説明

溶射材料

【課題】 近年のコークス炉は、使用条件の過酷化や炉寿命の長期延命化といった要求があり、操業に支障をきたさないように溶射補修をする材料を開発するにある。
【解決手段】 耐火性粒子、金属粒子の混合物を酸素と共に高温の被補修体に吹き付け、金属粒子の酸化発熱反応により混合物を溶融させて被補修体に溶着させる溶射材料であって、上記耐火性粒子は2mm以下の粒子径で、SiO2 を65重量%以下で、かつAl23 を35〜70重量%含む組成の原料を主成分とし、そのアルカリ成分(Na2 O、K2 O)が1重量%以下で、金属粒子は粒子径が150μm以下の金属シリコンを配合するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は工業炉、金属溶融容器の溶射材料分野におけるこれらの耐火物損耗部位の補修に使用する溶射材料に関するもので、その材料に含まれる金属粒子の酸化発熱反応により、耐火性粒子、低融点粒子を溶融し、被補修体を溶着させる溶射材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鉄所のコークス炉は、建設してから20年以上のものが多く、特に炭化室の壁の補修が必要である。操業しながら補修する技術として溶射補修法がある。溶射補修法には、プラズマ溶射、レーザー溶射、火炎溶射があるが、大掛かりな装置が必要である。
【0003】
一方、テルミット反応等の金属粉の酸化燃焼反応熱で耐火粒子を溶融させ、補修面に溶着させる方法がある。この方法は、金属粒子と耐火粒子の混合物を酸素で高熱の補修面に吹き付け、金属粒子の酸化反応熱で耐火粒子を溶融して溶着させる方式であるため、装置が簡易である特徴を有する。
【0004】
操業休止時間、すなわち補修時間が限られているため、限られた人員でコークス炉の炭化室を溶射補修するとき、掃除する時間が取れないことがある。この場合、補修作業を中断して扉を閉めて2〜6日放置することがある。このとき、溶射材の耐火物粒子が珪石れんがや珪砂であると、リバウンドにより落下した粒子が固化し、炭化室炉底を掃除するのが困難になる。石炭を炭化室に入れ、操業を開始する前には炉底を清掃しておかなければならない。
【0005】
したがって、リバウンドで落下した粒子が1000〜1300℃で2日位放置されても固化しなく、炉底の掃除が容易にできることが重要となる。
【0006】
先行技術の特公平5−21865、特開平5−17237、特開2000−159579では、珪石等のシリカ系耐火材料を使用しているので、リバウンド物が1000〜1300℃で2日位放置されると固化してくるので、炉底の掃除が容易にできない。
【特許文献1】特公平5−21865
【特許文献2】特開平5−17237
【特許文献3】特開2000−159579
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年のコークス炉は、使用条件の過酷化や炉寿命の長期延命化といった要求があり、操業に支障をきたさないように溶射補修をする必要が増している。溶射作業では、必ずリバウンドがあり、炉底に落下堆積する。珪石等のシリカ系耐火材料を使用すると、リバウンド物が1000〜1300℃で2日位放置されると、燃焼材に使用した金属シリコンの落下物と反応し、耐火材の落下物が固化してくる。発熱量や燃焼した生成物(SiO2 )を考えると、燃焼材として金属シリコンが最適であり、他に代えがたい。
【0008】
すなわち、金属シリコンを燃焼材として用いることにより、コークス炉炭化室壁の珪石れんがに強固に接着し、かつ溶射体自体も強固なものになる。したがって、金属シリコン落下物と反応して固化しないものを耐火材として使用する必要が生じた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記のような点に鑑みたもので、上記の課題を解決するために、耐火性粒子、金属粒子の混合物を酸素と共に高温の被補修体に吹き付け、金属粒子の酸化発熱反応により混合物を溶融させて被補修体に溶着させることを特徴とする溶射材料であって、耐火性粒子は2mm以下の粒子径で、SiO2 を65重量%以下で、かつAl23 を35〜70重量%含む組成の原料を主成分とし、そのアルカリ成分(Na2 O、K2 O)が1重量%以下で、金属粒子は粒子径が150μm以下の金属シリコンであることを特徴とする溶射材料を提供するにある。
【0010】
また、発火点が300℃以上、800℃以下である炭素系粉末または金属粉末または炭素系粉末と金属粉末の混合物を5重量%以下で着火促進剤として溶射材料に添加することを特徴とする溶射材料を提供するにある。
【0011】
さらに、平均粒径が0.2μm以下であるシリカ超微粉末を5重量%以下で粉体流動化促進剤として溶射材料に添加することを特徴とする溶射材料を提供するにある。
【発明の効果】
【0012】
本発明の溶射材料は、耐火性粒子は2mm以下の粒子径でSiO2 を65重量%以下で且つ、Al23 を35〜70重量%含む組成の原料を主成分とし、そのアルカリ成分(Na2 O、K2 O)が1重量%以下で、金属粒子は粒子径が150μm以下の金属シリコンとすることによって、燃焼材である金属粒子のリバウンド物と耐火物粒子のリバウンド物同士が高温(1100〜1300℃)でくっついて固化するのを有効に防止でき、また金属粒子の酸化燃焼熱で良好に溶融してリバウンドを防止できて、良好に溶射することができる。
【0013】
また、発火点が300℃以上、800℃以下である炭素系粉末または金属粉末または炭素系粉末と金属粉末の混合物を5重量%以下で着火促進剤として溶射材料に添加することによって、溶射開始時に容易に発火でき、かつ爆発の危険がなくて安全に溶射できる。
【0014】
さらに、平均粒径が0.2μm以下であるシリカ超微粉末を5重量%以下で粉体流動化促進剤として溶射材料に添加することによって、ホッパータンクに溶射材料を入れて切り出すときに棚吊りすることなく、良好に切り出せ、また脈動が発生せずに良好な溶射ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の溶射材料は、耐火性粒子、金属粒子の混合物を酸素と共に高温の被補修体に吹き付け、金属粒子の酸化発熱反応により混合物を溶融させて被補修体に溶着させることを特徴とする溶射材料であって、耐火性粒子は2mm以下の粒子径で、SiO2 を65重量%以下で、かつAl23 を35〜70重量%含む組成の原料を主成分とし、そのアルカリ成分(Na2 O、K2 O)が1重量%以下で、金属粒子は粒子径が150μm以下の金属シリコンであることを特徴としている。
【0016】
耐火材は、表1に示す構成として、図1のように耐火材と金属シリコンとの混合物をアルミナルツボに入れて1300℃で焼成し、熱間で固化するかをクラスター硬度計で調査した。その結果、耐火材のSiO2 成分が65重量%以下で、かつAl23 成分が35重量%以上になると固化が抑制されることを見出した。また、アルカリ分(Na2 O、K2 O)が1重量%以上になると固化してくるので、アルカリ分は1重量%以下になる耐火材を選定する必要が分かった。


【0017】
表1 焼成試験結果(硬度計値で20mm以上が固化)
【表1】


【0018】
そのため、耐火物粒子には、SiO2 が65重量%以下で、かつAl23 が35〜70重量%の組成の原料を使用することを特徴とし、好ましくはSiO2 が60重量%以下で、かつAl23 が40〜60重量%の組成の原料を使用するのが好ましい。
【0019】
Al23 が35重量%以下になり、かつSiO2 が65重量%以上になると、燃焼材である金属シリコンのリバウンド物と耐火物粒子のリバウンド物が溶着しやすくなり、耐火物粒子のリバウンド物同士が高温(1100〜1300℃)でくっつき、固化する。Al23 が70重量%以上になると、耐火度がSK37を越え、金属シリコンの酸化燃焼熱で溶融しにくくなり、リバウンドが多くなる。
【0020】
耐火物粒子のアルカリ成分(Na2 O、K2 O)も1重量%以上になると、固化する傾向にあり、アルカリ成分は1重量%以下にすることが必要である。好ましくはアルカリ成分が0.5重量%以下である焦宝石、ムライト、シャモット等を使用することが望ましい。
【0021】
耐火性粒子の粒度は、2mm以下とし、425μm以上が10重量%以下で、かつ425〜2000μmが10〜60重量%とし、75μm以下が10重量%以下で、75〜425μmがその残りであることが望ましい。75μm以下が10重量%以上であると、材料を溶射するときに脈動し、良好な溶射ができない。425μm以上のものが60重量%以上あると、リバウンドが大きく、ロスが多くなって好ましくない。
【0022】
金属シリコン粒子は、その添加量が10〜30重量%であって、金属シリコン粒子の粒度は150μm以下とし、75μm以上が10重量%以下で、20μm以下が5〜15重量%で、20〜75μmがその残りであることが望ましい。
【0023】
金属シリコン粒子の添加量が10重量%以下であると、燃焼反応が弱く、耐火性粒子が溶融しなく、良好な溶射ができない。添加量が30重量%以上であると、材料を溶射したとき、燃焼反応が強くなりすぎ、溶射体が流れ落ち、良好な溶射ができない。
【0024】
金属シリコン粒子の粒度で75μm以上のものは、燃焼反応が弱く好ましくないため、金属シリコン粒子の10重量%以下でなければならない。20μm以下が金属シリコン粒子の5重量%以下でも、燃焼反応が弱くなって好ましくない。20μm以下が金属シリコン粒子の15重量%以上では、材料を溶射したとき、燃焼反応が強くなりすぎ、溶射体が流れ落ち、良好な溶射ができない。
【0025】
着火促進剤は、被溶射体、すなわちコークス炉では炭化室壁面の温度が800℃以下である場合、溶射材料に添加される。発火点が300〜600℃である炭素系粉末または金属粉あるいは炭素系粉末と金属粉の混合物からなることを特徴とし、その添加量は外掛けで1〜5重量%であることが好ましい。着火促進剤の発火点が600℃以上であると、壁面温度が800℃以下の場合、溶射開始時に発火しにくい場合がある。発火点が300℃以下であると、爆発の危険が大きくなって安全上好ましくない。また、その添加量が外掛けで5重量%以上であっても、爆発の危険が大きくなって安全上好ましくない。
【0026】
炭素系粉末としては、コークス粉(発火点:400〜600℃)、木炭粉(発火点:320〜400℃)、コーンスターチ粉(発火点:470℃)等が挙げられ、金属粉末としてはアルミニウム粉(発火点:645℃)、マグネシウム粉(発火点:520℃)、マンガン粉(発火点:450℃)、バナジウム粉(発火点:500℃)、鉄粉(発火点:315〜320℃)等が挙げられる。
【実施例】
【0027】
本発明についてその実施例と比較例のテスト結果を表2および表3に示す。
【0028】
表2 実施例とそのテスト結果
【表2】




【0029】
75μm以下の金属シリコンを10重量%以上添加する場合、ホッパータンクに溶射材料を入れて切り出すときに棚吊りによって良好に切り出せなく、脈動が発生し、良好な溶射ができない。これを防止するため粉体流動化促進剤を添加する。粉休流動化促進剤は、平均粒径が0.2μm以下であるシリカ超微粉末が望ましく、添加量は5重量%以下が望ましい。5重量%以上では、高価格になる割に流動化促進の効果が増加しない。
【0030】
表3 比較例とそのテスト結果
【表3】



【0031】
本発明の実施例1〜12は、表1のように溶射性が良好で、燃焼材である金属シリコンのリバウンド物と耐火物粒子のリバウンド物が溶着しやすくなり、耐火物粒子のリバウンド物同士が高温(1100〜1300℃)でくっつき、固化するのを防止でき、金属シリコンの酸化燃焼熱で良好に溶融してリバウンドを防止でき、良好に溶射することができるものであった。
【0032】
また、実施例5と比較例14は、A製鉄所コークス炉で各100kgテストし、リバウンド落下物が2日後に固化しているか調べた結果、実施例5は固化していなく、良好に炉底の清掃作業ができたが、比較例14は固化しており、清掃が困難であった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明のリバウンド物のルツボ焼成の固化試験方法の説明図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性粒子、金属粒子の混合物を酸素と共に高温の被補修体に吹き付け、金属粒子の酸化発熱反応により混合物を溶融させて被補修体に溶着させることを特徴とする溶射材料であって、
耐火性粒子は2mm以下の粒子径で、SiO2 を65重量%以下で、かつAl23 を35〜70重量%含む組成の原料を主成分とし、そのアルカリ成分(Na2 O、K2 O)が1重量%以下で、金属粒子は粒子径が150μm以下の金属シリコンであることを特徴とする溶射材料。
【請求項2】
発火点が300℃以上で800℃以下、好ましくは600℃以下である炭素系粉末または金属粉末あるいは炭素系粉末と金属粉末の混合物を5重量%以下で着火促進剤として溶射材料に添加することを特徴とする請求項1に記載の溶射材料。
【請求項3】
平均粒径が0.2μm以下であるシリカ超微粉末を5重量%以下で粉体流動化促進剤として溶射材料に添加することを特徴とする請求項1または2に記載の溶射材料。

【図1】
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【公開番号】特開2008−150235(P2008−150235A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−338498(P2006−338498)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000199821)JFE炉材株式会社 (42)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】