説明

液滴塗布装置

【課題】寸止め手法による液滴塗布装置を提案する。
【解決手段】先端に液滴を生成した塗布用針が寸止め位置に降下したときこれを検出して当該液塗布針の降下を停止させるようにしたことにより、塗布用針を塗布対象に当接させずに的確に液滴を塗布対象に塗布できる液滴塗布装置を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液滴塗布装置に関し、特に微小な液滴を塗布対象に的確に塗布できるようにしようとするものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞などを含む試料液体を塗布対象としての基板上に微小な液滴として配列塗布し、かくして形成されたマイクロアレーを生体の培養や改良などに用いられている。
【0003】
このマイクロアレーを形成する手法として、液保持管内に先端が先細りのピン部材を挿通させると共に、当該ピン部材の先端を塗布対象である基板に当接させることにより、ピン部材の先端に付着した液を液滴として塗布対象に塗布する方法のものが提案されている(特許文献1及び2参照)。
【特許文献1】特許第3299212号公報
【特許文献2】特開2001−46062公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところがこの種の従来の液滴塗布装置は、ピン部材の先端を塗布対象の塗布面に押し当てているため、押し当てた状態において試料液体が多量に流れ込んだり、当接したピン部材の針先が曲がったり、塗布対象の塗布面を損傷させたりするといった問題がある。
【0005】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、塗布用針を塗布対象に当接させることなく微小な液滴を塗布対象に的確に塗布できるようにした液滴塗布装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するため本発明においては、塗布液を収納する塗布液収納部材9を通って塗布用針11を降下させることにより塗布対象5に液滴LQを塗布する液塗布装置本体2を有する液滴塗布装置1において、塗布液収納部材9から降下して先端に液滴LQを生成した塗布用針11が、液滴LQが塗布対象5に接触する直前の寸止め位置に降下したことを検出する針降下検出手段21と、液滴LQを塗布対象5に塗布すると共に針降下検出手段21の検出出力S11によって塗布用針11の降下動作を停止させる寸止め手段SP10とを設けるようにする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、先端に液滴を生成した塗布用針が寸止め位置に降下したときこれを検出して当該液塗布針の降下を停止させるようにしたことにより、塗布用針を塗布対象に当接させずに的確に液滴を塗布対象に塗布できる液滴塗布装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0009】
(1)全体構成
図1において、1は全体として液滴塗布装置を示し、塗布対象としての基板上に液滴を順次塗布することによりマイクロアレーを形成する液滴塗布装置本体2を有する。
【0010】
液滴塗布装置本体2は、図2及び図3に示すように、固定基台3上に配設されたXYステージ4上にマイクロアレーを形成すべき塗布基板5を載置すると共に、当該塗布基板5の表面に上方から対向するようにZステージ6が設けられている。
【0011】
この実施の形態の場合、XYステージ4は固定基台3の所定位置に位置決めされたXステージ部4Aを有し、このXステージ部4Aが上面に装着されたYステージ部4BをX軸方向に移動させると共に、Yステージ部4Bが上面に載置された塗布基板5をY軸方向に移動させ、これによりZステージ6に対する塗布基板5のXY平面上の位置を順次位置決めできるようになされている。
【0012】
Zステージ6は、固定基台3上に上方に延長するように設けられた架台8に粗動ステージ部6Aを取り付けてなり、当該粗動ステージ6Aの架台8に固着された固定部6A1に対してZ軸方向に摺動する摺動部6A2に対して微動ステージ部6Bの固定部6B1が固着され、これにより粗動ステージ部6Aは、移動ステージ部6BをZ軸方向に粗いピッチで降下又は上昇させる。
【0013】
粗動ステージ部6Aの摺動部6A2には、下方に突出するように、塗布液保持部材を構成するガラス製ピペット9を保持するピペット保持部材10が取り付けられており、これによりピペット9が微動ステージ部6Bの固定部6B1と共に、Z軸方向に粗いピッチでZ軸方向に降下又は上昇するようになされている。
【0014】
微動ステージ部6Bの摺動部6B2には液滴塗布部材としての塗布用針11がZ軸方向に沿うように取り付けられ、これにより微動ステージ6Bの摺動部6B2が固定部6B1に対して摺動動作したとき、塗布用針11がZ軸方向に沿ってピペット9内を通って所定の速度で降下又は上昇する。
【0015】
かくして図4(A)に示すように、微動ステージ6Bの摺動部6B2が摺動動作をしていない基準位置にある状態において、粗動ステージ部6Aの摺動部6A2が液滴塗布動作位置にまで降下したとき、塗布用針11の先端部がピペット9の先端より下方に突出した状態になる。
【0016】
この状態において、微動ステージ6Bの摺動部6B2が、図4(B)において矢印aで示すように上方に摺動動作することによって塗布用針11の先端がピペット9の内部に引き込まれた状態になる。
【0017】
この状態において、微動ステージ6Bの摺動部6B2が、図4(C)において矢印bで示すように、基準位置(4(A))より下方に降下すると、塗布用針11の先端がピペット9内に収納されている塗布液中を通って下方に突出する状態になる。
【0018】
このとき塗布用針11の先端面及びその近傍の周面がピペット9内から下方に突出する際に、ピペット9内に収納されている塗布液を引き連れて下方に突出することによって塗布用針11の先端に液滴LQが生成され、これが塗布基板5上に塗布される。
【0019】
この状態において、微動ステージ6Bの摺動部6B2が、図4(D)において矢印cで示すように、上方に摺動動作して基準位置に戻ると液滴塗布装置本体2の液滴塗布動作の一巡動作が終了する。
【0020】
かかる液滴塗布装置本体2の図4(A)ないし(D)の液滴塗布動作は、ステージ制御部15(図1)から送出されるZステージ制御信号S1によってZステージ6の粗動ステージ部6A及び微動ステージ部6Bが駆動制御されることにより実行される。
【0021】
また図4(A)ないし(D)の液滴塗布動作は、ステージ制御部15から送出されるXYステージ制御信号S2によってXYステージ4が制御されることにより、Xステージ4A及びYステージ4Bが塗布基板5上にn行m列の液滴LQを塗布してなるマイクロアレーを形成するように、塗布用針11に対して塗布基板5を順次位置決めする。
【0022】
ステージ制御部15は、パーソナルコンピュータ構成のシステム制御ユニット16によって、ユーザがデータ入力部17から入力する入力データS3と、塗布用針降下位置検出装置21から得られる降下位置データS4とに基づいて制御される。
【0023】
(2)塗布用針降下位置検出装置
塗布用針降下位置検出装置21は、液滴塗布装置本体2の塗布用針11が塗布基板5に対して降下したとき、データ入力部17からのユーザの指示内容に応じて、ユーザが「針接触モード」を選択したとき塗布用針11の針先が塗布基板5の表面に接触したことを検出して液滴塗布動作をさせるような制御を実行すると共に、ユーザが「寸止めモード」を選択したとき塗布用針11の先端が塗布基板5の表面に近接して液滴LQを塗布する位置にまで降下したとき(これを寸止め位置と呼ぶ)これを検出してその降下を止めて液滴塗布動作をさせる(この動作を寸止め動作と呼ぶ)ような制御を実行する。
【0024】
塗布用針11が塗布基板5に接触したか否かの検出、及び寸止め位置にまで降下したか否かの検出は、図5ないし図8に示す構成の塗布用針降下検出装置21によって検出する。
【0025】
塗布用針降下検出装置21は、塗布基板5上の塗布用針11の先端面と対向する投射点P1に向けて投射レーザ光L1を放出するレーザ光放射素子21Aと、投射レーザ光L1の塗布基板5からの反射光L2を受光するレーザ光素子21Bとを有する。
【0026】
この実施の形態の場合、レーザ光放射素子21A及び反射光受光素子21Bは、図2及び図3に示すように、ピペット保持部材10上においてピペット9の先端部を挟む位置に取り付けられ、粗動ステージ部6Aの摺動部6A2が下方摺動して微動ステージ6Bの摺動部6B2が図4(A)〜(D)の液滴塗布動作をする状態において、レーザ光放射素子21Aが投射レーザ光L1を塗布基板5の投射点P1に投射できるように設定されている。
【0027】
かくして塗布基板5上の投射点P1を通って塗布基板5の表面に対して直角方向に延長する仮想線K1上を塗布用針11が上昇した状態にあると、レーザ光放射素子21Aの投射レーザ光L1が仮想線K1に対して入射角θ1で入射すると共に、反射光L2が仮想線K1に対して反射角θ1で反射する。
【0028】
反射光受光素子21Bは、図6に示すように、直交座標軸U軸及びV軸を有するU−V検出平面を有し、反射光L2が原点(U0,V0)に入射したとき、検出出力S11として(U=0〔V〕,V=0〔V〕)の電圧出力を発生する。
【0029】
これに対して反射光L2の入射位置がU軸上を正の検出限界点(U1,V0)の方向にずれたとき、反射光受光素子21Bは検出出力S11として(U=0〜+10〔V〕,V=0〔V〕)の電圧出力を送出する。
【0030】
以下同様にして反射光L2の入射位置がU軸上を負の限界点(−U1,V0)の方向にずれたとき検出出力S11として(U=0〜−10〔V〕,V=0〔V〕)の電圧出力を送出し、反射光L2の入射位置がV軸上を正の検出限界点(U0,+V1)の方向にずれたとき検出出力S11として(U=0〔V〕,V=+10〔V〕)の電圧出力を送出し、反射光L2の入射位置がV軸上を負の検出限界点(U0,−V1)までずれたとき検出出力S11として(U=0〔V〕,V=−10〔V〕)の電圧出力を送出する。
【0031】
この結果反射光受光素子11Bは、反射光L2の入射位置が原点(U0,V0)から座標位置(−U1〜+U1,−V1〜+V1)のいずれかの座標位置にずれると、当該ずれた座標位置に対応する電圧出力(U=−10〜+10〔V〕,V=−10〜+10〔V〕)を検出出力S11として送出する。
【0032】
このような構成の反射光受光素子21Bに対して、液滴塗布装置本体2の塗布用針11が図4について上述したような液滴塗布動作をする際に、図4(A)及び(B)のように、液滴形成前の状態において塗布用針11が塗布基板5から上方に大きく離間している場合には、レーザ光放出素子21Aの投射レーザ光L1が図5に示すように直接塗布基板5の投射位置P1に投射することによって反射光L2がレーザ光L1の入射角θ1と同じ反射角θ1で反射することにより、反射光L2は図6に示すように、反射光受光素子21Bの原点位置(U0,V0)に入射して反射光像Z1を生成する状態になる。
【0033】
このとき信号処理回路21Dから送出される降下位置データS4は原点位置(U0,V0)を表すことになり、この降下位置データS4がシステム制御ユニット16に取り込まれることにより、システム制御ユニット16は塗布用針11が塗布基板5に対して塗布動作を行う位置に降下していないことを判知できる。
【0034】
これに対して塗布用針11が、図4(C)に示すように、先端面が塗布基板5の表面に近接した寸止め位置にまで降下したことによって塗布用針11の先端面に形成された液滴LQが塗布基板5に塗布される状態になると、図7に示すように、液滴LQが基板5の投射位置P1に接触する直前の位置にまで近づくことによって、投射レーザ光L1が塗布用針11の先端部を照射すると共に、当該先端部の先端に形成された液滴LQを透過する状態になる。
【0035】
このとき投射レーザ光L1は液滴LQの界面において屈折して当該屈折透過光L11が基板5の表面において反射して反射透過光L12として液滴LQの界面の方向に透過して行く。
【0036】
この反射透過光L12は、液滴LQから外気に出る際に、液滴LQの界面によってさらに屈折して反射光L2として反射光受光素子21Bに入射する。
【0037】
このとき反射光受光素子21B上に生ずる反射光像Z2は、図8において矢印eで示すように、塗布用針11が塗布基板5から離間しているときに得られた反射光像Z1(図5及び6)が反射光受光素子21Bの原点位置(U0,V0)に入射していたのに対して、液滴LQの屈折によってその屈折量に応じた座標位置(UK,VK)に移動する。
【0038】
この反射光像Z2の入射位置を表す投下位置データS4はシステム制御ユニット16に供給され、これによりシステム制御ユニット16は、塗布用針11が寸止め位置にまで降下したこと及びこれにより液滴LQが基板5の表面に接触する状態に至ったことを明確に判知することができる。
【0039】
このとき塗布用針11は図4(D)について上述したように、液滴LQを塗布基板5に塗布するので、システム制御ユニット16はステージ制御部15に対して上昇指令を与えることにより、塗布用針11を基準位置にまで上昇した状態に制御することができる。
【0040】
(3)液滴塗布処理手順
システム制御ユニット16はデータ入力部17によってユーザが液滴塗布処理指令を入力したとき、図9に示す液滴塗布処理手順RT1を実行する。
【0041】
液滴塗布処理手順RT1に入ると、システム制御ユニット16はステップSP1においてデータ入力部17から入力される入力データS1に基づいて、図10に示す項目を含む初期設定条件を初期設定条件メモリ16Aに保存する。
【0042】
続いてシステム制御ユニット16はステップSP2に移って、ステージ制御部15に対して基板位置決め情報を与えることにより、初期設定条件メモリ16Aに入力された条件に基づくXYステージ制御信号S2をXYステージ4に与えることにより塗布用針11に対して基板5を位置決めする。
【0043】
図10の実施の形態の場合、基板5上には、図11に示すように、2行3列の塗布液滴LQXを塗布してなるマイクロアレー30を生成する。
【0044】
続いてシステム制御ユニット16は、次のステップSP3に移って、塗布用針11を初期設定された速度で降下させる(微動ステージ部6Bによって)と共に、ステップSP4において塗布用針降下検出装置21を用いて基板5上の塗布用針11の検出動作を行う。
【0045】
この実施の形態の場合塗布用針11が液滴塗布動作を開始するとき(図4(A))、塗布用針11の先端から基板5までの距離は5〔mm〕であり、この位置から2〔mm/s〕の針速度で50〔μm〕の塗布用針11を125〔μm〕のピペットの内を基板5まで5〔μm〕の寸止め位置まで降下させることにより、150〔μm〕の液滴サイズの塗布液滴LQXを塗布する。
【0046】
続くステップSP5において、システム制御ユニット16はユーザがデータ入力部17によって指定した塗布モードが「寸止めモード」か否かの判断をし、否定結果が得られたとき、ステップSP6に移って基板5に塗布用針11が適正に接触したか否かの判断をする。
【0047】
このようにステップSP5において否定結果が得られたことは、ユーザが図12に示すように塗布用針11を基板5に接触させた状態で液滴の塗布を行う接触塗布モードをユーザが選択したことを意味し、このとき投射レーザ光L1は基板5に接触した位置にまで降下した塗布用針11によって遮光されることにより投射点P1にまで到達できない状態になり、その結果図13に示すように、反射光受光素子21Bの原点位置(U0,V0)には反射光L2が到達しないために、破線図示のように反射光像Z1が形成されない状態になることを意味している。
【0048】
このとき反射光受光素子21Bの原点位置(U0,V0)における検出出力S11は、図14に示すように、塗布用針11が降下している状態においてその先端が塗布基板5に接触する前の状態においては反射光像Z1が入射していることにより高い検出電圧V1が得られる状態になっているのに対して塗布用針11が塗布基板5に接近するに従って先端面と塗布基板5との間の間隙が狭くなって行くに従って検出出力が検出電圧V1から低下し始め、やがて先端が塗布基板5に接触したとき、投射レーザ光L1が遮光状態になることにより低い検出電圧V2が得られる状態に安定する。
【0049】
かくして、システム制御ユニット16は反射光受光素子21Bの原点位置(U0,V0)からの検出出力S1が検出電圧V1からV2に遷移する途中で参照値RF1を横切ったとき、塗布用針11が塗布基板5に接触したと判断してステップSP7に移る。
【0050】
これに対して、反射光受光素子21Bの検出出力S1が基準値RF1を横切らない状態になったときには、システム制御ユニット16はステップSP6において否定結果が得られることにより塗布用針11が適正に塗布基板5に接触しなかったものとして、ステップSP8に移って塗布用針11を基準位置に上昇させた後、上述のステップSP3に戻って再度塗布用針11の降下処理をやり直す。
【0051】
これに対してステップSP6において肯定結果が得られたとき、このことは塗布用針11が塗布基板5に適正に接触して液滴の塗布動作ができることを意味しており、このときシステム制御ユニット16は塗布対象として用いられている塗布基板5に対する塗布用針11の降下条件を更に適正に調整するオフセット値(ユーザによってデータ入力部17から入力される)を設定した後、ステップSP10において液滴の塗布動作をする。
【0052】
これに対して、上述のステップSP5において肯定結果が得られると、このことは塗布用針11を塗布基板5に接触させずに直前で止めて図7及び図8について上述した寸止めにより液滴の塗布をする動作モードが選定されていることを意味し、このときシステム制御ユニット16はステップSP11に移って反射光受光素子21Bにおいて生じた反射光像Z2の位置(UK,VK)と原点(U0,V0)との位置の差を検出し、その検出結果に基づいてステップSP12において液滴があるか否かの判断をする。
【0053】
ここで肯定結果が得られると、このことは塗布用針11の先端に液滴LQがあることによって反射光受光素子21Bに生ずる反射光像Z2が、液滴がない場合に生ずる反射光像Z1の位置から移動していることを意味する(図8)。
【0054】
この反射光像の移動は、図10について上述したような初期設定条件のうち、液滴粘度、液滴サイズ、基板表面の親水性、現在塗布している液滴の液屈折率RFKによってレーザ光が液滴LQを透過する際の屈折動作によって決まる。
【0055】
そこで当該屈折動作によって決まる所定位置に反射光像Z2が生じたとき、システム制御ユニット16は、ステップSP12において肯定結果が得られることにより、次のステップSP13に移って現在検出している塗布液についての調整条件となるオフセット値(ユーザによってデータ入力部17から入力される)を入力してより適正な検出結果を得られるように修正した後、ステップSP10に移って液滴を塗布基板5に塗布すると共に、塗布用針11の降下動作を停止させる。
【0056】
これに対して上述のステップSP12において否定結果が得られると、このことは現在の液滴の検出条件に基づく移動位置に反射光像Z2が生じていないことを意味し、このときシステム制御ユニット16はステップSP14において塗布用針11を一旦上昇させた後上述のステップSP3に戻ってステップSP12において肯定結果が得られるまで針の降下動作をやり直す。
【0057】
実際上反射光受光素子21Bは反射光像Z2が生ずる位置(UK,VK)の検出出力S12として、図15に示すように、塗布用針11の先端に形成された液滴LQ(図7)が塗布基板5の光投射点P1の位置まで降下する前の状態においては反射光像Z1が生じている状態にあるので(図8)、電圧出力V11が得られている状態になっているのに対して、液滴LQが降下してきて塗布基板5の光投射位置P1に接近するに従って反射光像Z2への移動が開始されることにより、検出出力S12が電圧出力V11からV12に上昇して行き、やがて液滴LQが塗布基板5に接触する位置にまで降下したとき、以後電圧出力V12の状態に安定する。
【0058】
従ってシステム制御ユニット16は反射光受光素子21Bの反射光像Z2の位置(UK,VK)の検出出力S12が参照値RF2を横切ったとき、ステップSP12において肯定結果を得るような動作をする。
【0059】
このような検出動作を適正に行うため、現在検出している塗布液の粘度や基板の親水性などのバラツキをステップSP13においてオフセット値を設定することにより適正に修正する。
【0060】
かくしてシステム制御ユニット16は、マイクロアレー30(図11)の2行3列の塗布液滴LQXのうち、ステップSP2において位置決めされた位置の塗布液滴LQXを塗布基板5上に塗布した後、次のステップSP15において全ての塗布液滴LQXについて位置決めを終了したか否かを判断し、未だ全ての塗布液滴LQXを塗布していないときステップSP16において塗布用針11を上昇させた後上述のステップSP2に戻って他の塗布液滴LQXについての塗布動作を繰り返す。
【0061】
かくしてステップSP15において肯定結果が得られたとき、このことはマイクロアレー30上に全ての塗布液滴LQXを塗布したことを意味し、このときシステム制御ユニット16はステップSP17に移って当該液滴塗布処理手順RT1を終了する。
【0062】
図9の液滴塗布処理手順RT1によれば、塗布用針11を塗布基板5に接触させずに寸止め位置に停止させた状態で塗布用針11の先端に生成した液滴を塗布基板5上の所定位置に確実に塗布することができる。
【0063】
これに加えて、ユーザが塗布基板5に対して塗布用針11を接触させた状態で塗布する塗布モードを選択したときには、この場合も塗布基板5の所定位置に確実に液滴を塗布することができる。
【0064】
(4)異なる液滴量の塗布
図7について上述したように、塗布液を収納する塗布液収納部材としてのピペット9内を塗布用針11を降下させることにより形成した液滴LQを、塗布基板5上に接触させた状態で塗布用針11を寸止めして液滴LQを塗布基板5上に塗布するようにした液滴塗布装置本体2を用いて液滴塗布作業をする際に、液滴LQの大きさ(従って液滴塗布量)は、塗布用針11の降下速度と液滴LQの粘度の選択の仕方によって際立った差があり、これによりユーザは塗布基板5に塗布する液滴の大きさを塗布基板5の用途に従って必要に応じて選択することができる。
【0065】
図16(A)の場合は、塗布用針11の降下速度を高速度(=2.5〔mm/sec〕)に選定すると共に、塗布液の粘度を高粘度(=1000〔mPas〕)に選定した場合の液滴生成動作を高速度カメラによって観察したもので、塗布用針11の降下開始時点t1から塗布用針11が寸止め位置まで降下した時点t6までの間において、塗布用針11の先端がピペット9から突出する際に、塗布液が高粘度であることにより粘性応力が大きくかつ塗布用針11の降下速度が高速度であることにより粘性応力が大きくなることによって全体として塗布用針11の先端が塗布液を引っ張る力が大きくなり、これにより塗布用針11に付着した塗布液が表面張力によってピペット9側に引き戻されずに塗布用針11の先端に付着したまま降下して行き、その結果塗布用針11が寸止め位置に達したとき、その先端面に残る液滴LQの量は最も多くなる。
【0066】
これに対して、図16(B)の場合は、塗布用針11の降下速度を高速度(=2.5〔mm/sec〕)に選定すると共に、塗布液の粘度を低粘度(=500〔mPas〕)に選定した場合、塗布用針11の降下開始時点t11から寸止め位置で停止した時点t15までの間において、塗布用針11の降下速度が図16(A)の場合と同じく高速度で粘性応力が大きいのに対して塗布液の粘度が低粘度になった分粘性応力が小さくなって塗布用針11の先端がピペット9から降下する際の塗布液に対する引っ張り力が図16(A)の場合と比較して小さくなる。このとき、塗布用針11の先端に付着する塗布液が表面張力によりピペット9側に引き戻される量が大きくなり、その結果塗布用針11が寸止め位置に来たときに先端に形成される液滴LQの液量は図16(A)の場合より少なくなり、第2番目の液量になる。
【0067】
また、図16(C)の場合は、塗布用針11の降下速度を低速度(=1.0〔mm/sec〕)に選定すると共に、塗布液の粘度を高粘度(=1000〔mPas〕)に選定した場合で、塗布用針11の降下開始時点t21から寸止めにより停止する時点t26までの間において、塗布用針11の降下速度が低速度になったことにより図16(A)の場合からの粘性応力の落ち込みが図16(B)の場合より大きくなるため塗布用針11の塗布液に対する引っ張り力が図16(B)の場合と比較して小さくなる。このとき、ピペット9の表面張力による引き戻し量が図16(B)の場合と比較して大きくなり、その結果塗布用針11が寸止め位置に来たとき先端に形成される液滴LQの量は図16(B)の場合より少ない第3番目の量になる。
【0068】
さらに、図16(D)の場合は、塗布用針11の降下速度を低速度(=1.0〔mm/sec〕)に選定すると共に、塗布液の粘度を低粘度(=500〔mPas〕)に選定する。
【0069】
この場合塗布用針11の降下開始時点t31から寸止め位置に停止する時点t34に至るまでの間において、塗布液の粘度が図16(C)の場合と比較して小さくなったことにより小さくなるため、塗布用針11がピペット9から降下する際に表面張力により引き戻される量が大きくなることにより、寸止め位置t34に来たときに塗布用針11の先端に生成される液滴LQの量は図16(C)の場合より小さい第4番目の量になる。
【0070】
図16(A)ないし(D)によれば、塗布基板5に対する液滴LQの塗布量を塗布用針11の降下速度及び塗布液の粘度を選択することによって4段階の大きさに区別できるような大きさの異なる液滴LQを生成することができる。
【0071】
かくして液滴LQの大きさが4段階に変更された場合、液滴LQの形状が変わるので投射レーザ光L1に対する屈折投射光L11及び屈折反射光L12並びに反射光L2(図7)の屈折方向が当該形状に応じて異なる方向になる。
【0072】
この結果反射光受光素子21Bに受ける反射光像Z2(図8)の原点(L0,V0)からの移動方向eがそれぞれ変化することにより、システム制御ユニット16は上述したと同様にしてそれぞれの場合において塗布用針11が寸止め位置にまで降下して来たときこれをそれぞれ検出することができる。
【0073】
かくして同じ構成の液滴塗布装置本体2を用いてユーザが塗布基板5の用途に応じた塗布量の液滴を容易に生成することができる。
【0074】
(5)第2の実施の形態
図17は第2の実施の形態を示すもので、図7との対応部分に同一符号を付して示すように、投射レーザ光L21として、塗布用針11の降下仮想線K1上における塗布基板5の光投射点P1に集束するようなレーザ光Lを用い、図17(A)に示すように、塗布用針11が寸止め位置にまで降下する前の状態において、投射レーザ光L21は塗布基板5において反射されて光投射点P1から発散するような反射光L22を形成し、これを反射受光素子21BXに入射させる。
【0075】
反射受光素子21BXは、入射して来る反射光L22の全光量に対応する検出出力を得るように構成され、これにより図17(B)に示すように、塗布用針11が寸止め位置にまで降下したとき、反射光L22のうち、塗布用針11の先端によって遮光された遮光部分L23の分だけ反射光受光素子21BXに対する光量が小さくなるように構成されている。
【0076】
かくして反射光受光素子21BXにおいて得られる検出出力は、図1の検出出力S11として信号処理回路21Dに入力され、信号処理回路21Dは当該反射光受光素子21BXへの反射光L22の光量の変化に応じて塗布用針11が図17(A)の降下動作状態から図17(B)の寸止め動作状態になるとき、これに応じて変化する降下位置データS4をシステム制御ユニット16に入力する。
【0077】
以上の構成において、第1の実施の形態において上述したと同様に塗布用針11がピペット9内を通って塗布基板5の方向に降下して行くことにより塗布用針11の先端に液滴LQを形成して寸止め位置にまで来たとき、反射光受光素子21BXの検出出力S11が受光した反射光L22の光量変化に応じて変化することにより、信号処理回路21Dが塗布用針11が寸止め位置に降下したことを表す降下位置データS4をシステム制御ユニット16に与え、これによりシステム制御ユニット16は図9の液滴塗布処理手順RT1に従って塗布基板5上に液滴を塗布する。
【0078】
かくして図17の構成によっても、上述の場合と同様にして塗布用針11を塗布基板5に当接させずに寸止め位置において塗布基板5に対して液滴を的確に塗布することができる。
【0079】
(6)他の実施の形態
上述の実施の形態においては、液滴LQとして細胞を含んだ資料をマイクロアレー30(図11)上に塗布液滴LQXとして塗布する場合に適用したが、本発明はこれに限らず、タンパク質又はDNAをマイクロアレー上に分注したり、液晶パネルについて、断線した箇所に導電樹脂を塗布することにより修復作業をしたり、基板上に接着剤や半田ペーストなどの微小液滴を塗布したりするような場合に広く適用し得る。
【0080】
また上述の実施の形態においては、塗布液収納部材としてのガラスピペット9内を、タングステン材料でなる塗布用針11を通すことにより塗布用針11の先端に液滴LQを形成させるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、要は塗布液を収納する塗布液収納部材を通って塗布用液を降下させる構成のものであれば良い。
【0081】
さらに、上述の実施の形態においては液滴量を、塗布用針11の降下速度及び液滴LQの粘度に基づいて選択するようにした場合について述べたが、これに代え、又はこれと共に、塗布基板5の表面特性(粗さ、親水性)や、液滴LQ中の含有物に基づいて選択するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は塗布対象に対して微小液滴を塗布する場合に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明による液滴塗布装置の一実施の形態を示す略線的ブロック図である。
【図2】図1の液滴塗布装置本体の詳細構成を示す正面図である。
【図3】図1の液滴塗布装置本体を示すQ1−Q1断面図である。
【図4】(A)〜(D)は液滴塗布動作の説明に供する略線的断面図である。
【図5】図1の針降下検出装置を示す略線的側面図である。
【図6】図5の反射光受光素子の説明に供する略線的平面図である。
【図7】塗布用針の液滴塗布動作の説明に供する略線的側面図である。
【図8】図7の反射光受光素子の検出動作の説明に供する略線的平面図である。
【図9】図1のシステム制御ユニット16の液滴塗布処理手順を示すフローチャートである。
【図10】図1のシステム制御ユニットに対して入力される初期設定条件を示す図表である。
【図11】液滴塗布装置本体2によって生成されるマイクロアレーの説明に供する略線的平面図である。
【図12】塗布用針による接触塗布動作の説明に供する略線的側面図である。
【図13】図12の接触塗布モード時の反射光受光素子の検出動作の説明に供する略線的平面図である。
【図14】接触塗布モードにおける反射光受光素子の検出動作の説明に供する信号波形図である。
【図15】寸止め動作時における反射光受光素子の検出動作の説明に供する信号波形図である。
【図16】異なる液滴量の液滴の形成動作の説明に供する略線的側面図である。
【図17】(A)及び(B)は第2の実施の形態における塗布用針の寸止め検出動作の説明に供する略線的側面図である。
【符号の説明】
【0084】
1……液滴塗布装置、2……液滴塗布装置本体、3……固定基台、4……XYステージ、4A……Xステージ部、4B……Yステージ部、5……塗布基板、6……Zステージ、6A……粗動ステージ部、6A1……固定部、6A2……摺動部、6B……微動ステージ部、6B1……固定部、6B2……摺動部、8……架台、9……ピペット、10……ピペット保持部材、11……塗布用針、21……針降下検出装置、21B……反射光受光素子、30……マイクロアレー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布液を収納する塗布液収納部材を通って塗布用針を降下させることにより塗布対象に液滴を塗布する液塗布装置本体を有する液滴塗布装置において、
上記塗布液収納部材から降下して先端に液滴を形成した上記塗布用針が、上記液滴が上記塗布対象に接触する寸止め位置に降下したことを検出する針降下検出手段と、
上記液滴を上記塗布対象に塗布すると共に上記針降下検出手段の検出出力によって上記塗布用針の降下動作を停止させる寸止め手段と
を具えることを特徴とする液滴塗布装置。
【請求項2】
上記針降下検出手段は、上記塗布用針が上記寸止め位置に降下したとき、上記塗布用針の先端部と共に、当該先端部の先端に生成された液滴に投射レーザ光を投射し、上記液滴を屈折しながら透過して上記塗布対象によって反射して上記液滴から射出する反射光の投射位置に応じた上記検出出力を得る
ことを特徴とする請求項1に記載の液滴塗布装置。
【請求項3】
上記液塗布装置本体は、上記塗布用針の降下速度と上記塗布液の粘度を選定することにより液滴量が異なる複数の液滴を選択的に形成できる
ことを特徴とする液滴塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−191091(P2008−191091A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28094(P2007−28094)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(504133110)国立大学法人 電気通信大学 (383)
【Fターム(参考)】