溶接方法および溶接装置
【課題】部材間に隙間が大きい場合や部材間の段差が大きい場合であっても、両部材を好適に溶接することができる溶接方法を提供する。
【解決手段】第一の部材P1と第二の部材P2の端面同士を溶接する溶接方法であって、端面同士を互いに一定距離離間させて配置させる位置決め工程と、端面同士を溶接ワイヤWにより溶接する溶接工程と、を備え、溶接工程では、溶接ワイヤを軸線C3方向の先端側に送り出す送り出し工程と、溶接ワイヤが第一の部材および第二の部材の少なくとも一方に接触した短絡位置と、溶接ワイヤが第一の部材および第二の部材から離間した離間位置と、の間を往復するように溶接ワイヤを移動させる距離調節移動工程と、短絡位置と離間位置とを結ぶ方向に交差する交差方向Zに溶接ワイヤを往復移動させる交差移動工程と、第一の部材および第二の部材と溶接ワイヤとの間に電圧を印加する給電工程と、をそれぞれ同時に行う。
【解決手段】第一の部材P1と第二の部材P2の端面同士を溶接する溶接方法であって、端面同士を互いに一定距離離間させて配置させる位置決め工程と、端面同士を溶接ワイヤWにより溶接する溶接工程と、を備え、溶接工程では、溶接ワイヤを軸線C3方向の先端側に送り出す送り出し工程と、溶接ワイヤが第一の部材および第二の部材の少なくとも一方に接触した短絡位置と、溶接ワイヤが第一の部材および第二の部材から離間した離間位置と、の間を往復するように溶接ワイヤを移動させる距離調節移動工程と、短絡位置と離間位置とを結ぶ方向に交差する交差方向Zに溶接ワイヤを往復移動させる交差移動工程と、第一の部材および第二の部材と溶接ワイヤとの間に電圧を印加する給電工程と、をそれぞれ同時に行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの部材を溶接する溶接方法および溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パイプラインの敷設現場では、外径が等しい鋼管(第一の部材、第二の部材)の端部(端面)同士を接続するために、円周溶接が行われている。円周溶接とは、接続される双方の鋼管の端部を開先加工した後で、開先加工された端部同士を突き合わせて隙間を無くした状態で両方の鋼管をインターナルクランプ等で固定し、互いに突き合わされた端部同士により形成される円周継ぎ手を鋼管の全周にわたり溶接する方法である。
円周溶接を効率的に行うために、円周溶接を溶接装置により自動的に行うことが検討されている。通常、溶接装置により円周溶接を行うときには、溶接欠陥となる溶け落ち(バーンスルー)を防止するために、鋼管の端部を突き合わせた部分における溶接を行っている側と反対側の表面に裏当金を当てている。
【0003】
また、溶接作業で加える熱量を調節して裏当金を用いずに溶接する方法として、Cold Metal Transfer溶接方法(以下、「CMT溶接方法」と称する。)が知られている(たとえば、特許文献1参照)。このCMT溶接方法は、溶接ワイヤとワークピースとの間に所定の電圧を印加した状態で、溶接ワイヤをワークピースに接触するまでワークピースに向かって移動させる電気アーク段階と、溶接ワイヤがワークピースに接触して短絡した後で溶接ワイヤをワークピースから離れる方向に移動させる短絡段階と、を周期的に繰り返して行う溶接方法である。電気アーク段階と短絡段階とでは、溶接ワイヤはワークピースに向かったり、ワークピースから離れたりするように移動する。そして、電気アーク段階において溶接ワイヤとワークピースとの間に発生したアークで溶接ワイヤが加熱されたことにより生じた溶滴を、短絡段階においてワークピースに付着させ、この溶滴を冷却することで溶接を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−542027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示すCMT溶接方法で鋼管の端部同士を溶接するときには、端部間の隙間が小さい場合(たとえば、0.2mm程度以内)であって、かつ、端部間の板厚方向の段差が小さい場合(たとえば、0.5mm程度以内)には溶接できる。しかしながら、端部間の隙間または端部間の段差がこれより大きくなると、溶け落ちや溶け込み不良等の溶接欠陥が発生するという問題がある。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、部材間の隙間が大きい場合や部材間の段差が大きい場合であっても、裏当金を用いることなく両部材を好適に溶接することができる溶接方法および溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の溶接方法は、第一の部材の端面と第二の部材の端面とを溶接する溶接方法であって、前記端面同士を互いに当接または一定距離離間させて配置させる位置決め工程と、前記端面同士を溶接ワイヤにより溶接する溶接工程と、を備え、前記溶接工程では、前記溶接ワイヤを前記溶接ワイヤの軸線方向の先端側に送り出す送り出し工程と、前記溶接ワイヤが前記第一の部材および前記第二の部材の少なくとも一方に接触した短絡位置と、前記溶接ワイヤが前記第一の部材および前記第二の部材から離間した離間位置と、の間を往復するように前記溶接ワイヤを移動させる距離調節移動工程と、前記端面同士が延在する延在方向の一方側から他方側に見たときに、前記短絡位置と前記離間位置とを結ぶ方向に交差する交差方向に前記溶接ワイヤを往復移動させる交差移動工程と、前記第一の部材および前記第二の部材と前記溶接ワイヤとの間に電圧を印加する給電工程と、をそれぞれ同時に行うことを特徴としている。
【0008】
また、本発明の溶接装置は、互いに当接または一定距離離間させて配置された第一の部材の端面と第二の部材の端面とを溶接する溶接装置であって、溶接ワイヤの先端側を前記溶接ワイヤの軸線方向に移動可能に案内するとともに前記溶接ワイヤに電気的に接続された電極部と、前記溶接ワイヤを前記溶接ワイヤの軸線方向の先端側に送り出す送出し部と、前記溶接ワイヤが前記第一の部材および前記第二の部材の少なくとも一方に接触した短絡位置と、前記溶接ワイヤが前記第一の部材および前記第二の部材から離間した離間位置と、の間を往復するように前記溶接ワイヤを移動させる距離調節側移動部と、前記端面同士が延在する延在方向の一方側から他方側に見たときに、前記短絡位置と前記離間位置とを結ぶ方向に交差する交差方向に前記電極部を往復移動させる交差側移動部と、前記第一の部材および前記第二の部材と前記電極部との間に電圧を印加する給電部と、を備えることを特徴としている。
【0009】
この発明によれば、まず、第一の部材と第二の部材の端面同士を互いに当接または一定距離離間させて配置する。そして、第一の部材および第二の部材に対して電圧を印加された溶接ワイヤを、軸線方向の先端側に送り出すとともに、短絡位置と離間位置との間で往復移動させながら、延在方向の一方側から他方側に見たときに短絡位置と離間位置とを結ぶ方向に交差する交差方向に往復移動させる。
溶接ワイヤが離間位置に向かうときに、溶接ワイヤと第一の部材または第二の部材との間でアークが発生して溶接ワイヤが溶けて溶滴が生じ、溶接ワイヤが短絡位置に位置したときに溶接ワイヤに生じた溶滴が、両端面の間に付着することで端面同士が溶接される。
溶接ワイヤを交差方向に往復移動させながら溶接するので、交差方向に幅の広い溶接ワイヤで溶接したのと同等の条件となり、溶滴を両端面の間に交差方向に幅広く付着させることができる。したがって、たとえば、部材の両端面の間隔や部材間の段差が、従来のCMT溶接方法で溶接可能な寸法より大きい場合であっても、裏当金を用いることなく第一の部材と第二の部材の端面同士を好適に溶接することができる。
【0010】
また、上記の溶接方法において、前記溶接工程では、前記溶接ワイヤを前記延在方向に移動させる延在方向移動工程を、前記送り出し工程、前記距離調節移動工程、前記交差移動工程および前記給電工程と同時に行うことがより好ましい。
この発明によれば、第一の部材と第二の部材の端面同士の溶接を、延在方向に連続して行うことができる。
【0011】
また、上記の溶接方法において、前記溶接ワイヤを前記交差方向に往復移動させる周波数は、5Hz以上50Hz以下に設定されていることがより好ましい。
この発明によれば、溶接ワイヤを交差方向に往復移動させる周波数を5Hz以上とすることで、両端面の間を溶接ワイヤの溶滴で充分に満たすことができる。そして、交差方向に往復移動させる周波数を50Hz以下とすることで、溶接ワイヤを交差方向に往復移動させる駆動部が大きくなるのを抑えることができる。
【0012】
また、上記の溶接方法において、前記溶接ワイヤを前記距離調節方向に往復移動させる周波数は、前記溶接ワイヤを前記交差方向に往復移動させる周波数に対して2倍以上10倍以下に設定されていることがより好ましい。
この発明によれば、溶接ワイヤを距離調節方向に往復移動させる周波数を交差方向に往復移動させる周波数に対して2倍以上とすることで、溶けた溶滴を第一の部材の端面と第二の部材の端面の両方に付着させ、第一の部材と第二の部材とをより確実に溶接することができる。
そして、上記の比率を10倍以下とすることで、溶接ワイヤが交差方向に1回往復する間に距離調節方向に往復移動する回数を減らして、溶接ワイヤによる延在方向の溶接速度を向上させることができる。
【0013】
また、上記の溶接装置において、前記送出し部が設けられる電極補助部と、前記電極部と前記電極補助部とを接続し、前記電極部を前記交差方向に移動させたときに前記電極部と前記電極補助部との前記交差方向の相対移動を許容する弾性材料で形成された接続部材と、をさらに備えることがより好ましい。
この発明によれば、電極部と電極補助部とを接続部材で接続することで、交差側移動部により電極部を交差方向に往復移動させたときに、この交差方向に往復移動する幅を、電極部より電極補助部の方が小さくなるようにすることができる。
したがって、交差側移動部による電極部の往復移動をより容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の溶接方法および溶接装置によれば、部材間に隙間が大きい場合や部材間の段差が大きい場合であっても、裏当金を用いることなく両部材を好適に溶接することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態の溶接装置の一部を破断した説明図である。
【図2】同溶接装置の溶接ワイヤの短絡位置と離間位置を示す説明図である。
【図3】同溶接装置による溶接方法を説明する平面図である。
【図4】同溶接装置による溶接方法を説明する要部断面図である。
【図5】同溶接装置による溶接方法を説明する要部断面図である。
【図6】同溶接装置による溶接方法を説明する要部断面図である。
【図7】同溶接装置による溶接方法を説明する要部断面図である。
【図8】同溶接装置による溶接方法を説明する平面図である。
【図9】本発明の第2実施形態の溶接装置の一部を破断した要部の説明図である。
【図10】試験に用いた各鋼管の端面の形状を示す図である。
【図11】第一の鋼管と第二の鋼管を配置する第一の仕様を説明する図である。
【図12】第一の鋼管と第二の鋼管を配置する第二の仕様を説明する図である。
【図13】第一の鋼管と第二の鋼管を配置する第三の仕様を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る溶接装置の第1実施形態を、図1から図8を参照しながら説明する。この溶接装置は、互いに当接または一定距離離間させて配置された第一の鋼管(第一の部材)の端面と第二の鋼管(第二の部材)の端面とを、溶接ワイヤを用いてアーク溶接の一種であるMIG(Metal Inert Gas welding)溶接するものである。
図1に示すように、溶接装置1は、第一の鋼管P1の外周面上を周方向に移動可能な溶接ヘッド2と、溶接ヘッド2に接続された溶接トーチ3と、溶接ワイヤWを往復移動させるワイヤ振動部(距離調節側移動部)4と、第一の鋼管P1および第二の鋼管P2と溶接トーチ3との間に電圧を印加する給電部5と、溶接トーチ3にシールドガスを供給するガスボンベ6と、第一の鋼管P1と第二の鋼管P2を固定するインターナルクランプ7と、溶接ヘッド2、溶接トーチ3、ワイヤ振動部4および給電部5を制御する制御部8と、を備えている。
【0017】
第一の鋼管P1と第二の鋼管P2は、互いの外径および内径がほぼ等しくなるように形成されている。鋼管P1、P2は、第一の鋼管P1の中心軸線C1と第二の鋼管P2の中心軸線C2が一致するとともに、第一の鋼管P1の端面P11と第二の鋼管P2の端面P21とが一定距離離間して、互いに対向するように配置されている。なお、第一の鋼管P1の端面P11と第二の鋼管P2の端面P21とを離間させる一定距離とは、たとえば1mm以下であることが好ましい。
第一の鋼管P1と第二の鋼管P2は、上記のように互いの中心軸線C1、C2を一致させるとともに、互いの端面P11、P21を対向させた状態で、インターナルクランプ7により互いの相対位置を固定されている。なお、インターナルクランプ7における第一の鋼管P1と第二の鋼管P2を固定する部分は導体で形成されていて、第一の鋼管P1と第二の鋼管P2を電気的に接続している。
本実施形態では、上記のように配置された第一の鋼管P1と第二の鋼管P2を溶接装置1で溶接する方向は、端面P11、P21同士が延在する方向、すなわち第一の鋼管P1の周方向である延在方向Xとなる。
【0018】
以下では、まず、溶接トーチ3およびワイヤ振動部4について説明する。
図1に示すように、溶接トーチ3は、溶接ワイヤWの先端側を溶接ワイヤWの軸線C3方向に移動可能に案内する管状の電極部11と、電極部11に取り付けられ、溶接ワイヤWを軸線C3方向の先端側に送り出す送出し部12が内部に設けられたトーチ本体(電極補助部)13と、を有して構成されている。
電極部11は、金属等の導電体で形成されていて、自身の内部を挿通する溶接ワイヤWに電気的に接続されている。なお、電極部11の軸線は、延在方向Xと交差するように配置されている。
トーチ本体13には、電極部11の径方向外側であって電極部11と同軸上に配置された筒状の溶接用ガスノズル14が取り付けられている。溶接用ガスノズル14と電極部11との間には一定の隙間が形成されている。
送出し部12は、互いの外周面が隣り合うように配置された一対の送出しローラ15と、一対の送出しローラ15を回転させる不図示のワイヤ供給モータとを有している。送出しローラ15同士の間には溶接ワイヤWがそれぞれのローラ15の外周面に接触した状態で狭持されていて、ワイヤ供給モータにより一対の送出しローラ15を所定の軸線回りに回転させることで、溶接ワイヤWを先端側に送り出すことができる。
【0019】
送出し部12が電極部11に形成された貫通孔を通して溶接ワイヤWを送り出す方向は、延在方向Xに交差する方向となっている。
溶接ワイヤWの基端側は、溶接ワイヤ供給装置18のドラム部18aの外周面に巻回されている。溶接ワイヤ供給装置18から供給される溶接ワイヤWの取出し口部分には一対の巻出しローラ19が配置されていて、この一対の巻出しローラ19の間に溶接ワイヤWが狭持されている。ドラム部18aは、不図示の支持手段により、ドラム部18aの軸線回りに回転可能に支持されている。
【0020】
ワイヤ振動部4は、送出し部12と一対の巻出しローラ19との間に配置され、溶接ワイヤWを張った状態に保持している。ワイヤ振動部4は、ブーメラン状の回転部材20と、回転部材20を所定の軸線回りに回転させる回転部材駆動モータ21とを有している。そして、回転部材駆動モータ21が回転部材20を回転させると、張った状態に保持された溶接ワイヤWの側方から回転部材20が溶接ワイヤWを押したり、回転部材20が溶接ワイヤWを押すのを解除したりする。
【0021】
これにより、図2に示すように、ワイヤ振動部4は、溶接ワイヤWを軸線C3方向に往復移動させ、溶接ワイヤWが第一の鋼管P1および第二の鋼管P2の少なくとも一方に接触した短絡位置T1と、溶接ワイヤWが第一の部材P1および第二の部材P2のそれぞれから離間した離間位置T2と、の間を往復するように溶接ワイヤWを移動させる。
なお、短絡位置T1と離間位置T2とを結ぶ方向が距離調節方向Yとなる。
【0022】
溶接ヘッド2は、図1および図2に示すように、溶接トーチ3を延在方向Xの一方側から他方側に見たときに、距離調節方向Yに交差する交差方向Zに溶接トーチ3を往復移動させる高速揺動機構(交差側移動部)24を有する溶接ヘッド本体25と、溶接トーチ3を延在方向Xに移動させる搬送部26と、を有して構成されている。
図1に示すように、高速揺動機構24は、溶接トーチ3に接続された支持体27と、支持体27を交差方向Zに往復移動させる不図示のヘッド駆動モータを有する本体部28とを有している。
高速揺動機構24が、溶接ワイヤWを交差方向Zに往復移動させる周波数は、5Hz以上50Hz以下に設定されている。そして、ワイヤ振動部4が溶接ワイヤWを距離調節方向Yに往復移動させる周波数は、高速揺動機構24が溶接ワイヤWを交差方向Zに往復移動させる周波数に対して2倍以上10倍以下に設定されている。
【0023】
搬送部26は、第一の鋼管P1の外周面に取り付けられた円周ガイドレール29と、円周ガイドレール29上に配設された車輪部30と、車輪部30を回転させる不図示の車輪駆動モータとを有している。車輪部30は溶接ヘッド本体25に回転可能に支持され、車輪駆動モータは溶接ヘッド本体25内に設けられている。
車輪駆動モータが車輪部30を一定の方向に回転させ、溶接トーチ3が接続された溶接ヘッド2を円周ガイドレール29上で移動させることで、溶接トーチ3を第一の鋼管P1の端面P11と第二の鋼管P2の端面P21との間に沿って移動させることができる。
【0024】
図1に示すように、給電部5は、プラス側の端子5aが電極部11に電気的に接続され、マイナス側の端子が第一の鋼管P1に電気的に接続されている。給電部5は、電極部11と第一の鋼管P1との間に一定の電圧を印加することができる。
ガスボンベ6内には二酸化炭素等のシールドガスが収容されていて、ガスボンベ6にはガスボンベ6から流れ出すシールドガスの流量を調節する流量調節バルブ6aが設けられている。ガスボンベ6は、一定の柔軟性を有する配管33によりトーチ本体13に接続されている。流量調節バルブ6aを開くと、トーチ本体13を通して溶接用ガスノズル14と電極部11の隙間から溶接ワイヤWの周りに流量を調節したシールドガスを流すことができ、流量調節バルブ6aを閉じることで、溶接用ガスノズル14と電極部11の隙間から流れ出すシールドガスの流れを止めることができる。
【0025】
制御部8は、溶接ヘッド本体25のヘッド駆動モータ、搬送部26の車輪駆動モータ、送出し部12のワイヤ供給モータ、ワイヤ振動部4の回転部材駆動モータ21および給電部5(以下、「ヘッド駆動モータ等」と称する。)と電気的に接続されている。制御部8には、使用者が指示内容を入力可能な不図示の入力手段が接続されている。
制御部8は、ヘッド駆動モータ等に所定の電力を供給するとともに、ヘッド駆動モータ等を制御することができる。
【0026】
次に、以上のように構成された溶接装置1を用いて行われる本実施形態の溶接方法について説明する。溶接装置1による溶接方法は、鋼管P1、P2の位置決めを行う位置決め工程と、第一の鋼管P1と第二の鋼管P2を溶接ワイヤWにより溶接する溶接工程とを備えている。ここでは、一例として、ワイヤ振動部4の周波数が、高速揺動機構24の周波数に対して6倍に設定されている場合で説明する。
【0027】
まず、使用者は、位置決め工程において、第一の鋼管P1の端面P11と第二の鋼管P2の端面P21とが、互いに一定距離離間するように配置する。このとき、第一の鋼管P1の中心軸線C1と第二の鋼管P2の中心軸線C2とが一致するように、鋼管P1、P2を配置する。そして、このような位置に配置された鋼管P1、P2の相対位置を、インターナルクランプ7により固定する。
以上により、位置決め工程を終了して溶接工程に移行する。
【0028】
続いて、溶接工程において、ガスボンベ6の流量調節バルブ6aを調節して溶接用ガスノズル14と電極部11の隙間から所定の流量のシールドガスを流す。使用者が入力手段から指示すると、制御部8は、以下で順に説明する給電工程、送り出し工程、延在方向移動工程、距離調節移動工程、交差移動工程をそれぞれ同時に行う。
【0029】
給電工程では、制御部8は、給電部5により電極部11と第一の鋼管P1との間に一定の電圧を印加させる。送り出し工程では、送出し部12のワイヤ供給モータにより一対の送出しローラ15を回転させることにより、溶接ワイヤWを軸線C3方向の先端側に送り出す。延在方向移動工程では、搬送部26の車輪駆動モータにより車輪部30を一定の方向に回転させることにより、溶接ヘッド2を延在方向Xに移動させる。
距離調節移動工程では、ワイヤ振動部4の回転部材駆動モータ21により回転部材20を回転させることにより、溶接ワイヤWを短絡位置T1と離間位置T2との間を往復するように移動させる。そして、交差移動工程では、高速揺動機構24のヘッド駆動モータにより溶接トーチ3を交差方向Zに往復移動させる。
【0030】
次に、これらの各工程のうち、距離調節移動工程および交差移動工程に重点をおいて説明する。この例では、ワイヤ振動部4の周波数が高速揺動機構24の周波数に対して6倍に設定されているので、溶接ワイヤWは交差方向Zに1回往復する間に距離調節方向Yに6回往復する。
【0031】
図2および図3に示すように、溶接ワイヤWは、短絡位置T1に配置され、先端が第二の部材P2の位置S1に当接している状態から一定の時間経過したときに、ワイヤ振動部4により距離調節方向Yに約1/2周期分往復移動して第一の鋼管P1および第二の鋼管P2のそれぞれから離間すると同時に、高速揺動機構24により交差方向Zに約1/12周期分往復移動して図4に示す離間位置T3に移動する。このとき、溶接ワイヤWと第二の鋼管P2との間にアークAが発生して溶接ワイヤWおよび第二の鋼管P2が加熱され、溶接ワイヤWが溶けて溶接ワイヤWの先端に溶滴W1が生じる。
溶接ワイヤWは、図4に示す離間位置T3から一定の時間経過したときに、図3および図5に示すように、ワイヤ振動部4により距離調節方向Yに約1/2周期分往復移動すると同時に、高速揺動機構24により交差方向Zに約1/12周期分往復移動して、第二の鋼管P2の位置S2に接触する短絡位置T4に移動する。このとき、溶滴W1が第二の鋼管P2の端面P21に付着する。
【0032】
同様に、溶接ワイヤWが図5に示す離間位置T5から一定の時間経過して図6に示す離間位置T5に移動したときに、溶接ワイヤWと第一の部材P1との間にアークAが発生して溶接ワイヤWの先端に溶滴W2が生じる。さらに、溶接ワイヤWが、図6に示す離間位置T5から一定の時間経過して図7に示す第一の鋼管P1の位置S3に接触する短絡位置T6に移動したときに、溶滴W2が第一の鋼管P1の端面P11に付着する。このときに、溶滴W1と溶滴W2が結合する。
【0033】
このように、給電部5により電極部11を通じて溶接ワイヤWに電圧を印加した状態で、溶接ワイヤWを、送出し部12により軸線C3方向の先端側に送り出すとともに搬送部26により延在方向Xに移動させながら、ワイヤ振動部4により距離調節方向Yに高速揺動機構24により交差方向Zにそれぞれ往復移動させる。
すると、第一の鋼管P1の端面P11と第二の部材P2の端面P21とに溶滴が付着し、付着した溶滴が結合して冷えて固まることにより、第一の鋼管P1の端面P11と第二の鋼管P2の端面P21とが溶接される。
以上により、溶接工程が終了する。
【0034】
以上説明したように、本実施形態の溶接装置1および溶接方法によれば、まず、第一の鋼管P1と第二の鋼管P2の端面P11、P21同士を互いに一定距離離間させて配置する。そして、第一の鋼管P1および第二の鋼管P2に対して電圧を印加された溶接ワイヤWを、軸線C3方向の先端側に送り出すとともに、短絡位置と離間位置との間で距離調節方向Yに往復移動させながら交差方向Zに往復移動させる。
溶接ワイヤWが離間位置に向かうときに、溶接ワイヤWと第一の鋼管P1または第二の鋼管P2との間でアークAが発生して溶接ワイヤWが溶けて溶滴が生じ、溶接ワイヤWが短絡位置に位置したときに溶接ワイヤWに生じた溶滴が、端面P11と端面P21との間に付着することで端面P11、P21同士が溶接される。
溶接ワイヤWを交差方向Zに往復移動させながら溶接するので、交差方向Zに幅の広い溶接ワイヤで溶接したのと同等の条件となり、溶滴を両端面P11、P21の間に交差方向Zに幅広く付着させることができる。したがって、たとえば、両端面P11、P21の間隔や、第一の鋼管P1と第二の鋼管P2との間の段差が、従来のCMT溶接方法で溶接可能な寸法より大きい場合であっても、裏当金を用いることなく、第一の鋼管P1と第二の鋼管P2の端面P11、P21同士を好適に溶接することができる。
【0035】
また、溶接工程では、溶接ワイヤWを延在方向Xに移動させる延在方向移動工程を、送り出し工程、距離調節移動工程、交差移動工程および給電工程と同時に行う。このため、第一の鋼管P1と第二の鋼管P2の端面P11、P21同士の溶接を、延在方向Xに連続して行うことができる。
【0036】
溶接ワイヤWを交差方向Zに往復移動させる周波数は、5Hz以上50Hz以下に設定されている。溶接ワイヤWを交差方向Zに往復移動させる周波数を5Hz以上とすることで、両端面11、P21の間を溶接ワイヤWの溶滴で充分に満たすことができる。交差方向Zの周波数が5Hz未満の場合、溶接ワイヤWを交差方向Zに往復移動させない場合と差がなくなり、両端面11、P21間の径方向の段差に対応するのが困難になる。
そして、溶接ワイヤWを交差方向Zに往復移動させる周波数を50Hz以下とすることで、高い周波数に対応させるために高速揺動機構24が大型化するのを抑え、溶接装置1の製造コストを低減させることができる。
【0037】
そして、溶接ワイヤWを距離調節方向Yに往復移動させる周波数の、溶接ワイヤWを交差方向Zに往復移動させる周波数に対する比率は、2倍以上10倍以下に設定されている。
比率を2倍とすることで、図8に示すように、溶けた溶滴が第二の鋼管P2の端面P21の位置S4と第一の鋼管P1の端面P11の位置S5にそれぞれ付着する。したがって、この比率を2倍以上とすることで、溶けた溶滴を第一の鋼管P1の端面P11と第二の鋼管P2の端面P21の両方に付着させ、第一の鋼管P1と第二の鋼管P2とをより確実に溶接することができる。
そして、この比率を10倍以下とすることで、溶接ワイヤWが交差方向Zに1回往復する間に距離調節方向Yに往復移動する回数を減らして、溶接ワイヤWによる延在方向Xの溶接速度を向上させることができる。
【0038】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
図9に示すように、本実施形態の溶接装置41は、前記第1実施形態の溶接装置1において、電極部11とトーチ本体13とを接続し、弾性材料で形成されたフレキシブル部材(接続部材)42をさらに備えている。
フレキシブル部材42は、たとえば、板厚の薄い金属を蛇腹状に折り曲げて形成したものである。フレキシブル部材42は、高速揺動機構24により電極部11を交差方向Zに移動させたときに電極部11とトーチ本体13との交差方向Zの相対移動を許容するように、柔らかく形成されている。
【0039】
この発明によれば、端面P11、P21間の隙間が大きい場合や第一の鋼管P1と第二の鋼管P2との間の段差が大きい場合であっても、裏当金を用いることなく両鋼管P1、P2を好適に溶接することができる。
さらに、電極部11とトーチ本体13とをフレキシブル部材42で接続することで、高速揺動機構24により電極部11を交差方向Zに往復移動させたときに、この交差方向Zに往復移動する幅を、電極部11よりトーチ本体13の方が小さくなるようにすることができる。したがって、高速揺動機構24による電極部11の往復移動をより容易に行うことができる。
トーチ本体13はワイヤ供給モータを有していて、ワイヤ供給モータの重量は、たとえば3kg程度ある。このため、トーチ本体13を交差方向Zに高速で往復移動させようとすると、溶接ヘッド2が大型化してしまうことになる。
【0040】
以上、本発明の第1実施形態および第2実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更等も含まれる。
たとえば、上記第1実施形態および第2実施形態では、第一の部材および第二の部材を管状の第一の鋼管P1および第二の鋼管P2とした。しかし、第一の部材および第二の部材の形状は、管状に限定されず、たとえば、平坦な板状や湾曲した板状等であってもよい。
そして、上記第1実施形態および第2実施形態では、第一の鋼管P1の端面P11と第二の鋼管P2の端面P21とを互いに当接させた状態で溶接してもよい。
【0041】
また、上記第1実施形態および第2実施形態では、溶接ワイヤWで溶接する部分が延在方向Xに充分短い場合には、溶接工程における延在方向移動工程を行わなくてもよい。
【実施例】
【0042】
端面P11、P21がともに図10に示すように形成された鋼管P1、P2を用いて溶接装置1により溶接試験を行った。両端面P11、P21は、J開先形状に加工されていて、Root Faceが1.5mm、内面トリムが0.5mm、べべル角度が3°、そして開先極率半径が2.4mmとなっている。
第一の鋼管P1の端面P11と第二の鋼管P2の端面P21との距離(以下、「Root Gap」と称する。)、および、端面P11と端面P21との径方向の段差(以下、「目違い」と称する。)が、以下の3種類の仕様になるように第一の鋼管P1および第二の鋼管P2を配置して溶接試験を行った。
第一の仕様は、図11に示す標準仕様であるRoot Gapが0mm、目違いが0mmの場合、第二の仕様は、図12に示すRoot Gapが0.5mm、目違いが0mmの場合、そして、第三の仕様は、図13に示すRoot Gapが0mm、目違いが1.0mmの場合である。
【0043】
ガスボンベ6のシールドガスとしては純粋な二酸化炭素を用い、溶接ワイヤWはYM−58A(φ1.2mm、日鐵溶接工業株式会社製)を用いた。溶接ワイヤWの交差方向Zの周波数を10Hz、溶接ワイヤWが交差方向Zに移動する最大の幅を1.6mm、送出し部12による溶接ワイヤWの供給速度を5〜6m/min、給電部5による設定電流を170〜200A、給電部5による設定電圧を16〜18V、延在方向Xの溶接速度を30〜40cm/minとした。
【0044】
第一の仕様から第三の仕様において溶接試験を行った結果、いずれの仕様においても、第一の鋼管P1と第二の鋼管P2を好適に溶接できることが分かった。
【符号の説明】
【0045】
1、41 溶接装置
4 ワイヤ振動部(距離調節側移動部)
5 給電部
11 電極部
12 送出し部
13 トーチ本体(電極補助部)
24 高速揺動機構(交差側移動部)
42 フレキシブル部材(接続部材)
C3 軸線
P1 第一の鋼管(第一の部材)
P2 第二の鋼管(第二の部材)
P11、P21 端面
T1、T4、T6 短絡位置
T2、T3、T5 離間位置
W 溶接ワイヤ
X 延在方向
Y 距離調節方向
Z 交差方向
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの部材を溶接する溶接方法および溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パイプラインの敷設現場では、外径が等しい鋼管(第一の部材、第二の部材)の端部(端面)同士を接続するために、円周溶接が行われている。円周溶接とは、接続される双方の鋼管の端部を開先加工した後で、開先加工された端部同士を突き合わせて隙間を無くした状態で両方の鋼管をインターナルクランプ等で固定し、互いに突き合わされた端部同士により形成される円周継ぎ手を鋼管の全周にわたり溶接する方法である。
円周溶接を効率的に行うために、円周溶接を溶接装置により自動的に行うことが検討されている。通常、溶接装置により円周溶接を行うときには、溶接欠陥となる溶け落ち(バーンスルー)を防止するために、鋼管の端部を突き合わせた部分における溶接を行っている側と反対側の表面に裏当金を当てている。
【0003】
また、溶接作業で加える熱量を調節して裏当金を用いずに溶接する方法として、Cold Metal Transfer溶接方法(以下、「CMT溶接方法」と称する。)が知られている(たとえば、特許文献1参照)。このCMT溶接方法は、溶接ワイヤとワークピースとの間に所定の電圧を印加した状態で、溶接ワイヤをワークピースに接触するまでワークピースに向かって移動させる電気アーク段階と、溶接ワイヤがワークピースに接触して短絡した後で溶接ワイヤをワークピースから離れる方向に移動させる短絡段階と、を周期的に繰り返して行う溶接方法である。電気アーク段階と短絡段階とでは、溶接ワイヤはワークピースに向かったり、ワークピースから離れたりするように移動する。そして、電気アーク段階において溶接ワイヤとワークピースとの間に発生したアークで溶接ワイヤが加熱されたことにより生じた溶滴を、短絡段階においてワークピースに付着させ、この溶滴を冷却することで溶接を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−542027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示すCMT溶接方法で鋼管の端部同士を溶接するときには、端部間の隙間が小さい場合(たとえば、0.2mm程度以内)であって、かつ、端部間の板厚方向の段差が小さい場合(たとえば、0.5mm程度以内)には溶接できる。しかしながら、端部間の隙間または端部間の段差がこれより大きくなると、溶け落ちや溶け込み不良等の溶接欠陥が発生するという問題がある。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、部材間の隙間が大きい場合や部材間の段差が大きい場合であっても、裏当金を用いることなく両部材を好適に溶接することができる溶接方法および溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の溶接方法は、第一の部材の端面と第二の部材の端面とを溶接する溶接方法であって、前記端面同士を互いに当接または一定距離離間させて配置させる位置決め工程と、前記端面同士を溶接ワイヤにより溶接する溶接工程と、を備え、前記溶接工程では、前記溶接ワイヤを前記溶接ワイヤの軸線方向の先端側に送り出す送り出し工程と、前記溶接ワイヤが前記第一の部材および前記第二の部材の少なくとも一方に接触した短絡位置と、前記溶接ワイヤが前記第一の部材および前記第二の部材から離間した離間位置と、の間を往復するように前記溶接ワイヤを移動させる距離調節移動工程と、前記端面同士が延在する延在方向の一方側から他方側に見たときに、前記短絡位置と前記離間位置とを結ぶ方向に交差する交差方向に前記溶接ワイヤを往復移動させる交差移動工程と、前記第一の部材および前記第二の部材と前記溶接ワイヤとの間に電圧を印加する給電工程と、をそれぞれ同時に行うことを特徴としている。
【0008】
また、本発明の溶接装置は、互いに当接または一定距離離間させて配置された第一の部材の端面と第二の部材の端面とを溶接する溶接装置であって、溶接ワイヤの先端側を前記溶接ワイヤの軸線方向に移動可能に案内するとともに前記溶接ワイヤに電気的に接続された電極部と、前記溶接ワイヤを前記溶接ワイヤの軸線方向の先端側に送り出す送出し部と、前記溶接ワイヤが前記第一の部材および前記第二の部材の少なくとも一方に接触した短絡位置と、前記溶接ワイヤが前記第一の部材および前記第二の部材から離間した離間位置と、の間を往復するように前記溶接ワイヤを移動させる距離調節側移動部と、前記端面同士が延在する延在方向の一方側から他方側に見たときに、前記短絡位置と前記離間位置とを結ぶ方向に交差する交差方向に前記電極部を往復移動させる交差側移動部と、前記第一の部材および前記第二の部材と前記電極部との間に電圧を印加する給電部と、を備えることを特徴としている。
【0009】
この発明によれば、まず、第一の部材と第二の部材の端面同士を互いに当接または一定距離離間させて配置する。そして、第一の部材および第二の部材に対して電圧を印加された溶接ワイヤを、軸線方向の先端側に送り出すとともに、短絡位置と離間位置との間で往復移動させながら、延在方向の一方側から他方側に見たときに短絡位置と離間位置とを結ぶ方向に交差する交差方向に往復移動させる。
溶接ワイヤが離間位置に向かうときに、溶接ワイヤと第一の部材または第二の部材との間でアークが発生して溶接ワイヤが溶けて溶滴が生じ、溶接ワイヤが短絡位置に位置したときに溶接ワイヤに生じた溶滴が、両端面の間に付着することで端面同士が溶接される。
溶接ワイヤを交差方向に往復移動させながら溶接するので、交差方向に幅の広い溶接ワイヤで溶接したのと同等の条件となり、溶滴を両端面の間に交差方向に幅広く付着させることができる。したがって、たとえば、部材の両端面の間隔や部材間の段差が、従来のCMT溶接方法で溶接可能な寸法より大きい場合であっても、裏当金を用いることなく第一の部材と第二の部材の端面同士を好適に溶接することができる。
【0010】
また、上記の溶接方法において、前記溶接工程では、前記溶接ワイヤを前記延在方向に移動させる延在方向移動工程を、前記送り出し工程、前記距離調節移動工程、前記交差移動工程および前記給電工程と同時に行うことがより好ましい。
この発明によれば、第一の部材と第二の部材の端面同士の溶接を、延在方向に連続して行うことができる。
【0011】
また、上記の溶接方法において、前記溶接ワイヤを前記交差方向に往復移動させる周波数は、5Hz以上50Hz以下に設定されていることがより好ましい。
この発明によれば、溶接ワイヤを交差方向に往復移動させる周波数を5Hz以上とすることで、両端面の間を溶接ワイヤの溶滴で充分に満たすことができる。そして、交差方向に往復移動させる周波数を50Hz以下とすることで、溶接ワイヤを交差方向に往復移動させる駆動部が大きくなるのを抑えることができる。
【0012】
また、上記の溶接方法において、前記溶接ワイヤを前記距離調節方向に往復移動させる周波数は、前記溶接ワイヤを前記交差方向に往復移動させる周波数に対して2倍以上10倍以下に設定されていることがより好ましい。
この発明によれば、溶接ワイヤを距離調節方向に往復移動させる周波数を交差方向に往復移動させる周波数に対して2倍以上とすることで、溶けた溶滴を第一の部材の端面と第二の部材の端面の両方に付着させ、第一の部材と第二の部材とをより確実に溶接することができる。
そして、上記の比率を10倍以下とすることで、溶接ワイヤが交差方向に1回往復する間に距離調節方向に往復移動する回数を減らして、溶接ワイヤによる延在方向の溶接速度を向上させることができる。
【0013】
また、上記の溶接装置において、前記送出し部が設けられる電極補助部と、前記電極部と前記電極補助部とを接続し、前記電極部を前記交差方向に移動させたときに前記電極部と前記電極補助部との前記交差方向の相対移動を許容する弾性材料で形成された接続部材と、をさらに備えることがより好ましい。
この発明によれば、電極部と電極補助部とを接続部材で接続することで、交差側移動部により電極部を交差方向に往復移動させたときに、この交差方向に往復移動する幅を、電極部より電極補助部の方が小さくなるようにすることができる。
したがって、交差側移動部による電極部の往復移動をより容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の溶接方法および溶接装置によれば、部材間に隙間が大きい場合や部材間の段差が大きい場合であっても、裏当金を用いることなく両部材を好適に溶接することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態の溶接装置の一部を破断した説明図である。
【図2】同溶接装置の溶接ワイヤの短絡位置と離間位置を示す説明図である。
【図3】同溶接装置による溶接方法を説明する平面図である。
【図4】同溶接装置による溶接方法を説明する要部断面図である。
【図5】同溶接装置による溶接方法を説明する要部断面図である。
【図6】同溶接装置による溶接方法を説明する要部断面図である。
【図7】同溶接装置による溶接方法を説明する要部断面図である。
【図8】同溶接装置による溶接方法を説明する平面図である。
【図9】本発明の第2実施形態の溶接装置の一部を破断した要部の説明図である。
【図10】試験に用いた各鋼管の端面の形状を示す図である。
【図11】第一の鋼管と第二の鋼管を配置する第一の仕様を説明する図である。
【図12】第一の鋼管と第二の鋼管を配置する第二の仕様を説明する図である。
【図13】第一の鋼管と第二の鋼管を配置する第三の仕様を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る溶接装置の第1実施形態を、図1から図8を参照しながら説明する。この溶接装置は、互いに当接または一定距離離間させて配置された第一の鋼管(第一の部材)の端面と第二の鋼管(第二の部材)の端面とを、溶接ワイヤを用いてアーク溶接の一種であるMIG(Metal Inert Gas welding)溶接するものである。
図1に示すように、溶接装置1は、第一の鋼管P1の外周面上を周方向に移動可能な溶接ヘッド2と、溶接ヘッド2に接続された溶接トーチ3と、溶接ワイヤWを往復移動させるワイヤ振動部(距離調節側移動部)4と、第一の鋼管P1および第二の鋼管P2と溶接トーチ3との間に電圧を印加する給電部5と、溶接トーチ3にシールドガスを供給するガスボンベ6と、第一の鋼管P1と第二の鋼管P2を固定するインターナルクランプ7と、溶接ヘッド2、溶接トーチ3、ワイヤ振動部4および給電部5を制御する制御部8と、を備えている。
【0017】
第一の鋼管P1と第二の鋼管P2は、互いの外径および内径がほぼ等しくなるように形成されている。鋼管P1、P2は、第一の鋼管P1の中心軸線C1と第二の鋼管P2の中心軸線C2が一致するとともに、第一の鋼管P1の端面P11と第二の鋼管P2の端面P21とが一定距離離間して、互いに対向するように配置されている。なお、第一の鋼管P1の端面P11と第二の鋼管P2の端面P21とを離間させる一定距離とは、たとえば1mm以下であることが好ましい。
第一の鋼管P1と第二の鋼管P2は、上記のように互いの中心軸線C1、C2を一致させるとともに、互いの端面P11、P21を対向させた状態で、インターナルクランプ7により互いの相対位置を固定されている。なお、インターナルクランプ7における第一の鋼管P1と第二の鋼管P2を固定する部分は導体で形成されていて、第一の鋼管P1と第二の鋼管P2を電気的に接続している。
本実施形態では、上記のように配置された第一の鋼管P1と第二の鋼管P2を溶接装置1で溶接する方向は、端面P11、P21同士が延在する方向、すなわち第一の鋼管P1の周方向である延在方向Xとなる。
【0018】
以下では、まず、溶接トーチ3およびワイヤ振動部4について説明する。
図1に示すように、溶接トーチ3は、溶接ワイヤWの先端側を溶接ワイヤWの軸線C3方向に移動可能に案内する管状の電極部11と、電極部11に取り付けられ、溶接ワイヤWを軸線C3方向の先端側に送り出す送出し部12が内部に設けられたトーチ本体(電極補助部)13と、を有して構成されている。
電極部11は、金属等の導電体で形成されていて、自身の内部を挿通する溶接ワイヤWに電気的に接続されている。なお、電極部11の軸線は、延在方向Xと交差するように配置されている。
トーチ本体13には、電極部11の径方向外側であって電極部11と同軸上に配置された筒状の溶接用ガスノズル14が取り付けられている。溶接用ガスノズル14と電極部11との間には一定の隙間が形成されている。
送出し部12は、互いの外周面が隣り合うように配置された一対の送出しローラ15と、一対の送出しローラ15を回転させる不図示のワイヤ供給モータとを有している。送出しローラ15同士の間には溶接ワイヤWがそれぞれのローラ15の外周面に接触した状態で狭持されていて、ワイヤ供給モータにより一対の送出しローラ15を所定の軸線回りに回転させることで、溶接ワイヤWを先端側に送り出すことができる。
【0019】
送出し部12が電極部11に形成された貫通孔を通して溶接ワイヤWを送り出す方向は、延在方向Xに交差する方向となっている。
溶接ワイヤWの基端側は、溶接ワイヤ供給装置18のドラム部18aの外周面に巻回されている。溶接ワイヤ供給装置18から供給される溶接ワイヤWの取出し口部分には一対の巻出しローラ19が配置されていて、この一対の巻出しローラ19の間に溶接ワイヤWが狭持されている。ドラム部18aは、不図示の支持手段により、ドラム部18aの軸線回りに回転可能に支持されている。
【0020】
ワイヤ振動部4は、送出し部12と一対の巻出しローラ19との間に配置され、溶接ワイヤWを張った状態に保持している。ワイヤ振動部4は、ブーメラン状の回転部材20と、回転部材20を所定の軸線回りに回転させる回転部材駆動モータ21とを有している。そして、回転部材駆動モータ21が回転部材20を回転させると、張った状態に保持された溶接ワイヤWの側方から回転部材20が溶接ワイヤWを押したり、回転部材20が溶接ワイヤWを押すのを解除したりする。
【0021】
これにより、図2に示すように、ワイヤ振動部4は、溶接ワイヤWを軸線C3方向に往復移動させ、溶接ワイヤWが第一の鋼管P1および第二の鋼管P2の少なくとも一方に接触した短絡位置T1と、溶接ワイヤWが第一の部材P1および第二の部材P2のそれぞれから離間した離間位置T2と、の間を往復するように溶接ワイヤWを移動させる。
なお、短絡位置T1と離間位置T2とを結ぶ方向が距離調節方向Yとなる。
【0022】
溶接ヘッド2は、図1および図2に示すように、溶接トーチ3を延在方向Xの一方側から他方側に見たときに、距離調節方向Yに交差する交差方向Zに溶接トーチ3を往復移動させる高速揺動機構(交差側移動部)24を有する溶接ヘッド本体25と、溶接トーチ3を延在方向Xに移動させる搬送部26と、を有して構成されている。
図1に示すように、高速揺動機構24は、溶接トーチ3に接続された支持体27と、支持体27を交差方向Zに往復移動させる不図示のヘッド駆動モータを有する本体部28とを有している。
高速揺動機構24が、溶接ワイヤWを交差方向Zに往復移動させる周波数は、5Hz以上50Hz以下に設定されている。そして、ワイヤ振動部4が溶接ワイヤWを距離調節方向Yに往復移動させる周波数は、高速揺動機構24が溶接ワイヤWを交差方向Zに往復移動させる周波数に対して2倍以上10倍以下に設定されている。
【0023】
搬送部26は、第一の鋼管P1の外周面に取り付けられた円周ガイドレール29と、円周ガイドレール29上に配設された車輪部30と、車輪部30を回転させる不図示の車輪駆動モータとを有している。車輪部30は溶接ヘッド本体25に回転可能に支持され、車輪駆動モータは溶接ヘッド本体25内に設けられている。
車輪駆動モータが車輪部30を一定の方向に回転させ、溶接トーチ3が接続された溶接ヘッド2を円周ガイドレール29上で移動させることで、溶接トーチ3を第一の鋼管P1の端面P11と第二の鋼管P2の端面P21との間に沿って移動させることができる。
【0024】
図1に示すように、給電部5は、プラス側の端子5aが電極部11に電気的に接続され、マイナス側の端子が第一の鋼管P1に電気的に接続されている。給電部5は、電極部11と第一の鋼管P1との間に一定の電圧を印加することができる。
ガスボンベ6内には二酸化炭素等のシールドガスが収容されていて、ガスボンベ6にはガスボンベ6から流れ出すシールドガスの流量を調節する流量調節バルブ6aが設けられている。ガスボンベ6は、一定の柔軟性を有する配管33によりトーチ本体13に接続されている。流量調節バルブ6aを開くと、トーチ本体13を通して溶接用ガスノズル14と電極部11の隙間から溶接ワイヤWの周りに流量を調節したシールドガスを流すことができ、流量調節バルブ6aを閉じることで、溶接用ガスノズル14と電極部11の隙間から流れ出すシールドガスの流れを止めることができる。
【0025】
制御部8は、溶接ヘッド本体25のヘッド駆動モータ、搬送部26の車輪駆動モータ、送出し部12のワイヤ供給モータ、ワイヤ振動部4の回転部材駆動モータ21および給電部5(以下、「ヘッド駆動モータ等」と称する。)と電気的に接続されている。制御部8には、使用者が指示内容を入力可能な不図示の入力手段が接続されている。
制御部8は、ヘッド駆動モータ等に所定の電力を供給するとともに、ヘッド駆動モータ等を制御することができる。
【0026】
次に、以上のように構成された溶接装置1を用いて行われる本実施形態の溶接方法について説明する。溶接装置1による溶接方法は、鋼管P1、P2の位置決めを行う位置決め工程と、第一の鋼管P1と第二の鋼管P2を溶接ワイヤWにより溶接する溶接工程とを備えている。ここでは、一例として、ワイヤ振動部4の周波数が、高速揺動機構24の周波数に対して6倍に設定されている場合で説明する。
【0027】
まず、使用者は、位置決め工程において、第一の鋼管P1の端面P11と第二の鋼管P2の端面P21とが、互いに一定距離離間するように配置する。このとき、第一の鋼管P1の中心軸線C1と第二の鋼管P2の中心軸線C2とが一致するように、鋼管P1、P2を配置する。そして、このような位置に配置された鋼管P1、P2の相対位置を、インターナルクランプ7により固定する。
以上により、位置決め工程を終了して溶接工程に移行する。
【0028】
続いて、溶接工程において、ガスボンベ6の流量調節バルブ6aを調節して溶接用ガスノズル14と電極部11の隙間から所定の流量のシールドガスを流す。使用者が入力手段から指示すると、制御部8は、以下で順に説明する給電工程、送り出し工程、延在方向移動工程、距離調節移動工程、交差移動工程をそれぞれ同時に行う。
【0029】
給電工程では、制御部8は、給電部5により電極部11と第一の鋼管P1との間に一定の電圧を印加させる。送り出し工程では、送出し部12のワイヤ供給モータにより一対の送出しローラ15を回転させることにより、溶接ワイヤWを軸線C3方向の先端側に送り出す。延在方向移動工程では、搬送部26の車輪駆動モータにより車輪部30を一定の方向に回転させることにより、溶接ヘッド2を延在方向Xに移動させる。
距離調節移動工程では、ワイヤ振動部4の回転部材駆動モータ21により回転部材20を回転させることにより、溶接ワイヤWを短絡位置T1と離間位置T2との間を往復するように移動させる。そして、交差移動工程では、高速揺動機構24のヘッド駆動モータにより溶接トーチ3を交差方向Zに往復移動させる。
【0030】
次に、これらの各工程のうち、距離調節移動工程および交差移動工程に重点をおいて説明する。この例では、ワイヤ振動部4の周波数が高速揺動機構24の周波数に対して6倍に設定されているので、溶接ワイヤWは交差方向Zに1回往復する間に距離調節方向Yに6回往復する。
【0031】
図2および図3に示すように、溶接ワイヤWは、短絡位置T1に配置され、先端が第二の部材P2の位置S1に当接している状態から一定の時間経過したときに、ワイヤ振動部4により距離調節方向Yに約1/2周期分往復移動して第一の鋼管P1および第二の鋼管P2のそれぞれから離間すると同時に、高速揺動機構24により交差方向Zに約1/12周期分往復移動して図4に示す離間位置T3に移動する。このとき、溶接ワイヤWと第二の鋼管P2との間にアークAが発生して溶接ワイヤWおよび第二の鋼管P2が加熱され、溶接ワイヤWが溶けて溶接ワイヤWの先端に溶滴W1が生じる。
溶接ワイヤWは、図4に示す離間位置T3から一定の時間経過したときに、図3および図5に示すように、ワイヤ振動部4により距離調節方向Yに約1/2周期分往復移動すると同時に、高速揺動機構24により交差方向Zに約1/12周期分往復移動して、第二の鋼管P2の位置S2に接触する短絡位置T4に移動する。このとき、溶滴W1が第二の鋼管P2の端面P21に付着する。
【0032】
同様に、溶接ワイヤWが図5に示す離間位置T5から一定の時間経過して図6に示す離間位置T5に移動したときに、溶接ワイヤWと第一の部材P1との間にアークAが発生して溶接ワイヤWの先端に溶滴W2が生じる。さらに、溶接ワイヤWが、図6に示す離間位置T5から一定の時間経過して図7に示す第一の鋼管P1の位置S3に接触する短絡位置T6に移動したときに、溶滴W2が第一の鋼管P1の端面P11に付着する。このときに、溶滴W1と溶滴W2が結合する。
【0033】
このように、給電部5により電極部11を通じて溶接ワイヤWに電圧を印加した状態で、溶接ワイヤWを、送出し部12により軸線C3方向の先端側に送り出すとともに搬送部26により延在方向Xに移動させながら、ワイヤ振動部4により距離調節方向Yに高速揺動機構24により交差方向Zにそれぞれ往復移動させる。
すると、第一の鋼管P1の端面P11と第二の部材P2の端面P21とに溶滴が付着し、付着した溶滴が結合して冷えて固まることにより、第一の鋼管P1の端面P11と第二の鋼管P2の端面P21とが溶接される。
以上により、溶接工程が終了する。
【0034】
以上説明したように、本実施形態の溶接装置1および溶接方法によれば、まず、第一の鋼管P1と第二の鋼管P2の端面P11、P21同士を互いに一定距離離間させて配置する。そして、第一の鋼管P1および第二の鋼管P2に対して電圧を印加された溶接ワイヤWを、軸線C3方向の先端側に送り出すとともに、短絡位置と離間位置との間で距離調節方向Yに往復移動させながら交差方向Zに往復移動させる。
溶接ワイヤWが離間位置に向かうときに、溶接ワイヤWと第一の鋼管P1または第二の鋼管P2との間でアークAが発生して溶接ワイヤWが溶けて溶滴が生じ、溶接ワイヤWが短絡位置に位置したときに溶接ワイヤWに生じた溶滴が、端面P11と端面P21との間に付着することで端面P11、P21同士が溶接される。
溶接ワイヤWを交差方向Zに往復移動させながら溶接するので、交差方向Zに幅の広い溶接ワイヤで溶接したのと同等の条件となり、溶滴を両端面P11、P21の間に交差方向Zに幅広く付着させることができる。したがって、たとえば、両端面P11、P21の間隔や、第一の鋼管P1と第二の鋼管P2との間の段差が、従来のCMT溶接方法で溶接可能な寸法より大きい場合であっても、裏当金を用いることなく、第一の鋼管P1と第二の鋼管P2の端面P11、P21同士を好適に溶接することができる。
【0035】
また、溶接工程では、溶接ワイヤWを延在方向Xに移動させる延在方向移動工程を、送り出し工程、距離調節移動工程、交差移動工程および給電工程と同時に行う。このため、第一の鋼管P1と第二の鋼管P2の端面P11、P21同士の溶接を、延在方向Xに連続して行うことができる。
【0036】
溶接ワイヤWを交差方向Zに往復移動させる周波数は、5Hz以上50Hz以下に設定されている。溶接ワイヤWを交差方向Zに往復移動させる周波数を5Hz以上とすることで、両端面11、P21の間を溶接ワイヤWの溶滴で充分に満たすことができる。交差方向Zの周波数が5Hz未満の場合、溶接ワイヤWを交差方向Zに往復移動させない場合と差がなくなり、両端面11、P21間の径方向の段差に対応するのが困難になる。
そして、溶接ワイヤWを交差方向Zに往復移動させる周波数を50Hz以下とすることで、高い周波数に対応させるために高速揺動機構24が大型化するのを抑え、溶接装置1の製造コストを低減させることができる。
【0037】
そして、溶接ワイヤWを距離調節方向Yに往復移動させる周波数の、溶接ワイヤWを交差方向Zに往復移動させる周波数に対する比率は、2倍以上10倍以下に設定されている。
比率を2倍とすることで、図8に示すように、溶けた溶滴が第二の鋼管P2の端面P21の位置S4と第一の鋼管P1の端面P11の位置S5にそれぞれ付着する。したがって、この比率を2倍以上とすることで、溶けた溶滴を第一の鋼管P1の端面P11と第二の鋼管P2の端面P21の両方に付着させ、第一の鋼管P1と第二の鋼管P2とをより確実に溶接することができる。
そして、この比率を10倍以下とすることで、溶接ワイヤWが交差方向Zに1回往復する間に距離調節方向Yに往復移動する回数を減らして、溶接ワイヤWによる延在方向Xの溶接速度を向上させることができる。
【0038】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
図9に示すように、本実施形態の溶接装置41は、前記第1実施形態の溶接装置1において、電極部11とトーチ本体13とを接続し、弾性材料で形成されたフレキシブル部材(接続部材)42をさらに備えている。
フレキシブル部材42は、たとえば、板厚の薄い金属を蛇腹状に折り曲げて形成したものである。フレキシブル部材42は、高速揺動機構24により電極部11を交差方向Zに移動させたときに電極部11とトーチ本体13との交差方向Zの相対移動を許容するように、柔らかく形成されている。
【0039】
この発明によれば、端面P11、P21間の隙間が大きい場合や第一の鋼管P1と第二の鋼管P2との間の段差が大きい場合であっても、裏当金を用いることなく両鋼管P1、P2を好適に溶接することができる。
さらに、電極部11とトーチ本体13とをフレキシブル部材42で接続することで、高速揺動機構24により電極部11を交差方向Zに往復移動させたときに、この交差方向Zに往復移動する幅を、電極部11よりトーチ本体13の方が小さくなるようにすることができる。したがって、高速揺動機構24による電極部11の往復移動をより容易に行うことができる。
トーチ本体13はワイヤ供給モータを有していて、ワイヤ供給モータの重量は、たとえば3kg程度ある。このため、トーチ本体13を交差方向Zに高速で往復移動させようとすると、溶接ヘッド2が大型化してしまうことになる。
【0040】
以上、本発明の第1実施形態および第2実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更等も含まれる。
たとえば、上記第1実施形態および第2実施形態では、第一の部材および第二の部材を管状の第一の鋼管P1および第二の鋼管P2とした。しかし、第一の部材および第二の部材の形状は、管状に限定されず、たとえば、平坦な板状や湾曲した板状等であってもよい。
そして、上記第1実施形態および第2実施形態では、第一の鋼管P1の端面P11と第二の鋼管P2の端面P21とを互いに当接させた状態で溶接してもよい。
【0041】
また、上記第1実施形態および第2実施形態では、溶接ワイヤWで溶接する部分が延在方向Xに充分短い場合には、溶接工程における延在方向移動工程を行わなくてもよい。
【実施例】
【0042】
端面P11、P21がともに図10に示すように形成された鋼管P1、P2を用いて溶接装置1により溶接試験を行った。両端面P11、P21は、J開先形状に加工されていて、Root Faceが1.5mm、内面トリムが0.5mm、べべル角度が3°、そして開先極率半径が2.4mmとなっている。
第一の鋼管P1の端面P11と第二の鋼管P2の端面P21との距離(以下、「Root Gap」と称する。)、および、端面P11と端面P21との径方向の段差(以下、「目違い」と称する。)が、以下の3種類の仕様になるように第一の鋼管P1および第二の鋼管P2を配置して溶接試験を行った。
第一の仕様は、図11に示す標準仕様であるRoot Gapが0mm、目違いが0mmの場合、第二の仕様は、図12に示すRoot Gapが0.5mm、目違いが0mmの場合、そして、第三の仕様は、図13に示すRoot Gapが0mm、目違いが1.0mmの場合である。
【0043】
ガスボンベ6のシールドガスとしては純粋な二酸化炭素を用い、溶接ワイヤWはYM−58A(φ1.2mm、日鐵溶接工業株式会社製)を用いた。溶接ワイヤWの交差方向Zの周波数を10Hz、溶接ワイヤWが交差方向Zに移動する最大の幅を1.6mm、送出し部12による溶接ワイヤWの供給速度を5〜6m/min、給電部5による設定電流を170〜200A、給電部5による設定電圧を16〜18V、延在方向Xの溶接速度を30〜40cm/minとした。
【0044】
第一の仕様から第三の仕様において溶接試験を行った結果、いずれの仕様においても、第一の鋼管P1と第二の鋼管P2を好適に溶接できることが分かった。
【符号の説明】
【0045】
1、41 溶接装置
4 ワイヤ振動部(距離調節側移動部)
5 給電部
11 電極部
12 送出し部
13 トーチ本体(電極補助部)
24 高速揺動機構(交差側移動部)
42 フレキシブル部材(接続部材)
C3 軸線
P1 第一の鋼管(第一の部材)
P2 第二の鋼管(第二の部材)
P11、P21 端面
T1、T4、T6 短絡位置
T2、T3、T5 離間位置
W 溶接ワイヤ
X 延在方向
Y 距離調節方向
Z 交差方向
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の部材の端面と第二の部材の端面とを溶接する溶接方法であって、
前記端面同士を互いに当接または一定距離離間させて配置させる位置決め工程と、
前記端面同士を溶接ワイヤにより溶接する溶接工程と、
を備え、
前記溶接工程では、
前記溶接ワイヤを前記溶接ワイヤの軸線方向の先端側に送り出す送り出し工程と、
前記溶接ワイヤが前記第一の部材および前記第二の部材の少なくとも一方に接触した短絡位置と、前記溶接ワイヤが前記第一の部材および前記第二の部材から離間した離間位置と、の間を往復するように前記溶接ワイヤを移動させる距離調節移動工程と、
前記端面同士が延在する延在方向の一方側から他方側に見たときに、前記短絡位置と前記離間位置とを結ぶ方向に交差する交差方向に前記溶接ワイヤを往復移動させる交差移動工程と、
前記第一の部材および前記第二の部材と前記溶接ワイヤとの間に電圧を印加する給電工程と、
をそれぞれ同時に行うことを特徴とする溶接方法。
【請求項2】
前記溶接工程では、
前記溶接ワイヤを前記延在方向に移動させる延在方向移動工程を、前記送り出し工程、前記距離調節移動工程、前記交差移動工程および前記給電工程と同時に行うことを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
【請求項3】
前記溶接ワイヤを前記交差方向に往復移動させる周波数は、5Hz以上50Hz以下に設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の溶接方法。
【請求項4】
前記溶接ワイヤを前記距離調節方向に往復移動させる周波数は、前記溶接ワイヤを前記交差方向に往復移動させる周波数に対して2倍以上10倍以下に設定されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の溶接方法。
【請求項5】
互いに当接または一定距離離間させて配置された第一の部材の端面と第二の部材の端面とを溶接する溶接装置であって、
溶接ワイヤの先端側を前記溶接ワイヤの軸線方向に移動可能に案内するとともに前記溶接ワイヤに電気的に接続された電極部と、
前記溶接ワイヤを前記溶接ワイヤの軸線方向の先端側に送り出す送出し部と、
前記溶接ワイヤが前記第一の部材および前記第二の部材の少なくとも一方に接触した短絡位置と、前記溶接ワイヤが前記第一の部材および前記第二の部材から離間した離間位置と、の間を往復するように前記溶接ワイヤを移動させる距離調節側移動部と、
前記端面同士が延在する延在方向の一方側から他方側に見たときに、前記短絡位置と前記離間位置とを結ぶ方向に交差する交差方向に前記電極部を往復移動させる交差側移動部と、
前記第一の部材および前記第二の部材と前記電極部との間に電圧を印加する給電部と、
を備えることを特徴とする溶接装置。
【請求項6】
前記送出し部が設けられる電極補助部と、
前記電極部と前記電極補助部とを接続し、前記電極部を前記交差方向に移動させたときに前記電極部と前記電極補助部との前記交差方向の相対移動を許容する弾性材料で形成された接続部材と、
をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の溶接装置。
【請求項1】
第一の部材の端面と第二の部材の端面とを溶接する溶接方法であって、
前記端面同士を互いに当接または一定距離離間させて配置させる位置決め工程と、
前記端面同士を溶接ワイヤにより溶接する溶接工程と、
を備え、
前記溶接工程では、
前記溶接ワイヤを前記溶接ワイヤの軸線方向の先端側に送り出す送り出し工程と、
前記溶接ワイヤが前記第一の部材および前記第二の部材の少なくとも一方に接触した短絡位置と、前記溶接ワイヤが前記第一の部材および前記第二の部材から離間した離間位置と、の間を往復するように前記溶接ワイヤを移動させる距離調節移動工程と、
前記端面同士が延在する延在方向の一方側から他方側に見たときに、前記短絡位置と前記離間位置とを結ぶ方向に交差する交差方向に前記溶接ワイヤを往復移動させる交差移動工程と、
前記第一の部材および前記第二の部材と前記溶接ワイヤとの間に電圧を印加する給電工程と、
をそれぞれ同時に行うことを特徴とする溶接方法。
【請求項2】
前記溶接工程では、
前記溶接ワイヤを前記延在方向に移動させる延在方向移動工程を、前記送り出し工程、前記距離調節移動工程、前記交差移動工程および前記給電工程と同時に行うことを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
【請求項3】
前記溶接ワイヤを前記交差方向に往復移動させる周波数は、5Hz以上50Hz以下に設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の溶接方法。
【請求項4】
前記溶接ワイヤを前記距離調節方向に往復移動させる周波数は、前記溶接ワイヤを前記交差方向に往復移動させる周波数に対して2倍以上10倍以下に設定されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の溶接方法。
【請求項5】
互いに当接または一定距離離間させて配置された第一の部材の端面と第二の部材の端面とを溶接する溶接装置であって、
溶接ワイヤの先端側を前記溶接ワイヤの軸線方向に移動可能に案内するとともに前記溶接ワイヤに電気的に接続された電極部と、
前記溶接ワイヤを前記溶接ワイヤの軸線方向の先端側に送り出す送出し部と、
前記溶接ワイヤが前記第一の部材および前記第二の部材の少なくとも一方に接触した短絡位置と、前記溶接ワイヤが前記第一の部材および前記第二の部材から離間した離間位置と、の間を往復するように前記溶接ワイヤを移動させる距離調節側移動部と、
前記端面同士が延在する延在方向の一方側から他方側に見たときに、前記短絡位置と前記離間位置とを結ぶ方向に交差する交差方向に前記電極部を往復移動させる交差側移動部と、
前記第一の部材および前記第二の部材と前記電極部との間に電圧を印加する給電部と、
を備えることを特徴とする溶接装置。
【請求項6】
前記送出し部が設けられる電極補助部と、
前記電極部と前記電極補助部とを接続し、前記電極部を前記交差方向に移動させたときに前記電極部と前記電極補助部との前記交差方向の相対移動を許容する弾性材料で形成された接続部材と、
をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の溶接装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−189360(P2011−189360A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56264(P2010−56264)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】
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