説明

溶液製膜方法

【課題】所望の光学特性の位相差フィルムをつくる。
【解決手段】溶液製膜方法10では、膜形成工程13と、剥取工程15と、延伸乾燥工程16と、乾燥工程18と、水蒸気接触工程20と、延伸工程22とを有する。膜形成工程13では、ドープ11から流延膜12を支持体上に形成する。剥取工程15では、支持体から流延膜12を剥ぎ取って湿潤フィルム14とする。延伸乾燥工程では、湿潤フィルム14の延伸とともに、湿潤フィルム14からの溶剤の蒸発を行う。乾燥工程18では、湿潤フィルム14からの溶剤の蒸発を行い、フィルム17とする。水蒸気接触工程20では、フィルム17に水蒸気を接触する。延伸工程22では、フィルム17の延伸により位相差フィルム21を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムをつくる溶液製膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光透過性を有するポリマーフィルム(以下、フィルムと称する)は、軽量であり、成形が容易であるため、光学フィルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレートなどを用いたセルロースエステル系フィルムは、写真感光用フィルムをはじめとして、近年市場が拡大している液晶表示装置の構成部材である位相差フィルムに用いられている。
【0003】
フィルムの主な製造方法としては、溶融押出方法と溶液製膜方法とがある。溶融押出方法は、ポリマーを溶融させた後、押出機で押し出してフィルムを製造する方法であり、生産性が高く、設備コストも比較的低額であるなどの特徴を有する。しかし、フィルムの厚みを調整することが難しいことに加え、フィルム上に細かいスジができる故障が発生しやすい。一方、溶液製膜方法は、ポリマーと溶剤とを含むポリマー溶液(以下、ドープと称する)を流し、支持体上に流延膜を形成する。次に、流延膜が搬送可能になった後、これを支持体から剥がして湿潤フィルムとする。そして、この湿潤フィルムから溶剤を蒸発させてフィルムとする方法である。溶液製膜方法は、溶融押出方法と比べて、フィルムの厚みの調節が容易、フィルム表面の状態を良好なものにすることが容易である。更に、溶液製膜方法は、含有異物の少ないフィルムを得ることができる。こうした経緯から、位相差フィルムは、主に溶液製膜方法で製造されている。
【0004】
溶液製膜方法では、湿潤フィルムを所定の方向へ延伸する延伸工程が行われる(例えば、特許文献1)。湿潤フィルムには未だ溶剤が含まれているため、湿潤フィルムは延伸しやすく、延伸によるフィルムの破断やヘイズの悪化が起こりにくい。この延伸工程によれば、湿潤フィルム内におけるポリマー分子が配向する結果、最終的に得られる位相差フィルムのレターデーションを所望の値に調節することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−268419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、位相差フィルムへの光学特性の要求レベルが高くなってきている。特に、光学特性のうち、遅相軸のばらつきの低減が重要となっている。しかしながら、最終的に得られる位相差フィルムでは、遅相軸が幅方向や長手方向においてばらついてしまい、これを解消することが非常に困難であった。
【0007】
本発明者の鋭意検討の結果、位相差フィルムの遅相軸のばらつきは、溶剤を多量に含む湿潤フィルムの延伸に起因していることを突き止めた。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するものであり、遅相軸のばらつきの小さい位相差フィルムを製造する溶液製膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の溶液製膜方法は、ポリマー及び溶剤を含むドープからなる流延膜を支持体上に形成する膜形成工程と、前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取って湿潤フィルムとする剥取工程と、前記湿潤フィルムを延伸しながら、前記湿潤フィルムから前記溶剤を蒸発させる延伸乾燥工程と、前記湿潤フィルムから前記溶剤を蒸発させてフィルムとする乾燥工程と、前記フィルムを延伸して、位相差フィルムとする延伸工程とを有し、カールした前記フィルムに水蒸気をあてる水蒸気接触工程を、前記乾燥工程と前記延伸工程の間で行うことを特徴とする。
【0010】
前記延伸乾燥工程における前記湿潤フィルムの残留溶剤量は、2質量%以上250質量%以下であり、前記延伸工程における前記フィルムの残留溶剤量は5質量%以下であることが好ましい。
【0011】
前記膜形成工程では、前記流延膜が搬送可能になるまで、前記流延膜から前記溶剤を蒸発することが好ましい。また、前記ポリマーはセルロースアシレートを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、湿潤フィルムを延伸しながら、湿潤フィルムから前記溶剤を蒸発させる延伸乾燥工程と、湿潤フィルムから溶剤を蒸発させてフィルムとする乾燥工程と、フィルムを延伸する延伸工程とを有し、乾燥工程及び延伸工程の間で水蒸気接触工程を行うため、遅相軸のばらつきの小さい位相差フィルムを製造することができる。更に、本発明によれば、延伸乾燥工程とフィルムを延伸する延伸工程とにより、ヘイズを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】溶液製膜方法の概要を示すフローチャートである。
【図2】第1の溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図3】フィルム保持手段としてクリップを有するテンタの概要を示す平面図である。
【図4】開放位置にあるフラッパの概要を示すIV−IV線断面図である。
【図5】把持位置にあるフラッパの概要を示すV−V線断面図である。
【図6】第1テンタに設けられたダクトの概要を示す側面図である。
【図7】カール状態のフィルムが、第1テンタに導入されたときの概要を示す断面図である。
【図8】カール矯正装置の概要を示す側面図である。
【図9】第2の溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図10】フィルム保持手段としてピンを有するテンタの概要を示す斜視図である。
【図11】第2の水蒸気接触部の概要を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
溶液製膜方法10は、ポリマー及び溶剤を含むドープ11から流延膜12を支持体上に形成する膜形成工程13と、支持体から流延膜12を剥ぎ取って湿潤フィルム14とする剥取工程15と、湿潤フィルム14の延伸とともに、湿潤フィルム14からの溶剤の蒸発を行う延伸乾燥工程16と、湿潤フィルム14からの溶剤の蒸発を行い、フィルム17とする乾燥工程18と、フィルム17に水蒸気を接触させる水蒸気接触工程20と、フィルム17を延伸して、位相差フィルム21とする延伸工程22とを有する。
【0015】
図2に示すように、溶液製膜設備30は、膜形成工程13(図1参照)及び剥取工程15(図1参照)が行われる流延室32と、延伸乾燥工程16(図1参照)が行われる第1テンタ33と、乾燥工程18(図1参照)が行われる乾燥室34と、延伸工程22(図1参照)が行われる第2テンタ35とを有する。
【0016】
流延室32には、ドープ11を流出する流延ダイ41と、流出したドープ11から流延膜12を形成する流延バンド42と、流延バンド42から流延膜12を剥ぎ取る剥取ローラ43とが備えられている。
【0017】
流延バンド42は、軸方向が水平となるように配された回転ローラ45、46に掛け渡される。流延バンド42の一端と他端とが連結され、流延バンド42は環状となっている。回転ローラ45、46は図示しない駆動装置により回転し、この回転に伴い流延バンド42は移動する。
【0018】
流延ダイ41は、流延バンド42の上方に設けられる。流延ダイ41は、先端にドープ11を流出するスリットを有する。流延ダイ41は、スリットが流延バンド42に近接するように配される。流延ダイ41から流出したドープ11は、移動する流延バンド42上にて流れ延ばされる結果、帯状の流延膜12を形成する。流延バンド42上において搬送可能な状態となった流延膜12は、剥取ローラ43によって流延バンド42から剥ぎ取られ、湿潤フィルム14となる。
【0019】
流延バンド42の移動速度、すなわち流延速度は10m/分以上200m/分以下であることが好ましく、より好ましくは15m/分以上150m/分以下であり、最も好ましくは20m/分以上120m/分以下である。流延速度が10m/分未満であるとフィルムの生産性が劣る。また、200m/分を超えると、流延ビードが安定して形成されず、流延膜12の面状が悪化するおそれがある。
【0020】
また、流延バンド42の表面温度を所定の値にするために、回転ローラ45、46の温度の調節が可能な温調装置47を、回転ローラ45、46に取り付けることが好ましい。温調装置47は、伝熱媒体の温度を調節する温度調節部を内蔵する。温調装置47は、温度調節部及び回転ローラ45、46内に設けられる流路との間で、所望の温度に調節された伝熱媒体を循環させる。この伝熱媒体の循環により、回転ローラ45、46の温度を所望の温度に保つことができる。
【0021】
流延ダイ41及び流延バンド42は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。
【0022】
また、流延室32には、温調装置48と、凝縮器49と、回収装置50とが備えられている。凝縮器49は、流延室32内の雰囲気に含まれる溶剤を凝縮する。図示しない制御部の制御の下、回収装置50は、凝縮器49により液化した溶剤を回収し、流延室32内の雰囲気のガス露点を、所定の範囲に保つ。ガス露点とは、流延室32内の雰囲気に含まれる溶剤が凝縮する温度である。回収された溶剤は再生装置(図示しない)で再生された後に、ドープ調製用溶剤として再利用される。制御部の制御の下、温調装置48は、流延室32内の雰囲気の温度を所定の範囲に保つ。
【0023】
更に、流延室32は、流延膜12に乾燥風をあてる送風ダクト51〜53を有する。送風ダクト51〜53は、流延ダイ41よりも流延バンド42の走行方向下流側に設けられる。流延膜12に乾燥風があたると、流延膜12から溶剤が蒸発する。流延ダイ41と送風ダクト51との間に、乾燥風を遮るラビリンスシールを設けてもよい。このラビリンスシールの設置により、流延直後の流延膜12と乾燥風との接触に起因する流延膜12の面状変動を抑制することができる。
【0024】
なお、減圧チャンバ56を、流延ダイ41よりも流延バンド42の走行方向の上流側に配置してもよい。減圧チャンバ56は、流延ビードの走行方向上流側を所望の圧力まで減圧する。図示しない制御部の制御の下、減圧チャンバ56は、流延ビードの上流側の圧力が下流側の圧力よりも低くなるように、流延ビードの走行方向上流側を減圧することができる。流延ビードの上流側と下流側との圧力差は、10Pa以上2000Pa以下であることが好ましい。
【0025】
流延室32の下流には、第1テンタ33と、乾燥室34と、第2テンタ35とが順に設置されている。
【0026】
流延室32及び第1テンタ33の間に設けられる渡り部60には、湿潤フィルム14を第1テンタ33へ導入する搬送ローラ61が並べられる。送風装置62は、搬送ローラ61により搬送される湿潤フィルム14に、乾燥風をあてる。なお、渡り部60では、下流側の搬送ローラ61の周速が上流側の搬送ローラ61の周速よりも大きい状態にすることにより、湿潤フィルム14にドローテンションを付与させることも可能である。
【0027】
図3に示すように、第1テンタ33は、帯状の湿潤フィルム14を長手方向(以下、方向Aと称する)に搬送しながら、幅方向(以下、方向Bと称する)への張力を付与し、湿潤フィルム14の幅を幅W0から幅W1へ拡げるものである。第1テンタ33には、方向Aの上流側から順に、予熱エリア33a、延伸エリア33b、及び緩和エリア33cが設けられる。なお、緩和エリア33cは省略してもよい。
【0028】
第1テンタ33は、クリップ64、レール65、及びチェーン66を備えている。レール65は湿潤フィルム14の搬送路の両側に設置され、それぞれのレール65は所定のレール間隔で離間するように配される。このレール間隔は、予熱エリア33aでは一定であり、延伸エリア33bでは方向Aに向かうに従って次第に広くなり、緩和エリア33cでは一定である。なお、緩和エリア33cのレール間隔は、方向Aに向かうに従って次第に狭くなるようにしてもよい。
【0029】
方向Aにおけるレール65の下流端近傍には原動スプロケット68が設けられ、方向Aにおけるレール65の上流端近傍には従動スプロケット69が設けられる。チェーン66は、原動スプロケット68及び従動スプロケット69に掛け渡され、レール65に沿って移動自在に取り付けられている。クリップ64は、チェーン66に所定の間隔で複数取り付けられている。なお、図の煩雑化を避けるため、図2にはクリップ64の一部のみを示す。原動スプロケット68の回転により、クリップ64はレール65に沿って循環移動する。
【0030】
図4に示すように、クリップ64は、略コ字形状のフレーム73とフラッパ74を備える。フレーム73は、湿潤フィルム14のB方向両縁部(以下、耳部と称する)を支持する支持部73aを有する。支持部73aとの当接により、湿潤フィルム14の耳部を把持可能な把持部74aが、フラッパ74の一端に設けられる。また、フラッパ74の他端には係合頭部74bが設けられる。また、フレーム73は取付軸73bを有し、取付軸73bによりフラッパ74はフレーム73に取り付けられる。これにより、把持部74a及び係合頭部74bは、取付軸73bを中心に揺動自在となる。フラッパ74は、支持部73aが把持部74aに当接する把持位置(図5参照)と、支持部73aが把持部74aから離れる開放位置(図4参照)との間で変位可能となる。更に、フラッパ74は、把持位置となるように付勢される。係合頭部74bがクリップオープナ76と接触すると、フラッパ74は把持位置(図5参照)となり、係合頭部74bがクリップオープナ76から離れると、フラッパ74は開放位置(図4参照)となる。
【0031】
図3に示すように、クリップオープナ76は、レール65の方向Aの上流端、及びレール65の方向Aの下流端にそれぞれ設けられる。クリップ64がレール65に沿って移動する。図4に示すように、係合頭部74bが方向Aの上流側のクリップオープナ76と接触すると、フラッパ74は開放位置となる。そして、支持部73a及び把持部74aの間に湿潤フィルム14の耳部が導入される。その後、係合頭部74bがクリップオープナ76から離れるため、フラッパ74は把持位置となる(図5参照)。こうして、クリップ64は、支持部73a及び把持部74aにより、湿潤フィルム14の耳部を把持する。移動するクリップ64により耳部を把持された湿潤フィルム14は、各エリアを順次通過する。各エリア33a〜33cでは、湿潤フィルム14に対し所定の処理が施される。その後、方向Aの下流側のクリップオープナ76との接触により、フラッパ74は開放位置となる結果、湿潤フィルム14は、第1テンタ33から送り出される。
【0032】
図6に示すように、各エリア33a〜33cには、ダクト81a〜81cがそれぞれ湿潤フィルム14の搬送路の上方に設けられている。ダクト81a〜81cは、乾燥風を送り出すスリット82を有する。スリット82は、湿潤フィルム14の搬送路と対向するように設けられる。スリット82は方向Bに長く伸びるように形成される。複数のスリット82は、方向Aに所定の間隔で並ぶように配される。なお、同様の構造を有するダクトを、湿潤フィルム14の搬送路の下方に設けてもよいし、湿潤フィルム14の搬送路の上方及び下方の両方に設けてもよい。
【0033】
エア供給部84は、各ダクト81a〜81cにエアを供給する。各ダクト81a〜81cに供給されたエアは、図示しない温調機により所定範囲内の温度に調節される。各ダクト81a〜81c内にあるエアは、乾燥風となってスリット82から送り出され、これらの乾燥風は、各エリア33a〜33cにある湿潤フィルム14に向かって流れる。
【0034】
図2に戻って、乾燥室34内の雰囲気の温度や湿度などは、図示しない空調機により調節されている。乾燥室34には、多数のローラ86が設けられており、これらに湿潤フィルム14が巻き掛けられて搬送される。乾燥室34において、湿潤フィルム14から溶剤が蒸発する。乾燥室34における溶剤の蒸発の結果、湿潤フィルム14からフィルム17が得られる。
【0035】
第2テンタ35は、フィルム17を延伸して、所望の光学特性を有する位相差フィルム21を得るためのものであり、第1テンタ33と同様の構造を有する。なお、第2テンタ35に設けられるダクト81a〜81cは、スリット82から、加熱風が流出する。加熱風は、各エリア33a〜33cにあるフィルム17に向かって流れる。
【0036】
第1テンタ33、乾燥室34及び第2テンタ35には、吸着回収装置88が接続する。吸着回収装置88は、溶剤を吸着し得る吸着剤を用いて、湿潤フィルム14から蒸発した溶剤を回収する回収処理を行う。なお、第2テンタ35におけるフィルム17から蒸発する溶剤の量が、第1テンタ33に比べて小さい場合には、第2テンタ35における回収処理を省略することができる。
【0037】
第1テンタ33及び第2テンタ35の下流にはそれぞれ耳切装置が設けられることが好ましい。耳切装置はフィルム17等の耳部を切断する。この切断した耳部は、送風によりクラッシャに送られて、破砕され、ドープ等の原料として再利用される。
【0038】
第2テンタ35の下流には、冷却室101と、除電バー102と、ナーリング付与ローラ103と、巻取室104とが順に設置されている。
【0039】
冷却室101では、位相差フィルム21の温度が室温になるまで、位相差フィルム21が冷却される。除電バー102は、位相差フィルム21に除電処理を施す。ナーリング付与ローラ92は、位相差フィルム21の耳部に巻き取り用のナーリングを付与する。巻取室104には、プレスローラ105を有する巻取機106が設置されており、位相差フィルム21が巻き芯107にロール状に巻き取られる。
【0040】
(膜形成工程)
ポンプ110は、所定量のドープ11を流延ダイ41へ送る。流延ダイ41は、ドープ11を流出する。流延ダイ41から流出したドープ11の温度は、20℃以上35℃以下であることが好ましい。流延ダイ41から流出したドープ11は、移動する流延バンド42上において、帯状の流延膜12を形成する。各ダクト51〜54から送り出された乾燥風との接触や流延バンド42による加熱により、流延膜12から溶剤が蒸発する結果、流延膜12は搬送可能な状態となる。乾燥風の温度は、40℃以上150℃以下であることが好ましい。
【0041】
(剥取工程)
搬送可能な状態となった流延膜12は、剥取ローラ43により、流延バンド42から剥ぎ取られ、湿潤フィルム14となって流延室32から送り出される。流延室32から送り出された湿潤フィルム14には、送付装置62から送り出された乾燥風が接触する。この結果、湿潤フィルム14から溶剤が蒸発する。その後、湿潤フィルム14は、第1テンタ33へ送られる。
【0042】
(延伸乾燥工程)
図3及び図6に示すように、スリット82から送り出される乾燥風との接触により、湿潤フィルム14の温度は所定の範囲内となるまで上昇するとともに、湿潤フィルム14から溶剤が蒸発する。こうして、第1テンタ33の各エリア33a〜33cにかけて、湿潤フィルム14から溶剤を蒸発させる乾燥処理が行われる。更に、予熱エリア33aでは、延伸処理のために湿潤フィルム14を予熱する予熱処理が行われる。延伸エリア33bでは、湿潤フィルム14をB方向へ延伸する延伸処理が行われる。緩和エリア33cでは、延伸処理によって生じたポリマー分子の歪みを緩和させる緩和処理が行われる。
【0043】
延伸エリア33bにおける湿潤フィルム14の残留溶剤量は、2質量%以上250質量%以下であることが好ましく、2質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。なお、本発明では、流延膜又は各フィルム中に残留する溶剤量を乾量基準で示したものを残留溶剤量とする。また、その測定方法は、対象の流延膜又はフィルムからサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出する。
【0044】
延伸処理における延伸率ER1(=W1/W0)は、100%より大きく40%以下であることが好ましい。上記範囲の残留溶剤量の湿潤フィルム14について、140%より大きい延伸率ER1で延伸処理を行っても、ポリマー分子が配向しにくく、光学特性を所望の範囲に調節することができないこと、及び、過剰な延伸率の延伸処理による湿潤フィルム14の破断、及び最終的に得られる位相差フィルム21のヘイズの悪化のおそれがあるためである。なお、延伸処理を省略しても良い。
【0045】
延伸処理における湿潤フィルム14の温度は、95℃以上150℃以下であることが好ましい。延伸処理における湿潤フィルム14の温度が95℃未満の場合には、湿潤フィルム14は延伸しにくくなるため、好ましくない。延伸処理における湿潤フィルム14の温度が150℃を超える場合には、遅相軸の向きがばらついてしまうため好ましくない。
【0046】
(乾燥工程)
乾燥室34では、湿潤フィルム14から溶剤を蒸発させる乾燥工程が行われる。湿潤フィルム14の残留溶剤量が5質量%以下となるまで、乾燥工程が行われる。乾燥工程により、湿潤フィルム14からフィルム17が得られる。
【0047】
その後、フィルム17は、第2テンタ35に導入される。第2テンタ35では、フィルム17をB方向へ延伸する延伸工程22(図1参照)が行われる。第2テンタ35の予熱エリアでは、スリット82から送り出される加熱風との接触により、湿潤フィルム14の温度は、延伸工程が可能な範囲内となるまで上昇する。
【0048】
第2テンタ35の延伸エリアでは延伸工程22(図1参照)が行われる。延伸工程22では、幅がW2となるまで、湿潤フィルム14を延伸する。延伸工程22における延伸率ER2(=W2/W0)は、105%より大きく200%以下であることが好ましく、110%以上160%以下であることがより好ましい。延伸による遅相軸のばらつきは、残留溶剤量の分布に起因する。したがって、残留溶剤量が湿潤フィルム14に比べて極めて小さいフィルム17を延伸することにより、この遅相軸のばらつきを抑えることが可能となる。したがって、本発明によれば、遅相軸のばらつきの小さい位相差フィルム21を製造することができる。
【0049】
延伸工程22開始時におけるフィルム17の残留溶剤量は、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。
【0050】
延伸工程22におけるフィルム17の温度は、100℃以上200℃以下であることが好ましい。延伸工程22におけるフィルム17の温度が100℃未満の場合には、フィルム17は延伸しにくくなるため、好ましくない。延伸工程22におけるフィルム17の温度が200℃を超える場合には、遅相軸の向きがばらついてしまうため好ましくない。
【0051】
(カール矯正装置)
なお、第2テンタ35に導入される際のフィルム17は、カールしている場合がある。フィルム17のカールは、膜形成工程13(図1参照)から乾燥工程18(図1参照)における、流延膜または各フィルムの両表面での溶剤の蒸発速度の差や、流延膜または各フィルムの両表面の残留溶剤量の差に起因すると考えられている。
【0052】
図7に示すように、カールしたフィルム17を第2テンタ35へ導入すると、フラッパ74が開放位置から把持位置へ変位する間において、フィルム17の耳部がフラッパ74と接触する結果、支持部73a及び把持部74aによるフィルム17の耳部の把持を行うことができない。そこで、第2テンタ35に導入する前に、フィルム17のカールの矯正が必要になる場合がある。この場合には、乾燥室34と第2テンタ35との間に、水蒸気接触工程20(図1参照)を行うカール矯正装置120(図2参照)を設けることが好ましい。
【0053】
カール矯正装置120は、図8に示すように、入口121a及び出口121bが設けられたケーシング121を有する。ケーシング121内には、入口121aから出口121bにかけて、フィルム17の搬送路が形成される。ケーシング121内には、搬送方向上流側から下流側に向かって順次、予熱部123及び水蒸気接触部124が設けられる。予熱部123及び水蒸気接触部124は、仕切部材126により仕切られることが好ましい。なお、予熱部123は省略しても良い。
【0054】
予熱部123内には、送出口から予熱風127を送り出す予熱風供給機128と、搬送路近傍における温度や湿度を検知する温度湿度センサ129とが設けられる。予熱風供給機128に設けられた送出口は、搬送路と対向するように形成される。送出口は、搬送路にあるフィルム17の両表面と対向するように設けても良いし、一方の表面と対向するように設けても良い。予熱風127に用いる気体としては、空気のほか、窒素や希ガスなどの不活性ガスを用いることが好ましい。
【0055】
水蒸気接触部124内には、送出口から水蒸気131を送り出す水蒸気供給機132と、搬送路近傍における温度や湿度を検知する温度湿度センサ133とが設けられる。水蒸気供給機132に設けられた送出口は、カールしたフィルム17の表面のうち外側に向く表面と対向するように設けられる。
【0056】
制御部135は、温度湿度センサ129、133から搬送路近傍における温度や湿度を読み取り、読み取った温度や湿度に基づいて、予熱風127の温度や湿度、または水蒸気131の温度や供給量をそれぞれ独立して調節する。
【0057】
次に、カール矯正装置120の作用について説明する。カールを有するフィルム17は、カール矯正装置120に導入される。フィルム17は、予熱部123及び水蒸気接触部124を順次通過する。
【0058】
水蒸気接触部124では、カール状態のフィルム17に水蒸気131をあてる水蒸気接触工程20(図1参照)が行われる。これにより、フィルム17のガラス転移温度が低下する結果、カールが矯正される。なお、カール状態のフィルム17のうち、水蒸気131をあてる部分は、外側を向く部分であることが好ましいが、内側を向く部分であってもよいし、両部分であっても良い。水蒸気接触工程20を経たフィルム17はカールが矯正されている。このため、第2テンタ35において、クリップ64によるフィルム17の耳部の把持をスムーズに行うことができる。
【0059】
水蒸気接触工程20は、0.1秒以上20秒以内行うことが好ましく、0.2秒以上10秒以内行うことがより好ましい。
【0060】
水蒸気接触工程20完了時から延伸工程22の開始時までの間は、特に限定されないが、例えば、10秒以上600秒以内であることが好ましい。
【0061】
上記実施形態では、ドープ11からなる流延膜12を搬送可能な状態にするために、流延膜12から溶剤を蒸発させたが、本発明はこれに限られず、流延膜12の冷却により流延膜12を搬送可能な状態としてもよい。
【0062】
上記実施形態では、上記実施形態では、支持体として、流延バンド42を用いたが、本発明はこれに限られず、軸方向が水平となるように配された流延ドラムを用いてもよい。
【0063】
以下、流延ドラム138を支持体として有する溶液製膜設備140について説明する。溶液製膜設備140は、図9に示すように、流延室32と、延伸乾燥工程16(図1参照)が行われる第1テンタ143と、乾燥室34と、第2テンタ35とを有する。なお、溶液製膜設備30と同一の部材については同一の符号を付し、その詳細の説明は省略する。
【0064】
流延室32には、流延ドラム138が配される。流延ドラム138は、軸方向が水平となるように配され、軸を中心に回転自在となっている。流延ドラム138は、制御部の制御の下、図示しない駆動装置により軸142を中心に回転する。流延ドラム138の回転により、流延ドラム138の所定の速度(例えば、50m/分以上200m/分以下)で走行する。流延ドラム138には温調装置47が接続する。温調装置47は、伝熱媒体の温度を調節する温度調節部を内蔵する。温調装置47は、温度調節部及び流延ドラム138内に設けられる流路との間で、所望の温度に調節された伝熱媒体を循環させる。この伝熱媒体の循環により、流延ドラム138の周面の温度を所望の温度に保つことができる。流延ドラム138の周面の温度は、−10℃以上10℃以下であることが好ましい。
【0065】
温度調節された流延ドラム138にドープ11を流すことにより、流延ドラム138の周面に形成された流延膜12を冷却することができる。そして、この冷却により、ゲル化が進行し、流延膜12は搬送が可能な状態となる。こうして、流延膜12は剥取ローラ43によって流延ドラム138から剥ぎ取られた後、湿潤フィルム14として搬送される。
【0066】
流延ドラム138は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。
【0067】
図10に示すように、第1テンタ143は、複数のプーリ(図示しない)、複数のプーリに巻きかけられた環状のチェーン152、チェーン152に取り付けられた複数のピンプレート154、及びピンプレート154に設けられたピン155を有する。
【0068】
図示しない制御部の制御の下、プーリ151が駆動するため、チェーン152は、循環移動する。この結果、湿潤フィルム14を貫通可能なピン155は循環移動する。
【0069】
第1テンタ143の入り口には、噛み込みブラシが設けられる。噛み込みブラシは、湿潤フィルム14の耳部を、循環移動するピン155に押し付ける。湿潤フィルム14の耳部にピン155が貫通することにより、第1テンタ143は、湿潤フィルム14を保持する。ピン155の移動により、湿潤フィルム14は、第1テンタ143の出口まで搬送される。第1テンタ143の出口には、図示しない解除機構により、第1テンタ143による湿潤フィルム14の保持が解除される。その後、湿潤フィルム14は、乾燥室34へ送り出される。
【0070】
第1テンタ143には、湿潤フィルム14に乾燥風をあてる送風機158が設けられる。送風機158から送り出された乾燥風との接触により、湿潤フィルム14から溶剤が蒸発する。
【0071】
なお、一対のチェーン152の間隔CL1は、上流側から下流側にかけて一定でも良いし、下流側に向かうに従い大きくなってもよい。
【0072】
本発明は、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時に共流延させて積層させる同時積層共流延、または、複数のドープを逐次に共流延して積層させる逐次積層共流延を行うことができる。なお、両共流延を組み合わせてもよい。同時積層共流延を行う場合には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いてもよいし、マルチポケット型の流延ダイを用いてもよい。
【0073】
上記実施形態では、図8に示すような水蒸気接触部をカール矯正装置に設けたが、本発明はこれに限られず、図11に示すような水蒸気接触部170を設けても良い。水蒸気接触部170には、フィルム17を搬送する搬送ローラ61と、水蒸気131を送り出す水蒸気供給機171とが設けられる。水蒸気供給機171は、搬送ローラ61の周面61aに沿って設けられるガイド面171aを有する。周面61aとガイド面171aとの間には、フィルム17の搬送路が形成される。搬送ローラ61に巻き掛けかれたフィルム17は、周面61aとガイド面171aとの間を通過する。ガイド面171aには、水蒸気131を送出す送出口171bが設けられる。スリット状の送出口171bは、幅方向へ長く伸びる。こうして、周面61aとガイド面171aとの間を通過するフィルム17に水蒸気131をあてる水蒸気接触工程20(図1参照)を行うことができる。なお、水蒸気接触部170は、1つでもよいし、複数設けても良い。
【0074】
(ポリマー)
ポリマーとしては、セルロースアシレートや環状ポリオレフィン等を用いることができる。
【0075】
(セルロースアシレート)
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、すなわち、アシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものが好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、アシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90質量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.0≦A+B≦3.0
(II) 1.0≦ A ≦3.0
(III) 0 ≦ B ≦2.0
【0076】
アシル基の全置換度A+Bは、2.20以上2.90以下であることがより好ましく、2.40以上2.88以下であることが特に好ましい。また、炭素原子数3〜22のアシル基の置換度Bは、0.30以上であることがより好ましく、0.5以上であることが特に好ましい。
【0077】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良い。
【0078】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0079】
(溶剤)
ドープを調製する溶剤としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶剤に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0080】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度など及びフィルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶剤全体に対し2質量%〜25質量%が好ましく、5質量%〜20質量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0081】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶剤組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶剤が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶剤として用いることができる。
【0082】
(添加剤)
ドープに所定の添加剤を添加してもよい。本発明で用いられる添加剤としては、可塑剤、紫外線吸収剤などがある。可塑剤として重縮合エステルを用いることが好ましい。
【0083】
(位相差フィルム)
位相差フィルム21の厚みは、20μm以上120μm以下であることが好ましく、40μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0084】
位相差フィルム21の幅は、700mm以上3000mmであることが好ましく、1000mm以上2800mm以下であることがより好ましく、1500mm以上2500mm以下であることが特に好ましい。なお、位相差フィルム21の幅は、2500mm以上であってもよい。
【0085】
(ヘイズ)
位相差フィルム21のヘイズは、0.20%未満であることが好ましく、0.15%未満であることがより好ましく、0.10%未満であることが特に好ましい。ヘイズを0.2%未満とすることにより、液晶表示装置に組み込んだ際のコントラスト比を改善することができる。また、フィルムの透明性がより高くなり、光学フィルムとしてより用いやすくなるという利点もある。
【0086】
(Re、Rth)。
位相差フィルム21の面内方向のレターデーションは、25nm≦|Re(590)|≦100nmであり、かつ、50nm≦|Rth(590)|≦250nmであることが好ましい。そして、30nm≦|Re(590)|≦80nmであることがより好ましく、35nm≦|Re(590)|≦70nmであることが特に好ましい。また、70nm≦|Rth(590)|≦240nmであることがより好ましく、90nm≦|Rth(590)|≦230nmであることが特に好ましい。
【0087】
本明細書におけるRe(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。本願明細書においては、特に記載がないときは、波長λは、590nmとする。Re(λ)はKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHが算出する。尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(A−1)、式(A−2)及び式(B)より、Re及びRthを算出することもできる。ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0088】
【数1】

【0089】
ここで、上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表し、nx、ny、nzは、屈折率楕円体の各主軸方位の屈折率を表し、dはフィルム厚を表す。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d 式(B)
【実施例】
【0090】
(実験1)
図2に示す溶液製膜設備30を用いて、膜形成工程13、剥取工程15、延伸乾燥工程16、乾燥工程18、水蒸気接触工程20、及び延伸工程22を順次行ない、位相差フィルム21を製造した。得られた位相差フィルム21の膜厚は50μmであり、幅は1500mmであった。
【0091】
延伸乾燥工程16の開始時における湿潤フィルム14の残留溶剤量ZYS16は30質量%であり、延伸乾燥工程16の完了時における湿潤フィルム14の残留溶剤量ZYE16は5質量%であった。延伸乾燥工程16における延伸率ER1は110%であった。
【0092】
雰囲気の温度は120℃の乾燥室34に、湿潤フィルム14を導入して、乾燥工程18を15分行った。乾燥工程18の開始時における湿潤フィルム14の残留溶剤量ZYS18は5質量%であり、乾燥工程18の完了時における湿潤フィルム14の残留溶剤量ZYE18は0.5質量%であった。
【0093】
乾燥工程18により得られたフィルム17に、温度100℃の水蒸気を2秒間あてた。水蒸気接触完了から延伸工程22の開始までは60秒間であった。
【0094】
延伸工程22の開始時におけるフィルム17の残留溶剤量ZYS22は0.5質量%であり、延伸工程22の完了時におけるフィルム17の残留溶剤量ZYE22は0.1質量%であった。延伸工程22における延伸率ER2は130%であった。
【0095】
(評価)
得られた位相差フィルム21について、各レターデーションRe及びRth、遅相軸のズレ量D、及びヘイズ値Thを測定した。
【0096】
遅相軸のズレ量Dは、次のようにして求めた。まず、位相差フィルム21に設けられた測定点において、配向角を求めた。配向角の測定点は、幅方向において200mm間隔、長手方向において100mm間隔で設けた。得られた配向角のうち、最大値から最小値を減じたものを遅相軸のズレ量Dとした。
【0097】
ヘイズ値は、以下の式により求められる。ヘイズ値の試験方法では、フィルムの光線透過率が測定される。Tdは散乱光線透過率、Ttは全光線透過率である。
Th=100×(Td/Tt)
【0098】
実験1における各条件、並びに、遅相軸のズレ量D、及びヘイズ値Thを表1に示す。
【表1】

【0099】
(実験2〜4)
実験2〜3では、表1に示すこと以外は実験1と同様にして、位相差フィルム21を製造した。実験4では、水蒸気接触工程20を行わなかったこと、及び表1に示すこと以外は実験1と同様にして、位相差フィルム21を製造した。なお、表1における「*」は、当該工程を行わなかったことを示す。実験2〜4で得られた位相差フィルム21についての遅相軸のズレ量D、及びヘイズ値Thは表1のとおりである。
【符号の説明】
【0100】
10 溶液製膜方法
14 湿潤フィルム
16 延伸乾燥工程
17 フィルム
18 乾燥工程
20 水蒸気接触工程
21 位相差フィルム
22 延伸工程
33 第1テンタ
35、143 第2テンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー及び溶剤を含むドープからなる流延膜を支持体上に形成する膜形成工程と、
前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取って湿潤フィルムとする剥取工程と、
前記湿潤フィルムを延伸しながら、前記湿潤フィルムから前記溶剤を蒸発させる延伸乾燥工程と、
前記湿潤フィルムから前記溶剤を蒸発させてフィルムとする乾燥工程と、
前記フィルムを延伸して、位相差フィルムとする延伸工程とを有し、
カールした前記フィルムに水蒸気をあてる水蒸気接触工程を、前記乾燥工程と前記延伸工程の間で行うことを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項2】
前記延伸乾燥工程における前記湿潤フィルムの残留溶剤量は、2質量%以上250質量%以下であり、
前記延伸工程における前記フィルムの残留溶剤量は5質量%以下であることを特徴とする請求項1記載の溶液製膜方法。
【請求項3】
前記膜形成工程では、前記流延膜が搬送可能になるまで、前記流延膜から前記溶剤を蒸発することを特徴とする請求項1または2記載の溶液製膜方法。
【請求項4】
前記ポリマーはセルロースアシレートを含むことを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載の溶液製膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−189616(P2011−189616A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57437(P2010−57437)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】