説明

液浸リソグラフィー用フォトレジスト添加剤及び液浸リソグラフィー用フォトレジスト組成物

【課題】基板上に塗布した際に、撥水ポリマーが表層に効率的に集積し、表層の撥水性が特に高くなる樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】樹脂組成物は、基材ポリマーと、撥水ポリマーとを含み(1)基材ポリマーは、酸の作用によりアルカリ溶解性が変化するポリマーであり、(2)撥水ポリマーは、(i)少なくとも2種類のモノマーが結合して成る、ブロック共重合体であり、 (ii)この少なくとも2種類のモノマーのうちの少なくとも1種のモノマーに由来する側鎖がフッ素多含基を有しており、 (iii)この少なくとも2種類のモノマーのうち、前記フッ素多含基を有するモノマー以外のモノマーに由来する少なくとも1種の側鎖の構造が、前記基材ポリマーの前記側鎖の少なくとも1種と同一又は類似の構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液浸リソグラフィー用フォトレジスト添加剤及び液浸リソグラフィー用フォトレジスト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子を製造するためには、半導体ウェハー上にフォトレジストと呼ばれる感光性樹脂を塗布し、次に露光装置を用いて回路パターンを感光性樹脂に焼き付けるフォトリソグラフィーと呼ばれる技術が用いられている。近年、露光機の投影レンズとレジストの間を水等の屈折率の高い物質で満たすことにより光の波長を短くし、解像度を向上させる液浸リソグラフィーと呼ばれる技術が注目されている。
【0003】
しかし、液浸リソグラフィーにおいては、水等を使用することに伴う水滴残り、レジスト膜への水の染み込み、レジスト組成物の水への溶出が問題となる。すなわち、水滴残りにより、露光後もレジストが濡れたままになると、水が乾く際の毛細管現象によりレジスト組成物が凝集されてレジスト上に残渣となったり、露光後の加熱工程においてレジスト中の化学反応を阻害して正常なレジストパターニングが行えないといった問題が発生する。また、レジスト膜への水の染み込みが起こると、レジスト自体が膨潤したり、レジスト中の化学反応を阻害したりといった問題が発生する。さらに、レジストの成分として使用されている樹脂、酸発生剤、添加剤、溶剤などが水へ溶出すると、液浸媒体である水を汚染し、さらには水と接している露光機の投影レンズにダメージを与えてしまうという問題が発生する。
【0004】
これらの問題を解決するため、レジスト上に撥水性のトップコート層を設けることにより、水滴残り、レジスト膜への水の染み込み、レジスト組成物の水への溶出を防ぐ方法が開発されている。しかし、トップコート層を設けると、材料コスト・製造コストが増加するだけでなく、トップコート層とレジストとのマッチングが悪いことによるリソグラフィー性能劣化という新たな問題を生じさせるものであった。
【0005】
この問題を解決すべく研究された結果、このような撥水性のトップコート層を設ける必要のない、液浸リソグラフィー用フォトレジスト組成物が開発された(特許文献1及び特許文献2)。これらのフォトレジスト組成物では、通常のフォトレジストに用いられる基材ポリマーに、フッ素を多く含む基を有する撥水ポリマーを配合している。
【0006】
【特許文献1】特開2007-187887号公報
【特許文献2】特開2007-304537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
基材ポリマーに撥水ポリマーを配合した、トップコート層の形成が不要な液浸リソグラフィー用フォトレジスト組成物では、該組成物を基板上に塗布した際に、撥水ポリマーが表層に効率的に集積するようになっていれば、塗布されたフォトレジスト表層の疎水性が特に高くなり、有利である。
【0008】
従って、本発明の目的は、基板上に塗布した際に、撥水ポリマーが表層に効率的に集積し、表層の撥水性が特に高くなる樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、鋭意研究の結果、撥水ポリマーを、フッ素を多く含む基(以下、「フッ素多含基」という)を有する構成単位と、基材ポリマーと同一又は類似の構造を有する構成単位とを含む共重合体で構成すると共に、該共重合体をブロック共重合体とすることにより、組成物を基板上に塗布した際にフッ素多含基がより効率的に表層に集積し、表層の疎水性が特に高くなることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、基材ポリマーと、撥水ポリマーとを含む組成物であって、
(1) 前記基材ポリマーは、酸の作用によりアルカリ溶解性が変化するポリマーであり、
(2) 前記撥水ポリマーは、
(i) 少なくとも2種類のモノマーが結合して成る、ブロック共重合体であり、
(ii) 該少なくとも2種類のモノマーのうちの少なくとも1種のモノマーに由来する側鎖がフッ素多含基を有しており、
(iii) 該少なくとも2種類のモノマーのうち、前記フッ素多含基を有するモノマー以外のモノマーに由来する少なくとも1種の側鎖の構造が、前記基材ポリマーの前記側鎖の少なくとも1種と同一又は類似の構造を有する、
組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基板上に塗布した際に、表面に撥水ポリマーが効率的に集積する樹脂組成物が提供される。そして、本発明の組成物を液浸リソグラフィー用のレジストに利用すれば、基板上に塗布した際に、撥水ポリマーが表層に効率的に集積し、表面のみが撥水性となるため、液浸に用いる水等によるフォトレジスト組成物への影響が排除され、高い分解能を達成することができる。従って、本発明は、半導体素子等の高精細な加工に大いに寄与するものと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の組成物に含まれる基材ポリマーは、酸の作用によりアルカリ溶解性が変化するポリマーであればよく、従来のフォトレジスト組成物に含まれる公知の基材ポリマーのいずれをも用いることができる。酸の作用によりアルカリ溶解性が増大するもの(ポジ型フォトレジストを与える)でも、減少するもの(すなわち、もともとアルカリ可溶性で、酸の作用により、別途含まれる架橋剤と反応してアルカリ不溶性になるものであり、ネガ型フォトレジストを与える)でもよいが、増大するものが好ましく、すなわち、本発明のフォトレジスト組成物は、ポジ型フォトレジスト組成物であることが好ましい。
【0013】
酸の作用によりアルカリ溶解性が増大するポリマー(以下、便宜的に「ポジ型基材ポリマー」という)としては、通常、主鎖と側鎖を有するポリマーであって、側鎖に酸解離性溶解抑制基(アルカリ溶解性を抑制する基であるが酸によって解離するために酸の存在下ではアルカリ溶解抑制機能がなくなる基)を有するポリマーが用いられている。この用途に用いられる酸解離性溶解抑制基は周知であり、例えばtert-ブチル基のような3級アルキル基、tert-ブトキシカルボニル基のような3級アルコキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニルメチル基のような3級アルコキシカルボニルアルキル基、2-メチル-2-アダマンチル基若しくは2-エチル-2-テトラシクロドデシル基のような1-置換脂肪族環式基等が知られている。また、3級アルキル基、3級アルコキシカルボニル基又は3級アルコキシカルボニルアルキル基において1つの分枝鎖がシクロアルキル基や芳香環等の他の基に置換されたものも用いることができる。本発明においては、このような公知の酸解離性溶解抑制基のいずれをも用いることができ、エッチング耐性の面からは2-アルキル-2-アダマンチル基を用いることが好ましく、合成の容易さ、ひいては合成コストの観点からは、3級アルキル基、特にtert-ブチル基を用いることが好ましい。
【0014】
ポジ型基材ポリマーは、アクリル酸又はその誘導体に由来する構成単位を含むことが好ましい。ここでアクリル酸誘導体としては、アクリル酸のα位の炭素原子に置換基が結合したα置換アクリル酸や、アクリル酸又は置換アクリル酸のエステルを挙げることができる。α位の置換基としては、ハロゲン、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のハロゲン化アルキル基を挙げることができ、炭素数1〜5のアルキル基が好ましい。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「アルキル基」には、特に断りがない限り直鎖状アルキル基及び分枝状アルキル基が包含される。
【0015】
ポジ型基材ポリマーは、ホモポリマーであっても、2種類以上の構成単位を含む共重合体であってもよい。ホモポリマー又は2種類の構成単位を含む共重合体が好ましく、特に側鎖に酸解離性溶解抑制基を有する構成単位と、有さない構成単位である2種類の構成単位を含むランダム共重合体が好ましい。
【0016】
アクリル酸又はその誘導体に由来する構成単位を含む好ましいポジ型基材ポリマーとして、下記一般式[I]で表されるものを挙げることができる。
【0017】
【化1】

【0018】
式[I]中、Xは酸解離性溶解抑制基、R1、R2及びR3は互いに独立して、水素原子、又は酸存在下における溶解性に悪影響を与えない、酸解離性溶解抑制基以外の任意の有機基、nは正の数、mは0以上の数を表わし、mが0以外の場合には、該基材ポリマーはランダム共重合体である)。
【0019】
上記式[I]中、Xで示される酸解離性溶解抑制基は、周知の酸解離性溶解抑制基のいずれであってもよく、上記したとおり、tert-ブチル基のような3級アルキル基、tert-ブトキシカルボニル基のような3級アルコキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニルメチル基のような3級アルコキシカルボニルアルキル基、2-メチル-2-アダマンチル基若しくは2-エチル-2-テトラシクロドデシル基のような1-置換脂肪族環式基等が挙げられ、エッチング耐性の面からは2-アルキル-2-アダマンチル基を用いることが好ましく、合成の容易さからは、3級アルキル基、特にtert-ブチル基を用いることが好ましい。また、3級アルキル基、3級アルコキシカルボニル基又は3級アルコキシカルボニルアルキル基において1つの分枝鎖がシクロアルキル基や芳香環等の他の基に置換されたものも用いることができる。
【0020】
上記式[I]中、R1、R2及びR3は互いに独立して、水素原子、又は酸存在下における溶解性に悪影響を与えない、酸解離性溶解抑制基以外の任意の有機基である。
【0021】
R1の好ましい例としては、例えば、アルキル基(好ましくは炭素数1〜5)、ラクトン含有環式基又は極性基含有脂肪族炭化水素基を挙げることができる。
【0022】
ここで、ラクトン含有環式基は、-O-C(O)-構造を含むひとつの環(ラクトン環)を含有する環式基を示し、特許文献1に記載されてる種々のラクトン含有環式基を採用することができる。例えば、ラクトン含有単環式基(ラクトン環をひとつ目の環として数え、ラクトン環のみのもの)としては、γ − ブチロラクトンから水素原子1つを除いた基が挙げられる。また、ラクトン含有多環式基(ラクトン環をひとつ目の環として数え、ひとつ目のラクトン環以外の環を有するもの)としては、ラクトン環を有するビシクロアルカン、トリシクロアルカン、テトラシクロアルカンから水素原子一つを除いた基が挙げられる。
【0023】
極性基含有脂肪族炭化水素基も特許文献1に記載されており、それらを採用することができる。すなわち、極性基含有脂肪族炭化水素基に含まれる極性基としては、水酸基、シアノ基、カルボキシ基、アルキル基の水素原子の一部がフッ素原子で置換されたヒドロキシアルキル基等が挙げられ、特に水酸基が好ましい。脂肪族炭化水素基としては、炭素数1〜10の直鎖状または分岐状の炭化水素基(好ましくはアルキレン基)や、多環式の脂肪族炭化水素基( 多環式基) が挙げられる。該多環式基としては、例えばArFエキシマレーザー用レジスト組成物用の樹脂において、多数提案されているものの中から適宜選択して用いることができる。その中でも、水酸基、シアノ基、カルボキシ基、またはアルキル基の水素原子の一部がフッ素原子で置換されたヒドロキシアルキル基を含有する脂肪族多環式基を含むアクリル酸エステルから誘導される構成単位がより好ましい。該多環式基としては、ビシクロアルカン、トリシクロアルカン、テトラシクロアルカンなどから1 個以上の水素原子を除いた基などを例示できる。具体的には、アダマンタン、ノルボルナン、イソボルナン、トリシクロデカン、テトラシクロドデカンなどのポリシクロアルカンから1 個以上の水素原子を除いた基などが挙げられる。これらの多環式基の中でも、アダマンタンから2 個以上の水素原子を除いた基、ノルボルナンから2 個以上の水素原子を除いた基、テトラシクロドデカンから2個以上の水素原子を除いた基が工業上好ましい。
【0024】
R2及びR3の好ましい例としては、互いに独立して水素原子、ハロゲン、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のハロゲン化アルキル基を挙げることができる。
【0025】
上記式[I]中、nは正の数、mは0以上の数を表わし、nとmの合計に対するnの比率が20%以上で、好ましくは、40%以上である。mは0であってもよく、この場合には、全ての側鎖が酸解離性溶解抑制基を有する。基材ポリマーの重量平均分子量は3000〜4万であることが好ましく、5000〜2万がさらに好ましい。n及びmは、好ましくは、このような分子量を与える数である。
【0026】
上記式[I]に示される各構成単位中のX、R1、R2及びR3としては、構成単位毎に独立して採用することができ、従って、3種類以上のモノマーから基材ポリマーを合成することも可能である。また、ポリマーの末端は、他の種類のモノマーであってもよい。
【0027】
一方、ネガ型の基材ポリマー(すなわちアルカリ可溶性樹脂)としては、α-(ヒドロキシアルキル)アクリル酸やその低級アルキル(本明細書において「低級アルキル」は炭素数1〜5のアルキルを意味する)エステルのようなアクリル酸誘導体から構成されるポリマーが用いられており、好ましい。
【0028】
フォトレジストがネガ型である場合には、組成物はさらに架橋剤を含む。ネガ型フォトレジストの架橋剤としては、メチロール基やアルコキシメチル基を有するグリコールウリル等のアミノ系架橋剤が広く用いられており、本発明においてもこれらを好ましく用いることができる。なお、フォトレジスト組成物中の架橋剤の配合量は、アルカリ可溶性樹脂100重量部に対し、1〜50重量部の範囲が好ましい。
【0029】
本発明のフォトレジスト組成物に含まれる撥水ポリマーは、上記の通り、(i)少なくとも2種類のモノマーが結合して成る、主鎖と側鎖を有するブロック共重合体であり、 (ii)該少なくとも2種類のモノマーのうちの少なくとも1種のモノマーに由来する側鎖がフッ素多含基を有しており、 (iii)該少なくとも2種類のモノマーのうち、前記フッ素多含基を有するモノマー以外のモノマーに由来する少なくとも1種の側鎖の構造が、前記基材ポリマーの前記側鎖の少なくとも1種と同一又は類似の構造を有するものである。ここで類似の構造を有するとは、同一の官能基を有し、炭素数が1〜3だけことなる構造を有することを意味する。
【0030】
すなわち、本発明のフォトレジスト組成物に含まれる撥水ポリマーは、フッ素多含基を有する側鎖を持つ構成単位を含む。ここで、「フッ素多含基」は、この基を構成する全原子の過半数の原子がフッ素原子であるか、フッ素原子を6以上有する基を意味する。
【0031】
フッ素多含基の好ましい例として、水素原子の80%以上、さらに好ましくは全水素原子がフッ素原子に置換されたフッ素化アルキル基又はフッ素化脂肪族環式炭化水素基を挙げることができる。ここで、フッ素化アルキル基の鎖長は特に限定されないが、炭素数3〜12程度が好ましく、炭素数5〜9程度がさらに好ましい。また、フッ素化脂肪族炭化水素基の炭素数は特に限定されないが、4〜16が好ましく、6〜12が特に好ましい。
【0032】
なお、フッ素化アルキル基を用いる場合には、鎖長にはばらつきがあってもよい。全水素原子がフッ素原子に置換した、フッ素化アルキル基を含む重合性モノマー(例えば、フッ素化アルキル基(最も多く含まれるものが炭素数7)をエステル部分に含む、メタクリル酸のエステル)が市販されているので、このような市販のフッ素多含基含有モノマーを用いて撥水ポリマーを合成することができる。
【0033】
フッ素多含基の他の好ましい例としては、パーフルオロアルキル基を2つ以上有する、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、ラクトン含有基、脂肪族環式基が挙げられる。
【0034】
撥水ポリマーを構成する、フッ素多含基を含有しない構成単位の側鎖は、基材ポリマーの構成単位の少なくとも一種の側鎖と同一又は類似の構造を有する。これにより、撥水ポリマーと基材ポリマーの相溶性が高くなるため、撥水ポリマーが表面に集積しやすくなると考えられる。ここで、類似の構造を有するとは、同一の官能基を有し炭素数が1〜3だけ異なることを意味する。なお、撥水ポリマーが表面に集積しやすくするためには、構造が類似ではなく同一であることが好ましい。
【0035】
基材ポリマーがポジ型の場合には、撥水ポリマーを構成する、フッ素多含基を含有しない構成単位の側鎖は、基材ポリマー中の、酸解離性溶解抑制基を含む側鎖と同一又は類似の構造を有する。
【0036】
上記の通り、基材ポリマーは、2種類のモノマーが結合して成るランダム共重合体であることが好ましく、この場合、撥水ポリマーは、2種類(ただし、フッ素化アルキル基等の鎖長のばらつきは1種類と数える)のモノマーが結合して成り、該撥水ポリマーのフッ素多含基を有さない側鎖の構造が、前記基材ポリマーの側鎖の一方と同一又は類似の構造を有するものであることが好ましい。
【0037】
本発明において、撥水ポリマーは、ブロック共重合であることが重要な特徴である。すなわち、撥水ポリマーは、フッ素多含基を含む側鎖を有する構成単位が連続するセグメントを含む。下記実施例に具体的に記載されるように、このようにフッ素多含基を含む側鎖を有する構成単位がブロックを形成していることにより、フォトレジストを基板上に塗布した際にフッ素多含基が効率的にフォトレジスト層の表面に集中し、フォトレジスト層の表面の撥水性が特に高くなるので有利である。
【0038】
基材ポリマーと同様、撥水ポリマーもアクリル酸又はアクリル酸誘導体に由来する構成単位を含んでいることが好ましく、基材ポリマーが上記一般式[I]で表わされるアクリル酸系のポリマーである場合、撥水ポリマーは下記一般式[II]で表されるものが好ましい。
【0039】
【化2】

【0040】
式[II]中、X´は前記式[I]中のXと同一又は類似する基、Zはフッ素多含基、Yは存在してもしなくてもよく、存在する場合には、O原子とフッ素多含基Zを連結するスペーサー構造、R5及びR6は互いに独立して、水素原子又は酸存在下における溶解性に悪影響を与えない任意の有機基、p及びqは互いに独立して正の数を表し、該撥水ポリマーは、X´を含む構成単位とZを含む構成単位のブロック共重合体である。
【0041】
式[II]中、X´は、Xと同一又は類似する基である。ここで、Xは既に説明したとおりの酸解離性溶解抑制基であり、Xと類似するとは、Xと同一の官能基を有し炭素数が1〜3だけ異なることを意味する。Zはフッ素多含有基であり、既に説明した通りである。Yは、O原子とフッ素多含基Zを連結するスペーサー構造であり、存在していても存在していなくてもよい。存在する場合、フォトレジストの性能に悪影響を与えない任意の構造であってよく、好ましい例として、炭素数1〜5のアルキレン基を挙げることができる。
【0042】
式[II]中、R5及びR6は互いに独立して、水素原子、又は酸存在下における溶解性に悪影響を与えない任意の有機基であり、式[I]中のR1の好ましい例としては、アルキル基、ラクトン含有環式基又は極性基含有脂肪族炭化水素基を挙げることができる。R2及びR3の好ましい例としては、互いに独立して水素原子、ハロゲン、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のハロゲン化アルキル基を挙げることができる。
【0043】
p及びqは互いに独立して正の数を表し、pとqの合計に対するqの比率が10%〜40%、好ましくは15%〜30%である。撥水ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは3000〜4万、好ましくは6000〜26000であり、p及びqは、この好ましい重量平均分子量を与える数であることが好ましい。
【0044】
上記式[II]に示される各構成単位中のX´、Y、Z、R及びRとしては、構成単位毎に独立して採用することができ、従って、3種類以上のモノマーから撥水ポリマーを合成することも可能である。また、ポリマーの末端は、他の種類のモノマーであってもよい。
【0045】
撥水ポリマーは、フッ素多含基を有するアクリル酸系モノマー及び酸解離性溶解抑制基を有するアクリル酸系モノマー等をブロック共重合させること等により合成することができ、有機合成化学の常識に従って容易に合成することができる。下記実施例にも好ましい合成方法が具体的に記載されている。
【0046】
前記撥水ポリマーの含量は、該撥水ポリマー及び前記基材ポリマーの合計重量に対して通常、0.1〜50重量%であり、好ましくは1〜20重量%である。
【0047】
本発明の組成物は、溶媒に溶解させて基板に塗布すると、表面に撥水ポリマーが集積するため、表面のみが撥水性となる樹脂を容易に製造することを可能とする。例えば、基材ポリマーが上記の一般式[I]で表され、撥水ポリマーが上記の一般式[II]で表される組成物を用いた場合には、表面のみが撥水性となる透明樹脂を容易に製造することができ、透明樹脂層の上に重ねて撥水性の防汚層を塗布することなく、一回の塗布工程で、防汚性を有する窓材、レンズ、水槽などを製造することができる。
【0048】
ここで、溶媒とは本発明の組成物を溶解できるものであれば特に限定されないが、非水性の有機溶剤が好ましく、例えば、トリフルオロトルエン(TFT)、ベンゼン、フルオロベンゼン、トルエン、ジフルオロトルエン、アセトン、メチルエチメケトン、テトラヒドロフランテトラクロロエチレン、クロロベンゼン、テトラクロロエタン等が挙げられる。
【0049】
本発明の組成物は、さらに、露光により酸を発生する酸発生剤成分(以下、「光酸発生剤」ということがある)を含有させることにより、フォトレジスト組成物とすることができる。なお、ここで、「露光」は、紫外線等の光の他、電子線や放射線を包含する広い意味で用いている。光酸発生剤自体はこの分野において周知であり、公知のいずれの光酸発生剤をも用いることができる。このような光酸発生剤としては、ヨードニウム塩やスルホニウム塩などのオニウム塩系酸発生剤、オキシムスルホネート系酸発生剤、ビスアルキルまたはビスアリールスルホニルジアゾメタン類、ポリ(ビススルホニル) ジアゾメタン類などのジアゾメタン系酸発生剤、ニトロベンジルスルホネート系酸発生剤、イミノスルホネート系酸発生剤、ジスルホン系酸発生剤など多種のものが知られ、実用化されており、本発明においてもこれらを好ましく用いることができる。光酸発生剤の含量としては、特に限定されないが、通常、基材ポリマー及び撥水ポリマーの合計量に対して0.1〜20重量%程度、好ましくは1〜15重量%程度である。
【0050】
本発明のフォトレジスト組成物は、上記した各成分を含むものであるが、使用時には、上記各成分を溶媒中に含む溶液を基板上に塗布する。この際の溶媒としては、上記各成分を溶解できるものであれば特に限定されず、通常、トリフルオロトルエン(TFT)のようなフッ素化芳香族系溶媒が用いられる。溶媒中の各成分の濃度は、各成分が全量溶解される濃度であればよく、通常、溶液の全重量に対し、基材ポリマーと撥水ポリマーの合計の濃度が5〜20重量%、好ましくは7〜15重量%程度である。なお、溶液の塗布厚さは、特に限定されないが、通常、乾燥後の膜厚が200nm〜800nm程度、好ましくは300nm〜600nm程度になる厚さである。
【0051】
基板上に塗布したフォトレジスト溶液は、加熱乾燥後、周知の方法により液浸露光される。加熱乾燥条件は、フォトレジスト組成物中の各成分や基板に悪影響を与えない条件であれば特に限定されず、通常、80℃〜120℃程度の温度下で、30秒〜2分間程度加熱乾燥される。
【0052】
本発明のフォトレジスト組成物は、基板に塗布した場合に、表面に撥水ポリマーが効率よく集積して、表面のみが撥水性となるため、液浸リソグラフィー用のフォトレジスト組成物として有用である。
【0053】
本発明の液浸リソグラフィー用フォトレジスト組成物は、表面が撥水性となり、水滴残り、レジスト膜への水の染み込み、レジスト組成物の水への溶出といった問題を防止するだけでなく、表面以外の部分では撥水ポリマーの含有量が少ないため、優れたレジスト特性を有するものである。また、表面に集積する撥水ポリマーは、酸分解性基を有しているため、露光したときに良好なパターンを形成することが可能である。
【0054】
液浸露光の方法自体は、従来と全く同様であり、露光装置のレンズとフォトレジスト表面の間に水等の液体を介在させて露光する。レンズとフォトレジスト表面の間の距離は、通常、80nm〜100nm程度である。
【0055】
露光後の現像も従来と全く同様に行なうことができる。露光後、現像に先立ち、反応を促進するため、上記と同様な条件で加熱することが好ましい。次に、アルカリ性水溶液を現像液として用いて現像することができる。アルカリ現像液としては、周知のものを用いることができ、例えば、水酸化ナトリウム水溶液やテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(両者とも濃度は通常1〜3重量%)等を好ましく用いることができる。現像時間は、通常20秒〜1分程度である。現像後、純水等の洗浄液を用いてリンスすることにより、フォトマスクのパターンに対応したパターンが得られる。
【0056】
本発明は、上記の組成物だけでなく、下記一般式[II]で示される新規な高分子化合物をも提供するものである。
【0057】
【化3】

【0058】
(式中、X´は酸解離性溶解抑制基、Zはフッ素多含基、Yは存在してもしなくてもよく、存在する場合には、O原子とフッ素多含基Zを連結するスペーサー構造、R5及びR6は互いに独立して、水素原子又は酸存在下における溶解性に悪影響を与えない任意の有機基、p及びqは互いに独立して正の数を表し、該撥水ポリマーは、Xを含む構成単位とZを含む構成単位のブロック共重合体である)
【0059】
上記一般式[II]において、X´は、既に説明したとおりの酸解離性溶解抑制基であり、特に、分岐鎖に置換基を有していてもよい三級アルキル基とするのが好ましい。Zは、既に説明した通りのフッ素多含有基であり、特に、アルキル基中の水素原子の80%以上がフッ素原子に置換されたフッ素化アルキル基とするのが好ましい。Yは、O原子とフッ素多含基Zを連結するスペーサー構造であり、存在していても存在していなくてもよい。存在する場合、フォトレジストの性能に悪影響を与えない任意の構造であってよく、好ましい例として、炭素数1〜5のアルキレン基を挙げることができる。
【0060】
式[II]中、R5及びR6は互いに独立して、水素原子、又は酸存在下における溶解性に悪影響を与えない任意の有機基であり、特に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のハロゲン化アルキル基とすることが好ましい。
【0061】
p及びqは互いに独立して正の数を表し、pとqの合計に対するqの比率が10%〜40%、好ましくは15%〜30%である。撥水ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは3000〜4万、好ましくは6000〜26000であり、p及びqは、この好ましい重量平均分子量を与える数であることが好ましい。
【0062】
本発明の高分子化合物は、フォトレジストの添加剤として使用することにより、基板に塗布したときに表面のみを撥水性とすることができるため、液浸リソグラフィー用フォトレジスト添加剤として有用である。
【0063】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0064】
実施例1、比較例1、2
1.基材ポリマーの合成
基材ポリマーとして、上記式[I]に包含され、下記式[III]で表されるアクリル酸系ランダム共重合体を合成した。
【0065】
【化4】

【0066】
合成は、市販のメタクリル酸メチル(MMA)と、市販のメタクリル酸tert-ブチル(TBMA)を、市販の重合開始剤である(2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)の存在下で重合させることにより行なった。具体的には次のようにして行なった。
【0067】
アリーンコンデンサー、滴下ろうと、窒素導入管を備え付けた500 ml三口フラスコに、テトラヒドロフラン(THF) 37.5 gを加えた。10分間窒素バブリングを行った後、70℃に昇温し、MMA 18.7 g、TBMA 26.4 g、AIBN 6.14 gをTHF61.4 gに溶かしたものを、60分かけて滴下ろうとで加えた。滴下終了後、70℃で30分撹拌を行った。室温まで放冷した反応溶液をヘキサンに再沈殿して、その後ヘキサンでリスラリーを三回行い、一晩真空乾燥したところ、白色粉末を17.0 g得た(収率37.7%)。
【0068】
得られたポリマーをプロトン核磁気共鳴スペクトル(1H NMR)で構造解析と組成分析を行なった。測定装置は、日本電子製のJMN-a400(測定周波数400 Hz)を用いて行った。試料は、20-30 mgを重クロロホルム(containing 0.03 vol% TMS)に溶かし、50℃に昇温し積算回数128回で測定を行った。その結果、MMA由来のピークとTBMA由来のピークが観察されたので目的の精製物が得られたと判断した。また、各ピークの積分比から求めた共重合mol比は、3.00/3:10.93/9 =55:45であった。
【0069】
また、得られたポリマーについて、分子量と分散をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した。GPCは次のようにして行なった。ポンプに日本分光製JASCO 880-PU、検出器として日本分光製インテリジェントRI検出器(RI2031 PLUS)を使用した。カラムは7.6 mmφ、300 mmのステンレス製を使用し、スチレン-ジビニルベンゼンゲルを固定相に、THFを移動相に用いた。試料約5 mgを1mlのTHFに溶かし、その溶液20μLをマイクロシリンジで測り取り、ループインジェクターに注入した。検量線は、昭和電工製のPSt standardを用いて作製した。
【0070】
その結果、重量平均分子量が9200(数平均分子量は5100、分散(P.D.)が1.8)であった。
【0071】
2. 撥水ポリマーの合成
撥水ポリマーとして、上記式[II]に包含され、下記式[IV]で表されるアクリル酸系ブロック共重合体を合成した。
【0072】
【化5】

【0073】
なお、式[IV]中、-(CF2)r-CF3は、市販のフッ素化アルキル基含有メタクリル酸エステル中に含まれるフッ素化アルキル基であり、鎖長にばらつきがあり、最も多く含まれるもののrは6である。
【0074】
(1) マクロ開始剤(PTBMA)の合成
合成は、まず、TBMAのホモポリマー(PTBMA)を合成し、次に、Aldrich社から市販されている、フッ素化アルキル基含有メタクリル酸エステル(商品名Zonyl)を共重合させることにより行なった。具体的には次のようにして行なった。
【0075】
【化6】

【0076】
オイルバス、マグネチックスターラー、三方コック(セプタム付)を備えた50 mlナスフラスコに、CuBrを35 mg (0.25 mmol)、CuBr2を5.4 mg (0.025 mmol)加え、真空加熱乾燥、窒素置換した。その後、配位子としてPMDETAを206μL (0.098 mmol)、溶媒としてアセトンを0.5 ml加え撹拌し、銅を溶かした。モノマーであるTBMAを4 ml (25 mmol)、開始剤の2-ブロモプロピオン酸メチル(MBP)を55μL (0.49 mmol)加えて撹拌し、凍結脱気を4回行った。その後、60 ℃に昇温し、70分後に少し粘度が出てきたことを確認し、反応をとめた。緑色の反応溶液は、アルミナカラムに通すと淡黄色透明の液体となった。これを、水とメタノールの混合溶液(体積で1:1)で3回再沈殿した。得られた白色粉末を、一晩真空乾燥したところ1.15 g(収率38 %)であった。
【0077】
得られたマクロ重合開始剤について、分子量と分散をGPCにより測定した。その結果、重量平均分子量は、8100(数平均分子量は5800、分散(P.D.)は1.3)であった。
【0078】
(2) ブロック共重合体の合成
【0079】
【化7】

【0080】
オイルバス、マグネチックスターラー、三方コック(セプタム付)を備えたすり付き試験管に、CuBrを0.078 g(0.55 mmol)、マクロ開始剤であるPTBMAを0.3 g(0.055 mmol)加えて加熱真空乾燥、窒素置換を行った。その後、配位子のPMDETAを114μL(0.55 mmol)、溶媒としてアニソールを0.46 ml、TFTを0.46 ml加え、撹拌し銅をできるだけ溶かそうと試みたところ、黒緑色の不透明な液体が得られた。その後、モノマーであるZonyl(商品名)を1.82 ml(5.5 mmol)加え、撹拌し、凍結脱気を4回行った。その後、100℃に昇温し15時間反応を行った。反応溶液をアルミナカラムに通し、黄色透明なポリマー溶液を得た。これを、メタノールと水の混合溶液(体積で4:1)で3回再沈殿し、一晩真空乾燥したところ、0.125 gの白色粉末が得られた。
【0081】
得られたブロック共重合体を、上記と同様にして1H NMR及びGPCにより分析した。得られた1H NMRスペクトルを図1に示す。図1に示すように、フッ素ブロック由来のピークが確認されたので、GPCの結果と合わせてブロックコポリマーが合成できたと判断した。Zonyl(商品名)メチレンのピークであるdやfと、Zonyl(商品名)とTBMAの主鎖メチレンのピークであるgの積分比(2.00:10.18)から、Zonyl(商品名)ユニットとTBMAユニットのmol比((2/2):((10.18-2)/2)=79:21)を求めた。また、ユニット分子量をかけた重量比は、Zonyl(商品名)とTBMAで50:50であった。GPCの結果、重量平均分子量は、13000(数平均分子量は11000、分散(P.D.)は 1.2)であった。分子量がマクロ開始剤より増大していることが確認された。
【0082】
3.比較ランダム共重合体の合成(比較例1)
比較のため、下記式[V]で表される、Zonyl(商品名)由来の構成単位を含む、アクリル酸系のランダム共重合体を合成した。
【0083】
【化8】

【0084】
オイルバス、マグネチックスターラー、アリーンコンデンサーを備えた50mlナスフラスコにTHF 7.4 g、MMA 0.80 g、TBMA 1.1 g、Zonyl(商品名)1.1 gを入れ、5分間窒素バブリングした。その後、AIBN 0.16 gを加え、三方コックを取り付け、窒素気流下にしてから70℃に温度を上げた。2時間後にオイルバスから上げて、反応を終了した。反応溶液をヘキサンで再沈殿し、ヘキサンでリスラリーを3回行った後、一晩真空乾燥して、白色粉末1.1 gを得た(収率36.7 %)。
【0085】
1H NMRの結果、ピークの積分比(39.81:12.07:2.00)から、TBMA, MMA,Zonyl(商標名)構成単位の共重合mol比は、 (39.8/9):(12.1/3):(2.0/2)=47:42:11であった。また、GPC測定の結果、重量平均分子量は22000(数平均分子量は14000、と分散は1.6であった。
【0086】
4. フォトレジスト組成物の調製
上記で合成した各種ポリマーを含むフォトレジスト組成物を調製した。溶媒としてはTFTを用いた。溶液中のポリマー濃度(2種類のポリマーを含む場合はそれらの合計)は10重量%とした。光酸発生剤としては、市販の光酸発生剤である(4-メトキシフェニル)ジフェニルスルホニウム トリフルオロメタンスルホネートを採用し、溶液中に1重量%の濃度で配合した。なお、紫外線によって光反応が進むので、この溶液調製並びに後述する製膜、接触角の測定及び露光・現像実験は、イエローランプ照明のクリーンルームで行った。
【0087】
3種類のフォトレジスト組成物を調製した。実施例1のフォトレジスト組成物は、本発明の組成物であり、ポリマーとして、上記式[III]で示される基材ポリマー9重量%と、上記式[IV]で示される撥水ポリマー1重量%を含むものであった。比較例1のフォトレジスト組成物は、ポリマーとして、上記式[V]で示される3種類の構成単位から成るランダム共重合体のみを含むものであった。比較例2のフォトレジスト組成物は、ポリマーとして、上記式[III]で示される基材ポリマーのみを含むものであった。
【0088】
5. 製膜
4で調製した3種類のフォトレジスト組成物のそれぞれを、フィルター付のシリンジでシリコン基板に落とし、スピンコーター(3000 rpmで15秒)で余分な溶液を飛ばして製膜した。その後、さらに溶媒を飛ばすために、100℃のホットプレートで1分間加熱した。
【0089】
6. 接触角
得られたフォトレジスト膜上に、5μLの脱イオン水をマイクロシリンジで落とし、側方から写真撮影した。撮影された水滴の形状から接触角を測定した。結果を下記表1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
表1に示されるように、本発明のフォトレジスト組成物から作製されたフォトレジスト膜は、表面の接触角が最も大きく、従って、撥水性に優れていることがわかる。特に、実施例1の組成物は、フッ素の含有量が比較例1の組成物の約1/7しかないが、フッ素の含有量がはるかに少ないにも関わらず、接触角が最も大きい。これは、後述する表面のX線光電子分光解析と併せるとより明らかになるように、撥水ポリマーがブロック共重合体であるため、フッ素原子が膜の表面により効率的に集中するためであると考えられる。
【0092】
7. X線光電子分光(XPS)による元素分析
実施例1のフォトレジスト組成物を用いて得られたフォトレジスト膜の表面にX線を当てて、出てくる光電子の速度を測定することにより、元素分析を行った。また、スパッタリングとXPS測定を交互に繰り返すことによって、元素の深さ方向の分布を測定した。市販の光電子分光計(QuanteraSXM(Physical Electronics社製)を用いて行なった。この測定では、X線光源として、単色化したAl線(0.6 eV)を使用し、検出深さは約4-5 nmであった。また、Ar+イオンで2.0kVでスパッタリングを行った。
【0093】
結果を図2に示す。XPS測定を始めに行って、その後ArスパッタリングとXPSを交互に繰り返し、深さ方向の分布を得た。O原子とF原子が選択的にスパッタリングされるので、2回目以降の測定で原子濃度が急激に減少している。しかし、一回目の測定はスパッタリングを行う前なので、膜最表面の原子濃度であると考えられる。ポリマー組成から計算した膜のFの原子比は5 %であるが、一回目の測定が50 %であるので、表面にF原子が局在化していることを確認できた。
【0094】
8. 露光と現像
上記の通り調製したフォトレジスト膜の約半分を、黒塗りしたスライドガラスで被覆し、市販の紫外線露光装置により、波長254nmの紫外線を1分間照射した。反応を促進させるために、ホットプレートを使って100℃で30秒間加熱した。その後、2 %の水酸化ナトリウム水溶液で現像し、純水で洗浄した。水は窒素ガンで吹き飛ばし、乾燥させた。
【0095】
その結果、実施例1、比較例1及び比較例2のいずれにおいても、紫外線を照射した領域は、ホットプレートを用いた加熱中に変色し、その後の水酸化ナトリウム水溶液での現像により、溶解除去された。これにより、本発明のフォトレジスト組成物が、感光性を有することが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の実施例で合成された、本発明のフォトレジスト組成物中に含まれる撥水ポリマーの1H NMRスペクトルを示す図である。
【図2】本発明の実施例で作製されたフォトレジスト膜の表面のX線電子分光の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材ポリマーと、撥水ポリマーとを含む組成物であって、
(1) 前記基材ポリマーは、酸の作用によりアルカリ溶解性が変化するポリマーであり、
(2) 前記撥水ポリマーは、
(i) 少なくとも2種類のモノマーが結合して成る、ブロック共重合体であり、
(ii) 該少なくとも2種類のモノマーのうちの少なくとも1種のモノマーに由来する側鎖がフッ素多含基を有しており、
(iii) 該少なくとも2種類のモノマーのうち、前記フッ素多含基を有するモノマー以外のモノマーに由来する少なくとも1種の構造が、前記基材ポリマーの主鎖または側鎖の少なくとも1種と同一又は類似の構造を有する、
組成物。
【請求項2】
前記基材ポリマーが下記一般式[I]:
【化1】

(式中、Xは酸解離性溶解抑制基、R1、R2及びR3は互いに独立して、水素原子、又は酸存在下における溶解性に悪影響を与えない、酸解離性溶解抑制基以外の任意の有機基、nは正の数、mは0以上の数を表わし、mが0以外の場合には、該基材ポリマーはランダム共重合体である)
で表わされ、前記撥水ポリマーが下記一般式[II]:
【化2】

(式中、X´は前記式[I]中のXと同一又は構造が類似する酸解離性溶解抑制基、Zはフッ素多含基、Yは存在してもしなくてもよく、存在する場合には、O原子とフッ素多含基Zを連結するスペーサー構造、R5及びR6は互いに独立して、水素原子又は酸存在下における溶解性に悪影響を与えない任意の有機基、p及びqは互いに独立して正の数を表し、該撥水ポリマーは、X´を含む構成単位とZを含む構成単位のブロック共重合体である)
で表わされる請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記フッ素多含基が、アルキル基中の水素原子の80%以上がフッ素原子に置換されたフッ素化アルキル基である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記一般式[II]中のR5及びR6が互いに独立して水素原子、ハロゲン、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のハロゲン化アルキル基であり、Yが炭素数1〜5のアルキレン基であり、X及びX´が分岐鎖に置換基を有していてもよい三級アルキル基であり、Zが、アルキル基中の水素原子の80%以上がフッ素原子に置換されたフッ素化アルキル基であり、pとqの合計に対するqの比率が10%〜40%であり、前記一般式[I]中のnとmの合計に対するnの比率が20%以上であることを特徴とする、請求項2記載の組成物。
【請求項5】
前記撥水ポリマーの含量が、該撥水ポリマー及び前記基材ポリマーの合計重量に対して0.1〜50重量%である請求項1ないし6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の組成物と、露光により酸を発生する酸発生剤成分とを含むフォトレジスト組成物。
【請求項7】
液浸リソグラフィー用であることを特徴とする、請求項6に記載のフォトレジスト組成物。
【請求項8】
下記一般式[II]で示される高分子化合物。
【化3】

(式中、X´は酸解離性溶解抑制基、Zはフッ素多含基、Yは存在してもしなくてもよく、存在する場合には、O原子とフッ素多含基Zを連結するスペーサー構造、R5及びR6は互いに独立して、水素原子又は酸存在下における溶解性に悪影響を与えない任意の有機基、p及びqは互いに独立して正の数を表し、該撥水ポリマーは、Xを含む構成単位とZを含む構成単位のブロック共重合体である)
【請求項9】
前記一般式[II]中のR5及びR6が互いに独立して水素原子、ハロゲン、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のハロゲン化アルキル基であり、Yが炭素数1〜5のアルキレン基であり、X´が分岐鎖に置換基を有していてもよい三級アルキル基であり、Zが、アルキル基中の水素原子の80%以上がフッ素原子に置換されたフッ素化アルキル基であり、pとqの合計に対するqの比率が10%〜40%である請求項8記載の高分子化合物。
【請求項10】
請求項9に記載の高分子化合物を含む、液浸リソグラフィー用フォトレジスト添加剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−2839(P2010−2839A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−163331(P2008−163331)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】