膜トランジスタを例示しているが、ダイオード或いはMIM(Metal-Insulator-Metal)素子などの他の素子を使用しても良いことは明らかである。
【0019】
図1に示されるように、参照配線106は、X方向に延在され、このX方向と交差するY方向に配列されている。この例では、走査線104毎に1本の参照配線106を配置している。参照配線106の材料としては、金属材料を使用することができ、例えば、MoWを使用することができる。参照配線106は、例えば、走査線104と同一工程で形成することができる。
【0020】
ゲート絶縁膜103、走査線104、ゲート電極105及び参照配線106は、図2及び図3に示すように、層間絶縁膜107で被覆されている。層間絶縁膜107には、例えば、SiO2及び/又はSiNx、アクリル樹脂などを使用することができる。層間絶縁膜107上には、図1及び図2に示すように、信号線108及びドレイン電極109が配置されている。
【0021】
信号線108は、夫々第2方向に延在され、第1方向に配列されている。図1では、信号線108は、夫々Y方向に延在され、X方向に配列されている。信号線108の材料としては金属材料を使用することができる。例えば、信号線108には、Mo層とAl−Nd層とMo層との三層構造を採用することができる。この信号線108は、信号線ドライバ(図示せず)に接続され、この信号ドライバからの画像信号がこの信号線108に供給される。
【0022】
この例では、スイッチング素子110として薄膜トランジスタを使用すると共に、図2に示すように、層間絶縁膜107に設けた貫通孔を介して信号線108が薄膜トランジスタ110のドレインに接続されている。即ち、この例では、信号線108は、ドレイン電極を兼ねている。
【0023】
ドレイン電極109の一端は、図1及び図2に示すように、層間絶縁膜107に設けた貫通孔を介して薄膜トランジスタ110のソースに接続されている。また、ドレイン電極109の他端は、図1及び図3に示すように、層間絶縁膜107を介して、参照配線106に対向される電極領域に形成されている。この構造では、ドレイン電極109、参照配線106及び層間絶縁膜107でキャパシタが構成される。このドレイン電極109には、例えば、信号線108と同一の材料を使用することができる。
【0024】
層間絶縁膜107、信号線108及びドレイン電極109は、絶縁下地層112で被覆されている。ここでは、一例として、絶縁下地層112がパッシベーション膜111、又はカラーフィルタ120の少なくともどちらか一方で構成される。
【0025】
パッシベーション膜111は、図2及び図3に示すように、層間絶縁膜107、信号線108及びドレイン電極109を被覆している。パッシベーション膜111には、例えば、SiNx、透明アクリル樹脂、ベンゾシクロブテン(BCB)、感光性ポリイミド、エポキシ系樹脂を使用することができる。特に、透明アクリル樹脂はパターニング性、コスト面で好適である。
【0026】
カラーフィルタ120は、吸収スペクトルが互いに異なる複数の着色層、例えば、緑色着色層G、青色着色層B及び赤色着色層Rで構成されている。これら着色層G,B,Rは、この例では、それぞれ図3に示すようにY方向に延びた帯形状を有すると共に、図2に示すようにX方向に沿って配列されてストライプパターンを形成している。また、この例では、これら着色層G,B,Rは、図2に示すように、それらの間の境界が信号線108上に位置するように配置されている。着色層G,B,Rには、例えば、透明樹脂と染料及び/又は顔料との混合物を使用することができる。尚、ここでは、カラーフィルタ120を背面基板10に設けているが、カラーフィルタ120は前面基板20に設けてもよい。
【0027】
カラーフィルタ120上では、図1乃至図3に示すように、薄膜トランジスタ110に対応して、インジウム・スズ酸化物(ITO)、インジウム・亜鉛酸化物(IZO)、酸化アンチモンやフッ素をドープした酸化スズ、又は、有機導電ポリマーなどの透明導電体からなる画素電極130が配列されている。これら画素電極130は、図1及び図3に示すように、パッシベーション膜111及びカラーフィルタ120に設けた貫通孔を介して、ドレイン電極109に接続されている。
【0028】
画素電極130及びカラーフィルタ120は、配向膜140で被覆されている。配向膜140の材料には、例えば、ポリイミドなどの樹脂を使用することができる。配向膜140には、ラビングなどの配向処理を施している。配向処理には、膜面における液晶分子300の立ち上がり方位を規定するような方式、例えば、ラビング処理を選択する。配向処理としてラビング処理を行う場合、ここでは図1中に矢印で示した方位をラビング方位としている。
【0029】
図1に示されるように、画素電極130は、Y方向に延出される略矩形状に形成され、画素電極130の端辺には、そのY方向おいて、転移核形成部131が形成されている。この転移核形成部131は、Y方向における隣接画素電極130に接する境界領域に相当し、ドレイン電極109に重なるように形成されている。転移核形成部の形状は、ラビング方位と交差する屈曲パターンであれば良く、例えば、櫛の歯状のパターン、異なる形状パターンの組み合わせ、または、連鎖パターンであっても良い。図1には、ラビング方位に対して45°の角度で交差する連続方形パターンの例が示されている。
【0030】
図4は、図1に示すIV-IV線に沿った断面の拡大図である。図4に示されるように、画素電極130に設けられた転移核形成部131は、液晶層30に対向される画素電極130の上面が平坦に保たれたまま、その終端部(エッジ)が次第にその先端に向けて厚さが小さくなる逆テーパー状に作製され、画素電極130のエッジ部と絶縁下地層112との間にエッジ状の空間が設けられ、液晶層30の液晶がこのエッジ状の空間に進入している。このエッジの角度θは、10°以上60°未満に定められている。また、画素電極130の厚さは,透過率と抵抗値において適した範囲から500Å〜5000Åとなるように作製される。ここで画素電極130の厚さT0は、エッジ部分ではなく中央部の最も厚い部分で定義される。また、図4において、テーパー長さLTは、画素電極130の厚さとエッジの角度θの範囲により三角関数から概算すると、290Å〜28000Åと求まる。テーパー長さLTが小さい場合には、画素電極130のエッジ部と絶縁下地層112との間に形成されるエッジ状の空間が小さくなり、液晶層30の液晶がこのエッジ状の空間に進入できなくなり、本発明の効果が発現できない。また、テーパー長さLTが大きい場合には、テーパー形状の作製が困難になりコストアップにつながる。テーパー長さLTの好ましい範囲は、1000Å〜5000Åである。図4においては、カラーフィルタ120が背面基板10に設けられず、カラーフィルタ120は前面基板20に設けられ、絶縁下地層112上に画素電極130が形成されている。
【0031】
転移核形成部131のエッジ部を逆テーパーとする作製法は、グレースケール露光法、ポジネガ反転レジストを用いたリフトオフ法などのパターニング法が選択される。作製法の一例が概略的に図8(a)、(b)及び(c)に示されている。図8(a)に示されるように絶縁下地層112上にレジスト301が塗布され、グレースケール露光法によりレジスト301の一部が階段形状になるようにレジスト301が形成される。次に、図8(b)に示されるように画素電極130が成膜され、その後、図8(c)に示すようにリフトオフ法によりレジストが溶解・除去されて画素電極130の一部が逆テーパー形状に作製される。また、別の作製方法では、画素電極130と絶縁下地層112との密着性を最適化することで、画素電極130のエッチング工程でサイドエッチング効果により、所望の逆テーパー形状に作製することができる。図5に示されるように絶縁下地層112の画素電極130がない部分132は、O2アッシングやUV/O3ドライ洗浄処理などにより膜厚が薄くなって段差形状となっても良い。
【0032】
前面基板20は、図2及び図3に示すように、例えば、ガラス基板などの透明基板200で構成されている。基板200は、背面基板10の配向膜140が形成された面に対向するように配置されている。背面基板10に対向する基板200の対向面には、対向電極としての共通電極230が形成されている。共通電極230には、インジウム・スズ酸化物(ITO)、インジウム・亜鉛酸化物(IZO)、酸化アンチモンやフッ素をドープした酸化スズ、又は、有機導電性ポリマーなどの透明導電体が使用できる。
【0033】
共通電極230は、配向膜240で被覆されている。配向膜240は、図示しないスペーサによって、画素電極130上に位置した配向膜140の部分から離間して配置されている。配向膜240の材料には、例えば、ポリイミドなどの樹脂を使用することができる。配向膜240には、ラビングなどの配向処理を施している。配向処理には、膜面における液晶分子300の立ち上がり方位を規定するような方式、例えば、ラビング処理が選択される。配向処理としてラビング処理を行う場合、ここでは図1中に矢印で示した方位をラビング方位としている。
【0034】
背面基板10と前面基板20との間には、枠状の接着剤層(図示せず)が介在されている。また、背面基板10と前面基板20との間であって、接着剤層が形成されている枠の内側には、図示しない粒状スペーサが介在されている。或いは、背面基板10及び前面基板20の少なくとも一方の対向面には、柱状スペーサが形成されている。これらスペーサは、背面基板10と前面基板20と接着剤層とで囲まれた空間の厚さを一定に保つ役割を果たしている。
【0035】
液晶層30は、誘電率異方性及び屈折率異方性が正の液晶材料で構成されている。画素電極130及び共通電極230の間に電圧が印加されている間において、この液晶材料は、ベンド配向を形成する。画素電極130及び共通電極230の間に印加される電圧の絶対値が典型的にはゼロよりも大きな第1値と、第1値よりも大きな第2値との間で切り替えて明表示と暗表示とが切り替えられる。尚、この実施の態様では、第1値はゼロであってもよいことがあるので、第1値は零を含むものとする。以下、印加電圧の絶対値を第1値としている状態をOFF状態と称し、印加電圧の絶対値を第2値としている状態をON状態と称する。
【0036】
図2及び図3には、OFF状態において、ベンド配向を形成している液晶分子300の配置が模示的に紙面への45°射影像として描かれている。ON状態では、OFF状態と比較して、配向膜140及び240の近傍における液晶分子のチルト角がより大きくなる。
【0037】
光学補償フィルム40は、例えば、二軸性フィルムで構成される。光学補償フィルム40は、例えば、屈折率異方性が負の一軸性化合物、例えば、ディスコティック液晶化合物をハイブリッド配向させた光学異方性層を含んでいる。
【0038】
基板100上の光学補償フィルム40が含む一軸性化合物の光学軸は、例えば、基板100側では、背面基板10の近傍に位置した液晶分子300のON状態における光学軸と略平行であり、その反対側では、背面基板10と前面基板20との中間に位置した液晶分子300のON状態における光学軸と略平行である。また、基板200上の光学補償フィルム40が含む一軸性化合物の光学軸は、例えば、基板200側では、前面基板20の近傍に位置した液晶分子300のON状態における光学軸と略平行であり、その反対側では、背面基板10と前面基板20との中間に位置した液晶分子300のON状態における光学軸と略平行である。これら光学補償フィルム40のリタデーションの和は、例えば、液晶層30のON状態におけるリタデーションに略等しく設定される。
【0039】
偏光板50は、例えば、それらの透過軸が互いに略直交するように配置する。また、各偏光板50は、例えば、その透過軸がX方向及びY方向に対して約45°の角度を為すように配置する。
【0040】
図示しないバックライトは、液晶表示パネル1の背面基板10を照明するように配置されている。
【0041】
上述した液晶表示装置においては、図4に示されるように初期化用電圧源60から電圧が画素電極130、共通電極230及び参照配線106に印加される。例えば、初期化用電圧源60からは、画素電極130に±5Vの第1の交流電圧が印加されるとともに共通電極230に±15Vの第2の交流電圧が第1の交流電圧とは逆位相で印加され、参照配線106は0Vの第3の電圧に維持される。従って、液晶層30内において、画素電極130と共通電極230との間に縦電界が形成される。また、画素電極130と参照配線106との間に横電界が形成される。これらの電界によって、各画素内の液晶層30内部においては、転移核形成部の近傍付近に転移核が形成され、液晶は、スプレイ配向状態からベンド配向状態に迅速に転移される。その後、画像信号が信号線108に供給され、走査線信号が走査線104に与えられて画像が液晶パネル1に表示される。
【0042】
尚、ここでは、液晶表示パネル1でノーマリホワイト駆動を行う場合の構造を説明しているが、この液晶表示パネル1はノーマリブラック駆動を行うように設計しても良いことは明らかである。また、ここでは、ON状態を補償する構成を採用したが、OFF状態を補償する構成を採用しても良いことも明らかである。
【0043】
この発明の実施の形態の構成では、画素電極130に設けられた転移核形成部131の終端部(エッジ)は、液晶層30に対向される面が平坦に維持されたままその先端に向けて次第に厚さが減少される逆テーパーとなるように作製されている。従って、画素電極130に設けられた転移核形成部においては、電極形状による電場強度部分が不均一となり、また、逆テーパー電極に近接する部分の液晶分子300の配列状態は、液晶層30のバルク部の配列状態よりも配列状態が不安定化しやすく、配列歪みを形成しやすい状態となっている。その結果、全画素をスプレイ配向からベンド配向へ転移を高速とすることができる。
【0044】
図1乃至図5には、画素周囲に転移核形成部131を設ける構成を示したが、画素内部の開口部に転移核形成部131が設けられる構成としても良い。
【0045】
また、図1乃至図5には、アクティブマトリクス型液晶表示装置を示したが、液晶表示装置には、例えば単純マトリクス型などの他の駆動型を採用してもよい。液晶表示装置の駆動型に特に制限はない。
【0046】
[実施例]
以下、この発明の実施例に係る液晶表示装置ついて説明する。
【0047】
(実施例1)
実施例1では、図1乃至図5に示すOCBモードの液晶表示装置を、以下の方法により製造した。尚、本例では、背面基板10の外面に光学補償フィルム40を配置せず、前面基板20の外面にのみ光学補償フィルム40を配置した。
【0048】
まず、厚さ0.5mmのガラス基板100上に、アンダーコート層101から画素電極130までの構造を成膜及びフォトリソグラフィ工程により形成した。このとき、画素電極130はインジウム・スズ酸化物(ITO)を、参照配線106にはMoW、絶縁下地層112には透明アクリル樹脂(膜厚:1.5μm)を用いた。また、厚さ0.5mmのガラス基板200上に、共通電極230を形成した。
【0049】
ここでは、画素電極130は略長方形状とし、そのX方向のピッチを82μmとし、Y方向のピッチを246μmとした。Microchem社のSU-8レジストを使用してグレースケール露光法によりレジストパターニングを行った。次に、画素電極130としてインジウム・スズ酸化物(ITO)をスパッタ法により、膜厚1000Åで成膜し、リフトオフを行った。図4に示すように、画素電極130の転移核パターンの終端部(エッジ)が逆テーパーとなるように作製され、エッジの角度θは、30°であった。
【0050】
次に、画素電極130及び共通電極230の夫々の上に、JSR株式会社製のオプトマーAL3456をスピンコートすることにより、厚さ0.1μmのポリイミド樹脂層を形成した。各ポリイミド樹脂層に対し、図1に記載の方位に沿って、ラビング処理を施した。このようにして、配向膜140及び240を得た。
【0051】
次に、背面基板10の主面に、配向膜140を取り囲むように熱硬化性接着剤をディスペンスした。この接着剤層が形成する枠には、液晶注入口として利用するための開口部を設けた。接着剤を仮乾燥した後、図示しないトランスファパッド上に銀ペーストをディスペンスした。
【0052】
次いで、配向膜240上に、直径が7.0μmの粒状スペーサを散布した。ここではスペーサとして粒状スペーサを散布したが、その代わりに、感光性樹脂を用いて柱状スペーサを形成しても良い。
【0053】
その後、背面基板10と前面基板20とを、配向膜140及び240が向き合い且つそれらのラビング方位が等しくなるように貼り合せ、これを加熱した。以上のようにして、空セルを得た。
【0054】
次に、この空セル内に、ディップ法により誘電率異方性が正のネマチック液晶化合物を注入した。
【0055】
続いて、液晶注入口に紫外線硬化樹脂をディスペンスし、これに紫外線を照射した。さらに、背面基板10の外面に偏光板50を貼り付けると共に、前面基板20の外面に光学補償フィルム40及び偏光板50を順次貼り付けた。
【0056】
なお、ここで使用した光学補償フィルム40は、ディスコティック液晶化合物をその光学軸がX方向に垂直な面内で変化するようにベンド配向させた光学異方性層を含んでいる。この光学補償フィルム40の最大の主法線速度の方向は厚さ方向と平行であり、最小の主法線速度の方向はX方向と平行であり、残りの主法線速度方向はY方向と平行である。
【0057】
このようにして得られた液晶表示パネル1を図示しないバックライトユニットなどと組み合わせることにより、図1乃至図4に示す液晶表示装置を完成した。
【0058】
この液晶表示装置を、室温下かつバックライトを点灯した状態で、画素電極130に±5Vの交流電圧、共通電極230に±15Vを逆位相の交流電圧、参照配線106に0V、で各々印加しながら、顕微鏡越しに画素を観察した。その結果、一画素において、スプレイ配向を示す着色状態からベンド配向を示す無彩色状態まで変化するのに必要な時間の平均値は、0.10秒であった。繰り返し測定による、画面全体で呈色変化が完了するまでの平均的な所要時間は、0.20秒であった。
【0059】
(実施例2)
実施例1で説明したのと類似の方法により、図1乃至図3、及び図6に示す液晶表示装置を製造した。図6に示すように逆テーパーは階段形状で作製された。この液晶表示装置を、室温下かつバックライトを点灯した状態で、実施例1で実施したのと同様の方法により、顕微鏡越しに画素を観察した。その結果、一画素において、スプレイ配向を示す着色状態からベンド配向を示す無彩色状態まで変化するのに必要な時間の平均値は、0.15秒であった。繰り返し測定による、画面全体で呈色変化が完了するまでの平均的な所要時間は、0.25秒であった。
【0060】
(実施例3)
実施例1で説明したのと類似の方法により、図1乃至図3、及び図6に示す液晶表示装置を製造した。
【0061】
本例では、画素電極130は有機ポリマー成分としてヒドロキシプロピルセルロース、無機ゾル成分として塩化錫を含有する溶液を用い、塩化錫を加熱処理して導電性金属酸化物の酸化錫に転換させて有機導電性ポリマー型の膜厚2000Åの透明電極を作製した。クラリアントジャパン社のAZP4903レジストを使用してレジストパターニングし、塩酸/硝酸系のエッチング液を用いてエッチングした。図6に示すように、画素電極130の転移核形成部の終端部(エッジ)は、先端に向けてステップ状にその厚みが減少される逆テーパーとなるように作製され、エッジの角度θは、40°であった。絶縁下地層112の画素電極130がない部分は、O2アッシング処理により膜厚が薄くなって段差形状となった。
【0062】
この液晶表示装置について、実施例1で実施したのと同様の方法により、スプレイ配向状態からベンド配向状態への転移所要時間を測定した。その結果、一画素における平均的な転移所要時間は0.08秒であった。画面全体が転移完了するまでの平均的な所要時間は、0.15秒であった。
【0063】
(実施例4)
実施例1で説明したのと類似の方法により、図1乃至図3、及び図7に示す液晶表示装置を製造した。
【0064】
この実施例4では、絶縁下地層112として透明アクリル樹脂を用いた。絶縁下地層112を膜厚1.5μmで形成後、表面を酸化チタン系の光触媒で親水性処理を行った。次に、画素電極130はインジウム・亜鉛酸化物(IZO)をスパッタ法により、膜厚1500Åで成膜後、クラリアントジャパン社のAZP4903レジストを使用して通常の露光法によりレジストパターニングし、塩酸/硝酸系のエッチング液を用いてエッチングした。絶縁下地層112を予めに親水性処理したことで、膜の表面エネルギーが変化して、塩酸/硝酸系のエッチング液のしみ込みを促進する効果により、画素電極130の転移核パターンの終端部(エッジ)は逆テーパーとなるように作製され、エッジの角度は35°であった。絶縁下地層112の画素電極130がない部分は、O2アッシング処理により膜厚が薄くなって段差形状となった。
【0065】
この液晶表示装置について、実施例1で実施したのと同様の方法により、液晶がスプレイ配向状態からベンド配向状態への転移する所要時間を測定した。その結果、一画素における平均的な転移所要時間は0.05秒であった。画面全体が転移完了するまでの平均的な所要時間は、0.10秒であった。
【0066】
(比較例)
実施例1で説明したのと類似の方法により、図1乃至図3、及び図9に示す液晶表示装置を製造した。
【0067】
この比較例では、画素電極130はインジウム・スズ酸化物(ITO)をスパッタ法により、膜厚1000Åで成膜後、東京応化工業社のTSMR-V90レジストを使用してレジストパターニングし、ドライエッチング法でエッチングした。図9に示すように、画素電極130の転移核パターンの終端部(エッジ)はほぼ垂直となるように作製された。
【0068】
この液晶表示装置について、実施例1で実施したのと同様の方法により、スプレイ配向状態からベンド配向状態への転移所要時間を測定した。その結果、一画素における平均的な転移所要時間は0.5秒であった。画面全体が転移完了するまでの平均的な所要時間は、0.8秒であった。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】この発明の実施の形態に係る液晶表示装置を概略的に示す平面図である。
【図2】図1に示す液晶表示装置のII−II線に沿った断面図である。
【図3】図1に示す液晶表示装置のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】図1に示す液晶表示装置のIV−IV線に沿った断面構造を拡大して概略的に示す断面図である。
【図5】図4に示される対向電極及びその周辺領域の変形例の構造を概略的に示す断面図である。
【図6】図4に示される対向電極及びその周辺領域の他の変形例の構造を概略的に示す断面図である。
【図7】図4に示される対向電極及びその周辺領域の他の変形例の構造を概略的に示す断面図である。
【図8】(a)、(b)及び(c)は、この発明の作成方法の一例を示す概略図である。
【図9】この発明の比較例に係る対向電極及びその周辺領域の構造を概略的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0070】
1…液晶表示パネル、10…背面基板、20…前面基板、30…液晶層、40…光学補償フィルム、50…偏光板、80…転写部材、100…透明基板、101…アンダーコート層、102…半導体層、103…ゲート絶縁膜、104…走査線、105…ゲート電極、106…参照配線、107…層間絶縁膜、108…信号線、109…ドレイン電極、110…スイッチング素子、111…パッシベーション膜、112…絶縁下地層、120…カラーフィルタ、130…対向電極、131…転移核形成部、140…配向膜、200…透明基板、230…電極、240…配向膜、300…液晶分子
301…レジスト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1絶縁基板、前記第1絶縁基板上に配置される第1電極、及び前記第1絶縁基板と前記第1電極との間に前記第1電極に対して絶縁下地層を介して配置される第2電極を含む第1基板と、
第2絶縁基板、前記第2絶縁基板上に配置される第3電極を含む第2基板と、
前記第1電極と前記第3電極との間に挟持され、前記第1電極、前記第2電極及び前記第3電極に初期化電圧を印加することで第1状態から第2状態に相転移される液晶層と、
を具備する液晶表示装置において、
前記第1電極は、前記初期化電圧の印加に基づき前記液晶層に転移核を形成する転移核形成部を備えると共に、前記第3電極に対向される面が平坦に形成され、
前記転移核形成部は、先端に向かうに従い厚みが減少される略逆テーパーに形成されるエッジを有することを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
前記転移核形成部のエッジの角度は、10°以上60°未満であることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記画素電極は、インジウム・スズ酸化物(ITO)、インジウム・亜鉛酸化物(IZO)、酸化アンチモンやフッ素をドープした酸化スズ、または有機導電性ポリマーで作られることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記画素電極の厚さは、500Å〜5000Åであることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記液晶層は、OCB型液晶を具備することを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項6】
前記転移核形成部は、前記平坦面及びこの平坦面とは反対のテーパー面を有し、前記第1及び第2の基板の一方は、前記転移核形成部が形成される表面を有し、前記テーパー面に対向しない前記表面上の領域には、段差が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項7】
前記第1及び第2の基板の一方は、前記転移核形成部が形成される表面を有し、配向膜が前記転移核形成部上及び前記表面に形成されて当該配向膜は分断された形状を有することを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項8】
前記転移核形成部は、先端に向かうに従いステップ状に厚みが減少される略逆テーパーに形成されるエッジを有することを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−80327(P2009−80327A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249908(P2007−249908)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(302020207)東芝松下ディスプレイテクノロジー株式会社 (2,170)
【Fターム(参考)】